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特許7105244マイボーム腺脂質分泌を増加させるための薬剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】マイボーム腺脂質分泌を増加させるための薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20220714BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P27/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019550683
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 IB2018000415
(87)【国際公開番号】W WO2018178769
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】62/478,501
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518104223
【氏名又は名称】アズーラ オフサルミックス エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】アムセレム,シモン
(72)【発明者】
【氏名】アルスター,ヤイル
(72)【発明者】
【氏名】フリードマン,ドロン
(72)【発明者】
【氏名】ラファエリ,オマー
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-009383(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063130(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0106775(US,A1)
【文献】特開平11-071272(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0218241(US,A1)
【文献】特表2016-520335(JP,A)
【文献】Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics,2010年,26(4),pp.329-333
【文献】Investigative Ophthalmology & Visual Science,2002年,43(11),pp.3495-3499
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科的に許容可能な担体と
マイボーム腺における脂質生成を増加させるかまたはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、有効な量の少なくとも1つの薬
とを含む眼科用組成物であって
ここで、前記組成物は、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法において使用され
前記方法は、その必要がある患者の眼瞼縁に、局所的に、前記組成物を投与する工程を含み、および、前記薬剤は、ブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である、眼科用組成物。
【請求項2】
前記眼科的に許容可能な担体は、少なくとも1つの眼科的に許容可能な賦形剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記方法は、前記患者に角質溶解剤を投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記角質溶解剤は、過酸化ベンゾイル、コールタール、ジスラノール、サリチル酸、二硫化セレン、アルファヒドロキシ酸、尿素、ホウ酸、レチノイン酸、乳酸、チオグリコール酸ナトリウム、またはアラントイン、からなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記薬剤を約0.01%から約10%の間で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記薬剤を約2.5%含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記薬剤を約0.1μMから約1μMの間で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
分散液、懸濁液、またはエマルジョンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
パラフィン、ワセリン、スクワレン、マイクロクリスタリンワックス、ラノリン、鉱油、植物油、トリグリセリド、リン脂質、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記患者は、マイボーム腺機能不全を患っている、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記マイボーム腺機能不全は、マイボーム腺の閉塞を特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<相互参照>
本出願は、2017年3月29日に出願された米国仮特許出願第62/478,501号の利益を主張し、当該文献は参照によってその全体が本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
マイボーム腺は睫毛の近くの眼瞼内に垂直に配置された腺である。眼瞼の瞬きの力により、後部の眼瞼縁上に油を排出する。油は、急速に涙が蒸発するのを防止するのに役立つ、涙の「留まらせる力」である。マイボーム腺機能不全(MGD)の患者においては、涙液膜に油分が過多または過少なために、視覚に影響が及ぶ。
【0003】
マイボーム腺は、眼瞼の中にある大きな脂腺であり、皮膚とは異なり、毛に付随していない。マイボーム腺は、涙液膜の脂質層を生成し、水相の蒸発に対するマイボーム腺の保護を行う。マイボーム腺開口部は、眼瞼縁の上皮側に位置しており、粘膜側から数百ミクロンしかない。この腺は上下両方の眼瞼に位置しており、上眼瞼により多くの量の腺がある。1つのマイボーム腺は、長い中央の管の周囲に環状に配され且つ短い小導管により長い中央の管に繋げられる、分泌腺房の集合体から成る。中央の管の末端部は上皮の内殖により覆われており、この内殖は、離れた眼瞼縁を覆うとともに、内蓋の辺縁付近の粘膜皮膚移行部のちょうど前に、眼瞼縁の後部に開口部として開く短い排出管を形成する。脂質から成る油の分泌物は、分泌腺房内で合成される。脂質分泌物は、体温付近では液体であり、「マイボーム」と呼ばれる透明な流体として眼瞼縁の皮膚に送達される。脂質分泌物は、上下の眼瞼縁上に浅いリザーバを形成し、コレステロール、ワックス、コレステロールエステル、少量のトリグリセリドを含むリン脂質、トリアシルグリセロール、及び炭化水素の複雑な混合物から成る。別個のマイボーム腺が、平行に、且つ上下の眼瞼における瞼板軟骨の長さ全体にそって一列に、配されている。腺の範囲は、ほぼ瞼板軟骨の寸法に相当する。
【0004】
眼瞼縁は生理学上重要な脂質分泌物、すなわちマイバムの供給源である。眼瞼のマイボーム腺分泌物は、涙液膜の外側層を形成する。この涙液膜脂質層に起因した機能は:(1)瞬きの間、眼瞼の動作を容易にする潤滑剤、(2)水性の涙液の蒸発を防ぐ障壁、及び(3)花粉などの微生物及び有機物の進入に対する障壁、である。
【0005】
動いている眼瞼は、眼の表面にわたってマイバムを広げ、涙腺により生成される涙液(AT)と混合する。マイバムとATを混合し広げることにより、涙液膜(TF)と呼ばれるほぼ連続的な構造をもたらし、これは全体の眼の表面を覆い、保護、潤滑、栄養、及び、とりわけ、抗菌を含む多くの目的に役立つ。TFはまた、目の表面をより滑らかにし、これは眼の光学特性を改善するので、視力にも関連していた。しかし、TFは均質ではなく、これは、脂質が容易に水溶液を形成せず、明確に疎水的な脂質富化サブ相を形成することにより分離する傾向があることを考慮すると驚くことではない。TF構造に関する古典的見解は、TFの3層構造を想定している。脂質は、典型的には水ほど密でないため、水性のサブ位相の表面上で蓄積し、したがって、TFの脂質が豊富な最も外部の層(涙液膜脂質層、またはTFLLとも呼ばれる)を形成する。TFLLの下には、水溶性タンパク質、炭水化物、塩、及び他の多かれ少なかれ親水性の化合物で富化されたはるかに親水性の水層がある。角膜上皮に最も近いものは、主に膜結合性のムチンで形成される、比較的親水性のムチン富化糖衣層であると考えられている。インターフェロメトリーを使用することにより、TFLLの深さは~40-90ナノメートルであると推定されたが、水層は約4マイクロメートルではるかに厚いことが判明した。3つの層はすべて柔らかく動的な構造であり、多数の同時に顕在化する因子の結果、例えば、眼瞼の機械的運動、マイバムと涙液とムチンとの連続的分泌、及び、鼻管を通じたATの蒸発及び排液、として変化が生じることを理解することが重要である。目が瞬きせずに開かれたままにされると、ヒトTFは急速に劣化し、薄くなり、壊れる、涙液破壊(tear break-up)として知られる現象が起こる。
【0006】
ヒトの涙液層破壊時間(TBUT)は秒単位で測定される。これは、眼表面の健康を評価する際に重要且つ客観的な診断パラメータと長く考えられてきた。TBUTは、その発症及び進行が、一般的にはTFの、特にはTFLLの、劣化に関連する多因子状態(または疾患)である、ドライアイを診断する眼科診療において広く使用されている。破壊が生じる場合、角膜は空気にさらされ、患者に不快感を与える。TFによる眼表面の不完全な被覆はまた、過剰な脱水、擦過傷、刺激、炎症、感染などのために、角膜上皮細胞への損傷の可能性を増加させる。TFの不安定性の別の原因は、例えばマイボーム腺の炎症及び/または閉塞に関連するMGDのために、必要な品質の十分なマイバムを分泌できないマイボーム腺である。
【0007】
マイボーム腺によって生成された脂質は、涙液膜の表面の脂質層の主成分であり、水相の蒸発から保護し、また表面張力を低下させることによって涙液膜を安定化させると考えられている。Heiligenhausらの研究で報告されているように、脂質相の変化は、分離された水相の変化よりもMGDを指すことが多く、(Heiligenhausら、Therapie.von Benetzungsstorungen.Klin.Monatsbl.Augenheilkd.,1994、Vol.204、162-168ページ)ここでは、水相が分離された変化を有する患者は11.1%に過ぎないのに比べ、ドライアイ患者の76.7%に脂質欠乏が生じたことが観察された。従って、マイバム脂質は、眼の表面の健康及び完全性の維持に必須である。
【0008】
脂質は、マイバム(マイボーム腺分泌物としても知られている)の主要成分である。マイバムの生化学的組成は非常に複雑で、皮脂のそれとは非常に異なっている。脂質は、ヒト及び動物のマイバムの主成分として広く認められている。ヒトでは、マイボーム腺分泌物において90以上の異なるタンパク質が同定されている。多数の研究者がマイバムの特徴を明らかにしようとしており、研究者が回収する脂質の量は多岐にわたっており(表1)、考えられる原因としては、異なる収集分析技術の使用である。
【0009】
【表1】
【0010】
MGDのない被験体において、マイバム脂質は透明な油のプールである。MGDでは、分泌された物質の量、質及び組成が変更される。したがって、MGDは脂質の欠乏を特徴とする。さらに、MGDにおいて、圧搾された脂質の性質は、透明な流体から、粒子状物質、濃く不透明な練り歯磨きのような物質を含有する粘性流体まで、外観が変動する。マイボーム開口部は、眼瞼の表面準位より上の上昇を示し、これは栓(plugging)または膨れ(pouting)と称され、末端管の閉塞、及び、粘度の増加したマイバム脂質の押出によるものである。
【0011】
マイバムの脂質欠乏及び粘度の増大は、MGDの重要な病原性の因子であり、閉塞性のMGDの大部分の症例で観察される。したがって、マイボーム腺のあらゆる妨害の解消を可能にするマイボーム油組成物の粘度を低下させるとともに、脂質欠乏を克服するためにマイボーム腺の脂質生成及び脂質分泌を増すことが渇望される。
【0012】
高粘度のマイバムは、分子生物学及び免疫組織化学によって実証されるように、スメアとして調製された圧搾された病理学なヒトマイバムにおいて、または印象細胞学及び組織病理学において見られるように、角質増殖性細胞材料と混合される。粘度の増大も動物モデルの閉塞した腺の内部で観察された。したがって、管を開き、且つ分泌された脂質の正常な流れを回復するためには、閉塞する脂質を軟化させ、液化することが望ましい。
【0013】
マイボーム腺機能不全またはMGDは、主としてドライアイ症候群に起因し、しばしば、マイボーム腺による眼の表面への不十分な脂質送達を特徴とする。後部眼瞼炎とも称されるMGDは、瞼縁病の最も一般的な形態である。初期段階では、患者はしばしば無症状であるが、管理されないまま放置すると、MGDはドライアイ症状及び眼瞼炎症を引き起こすかまたは悪化させる可能性がある。油腺は、肥厚した分泌物で閉塞される。慢性的に詰まった腺は、最終的には涙液膜及びドライアイに永続的な変化をもたらす油分を分泌できなくなる。MGDの症状は眼の乾燥、灼熱感、そう痒、粘着性、散水、光過敏性、眼の充血及びかすみ目を含んでいる。
【0014】
MGDは主としてドライアイ症候群に起因する。ドライアイ症候群の発症は広範囲であり、アメリカ合衆国だけで約2000万人の患者が影響を受けている。ドライアイ症候群は、不適切な涙の生成、または目の表面からの水分の過剰な蒸発を結果としてもたらす、眼表面の障害である。角膜が血管を含まず、且つ酸素と栄養素を満たすのに涙に依存するため、涙は角膜の健康に重要である。涙と涙液膜は、脂質、水、及び粘液から成り、これらの何れかの混乱がドライアイを引き起こし得る。MGDは、後部の眼瞼縁の炎症状態を説明する後部眼瞼炎と同義ではない。MGDは後部眼瞼炎を引き起こし得るが、MGDは必ずしも炎症または後部眼瞼炎に関連するとは限らない場合もある。MGDの臨床的兆候は、マイボーム腺の脱落、マイボーム腺分泌物の変化、及び眼瞼の形態の変化を含む。
【0015】
閉塞性MGDは、下記の全てまたは一部を特徴とする:1)慢性的な眼部不快感、2)マイボーム腺開口部周囲の解剖学的異常(これは、血管うっ血、粘膜皮膚接合部の前部または後部への変位、眼瞼縁の不規則状態のうちの1つ以上である)、及び、3)腺分泌の閉塞、または、質的または量的変化(中程度の指圧によって減少したマイバムの発現)。
【0016】
現在、MGDに対する標準的な処置は、眼瞼を温めて油の生成を増大させ、且つ温湿布(warm compresses)により腺の中で凝固した油を溶かすことと、睫毛のラインの近くの眼瞼縁に軽い圧力を加えることと、肥厚した分泌物ならびに抗生物質及び抗炎症剤のような薬理学的処置を手動で除去することとに、やや限定されている。しかし、これらの処置は患者と眼科医にとっては苛立たしいものかもしれない。眼瞼のマッサージは、マイボーム腺の閉塞の部分的且つ一時的な軽減のみしか提供せず、これは痛い可能性がある。温湿布のための従来のアプローチは、眼瞼の外部表面に熱を加える。従って熱はしばしば有効性が限られている。MGDに関連する眼瞼縁の細菌の定着及び炎症を抑制するための局所的な抗生物質及びコルチコステロイドの使用は、症状の緩和及びMGDの徴候に有効であることが示されているが、しかし、この処置の成功は、変化したマイバムとは何の関係もないことがある。抗生物質、特にテトラサイクリン(ドキシサイクリン、テトラサイクリン及びミノサイクリンを含む)及びアジスロマイシンは、細菌定着を抑制し、且つ眼瞼縁の炎症を低減するために使用される;しかし、薬物不耐性及び延長治療は、経口抗生物質の臨床応用を制限している。
【0017】
眼瞼の予防衛生は、MGDに対する一次処置と考慮され、3つの構成要素から成る:1)温罨法、2)眼瞼の機械的なマッサージ、及び3)眼瞼の洗浄。眼瞼の加温手順は、病理学的に変化したマイボーム脂質を溶かすことにより、マイボーム腺分泌物を改善する。加温は、温湿布または装置により達成される。機械的な眼瞼の予防衛生は、スクラブの使用、機械的圧搾、及び、まつ毛と眼瞼縁とを様々な溶液で洗浄することを含む。眼瞼縁も、低アレルギー性の固形石鹸、希釈された幼児用シャンプー、または商用の眼瞼用スクラブにより随意に洗浄される。マイボーム腺の物理的圧搾は、医師のオフィスで行われるか、または家で患者により行われる。この技術は、眼球に対する眼瞼の優しいマッサージから、互いに対する、または、内眼瞼の表面上の固い物体と、指(親指)または外眼瞼の表面上の固い物体(ガラス棒、綿棒(Q-tip)、または金属製パドルなど)の間の眼瞼の強力なスクィージングまで異なる。内眼瞼の表面上の固い物体は、眼球が圧搾中に眼瞼を介して強制的に動かされないよう保護し、それにより、安定した耐性をもたらし、腺に加えられる力の量を増大させる。
【0018】
加温することで脂質は溶けるが、角質化した物質の移動には対処しないために、眼瞼の加温は限定的である。更に、眼瞼の加温は、角膜の歪みにより一時的な視覚劣化を誘発する。閉塞を除去するのに必要とされる力は相当なものであり、その結果患者に相当な痛みがもたらされ得るので、機械的な眼瞼の予防衛生も限定的される。機械的な眼瞼の予防衛生の効果は、この手順中に関連する痛みに耐えることのできる患者に限定される。MGDの他の処置は限定されている。
【0019】
マイボーム腺の圧搾によりマイボーム腺閉塞を物理的に開口させることは、マイボーム腺分泌とドライアイ症状を改善するために許容可能な方法である。加えて、マイボーム腺管のプロービングは、閉塞された管を開くために使用さている。しかし、圧搾及びプロービングといった両方の方法は、手順により誘発された痛み、即ち腺及び管の構造に対して起こり得る物理的な傷害、並びに数日及び数週と推定されるその短命な効果により限定される。
【0020】
要約すると、これらの治療のそれぞれには異なる欠点があり、MGDの治療は困難なままである。それ故、このような方法は、患者の快適さを改善することを必要とされ、つまりマイボーム腺と管に害をもたらさず、頻繁な来院への依存を減らすとともにマイボームの分泌を改善することを必要とされる。
【0021】
MGDの新たな処置には、粘液溶解剤及び/または角質溶解剤の使用が含まれる。粘液溶解療法の目的は、粘液の粘弾性を最適化することによって生理学的クリアランスを促進することであり、角質溶解療法は、皮膚の主要成分であるケラチンを軟化させることを目的とする。
【0022】
MGDに対する治療可能性のある方法にかかわらず、徴候及び症状の完全に軽減させることは依然として困難である。
【発明の概要】
【0023】
1つの実施形態は、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の少なくとも1つの薬剤とを含む眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含む。他の実施形態は、薬剤がブシラミンである方法を提供する。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0024】
【化1】
【0025】
他の実施形態は、眼科的に許容可能な担体が少なくとも1つの眼科的に許容可能な賦形剤を含む方法を提供する。他の実施形態は、角質溶解剤を患者に投与する工程、をさらに含む方法を提供する。他の実施形態は方法を提供し、角質溶解剤は、過酸化ベンゾイル、コールタール、ジスラノール、サリチル酸、二硫化セレン、アルファヒドロキシ酸、尿素、ホウ酸、レチノイン酸、乳酸、チオグリコール酸ナトリウム、またはアラントイン、からなる群から選択される。
【0026】
一実施形態は、マイボーム腺機能不全を治療する方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、治療上有効な量の少なくとも一つの薬剤と、を含む眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここで、該薬剤はスルフヒドリル基を含む。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0027】
【化2】
【0028】
他の実施形態は、眼科的に許容可能な担体が少なくとも1つの眼科的に許容可能な賦形剤を含む方法を提供する。他の実施形態は、角質溶解剤を患者に投与する工程、をさらに含む方法を提供する。他の実施形態は方法を提供し、角質溶解剤は、過酸化ベンゾイル、コールタール、ジスラノール、サリチル酸、二硫化セレン、アルファヒドロキシ酸、尿素、ホウ酸、レチノイン酸、乳酸、チオグリコール酸ナトリウム、またはアラントイン、からなる群から選択される。他の実施形態は方法を提供し、ここでマイボーム腺機能不全はマイボーム腺の閉塞を特徴とする。他の実施形態は方法を提供し、ここで患者の眼瞼縁への薬剤の局所的な投与は、マイボーム腺閉塞が実質的に取り除かれるまで、繰り返される。特定の実施形態において、患者の眼瞼縁への薬剤の局所的な投与はマイボーム腺閉塞の形成を防ぐために、定期的に繰り返される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の新規な特徴は、とりわけ添付の特許請求の範囲において記載される。本発明の特徴及び利点のより良い理解は、本発明の原理が用いられる実施形態を説明する以下の詳細な説明と、以下の添付図面とを引用することによって得られるであろう。
図1】対照に関する3D脂腺細胞の上皮におけるオイルレッドO染色の例示である。
図2】1.0μMのブシラミン関する3D脂腺細胞の上皮におけるオイルレッドO染色の例示である。
図3】0.1μMのブシラミン関する3D脂腺細胞の上皮におけるオイルレッドO染色の例示である。
図4a】ブシラミンを用いる処置の際のMTTアッセイにおける細胞生存率の図である;
図4b】ブシラミンを用いる処置の際のHaCaTcell増殖の実例である;及び
図4c】ブシラミンを用いる処置の際のヒト皮膚モデル系における生体外の評価での遊離チオールを含む定量の実例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書に記載されるのは、マイボーム腺中の脂質の産生を増加させ、マイボーム腺から分泌された脂質の量を増加させ、及び/またはマイボーム腺から分泌された脂質の組成物を改変するチオール含有剤の投与により脂質生成及び/または脂質分泌を増加する方法である。本明細書に記載される薬剤は、例えば医師または他の訓練された専門家による使用のための急性治療用の薬剤、及び、例えば医師、他の訓練された専門家、あるいは患者による慢性治療用の薬剤を含む。特定の脂質生成及び脂質分泌の増強剤が本明細書に記載されており、脂質生成と脂質分泌を増加するチオール含有剤を含む組成物を調製する方法、ならびに、患者の処置方法におけるそれらの使用が、本明細書中にさらに提供される。
【0031】
用語「マイボーム腺機能不全」及び「MGD」は、本明細書中で交換可能に使用され、マイボーム腺の慢性でびまん性である異常を指し、これは、末端管の閉塞、または、腺の分泌物中の質的または量的な変化、またはその両方を特徴としている。MGDは結果として、涙液膜の粘度の変化、眼の刺激性症状、炎症、または眼表面疾患をもたらすことがある。MGDの最も顕著な態様は、マイボーム腺の開口部及び末端管の閉塞、及びマイボーム腺分泌物中の変化である。MGDはマイボーム腺の機能的異常も指す一方で、「マイボーム腺疾患」は、新生物及び先天性疾患を含む、広範囲のマイボーム腺の障害を説明する。
【0032】
本発明の原理によれば、脂質生成及びマイバム脂質分泌を誘導する、チオール含有剤が、例えば、チオールが媒介する脂質過剰分泌機構によるMGDの処置として使用され得る。
【0033】
このように、薬物が細胞の脂質生成を活性化することが、コレステロール合成の増強、及び脂肪酸とトリグリセリドの生成の増加によるマイボーム腺機能不全の治療的な処置のための新たな手法を提示し、これは、マイバム脂質の融点及び粘度を低下させることによって、マイバム脂質の組成の変化をもたらし、結果としてマイバム脂質がより流動的に現われる。
【0034】
本明細書に記載の、脂質生成及び脂質分泌を増加するチオール含有剤は、急性治療(例えば、訓練された専門家または医師によるもの)、または慢性治療(例えば、患者の手になるもの、あるいは代替的に訓練された専門家または医師によるもの)に有用である。この薬剤は、特定の実施形態において、(例えば実施例に記載されるような)本明細書に記載されるアッセイ及び方法を使用して試験される。
【0035】
チオール基を有する薬物は、皮脂過剰産生を引き起こすことが従来報告されてきた。チオール基を含む薬物もまた、天疱瘡、脂性肌を特徴とする、脂漏性皮膚炎に似ている皮膚疾患を引き起こすことが報告されてきた。キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)は乳脂肪滴分泌のための必須酵素であり、これは2つの別個の相互転換できる酵素型、すなわち酵素特性及び立体構造が異なるチオール還元型(XD)及びチオール酸化型(XO)、に存在することが知られている。乳房組織及び乳脂肪球皮膜(MFGM)は、XDをXOに変換することができるチオールオキシダーゼを含むことが示されてきた。XORと頂端部細胞膜の間の関連性は、ブチロフィリンタンパク質(乳腺における脂肪滴の分泌にとってまた不可欠なMFGMにおいて最も豊富なタンパク質)、ADPH、または他の膜タンパク質とのジスルフィド結合架橋の形成、及び/または、XOR中の立体構造の変化を含む、チオール依存性プロセスにより媒介される。XORの発現及び頂端膜局在化のレベルは、乳房上皮細胞を分泌する重大な特性であり、XORの膜結合性は、脂質分泌の間の細胞質脂肪滴の頂端部細胞膜への結合を調節する。
【0036】
本発明は、ある態様において、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の少なくとも1つの薬剤とを含む眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含む。一実施形態は方法を提供し、ここで薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0037】
【化3】
【0038】
本発明は、ある態様において、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の薬剤とを含む眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含む。一実施形態は方法を提供し、ここで薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0039】
【化4】
【0040】
本発明は、ある態様において、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の薬剤とから成る眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含む。一実施形態は方法を提供し、ここで薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0041】
【化5】
【0042】
本発明は、ある態様において、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の薬剤とから成る眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含み、及び、ここで眼科的に許容可能な担体は、少なくとも1つの眼科的に許容可能な賦形剤を含む。一実施形態は方法を提供し、ここで薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0043】
【化6】
【0044】
本発明は、ある態様において、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の薬剤とから成る眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含み、及び、ここで眼科的に許容可能な担体は、わずか2つの眼科的に許容可能な賦形剤を含む。一実施形態は方法を提供し、ここで薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0045】
【化7】
【0046】
本発明は、ある態様において、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の薬剤とから成る眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含み、及び、ここで眼科的に許容可能な担体は、わずか3つの眼科的に許容可能な賦形剤を含む。一実施形態は方法を提供し、ここで薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0047】
【化8】
【0048】
本発明は、ある態様において、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の薬剤とから成る眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含み、及び、ここで眼科的に許容可能な担体は、わずか4つの眼科的に許容可能な賦形剤を含む。一実施形態は方法を提供し、ここで薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する組成物である:
【0049】
【化9】
【0050】
特定の実施形態において、上述の方法は、患者に角質溶解剤を投与する工程をさらに含む。特定の実施形態において、角質溶解剤は、過酸化ベンゾイル、コールタール、ジスラノール、サリチル酸、二硫化セレン、アルファヒドロキシ酸、尿素、ホウ酸、レチノイン酸、乳酸、チオグリコール酸ナトリウム、またはアラントイン、からなる群から選択される。
【0051】
特定の実施形態において、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の少なくとも1つの薬剤とを含む眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はスルフヒドリル基を含み、及び、ここで薬剤は脂質生成の効果及び角質溶解性の効果を示す。いくつかの例において、脂質生成の効果及び角質溶解性の効果を示す薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。いくつかの例において、脂質生成の効果及び角質溶解性の効果を示す薬剤は、次に提供される化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である:
【0052】
【化10】
【0053】
特定の実施形態において、マイボーム腺機能不全は、マイボーム腺の閉塞を特徴とする。特定の実施形態において、マイボーム腺閉塞が実質的に取り除かれるまで、患者の眼瞼縁に薬剤を局所的に投与することが繰り返される。特定の実施形態において、マイボーム腺閉塞の形成を防ぐために、患者の眼瞼縁に薬剤を局所的に投与することが定期的に繰り返される。
【0054】
特定の実施形態において、上述の方法は、マイボーム腺により生成された脂質の量の治療上有効な増加をもたらす。特定の実施形態において、上述の方法は、マイボーム腺から分泌された脂質の量の治療上有効な増加を結果としてもたらす。特定の実施形態において、上述の方法は、マイボーム腺により分泌された脂質の組成の変化をもたらす。特定の実施形態において、上述の方法は、マイボーム腺により分泌された脂質の粘度の変化、好ましくは低下をもたらす。
【0055】
いつくかの実施形態において、そのような活性剤は、目の表面に適用可能となるように(即ち、目の上皮表面に不適当な刺激または混乱を引き起こさない)、且つ組成物との接触時に脂質生成細胞を損なうことなく、処方または適用される。
【0056】
いくつかの実施形態において、組成物は、薬剤を投与する医師または患者に許容可能且つ実用的な期間及び頻度で適用される。例えば医師は、数週間にわたって毎週または週に2回、本明細書に記載される組成物を適用することでマイボーム腺から分泌される脂質の量の増加を誘発し、並びに患者は日常的に異なる組成物を適用するか、または、患者は数週間にわたって日常的により強力な組成物を使用し、その後で日常的にあまり強力でない組成物を使用する。いくつかの実施形態において、組成物は1日1回あるいは数回を日常的に患者によって適用される。
【0057】
いくつかの実施形態において、薬剤の濃度及び/または脂質欠失の程度によって、適用の方法は異なる。他の実施形態において、組成物の適用方法は、処置の効果を増すために、標的組織上での浸透または滞留時間を向上させるように仕立てられる。他の実施形態において、組成物の適用方法は、適用時間の量を最小限にするために標的組織上での浸透または滞留時間を向上させるように仕立てられる。他の実施形態において、組成物は、標的組織との接触を増加させ、その一方で目を含む非標的組織との接触を最小限にし、故に望まれない付随的な活性を制限または減少させるために、処方される(例えば、粘度調節及び/または皮膚接着)。
【0058】
特定の実施形態において、薬剤、及び賦形剤の濃度は、治療上の利益を達成するために、薬剤の最小有効濃度を送達するために最適化され、一方であらゆる目の刺激または破壊、あるいは周囲の眼組織への刺激または破壊を最小化する。
【0059】
本明細書に記載された方法及び組成物は、マイボーム腺から分泌された脂質の量を増加させ、マイボーム腺から分泌された脂質の組成物を変化させ、及び/またはマイボーム腺から分泌された脂質の粘度を減少させるによるための手段であり、それによって、あらゆるマイボーム腺閉塞の溶解を増強し、及び涙分解時間(TBUT)を改善する。本発明の方法で使用される組成物は、少なくとも1つの脂質生成、及び強化脂質分泌強化チオール含有剤を含む。いくつかの実施形態において、薬剤はマイバムの産生の増加を引き起こすチオール含有剤である。いくつかの実施形態において、薬剤は、チオール含有剤ブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0060】
他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0061】
【化11】
【0062】
1つの実施形態は、マイボーム腺からの脂質分泌を増加させるための方法を提供し、該方法は、眼科的に許容可能な担体と、マイボーム腺における脂質生成を増加させるか、またはマイボーム腺からの脂質分泌を増加させる、治療上有効な量の少なくとも1つの薬剤とを含む眼科用組成物を、その必要がある患者の眼瞼縁に局所的に投与する工程を含み、ここにおいて、薬剤はブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態は方法を提供し、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0063】
【化12】
【0064】
用語「維持療法」または「維持投与レジメン」は、与えられた状態、例えば寛解状態で自身の健康を維持することを可能にする障害/疾患、例えばMGDと診断された被験体または患者に対する、処置のスケジュールを指す。
【0065】
1つの実施形態において、維持療法セッティングで使用される強化脂質分泌強化チオール含有剤は、ブシラミン、またはその薬学的に許容可能な塩である。他の実施形態においては方法が提供され、ここで薬剤は化合物、またはその薬学的に許容可能な塩であり、次のような構造を有する:
【0066】
【化13】
【0067】
一実施形態は、強化脂質分泌を含む局所組成物の投与により、0.2%、0.3%、0.4%その必要性のある患者のマイボーム腺からの脂質分泌を強化するための方法を提供し、そこでは、組成物は、0.01%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.5%、5%または10%の強化脂質分泌強化チオール含有剤を含む。いくつかの実施形態において、局所用組成物は、懸濁液、エマルジョン、クリーム、ローション、ゲル、または軟膏として製剤される。いくつかの実施形態において、局所用組成物は、1日置きに1日1回、最初に清潔な皮膚へ薄層として適用され、次いで耐性が発達するにつれて1日2回まで徐々に増やされる。いくつかの実施形態において、局所用組成物は軟膏またはペーストである。いくつかの実施形態において、局所用組成物は0.1%の軟膏として開始される。7日後、濃度は0.25%に増加され、その後二倍にされ、必要であれば毎週の間隔で2%の最大強度に増加され得る。いくつかの実施形態において、軟膏の薄層は、2-4週間にわたり影響を受けた領域に1日1回適用される。いくつかの実施形態において、軟膏は、前記領域が完全にすすがれる前に、10~20分間にわたり適所に残る。いくつかの実施形態において、強化脂質分泌強化チオール含有剤の濃度は徐々に最大5%に増大され、処置は必要とされる限り長い間継続される。
【0068】
他の実施形態において、本明細書に記載される局所組成物は、薬学的に適切または許容可能な担体(例えば、薬学的に適切な(または許容可能な)賦形剤、生理学的に適切な(または許容可能な)賦形剤、または生理学的に適切な(または許容可能な)担体)と組み合わせられる。典型的な賦形剤は、レミングトンで、例えば記載されている:(The Science and Practice of Pharmacy(Gennaro,21st Ed.Mack Pub.Co.,Easton,PA(2005))。
【0069】
一実施形態は、脂質分泌強化チオール含有剤を含む局所製剤の投与により、マイボーム腺機能不全を処置する方法を提供する。一実施形態は、角質溶解剤と結合した脂質分泌強化チオール含有剤を含む局所製剤の投与により、マイボーム腺機能不全を処置する方法を提供する。
【0070】
いくつかの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物の局所的な投与は、週に1回行われる。いくつかの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物の局所的な投与は、週に2回行われる。いくつかの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物の局所的な投与は、一日置きに行われる。いくつかの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物の局所的な投与は、毎日行われる。いくつかの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物の局所的な投与は、一日に数回行われる。
【0071】
いくつかの実施形態において、前記方法は、救急処置のシナリオにおける処置を含む。別の実施形態において、前記方法は、類似または同一の処置を受けていない患者の処置を含む。別の実施形態において、前記方法は、長期処置のシナリオにおける処置を含む。別の実施形態において、前記方法は、維持療法のシナリオにおける処置を含む。救急処置のシナリオにおいて、投与された脂質誘導体の用量は、長期処置のシナリオまたは維持療法のシナリオで薬剤利用される脂質誘導体の用量よりも多くてもよい。救急処置のシナリオにおいて、脂質誘導体は、長期処置のシナリオで薬剤利用される脂質誘導体とは異なるものでもよい。いくつかの実施形態において、治療の過程は、救急処置のシナリオとして治療の初期段階において始まり、後に長期処置のシナリオまたは維持療法のシナリオへと推移する。
【0072】
特定の臨床症状において、患者は、医師または医療従事者により、または、本明細書に記載される治療薬の1つの、より高濃度の組成物を配することにより施される、初期治療を必要とし得る。この事象において、より高濃度の組成物が必要とされ、その適用は、眼の表面または周囲の組織の刺激あるいは破損の影響を最小化するために、眼の遮蔽または他の活動を必要とし得る。そのような手順に従い、患者は、マイボーム腺の開通性を維持するために、家に持ち帰って眼瞼縁に周期的に適用するための、活性薬剤の異なる組成物を提供され得る。そのような適用は、組成物の活性、及び治療の所望の生成物の特性に依存して、1日2回、1日1回、毎週、または毎月行われてもよい。
【0073】
本明細書に記載される処置方法の1つの態様は、組成物の局所的な投与の位置である。1つの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物は、目に対する刺激が生じないように投与される。1つの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物は、眼瞼縁に投与される。
【0074】
本明細書に記載される処置方法の付加的な1つの実施形態は、目への刺激を回避するように目に提供される保護要素の使用である。本明細書に記載される組成物は通常、非刺激的なものではあるが、いくつかの実施形態において(例えば、高濃度の薬剤、または、敏感な目に使用された場合)、保護要素は、患者に安全性及び快適性の付加的な層をもたらす。1つの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物が投与される一方で、目に対する刺激が低減されるように薬剤が角膜及び/または結膜に接触するのを減らすために、目の遮蔽物が目に配される。いくつかの実施形態において、眼の遮蔽物は、コンタクトレンズ又アイカバーである。いくつかの実施形態において、アイカバーは自己接着性を含む。1つの実施形態において、脂質分泌強化チオール含有剤を含む組成物が投与される一方で、目に対する刺激が低減されるように薬剤が角膜及び/または結膜に接触するのを減らすために、眼瞼は眼球から引き離される。
【0075】
本明細書で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に指定していない限り、複数の指示物を含む。ゆえに、例えば、「薬剤」への言及は複数のこうした薬剤を含み、「細胞」への言及は1以上の細胞(または複数の細胞)、及び当業者に既知の同等物などへの言及を含む。分子量などの物理的特性、または化学式などの化学的特性についての範囲が本明細書で使用されると、範囲及びその中の特異的な実施形態の全ての組み合わせ及びサブ組み合わせ(sub-combinations)が含まれるように意図される。数または数の範囲について言及するときの用語「約」は、言及される数または数の範囲が、実験的な可変性の範囲内の(または統計的実験誤差内の)概算であることを意味し、故に、数または数の範囲は明示された数または数の範囲の1%-15%の間で変動することがある。用語「含んでいる(comprising)」(及び、「含む(comprise)」または「含む(comprises)」、または「有している(having)」または「含んでいる(including)」などの関連語)は、他の実施形態において、例えば、本明細書に記載される任意の合成物、組成物、方法、またはプロセスなどの実施形態が、記載された特徴「~からなる」または「~から本質的になる」場合があることを除外することを意図したものではない。
【0076】
用語「ブシラミン」は、下記の構造を有する化合物を指す:
【0077】
【化14】
【0078】
本明細書で使用されるような用語「眼に許容可能な担体」は、本発明の教示に従って適用されると、生物の眼に重度の刺激を引き起こさず、且つ、それと共に運ばれた薬剤の薬理活性及び特性を無効にしない、担体を指す。
【0079】
眼に許容可能な担体は通常、無菌性であり、実質的に異物を含まず、且つ、通常は5-8の範囲のpHを有している。好ましくは、pHは可能な限り涙液のpH(7.4)に近いものである。眼に許容可能な担体は、例えば、等張食塩水またはホウ酸溶液などの無菌の等張溶液である。そのような担体は典型的に水溶液であり、塩化ナトリウムまたはホウ酸を含んでいる。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液も有用である。
【0080】
本明細書で使用されるような用語「有効な量」は、マイボーム腺からの脂質分泌の増加、マイボーム腺から分泌された脂質の融点の低下、またはマイボーム腺から分泌された脂質の粘度の低減など、特定の条件を達成するために必要な量を指す。
【0081】
本明細書で使用されるような用語「治療上有効な量」は、疾患の症状を処置、予防、緩和、または改善するのに有効な、治療上有効な化合物、またはその薬学的に許容可能な塩の量を指す。用語「治療上有効な化合物」は、疾患の症候を処置、予防、緩和、または改善するのに有効な化合物を指す。
【0082】
本明細書で使用されるような用語「スルフヒドリル基」は、-SH官能基を指す。
【0083】
本明細書で使用されるような用語「チオール基」は、-C-SHまたはR-SHの基を指し、ここでRはアルカン、アルケン、または原子の他の炭素含有基を指す。
【0084】
本明細書で使用されるような用語「眼に許容可能な賦形剤」は、本発明の教示に従って適用されると、生物の眼に重度の刺激を引き起こさず、且つ、それと共に運ばれた薬剤の薬理活性及び特性を無効にしない、賦形剤を指す。
【0085】
本明細書で使用されるような用語「角質溶解薬」は、皮膚の角質層を緩め且つ取り除き、あるいは皮膚のケラチン層の構造を変更する化合物を指す。
【0086】
本明細書で使用されるような用語「処置する(treat)」、「処置すること(treating)」、または「処置(treatment)」は、長期または救急の治療のシナリオにおいてMGDに関連する症状を減少、低減、軽減、改善、または緩和することを含む。1つの実施形態において、処置は脂質産生の増加を含む。1つの実施形態において、処置は脂質分泌の増加を含む。1つの実施形態において、処置は分泌された脂質の粘度の低減を含む。
【0087】
用語「再発」または「再発の減少」は、長期治療のシナリオにおけるMGD症状の回帰を指す。
【0088】
用語「開口」は、閉塞されたマイボーム腺の管または開口部の(少なくとも部分的な)除去、及び/またはマイボーム腺の管または開口部の開通性の維持を指す。
【0089】
本明細書に使用されるような用語「脂質分泌強化チオール含有剤」は、マイボサイト(meibocyte)の分化の増加またはマイボサイトの増殖の増加を引き起こすか、マイボーム腺から分泌された脂質の量を増加させるか、マイバム脂質の組成物を変更する、チオール含有剤を指す。
【0090】
本明細書で使用されるような用語「マイバム脂質」は、マイボーム腺により分泌された脂質を指す。
【0091】
用語「ローション」は、エマルジョンの液体の剤形を記載する。この剤形は、一般的に、皮膚への外部適用のためのものである(US FDA Drug Nomenclature Monograph,number C-DRG-00201)。
【0092】
用語「クリーム」は、エマルジョンの半固形の剤形を記載し、通常は>20%の水、及び揮発性物質、及び/またはビヒクルとして<50%の炭化水素、ワックス、またはポリオールを含有している。クリームはローションよりも粘性である。この剤形は通常、皮膚への外部適用のためのものである(US FDA Drug Nomenclature Monograph,number C-DRG-00201)。
【0093】
用語「軟膏」は、半固形の剤形を記載し、通常は<20%の水、及び揮発性物質、及び/または>50%の炭化水素、ビヒクルとしてワックスまたはポリオールを含有している。
この剤形は、一般的に、皮膚または粘膜への外部適用のためのものである(US FDA Drug Nomenclature Monograph,number C-DRG-00201)。
【0094】
用語「溶液」は、溶媒、または互いに混和する溶媒の混合物の中で溶解する1以上の化学物質を含有する、透明で均質な液体の剤形を記載する(US FDA Drug Nomenclature Monograph,number C-DRG-00201)。
【0095】
用語「懸濁液」は、沈降には十分に大きな固形微粒子を含有する、不均一な混合物を指す。
【0096】
「薬学的に許容可能な塩」は、酸付加塩及び塩基付加塩の両方を含む。本明細書に記載された置換されたサイクリン依存性キナーゼ(CDKs)化合物の阻害剤のいずれか1つの薬学的に許容可能な塩は、あらゆる薬学的に適切な塩の形態を包含することを意図している。本明細書に記載される化合物の好ましい薬学的に許容可能な塩は、薬学的に許容可能な酸付加塩及び薬学的に許容可能な塩基付加塩である。
【0097】
「薬学的に許容可能な酸付加塩」は、遊離塩基の生物学的効果及び特性を保持する塩を指し、それは、生物学的にまたは他に望ましくないものではなく、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、亜リン酸などの無機酸により形成される。同様に、脂肪族のモノカルボン酸及びジカルボン酸、フェニル置換のアルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸(alkanedioic acids)、芳香族酸、脂肪族酸及び芳香族スルホン酸などの有機酸により形成される塩も含まれ、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などを含む。従って、典型的な塩としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩(monohydrogenphosphates)、二水素リン酸塩(dihydrogenphosphates)、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソ酪酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、琥珀酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩(dinitrobenzoates)、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩などが挙げられる。同様に、アルギン酸塩、グルコン酸塩、及びガラクトウロン酸塩のようなアミノ酸の塩も企図されている(例えば、Berge S.M. et al.,“Pharmaceutical Salts,” Journal of Pharmaceutical Science,66:1-19(1997))。塩基性化合物の酸付加塩は、実施形態によっては、当業者が熟知している方法と技術に従って塩を生成するために、十分な量の所望の酸に遊離塩基形態を接触させることにより調製される。
【0098】
「薬学的に許容可能な塩基付加塩」は、遊離酸の生物学的効果及び特性を保持する塩を指し、それは、生物学的にまたは他に望ましくないものではない。これらの塩は、無機塩基または有機塩基を遊離酸に追加することにより調製される。薬学的に許容可能な塩基付加塩は、実施形態によっては、アルカリ、アルカリ土類金属、または有機アミンのような金属またはアミンで作られる。無機塩基に由来する塩は、限定されないが、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウムの塩などを含む。有機塩基由来の塩は、限定されないが、第一級、第二級、及び第三級のアミン、自然に生じる置換されたアミンを含む置換されたアミン、環状アミン及び塩基イオン交換樹脂、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、N,N-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、エチレンジアニリン、N-メチルグルカミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などの塩を含む。上述のBerge et al.を参照。
【実施例
【0099】
実施例1:脂腺細胞の3Dモデル培養における脂質合成に対する、チオール含有化合物の効果のインビボでの評価
【0100】
マイボーム腺の分泌細胞(マイボサイト)には、同様の構造、機能、及び結合部の発生学的な発達(joint embryologic development)から検証され得るような、脂線の分泌細胞(脂腺細胞)と共通の類似性があるため(Knop 2011_IOVS)、脂質産生に対するチオール含有脂質の効果は、脂腺細胞の3Dモデル培養において評価され得る。更に下記を参照されたい:Barrault 2012、3D上皮として培養された場合、不死化脂腺細胞は自発的に皮脂性のような表現型に分化することができる、Exp.Derm、21:299-319。
【0101】
脂質合成に対する異なる化合物の効果を、脂腺細胞の3Dモデル培養において評価した。
薬品候補はチオール基を含む化合物であった。陽性対照としての二硫化セレン(CarboxymethylCellulose-CMCで分散したSeS2)。脂腺細胞の分化は、脂質の合成及び蓄積の増加に関連するので、増殖及び分化の評価を、3D脂腺細胞培養(ヒト細胞株-SEBO662)における脂質蓄積の量を計ることにより行った。脂質蓄積を、オイルレッド染色による脂質染色により評価した。
【0102】
脂腺細胞SEBO662を、三次元(3D)上皮へと培養し、皮脂性のような表現型に分化した。脂腺細胞を、試験化合物で処理し、または処理せず(対照)、14日間インキュベートした。全ての実験を3回行った。インキュベーションの後、組織を急速凍結した。ホルムアルデヒドで固定した凍結切片を、オイルレッドO溶液を使用して染色し、ヘマトキシリンを使用するので対比染色した。各試験条件のために、カメラを備えた光学顕微鏡を使用して切片を観察した。1つの複製につき5枚の写真を撮り、1つの処置条件につき15の値を作成した。各サンプル中の脂質含有量を、脂肪滴の表面積の算出により定量化した。試験された化合物と対照の、脂肪滴の表面積間の全てのデータポイントの定量比較を実行した。
<結果>
図1は、対照に関する3D脂腺細胞の上皮におけるオイルレッドO染色の例示である。図2は、1.0μMのブシラミン関する3D脂腺細胞の上皮におけるオイルレッドO染色の例示である。図3は、0.1μMのブシラミン関する3D脂腺細胞の上皮におけるオイルレッドO染色の例示である。
<定量比較>
二硫化セレン(SeS)の定量比較は、0.01μM及び0.1μMで、両方の試験濃度にて3D脂腺細胞の上方の領域において、脂質蓄積の統計的に有意な増加を誘導した(それぞれ、対照の282%及び348%)。0.1μM及び1μMで試験されたブシラミンは、3D脂腺細胞の上方の領域において、脂質蓄積の統計的に有意な増加を誘導した(それぞれ対照の172%及び214%)。0.01μMの濃度では、皮脂産生(115%)の有意でない増加が観察された。
<結論>
0.1μM及び1μMの濃度のブシラミンは、3D脂腺細胞モデルにおいて脂質合成に著しい刺激的な効果があった。
実施例2:ブシラミンの角質溶解性の効果の評価
【0103】
用量応答と時間的経過の分析を、HaCaT細胞の生存率へのブシラミンの影響を評価するために、初めに遂行した。その後、テストアイテムが角化細胞増殖速度を減少させる能力を測定するために、選択された無毒な濃度を、BrdU合体によってさらに評価した。加えて、試験項目のチオール部分を減少させ、したがってマイボーム腺の封鎖状態を緩める能力を、ヒトの皮膚から得られた角質層上で試験した。
<用量応答と時間的経過の分析>
細胞を、加湿状況下で5%のCOで37℃で24、48及び72時間、テスト項目の6つの濃度を使用せずまたは使用してインキュベートした。インキュベート期間の終わりに、細胞生存率をMTTアッセイによって測定した。ブランク対照をすべての測定から引いた。結果を図4aに提供する。
<HaCaTターンオーバー(turnover)定量>
テスト項目での処置の際、HaCaT細胞の増殖速度を、BrdUアッセイの使用により検査した。ターンオーバー率の測色評価をELISAリーダによって記録した。結果を図4bに示す。
<ヒト皮膚モデル系におけるエクスビボ評価>
ヒト皮膚臓器培養を整形手術を経験している健康な患者から得た。研究を手術の日から開始した。サンプルの混合物から遊離チオールを分離するために、サンプルを5分間TCA(トリクロロ酢酸)の等しい体積でインキュベートした。その後、チューブを室温で10,000rpmで15minの遠心分離機にかけた。ペレットを評価した。結果は図4cに提供される。
<結論>
インビボ-ブシラミンは角化細胞のターンオーバー率を減少させることにより角質溶解性の効果を示した。
エスクビボ-ブシラミンは、マイボーム腺の閉塞状態を緩和するために、チオール部分を減少させる能力によって角質溶解性の効果を実証し、並びにこのアッセイにおいて有意な効果を示し、遊離チオール部分を無毒な濃度の約6倍増加させた。
実施例3:脂質分泌強化チオール含有剤を含む医薬組成物の製剤。
2.5グラムのブシラミンを、10グラムの流動パラフィン及び87.5グラムの白色の軟性ワセリンと混合させ、均質な混合物を得るまで一定の撹拌により~60℃に加熱して、これを室温に冷却する。
2.5グラムのブシラミンを、2.5グラムのコレステロール、10グラムの流動パラフィン、及び85グラムのワセリンと混合する。全ての成分が~80℃で溶け、均質性を得るまで混合物を混合しながら加熱し、その後室温に冷却する。
2.5グラムのブシラミンを、5グラムのスクアレン及び97.5グラムのワセリンと均質性を得るために混合させ、混合物を混合しながら~60℃に加熱して、これを室温に冷却した。
2.5グラムのブシラミンを、10グラムの鉱油、10グラムのスクワレン、10グラムのカプリン酸/カプリル酸トリグリセリド、10グラムのマイクロクリスタリンワックス、10グラムの硬化植物油、及び3グラムのラノリンと混合し、並びに100グラムになるまでワセリンと混合する。均質性を得るまで、混合物を混合しながら~80℃-90℃に加熱し、室温に冷却する。
2.5グラムのブシラミンを、3グラムのコレステロール及び10グラムのリン脂質と混合させ、エタノール・アセトンの混合物中で溶解する。混合物を真空下で乾燥し、激しい撹拌、その後高圧の均質化の下で1000mlの食塩水と混合させて、非常に細かいリポソーム分散を産生する。
2.5グラムのブシラミンを、5グラムの硬化植物油及び5グラムの鉱油と混合させ、撹拌しながら~80℃に加熱し、全ての成分を溶解する。1%のtween80及び2%のリン脂質を含む、80℃に予め加熱された87.5グラムの水溶液を、激しい混合及び高剪断均質化の下で加える。0.8グラムのキサンタンガム(Xantural 3000(登録商標))を、激しい混合の下で加え、混合物を室温に冷却し、固形の脂質分散を得る。
2.5グラムのブシラミンを滅菌注射用蒸留水に溶かし、1.2グラムのキサンタンガム及び0.8グラムの塩化ナトリウムを加え、混合物を撹拌して透明なゲルを得る。
実施例4:マイボーム腺における脂質産生の増加。
【0104】
研究の目的は、マイボーム腺により産生された脂質の量の増加に対する、脂質分泌強化製剤の効果を評価することである。
【0105】
脂質分泌強化チオール含有剤の薄い層を被験体の下眼瞼に適用し、及びマイボーム腺によって生産された脂質の量を薬剤の適用前後に測定する。マイボーム腺における脂質産生のレベルを判定するための典型的な方法は、1、3、5、及び7日間にわたり、チオール含有薬物または医薬品によりまたはそれら無しでヒトのマイボーム腺の上皮細胞を培養し、次いで、LipidTOXの緑色の中性脂質染色、及びLysoTracker(登録商標)Red DND-99(リソソームを標識化するために設計された蛍光技術)で細胞を染色することによって細胞の脂質及びリソソーム蓄積の規模を判定することにより、行われる。加えて、脂質分泌強化チオール含有剤がヒトマイボーム腺上皮細胞における極性及び中性脂肪の種類の合成を増加するか否かを検査することによって、7日間渡りチオール含有剤を含む、または含まない培地において細胞を培養し、及びその後、リン脂質、ワックス並びにコレステロールエステルの同定のための細胞を処理することによっても、行われる。これらの後者の2つの種は、ヒトのマイバムにおける主な脂質である。分析は、高性能薄層クロマトグラフィーの使用、及びImageJ色素による染色度の定量化を含んでいる。別の既知の代替的な方法は、オイルレッドO及びナイルレッドでの染色を利用する。脂質蓄積の程度を、ナイルレッド染料の使用により判定する。この色素は、蓄積された脂質の量に比例する蛍光シグナルをもたらす。
実施例5:マイボーム腺からの脂質分泌の増加。
【0106】
研究の目的は、マイボーム腺から分泌された脂質の量の増加に対する、脂質分泌強化製剤の効果を評価することである。
【0107】
脂質分泌強化チオール含有剤の薄い層を被験体の下眼瞼に適用し、及びマイボーム腺から分泌された脂質の量を薬剤の適用前後に測定する。マイボーム腺から脂質分泌のレベルを判定するための典型的な方法は、眼瞼縁上のマイボーム脂質を定量化するための「meibometer」装置を使用することであり、これは、分泌されているマイバムの量を測定するために眼瞼縁に対して置かれるテープを備える、光学分光光度計である(Chew et al,Current Eye Research,Vol.12(3),pages 247-254,1993)。
実施例6:MGD患者の処置。
【0108】
研究の目的は、MGDまたはその症状の少なくとも1つの処置に対する、脂質生成及び脂質分泌を増加させる製剤の効果を評価することである。
【0109】
脂質分泌強化チオール含有剤の薄い層をMGD患者の下眼瞼に適用し、及びMGDの発病度あるいはその症状の少なくとも1つを薬剤の適用前後に測定する。MGDまたはその症状の少なくとも1つを評価且つモニタリングするための典型的な方法は、限定されないが、患者へのアンケート、マイボーム腺の圧搾、涙液層の安定性の破壊時間、及び指での圧搾に見られるような開通性の腺の数の判定を含む。MGD症状を評価するための他の方法は、限定されないが、Shirmer試験、眼表面染色、眼瞼の形態分析、マイボグラフィー、マイボメトリー、インターフェロメトリー、エバポリメトリー、涙の脂質組成分析、蛍光分析、メニスコメトリー(meiscometry)、モル浸透圧濃度分析、涙液膜動態の指標、蒸発、及び涙のターンオーバー(turnover)を含む。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c