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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物および積層体
(51)【国際特許分類】
   C09J 151/00 20060101AFI20220714BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20220714BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20220714BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220714BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C09J151/00
C09J123/26
C09J123/08
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020516182
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2019015117
(87)【国際公開番号】W WO2019208169
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018083800
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】岩下 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 慶之
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-087603(JP,A)
【文献】特開昭61-162539(JP,A)
【文献】国際公開第97/010297(WO,A1)
【文献】特開平10-316806(JP,A)
【文献】特開平05-051496(JP,A)
【文献】特開昭63-054478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
B32B 27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されたエチレン系重合体を含むエチレン系重合体(A)からなるか、あるいは、
不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されたエチレン系重合体を含むエチレン系重合体(A)と、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料、および、ゴムからなる群から選択される少なくとも一つとからなり、
前記エチレン系重合体(A)が、下記エチレン系重合体(A1)と下記エチレン系重合体(A2)とを含有し、
前記エチレン系重合体(A1)が、エチレンの単独重合体と、エチレンと1-ブテンとの共重合体とからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記エチレン系重合体(A2)が、エチレンと炭素数3~10のα-オレフィンとの共重合体であり、
前記エチレン系重合体(A1)およびエチレン系重合体(A2)の少なくとも一方が、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されているエチレン系重合体を含み、かつ
下記の要件(1)~(4)を満たすことを特徴とする接着性樹脂組成物。
(1)ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~3g/10分である。
(2)密度が910~930kg/m3 である。
(3)結晶化溶出分別クロマトグラフィー測定において、50℃以下での溶出成分の比率が20質量%以上である。
(4)結晶化溶出分別クロマトグラフィー測定において、90℃以上での溶出成分の比率が25質量%以上である。
(A1)密度が930~965kg/m 3 であり、ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
(A2)密度が858~929kg/m 3 であり、ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
【請求項2】
不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されたエチレン系重合体を含むエチレン系重合体(A)を含有し(ただし、粘着付与剤を含まない)、
前記エチレン系重合体(A)が、下記エチレン系重合体(A1)と下記エチレン系重合体(A2)とを含有し、
前記エチレン系重合体(A1)が、エチレンの単独重合体と、エチレンと1-ブテンとの共重合体とからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記エチレン系重合体(A2)が、エチレンと炭素数3~10のα-オレフィンとの共重合体であり、
前記エチレン系重合体(A1)およびエチレン系重合体(A2)の少なくとも一方が、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されているエチレン系重合体を含み、かつ、
下記の要件(1)~(4)を満たすことを特徴とする接着性樹脂組成物。
(1)ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~3g/10分である。
(2)密度が910~930kg/m 3 である。
(3)結晶化溶出分別クロマトグラフィー測定において、50℃以下での溶出成分の比率が20質量%以上である。
(4)結晶化溶出分別クロマトグラフィー測定において、90℃以上での溶出成分の比率が25質量%以上である。
(A1)密度が930~965kg/m 3 であり、ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
(A2)密度が858~929kg/m 3 であり、ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
【請求項3】
前記のエチレン系重合体(A)が、前記エチレン系重合体(A1)20~40質量%と、前記エチレン系重合体(A2)60~80質量%〔但し、エチレン系重合体(A1)とエチレン系重合体(A2)との合計を100質量%とする〕とを含有る請求項1または2に記載の接着性樹脂組成物
【請求項4】
エチレン系重合体を含む層(I)と、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物を含む接着層(II)と、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含む層(III)および/またはポリアミド樹脂を含む層(IV)とが、積層されており、かつ、前記層(II)が層(III)と層(IV)の少なくとも一方と直に接していることを特徴とする積層体。
【請求項5】
上記エチレン・ビニルアルコール共重合体が、エチレンから導かれる構造単位の含有率20~30モル%のエチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化して得られる重合体である、請求項に記載の積層体。
【請求項6】
上記エチレン・ビニルアルコール共重合体が、さらにスチレン系エラストマーを10~40質量%を含む重合体である、請求項に記載の積層体。
【請求項7】
上記ポリアミド樹脂が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11、MXDナイロン、アモルファスナイロン、共重合ナイロンの何れか1種以上を含む請求項のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項のいずれか1項に記載の積層体を含むフィルム。
【請求項9】
請求項に記載のフィルムから得られる袋。
【請求項10】
請求項のいずれか1項に記載の積層体を含む包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性樹脂組成物および積層体に関し、詳しくは、ガスバリア性樹脂に対する高い接着性を有する接着性樹脂組成物、および該接着性樹脂組成物を含む層を含む、バリア性の高い積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは透明性、柔軟性、衛生性、加工性等に優れ、安価でもあることから、各種食品や化学品などの包装や容器として広く用いられている。
ポリエチレンは気体透過性が大きいので、包装や容器としては単独で用いることができない。このため、ポリエチレンに、ガスバリア性の高い他の材料、例えばポリアミドやエチレン・ビニルアルコール共重合体などのガスバリア性樹脂を積層させた上で包装や容器として使用されることが多い。また、ポリエチレンは無極性材料であるのでほとんど接着力を有していないので、ポリエチレンをガスバリア性樹脂に積層する上で様々な改良がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エチレン系重合体と変性エチレン系重合体とを含むポリエチレン樹脂組成物の層と、エチレン・酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアミド、ポリエステル等の層とを積層してなる積層体が開示されている。特許文献1には、前記樹脂組成物は他の樹脂に対する接着性が優れており、この接着性は熱、水、塩水等によっても劣化することがない旨が記載されている。
【0004】
その一方、昨今食品ロスの低減の要請が強まる中で、食品包材のハイバリア化の流れが進行し、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのガスバリア性樹脂に対しよりハイバリア性が求められている。この要望に応えるべく、近年、ガスバリア性樹脂を低エチレン化してガスバリアを高める傾向が強まっている。
【0005】
しかし、ガスバリア性樹脂であるエチレン・ビニルアルコール共重合体などは低エチレン化すると堅脆くなるので、柔軟化のためにエチレン・ビニルアルコール共重合体等に添加剤(スチレン系エラストマー等)を添加する方策が採られていた(特許文献2、3)。しかし、そうすると、添加剤がポリエチレンとの接着を阻害するため、従来の接着性樹脂ではポリエチレンとガスバリア性樹脂との接着力が不足するケースが増えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59-068351号公報
【文献】特開2010-254968号公報
【文献】特開2011-202147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のガスバリア性樹脂との接着力に優れた接着性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する本発明は、下記[1]~[9]である。
【0009】
[1] 不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されたエチレン系重合体を含むエチレン系重合体(A)を含有し、下記の要件(1)~(4)を満たすことを特徴とする接着性樹脂組成物。
(1)ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~3g/10分である。
(2)密度が910~930kg/m3 である。
(3)結晶化溶出分別クロマトグラフィー測定において、50℃以下での溶出成分の比率が20質量%以上である。
(4)結晶化溶出分別クロマトグラフィー測定において、90℃以上での溶出成分の比率が25質量%以上である。
[2] 前記のエチレン系重合体(A)が、下記のエチレン系重合体(A1)20~40質量%と、エチレン系重合体(A2)60~80質量%〔但し、エチレン系重合体(A1)とエチレン系重合体(A2)との合計を100質量%とする〕とを含有し、前記エチレン系重合体(A1)およびエチレン系重合体(A2)の少なくとも一方が、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されているエチレン系重合体を含むことを特徴とする[1]に記載の接着性樹脂組成物。
(A1)密度が930~965kg/m3であり、ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
(A2)密度が858~929kg/m3であり、ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
[3] エチレン系重合体を含む層(I)と、[1]または[2]に記載の接着性樹脂組成物を含む接着層(II)と、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含む層(III)および/またはポリアミド樹脂を含む層(IV)とが、積層されており、かつ、前記層(II)が層(III)と層(IV)の少なくとも一方と直に接していることを特徴とする積層体。
[4] 上記エチレン・ビニルアルコール共重合体が、エチレンから導かれる構造単位の含有率20~30モル%のエチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化して得られる重合体である、[3]に記載の積層体。
[5] 上記層(III)が、さらにスチレン系エラストマーを10~40質量%を含むである、請求項3に記載の積層体。
[6] 上記ポリアミド樹脂が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11、MXDナイロン、アモルファスナイロン、共重合ナイロンの何れか1種以上を含む[3]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7] [3]~[6]のいずれかに記載の積層体を含むフィルム。
[8] [7]に記載のフィルムから得られる袋。
[9] [3]~[6]のいずれかに記載の積層体を含む包装容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着性樹脂組成物は、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のガスバリア性樹脂に対して優れた接着力を有する。このため、前記接着性樹脂組成物を含む接着層と、この接着層に直に接するガスバリア性樹脂層とを含む積層体は、ガスバリア性樹脂層に柔軟化のために添加剤が添加されている場合等であっても、前記二層が強固に接着しているので、前記二層間に剥離が生じ難い。したがって、前記積層体は、ハイバリア性を有する包装および容器等として有効に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<接着性樹脂組成物>
本発明の接着性樹脂組成物は、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されたエチレン系重合体を含むエチレン系重合体(A)を含有する。
【0012】
前記エチレン系重合体(A)の好ましい態様として、エチレン系重合体(A)は、下記のエチレン系重合体(A1)とエチレン系重合体(A2)とを含有し、該エチレン系重合体(A1)および(A2)の少なくとも一方が、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されているエチレン系重合体を含む。
(A1)密度が930~965kg/m3であり、ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
(A2)密度が858~929kg/m3であり、ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
【0013】
エチレン系重合体(A1)は、密度が930~965kg/m3であり、好ましくは940~965kg/m3である。かかる範囲の密度のエチレン系重合体(A1)を用いる
ことにより、接着性の優れた接着性樹脂組成物が得られやすい。
【0014】
エチレン系重合体(A1)は、ASTM D 1238に基づき測定した、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であり、好ましくは0.2~8g/10分である。前記MFRが0.1g/10分未満の重合体は、得られる接着性樹脂組成物の押出成形が困難になる場合があり、圧力が上昇して成形機械の限界圧力を超える虞がある。一方、MFRが10g/10分を越える重合体は、得られる接着性樹脂組成物を成形した場合に、成形品の厚さの均一性が不良になり易く、また分子量が低くなりすぎ、積層体の衝撃強度等が低下する虞がある。
【0015】
エチレン系重合体(A2)は、密度が858~929kg/m3であり、好ましくは865~925kg/m3である。かかる範囲の密度のエチレン系重合体(A2)を用いることにより、接着性の優れた接着性樹脂組成物が得られやすい。
【0016】
エチレン系重合体(A2)は、ASTM D 1238に基づき測定した、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であり、好ましくは0.5~7g/10分である。前記MFRが0.1g/10分未満の重合体は、得られる接着性樹脂組成物の押出成形が困難になる場合があり、圧力が上昇して成形機械の限界圧力を超える虞がある。一方、MFRが10g/10分を越える重合体は、得られる接着性樹脂組成物を成形した場合に、成形品の厚さの均一性が不良になり易く、また分子量が低くなりすぎ、積層体の衝撃強度等が低下する虞がある。
【0017】
前記エチレン系重合体(A1)および(A2)の少なくとも一方は、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されているエチレン系重合体を含む。すなわち、エチレン系重合体(A1)が変性エチレン系重合体を含み、エチレン系重合体(A2)が変性エチレン系重合体を含まない態様、エチレン系重合体(A1)が変性エチレン系重合体を含まず、エチレン系重合体(A2)が変性エチレン系重合体を含む態様、およびエチレン系重合体(A1)およびエチレン系重合体(A2)がともに変性エチレン系重合体を含む態様が挙げられる。
【0018】
エチレン系重合体(A1)または(A2)が変性エチレン系重合体を含む場合、エチレン系重合体(A1)および(A2)のそれぞれにおける不飽和カルボン酸またはその誘導体のグラフト量は、通常、0.01~10質量%、好ましくは0.02~5質量%の範囲である。グラフト量が0.01質量%より低いと、接着力が十分でない虞があり、10質量%より高いと、架橋反応が起こりやすくなり、得られる変性エチレン系重合体の品質が安定し難くなる。
【0019】
前記不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸(エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-ジカルボン酸)等の不飽和カルボン酸;またはその誘導体、例えば酸ハライド、アミドイミド、無水物、エステル等が挙げられる。かかる誘導体の具体例としては、例えば塩化マレイル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等が挙げられる。これらの中では、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物が好ましく、特にマレイン酸、ナジック酸およびこれらの酸無水物が好ましい。
【0020】
前記変性エチレン系重合体は、種々公知の方法で製造することができる。例えば、エチレン系重合体を有機溶媒に溶解し、次いで得られた溶液に不飽和カルボン酸またはその誘導体及び必要に応じて有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、通常、60~350℃、好ましくは80~190℃の温度で、0.5~15時間、好ましくは1~10時間反応させる方法、あるいは、押出機などを使用して、無溶媒で、エチレン系重合体と、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体及び必要に応じて有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、通常、エチレン系重合体の融点以上、好ましくは120~350℃、0.5~10分間反応させる方法を採り得る。
【0021】
エチレン系重合体(A1)およびエチレン系重合体(A2)に含まれる、変性エチレン系重合体ではない非変性のエチレン系重合体、および変性エチレン系重合体における変性前のエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体またはエチレンとα-オレフィンとの共重合体である。前記α-オレフィンとしては、炭素数3以上、好ましくは3~10のα-オレフィンを挙げることができ、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテンおよびこれらの2つ以上の組み合わせ等を挙げることができる。α-オレフィンの共重合量は、得られる密度が前記範囲にある限り、特に限定はされないが、通常、10モル%以下である。変性前のエチレン系重合体の密度は、得られる変性エチレン系重合体の密度が前記範囲内にある限り特に限定はない。
【0022】
変性前のエチレン系重合体は、公知の方法、例えば高圧法あるいはチーグラー型のTi系触媒、Co系触媒、あるいはメタロセン系触媒等を用いる低圧法によって製造することができる。
【0023】
エチレン系重合体(A)におけるエチレン系重合体(A1)とエチレン系重合体(A2)との含有比率は、エチレン系重合体(A1)とエチレン系重合体(A2)との合計を100重量%として、エチレン系重合体(A1)20~40質量%、エチレン系重合体(A2)60~80質量%であることが好ましく、エチレン系重合体(A1)23~37質量%、エチレン系重合体(A2)63~77質量%であることがより好ましい。エチレン系重合体(A1)およびエチレン系重合体(A2)の含有比率が前記範囲内であると、接着性樹脂組成物の接着力がより強く発現される。
【0024】
エチレン系重合体(A1)およびエチレン系重合体(A2)は、それぞれ、1種のエチレン系重合体を単独で含んでいても良く、2種以上のエチレン系重合体を含んでいてもよい。
エチレン系重合体(A1)が2種以上のエチレン系重合体を含む場合、その2種以上のエチレン系重合体はそれぞれ、上記エチレン系重合体(A1)について述べた密度およびメルトフローレートの要件を満たす。
エチレン系重合体(A2)が2種以上のエチレン系重合体を含む場合も、その2種以上のエチレン系重合体はそれぞれ、上記エチレン系重合体(A2)について述べた密度およびメルトフローレートの要件を満たす。
【0025】
本発明の接着性樹脂組成物は、下記の要件(1)~(4)を満たす。
(1)ASTM D 1238に基づき測定した、温度190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~3g/10分であり、好ましくは0.5~2g/10分である。メルトフローレートが前記範囲内あることにより、成形性が良好な接着性樹脂組成物となる。
(2)密度が910~930kg/m3であり、好ましくは913~927kg/m3であり、より好ましくは914~925kg/m3であり、さらに好ましくは915~920kg/m3である。密度が910kg/m3未満の接着性樹脂組成物は、例えば容器等に用いた場合、機械的強度が低下する虞があり、また80℃以上の高温での層間接着力が低下する傾向がある。密度が930kg/m3を超える接着性樹脂組成物は、例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体などとの積層体に用いた場合、層間接着力が不安定となり易く、積層体の低温落下衝撃強度が低下する傾向がある。
(3)結晶化溶出分別クロマトグラフィー(CEF)測定において、50℃以下での溶出成分の比率が20質量%以上であり、好ましくは23質量%以上である。50℃以下での溶出成分の比率は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
(4)結晶化溶出分別クロマトグラフィー(CEF)測定において、90℃以上での溶出成分の比率が25質量%以上であり、好ましくは28質量%以上である。90℃以上での溶出成分の比率は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0026】
結晶化溶出分別クロマトグラフィー測定に関する上記要件(3)および(4)が満たされることにより、接着性樹脂組成物の接着力がより強く発現される。結晶化溶出分別クロマトグラフィー測定おける上記溶出成分の比率は、当業者であれば適宜調整することが可能である。
【0027】
本発明の接着性樹脂組成物は、種々公知の方法、例えば、エチレン系重合体(A1)とエチレン系重合体(A2)を上記の比率範囲で、ヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、V-ブレンダー等によりドライブレンドする方法、ドライブレンドした後、単軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー等により溶融混練する方法、および溶媒の存在下で、攪拌混合する方法等によって調製することができる。
【0028】
本発明の接着性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料等の添加剤或いは他の重合体、ゴムなどを必要に応じて含有することができる。
【0029】
<積層体>
本発明の積層体は、エチレン系重合体を含む層(I)と、前記接着性樹脂組成物を含む接着層(II)と、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含む層(III)および/またはポリアミド樹脂を含む層(IV)とが、積層されており、かつ、前記層(II)が層(III)と層(IV)の少なくとも一方と直に接している。
【0030】
本発明の積層体は、エチレン系重合体を含む層(I)と接着層(II)との間に、リグラインド層(V)をさらに存在させることができる。リグラインド層(V)とは、積層体を成形する場合に生じるバリ部分(不要部分)、積層体の回収品(スクラップ)、成形の際に生じる不良品などを粉砕、あるいは必要であれば、当該粉砕物を押出機等で溶融混練してなるもの(リグラインド)からなる層である。リグラインド層(V)は、上記回収品のみからなる必要はなく、リグラインド層(V)に例えば層(I)に用いたエチレン系重合体をブレンドして、機械物性を向上させることもできる。
【0031】
本発明の積層体を構成する上記各層には、本発明の目的を損なわない範囲で、充填剤、安定剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤等の自体公知の添加剤を配合することができる。
【0032】
層(I)に含まれるエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体、あるいはエチレンとα-オレフィンとのランダム共重合体である。α-オレフィンの共重合量は、エチレン系重合体の密度が下記範囲内にある限り、特に限定はされないが、通常、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。α-オレフィンとしては、炭素数3~10のα-オレフィンが好ましく、具体的には、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン等を挙げることができる。
【0033】
前記エチレン系重合体のメルトフローレート(MFR)〔ASTM D 1238(温度:190℃、荷重:2160g荷重)〕は、好ましくは、0.01~5.0g/10分、より好ましくは0.05~4g/10分の範囲である。前記エチレン系重合体の密度は、好ましくは940~980kg/m3 、より好ましくは950~970kg/m3 の範囲である。MFRが上記範囲より大きいエチレン系重合体を用いた場合は、積層体にした場合の衝撃強度が十分でなくなる虞がある。一方、MFRが上記範囲より小さいエチレン系重合体は、押出し成形が難しい傾向にある。密度が上記範囲より低いエチレン系重合体を用いた場合は、得られる積層体の透過性が劣る虞がある。
【0034】
層(III)および層(IV)はガスバリア性樹脂層である。
層(III)に含まれるエチレン・ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHとも言う。)は、好ましくは、エチレン含有率20~30モル%、好ましくは22~29モル%のエチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化して得られる。ケン化度は、特に制限はないが、例えば90~100%、好ましくは95~100%である。エチレン含有率が20モル%未満のケン化物は、融点と分解温度が接近しており、エチレン系重合体中に細かく分散させることが困難になる虞がある。また、エチレン含有率が大きくなりすぎると、バリア性が低下し本発明の目的に沿わなくなる虞がある。
【0035】
層(III)に含まれるEVOHは、さらにスチレン系エラストマーを10~40質量%含む重合体であってもよい。層(III)は、スチレン系エラストマーを含むことで、優れたガスバリア性を保ちながら、フィルムの柔軟性を付与することが可能となる。
【0036】
上記スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、SBSの水素添加ブロック共重合体(SEBS)、SISの水素添加ブロック共重合体(SEPS)、SBSのブタジエンブロックのビニル結合部分を水素添加したブロック共重合体(SBBS)、スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-結晶ポリオレフィンブロック共重合体(SEBC)などが挙げられる。これらのうち、熱安定性、耐候性に優れているSEBSが好ましく用いられる。SEBSは、ポリブタジエンブロックが水素添加によりエチレン・ブチレンのコポリマーブロックとなっている。
【0037】
層(IV)に含まれるポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11、MXDナイロン、アモルファスナイロン、共重合ナイロン等を例示することができる。
【0038】
本発明の積層体の層構成としては、例えば、エチレン系重合体を含む層(I)(以下、「PE層(I)」と略す。)/接着性樹脂組成物を含む接着層(II)(以下、「接着層(II)」と略す。)/エチレン・ビニルアルコール共重合体を含む層(以下、「EVOH層」と略す。)(III)、およびPE層(I)/接着層(II)/ポリアミド樹脂を含む層(以下、「NY層」と略す。)(IV)の3層構造を挙げることができる。
【0039】
それ以外に、
PE層(I)/リグラインド層(V)/接着層(II)/EVOH層(III)、PE層(I)/リグラインド層(V)/接着層(II)/NY層(IV)、PE層(I)/接着層(II)/EVOH層(III)/接着層(II)、PE層(I)/接着層(II)/NY層(IV)/接着層(II)の4層構造;
PE層(I)/リグラインド層(V)/接着層(II)/EVOH層(III)/接着層(II)、PE層(I)/リグラインド層(V)/接着層(II)/NY層(IV)/接着層(II)、PE層(I)/接着層(II)/EVOH層(III)/接着層(II)/PE層(I)、PE層(I)/接着層(II)/NY層(IV)/接着層(II)/PE層(I)の5層構造;
PE層(I)/リグラインド層(V)/接着層(II)/EVOH層(III)/接着層(II)/PE層(I)、PE層(I)/リグラインド層(V)/接着層(II)/NY層(IV)/接着層(II)/PE層(I)の6層構造;
PE層(I)/リグラインド層(V)/接着層(II)/EVOH層(III)/接着層(II)/リグラインド層(V)/PE層(I)、PE層(I)/リグラインド層(V)/接着層(II)/NY層(IV)/接着層(II)/リグラインド層(V)/PE層(I)の7層構造等の層構造を取り得る。
【0040】
本発明の積層体は、例えば、共押出フィルム成形、シート成型、コーティング、ブロー、押出ラミネート等の公知の成形法で製造することができる。
本発明の積層体は、ガスバリア性が優れ、優れた層間接着力と耐久性、耐熱接着性を示す。本発明の積層体はこのような特性を有することから、様々な用途に利用することができる。例えば、本発明の積層体から、該積層体を含むフィルムを製造することができ、さらに該フィルムから袋を得ることができる。また、本発明の積層体から、該積層体を含む包装容器を製造することができる。
【実施例
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれら実施例になんら制約されるものではない。
なお、実施例および比較例における物性の測定は以下の測定方法で行った。
(1)メルトフローレート(MFR)(g/10分)
メルトフローレートは、ASTM D 1238に準拠し、温度190℃、2160g荷重で測定した。
(2)密度(kg/m3
密度は、ASTM D 1505に準拠して測定した。
(3)50℃以下での溶出成分の比率(%)および90℃以上での溶出成分の比率(%)
50℃以下での溶出成分の比率および90℃以上での溶出成分の比率は、結晶化溶出分別クロマトグラフィー(CEF)により測定し、全ピーク面積に対する、50℃以下で溶出した成分のピーク面積の比率および90℃以上で溶出した成分のピーク面積の比率より求めた。
(4)接着強度(N/15mm)
積層体の初期接着強度は、積層体の側面側から15mm幅でサンプルを切り出し、内層側の接着層(II)とエチレン・ビニルアルコール共重合体を含む層(III)との間の接着強度を23℃の恒温槽内で測定した。剥離試験の測定方法はT-剥離法、剥離速度は300mm/分とした。この測定を5回行い、得られた数値の平均をその積層体の接着強度とした。
(5)融点(℃)
融点は、DSCにより測定した。具体的には、試料5-10mg程度を専用アルミパンに詰め、30℃から200℃まで500℃/minで昇温し、200℃で10分間保持したのち、200℃から30℃までを10℃/minで降温し、30℃でさらに1分間保持し、次いで10℃/minで昇温する際の吸熱曲線より融点を求めた。
【0042】
実施例および比較例において使用したエチレン系重合体であるPE-0、PE-1、PE-2、PE-3、PE-4、PE-5(以下、それぞれエチレン系重合体(PE-0)~(PE-5)とも記す)を表1に示す。なお、これらエチレン系重合体は、いずれも常法に従い重合を行い調製した。また表1中、MAH量とは、不飽和カルボン酸またはその誘導体として使用した無水マレイン酸のグラフト量を意味し、コモノマー含量とは、エチレン系重合体を構成する全構造単位に占めるコモノマー由来の構造単位のモル比を意味する。
【0043】
【表1】
【0044】
〔実施例1〕
エチレン系重合体(A1)である、エチレン系重合体(PE-0)9質量%およびエチレン系重合体(PE-5)26質量%と、エチレン系重合体(A2)である、エチレン系重合体(PE-2)35質量%およびエチレン系重合体(PE-3)30質量%とを配合した混合物を一軸押出機で溶融混合して、接着性樹脂組成物(1)を得た。得られた接着性樹脂組成物(1)は、密度が0.919g/cm3であり、ASTM D1238に準拠した、190℃、2.16kg荷重におけるMFRが0.8g/10分であった。
【0045】
接着性樹脂組成物(1)を用いて、下記の成形条件で、共押出成形により5層からなる積層体(フィルム)を製造した。得られた5層フィルムのEVOH層(III)と接着性樹脂組成物(1)からなる接着層(II)との層間接着強度(剥離強度)を、上記方法により測定した。結果を表2に示す。
【0046】
<積層体の成形条件>
層構造:
LLDPE層(I)/接着層(II)/EVOH層(III)/接着層(II)/LLDPE層(I)
層の厚み:LLDPE層(I) 350μm
接着層(II) 20μm
EVOH層(III) 20μm
T-ダイ成形機:LLDPE層(I) ダイ径40mmφ押出機、設定温度 220℃
接着層(II) ダイ径40mmφ押出機、設定温度 220℃
EVOH層(III) ダイ径30mmφ押出機、設定温度 220℃
成形速度:1.5m/分
LLDPE層(I)としては、下記のLLDPEからなる層を使用した。
EVOH層(III)としては、下記のEVOH1またはEVOH2からなる層を使用し、EVOH1からなるEVOH層(III)を含む積層体およびEVOH2からなるEVOH層(III)を含む積層体を製造した。
EVOH1:エチレン・ビニルアルコール共重合体(エチレン含量27モル%、SEBS 25質量%含む、MFR 1.3g/10分)
EVOH2:エチレン・ビニルアルコール共重合体(エチレン含量44モル%、MFR 1.7g/10分)
LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製Ultzex2021L)
【0047】
〔実施例2、比較例1~4〕
実施例2、比較例1~4については、配合処方を表2に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様の方法で接着性樹脂組成物を調製した。得られた接着性樹脂組成物を用いて実施例1と同様に積層体を製造し、その接着強度を測定した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、CEF測定において、90℃以上の溶出量が25%以上であり、50℃以下の溶出量が20%以上である実施例1~実施例3で得られた積層体は、EVOH1に対して良好な接着強度を示した。一方、CEF測定において、90℃以上の溶出量が25%未満または50℃以下の溶出量が20%未満である比較例1~5はEVOH1に対する接着強度が低かった。