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特許7105304尿路上皮がんの治療における抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】尿路上皮がんの治療における抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20220714BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220714BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20220714BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K39/395 T ZNA
A61K39/395 L
A61K38/07
A61P35/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020529589
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 CN2019101283
(87)【国際公開番号】W WO2020042941
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-06-01
(31)【優先権主張番号】201810998055.4
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520087262
【氏名又は名称】レメゲン シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】REMEGEN CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】China(Shandong)Pilot Free Trade Zone,Yantai District Yantai Development Zone,No.58 Beijing Middle Road Shandong 264006 China
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】房 健民
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-528902(JP,A)
【文献】Bladder Cancer,2018年07月,Vol.4,p.247-259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/68
A61K 38/00
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗HER2抗体またはその機能的断片が細胞傷害性分子にカップリングした抗体-薬物コンジュゲート (ADC)の、尿路上皮がんを治療するための薬物の調製における使用であって、
前記抗体-薬物コンジュゲートは、一般式Ab-(L-U)n(式中、Abは、前記抗体またはその機能的断片を表し、Lは、リンカーを表し、Uは、カップリングした細胞傷害性分子を表し、nは、1~8の整数であり、各抗体に結合した治療剤の分子数を表す)で表される構造を有し、
前記抗体またはその機能的断片は、以下のCDR(相補性決定領域)配列で限定される抗体と同じエピトープに競合的に結合し、前記CDR配列で限定される抗体は、
(i)3つのCDR含み、ここで、前記CDRアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:1、2及び3で示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び、
(ii)3つのCDR含み、ここで、前記CDRアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:4、5及び6で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含み、
前記リンカーは、マレイミド-カプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシ(Maleimido-Caproyl-Valine-Citrulline-p-Aminobenzyloxy,mc-vc-pAB)であり、
前記細胞傷害性分子は、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)である使用。
【請求項2】
前記抗体またはその機能的断片は、
(i)3つのCDR含み、ここで、前記CDRアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:1、2及び3で示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び、
(ii)3つのCDR含み、ここで、前記CDRアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:4、5及び6で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記抗体またはその機能的断片は、マウス由来、キメラ又はヒト化のものである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記抗体またはその機能的断片は、2013年08月22日に受託番号CGMCC No.8102で中国微生物菌種収集管理委員会の一般微生物学センターに寄託されたハイブリドーマによって分泌される抗体に由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記抗体またはその機能的断片、2013年11月06日に受託番号CCTCC C2013170で中国典型培養物保蔵センターに寄託されたCHO細胞によって分泌される抗体に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記尿路上皮がんは、外科的切除不能な局所進行性尿路上皮がん、局所進行性または転移性尿路上皮がん、HER2陽性の尿路上皮がん、および、HER2陽性の局所進行性または転移性尿路上皮がんからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記薬物は、さらに、薬学的に許容される担体を含み、前記薬物は、好ましくは凍結乾燥剤又は液体製剤であり、前記担体は、安定剤、保護剤、緩衝液、凍結乾燥保護剤、活性保護剤、界面活性剤、吸着担体、および、吸収促進剤からなる群から選択される1つ又は複数である、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記薬物は、鼻腔内、皮下、皮内、筋肉内又は静脈内に投与することができる、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記尿路上皮がんは、外科的切除不能な局所進行性尿路上皮がんである、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記尿路上皮がんは、局所進行性または転移性尿路上皮がんである、請求項6に記載の使用。
【請求項11】
前記尿路上皮がんは、HER2陽性の尿路上皮がんである、請求項6に記載の使用。
【請求項12】
前記尿路上皮がんは、HER2陽性の局所進行性または転移性尿路上皮がんである、請求項6に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿路上皮がんの治療における抗HER2(ヒト上皮成長因子受容体 2、human epidermal growth factor receptor 2)抗体-薬物コンジュゲートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
尿路上皮がん(Urothelial carcinoma、UC;移行上皮癌とも呼ばれ、Transitional cell carcinoma、TCC)は、腎臓、膀胱、及び尿管などの尿路系で通常見られる癌の一種である。それは、膀胱癌及び尿管、尿道または尿膜管の癌の中で最も一般的なタイプの癌である。また、腎癌の2番目に多いタイプであり、すべての原発性腎悪性腫瘍の5~10%を占めている。
【0003】
尿路上皮(移行上皮とも呼ばれる)は、膀胱、尿管、尿道の内側及び腎盂(腎臓内の尿のたまるところ)の内層である。それは、尿路上皮細胞または移行細胞で構成される。これらの細胞は、がん細胞に発展する可能性があり、尿路上皮がん(または移行上皮がん)と呼ばれる。
【0004】
癌化細胞の浸潤性に応じて、尿路上皮がんは非浸潤性(膀胱の内層のみ)または浸潤性(膀胱壁の他の層への増殖)になることができる。そのうち、非浸潤性尿路上皮がんは膀胱子宮内膜にのみ存在し、膀胱壁でより深くまでは増殖しない。診断時に、50%~60%の尿路上皮がんの患者は非浸潤性である。非浸潤性尿路上皮がんの種類は、非浸潤性扁平上皮がん(上皮内癌とも呼ばれる)、高悪性度の非浸潤性乳頭尿状路上皮がん、低悪性度の非浸潤性乳頭尿状路上皮がんを含み、低悪性潜能を有する非浸潤性乳頭尿状路上皮腫瘍が浸潤性がんに進展する可能性が小さくなる。
【0005】
それと比較しては、浸潤性尿路上皮がんは、膀胱の内層から、結合組織(固有層と呼ばれ)及び筋肉層(筋層と呼ばれ)などの膀胱壁のより深い層に増殖する。診断時に、40%~50%の尿路上皮がん患者の腫瘍は、浸潤性である。
【0006】
理論的には、尿路上皮がんは、腎盂、尿管、膀胱及び尿道を含むがこれらに限定されない尿路の任意の部分から開始し得る。
【0007】
関連する腫瘍細胞から転移が起こる前に、外科的切除が最も好ましい治療計画である。転移した腫瘍を有する患者は、一般的に抗がん剤による治療を必要とし、現在の第一選択療法は、ゲムシタビンとシスプラチンの併用療法であるが、放射線療法は尿路上皮がんに理想的ではなく、一般に補助療法として使用される。腎盂/尿管上皮のガンを治療する場合に、BCG注射療法(カテーテルによるマイコバクテリウムボビスの注射)を使用することができる。
【0008】
尿路上皮がんは、多中心性に発生し、再発しやすい特徴を有し、筋層に侵入する腫瘍を有する患者は、膀胱全摘術が最も好ましく、且つ手術後に厳密な再検査を必要とするため、治療の難易度は大きく、再発率は高い。(李学松、王剛、張騫編.泌尿器科病例精粹、北京大学医学出版社、2017)。一部の患者は、術後早期(24時間以内)に1回投与量又は手術の数週後に6回投与量としてマイトマイシン(化学療法剤)を膀胱に投与することも選択されてもよい治療方法である。現在、シスプラチンベースの化学療法は、依然として転移性UC患者のゴールドスタンダードであり、シスプラチンベースの化学療法の全奏効率(ORR)は60~70%であり、全生存期間(OS)は14~15ヶ月であり、5年生存率は13~15%であり、再発後のプラチナベースの化学療法では、ORRは約15%であり、OSの中央値は約7ヶ月である。
【0009】
ビンフルニンは、進行性尿上皮または転移性TCC(Bellmunt、J.etal、J Clin Oncol.27(27):4454-4461(2009))の治療のための使用がヨーロッパで承認されている。いくつかの薬剤は、単剤療法でテストされ、中等度の活動を示し、且つ生存期間中央値が5~10ヶ月である(Yafi、F.A.etal、Current Oncol.18(1):e25-e34(2011))。転移例では、ドセタキセル(Docetaxel)は救済オプションとして移行細胞癌患者に投与され(NCCN 2014)、且つ米国及びカナダ(Canada)の医学界は、第II相臨床試験からの証拠に基づいて進行性疾患をドセタキセルで治療することを承認している(WO2016/064649A1)。
【0010】
近年、尿路上皮がんの治療のための新薬は、主に以下の通りである。
1.ロシュ社のアテゾリズマブ(Atezolizumab)は、2016年に販売が承認された最初のPD-L1がん免疫療法薬であり、局所進行または転移性尿道膀胱癌に対するアテゾリズマブの最新の第III相臨床試験(IMvigor211)による結果は、アテゾリズマブが第III相IMvigor211試験の主要な臨床エンドポイント、即ち、局所進行または転移性尿路上皮癌(mUC)患者のセカンドライン治療の全生存率(OS)の改善を満たさないことを示している。合計234例の患者(アテゾリズマブ群116例、化学療法群118例)では、アテゾリズマブ群の全生存期間の中央値は11.1ヶ月であり、化学療法群は10.6ヶ月であり、それらの群のうちの評価可能な患者の確診客観的奏効率はそれぞれ23%及び22%であり、奏効持続期間の中央値はそれぞれ15.9ヶ月及び8.3ヶ月である。
【0011】
それらの群での無増悪生存期間の中央値は2.4ヶ月であり(対照は4.2ヶ月)、治療が意図される対象群への探索的分析では、12ヶ月の全生存率データは、アテゾリズマブが39.2%であり、化学療法が32.4%であり、アテゾリズマブの全生存期間の中央値は8.3ヶ月であり、タキサンは7.5ヶ月であり、ビンフルニンは9.2ヶ月である。(The ASCO Post,IMvigor211 Trial: Atezolizumab vs Chemotherapy in Platinum-Treated Advanced Urothelial Carcinoma、 Matthew Stenger,9/17/2018)
【0012】
さらに、米国データ監視委員会は、アテゾリズマブの単剤療法をプラチナベースの化学療法と比較して、PD-L1の低発現腫瘍患者の生存率が低下することを観察しているため、米国FDAは2018年6月にシスプラチンを含む化学療法に適する局所進行または転移性尿路上皮癌患者でのアテゾリズマブ(Tecentriq)の使用に対する制限を発表している。アテゾリズマブの使用前に、PD-L1発現レベルを検出する必要がある。これは、尿路上皮がんの治療におけるアテゾリズマブの局限性をさらに示している。
【0013】
2.ブリストル・マイヤーズスクイブ社のニボルマブ(Nivolumab)は、局所進行または転移性尿路上皮がん患者に対して2017年にFDAにより承認されている。ニボルマブは抗PD-1モノクローナル抗体であり、臨床データによると、ニボルマブの客観的奏効率(ORR)は19.6%であり、全生存率の中央値は8.7ヶ月であり、最も一般的な重篤な有害事象には、尿路感染症、敗血症、下痢、小腸閉塞、全身の健康状態の悪化などがある。最も一般的な副作用には、疲労、筋肉・骨の痛み、吐き気、食欲不振などがある。患者の17%は、有害反応によりニボルマブ治療が中止され、患者の46%は、有害反応により投与が遅れる。臨床開発では、3例患者は肺炎または心血管不全による治療関連の死亡になる。
【0014】
以上より、PD-L1/PD-1免疫療法の現在の臨床段階での主な問題は、不十分な治療効果であり、主に客観的奏効率(ORR)及び全生存期間中央値などの治療データの点で理想的ではなく、もう1つの主な問題は、重篤な副作用の割合が比較的高く、例えば、ニボルマブは関連する臨床試験で3人の死者を出している。
3.ヤンセン(ジョンソン・エンド・ジョンソンの会社)のエルダフィチニブ(erdafitinib)は、化学療法後の疾患進行及び腫瘍における特定の線維芽細胞増殖因子(FGFR)遺伝子変化の存在を伴う局所進行または転移性尿路の治療に用いられるために、2018年にFDAより画期的な薬剤認定を受け、その薬物は線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)チロシンキナーゼ阻害剤に属し、その第II相臨床試験(BLC2001、NCT02365597)の結果より、エルダフィチニブ治療の全奏効率は40%であり(完全奏効率3%、部分奏効率37%)、無増悪生存期間の中央値は5.5ヶ月であり、全生存期間の中央値は13.8ヶ月であり、合計99例の患者のうち、治療関連の有害事象による7例の患者の治療を中止する(https://www.jnj.com/media-center/press-releases/erdafitinib-phase-2-study-results-show-promise-in-the-treatment-of-metastatic-urothelial-cancer)。この薬物の治療標的はFGFRであるため、特定のFGFR遺伝子変異を有する尿路上皮がんの患者にのみ適するが、FGFRは転移性尿路上皮がんの15%~20%及び非筋肉浸潤性膀胱がんの40%~70%で過剰発現になる(2018 ASCO Annual Meeting,Responses Found in Advanced Urothelial Carcinoma With FGFR Inhibitor)。
現在の治療より、進行性尿路上皮癌は、悪性度が高く、予後が悪く、特に従来の化学療法の失敗後に治療手段が限定され、免疫療法は一部の患者のみに利益をもたらし、また、利用可能な免疫療法阻害剤の数は非常に限られ、客観的奏効率は高くなく、副作用は大きく、又は特定の遺伝的要件の使用が存在し、現在、患者が選択できる治療薬は多くないため、緊急の臨床ニーズを満たすようにより効果的で広く適用可能な治療薬を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、尿路上皮がんの治療方法を開示し、前記方法は、患者に有効量の抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を注射し、前記ADCは、抗HER2抗体コンジュゲート細胞傷害性分子である。前記細胞傷害性分子は、チューブリン阻害剤又はDNA損傷剤を含むが、これらに限定されない。前記チューブリン阻害剤は、ドラスタチン(dolastatin)及びオーリスタチン(auristatin)類細胞傷害性分子、メイタンシン(maytansine)類細胞傷害性分子を含むが、これらに限定されることなく、前記DNA損傷剤は、カリケアミシン(calicheamicin)類、デュオカルマイシン(duocarmycin)類、アントラマイシン誘導体PBD(pyrrolobenzodiazepine、ピロロベンゾジアゼピン)、カンプトテシン誘導体SN-38を含むが、これらに限定されない。前記オーリスタチン(auristatin)類細胞傷害性分子は、モノメチルオーリスタチンE(monomethyl auristatin E;MMAE)、モノメチルオーリスタチンF(monomethyl auristatin F;MMAF)、及びオーリスタチンF(auristatin F;AF)又はそれらの誘導体を含むが、これらに限定されることなく、前記メイタンシン様細胞傷害性分子は、DM1、DM3、DM4又はそれらの誘導体を含むが、これらに限定されない(抗体-薬物コンジュゲートの弾丸分子の研究進展、胡馨月など、中国医薬生物技術、2017年12月、第12卷第6期)(メイタンシン類抗体-薬物コンジュゲート 研究進展、周磊など、中国新薬雑誌2016年第25卷第22期、第2521~2530頁)。前記細胞傷害性分子は、アマニチン(amanitins)、アントラサイクリン(anthracyclines)、バッカチン(baccatins)、カンプトテシン(camptothecins)、セマドチン(cemadotins)、コルヒチン(colchicines)、コルカミン(colcimids)、コンブレタスタチン(combretastatins)、クリプトフィシン(cryptophycins)、ディスコデルモライド(discodermolides)、ドセタキセル(docetaxel)、ドキソルビシン(doxorubicin)、エキノマイシン(echinomycins)、エリュテロビン(eleutherobins)、エポチロン(epothilones)、エストラムスチン(estramustines)、レキシトロプシン(lexitropsins)、メイタンシン(maytansines)、メトトレキサート(methotrexate)、ネトロプシン(netropsins)、ピューロマイシン(puromycins)、リゾキシン(rhizoxins)、タキサン(taxanes)、チューブリシン(tubulysins)、又はビンカアルカロイド(vinca alkaloids)であってもよい。前記細胞傷害性分子は、上記のタイプに限定されなく、ADCに使用できるすべての薬物を含んでもよい。
【0016】
本発明の他の側面は、膀胱癌を治療するための薬物の製造における抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の使用を提供する。前記抗体-薬物コンジュゲートは、HER2に結合する抗体またはその機能的断片を含み、ここで、前記抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、ここで、(i)前記重鎖可変領域は、3つのCDR領域を含み、ここで、前記CDR領域のアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:1、2及び3で示されるアミノ酸配列を有し、(ii)前記軽鎖可変領域は、3つのCDR領域を含み、ここで、前記CDR領域のアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:4、5及び6で示されるアミノ酸配列を有する。前記抗体は、同じまたは類似したエピトープに上記CDRで限定される抗体と競合的に結合する抗体であってもよい。
【0017】
本発明では、「抗体」という用語は、全長抗体、又はHER2に結合するか、反応性に関連するか、複合体を形成する抗体断片を含むことができる。抗体は、治療的改変を求めている細胞集団の一部と結合、複合、または反応する任意のタンパク質、タンパク質様分子、又はポリペプチであってもよい。前記抗体は、キメラ抗体又はその機能的に活性な断片、ヒト化抗体又はその機能的に活性な断片、ヒト抗体又はその機能的に活性な断片であってもよい。上記以外の他の種の抗体又はその機能的に活性な断片、例えば、マウス抗体又はその機能的に活性な断片、ラット抗体又はその機能的に活性な断片、ヒツジ抗体又はその機能的に活性な断片、ウサギ抗体又はその機能的に活性な断片であってもよい。抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であってもよい。幾つかの実施例において、抗体は二重特異性抗体であってもよい。さらに、抗体は、機能的に活性な断片、抗体の誘導体や類似体であってもよい。「機能的」とは、前記断片、誘導体又は類似体が同じ抗原、抗原に由来する断片、誘導体又は類似体を認識する抗体を意味し、例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、Fv断片及び抗体の重鎖及び軽鎖二量体、又はFvsや単鎖抗体(SCAs)のような任意の最小断片であるが、これらに限定されない。さらに、抗体の融合タンパク質であってもよい。抗体は、修飾または非修飾(即ち、任意の分子を介した共有結合)の類似体及び誘導体を含むこともでき、そのような共有結合により抗体がその抗原結合免疫特異性を保持できればよい。例えば、抗体の類似体及び誘導体、グリコシル化、アセチル化、PEG化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロッキング基による誘導体化、プロテアーゼ切断、細胞抗体ユニットまたは他のタンパク質への連結などの更なる修飾を含むが、これらに限定されない。既知の技術を使用して、任意の大きな化学修飾を達成することができ、特定の化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの存在下での代謝合成などを含むが、これらに限定されない。さらに、類似体又は誘導体は、1つ又は複数の非天然アミノ酸を含むことができる。幾つかの実施例において、抗体は、Fc受容体と相互作用するアミノ酸残基に修飾(例えば、置換、欠失、または付加)有し得る。他の側面では、前記抗体-薬物コンジュゲートは、一般式Ab-(L-U)nの構造を有し、ここで、Abは、前記抗体またはその機能的断片を表し、Lは、リンカーを表し、Uは、カップリングした細胞傷害性分子を表し、nは1~8の整数であり、各抗体に結合した治療剤の分子量を表す。
他の側面では、前記リンカーは、チオール基及び/又はアミノ基を介して前記抗体またはその機能的断片に連結され、前記細胞傷害性分子は、前記抗体に部位特異的または部位非特異的にカップリングされる。本発明のリンカーは、下表のリンカーから選ばれることができる。
【0018】
【表1】
【0019】
本発明のリンカーは、マレイミド-カプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシ(マレイミド-Caproyl-Valine-Citrulline-p-Aminobenzyloxy、 mc-vc-pAB)及びマレイミドカプロイル(Maleimidocaproyl、mc)が好ましい。
本発明のリンカーは、トリグリシルペプチドリンカー(triglycyl peptide linker)を選択してもよく、該リンカーは、近年開発された、ADC薬物コンジュゲートに用いられる新たなリンカーである(Rajeeva Singh et al、 A New Triglycyl Peptide Linker for Antibody-Drug Conjugates (ADCs) with Improved Targeted Killing of Cancer Cells、 MCT-16-002、 Published June 2016.)。さらに、グルクロニドリンカー(glucuronide-tubulysin)を選択してもよい(Patrick J. Burke et al、 Glucuronide-linked antibody-tubulysin conjugates display activity in MDR+ and heterogeneous tumor models、 Molecular Cancer Therapeutics、2018)。
【0020】
他の側面では、前記抗体またはその機能的断片は、2013年08月22日に受託番号CGMCC No.8102で中国微生物菌種収集管理委員会の一般微生物学センターに寄託されたハイブリドーマによって分泌される抗体に由来する。
【0021】
他の側面では、前記抗体は、ヒト化抗体であり、好ましくは、前記抗体が2013年11月06日に受託番号CCTCC C2013170で中国典型培養物保蔵センターに寄託されたCHO細胞により分泌される抗体である。
【0022】
1つの実施例において、使用される抗体-薬物コンジュゲートの名称はRC48-mc-vc-pAB-MMAEであり、一般式Ab-(L-U)nの構造を満たし、RC48(ヒト化抗HER2モノクローナル抗体)は、リンカーmc-vc-pABを介してMMAEにカップリングし、カップリングした個数は、1~8個などであり、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個カップリングしたものを含み、または、1~8個の数量が異なるMMAEをカップリングした抗体-薬物コンジュゲートの組み合わせである。
【0023】
本発明では、前記尿路上皮がんは、外科的切除不能な局所進行性尿路上皮がん、局所進行性または転移性尿路上皮がん、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2、ErbB-2、c-erbB2又はHER2/neuと呼ばれる)陽性の尿路上皮がん、HER2陽性の局所進行性または転移性尿路上皮がんである。
【0024】
本発明に記載の薬物は、鼻腔内、皮下、皮内、筋肉内又は静脈内に投与することができる。
前記薬物は、薬学的に許容される担体も含み、前記薬物は、凍結乾燥剤又は液体製剤が好ましく、前記担体は、安定剤、保護剤、緩衝液、凍結乾燥保護剤、活性保護剤、界面活性剤、吸着担体、吸収促進剤の1つ又は複数を含む
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、クーマシーブルーで染色した精製ヒト組換えタンパク質HER2-ECDのSDS-PAGEバンドのプロファイルである。1ウェルあたりのサンプルアプライ量は10μgである。
【0026】
図2図2は、cRC48(キメラ抗体)、RC48(ヒト化抗体)のSDS-PAGEの解析プロファイルを示し、抗体の1ウェルあたりのサンプルアプライ量は2μgである。
【0027】
図3図3は、ELISA実験により測定されたヒト化抗体RC48のHER2-ECDへの結合親和性を示し、結合親和性定数Kdを算出する。本実験では、Herceptin及びcRC48がコントロールとして使用される。
【0028】
図4A図4Aは、フローサイトメトリーによる抗HER2ヒト化抗体RC48がHER2+細胞SK-BR3、BT474、HER2-細胞MDA-MB468に結合する能力の分析を示す。
【0029】
図4B図4Bは、フローサイトメトリーによる異なる抗体濃度で抗HER2抗体がBT474細胞表面抗原に結合する能力の分析を示す。抗HER2抗体は、Herceptin、cRC48、RC48を含む。合計5×104個の細胞を分析している。
【0030】
図5図5は、RC48がHER2にのみ特異的な親和性で結合するが、EGFR、HER3、HER4に結合しないことを示す。
【0031】
図6図6は、被験者番号01001の治療効果の概略図を示し、患者の基本的状況:女性、57歳、右腎盂癌手術後の複数の肺転移である。病理診断は、尿路上皮がん、HER2 IHC 3+である。
【0032】
図7図7は、被験者番号01003の治療効果の概略図を示し、患者の基本的状況:女性、45歳、右腎盂癌手術後、腹部リンパ節転移である。病理診断は、尿路上皮がん、HER2 IHC 3+である。
【0033】
図8図8は、被験者番号01007の治療効果の概略図を示し、患者の基本的状況:男性、63歳、膀胱癌手術後、右腎盂癌手術後、肺転移、肝転移、頸部リンパ節転移、縦隔転移、多発骨転移である。病理診断は、尿路上皮がん、HER2 IHC 3+である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0034】
実施例1.マウスモノクローナル抗体mRC48の調製及びシーケンス分析
【0035】
1、HER2抗原の発現及び精製
【0036】
HER2-ECD(アミノ酸Thr23~Thr652、GenBankアクセッション番号M11730)をコードするcDNA断片は、PCRによりpcDNA3(Invitrogen社)発現ベクターにクローニングされた。
【0037】
具体的な方法は、HER2+SKBR3細胞株(ATCC番号:HTB-30)からRT-PCR法でHER2-ECDコード領域のcDNAを取得した(キットは、Promega社のImProm-IITM Reverse Transcription System逆転写システムを使用する)。
【0038】
プライマーは、P1:5’CGGGATCCTGCCACCAGCTGTGCGCC(SEQ ID NO:7)、P2:5’GCTCTAGATCAGTTGATGGGGCAAGGCT(SEQ ID NO:8)、下線が引かれた配列は、それぞれ組み込まれたBamHI、XbaI制限酵素切断部位であり、PCR増幅は、逆転写HER2-ECDのcDNAをテンプレートとして上記プライマーを使用して行い、増幅条件は、94℃で30s変性し、60℃で30sアニーリングし、72℃で1分間伸長し、30サイクルを行い、最後、72℃で10分間伸長する。その後、PCR断片を回収し、BamHI及びXbaI制限酵素(NEB)によって切断し、pcDNA3ベクターに連結した。精製を容易にするために、HER2-ECDのC末端に1つのポリヒスチジンタグを付いた。構築されたDNA発現ベクターでHEK293細胞(ATCC、米国)をトランスフェクションし、His標識可溶性タンパク質HER2-ECDをNi-NTAアフィニティークロマトグラフィー(Qiagen)により細胞培養液から精製した。SDS-PAGE及びクーマシーブリリアントブルー染色により、精製されたHER2-ECDタンパク質が95%以上の同質性であることを示した結果を図1に示した。可溶性HER2-ECDは、相対分子量が約75kDaであるモノマーとして発見され、計算された分子量(71kDa)よりわずかに大きく、HEK293細胞でタンパク質がグリコシル化していることを示した。精製されたHER2-ECDタンパク質をさらに濃縮し、pH7.4の滅菌PBS緩衝液に移し、その後のin vivo及びin vitro分析に用いられた。
【0039】
2、ハイブリドーマ細胞の作製及びスクリーニング
【0040】
上記のように調製されたHER2-ECDを抗原としてマウスを免疫し、モノクローナル抗体を調製した。免疫応答、ハイブリドーマ細胞融合、及び予備スクリーニングは、いずれも標準的な手順(参照文献:WHO Technical Report Series、No.822、1992 Annex 3)に従って実行された。0.25ml HER2-ECDタンパク質(50~100μg)と0.25ml完全フロイントアジュバント(Difco Lab)を同体積で均一に混合した後、4匹のBalb/cマウス(上海斯莱克実験動物有限責任公司から購入した)を免疫し、2週間後に2回目の注射を行い、不完全フロイントアジュバント(Difco Lab)を使用し、抗原量は25~50μg/0.5ml/1匹のマウスであり、3週間後に2回目と同じ注射量で3回目の注射を行い、3回目の注射後10日に採血した。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によりマウスの血清を検出し、血清中の抗HER2抗体価が最も高い2匹のマウスの脾臓を摘出し、次に、骨髄腫細胞P3X63Ag8(ATCC CRL-1580)と融合させた。融合細胞を10個の96ウェルプレートに希釈し、HER2-ECDとの結合能に応じてELISA法により予備スクリーニングを行った。典型的なELISA実験では、Nunc Maxisorb 96ウェルプレートをHER2-ECD(0.2~1μg/ml)でコーティングした後、マウス血清又はハイブリドーマ上清液の勾配希釈液(100μL)でインキュベートした。マウス由来抗HER2抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギF(ab′)2抗マウスIgG Fc特異的な二次抗体(Invitrogen公司)で検出された。
【0041】
400個のハイブリドーマ細胞株の上清は、ELISA法によりスクリーニングされ、そのうちの36個は強いHER2-ECD結合能を示した。最も強いHER2結合能を持つ10個のハイブリドーマ細胞株を選択し、サブクローン化されたハイブリドーマ細胞株を限界希釈法によってスクリーニングした。サブクローン化されたハイブリドーマ細胞株を懸濁液として培養し、タンパク質の精製を経由し、ELISA法にてHER2の結合親和性を特定し、フローサイトメーター(BD FACS Calibur)によってヒト乳癌細胞株の表面に自然に発現するHER2に対する上記抗体の結合能をさらに測定した(より詳細な説明については、実施例4を参照)。最終的に、強いHER2結合能を持つハイブリドーマ細胞株mRC48(マウス由来IgG1k)をシーケンス分析により特定した。前記ハイブリドーマ細胞株mRC48は、2013年08月22日に受託番号CGMCC No.8102で中国微生物菌種収集管理委員会の一般微生物学センターに寄託された(ブダペスト条約に基づく寄託日は2013年10月29日である)。
【0042】
3、抗HER2ハイブリドーマ細胞クローンmRC48のシーケンス分析
【0043】
上記ハイブリドーマ細胞クローンmRC48の重鎖及び軽鎖の可変領域は、説明書に従って市販のキットSMARTTM RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社)を使用して5’末端を迅速に増幅し、配列決定した。
【0044】
RNApure Tissue Kit(北京康威世紀生物科技有限公司)を使用してハイブリドーマ細胞から全RNAを抽出し、SMARTTM RACE cDNA Amplification Kitを使用して全RNAの逆転写を行い、全RNAをテンプレートとし、キットにおけるプライマーを利用し、逆転写酵素SMARTScribeTM Reverse Transcriptaseを加え、キットで提供される手順に従って逆転写を行い、RACE-Readyの第1鎖cDNAを取得し、その後、2ラウンドのPCRを行い、第1ラウンドのPCRは、得られたcDNAをテンプレートとし、キットに付属するUPMは5’端プライマーであり、3’端プライマーはmRC48-VL-1/mRC48-VH-1である。PCR反応条件は、94℃で5min予備変性し、増幅を25サイクル(94℃で30s変性し、68℃で30sアニーリングし、72℃で2min伸長する)行い、最後に、72℃で10min伸長した。
【0045】
第2ラウンドのPCRは、第1ラウンドのPCR産物をテンプレートとし、キットに付属するNUPは5’端プライマーであり、3’端プライマーはmRC48-VL-2/mRC48-VH-2であり、PCR反応条件は、94℃で5min予備変性し、増幅を25サイクル(94℃で30s変性し、68℃で30sアニーリングし、72℃で2min伸長する)行い、72℃で10min伸長した。このようにして、上記ハイブリドーマ細胞クローンmRC48重鎖及び軽鎖可変領域を得た。
【0046】
具体的なプライマーの配列は、以下の通りである。
mRC48-VL-1:5’-GTTGGTGCAGCATCAGCCCGTT-3’(SEQ ID NO.9)
mRC48-VL-2:5’-GTTCACTGCCATCAATCTTCCAC-3’ (SEQ ID NO.10)
mRC48-VH-1:5’-GCCAGTGGATAGACAGATGG- 3’(SEQ ID NO.11)
mRC48-VH-2:5’-AGGTCACTGTCACTGGCTCAG - 3’(SEQ ID NO.12)
【0047】
PCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製し、pCR2.1TOPOクローンベクター(Invitrogen社)にサブクローニングした。PCRにより、10個の独立してクローン化したプラスミドDNAを得、さらに、M13フォワード及びリバースプライマーを使用して配列決定した。DNAシーケンス分析により、これらの10個のクローンはいずれも同じVH又はVLポリペプチをコードするcDNAを有することが示された。相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列は、Kabatコーディングテーブルによって定義され、表2に示した。シーケンス比較分析により、抗HER2 mRC48のCDRは、Herceptin(トラスツズマブ)を含む既知のHER2抗体と有意に異なることを示した。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例2.抗HER2モノクローナル抗体mRC48のヒト化(CN105008398Aの対応する方法に由来)
【0050】
軽鎖又は重鎖のCDRをヒトIgG1κフレームワーク領域に移植することにより、マウス抗HER2モノクローナル抗体mRC48をヒト化した。
【0051】
ヒト化RC48抗体の軽鎖可変領域(RC48-VL)、及びヒト化RC48抗体の重鎖可変領域(RC48-VH)を設計することにより、ヒト化抗HER2抗体であるRC48として組み合わせた。RC48-VHの配列全体と、ヒトIgG1VH遺伝子との類似性は84%である。RC48抗体は、軽鎖可変領域RC48-VL及び重鎖可変領域RC48-VHを含む。
【0052】
ヒト化抗HER2モノクローナル抗体RC48は、CDR移植により得られた。重鎖又は軽鎖可変領域は、南京金斯瑞生物科技有限公司により直接合成され、合成された可変領域は、コザック配列、開始コドン、重鎖又は軽鎖シグナルペプチド、ヒトフレームワーク領域及びマウスCDRを含み、可変領域及びヒトIgG1k定常領域は、重複伸長PCR法により完全な断片に連結された。
【0053】
重複伸長PCRのプライマーは、以下の通りである。
【0054】
重鎖VH1:5 CGCGGATCC GCCGCCACCATGGGATGGAGCT3′(SEQ ID NO:13)
【0055】
VH2:5GATGGGCCCTTGGTGCTAGCGGAGCTCACTGTCACCAGTGTT3 (SEQ ID NO:14)
【0056】
CH1:5 GCTAGCACCAAGGGCCCATC 3 (SEQ ID NO:15)
【0057】
CH2:5 CCGGAATTCTTTACCGGGAGACAGGGAGA 3 (SEQ ID NO:16)
【0058】
軽鎖:VL1:5 CGCGGATCC GCCGCCACCATGGACATGAGGGT 3 (SEQ ID NO:17)
【0059】
VL2:5 GATGGTGCAGCCACAGTACGCTTTATCTCAACTTTTG T 3
【0060】
AC3 (SEQ ID NO:18)
【0061】
CL1:5 CGTACTGTGGCTGCACCAT 3 (SEQ ID NO:19)
【0062】
CL2:5 CCGGAATTCACACTCTCCCCTGTTGAAGC 3 (SEQ ID NO:20)
【0063】
重鎖の増幅については、まず、合成された可変領域をテンプレートとし、VH1及びVH2をプライマーとし、ヒトIgG1κ重鎖定常領域をテンプレートとし、CH1及びCH2をプライマーとし、重鎖の可変領域、定常領域を増幅させ、増幅条件は、いずれも、94℃で30s変性し、60℃で30sアニーリングし、72℃で1分間伸長し、30サイクルを行い、最後に72℃で10分間伸長した。さらに2回のPCR産物をテンプレートとし、VH1及びCH2をプライマーとし、RC48の重鎖配列を増幅させた。増幅条件は、いずれも、94℃で30s変性し、60℃で30sアニーリングし、72℃で2分間伸長し、30サイクルを行い、最後に72℃で10分間伸長した。
【0064】
軽鎖の増幅については、まず、合成された可変領域をテンプレートとし、VL1及びVL2をプライマーとし、ヒトIgG1κ軽鎖定常領域をテンプレートとし、CL1及びCL2をプライマーとし、軽鎖の可変領域、定常領域をそれぞれ増幅し、増幅条件は、いずれも、94℃で30s変性し、60℃で30sアニーリングし、72℃で1分間伸長し、30サイクルを行い、最後に72℃で10分間伸長した。さらに、2回のPCR産物をテンプレートとし、VL1及びCL2をプライマーとし、軽鎖配列を増幅させた。増幅条件は、いずれも、94℃で30s変性し、60℃で30sアニーリングし、72℃で2分間伸長し、30サイクルを行い、最後に72℃で10分間伸長した。
【0065】
従って、ヒトIgG1κ重鎖定常領域及び重鎖可変領域RC48-VH、並びにヒトIgG1κ軽鎖定常領域及び軽鎖可変領域RC48-VLを含むヒト化抗HER2モノクローナル抗体RC48を得た。
【0066】
ヒト-マウスキメラ抗体cRC48も同じ方法で取得され、マウスの可変領域及びヒトIgG1k定常領域を、重複伸長PCR法により完全な断片に連結した。
【0067】
上記増幅された各断片を発現ベクターpcDNA3.0にそれぞれサブクローニングした。構築された異なるプラスミドを懸濁CHO細胞(Invitrogen)にトランスフェクションし、異なる組換え抗体を生成し、プロテインAで精製及び次の特徴分析を行った。キメラ抗-HER2 RC48(cRC48と呼ばれる)は、マウス-ヒトキメラcRC48重鎖及び軽鎖からなる。RC48は、ヒト化重鎖RC48-VH及びヒト化軽鎖RC48-VLを含む。cRC48及びRC48は、いずれも発現されることができ、CHO細胞上清から前記抗体を収集し、プロテインAで精製し、還元及び非還元条件下でSDS-PAGEにより分析した(図2を参照)。前記RC48抗体を分泌するCHO細胞(即ち、ヒトIgG1κ重鎖定常領域及び重鎖可変領域RC48-VH、並びにヒトIgG1κ軽鎖定常領域及び軽鎖可変領域RC48-VLをトランスフェクションしたCHO細胞)は、2013年11月06日に受託番号C2013170で中国典型培養物保蔵センターに寄託された。
【0068】
実施例3.抗HER2 RC48抗体の特徴分析
【0069】
ELISA法により、cRC48(キメラ抗体)及びRC48抗体(ヒト化抗体)のHER2-結合親和性定数(Kd)を測定し、具体的な方法は実施例1を参照し、即ち、可溶性HER2-ECDタンパク質を96ウェルプレートにコーティングした後、希釈された抗体(コントロールとしてHerceptin及びキメラcRC48)とともにインキュベートし、HER2-ECD関連抗体(全部の形態のヒトIgG1κ)を、HRP-結合ヒツジF(ab’)2抗-ヒトIgG Fc-特異的な二次抗体で検出した(invitrogen)。結合曲線を描き、さらに単一部位特異的結合非線形方程式(Journal of Immunological Methods、270:155~162、2002)を使用し、各抗HER2抗体の表面結合親和性定数(Kd)値を計算した(図3は、3つの独立したELISA実験から得られた典型的なHER2-結合曲線を示している)。ELISAの結果は図3に示した。
【0070】
3つの独立した測定試験により、cRC48(平均親和定数77pM)及びHerceptin(平均親和定数97pM)よりも、RC48(ヒト化抗体)は、有意に改善されたHER2-ECD結合親和性を持ち、平均親和定数が44pMであり、結果は表3に示した。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例4.RC48(ヒト化抗体)のHER2に対する結合能力
【0073】
1)RC48抗体のHER2に対する結合親和性試験
【0074】
フローサイトメーターを使用し、ヒト乳癌細胞の内因的に発現したHER2のヒト化抗HER2抗体RC48に対する結合能力を検出し、結果は、図3に示した。それぞれ6μgの対照群のヒトIgG、Herceptin、cRC48、RC48を2種のHER2+細胞であるヒト乳癌細胞SK-BR-3、BT474及びHER2-細胞MDA-MB468(2×107個の細胞)とともにインキュベートし、氷上で30~45分間インキュベートした。冷PBS4mlで十分に2回洗浄した後、細胞表面に結合した抗体は、R-PEとカップリングしたヤギ抗ヒトIgG Fc(15μl、25μg/mL)特異的な二次抗体により検出され、次いで、フローサイトメーター(BDFACSCalibur)を使用して分析した。対照群のヒトIgG1は、上記3種の癌細胞に対する結合を検出していない。それと比較しては、Herceptin、cRC48、及びRC48は、2種のHER2陽性細胞に強く結合しているが、HER2陰性細胞に結合していなく、これは、このような結合はHER2に特異的なものであることを示した(図4aを参照)。同種の対照群の平均蛍光強度を比較することにより、Herceptin及びcRC48よりも、RC48はより高い結合親和性を示したことを分かった。抗HER2抗体の濃度、及びフローサイトメトリーで分析した細胞数を滴定することにより、細胞に基づく抗HER2抗体の細胞表面HER2に対する結合曲線が得られ、結果を図4bに示した。ヒト化抗HER2抗体RC48は、明らかな結合親和性を示し、BT474細胞表面HER2への結合親和性Kdは4nMであり、Herceptin、cRC48はそれぞれ10nM及び5nMであり、結果を表4に示した。
【0075】
【表4】
【0076】
2)抗原の結合特異性試験
【0077】
Herceptin、cRC48、及びRC48が異なる表面抗原EGFR、HER2、HER3、HER4に結合する能力は、ELISA法により測定された。ELISA法は、実施例1に記載された。96ウェルプレートを抗原EGFR、HER2、HER3、HER4でそれぞれコーティングし、1ウェルあたりのサンプルアプライ量は20ngであり、異なる抗HER2抗体であるHerceptin、cRC48、RC48抗体でインキュベートし、次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼとカップリングしたヒツジF(ab′)2抗マウスIgG Fc特異的な二次抗体(Invitrogen社)にて検出した。結果を図5に示し、結果は、Herceptin、cRC48、RC48抗体が、EGFR、HER3、HER4にほとんど結合していないが、HER2に強く結合していることを示し、Herceptin、RC48はHER2への結合に高い特異性を持つことを示した。
【0078】
実施例5.抗体コンジュゲートの調製
【0079】
1)モノクローナル抗体RC48の精製
【0080】
CHO細胞培養液からプロテインAを介してRC48のモノクローナル抗体を収集し、SDS-PAGE電気泳動及びSEC分析により純度は95%以上であった。30KD限外ろ過膜により得られた抗体タンパク質をPBS緩衝液に透析ろ過し、濃縮し、UV吸光度計で濃度を決定し、後のカップリング反応に用いられた。
【0081】
2)薬物分子に対するモノクローナル抗体RC48のカップリング
【0082】
それぞれPBS緩衝液で調製された還元剤及び保護剤は、1~20mmol/L TCEP(トリス-2-カルボキシエチルホスフィン)、1~20mmol/L DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)母液であり、還元剤の用量は、所望のカップリング率に応じて一定の濃度範囲で添加し、一定の体積比(例えば1:1)に従って一定の濃度のモノクローナル抗体(例えば、5~30mg/ml)と混合することができ、TCEPと抗体の最終的なモル濃度比は0.5~6.0:1であり、25℃で2h撹拌して反応させた。遊離チオール基濃度をDTNB法により412nmで検出し、遊離チオールの数は、抗体に対するモル比により計算された。TCEPの還元は再現性が高く、還元後の遊離チオールの数は1.0~8.0に達することができる。
【0083】
TCEP還元後、抗体は、直接に後のカップリングを行うことができる。一定濃度(10mM)の薬物(vc-MMAE、vc-MMAF、mc-MMAF)(上海皓元化学科技有限公司から購入)を25% DMSO(dimethyl sulfoxide、ジメチルスルホキシド)に溶解させたものを調製し、薬物とチオール基のモル比が0.3~2.8:1で徐々に加え、25℃で2h撹拌して反応させた。DTNB法により412nmで遊離チオール基の濃度(0に近い)を検出し、Sephadex G-25により精製して残留未反応薬物及びDMSOなどの遊離小分子を除去し、SDS-PAGE電気泳動、逆相高速液体クロマトグラフィー(R-HPLC)、疎水高速液体クロマトグラフィー疏水高效液相(HIC-HPLC)によりカップリングを検出した。
【0084】
実施例6.抗体-薬物コンジュゲートの親和性の測定
【0085】
ELISA法による親和性の測定
【0086】
組換えタンパク質HER2-ECD(濃度0.5mg/ml)でELISA用プレートをコーティングし、2℃~8℃で一晩放置した。プレート用ウォッシャーで3回洗浄した。3%BSA-PBST溶液で37℃、2hブロッキングした。プレート用ウォッシャーで3回洗浄した。サンプルのローディングは、PBST溶液でベースラインを1000ng/mlから希釈して、100μl/ウェル、37℃、2hで11点段階希釈した。サンプルのローディング:1000ng/mLから開始する標準をPBSTバッファーで希釈して、100μL/ウェルの11の希釈ポイントを得、37℃で2時間インキュベートした。プレート用ウォッシャーで3回洗浄した。二次抗体(ヤギ抗ヒトIgG-Fc-HRP)をPBST溶液で5000倍希釈した。TMB溶液を加えて発色し、室温で暗闇中で8~10分間発色した。2M H2SO4で試験を終了し、マイクロプレートリーダーにより450/655nmでデータを読み取った。結果は表5に示した。
【0087】
【表5】
【0088】
結果よりわかるように、RC48-VC-MMAE(即ち、RC48-mc-vc-pAB-MMAE)、RC48-VC-MMAF、RC48-MC-MMAFのHER2-ECDに対する親和性は、T-DM1と同等することを示した。
【0089】
実施例7.HER2陽性の局所進行性または転移性尿路上皮がんに対する単独療法の有効性及び安全性実験
【0090】
本実験の目的は、HER2陽性の局所進行性または転移性尿路上皮がんに対する単剤療法の有効性及び安全性を評価することである。使用される抗体-薬物コンジュゲートは、RC48-mc-vc-pAB-MMAEであり、RC48はリンカーであるmc-vc-pABを介してMMAEに結合され、カップリングの数は1から8まで変化した。
【0091】
ここで、被験者の選択基準は、以下の通りである。
年齢:18歳(最低年齢)乃至80歳(最高年齢)
その選択基準は、以下の通りである。
1.研究への参加に同意し、インフォームドコンセントに署名すること;
2.18歳以上60歳未満の男性又は女性;
3.予想される生存期間は12週間以上であること;
4.病理学的診断に基づく手術で完全に除去できない局所進行性または転移性膀胱尿路上皮がん;
5.被験者は、手術では切除できない局所進行または転移性疾患と診断された後、少なくとも一次全身化学療法を受けた後に疾患の進行または不耐性を示すこと;
6.少なくともRECIST 1.1標準で規定された測定可能な病変があること;
7.中央検査室によって確認されたHER2陽性;
8.ECOGの身体状態は0又は1であること;
9.十分な心臓、骨髄、肝臓、腎臓の機能;
10.女性被験者は、外科的避妊手術を受けた、閉経後の患者であるか、又は治療期間中及び治療後6ヶ月以内に少なくとも1つの医学的に承認された避妊手段(例えば、子宮内避妊具、避妊薬、コンドーム)を使用することに同意し、男性被験者は、治療期間中及び治療終了後6ヶ月以内に、少なくとも1つの医学的に承認された避妊手段(例えば、コンドーム、禁欲など)を使用することに同意する必要があること;
11.試験及びフォローアップ手順に同意しながら従うことができること。
【0092】
同時に、除外基準は、以下の通りである。
1.組換えヒト化抗HER2モノクローナル抗体-MMAEコンジュゲート及びその成分にアレルギーがあることが知られていること;
2.試験治療開始前4週間以内に他の抗腫瘍治療を受けたこと;
3.以前に組換えヒト化抗HER2モノクローナル抗体-MMAEコンジュゲートを受けたこと;
4.試験投与開始前4週間以内に大手術が行われ、完全に回復しなかったこと;
5.試験投与開始前4週間以内に生ワクチンを接種したか、試験期間中にワクチンを接種する予定すること;
6.プロトコルのコンプライアンスに影響を及ぼしたり、結果の解釈を妨げたりする可能性のあるその他の重度で制御不能なコンパニオン疾患;
7.試験投与開始前5年以内に他の悪性腫瘍があること;
8.中枢神経系の転移及び/又は癌性髄膜炎を患っていること;
9.過去2年間以内に全身治療が必要な活動性の自己免疫疾患があること;
10.以前に同種造血幹細胞移植または固形臓器移植を受けたこと;
11.臨床症状を伴う、または対症療法を必要とする大量の胸水または腹水;
12.妊娠中または授乳中の女性;
13.HIV検査の結果は陽性であること;
14.活動性B型またはC型肝炎の患者;
15.活動性結核の歴史;
16.研究者の判断によれば、他の病気、異常な代謝、身体検査の異常な結果、または異常な臨床検査に苦しんでいる被験者は、研究薬物を使用するのに適さない特定の疾患または状態を持っているか、または研究結果の解釈に影響を及ぼすと疑うのは合理的であり、または、患者を高リスクに置くこと;
17.この臨床研究に対する患者のアドヒアランスが不十分と推定すること。
【0093】
具体的な実験方法は、以下の通りである:
【0094】
本研究は、少なくとも一次全身化学療法に以前に失敗または、耐えられない測定可能な病変、一般的な身体状態及び臓器機能を有する局所進行性または転移性尿路上皮がんの被験者を含む。すべての被験者は、腫瘍組織病理切片を中央検査室に提出し、HER2発現陽性を確認し、その陽性は、免疫組織化学(IHC)アッセイのスコアが2+又は3+であることを定義された(蛍光in situ ハイブリダイゼーション[FISH]検出の結果に関係なく)。
【0095】
本研究では、免疫組織化学(IHC)のHER2の結果判定は、「乳癌HER2の検出ガイドライン(2014版、中国)」に記載のHER2解釈の基準に従った。詳細を表6に示す。
【0096】
【表6】
【0097】
すべての基準を満たす被験者は、RC48-ADC治療を受け(2.0mg/kg、静脈内注入、2週間1回)、疾患が進行して耐えられない毒性が生じるか被験者が脱落するまで6週間ごとに有効性を評価した。この研究の主要評価項目は、独立して評価される客観的奏効率(ORR)であり、副次評価項目は、無増悪生存期間、全生存期間、治療の安全性であった。
【0098】
研究結果は、以下の通りである。
【0099】
この研究は2017年12月から開始され、2018年7月31日まで男性15人、女性3人である合計18人の被験者が治療を受け、年齢中央値63歳である。原発巣は、膀胱(50.0%)、腎盂(27.8%)及び尿管(22.2%)を含み、主な転移部位は肺、肝臓、リンパ節であった。16人の患者(88.9%)は、以前にプラチナ製剤の第一選択療法を受けた。被験者の腫瘍HER2発現の中央実験室によって確認された免疫組織化(IHC)の結果は11例(61.1%)IHC2+、7例(38.9%)IHC3+であった。
【0100】
有効性評価は、18例の被験者のうち、13例で実施され、10例は部分奏効(PR)を有した(4例はPRを確認した(2回の連続したPR評価は確認済みPRと呼ばれる)。RECIST基準によると、「各被験者が部分奏効または完全奏効の基準を満たし、且つ、その後の時点(通常4週間後)で有効性が再度確認されると、完全または部分的奏効がと見なす」、即ち、被験者が2回連続してPRと評価されると、確認済みPRと呼ばれた。他の6例は、有効性を確認する時点に達しておらず、現在、確認は1つしか完了しなかった)、客観的奏効率(ORR)は76.9%であり(10/13)、疾患制御率(DCR)(有効性評価の対象の13例のうちの10例はPRであり、2例は安定な疾患(SD)である)は92.3%(12/13)である。現在、被験者の最長治療時間は7ヶ月であった。奏効に達した被験者のうち、7例(53.8%)は、タキサン治療を受け、4例(30.8%)はPD-1/PD-L1治療を受けた。
【0101】
被験者の18例のうち、16例は、安全性評価を受けた。安全性評価で最も一般的な治療関連副作用(TRAEs)は、ALT上昇(50.0%、グレード1~2)、知覚異常(50.0%、グレード1~2)及び白血球数の減少(50.0%、グレード1~2)であり、≧3グレードのTRAEは、好中球数の減少(12.5%、グレード3)である。薬物関連の重篤な有害事象(SAE)は、発生しなかった。
【0102】
以下、いくつかの症例の視認可能な治療効果を説明する。
【0103】
1.患者01001:女性、57歳、右腎盂癌手術後の複数の肺転移。病理診断は、尿路上皮がん、HER2 IHC 3+である。
【0104】
図6からわかるように、12週間の治療後、右肺の下葉の腫瘍病巣は、6週間、12週間の治療後に、54×31mmから37×23mmに縮小し、49%縮小した。
【0105】
2.患者01003、女性、45歳、右腎盂癌手術後に腹部リンパ節に転移した。病理診断は尿路上皮がん、HER2 IHC 3+;
【0106】
図7からわかるように、6週間の治療後、右大腰筋の横にある腫瘍病巣は、56×48mmから33×22mmに縮小し、72.9%縮小した。
【0107】
3.患者01007、男性、63歳、膀胱癌手術後、右腎盂癌手術後、肺転移、肝転移、頸部リンパ節転移、縦隔転移、多発骨転移である。病理診断は、尿路上皮がん、HER2 IHC 3+ である。
【0108】
図8からわかるように、6週間の治療後、左上葉に位置する腫瘍病巣、肝転移及び縦隔リンパ節の腫瘍病巣が有意に縮小した。左上葉に位置する腫瘍病巣は、45×36mmから28×22mmに縮小し、61.9%縮小し、肝転移が38×32mmから25×21mmに縮小し、56.8%縮小し、縦隔リンパ節の腫瘍病巣は29×15mmから18×7mmに縮小し、71.03%縮小した。
【0109】
上記の臨床データ及び直接視認の病理学的検査は、いずれも本発明の抗HER2モノクローナル抗体-MMAEコンジュゲートが非常に有意な治療効果を有することを示した。現在市販されている薬物と比較して、欧州連合及び米国によって承認された現在の類似の薬剤よりもはるかに優れていることがわかり、例えば、ロシュ社のAtezolizumab ORRは63%であり、ブリストル-マイヤーズスクイブ社のNivolumabのORRは19.6%だけであり、ヤンセン社のerdafitinibのORRは42%であが、本発明の組換えヒト化抗HER2モノクローナル抗体-MMAEコンジュゲートのORRは76.9%であり、疾患制御率(DCR)は92.3%であり、現在市販されている類似した薬物よりも著しく優れ、且つ副作用も類似した薬物よりも大幅に少なく、いずれの重篤な有害事象(SAE)も発生せず、より広範な患者を対象とし、緊急治療を必要とする尿路上皮がん患者に別の選択肢を提供する。以上のように、本発明の抗HER2抗体コンジュゲートは、尿路上皮がんの治療において優れた応用見通しを有し、患者の疾患発症・進展を効果的に改善する又は逆転させることができ、予想外の技術的効果をもたらす。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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