(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】鋳造製品、構造物および鋳造製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 19/04 20060101AFI20220714BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
B22D19/04
B23K11/11
(21)【出願番号】P 2021504694
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010162
(87)【国際公開番号】W WO2020183629
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005256
【氏名又は名称】株式会社アーレスティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】青山 俊三
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-186824(JP,A)
【文献】特開2002-174219(JP,A)
【文献】特開2006-007266(JP,A)
【文献】特開2017-190121(JP,A)
【文献】特開2009-285678(JP,A)
【文献】特開2017-087281(JP,A)
【文献】特開昭63-256414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/00-19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系金属製の接合面と、前記接合面と直交する1本の仮想軸に沿う軸方向を向く規制面とを有する接合チップと、
前記規制面に接するように前記接合チップを鋳包んだ非鉄金属製の鋳造金属材と、を備え、
前記接合チップは、表面が前記接合面である頭部と、
前記軸方向へ向かって前記頭部の裏面から突出する脚部と、を備え、
前記脚部は、前記裏面から離れた先端部を備え、
前記鋳造金属材は、前記接合面および前記先端部を露出させた状態で前記接合チップを鋳包んだ鋳包部を備え、
前記脚部の前記軸方向の剛性が前記頭部の前記軸方向の剛性よりも低い鋳造製品。
【請求項2】
前記脚部は、前記仮想軸に垂直な軸直角方向の外側に配置され、
前記仮想軸に面する内面と、
前記内面とは反対側の外面と、を備え、
前記脚部の前記軸方向の少なくとも一部の前記内面および前記外面が前記先端部へ向かうにつれて前記仮想軸から離れる請求項1記載の鋳造製品。
【請求項3】
前記脚部は、全体が前記仮想軸を全周に亘って囲む筒状に形成され、
前記外面は、前記規制面の少なくとも一部である請求項2記載の鋳造製品。
【請求項4】
前記鋳包部に鋳包まれた前記接合チップは、前記頭部の前記裏面から円筒状の前記脚部が突出したセルフピアスリベットの前記脚部を塑性変形させたものである請求項3記載の鋳造製品。
【請求項5】
前記鋳造金属材は、前記鋳包部のうち前記仮想軸に垂直な軸直角方向の外側に連なる外側部を備え、
前記鋳包部の前記軸方向の厚さが前記外側部の前記軸方向の厚さよりも厚い請求項1から4のいずれかに記載の鋳造製品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の鋳造製品と、前記鋳造製品の前記接合面に接合される鉄系金属製の相手側部材とを備えている構造物。
【請求項7】
鉄系金属製の接合面と、前記接合面と直交する1本の仮想軸に沿う軸方向を向く規制面とを有する接合チップと、前記規制面に接するように前記接合チップを鋳包んだ非鉄金属製の鋳造金属材と、を備えている鋳造製品の製造方法であって、
前記接合面が接触する第1型と第2型との間に前記接合チップを挟んだ状態で、前記軸方向に前記第1型と前記第2型とを接近させることで、前記接合チップを前記軸方向に圧縮変形させる変形工程と、
前記変形工程によって前記第1型と前記第2型との間に形成されたキャビティに溶融金属を鋳込み、鋳込まれた前記溶融金属を冷却して構成される鋳造金属材で前記接合チップを鋳包む鋳造工程と、を備える鋳造製品の製造方法。
【請求項8】
前記接合チップは、表面が前記接合面である頭部と、
前記軸方向へ向かって前記頭部の裏面から突出すると共に前記仮想軸に垂直な軸直角方向の外側に配置される脚部と、を備え、
前記脚部は、前記裏面から離れた先端部と、
前記仮想軸に面する内面と、
前記内面とは反対側であって前記鋳造工程後に前記鋳造金属材に接する外面と、を備え、
前記変形工程では、前記第1型と前記第2型との前記軸方向の接近により前記先端部を前記第2型に押し付けることで、前記脚部の前記軸方向の少なくとも一部の前記内面および前記外面が前記先端部へ向かうにつれて前記仮想軸から離れるように前記脚部を塑性変形させる請求項7記載の鋳造製品の製造方法。
【請求項9】
前記第2型は、前記変形工程により前記脚部が押し付けられる部位であって、前記仮想軸から離れるにつれて下降傾斜する傾斜面を備えている請求項8記載の鋳造製品の製造方法。
【請求項10】
前記脚部は、前記軸方向の少なくとも一部が前記仮想軸を囲む筒状に形成され、
前記第2型は、前記脚部の前記内面に挿入される保持部を備え、
前記変形工程では、前記保持部を前記脚部に挿入した後、前記接合面を前記第1型に接触させて前記第1型と前記第2型とを前記軸方向に接近させる請求項8又は9に記載の鋳造製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合チップを鋳造金属材に鋳包む鋳造製品、構造物および鋳造製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛などの非鉄金属製の部材と、鉄系金属(鉄鋼)製の部材とを接合する場合、溶接などにより両部材同士を直接接合すると、それらは異種金属なので、接合界面に脆い金属間化合物が生成される。その結果、接合強度のばらつきが大きくなり接合の信頼性が低いものになることが知られている。
【0003】
そこで、非鉄金属製の鋳造金属材で鉄系金属製の接合チップの一部を鋳包むことにより、鋳造金属材と接合チップとを一体化した鋳造製品を製造し、接合チップを介して異種金属である鋳造金属材と相手側部材とを接合する技術がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術に対して、鋳造金属材の鋳造時、鋳造金属材によるバリを接合面に発生し難くすることが望まれている。
【0006】
本発明は上述した要求に応えるためになされたものであり、鋳造金属材によるバリを接合面に発生し難くできる鋳造製品、構造物および鋳造製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の鋳造製品は、鉄系金属製の接合面と、前記接合面と直交する1本の仮想軸に沿う軸方向を向く規制面とを有する接合チップと、前記規制面に接するように前記接合チップを鋳包んだ非鉄金属製の鋳造金属材と、を備え、前記接合チップは、表面が前記接合面である頭部と、前記軸方向へ向かって前記頭部の裏面から突出する脚部と、を備え、前記脚部は、前記裏面から離れた先端部を備え、前記鋳造金属材は、前記接合面および前記先端部を露出させた状態で前記接合チップを鋳包んだ鋳包部を備え、前記脚部の前記軸方向の剛性が前記頭部の前記軸方向の剛性よりも低い。
【0008】
また、本発明の鋳造製品の製造方法は、鉄系金属製の接合面と、前記接合面と直交する1本の仮想軸に沿う軸方向を向く規制面とを有する接合チップと、前記規制面に接するように前記接合チップを鋳包んだ非鉄金属製の鋳造金属材と、を備えている鋳造製品を製造する方法であって、前記接合面が接触する第1型と第2型との間に前記接合チップを挟んだ状態で、前記軸方向に前記第1型と前記第2型とを接近させることで、前記接合チップを前記軸方向に圧縮変形させる変形工程と、前記変形工程によって前記第1型と前記第2型との間に形成されたキャビティに溶融金属を鋳込み、鋳込まれた前記溶融金属を冷却して構成される鋳造金属材で前記接合チップを鋳包む鋳造工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の鋳造製品によれば、接合面と直交する仮想軸に沿う軸方向を向く規制面が鋳造金属材に接しているので、鋳造金属材に鋳包まれた接合チップを軸方向へ抜け難くできる。また、頭部の接合面と、その頭部の裏面から軸方向へ向かって突出した脚部の先端部と、を露出させた状態で接合チップが鋳包部に鋳包まれている。そのため、鋳造金属材の鋳造時、接合面と脚部の先端部とを金型に当てて、金型で接合チップを軸方向に挟むことができる。そして、脚部の軸方向の剛性が頭部の軸方向の剛性よりも低いので、金型で接合チップを軸方向に挟んだとき、脚部を軸方向に圧縮変形させ易くできる。この脚部の変形時の反力により接合面を金型に押し付けることができるので、鋳造時に鋳造金属材によるバリを接合面に発生し難くできる。
【0010】
請求項2記載の鋳造製品によれば、請求項1記載の鋳造製品の奏する効果に加え、次の効果を奏する。仮想軸に垂直な軸直角方向の外側に配置される脚部は、仮想軸に面する内面と、内面とは反対側の外面と、を備えている。脚部の軸方向の少なくとも一部の内面および外面が先端部へ向かうにつれて仮想軸から離れるので、接合チップを軸方向に挟んだとき、その離れていく部分の脚部を板ばねや皿ばねのように軸方向に圧縮変形させることができる。その結果、接合面を金型に押し付ける脚部の変形時の反力を確保できるので、鋳造時に接合面にバリをより発生し難くできる。
【0011】
請求項3記載の鋳造製品によれば、請求項2記載の鋳造製品の奏する効果に加え、次の効果を奏する。先端部へ向かうにつれて仮想軸から離れるように広がった脚部の外面が、鋳造金属材に接する規制面の少なくとも一部であり、その外面を有する脚部の全体が仮想軸を全周に亘って囲む筒状に形成されている。鋳造金属材に対して接合チップに軸方向のうち接合面側への荷重が接合チップに加わっても、先端部へ向かうにつれて広がった脚部の外面が狭まるような変形をし難くでき、接合チップを鋳造金属材からより抜け難くできる。これにより、接合チップと鋳造金属材との接合強度を向上できる。
【0012】
請求項4記載の鋳造製品によれば、請求項3記載の鋳造製品の奏する効果に加え、次の効果を奏する。鋳包部に鋳包まれた接合チップは、頭部の裏面から円筒状の脚部が突出したセルフピアスリベットの脚部を塑性変形させたものである。セルフピアスリベットを接合チップに流用できるので、鋳造金属材に鋳包むための専用品として製造した接合チップを用いる場合と比べて、接合チップにかかるコストを低減できる。
【0013】
請求項5記載の鋳造製品によれば、請求項1から4のいずれかに記載の鋳造製品の奏する効果に加え、次の効果を奏する。鋳造金属材は、鋳包部のうち仮想軸に垂直な軸直角方向の外側に連なる外側部を備える。鋳包部の軸方向の厚さが外側部の軸方向の厚さよりも厚いので、接合チップまわりの鋳造金属材の強度や剛性を高くできる。その結果、接合チップと鋳造金属材との接合強度をより向上できる。
【0014】
請求項6記載の構造物は、請求項1から5のいずれかに記載の鋳造製品と、鋳造製品の接合面に接合される鉄系金属製の相手側部材とを備え、請求項1から5のいずれかと同様の効果を奏する。
【0015】
請求項7記載の鋳造製品の製造方法は、接合面と、接合面と直交する1本の仮想軸に沿う軸方向を向く規制面とを有する鉄系金属製の接合チップと、規制面に接するように接合チップを鋳包んだ非鉄金属製の鋳造金属材と、を備えている鋳造製品を製造するための方法である。変形工程では、接合チップの接合面が接触する第1型と第2型との間に接合チップを挟んだ状態で、接合面と直交する軸方向に第1型と第2型とを接近させることで、接合チップを軸方向に圧縮変形させる。そして、鋳造工程では、変形工程によって第1型と第2型との間に形成されたキャビティに溶融金属を鋳込み、鋳込まれた溶融金属を冷却して構成される鋳造金属材で接合チップを鋳包む。鋳造工程では、変形工程により接合チップを圧縮変形させたときの反力によって接合面を第1型に押し付けた状態で、接合チップを鋳造金属材で鋳包むことができる。その結果、鋳造金属材の鋳造時、金型と接合面との間に鋳造金属材によるバリを発生し難くできる。
【0016】
請求項8記載の鋳造製品の製造方法によれば、請求項7記載の鋳造製品の製造方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。接合チップは、表面が接合面である頭部と、軸方向へ向かって頭部の裏面から突出する脚部と、を備えている。そして、仮想軸に垂直な軸直角方向の外側に配置される脚部は、裏面から離れた先端部と、仮想軸に面する内面と、内面とは反対側の外面と、を備えている。変形工程では、第1型と第2型との軸方向の接近により先端部を第2型に押し付けることで、脚部の軸方向の少なくとも一部の内面および外面が先端部へ向かうにつれて仮想軸から離れるように脚部を塑性変形させる。これにより、鋳造工程後に鋳造金属材に接する外面を軸直角方向へ張り出させたり、その張出量を多くしたりできるので、鋳造工程後の接合チップを鋳造金属材から軸方向へ抜け難くできる。さらに、脚部の塑性変形時の反力によって接合面を第1型に押し付けることができる。これらのように、鋳造工程後に接合チップを鋳造金属材から抜け難くする形状に脚部を形成するための作業と、接合面を第1型に押し付ける作業とを同時にできるので、鋳造製品の製造工程を簡略化できる。
【0017】
請求項9記載の鋳造製品の製造方法によれば、請求項8記載の鋳造製品の製造方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。第2型は、変形工程により脚部が押し付けられる部位に、仮想軸から離れるにつれて下降傾斜する傾斜面が設けられている。変形工程では、この傾斜面に沿って脚部を塑性変形させることができるので、塑性変形後の脚部の形状のばらつきを小さくできる。その結果、鋳造製品の品質の安定性を向上できる。
【0018】
請求項10記載の鋳造製品の製造方法によれば、請求項8又は9に記載の鋳造製品の製造方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。脚部は、軸方向の少なくとも一部が仮想軸を囲む筒状に形成されている。変形工程では、この筒状の脚部の内面に第2型の保持部を挿入した後、接合面を第1型に接触させて第1型と第2型とを軸方向に接近させるので、接合チップがずれた位置に鋳包まれてしまうことを防止できる。その結果、鋳造金属材に対する接合チップの位置精度を向上させて、鋳造製品の品質の安定性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(a)は第1実施形態における鋳造製品に相手側部材が接合された構造物の平面図であり、(b)は
図1のIb-Ib線における構造物の断面図である。
【
図2】変形前の接合チップ及び金型の断面図である。
【
図3】変形後の接合チップ及び金型の断面図である。
【
図4】第2実施形態における変形前の接合チップ及び金型の断面図である。
【
図5】(a)は変形後の接合チップ及び金型の断面図であり、(b)は鋳造製品に相手側部材が接合された構造物の断面図である。
【
図6】(a)は第3実施形態における接合チップの斜視図であり、(b)は変形後の接合チップ及び金型の断面図であり、(c)は鋳造製品に相手側部材が接合された構造物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず
図1(a)及び
図1(b)を参照して構造物1について説明する。構造物1は、鋳造製品10に相手側部材2が接合されたものである。
【0021】
鋳造製品10は、鋳造金属材11に複数個(本実施形態では2個)の接合チップ20が鋳包まれている。鋳造金属材11は、アルミニウムやマグネシウム、亜鉛、それらを主成分とする合金など、特に鉄系金属との溶接が難しい非鉄金属製である。本実施の形態では、鋳造金属材11はアルミニウム合金製である。接合チップ20及び相手側部材2は、鉄系金属製である。
【0022】
鋳造金属材11は、第1面12が相手側部材2に面する板状に形成されている。鋳造金属材11は、接合チップ20まわりに設けられる環状の鋳包部14と、その鋳包部14の外周(後述する仮想軸Aに垂直な軸直角方向の外側)に連なる外側部15とを備えている。鋳造金属材11のうち第1面12とは反対側の第2面13において、外側部15に対して鋳包部14が突出している。即ち、第1面12から第2面13までの鋳造金属材11の厚さにおいて、鋳包部14の厚さT1が外側部の厚さT2よりも厚い。
【0023】
接合チップ20は、円板状の頭部21と、その頭部21から突出する筒状の脚部25とを備え、それらが一体成形されている。頭部21の表面は、接合チップ20が鋳造金属材11に鋳包まれた状態で第1面12から露出する接合面22である。接合面22と第1面12とは同一平面上に位置する。第1面12から露出した接合面22を相手側部材2に接触させた状態で抵抗溶接することにより、接合面22と相手側部材2との界面にナゲットNが形成され、接合面22と相手側部材2とが接合される。
【0024】
頭部21の外周面である第1規制面24(規制面の一部)は、接合面22から頭部21の裏面23へ向かうにつれて縮径している。即ち、第1規制面24は、接合面22と直交する1本の仮想軸Aに沿う軸方向Dのうち接合面22(相手側部材2)とは反対側を向いている。なお、本実施形態では、接合面22の中心を仮想軸Aが通っている。この第1規制面24に鋳造金属材11が接しているので、鋳造金属材11に接合チップ20を、軸方向Dのうち相手側部材2とは反対側へ移動不能に拘束できる。そのため、相手側部材2と鋳造金属材11とが近づく方向に荷重が加わっても、鋳造金属材11から接合チップ20を抜け難くできる。
【0025】
なお、本実施形態では、相手側部材2が鋳造金属材11の第1面12に接しているので、相手側部材2と鋳造金属材11とがこれ以上近づくことはない。そのため、第1規制面24を省略できる。
【0026】
脚部25は、軸方向Dへ向かって頭部21の裏面23から突出する部位である。脚部25は、仮想軸Aに垂直な軸直角方向の外側に配置され、軸方向Dの全体が仮想軸Aを全周に亘って囲む筒状に形成されている。なお、この軸方向Dは、鋳造金属材11の厚さ方向と同一である。接合チップ20は、仮想軸Aを中心とした軸対称に形成されている。
【0027】
脚部25は、裏面23から離れた先端部26と、仮想軸Aに面する内面27と、内面27とは反対側の外面28と、を備えている。先端部26を第2面13から露出し、接合面22を第1面12から露出した状態で、仮想軸Aまわりの全周に亘って頭部21及び脚部25が鋳包部14に鋳包まれている。これにより、鋳造金属材11に接合チップ20を仮想軸Aの軸直角方向へ移動不能に拘束できる。
【0028】
内面27及び外面28は、軸方向Dの全体が先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れるように広がっている。このように脚部25が皿ばね状に形成されるので、脚部25の軸方向Dの剛性を頭部21の軸方向Dの剛性よりも低くできる。
【0029】
内面27及び裏面23の一部は、第2面13から露出している。そのため、接合チップ20を相手側部材2に抵抗溶接(特にダイレクト式のスポット溶接)する場合、一方の電極(図示せず)を相手側部材2に当てながら、他方の電極(図示せず)を内面27や裏面23に当てることができる。電極と接合チップ20との間に非鉄金属等の異材が挟み込まれないようにできるので、接合チップ20の接合面22と電極との間の障壁を減らすことができ、品質の良い抵抗溶接を行うことができる。
【0030】
先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れるように広がる外面28は、軸方向Dのうち接合面22(相手側部材2)側を向いた第2規制面(規制面の一部)である。この外面28に鋳造金属材11が接しているので、鋳造金属材11に接合チップ20を、軸方向Dのうち相手側部材2側へ移動不能に拘束できる。そのため、相手側部材2と鋳造金属材11とが離れる方向に荷重が加わっても、鋳造金属材11から接合チップ20を抜け難くできる。その結果、鋳造金属材11と接合チップ20との接合強度を確保できる。
【0031】
先端部26へ向かうにつれて外面28が広がった脚部25が筒状に形成されているので、相手側部材2と鋳造金属材11とが離れる方向(軸方向D)の荷重が接合チップ20に加わっても、その広がった外面28が狭まるように脚部25を変形させ難くできる。その結果、接合チップ20を鋳造金属材11から抜け難くでき、鋳造金属材11と接合チップ20との接合強度を向上できる。
【0032】
さらに、接合チップ20まわりの鋳包部14の厚さT1が外側部15の厚さT2よりも厚いので、接合チップ20まわりの鋳造金属材11の強度や剛性を高くできる。これにより、接合チップ20が抜ける方向に荷重が加わったとき、鋳包部14を破壊し難くできるので、鋳造金属材11と接合チップ20との接合強度を向上できる。また、外側部15の厚さT2を薄くできるので、鋳造金属材11を軽量化できる。
【0033】
次に
図2及び
図3を参照して鋳造製品10の製造方法について説明する。
図2に示す型締め完了前の状態において、接合チップ20は、
図1(b)に示す鋳造金属材11に鋳包まれた接合チップ20に対して脚部25の形状が異なる。詳しくは、型締め前の接合チップ20は、塑性変形前のセルフピアスリベットであり、外面28の外径が略一定の円筒状に脚部25が形成されている。型締め前(塑性変形前)の接合チップ20の内面27は、先端部26側の一部の内径が先端部26へ向かって次第に拡径し、それ以外は内径が略一定に形成されている。なお、セルフピアスリベットとは、例えば、上下に重ねられた2つの部材のうち上側部材に打ち込むことで、円筒状の脚部25の先端が軸直角方向の外側へ広がるように塑性変形しつつ、その広がった先端が下側部材に食い込むことで、2つの部材を接合するものである。
【0034】
鋳造金属材11を成形するための金型30は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、亜鉛合金等の非鉄金属の溶融金属が鋳込まれるように構成されたダイカスト金型である。金型30は、固定型30a(第1型)と、その固定型30aに対して軸方向Dへ相対移動することにより型締め及び型開き可能な可動型30cとを備えている。
【0035】
図3に示す型締め状態では、固定型30aの成形面30bと、可動型30cの成形面30dとの間にキャビティ31が形成される。成形面30bによって鋳造金属材11の第1面12が形成され、成形面30dによって鋳造金属材11の第2面13が主に形成される。可動型30cには、成形面30dに開口する取付孔30eが軸方向Dに貫通形成されている。この取付孔30eに保持装置32を嵌めて、保持装置32が可動型30cに固定されている。保持装置32は、接合チップ20をキャビティ31の所定位置に保持するための装置である。鋳造金属材11の複数か所に接合チップ20が鋳包まれる場合には、その接合チップ20が鋳包まれる位置にそれぞれ保持装置32が設けられる。
【0036】
保持装置32は、可動型30cの取付孔30eに嵌めて固定される筒状の本体33(第2型)と、本体33から固定型30aへ向かって一部が突出する軸状の保持部34と、保持部34に固定されて本体33内を摺動する摺動部35と、摺動部35から保持部34とは反対側へ突出する軸状のストッパ部36と、ストッパ部36のまわりに配置されるコイルスプリング37と、コイルスプリング37を摺動部35に押し付ける押え板38と、その押え板38を本体33に締結するボルト39と、を備えている。
【0037】
本体33は、金型30の一部であり、軸方向の一端の成形面33cによりキャビティ31の一部を形成する。筒状の本体33の中心軸は、保持装置32にセットされた接合チップ20の仮想軸Aと同一である。本体33の内周面は、成形面33cに開口する小径内面33aと、小径内面33aよりも内径が大きい大径内面33bと、を備えている。大径内面33bは、小径内面33aに段差を介して連なり、成形面33cとは反対側の軸方向端面に開口している。
【0038】
成形面33cは、仮想軸A(小径内面33a)から離れるにつれて下降傾斜する傾斜面33dと、その傾斜面33dの外周縁に連なる凹面33eと、を備え、仮想軸Aから離れた成形面33cの外周縁部が成形面30dと同一面に形成されている。傾斜面33d及び凹面33eは、仮想軸Aまわりの全周に亘って形成されている。凹面33eは、その外周側(成形面33cの外周縁部や成形面30d)に対して軸方向Dに凹んだ部位である。この凹面33eによって、外側部15の厚さT2よりも厚さT1が厚い鋳包部14が形成される。
【0039】
保持部34は、小径内面33aに挿入されて成形面33cから一部が突出する軸状部材である。保持部34は、型締め前の接合チップ20の脚部25の内面27が嵌まる軸方向の先端34aと、その先端34aとは軸方向の反対側の基端34bと、を備えている。
【0040】
摺動部35は、基端34bの周囲に固着される部位であり、大径内面33bに対して軸方向に摺動する。この摺動部35の摺動に伴って成形面33cからの保持部34の突出量が変化する。
図2に示す通り、大径内面33bと小径内面33aとの間の段差に摺動部35が当たることによって、成形面33cからの保持部34の突出量が最大となる。大径内面33bによる本体33の開口を塞いだ押え板38と、摺動部35との間に挟まれるコイルスプリング37の弾性力によって、大径内面33bと小径内面33aとの段差に摺動部35が押し付けられている。
【0041】
また、コイルスプリング37を圧縮しながら摺動部35を押え板38へ向かって摺動させるとき、先端34aが小径内面33a内に完全に入り込まないように、摺動部35に連なるストッパ部36が押え板38に当たって、その摺動部35の移動を規制する。これにより、小径内面33aの内側に溶湯が入り込むことを防止できる。
【0042】
鋳造製品10を製造するには、まず、固定型30aと可動型30cとを開いた状態で、接合チップ20の脚部25に保持部34を挿入して保持部34に接合チップ20をセットする。その後、固定型30aに対して可動型30c及び本体33を軸方向Dに接近させる型締めの途中で、
図2に示す通り、接合チップ20の接合面22が固定型30aの成形面30bに接触する。そして、固定型30aに対して可動型30c及び本体33を軸方向Dにさらに接近させていくと、コイルスプリング37が圧縮されながら、摺動部35が大径内面33b内を摺動して、脚部25の先端部26が成形面33cの傾斜面33dに当たる。
【0043】
この状態から固定型30aと可動型30c及び本体33とをさらに接近させる(変形工程)。そうすると、
図3に示す通り、傾斜面33dに押し付けられた脚部25が傾斜面33dに沿って塑性変形しながら、即ち脚部25が軸方向Dに圧縮変形しながら、固定型30a、可動型30c及び本体33によってキャビティ31が形成される。なお、固定型30aと本体33との間で脚部25を挟んで圧縮変形させるとき、固定型30aや本体33が殆ど変形しないように、脚部25の剛性を低く設定しておく。変形工程後、キャビティ31に溶融金属を鋳込み、鋳込まれた溶融金属を冷却して構成される鋳造金属材11で接合チップ20を鋳込むことで(鋳造工程)、鋳造製品10が製造される。
【0044】
この鋳造工程では、高温の溶融金属による金型30の熱膨張の影響によって、接合チップ20を軸方向Dに挟む固定型30aと本体33との間の寸法が広がることがある。また、変形工程および鋳造工程を繰り返すことにより、接合チップ20を挟む固定型30aと本体33との間の寸法が徐々に広がることがある。しかし、脚部25を軸方向Dに圧縮変形(塑性変形および弾性変形)させた状態で鋳造工程を行うので、その圧縮変形時の弾性反力によって、固定型30aと本体33との間が広がっても接合面22を固定型30aに押し付けることができ、接合面22と固定型30aとの隙間を広がらないようにできる。その結果、接合面22を固定型30aに押し付けた状態を維持したまま接合チップ20を鋳造金属材11で鋳包むことができるので、接合面22と固定型30aとの隙間に溶融金属を浸入し難くして、鋳造金属材11によるバリを接合面22に発生し難くできる。
【0045】
また、鋳造工程では、固定型30aと本体33との間に脚部25の内面27及び外面28が先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れた状態で、固定型30aと本体33との間に脚部25が挟まれている。この仮想軸Aから離れていく皿ばね状の部分が軸方向Dに圧縮変形するので、鋳造工程において接合面22を固定型30aに押し付けるための脚部25の変形時の反力を確保できる。その結果、鋳造時、接合面22にバリをより発生し難くできる。
【0046】
変形工程前では仮想軸Aに平行だった外面28を、変形工程により仮想軸Aの軸直角方向へ張り出させることができる。これにより、外面28が鋳造工程後に鋳造金属材11に接すると接合チップ20を鋳造金属材11から軸方向Dへ抜け難くできると共に、脚部25の塑性変形時の反力によって接合面22を固定型30aに押し付けることができる。よって、鋳造工程後に接合チップ20を鋳造金属材11から抜け難くする形状に脚部25を形成するための作業と、接合面22を固定型30aに押し付ける作業とを変形工程によって同時にできるので、鋳造製品10の製造工程を簡略化できる。
【0047】
さらに、変形工程では、仮想軸Aから離れるにつれて下降傾斜する傾斜面33dに脚部25を押し付け、その傾斜面33dに沿って脚部25を塑性変形させることができるので、塑性変形後の脚部25の形状のばらつきを小さくできる。その結果、接合チップ20と鋳造金属材11との接合強度のばらつきを小さくできる点で鋳造製品10の品質の安定性を向上できる。また、接合チップ20を介した鋳造金属材11と相手側部材2との接合強度のばらつきを小さくできる点で構造物1の品質の安定性を向上できる。
【0048】
変形工程では、筒状の脚部25の内面27に保持部34を挿入した後、接合面22を固定型30aに接触させて型締めするので、接合チップ20がずれた位置に鋳包まれてしまうことを防止できる。その結果、鋳造金属材11に対する接合チップ20の位置精度を向上させて、鋳造製品10の品質の安定性を向上できる。また、接合チップ20を介して相手側部材2の適切な位置に鋳造製品10を抵抗溶接できるので、構造物1の品質の安定性を向上できる。
【0049】
変形工程により脚部25を軸方向Dに圧縮変形させることで、その変形時の反力により筒状の脚部25の先端部26を全周に亘って本体33へ押し付けることができる。これにより、鋳造工程時に溶融金属を脚部25の内面27側に浸入させ難くでき、内面27や、内面27よりも内側にある裏面23の一部に鋳造金属材11を付着し難くできる。その結果、鋳造製品10の接合チップ20を相手側部材2に抵抗溶接するとき、内面27や裏面23に付着した鋳造金属材11を除去することなく、電極を内面27や裏面23に直接当てて品質の良い抵抗溶接を行うことができる。
【0050】
なお、鋳造製品10の製造方法を実際に確認しなくても、製造された鋳造製品10を確認することで、その製造方法が分かる。例えば、鋳造製品10の製造時には、接合面22を固定型30aに接触させ、先端部26を本体33に接触させて、その固定型30aと本体33との間に接合チップ20を軸方向Dに挟んでいる。そのため、この製造方法により製造された
図1(b)に示す鋳造製品10は、接合面22及び先端部26が鋳造金属材11から露出している。さらに、鋳造製品10の製造時に脚部25を軸方向Dに圧縮変形させるので、製造された鋳造製品10は、脚部25の軸方向Dの剛性が頭部21の軸方向Dの剛性よりも低い。
【0051】
よって、製造後の鋳造製品10において、接合面22及び先端部26が鋳造金属材11から露出し、脚部25の軸方向Dの剛性が頭部21の軸方向Dの剛性よりも低ければ、軸方向Dに圧縮変形された脚部25の弾性反力により接合面22を固定型30aに押し付けながら鋳造工程を行うという上述した製造方法で鋳造製品10を製造できる。よって、接合面22及び先端部26が鋳造金属材11から露出し、脚部25の軸方向Dの剛性が頭部21の軸方向Dの剛性よりも低い鋳造製品10によれば、その鋳造製品10の鋳造時、鋳造金属材11によるバリを接合面22に発生し難くできる。
【0052】
また、固定型30aと本体33とに接合チップ20が挟まれた状態で鋳造工程が行われて、接合チップ20の周囲に鋳造金属材11が密着するので、製造後の鋳造製品10の脚部25の形状と、変形工程後であって鋳造工程時の脚部25の形状とが略同一である。そのため、製造後の鋳造製品10の内面27及び外面28が先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れているので、皿ばねのように軸方向Dに圧縮変形可能な脚部25が軸方向Dに圧縮変形されて鋳造工程が行われたことが分かる。よって、このような鋳造製品10の脚部25の形状によれば、その鋳造製品10の製造時、接合面22を固定型30aに押し付けるための脚部25の変形時の反力を確保でき、接合面22にバリをより発生し難くできる。
【0053】
鋳造金属材11に鋳包まれた接合チップ20は、頭部21の裏面23から円筒状の脚部25が突出したセルフピアスリベットの脚部25を塑性変形させたものである。セルフピアスリベットを接合チップ20に流用できるので、鋳造金属材11に鋳包むための専用品として製造した接合チップ20を用いる場合と比べて、接合チップ20にかかるコストを低減できる。また、電食防止処理されたセルフピアスリベットを接合チップ20に用いることで、接合チップ20と鋳造金属材11とを容易かつ安定的に電食防止できる。
【0054】
セルフピアスリベットは、本来、2つの部材に打ち込まれて、脚部25の内面27及び外面28が先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れるように脚部25を塑性変形させた状態で2つの部材を接合するものである。この本来の使用方法と同様の形状としたセルフピアスリベット(接合チップ20)を鋳造金属材11で鋳包んでいるので、接合チップ20と鋳造金属材11との接合強度を、セルフピアスリベットの本来の使用方法で得られる接合強度から推測し易くできる。
【0055】
次に
図4から
図5(b)を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、脚部25の軸方向Dの全体が筒状に形成される場合について説明した。これに対して第2実施形態では、脚部41の軸方向Dの一部が筒状に形成される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0056】
図4に示すように、型締め前の接合チップ40は、接合面22を有する頭部21と、その頭部21の裏面23から軸方向Dへ向かって突出する脚部41とを備え、それらが一体成形されている。脚部41は、仮想軸Aの軸直角方向の外側に配置される。脚部41は、軸方向Dの裏面23側に設けられて仮想軸Aを全周に亘って囲む筒部42と、その筒部42の軸方向Dの端面の一部から軸方向Dへ突出する突出片43と、を備えている。
【0057】
筒部42は、仮想軸Aを中心とした円筒状であり、仮想軸Aに面する内面42aと、内面42aとは反対側の外面42bとが仮想軸Aと略平行に形成されている。この筒部42の内面42aに保持部34が挿入される。突出片43は、変形工程時に主に軸方向Dに圧縮変形する部位である。突出片43は、裏面23から離れた先端部26と、仮想軸Aに面する内面45と、内面45とは反対側の外面46と、を備えている。
【0058】
内面45及び外面46は、それぞれ筒部42の内面42a及び外面42bと軸方向Dに連続している。内面45及び外面46は、軸方向Dの全体が先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れるように広がっている。このように突出片43(脚部41の一部)が板ばね状に形成されるので、突出片43の軸方向の剛性を頭部21や筒部42の軸方向Dの剛性よりも低くできる。
【0059】
接合チップ40が鋳包まれる鋳造金属材48(
図5(b)参照)を成形するための金型50は、固定型50a(第1型)と、その固定型50aに対して軸方向Dとは垂直な方向(
図4紙面左右方向)へ相対移動することにより型締め及び型開き可能な可動型50bと、可動型50dに設けた取付孔30e内を軸方向Dへ相対移動することにより型締め可能な保持装置52と、を備えている。固定型50aの成形面30bと可動型50bの成形面30dとの間にキャビティ31が形成される。可動型50bの成形面30dに開口する取付孔30eに保持装置52が挿入されている。
【0060】
保持装置52の本体53(第2型)は、固定型50aと可動型50bとの型締方向と異なる軸方向Dに移動する移動中子であり、保持装置52全体が油圧シリンダ(図示せず)によって軸方向Dに移動される。本体53は、保持装置52の保持部34に保持された接合チップ40の仮想軸Aを中心軸とした筒状の部材である。本体53のうち軸方向の一端である成形面54は、仮想軸Aと垂直な平面に形成されている。
【0061】
鋳造製品47を製造するには、まず、固定型50aと可動型50bとを型締めする。このとき、保持装置52に保持された接合チップ40が成形面30dから固定型50a側へ出ないように、保持装置52及び接合チップ40を取付孔30e内に入れておく。型締め後、
図5(a)に示すように、本体53の成形面54が可動型50bの成形面30dと同一平面になるまで、本体53を固定型50aの成形面30bへ向かって軸方向Dに接近させることで、キャビティ31が形成される(変形工程)。
【0062】
この変形工程では、保持部34に保持された接合チップ40の接合面22が成形面30bに当たった後、突出片43の先端部26が成形面54に当たった状態から、さらに本体53を成形面30bへ接近させている。そうすると、頭部21や筒部42の軸方向Dの剛性よりも突出片43の軸方向Dの剛性が低いため、型締め前に
図5(a)に二点鎖線で示す状態だった突出片43が軸方向Dに圧縮変形する。変形工程前と比べて変形工程後では、内面45及び外面46の広がりがより大きくなっている。
【0063】
変形工程後、キャビティ31に溶融金属を鋳込み、鋳込まれた溶融金属を冷却して構成される鋳造金属材48(鋳包部)で接合チップ40を鋳込むことで(鋳造工程)、
図5(b)に示すように、鋳造製品47が製造される。この鋳造製品47の接合面22に相手側部材2を接触させて、接合面22と相手側部材2とを抵抗溶接することによって、構造物49が製造される。第1実施形態と同様に、相手側部材2及び接合チップ40は鉄系金属製であり、鋳造金属材48はアルミニウムやマグネシウム、亜鉛、それらを主成分とする合金などの非鉄金属製である。
【0064】
軸方向Dに圧縮変形された突出片43の反力によって接合面22を固定型50aの成形面30bに押し付けた状態で鋳造工程が行われるので、接合面22と固定型50aとの隙間に溶融金属を浸入し難くして、鋳造金属材48によるバリを接合面22に発生し難くできる。特に、筒部42の周方向の一部から突出片43が突出しているので、突出片43を軸方向Dに圧縮変形させ易くして、その変形時の反力をより強くできる。その結果、鋳造時、接合面22にバリをより発生し難くできる。
【0065】
筒部42の周方向の一部から突出片43が突出しているので、突出片43の外面46だけでなく内面45にも鋳造金属材48を接触させることができる。そして、内面45(第1規制面の一部)及び外面46(第2規制面)は、先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れるように広がっているので、即ち、内面45及び外面46が軸方向Dの両側にそれぞれ向いているので、鋳造金属材48に接合チップ40を軸方向Dへ移動不能に拘束できる。
【0066】
さらに、突出片43の内面45にも鋳造金属材48が接しているので、相手側部材2と鋳造金属材48とが離れる方向の荷重が接合チップ40に加わっても、先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れた外面46が仮想軸Aへ近づくように突出片43を変形させ難くできる。その結果、接合チップ40を鋳造金属材48からより抜け難くでき、鋳造金属材48と接合チップ40との接合強度をより向上できる。
【0067】
内面45及び外面46の広がりを変形工程により大きくした状態で、接合チップ40が鋳造金属材48に鋳包まれるので、その広がりが小さい場合と比べて鋳造金属材48と接合チップ40との接合強度をより向上できる。鋳造工程では、鋳造工程後に接合チップ40を鋳造金属材48から抜け難くする形状に脚部41を形成するための作業と、接合面22を固定型50aに押し付ける作業とを同時にできるので、鋳造製品47の製造工程を簡略化できる。
【0068】
保持部34が筒部42の内面42aに挿入された状態で鋳造工程が行われるので、鋳造製品47では保持部34が挿入されていた部分が空洞になり、接合チップ40の裏面23の一部や内面42aを鋳造金属材48から露出させることができる。そのため、接合チップ40を相手側部材2に抵抗溶接する場合、一方の電極(図示せず)を相手側部材2に当てながら、他方の電極(図示せず)を内面42aや裏面23に当てることができる。電極と接合チップ40との間に非鉄金属等の異材が挟み込まれないようにできるので、接合チップ40の接合面22と電極との間の障壁を減らすことができ、品質の良い抵抗溶接を行うことができる。
【0069】
次に
図6(a)から
図6(c)を参照して第3実施形態について説明する。第1実施形態では、円板状の頭部21から筒状の脚部25が突出している場合について説明した。これに対して第3実施形態では、四角板状の頭部61から2枚の板状の脚部62が突出している場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0070】
図6(a)に示すように、型締め前の接合チップ60は、接合面22を有する四角板状の頭部61と、その頭部61の裏面23から軸方向Dへ向かって突出する一対の脚部62,62とを備え、それらが一体成形されている。一対の脚部62,62は、仮想軸Aに垂直な軸直角方向のうち特定方向に延びて形成される板状の部位であって、その特定方向と垂直な方向に仮想軸Aを挟んで対向している。
【0071】
脚部62は、裏面23から離れた先端部26と、仮想軸Aに面する内面27と、内面27とは反対側の外面28と、を備えている。内面27及び外面28は、型締め前の状態において、軸方向Dの全体が先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れるように広がっている。このように脚部62が板ばね状に形成されるので、脚部62の軸方向の剛性を頭部61の軸方向Dの剛性よりも低くできる。
【0072】
図6(b)に示すように、接合チップ60が鋳包まれる鋳造金属材72(
図6(c)参照)を成形するための金型64は、固定型65(第1型)と、固定型65に対して軸方向Dへ相対移動することにより型締め可能な可動型66(第2型)とを備えている。この型締めによって固定型65と可動型66との間にキャビティ31が形成される。
【0073】
固定型65の成形面30bには、軸方向Dに凹む凹部67が形成されている。そして、固定型65には、凹部67の底に露出するようにマグネット68が設けられている。これにより、マグネット68の磁力で凹部67の底に接合面22を吸着させて、凹部67に接合チップ60の頭部61を固定できる。凹部67に頭部61を嵌めた状態で、固定型65に可動型66を軸方向Dに接近させて型締めすることで、接合チップ60が固定型65と可動型66とにより軸方向Dに挟まれ、
図6(b)に二点鎖線で示す状態から脚部62が軸方向に圧縮変形される(変形工程)。変形工程前と比べて変形工程後では、内面27及び外面28の広がりがより大きくなっている。
【0074】
変形工程後、キャビティ31に溶融金属を鋳込み、鋳込まれた溶融金属を冷却して構成される鋳造金属材72(鋳包部)で接合チップ60を鋳込むことで(鋳造工程)、
図6(c)に示すように、鋳造製品71が製造される。鋳造工程時に脚部62の先端部26が可動型66に押し付けられているので、製造された鋳造製品71において、先端部26の一部が鋳造金属材72の第2面13から線状に露出している。
【0075】
そして、鋳造製品71の接合面22に相手側部材2を接触させて、接合面22と相手側部材2とを抵抗溶接することによって、構造物70が製造される。第1,2実施形態と同様に、相手側部材2及び接合チップ60は鉄系金属製であり、鋳造金属材72はアルミニウムやマグネシウム、亜鉛、それらを主成分とする合金などの非鉄金属製である。
【0076】
軸方向Dに圧縮変形された脚部62の反力によって接合面22を固定型65に押し付けた状態で鋳造工程が行われるので、接合面22と固定型65との隙間に溶融金属を浸入し難くして、鋳造金属材72によるバリを接合面22に発生し難くできる。脚部25が筒状である第1実施形態と比べて、第3実施形態の脚部62は板状なので、脚部62を軸方向Dに圧縮変形させ易くでき、その変形時の反力を強くできる。その結果、鋳造時、接合面22にバリをより発生し難くできる。
【0077】
脚部62が板状であり、接合チップ60が鋳造金属材72に仮想軸Aの全周に亘って鋳包まれているので、板状の脚部62の縁をまわって脚部62の外面28だけでなく内面27にも鋳造金属材72を接触させることができる。これにより、第2実施形態と同様に、相手側部材2と鋳造金属材72とが離れる方向の荷重が接合チップ60に加わっても、先端部26へ向かうにつれて広がった外面28が狭まるように脚部62を変形させ難くでき、鋳造金属材72と接合チップ60との接合強度をより向上できる。
【0078】
固定型65の凹部67に頭部61を嵌めた状態で鋳造工程が行われるので、鋳造金属材72の第1面12から頭部61の一部を突出させることができる。これにより、第1面12と相手側部材2とが離れた状態で接合面22を相手側部材2に抵抗溶接できる。その結果、抵抗溶接時に、相手側部材2と鋳造金属材72との間に直接電流が流れないようにでき、接合面22と相手側部材2との間に発生するジュール熱の温度を確保でき、品質の良い抵抗溶接を行うことができる。さらに、相手側部材2と鋳造金属材72との間に電食防止用のシール材を塗布することができる。
【0079】
また、凹部67に頭部61を嵌めた状態で鋳造工程が行われるので、接合チップ60がずれた位置に鋳包まれてしまうことを防止できる。その結果、鋳造金属材72に対する接合チップ60の位置精度を向上させて、鋳造製品71の品質の安定性を向上できる。
【0080】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記第1実施形態では鋳造金属材11に2個の接合チップ20が埋設される場合について説明したが、これに限定するものではなく、鋳造金属材11,48,72に接合チップ20,40,60を埋設する数や間隔、位置などは、鋳造金属材11,48,72や相手側部材2との関係で適宜設定しても良い。また、接合チップ20,40,60の大きさや形状などを、鋳造金属材11,48,72や相手側部材2の形状や大きさ等に応じて設定しても良い。また、接合面22の中心を1本の仮想軸Aが通る場合に限らず、接合面22と1本の仮想軸Aとが直交していれば、接合面22のどの位置を仮想軸Aが通っても良い。
【0081】
上記形態では、接合チップ20,40,60の接合面22が平面の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、相手側部材2との関係で、接合面を湾曲面状や多面体状に形成することは当然可能である。接合面が湾曲面状である場合の仮想軸Aとは、鋳造金属材11,48,72から露出している部分の湾曲面の所定位置の接平面と直交する軸である。接合面が多面体状である場合の仮想軸Aとは、鋳造金属材11,48,72から露出している部分の所定の1面と直交する軸である。
【0082】
上記第1実施形態では、接合チップ20の脚部25が仮想軸Aを全周に亘って囲む筒状である場合について、即ち脚部25が仮想軸Aまわりに連続している場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。脚部25を仮想軸Aまわりに断続的に設けても良い。鋳造製品10の脚部25の内面27及び外面28が、軸方向Dの全体に亘って先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れている場合に限らず、脚部の軸方向Dの少なくとも一部の内面および外面が先端部26へ向かうにつれて仮想軸Aから離れていれば良い。
【0083】
上記第1,2実施形態では固定型30a,50a(第1型)と本体33,53(第2型)との間に接合チップ20,40が挟まれる場合について説明し、上記第3実施形態では固定型65(第1型)と可動型66(第2型)との間に接合チップ60が挟まれる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。接合面22が押し付けられる第1型を本体(中子)や可動型としても良く、第1型に対して軸方向Dに接近して先端部26が押し付けられる第2型を固定型としても良い。
【0084】
上記第2実施形態では、筒部42の軸方向Dの端面の一部から1つの突出片43が突出する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。筒部42から複数の突出片43を突出させても良い。上記第3実施形態では、仮想軸Aの軸直角方向の両側にそれぞれ板状の脚部62が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。仮想軸Aの周りに3以上の脚部62を設けても良い。
【0085】
脚部の軸方向Dの剛性が頭部21,61の軸方向Dの剛性よりも低く、接合チップを第1型と第2型との間で挟んだときに軸方向Dに脚部が圧縮変形可能であれば、脚部の形状は適宜変更可能である。例えば、頭部21,61の裏面23に溶接などにより接合した、軸方向Dに変形可能なコイルスプリングを脚部としても良い。なお、脚部がばね状であれば、接合チップが第1型と第2型との間に挟まれたとき、脚部を十分に軸方向Dに圧縮変形し易くできると共に、その脚部の圧縮変形時の反力を十分に確保できる。また、セルフピアスリベットの円筒状の脚部25を予め塑性変形させたもの、即ち
図1(b)に示す状態の接合チップ20を、第1型と第2型との間に挟んでさらに軸方向Dに弾性変形させ、その状態で鋳造工程を行っても良い。
【0086】
また、鉄系金属よりも剛性(ヤング率)の低い材料、例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金、亜鉛合金から構成された脚部を裏面23に付着させても良い。即ち、鉄系金属製の相手側部材2に接合される接合面22が鉄系金属材であれば、接合チップ全体が鉄系金属製でなくても良い。なお、この場合、接合チップのうち鉄系金属製である部分に、鋳造金属材11,48,72に対して接合チップの軸方向Dの移動を規制する規制面を設けることが好ましい。これにより、接合チップのうち鉄系金属製である部分から、鉄系金属製でない部分が外れても、接合チップを鋳造金属材11,48,72から外れないようにできる。
【0087】
上記第1実施形態では、軸方向Dのうち接合面22(相手側部材2)とは反対側を向いた第1規制面24が頭部21の外周面であり、軸方向Dのうち接合面22側を向いた第2規制面が脚部25の外面28である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。軸方向Dのうち接合面22とは反対側を向いて鋳造金属材11に接する第1規制面を、接合チップのどの位置に設けても良い。また、軸方向Dのうち接合面22側を向いて鋳造金属材11に接する第2規制面を、接合チップのどの位置に設けても良い。例えば、脚部25の軸直角方向外側に裏面23の一部を設け、その裏面23を第1規制面としても良い。また、脚部をコイルスプリングとした場合、そのコイルスプリングの線材同士の対向面がそれぞれ第1規制面および第2規制面となる。また、頭部の外周面や脚部の外面にローレット状の凹凸やスパイク状の突起を設け、その凹凸や突起により形成される面をそれぞれ第1規制面および第2規制面としても良い。
【0088】
上記形態では、鋳造製品10,47,71と相手側部材2とを重ね合わせた後、それらを電極で挟み込むようにして溶接するダイレクト式のスポット溶接について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の方式のスポット溶接によって鋳造製品10,47,71と相手側部材2とを接合することは当然可能である。他の方式としては、インダイレクト式、シリーズ式、パラレル式等が例示される。
【0089】
また、鋳造製品10,47,71と相手側部材2とをスポット溶接により接合するものに限定するものではなく、他の抵抗溶接によってそれらを接合することは当然可能である。他の抵抗溶接としては、プロジェクション溶接、加圧バット溶接、フラッシュバット溶接、シーム溶接等が例示される。
【0090】
また、抵抗溶接によって鋳造製品10,47,71と相手側部材2とが接合される場合に限定するものでなく、他の接合手段によって鋳造製品10,47,71と相手側部材2と接合することは当然可能である。他の接合手段としては、例えばレーザ溶接、アーク溶接等の他の溶接手段や摩擦撹拌接合などの塑性流動による接合手段が挙げられる。
【符号の説明】
【0091】
1,49,70 構造物
2 相手側部材
10,47,71 鋳造製品
11 鋳造金属材
14 鋳包部
15 外側部
20,40,60 接合チップ
21,61 頭部
22 接合面
23 裏面
24 第1規制面(規制面の一部)
25,41,62 脚部
26 先端部
27,42a,45 内面
28,42b,46 外面(規制面の一部)
30a,50a,65 固定型(第1型)
31 キャビティ
33,53 本体(第2型)
33d 傾斜面
34 保持部
48,72 鋳造金属材(鋳包部)
66 可動型(第2型)
A 仮想軸
D 軸方向