(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】カルサラムを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C07D 265/26 20060101AFI20220714BHJP
A61K 31/536 20060101ALN20220714BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
C07D265/26
A61K31/536
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021569342
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2020063843
(87)【国際公開番号】W WO2020234245
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/087542
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521508449
【氏名又は名称】ロンザ・グアンジョウ・ファーマシューティカル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シンバン・リン
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ジョウ
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/046182(WO,A1)
【文献】特表2017-537933(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108689876(CN,A)
【文献】米国特許第03409615(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 265/26
A61K 31/536
A61P 29/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(3)の化合物を調製するための方法であって、
【化1】
2つの
連続する反応REAC1およびREAC2を伴い、
前記第1の反応REAC1において、サリチルアミドが、アルカリエトキシドの存在下で炭酸ジエチルと反応して、式(3-X)の化合物を提供し、
【化2】
前記第2の反応REAC2において、REAC1から得られた式(3-X)の化合物が、ブレンステッド酸と反応して、式(3)の化合物を提供し、
Xが、NaまたはKであり、
前記アルカリエトキシドが、NaOEtまたはKOEtである、方法。
【請求項2】
REAC1については、炭酸ジエチルおよびサリチルアミドが、最初に混合され、次いで前記アルカリエトキシドが、前記混合物に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
REAC1におけるアルカリエトキシドのモル量が、サリチルアミドのモル量の1~2倍である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
REAC1における炭酸ジエチルのモル量が、サリチルアミドのモル量の1~5倍である、請求項1~3のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリエトキシドが、NaOEtであり、Xが、Naである、請求項1~4のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項6】
REAC2における前記ブレンステッド酸のモル量が、アルカリエトキシドのモル量の1~2倍である、請求項1~5のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項7】
前記ブレンステッド酸のpKaが、式(3-X)の化合物のpKaよりも低い、請求項1~6のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項8】
前記ブレンステッド酸が、HCl、H
2SO
4、HNO
3、HClO
4、HBr、およびH
3PO
4からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項9】
前記ブレンステッド酸が
、水溶液の形態で使用される、請求項1~8のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項10】
REAC2については、前記ブレンステッド酸が、式(3-X)の化合物に添加される、請求項1~9のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項11】
REAC1とREAC2との間に、前記REAC1から得られた反応混合物が、水と混合される、請求項1~10のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項12】
水の量が、サリチルアミド、炭酸ジエチル、およびアルカリエトキシドの総合重量の0.1~1.5倍である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記水が、前記REAC1から得られた反応混合物に添加される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
REAC2後に、前記REAC2から得られた反応混合物から式(3)の化合物を単離する前に、前記反応混合物が、冷却COOL3において、-20~10℃の温
度まで冷却される、請求項1~13のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項15】
式(3-X)の化合物が、REAC1とREAC2との間に単離されない、請求項1~14のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項16】
式(3)の化合物が、REAC2とCOOL3との間に単離されない、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリエトキシドの存在下でのサリチルアミドと炭酸ジエチルとの反応によるカルサラムを調製するための方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
カルサラムは、鎮痛剤として知られている。
【0003】
特許文献1は、実施例1において、溶媒のピリジンおよびアセトニトリル中にクロロギ酸エチルを有し、85%の収率を有するサリチルアミドからのカルサラムの調製を開示している。
【0004】
クロロギ酸エチルは、例えば中国で使用が規制されている非常に有毒な化学物質であり、したがって、環境に、特に生成中の労働者にリスクをもたらす。さらに、クロロギ酸エチルは、水分に敏感であり、それを取り扱うときに個別の手段を必要とする水と反応する。
【0005】
2つの溶媒のピリジンおよびアセトニトリルの使用により、溶媒を何らかの様態で廃棄するか、またはそれらをリサイクルする必要があり、どちらもさらにコストを生むため、プロセスに対してコストが追加される。
【0006】
高収率かつ高純度であるが、欠点が少ないカルサラムを調製するための方法が必要とされており、次いで、1つは、特許文献1に開示した。
【0007】
非特許文献1は、サリチルアミドと炭酸ジフェニルとの反応について記載している。
【0008】
非特許文献2は、ピリジンの存在下でのサリチルアミドとp-ニトロフェニルクロロギ酸塩との反応について記載している。
【0009】
非特許文献3は、サリチルアミドとクロロギ酸エチルとの反応によるカルサラムの調製を示した。
【0010】
予想外に、炭酸ジエチルの使用は、高収率、高純度、溶媒のピリジンまたはアセトニトリルを必要としないことを提供し、さらに、炭酸ジエチルは毒性がなく、クロロギ酸エチルの場合のようにその使用は規制されておらず、炭酸ジエチルは水分に敏感ではなく、水と反応せず、これらすべてが、その取り扱いを容易にし、環境を安全にすることが見出された。
【0011】
略語
カルサラム 式(3)の化合物
サリチルアミド 式(1)の化合物
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【文献】EINHORN ALFRED ET AL“Zur Kenntnis des Carbonylsalicylamide”,BERICHTE DER DEUTSCHEN CHEMISCHEN GESELLSCHAFT,WILEY-VCH VERLAG GMBH,vol.35,(1902),pages 3653-3656
【文献】STEPHEN W.KING ET AL:“Intramolecular Ureide and Amide Group Participation in Reactions of Carbonate Diesters”,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,vol.114,no.27,(1992),pages 10715-10721,02
【文献】A.BOGISCH:“Ueber Carbonylsalicylamid”,CHEMIKER-ZEITUNG,CHEMISCHE APPARATUR,vol.13,no.66,1889,page 1078
【発明の概要】
【0014】
本発明の主題は、式(3)の化合物を調製するための方法であって、
【化2】
2つの後続反応REAC1およびREAC2を伴い、
第1の反応REAC1において、サリチルアミドが、アルカリエトキシドの存在下で炭酸ジエチルと反応して、式(3-X)の化合物を提供し、
【化3】
第2の反応REAC2において、REAC1から得られた式(3-X)の化合物が、ブレンステッド酸と反応して、式(3)の化合物を提供し、
Xが、NaまたはKであり、
アルカリエトキシドが、NaOEtまたはKOEtである、方法、である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
3つの物質のサリチルアミド、炭酸ジエチル、およびアルカリエトキシドは、任意の順序でREAC1のために混合することができ、
好ましくは、REAC1については、炭酸ジエチルおよびサリチルアミドが最初に混合され、次いでアルカリエトキシドが混合物に添加される。
【0016】
好ましくは、REAC1におけるアルカリエトキシドのモル量は、サリチルアミドのモル量の1~2倍、より好ましくは1~1.75倍、さらにより好ましくは1~1.5倍、特に1.1~1.5倍、より特に1.2~1.4倍である。
【0017】
好ましくは、アルカリエトキシドは、エタノール中の溶液の形態で、REAC1で使用され、
より好ましくは、溶液の重量に基づいて、エトキシドの10~25重量%、さらにより好ましくは15~25重量%、特に18~22重量%、より特に19~22重量%の濃度を有する。
【0018】
好ましくは、REAC1における炭酸ジエチルのモル量は、サリチルアミドのモル量の1~5倍、より好ましくは1~4倍、さらにより好ましくは2~4倍、特に2.5~3.5倍である。
【0019】
好ましくは、REAC1は、20~160℃、より好ましくは40~140℃、さらにより好ましくは60~120℃、特に60~100℃、より特に70~90℃、さらにより特に75~85℃の反応温度TEMP1で行われる。
【0020】
好ましくは、REAC1の反応時間TIME1は、30分~8時間、より好ましくは1~6時間、さらにより好ましくは1~4時間、特に1~3時間、より特に1.5~2.5時間である。
【0021】
REAC1は、周囲圧力または高圧で行うことができ、好ましくは、圧力は、所望の反応温度が反応混合物の蒸気圧を考慮して設定され得るように調整される。
【0022】
好ましくは、アルカリエトキシドは、NaOEtであり、Xは、Naである。
【0023】
好ましくは、REAC2におけるブレンステッド酸のモル量は、アルカリエトキシドのモル量の1~2倍、より好ましくは1.01~1.8倍、さらにより好ましくは1.05~1.6倍、特に1.05~1.4倍、より特に1.1~1.2倍である。
【0024】
ブレンステッド酸は、式(3-X)の化合物をプロトン化し、したがって、ブレンステッド酸のpKaは、式(3-X)の化合物のpKaよりも低い。
【0025】
好ましくは、ブレンステッド酸は、HCl、H2SO4、HNO3、HClO4、HBr、およびH3PO4からなる群から選択され、
より好ましくは、ブレンステッド酸は、HCl、H2SO4、およびH3PO4からなる群から選択され、
さらにより好ましくは、ブレンステッド酸は、HClである。
【0026】
ブレンステッド酸は、好ましくは、水溶液の形態で使用した。
【0027】
ブレンステッド酸がHClである場合には、HClは、3~12.6M、より好ましくは5~12.6M、さらにより好ましくは7~12.6M、特に9~12.6M、より特に11~12.6M、さらにより特に11.5~12.6Mの濃度を有する水溶液の形態で使用されることが好ましい。一実施形態では、HCLは、濃HClである。別の実施形態では、HClは、12Mの濃度を有する水溶液の形態で使用される。
【0028】
水溶液の形態で使用することができるHClを特徴付ける別の様態は、10~約38重量%、16~約38重量%、22~約38重量%、28~38重量%、33~38重量%などのHCl水溶液の総重量に基づくHClの重量%での濃度である。
【0029】
当業者は、市場で利用可能なHCl水溶液の濃度を認識しており、市場で利用可能な最高濃度であっても、REAC2で使用することができる。
【0030】
REAC2については、式(3-X)の化合物およびブレンステッド酸は、任意の様態で混合することができ、好ましくは、ブレンステッド酸は、式(3-X)の化合物に添加され、より好ましくは、ブレンステッド酸は、式(3-X)の化合物を含有するREAC1からの反応混合物に添加される。
【0031】
好ましくは、REAC2は、20~100℃、より好ましくは30~100℃、さらにより好ましくは30~90℃、特に30~80℃、より特に30~70℃、さらにより特に30~60℃、具体的には40~60℃、より具体的には45~55℃の反応温度TEMP2で行われる。
【0032】
好ましくは、REAC2の反応時間TIME2は、0.5~4時間、より好ましくは0.5~2時間、さらにより好ましくは0.5~1.5時間である。
【0033】
REAC2は、周囲圧力または高圧で行うことができ、好ましくは、圧力は、所望の反応温度が反応混合物の蒸気圧を考慮して設定され得るように調整される。
【0034】
REAC1とREAC2との間に、REAC1から得られた反応混合物は、水と混合することができ、
水の量は、サリチルアミド、炭酸ジエチル、およびアルカリエトキシドの総合重量の0.1~1.5倍、好ましくは0.3~1.2倍、より好ましくは0.3~0.9倍、さらにより好ましくは0.4~0.8倍、特に0.5~0.7倍であり得る。
【0035】
好ましくは、水の添加は、TEMP2で行われる。
【0036】
好ましくは、水は、REAC1から得られた反応混合物に添加される。
【0037】
好ましくは、REAC2後に、反応混合物は、冷却COOL3において、-20~10℃、より好ましくは-10~5℃、さらにより好ましくは-5~5℃、具体的には~0℃の温度TEMP3まで冷却される。
【0038】
COOL3は、REAC2から得られた反応混合物から式(3)の化合物を単離する前に行われる。
【0039】
式(3)の化合物は、濾過およびその後の乾燥などの当業者に知られている標準的な方法によって、REAC2後またはCOOL3後に単離され得る。濾過によって得られた濾過ケーキは、エタノール、水によって、またはそれらの両方によって洗浄することができ、任意の乾燥は、真空および40~60℃の温度などの真空下ならびに/または高温下で行われ得る。
【0040】
一実施形態では、方法は、
・REAC1と、
・REAC2と、
・COOL3と、を含み、
好ましくは、方法は、
・REAC1と、
・REAC1から得られた反応混合物の水との混合と、
・REAC2と、
・COOL3と、を含む。
【0041】
好ましくは、式(3-X)の化合物は、REAC1と、REAC1から得られた反応混合物の水との混合との間に単離されない。
【0042】
好ましくは、式(3-X)の化合物は、REAC1から得られた反応混合物の水との混合と、REAC2との間に単離されない。
【0043】
好ましくは、式(3-X)の化合物は、REAC1とREAC2との間に単離されない。
【0044】
好ましくは、式(3)の化合物は、REAC2とCOOL3との間に単離されない。
【0045】
好ましくは、式(3-X)の化合物の単離がなく、REAC1とCOOL3との間に式(3)の化合物の単離がない。
【0046】
好ましくは、REAC1、REAC2、REAC1から得られた反応混合物の水との混合、およびCOOL3は、この反応容器から任意の他の反応容器への任意の反応混合物の移送もなく、式(3-X)の化合物の任意の中間単離もなく、COOL3が行われる場合、REAC2後にのみ、またはCOOL3後にのみ、式(3)の化合物の単離がある、1つのおよび同じ反応容器内で行われる。
【0047】
好ましくは、REAC1後の反応混合物は、カルサラムのアルカリ塩の懸濁液である。
【0048】
好ましくは、REAC1から得られた反応混合物の水との混合後の反応混合物は、カルサラムのアルカリ塩の溶液である。
【0049】
好ましくは、REAC2後の反応混合物は、カルサラムの懸濁液である。
【0050】
好ましくは、COOL3後の反応混合物は、カルサラムの懸濁液である。
【実施例】
【0051】
略語
eq.別途明記しない場合、当量(equivalent)、当量(eq)、モル当量
【0052】
材料
炭酸ジエチル Acros(Thermo Fisher Scientific)、99%
サリチルアミド Macklin Inc.、Shanghai,China、99%
【0053】
分析方法
カルサラムの純度を決定するためのHPLC法
【表1】
ブランク:アセトニトリル/水(1/1、v/v)
【表2】
安定性:溶液は、4℃下で2日間安定である
【表3】
【0054】
実施例1
1.5L反応器に、253gの炭酸ジエチル(2.15モル、3.0当量)および100gのサリチルアミド(0.715モル、1.0当量)を充填した。混合物は懸濁液であり、15分間撹拌した。次いで、309g、20重量%のEtONa/EtOH(0.93モル、1.3当量)を反応器に充填した。反応混合物は透明溶液となる。この反応混合物を、80℃まで加熱し、80℃で2時間撹拌した。白色の沈殿物を観察した。反応混合物を50℃まで冷却した。387gの水を添加し、反応混合物を、透明な溶液になるまで、約15分間撹拌した。次いで、109g、12MのHCl(1.07モル、1.5当量)を1時間で反応器に滴加し、沈殿物は、12MのHClを充填したときに形成した。反応混合物を2時間で0℃まで冷却した。懸濁液を濾過して、濾過ケーキを提供した。231gのエタノールを反応器に添加し、15分間撹拌し、濾過ケーキを反応器からのこのエタノールで洗浄した。次いで、ケーキを515gの水および231gのエタノールで洗浄し、ケーキを50℃で5時間、真空(10kPa)下で乾燥させた。107gの白色の結晶生成物としてのカルサラムを得た。
収率90%
HPLC純度 >99.9%
1HNMR(400MHz、DMSO) デルタ7.95(dd、J=8.0、1.4Hz、1H)、7.80(td、J=8.1、1.7Hz、1H)、7.46~7.36(m、2H)。