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特許7105395触媒前駆体、それを用いた触媒、化合物の製造方法及び触媒の製造方法
<図1>
  • 特許-触媒前駆体、それを用いた触媒、化合物の製造方法及び触媒の製造方法 図1
  • 特許-触媒前駆体、それを用いた触媒、化合物の製造方法及び触媒の製造方法 図2
  • 特許-触媒前駆体、それを用いた触媒、化合物の製造方法及び触媒の製造方法 図3
  • 特許-触媒前駆体、それを用いた触媒、化合物の製造方法及び触媒の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】触媒前駆体、それを用いた触媒、化合物の製造方法及び触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20220714BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20220714BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20220714BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20220714BHJP
   C07C 51/25 20060101ALI20220714BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20220714BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
B01J23/887 Z
B01J35/10 301G
C07C45/35
C07C47/22 A
C07C51/25
C07C57/05
C07B61/00 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022502523
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033592
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2020159209
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥村 成喜
(72)【発明者】
【氏名】保田 将吾
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-521851(JP,A)
【文献】特開平11-239724(JP,A)
【文献】特表2010-515564(JP,A)
【文献】特開2003-093882(JP,A)
【文献】特開2020-157294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顆粒状の予備焼成粉体からなる触媒前駆体 について、
累積の体積分率が50%となる粒子径である平均粒子径(D50)が10μm以上40μm以下であり、中空粒子率が0.0%以上4.3%以下である下記式(1)で表される不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒前駆体。
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウムおよびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、XおよびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0≦e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【請求項2】
比表面積が5.0m/g以上10.4m/g以下である請求項1に記載の不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒前駆体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒前駆体を成型して得られる不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の触媒前駆体が不活性担体に担持された不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項5】
前記不活性担体がシリカ及び/又はアルミナである請求項4に記載の不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒前駆体または触媒を用いた不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項7】
不飽和アルデヒド化合物がアクロレインであり、不飽和カルボン酸化合物がアクリル酸である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の触媒前駆体を使用する不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性であり、高収率で目的物を得られる新規触媒に関するものであり、特に不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、又は共役ジエンを酸化的に製造する際に、触媒活性が高い領域においても安定して高収率な製造を可能とする触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法や、ブテン類から1,3-ブタジエンを製造する気相接触酸化方法は工業的に広く実施されており、ビスマスおよびモリブデンを主成分とした複合金属酸化物触媒の使用が当業者にとって公知である。
特に、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法に関しては、その収率を向上する手段として多くの報告がなされている(例えば特許文献1、2等)。上記のような手段をもって改良をはかっても、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等の部分酸化反応により対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造において、さらなる収率の改善が求められている。例えば、目的生成物の収率は、製造に要するプロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等の使用量を左右し製造コストに多大な影響を与える。
【0003】
また、触媒そのものの生産性を向上させ触媒のコストを低減させる目的で、調合工程において触媒原料を種々混合させてできる母液を乾燥させる際、スプレードライヤーを用いることが当業者にとって公知である。前記複合金属酸化物触媒を得る場合、スプレードライヤーによる乾燥以外の方法として母液を蒸発乾固またはゲル化させるものも挙げられるが、工程後の半製品が増粘した、または固化した状態であり、工業スケールでの製法としてはハンドリングが難しく、触媒のコストも高くなる傾向にある。
【0004】
前記スプレードライヤーによる乾燥工程においては、プロセス制御因子を最適化することにより触媒の改良が可能であり、例えば特許文献3には流動床用途としての顆粒状の複合金属酸化物触媒の中空粒子率が23%以下であることで、機械的強度が向上する旨が記載されている。また特許文献4では調合液の粘度および仮焼体の嵩密度を規定することで機械的強度が高い成型触媒を得る旨が記載されている。しかしながら、これらの方法ではシリカゾルを添加することやホモジナイザーを使用することにより、調合工程の母液が増粘しスプレードライヤーへ送液すること自体が困難になりがちで、結果的に生産性が低くなる傾向にある。すなわち、調合工程において母液を増粘させず、得られた母液を安定にスプレードライヤーにて乾燥でき、そうして得られた触媒前駆体としてどのような物性が、最終的な触媒の高収率化のために重要なのか、は不明確な状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/136882号
【文献】日本国特開2017-024009号公報
【文献】日本国特許第6621569号公報
【文献】日本国特許第6204862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、選択性および目的生成物の収率が高い触媒を得ることができる触媒前駆体、当該触媒前駆体を用いた触媒を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究によれば、触媒活性成分原料の混合溶液またはスラリーを乾燥した触媒前駆体の平均粒子径が特定の範囲にある場合に、最終的な触媒の性能、特に触媒活性が大幅に向上することを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0008】
即ち、本発明は、以下1)~10)に関する。
1)
累積の体積分率が50%となる粒子径である平均粒子径(D50)が10μm以上40μm以下である下記式(1)で表される触媒前駆体。
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0≦e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)
2)
中空粒子率が0.0%以上4.3%以下である上記1)に記載の触媒前駆体。
3)
比表面積が5.0m/g以上10.4m/g以下である上記1)又は2)に記載の触媒前駆体。
4)
上記1)~3)のいずれか一項に記載の触媒前駆体を成型して得られる触媒。
5)
上記1)~3)のいずれか一項に記載の触媒前駆体が不活性担体に担持された触媒。
6)
前記不活性担体がシリカ及び/又はアルミナである上記5)に記載の触媒。
7)
不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用である、上記1)~6)のいずれか一項に記載の触媒前駆体または触媒。
8)
上記1)~7)のいずれか一項に記載の触媒前駆体または触媒を用いた不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物の製造方法。
9)
不飽和アルデヒド化合物がアクロレインであり、不飽和カルボン酸化合物がアクリル酸である上記8)に記載の製造方法。
10)
上記1)~3)のいずれか一項に記載の触媒前駆体を使用する触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の触媒前駆体は、気相接触酸化反応における触媒活性の向上、及び収率向上に非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】触媒前駆体(中空粒子)の顕微鏡写真である。
図2】触媒前駆体(非中空粒子)の顕微鏡写真である。
図3図1に示す顕微鏡写真を二値化した画像である。
図4図3に示す二値化した画像において、触媒前駆体(中空粒子)の外形を破線で示し、くぼみの部分をドット領域で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、特に触媒活性の高い触媒及びその製造方法等に関するが、前記触媒は前記触媒前駆体を経由して製造され、または当該触媒前駆体はそのまま酸化触媒として使用することもできる為、触媒前駆体そのものも本発明として記載する。
[平均粒子径(D50)が10μm以上40μm以下]
本発明の触媒前駆体は、平均粒子径が10μm以上40μm以下である。
平均粒子径は、公知の方法で測定でき、例えば以下の機器を用いて測定することができる。たとえば、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(セイシン企業社製、商品名「LMS-2000e」)より粒子径分布を測定し、その体積平均(メジアン径)として求める。すなわち、体積分率における中央値である。測定条件として、当業者にとって公知な一般的な条件であれば問題ないが、例えば散乱範囲を10~20%にし、測定時間を3秒、スナップ数を3000、サンプル材をFraunhoferとし、分散媒を水、スターラーポンプを2500rpmとして超音波をかけずに測定する。すなわち、平均粒子径は累積の体積分率が50%となる粒子径を意味し、本明細書においてD50と表現する場合もある。また同様に、累積の体積分率が10%となる粒子径をD10と、累積の体積分率が90%となる粒子径をD90と表現する。測定方式は湿式または乾式いずれでも良いが、本願実施例では湿式を用いる。
平均粒子径(D50)が、10μm以上40μm以下の範囲外である場合、触媒とした際の性能が安定せず、結果として触媒活性の低下を引き起こす可能性がある。
この平均粒子径(D50)の好ましい範囲の下限は15μmであり、さらに好ましくは20μmであり、特に好ましくは23μmである。また好ましい上限は38μmであり、さらに好ましくは35μmであり、特に好ましくは32μmである。すなわち、平均粒子径として最も好ましい範囲は、23μm以上32μm以下である。
【0012】
[触媒前駆体の中空粒子率が0.0%以上4.3%以下]
本発明の触媒前駆体は、以下で定義される触媒前駆体の中空粒子率が0.0%以上4.3%以下である場合が好ましい。すなわち、マイクロスコープで触媒前駆体サンプルを重ならないように分散させるよう注意して1g分、倍率20倍で撮影し、得られた触媒前駆体サンプルの1粒ずつを中空または非中空と判定する。触媒前駆体サンプルは200粒以上測定し、中空であった触媒前駆体の数を測定した触媒前駆体の数で割って100をかけることで、触媒前駆体の中空粒子率とする。中空または非中空の判定は、粒子の全体面積(顕微鏡写真に表れている部分における全体面積)のうち5%を超える大きさのくぼみや凹凸による陰影がついたものを中空とみなすが、その判定例を図1および図2に示す。図1の左から順に示される触媒前駆体の、くぼみや凹凸部分の触媒粒子に対する面積比はそれぞれ11%、12%、6%である。図2に示される触媒前駆体は、いずれもくぼみがないものと判定した。中空粒子の判定のため、マイクロスコープ像のコントラストを上げる又は二値化したり、図1左のように測定対象の触媒粒子が他の触媒粒子と重なっている部分を補間したり、くぼみや凹凸部分の面積を定量的に算出することは、公知な画像処理ソフトを用いて実施可能であり、その詳細を問わない。
図3は、図1に示す顕微鏡写真を二値化した画像である。図4は、図3に示す二値化した画像において、触媒前駆体(中空粒子)の外形を破線で示し、くぼみの部分をドット領域で示した図である。以下、図4を参照して中空粒子の判定の手順の一例を説明する。図4に示すように、顕微鏡写真において粒子の外形を楕円(図4において破線で示した楕円)と擬制し、外周の5点より描かれる楕円の面積を粒子の全体面積とする。またくぼみ部分(図4においてドット領域で示した部分)については、市販の画像処理ソフトで、くぼみ部分の外縁を囲んでその面積を当該ソフトにより計算する。本件においては、アドビ インコーポレイテッド製フォトショップ(登録商標)を用いて、くぼみ部分(ドット部分)の面積を求めた。
触媒前駆体の中空粒子率の下限として好ましい順に0.1%、0.3%、0.5%、1.0%、1.5%であり、触媒前駆体の中空粒子率の上限として好ましい順に4.0%、3.8%、3.5%、3.0%、2.8%、2.5%、2.2%である。すなわち、触媒前駆体の中空粒子率として最も好ましい範囲は、1.5%以上2.2%以下である。
【0013】
[触媒前駆体水分量が0.0質量%以上15.0質量%以下]
本発明の触媒前駆体は、以下で定義される触媒前駆体水分量が0.0質量%以上15.0質量%以下である場合が好ましい。すなわち、触媒前駆体水分量は、触媒前駆体を10mg程度TG分析にかけ、空気雰囲気下1.5℃/minの昇温速度で昇温した際の120℃時点での質量減少率(=100-(120℃時点でのサンプル重量)÷(仕込みサンプル重量)×100[質量%])とする。触媒前駆体水分量の下限として好ましい順に0.1質量%、0.3質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、2.5質量%、3.0質量%、4.0質量%、5.0質量%、6.0質量%、7.0質量%、8.0質量%、9.0質量%、10.0質量%であり、顆粒水分量の上限として好ましい順に14.5質量%、14.0質量%、13.0質量%、12.0質量%、11.0質量%である。すなわち、触媒前駆体水分量として最も好ましい範囲は、10.0%質量以上11.0質量%以下である。
なお、本発明の触媒前駆体とは、触媒を成型する工程前の顆粒であり、本発明において予備焼成粉体とも記載され、触媒を構成する各元素を含有する原料を混合して得られるスラリーを、例えばドラム乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等を用いて顆粒状にし、さらに予備焼成を行ったものである。乾燥方法としては、スラリーから短時間に顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。
【0014】
また、本発明の触媒前駆体は、D10が10μm以上25μm以下である場合が好ましい。D10の下限として更に好ましい順に12μm、13μm、14μm、15μmである。また上限として更に好ましい順に24μm、23μm、22μm、21μm、20μm、19μm、18μmである。すなわちD10として最も好ましくは、15μm以上18μm以下である。
また、本発明の触媒前駆体は、D90が40μm以上65μm以下である場合が好ましい。D90の下限として更に好ましい順に42μm、45μm、48μm、50μmである。また上限として更に好ましい順に64μm、63μm、62μm、61μm、60μmである。すなわちD90として最も好ましくは、50μm以上60μm以下である。
【0015】
一般に、上記触媒前駆体に関する上記パラメーター(触媒前駆体の平均粒子径、触媒前駆体の中空粒子率、触媒前駆体水分量)を変化させるためには、調合工程におけるpHの調製や、乾燥工程における温度等の設定によって実現可能であるが、特に有効な方法は噴霧乾燥による場合の噴霧器(アトマイザー)の回転数の最適化である。最適なアトマイザーの回転数は、アトマイザーや噴霧乾燥器の構造、乾燥させる液体の温度やpH、粘度、および触媒構成成分の配合比率などに影響されるため一概には言えないが、好ましくは9,000rpm以上22,000rpm以下である。更に好ましいアトマイザー回転数の上限は、20,000pmであり、特に好ましくは19,000rpmであり、最も好ましくは18,500rpmである。また更に好ましい下限は順に、10,000rpm、12,000rpm、14,000rpmであり、特に好ましい下限は15,000rpmであり、最も好ましい下限は16,000rpmである。すなわち最も好ましいアトマイザー回転数の範囲は16,000rpm以上18,500rpm以下である。
また、アトマイザーの回転数は相対遠心加速度によっても表され、12500G以上50000G以下であることが好ましい。より好ましい下限としては、順に15000G、17500G、18500G、19000Gであり、より好ましい上限としては、順に45000G、40000G、37500G、35000G、32500Gである。すなわち最も好ましいアトマイザーの回転数の範囲は19000G以上32500G以下である。
【0016】
更に噴霧乾燥の噴霧器の入口温度、出口温度も上記パラメーター(触媒前駆体の平均粒子径、触媒前駆体の中空粒子率、触媒前駆体水分量)に影響を与える。入口温度としては、200℃以上350℃以下が好ましい。より好ましい下限としては、順に210℃、220℃、230℃、250℃、270℃、280℃であり、より好ましい上限は順に340℃、330℃、320℃、310℃である。すなわち入口温度として最も好ましくは280℃以上310℃以下である。
また、出口温度としては、100℃以上150℃以下が好ましい。より好ましい下限としては、順に101℃、102℃、103℃、104℃、105℃であり、より好ましい上限は順に140℃、130℃、120℃である。すなわち出口温度として最も好ましくは105℃以上120℃以下である。
さらに、入口温度と出口温度の差としては、50℃以上140℃以下が好ましい。より好ましい下限としては、順に70℃、80℃、90℃、100℃、105℃であり、より好ましい上限は順に135℃、130℃、125℃、120℃である。すなわち入口温度と出口温度の差として最も好ましくは105℃以上120℃以下である。
【0017】
さらに、本発明の触媒前駆体の製法として以下式で与えられるパラメーターSDの範囲は、5以上41以下が好ましい。より好ましい下限としては、順に10、15、18、20、21であり、より好ましい上限は順に40、38、36、35である。すなわちSDとして最も好ましくは21以上35以下である。
SD=51.3+0.0766×{(スプレードライヤーの入口温度、単位:℃)-(スプレードライヤーの出口温度、単位:℃)}-0.00173×(アトマイザー回転数、単位:rpm)
【0018】
[比表面積]
本発明の触媒前駆体は、比表面積が5.0m/g以上10.4m/g以下である場合が好ましい。
ここで、触媒前駆体の比表面積とは、前駆体1グラム当たりの表面積を意味し、当業者にとって公知な方法で測定することができ、その詳細を問わないが、例えば次のような方法で測定できる。すなわち、試料容量0.05mL~3.0mLを内径7mmのサンプル管に入れ、300℃、2時間以上の条件にて前処理をした後に、ガス吸着量測定装置(Belsorp-mini(マイクロトラックベル社製))を用いて、窒素分子直径を0.364nmと設定し、相対圧比0.4、吸着温度-196℃、測定細孔直径範囲0.7nm~400nm、吸着ガス種窒素の条件のもと測定し、測定結果をBET法で解析を行い、比表面積値を得る方法となる。
比表面積の好ましい範囲の下限としては、好ましい順に7.5、8.0、8.5、9.0であり、上限としては好ましい順に10.3、10.2、10.1、9.8、9.5である。すなわち比表面積として最も好ましくは9.0m/g以上9.5m/g以下である。
また、本願によって得られた最終的な製品である触媒そのものの比表面積は、1.00m/g以上2.80m/g以下である場合が好ましい。より好ましい下限としては、順に1.20m/g、1.40m/g、1.60m/g、1.80m/g、2.00m/g、2.20m/gであり、より好ましい上限としては、順に2.70m/g、2.60m/g、2.50m/g、2.40m/gである。すなわち触媒の比表面積として最も好ましくは2.20m/g以上2.40以下m/gである。
【0019】
[嵩密度]
本発明の触媒前駆体の嵩密度は、0.8g/mL以上1.3g/mL以下である場合が好ましい。また、より好ましい下限は、0.9g/mL、1.0g/mLであり、より好ましい上限は1.2g/mL、1.1g/mLである。従って、最も好ましい範囲は1.0g/mL以上1.1g/mL以下である。
【0020】
[組成]
本発明の触媒前駆体は、下記式(1)で表される組成を有する。
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0≦e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)
【0021】
上記式(1)において、a1=12としたときのb1~h1の好ましい範囲は以下である。
b1の下限としては好ましい順に、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5であり、上限としては好ましい順に、6、5、4、3、2、1である。すなわちb1として最も好ましい範囲は、0.5以上1以下である。
c1の下限としては好ましい順に、0.2、0.5、0.8、1.0、1.5、1.8、2.0、2.5であり、上限としては好ましい順に、8.0、7.0、6.0、5.0、4.0、3.5である。すなわちc1として最も好ましい範囲は、2.5以上3.5以下である。
d1の下限としては好ましい順に、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0であり、上限としては好ましい順に、9.5、9.0、8.5、8.0、7.5、7.0、6.5、6.0である。すなわちd1として最も好ましい範囲は、5.0以上6.0以下である。
c1+d1の下限としては好ましい順に、0.0、2.0、4.0、6.0、8.0、8.3であり、上限としては好ましい順に、20.0、15.0、12.5、11.0、10.0、9.0である。すなわち、c1+d1として最も好ましい範囲は、8.3以上9.0以下である。
e1の下限としては好ましい順に、0.1、0.2、0.5、0.8、1.0、1.5であり、上限としては好ましい順に、4.5、4.0、3.5、3.0、2.5、2.0、1.9、1.8である。すなわちe1として最も好ましい範囲は、1.5以上1.8以下である。
f1の上限としては好ましい順に、1.8、1.5、1.0、0.8、0.5であり、下限としては、0が好ましい。すなわちf1としてより好ましい範囲は、0以上0.5以下であり、0が最も好ましい。
g1の下限としては好ましい順に、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07であり、上限としては好ましい順に、2、1、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1である。すなわちg1として最も好ましい範囲は、0.07以上0.1以下である。
h1の上限としては好ましい順に、4.0、3.0、2.0、1.8、1.5、1.0、0.8、0.5であり、下限としては、0が好ましい。すなわちh1としてより好ましい範囲は、0以上0.5以下であり、0が最も好ましい。
【0022】
式(1)におけるXとしては、タングステン、アンチモン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、セリウムが好ましく、アンチモン、亜鉛が特に好ましい。
式(1)におけるYとしては、ナトリウム、カリウム、セシウムが好ましく、カリウム、セシウムが更に好ましく、カリウムが特に好ましい。
式(1)におけるZとしては、リンが好ましい。
【0023】
乾燥温度としては、水分を除去できるものであれば特に制限はなく、圧力や時間を調整する場合には、常温(25℃)であっても良い、しかし、より確実に、短時間で水分を除去する為には、80℃以上が好ましく、更に好ましくは90℃以上である。また圧力を調整しない場合には100℃以上が好ましく、更に好ましくは150℃以上である。
予備焼成としては、200℃~600℃程度の温度で1~12時間程度の焼成を行う。焼成時の雰囲気や昇温速度は当業者の知る範囲であれば特に制限はないが、例えば空気雰囲気、窒素などの不活性雰囲気、メタノールやエタノールなどの有機化合物を0%より多く含んだ含有機化合物雰囲気であり、昇温速度は0.01℃/分以上10℃/分以下となる。
【0024】
[担持について]
触媒調製後に予備焼成を行った予備焼成粉体を不活性担体に担持させた触媒は、本発明の触媒として特に効果の優れたものである。
不活性担体の材質としてはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカアルミナ、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物など公知の物を使用でき、さらにその粒子径、吸水率、機械的強度、各結晶相の結晶化度や混合割合なども特に制限はなく、最終的な触媒の性能、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。担体と予備焼成粉体の混合の割合は、各原料の仕込み質量により、下記式より担持率として算出される。
担持率(質量%)=(成形に使用した予備焼成粉体の質量)/{(成形に使用した予備焼成粉体の質量)+(成形に使用した担体の質量)}×100
【0025】
上記担持率としての好ましい上限は、80質量%であり、さらに好ましくは60質量%である。
また好ましい下限は、20質量%であり、さらに好ましくは30質量%である。すなわち担持率として最も好ましい範囲は、30質量%以上60質量%以下である。
なお不活性担体としては、シリカ及び/又はアルミナが好ましく、シリカとアルミナの混合物が特に好ましい。
なお、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、グリセリンの濃度5質量%以上の水溶液が好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉体100質量部に対して通常2~60質量部であるが、グリセリン水溶液の場合は10~30質量部が好ましい。担持に際してバインダーと予備焼成粉体は成型機に交互に供給しても、同時に供給してもよい。
【0026】
[触媒の製造方法等について]
本発明の触媒前駆体や触媒を構成する各元素の出発原料としては特に制限されるものではないが、例えばモリブデン成分の原料としては三酸化モリブデンのようなモリブデン酸化物、モリブデン酸、パラモリブデン酸アンモニウム、メタモリブデン酸アンモニウムのようなモリブデン酸またはその塩、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸のようなモリブデンを含むヘテロポリ酸またはその塩などを用いることができる。
【0027】
ビスマス成分の原料としては硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマスのようなビスマス塩、三酸化ビスマス、金属ビスマスなどを用いることができる。これらの原料は固体のままあるいは水溶液や硝酸溶液、それらの水溶液から生じるビスマス化合物のスラリーとして用いることができるが、硝酸塩、あるいはその溶液、またはその溶液から生じるスラリーを用いることが好ましい。
【0028】
その他の成分元素の出発原料としては、一般にこの種の触媒に使用される金属元素のアンモニウム塩、硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、次炭酸塩、酢酸塩、塩化物、無機酸、無機酸の塩、ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸の塩、硫酸塩、水酸化物、有機酸塩、酸化物またはこれらの混合物を組み合わせて用いればよいが、アンモニウム塩および硝酸塩が好適に用いられる。
【0029】
これら活性成分を含む化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。スラリー液は、各活性成分含有化合物と水とを均一に混合して得ることができる。スラリー液における水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はない。乾燥方法や乾燥条件を勘案して、水の使用量を適宜決定すれば良い。通常、スラリー調製用化合物の合計質量100質量部に対して、100質量部以上2000質量部以下である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、又完全に乾燥できない場合も生ずるなどデメリットが多い。
【0030】
上記各成分元素の供給源化合物のスラリー液は上記の各供給源化合物を、(イ)一括して混合する方法、(ロ)一括して混合後、熟成処理する方法、(ハ)段階的に混合する方法、(ニ)段階的に混合・熟成処理を繰り返す方法、および(イ)~(ニ)を組み合わせた方法により調製することが好ましい。ここで、上記熟成とは、「工業原料もしくは半製品を、一定時間、一定温度などの特定条件のもとに処理して、必要とする物理性、化学性の取得、上昇あるいは所定反応の進行などをはかる操作」のことをいう。なお、本発明において、上記の一定時間とは、5分以上24時間以下の範囲をいい、上記の一定温度とは室温以上の水溶液ないし水分散液の沸点以下の範囲をいう。このうち最終的に得られる触媒の活性及び収率の面で好ましいのは(ハ)段階的に混合する方法であり、更に好ましいのは段階的に母液に混合する各原料は全溶した溶液とする方法であり、最も好ましいのはモリブデン原料を調合液またはスラリーとした母液に、アルカリ金属溶液、硝酸塩の各種混合液を混合する方法である。ただし、この工程で必ずしもすべての触媒構成元素を混合する必要はなく、その一部の元素または一部の量を以降の工程で添加してもよい。
【0031】
本発明において、必須活性成分を混合する際に用いられる攪拌機の攪拌翼の形状は特に制約はなく、プロペラ翼、タービン翼、パドル翼、傾斜パドル翼、スクリュー翼、アンカー翼、リボン翼、大型格子翼などの任意の攪拌翼を1段あるいは上下方向に同一翼または異種翼を2段以上で使用することができる。また、反応槽内には必要に応じてバッフル(邪魔板)を設置しても良い。
【0032】
次いで、このようにして得られたスラリー液を乾燥する。乾燥方法は、スラリー液が完全に乾燥できる方法であれば特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリー液を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリー液の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の出口における温度が70℃以上150℃以下である。
【0033】
上記のようにして得られた触媒前駆体は予備焼成し、成形を経て、本焼成することで、成形形状を制御、保持することが可能となり、工業用途として特に機械的強度が優れた触媒が得られ、安定した触媒性能を発現できる。
【0034】
成形は、シリカ等の担体に担持する担持成形と、担体を使用しない非担持成形のいずれの成形方法も採用できる。具体的な成形方法としては、例えば、打錠成形、プレス成形、押出成形、造粒成形等が挙げられる。成形品の形状としては、例えば、円柱状、リング状、球状等が運転条件を考慮して適宜選択可能であるが、球状担体、特にシリカやアルミナ等の不活性担体に触媒前駆体を担持した、平均粒子径3.0mm以上10.0mm以下、好ましくは平均粒子径3.0mm以上8.0mm以下の担持触媒であるとよい。担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート方法等が広く知られており、予備焼成粉体が担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率等を考慮した場合、転動造粒法が好ましい。具体的には、固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内にチャージされた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成粉体を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法である。なお、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等がより好ましく、グリセリンの濃度5質量%以上の水溶液がさらに好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉体100質量部に対して通常2~60質量部であるが、グリセリン水溶液の場合は15~50質量部が好ましい。担持に際してバインダーと予備焼成粉体は成型機に交互に供給しても、同時に供給してもよい。また、成形に際しては、公知の添加剤、例えば、グラファイト、タルク等を少量添加してもよい。なお、成形において添加される成形助剤、細孔形成剤、担体はいずれも、原料を何らかの別の生成物に転換する意味での活性の有無にかかわらず、本発明における活性成分の構成元素として考慮しないものとする。
【0035】
予備焼成方法や予備焼成条件または本焼成方法や本焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。予備焼成や本焼成は、通常、空気等の酸素含有ガス流通下または不活性ガス流通下で、200℃以上600℃以下、好ましくは300℃以上550℃以下で、0.5時間以上、好ましくは1時間以上40時間以下で行う。ここで、不活性ガスとは、触媒の反応活性を低下させない気体のことをいい、具体的には、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。尚、触媒を使用して不飽和アルデヒド、及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際の反応条件等に応じて、特に本焼成における最適な条件は異なり、本焼成工程の工程パラメーターすなわち雰囲気中の酸素含有率、最高到達温度や焼成時間等の変更を行うことは当業者にとって公知であるため、本発明の範疇に入るものとする。また、本焼成工程は前述の予備焼成工程よりも後に実施されるものとし、本焼成工程における最高到達温度(本焼温度)は、前述の予備焼成工程における最高到達温度(予備焼成温度)よりも高いものとする。焼成の手法は流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。
【0036】
本発明の触媒は、不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物、又は共役ジエン化合物を製造する為の触媒として使用される場合が好ましく、より好ましくは不飽和アルデヒド化合物を製造する為の触媒として用いることが更に好ましく、プロピレンからアクロレインを製造する為の触媒として用いることが特に好ましい。不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物、又は共役ジエン化合物を製造するような発熱反応のプロセスでは、実プラントにおいては反応により生じる発熱で触媒自身が劣化するのを防ぐ目的で、反応管入口側から反応管出口側に向けて活性が高くなるよう異なる触媒種を多層で充填することが当業者にとっては公知である。本発明の触媒は、反応管入口側および反応管出口側、およびその中間の触媒層のいずれでも使用できるが、たとえば反応管の最も出口側、すなわち反応管内の全触媒層の中で最も高活性な触媒に用いることが最も好ましい。なお、多層充填においては、2層又は3層充填が特に好ましい態様である。
【0037】
[第二段目触媒について]
本発明の触媒を、第一段目の触媒、すなわち不飽和アルデヒド化合物を製造する為の触媒として用いた場合、第二段目の酸化反応を行い、不飽和カルボン酸化合物を得ることができる。
この場合、第二段目の触媒としては、本願発明の触媒を用いることもできるが、下記式(2)で表される触媒を用いることが好ましい。
Mo12a2b2Cuc2Sbd2X2e2Y2f2Z2g2h2・・・(2)
(式中、Mo、V、W、Cu、SbおよびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、X2はアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Y2はマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Z2はニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよび砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa2、b2、c2、d2、e2、f2、g2およびh2は各元素の原子比を表し、モリブデン原子12に対して、a2は0<a2≦10、b2は0≦b2≦10、c2は0<c2≦6、d2は0<d2≦10、e2は0≦e2≦0.5、f2は0≦f2≦1、g2は0≦g2<6を表す。また、h2は前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である。)。
【0038】
上記式(2)で表される触媒の製造にあたっては、この種の触媒、例えば酸化物触媒、ヘテロポリ酸又はその塩構造を有する触媒を調製する方法として一般に知られている方法が採用できる。触媒を製造する際に使用できる原料は特に限定されず、種々のものが使用できる。例えば、三酸化モリブデンのようなモリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウムのようなモリブデン酸又はその塩、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸のようなモリブデンを含むヘテロポリ酸又はその塩などを用いることができる、アンチモン成分原料としては特に制限はないが、三酸化アンチモンもしくは酢酸アンチモンが好ましい。バナジウム、タングステン、銅等、その他の元素の原料としてはそれぞれの硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、酸化物、金属等が使用できる。
【0039】
これら活性成分を含む化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
次いで前記で得られたスラリー液を乾燥し、触媒前駆体固体とする。乾燥方法は、スラリー液が完全に乾燥できる方法であれば特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられ、スラリー液を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリー液の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の入口のおける温度が140~400℃、出口における温度が70~150℃であり、入口温度が出口温度より高くなる。また、この際得られるスラリー液乾燥体の平均粒子径が10~700μmとなるように乾燥するのが好ましい。
【0041】
前記のようにして得られた第二段目の触媒前駆体固体は、そのまま被覆用混合物に供することができるが、焼成すると成形性が向上する場合があり好ましい。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、使用する触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、焼成温度は通常100~350℃、好ましくは150~300℃、焼成時間は1~20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。このようにして得られた焼成後の固体は成形前に粉砕されることが好ましい。粉砕方法として特に制限はないが、ボールミルを用いると良い。
【0042】
また、前記第二段目のスラリーを調製する際の活性成分を含有する化合物は、必ずしも全ての活性成分を含んでいる必要はなく、一部の成分を下記成形工程前に使用してもよい。
【0043】
前記第二段目の触媒の形状は特に制約はなく、酸化反応において反応ガスの圧力損失を小さくするために、柱状物、錠剤、リング状、球状等に成型し使用する。このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから、不活性担体に触媒前駆体固体を担持し、担持触媒とするのが特に好ましい。この担持は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰返しにより激しく攪拌させ、ここにバインダーと触媒前駆体固体並びに、必要により、これらに他の添加剤例えば成型助剤、強度向上剤を添加した担持用混合物を担体に担持する方法である。バインダーの添加方法は、1)前記担持用混合物に予め混合しておく、2)担持用混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、3)担持用混合物を固定容器内に添加した後に添加、4)担持用混合物を固定容器内に添加する前に添加、5)担持用混合物とバインダーをそれぞれ分割し、2)~4)を適宜組み合わせて全量添加する等の方法が任意に採用しうる。このうち5)においては、例えば担持用混合物の固定容器壁への付着、担持用混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担持されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。バインダーは、水やエタノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、結晶性セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース類、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、セルロース類及びエチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、特にグリセリンの濃度5質量%以上の水溶液が好ましい。これらバインダーの使用量は、担持用混合物100質量部に対して通常2~60質量部、好ましくは10~50質量部である。
【0044】
上記担持における担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム等の直径1~15mm、好ましくは2.5~10mmの球形担体等が挙げられる。これら担体は通常は10~70%の空孔率を有するものが用いられる。担体と担持用混合物の割合は通常、担持用混合物/(担持用混合物+担体)=10~75質量%、好ましくは15~60質量%となる量を使用する。担持用混合物の割合が大きい場合、担持触媒の反応活性は大きくなるが、機械的強度が小さくなる傾向にある。逆に、担持用混合物の割合が小さい場合、機械的強度は大きいが、反応活性は小さくなる傾向がある。なお、前記において、必要により使用する成型助剤としては、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等が挙げられる。成型助剤の使用量は、触媒前駆体固体100質量部に対して通常1~60質量部である。また、更に必要により触媒前駆体固体及び反応ガスに対して不活性な無機繊維(例えば、セラミックス繊維又はウィスカー等)を強度向上剤として用いることは、触媒の機械的強度の向上に有用であり、ガラス繊維が好ましい。これら繊維の使用量は、触媒前駆体固体100質量部に対して通常1~30質量部である。なお、第一段目の触媒の成形においては、添加される成形助剤、細孔形成剤、担体はいずれも、原料を何らかの別の生成物に転換する意味での活性の有無にかかわらず、本発明における活性成分の構成元素として考慮しないものとする。
【0045】
前記のようにして得られた担持触媒はそのまま触媒として気相接触酸化反応に供することができるが、焼成すると触媒活性が向上する場合があり好ましい。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、使用する触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、焼成温度は通常100~450℃、好ましくは270~420℃、焼成時間は1~20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。
【0046】
[触媒の用途等]
本発明の触媒を、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する反応、特にプロピレンを分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレイン、アクリル酸を製造する反応に使用する場合において、触媒活性の向上、および収率の向上をすることができ、公知の方法と比較して製品の価格競争力の向上に非常に有効である。また、炭素原子数4以上のモノオレフィン(ブテン類等)と分子状酸素を含む混合ガスから接触酸化脱水素反応により共役ジオレフィン(1,3-ブタジエン等)を製造する場合の酸化触媒、酸化脱水素触媒としても、当該触媒は有用である。
【0047】
また、本発明の触媒を使用することで、安全に、安定して、低コストで気相接触酸化方法の長期運転を実現しうる。また、本発明の触媒は特に触媒活性が高い領域、または触媒活性が高くない領域においても収率向上に有効でありうるほか、ΔT(ホットスポット温度と反応浴温度の差)の低減のような発熱を伴う部分酸化反応のプロセス安定性にも向上効果が期待できる。更に、本発明の触媒は、環境や最終製品の品質に悪影響の生じる副生成物、たとえば一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)、アセトアルデヒドや酢酸、ホルムアルデヒドの低減にも有効でありうる。
【0048】
こうして得られた本発明の触媒は、例えばプロピレンを、分子状酸素含有ガスを用いて気相接触酸化して、アクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する際に使用できる。本発明の製造方法において原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質としてのプロピレンが常温で1~10容量%、好ましくは4~9容量%、分子状酸素が3~20容量%、好ましくは4~18容量%、水蒸気が0~60容量%、好ましくは4~50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが20~80容量%、好ましくは30~60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に250~450℃で、常圧~10気圧の圧力下で、空間速度300~5000h-1で導入し反応を行う。
【0049】
本明細書において触媒活性の向上とは、特に断りがない限り同じ反応浴温度で触媒反応を行って比較をしたときに原料転化率が高いことを指す。
本発明において収率が高いとは、特に断りがない限り、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして酸化反応を行った場合には、対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の合計収率が高いことを指す。また、特に断りがない限り、収率とは後述する有効収率を指す。
本明細書において触媒前駆体の構成元素とは、特に断りがない限り、上記触媒製造工程において使用するすべての元素を指すが、本焼工程の最高温度以下にて消失、昇華、揮発、燃焼する原料およびその構成元素は、触媒の活性成分の構成元素に含めないものとする。また、成形工程における成形助剤や担体に含まれるケイ素およびその他の無機材料を構成する元素も、触媒の活性成分の構成元素として含まれないものとする。
本発明においてホットスポット温度とは、多管式反応管内の長軸方向に熱電対を設置し、測定される触媒充填層内の温度分布の最高温度であり、反応浴温度とは反応管の発熱を冷却する目的で使用される熱媒の設定温度である。上記温度分布の測定の点数には特に制限はないが、例えば触媒充填長を均等に10から1000に分割する。
本明細書において不飽和アルデヒドおよび不飽和アルデヒド化合物とは、分子内に少なくとも一つの二重結合と少なくとも一つのアルデヒドを有する有機化合物であり、たとえばアクロレイン、メタクロレインである。本発明において不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸化合物とは、分子内に少なくとも一つの二重結合と少なくとも一つのカルボキシ基、またはそのエステル基を有する有機化合物であり、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチルである。本明細書において共役ジエンとは、1つの単結合によって二重結合が隔てられ化学的に共役したジエンであり、たとえば1,3-ブタジエンである。
【実施例
【0050】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例において、転化率、有効収率、有効選択率、担持率は以下の式に従って算出した。
転化率(%)=(反応したプロピレンまたはt-ブチルアルコールまたはイソブチレンまたはn-ブテンのモル数)/(供給したプロピレンまたはt-ブチルアルコールまたはイソブチレンまたはn-ブテンのモル数)×100
有効収率(%)=(生成したアクロレインおよびアクリル酸またはメタクロレインおよびメタクリル酸またはブタジエンの合算モル数)/(供給したプロピレンまたはt-ブチルアルコールまたはイソブチレンまたはn-ブテンのモル数)×100
有効選択率(%)=(生成したアクロレインおよびアクリル酸またはメタクロレインおよびメタクリル酸またはブタジエンの合算モル数)/(反応したプロピレンまたはt-ブチルアルコールまたはイソブチレンまたはn-ブテンのモル数)×100
担持率(質量%)=(成形に使用した予備焼成粉体の質量)/{(成形に使用した予備焼成粉体の質量)+(成形に使用した担体の質量)}×100
【0051】
[実施例1](触媒1の調製)
ヘプタモリブデン酸アンモニウム100質量部を60℃に加温した純水380質量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸カリウム0.27質量部を純水2.4質量部に溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄40質量部、硝酸コバルト86質量部及び硝酸ニッケル30質量部を60℃に加温した純水83質量部に溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス18質量部を60℃に加温した純水19質量部に硝酸(60質量%)4.7質量部を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ母液1に加えた。この母液1(固形分濃度27質量%)をスプレードライ法にて入口温度240℃、出口温度120℃、アトマイザー回転数14000rpmで乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、4時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:0.8:2.1:6.3:2.2:0.06、嵩密度は0.88g/mL)に対して5質量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を用いて、不活性の担体に担持率が50質量%となるように球状に担持成形した。こうして得られた粒子径5.3mmの球状成形品について、540℃、4時間の条件で本焼成を行い、触媒1を得た。触媒1の触媒前駆体のD10は19μm、D50は35μm、D90は59μm、触媒前駆体の中空粒子率は1.0%であった。
【0052】
[実施例2](触媒2の調製)
実施例1において、スプレードライ工程にて入口温度240℃、出口温度130℃、アトマイザー回転数18000rpmで乾燥させた以外は、触媒1と全く同様にして触媒2を得た。触媒2の触媒前駆体のD10は13μm、D50は25μm、D90は43μm、触媒前駆体の中空粒子率は0.0%であった。
【0053】
[実施例3](触媒3の調製)
実施例1において、母液1の固形分濃度を14質量%とし、スプレードライ工程にて入口温度240℃、出口温度130℃、アトマイザー回転数18000rpmで乾燥させた以外は、触媒1と全く同様にして触媒3を得た。触媒3の触媒前駆体のD10は16μm、D50は30μm、D90は50μm、触媒前駆体の中空粒子率は0.8%であった。
【0054】
[実施例4](触媒4の調製)
実施例1において、母液1の固形分濃度を14質量%とし、スプレードライ工程にて入口温度240℃、出口温度130℃、アトマイザー回転数22000rpmで乾燥させた以外は、触媒1と全く同様にして触媒4を得た。触媒4の触媒前駆体のD10は14μm、D50は24μm、D90は40μm、触媒前駆体の中空粒子率は0.0%であった。
【0055】
[実施例5](触媒5の調製)
ヘプタモリブデン酸アンモニウム100質量部を60℃に加温した純水380質量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸カリウム0.37質量部を純水3.5質量部に溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄34質量部、硝酸コバルト81質量部及び硝酸ニッケル44質量部を60℃に加温した純水82質量部に溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス21質量部を60℃に加温した純水24質量部に硝酸(60質量%)5.8質量部を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ母液1に加えた。この母液1(固形分濃度27質量%)をスプレードライ法にて入口温度300℃、出口温度110℃、アトマイザー回転数18000rpmで乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、4時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:0.9:1.8:5.9:3.2:0.08、嵩密度は1.06g/mL)に対して5質量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を用いて、不活性の担体に担持率が50質量%となるように球状に担持成形した。こうして得られた粒子径5.3mmの球状成形品について、510℃、4時間の条件で本焼成を行い、触媒5を得た。触媒5の触媒前駆体のD10は16μm、D50は31μm、D90は55μm、触媒前駆体の中空粒子率は2.2%であった。
【0056】
[実施例6](触媒6の調製)
実施例5において、スプレードライ工程にて入口温度240℃、出口温度110℃、アトマイザー回転数14000rpmで乾燥させた以外は、触媒1と全く同様にして触媒6を得た。触媒6の触媒前駆体のD10は19μm、D50は37μm、D90は64μm、触媒前駆体の中空粒子率は2.3%であった。
【0057】
[比較例1](触媒7の調製)
実施例1において、スプレードライ工程にて入口温度300℃、出口温度95℃、アトマイザー回転数14000rpmで乾燥させた以外は、触媒1と全く同様にして触媒7を得た。触媒7の触媒前駆体のD10は26μm、D50は42μm、D90は66μm、触媒前駆体の中空粒子率は4.8%であった。
【0058】
[比較例2](触媒8の調製)
実施例1において、母液1の固形分濃度を55質量%とし、スプレードライ工程にて入口温度300℃、出口温度95℃、アトマイザー回転数14000rpmで乾燥させた以外は、触媒1と全く同様にして触媒8を得た。触媒8の触媒前駆体のD10は25μm、D50は43μm、D90は72μm、触媒前駆体の中空粒子率は4.5%であった。
【0059】
[比較例3](触媒9の調製)
ヘプタモリブデン酸アンモニウム100質量部を60℃に加温した純水380質量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸カリウム0.45質量部を純水45質量部に溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄38質量部、硝酸コバルト71質量部及び硝酸ニッケル38質量部を60℃に加温した純水76質量部に溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス36質量部を60℃に加温した純水41質量部に硝酸(60質量%)9.7質量部を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ母液1に加えた。この母液1をスプレードライ法にて入口温度240℃、出口温度110℃、アトマイザー回転数14000rpmで乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、4時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.6:2.0:5.2:2.8:0.10)に対して5質量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を用いて、不活性の担体に担持率が50質量%となるように球状に担持成形した。こうして得られた粒子径5.3mmの球状成形品について、530℃、4時間の条件で本焼成を行い、触媒9を得た。
【0060】
触媒1から触媒8を用いて、以下の方法によりプロピレンの酸化反応を実施し、有効収率を求めた。内径28.4mmステンレス鋼反応管のガス入口側に触媒9を25mL、ガス出口側に触媒1から触媒8の各々を45mL充填し、ガス体積比率がプロピレン:酸素:水蒸気:窒素=1.0:1.7:1.3:9.5の混合ガスを反応管内の全触媒に対するプロピレン空間速度100hr-1で導入し、プロピレンの酸化反応を実施した。反応浴温度315℃にて反応開始から20時間以上のエージング反応後、反応浴温度320℃周辺における反応管出口ガスの分析より、表1に示す原料転化率97.5%内挿における有効収率(UY)を求めた。結果を表1に示す。また、表1には各触媒の触媒前駆体の製造時のスプレードライ工程における、入口温度、出口温度、アトマイザー回転数、相対遠心加速度、母液1の固形分濃度、およびパラメーターSDが示されている。また、表1には、各触媒の触媒前駆体のD10、D50、D90、比表面積、および中空粒子率が示されている。なお、表1に示すD10、D50、D90、比表面積、および比表面積は、実施形態において例示した方法によって評価した。
【0061】
【表1】
【0062】
以上の結果より本発明の触媒前駆体により調製された触媒は、特に従来の触媒より高収率で目的化合物であるアクロレインおよびアクリル酸を得ることができることが確認された。
【0063】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本願は、2020年9月24日付で出願された日本国特許出願(特願2020-159209)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の触媒を使用することにより、不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物、又は共役ジエン化合物を酸化的に製造する場合に、目的化合物を高収率で得ることが可能である。
【要約】
累積の体積分率が50%となる粒子径である平均粒子径(D50)が10μm以上40μm以下である下記式(1)で表される触媒前駆体。
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1f1g1h1i1・・・(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン等、Yはカリウム等、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、XおよびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものである。)
図1
図2
図3
図4