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特許7105397触媒及びそれを用いた不飽和カルボン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】触媒及びそれを用いた不飽和カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/199 20060101AFI20220714BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20220714BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20220714BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
B01J27/199 Z
C07C51/235
C07C57/055 B
C07B61/00 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022524079
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002958
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2021010888
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小畑 友洋
(72)【発明者】
【氏名】川口 徹
(72)【発明者】
【氏名】平岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】酒井 秀臣
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163707(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/032609(WO,A1)
【文献】特開2011-177616(JP,A)
【文献】特開2005-095864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 51/235
C07C 57/055
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、銅及びバナジウムを必須成分として含み、アンモニア昇温脱離法によって250℃以上420℃以下の範囲に表れるピークの酸量(M)が1.35mmol/g以上2.00mmol/g以下である、不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項2】
前記酸量(M)が1.40mmol/g以上1.90mmol/g以下である、請求項1に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項3】
前記酸量(M)が1.50mmol/g以上1.85mmol/g以下である、請求項1に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項4】
アンモニア昇温脱離法によって100℃以上200℃以下の範囲に表れるピークの酸量(L)が0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項5】
アンモニア昇温脱離法によって420℃以上550℃以下の範囲に表れるピークの酸量(H)が0.02mmol/g以上0.15mmol/g以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項6】
更に砒素を必須成分として含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項7】
触媒活性成分が下記式(1)で表される組成を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。

Mo10a1b1Cuc1Asd1e1f1g1(1)

(式中、Mo、V、P、Cu、As及びOは、それぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、砒素及び酸素を表す。XはAg、Mg、Zn、Al、B、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Sb、Cr、Re、Bi、W、Fe、Co、Ni、Ce及びThからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。YはK、Rb、Cs及びTlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1、f1及びg1は、各元素の原子比を表し、a1は0.1≦a1≦6、b1は0≦b1≦6、c1は0<c1≦3、d1は0<d1<3、e1は0≦e1≦3、f1は0≦f1≦3、g1は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)
【請求項8】
前記式(1)で表される組成を有する触媒活性成分が下記式(I)の関係を満たす、請求項7に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。

0.6 ≦ a1/c1 ≦ 1.7・・・(I)
【請求項9】
前記式(1)で表される組成を有する触媒活性成分が下記式(II)の関係を満たす、請求項7又は8に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。

-0.5 ≦ (a1-c1)/d1 ≦ 0.4・・・(II)
【請求項10】
不活性担体に触媒活性成分が担持された触媒である、請求項1から9のいずれか一項に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項11】
前記不活性担体がシリカ及び/又はアルミナである、請求項10に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の不飽和カルボン酸化合物製造用触媒を用いた不飽和カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項13】
不飽和カルボン酸化合物がメタクリル酸である請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化反応によって、不飽和カルボン酸を得る為の触媒に関し、従来の触媒より高選択的に目的物を得ることができる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和カルボン酸を製造するために使用される触媒として数多くの触媒が提案されている。不飽和カルボン酸の中でもメタクリル酸を製造するための触媒はモリブデン、リンを主成分とするもので、ヘテロポリ酸及び/又はその塩の構造を有するものである。また、これら触媒の製造方法についても同様に数多く提案されている。
【0003】
メタクリル酸製造用触媒についてはこれまで多くの提案がされている。特許文献1ではヘテロポリ酸部分中和塩の触媒前駆体を少なくとも2回、ガス流通下に350℃~500℃の温度で1時間~30時間熱処理を行い、各回の熱処理の間に触媒前駆体を250℃まで一旦冷却し、かつ、各回の熱処理温度の差を30℃以内とするメタクリル酸製造用触媒が提案されている。
【0004】
特許文献2には、触媒原料を少なくとも2つに分けて、調合槽と混合槽とが異なることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造法が提案されている。特許文献3ではX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率に着目した技術が開示されている。その他、非特許文献1ではヘテロポリ酸触媒の酸量と反応成績に関して記載されている。
【0005】
これら公知技術について、特許文献1では2段階の焼成工程を経るため、経済的ではなく、安定した触媒の製造方法に懸念がある。特許文献2では調合槽と混合槽を2つに分けていることから作業効率及び安定した触媒の製造方法に懸念がある。特許文献3ではメタクリル酸の収率において更なる改善が求められている。非特許文献1ではヘテロポリ酸触媒の最適な酸量について明らかになっていない。また特許文献1から3のようにして得られた触媒は反応成績がまだ十分ではなく、工業触媒としての使用に際しては更に改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特許第3581038号公報
【文献】日本国特許第6341094号公報
【文献】日本国特許第6628386号公報
【文献】日本国特開2012-115825号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Molecular Catalysis 438(2017)47-54
【文献】小野嘉夫、鈴木勲著 「吸着と科学と応用」講談社サイエンティフィク、2009年3月10日、P104~P107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた選択率で不飽和カルボン酸を安定して製造できる触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討の結果、モリブデン、銅及びバナジウムを必須成分とし、アンモニア昇温脱離法による触媒の酸量(M)が1.35mmol/g以上2.00mmol/g以下である触媒が高い不飽和カルボン酸選択率を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下1)~12)に関する。
1)
モリブデン、銅及びバナジウムを必須成分として含み、アンモニア昇温脱離法によって250℃以上420℃以下の範囲に表れるピークの酸量(M)が1.35mmol/g以上2.00mmol/g以下である、触媒。
2)
前記酸量(M)が1.40mmol/g以上1.90mmol/g以下である、上記1)に記載の触媒。
3)
上記酸量(M)が1.50mmol/g以上1.85mmol/g以下である、上記1)に記載の触媒。
4)
アンモニア昇温脱離法によって100℃以上200℃以下の範囲に表れるピークの酸量(L)が0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下である、上記1)から3)のいずれか一項に記載の触媒。
5)
アンモニア昇温脱離法によって420℃以上550℃以下の範囲に表れるピークの酸量(H)が0.02mmol/g以上0.15mmol/g以下である、上記1)から4)のいずれか一項に記載の触媒。
6)
更に砒素を必須成分として含む、上記1)から5)のいずれか一項に記載の触媒。
7)
触媒活性成分が下記式(1)で表される組成を有する、上記1)から6)のいずれか一項に記載の触媒。

Mo10a1b1Cuc1Asd1e1f1g1(1)

(式中、Mo、V、P、Cu、As及びOは、それぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、砒素及び酸素を表す。XはAg、Mg、Zn、Al、B、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Sb、Cr、Re、Bi、W、Fe、Co、Ni、Ce及びThからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。YはK、Rb、Cs及びTlからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1、f1及びg1は、各元素の原子比を表し、a1は0.1≦a1≦6、b1は0≦b1≦6、c1は0<c1≦3、d1は0<d1<3、e1は0≦e1≦3、f1は0≦f1≦3、g1は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)

8)
上記式(1)で表される組成を有する触媒活性成分が下記式(I)の関係を満たす、上記7)に記載の触媒。

0.6 ≦ a1/c1 ≦ 1.7・・・(I)

9)
上記式(1)で表される組成を有する触媒活性成分が下記式(II)の関係を満たす、上記7)又は8)に記載の触媒。

-0.5 ≦ (a1-c1)/d1 ≦ 0.4・・・(II)

10)
不活性担体に触媒活性成分が担持された触媒である、上記1)から9)のいずれか一項に記載の触媒。
11)
上記不活性担体がシリカ及び/又はアルミナである、上記10)に記載の触媒。
12)
触媒が不飽和カルボン酸化合物の製造用である、上記1)から11)のいずれか一項に記載の触媒。
13)
上記1)から12)のいずれか一項に記載の触媒を用いた不飽和カルボン酸化合物の製造方法。
14)
不飽和カルボン酸化合物がメタクリル酸である上記13)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モリブデン、銅及びバナジウムを必須成分とする高選択率で目的物を得ることができる触媒の提供が可能である。従ってそれを用いた気相接触酸化反応では、より高選択率かつ安定に目的物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の触媒の酸量測定における測定データを示すグラフである。
図2】比較例1の触媒の酸量測定における測定データを示すグラフである。
図3】比較例1の触媒の酸量測定における単位換算前のスペクトルデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[触媒(A)について]
本発明の触媒は、モリブデン、銅及びバナジウムを必須成分として含む複合酸化物触媒であり、かつアンモニア昇温脱離法によって250℃以上420℃以下の範囲に表れるピークの酸量(M)が1.35mmol/g以上2.00mmol/g以下であることを特徴とする。「アンモニア昇温脱離法によって250℃以上420℃以下の範囲に表れるピークの酸量(M)」とは「アンモニア昇温脱離法によって測定される触媒の、250℃以上420℃以下の範囲に表れるピークから求まる酸量(M)」である。なお、本明細書において、上記構成を有する触媒を触媒(A)と記載する。
【0014】
上記触媒(A)においてアンモニア昇温脱離法による触媒の酸量(M)の上限は2.00mmol/gであり、また更に好ましい順に1.95mmol/g、1.90mmol/g、1.85mmol/g、1.80mmol/g、1.75mmol/gであり、特に好ましくは1.70mmol/g以下である。
また酸量(M)の下限は1.35mmol/gであり、また更に好ましい順に1.40mmol/g、1.45mmol/g、1.50mmol/gである。すなわち触媒(A)の酸量(M)として最も好ましくは、1.50mmol/g以上1.70mmol/g以下である。この酸量であることにより、目的化合物への酸化反応以外の副反応を抑制し、最終生成物である不飽和カルボン酸化合物を安定に高選択率、高収率で得ることができる。
【0015】
本発明の触媒の一例をアンモニア昇温脱離スペクトル(例えば「BELCAT-B」、日本ベル株式会社製等で測定可能)にて測定すると、100℃以上200℃以下の範囲に1つのピーク(この酸量の値を酸量(L)と表記する)を有しており、250℃以上420℃以下の範囲に1つのピーク(この酸量の値を酸量(M)と表記する)を有しており、420℃以上550℃以下の範囲に1つのピーク(この酸量の値を酸量(H)と表記する)を有していた。この例では100℃以上200℃以下の範囲のピークの頂点は120℃付近に存在し、250℃以上420℃以下の範囲のピークの頂点は390℃付近に存在し、420℃以上550℃以下の範囲のピークの頂点は480℃付近に存在した。本明細書で、単に酸量という場合には、250℃以上420℃以下の範囲に存在するピークの酸量(M)を意味する場合がある。なお、本発明の触媒は、250℃以上420℃以下の範囲に複数、例えば2つのピークトップを持っていてもよく、この場合には酸量(M)は複数のピークの酸量の合計となる。また、420℃を超えてピークのすそが延びていても420℃以下にピークトップを有するのであれば、酸量(M)として算出される。なお、酸量を正確に測定するためには、ベースライン補正をかける。ベースライン補正の方法は、ピークの始点と終点を用いる当業者に公知の方法で良い。例えば、図1では、100℃の点、200℃から300℃の間の最下点、350℃から450℃の間の最下点、500℃から600℃の間の最下点を結ぶことでつくる直線をベースラインとして、補正をかける方法である。
なお触媒の酸量(M)を調整する方法としては、組成変更、焼成時間、焼成雰囲気、スラリー乾燥体を成型する際のバインダー、等があげられるが、特に組成を変更する方法、及び焼成温度を上げ、又は焼成時間を延ばす方法が効果的である。
例えば、焼成温度としては、同一組成であっても10℃~40℃焼成温度を上げることで、酸量(M)を0.1~0.6mmol/g程度下げることができる。また同様に焼成時間を1~3時間程度短くすることで、酸量(M)を0.1~0.6mmol/g程度下げることができる。
【0016】
酸量(L)については、0.05mmol/g以上0.50mmol/g以下である場合が好ましく、更に好ましくは0.06mmol/g以上0.40mmol/g以下であり、特に好ましくは0.07mmol/g以上0.39mmol/g以下であり、最も好ましくは0.08mmol/g以上0.38mmol/g以下である。
酸量(H)については、0.02mmol/g以上0.15mmol/g以下である場合が好ましく、更に好ましくは0.02mmol/g以上0.10mmol/g以下であり、特に好ましくは0.03mmol/g以上0.10mmol/g以下であり、最も好ましくは0.03mmol/g以上0.09mmol/g以下である。
【0017】
触媒(A)の触媒活性成分の好ましい組成は、下記一般式(1)で表される。
[化1]
Mo10a1b1Cuc1Asd1e1f1g1(1)
ここで、Mo、V、P、Cu、As及びOは、それぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、砒素及び酸素を表す。XはAg(銀)、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)、Al(アルミニウム)、B(ホウ素)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、Pb(鉛)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Sb(アンチモン)、Cr(クロム)、Re(レニウム)、Bi(ビスマス)、W(タングステン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ce(セリウム)及びTh(トリウム)からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。YはK(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)及びTl(タリウム)からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1、f1及びg1は、各元素の原子比を表し、a1は0.1≦a1≦6、b1は0≦b1≦6、c1は0<c1≦3、d1は0<d1<3、e1は0≦e1≦3、f1は0≦f1≦3、g1は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。また本発明における組成は活性成分を意味し、不活性担体としては炭化珪素、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム、ステアタイト等を用いることができる。
【0018】
上記式(1)の組成において、Xとして好ましいものは、Zn、Ag、Fe、Sbであり、更に好ましくはAg、Fe、Sbであり、特に好ましくはFe、Sbであり、最も好ましくはSbである。
【0019】
上記式(1)の組成において、Yとして好ましいものは、K、Rb、Csであり、更に好ましくは、K、Csであり、最も好ましくはCsであるが、Y成分を含まない触媒は特に本発明の効果が顕著に表れる傾向にある。
【0020】
上記式(1)の組成において、a1~g1の好ましい範囲は以下である。
a1の下限は好ましい順に、0.2、0.25、0.3、0.35であり、最も好ましくは0.4である。a1の上限は望ましい順に、5、3、2、1、0.8、0.7、0.62であり、最も好ましくは0.6である。すなわちa1の最も好ましい範囲は、0.4≦a1≦0.6である。
b1の下限は好ましい順に、0、0.1、0.3、0.5、0.7、0.9、1.0、であり、最も好ましくは1.05である。b1の上限は好ましい順に、5、4、3、2であり、最も好ましくは1.5である。すなわちb1の最も好ましい範囲は、1.05≦b1≦1.5である。
c1の下限は好ましい順に、0.1、0.2、0.3であり、最も好ましくは0.4である。c1の上限は好ましい順に、2、1.5、1.2、1.0、0.8であり、最も好ましくは0.6である。すなわちc1の最も好ましい範囲は、0.4≦c1≦0.6である。
d1の下限は好ましい順に、0、0.1、0.2、0.3、0.4であり、最も好ましくは0.45である。d1の上限は好ましい順に、2、1.5、1.2、1.0、0.8であり、最も好ましくは0.55である。すなわちd1の最も好ましい範囲は、0.45≦d1≦0.55である。
e1の上限は好ましい順に、2、1.5、1、0.5、0.1、0.06であり、最も好ましくは0.065である。なおe1の下限は0であり、Xは含有しない、すなわちe1=0が触媒(A)の最も好ましい組成である。
f1の上限は好ましい順に、2、1.5、1、0.5、0.1、最も好ましくは0.05である。なおf1の下限は0であり、Yは含有しない、すなわちf1=0が触媒(A)の最も好ましい組成である。
【0021】
前記式(1)において、a1とc1の関係が上記式(I)を満たす場合、触媒(A)として特に好ましい触媒組成である。
a1/c1の上限は好ましい順に1.65、1.6、1.55、1.5、1.45、1.4、1.35であり、特に好ましくは1.3である。また下限としては好ましい順に、0.65、0.7、0.75、0.8であり、特に好ましくは0.85である。従って、a1/c1の最も好ましい範囲は、0.85≦a1/c1≦1.3である。
前記式(1)において、a1、c1、d1の関係が上記式(II)を満たす場合、触媒(A)として特に好ましい触媒組成である。
(a1-c1)/d1の上限は好ましい順に0.38、0.37、0.35、0.34であり、特に好ましくは0.33である。また下限としては好ましい順に、-0.48、-0.46、-0.44、-0.42、-0.40、-0.38であり特に好ましくは-0.36である。従って、(a1-c1)/d1の最も好ましい範囲は、-0.36≦(a1-c1)/d1≦0.33である。
【0022】
[触媒(A)の製造方法]
触媒(A)の製造方法は、(a)上記金属をそれぞれ又は複数含む化合物を水に分散し、これらの化合物の水溶液又は水分散体(以下、両者を含めてスラリー液という)を調製する工程、(b)工程(a)で得られたスラリー液を乾燥してスラリー乾燥体を得る工程、(c)工程(b)で得られたスラリー乾燥体を成型する工程、(d)工程(c)で得られた被覆成型物を焼成する工程が含まれる。以下、工程ごとに好ましい実施形態を記載するが、本発明の実施においては、下記実施形態に限られるものではない。
【0023】
工程(a)は活性成分元素を含む化合物を準備する工程、それら化合物と水とを混合する工程を含む。
工程(a)においては本発明の触媒の必須の活性成分元素及び任意の活性成分元素を含む化合物を用いる。前記化合物を例示すると、活性成分元素の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物又は酢酸塩等が挙げられる。好ましい化合物をより具体的に例示すると硝酸コバルト等の硝酸塩、酢酸銅等の酢酸塩、酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化銅、三酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化亜鉛又は酸化ゲルマニウム等の酸化物、正リン酸、リン酸、硼酸、リン酸アルミニウム又は12タングストリン酸等の酸(又はその塩)等が挙げられるが、これらに限られない。これら活性成分を含む化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。工程(a)では、各活性成分を含む化合物と水とを均一に混合し、スラリー液を得る。前記スラリー液においては、全ての成分が水に溶解している必要は無く、その一部または全体が懸濁状態であっても差し支えない。スラリー液における水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はない。工程(b)における乾燥方法や乾燥条件を勘案して、水の使用量を適宜決定すれば良い。通常、水の量はスラリー液調製用化合物の合計質量100部に対して、200~2000部程度である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると工程(b)の乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、又完全に乾燥できない場合も生ずるなどのデメリットが多い。
【0024】
本発明において、工程(a)において用いられる攪拌機の攪拌翼の形状は特に制約はなく、プロペラ翼、タービン翼、パドル翼、傾斜パドル翼、スクリュー翼、アンカー翼、リボン翼、大型格子翼などの任意の攪拌翼を1段あるいは上下方向に同一翼または異種翼を2段以上で使用することができる。また、反応槽内には必要に応じてバッフル(邪魔板)を設置しても良い。
【0025】
工程(b)では工程(a)で得られたスラリー液を完全に乾燥させる。前記乾燥の方法には特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリー液を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリー液の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の出口における温度が70~150℃である。
【0026】
工程(c)は工程(b)で得られたスラリー乾燥体を焼成する工程(本工程は必須ではない)、スラリー乾燥体を添加剤と混合する工程、スラリー乾燥体又はスラリー乾燥体と添加剤の混合物を成型する工程を含む。
工程(c)では工程(b)で得られたスラリー乾燥体を成型する。なお、スラリー乾燥体を250℃から350℃程度で焼成してから成型すると、機械的強度や触媒性能が向上する場合があるので、成型前にスラリー乾燥体を焼成してもよい。成型方法は特に制約はなく、酸化反応において反応ガスの圧力損失を小さくするために、スラリー乾燥体を柱状物、錠剤、リング状、球状等に成型する他、不活性担体にスラリー乾燥体を被覆してもよい。このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから、不活性担体にスラリー乾燥体を被覆し、被覆触媒とするのが好ましい。この被覆工程は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰返しにより激しく攪拌させ、ここにバインダーと工程(b)で得られたスラリー乾燥体並びにこれらに、必要により、他の添加剤例えば成型助剤、強度向上剤を添加した被覆用混合物を担体に被覆する方法である。バインダーの添加方法は、1)前記被覆用混合物に予め混合しておく、2)被覆用混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、3)被覆用混合物を固定容器内に添加した後に添加、4)被覆用混合物を固定容器内に添加する前に添加、5)被覆用混合物とバインダーをそれぞれ分割し、2)~4)を適宜組み合わせて全量添加する等の方法が任意に採用しうる。このうち5)においては、例えば被覆用混合物の固定容器壁への付着、被覆用混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担時されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。バインダーは水/または1気圧以下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種/またはそれらの水溶液であることが好ましい。水以外のバインダーの具体例としてはメタノール、エタノール、プロパノール類、ブタノール類等のアルコール、好ましくは炭素数1~4のアルコール、エチルエーテル、ブチルエーテル又はジオキサン等のエーテル、酢酸エチル又は酢酸ブチル等のエステル、アセトン又はメチルエチルケトン等のケトン等並びにそれらの水溶液が挙げられ、特にエタノールが好ましい。バインダーとしてエタノールを使用する場合、エタノール/水=10/0~0/10(質量比)、好ましくは水と混合し9/1~1/9(質量比)とすることが好ましい。これらバインダーの使用量は、被覆用混合物100質量部に対して通常2~60質量部、好ましくは10~50質量部である。
【0027】
上記被覆における不活性担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム、ステアタイト等が挙げられ、好ましくは炭化珪素、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ステアタイト、更に好ましくはアルミナ、シリカ、シリカアルミナである。担体の直径としては1~15mm、好ましくは2.5~10mmの球形担体等が挙げられる。担体中の当該成分は90質量%以上が好ましく、更に好ましくは95質量%以上である。これら担体は通常は10~70%の空孔率を有するものが用いられる。担体と被覆用混合物の割合は通常、被覆用混合物/(被覆用混合物+担体)=10~75質量%、好ましくは15~60質量%となる量を使用する。被覆用混合物の割合が大きい場合、被覆触媒の反応活性は大きくなるが、機械的強度が小さくなる傾向にある。逆に、被覆用混合物の割合が小さい場合、機械的強度は大きいが、反応活性は小さくなる傾向がある。なお、前記において、必要により使用する成型助剤としては、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等が挙げられる。成型助剤の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~60質量部である。また、更に必要により触媒活性成分及び反応ガスに対して不活性な無機繊維(例えば、セラミックス繊維又はウィスカー等)を強度向上剤として用いることは、触媒の機械的強度の向上に有用である。これら繊維の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~30質量部である。また本発明における不活性担体とは原料及び生成物に活性を持たない担体であり、例えば一般的に公知である反応条件におけるメタクロレインの転化率が3.0%以下であることが挙げられる。
【0028】
工程(d)では工程(c)で得られた成型された工程(b)の乾燥体又は被覆触媒を焼成する。前記乾燥体又は被覆触媒はそのまま触媒として接触気相酸化反応に供することもできるが、焼成すると構造が安定すること、また、触媒性能が向上することから、焼成することが好ましい。また、焼成温度が高すぎるとヘテロポリ酸が分解し、触媒性能が低下することがあるため、焼成温度は通常100~400℃、好ましくは250℃~380℃、更に好ましくは270℃~360℃、特に好ましくは290℃~340℃である。焼成時間は短すぎるとヘテロポリ酸の構造が不安定となって触媒性能が低下することが懸念され、長すぎると触媒の製造効率が低下する。通常の焼成時間は1~20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素のような不活性ガス雰囲気下もしくはエタノールのような還元ガス雰囲気で行ってもよい。不活性ガスもしくは還元ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。上記のようにして得られた焼成後の被覆触媒全体に対する活性成分の割合は、10~60質量%である。
【0029】
上記の本発明の触媒の製造法により得られた本発明の触媒は、不飽和アルデヒドを分子状酸素により気相接触酸化して不飽和カルボン酸を得る反応において用いられる。中でもメタクロレインを気相接触酸化することによるメタクリル酸の製造に好適に用いられる。
【0030】
気相接触酸化反応には分子状酸素又は分子状酸素含有ガスが使用される。メタクロレイン等の不飽和アルデヒドに対する分子状酸素の使用割合は、モル比で0.5~20の範囲が好ましく、特に1~10の範囲が好ましい。例えば、反応を円滑に進行させることを目的として、原料ガス中に水をメタクロレインに対しモル比で1~20の範囲で添加することが好ましい。原料ガスは酸素、必要により水(通常水蒸気として含む)の他に窒素、炭酸ガス、飽和炭化水素等の反応に不活性なガス等を含んでいてもよい。
【0031】
また、原料となる不飽和アルデヒドは、その原料であるアルケン化合物、アルコール化合物、エーテル化合物を酸化して得られた不飽和アルデヒドを含むガスをそのまま用いてもよい。メタクロレインの場合はイソブチレン、第三級ブタノール、及びメチルターシャリーブチルエーテルを酸化して得られたメタクロレインを含むガスをそのまま供給してもよい。
【0032】
気相接触酸化反応における反応温度は通常200~400℃、好ましくは260~360℃、原料ガスの供給量は空間速度(SV)にして、通常100~6000hr-1、好ましくは300~3000hr-1である。また、気相接触酸化反応は加圧下または減圧下でも可能であるが、一般的には大気圧付近の圧力が適している。
【0033】
また、本発明の触媒を使用して不飽和カルボン酸を製造する際、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒドを製造する触媒に制限はないが、例えば特許文献4に記載のモリブデン、ビスマスを含む複合酸化物触媒を使用すると好ましい。
[酸量(M)の測定方法]
触媒の酸量(M)の測定方法は、触媒の酸量や、酸点の強さなどを表す指標として幅広く用いられている。
一般的には、測定対象の触媒0.01グラムから2グラムを目安に秤量し、真空脱気等の前処理を行う。
所望の温度でアンモニアを含むガスを一定時間供給することで、触媒にアンモニアを飽和吸着させる。
ヘリウムなどの不活性ガスの流通下で触媒を昇温することで吸着したアンモニアを脱離させ、各温度に対するアンモニアの脱離速度を測定することにより昇温脱離スペクトルを得る。
昇温脱離スペクトルから面積を計算し、酸量(M)を求める。
酸量(M)の測定方法としてはこれらの手法が一般的であり、より詳細には非特許文献1などを参照できる。当然のことながら、アンモニア昇温脱離法の実験条件は科学的に妥当な条件である範囲で、測定対象の触媒の物性や測定装置の特性を鑑み、適宜設定されるものである。
【実施例
【0034】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において「部」は重量部を、「%」は重量%をそれぞれ意味する。
【0035】
[実施例1]
1)触媒の調製
純水7100部に酸化モリブデン1000部、五酸化バナジウム37.91部、酸化第二銅22.11部、85%の燐酸水溶液88.08部、及び60%の砒酸水溶液98.60部を添加し、92℃で10時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を噴霧乾燥しスラリー乾燥体を得た。原料仕込み量から求めた、触媒活性成分固体の組成は、Mo-10、V-0.6、P-1.1、As-0.6、Cu-0.4である。
次いで得られたスラリー乾燥体214部、強度向上材(アルミナ-シリカ繊維)29.8部を均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)200部に90%エタノール水溶液約30部をバインダーとして被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において310℃で6時間かけて焼成を行い本発明の触媒(被覆触媒)を得た。
【0036】
2)メタクリル酸の製造
得られた本発明の被覆触媒40.2mlを内径18.4mmのステンレス反応管に充填し、原料ガス(組成(モル比);メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=1:2:4:18.6)、空間速度(SV)900hr-1の条件で、メタクロレインの酸化反応を実施した。反応浴温度を290℃から330℃の間に調整し、メタクロレイン転化率77mоl%の時のメタクリル酸選択率を算出した。
なお転化率、選択率は次の通りに定義される。
転化率=反応したメタクロレインのモル数/供給したメタクロレインのモル数×100
選択率=生成したメタクリル酸のモル数/反応したメタクロレインのモル数×100
【0037】
3)酸量測定
得られた触媒の酸量(M)、酸量(L)、酸量(H)の評価は、次の装置および条件で行った。
使用装置:(日本ベル株式会社製BELCAT-B)
試料重量:0.08g
測定の前処理:ヘリウム雰囲気下、310℃で1時間処理した後、アンモニアガスを100℃で30分間吸着させる。
測定中の昇温速度:1℃/min
測定最大温度:610℃
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:50sccm
測定結果を表1、及び測定データを図1に示す。
【0038】
[実施例2]
1)触媒の調製
純水7100部に酸化モリブデン1000部、五酸化バナジウム39.17部、酸化第二銅24.87部、85%の燐酸水溶液93.69部、及び60%の砒酸水溶液82.16部を添加し、92℃で10時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液に三酸化アンチモン7.09部を加え、4時間加熱攪拌して濃緑色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を噴霧乾燥しスラリー乾燥体を得た。原料仕込み量から求めた、触媒活性成分固体の組成は、Mo-10、V-0.6、P-1.2、As-0.5、Cu-0.5、Sb-0.1である。
次いで得られたスラリー乾燥体214部、強度向上材(アルミナ-シリカ繊維)29.8部を均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.5mm)200部に90%エタノール水溶液約30部をバインダーとして被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において310℃で6時間かけて焼成を行い本発明の触媒(被覆触媒)を得た。
【0039】
[実施例3]
実施例1において五酸化バナジウム37.91部を31.59部、酸化第二銅22.11部を27.63部、85%の燐酸水溶液88.08部を96.09部、60%の砒酸水溶液98.60部を82.16部にした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製した。原料仕込み量から求めた、触媒活性成分固体の組成は、Mo-10、V-0.5、P-1.2、As-0.5、Cu-0.5である。
【0040】
[実施例4]
実施例1において五酸化バナジウム37.91部を25.27部、酸化第二銅22.11部を33.16部、60%の砒酸水溶液98.60部を82.16部にした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製した。原料仕込み量から求めた、触媒活性成分固体の組成は、Mo-10、V-0.4、P-1.1、As-0.5、Cu-0.6である。
【0041】
[実施例5]
実施例1において五酸化バナジウム37.91部を31.59部、酸化第二銅22.11部を27.63部、60%の砒酸水溶液98.60部を82.16部にした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製した。原料仕込み量から求めた、触媒活性成分固体の組成は、Mo-10、V-0.5、P-1.1、As-0.5、Cu-0.5である。
【0042】
[実施例6]
実施例1において焼成時間を6時間から4時間にした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製した。
【0043】
[実施例7]
実施例2において焼成時間を6時間から4時間にした以外は実施例2と同様の方法で触媒を調製した。
【0044】
[実施例8]
実施例2において五酸化バナジウム39.17部を37.91部、酸化第二銅24.87部を22.11部、85%の燐酸水溶液93.69部を96.09部、三酸化アンチモン7.09部を5.06部、焼成時間を6時間から4時間にした以外は実施例2と同様の方法で触媒を調製した。原料仕込み量から求めた、触媒活性成分固体の組成は、Mo-10、V-0.6、P-1.2、As-0.5、Cu-0.4、Sb-0.1である。
【0045】
[比較例1]
実施例1において五酸化バナジウム37.91部を44.23部、酸化第二銅22.11部を11.05部、60%の砒酸水溶液98.60部を82.16部、焼成時間を6時間から4時間にした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製した。原料仕込み量から求めた、触媒活性成分固体の組成は、Mo-10、V-0.7、P-1.1、As-0.5、Cu-0.2である。
【0046】
[比較例2]
実施例1において五酸化バナジウム37.91部を31.59部、酸化第二銅22.11部を5.53部、85%の燐酸水溶液88.08部を112.10部、60%の砒酸水溶液98.60部を115.03部にした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製した。原料仕込み量から求めた、触媒活性成分固体の組成は、Mo-10、V-0.5、P-1.4、As-0.7、Cu-0.1である。
【0047】
実施例1と同様の方法に従って、実施例2~8および比較例1~2の触媒を使用したメタクリル酸の製造、および当該触媒の酸量(M)、酸量(L)、酸量(H)の測定を行った。これらの結果を、実施例1の触媒の結果と併せて表1に示す。また、参考のために比較例1の測定データを図2に示す。なお、図2は横軸を温度[℃]、縦軸を触媒の酸量[mmоl/g]に換算したものであり、換算前の比較例1のスペクトルデータを参考のために図3に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1において明らかな通り、実施例の本発明の触媒はメタクリル酸選択率が比較例の触媒に比較して高い。
【0050】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本願は、2021年1月27日付で出願された日本国特許出願(特願2021-10888)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、モリブデン、銅及びバナジウムを必須成分とする高選択率で目的物を得ることができる触媒を提供する。従ってそれを用いた気相接触酸化反応では、より高選択率、高収率かつ安定に目的物を得ることができる。
【要約】
モリブデン、銅及びバナジウムを必須成分として含み、アンモニア昇温脱離法によって250℃以上420℃以下の範囲に表れるピークの酸量(M)が1.35mmol/g以上2.00mmol/g以下である、触媒。
図1
図2
図3