(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】水素担持粉末の製造方法および水素担持粉末
(51)【国際特許分類】
C01B 3/00 20060101AFI20220715BHJP
C01F 11/18 20060101ALI20220715BHJP
C01B 37/00 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C01F11/18 Z
C01B37/00
(21)【出願番号】P 2018028090
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2021-02-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (A)平成29年8月25日に、「https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2017a/subject/6a-A401-9/advanced」のウェブサイトで公開された「第78回応用物理学会秋季学術講演会」の予稿集において発表 (B)平成29年9月6日に、「第78回応用物理学会秋季学術講演会」において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】508098958
【氏名又は名称】株式会社アッチェ
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596148629
【氏名又は名称】中部キレスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592211194
【氏名又は名称】キレスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】南部 景樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】小松 啓志
(72)【発明者】
【氏名】奥田 瑠惟
(72)【発明者】
【氏名】南部 信義
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 治
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳
(72)【発明者】
【氏名】南部 忠彦
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-041990(JP,A)
【文献】特開2014-228439(JP,A)
【文献】特開2002-206415(JP,A)
【文献】特開2005-204608(JP,A)
【文献】特開2004-113906(JP,A)
【文献】国際公開第97/008963(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00
C01F 11/18
C01B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度が-200℃以上100℃以下、水素濃度が5vol%以上100vol%以下、且つ圧力が
10MPa以上のガス雰囲気下において、炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末を高圧水素処理する工程を含むことを特徴とする水素担持粉末の製造方法。
【請求項2】
前記圧力
が100MPa以下である請求項1に記載の水素担持粉末の製造方法。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末におけるCa:Mg比が30:70~99:1である請求項1または2に記載の水素担持粉末の製造方法。
【請求項4】
炭酸カルシウムマグネシウムを含み、
水分と接触することにより、水素担持粉末1g当たり
6.81μL以上100μL以下の水素ガスを発生し、
水素が物理吸着されていることを特徴とする水素担持粉末。
【請求項5】
前記炭酸カルシウムマグネシウムにおけるCa:Mg比が30:70~99:1である請求項4に記載の水素担持粉末。
【請求項6】
生物由来の炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末から形成される請求項4または5に記載の水素担持粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素担持粉末の製造方法および水素担持粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、活性酸素の除去、癌の抑制、及びダイエット等に効果的に作用する可能性を有する食品として水素水が各社から提供されており、水素水に対する期待は高まっている。水素水とは、水素分子(水素ガス)の濃度を高めた水であり、水素水の製造に利用可能な材料が種々検討されている。
【0003】
高濃度の水素水を製造する方法としては、例えば、気体状態の水素を1気圧以上かつ10気圧未満に加圧して、容器内の水と混合して水と前記水素を接触させる水素水の製造方法(特許文献1)や、水素等の気体を、水等の液体溶媒中において極微細気泡の状態で分散させる方法(特許文献2)等が提供されている。
【0004】
また近年では、水素分子の摂取形態の一つとして、固体の担体に水素を担持させ、水と接触すると同時に水素分子を放出させるものが開発されている。水素を担持させた担体であれば、必要な時に水素水を作製でき、またサンゴカルシウムのような自然由来の担体を使用すれば、水素担持担体をそのまま飲用できるとして注目を浴びている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-150472号公報
【文献】特許第5746411号公報
【文献】特許第4404657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、水素分子は分子サイズが非常に小さいため、水素水を製造しても、水素水中の水素分子は容器を簡単に透過してしまい、経時的に溶存水素濃度が低下する傾向にあり、昨今では、水素水用の容器としては、アルミラミネート容器やアルミ缶等の水素透過性の低い容器が採用されている。しかし、いくら水素透過性の低い容器を採用しても、容器を開栓すると同時に溶存している水素が急速に抜けていくため、開栓後において水素水を長期保存することは容易ではない。
【0007】
一方で、水素分子を固体の担体に担持させようとしても、特許文献3に記載される製造方法では、700℃で4時間酸化焼成した後に、更にN2・H2ガス雰囲気で650℃で4時間の還元焼成が必須なため、熱処理に多大なコストを要するため、低コストで水素担持粉末を製造できない。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストで、高濃度で水素を担持した水素担持粉末を製造できる新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ある所定の温度、水素濃度、及び圧力のガス雰囲気下において、炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末を高圧水素処理することにより、低コストで、高濃度で水素を担持した水素担持粉末を製造できる新たな方法が提供されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明に係る水素担持粉末の製造方法は、以下の点に要旨を有する。
[1] 温度が-200℃以上100℃以下、水素濃度が5vol%以上100vol%以下、且つ圧力が大気圧超のガス雰囲気下において、炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末を高圧水素処理する工程を含むことを特徴とする水素担持粉末の製造方法。
[2] 前記圧力が0.2MPa以上100MPa以下である[1]に記載の水素担持粉末の製造方法。
[3] 前記炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末におけるCa:Mg比が30:70~99:1である[1]または[2]に記載の水素担持粉末の製造方法。
【0011】
また本発明に係る水素担持粉末は、以下の点に要旨を有する。
[4] 炭酸カルシウムマグネシウムを含み、水分と接触することにより、水素担持粉末1g当たり0.1μL以上100μL以下の水素ガスを発生し、水素が物理吸着されていることを特徴とする水素担持粉末。
[5] 前記炭酸カルシウムマグネシウムにおけるCa:Mg比が30:70~99:1である[4]に記載の水素担持粉末。
[6] 生物由来の炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末から形成される[4]または[5]に記載の水素担持粉末。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高濃度で水素を担持した水素担持粉末の製造方法が提供される。本発明に係る水素担持粉末の製造方法は、炭酸カルシウムマグネシウムの熱処理工程を要さないため、低コストに水素担持粉末を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<水素担持粉末の製造方法>
本発明に係る水素担持粉末の製造方法は、温度が-200℃以上100℃以下、水素濃度が5vol%以上100vol%以下、且つ圧力が大気圧超のガス雰囲気下において、炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末を高圧水素処理する工程、を含むことを特徴とする。本方法によれば、高濃度で水素を担持(含有)した水素担持粉末が製造される。得られる水素担持粉末は、物理吸着により高濃度で水素を担持しているため、水素担持粉末を水分と接触させると、所望量の水素ガスが発生する。
【0014】
本発明者らが検討したところによると、原料として、マグネシウムを含まない純粋な炭酸カルシウムを用いた場合は、得られる水素担持粉末は極僅かな水素担持量(すなわち、水素担持粉末を水分と接触させたときの水素ガス発生量が少ない)しか示さなかった。特に高圧水素処理時の圧力を上げても、前記水素担持量が殆ど増加しないことが分かった。この理由は明確ではないが、炭酸カルシウムマグネシウムを用いることで水素担持量が向上した背景には、炭酸カルシウムにおけるカルシウムの一部をマグネシウムに置換することで、カルシウムとマグネシウムのイオン半径が異なることにより置換後の構造に歪みが生じ、これによって水素担持可能なサイトが増加したことが関連すると考えられる。
【0015】
高圧水素処理工程における温度は、-200℃以上、より好ましくは液体窒素の沸点(-196℃)以上であり、100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは60℃以下である。温度が高過ぎると、得られる水素担持粉末の水素担持量が十分でない場合がある。
【0016】
高圧水素処理工程は水素ガスを含むガス雰囲気下で実施され、前記ガス雰囲気中、高圧水素処理工程における水素濃度は、5vol%以上、より好ましくは30vol%以上、更に好ましくは50vol%以上、より更に好ましくは80vol%以上、特に好ましくは90vol%であり、100vol%以下であり、95vol%以下であってもよい。水素濃度が低すぎると、得られる水素担持粉末の水素担持量が十分でない場合がある。なお前記ガス雰囲気中、水素ガス以外の残部としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスが好ましい。
【0017】
高圧水素処理工程における圧力は大気圧超であり、好ましくは0.2MPa以上、より好ましくは1MPa以上、更に好ましくは2MPa以上であり、好ましくは100MPa以下、より好ましくは50MPa以下、更に好ましくは20MPa以下である。圧力が高くなるほど得られる水素担持粉末の性能が良好となり、水素担持量が向上する。
【0018】
本発明では、高圧水素処理工程を、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.75時間以上、更に好ましくは1時間以上、好ましくは2時間以下、より好ましくは1.75時間以下、更に好ましくは1.5時間以下行うことが好ましい。高圧水素処理工程を十分な時間実施することにより、高濃度で水素を担持した水素担持粉末が製造される。
【0019】
前記高圧水素処理工程は、炭酸カルシウムマグネシウム粉末を耐圧の密閉容器に封入し、所定の条件下で水素ガスを加圧するとよい。
【0020】
本発明では、炭酸カルシウムマグネシウム粉末を耐圧の密閉容器に封入後、高圧水素処理工程前に、ガス置換工程を行ってもよい。ガス置換工程とは、炭酸カルシウムマグネシウム粉末の表面に吸着した水分やガスを除去する工程であり、ガス置換の方法は特に限定されないが、例えば、加熱による乾燥後、真空引きした後に水素ガスを導入する水素置換操作が好ましい。
【0021】
高圧水素処理工程では、水素濃度の調整が容易なことから、高圧水素処理は水素濃度が5vol%以上100vol%以下にコントロールされたガスを流通しながら行っても良い。
【0022】
原料として選択される炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末としては、炭酸カルシウムマグネシウムを含む物質であれば特に制限なく使用できる。前記炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末とは、例えば、炭酸カルシウム系担体におけるカルシウムの一部が、マグネシウムに置換された、いわゆる炭酸カルシウムマグネシウムを含む粉末をいう。炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末を前述した高圧水素処理に供すことによって、高濃度の水素を担持(含有)した水素担持粉末が製造される。
【0023】
本発明では、原料として使用される炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末は生物由来の物質が好ましい。水素担持粉末が生物由来の炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末から形成されることで、水素担持粉末を摂取しても安全性が確保される。このような観点から、生物由来の炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末としては、サンゴ、鉱石(例えば、生物由来の鉱石であるドロマイト等)、貝類、真珠、有孔虫およびウミユリよりなる群から選択される少なくとも1種以上に由来する粉末が好ましく、サンゴまたは鉱石に由来する粉末がより好ましい。これらはカルシウムとマグネシウムをバランスよく含むことから、本発明の原料として最適である。
【0024】
炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末におけるCa:Mg比は、好ましくは30:70~99:1、より好ましくは40:60~98:2であり、更に好ましくは60:40~95:5である。Mg比が低い程、水素担持量は増加する傾向にある。
【0025】
炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末は、例えば、後述する式(1-a)で表される構造及び式(1-b)で表される構造の少なくとも一方を含んでいることが好ましく、好ましくは後述する式(2)で表される構造および後述する式(3)で表される構造の少なくとも一方、より好ましくは式(2)で表される構造および式(3)で表される構造の両方を含んでいることが好ましい。
なお、炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末の組成、及び後述する水素担持粉末の組成は、例えば、X線回折装置(XRD)から得られる回折パターンや、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)等により確認できる。
【0026】
炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末は、更に炭酸カルシウムを含んでいてもよい。
【0027】
炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末のBET比表面積は、好ましくは0.05~4.0m2/g、より好ましくは0.1~3.0m2/gである。
【0028】
前記炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末、及び後述する水素担持粉末の粒径は、粉砕、分級等により適宜調整可能である。
【0029】
<水素担持粉末>
本発明に係る水素担持粉末は、上述した水素担持粉末の製造方法により製造される。本発明者らは種々検討したものの、上述した製造方法により得られる水素担持粉末の全容は解明できておらず、該水素担持粉末のどの構造が、本発明の効果に直接影響しているのかを未だ特定できていない。しかしながら、上述した製造方法により得られる水素担持粉末であれば、水分との接触により所望量の水素ガスを発生することは実施例の欄に示す通りであるので、以下では、解明できている水素担持粉末の構造上の特徴について詳述する。
【0030】
本明細書において、「水素が物理吸着されている水素担持粉末」とは、具体的には、加圧および高温水素処理により、結晶構造が変化しない炭酸カルシウムマグネシウム粉末をいい、より具体的には、無孔性またメソ孔を有し、且つ、水素加圧時には各圧力に対して水素の脱吸着が可逆的に生じることを特徴とする粉末として定義される。水素が物理吸着されている水素担持粉末における吸着力は、主にファンデルワールス力によるものであるため、該水素担持粉末は、真空排気により水素の脱着が可能であることを特徴とする。
【0031】
水素が物理吸着されている状態は、例えば、上記高圧水素処理により結晶構造が変化することなく、粉末の表面に水素がファンデルワールス力等によって弱く束縛されている吸着状態をいう。換言すれば、水素担持粉末においては電荷の交換などは行われず、水素は可逆的に脱離し、解離などを伴わない吸着状態である。結晶構造はX線回折装置を用いたハナワルト法などにより確認でき、また吸着状態は吸着等温線のプロファイルの形状によるIUPAC分類やJIS H 7201 圧力-組成等温線(PCT線)の測定方法により確認できる。
【0032】
水素担持粉末は、炭酸カルシウムマグネシウムを含む。炭酸カルシウムマグネシウムにおけるCa:Mg比は、好ましくは30:70~99:1、より好ましくは40:60~98:2であり、更に好ましくは60:40~95:5である。Mg比が低い程、水素担持量は増加する傾向にある。
【0033】
水素担持粉末に含まれる炭酸カルシウムマグネシウムは、式(1-a):
(MgxaCaya)CO3 …(1-a)
(式中、xa,yaは、0.01≦xa≦0.15、0.85≦ya≦0.99を表し、xa+ya=1である)で表される構造を含んでいることが好ましい。xaは、好ましくは0.02以上0.14以下である。yaは、好ましくは0.86以上0.98以下である。
【0034】
式(1-a)は、好ましくは式(2)または式(3)である。x2は、好ましくは0.02以上0.04以下であり、y2は、好ましくは0.96以上0.98以下である。x3は、好ましくは0.10以上0.14以下であり、y3は0.86以上0.90以下である。
式(2):
(Mgx2Cay2)CO3 …(2)
(式中、x2,y2は、0.01≦x2≦0.05、0.95≦y2≦0.99を表し、x2+y2=1である)
式(3):
(Mgx3Cay3)CO3 …(3)
(式中、x3,y3は、0.05<x3≦0.15、0.85≦y3<0.95を表し、x3+y3=1である)
【0035】
また水素担持粉末に含まれる炭酸カルシウムマグネシウムは、式(1-b):
(MgxbCayb)CO3 …(1-b)
(式中、xb,ybは、0.15<xb≦0.60、0.40≦yb<0.85を表し、xb+yb=1である)で表される構造を含んでいることも好ましい。xbは、好ましくは0.30以上0.55以下である。ybは、好ましくは0.45以上0.70以下である。
【0036】
水素担持粉末に含まれる炭酸カルシウムマグネシウムは、式(1-a)で表される構造及び式(1-b)で表される構造の少なくとも一方を含んでいることが好ましく、式(2)で表される構造および式(3)で表される構造の少なくとも一方を含んでいることが好ましく、より好ましくは式(2)で表される構造を含んでいることが望ましい。
【0037】
水素担持粉末100質量%中、炭酸カルシウムマグネシウムの含有率は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0038】
また水素担持粉末は、原料に由来する炭酸カルシウムを含んでいてもよい。
【0039】
水素担持粉末の平均粒子径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
なお、本明細書における平均粒子径とは、体積基準の累積粒度分布から求められるメジアン径、すなわち体積累積が50%に相当する粒子径(D50)を意味する。体積基準の累積粒度分布および平均粒子径は、一般的には、レーザー回折散乱法に基づいて測定することが可能である。
【0040】
水素担持粉末は、水分と接触することにより、水素担持粉末1g当たり好ましくは0.1μL以上、より好ましくは0.2μL以上、更に好ましくは0.3μL以上、より更に好ましくは1μL以上、好ましくは100μL以下、より好ましくは50μL以下、更に好ましくは20μL以下、より更に好ましくは10μL以下の水素ガスを発生する。水素担持粉末1g当たりの水素ガスの発生量の求め方は、実施例の欄で詳述する。
【0041】
<水素担持粉末の用途>
本発明に係る水素担持粉末は、様々な用途に展開することが可能である。一つの用途例としては、前記水素担持粉末を含む食品が挙げられる。前記食品としては、前記水素担持粉末をカプセル充填あるいは錠剤化して直接経口できるようにした水素サプリメント;前記水素担持粉末を含む飴、ガム、グミ等の加工食品;等が例示される。また本発明の水素担持粉末は、水と接触したときに水素分子を放出するため、前記水素担持粉末を水道水、ミネラルウォーター、海洋深層水、清涼飲料水等の飲料水に添加するなど、水素水の製造にも好ましく利用できる。
【0042】
他の用途例としては、水素担持粉末を含む肥料が挙げられる。本発明に係る水素担持粉末を含む肥料は、例えば、米;無花果、桜桃、ぶどう等の果樹;茄子、南瓜、胡瓜、トマト、バジル、ピーマン、トウモロコシ、ズッキーニ等の野菜類;用の肥料として好ましく用いることができ、前記肥料によれば、果実が大きくなる、病気にかかりにくくなる、結実が早くなる、といった効果が発揮される。また、植物の枯死には活性酸素が関与していることが指摘されているが(Takagi Daisuke他4名,Superoxide and Singlet Oxygen Produced within the Thylakoid Membranes Both Cause Photosystem I Photoinhibition,Plant Physiology,171(3),p.1626-1634)、本発明に係る水素担持粉末を含む肥料を用いれば、活性酸素の除去効果により植物の延命効果も期待されるため、従来にはない画期的な肥料が提供される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0044】
<BET比表面積の測定>
本測定には、高精度比表面積装置(BELSORP-max、マイクロトラックベル製)を用いた。試料の導入量を1.0gとし、測定前処理として試料容器内をロータリーポンプとターボ分子ポンプで高真空とし、300℃の条件で24時間保持することで脱ガス処理をした。試料管を液体窒素に浸し77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線から、BET法によりBET比表面積を算出した。
【0045】
<誘導結合プラズマ発光分光分析法によるCa:Mg比の分析>
誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES、PerkinElmer製「Optima3300DV」)を用い、Ca及びMgのカウント数から炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末及び水素担持粉末におけるCa:Mg比を分析した。
【0046】
<H2発生量の評価>
(1)試料の作製;バイアル瓶(容積40ml)に、実施例で得られた水素担持粉末(3g)を入れ、そこへ純水(15ml)を加えて蓋をし、その後、バイアル瓶を35℃に加温した。35℃を維持したまま、バイアル瓶を24時間振盪した。
(2)ガスクロマトグラフィーによる分析;24時間振盪後のバイアル瓶中の気相を、ガスクロマトグラフィーに導入して分析を行った。分析条件は以下の通りである。
<<ガスクロマトグラフィー分析条件>>
・ガスクロマトグラフィー:島津製作所社製「Tracera(登録商標)」
・検出器:バリア放電イオン化検出器(BID)
・カラム:信和化工社製「MICROPACKED ST」
・カラム温度:35℃(2.5min)-20℃/min-250℃(0min)-15℃/min-270℃(5.42min) Total:20min
・ガス注入方式:ガスタイトシリンジ
・圧力プログラム:250kPa(2.5min)-15kPa/min-400kPa He
・注入モード:Split(1:10)
・気化室温度:150℃
・検出器温度:280℃
・放電ガス流量:70mL/min
・注入量:100μL
(3)H2発生量の計算;(2)により得られるGC H2濃度をA(ppm)とし、バイアル瓶中の気相の体積をV(mL)とすると、前記気相V(mL)に含まれるH2の容量VH2は、式(E-1)で表される。
VH2=A(ppm)×V(mL)
=A×V×10-3(μL) …(E-1)
本試験では、水素担持粉末を3g使用しているから、水素担持粉末1g当たりの水素ガスの発生量は、式(E-2)により求められる。
水素担持粉末1g当たりの水素ガスの発生量
=A×V×10-3(μL)/3(g)
=A×(40-15)×10-3(μL)/3(g)
=A×25×10-3/3(μL/g) …(E-2)
【0047】
実施例1
乾燥機で100℃、12時間乾燥させたサンゴ由来の炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末(サンゴ未焼成カルシウム、コーラルバイオテック株式会社「コーラルバイオ(登録商標)-PW」、Ca:Mg=92:8、BET比表面積2.4m2/g)3.5質量部を耐圧容器に秤取り、真空ポンプで0.001MPaまで減圧した後、水素ガスを導入して常圧に戻す操作を3回行った。
次いで、表に示す条件で1時間保持して炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末を高圧水素処理した。
その後、常圧に戻すことにより、水素担持粉末3.5質量部を得た。なお上記工程は、20~22℃(室温)にて実施した。得られた水素担持粉末を用いて、H2発生量を評価した。結果を表に示す。得られた水素担持粉末におけるCa:Mg比は92:8であった。また得られた水素担持粉末は無孔性またメソを有しており、吸着等温線の測定結果からIUPAC分類によりII型に分類されたため、水素が物理吸着されていることが確認された。
【0048】
実施例2~3
加圧条件を変更したこと以外は、実施例1と同様にして水素担持粉末を製造した。結果を表に示す。得られた水素担持粉末におけるCa:Mg比は92:8であった。また得られた水素担持粉末は無孔性またメソを有しており、吸着等温線の測定結果からIUPAC分類によりII型に分類されたため、水素が物理吸着されていることが確認された。
【0049】
実施例4
「コーラルバイオ(登録商標)-PW」を、鉱石由来の炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末(村樫石灰工業株式会社「ドロマイトM-C」、Ca:Mg=57:43、BET比表面積2.4m2/g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水素担持粉末を製造した。結果を表に示す。また得られた水素担持粉末におけるCa:Mg比は57:43であった。また得られた水素担持粉末は無孔性またメソを有しており、吸着等温線の測定結果からIUPAC分類によりII型に分類されたため、水素が物理吸着されていることが確認された。
【0050】
実施例5~6
加圧条件を変更したこと以外は、実施例4と同様にして水素担持粉末を製造した。結果を表に示す。また得られた水素担持粉末におけるCa:Mg比は57:43であった。また得られた水素担持粉末は無孔性またメソを有しており、吸着等温線の測定結果からIUPAC分類によりII型に分類されたため、水素が物理吸着されていることが確認された。
【0051】
比較例1
「コーラルバイオ(登録商標)-PW」を、炭酸カルシウム(株式会社高純度化学研究所「炭酸カルシウム(純度:99.99%)」、Ca:Mg=1:0、BET比表面積6.3m2/g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水素担持粉末を製造した。結果を表に示す。
【0052】
比較例2~3
加圧条件を変更したこと以外は、比較例1と同様にして水素担持粉末を製造した。結果を表に示す。
【0053】
【0054】
表1に示すように、炭酸カルシウムを原料に用いた場合と比較して、炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末を高圧水素処理工程に供すことにより、水分と接触することで発生する水素ガス量を大きくできることが分かった。しかも前記水素ガス発生量は、高圧水素処理工程の圧力を上げることにより、顕著に増加した。すなわち原料におけるマグネシウムの存在の有無が、高圧水素処理工程での水素吸着に影響を与えることが示された。
【0055】
更に、「コーラルバイオ(登録商標)-PW」と「ドロマイトM-C」では、「コーラルバイオ(登録商標)-PW」の方が水素ガス発生量は大きく増加した。