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特許7105429冬眠様状態を誘発する方法およびそのための装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】冬眠様状態を誘発する方法およびそのための装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/00 20060101AFI20220715BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220715BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220715BHJP
   A61M 21/00 20060101ALI20220715BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20220715BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220715BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALN20220715BHJP
【FI】
A01K67/00 Z
C12M1/00 A
C12Q1/02
A61M21/00 Z
G01N33/497 A
G01N33/50 Z
C12N5/0793
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021523537
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037268
(87)【国際公開番号】W WO2021066053
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019178611
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 武
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】砂川 玄志郎
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-250837(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0144185(US,A1)
【文献】特表2012-508635(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0039450(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0238513(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0048731(US,A1)
【文献】特表2014-500716(JP,A)
【文献】国際公開第17/195901(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0102368(US,A1)
【文献】国際公開第19/177142(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/00
C12M 1/00
C12Q 1/02
A61M 21/00
G01N 33/497
G01N 33/50
C12N 5/0793
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生きている対象の脳において、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域内のピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンを刺激する装置であって、
電圧の発生を制御する制御信号を送信する制御部と、
前記制御部からの制御信号を受信して電圧を発生する電圧発生部と、
前記電圧発生部と近位で電気的に接続され、遠位に電気刺激電極を有する刺激プローブであって、脳表面からQRFP産生ニューロンにアクセスするために十分な長さを有し、前記電圧発生部からの電圧により遠位の電気刺激電極において電気刺激を発生させる刺激プローブと、
を含む、装置。
【請求項2】
生きている対象の脳において、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域内のピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンを刺激する装置であって、
QRFP産生ニューロン刺激性化合物の放出を制御する制御信号を送信する制御部と、
前記化合物の貯蔵部と、
前記制御部からの制御信号を受信して化合物の貯蔵部から前記化合物を貯蔵部から送出する化合物送出部と、
化合物放出口と放出口までの化合物の流路を備え、前記化合物をQRFP産生ニューロンにまで送達するガイドと、
を含む、装置。
【請求項3】
外気温計と、
深部体温計と、
呼気ガス中の酸素濃度を測定する呼気ガス分析部と、
測定された外気温と、深部体温および酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1つの数値とを記録する記録部とをさらに含む、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記記録部は、少なくとも外気温と深部体温を記録するものであり、
前記記録部に記録された外気温と深部体温とから、対象が低体温状態であるかを決定する決定部をさらに含む、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記記録部は、少なくとも外気温と深部体温と酸素濃度を記録するものであり、
前記記録部に記録された外気温と、深部体温、および酸素濃度とから対象が低代謝状態であるか否かを決定する決定部をさらに含む、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記記録部は、少なくとも外気温と深部体温と酸素濃度を記録するものであり、
前記記録部に記録された外気温と、深部体温、および酸素濃度とから、対象が冬眠様状態であるか否かを決定する決定部をさらに含む、請求項3に記載の装置。
【請求項7】
前記制御部が、対象が、低体温状態、低代謝状態、および冬眠様状態からなる群から選択されるいずれか1つの状態であると決定されるまで連続的にまたは間欠的にQRFP産生ニューロンを刺激するための制御信号を送信する、請求項4~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
非ヒトほ乳類の対象において体温の理論的設定温度を低下させる方法であって、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに興奮性刺激を与えることを含む、方法。
【請求項9】
QRFP産生ニューロンが、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域のニューロンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
興奮性刺激が、化学的刺激、磁気的刺激および電気的刺激からなる群から選択される刺激である、請求項8または9に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬眠様状態を誘発する方法およびそのための装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
恒温動物、鳥類、哺乳類は、体内の体温(T)を周囲温度(T)より高い狭い範囲内に維持するために、熱産生のために体エネルギーの大部分を消費する。しかし、一部の哺乳類は、冬季の食糧不足を生き延びるために、積極的に体温を低下させ、冬眠として知られる状態をとる。動物は明らかな組織損傷なしに正常な状態に戻る1,2。マウスは冬眠しないが、基礎代謝の低下から恩恵を受けることができる場合、日内休眠として知られる短期の代謝低下状態を示す。冬眠と日内休眠の双方においてエネルギー消費の減少は主に体温の低下によって達成され、それは2つの主要な要素、すなわち理論的設定温度(TR)と熱生成の負のフィードバックゲイン(H)によって影響される。日内休眠中のマウスでは、TRは正常に近いままであるが、Hは正常の10分の1近くまで減少し、結果としてTRよりもかなり低いTBをもたらす。対照的に、冬眠ではTRとHの両方が有意に減少し、1日の休眠よりも効率的かつ外気温の変動に対応可能な代謝低下状態の維持を可能にする4,5。こうした積極的な代謝低下が中枢神経系によって調節されていることが多くの実験で確立されている。しかし、その神経機構は全く不明のままである。日々の休眠及び/又は冬眠のメカニズムの解明は、ヒトを含む非冬眠動物において人工的な冬眠様代謝低下状態を人為的に誘導する方法を開発するために必要なステップである1,7、さらには、未来における長距離宇宙探査においても有益であろう。ここでは、視床下部における新規の化学的に定義された神経細胞集団の興奮性操作が、マウスにおいて非常に長時間にわたる低代謝/低体温状態をもたらすことを見出した。この状態では、代謝率は3分の1以下に低下するが、麻酔状態とは異なり、マウスは周囲温度の変化に依然として反応する。さらに、マウスは明らかな異常なしにこの状態から自然に回復した。この発見は、冬眠のメカニズム、および人工冬眠様状態を誘導する方法の開発に重要な知見である。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、冬眠様状態を誘発する方法およびそのための装置を提供する。
【0004】
本発明者らは、生きている非冬眠動物である対象の脳において、視床下部の前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)を含む領域内のピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)遺伝子発現ニューロンに対して興奮性刺激を加えることによって、当該対象に冬眠様状態を誘導させることができることを見出した。
【0005】
本発明によれば、例えば、以下の発明が提供される。
(1)生きている対象の脳において、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域内のピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンを刺激する装置であって、
電圧の発生を制御する制御信号を送信する制御部と、
前記制御部からの制御信号を受信して電圧を発生する電圧発生部と、
前記電圧発生部と近位で電気的に接続され、遠位に電気刺激電極を有する刺激プローブであって、脳表面からQRFP産生ニューロンにアクセスするために十分な長さを有し、前記電圧発生部からの電圧により遠位の電気刺激電極において電気刺激を発生させる刺激プローブと、
外気温計と、
深部体温計と、
呼気ガス中の酸素濃度を測定する呼気ガス分析部と、
測定された外気温と、深部体温および酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1つの数値とを記録する記録部と、
を含む、装置。
(2)生きている対象の脳において、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域内のピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンを刺激する装置であって、
QRFP産生ニューロン刺激性化合物の放出を制御する制御信号を送信する制御部と、
前記化合物の貯蔵部と、
前記制御部からの制御信号を受信して化合物の貯蔵部から前記化合物を貯蔵部から送出する化合物送出部と、
化合物放出口と放出口までの化合物の流路を備え、前記化合物をQRFP産生ニューロンにまで送達するガイドと、
外気温計と、
深部体温計と、
呼気ガス中の酸素濃度を測定する呼気ガス分析部と、
測定された外気温と、深部体温および酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1つの数値とを記録する記録部と、
を含む、装置。
(3)前記記録部に記録された外気温と深部体温とから、対象が低体温状態であるかを決定する決定部をさらに含む、上記(1)または(2)に記載の装置。
(4)前記記録部に記録された外気温と、深部体温、および酸素濃度とから対象が低代謝状態であるか否かを決定する決定部をさらに含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載の装置。
(5)前記記録部に記録された外気温と、深部体温、および酸素濃度とから、対象が冬眠様状態であるか否かを決定する決定部をさらに含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の装置。
(6)前記制御部が、対象が、低体温状態、低代謝状態、および冬眠様状態からなる群から選択されるいずれか1つの状態であると決定されるまで連続的にまたは間欠的にGRFP産生ニューロンを刺激するための制御信号を送信する、上記(3)~(5)のいずれかに記載の装置。
(7)ほ乳類の対象において体温の理論的設定温度を低下させる方法であって、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに興奮性刺激を与えることを含む、方法。
(8)QRFP産生ニューロンが、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域のニューロンである、上記(7)に記載の方法。
(9)興奮性刺激が、化学的刺激、磁気的刺激および電気的刺激からなる群から選択される刺激である、上記(7)または(8)に記載の方法。
(10)前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域内に存在するピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに興奮性刺激を与える物質をスクリーニングする方法であって、
被検化合物と前記QRFP産生ニューロンとを接触させることと、
前記QRFP産生ニューロンの興奮を測定することと、
前記QRFP産生ニューロンに興奮性刺激を与える被検化合物を選択することと、
を含む、方法。
(10a)前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域内に存在するピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに特異的に興奮性刺激を与える物質をスクリーニングする方法であって、
細胞にQRFP産生ニューロンに特異的に発現する受容体を発現させることと、
被検化合物と前記細胞とを接触させることと、
前記QRFP産生ニューロンの興奮を測定することと、
前記QRFP産生ニューロンに興奮性刺激を与える被検化合物を選択することと、
を含む、方法。
(10b)前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域内に存在するピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに特異的に興奮性刺激を与える物質を検査する方法であって、
ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンを提供することと、
被検化合物と前記細胞とを接触させることと、
前記QRFP産生ニューロンの興奮を測定することと、
前記被検化合物との接触前後のQRFP産生ニューロンの興奮を比較することにより、被検化合物が、前記QRFP産生ニューロンに興奮性刺激を与えるかを決定することと
を含む、方法。
(10c)前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域内に存在するピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに特異的に興奮性刺激を与える物質を検査する方法であって、
被検化合物を哺乳動物の前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与することと、
QRFP産生ニューロンの興奮(例えば、電位)を測定することと、
前記被検化合物との接触前後のQRFP産生ニューロンの興奮を比較することにより、被検化合物が、前記QRFP産生ニューロンに興奮性刺激を与えるかを決定することと
を含む、方法。
(10d)冬眠を誘発する被検化合物を検査する方法であって、
被検化合物を哺乳動物(例えば、非ヒト哺乳動物)の前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与することと、
前記哺乳動物が冬眠することを確認することと、
を含む、方法。
(10e)上記(10d)に記載の方法であって、
前記哺乳動物(例えば、非ヒト哺乳動物)の深部体温(例えば、腸内温度)と酸素消費量との相関関係から、酸素消費量が0であるとしたときの深部体温(理論的設定温度)とΔVO/ΔT(熱生成のフィードバックゲイン)とを推定することと、
理論的設定温度と熱生成の負のフィードバックゲインの両方が、被検化合物の投与によって投与前よりも低下したことは、前記哺乳動物が冬眠したこと示す、方法。
(10f)ヒトなどの哺乳動物において被検化合物が冬眠を誘発するか否かを試験する方法であって、
被検化合物が前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与されたヒトの理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値、および投与される前の当該ヒトの理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値を提供することと、
前記被検化合物の投与の前の理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値と比較して、投与の後の理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値の両方が低下するかを確認することとを含み、
理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値が、投与前よりも投与後において低下したことは、前記哺乳動物が冬眠したこと示す、方法。
(10g)ヒトなどの哺乳動物において被検化合物が冬眠を誘発しているか否かを決定(予測、推定、計算科学的に算出)する方法であって、
被検化合物が前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与されたヒトの理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値、および投与される前の当該ヒトの理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値を提供することと、
前記被検化合物の投与の前の理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値と比較して、投与の後の理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値の両方が低下するかを確認することとを含み、
理論的設定温度の推定値と熱生成のフィードバックゲインの推定値が、投与前よりも投与後において低下したことは、前記哺乳動物が冬眠したこと示す、方法。
(10h)ヒトなどの哺乳動物において被検化合物が冬眠を誘発しているか否かを決定(予測、推定、計算科学的に算出)する方法であって、
被検化合物が前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与されたヒトなどの哺乳動物において、投与前および投与後のそれぞれにおいて、少なくとも2つの異なる周辺環境温度条件下において酸素消費量および深部体温を記録することと、
投与前および投与後のそれぞれにおいて、酸素消費量と深部体温との相関関係を推定することと、
推定された相関関係から、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定すること、および、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定することを含み、
深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下し、かつ、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下したことは、前記哺乳動物が冬眠したこと示す、方法。
(11)ヒトなどの哺乳動物において被検化合物が冬眠を誘発しているか否かを決定(検査、予測、推定、計算科学的に算出)する方法であって、
被検化合物が前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与されたヒトなどの哺乳動物において、投与前および投与後のそれぞれにおいてそれぞれ少なくとも2つの異なる周辺環境温度条件下において記録された酸素消費量および深部体温を提供(または記録)することと、
投与前および投与後のそれぞれにおいて、酸素消費量と深部体温との相関関係を推定することと、
推定された相関関係から、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定すること、および、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定することを含み、
深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下し、かつ、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下したことは、前記哺乳動物が冬眠したこと示す、方法。
(12)冬眠を判定する装置であって、
被検化合物が前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与されたヒトなどの哺乳動物において、投与前および投与後のそれぞれにおいてそれぞれ少なくとも2つの異なる周辺環境温度条件下において記録された酸素消費量および深部体温を記録する記録部と、
投与前および投与後のそれぞれにおいて、酸素消費量と深部体温との相関関係を推定し、推定された相関関係から、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定すること、および、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定する演算部とを備え、
深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下し、かつ、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下した場合に、前記哺乳動物が冬眠したと判定する判定部と
を備えた装置。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1a図1a~hは、視床下部体温とエネルギー消費量を低下させるQrfp-iCreニューロンの活性化に関する。図1aは、Qrfp-iCreマウスにおけるiCre陽性ニューロンの化学遺伝学的興奮に対する戦略を示す。
図1b】Qrfp‐iCreマウスにおけるiCre陽性細胞の化学的興奮は、赤外線サーモグラフィーにより測定した結果、低体温を誘発することがわかった。ヘテロ接合Rosa26dreaddm3(M3)および/またはRosa26dreaddm4(M4)対立遺伝子を有するヘテロ(Q‐het)またはホモ接合(Q‐ホモ)Qrfp‐iCreマウスを実験に供した。
図1c】Qrfp-iCreマウスにおけるQニューロンの分布。内側基底視床下部にAAV10-DIO-GFPを注射した後のGFPの発現によって描写される。スケールバー(水平画像)、500μm;挿入部分、100μm;冠状画像、200μm。Pe:脳室周囲核、AVPe:前室Pe、MPA:内側視索前野、LPO:外側視索前野、AHA:前視床下部、VMH:腹内側視床下部、LHA:外側視床下部、SON:視床上核、DMH:視床下部背内側部、TMN:結節乳頭核、MM:内側乳頭核、SCN:視交叉上核、VOLT:分界板の血管器官、TC:視索核、ARC:視索静脈、第3脳室視索核。
図1d】Q-hM3Dマウスの表面体温を示す代表的な体温計測結果。0時間にCNOを腹腔内注射した。尾部の温度は0.5時間(矢印)に上昇することに注意。
図1e】CNO IP90分後のQ‐hM3Dマウスからのスライス標本のFos免疫染色。スケールバー、100μm。
図1f】Q‐hM3DマウスにおけるQニューロンの化学遺伝学的活性化による代謝分析の手順。
図1g】DREADDによるCre陽性ニューロンの活性化後の低体温/代謝低下の経時的進行。紫色の系統、Q-hM3Dマウス;黄色の系統、Qrfp-iCreマウスに外側視床下部にAAV10-DIO-hM3Dq-mCherryを注射;黒色の系統、Qrfp-iCreマウスに内側基底視床下部にAAV-DIO-mCherryを注射(陰性対照)。
図1h】Qニューロン誘発性代謝低下(QIH)は数日間持続し、CNO注入により再び誘導できる。bとgの線と陰影はそれぞれ各群の平均値と標準偏差を示す。
図2a図2a~lは、Qニューロン投射の組織学的・機能的解析の結果を示す。図2aは、Qrfp-iCreマウスにAAV-DIO-GFPを注入することにより、QニューロンにおいてGFPを発現することにより描出されたQニューロンの軸索投射パターンを描出する戦略を示す。
図2b】AVPe、MPAおよびPe.スケールバーにおけるGFP陽性Qニューロンの分布、100μm。
図2c】Qニューロンから生じる軸索の分布。スケールバー、100μm。
図2d】ScaleS法により脳を用いて撮影した画像のクロップ画像をScaleS法で明らかにし、AVPeのQニューロンとDMHの線維を示した。
図2e】Qニューロンの集団がQ-hM3DマウスにおいてVgatおよび/またはVglut2を発現することを示すin situハイブリダイゼーション解析。スケールバー、100μm。
図2f図2eに示される長方形領域の高倍率画像。
図2g図2eにおける長方形領域の単一色画像。
図2h】Vgat、Vglut2またはその両方を発現するQニューロンを示す図2fに示す長方形領域1~3の高倍率画像。(1) VgatmCherry; (2) Vglt2mCherry; (3) VgatVglt2mCherry
図2i】mCherry発現細胞(2匹のマウスから調製した4切片に数える)におけるVgat陽性ニューロンの割合(1997細胞中1291個)、Vglut2(1997細胞中359個)および(1997細胞中115個)。他のmCherry発現細胞は、VgatもVglut2も発現しない。
図2j】DMHおよびRPaにおけるQニューロンまたはその軸索の光発生的興奮のための戦略、スケールバー、100μm。
図2k】AVPe/MPA中のCre陽性細胞またはその軸索のDMHまたはRPaにおける光発生的励起中にサーモグラフィーカメラにより測定した体温の推移。光刺激の4ショットを青色の矢頭で示す。線と陰影はそれぞれ、各群の平均値と標準偏差を示す。下のパネルは、Qニューロン(AVPe/MPA)の興奮によって得られる代表的なサーモグラフィ画像を示す。尾部は、最初の光刺激(矢印)から5分後に熱放出を示すことに注意。
図2l】光刺激4回目の照射30分後の推定T。Tsに対するDMH線維刺激の効果は、AVPe/MPAにおける細胞体の励起の効果とほぼ同等であることに留意されたい。骨盤、脳室周囲核;AVPe、前室Pe;VOLT、分界板の血管器官;MPA、視索前野内側;VLPO、視床下部腹外側野;PVN、視床下部傍室核;SON、視索上核;DMH、視床下部背内側部;TMN、結節乳頭体核;MM、内側乳頭核;LC、青斑核;PAG、中脳水道周囲灰白質;LPB、外側傍核;RVLM、室傍核;第3淡蒼球核;淡蒼球核;室。
図3a】Qニューロンが誘発する代謝低下は、体温の設定値の低下を伴う。種々のTにおけるQIHのTおよびVOの推移。QIHはCNO注射によりQ‐hM3Dマウスで誘導された。線と陰影は各群の平均値と標準偏差を示す。
図3b】正常およびQIH条件下の最小T (左)およびVO(右)。
図3c】哺乳類における熱産生と損失経路の概略図。熱喪失はTとG因子でのTの差に比例する。熱産生は、H因子におけるTとTの差によって支配される。
図3d】種々のTにおけるT‐TとVOの関係。曲線の傾きはGを示す。ドットは記録データであり、太い線は後部Gの中央値から描かれ、細い線は後部サンプルから無作為に選択された500のGから描かれた曲線である。
図3e】推定G(e)の後方分布とQIHから正常状態へのG(f)の差。
図3f】推定G(e)の後方分布とQIHから正常状態へのG(f)の差。
図3g】種々のTにおけるTとVOの関係。曲線の負の傾きはHを示し、x切片はTRを示す。点と線の説明は図3dを参照。
図3h】推定H(h)の分布およびQIHから正常状態へのHの差(i)。
図3i】推定H(h)の分布およびQIHから正常状態へのHの差(i)。
図3j】推定TR(j)の分布およびQIHから正常状態(k)へのTRの差。
図3k】推定TR(j)の分布およびQIHから正常状態(k)へのTRの差。
図3l】個体内のQIHの代謝的移行。上段はQIH中の種々のTでの動物姿勢の推移を示す。第2列は第3列の時間拡大率であり、いずれも代表的な動物1匹の代謝推移を示す。マウスはT=28℃(B)でFIT中にカールアップ姿勢を示し、T=28℃(D)でQIH中に伸びた姿勢を示すことに注意。Tを12℃に下げたQIHの間でも、FIT(E)のように、動物はカールアップ姿勢をとり、動物が熱損失を避ける体勢をとっていたことを示す。
図4a図4a~gは、Qニューロンは、マウスにおいて絶食誘発性の休眠を誘導する役割を果たすことを示す。図4aは、Qニューロン機能を抑制するための戦略を示す。左パネル、実験手順。右パネル、抗GFP抗体による免疫染色により示されるAVPe/MPAにおけるTeTxLC-eYFPの発現。スケールバー、100μm。
図4b】FIT実験の概略図。
図4c】正常なFITは、QニューロンにおいてTeTxLCを発現することによって起こらなくなった。これらのマウスでは、代謝の急速な振動的低下はみられなかったことに注意されたい。
図4d】24~36時間および36~48時間の最小VOを対照マウスとTeTxLCマウス間で比較した。Qニューロンの抑制は、FITで通常見られるVO減少を遮断した。対照群とTeTxLCマウスの間の最小VOの推定差は、24~36時間で[0.01,0.80]ml/g/h、36~48時間で[0.36,1.16]ml/g/hであった。TeTxLCマウスにおけるTとVOの小さいSDは、FIT中の振動変化を含む代謝の突然の変化にQニューロンが関与することを示す。“>”および“<”の符号は、推定最小値の差の89%HPDIまたはTeTxLCから対照マウスへの標準偏差のどちらが陰性または陽性であるかを示す。
図4e】対照、Qrfp-iCreヘテロマウスおよびホモマウスにおいてFITが誘導され、QRFPペプチドの欠失はFITに影響しないことが示された。
図4f】組み換え型狂犬病ウイルスベクターを用いてQニューロンと単シナプスで接触する入力ニューロンを描出する手順。
図4g】Qニューロンの入力ニューロンの分布。矢印は出発細胞を示す。スケールバー、100μm。
図4h】入力ニューロンを含む脳領域。スケールバー、100μm。Pe、脳室周囲核;AVPe、前脳室Pe;MPA、内側視索前野;VOLT、分界板の血管器官;MnPO、正中視索前野;VMPO、視索前野腹内側;VLPO、視床下部腹側野;PVN、視床下部傍室核;TC、塊茎;オプト、視索;ac、前交連;f、脳弓;3V、第3脳室。
図5図5は、第一の実施形態の装置の概略を示す。
図6図6は、第一の実施形態の装置の概略を示す。
図7図7は、第二の実施形態の装置の概略を示す。
図8図8は、第一および第二の実施形態の装置の追加の構成の概略を示す。
【発明の具体的な説明】
【0007】
本明細書では、「対象」とは、ヒト、および非ヒト哺乳動物、例えば、ラット、サル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンおよびボノボなどの非ヒト霊長類を意味する。
【0008】
本明細書では、「視床下部」とは、間脳に存在し、内分泌および自律機能の調節を行う中枢である。本明細書では、「Qニューロン」とは、視床下部の内側領域、すなわち、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)に存在する神経細胞であり、この神経細胞は、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)を産生するものである。ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)は、GPR103受容体の内因性リガンドとして同定された神経ペプチドである。QRFPは、視床下部に強く発現しており、覚醒系を増強する効果を有することが明らかとなっているように、睡眠と覚醒の調節に関与していると考えられている。
【0009】
本明細書では、「T」は対象の周囲環境温度(℃)を意味し、「T」は深部体温(℃)を意味し、「T」は理論的設定温度(℃)を意味する。「VO」は対象の酸素消費量を意味する。Tは、Tを変化させたときのTとVOとの相関関係を求め、VOがゼロであるときのTとして求められる体温である。Tは、外気温の影響を受ける体表の温度ではなく、体内の温度である。例えば、ヒトにおけるTは、直腸内、食道内、膀胱内、または肺動脈内血液温で規定されうる。熱生成の負のフィードバックゲイン(H)は、発熱効率を示し、H=ΔVO/ΔTにより求められる。
【0010】
本明細書では、「冬眠」とは、哺乳動物で認められる低体温かつ低代謝状態である。「日内休眠」(daily torpor)とは、短期の低代謝状態である。冬眠と日内休眠とは、日内休眠では、Tの低下がほとんど無くHの低下が起こるのに対して、冬眠ではTとHの両方が有意に低下する点で異なる。本明細書では、「冬眠様状態」とは、Tの減少に伴ってTとHの両方が有意に低下した状態を意味する。本明細書では、「非冬眠動物」とは、冬季あるいは絶食時に冬眠をする生態を有しない動物をいう。
【0011】
本明細書では、「呼気」とは、対象が吐き出す息である。本明細書では、酸素濃度とは、体積当たりの酸素量を示す指標である。酸素濃度の単位は、例えば、%またはmmHgであり得る。本明細書では、「酸素消費量」(VO)は、呼気および吸気に含まれる酸素濃度から算出される時間当りの酸素消費量である。酸素消費量は、体重によって変動するため、単位体重当り(例えば、kg当り、およびg当り)に補正されて計算されることもある。
【0012】
本発明者らは、生きている非冬眠動物である対象の脳において、視床下部の前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域内のピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに対して興奮性刺激を加えることによって、当該対象に冬眠様状態を誘導させることができることを見出した。
【0013】
従って、本発明によれば、生きている非冬眠動物である対象に冬眠様状態を誘発させる方法であって、視床下部の前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域内のピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに対して興奮性刺激を加えることを含む方法が提供される。
【0014】
興奮性刺激は、脳深部電極を用いて刺激すること、QRFP産生ニューロンの活性化剤を用いて刺激することによって引き起こすことができる。
【0015】
本発明によれば、生きている対象の脳において、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)からなる群から選択される1以上の領域内のピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンを刺激する装置(以下では、「本発明の装置」ということがある)が提供される。
(A1)本発明の装置は、
電圧の発生を制御する制御信号を送信する制御部と、
前記制御部からの制御信号を受信して電圧を発生する電圧発生部と、
前記電圧発生部と近位で電気的に接続され、遠位に電気刺激電極を有する刺激プローブであって、脳表面からQRFP産生ニューロンにアクセスするために十分な長さを有し、前記電圧発生部からの電圧により遠位の電気刺激電極において電気刺激を発生させる刺激プローブと
を含み得る。これにより本発明の装置は、電気的にQRFP産生ニューロンに対して興奮性刺激を与えることができる。あるいは、電気的刺激の代わりに化学的刺激を与える観点で、(A2)本発明の装置は、
QRFP産生ニューロン刺激性化合物の放出を制御する制御信号を送信する制御部と、
前記化合物の貯蔵部と、
前記制御部からの制御信号を受信して化合物の貯蔵部から前記化合物を放出する化合物放出部と
を含み得る。
(B)本発明の装置は、
外気温計と、
深部体温計と、
呼気ガス中の酸素濃度を測定する呼気ガス分析部と、
測定された外気温と、深部体温および酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1つの数値とを記録する記録部と、
をさらに含んでいてもよい。本発明の装置の(B)の構成において、上記対象が外気温(T)の減少に伴って、深部体温(T)が低下するかいなかを調べることができ、かつ、呼気ガス分析結果から対象の酸素消費量を求め、理論的設定温度(T)および熱生成の負のフィードバックゲイン(H)を求めることができる。これによって、本発明の装置は、対象が冬眠様状態を誘発したかいなかを決定することができる。
【0016】
以下では、本発明の装置について具体的に説明する。
(第一の実施形態)
第一の実施形態では、本発明の装置は、上記(A1)の構成を有する。本発明の装置はこれにより、生きている対象の脳のQRFP産生ニューロンを電気的に刺激することにより、対象に冬眠様状態を誘発させる。以下では、図5および6を参照しながら第一の実施形態を説明する。
【0017】
本発明の装置1は、
電圧の発生を制御する制御信号を送信する制御部10と、
前記制御部からの制御信号を受信して電圧を発生する電圧発生部20と、
前記電圧発生部と近位で電気的に接続され、遠位に電気刺激電極を有する刺激プローブであって、脳表面からQRFP産生ニューロンにアクセスするために十分な長さを有し、前記電圧発生部からの電圧により遠位の電気刺激電極40において電気刺激を発生させる刺激プローブ30と
を有する。
【0018】
本発明の装置1において、制御部10は、電圧発生を制御する制御信号を送信する。制御部10は、制御要素(マイクロプロセッサ、および電源または電池)を含み得る。制御信号は、1つの制御信号によって、1回または複数回の電圧発生を制御することができる。あるいは、この制御信号は複数回送信されて、複数回の電圧発生を制御することができる。制御信号は、1階の電圧刺激を加えることができるが、例えば、対象に冬眠様状態が誘発されるまで複数回の刺激を加えるように電圧発生を制御するものであってよい{但し、冬眠様状態の誘発後には、刺激を加えても、加えなくてもよい}。
【0019】
本発明の装置1において、電圧発生部20は、制御部10と配線15により電気的に連結されており、制御部10からの制御信号を受信して電圧を発生することができる。電圧は、例えば、0~5ボルト(V)の電圧であり得、例えば、0.lボルト単位で変動させることができる。電圧は、例えば、パルスとすることができ、パルス幅を例えば数十μ秒とすることができ、刺激頻度を例えば数十~数百ppsとすることができる。電圧は、例えば、1ボルトから開始し、効果が認められるまで高めるように調整されてもよい。
【0020】
制御部10と電圧発生部20とは、配線15によって連結されている例が記載されたが、本発明の装置1においては、制御部10と電圧発生部20とは、配線15の代わりに、図2に示されるように、制御部10が備える制御信号送信部11と電圧発生部が備える制御信号受信部21との間で無線的に通信可能とされてもよい。この態様では、電圧発生部20は、電池20aを有していることができる。電池20aは、非接触方式で充電可能であり得る。非接触方式で充電が可能な場合には、電池20aは、体内に存在する場合であっても、体外から充電することが可能である。
【0021】
電圧発生部20は、当該電圧発生部20が発生した電圧をエクステンションケーブル25を介して刺激プローブ30および先端に存在する刺激電極40に伝える。刺激プローブ30の遠位(すなわち、先端)は、刺激電極40を有しており、刺激電極40は、脳の組織に対して電圧を付与することができる。
【0022】
刺激プローブ30は、刺激電極40を正確にQRFP産生ニューロンに到達させるために定位脳手術によって脳内に挿入されうる。定位脳手術で頭部を計測用フレームで固定し、CTスキャンまたはMRIにより決定した電極を挿入する位置に1mm以下の精度で電極を挿入する手術である。定位脳手術の観点で、刺激プローブ30は、脳深部にむけて穿刺する時に曲げや伸張の生じない程度に堅い材質で形成される(例えば、タングステン等の堅い材質)。刺激プローブ30は、特に限定されないが例えば、1μmから1mm、または1mmから2.5mm程度の直径を有しうる。刺激プローブ30は、遠位に刺激電極40を1以上(例えば、2つ、3つまたは4つ)有する。刺激電極40は、刺激プローブ30の長軸方向に1~5mm程度の長さとすることができる。刺激プローブ30が刺激電極40を複数有する場合、刺激電極40は、特に限定されないが例えば、1mm~1.5mm程度の間隔で配置され得る。刺激電極40の各々は、一つの制御信号によって一括して制御されてもよいし、好ましくは、各々が個別の制御信号によって別々に制御されることができる。各々が個別の制御信号によって別々に制御されることによって、電極の挿入位置との関係で最適な電極に選択的に電圧を生じさせて脳を刺激することが可能となる。
【0023】
本発明の装置1は、対象に冬眠様状態を誘発させるものであり、ポータブルである必要は無い。ここでポータブルとは、対象と共に対象が位置する場所の足場(例えば、地面、乗り物に乗っている場合には乗り物の床)に対して対象が移動するのと一緒に移動することを意味する。従って、本発明の装置は、設置場所に固定されたものであり得る。本発明の装置は、電源に接続されていることができるから、例えば、電池や充電池を有しないことがあり得る。
【0024】
(第二の実施形態)
第一の実施形態では、脳深部を電気刺激する装置が開示されたが、第二の実施形態では、脳深部を化学的に刺激する装置に関する。以下では、図7を参照しながら、第二の実施形態を説明する。
【0025】
第二の実施態様においては、本発明の装置100は、
QRFP産生ニューロン刺激性化合物の放出を制御する制御信号を送信する制御部110と、
前記化合物の貯蔵部125と、
前記制御部からの制御信号を受信して化合物の貯蔵部125から前記化合物を送出する化合物送出部120と、
化合物放出口140と放出口140までの化合物の流路を備え、前記化合物をQRFP産生ニューロンにまで送達するガイド130と、
を有する。本発明の装置100においては、制御部110は化合物送出部120と配線115を通じて電気的に接続されている。化合物送出部120は、制御部110から制御信号を受信し、その制御信号に応じて貯蔵部125に蓄積された化合物を貯蔵部125から流路126および流路121、およびガイド130を通じて化合物放出口140から脳内へ放出する。化合物は溶媒に溶解した溶液の形態であってよく、化合物送出部120による送液機構によって化合物放出口140へ送液され得る。化合物の貯蔵部125は、外部から化合物を導入する化合物導入口125aを有していてもよい。化合物導入口125aは、化合物を化合物貯蔵庫に供給することができる。化合物貯蔵部125は、体外に露出していてもよい。但し、化合物貯蔵部125が体外に露出する場合には、化合物貯蔵部125は無菌条件下で維持される。制御部110は、化合物送出部120に対して、例えば、1回の化合物送出につき、1μL~100μLの送液を行うように制御信号を送信する。
【0026】
ガイド130は、化合物放出口140を正確にQRFP産生ニューロンに到達させるために定位脳手術によって脳内に挿入されうる。定位脳手術で頭部を計測用フレームで固定し、CTスキャンまたはMRIにより決定した電極を挿入する位置に1mm以下の精度で電極を挿入する手術である。定位脳手術の観点で、ガイド130は、脳深部にむけて穿刺する時に曲げや伸張の生じない程度に堅い材質で形成される(例えば、タングステン等の堅い材質)。刺激プローブ30は、例えば、1mmから2.5mm程度の直径を有しうる。
【0027】
本発明の装置100は、対象に冬眠様状態を誘発させるものであり、ポータブルである必要は無い。ここでポータブルとは、対象と共に対象が位置する場所の足場(例えば、地面、乗り物に乗っている場合には乗り物の床)に対して対象が移動するのと一緒に移動することを意味する。従って、本発明の装置は、設置場所(例えば、対象が横たわるベッドまたはベッドが配置された床)に固定されたものであり得る。本発明の装置は、電源に接続されていることができるから、例えば、電池や充電池を有しないことがあり得る。
【0028】
(追加の構成)
第一の実施形態の装置1および第二の実施形態の装置100は、(B)の構成:
外気温計50と、
体温計60と、
呼気ガス中の酸素濃度を測定する呼気ガス分析部70と、
測定された外気温と、体温および酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1つの数値とを記録する記録部80と
をさらに有し得る{ここで、体温計は、好ましくは、対象の深部体温を測定する深部体温計であり得る}。上記(B)は、例えば図8に示されるように、制御部10または制御部110が備えていてもよい{ここで、図8中では描画が省略されているが、制御部10および110はそれぞれ、第一の実施形態および第2の実施形態において説明したように、有線または無線で電圧発生部20に接続されている}。対象において冬眠様状態を誘発させる際には、外気温(または対象の周囲温度)(T)を低下させると共に、対象の深部体温(T)と代謝を低下させる。従って、外気温(または対象の周囲温度)を計測する外気温計と、体温計(好ましくは、深部体温計)を備えることにより、本発明の装置は、対象の体温(好ましくは、深部体温)と外気温との関係をモニターすることが可能となる。
【0029】
また、本発明の装置は、呼気ガス中の酸素濃度を測定する呼気ガス分析部70を備えることによって、対象による酸素消費量(VO)を推定することができ、酸素消費量(VO)から対象の代謝状態を推定することができる。
【0030】
また、深部体温(T)と酸素消費量(VO)とから、体温の理論的設定温度(T)と熱生成のフィードバックゲイン(H)を推定することも可能となる。体温の理論的設定温度(T)は、外気温(または対象の周囲温度)(T)を変化(例えば低下)させながら、深部体温(T)と酸素消費量(VO)との関係を求め、酸素消費量(VO)が0であるときの深部体温(T)の推定値として求められる。深部体温(T)と酸素消費量(VO)との関係は、例えば、線形回帰により求め得る。また、熱生成のフィードバックゲイン(H)は、H=ΔVO/ΔTとして求めることができる。
【0031】
本発明の装置は、測定された外気温と、体温(好ましくは、深部体温)および酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1つの数値とを記録する記録部80を更に備え得る。本発明の装置は、呼気ガス中の酸素濃度から対象の酸素消費量を決定する酸素消費量の決定部90をさらに有しうる。本発明の装置は、体温の理論的設定温度(T)と熱生成のフィードバックゲイン(H)を推定する推定部91をさらに有しうる。本発明の装置は、体温の理論的設定温度(T)と熱生成のフィードバックゲイン(H)から対象が冬眠様状態を誘発したか否かを決定する決定部92をさらに有しうる。本発明の装置は、冬眠様状態を誘発したか否かについての情報の出力部93をさらに有しうる。出力部93としては、例えば、当該情報を表示するディスプレイおよび/または当該情報を印刷するプリンタが挙げられる。冬眠様状態を誘発したか否かについての情報としては、冬眠様状態を誘発したとの情報、および冬眠様状態を誘発していないとの情報が挙げられ、出力部93にて出力され得る。
【0032】
(第三の実施態様)
本発明によれば、
冬眠を判定する装置であって、
被検化合物が前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与されたヒトなどの哺乳動物において、投与前および投与後のそれぞれにおいてそれぞれ少なくとも2つの異なる周辺環境温度(T)条件下において記録された酸素消費量(VO)および深部体温(T)を記録する記録部と、
投与前および投与後のそれぞれにおいて、酸素消費量と深部体温との相関関係を推定し、推定された相関関係から、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定し、および、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定する演算部とを備え、
深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下し、かつ、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下した場合に、前記哺乳動物が冬眠したと判定する判定部と
を備えた装置
が提供される。
【0033】
記録部は、少なくとも2つの異なる周辺環境温度(T)条件下において記録された酸素消費量(VO)および深部体温(T)を記録する。記録部は、1つのTに対して1つのVOおよびTを対応付けて格納する。記録された酸素消費量(VO)および深部体温(T)は、記録部から読み出され、演算部に送信されて、演算部において酸素消費量と深部体温との相関関係が推定される。ある態様では、相関関係は、線型的である。相関関係が推定された後で、演算部は、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定し、および、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定する。判定部は、演算部における決定に基づいて、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下し、かつ、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下した場合に、前記哺乳動物が冬眠したと判定することができる。判定部は、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下しないか、または、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下しない場合には、当該哺乳動物が冬眠したとは判定しないことができる(または冬眠していないと判定することができる)。
【0034】
本発明の第三の実施態様における冬眠を判定する装置は、深部体温計および呼気ガス中の酸素濃度を測定する呼気ガス分析部をさらに備えていてもよい。第三の実施形態における装置は、判定部から冬眠に関する判定の情報を受け取り、情報を出力する出力部をさらに備えていてもよい。情報の出力部は、ディスプレイなどのユーザーインターフェースであり得、USBメモリおよびSDカードなどの不揮発性メモリへの記録装置であり得、外部への無線通信のための情報送信装置であり得、またはプリンタなどの紙等の媒体への印刷装置であり得る。
【0035】
第一の実施形態または第二の実施形態の装置は、第三の実施態様における冬眠を判定する装置をさらに含んでいてもよい。
【0036】
(本発明の刺激方法)
本発明によれば、対象において、体温の理論的設定温度および/または熱生成のフィードバックゲインを低下させる方法が提供される。本発明によれば、対象に冬眠様状態を誘発させる方法が提供される。
本発明の方法によれば、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに興奮性刺激を与えることを含む。本発明によればまた、対象において、熱生成のフィードバックゲインを低下させる方法であって、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに興奮性刺激を与えることを含む、方法が提供される。本発明によればまた、対象において、体温の理論的設定温度および熱生成のフィードバックゲインを低下させる方法であって、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに興奮性刺激を与えることを含む、方法が提供される。本発明によればまた、対象において冬眠様状態を誘発させる方法であって、薬物などを用いてピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに興奮性刺激を与えることを含む、方法が提供される。
【0037】
本発明の方法において、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンは、例えば、本発明の装置を用いて刺激されうる。本発明の方法においては、QRFP産生ニューロンに対して電圧を負荷してこれによってQRFP産生ニューロンを刺激することができる。本発明の方法においてはまた、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロン特異的に、例えば、DREADD法を用いて受容体(例えば、hM3Dq)を発現させ、当該受容体に対するリガンド(例えば、クロザピン-N-オキシド(CNO))を投与することによって、QRFP産生ニューロンに対して刺激を加えることができる。hM3Dqは、QRFPプロモーターに作動可能に連結したhM3Dqをコードする遺伝子を有するウイルス(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等)を対象のQRFP産生ニューロンに感染させることによってQRFP産生ニューロンに発現させることができる。CNOは、例えば、本発明の装置によって脳に投与することができる。
【0038】
本発明の方法において、ピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンは、当該ニューロンの活性化剤を用いて刺激することもできる。活性化剤は、QRFPニューロンを用いてスクリーニングするか、または、QRFPニューロンに発現する受容体を強制発現させた培養細胞をもちいて探索可能である。ニューロンの活性化剤は、アプリケーターを用いてQRFP産生ニューロンに局所投与してもよい。QRFP産生ニューロン特異的な活性化剤は、脳室内投与、および髄腔内投与、並びに静脈投与などの全身投与による投与してもよい。
【0039】
本発明の方法は、外気温を低下させることをさらに含んでいてもよい。これにより、対象のTを低下させることができる。冬眠様状態においてTが低下すると低代謝状態となり、エネルギー消費を低下させて生命維持することが可能となると考えられる。
【0040】
本発明の方法は、対象の深部体温(T)を測定することをさらに含み得る。本発明の方法は、対象の呼気の酸素濃度を測定することをさらに含み得る。
【0041】
本発明の方法は、対象の酸素消費量(VO)を推定することをさらに含み得る。対象の酸素消費量(VO)は、例えば、吸気と呼気の酸素濃度の差から推定することができる。
【0042】
本発明の方法は、被検化合物が前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与されたヒトなどの哺乳動物において、投与前および投与後のそれぞれにおいてそれぞれ少なくとも2つの異なる周辺環境温度条件下において記録された酸素消費量および深部体温を提供(または記録)することと、
投与前および投与後のそれぞれにおいて、酸素消費量と深部体温との相関関係を推定することと、
推定された相関関係から、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定すること、および、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定することを含み、
深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下し、かつ、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下したことは、前記哺乳動物が冬眠したこと示す、方法であり得る。
この態様において、本発明の方法は、対象の体温の理論的設定温度(T)を推定することをさらに含み得る。理論的設定温度(T)は、外気温(または対象の周囲温度)(T)を変化(例えば低下)させながら、深部体温(T)と酸素消費量(VO)との関係を求め、酸素消費量(VO)が0であるときの深部体温(T)の推定値として求められる。深部体温(T)と酸素消費量(VO)との関係は、例えば、線形回帰により求め得る。
【0043】
本発明の方法は、対象の熱生成のフィードバックゲイン(H)を推定することをさらに含み得る。熱生成のフィードバックゲイン(H)は、H=ΔVO/ΔTとして求めることができる。
【0044】
本発明の方法は、対象が冬眠様状態か否かを決定することをさらに含み得る。対象が冬眠様状態か否かは、外気温を低下させたときに、体温の理論的設定温度(T)と熱生成のフィードバックゲイン(H)が共に低下するか否かによって決定することができる。外気温を低下させたときに、体温の理論的設定温度(T)と熱生成のフィードバックゲイン(H)が共に低下した場合には、対象が冬眠様状態であると決定することができる。
冬眠様状態は、生体の代謝を低下させることにより、生命保護機能を向上させる点で有益であり得る。
【0045】
(本発明のスクリーニング系)
本発明によれば、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域内に存在するピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)産生ニューロンに興奮性刺激を与える物質をスクリーニングする方法であって、
被検化合物と単離した前記QRFP産生ニューロンとを接触させることと、
前記QRFP産生ニューロンの興奮を測定することと、
前記QRFP産生ニューロンに興奮性刺激を与える被検化合物を選択することと、
を含む、方法が提供される。方法は、インビトロの方法であり得る。
【0046】
QRFP産生ニューロンの興奮は、電気的に測定することができる。ニューロンの興奮の電気的測定は、例えば、常法を用いて電気生理学的手法により膜電位の脱分極を指標として測定することができる。膜電位は、例えば、微小電極法などの神経レコーディング法やパッチクランプ法により測定することができ、または膜電位測定用蛍光プローブを用いて計測してもよい。膜電位測定用蛍光プローブとしては、特に限定されないが、4-(4-(ジデシルアミノ)スチリル)-N-メチルピリジニウムイオダイド(4-Di-10-ASP)、ビス-(1,3-ジブチルバルビツール酸トリメチンオキソノール(DiSBAC2(3))、3,3’-ジプロピルチアジカルボシアニンイオダイド(DiSC3(5))、5,5’,6,6’-テトラクロロ-1,1’,3,3’、-テトラエチルベンズイミダゾリルカルボシアニンイオダイド(JC-1)およびローダミン123が挙げられる。また、ニューロンの興奮は、化学的に測定することもできる。ニューロンが興奮する際には、細胞内カルシウム濃度が上昇する。例えば、ニューロンの興奮は、カルシウム濃度インジケーターを用いて測定することができる。カルシウム濃度インジケーターとしては、1-[6-アミノ-2-(5-カルボキシ-2-オキサゾリル)-5-ベンゾフラニルオキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸,ペンタアセトキシメチルエステル(Fura 2-AM)など様々なプローブが知られ、本発明で用いることができる。
【0047】
QRFP産生ニューロンは、前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域内に存在するニューロンであり、株化されたニューロンとすることができる。株化されたニューロンとしては、ニューロンがQRFPを産生する株を選択することによって得られた株を用いることができる。ニューロンがQRFPを産生するか否かは、QRFPに対する抗体を用いて常法によって確認することができる。
【0048】
(本発明の冬眠の判定方法)
本発明の冬眠の判定方法は、対象において、冬眠を誘導する薬または誘導すると期待される薬、もしくは誘導する可能性のある薬の効果を分析する。対象が冬眠様状態に入った場合には、それを維持する、または解除することができる。対象が冬眠状態に入らない場合には、さらなる処置をする、または処置を中断することができる。
本発明の冬眠の判定方法は、計算科学的な方法であり得る。本発明の冬眠の判定方法は、医療行為を含まないことができる。
【0049】
本発明の冬眠の判定方法は、
ヒトなどの哺乳動物において被検化合物が冬眠を誘発しているか否かまたはその可能性を決定(検査、予測、推定、計算機科学的に決定)する方法であって、
被検化合物が前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)および脳室周囲核(Pe)の領域に投与されたヒトなどの哺乳動物において、投与前および投与後のそれぞれにおいてそれぞれ少なくとも2つの異なる周辺環境温度条件下において記録された酸素消費量および深部体温を提供(または記録)することと、
投与前および投与後のそれぞれにおいて、酸素消費量と深部体温との相関関係を推定することと、
推定された相関関係から、深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定すること、および、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下するか否かを決定することを含み、
深部体温が低下したときの酸素消費量の低下の程度が、投与前と比較して投与後において低下し、かつ、酸素消費量が0であると仮定したときの深部体温の推定値が、投与前と比較して投与後において低下したことは、前記哺乳動物が冬眠したこと示す、方法
であり得る。哺乳動物は、非ヒト哺乳動物であり得る。
【0050】
異なる周辺環境温度条件の設定は、温度制御部(例えば、第一の実施形態または第二の実施形態の装置)により行うことができる。酸素消費量および深部体温はそれぞれ、呼気ガス分析装置および深部体温計により求められ得る。呼気ガス分析装置および深部体温計は、第一の実施形態または第二の実施形態の装置が備えるものを用いることができる。
【実施例
【0051】
[実験の手法]
(1)動物
動物実験はすべて、国際総合睡眠医学研究所(IIIS)、筑波大学、理研バイオシステムズダイナミクス研究センター(BDR)において、動物実験ガイドラインに従って実施した。各機関の動物実験委員会の承認を得たので、NIHのガイドラインに従った。休眠誘発実験を除き、マウスに自由に摂餌及び水を与え、T22℃、相対湿度50%、12時間の明期/12時間の暗期周期で維持した。体重34g以上のマウスは再現性のあるFITを示さないことが判明したため、休眠実験では34g以上の重いマウスを除外した。
【0052】
Qrfp‐iCreマウスを、C57BL/6N胚性幹細胞における相同的組換えおよび8細胞期胚(ICR)における移植によって作製した。標的化ベクターは、Qrfp遺伝子のエクソン2におけるprepro-Qrfp配列の全コード領域をiCreおよびpgk-Neoカセットで置換して、内因性QrfpプロモーターがiCreの発現を促進するように設計された。キメラマウスをC57BL/6J雌(Jackson Labs)と交配した。pgk-Neoカセットを、少なくとも10回C57BL/6Jマウスに戻し交配したFLP66マウスと交配することにより削除した。最初に、ヘテロ接合体との交配ヘテロ接合体からのF1ハイブリッドを作製した。これらのマウスをC57BL/6Jマウスに少なくとも8回戻し交配した。
【0053】
Rosa26dreaddm3およびRosa26dreaddm4マウスを、C57BL/6N胚性幹細胞における相同組換えによって作製し、その後、上記のQrfp-iCreマウスにおけるのと同じ手順を行った。
【0054】
(2)ウイルス
AAVは、先に述べた33ように、三重トランスフェクション、ヘルパーフリー法を用いて作製した。最終精製ウイルスを-80℃で保存した。組換えAAVベクターの力価を定量PCRにより測定した。AAV10- EF1α-DIO-TVA-mCherry, 4 x1013; AAV10-CAG-DIO-RG, 1x1013; AAV10- EF1α-DIO-hM3Dq-mCherry, 1.64 x1012; AAV10- EF1α-DIO-mCherry, 1.44 x1012; AAV10-EF1α-DIO-SSFO-EYFP, 1.35 x1012; AAV2/9-hsyn-DIO-TeTxLC-GFP, 6.24 x1014; AAV2/9-hsyn-DIO-GFP, 4 x1012ゲノムコピー/ml。既に報告されている方法により、組換え狂犬病ベクターが作製された22,34。SADΔG-GFP(EnvA)の力価は4.2×10感染単位/mlであった。
【0055】
(3)手術
AAVベクターの注射のために、雄Qrfp‐iCreヘテロ接合性マウス(8~12週齢)をイソフルランで麻酔し、定位フレーム(David Kopf Instruments)に置いた。
【0056】
化学遺伝学的操作のために、Qrfp‐iCreマウスにAAV10‐EF1α‐DIO‐hM3Dq‐mCherryを、0.1μm/分の速度でハミルトン注射針を用い、視床下部(MB注射用、前後方向(AP)、-0.46mm;内側外側方向(ML)、±0.25mm;背腹方向(DV)、-5.75mm;各部位0.50μl;LH注射;AP、-1.00mm;ML、±1.00mm;DV、-5.00mm;各部位0.30μl)に注射した。注射後10分間針を留めた。
【0057】
光遺伝学的操作のために、AVPe(AP、0.38mm;ML、0.25mm;DV、ブレグマから-5.50mm)にAAV10‐EF1α‐DIO‐SSFO‐EYFPを片側注入した。その後、AVPe上方の両側に(AP:0.38mm、ML:±0.25mm、DV:-5.20mm)、DMHの両側に(AP:-1.70mm、ML:±0.25mm、DV:-4.75mm)またはRPaの片側(AP:-6.00mm、ML:0.00mm、DV:-5.50mm)に光ファイバーを移植した(図2j)。注射後の個々のケージで少なくとも2週間の回復期間後、マウスを赤外線熱イメージング実験にかけた。行動データは、これらのウイルスがQニューロンに特異的に標的化され、光ファイバーインプラントが正確に配置された場合にのみ含めた。
【0058】
(4)生物学的シグナルの記録
サーモグラフィー解析のために、マウスを実験ケージ(25×15×10cm)に入れ、ケージ床の30cm上に置いた赤外線熱画像化カメラ(InfReC R500EX;NIPPON AVIONICS)を用いてモニターした。表面温度を明確に検出するために、実験開始の1日前に、背毛を毛刈り機で除去した。DREADDおよび光発生実験のサーもグラムをそれぞれ0.5Hzおよび1Hzで収集し、InfReC Analyzer NS9500プロフェッショナルソフトウェア(NIPPON AVIONICS)で分析した。1つのフレームの最高温度を動物のTとして用いた(図1d)。
【0059】
深部体温、酸素消費量、EEG、ECG、呼吸パターンを記録するため、各動物を温度調節チャンバー(HC-100、Shin FactoryまたはLP-400P-AR、株式会社日本医化器械製作所)に収容した。T(腹腔内温度)を連続的に記録するために、テレメトリー温度センサー(TA11TA-F10、DSI)を、記録の少なくとも7日前に全身吸入麻酔下で動物の腹腔に埋め込んだ。動物のVOと二酸化炭素排出率(VCO)を、呼吸ガス分析器(ARCO‐2000質量分析計、ARCOシステム)で連続的に記録した。VCO/VO比から呼吸係数を算出した。
【0060】
EEGおよびECGは、埋め込み型遠隔測定送信器(F20-EETまたはHD-X02、DSI)によって記録した。EEG記録のために、テレメトリー送信機のワイヤに2本のステンレス鋼スクリュー(直径1mm)をはんだ付けし、全身麻酔下で皮質の頭蓋(AP、1.00mm;右、ブレグマまたはラムダから1.50mm)に挿入した。送信機からの他の2本のワイヤーを胸腔の表面に置き、ECGを記録した。少なくとも10日間は手術から回復させた。EEG/ECGデータ収集システムは、送信器、アナログデジタル変換器、およびソフトウェアPonemah Physiology Platform(バージョン6.30、DSI)を備えた記録コンピュータで構成された。サンプリング速度はEEGとECGの両方で500Hzであり、データをレビューのためにASCII形式に変換した。心拍数は波形の目視により評価した。
【0061】
呼吸流は非侵襲的呼吸流記録システム35により記録した。具体的には、マウスを、少なくとも0.3L/minの気流を有する代謝チャンバー(TMC-1213-PMMA、Minamiderika Shokai)に入れた。チャンバーを圧力センサ(PMD-8203-3G、Biotex)に接続し、チャンバーの外側と内側の圧力差を検出した。動物が呼吸している場合、外から内への圧力差は吸気時に大きくなり、呼気時には小さくなる35。センサからのアナログ信号出力を250HzでAD変換器(NI-9205、National Instruments)によりデジタル化し、Biotex社が開発したデータロギングソフトウェアによりコンピュータに保存した。
【0062】
(5)FIT誘導
日内休眠(torpor)の誘発実験は、少なくとも3日間、動物の代謝を記録するように設計された。記録開始前日(0日)に動物をチャンバーに導入した。食餌と水は自由に摂取できた。Tは0日目に示したように設定し、実験中一定に維持した。マウスに移植したテレメトリー温度センサーをチャンバーに入れる前に電源を入れた。標準的な実験デザインは以下の通りであった。第2日、ZT-0に、日内休眠(torpor)を誘発するために食物を除去した。24時間後、3日目、ZT-0で各動物に食餌を戻した。
【0063】
(6)薬剤投与中の代謝の記録
DREADDアゴニストであるCNO(クロザピンN-オキシド、Abcam、ab141704)を100μg/mLの用量で生理食塩水に溶解し、-20℃で凍結した。CNO溶液を現場で解凍し、マウスに1mg/kgの用量で溶液を腹腔内投与した。アデノシンA1受容体アゴニストであるCHA(N-シクロヘキシルアデノシン、Sigma-Aldrich、C9901)を250μg/mLの濃度で生理食塩水に溶解し、マウスに2.5mg/kgの用量で腹腔内投与した。
【0064】
(7)全身麻酔中の代謝の記録
上述のT、VOおよびビデオ記録(「生物学的シグナルの記録」を参照)に加えて、代謝チャンバーの入口を吸入麻酔器の出口(NARCOBIT-E、株式会社夏目製作所)に直接接続した。1%のイソフルランをT=28℃で30分間与え、その後90分間のT=12℃とした。実験後、動物をホットプレート上で加温し、回復を確認した。
【0065】
(8)免疫組織化学的染色
マウスをイソフルランで深く麻酔し、水中の10%スクロースで経心的に潅流し、続いて0.1Mリン酸緩衝液pH7.4中の氷冷した4%パラホルムアルデヒド(4%PFA)で潅流し、脳を除去した。脳を4%PFA中、4℃で一晩後固定し、0.1Mリン酸緩衝生理食塩水pH7.4(PBS)中、30%ショ糖中、4℃で一晩インキュベートし、クライオモルド中のTissue-Tek O.C.T. 化合物(Sakura)に浸漬し、切片化するまで-80℃で凍結した。クライオスタット(CM1860、Leica)を用い、50μm毎に4つの等しいシリーズに冠状にスライスし、氷冷PBSを充填した6ウェルプレートに収集し、室温(RT)で3回PBSで洗浄した。特に断りのない限り、軌道振盪機上で穏やかに振盪しながら、以下のインキュベーション工程を実施した。脳切片を、PBS中1%Triton X-100中で室温で1時間インキュベートした。0.3% Triton X-100-処理PBS(ブロック溶液)中の10% Blocking One(NACALAI TESQUE)で切片を振盪することなく室温で1時間ブロックした。切片をブロッキング溶液(希釈液および各抗体の種類を下記に示す)で希釈した1次抗体中で4℃で一晩インキュベートし、次いで3回洗浄し、2次抗体と共に4℃で一晩インキュベートし、PBSで洗浄し、次いでマウントし、DAPIを含むHardSet Antifade Mounting Medium(VECTASHIELD)を用いてカバーガラスをかぶせた。
【0066】
本研究で用いた最初の抗体は、ウサギ抗cFos(1:4000、ABE457、Millipore)、ヤギ抗mCherry(1:15000、AB0040-200、SICGEN)、ラット抗GFP(1:5000、04404-84、NACALAI TESQUE)、マウス抗TH(1:1000、sc-25269、Santa Cruz Biotechnology)、マウス抗オレキシンA(1:200、sc-80263、Santa Cruz Biotechnology)、およびウサギ抗MCH(1:2000, M8440, SIGMA)であった。2次抗体は以下のとおりである。Alexa Fluor 488ロバ抗ラット、488ロバ抗ウサギ、594ロバ抗ウサギ、594ロバ抗ヤギ、647ロバ抗マウス、および647ロバ抗ウサギ(1:1000、Invitrogen)。Nissl染色のために、切片をNeuroTrace 435/455 Blue Flue Fluorescent Nissl Stain(1:500、N-21479、Invitrogen)で2次抗体工程中に対比染色し、FluorSave Reagent(Millipore)を用いてカバーガラスをかぶせた。脳領域は、Paxinos and Franklin36によるマウス脳マップを用いて決定した。
【0067】
(9)in situハイブリダイゼーション
蛍光in situハイブリダイゼーションは、RNAscope Fluorescent Multiplex Kit(Advanced Cell Diagnostics)を用いて、RNAscope Fluorescent Multiplex in situハイブリダイゼーション用に設計されたプローブ(ACDBio RNAscope Probe-Mm-Qrfp#4643411、mCherry#43201、Mm-Slc32a1#319191、Mm-Slc17a6#319171)を用いて実施した。脳を切開し、直ちにドライアイス上で2-メチルブタン中で凍結し、-80℃で凍結包埋培地中に保存した。切断に先立ち、脳をクライオスタット中で-16℃に1時間冷却した。クライオスタット(Leica CM1860UV)を用いて脳を20μmの切片に冠状切片に切断し、Superfrost Plus Microscope slides(Fisherbrand)にマウントした。前処理法およびRNAscope Fluorescent Multiplex Assayは、RNAsope Assay Guide(それぞれ文書番号320513および320293)に準じて正確に実施した。
【0068】
(10)Qニューロンの逆行性追跡
雄のQrfp‐iCreマウス(10~12週齢)に下記のウイルスを注射した。AAV10-DIO-TVA-mCherryおよびAAV10-DIO-RGを送達して、TVA-mCherryおよびRGをMB領域のQニューロンに発現させた(手順および座標については上記参照)。2週間後、SADΔG‐GFP(EnvA)を同じ部位に注射した。Leica TCS SP8レーザ共焦点顕微鏡とZeiss Axio Zoom.V16をそれぞれ用いて、全脳切片でスターターニューロンと入力(単一GFP陽性)ニューロンを検出した。
【0069】
(11)血液化学検査
麻酔下のマウスから25ゲージ針を用いて左室穿刺により血液を採取した。採取した血液は氷上に2時間以上保存しなかった。サンプルを2,000Gで10分間4℃で遠心分離し、上清を収集し、-30℃で凍結した。FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporationに凍結血清検体を送付し、Na(mEq/L)、K(mEq/L)、Cl(mEq/L)、AST(IU/L)、ALT(IU/L)、LDH(IU/L)、CK(IU/L)、GLU(mg/dL)および総ケトン体(μmol/L)濃度を測定した。
【0070】
(12)電気生理学的分析
マウスはイソフルラン(Pfizer)による深麻酔下で断頭した。脳を抽出し、以下の(mM)を含む氷冷切削溶液中で冷却した:125mMの塩化コリン、25mMのNaHCO、10mMのD(+)-グルコース、7mMのMgCl、2.5mMのKCl、1.25mMのNaHPO、およびO(95%)とCO(5%)でバブルした0.5mMのCaCl。視床下部を含む水平脳スライス(250μm厚)をビブラトーム(VT1200S、Leica)で調製し、以下の(mM)を含む人工CSF(ACSF)中で室温で1時間維持した:125 mMのNaCl、26 mMのNaHCO、10 mMのD(+)-グルコース、2.5 mMのKCl、2 mMのCaCl、をO(95%)とCO(5%)でバブルした1 mMのMgSO。電極(5~8MΩ)を、以下の(mM)を含む内部溶液で充填した:125 mMのK-グルコナート、10 mMのHEPES、10 mMのホスホクレアチン、0.05 mMのトルブタミド、4 mMのNaCl、4 mMのATP、2 mMのMgCl、0.4 mMのGTP、および0.2 mMのEGTA、pH7.3、KOHで調整)。hM3Dq-mCherry発現ニューロンの発火を30℃の温度で電流-クランプモードで記録した。CNO(1μM)を浴中適用し、効果を調べた。MultiClamp 700B増幅器、Digidata 1440A A/D変換器およびClampex 10.3ソフトウェア(Molecular Devices)の組み合わせを用いて、膜電圧およびデータ取得を制御した。
【0071】
(13)透明なマウス脳の3Dイメージング
透明なマウス脳を、既に述べたように37、ScaleS法により作製した。尿素結晶(和光純薬工業、217-00615)、D(-)-ソルビトール(和光純薬工業、199-14731)、メチル-β-シクロデキストリン(東京化学工業、M1356)、γ-シクロデキストリン(和光純薬工業、037-10643)、N-アセチル-L-ヒドロキシプロリン(Skin Essential Actives、台湾)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業、043-07216)、グリセロール(Sigma, G9012)およびTriton X-100(Nacalai Tesque, 35501-15)を用いてスケール溶液を作製した。AAV‐DIO‐GFPを注射したQrfp‐iCreマウスの脳を固定し、ScaleSで透明化した。画像はレーザー共焦点顕微鏡(オリンパス、XLSLPN25XGMP(NA 1.00,WD:8mm)(RI:1.41~1.52))で得られた。
【0072】
(14)統計解析
本研究では、ベイズ統計学を適用して、発明者らの仮説および実験結果を評価した。発明者らは、仮説の構造を表すパラメーターを有する統計モデルを設計し、実験結果にモデルをフィットさせた。ベイズ推論はパラメータの尤度分布と事前確率分布からモデルパラメータの事後確率分布を推定する。事後分布は、モデルが実験結果から仮説をどのように説明できるかに関する情報を提供する。ベイズモデルはすべてのタイプの不確実性を明示的に含むことができ、従って、それは観測におけるノイズに関するデータを扱うことができるか、または、それは広い範囲の不確実性を有する可能性のある少数の試料からの情報を十分に利用することができる。さらに、これは階層モデルを用いて、異なる数のサンプルを持つ複数のグループの複数の層を扱うことができる。ベイズ推論のこれらの利点はすべて、動物実験でよく見られる問題に対処するのに適している。モデルフィッティングは、Rのバージョン3.5239のRStanライブラリー38を有するStanのバージョン2.18.0で実行されるように、適応バリアントである非Uターンサンプラーを有するHamiltonian Monte Carloを用いて実施した。トレースプロットの検査、
【数1】
【0073】
および有効サンプル数の推定により収束を評価した。モデルの事前確率密度関数は弱い情報性と保守性とで定義され、以下の節で規定されている。統計モデルの設計の基本原理と技術は、Statistical Rethinkingという本40に基づいている。解析に用いたモデルおよびデータのソースコードはいずれも、https://briefcase.riken.jp/public/JjtgwAnqQ81AgyIから入手できる。(評価のために、パスワード「qih」で保護され、公表される予定である)。
【0074】
Qrfp-iCreマウスの体重を、所定の年齢および系統で状態空間階層モデル(コードフォルダQRFP_KO_BW)によりモデル化した。各群の動物;野生型(n = 9)、ヘテロ接合型(n = 9)、およびホモ接合型(n = 10)のQrfp-iCreマウスを、個体を同定せずに各ケージで飼育した。体重の観察不能なベースラインを時間変数Bt,sと定義し、ここで、tを時点とし、系統の指標(野生型、ヘテロ、およびホモQrfp-iCreマウスについてそれぞれ1、2、および3)をトレンドηおよび総時点Tで表すと、観察された状態Yt,iは、以下のように対数正規分布による観察誤差をモデル化することによって記述することができる。
【0075】
【数2】
【0076】
標準の半正規分布から引用したσ1とσ2を除くすべてのパラメータに均一な事前確率密度関数を適用した。
【0077】
脳スライスにおけるQrfp陽性ニューロンのスパイク頻度は、ニューロンがCNOによって活性化されたときのスパイク頻度の差をパラメータ化することによりモデル化した(コードフォルダPatch_M3_CNO)。スライスの総数がKであり、i番目のスライスのコントロールおよびCNO投与記録の観察されたスパイク頻度がそれぞれBおよびCである場合、Bは観察誤差を伴うβBASEによってモデル化され、Cは観察誤差を伴うβBASEおよびβCNOの合計によってモデル化される。スパイキング頻度は正の実数であるため、誤差は対数正規分布によってモデル化することができ、従って、BおよびCは以下のように記述することができる。
【0078】
【数3】
【0079】
すべてのσを標準的な半正規分布からサンプリングした。
【0080】
光刺激動物のTを階層的多層モデルでモデル化した(図21、コードフォルダSSFO_Opto)。4群の動物をこの実験に含めた。Tを1Hzで記録し、10秒毎に中央値を10秒毎に保存し、更なる分析を行った。第1光刺激後115~125分に記録したTをすべて解析に含めた。Kが動物の総数であり、Yがiに属するマウスjの関心時間中のTである場合、Yは、尺度パラメータσERRORのCauchy分布でモデル化された観察ノイズを伴う、グローバル平均パラメータβ、群パラメータβGROUP、および個々のマウスパラメータβMOUSEの合計として表すことができる。
【0081】
【数4】
【0082】
すべてのσを標準的な半正規分布からサンプリングした。Tの群間差を、σMOUSEの標準偏差で正規分布ノイズを有するβおよびβGROUPの合計である事後分布から各群の平均Tを推定して比較した。
【0083】
QIHおよび通常の条件下での体温調節系を評価するために、動物の熱損失および熱生産を階層的多層モデル(図3c-k、コードフォルダQIH_GTRH)で記述した。2つの代謝条件、すなわち正常およびQIHにおける3つのパラメータG、TおよびHを、種々のTにおける動物の代謝的に安定な状態から推定した。詳細な方法は先に述べた。要するに、制御可能なパラメータTと観測可能なパラメータTとVOから成る線形モデルを、正規分布ノイズを有する予測因子としてTを用い、TとVOの両方についての実験結果に適合させた。次に、各モデルの傾きと切片係数の事後分布を用いて、G、T、およびHを推定した。この分析では、ノイズの標準偏差の事前確率密度関数は標準的な半正規分布であり、他のパラメータは負の値に起因する均一な分布を使用したTの切片係数を除いて均一な分布の正の領域を用いた。
【0084】
Q‐TeTxLCマウスにおける代謝の概日変化は、記録された値をL期およびD期にクラスター化することにより代謝をモデリングすることにより解析した(コードフォルダTeTxLC_LD)。特に、Yが第j相のi群の観察されたTである場合、Yは基礎代謝(L相代謝)とD相間の差の和として表すことができ、正規分布の観察ノイズは次のようになる。
【0085】
【数5】
【0086】
すべてのσを標準的な半正規分布からサンプリングした。VOのモデリングでは、VOは正の実数のみを想定しているため、観測誤差を対数正規分布としてモデル化した以外は、基本的なモデル構造はTモデリングと同一であった。
Q-TeTxLCマウスにおけるFIT中の代謝は、階層的多層モデル(図4d、コードフォルダTeTxLC_FIT)でモデル化した。セクションjにおけるあるグループiの最小値Yは、グループβ0[i]の平均代謝と差異パラメータβ1[i,j]の合計として表すことができる。
【0087】
【数6】
【0088】
代謝の分散をモデリングするために、観察された値Yの予測因子としてマウスの同一性を含めた。このようにして、あるセクション(SECTION)の所定のグループのYは正規分布としてモデル化され、この正規分布は、マウス依存の平均αMOUSEとグループおよびセクション依存のパラメータβGROUP,SECTIONを平均として、σGROUP,SECTIONを標準偏差として用いた。
【0089】
【数7】
【0090】
式(22)~(24)および(28)~(30)の全σを標準の半正規分布からサンプリングした。これらのモデルは、T、VO、およびRQのモデリングに用いられた。これらのモデルのYでさえ、理論的には負の実数を受け入れることができ、後者はうまく収束したため、このモデルをVOとRQにも適用した。
【0091】
[実験と結果]
【0092】
実施例1:化学的に定義された視床下部ニューロン集団による代謝低下の誘発
視床下部神経ペプチドであるピログルタミン化RFアミドペプチド(QRFP)は、もともと新しいRF‐アミドペプチドを発見することを目的としたバイオインフォマティクスアプローチを通して発見された9,10。Qrfpペプチドはまた、オーファンG-タンパク質結合受容体hGPR103の内因性リガンドとしてラット脳から同定および精製された11。prepro‐Qrfp mRNAは視床下部にのみ局在し、脳室周囲核(Pe)、視床下部外側野(LHA)、および灰白隆起(TC)11に分布する。Qrfpは、食物摂取、交感神経調節、および不安に関係するとされてきた11,12。発明者らは、Qrfp遺伝子にコドン改良Creリコンビナーゼ(iCre)をノックインしたマウス(Qrfp-iCreマウス)を作製した。発明者らは、iCre発現ニューロンにのみhM3Dq-mCherryを発現するマウス(Qrfp-iCre;Rosa26dreaddm3 マウス)を得るために、CAG-hM3Dq-mCherryをRosa26遺伝子座に上流のfloxed転写停止エレメントを挿入したRosa26ddreadm3 マウスと交配した。Qrfp‐iCre;Rosa26dreaddm3マウスを用いた興奮性化学遺伝学的実験中に、これらのマウスは運動活性の顕著な低下を示し、最終的にクロザピン‐N‐オキシド(CNO)の腹腔内(IP)注射から約30分後に始まる重度で持続的な不動状態となった。これらのマウスの姿勢は日内休眠(tropor)中に観察された姿勢と類似していることに気づいたので、Qrfp‐iCreマウスにおけるiCre陽性細胞の活性化は日内休眠(tropor)様状態を誘発し、不動性と低いTを特徴とすると最初に仮説した(後述するように、ここで誘導された低体温は日内休眠ではなく、冬眠様状態であることが明らかとなっている)。この仮説を評価するために、サーモグラフィーカメラを用いて表面体温(T)を測定し、Qrfp‐iCre;Rosa26dreaddm3マウスにおけるCNO誘発性不動状態が、顕著で持続性の低体温を伴うことを見出した(図1b)。Tの減少はCNO投与の約5分後から始まり、ほぼ12時間持続した。その後、マウスは外部からの再加温なしに低体温状態から自発的に回復した。
【0093】
対照的に、Qrfp-iCre;Rosa26dreaddm4マウスのiCre陽性ニューロンにおけるhM4Diの活性化を介した抑制性DREADD操作は、Tに対していかなる効果も示さなかった(図1b)。重要なことは、Qrfp-iCre;Rosa26dreadm3マウスにおけるiCre陽性ニューロンのhM3Dq介在性活性化は、両対立遺伝子においてprepro-Qrfp配列が完全にiCreに置換されたホモ接合性Qrfp-iCreマウスにおいてさえ、重度の低体温を誘発したことである(図1b)。このことは、Qrfpペプチド自体は低体温を誘導するために必須ではないことを示唆する。むしろ、低体温の程度はQrfpノックアウト(Qrfp‐iCreホモ接合体)マウスでより顕著であり、内因性Qrfp自体が低体温に対抗する可能性を示唆する。これは、Qrfpが中枢投与時に交感神経の流出を増加させ、心拍数および血圧を上昇させるという発明者らの以前の観察11と一致する。
【0094】
そこで、低体温誘導ニューロンの化学マーカーとしてQrfpを同定した。次に、iCre陽性ニューロンは視床下部にのみ観察されるが、Qrfp-iCreマウスのいくつかの離散した視床下部領域に分布しているので、低体温を誘導する視床下部領域の同定を試みた。2つの異なる定位座標;内側基底(MB)注射または側方(LH)注射(方法を参照)を用いて、flip-excision(FLEX)スイッチ13を有するCre活性化AAVベクターをQrfp‐iCreマウスの視床下部に注入することにより、視床下部の外側と内側の領域のiCre陽性ニューロンを別々に操作した。Cre依存性AAVベクターのMB注入により、視床下部の内側領域、すなわち前腹側脳室周囲核(AVPe)、内側視索前野(MPA)およびPeにおけるiCre陽性ニューロンの特定の遺伝子を発現させることができたが、LHAでは発現することができなかった(図1c)。マルチカラー蛍光in situハイブリダイゼーション分析により、これらの領域の大部分のmCherry陽性細胞がQrfp mRNAを発現することが確認された。Qrfp-iCreマウスにAAV10-EF1a-DIO-hM3Dq-mCherryをMB注入してこの領域にhM3Dqを発現させた後、これらのマウスから作成した視床下部スライスを用いて電気生理学的研究を実施し、CNOの浴中適用がmCherry陽性ニューロンを強く興奮させたことを確認した。これらのマウスにCNOをIP注入すると、Qrfp-iCre;Rosa26dreaddm3マウスで観察される重度の不動状態よりも深く長く続く低体温症を引き起こすことがわかった(図1b、図1d)。非常に低いT状態(30℃未満)は48時間以上続いた(図1d)。抗Fosおよび抗mCherry抗体を用いた免疫染色により、AVPe、MPAおよびPeにおいて多数のmCherryおよびFos二重陽性ニューロンが明らかにされ、CNOによるこれらのニューロンのin vivoでの興奮が確認された(図1e)。
【0095】
これらの観察から、Qrfp‐iCreマウスのAVPe/MPAおよびPeにおけるiCre陽性ニューロン(これらのニューロンを静止誘発ニューロンまたはQニューロンと後述する)は主に誘導低体温状態の原因であると結論した。以下の実験において、発明者らは、特に明記しない限り、低体温の誘導のために、AAV10-EF1a-DIO-hM3Dq-mCherry(Q-hM3Dマウスと呼ばれる)のMB注射を伴うQrfp-iCreマウスを基本的に使用した。
【0096】
誘導低体温状態をさらに解析するために、Q‐hM3Dマウスの腹腔内に遠隔測定温度センサーを移植し、呼吸ガス分析により代謝を連続的に分析した(図1f)。本研究は、Q‐hM3DマウスにおけるCNO誘発低体温状態が、O消費速度(VO:酸素消費量)の著しい低下(図1g)を伴い、CNO投与後のTと共にTが同時に減少することを確認した。対照的に、AAV10-EF1a-DIO-hM3Dq-mCherryのLH注射によるQrfp-iCreマウスの視床下部外側領域(LHAおよびTC)のiCre陽性ニューロンの興奮性DREADD操作は、低体温を誘発しなかった(図1g)。
【0097】
Qニューロン誘発低体温/低代謝(QIH)状態の間に、心拍数は著しく減少した(CNO注射の2時間前と2時間後、それぞれ758拍/分と215拍/分)(n=3の平均)。呼吸数は333呼吸/分から検出不可能な状態にまで減少した(1回換気量は検出限界未満)。これらのタイミングで、VOは3.60から1.17ml/g/hrに減少した。QIH中、マウスは非常に低い振幅脳波(EEG)を示し、これは高振幅徐波を特徴とする非急速眼球運動睡眠で観察されるものとは明らかに異なっていた。血清化学データは、血糖値がQIH中に低下することを示唆し、これはおそらく交感神経緊張の低下による糖新生の低下によるものと思われる。これらの観察はさらに、多くの身体機能がQIH中のTとVOの減少と共にロバストに減少することを示唆する。
【0098】
DREADDを介する効果は通常、CNO注射後数時間しか持続しないが、Q‐hM3DマウスにおけるDREADD誘発QIHは非常に長く持続した。驚いたことに、T=20℃では、30℃未満のTのQIHは、CNOを1回投与(1mg/kg)しただけで48時間以上持続し、VOが完全に正常に回復するのに約1週間かかった(図1h)。QIHからの回復後、マウスは健康であり、正常に振る舞うようであった。QIHは、同じマウスに反復CNO注射後に再現可能であり、この操作の可逆性を示した(図1h)。
【0099】
実施例2:Qニューロンは視床下部背内側に作用してQIHを誘導する
QIHを誘導する機構を明らかにするために、Qニューロンの軸索投射を解析した。Qrfp-iCreマウスにAAV10-EF1a-DIO-GFPを注射してQニューロンに特異的にGFPを発現させた後(図2a、b)、MPA、VOLT、室傍核(PVN)、視索上核(SON)、視床下部背内側(DMH)、LHA、結節乳頭核(TMN)、内側乳頭核(MM)、中脳水道周囲灰白質(PAG)、外側結合腕傍核(LPB)、青斑核(LLC)、延髄吻側腹外側野(RVLM)、および淡蒼縫線核(RPa)(体温調節調節および交感神経制御に関わる領域)におけるGFP陽性線維を観察した(図2c)14。発明者らは、DMHが特に豊富な投射を受けたことを見出した。ScaleS法で明らかになった脳の解析から、QニューロンとDMHへの投射の位置がさらに示唆された(図2d)。
次に、Qニューロンの三重カラーin situハイブリダイゼーションを用いて、これらのQニューロンが抑制性か興奮性かを確認した。CNO注射がQ‐hM3DマウスにおいてQIHを効果的に誘導することを確認した後、これらのマウスをin situハイブリダイゼーション組織化学的検査に供した。興奮性および抑制性マーカーであるmCherryをコードする転写産物、小胞性グルタミン酸トランスポーター2(Vglut2)および小胞性GABAトランスポーター(Vgat)をコードするプローブを用いた。われわれは、Qニューロンの約2/3がVgat陽性であり、約2/5がVglut2陽性であることを見出した(図2e-i)。
【0100】
Qニューロンによる豊富な投射を含む領域(図2c)の中で、我々はDMHに焦点を当てた。なぜなら、熱産生促進ニューロンは以前にDMHで同定されたからである15。DMHへのQニューロンの軸索投射の機能を明らかにするために、光遺伝学的アプローチを用いた。Qrfp-iCreマウス(Q-SSFOマウス)にAAV10-DIO-SSFO-eYFPを注入することにより、Qニューロンで安定化したstep function opsin (SSFO)16を発現させた(図2j)。SSFOはAVPe,MPAおよびPeで発現することを確認した。Tに対する光遺伝学的興奮の効果を確認するために、まず、Qニューロンの多くの細胞体が見出されるAVPe/MPAに光ファイバーを移植し(図2j)、光パルス(1秒幅の光パルス)を印加することによりSSFO陽性細胞体の光発生的興奮をマウスにかけた。この状態では、Qニューロンの光遺伝学的興奮が急速に強い低体温を誘発し、約20分続いた(図2k)。Qニューロンを30分ごとに4回繰り返し興奮させると、T(22℃)と同程度に低いTを伴う著明な低体温になった。興奮後のAVPe/MPAのSSFO‐eYFP陽性細胞では多くのFos陽性ニューロンが同定された(図2j)。光遺伝学的に誘発されたQIHは、QニューロンのhM3Dq介在性の薬理遺伝学的興奮によって誘発されるQIHよりも明らかに短時間持続し(図2k)、このことは、遺伝子発現プロフィールの変化を導くQニューロンにおけるGq介在性の代謝調節性シグナル伝達がQIHの長期持続性を作り出す役割を果たしている可能性を示唆している。
【0101】
次に、Q‐SSFOマウスの両側にDMHに光ファイバーを移植し、光刺激を軸索線維に適用した。この操作は効果的にTを減少させたが、AVPe/MPAの細胞体刺激によって誘導されるものよりわずかに弱かった(図2k,l)。対照として、RPaは褐色脂肪組織制御を介する熱産生のための交感神経性運動前ニューロンを含むことが知られている17ため、RPaにおけるQニューロン線維の光刺激の影響も検討した。また、Tに対するRPaにおけるQニューロン線維の光発生的興奮の微妙な作用も観察された(図2k,l)。これらの結果から、Qニューロンは主にDMHに作用し、RPaに対してはより小さい程度で作用し、QIHを誘導すると仮定した。
【0102】
実施例3:理論的設定温度はQIH中に低下する
QIH誘発直後にマウス尾部の温度上昇が観察され、Qニューロンの光遺伝学的または薬理遺伝学的興奮によって誘発されたことから、Tの減少中に末梢血管が拡張して熱を放出することが示唆された(図1d、図2k)。Tの増加を伴わない末梢血管拡張は、冬眠動物の冬眠状態で見られるように、理論体温設定値(T)を正常状態より低い値に再設定されていることを示唆する。これを評価するために、QIH中のマウスの体温調節系の特徴分析を行った。動物が外部仕事を持たず、代謝が安定している条件下では、複数の周囲温度(T)下で、TおよびVOから熱コンダクタンス(G)、HおよびTを推定することができる。Q‐hM3Dマウスを調製し、種々のT(8、12、16、20、24、28および32℃)下でQIH中にTおよびVOを記録した(図3a)。生理食塩水またはCNOのIP注射後の11時間平均TおよびVOを比較した。QIH中、動物は対応する対照と比較して、全てのTで低いTとVOを示した(図3b)。熱産生システムが適切に機能しているとき、すなわち、TがTより高く、体温調節システムがVOを増加させてTに到達しようとしているとき(図3c)、Tが増加するとTは増加し、VOは減少する。TとVOはそれぞれ異なるTで最小値を示し、Tでは16~24℃の範囲の協調した熱生成特性のみを示した(図3b)。したがって、QIH中のT=16、20、および24℃の代謝データを用いてさらに分析した。まず、T-TとVOの関係からGを推定した(図3d)。Gの89%の最高後部密度間隔(HPDI)は、正常及びQIH条件下でそれぞれ[0.212,0.221]ml/g/hr/℃及び[0.182,0.220]ml/g/hr/℃(図3e;以下89%HPDIは2つの数字で四角括弧で示す)であった。量的に、両Gの差の後方分布(ΔG)は[-0.0040,0.0348]ml/g/hr/℃(図3f)であり、0を含んでおり、正常条件下とQIH条件下のGが区別できないことを示唆している。これは通常の条件よりも低いGを示す日内休眠(torpor)とは異なっていた。第二に、TとVOからHとTを推定した(図3g)。Hは正常状態で[3.43、8.72]ml/g/hr/℃、QIHで[0.181、0.369]ml/g/hr/℃(図3h)であり、各中央値で95.3%の減少であった。差の事後分布(ΔH)は[3.17,8.48]ml/g/hr/℃(図3i)であり、陽性であり、これらの条件が異なる確率が89%以上であることが示唆された。このH低下は、空腹時誘発日内休眠(FIT)時のH低下と類似していた。特に、
は正常状態で[36.04、36.60]℃、QIHで[26.83、29.13]℃と推定された(図3j)。Tの差は各中央値で8.41℃であり、差の後方分布(ΔT)は[7.18,9.57]℃であり、QIH中のTの低下を明確に示している(図3k)。FITにおける非常に小さな理論的設定温度シフトを考慮すると、この観察は、QIHと冬眠の間の類似性、ならびにQIHと日内休眠(torpor)の間の差を強調する。
【0103】
冬眠の顕著な特徴であるQIH中のT減少の証拠をさらに提供するために、QIH中にTが動的に変化したとき、個々のマウス内の姿勢と代謝の間の関係を観察した(n=4、図3lにおける1匹の代表データ、および他の3匹のデータ)。冬眠動物におけるようなQIHの非常に安定で長期にわたる低代謝状態は、これをマウスで調べることを可能にした。Q-hM3DマウスをT=28℃に設定し、FITを誘導した(図3lのAおよびB)。24時間の回復の後、QIHはCNO投与により誘導された(図3lのC、D、E、およびF)。興味深いことに、T=28℃で、マウスはQIH中に伸びた姿勢を示したが、この姿勢は通常高温環境に暴露された動物で見られるものである(図3lのD)。これは、T=28℃でのFIT中に観察される典型的な座位姿勢とは明らかに異なっていた(図3lのB)。この行動観察はさらに、TがFITおよび正常状態よりもQIHで低いことを示している。さらに、Tを12℃に下げたところ、日内休眠(torpor)に似た座位(図3lのE)に戻り、震えが始まった。これらの結果は、QIH中、Tは低下するが、身体機能および行動はTの変化に適応するために依然として調節されることを強く支持する。
【0104】
動物は冬眠中は代謝率が低いが、Tに反応してその代謝は活発に調節されていることがよく知られている。同様に、QIHでは、16℃以下のTに曝露された動物は、20℃または28℃のTに曝露された動物と比較して、かなり大きなVOを示した(図3b)。実際、これは、Tを一定のレベルに下げた場合に代謝増加を示した冬眠動物に関する以前の報告18と類似している。QIHのこの活発な代謝低下の特徴は、個々の動物でも確認された(図3l)。QIH中のマウスの行動および代謝反応は、身体機能がTを狭い範囲に維持しようとしている正常な状態で観察されたものとは全く異なっていた。
【0105】
QIH中の代謝機能を麻酔状態と比較するために、発明者らは複数T下で全身麻酔中の代謝転移を記録した。予想通り、麻酔下の動物は低いTに曝露しても、VOの増加も姿勢の変化も示さなかった。また、低体温状態を誘発するために用いられているアデノシンA1ARアゴニスト(6)N-シクロヘキシルアデノシン(CHA)の全身送達によって誘導される代謝状態も調べた19。野生型マウスへのCHA(2.5mg/kg)のIP注射は低体温/低代謝状態を効果的に誘導したが、マウスはVOの増加または行動(姿勢と震え)のいずれかによって低T(12℃)に反応しなかった。20℃でのTは、QIHよりもCHA誘発性低体温で高い傾向があったが、TとVOはCHA誘発性低体温でさらに減少した。一方、Tを12℃に設定した場合、これらのパラメータはQIHで増加した(図3b)。これらの観察は、QIHが全身麻酔またはCHA誘発受動的低体温とは完全に異なり、それはTの調節系を遮断することによって低体温状態を誘発することを示している。
【0106】
実施例4:Qニューロンは正常な絶食誘発性の日内休眠(torpor)に関与している
QIHは日内休眠(torpor)よりも冬眠に似ているが、日内休眠(torpor)は冬眠の軽い状態と考えられることがあるため、Qニューロンが日内休眠(torpor)にも関与しているかどうかを検討した。また、共通または類似のメカニズムが冬眠および日内休眠(torpor)を誘導する役割を果たしているかもしれない20。日内休眠(torpor)におけるQニューロンの役割を調べるため、Qrfp-iCreマウス(Q-TeTxLCマウス)にAAV2/9-hSyn-DIO-TeTxLC-eYFPを注入することによりQニューロンに特異的に破傷風毒素軽鎖(TeTxLC)を発現させ、QニューロンのSNARE複合体介在性神経伝達の遮断がFITに影響を及ぼすかどうかを調べた(図4b)。AAV2/9‐hSyn‐DIO‐TeTxLC‐eYFPとAAV10‐EF1a‐DIO‐hM3Dq‐mCherryの同時注入はTに対するCNOの作用を完全に消失させ、SNARE複合体の遮断がQニューロンのQIH誘導能を消失させることを示唆した。われわれは、すべてのQ-TeTxLCマウスにおいて、FITの正常な構造が崩壊することを見出した。絶食中のこれらのマウスでは、代謝の急速な振動変動は見られなかった(図4c,d)。このことは、Qニューロンの機能がFIT中のTの急速な低下を誘発するために必要であることを示唆する。興味深いことに、これらのマウスで観察されたTの漸減は、FIT中にQニューロン非依存性の代謝低下機構が存在することを意味する。加えて、Q‐TeTxLCマウスは対照マウスよりもTの概日変動が少なく、Tの概日調節におけるQニューロンの主要な役割を示唆した。特に、QRFPペプチドを欠くホモ接合のQrfp-iCreマウスは、正常なFITを示した(図4e)。これらの観察は、Qニューロンは日内休眠(torpor)を誘導する必須の構成要素であり、日内休眠(torpor)における体温の急速なシフトに重要な役割を果たしているが、QRFPは果たしていないことを示唆する。
【0107】
Qニューロンの活性を調節するニューロンのメカニズムを解明するために、われわれは、組換え型仮性型狂犬病ウイルスベクター(SADΔG(EnvA))媒介性ラベリング21図4f)によってQニューロンと直接シナプス接触する上流ニューロン集団を同定した。Qrfp‐iCreマウスのCre活性化AAVベクター22を用いてQニューロンにおいてTVA‐mCherryおよび狂犬病糖蛋白質(RG)を発現させた後、SADΔG‐GFP(EnvA)を同じ部位に注入した。TVA-mCherryおよびGFPに対して二重陽性であるスターター細胞がAVPe/MPAおよびPeに認められた(図4g)。正中視索前核(MnPO)、PVNおよびMPAにおいて、Qニューロン(GFPは陽性だがmCherryは陰性)に直接シナプス入力する入力ニューロンを同定した(図4h)。入力ニューロンはAVPe/Peの内部および周囲にも観察され、Qニューロンの機能を調節する局所介在ニューロンの存在、およびQニューロンがAVPe/MPAおよびPe内の介在ニューロンと微小回路を構成する可能性を示唆した。これらの観察は、Qニューロンが視床下部内領域から比較的まばらな直接入力を受けることを示唆する。FITは絶食により誘導されるので、Qニューロンは負のエネルギーバランスをモニターすることが期待される。PVHのニューロンはARCから豊富な入力を受けることが示されている23ため、PVHからQニューロンへの入力は栄養状態に関する情報を伝達する役割を果たしている可能性がある。PVH入力は視交叉上核(SCN)からの概日情報を伝達することもある。
【0108】
MPAはTの調節に関与している24,25ので、QニューロンとMPA間の相互相互作用は体温調節に重要な役割を果たしている可能性がある。VMPOには入力ニューロンも含まれている。以前の研究では、視索前野腹内側核(VMPO)の温感受性ニューロンがBDNFとPACAP二重陽性ニューロンとして同定された。これらの細胞の興奮も低体温を誘発した26。この効果はQニューロンの興奮によって誘導されるものよりはるかに小さいが、VMPOPACAP/BDNFニューロンとQニューロンの機能的相互作用が存在する可能性がある。また、POAにおけるTRPM2陽性細胞のDREADD励起は低体温を誘導することが示された。TRPM2は、AVPe/MPAおよびQニューロンへの入力ニューロンを含む領域を含むPOAで遍在的に高発現されるので、TRPM2誘導低体温は、Qニューロンの直接的および/または間接的活性化によって誘導される可能性がある27
【0109】
Qニューロンは第3脳室(3V)に沿って局在し、これらのニューロンの樹状突起は3Vの上衣および脳室周囲器官に近い領域に沿って伸びるため(図1c)、タニサイトおよび上衣細胞によって放出される体液性因子、脳脊髄液中の因子、または毛細血管も感知する可能性がある。
【0110】
[考察]
ここでは、マウスにおける特定の化学的(=Qrfpを発現する)および組織的(AVPe/MPA)特徴を有する新規視床下部ニューロン集団の存在を示し、この集団の興奮は冬眠と非常に類似した能動的代謝低下を誘発する。この状態であるQIHは、冬眠と2つの主要な性質を共有している。1つはTの減少であり、もう1つは活発に調節される低代謝である。QIHの間、マウスは外界環境に従って身体機能を活発に調節する。心拍数の減少、呼吸の弱さ、低電位脳波などの他の多くの生理学的パラメータは、QIHと冬眠との類似性を示唆する29。Fos発現解析により、ジュウサンセンジリス30において3V付近の細胞が冬眠中に活性化されることが以前の研究で示された。この活性化パターンはQニューロンが局在する領域と非常によく似ており、冬眠神経もまたQニューロンを利用して冬眠を誘導する可能性を示唆している。
【0111】
マウスが冬眠様の状態(=QIH)に入ることができたことは、非常に驚くべきことである。げっ歯類、イヌ亜目、さらには霊長類を含む遠縁の哺乳類には冬眠する能力があるので、冬眠の神経機構は広範囲の哺乳類種で保存されているが、これらの系は非冬眠動物では正常な状態では動員されないと仮定することは理にかなっている。Qrfp遺伝子はヒトでも保存されているので、Qニューロンが興奮すると活性の低代謝状態を示す可能性も推測できる。本研究では、DMHがQニューロンの主要なエフェクター部位であることも確認した。DMHにおけるQIH誘発ニューロンを同定する今後の研究は、QIHのメカニズムをさらに明らかにするであろう。Qニューロンは本研究で同定された他の領域にも作用する可能性がある。例えば、SONは最近、全身麻酔および睡眠において重要な役割を果たすことが報告された32
【0112】
また、Qニューロンはマウスの絶食誘発の日内休眠(torpor)に必要であることを見出した。しかし、Fos染色またはファイバー測光法(データは示さず)によって、マウスの絶食中のQニューロン活性の増加を検出することは繰り返しできず、Qニューロンの低レベルの活性化が日内休眠(torpor)における低体温を誘導するのに十分である可能性を示唆した。
【0113】
本研究で示された非冬眠動物における誘導冬眠は、活発な代謝低下のニューロン機構を理解するための有望な前進であり、各組織が冬眠様代謝低下状態をどのように採用するかを検討するための方法を提供する。さらに、Qニューロンを選択的に興奮させる方法の将来の発展に伴い、QIHは、心臓発作または脳卒中後の全身組織損傷を減少させる可能性のある、または臓器移植の保存に有用な、医学において大きな利点であるヒトにおける合成冬眠の臨床応用を可能にする方法の開発のための新しいアプローチを提供するであろう。
【0114】
参考文献
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