(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】イミダゾール側鎖を有するパリレン膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/72 20060101AFI20220715BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220715BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220715BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220715BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220715BHJP
C08G 61/02 20060101ALI20220715BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20220715BHJP
H01G 11/26 20130101ALN20220715BHJP
【FI】
B01D71/72
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/12
C02F1/44 D
C08G61/02
H01G11/30
H01G11/26
(21)【出願番号】P 2018038411
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2021-03-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000157887
【氏名又は名称】KISCO株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591228340
【氏名又は名称】第三化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162617
【氏名又は名称】大賀 沙央里
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】平間 信
(72)【発明者】
【氏名】井上 崇
(72)【発明者】
【氏名】木村 睦
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131520(JP,A)
【文献】特開2018-115309(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132859(WO,A1)
【文献】特開2001-218834(JP,A)
【文献】特開2015-210970(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0349697(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
C08G 2/00- 2/38
C08G 61/00- 61/12
H01G 11/00- 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾール側鎖を有する
ポリパラキシリレン膜。
【請求項2】
下記一般式(a)で表される構成単位を含む、請求項1に記載の
ポリパラキシリレン膜:
【化1】
(式中、
Rは、それぞれ独立して任意の置換基を意味し、少なくとも1つのRがイミダゾール側鎖であり;
pは、それぞれ独立して0~4の整数であり、少なくとも一方のpは1以上である)。
【請求項3】
前記一般式(a)で表される構成単位が、下記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位である、請求項2に記載の
ポリパラキシリレン膜:
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、R’は、それぞれ独立してイミダゾール側鎖を意味する)。
【請求項4】
前記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位が、下記一般式(b1)、(b2)または(b3)で表される構成単位である、請求項3に記載の
ポリパラキシリレン膜。
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項5】
細孔径が0.1~10nmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の
ポリパラキシリレン膜。
【請求項6】
膜厚が10nm~10μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の
ポリパラキシリレン膜。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の
ポリパラキシリレン膜を含む複合膜。
【請求項8】
透水膜である、請求項1~6のいずれか一項に記載の
ポリパラキシリレン膜。
【請求項9】
請求項8に記載の
ポリパラキシリレン膜または該膜を含む複合膜に、水に物質が溶解および/または分散した試料を負荷し、前記
ポリパラキシリレン膜または前記複合膜が前記物質を捕捉することによって水を分離する、水の分離方法。
【請求項10】
アルカリ条件下で行われる、請求項9に記載の水の分離方法。
【請求項11】
電極コーティング膜である、請求項1~6のいずれか一項に記載の
ポリパラキシリレン膜。
【請求項12】
請求項11に記載の
ポリパラキシリレン膜を具備するキャパシタ電極。
【請求項13】
化学気相蒸着法により、支持体の表面にイミダゾール側鎖を有する
ポリパラキシリレンを蒸着させることを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の
ポリパラキシリレン膜の製造方法。
【請求項14】
下記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位を含む
ポリパラキシリレン:
【化8】
【化9】
【化10】
(式中、R’は、それぞれ独立してイミダゾール側鎖を意味する)。
【請求項15】
前記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位が、下記一般式(b1)、(b2)または(b3)で表される構成単位である、請求項14に記載の
ポリパラキシリレン。
【化11】
【化12】
【化13】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダゾール側鎖を有するパリレン膜、該膜を含む複合膜、該膜を使用した水の分離方法、および該膜の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
地球に存在する水のうち約97.5%が海水であり、淡水は約2.5%である。そのうち我々が生活で実際に利用することのできる淡水は僅か0.01%しか存在しない。近年、人口増加や生活レベルの向上、および都市化が進展することによる生活用水、工業用水、農業用水等の不足が懸念されている。これらの問題を解決すべく、少ない水資源を利用するために、造水および浄水技術が必要とされている。例えば、海水を淡水に変換することは、生活用水等の不足の問題を解決する上で非常に有効である。海水を淡水に変換するためには、脱塩処理を行って海水から塩化ナトリウムを除去することが必要である。
【0003】
現在、脱塩処理においては、主に蒸留による方法および膜分離による方法が使用されている。蒸留による方法としては、多段フラッシュ(MSF)、多重効果蒸留(MED)、蒸気圧縮蒸留等が挙げられる。また、膜分離による方法において使用される膜には、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、および精密ろ過膜(MF膜)がある。これらの膜は、分離対象の大きさ(分子量)に応じて選択されて使用される。これらのうち、脱塩処理には、細孔径が2nm以下であるNF膜が主に使用されている。しかし、完全に塩化ナトリウムを除去するためにはさらに小さな細孔径を有する膜が要求される。またRO膜やNF膜は、分離の際に圧力をかける必要があるため、高い機械的安定性、ならびに海水中に含まれる各種イオンや、膜洗浄に用いられる薬品に耐え得る化学的安定性が要求される。
【0004】
そこで、上記課題を解決すべく、パリレン(ポリパラキシリレン)膜を透水膜として使用することが検討されている(特許文献1)。パリレン膜は、従来、気体や液体を透過させない特性を生かして、電子部品などの封止コーティングとして使用されてきたが、特許文献1では、パリレン膜を透水膜とし、水処理用途に使用することが提案されている。また、所望の物質を分離することが可能なように、従来のものとは異なる分離特性(細孔径、極性等)を有するパリレン膜が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、好ましい分離特性を有するパリレン膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究した結果、イミダゾール側鎖を有するパリレン膜を使用することによって上記課題を解決できることを見出した。本発明は、例えば以下のとおりである。
[1] イミダゾール側鎖を有するパリレン膜。
[2] 下記一般式(a)で表される構成単位を含む、[1]に記載のパリレン膜:
【化1】
(式中、
Rは、それぞれ独立して任意の置換基を意味し、少なくとも1つのRがイミダゾール側鎖であり;
pは、それぞれ独立して0~4の整数であり、少なくとも一方のpは1以上である)。
[3] 前記一般式(a)で表される構成単位が、下記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位である、[2]に記載のパリレン膜:
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、R’は、それぞれ独立してイミダゾール側鎖を意味する)。
[4] 前記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位が、下記一般式(b1)、(b2)または(b3)で表される構成単位である、[3]に記載のパリレン膜。
【化5】
【化6】
【化7】
[5] 細孔径が0.1~10nmである、[1]~[4]のいずれかに記載のパリレン膜。
[6] 膜厚が10nm~10μmである、[1]~[5]のいずれかに記載のパリレン膜。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のパリレン膜を含む複合膜。
[8] 透水膜である、[1]~[6]のいずれかに記載のパリレン膜。
[9] [8]に記載のパリレン膜または該膜を含む複合膜に、水に物質が溶解および/または分散した試料を負荷し、前記パリレン膜または前記複合膜が前記物質を捕捉することによって水を分離する、水の分離方法。
[10] アルカリ条件下で行われる、[9]に記載の水の分離方法。
[11] 電極コーティング膜である、[1]~[6]のいずれかに記載のパリレン膜。
[12] [11]に記載のパリレン膜を具備するキャパシタ電極。
[13] 化学気相蒸着法により、支持体の表面にイミダゾール側鎖を有するパリレンを蒸着させることを含む、[1]~[6]のいずれかに記載のパリレン膜の製造方法。
[14] 下記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位を含むパリレン:
【化8】
【化9】
【化10】
(式中、R’は、それぞれ独立してイミダゾール側鎖を意味する)。
[15] 前記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位が、下記一般式(b1)、(b2)または(b3)で表される構成単位である、[14]に記載のパリレン。
【化11】
【化12】
【化13】
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、好ましい分離特性を有するパリレン膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
(1)パリレン膜
本発明の一実施形態によると、イミダゾール側鎖を有するパリレン膜が提供される。ここで、パリレンとは、パラキシリレンを熱分解して得られるパラシクロファン化合物の重合体を意味し、パリレン膜とは、パラシクロファン化合物の重合体を含む膜、好ましくはパラシクロファン化合物の重合体からなる膜を意味する。パラシクロファンは、以下の構造を有する。
【化14】
【0011】
上述したように、水の脱塩処理をより完全に行うためには、より細孔径の小さな膜が求められるが、本発明によると、0.1~10nmという比較的小さな細孔径を有する膜を得ることができる。イミダゾール側鎖の構造を種々変更することにより、上記範囲内でパリレン膜の細孔径を制御することができる。また、pH条件を変化させることによって膜の表面電荷を変化させることができる。これらの結果として、種々の分離特性を有するパリレン膜を得ることができ、そのようなパリレン膜の中から分離対象に最も適した分離特性を有する膜を選択して使用することにより、より高い分離能で対象を分離することが可能になる。また、イミダゾール側鎖を有するパリレン膜は従来知られていないため、イミダゾール側鎖の有する分離対象や水との親和性を利用して、新たな分離特性を有するパリレン膜を得ることができる。上述したように、本発明のパリレン膜は、使用するpH条件によって表面電荷が変化する結果として、pH条件によって異なる分離特性を有し、アルカリ条件下において特に優れた分離能を有する。さらに、本発明のパリレン膜は、パリレンが本来有する好ましい特性を保持しており、クリーン性、コンフォーマル性、生体適合性、および絶縁性に優れ、さらには簡便且つ低コストのプロセスで製造可能である。
【0012】
本発明のパリレン膜は、イミダゾール側鎖を含む。本発明において、イミダゾール側鎖とは、イミダゾール環を含む基であれば特に限定されず、パリレンにおけるフェニレン基に結合している置換基を指す。具体的には、本発明のパリレン膜は、下記一般式(a)で表される構成単位を含む:
【化15】
(式中、
Rは、それぞれ独立して任意の置換基を意味し、少なくとも1つのRがイミダゾール側鎖(イミダゾール環を含む基)であり;
pは、それぞれ独立して0~4の整数であり、少なくとも一方のpは1以上である)。
【0013】
置換基Rが複数存在する場合には、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。ただし、Rの少なくとも1つはイミダゾール側鎖である。イミダゾール側鎖において、イミダゾール環はリガンドを介してフェニレン基に結合していてもよく、イミダゾール環におけるN原子が直接フェニレン基に結合していてもよい。
【0014】
イミダゾール環は置換基を有していてもよく、置換基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトリル基、スルホン基、ニトロ基、アミノ基またはこれらの組合せであることが好ましく、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリール基またはこれらの組合せであることがより好ましく、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルケニル基、炭素数1~10のアルキニル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基またはこれらの組合せであることがさらに好ましく、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基またはフェニル基であることが特に好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが最も好ましい。これらの基は、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれであってもよく、置換基を有していてもよい。
【0015】
イミダゾール側鎖以外の置換基Rは、任意の置換基であってよく、例えば上記にイミダゾール環の置換基について記載したような基が挙げられる。上記一般式(a)においてフェニレン基を連結しているエチレン基も任意の置換基を有していてよく、置換基としては、限定するものではないが、例えば上記にイミダゾール環の置換基について記載したような基が挙げられる。
【0016】
フェニレン基上のイミダゾール側鎖の位置は特に限定されないが、上記一般式(a)で表される構成単位は、下記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位であることが好ましい。一般式(a1)、(a2)および(a3)において、フェニレン基および2つのフェニレン基を連結するエチレン基は任意の置換基を有していてもよく、置換基の具体例としては上記でイミダゾール環の置換基として記載したものが挙げられる。
【化16】
【化17】
【化18】
(式中、R’は、それぞれ独立してイミダゾール側鎖を意味する)。
【0017】
特に、イミダゾール環におけるN原子がフェニレン基に直接結合した構造を有していることが好ましく、下記一般式(b1)、(b2)または(b3)で表されるような構成単位であることが好ましい。一般式(b1)、(b2)および(b3)において、フェニレン基および2つのフェニレン基を連結するエチレン基は任意の置換基を有していてもよく、置換基の具体例としては上記でイミダゾール環の置換基として記載したものが挙げられる。
【化19】
【化20】
【化21】
【0018】
本発明のパリレン膜の細孔径は、0.1~10nmであることが好ましく、例えば0.5~3.0nm、または0.8~2.0nmの細孔径を有するパリレン膜を製造することができる。ここで、細孔径とは平均細孔径を意味し、ポリエチレングリコールを用いた分画分子量測定によって決定される(測定方法の詳細は実施例に記載するとおりである)。また、パリレン膜の膜厚は、10nm~10μmであることが好ましく、10nm~1.0μmであることがより好ましく、15nm~ 50nmであることが特に好ましい。上記のような細孔径および膜厚を有することにより、パリレン膜は、より優れたナノろ過膜、すなわちナノフィルターとして機能する。パリレン膜の細孔径及び膜厚は、イミダゾール側鎖の構造や熱分解温度などの製膜条件を適宜変えることによって制御することができる。
【0019】
イミダゾールのpKaは、約6である。そのため、本発明のパリレン膜は、酸性条件下ではプラスの表面電荷を有し、プラスの電荷を有する物質を透過させてしまう。一方、アルカリ条件下においては、パリレン膜は電荷を有さないため、電荷を有する物質であっても捕捉することができる。したがって、本発明のパリレン膜は、アルカリ条件下で使用することによって、より広範な物質の分離に適用することが可能である。
【0020】
本発明のパリレン膜は、イミダゾール側鎖を有するシクロファン化合物を熱分解して重合することによって形成される。より具体的には、イミダゾール側鎖を有するシクロファン化合物を熱分解するとラジカル中間体が形成され、これを支持体上に蒸着させると支持体上で表面重合が起こる。その結果、本発明のパリレン膜が支持体上に形成される。この反応は、例えば以下のように表される:
【化22】
(式中、Rは上記で定義したとおりのイミダゾール側鎖である)。
【0021】
使用可能な支持体は、パリレン膜が蒸着可能な限り限定されないが、例えば、平坦なガラス板やステンレス板、各種樹脂シート、不織布、シリコンウエハー、多孔性膜などを挙げることができる。これらの支持体は、パリレン膜が蒸着しやすいように各種表面処理が予めなされていてもよい。蒸着方法も特に限定されないが、化学気相蒸着(CVD)法が好ましく使用される。したがって、本発明の一実施形態によると、CVD法により、支持体の表面にイミダゾール側鎖を有するパリレンを蒸着させることを含む、パリレン膜の製造方法が提供される。
【0022】
本発明のパリレン膜は、イミダゾール側鎖の構造やpH条件を適宜選択することによって、種々の物質の分離において使用することができる。上述したとおり、比較的小さな細孔径を有するため、特に水処理において好適に使用される。したがって、本発明の一実施形態によると、本発明のパリレン膜は透水膜である。具体的には、本発明のパリレン透水膜に、水に物質(不純物)が溶解および/または分散した試料を負荷した場合、パリレン透水膜が不純物を捕捉することによって水を分離することができる。ここで、水に物質が溶解した試料とは、水に水溶性化合物が溶解した水溶液であり、水に物質が分散した試料とは、例えば水に汚泥などが分散した分散液のことである。これらの水溶液もしくは分散液に含まれる不純物の径が、パリレン透水膜の細孔径よりも大きい場合に不純物を捕捉することができ、水の分離が可能となる。また、分離特性は、パリレン透水膜の親水性の程度や表面電荷の有無にも依存する。より実用的な使用態様としては、本発明のパリレン透水膜を中空糸内部にコーティングして高性能フィルターとして使用することで、浄水器等に適用することが可能である。
【0023】
本発明のパリレン膜は、水処理以外の用途にも使用することができる。例えば、キャパシタの構成材料として好適に使用することができる。具体的には、キャパシタの電極材料をパリレン膜でコーティングすることによって、容量の向上したキャパシタを提供することができる。したがって、本発明の一実施形態によると、本発明のパリレン膜は電極コーティング膜であり、該電極コーティング膜を具備するキャパシタ電極が提供される。
【0024】
本発明のパリレン膜は、0.5MPaの圧力で水を負荷した場合に、15~50Lh-1m-2MPa-1の透過流束で水を透過させることができる。透過流束は、例えば15~40Lh-1m-2MPa-1、15~30Lh-1m-2MPa-1または20~30Lh-1m-2MPa-1であってよい。
【0025】
(2)複合膜
本発明のパリレン膜は、上述したように支持体上に形成して単膜として使用することが可能であるが、他の膜と組み合わせて複合膜として使用することもできる。例えば、限界ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)等の膜を組み合わせて、これらの膜と本発明のパリレン膜との複合膜を形成することができる。この場合、限界ろ過膜や精密ろ過膜等の孔に、例えば水溶性高分子を充填し、その表面にパリレン膜を蒸着させることも可能である。複合膜を形成後に水を透過させると水溶性高分子は溶解し、分離膜として機能する。水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を用いることができる。
【0026】
あるいは、平滑な支持体上にパリレン膜を蒸着形成した後、パリレン膜を剥がし、それを他の多孔性膜(例えば、限界ろ過膜、精密ろ過膜等)に貼り合わせることによって複合膜とすることもできる。さらには、平滑な支持体上にパリレン膜を蒸着形成した後、その積層体を他の多孔性膜(例えば、限界ろ過膜、精密ろ過膜等)に貼り合わせてから支持体を除去してもよい。
【0027】
このように、本発明においては、特にCVD法を用いることにより、ドライプロセスにて、任意の多孔性膜に、ナノろ過膜の機能を有するパリレン膜を積層することができる。例えば、ドライプロセスによって、UF膜へナノろ過膜の機能を付与することが可能である。すなわち、本発明のパリレン膜は簡便な方法で得られ、さらには簡便な方法で複合膜を形成することもできる。
【0028】
(3)パリレン
本発明の一実施形態によると、下記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位を含むパリレンが提供される:
【化23】
【化24】
【化25】
(式中、R’は、それぞれ独立してイミダゾール側鎖を意味し、詳細は上記で定義したとおりである)。一般式(a1)、(a2)および(a3)において、フェニレン基および2つのフェニレン基を連結するエチレン基は任意の置換基を有していてもよく、置換基の具体例としては上記でイミダゾール環の置換基として記載したものが挙げられる。
【0029】
好ましくは、上記一般式(a1)、(a2)または(a3)で表される構成単位は、下記一般式(b1)、(b2)または(b3)で表される構成単位である。一般式(b1)、(b2)および(b3)において、フェニレン基および2つのフェニレン基を連結するエチレン基は任意の置換基を有していてもよく、置換基の具体例としては上記でイミダゾール環の置換基として記載したものが挙げられる。
【化26】
【化27】
【化28】
【0030】
上記のようなパリレンは、パラキシリレンを熱分解して得られるパラシクロファンを重合することによって得られる。重合方法は特に限定されないが、上述したとおり、簡便性の観点から支持体上に蒸着させて表面重合を行うことが好ましい。得られたパリレンは、上記パリレン膜として使用される。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
<調製例1:4-イミダゾール[2,2]パラシクロファンの合成>
以下のスキームにしたがって、4-イミダゾール[2,2]パラシクロファンを合成した。
【化29】
【0032】
合成は、大気圧下で行った。熱乾燥させたテフロン(登録商標)キャップ付き試験管に、パラシクロファン-NH2(1)500mg(2.24mmol、1.0当量)、NH4Cl300g(5.60mmol,2.5当量)、1,4-ジオキサン9mL、水(3mL)および撹拌子を入れ、最後に(CH2O)n(パラホルムアルデヒド)を入れた。15分間撹拌し、さらにグリオキサール0.64mL(5.60mmol、2.5当量)およびH3PO41滴を加え、85℃で18時間撹拌還流させた。反応終了後、氷浴で冷却し、3.0MのNaOH15mLを加えた。得られた混合物をジエチルエーテルを用いて3回分液し、有機相をMgSO4で脱水して減圧乾燥した。得られた物質をさらにアルミナカラム(DCM:酢酸エチル=1:1)で精製し、減圧乾燥した後、145℃で昇華精製を行って淡黄色の目的物質(2)を得た。収率は43%であった。
【0033】
FT-IR 3120, 3022(=CH-N=, vC-H), 2927(-CH2-,vC-H), 2848, 1595, 1558(イミダゾール環, vC=CまたはvC=N), 1489, 1481, 1448, 1423, 1301,1249,1168, 1107, 1091, 1055, 997, 948, 900, 829, 794, 771, 719, 661 cm-1 ;
1H-NMR(CDCl3, 400.13 MHz) : δH = 7.76 (s, J = 2.40 Hz, 1H, ArH) 7.28 (s, J = 4.40
Hz, 1H, ArH), 7.21 (s, J = 2.40 Hz, 1H, ArH), 6.69-6.58 (m, 5H, ArH), 6.53 (dd, J = 8.40 Hz, 1H, ArH), 6.42 (d, J = 1.2 Hz, 1H, ArH), 3.27-2.88 (m, 7H, -CH2-), 2.76-2.68 (m, 1H, -CH2-) ;
13CNMR(CDCl3, 400.13 MHz) : δC = 142.4 (CH), 139.9 (CH), 139.8 (C), 137.3(C), 137.2(CH), 137.0(C), 133.9(CH), 133.4(CH), 133.3(CH), 133.1(CH), 132.3(CH), 130.3(CH), 129.7(CH), 127.5, 120.0, 77.79(CH), 77.48(CH), 77.16(CH), 35.72(CH2), 35.32(CH2), 35.05(CH2), 32.92(CH2) ;
HRAPCI-TOF MS m/s 275.1687 (calcd m/z 275.1543 for C19H18N2 [M+H])
【0034】
<調製例2:4,4’-ビスイミダゾール[2,2]パラシクロファンの合成>
以下のスキームにしたがって、調製例1と同様にして4,4’-ビスイミダゾール[2,2]パラシクロファンを合成した。
【化30】
【0035】
<実施例1:パリレン膜の製造>
6cm四方のガラス板の上に、限外ろ過膜(分画分子量 50kDa、ミリポア社製Biomax(登録商標))を載せたものを4枚、パリレンコーティング装置のチャンバー内に静置した。日本パリレン社製パリレンコーティング装置内の気化部に調製例1で得られた4-イミダゾール[2,2]パラシクロファン150mgを入れ、減圧下(30mTorr)で175℃に加熱して昇華させた。昇華した気体は、650℃熱分解炉を通過する際に熱分解され、モノマー状態になる。モノマーは蒸着チャンバー内に導かれ、チャンバー内に置かれた限外ろ過膜表面で重合して薄膜を形成した。得られたパリレン膜の平均細孔径は1.5nm、膜厚は19.7nmであった。
【0036】
ここで、平均細孔径は、ポリエチレングリコールを用いた分画分子量測定によって決定した。具体的には、上記で製造したパリレン膜に分子量分布1.1以下のポリエチレングリコールを含む水溶液を透過させ、膜透過後の溶液中に含まれているポリエチレングリコール濃度をHPLC(GPC)で測定した。この操作を異なる分子量を有する種々のポリエチレングリコールを用いて行った。膜の透過前後でポリエチレングリコール濃度が90%以上減少した場合に使用したポリエチレングリコールの分子量から、膜の平均細孔径を見積もった。
【0037】
<実施例2:パリレン膜の製造>
調製例2で得られた4,4’-ビスイミダゾール[2,2]パラシクロファンを使用して、実施例1と同様にパリレン膜を製造し、細孔径および膜厚を測定したところ、実施例1と同等の細孔径および膜厚を有するパリレン膜が得られた。
【0038】
<パリレン膜の評価>
(1)透過流束の測定
透過流束は、パリレン膜透過前の液体と透過後の液体の流れる向きが同じである、デッドエンドろ過方式を用いて測定した。測定は、実施例1で製造したパリレン膜をセットした撹拌式セル(メルクミルポア社製、撹拌式セル8000シリーズ Model8010、有効面積:25mm
2)を用いて行った。超純水を0.5MPaの圧力下でパリレン膜に負荷し、透過した水量を量った。
図1に、デッドエンド方式のろ過の模式図を示す。
【0039】
(2)排除率の測定
実施例1で製造したパリレン膜を使用して、染料(ローズベンガル、メチルオレンジ、ローダミン6Gまたはメチレンブルー)が溶解した水溶液から、上記(1)と同様にデッドエンド方式により水の分離を行った。
【0040】
ローズベンガル1.2mg、メチルオレンジ1.3mg、ローダミン6G4.7mg、およびメチレンブルー3.2mgをそれぞれ超純水100mLに溶解し、サンプルを調製した。また、pH3.8の酢酸水溶液50mLおよびpH10.1のアンモニア水50mLに各色素1μMを溶解させたものもサンプルとして使用した。攪拌式セルの容器に調製した水溶液を入れ、透過流束測定と同様に水溶液を膜に負荷した。膜透過前の水溶液および透過後のろ液について、UV-Visスペクトルを用いて吸光度を測定した。膜透過前後の吸光度を比較することにより、染料の排除率(パリレン膜を透過しなかった染料の割合、すなわち水溶液から排除された染料の割合)を算出した。使用した色素の構造はおよび分子量は以下のとおりである。
【化31】
【0041】
以下の表1に、透過流束および排除率の測定結果を示す。表1には、実施例1で作製した4枚のパリレン膜について測定した結果を記載する。
【表1】
【0042】
表1より、本発明のパリレン膜が透水性を有し、高い排除率で色素を排除できることが分かった。したがって、本発明のパリレン膜は水処理において有用であると言える。使用した色素のうち、ローズベンガルおよびメチルオレンジはマイナス電荷を有する色素であり、ローダミン6Gおよびメチレンブルーはプラス電荷を有する色素である。酸性条件下においてローダミン6Gおよびメチレンブルーの排除率が低下したのは、パリレン膜が酸性条件下でプラスに帯電したことによると考えられる。一方、アルカリ条件下では、パリレン膜に電荷が生じないため、いずれの色素についても高い排除率が得られたものと考えられる。
【0043】
このように、本発明のパリレン膜は、小さな細孔径を有し、使用するpH条件によって異なる分離特性を有する。また、イミダゾール側鎖の構造を変更することによっても、細孔径や電荷が制御される結果、種々の分離特性を有するパリレン膜を提供することができると考えられ、パリレン膜の用途の幅が広がることが期待できる。
【0044】
<実施例3:中空糸へのコーティング>
実施例1と同じ装置を使用して、中空糸の内表面にパリレン膜のコーティングを行った。中空糸モジュール(SPECTRUM LAB. MicroKros hollow fiber filter module 修飾ポリエーテルスルホン、分画分子量 50kDa)のサイドポートに栓をし、コーティングチャンバー内に配置した。調製例1で製造した4-イミダゾール[2,2]パラシクロファン(150mg)を気化部に入れ、減圧下(30mTorr)で175℃に加熱して昇華させた。昇華した気体は650℃熱分解炉を通過する際に熱分解され、モノマー状態になる。モノマーは蒸着チャンバー内に導かれ、チャンバー内に置かれた中空糸内表面で重合して薄膜を形成した。
【0045】
コーティングされた中空糸モジュールをチャンバーから取り出した。中空糸モジュールの一方の末端に栓をし、もう一方から10μMのローズベンガル色素を含む水溶液を供給し、中空糸内表面に形成されたパリレン膜を透過した水を回収した。パリレン膜透過前の液体と透過後の液体について、ローズベンガル色素がピークを有する550nmでの吸光度を測定して排除率を算出した。その結果、ローズベンガル色素の排除率(パリレン膜を透過しなかったローズベンガル色素の割合)は99%以上であり、ろ液として透明な水が得られた。
【0046】
<実施例4:キャパシタ電極のコーティング>
実施例1と同じ装置を使用して、キャパシタ電極表面にパリレン膜のコーティングを行った。電気二重層キャパシタ用活性炭(クラレ製YP50F、160mg)、導電助剤(デンカブラック20mg)、およびバインダー(カルボキシメチルセルロース 1mg)を、2mLの水に分散させて、ペーストを調製した。このペーストを10cm×10cmのアルミ箔(厚み5μm)表面に塗膜し、その後120℃で乾燥してカーボン修飾アルミ電極を作製した。得られたアルミ電極のアルミ側をマスキングした後、それをコーティングチャンバー内に配置した。調製例1で調製した4-イミダゾール[2,2]パラシクロファン(150mg)を気化部に入れ、減圧下(30mTorr)で175℃に加熱して昇華させた。昇華した気体は650℃熱分解炉を通過する際に熱分解され、モノマー状態になる。モノマーは蒸着チャンバー内に導かれ、チャンバー内に置かれた電極表面で重合して薄膜を形成した。
【0047】
コーティングされたアルミ電極をチャンバーから取り出した。得られたコーティング電極でセパレーターを挟み込み、セパレーターに電解液(プロピレンカーボネートに電解質5-アゾニアスピロ[4.4]ノナンテトラフルホロボラートを溶解させたもの(濃度1.5M);日本カーリット社製)を染み込ませ、電気二重層キャパシタを作製した。電流密度1A/gで充電し、その後放電させ、その際の電圧変化に基づいて材料重量あたりの容量を算出した。比較例として、パリレン膜でコーティングされていないアルミ電極を使用して同様にキャパシタを作製し、容量を算出した。その結果、本発明のパリレン膜でコーティングした場合、コーティングしていない場合と比較して18%程度の容量の向上が見られた。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。