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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】磁性金属異物検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20220715BHJP
【FI】
G01N27/72
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018160699
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020034400
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000105062
【氏名又は名称】グラフテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】田中 三郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 周一
(72)【発明者】
【氏名】岡村 静致
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-237181(JP,A)
【文献】特開2001-091664(JP,A)
【文献】特開2004-151064(JP,A)
【文献】特開2018-004428(JP,A)
【文献】特開2003-035702(JP,A)
【文献】特開2005-265611(JP,A)
【文献】田中 三郎ほか,高温超電導 RF-SQUIDを用いた微小金属異物検出技術,日本AEM学会誌,日本,2014年12月10日,第22巻第4号,p.453-457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01V 1/00-99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に搬送されるシート状またはフィルム状の被検査物に含まれる磁性金属異物を検出する磁性金属異物検出装置であって、
前記磁性金属異物を帯磁させる帯磁部と、
該帯磁部で帯磁された前記磁性金属異物からの磁気を測定する磁気センサと、
前記被検査物を前記一方向とは異なる方向に案内する案内部材と、を有し、
前記磁気センサは、前記異なる方向に案内された前記被検査物に含まれる前記磁性金属異物の磁気を測定 し、
前記磁気センサを磁気ノイズから遮断する磁気シールド部と、
該磁気シールド部の内部において前記被検査物を前記磁気センサと対向する位置に支持する支持部と、を備え、
前記磁気シールド部は、前記被検査物が通過する開口を有し、
該開口から離間した位置に前記磁気センサ及び前記支持部が配置されており、
前記磁気シールド部は、外壁と内壁とが間隙を有するように配置された中空のボックス本体を備え、
前記開口は、前記外壁および前記内壁の底部に設けられてい ことを特徴とする磁性金属異物検出装置。
【請求項2】
一方向に搬送されるシート状またはフィルム状の被検査物に含まれる磁性金属異物を検出する磁性金属異物検出装置であって、
前記磁性金属異物を帯磁させる帯磁部と、
該帯磁部で帯磁された前記磁性金属異物からの磁気を測定する磁気センサと、
前記被検査物を前記一方向とは異なる方向に案内する案内部材と、を有し、
前記磁気センサは、前記異なる方向に案内された前記被検査物に含まれる前記磁性金属異物の磁気を測定し、
前記磁気センサを磁気ノイズから遮断する磁気シールド部と、
該磁気シールド部の内部において前記被検査物を前記磁気センサと対向する位置に支持する支持部と、を備え、
前記磁気シールド部は、前記被検査物が通過する開口を有し、
該開口から離間した位置に前記磁気センサ及び前記支持部が配置されており、
前記磁気シールド部を、前記磁気センサ及び前記支持部が露出する位置まで移動させる昇降機構を備えることを特徴とする磁性金属異物検出装置。
【請求項3】
前記磁気シールド部は、外壁と内壁とが間隙を有するように配置された中空のボックス本体を備え、
前記開口は、前記外壁および前記内壁の底部に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の磁性金属異物検出装置。
【請求項4】
前記支持部は、回動軸を備えるローラ部材を備え、
該ローラ部材は、前記被検査物を前記磁気センサから5mm以下の距離に支持することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁性金属異物検出装置。
【請求項5】
前記磁気センサは、前記支持部との間の距離を調整可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁性金属異物検出装置。
【請求項6】
前記回動軸は、非磁性軸受によって回動可能に支持されていることを特徴とする請求項に記載の磁性金属異物検出装置。
【請求項7】
前記非磁性軸受は、軸受用磁気シールドによって磁気的に遮蔽されていることを特徴とする請求項に記載の磁性金属異物検出装置。
【請求項8】
前記回動軸は、軸受によって回動可能に支持されており、
前記軸受は、前記磁気シールド部の外部に配置されていることを特徴とする請求項4、6、7のいずれか一項に記載の磁性金属異物検出装置。
【請求項9】
前記磁気センサは、コアを備えたフラックスゲートセンサであり、
前記帯磁部は、前記磁性金属異物を前記コアの延在方向に帯磁させることを特徴とする請求項乃至8のいずれか一項に記載の磁性金属異物検出装置。
【請求項10】
前記磁気センサは、前記磁性金属異物の検出周波数が1Hzで分解能が10pT/Hz1/2以下であることを特徴とする請求項乃至9のいずれか一項に記載の磁性金属異物検出装置。
【請求項11】
前記磁気シールド部を、前記磁気センサ及び前記支持部が露出する位置まで移動させる昇降機構を備えることを特徴とする請求項に記載の磁性金属異物検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性金属異物検出装置に係り、特に、シートやフィルムなどの被検査物に含まれる微小磁性金属異物を検出するための磁性金属異物検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や、コンピュータ等の分野において、急速に技術革新が進み、電池や各種情報機器が複雑化、且つ、小型化している中で、磁性金属異物の混入防止が課題となっている。
【0003】
食の安全や安心の観点から、食品分野などで用いられている金属異物検査装置として、X線式検査装置や、カメラ式検査装置がある。X線式検査装置や、カメラ式検査装置では、検出可能な磁性金属異物のサイズは、感度を上げると金属以外の異物まで検出されてしまい、歩留りの低下を招くので、高性能なものであってもφ0.5mm(500μm)が限界であり、微細な磁性金属異物に適用することが出来なかった。
【0004】
特許文献1に記載されているようなX線式検査装置では、高速搬送されるフィルムやシート状の被検査物には適用できなかった。X線式検査装置は、被検査物が静止しているか、極めて低速で搬送される場合には適用が可能であるが、X線が被検査物を通過した直後に、ラインセンサで濃淡な画像を処理するコンピュータ技術が追付かないため、高速搬送されるフィルムやシートには適用できない。
【0005】
また、カメラ式検査装置は、高感度カメラが広く普及し、多くの分野で利用され、稼働しているが、被検査物の内部や着色したフィルム等に混在する金属異物を検出することは困難である。また、光の透過度を改善し、カメラで微細かつ鮮明な画像を得る技術が実用化され普及しつつあるが、検出感度が改善することで、フィルムに散在する皺や汚れ等が検出されてしまう。皺や汚れ等が異物として扱われてしまうと、シートやフィルムの歩留まりを極端に悪化させてしまうため、検出感度を抑えて大きな異物のみを検出する必要がある。
【0006】
ハイブリット車や、電気自動車など、次世代の自動車に用いられる自動車用リチウムイオン2次電池に使用されるセパレータは、幅が広く、製造ラインの速度が100~200m/分と高速である。セパレータ内の磁性金属異物を、X線式検査装置や、カメラ式検査装置で評価をする場合、高速で移動するセパレータ内のφ100μm以下の微細な金属異物を検出することはできなかった。
【0007】
例えば、特許文献2に記載のフィルム検査装置では、被検査物Fであるフィルムが水平に高速で走行し、入口側及び出口側に、それぞれフィルム支持ローラが配置され、両方の支持ローラの中間部に磁気センサ等の異物検出部が設置されている。このようなフィルムの走行状況では、フィルムが振動することで、異物検出部とフィルムとの間の距離が常に変動することになり、距離が離れた場合には異物由来の信号が小さくなり、異物を検出できないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-219420号公報
【文献】特開2018-4428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、従来の磁性金属異物検査装置では、近年の工業分野で求められている、リチウムイオン2次電池に使用されるセパレータなど、フィルムやシートの形態の被検査物に含まれる超微細磁性金属異物を検出して排除することには対応できなかった。
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、フィルムやシートの形態の被検査物に含まれる微細な磁性金属異物を、高速かつ、確実に検出して排除可能な磁性金属異物検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、本発明の磁性金属異物検出装置によれば、一方向に搬送されるシート状またはフィルム状の被検査物に含まれる磁性金属異物を検出する磁性金属異物検出装置であって、前記磁性金属異物を帯磁させる帯磁部と、該帯磁部で帯磁された前記磁性金属異物からの磁気を測定する磁気センサと、前記被検査物を前記一方向とは異なる方向に案内する案内部材と、を有し、前記磁気センサは、前記異なる方向に案内された前記被検査物に含まれる前記磁性金属異物の磁気を測定し、前記磁気センサを磁気ノイズから遮断する磁気シールド部と、該磁気シールド部の内部において前記被検査物を前記磁気センサと対向する位置に支持する支持部と、を備え、前記磁気シールド部は、前記被検査物が通過する開口を有し、該開口から離間した位置に前記磁気センサ及び前記支持部が配置されており、前記磁気シールド部は、外壁と内壁とが間隙を有するように配置された中空のボックス本体を備え、前記開口は、前記外壁および前記内壁の底部に設けられていることにより解決される。
【0012】
以上のように構成された本発明の磁性金属異物検出装置では、一方向(搬送方向)に搬送されるシート状またはフィルム状の被検査物が、異なる方向に案内され、磁性金属異物の検出が行われる。シート状またはフィルム状の被検査物が搬送方向とは異なる方向に案内されることで、被検査物が一方向に搬送された場合と比較して、被検査物が振動することが抑制された状態で検出が行われるため、微細な磁性金属異物を確実に検出することが可能となる。
また、上記の構成では、磁気シールド部の開口から離間した位置において、シート状またはフィルム状の被検査物が支持部によって磁気センサと対向する位置に支持された状態で磁性金属異物の検出が行われる。したがって、外部磁気ノイズが低減された空間において、被検査物が振動することが抑制された状態で検出が行われるため、微細な磁性金属異物を確実に検出することが可能となる。
【0013】
前記課題は、本発明の磁性金属異物検出装置によれば、一方向に搬送されるシート状またはフィルム状の被検査物に含まれる磁性金属異物を検出する磁性金属異物検出装置であって、前記磁性金属異物を帯磁させる帯磁部と、該帯磁部で帯磁された前記磁性金属異物からの磁気を測定する磁気センサと、前記被検査物を前記一方向とは異なる方向に案内する案内部材と、を有し、前記磁気センサは、前記異なる方向に案内された前記被検査物に含まれる前記磁性金属異物の磁気を測定し、前記磁気センサを磁気ノイズから遮断する磁気シールド部と、該磁気シールド部の内部において前記被検査物を前記磁気センサと対向する位置に支持する支持部と、を備え、前記磁気シールド部は、前記被検査物が通過する開口を有し、該開口から離間した位置に前記磁気センサ及び前記支持部が配置されており、前記磁気シールド部を、前記磁気センサ及び前記支持部が露出する位置まで移動させる昇降機構を備えることにより解決される。
上記の構成では、検査の開始前や部品交換などのメンテナンス作業時に、磁気センサと支持部を露出させることで、シート状またはフィルム状の被検査物を磁気センサと支持部との間に通紙する作業やメンテナンス作業が容易なものとなる。
【0014】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記磁気シールド部は、外壁と内壁とが間隙を有するように配置された中空のボックス本体を備え、前記開口は、前記外壁および前記内壁の底部に設けられていると、好適である。
上記の構成では、磁気シールド部を構成する磁気シールドボックスが内壁と外壁の2層で構成されており、被検査物が通過する開口が底部に設けられているため、磁気シールドボックスにおいて開口から離間した上方の空間に磁気センサ及び支持部を配置することが可能となる。したがって、磁気シールド部は、磁気シールドボックスの底部の開口から上方に向かうにつれて外部の磁気から遮蔽された磁気の希薄な空間が形成され、微小な磁性金属異物を検出可能な環境を得ることができる。
【0015】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記支持部は、回動軸を備えるローラ部材を備え、該ローラ部材は、前記被検査物を前記磁気センサから5mm以下の距離に支持すると、好適である。
上記の構成では、ローラ部材に支持されることで、被検査物が振動することが抑制された状態で磁気センサと近接した位置に支持されるため、微細な磁性金属異物を安定かつ確実に検出することが可能となる。
【0016】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記磁気センサは、前記支持部との間の距離を調整可能に構成されていると、好適である。
上記の構成では、検査の開始前に、磁気センサと支持部との間の距離を広げることで、シート状またはフィルム状の被検査物を、磁気センサと支持部との間に通紙する作業が容易なものとなる。
【0017】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記回動軸は、非磁性軸受によって回動可能に支持されていると、好適である。
上記の構成では、支持部を構成するローラ部材が非磁性の軸受によって回動可能に支持されるため、軸受由来の磁気ノイズを低減することが可能となる。
【0018】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記非磁性軸受は、軸受用磁気シールドによって磁気的に遮蔽されていると、好適である。
上記の構成では、非磁性の軸受から生じ得る微かな磁気ノイズの影響も低減することが可能となる。
【0019】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記回動軸は、軸受によって回動可能に支持されており、前記軸受は、前記磁気シールド部の外部に配置されていると、好適である。
上記の構成では、ローラ部材の回動軸を支持する軸受が磁気シールド部の外側に配置されているため、軸受から生じる磁気ノイズの影響を排除することが可能となる。
【0020】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記磁気センサは、コアを備えたフラックスゲートセンサであり、前記帯磁部は、前記磁性金属異物を前記コアの延在方向に帯磁させると、好適である。
上記の構成では、高感度な磁気センサであるフラックスゲートセンサの磁気検出が行われる方向に磁性金属異物が帯磁されるため、微細な磁性金属異物をより一層、安定かつ確実に検出することが可能となる。
【0021】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記磁気センサは、前記磁性金属異物の検出周波数が1Hzで分解能が10pT/Hz1/2以下であると、好適である。
上記の構成では、超高感度な磁気センサを用いることで、微細な磁性金属異物をより一層、安定かつ確実に検出することが可能となる。
【0022】
また、上記の磁性金属異物検出装置において、前記磁気シールド部を、前記磁気センサ及び前記支持部が露出する位置まで移動させる昇降機構を備えると、好適である。
上記の構成では、検査の開始前や部品交換などのメンテナンス作業時に、磁気センサと支持部を露出させることで、シート状またはフィルム状の被検査物を磁気センサと支持部との間に通紙する作業やメンテナンス作業が容易なものとなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フィルムやシートの形態の被検査物に含まれる微細な磁性金属異物であっても、高速かつ、確実に検出して排除することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置の側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置の磁気シールドボックスを上昇させた状態の側面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置の正面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置の帯磁部の構成を示す説明図である。
図5図1のA-A断面図であって、本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置が備える磁気シールドボックスの構成を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置の磁気検出部の構成を示す説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置が備えるフラックスゲートセンサの構成を示す説明図である。
図8】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置の磁気検出部の構成を示す模式的断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置の磁気検出部の位置調整機構を示す模式図である。
図10】本発明の一実施形態に係る磁性金属異物検出装置の制御部の構成を示す模式図である。
図11】変形例に係る磁性金属異物検出装置を示す模式的断面図である。
図12】変形例に係る磁性金属異物検出装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)に係る磁性金属異物検出装置について図1乃至図10を参照して説明する。
【0026】
(磁性金属異物)
本実施形態において、検出の対象となる金属異物としては、検出原理の観点から考えると、磁性金属異物又は非磁性金属異物が想定される。ここで、磁性金属異物としては、鉄(Fe)、ステンレス(SUS-304、SUS-316等)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)などが例として挙げられ、非磁性金属異物としては、アルミニウム(Al)や銅(Cu)などが例として挙げられるが、これらの物質に限定されるものではない。
【0027】
非磁性金属異物を検出する代表的な技術として、外部から交流又はパルス電流を放ち、異物表面で渦電流を発生させて、逆磁界を検出するという渦電流を利用した方法が知られている。渦電流を利用した方法では、異物のサイズが大きくないと異物表面における渦電流が発生し難いため、非磁性金属の検出は異物サイズが大きなものしか対象にならない。本実施形態において検出対象となる異物は磁性金属異物である。
【0028】
(被検査物)
本実施形態において、検査の対象となる被検査物は、シート状またはフィルム状の被検査物である。具体的には、被検査物として、樹脂製のフィルムやシート、不織布、フェルト、紙などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。被検査物の具体例として、リチウムイオン2次電池などの2次電池に使用されるセパレータ用のフィルムなどがある。
【0029】
<磁性金属異物検出装置1の概要>
図1乃至図3は、本実施形態に係る磁性金属異物検出装置1の構成を説明するための図である。図1は、磁性金属異物検出装置1の側面図であり、図2は、磁気シールドボックス40を上昇させた状態の側面図であり、図3は、磁性金属異物検出装置1の正面図である。
【0030】
磁性金属異物検出装置1は、一方向に搬送されるフィルムやシート形状の被検査物Fに含まれる磁性金属異物Xを検出するための装置である。図1乃至図3に示すように、磁性金属異物検出装置1は、主構成要素として、導入ローラ10と、帯磁部20と、上昇ローラ30と、磁気シールドボックス40と、磁気検出部50と、排出ローラ60と、を備えている。
【0031】
磁性金属異物検出装置1は、磁性金属異物Xを帯磁させる帯磁部20と、帯磁部20で帯磁された磁性金属異物Xからの磁気を測定する磁気センサFGと、被検査物Fを一方向(装置の入口から出口へと向かう方向、例えば水平方向)とは異なる方向(例えば、鉛直方向)に案内する案内部材(導入ローラ10、帯磁ローラ22、上昇ローラ30)と、を有し、磁気センサFGは、異なる方向に案内された被検査物Fに含まれる磁性金属異物Xの磁気を測定する。
以下、フィルムFを被検査物とした場合を例に説明を行う。
【0032】
(導入ローラ10)
導入ローラ10は、磁性金属異物検出装置1の入口に設けられており、磁性金属異物検出装置1の内部へと被検査物Fを送出(搬送)する。導入ローラ10は、不図示の駆動手段(駆動モータ)に連結されており、回動可能に構成されている。導入ローラ10が駆動手段によって回動することで、被検査物Fが磁性金属異物検出装置1の内部へと送出される。
【0033】
(帯磁部20)
帯磁部(帯磁装置)20は、フィルムFに磁性金属異物Xとして含まれ得る金属粒子を磁化する役割を果たすものであり、図4に示すように、鉄製の帯磁ローラ22と、ブラケット24と、帯磁用磁石26と、を備えている。帯磁用磁石26は、ブラケット24によって、帯磁ローラ22に相対する位置に配置され、固定されている。
【0034】
帯磁用磁石26は、磁性金属異物検出装置1に入る前に、フィルムFに混入した微細な磁性金属を帯磁し、且つ、帯磁部20の出口において、帯磁用磁石26から放出される磁力線を、後述するフラックスゲートセンサFGのコア55aの延在方向に帯磁させる。このように、被検査物Fに混入した磁性金属異物が帯磁された直後に、磁力線の向きを磁気センサであるフラックスゲートセンサFGのコア55aの延在方向に集中させることで、磁気センサにおいて大きな信号が得られるようになっている。
【0035】
帯磁部20では、帯磁用磁石26が、ブラケット24によって、上下方向に対して傾斜して配置されており、被検査物Fに対して直交する方向、即ち、後述するフラックスゲートセンサFGのコア55aの延在方向の磁力線のみを利用し、被検査物Fに混在した微細な磁性金属異物が発生する磁力を強化し、フラックスゲートセンサFGのコア55aの延在方向の成分を選択的に帯磁強化するように構成されている。
【0036】
(上昇ローラ30)
図1及び図2に示すように、帯磁部20において帯磁されたシートまたはフィルム状の被検査物Fは、上昇ローラ30によって、磁気シールドボックス40の内部へと送出される。上昇ローラ30は、不図示の駆動手段(駆動モータ)に連結されており、回動可能に構成されている。上昇ローラ30が駆動手段によって回動することで、被検査物Fが磁性金属異物検出装置1の上方、磁気シールドボックス40の内部へと送出される。このようにして、被検査物Fは、導入ローラ10、帯磁ローラ22、上昇ローラ30などの案内部材によって、一方向(図1及び2で示す例では、磁性金属異物検出装置1の入口から出口へと向かう方向、具体的には水平方向)とは異なる方向(例えば、磁気シールドボックス40の内部へと向かう鉛直方向における上方)に案内される。
【0037】
(磁気シールドボックス40)
超微細な磁性金属異物Xを検出するためには、磁性金属異物Xの放つ磁気レベル、換言すると、微弱な信号波形よりも、磁気検出部50における環境磁気ノイズを低下させる必要がある。もし、環境磁気ノイズが検出すべき磁気レベルよりも高い場合、磁性金属異物Xに起因する信号が、ノイズに埋もれてしまい、検出することが不可能となる。
【0038】
本実施形態の磁性金属異物検出装置1では、超微細な磁性金属異物Xを検出することを目的として、環境ノイズを低減するために、磁気シールドボックス40を設置している。磁気シールドボックス40によって、磁性金属異物検出装置1周辺の環境ノイズを遮蔽するとともに、被検査物(フィルム)Fが磁気シールドボックス40に出入りする開口を限定することで、開口から離間した空間部において磁性金属異物Xの検出を行う。
【0039】
図5は、磁気シールドボックス40の断面を示す、図1のA-A断面図である。磁気シールドボックス40は、シールド効果を高めるために、内側ボックス42と外側ボックス44とからなる二重構造を有している。内側ボックス42と外側ボックス44は、例えば、板厚1.0mm~1.5mmのPCパーマロイ等の高透磁性材料で形成されている。磁気シールドボックス40の底部には、内側ボックス42と外側ボックス44とに共通の開口として出入口46が形成されている。内側ボックス42の内部において、出入口46から離間した位置には、後述する磁気検出部50が配置されている。なお、出入口46は、被検査物Fの入口と出口を兼ねている。
【0040】
磁気シールドボックス40は、空気圧式又は機械式の昇降機構48によって上下位置を調整することが可能となっている。具体的には、磁気シールドボックス40は、不図示の操作部を操作する(例えば、ボタンを押す操作)ことにより、上昇させたり、下降させたりすることが可能となっている。磁気シールドボックス40を上昇させることで、後述する磁気検出部50が露出するため、被検査物Fを初期配置する際や、機器点検、磁気検出部50の修理や部品交換を行うことが容易なものとなる。
【0041】
(磁気検出部50)
図6に示すように、磁気検出部50は、鉛直方向に立設された支持枠50aと、被検査物Fを下方から支持する支持部としての異物検出ローラ51と、4つのフラックスゲートセンサFG1~FG4が被検査物Fの幅方向に配列されたセンサアレイSaとを含んでいる。
【0042】
(磁気センサの分解能について)
超微細な磁性金属異物を検出するためには、磁性金属異物の周囲の極めて限定された小空間において微かな磁力線を捉える必要がある。したがって、磁気センサを被検査物に最近接させることが必要である。また、超微細な磁性金属異物の磁力線を捕捉するためには、磁性金属異物が放つ磁力線と比較して遥かに希薄な磁気環境を作り、磁性金属異物が通過する瞬間の磁気変化を捉えることが必須の条件となる。以上のことから、用いる磁気センサの分解能がpT(ピコテスラ)のレベルであり、かつ、外部環境の磁気ノイズを1/500以下に磁気遮蔽が可能な高度な磁気シールドボックス40を用いると好適である。
【0043】
微細な磁性金属異物は、異物ボリュームが小さく、帯磁部(帯磁装置)で帯磁した場合であっても、微弱な磁力線しか放出しない。微細な磁性金属異物が放つ微かな磁力線を捉えるためには、超高感度な磁気センサを、被検査物に含まれる磁性金属異物に限りなく接近させる必要がある。
【0044】
高感度な磁気センサとしては、磁気センサ自体が放つ磁力線(分解能)をFFT処理した波形が、異物の検出波長数領域(例えば、1Hz)で、10pT/Hz1/2以下であるものを用いると好適である。ここで、被検査物Fの走行速度が低速から高速になるにつれて、異物信号は大きくなり、検出し易くなるが、被検査物Fの高速走行に伴う商業周波数及び整数倍のノイズ等の影響が出る場合には、バンドフイルターやローパスフィルタでノイズカットをすると好適である。
【0045】
磁性金属異物から放出される磁力線は、打ち上げ花火の様に拡散するため、磁性金属異物に磁気センサを限りなく接近させることが微細な磁性金属異物Xの検出のために必要となる。
【0046】
(フラックスゲートセンサFG)
本実施形態の磁性金属異物検出装置1では、磁気センサとして、高感度なフラックスゲートセンサFGを複数用い、検出コイルを被検査物F(フィルム)の搬送方向と直行する方向に複数配置してセンサアレイSaとして構成する。図6に示すように、本実施形態の磁気検出部50では、第1フラックスゲートセンサFG1,第2フラックスゲートセンサFG2,第3フラックスゲートセンサFG3,第4フラックスゲートセンサFG4が4つ配置されたセンサアレイSaを用いて、後述する制御部80(信号処理回路)と組み合わせることで、幅が広い被検査物Fにも対応することが可能となっている。なお、フラックスゲートセンサFGの数は、4つに限定されるものではなく、被検査物Fの幅などに応じて、適宜選択すればよく、3つ以下としてもよく、5つ以上としてもよい。
【0047】
図7は、フラックスゲートセンサFGの拡大図である。このフラックスゲートセンサFGにおけるコア55aは、アモルファスで形成された長円形のもので、上下方向へ直状に延びる直状部55bと、コア55aの頂部と底部を形成するように直状部どうしをつないで弧を描く端部55c,55dを有している。直状部55bが上下方向へ延びるフラックスゲートセンサFGにおいて、端部55cは上方端部であり、端部55dは下方端部である。また、フラックスゲートセンサFGのコア55aが直状に延びる棒状のものである場合、そのコア55aの端部は、棒状部分の両端部である。
【0048】
それぞれのフラックスゲートセンサFG1,FG2,FG3,FG4において検出した磁力に基づく信号が後述する制御部80に向かって出力される。制御部80では、各フラックスゲートセンサFG1,FG2,FG3,FG4の出力を加算し、その結果を予め設定してある閾値と比較して、磁性金属異物の存否を判断する。このような磁気検出部50では、磁性金属異物Xが被検査物Fの幅向において第1フラックスゲートセンサFG1から遠く離れた位置にあってその検出が困難であっても、その磁性金属異物Xを第2フラックスゲートセンサFG2,第3フラックスゲートセンサFG3,第4フラックスゲートセンサFG4によって検出することができる。
【0049】
ここで、図6に示すように、支持枠50aに回動可能に支持されたローラ部材としての異物検出ローラ51によって、被検査物FがセンサアレイSaと対向する位置に支持されている。図8に示すように、異物検出ローラ51は、回動軸としての軸部材51aを備えており、軸部材51aは、非磁性軸受52によって支持枠50aに対して回動可能に支持されている。異物検出ローラ51は、例えば、アルミニウム製のローラであり、アルマイト加工のみとし、ローラ表面に、異物の付着混入がないようにすると好ましい。
【0050】
被検査物Fは、上昇ローラ30から、磁気シールドボックス40の底部の中央に設けられた出入口46を垂直に上昇して、磁気の極めて希薄な環境領域まで搬送される。被検査物Fを下方から支持する異物検出ローラ51には、強制的な駆動力がないため、被検査物Fの走行に伴って回転するが、異物検出ローラ51の周速度と被検査物Fの走行速度は全く同じとなる。したがって、被検査物F(例えば、フィルム)の表面に、異物検出ローラ51の周速度と被検査物Fの走行速度の速度差に起因する損傷は発生しない。
【0051】
また、異物検出ローラ51に支持された被検査物Fの上昇側と下降側には、それぞれ、上昇ローラ30と排出ローラ60が配置されており、張力(テンション)が働いている。したがって、被検査物Fは、センサアレイSaに対向した位置に配置された異物検出ローラ51に密着して通過する。よって、被検査物Fと、異物検出ローラ51の上部に設けたセンサアレイSaとの離間距離は一定に保持されて変化しないため、超微細な磁性金属異物Xの検出に必要な、極めて狭い離間距離が担保される。
【0052】
シート状またはフィルム状の被検査物Fは、凹凸があったり、変形していたりするため、高速で走行する(搬送される)間に、主に上下方向に大きな振動(バタツキ)が発生することがある。微細な磁性金属異物Xを確実に検出するためには、被検査物Fの違いや検査装置の運転状況の変化による磁気検出部50への影響を低減する必要がある。したがって、本実施形態の磁性金属異物検出装置1では、被検査物Fの違いや検査装置の運転状況の変化によらず、被検査物Fを同じ状態および同じ条件に保って、磁性金属異物の検出を行う。
【0053】
本実施形態の磁気検出部50では、異物検出ローラ51に被検査物Fを密着させることで、被検査物FとフラックスゲートセンサFGとの離間距離を一定に保つとともに、被検査物FとフラックスゲートセンサFGが接近した状態で磁性金属異物を検出するように構成されている。
【0054】
従来のフィルム検査装置では、フィルム状またはシート状の被検査物Fが、一方向、例えば、磁性金属異物検出装置1の入口から出口へと向かう方向、具体的には水平方向に走行し、入口側及び出口側に、それぞれフィルム支持ローラが配置され、両方の支持ローラの中間部に磁気センサ等の異物検出部が設置される。従来のフィルム検査装置におけるフィルムの走行状況では、異物検出部(磁気センサ)とフィルム(被検査物)との間の距離が常に変動することになり、距離が離れた場合には異物由来の信号が小さくなってしまい、異物を検出できないことがある。
【0055】
また、フィルム状またはシート状の被検査物に傷が生じないように配慮して、異物検出部とフィルムとの距離を離した場合、微細な金属異物を検出できなくなってしまう。本実施形態の磁性金属異物検出装置1では、被検査物Fが一方向とは異なる方向(具体的には、磁気シールドボックス40の内部へと向かう鉛直方向における上方)に案内されて、磁気センサFGによる磁性金属異物Xの磁気測定が行われる。ここで、一方向とは異なる方向に案内された被検査物Fに対して異物検出ローラ51を中心として、上昇側と下降側に張力が働くため、異物検出ローラ51の表面回転速度と、同一速度で被検査物Fが走行する。また、磁気検出部50において、シート状またはフィルム状の被検査物Fの全ての面の高さが一定となり、被検査物Fと磁気検出部50との離間距離も変化なく安定した状態となるため、微細な磁性金属異物の検出を確実に行うことができる。
【0056】
磁気検出部50における磁性金属異物の検出信号は、磁性金属異物の直径の3乗に比例し、フラックスゲートセンサFGと被検査物Fとの間の離間距離の3乗に反比例する。つまり、磁性金属異物のサイズが大きい場合は、容易に検出できるが、サイズが小さな微細な磁性金属異物を検出することは困難である。磁性金属異物のサイズが小さい場合、フラックスゲートセンサFGと被検査物Fとの間の離間距離を接近させる必要がある。
【0057】
具体的には、フラックスゲートセンサFGの先端部と、被検査物Fとの離間距離を0.5mm以上5mm以下に接近させると好適である。なお、被検査物Fが、フィルムや不織布等であり、厚みが0.5mm以上5mm以下では収まらない場合には、フラックスゲートセンサFGの先端部と、被検査物Fとの離間距離を、被検査物Fの厚み+1mm以内とすればよい。
【0058】
(非磁性軸受52)
ここで、異物検出ローラ51が高速で回転すると、回転撓みが生じるため、軸受によって適切に異物検出ローラ51を支持する必要がある。本実施形態の磁性金属異物検出装置1では、磁気シールドボックス40の内部の、被検査物Fが通過する出入口46から十分に離間した高い位置に、異物検出ローラ51を配置し、異物検出ローラ51の上面と対応する位置にフラックスゲートセンサFGを設置するため、異物検出ローラ51の両端部の軸受は、磁気シールドボックス40の内部に位置することになる。
【0059】
ここで、磁気を発生しない軸受が必要となるが、すべり軸受は、スベリ面を形成する部品の材質によらず、回転速度が30m/分を越えると極端に使用可能時間が短くなってしまう。また、転がり軸受は、鋼球製、ステンレス製、チタン製、プラスチック製、磁器製等々の各種の軸受が存在するが、磁気レベルを測定すると、微細な磁性金属異物の検出に影響を与えてしまう磁気を放出するものであった。試験的には、小型で軽荷重用の軸受は存在するが、被検査物Fとしてのフィルムの幅が2~5mのローラを支持しながら高速回転する場合、実用化に耐え得る軸受はなかった。本実施形態の磁気検出部50では、異物検出ローラ51の軸部材51aを支持する軸受として、非磁性のステンレス製で、透磁率が1.0以下の非磁性軸受52を用いている。
【0060】
ここで、図6及び図8に示すように、非磁性軸受52を、軸受用磁気シールドとしての軸受シールドボックス53によって、磁気的に遮蔽すると好適である。非磁性軸受52を、軸受シールドボックス53で包囲することで、磁性金属異物を検出する空間に、非磁性軸受52から生じるノイズの影響が及ばないようになっている。
【0061】
また、センサアレイSaは、支持枠50aに設けられた取付ブラケット54に高さ調整可能に取り付けられている。図9に示すように、取付ブラケット54は、上下方向に延在する長孔54aを備えており、長孔54aを介して、センサアレイSaが締結部材54bによって取付ブラケット54に固定されている。締結部材54bを緩めて、長孔54aの延在方向に取付ブラケット54を移動させることで取付ブラケット54の高さ位置を調整することが可能となっている。なお、別途駆動装置を用いることで、センサアレイSaの高さを調整するように構成することも可能である。
【0062】
検査を開始する前に、シート状またはフィルム状の被検査物Fを配置する通紙作業を行う際には、磁気シールドボックス40を空気圧式又は機械式の昇降機構48によって上昇させる。そして、上述の手順で、異物検出ローラ51とセンサアレイSaとの間の距離を広げて、被検査物Fを通し易くする。そして、被検査物Fの配置が完了した時点で、異物検出ローラ51とセンサアレイSaとの間の距離を近接させて検査を行う状態にする。最後に、昇降機構48を操作して、上昇させた磁気シールドボックス40を元の位置に降下させる。
【0063】
(排出ローラ60)
排出ローラ60は、異物検出ローラ51及びセンサアレイSaの間を通過した被検査物Fを下方へと送出する。排出ローラ60は、不図示の駆動手段(駆動モータ)に連結されており、回動可能に構成されている。排出ローラ60が駆動手段によって回動することで、被検査物Fが磁性金属異物検出装置1の上方から下方へと降下し、方向を略90°転換して、磁性金属異物検出装置1の外部へと送出される。ここで、排出ローラ60と隣接して、異物位置決めエンコーダを設けることで、被検査物Fにおける磁性金属異物の位置を特定するようにしてもよい。
【0064】
(制御部80)
図10に模式図を示すように、制御部80は、信号処理手段81と差分演算手段83とを有している。信号処理手段81は、磁気検出部50における第1~第4フラックスゲートセンサFG1~FG4からの出力である磁力検出信号S1~S4を所要の処理条件に基づいて処理し、続いてアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器82で処理して第1~第4フラックスゲートセンサFG1~FG4からの処理信号を差分演算手段83に出力する。さらに詳しくいえば、図10の場合であれば、信号処理手段81は、磁力検出部からの磁力検出信号S1~S4を増幅する増幅器AMPと、増幅された信号をハイパスフィルタHPFとローパスフィルタLPFとで処理するアナログフィルタと、フィルタ処理された信号をデジタル変換するA/D変換器82とを有し、変換した結果の絶対値を処理信号として差分演算手段83に出力する。
【0065】
差分演算手段83は、第1~第4フラックスゲートセンサFG1~FG4の間で対を作り、それぞれの対において、デジタル変換された被検査物についての処理信号を使用して差分演算するものであるが、差分演算で得られた差分の絶対値を導出する差分演算・絶対値化回路84と、絶対値の総和を求める和回路85を含んでいる。ここでいう差分演算は、磁気検出部50に対する環境ノイズをキャンセルするための技術で、その技術は公知である。良否判定手段86は、フィルム等の被検査物Fに磁性金属異物Xが混入しているか否かを判定するもので、差分演算手段83で得られる差分の絶対値の総和が、制御部80において予め設定されている閾値を越えている場合を磁性金属異物Xが混入している不良品と判定し、閾値を越えていない場合を磁性金属異物Xが混入していない良品と判定する。
【0066】
<磁性金属異物の検出方法について>
図1乃至図3を参照して、磁性金属異物検出装置1の内部における被検査物としてのフィルムFの流れについて説明する。
【0067】
(準備工程)
まず、昇降機構48を操作して、磁気シールドボックス40を上昇させ、磁気検出部50を露出させる。次に、フラックスゲートセンサFG1~FG4と異物検出ローラ51の距離をフィルムFが通紙し易い距離まで離間させる。そして、作業者が導入ローラ10から帯磁部20を経て、上昇ローラ30の内側を通り、異物検出ローラ51の上部を廻して、排出ローラ60を経て、磁性金属異物検出装置1から外部の生産ラインに繋ぐ。フィルムFを通紙した後、フラックスゲートセンサFG1~FG4と異物検出ローラ51の距離を0.5mm以上5mm以下となるように近接させる。昇降機構48を操作して、磁気シールドボックス40を降下させ、磁気検出部50を磁気シールドボックス40の出入口46から十分に離間した位置に配置する。不図示の駆動手段を作動させて、導入ローラ10、上昇ローラ30及び排出ローラ60を回転させることで、被検査物Fの走行を開始する。
【0068】
(帯磁工程)
まず、フィルムFは、入口部に設けられた導入ローラ10によって磁性金属異物検出装置1の内部へと導かれ、帯磁部20において帯磁ローラ22の相対する位置にある帯磁用磁石26で、フィルムFに混入した磁性金属異物Xが帯磁される。磁性金属異物Xが保持している磁気以上に飽和状態に近い磁気を帯び、且つ、金属異物が放つ磁力線はフィルムに直交する方向に矯正される。帯磁工程では、帯磁部20によって、磁性金属異物Xが飽和状態まで、磁化を強化することと、磁性金属異物Xが磁気検出部50で検出し易いように、磁力線の方向が揃えられる。
【0069】
(検出工程)
次に、フィルムFは、上昇ローラ30によって、磁気シールドボックス40の出入口46から、磁気シールドボックス40の内部へと送出される。磁気シールドボックス40の出入口46から十分離間した上部の磁気レベルが極めて希薄な環境下で、磁性金属異物Xの検出が行われる。
【0070】
フィルムFは、磁気検出部50の異物検出ローラ51の表面に沿って進行方向を上方から下方へと変えて、排出ローラ60の位置まで降下し、進行方向を略直角に変えて磁性金属異物検出装置1の外部へと送出される。被検査物Fの検査が終了した時点で、不図示の駆動手段を停止する。
【0071】
制御部80は、磁気検出部50におけるフラックスゲートセンサFG1~FG4が出力する電気信号にアルゴリズム等の処理を必要に応じて施してフィルムFにおける磁性金属異物Xの有無を判別することができる。また、必要であるならば、判別した結果に基づいて不図示の警報ランプを点灯させたり、ブザーを鳴らしたりして、磁性金属異物Xが検出されたことを作業者等に知らせることができる。このとき、磁性金属異物検出装置1の運転を停止してもよい。また、制御部80は、フラックスゲートセンサFG1~FG4からの電気信号を記録したり、判別結果を記録したりすることができる。また、磁性金属異物Xの位置を決めるエンコーダを用いて、被検査物Fにおける磁性金属異物Xの位置を特定して除去することも可能である。
【0072】
このような磁気検出部50を含む磁性金属異物の検出方法によれば、走行しているフィルムFに磁性金属異物Xが含まれていると、その磁性金属異物Xは帯磁部20を通過するときに磁化されて、その後に磁気シールドボックス40に進入する。磁性金属異物Xが異物検出ローラ51と、フラックスゲートセンサFG1~FG4が配列されたセンサアレイSaとの間に来ると、磁性金属異物Xからの磁力線が、フラックスゲートセンサFGへと進む結果、磁性金属異物Xが検出される。
【0073】
<実施例>
(基礎試験の設定条件)
用いた帯磁用磁石26の表面磁束密度は500mTであり、帯磁用磁石26とフィルムFの離間距離は3mmとした。磁気センサとして、分解能が10pT/Hz1/2(1Hz)のフラックスゲートセンサFGを4つ配列したセンサアレイSaを用いた。PCパーマロイ製の内側ボックス42及び外側ボックス44から構成される2層構成で、角形の磁気シールドボックス40を用いた(磁気シールド率は1/500以上)。
【0074】
(基礎試験の異物検出結果)
フィルムFとして、フィルム幅100mmの樹脂フィルムを用い、フィルム走行速度は50m/分とした。異物検出ローラに支持された位置において、フラックスゲートセンサFG1~FG4の先端からフィルムFまでの離間距離は1.5mmに設定した。磁性金属異物Xのサンプルとして、鉄製でφ50μm×長さ500μmのサンプル、SUS-304製でφ50μm×長さ500μmのサンプルを用いた。検出された異物信号は、鉄製サンプルで6V、S/N=120、SUS-304製サンプルで、7V、S/N=140であった。なお、環境ノイズは、50mV(p-p)であった。
【0075】
(設定条件の変更)
異物サンプル(φ50μm×500μm)の円柱体積と同じ球体体積に相当する球体の直径を求めると、約200μmになる。また、50μmの立方体の球体換算体積は90μmとなる。
【0076】
異物信号は、磁性金属異物Xの直径の3乗に比例し、離間距離の3乗に比例する。ここで、異物の信号値は、球体換算体積が200μmの場合に6V(鉄異物)、7V(SUS-304)であったので、球体換算体積が90μmの場合、鉄異物で6V×(90/200)=2.7Vとなり、SUS-304で7V×(90/200)=3.15Vとなる。また、正味球体直径がφ50μmである場合、鉄異物で6V×(50/200)=1.5Vとなり、SUS-304で7V×(50/200)=1.75Vとなる。
【0077】
したがって、本実施形態の磁性金属異物検出装置1によれば、フィルムやシートの形態の被検査物Fに含まれる50~300μmの超微細な磁性金属異物であっても、高速かつ、被検査物の材質に影響されることなく、検出して排除することが可能である。
【0078】
<変形例>
以上までに本発明の磁性金属異物検出装置の構成について一例を挙げて説明してきたが、上述した実施形態は、あくまでも一例に過ぎず、他の実施形態も考えられる。以下、図11及び図12を参照して変形例に係る磁性金属異物検出装置について説明をする。
【0079】
上記実施形態では、異物検出ローラ51の軸部材51aを非磁性軸受52によって支持し、非磁性軸受52を、軸受シールドボックス53によって、磁気的に遮蔽することで、磁性金属異物を検出する空間に、非磁性軸受52から生じるノイズの影響が及ばないように構成していた。非磁性軸受52を用いる場合、材料が限定されてしまい、耐久性に劣る可能性がある。
【0080】
図11及び図12に示す変形例では、内側ボックス142と外側ボックス144とからなる二重構造を有する磁気シールドボックス140の外側に、異物検出ローラ151の軸部材151a(回動軸)を支持する軸受152を配置している。図12に示すように、磁気シールドボックス140の側面を、軸部材151aが貫通して配置されている。
【0081】
ここで、内側ボックス142及び外側ボックス144は、その一部が着脱可能に構成されている。具体的には、図11及び図12に示すように、内側ボックス142の側壁の一部である内側側壁部142aは、内側係止部材142bによって、内側ボックス142の側壁に対して着脱可能に構成されている。同様に、図11に示すように、外側ボックス144の側壁の一部である外側側壁部144aは、外側係止部材144bによって、外側ボックス144の側壁に対して着脱可能に構成されている。
【0082】
内側側壁部142a及び外側側壁部144aを取り外すことで、磁気シールドボックス140を上昇させることが可能となる。また、フィルム等の被検査物Fを配置した後に、磁気シールドボックス140を降下させ、内側側壁部142a及び外側側壁部144aを取り付けることで、内側ボックス142の天井から吊り下げられたセンサアレイSaの周囲を磁気的に遮蔽することが可能となる。
【0083】
このような構成によれば、異物検出ローラ151(支持部)の軸部材151a(回動軸)が、磁気シールドボックス140(磁気シールド部)の外部に配置されている軸受152によって回動可能に支持されており、軸受152から生じる磁気ノイズの影響を排除することが可能となるため、軸受152に非磁性以外の材料を用いることができる。したがって、軸受152を構成する材料が非磁性材料に限定されることがないため、耐久性に優れた軸受152を用いることが可能となる。よって、異物検出ローラ151の軸部材151aを支持する軸受152として、耐久性に優れたものを用いることで、磁性金属異物検出装置を安定した状態にて長期間連続運転することが可能となる。
【0084】
また、上記実施形態では、被検査物Fを略水平方向に導入し、略鉛直方向に上昇した位置において磁気センサFGが設けられており、磁気測定を終えた被検査物Fを略鉛直方向に降下させて、略水平方向に排出した例を示したが、被検査物Fの移動方向はこれに限定されるものではない。例えば、磁気センサFGを、被検査物Fの導入位置から下方に設けることも可能である。具体的には、被検査物Fを略水平方向に導入し、略鉛直方向に降下した位置において磁気センサFGを設け、磁気測定を終えた被検査物Fを略鉛直方向に上昇させて、略水平方向に排出するように構成することも可能である。
【0085】
また、上記実施形態では、被検査物Fを搬送する方向として、装置の入口から出口へと向かう方向、例えば水平方向を一方向とした例を示したが、被検査物Fを搬送する方向を鉛直方向とすることも可能である。このとき、磁気センサFGは、鉛直方向とは異なる方向、つまり、水平方向に設けられることになる。
【符号の説明】
【0086】
1 磁性金属異物検出装置
F 被検査物(フィルム)
10 導入ローラ(案内部材)
20 帯磁部
22 帯磁ローラ(案内部材)
24 ブラケット
26 帯磁用磁石
30 上昇ローラ(案内部材)
40 磁気シールドボックス(磁気シールド部)
42 内側ボックス
44 外側ボックス
46 出入口
48 昇降機構
50 磁気検出部
50a 支持枠
51 異物検出ローラ(支持部)
51a 軸部材
52 非磁性軸受
53 軸受シールドボックス(軸受用磁気シールド)
54 取付ブラケット
54a 長孔
54b 締結部材
Sa センサアレイ
FG,FG1,FG2,FG3,FG4 フラックスゲートセンサ(磁気センサ)
55a コア
55b 直状部
55c 端部(上方端部)
55d 端部(下方端部)
60 排出ローラ
80 制御部
81 信号処理手段
82 A/D変換器
83 差分演算手段
84 差分演算絶対値化回路
85 和回路
86 良否判定手段
140 磁気シールドボックス(磁気シールド部)
142 内側ボックス
142a 内側側壁部
142b 内側係止部材
144 外側ボックス
144a 外側側壁部
144b 外側係止部材
151 異物検出ローラ(支持部)
151a 軸部材
152 軸受
S1,S2,S3,S4 磁力検出信号
AMP 増幅器
HPF ハイパスフィルタ
LPF ローパスフィルタ
X 磁性金属異物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12