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特許7105454解析方法、分析方法および微生物の識別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】解析方法、分析方法および微生物の識別方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/14 20060101AFI20220715BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220715BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220715BHJP
【FI】
C12Q1/14
G01N33/48 M
G01N27/62 V
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020548559
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036594
(87)【国際公開番号】W WO2020066795
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2018185630
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】諸角 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 恵
(72)【発明者】
【氏名】緒方 是嗣
(72)【発明者】
【氏名】島 圭介
(72)【発明者】
【氏名】船津 慎治
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-525978(JP,A)
【文献】FEMS Immunology and Medical Microbiology,2008年,Vol.53, p.333-342
【文献】PLoS ONE,Vol.4, No.9, e6897,2009年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
G01N 27/62-27/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルに対応するデータを取得することと、
前記マススペクトルにおける、m/zの値が10930以上10945以下の第1範囲のピークの有無または大きさに基づいて、emm1型のA群溶血性レンサ球菌に関する情報を取得することとを備え
前記emm1型のA群溶血性レンサ球菌に関する情報を取得することは、前記第1範囲のピークが検出されたら、試料に含まれる微生物がemm1型のA群溶血性レンサ球菌と同定することを含む解析方法。
【請求項2】
微生物を含む試料を質量分析してマススペクトルに対応するデータを生成することと、
請求項1に記載の解析方法によりemm1型のA群溶血性レンサ球菌に関する情報を取得することとを備える分析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の分析方法において、
前記質量分析では、シナピン酸またはCHCAをマトリックスとして、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法により前記試料をイオン化する分析方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の分析方法により微生物を分析することと、
前記第1範囲のピークの有無または大きさに基づいて、前記微生物がemm1型のA群溶血性レンサ球菌であるか否かを識別することとを備える微生物の識別方法。
【請求項5】
請求項1に記載の解析方法において、
前記マススペクトルにおける、m/zの値が6908以上6918以下の第2範囲のピークの有無または大きさに基づいて、emm12型のA群溶血性レンサ球菌に関する情報を取得することを備える解析方法。
【請求項6】
微生物を含む試料を質量分析してマススペクトルに対応するデータを生成することと、
請求項5に記載の解析方法によりemm12型のA群溶血性レンサ球菌に関する情報を取得することとを備える分析方法。
【請求項7】
請求項6に記載の分析方法において、
前記質量分析では、シナピン酸またはCHCAをマトリックスとして、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法により前記試料をイオン化する分析方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の分析方法により微生物を分析することと、
前記第2範囲のピークの有無または大きさに基づいて、前記微生物がemm12型のA群溶血性レンサ球菌であるか否かを識別することとを備える微生物の識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析方法、分析方法および微生物の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
A群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus:GAS)は、グラム陽性球菌であり、感染者に様々な症状を引き起こす。GASは、咽頭炎や扁桃炎等の原因となる他、血液や組織中に侵入し侵襲性GAS感染症を引き起こす。侵襲性GAS感染症においてショックを伴うものは致死性の劇症型溶血性レンサ球菌感染症(Streptococcal toxic shock syndrome:STSS)と呼ばれる。STSSでは、四肢の疼痛、発熱等の初期症状の後、急激に病状が進行し、組織の壊死、多臓器不全等を引き起こし、数十時間等の短期間で感染者を死に至らしめることもある。
【0003】
GASは、菌体の表層にあるMタンパクの抗原性の違いにより、130種類以上の血清型、M型に分類されている。最近ではM型に代わり、Mタンパクをコードするemm遺伝子の5’末端側のシークエンスをもとにしたemm型別が用いられており、現在、234種類が登録されている。STSSを引き起こした症例では、emm1型が多く、emm12型もemm1型より頻度は低いものの検出されている。GASの型の識別は、GAS感染症の適切な治療や正確な分析を行うために重要である。
【0004】
GASのemm遺伝子のDNA配列をシーケンシングすることによりemm型型別が行われているが、PCRによるDNAの増幅等により時間がかかってしまう問題があった。非特許文献1には、PCR等を必要としない質量分析を用いて、壊疽性筋膜炎の患者から採取された侵襲性のGASと、咽頭炎等の患者から採取された非侵襲性のGASとを識別する点が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Moura H, Woolfitt AR, Carvalho MG, Pavlopoulos A, Teixeira LM, Satten GA, Barr JR. "MALDI-TOF mass spectrometry as a tool for differentiation of invasive and noninvasive Streptococcus pyogenes isolates" FEMS Immunology & Medical Microbiology,(米国), Blackwell Publishing, 2008年8月1日、Volume 53, Issue 3, pp.333-342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の方法は、emm型の識別を行うことができない。emm型を識別することができれば、emm型について得られている情報を用いた診断や分析等を行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によると、解析方法は、微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルに対応するデータを取得することと、前記マススペクトルにおける、m/zの値が10930以上10945以下の第1範囲のピークの有無または大きさに基づいて、emm1型のA群溶血性レンサ球菌に関する情報を取得することとを備える。
本発明の第2の態様によると、分析方法は、微生物を含む試料を質量分析してマススペクトルに対応するデータを生成することと、第1の態様の解析方法によりemm1型のA群溶血性レンサ球菌に関する情報を取得することとを備える。
本発明の第3の態様によると、第2の態様の分析方法において、前記質量分析では、シナピン酸またはCHCAをマトリックスとして、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法により前記試料をイオン化することが好ましい。
本発明の第4の態様によると、微生物の識別方法は、第2または第3の態様の分析方法により微生物を分析することと、前記第1範囲のピークの有無または大きさに基づいて、前記微生物がemm1型のA群溶血性レンサ球菌であるか否かを識別することとを備える。
本発明の第5の態様によると、第1の態様の解析方法において、前記マススペクトルにおける、m/zの値が6908以上6918以下の第2範囲のピークの有無または大きさに基づいて、emm12型のA群レンサ球菌に関する情報を取得することを備えることが好ましい。
本発明の第6の態様によると、分析方法は、微生物を含む試料を質量分析してマススペクトルに対応するデータを生成することと、第5の態様の解析方法によりemm12型のA群溶血性レンサ球菌に関する情報を取得することとを備える。
本発明の第7の態様によると、第6の態様の分析方法において、前記質量分析では、シナピン酸またはCHCAをマトリックスとして、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法により前記試料をイオン化することが好ましい。
本発明の第8の態様によると、微生物の識別方法は、第6または第7の態様の分析方法により微生物を分析することと、前記第2範囲のピークの有無または大きさに基づいて、前記微生物がemm12型のA群溶血性レンサ球菌であるか否かを識別することとを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、質量分析により、微生物が、emm1型やemm12型等のemm型のいずれの型であるかを識別する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態の分析方法の流れを示すフローチャートである。
図2図2は、emm1型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 2000-20000の範囲を示す図である。
図3図3は、emm1型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 5500-7500の範囲を示す図である。
図4図4は、emm1型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 10000-12000の範囲を示す図である。
図5図5は、emm12型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 2000-20000の範囲を示す図である。
図6図6は、emm12型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 5500-7500の範囲を示す図である。
図7図7は、emm12型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 10000-12000の範囲を示す図である。
図8図8は、emm28型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 2000-20000の範囲を示す図である。
図9図9は、emm28型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 5500-7500の範囲を示す図である。
図10図10は、emm28型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 10000-12000の範囲を示す図である。
図11図11は、emm89型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 2000-20000の範囲を示す図である。
図12図12は、emm89型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 5500-7500の範囲を示す図である。
図13図13は、emm89型の微生物を質量分析して得られたマススペクトルのm/z 10000-12000の範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
-第1実施形態-
本実施形態の分析方法は、微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルにおける所定のm/zの範囲にあるピークの有無等に基づいて、emm型に関する情報を取得するものである。
【0012】
(試料について)
試料は、A群溶血性レンサ球菌(GAS)であるか、GASの可能性がある微生物を含むものであれば特に限定されない。試料は、人間等の動物から採取されることが好ましい。試料を人間から採取する場合、咽頭や扁桃に付着した液体、皮膚の創傷からの浸出液、血液、髄液、尿等のGASを含み得る任意の体液を試料として用いることができる。例えば、患者に感染したGASを識別する検査を行う場合、被検者である患者の血液を試料として採取したり、被検者の咽頭を綿棒等により拭って得られた咽頭拭い液を試料として採取することが好ましい。健康な人間にもGASが存在し得るため、被検者はGASに感染した患者に特に限定されない。
【0013】
採取された微生物を含む試料には、分離培養を実施する。分離培養は、ヒツジの脱繊維血液を5%等含む血液寒天培地上に試料を塗抹し、37℃の温度で5%炭酸ガス条件下にて培養する。24時間経過した後、培地上に発育したコロニーの溶血環等から、GASを疑うコロニーを識別する。例えば、GASの大多数は24時間の培養でβ溶血を呈する。適宜群別用キット等を用いてコロニーの血清群別を行ってもよい。GASのコロニーから質量分析用試料が調製される。液体培地を用いてさらに培養して得られたコロニーを用いて質量分析用試料を調製してもよい。
なお、培地の組成、培養温度、培養時間等の各数値は適宜調整することができる。
【0014】
質量分析用試料の調製方法は特に限定されない。マトリックス支援レーザー脱離イオン化(以下、MALDIと呼ぶ)を用いる質量分析を行う場合、培養により得られたコロニーを回収し、得られた試料にマトリックスを含む溶液(以下、マトリックス溶液と呼ぶ)を加えてMALDI用試料プレートに滴下して乾燥させる。試料をMALDI用試料プレートに配置した後、マトリックス溶液を加えてもよい。マトリックスの種類は特に限定されないが、シナピン酸またはCHCA(α-cyano-4-hydroxycinnamic acid)が精度よく質量分析を行う上で好ましく、特にシナピン酸が十数kDa以上等の高質量の分子を精度よく検出する上でより好ましい。マトリックス溶液の溶媒は、アセトニトリル等の有機溶媒を数十体積%含む水溶液にトリフルオロ酢酸(TFA)が0~3体積%添加されたもの等を用いることができる。
なお、得られたコロニーに含まれる微生物からタンパク質を抽出した後、抽出物にマトリックス溶液を加えて質量分析用試料を調製してもよい。
【0015】
(質量分析について)
質量分析におけるイオン化の方法は、MALDIを用いることが1価のイオンが生成しやすく解析が容易であるため好ましい。また、飛行時間型質量分析が、数kDa以上等の高質量の分子を精度よく検出する上で好ましい。MALDIを用いた飛行時間型質量分析(以下、MALDI-TOFMSと呼ぶ)が、MALDIと飛行時間型質量分析の利点を併せ持つため特に好ましい。しかし、質量分析の方法は、emm1型またはemm12型のGASを検出するためのm/zの範囲に夾雑物等によるピークが現れなければ、特に限定されない。例えば、エレクトロスプレー法等の任意のイオン化の方法を用いることができる。また、四重極マスフィルタやイオントラップ等の質量分析器を用いることができ、シングル質量分析計を用いる他、任意の複数の質量分析器を組み合わせて用い、多段階の質量分析を行ってもよい。質量分析では、イオン化された試料(試料イオン)の検出により得られたマススペクトル(以下、測定されたマススぺクトルと呼ぶ)に対応するデータが生成される。
【0016】
(マススペクトルの解析について)
測定されたマススペクトルにおいて、m/zの値が10930以上、好ましくは10934以上、かつ、10945以下、好ましくは10940以下の範囲(以下、第1範囲と呼ぶ)にピーク(以下、第1ピークと呼ぶ)が有るか否かに基づいて、試料に含まれる微生物がemm1型の微生物か否かが識別される。第1範囲が狭い方が夾雑物のピーク等、不所望のピークを誤って検出する可能性が低下するために好ましい。しかし、用いる質量分析計の精度が低い場合には、本来第1ピークとなるピークが第1範囲から外れて検出されてしまう場合もあるため、第1範囲は狭すぎないように設定されることが好ましい。第1ピークが検出されたら、試料に含まれる微生物はemm1型のGASと同定することができる。第1ピークが検出されなかったら、試料に含まれる微生物はemm1型のGASではないものと同定することができる。本実施形態の分析方法は、第1ピークが有るか否かに基づいて、特にemm1型、emm12型、emm28型およびemm89型のGASからemm1型を識別することができる。
なお、第1範囲にピークが検出されたとしても、十分大きなピークが検出されなかった場合には、試料に含まれる微生物はemm1型のGASではないものと同定してもよい。言い換えれば、第1範囲におけるピークの大きさに基づいてemm1型か否かの識別を行ってもよい。
【0017】
測定されたマススペクトルにおいて、m/zの値が6908以上、好ましくは6910以上、かつ、6918以下、好ましくは6914以下の範囲(以下、第2範囲と呼ぶ)にピークが有るか否かに基づいて、試料に含まれる微生物がemm12型のGASか否かが識別される。第2範囲が狭い方が夾雑物のピーク等、不所望のピークを誤って検出する可能性が低下するために好ましい。しかし、用いる質量分析計の精度が低い場合には、目的のピークが第2範囲から外れて検出されてしまう場合もあるため、第2範囲は狭すぎないように設定されることが好ましい。第2ピークが検出されたら、試料に含まれる微生物はemm12型のGASと同定することができる。第2ピークが検出されなかったら、試料に含まれる微生物はemm12型のGASではないものと同定することができる。本実施形態の分析方法は、第2ピークが有るか否かに基づいて、特にemm1型、emm12型、emm28型およびemm89型のGASからemm12型を識別することができる。
なお、第2範囲にピークが検出されたとしても、十分大きなピークが検出されなかった場合には、試料に含まれる微生物はemm12型のGASではないものと同定してもよい。言い換えれば、第2範囲におけるピークの大きさに基づいてemm12型か否かの識別を行ってもよい。
【0018】
測定されたマススペクトルにおいて、第1ピークおよび第2ピークの両方が検出されなかった場合には、試料に含まれる微生物はemm1型のGASでもemm12型のGASでもないものとすることができる。
【0019】
測定されたマススペクトルにおいて、第1ピークと第2ピークとが両方検出された場合には、得られたマススペクトルからはemm型別の識別が難しいものとして当該識別を行わないものとすることができる。
なお、測定されたマススペクトルにおいて、第1ピークが検出された場合に、当該検出のみで試料に含まれる微生物がemm1型のGASと同定するのではなく、第1ピークが検出されたことでemm1型のGASである可能性が高くなったものとし、さらに他の検査等と組み合わせてemm型を同定してもよい。第2ピークによるemm12型の識別についても同様である。
【0020】
マススペクトルの解析方法(データ解析方法)は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置や質量分析計と一体的に構成された処理装置等の解析装置(データ解析装置)により行ってもよいし、分析者等の人間が行ってもよい。解析装置を用いる場合、質量分析計の検出器からイオンの検出強度を示すデータが解析装置に入力され、マススペクトルに対応するデータが生成され、このマススペクトルにおける第1ピークおよび第2ピークの有無が判定される。あるいは、マススぺクトルに対応するデータが解析装置に入力されて、このマススペクトルにおける第1ピークおよび第2ピークの有無が判定される。この判定に基づいて取得された、微生物がemm1型のGASかemm12型のGASかについての情報は、液晶モニタ等の表示装置に表示される等して出力される。
【0021】
臨床検査として患者から採取された微生物の識別を行う場合、試料に含まれる微生物がemm1型のGASかemm12型のGASかについての情報は、医師や医療従事者等に提示される。医師は当該情報を基に患者の診断や治療を行い、医療従事者は当該情報を共有することにより患者の病状を把握する。
【0022】
図1は、本実施形態の分析方法を含む微生物の識別方法の流れを示すフローチャートである。ステップS1001において、微生物を含む試料が用意される。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。ステップS1003において、試料が質量分析され、マススペクトルに対応するデータが生成される。ステップS1003が終了したら、ステップS1005が開始される。
【0023】
ステップS1005において、マススペクトルの第1範囲におけるピークの有無が判定される。ステップS1005が終了したら、ステップS1007が開始される。ステップS1007において、マススペクトルの第2範囲におけるピークの有無が判定される。ステップS1007が終了したら、ステップS1009が開始される。
【0024】
ステップS1009において、マススペクトルの第1範囲および第2範囲におけるピークの有無に基づいて、微生物がemm1型のGASか、emm12型のGASか、これら2つの型以外のGASかが識別される。ステップS1009が終了したら、ステップS1011が開始される。ステップS1011において、ステップS1009において得られたGASに関する情報が表示装置等に出力される。ステップS1011が終了したら、処理が終了される。
【0025】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態に係る解析方法は、微生物を含む試料を質量分析して得られたマススペクトルに対応するデータを取得することと、当該マススペクトルにおける、m/zの値が10930以上10945以下の第1範囲のピークの有無または大きさに基づいて、emm1型のGASに関する情報を取得することとを備える。これにより、PCR等を行う必要がなく、質量分析により得られたデータを用いてemm1型についての情報を得ることができる。
【0026】
(2)本実施形態の分析方法では、微生物を含む試料を質量分析してマススペクトルに対応するデータを生成することと、上記解析方法によりemm1型のGASに関する情報を取得することとを備える。これにより、質量分析により迅速にemm1型についての情報を得ることができる。
【0027】
(3)本実施形態の分析方法において、質量分析では、シナピン酸またはCHCAをマトリックスとして、MALDIにより試料をイオン化する。これにより、1価イオンが生成しやすく、解析しやすいマススペクトルを得ることができる。
【0028】
(4)本実施形態に係る微生物の識別方法は、上記分析方法により微生物を分析することと、第1範囲のピークの有無または大きさに基づいて、微生物がemm1型のGASであるか否かを識別することとを備える。これにより、PCR等を行う必要がなく、質量分析により微生物がemm1型のGASか否かの識別をすることができる。
【0029】
(5)本実施形態に係る解析方法は、マススペクトルにおける、m/zの値が6908以上6918以下の第2範囲のピークの有無または大きさに基づいて、emm12型のGASに関する情報を取得することを備える。これにより、PCR等を行う必要がなく、質量分析により得られたデータを用いてemm12型についての情報を得ることができる。
【0030】
(6)本実施形態の分析方法は、微生物を含む試料を質量分析してマススペクトルに対応するデータを生成することと、上記解析方法によりemm12型のGASに関する情報を取得することとを備える。これにより、質量分析により迅速にemm12型についての情報を得ることができる。
【0031】
(7)本実施形態に係る微生物の識別方法は、上記分析方法により微生物を分析することと、第2範囲のピークの有無または大きさに基づいて、微生物がemm12型のGASであるか否かを識別することとを備える。これにより、PCR等を行う必要がなく、質量分析により微生物がemm12型のGASか否かの識別をすることができる。
【0032】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【実施例
【0033】
以下に、本実施形態に係る実施例を示すが、本発明は下記の実施例における具体的な装置等に限定されるものではない。
【0034】
emm1型、emm12型、emm28型およびemm89型のGASのそれぞれを試料とし、AXIMA微生物同定システム(島津製作所)を用いてMALDI-TOFMSによりマススペクトルを取得した。マトリックスはシナピン酸を用い、飛行時間型質量分析はリニアモードで行った。
【0035】
図2図3および図4は、emm1型(emm1.0)の微生物から調製した試料のマススペクトルにおいて、m/z 2000-20000の範囲、m/z 5500-7500の範囲およびm/z 10000-12000の範囲をそれぞれ示す図である。ピークに対応して付された数字は当該ピークのm/zであり、ピークを識別するIDがかっこ内に記載されている。以下の図でも同様である。
【0036】
図5図6および図7は、emm12型(emm12.0)の微生物から調製した試料のマススペクトルにおいて、m/z 2000-20000の範囲、m/z 5500-7500の範囲およびm/z 10000-12000の範囲をそれぞれ示す図である。
【0037】
図8図9および図10は、emm28型(emm28.0)の微生物から調製した試料のマススペクトルにおいて、m/z 2000-20000の範囲、m/z 5500-7500の範囲およびm/z 10000-12000の範囲をそれぞれ示す図である。
【0038】
図11図12および図13は、emm89型(emm89.0)の微生物から調製した試料のマススペクトルにおいて、m/z 2000-20000の範囲、m/z 5500-7500の範囲およびm/z 10000-12000の範囲をそれぞれ示す図である。
【0039】
図2図13に示されたように、emm1型のGASから調製した試料のマススペクトルでは上述の第1範囲に特異的なピークが観察され、emm12型のGASから調製した試料のマススペクトルでは上述の第2範囲に特異的なピークが観察された。
【0040】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2018年第185630号(2018年9月28日出願)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13