(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】キニーネ塩懸濁液を含む抗癌治療のための局所投与用注射剤組成物及び懸濁液注射剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/49 20060101AFI20220715BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220715BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220715BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20220715BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220715BHJP
A61K 49/04 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
A61K31/49
A61K9/10
A61P35/00
A61K31/167
A61K47/22
A61K49/04 210
(21)【出願番号】P 2017092609
(22)【出願日】2017-05-08
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】10-2016-0076742
(32)【優先日】2016-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517158603
【氏名又は名称】ヨ,オ ヨン
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ヨ,オ ヨン
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530697(JP,A)
【文献】特表2014-522856(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105560241(CN,A)
【文献】特表2008-540478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 31/00
A61K 47/00
A61K 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1の構造を有するキニーネ塩酸塩(Quinine hydrochloride)4~60%(w/w)と、局所麻酔剤としてリドカインを1~2%(w/w)、抗酸化剤としてリボフラビンを0.1~0.5%(w/w)、造影剤としてイオベルソール(Ioversol)0.01~0.2%(w/w)と、生理食塩水を全体組成物の残り成分として含んで100%(w/w)で構成される、抗癌治療のための局所投与用懸濁液注射剤組成物であって、前記懸濁液注射剤組成物は、
42℃~45℃の温度に加温して溶液状で癌細胞に注射または注入することを特徴と
する、抗癌治療のための局所投与用懸濁液注射剤組成物。
【化1】
【請求項2】
キニーネ塩酸塩(Quinine hydrochloride)が、10~50%(w/w)であることを特徴とする、請求項1に記載の抗癌治療のための局所投与用懸濁液注射剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キニーネ塩(quinine salt)化合物の懸濁液を含む抗癌剤組成物に関し、より詳細には、キニーネ塩化合物の懸濁液を主成分とする局所投与用注射剤組成物であって、癌細胞に直接注射して癌細胞を壊死させる抗癌効果を得る製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、腫瘍は、細胞が無限に増殖して正常な細胞の機能を妨害する疾病であって、病理組織学的、臨床学的判断基準に基づいて悪性腫瘍と良性腫瘍に分離し、いわゆる癌(cancer)は、悪性腫瘍に属する。
【0003】
癌は、韓国内の死亡原因の第1位を占めており、世界的にも死亡原因の優位を占めている。癌は、その発生原因や治療方法が未だ明らかにされておらず、現在までに開発された治療剤は、臨床的に使用するとき、致命的な副作用、耐性発現、リンパ球及び骨髓破壊などの問題点を示しており、これらの副作用によって体重減少、脱毛などの症状が発現される。
【0004】
従って、癌細胞にのみ細胞毒性を有し、正常細胞には影響を及ぼさない新しい抗癌剤の開発が至急な実情である。
【0005】
現在、人体内で発生する癌は、約270余種で、これを研究するための細胞株としては、胃癌(MKN45)、肉腫(Sarcoma-180)、黒色腫(melanoma)、腺腫(adenoma)、腺癌(adeno-carcinoma)、エールリッヒ腹水腫瘍(Ehrlich ascites tumor)及びウォーカー癌(Walker carcinoma)などが報告されている。
【0006】
一方、キニーネは、抗マラリア剤として広く知られており、現在、リウマチ関節炎、円板性及び全身性エリテマトーデス、光線過敏性肌疾患の治療剤として使用されており、最近では、腎損傷抑制及び悪性神経膠腫の研究などが報告された。
【0007】
また、細胞の活性を低下することによって解熱剤として使用されるものと知られている。
【0008】
大韓民国特許登録第10-0390332号では、抗マラリア剤として一般に使用されているヒドロキシクロロキン、クロロキン、プリマキンなどを抗癌剤であるドキソルビシン、シスプラチンなどと併用投与することにより、抗癌剤の最小有効濃度IC50を低下し、抗癌剤による癌細胞の薬剤耐性を抑制することができる抗癌剤複合組成物を開示している。
【0009】
ここでは、ヒドロキシクロロキンなどの抗マラリア剤が抗癌剤の耐性を抑制して、抗癌効果を上昇させるための補助剤として使用されており、経口、非経口など抗癌剤の投与経路に応じた全身的投与によって効果を示す。
【0010】
そして、大韓民国公開特許公報第10-2006-0034316号(2006年4月24日公開)には、キニーネと龍脳、五倍子と甘草抽出物を含有する痔疾治療用硬化剤注射薬が公開されている。
【0011】
前記公開特許においては、キニーネ塩による抗癌治療に対する記載や薬理効果に対する記載は見られない。
【0012】
さらに、本出願人は、ヒドロキシクロロキンを含有する痔核治療のための局所投与用注射剤組成物を大韓民国登録特許第10-1067443号として、抗癌治療のための局所投与用注射剤組成物を大韓民国登録特許第10-1208587号として登録したことがある。
【0013】
本出願人による前記登録特許などによれば、ヒドロキシクロロキンによる痔核及び抗癌治療には効果があるが、ヒドロキシクロロキンが水溶性であるので、痔核及び癌細胞のみならず、周辺の正常細胞に拡散されて全身毒性の問題が大きく、治療目的のために、高濃度の投与が難しいだけでなく、正常細胞も壊死させる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】大韓民国登録特許第10-0390332号公報
【0015】
【文献】大韓民国登録特許第10-1067443号公報
【0016】
【文献】大韓民国登録特許第10-1208587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者は、前記のような問題点を解決するために、水に難溶性のキニーネ塩懸濁液を使用して、患部である癌細胞にのみ作用して壊死させ、患部周囲の正常細胞には影響を及ぼさない局所投与用抗癌剤として使用するためのものであって、特に、人体の全身には拡散せずに、癌細胞にのみ細胞毒性を有する抗癌剤組成物を、癌細胞に直接注射または注入するための局所投与用抗癌剤組成物を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明においては、ヒドロキシクロロキンの代替化合物としてキニーネ塩の懸濁液を使用して、抗癌治療のための局所投与用注射剤組成物を提供する。
【0019】
本発明の注射剤組成物は、悪性腫瘍(癌細胞)及び異常細胞増殖(血行代謝異常細胞増殖、良性腫瘍など)の血行代謝及び生理代謝を遮断して患部の細胞を壊死させる作用をするものである。
【0020】
ヒドロキシクロロキンは、キニーネの誘導体であって、抗マラリア剤、リウマチ治療剤などの用途として使用され、キニーネ塩と同様の薬理機序を持っているものとして広く知られている。
【0021】
【0022】
しかしながら、前記のヒドロキシクロロキンは、水溶性であるので、患部に投与する場合、患部のみならず、全身の正常細胞にも拡散され、体内に全身毒性が百倍~数百倍以上に大きくなって治療のための投与の危険性が高くなり、正常細胞でさえも壊死させる副作用があるので、これを水に難溶性のキニーネ塩で代替使用して前記の問題点を解決した。
【0023】
キニーネ塩は、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などを使用することができる。
【0024】
例えば、キニーネ塩酸塩(Quinine hydrochlorid)は、下記のような化学構造式を有する。
【0025】
【0026】
前記化合物は、融点が57℃であり、エチルアルコールなどの有機溶媒にはよく溶解されるが、水に難溶性であるので、常温では粒状の懸濁液(suspension)または固体(solid)として存在し、この懸濁液は、濃度に応じて一定温度で溶解し、溶液状態(solution)になる。
【0027】
【0028】
本発明者は、前記のキニーネ塩の水に対する溶解温度に着目して、従来のヒドロキシクロロキン注射剤の問題点を解決した。
【0029】
本発明のキニーネ塩は、水によく溶解されず、熱水に溶解して均質な溶液状態で存在する。
【0030】
すなわち、キニーネ塩の水に溶解する温度が人体の温度である36℃以上であるキニーネ塩懸濁液を注射液として使用して、これを人体の温度よりも高い温度で溶解した後、人体の患部に注射剤として注入すると、人体の温度によって決定温度以下に低下して、組織内で懸濁液または個体状態に変換され、全身移行を極小化することにより、これ以上人体内に拡散されず、細胞の血行代謝及び生理的代謝を遮断し、患部で細胞の代謝を妨害して注射液が投与されると同時に投与周辺細胞を硬化させることにより、注射液が投与された患部のみ壊死させ、周辺の正常細胞には拡散しないので、正常細胞には影響を及ぼさない。
【0031】
前記キニーネ塩溶液は、実質的に溶液のように見えるが、キニーネ塩が生理食塩水に均質な状態の懸濁液として存在するものであって、患部に注入すると、生理食塩水は、細胞内に吸収され、キニーネ塩の濃度が急激に高くなりながら個体状態に硬化されて細胞の生理代謝を遮断し、キニーネ塩の抗癌作用によって癌細胞を壊死させる薬理作用をするのである。
【0032】
従って、人体の温度以下で結晶化される低濃度のキニーネ塩懸濁液注射剤も使用が可能なものである。
【0033】
従って、従来のヒドロキシクロロキン注射剤の水溶性に応じる患部のみならず、人体の全体正常細胞にも拡散される問題点を解消し、正常細胞でさえも壊死させる問題点を解消できるのである。
【0034】
本発明のキニーネ塩懸濁液注射剤組成物は、全身癌ではない皮膚癌などの固形癌に有効である。
【0035】
本発明の抗癌剤組成物は、癌細胞などの患部に直接注射または注入することができ、リドカインのような局所麻酔剤及び/またはリボフラビンのような抗酸化剤を更に含むのが好ましい。
【0036】
また、本発明の注射剤組成物の体内投与後、血行組織代謝の遮断で薬物の投与後の吸収代謝分布を追跡できるように造影剤または蛍光剤を含むことができ、患部内においてキニーネ塩が結晶化されてからこれに粘着されるように粘着剤を更に含むことができる。
【0037】
前記造影剤や蛍光剤は、医薬製剤として使用される一般的な成分を使用し、全体組成物対比0.01~0.2%(w/w)含むのが好ましい。
【0038】
本発明では、キニーネ塩懸濁液を含有する局所投与用組成物を悪性腫瘍または異常細胞増殖組織(癌細胞または良性腫瘍)などの患部に直接投与して、癌細胞などの血行代謝及び生理代謝を遮断して患部組織を硬化させることによって壊死するようにするのである。
【0039】
癌細胞などは、正常細胞に比べて代謝が迅速に行われるので、キニーネ塩懸濁液によって癌細胞の活性低下及び細胞代謝が遮断されると、組織が不活性化されて、癌細胞の増殖が抑制及び栄養供給が遮断され、結果的に、暗潮職の壊死が起きるのである。
【0040】
本発明の組成物においてキニーネ塩懸濁液は、本物質抗癌力効力試験を通じて濃度に関わらず、同一の性状、物理的生化学的、効力効果が示される懸濁液の一般的特性を確認してくれた(
図6、7、8参照)
【0041】
従って、抗癌治療のための患者状態の緩急に応じて濃度調節を介して投与することができるようになった。
【0042】
すなわち、急性であれば、迅速な治療効果のためには高濃度で投与し、比較的弱くて緩やかな治療のためには低濃度で数回繰り返し投与が好ましい。
【0043】
従って、本発明の組成物においてキニーネ塩の含有量は、特に限定しないが、注射剤の用途及び薬効の側面から4~60%(w/w)範囲内に使用するのが好ましく、より好ましくは10~50%(w/w)である。
【0044】
4%(w/w)未満では、薬理活性のために投与回収を増やさなければならない面倒があり、60%(w/w)以上では、注射液の粘度が高いため、投与の難しさがある。
【0045】
溶媒は、通常注射液として使用される滅菌された生理食塩水を使用する。
【0046】
本発明による局所投与用注射剤組成物において局所麻酔剤は、癌細胞に注射で直接投与時に溶液状態で投与されるため、人体の温度よりも高温であるから痛症を誘発することができるので、痛症緩和の目的で使用され、好ましくは、リドカインを1~2%(w/w)の濃度で使用する。
【0047】
さらに、抗酸化剤は、製剤安全性のために配合され、好ましくはリボフラビンを0.1~0.5%(w/w)の濃度で使用する。
【0048】
造影剤や蛍光剤は、全体組成物対比0.01~0.2%(w/w)含むのが好ましい。
【0049】
本発明による抗癌治療のための局所投与用注射剤組成物は、通常の注射剤の製造方法に従って製造することができる。
【0050】
本発明の抗癌治療のための局所投与用注射剤組成物は、好ましくは、癌細胞に直接注射または注入するが、患者の状態に応じて1~4日の間隔で数週間繰り返して投与することができ、癌細胞の大きさと進行状態に応じて1~2日の間隔を置いて繰り返して投与することにより、癌細胞の増殖を抑制し、細胞代謝を抑制して早期に癌細胞を硬化不活性化させることができると思料される。
【発明の効果】
【0051】
本発明によるキニーネ塩を含む局所投与用注射剤組成物は、インビトロ(in vitro)でMTTアッセイ(assay)を通じたMKN45に対するIC50値が、パクリタキセル(Paclitaxel)に比べて10倍程度低い値を示し、優れた細胞毒性効果を有する。
【0052】
また、キニーネ塩の水に難溶性によって患部以外の全身移行を防止して、全身毒性及び正常細胞を壊死させる副作用を防止することができる効果があるので、体重減少などが起こらない。
【0053】
造影剤や蛍光剤の使用によって患部部位の代謝分布を確認することができるので、効果的な薬物投与が可能で、薬物投与の正確性を期することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】MTTアッセイによるMKN45細胞株の成長に及ぼす本発明組成物の効果を対照薬物と比較して示すグラフである。
【
図2】BALB/cヌードマウスの体重変化に対する本発明の組成物と対照薬物とを比較して示すグラフである。
【
図3】BALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌の体積変化に対する本発明の組成物と対照薬物とを比較して示すグラフである。
【
図4】BALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌の重量変化に対する本発明の組成物と対照薬物とを比較して示すグラフである。
【
図5】賦形剤対照群(G1)のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株による固形癌発生部位の写真である。
【
図6】本発明の懸濁液注射剤12.5mg/ヘッド(head)(G2)投与2週後のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌が壊死されて脱落した写真である。
【
図7】本発明の懸濁液注射剤25mg/ヘッド(G3)投与2週後のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌が壊死脱落した写真である。
【
図8】本発明の懸濁液注射剤50mg/ヘッド(G4)投与2週後のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌が壊死脱落した写真である。
【
図9】対照物質投与群(G5)投与2週後のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌が増殖された写真である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、実施例を通じて本発明を具体的に説明する。但し、これらの実施例は、本発明の例示であるだけであり、本発明の範囲がこれらのみに限定されるのではない。
【0056】
実験方法
(1)投与薬物
実験に使用する本発明のキニーネ塩懸濁液組成物は、キニーネ塩としてキニーネ塩酸塩を使用して、癌細胞に直接注射または注入する局所投与用製剤キニーネ塩酸塩(キニーネ塩酸塩)50%(w/w)懸濁液を製造した。
【0057】
具体的に、キニーネ塩酸塩50g、リドカイン1.5g、リボフラビン0.15g及び造影剤[東国製薬トモレイ(Tomoray)320]0.1gを混合した後、注射用生理食塩水(Saline)48.25mLを添加して100gの注射剤懸濁液を製造した。
【0058】
注射液として使用するときは、水浴上で60℃に加温溶解した後、これを患部に注射した。
【0059】
良性対照薬として使用したパクリタキセルは、大韓民国ブイエスパム(株)から購入して使用した。
【0060】
(2)癌細胞株
本実施例で使用した癌細胞株は、MKN45であって、大韓民国細胞株銀行から分譲を受けたものである。
【0061】
MKN45細胞株の培養は、(株)ケムモンの非臨床研究センター効能チームで実施し、RPMI1640培養液(L-グルタミン及び10%FBSを含み)で、5%CO2インキュベーターで48時間継代培養して実験に使用した。
【0062】
動物実験のために、MKN45細胞株をBALB/cヌードマウスの腹腔内に5×106細胞/100μL濃度で注入し、約2週後に得られた腹水を採取して2000rpmで遠心分離した沈澱液を2回繰り返して洗浄した後、0.4%トリプシンブルーで染色して、5×106細胞/100μLになるように製造した。
【0063】
(3)実験動物
生後5週齢のBALB/cヌードマウス(生産者:中央実験動物)50匹を購入して一週間適応させた後、実験に使用した。動物の飼育条件は、室内温度23±3℃、相対湿度55±15%に維持し、換気回数10~20回/時間、照明時間12時間(午前8時点灯-午後8時消灯)及び照度150~300ルクスに維持される京畿バイオセンター動物飼育区域2号室で飼育した。
【0064】
前記マウスの投与開示時の体重範囲は、18.67~23.19gであった。
【実施例1】
【0065】
MKN45細胞株における細胞毒性の測定
本発明の組成物が、細胞毒性に及ぼす影響を評価するために、MTTアッセイを用いた。
【0066】
MTTアッセイは、細胞の生存率を測定するための実験室試験法であって、標準比色分析法(standard colorimetric assay)ともいえる。
【0067】
細胞の増殖と生存細胞を正確に測定することができる技法であるMTTアッセイは、生命科学分野、特に腫瘍生物学における必須の技法中の一つである。
【0068】
新しい抗癌剤開発のための効能検索や既存に開発された抗癌剤の感受性を確認するために、動物実験など生体に適用する以前に、生体外で薬物が腫瘍細胞の成長を抑制することを客観的に証明する過程が先行すべきである。
【0069】
前記(2)で製造された細胞株と本発明のキニーネ塩酸塩とをエチルアルコールに溶解した溶液の濃度分布が1.0μg/mLから、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.0001、0μg/mLまで総8つの濃度に希釈して(
図1参照)各ウェルに添加し、パクリタキセルも同一方法で希釈してウェルに添加した。
【0070】
以後、再び37℃、5%CO2インキュベーターで24時間培養し、2mg/mLMTT試薬50μLを加えた後、37℃培養器で4時間放置した。
【0071】
遠心分離機を用いて上澄み液を除去し、DMSO200μLずつを各ウェルに加えてMTT染色沈殿物を溶解した後、ELISAリーダーを用いて540nm波長でOD540値を測定した。
【0072】
50%抑制濃度IC50は、生存率が50%になるようにする薬物の濃度として定義し、IC50値を抗癌効果の指標として使用した。
【0073】
図1は、MTTアッセイによるMKN45細胞株の成長に及ぼす本発明のキニーネ塩酸塩の効果を対照薬物と比較して示すグラフである。
【0074】
図1に示すように、MKN45細胞株の懸濁液を接種した後、対照薬物であるパクリタキセルとの抗癌力を比較した結果、パクリタキセルのIC
50値は、0.1μg/mLで示され、本発明組成物のIC
50値は、0.01μg/mL以下で示されたことを確認した。
【0075】
すなわち、本発明のキニーネ塩酸塩懸濁液は、インビトロでMTTアッセイを通じたMKN45に対するIC50値がパクリタキセルに比べて約10倍程度低い値を示すので、優れた細胞毒性効果を有するものと判断される。
【実施例2】
【0076】
本発明の注射剤が癌細胞成長変化に及ぼす効果
BALB/cヌードマウスにおける本発明組成物の抗癌力を観察するために、MKN45を接種した後、MKN45の分化に及ぼす影響を評価した。
【0077】
飼育施設に適応した動物を、以下の表2に基づいて相5軍(G1)~(G5)に分けて、各群当たり8匹の動物を割り当てて使用した。
【0078】
表2は、実験群の設定及び投薬濃度を示したものである。
【0079】
【0080】
MKN45細胞を5×106細胞/100μL/ヘッドですべての群の右側脇腹(flank)に皮下注射で移植して固形癌を誘発させた。
【0081】
移植した細胞株の腫塊が約150~200mm3になったとき、各群に均一に群分離をし、本発明の注射剤懸濁液組成物をそれぞれ低容量(12.5mg/ヘッド)、中容量(25mg/ヘッド)、高容量(50mg/ヘッド)に設定し、3日間隔で3回投薬し、一般症状、体重変化、腫瘍体積及び腫瘍重量を測定して評価し、賦形剤対照群及び対照群(パクリタキセル)と比較した。
【0082】
最初の投与は、体重に関係なく50μL/ヘッドで投与液量を算出した。
【0083】
2次投与からは、高容量では調剤した高容量をそのまま使用し、中容量は25mg/ヘッド、低容量は12.5mg/ヘッドで投与量を算出した。
【0084】
中容量は調剤した懸濁液注射剤を2倍に希釈し、低容量は4倍に希釈して使用した。
【0085】
注射液は、42~45℃で湯煎で加熱溶解した後、0.3mLインシュリン注射器を用いて、腫瘍の頂点に20μLを投与し、腫瘍の底辺に三角で各10μLずつ投与して総50μLを投与した。
【0086】
一般症状観察の結果、賦形剤対照群(G1)は、16日目から痩せが観察され、本発明の懸濁液注射剤12.5mg/ヘッド投与群(G2)は、1日目で痩せ1例、16日目で腫瘍脱落4例及び部分壊死3例、18日目及び19日目で痩せ各1例、そして、24日目で腫塊の再形成が2例観察された。
【0087】
本発明の懸濁液注射剤25mg/ヘッド投与群(G3)は、16日目で腫瘍脱落2例及び部分壊死が5例観察され、18日目で痩せ1例が観察された。24日目では、腫塊の再形成が2例観察された。
【0088】
本発明の懸濁液注射剤50mg/ヘッド投与群(G4)は、1日目で生気低下1例、衰弱1例が観察され、16日目で部分壊死が4例観察され、24日目で腫塊の再形成が1例観察された。腫塊の再形成は、本発明の懸濁液注射液の影響が及ばない残っている癌細胞の部位で起こったと判断される。
【0089】
図2は、BALB/cヌードマウスにおける薬物の投与による体重変化を本発明の組成物と賦形剤対照群(G1)及び対照物質群(G5)を比較して示すグラフである。
【0090】
図2に示すように、本発明の組成物投与による体重減少は観察されなかったが、賦形剤対照群(G1)及び対照物質群(G5)では顕著な体重減少が示されたことから見て、癌細胞の繁殖による衰弱現象と(G1)、薬物の毒性によって(G5)の体重減少が起こったと見られる。
【0091】
従って、本発明の組成物は、癌細胞の壊死脱落の抗癌効果は確認されるが、薬物による全身毒性が微々であると確認される。
【0092】
本発明の懸濁液注射剤に対する抗癌指標としては、日付に基づいて各群別に腫瘍の平均体積を測定し、実験終了日の剖検による肉眼的観察と腫瘍の平均重量を測定したところ、腫瘍体積と腫瘍重量が顕著に減少した。
【0093】
図3は、BALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株固形癌の腫瘍体積に及ぼす本発明組成物の効果を示すグラフである。ここで、G1は無処置群、G2は本発明組成物15mg/ヘッド、G3は25mg/ヘッド、そして、G4は50mg/ヘッドの量で投与した場合であり、G5は対照物質(パクリタキセル)投与群である。
【0094】
腫瘍体積測定の結果、本発明の12.5mg/ヘッド及び25mg/ヘッド投与群(G2及びG3)は、賦形剤対照群(G1)と比較して8日目以後から統計学的に有意な腫瘍体積の減少が確認された。
【0095】
本発明50mg/ヘッド投与群(G4)は、賦形剤対照群(G1)と比較して3日目から統計学的に有意な腫瘍体積の減少が確認された。
【0096】
図4は、BALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株固形癌の腫瘍重量に及ぼす本発明組成物の効果を示すグラフである。
【0097】
腫瘍重量測定の結果、本発明の12.5、25及び50mg/ヘッド投与群(G2、G3及びG4)は、賦形剤対照群(G1)と比較して統計学的に有意な腫瘍重量の減少が確認された。
【0098】
図5は、賦形剤対照群(G1)のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株による固形癌発生部位の写真である。
【0099】
図6は、本発明の懸濁液注射剤12.5mg/ヘッド(G2)投与2週後のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌が壊死されて脱落した写真である。
【0100】
図7は、本発明の懸濁液注射剤25mg/ヘッド(G3)投与2週後のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌が壊死脱落した写真である。
【0101】
図8は、本発明の懸濁液注射剤50mg/ヘッド(G4)投与2週後のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌が壊死脱落した写真である。
【0102】
図9は、対照物質投与群(G5)投与2週後のBALB/cヌードマウスにおけるMKN45細胞株の固形癌が増殖された写真である。
【0103】
前記の
図5及び
図9に示すように、賦形剤対照群(G1)及び対照物質投与群(G5)では腫瘍細胞が5倍以上に増殖されたことから見て、賦形剤対照群(G1)及び対照物質投与群(G5)では癌細胞増殖抑制効果が微々であると見られ、G2、G3、G4においては、本発明の注射剤組成物の初期投与容量は、2倍、4倍の差があるが、2週後の結果は、同様の腫瘍組織壊死剥離様相を示すのは、本発明の懸濁液注射剤が濃度(容量)変化に伴う効力効果に差を示さないことで、これは、本発明の懸濁液注射剤の一般的な特異性であると確認され、キニーネ塩懸濁液の物理的生化学的性状と効果効能が濃度に応じて根本的な差が起こることができないことを示す。
【0104】
従って、本発明の注射剤組成物において、キニーネ塩の濃度範囲は、特許請求の範囲に形式的な記載によって、その権利範囲が制限されるのではない。
【0105】
以上の結果から見て、胃癌細胞株であるMKN45を移植し、本発明の懸濁液注射剤組成物を固形癌内に投与したとき、本発明の懸濁液注射剤組成物は、腫瘍体積において賦形剤対照群(G1)と比較して有意な体積減少が確認され、特に、本発明の懸濁液注射剤組成物12.5、25及び50mg/ヘッド投与群(G2、G3及びG4)は、賦形剤対照群(G1)と比較して有意な腫瘍重量の減少が確認され、本発明の懸濁液注射剤組成物投与によって腫瘍が脱落して腫瘍壊死の脱落による抗腫瘍効果を示すと判断される。
【0106】
本発明の懸濁液注射剤組成物は、投与された腫瘍組織に局所的に作用し、迅速な抗腫瘍治療効果(投与後1~2週)を示す抗癌メカニズムを持っている。
【0107】
従って、本発明の懸濁液注射剤組成物としての抗癌治療効果は、既存の抗癌剤効果を上回ると予想される。
【0108】
以上で説明した本発明は、前述した構成及び図面に限定するのではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な置換、変更が可能であることは、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって明らかであるだろう。
【0109】
従って、本発明の真正な技術的保護範囲は、添付された特許請求の範囲の技術的思想によって決定されるべきである。