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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】合金部材および合金部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/08 20060101AFI20220715BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220715BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20220715BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20220715BHJP
   C22C 23/02 20060101ALN20220715BHJP
【FI】
C23C24/08 B
B22F1/00 N
B23K20/12 310
C22C21/00 E
C22C23/02
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2018100159
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019203177
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 直洋
(72)【発明者】
【氏名】青沼 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 拓
(72)【発明者】
【氏名】中村 勲
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-047261(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106282637(CN,A)
【文献】特開2005-179763(JP,A)
【文献】特開2010-227964(JP,A)
【文献】特開2014-237896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/08
B22F 1/00
B23K 20/12
C22C 21/00
C22C 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルアロイング処理粒子を摩擦攪拌処理した合金層を有する合金部材であって、
前記メカニカルアロイング処理粒子は、第1金属よりなる粒子と第2金属よりなる粒子とをメカニカルアロイング処理した混合粒子(ただし、ホウ素含有マグネシウム複合材料を除く)であり、
前記合金層は、前記第1金属および前記第2金属を含む合金層であって、含まれる結晶の平均結晶粒径が6.3μm以下である、合金部材。
【請求項2】
請求項1記載の合金部材において、
前記混合粒子は、前記第1金属に前記第2金属が固溶している粒子を含む、合金部材。
【請求項3】
請求項2記載の合金部材において、
前記混合粒子は、前記第1金属に前記第2金属が過飽和固溶している粒子を含む、合金部材。
【請求項4】
請求項2記載の合金部材において、
前記混合粒子は、前記第1金属と前記第2金属の化合物粒子を含む、合金部材。
【請求項5】
請求項3記載の合金部材において、
前記合金層は、前記第1金属または前記第1金属の合金よりなる金属部材の表面および内部に形成されている、合金部材。
【請求項6】
請求項3記載の合金部材において、
前記合金層は、前記第1金属と前記第2金属の合金結晶および前記第1金属と前記第2金属の化合物結晶を含む、合金部材。
【請求項7】
請求項6記載の合金部材において、
前記化合物結晶は、前記合金結晶の粒界に含まれている、合金部材。
【請求項8】
請求項1記載の合金部材において、
前記第1金属は、Mgであり、前記第2金属は、Alである、合金部材。
【請求項9】
請求項8記載の合金部材において、
前記混合粒子は、Al成分を13質量%以上となる割合で有する、合金部材。
【請求項10】
請求項8記載の合金部材において、
前記混合粒子は、Al成分を13質量%以上32質量%以下となる割合で有する、合金部材。
【請求項11】
(a)第1金属よりなる粒子と第2金属よりなる粒子とにメカニカルアロイング処理を施し、混合粒子(ただし、ホウ素含有マグネシウム複合材料を除く)を形成する工程、
(b)金属部材上に、前記混合粒子を配置し、前記混合粒子および前記金属部材に回転ツールを接触させ、前記金属部材の表面部および前記混合粒子を摩擦熱と塑性流動により攪拌することにより、前記第1金属および前記第2金属を含む合金層を前記金属部材の表面および内部に形成する工程、
を有する、合金部材の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の合金部材の製造方法において、
(c)前記(b)工程の後、前記金属部材の表面部の前記合金層に、熱処理を施す工程、を有する、合金部材の製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の合金部材の製造方法において、
前記(b)工程は、前記金属部材に設けられた溝に前記混合粒子を充填した後、前記回転ツールの先端部を前記溝に差し込んだ状態で行われる、合金部材の製造方法。
【請求項14】
請求項13記載の合金部材の製造方法において、
前記(b)工程は、
(b1)前記先端部を前記溝に沿って処理する第1処理工程と、
(b2)前記(b1)工程の後、前記先端部を前記溝に沿って処理する第2処理工程と、を有し、
前記(b1)工程は、前記(b2)工程より前記先端部の長さが短い前記回転ツールを用いて行われる、合金部材の製造方法。
【請求項15】
請求項11記載の合金部材の製造方法において、
前記混合粒子は、前記第1金属に前記第2金属が固溶している粒子を含む、合金部材の製造方法。
【請求項16】
請求項15記載の合金部材の製造方法において、
前記混合粒子は、前記第1金属に前記第2金属が過飽和している粒子を含む、合金部材の製造方法。
【請求項17】
請求項15記載の合金部材の製造方法において、
前記混合粒子は、前記第1金属と前記第2金属の化合物粒子を含む、合金部材の製造方法。
【請求項18】
請求項11記載の合金部材の製造方法において、
前記(b)工程は、前記第1金属または前記第1金属の合金よりなる金属部材上に、前記混合粒子を配置して行われる、合金部材の製造方法。
【請求項19】
請求項11記載の合金部材の製造方法において、
前記合金層は、前記第1金属と前記第2金属の合金結晶および前記第1金属と前記第2金属の化合物結晶を含む、合金部材の製造方法。
【請求項20】
請求項19記載の合金部材の製造方法において、
前記化合物結晶は、前記合金結晶の粒界に含まれている、合金部材の製造方法。
【請求項21】
請求項11記載の合金部材の製造方法において、
前記第1金属は、Mgであり、前記第2金属は、Alである、合金部材の製造方法。
【請求項22】
請求項21記載の合金部材の製造方法において、
前記(a)工程は、Mg粒子とAl粒子を、前記Al粒子が13質量%以上となる割合で混合される、合金部材の製造方法。
【請求項23】
請求項21記載の合金部材の製造方法において、
前記(a)工程は、Mg粒子とAl粒子を、前記Al粒子が13質量%以上32質量%以下となる割合で混合される、合金部材の製造方法。
【請求項24】
請求項19記載の合金部材の製造方法において、
前記合金層は、MgとAlの化合物結晶を含み、その粒径は、3μm以下である、合金部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金部材および合金部材の製造方法に関し、メカニカルアロイング粒子を摩擦攪拌プロセスにより取り込んだ合金領域を有する合金部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や鉄道、船舶、航空機といった輸送機器では、燃費向上のために軽量化が急務となっている。実用金属中でも最も比強度の高いマグネシウム合金は、輸送機器の軽量化に対して有効であり、更なる高強度化や、難燃性や耐食性の向上などといった性質改善が求められている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、母材(Al)の改質を要する領域に改質用材料(銅粉末)を配置し、摩擦攪拌によって改質用材料と母材の素材とを一体化することにより、耐久性の低下の防止および熱影響に起因したクラックの発生の回避を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-50266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、前述したMg合金などの合金材料について、その特性の向上(高強度化、難燃性や耐食性の向上など)について鋭意検討している。
【0006】
また、Mg合金の鋳造材においては、強度や延性といった機械的性質を担保するために、熱処理が必要な場合がみられる。この熱処理は、Mg合金を高温において数十時間保持する必要があるため、生産性やコストの観点から熱処理の効率化が望まれている。また、近年、金属材料の組織改善手法として摩擦攪拌プロセスが注目されている。
【0007】
本発明の目的は、摩擦攪拌プロセスを用いることで合金材料の特性(例えば、機械的性質、電気伝導性、磁気特性など)を向上させ、また、熱処理の効率化を図ることにある。
【0008】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
本発明に係る合金部材は、メカニカルアロイング処理粒子を摩擦攪拌処理した合金層を有する金属部材である。そして、前記メカニカルアロイング処理粒子は、第1金属よりなる粒子と第2金属よりなる粒子とをメカニカルアロイング処理した混合粒子であり、前記合金層は、前記第1金属および前記第2金属を含む合金層である。
【0011】
本発明に係る合金部材の製造方法は、(a)第1金属よりなる粒子と第2金属よりなる粒子とにメカニカルアロイング処理を施し、混合粒子を形成する工程を有する。そして、さらに、(b)金属部材上に、前記混合粒子を配置し、前記混合粒子および前記金属部材に回転ツールを接触させ、前記金属部材の表面部および前記混合粒子を摩擦熱と塑性流動により攪拌することにより、前記第1金属および前記第2金属を含む合金層を前記金属部材の表面および内部に形成する工程、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0013】
本願において開示される発明によれば、合金部材の特性を向上させることができる。また、特性の良好な合金部材を製造することができる。また、合金部材の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】メカニカルアロイング処理工程を示す模式図である。
図2】実施の形態の合金層を形成するFSPを示す図である。
図3】実施の形態の合金層を形成するFSPを示す図である。
図4】時効処理工程を示す図である。
図5】MA粒子のSEM観察結果(写真)を示す図である。
図6】MA粒子のX線回折結果を示す図である。
図7】試験片の断面(写真)を示す図である。
図8】試験片の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果(写真)を示す図である。
図9】時効処理後の試験片のSEMによる観察結果(写真)を示す図である。
図10】時効処理後の試験片のビッカース硬さと時効処理時間の関係を示す図である。
図11】時効処理後の試験片のビッカース硬さと時効処理時間の関係を示す図である。
図12】MA粒子を用いたFSPを示す図である。
図13】MA粒子のSEM観察結果(写真)を示す図である。
図14】MA粒子のX線回折結果(グラフ)を示す図である。
図15】試験片の断面(写真)を示す図である。
図16】試験片の光学顕微鏡による観察結果(写真)を示す図である。
図17】試験片のSEMによる観察結果(写真)を示す図である。
図18】時効処理後の試験片のビッカース硬さと時効処理時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連する符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
(実施の形態)
(メカニカルアロイング粒子の形成)
メカニカルアロイング法によりメカニカルアロイング処理された粒子(メカニカルアロイング粒子、メカニカルアロイング粉末、合金粉末、合金粒子、混合粒子、混合粉末)を形成する方法について説明する。
【0017】
第1金属粒子(例えば、Mg粒子)および第2金属粒子(例えば、Al粒子)を混合装置に投入し、メカニカルアロイング処理を施す。
【0018】
メカニカルアロイング処理とは、不活性雰囲気中でボールミルを用い、ボールの衝突エネルギーを利用して、粒子同士の折りたたみと圧延を繰り返し起こさせることにより、微細に混合していく方法(粒子同士を強制混合する方法)である。このメカニカルアロイング処理により、得られた粒子(粉末)をMA粒子(MA粉末)と言う。
【0019】
図1は、メカニカルアロイング処理工程を示す模式図である。図1(A)に示すように、例えば、円筒状の容器に、硬質のボールと、材料の粉(例えば、Mg粒子、Al粒子)を入れて容器を回転させることによって、ナノスケールでの混合(例えば、粒子同士の折りたたみや圧延)、局所加熱、拡散を生じさせ、合金化し、MA粒子MAP(図1(B))を得ることができる。
【0020】
特に、メカニカルアロイング処理によれば、通常の鋳造(溶融した金属を鋳型に注入して凝固させる手法)では製造することができない固溶比の合金(例えば、AlリッチのMg-Al合金)の粒子を得ることができる。別の言い方をすれば、MgにAlが通常の割合で固溶している粒子の他、MgにAlが過飽和(過飽和固溶)している粒子を形成することができる。なお、MA粒子のすべてが、合金粒子であるとは限らない。例えば、Mg粒子とAl粒子の処理の場合、MA粒子は、Mg-Alの合金粒子、AlリッチのMg-Al合金粒子、Mg粒子、Al粒子、MgとAlの化合物(金属化合物、金属間化合物)であるMg17Al12よりなる粒子(以下、単に“化合物粒子”と言う場合がある)の混合粒子であってもよい。
【0021】
(摩擦攪拌プロセスによる合金層の形成)
摩擦攪拌接合(FSW)は、非消耗の回転ツールによる固相攪拌によりなされる。固相攪拌は、結晶粒を微細化するばかりでなく、鋳造組織のような不均一組織を均質化し、異種金属間に用いれば局所領域の合金反応をもたらす。このようなFSW過程で生じる組織変化を積極的に利用した組織改質法を摩擦攪拌プロセッシング(FSP、FS処理)と言う。
【0022】
図2および図3は、本実施の形態の合金層を形成するFSPを示す図である。図3(A)に示すように、その表面部に溝Tが形成された金属部材MPを準備する。次いで、図3(B)に示すように金属部材MPの溝Tに、MA粒子MAPを充填する。次いで、図3(C)に示すように、MA粒子MAPが充填された溝Tに、回転ツールRTの先端部TSを差し込み、回転ツールRTを回転させながら、溝Tに沿って移動させることにより、FSPを行う(図2も参照)。これにより、図3(C)に示すように、回転ツールRTの先端部TSや本体部MUの接触部において、摩擦熱および攪拌作用によりMA粒子MAPおよび金属部材MPの表面部が混ざり、改質した組織(結晶)よりなる合金層(合金領域)MAL1が、金属部材MPの表面部(表面および内部)に形成される(図3(D))。金属部材は、例えば、Mg-Al合金よりなる板状部材である。また、金属部材を、Mgよりなる板状部材としてもよい。金属層が形成された金属部材を“合金部材”と言う。
【0023】
また、FSPを行った後、時効処理(熱処理)を施してもよい。図4は、時効処理工程を示す図である。この時効処理により、合金中に化合物(金属化合物、金属間化合物、強化析出物、化合物組織、化合物結晶)が析出し、特性が向上する。例えば、強度や延性といった機械的性質を向上させることができる。時効処理後の合金層を“MAL2”で示す。
【0024】
このように、本実施の形態によれば、メカニカルアロイング処理によりMA粒子を形成し、このMA粒子を用いてFSPを行うことにより、摩擦攪拌に伴う摩擦熱と塑性流動が溶質元素(ここでは、第2金属)の拡散、固溶をもたらし、化合物の良好な析出を促進することで、処理層(改質合金層)の組織(結晶)の状態を良くすることができる。即ち、金属部材MP上に特性の良好な合金層MAL1を形成することができる。この処理は、金属部材MPの表面改質処理とも言える。
【0025】
具体的には、組織(結晶)の微細化および均一性を図るとともに、微細な化合物粒子の組織(結晶、合金組織、合金結晶)の析出量を増加させることができる。
【0026】
また、時効処理において、微細な化合物粒子の均一性の高い析出を図ることができ、時効処理時間の短縮を図ることができる。即ち、時効処理時間を短縮しても所望の特性(例えば、強度)を得ることができる。例えば、通常の鋳造により得られたMg合金は、熱処理(溶体化処理ならびに時効処理)に数時間から数十時間を要するが、本実施の形態によれば、時効処理時間の短縮を図ることができる。
【0027】
[実施例]
(実施例A)
(メカニカルアロイング粒子の形成)
Mg粉末およびAl粉末を混合装置に投入し、メカニカルアロイング処理を施した。具体的には、高純度のMg粉末(純度:99.5%、粒径:180μm以下)に、高純度のAl粉末(純度:99.99%、粒径:75μm以下)を添加し、遊星型ボールミルを用いて混合することにより、メカニカルアロイング処理を施した。
【0028】
遊星型ボールミルを用いることで、ボールを入れる容器であるミルポットの自転運動と、ミルポットを載せたステージの回転(公転運動)により、ボールとポットの壁の衝突に加え、自転・公転を逆方向に行うことでより強力な遠心力をかけることができ、短時間で処理を行うことができる。
【0029】
Al粉末の添加量は、Mg粉末とAl粉末との合計量に対し、13質量%とした。Al粉末の添加量の13%は、Mgに通常固溶するAlの濃度(固溶限界濃度)である12.7%(437℃)を超える濃度である。
【0030】
なお、ボールは、鋼製(直径:10mm)のものを用い、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を、Mg粉末とAl粉末との合計量に対し、1質量%添加して、Mg粉末とAl粉末を混合し、混合粒子(MA粉末)を得た。混合時間は、1時間、5時間、10時間とした。
【0031】
作製したMA粉末の大きさや形状を調べるためにSEMによる観察を行い、また、構成相を調べるためにX線回折を行った。
【0032】
(摩擦攪拌プロセスによる合金層の形成)
市販のAZ91Dマグネシウム合金(金型鋳造材)を板状(100mm×150mm×5mm)に加工した試験片に対して、MA粉末を充填するための溝(幅:2mm、長さ:25mm、深さ:4mm)を形成した。
【0033】
試験片の溝にMA粉末を充填した後、MA粉末の飛散防止および均一分散を目的として、1ラインに対して3パスのFSPを行った。FSP条件は、次のとおりである。1回目(第1処理)は、本体部(Shoulder die)の径(Φ)10mm、先端部(Probe)の長さ1.5mmのツールを用い、2回目(第2処理)および3回目(第3処理)は、Φが14mm、先端部の長さ4.5mmのツールを用いた。ツールの回転速度は、1000rpm、移動速度は、25mm/minとした。
【0034】
このように、先端部の長さが溝の深さより短いツールを用いて、1回目の処理を行うことにより、溝の表面部のMA粉末が処理され、MA粉末の飛散を防止することができる。また、その後の2回目、3回目の処理により、溝の内部のMA粉末が処理される。これにより、MA粉末を均一に試験片の表面部に分散させ、合金化させることができる。
【0035】
また、比較例1として、MA粉末を添加せずに摩擦攪拌プロセスを実施した試験片、比較例2として、MA粉末に代えて上記Al粉末を充填し摩擦攪拌プロセスを実施した試験片も併せて作製した。
【0036】
各試験片の断面を観察し、さらに、光学顕微鏡およびSEMを用いて、各試験片の断面のミクロ組織を観察した。
【0037】
(時効処理)
FSPを行った各試験片に対し、時効処理(熱処理)を施した。処理温度は170℃、処理時間は1時間、3時間等とした。
【0038】
時効処理後のFSP処理部について、SEMを用いてミクロ組織を観察した。また、ビッカース硬さを測定した。
【0039】
(結果)
図5に、MA粒子のSEM観察結果(写真)を示す。MA粒子をSEM観察したところ、混合時間(ミリング時間)1時間のMA粒子は、粒径が200μmを超えるものも見られた。また、混合時間5時間のMA粒子は、粒径が小さく、ばらつきも少なかった。また、混合時間10時間のMA粒子は、さらに、粒径が小さかった。このように、混合時間1時間では、当初のMg粉末やAl粉末の平均粒径よりも大きいものが見られ、粒子同士が接合した状態で、その後の、粉砕まで至らない状態であると考えられる。また、混合時間が、5時間、10時間と長くなるにつれ、MA粒子の粒径が小さくなる傾向が見られる。
【0040】
図6に、MA粒子のX線回折結果(グラフ)を示す。混合時間1時間のMA粒子の構成相は、主にMgおよびAlと解釈される。混合時間5時間のMA粒子では、Alの回折ピークは急激に減少しており、さらに、混合時間5時間のMA粒子では、Alの回折ピークが、ほぼ消滅し、化合物(Mg17Al12)の回折ピークが確認できる。また、混合時間の増加に伴い、Mgの回折ピークがブロードになっていることから、Mg中にAlが固溶していることが推察される。
【0041】
図7に、試験片の断面(写真)を示す。図7(A)は、MA粒子を添加していない通常のFSP処理部の断面写真であり、図7(B)は、Al粒子をFSPにより取り込んだ処理部の断面写真であり、図7(C)は、MA粒子をFSPにより取り込んだ処理部の断面写真である。
【0042】
Al粒子をFSPにより取り込んだ処理部においては、試験片(Mg合金)中にAl粒子を均一に分散させることができず、処理部に欠陥(穴)が生じた。
【0043】
MA粒子をFSPにより取り込んだ処理部においては、上記欠陥(穴)を生じることなく、MA粒子を処理部に添加することができた。即ち、MA粒子中のAl成分を、処理部に取り込み、合金化することができた。なお、MA粒子を添加していない通常のFSP処理部においても、上記欠陥(穴)を生じなかった。
【0044】
(光学顕微鏡による観察結果)
図8に、試験片の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果(写真)を示す。左および中央の写真は、光学顕微鏡によるものであり、右の写真がSEMによるものである。
【0045】
図8(B)に示すように、MA粒子を添加していない通常のFSP処理部においては、FSP処理により、鋳造組織が消滅し、等軸晶へと変化し、組織(結晶)の微細化が確認できる。この場合の平均結晶粒径は、18.8μmであった。
【0046】
図8(A)に示すように、混合時間1時間のMA粒子をFSPにより取り込んだ処理部においては、通常のFSP処理の場合と同様に、鋳造組織が消滅し、等軸晶へと変化していることが確認できる。さらに、通常のFSP(図8(B))より、組織(結晶)の微細化が進み、この場合の平均結晶粒径は、6.3μmであった。
【0047】
また、図8(C)に示すように、混合時間10時間のMA粒子をFSPにより取り込んだ処理部においては、通常のFSP処理の場合と同様に、鋳造組織が消滅し、等軸晶へと変化していることが確認できる。さらに、組織(結晶)の微細化が進み、この場合の平均結晶粒径は、5.0μmであった。図5に示すように混合時間が1時間の場合と10時間の場合とで、MA粒子の粒径には明瞭な差異があったが、FSP後のミクロ組織に及ぼす影響は小さかった。これはFSP時の熱や塑性流動のエネルギーが極めて大きく、ある程度粗大な粒子でもFSP時に分解、攪拌されるためと推察される。
【0048】
(SEMによる観察結果)
図8(B)の右図に示すように、MA粒子を添加していない通常のFSP処理部においては、組織(結晶)の粒界に1μm程度の粒径の化合物の存在が確認される。化合物は、図(写真)中の白色の部分として確認される。
【0049】
また、図8(A)の右図に示すように、混合時間1時間のMA粒子をFSPにより取り込んだ処理部においては、組織(結晶)の粒界に1μm以下の粒径の微細な化合物の存在が確認される。これはMA粒子の添加により攪拌領域のAl濃度が高くなり、FSP時に微細化合物が生成しやすい状況となったためと考えられる。また、この微細化合物が動的再結晶時に粒界をピン止めしたため、結晶粒が微細になったと推察される。
【0050】
このように、MA粒子を添加しFSP処理を行うことで、MA粒子の成分を分散した合金層を形成することが可能であることが判明した。そして、この合金層(処理部)においては、MA粒子を添加しないFSP処理部より、微細な結晶粒をより均一に生成できていることが判明した。また、微細な結晶粒の粒界に、より多くの微細化合物が生成していることが判明した。
【0051】
(時効処理後のSEMによる観察結果およびビッカース硬さ)
図9に、時効処理後の試験片のSEMによる観察結果(写真)を示す。なお、時効処理前のSEMによる観察結果(写真)も併せて表示している。
【0052】
図9の上段に示すように、MA粒子を添加していないFSP処理部を1時間時効処理した場合(13%Al-1h)時効処理前のもの(0hAA)と比較し、結晶粒の内部で化合物が析出しており、3時間の時効処理した場合(3hAA)は、化合物Cの析出がさらに進んでいる。但し、この場合においては、不連続析出が優先的に生じており、化合物の析出に偏り、つまり、化合物の析出が進んでいる部分とそうでない部分のばらつきが大きい。
【0053】
これに対し、図9の下段に示すように、混合時間1時間のMA粒子を取り込んだFSP処理部を1時間時効処理した場合(1hAA)は、結晶粒の粒界で化合物が析出しており、3時間の時効処理した場合(3hAA)において、結晶粒の内部で化合物が析出するものの、上段のものより、化合物の粒径は小さく、均一に析出している。
【0054】
図10に、時効処理後の試験片のビッカース硬さと時効処理時間の関係を示す。縦軸は、ビッカース硬さ(Vickers Hardness、HV)であり、横軸は、時効処理時間(Aging time、時間(h))である。
【0055】
MA粒子を添加していない通常のFSP処理部の場合(As FSP)、時効処理時間の増加に伴い、ビッカース硬さが上昇している。しかしながら、混合時間1時間のMA粒子を取り込んだFSP処理部の場合(13%Al-1hMM)、時効処理時間がいずれの場合も、先のもの(As FSP)よりビッカース硬さが大きい。また、この(13%Al-1hMM)においては、グラフの立ち上がりが急激であり、ビッカース硬さが一定(最高値)となるまでの時間が小さい。さらに、ビッカース硬さは、1時間の時効処理でも、87HV程度となり、一般的な鋳造合金を時効処理した場合(溶体化処理+時効処理(170℃で16時間))のビッカース硬さである約85HV(文献値)と同等またはそれ以上の良好な値を得ることができた。
【0056】
このように、ビッカース硬さの最高値が大きく、また、この最高値を示すまでの時効処理時間が短縮されていることから、MA粒子の添加により、均一性が高く、高濃度のAlが取り込まれた状態(過飽和状態)を維持することで化合物の析出が促進されたと考えられる。
【0057】
また、混合時間10時間のMA粒子を取り込んだFSP処理部について、上記と同様にビッカース硬さと時効処理時間の関係を調べた。その結果を、図11に示す。図11は、時効処理後の試験片のビッカース硬さと時効処理時間の関係を示す図である。
【0058】
混合時間10時間のMA粒子を取り込んだFSP処理部の場合(13%Al-10hMM)、混合時間1時間のMA粒子を取り込んだ場合(13%Al-1hMM)と同様に、良好なビッカース硬さの変化を示した。
【0059】
(考察)
上記の通り、本実施例によれば、メカニカルアロイング処理によりMA粒子を形成し、このMA粒子を用いてFSPを行うことにより、微細な化合物粒子の組織(結晶)の粒界への析出量を増加させ、また、組織(結晶)の微細化および均一性を図ることができた。また、時効処理において、微細な化合物粒子の均一性の高い析出を図ることができ、時効処理時間の短縮を図ることができた。
【0060】
このようなMA粒子を用いたFSPについて次のように考察できる。図12は、MA粒子を用いたFSPを示す図である。図12(A)は、MA粒子を添加していない通常のFSPを示し、図12(B)は、MA粒子を添加したFSPを示す。
【0061】
図12に示すように、MA法を用いることで、例えば、Alを多量に含有したMA粉末を形成することができる(図12(B)第1段目参照)。実施例Aにおいては、MA粉末中にAl成分を13質量%(固溶限界濃度以上)となる割合で有する。そして、FSP時には、攪拌領域に、Al過飽和部もしくはAl濃化部が多く形成される。即ち、FSP時に、Al過飽和部もしくはAl濃化部が多数分散した領域SSを形成することで(図12(B)第2段目参照)、化合物の析出を促進すると推察される(図12(B)第3段目参照)。さらに、粉末添加に伴うひずみの導入により動的再結晶時に再結晶粒の核生成が促進されることで、微細な結晶が得られたと推察される。
【0062】
このような現象を可能としたのは、Mg粉末と析出相の主構成元素(溶質元素)であるAl粉末を、MA法により強制混合し、溶質元素を著しく過飽和に固溶させた、もしくは微細な化合物として存在するような状態のMA粉末を用いた点にもあると考えられる。MgにAlを過飽和させた粒子を“過飽和粒子SP”で示す(図12(B)第1段目参照)。
【0063】
このようなMA粒子をFSPを用いて材料中に分散させることにより、攪拌領域では鋳造法などの一般的な材料作製では実現困難なレベルの著しく高い溶質濃度部を多数形成することが可能となる。これにより、著しく高い溶質濃度の固溶体よりなる合金部を多数形成することができる。そして、溶質濃度が著しく高い状態では、自由エネルギーが高く、短時間の時効処理によってそのエネルギーを駆動力とした瞬間的な化合物生成を実現できる。
【0064】
よって、図12(A)に示すように、通常のFSPによれば、処理部(MAL)において、化合物の析出量が少なく(図12(A)第3段目参照)、また、溶質濃度が低いため、時効処理を施しても、核生成が少なく、また、少ない核より化合物が成長するため、化合物の析出部が偏る(図12(A)第4段目参照)。これに対し、図12(B)に示すように、本実施例においては、過飽和粒子SPによりAl過飽和部もしくはAl濃化部が多数分散した領域SSが形成され、結晶粒界における析出相の生成と、時効処理による急激な化合物の生成が生じる。これにより、短時間の処理で、微細な強化析出物を生成させ、合金層を強化することができたと考えられる。
【0065】
(実施例B)
実施例Aの「メカニカルアロイング粒子の形成」において、Al粉末の添加量を、Mg粉末とAl粉末との合計量に対し、32質量%とし、同様のメカニカルアロイング処理により混合粒子(MA粒子)を得た。次いで、実施例Aの場合と同様にして、試験片の溝にMA粉末を充填しFSPを行った。さらに、実施例Aの場合と同様にして、FSPを行った各試験片に対し、時効処理(熱処理)を施した。
【0066】
(結果)
図13に、MA粒子のSEM観察結果(写真)を示す。MA粒子(Mg-32%Al粉末)をSEM観察したところ、混合時間(ミリング時間)1時間のMA粒子は、粒径が20~80μm程度であった。これに対し、混合時間5時間のMA粒子は、粒径が小さく、ばらつきも少なかった。また、混合時間10時間のMA粒子は、さらに、粒径が小さかった。
【0067】
図14に、MA粒子のX線回折結果(グラフ)を示す。このMA粒子においては、混合時間が、1時間の段階で、Mg17Al12の回折ピークが現れている。また、混合時間が、1時間、5時間、10時間と増加するにしたがって、Alの回折ピークが減少しており、化合物(Mg17Al12)の回折ピークが増大している。
【0068】
図15に、試験片の断面(写真)を示す。MA粒子をFSPにより取り込んだ処理部においては、上記実施例Aにおいて図7(B)を参照しながら説明した欠陥(穴)を生じることなく、MA粒子を処理部に添加することができた。
【0069】
図16に、試験片の光学顕微鏡による観察結果(写真)を示し、図17に、試験片のSEMによる観察結果(写真)を示す。図16(A)は、混合時間1時間のMA粒子をFSPにより取り込んだ場合、図16(B)は、混合時間10時間のMA粒子をFSPにより取り込んだ場合を示す。図17は、混合時間1時間のMA粒子をFSPにより取り込んだ場合を示す。
【0070】
MA粒子(Mg-32%Al粉末)を取り込んだ場合では、図16(A)および図16(B)のいずれの場合も、微細な化合物が多量に生成している状況が確認される。そして、混合時間に起因して断面の明瞭な差異は確認されない。
【0071】
また、図17の混合時間1時間のMA粒子をFSPにより取り込んだ場合のSEM写真においては、2~3μm程度の化合物が多量に存在する状況が確認される。MA粒子(Mg-32%Al粉末)において、Al濃度はMg-Al二元系平衡状態図におけるMgの固溶体とMg17Al12の共晶濃度近傍であることから、Mg17Al12が多量に生成したと推察される。即ち、前述の図12(B)第3段目の段階で、多量の化合物が得られていると考えられる。
【0072】
図18に、時効処理後の試験片のビッカース硬さと時効処理時間の関係を示す。図18に示すように、混合時間1時間のMA粒子を取り込んだFSP処理部(32%Al-1hMM)および混合時間10時間のMA粒子を取り込んだFSP処理部(32%Al-10hMM)は、時効処理を施す前からビッカース硬さが高く115HV程度を維持している。また、時効処理を18時間施した場合、ビッカース硬さは118HV程度であった。
【0073】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0074】
例えば、ボールミルのボールは、鋼製の他、セラミック製のものを用いてもよい。また、図2に示す処理においては、金属部材MPに溝Tを形成したが、溝の形成を省略してもよい。また、図2に示す処理においては、ライン状の処理を施したが、例えば、ライン状の処理を繰り返すことによって、金属部材MPの表面部全体に合金層を設けてもよい。また、金属部材MPの表面のみならず、側面や底面にも処理を施してもよい。
【0075】
特に、本実施の形態は、第1金属に固溶する第2金属であり、第1金属と第2金属の化合物の析出により、その特性が向上する合金層の形成に、有効に適用することができる。例えば、Mgに固溶し、時効硬化性を有する元素としては、上記Alの他、Zn、MnやCe、Yなどの希土類元素(Rare-Earth)などが挙げられる。
【0076】
また、上記実施の形態においては、第1金属としてMgを、第2金属としてAlを例に、合金層の高強度化を図ったが、難燃性や耐食性の向上などといった他の性質改善を行ってもよい。また、第2金属として多種の金属を添加してもよい。
【0077】
例えば、第1金属をMgと、第2金属をCaとすることで、合金層の難燃性を向上させることが期待できる。また、第1金属をMgと、第2金属をZnまたはMnとすることで、合金層の耐食性の向上も可能と思われる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、合金部材および合金部材の製造方法に適用して有効である。
【符号の説明】
【0079】
C 化合物
MAL 合金層(処理部)
MAL1 合金層(処理部)
MAL2 合金層(処理部)
MAP MA粒子
MP 金属部材
MU 本体部
RT 回転ツール
SP 過飽和粒子
SS Al過飽和部もしくはAl濃化部が多数分散した領域
T 溝
TS 先端部
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