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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 6/34 20071001AFI20220715BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220715BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20220715BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20220715BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20220715BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20220715BHJP
   B60L 50/15 20190101ALI20220715BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
B60K6/34 ZHV
B60W10/08 900
B60W20/00 900
B60L3/00 J
B60L15/20 J
B60L9/18 J
B60L50/15
E02F9/20 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018151140
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020026175
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】神谷 昭範
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 徳孝
(72)【発明者】
【氏名】歌代 浩志
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507320(JP,A)
【文献】特開2007-267514(JP,A)
【文献】特開2009-214587(JP,A)
【文献】特開2014-051252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-20/50
B60L 1/00-58/40
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って動かされる作業装置と、
前記エンジンにより回転され発電されるモータジェネレータと、
前記モータジェネレータを制御する第1インバータと、
前記モータジェネレータにより発電された電力で駆動される走行電動モータと、
前記第1インバータにDCバスを介して接続され、前記走行電動モータの出力トルクを制御する第2インバータと、
前記DCバスの電圧を制御するコントローラと
を備えた作業車両において、
前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを前記走行電動モータの出力トルクを前記DCバスの電圧の低下量に応じて減少させ、前記DCバスの電圧が前記第1の閾値よりも低い第2の閾値を超えて低下した場合には、前記走行電動モータの出力トルクをゼロに減少させることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って動かされる作業装置と、
前記エンジンにより回転され発電されるモータジェネレータと、
前記モータジェネレータを制御する第1インバータと、
前記モータジェネレータにより発電された電力で駆動される走行電動モータと、
前記第1インバータにDCバスを介して接続され、前記走行電動モータの出力トルクを制御する第2インバータと、
前記DCバスの電圧を制御するコントローラと
を備えた作業車両において、
前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを前記走行電動モータの出力トルクを前記DCバスの電圧の低下量に応じて減少させ、 前記DCバスの電圧が前記第1の閾値よりも低い第2の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを作業車両が平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値に減少させることを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1又は2記載の作業車両において、
前記コントローラは、前記第2の閾値を、前記第2インバータの動作が停止する前記DCバスの電圧より高い値に設定することを特徴とする作業車両。
【請求項4】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って動かされる作業装置と、
前記エンジンにより回転され発電されるモータジェネレータと、
前記モータジェネレータを制御する第1インバータと、
前記モータジェネレータにより発電された電力で駆動される走行電動モータと、
前記第1インバータにDCバスを介して接続され、前記走行電動モータの出力トルクを制御する第2インバータと、
前記DCバスの電圧を制御するコントローラと
を備えた作業車両において、
前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って 前記DCバスの電圧が第1の閾値まで低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを、ゼロに減少させることを特徴とする作業車両。
【請求項5】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って動かされる作業装置と、
前記エンジンにより回転され発電されるモータジェネレータと、
前記モータジェネレータを制御する第1インバータと、
前記モータジェネレータにより発電された電力で駆動される走行電動モータと、
前記第1インバータにDCバスを介して接続され、前記走行電動モータの出力トルクを制御する第2インバータと、
前記DCバスの電圧を制御するコントローラと
を備えた作業車両において、
前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って 前記DCバスの電圧が第1の閾値まで低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを作業車両が平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値に減少させることを特徴とする作業車両。
【請求項6】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って動かされる作業装置と、
前記エンジンにより回転され発電されるモータジェネレータと、
前記モータジェネレータを制御する第1インバータと、
前記モータジェネレータにより発電された電力で駆動される走行電動モータと、
前記第1インバータにDCバスを介して接続され、前記走行電動モータの出力トルクを制御する第2インバータと、
前記DCバスの電圧を制御するコントローラと
を備えた作業車両において、
前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って 前記DCバスの電圧が第1の閾値まで低下した場合に、前記DCバスの電圧の変化率が予め設定した値以下であるときは、前記走行電動モータの出力トルクを前記DCバスの電圧の低下量に応じて減少させ、前記DCバスの電圧の変化率が前記予め設定した値よりも大きいときは、前記走行電動モータの出力トルクを、ゼロ又は作業車両が平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値に減少させることを特徴とする作業車両。
【請求項7】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って動かされる作業装置と、
前記エンジンにより回転され発電されるモータジェネレータと、
前記モータジェネレータを制御する第1インバータと、
前記モータジェネレータにより発電された電力で駆動される走行電動モータと、
前記第1インバータにDCバスを介して接続され、前記走行電動モータの出力トルクを制御する第2インバータと、
前記DCバスの電圧を制御するコントローラと
を備えた作業車両において、
前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを減少させ、 前記DCバスの電圧が前記第1の閾値を超えて低下し、前記走行電動モータの出力トルクが最小値に低減した後、前記DCバスの電圧が回復するとき、前記走行電動モータの出力トルクが増加し始めるタイミングが遅くなるようヒステリシスの特性を持たせたことを特徴とする作業車両。
【請求項8】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って動かされる作業装置と、
前記エンジンにより回転され発電されるモータジェネレータと、
前記モータジェネレータを制御する第1インバータと、
前記モータジェネレータにより発電された電力で駆動される走行電動モータと、
前記第1インバータにDCバスを介して接続され、前記走行電動モータの出力トルクを制御する第2インバータと、
前記DCバスの電圧を制御するコントローラと
を備えた作業車両において、
前記コントローラは、
アクセル信号、ブレーキ信号、前後進レバー信号、車体速度信号を入力し、前記走行電動モータの出力トルク指令を演算する走行モータトルク指令生成部と、
前記DCバスの電圧を入力し、前記DCバスの電圧の大きさに応じたトルク指令ゲインを演算するトルク指令ゲイン生成部と、
前記走行電動モータのトルク指令に前記トルク指令ゲインを乗じて前記走行電動モータのトルク指令を補正し、この補正した走行電動モータのトルク指令を前記第2インバータに出力する走行モータトルク指令補正部とを有し、
前記コントローラは、前記トルク指令ゲイン生成部において、前記DCバスの電圧の大きさに応じたトルク指令ゲインを演算し、前記モータトルク指令補正部において、前記走行電動モータのトルク指令を補正し、この補正した走行電動モータのトルク指令を前記第2インバータに出力することにより、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを減少させ ることを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置に積荷を積載して走行する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題、原油高騰などの点から、各工業製品に対して省エネ志向が強まっている。これまでディーゼルエンジンによる油圧駆動システムが中心であった建設車両、および作業車両においても電動化による高効率化、省エネルギー化が進んでいる。その一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1は、ダンプトラックの走行部分を電動化した場合のものであり、ディーゼルエンジンで交流発電機を駆動し、発電された電力により走行電動モータを駆動してトルクを発生させ、車両を走行させる走行駆動システムを開示している。また、この従来技術では、交流発電機のインバータと走行電動モータのインバータ間のDCバス部分にバッテリーが接続されていない構成とされている。
【0004】
また、特許文献2は、車載回転機の制御装置において、第1のモータジェネレータ(交流発電機)のパワーの変化量及び第2のモータジェネレータ(走行電動モータ)のパワーの変化量がお互いにバランスする方向に第1の指令トルク及び第2の指令トルクを補正するトルク相互補正処理を行うことを記載している。また、この従来技術では、第1のモータジェネレータのインバータと第2のモータジェネレータ用のインバータ間のDCバス部分にバッテリーが並列接続されており(バッテリーは変換器を介して接続される場合がある)、これにより負荷急変時に発生するバッテリーへの大きな電力収受を抑制し、バッテリーの劣化を防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-313992号公報
【文献】特開2014-210569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の従来技術では、第1のモータジェネレータと第2のモータジェネレータ間の相互トルク補正処理が行われるため、バッテリーへの電力収受量は軽減されるものの、DCバス部分の電圧はバッテリーへの電力収受によって管理される。このため、第2のモータジェネレータ(走行電動モータ)の負荷急変時にDCバス電圧がインバータの動作電圧を下回ることが回避され、インバータが機能しなくなり、インバータの動作が停止してしまう事態は発生しない。
【0007】
一方、特許文献1に記載のように、DCバスにバッテリーが接続されていない電気駆動システム(本願が対象とするシステム)では、負荷急変時にDCバスの電圧(DCバス電圧)が大きく変動してしまうことが考えられる。例えば、走行電動モータの負荷が増加する場合にはDCバス電圧が低下することが考えられる。このようにDCバス電圧がインバータの動作電圧を下回った場合には、インバータが機能しなくなり、インバータの動作が停止してしまうことが考えられる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、DCバスにバッテリーが接続されていない電気駆動システムにおいて、走行電動モータの負荷が急に増加した場合においても、DCバス電圧がインバータの動作電圧以下に低下し、インバータの動作が停止することを回避することができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、エンジンと、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダと、前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って動かされる作業装置と、前記エンジンにより回転され発電されるモータジェネレータと、前記モータジェネレータを制御する第1インバータと、前記モータジェネレータにより発電された電力で駆動される走行電動モータと、前記第1インバータにDCバスを介して接続され、前記走行電動モータの出力トルクを制御する第2インバータと、前記DCバスの電圧を制御するコントローラとを備えた作業車両において、以下の構成のいずれかを採用する。
1.前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを前記走行電動モータの出力トルクを前記DCバスの電圧の低下量に応じて減少させ、前記DCバスの電圧が前記第1の閾値よりも低い第2の閾値を超えて低下した場合には、前記走行電動モータの出力トルクをゼロに減少させる構成とする。
2.前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを前記走行電動モータの出力トルクを前記DCバスの電圧の低下量に応じて減少させ、前記DCバスの電圧が前記第1の閾値よりも低い第2の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを作業車両が平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値に減少させる構成とする。
3.前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値まで低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを、ゼロに減少させる構成とする。
4.前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値まで低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを作業車両が平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値に減少させる構成とする。
5.前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値まで低下した場合に、前記DCバスの電圧の変化率が予め設定した値以下であるときは、前記走行電動モータの出力トルクを前記DCバスの電圧の低下量に応じて減少させ、前記DCバスの電圧の変化率が前記予め設定した値よりも大きいときは、前記走行電動モータの出力トルクを、ゼロ又は作業車両が平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値に減少させる構成とする。
6.前記コントローラは、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを減少させ、前記DCバスの電圧が前記第1の閾値を超えて低下し、前記走行電動モータの出力トルクが最小値に低減した後、前記DCバスの電圧が回復するとき、前記走行電動モータの出力トルクが増加し始めるタイミングが遅くなるようヒステリシスの特性を持たせた構成とする。
7.前記コントローラは、アクセル信号、ブレーキ信号、前後進レバー信号、車体速度信号を入力し、前記走行電動モータの出力トルク指令を演算する走行モータトルク指令生成部と、前記DCバスの電圧を入力し、前記DCバスの電圧の大きさに応じたトルク指令ゲインを演算するトルク指令ゲイン生成部と、前記走行電動モータのトルク指令に前記トルク指令ゲインを乗じて前記走行電動モータのトルク指令を補正し、この補正した走行電動モータのトルク指令を前記第2インバータに出力する走行モータトルク指令補正部とを有し、前記コントローラは、前記トルク指令ゲイン生成部において、前記DCバスの電圧の大きさに応じたトルク指令ゲインを演算し、前記モータトルク指令補正部において、前記走行電動モータのトルク指令を補正し、この補正した走行電動モータのトルク指令を前記第2インバータに出力することにより、前記走行電動モータの負荷の増大に伴って前記DCバスの電圧が第1の閾値を超えて低下した場合に、前記走行電動モータの出力トルクを減少させる構成とする。
【0010】
このようにDCバスの電圧を制御するコントローラを構成することにより走行電動モータの負荷が急に増加した場合に走行電動モータを停止させることなく、作業車両による作業を継続することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、DCバスにバッテリーが接続されていない電気駆動システムにおいて、走行電動モータの負荷が急に増加した場合においても、DCバス電圧がインバータの動作電圧以下に低下し、インバータの動作が停止することを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の作業車両の一例であるホイールローダの外観を示す図である。
図2】ホイールローダの走行装置と、作業装置の駆動システム及び走行装置の駆動システムを示す図である。
図3】比較例として、従来のホイールローダの走行装置の駆動システムを示す図である。
図4】本実施の形態における走行装置の駆動システムの構成を示す図である。
図5】M/G用インバータによって実施するDCバスの電圧制御の制御ブロックを示す。
図6】ホイールローダの基本的動作であるV字掘削動作の概要を示す図である。
図7】本発明の第1実施の形態におけるDCバス電圧低下防止装置の構成を示す図である。
図8】DCバス電圧低下防止装置の動作を示すフローチャートである。
図9】本発明の他の実施の形態の作業車両における走行装置の駆動システムを示す図である。
図10】DCバス電圧低下防止装置のトルク指令ゲイン生成部の変形例を示す図である。
図11】DCバス電圧低下防止装置のトルク指令ゲイン生成部の他の変形例を示す図である。
図12】DCバス電圧低下防止装置のトルク指令ゲイン生成部の更に他の変形例を示す図である。
図13】DCバス電圧低下防止装置のトルク指令ゲイン生成部の更に変形例を示す図である。
図14】DCバス電圧低下防止装置のトルク指令ゲイン生成部の更に変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0014】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態による作業車両を図1図8を用いて説明する。
【0015】
~構成~
図1は、本発明の作業車両の一例であるホイールローダの外観を示す図である。
【0016】
図1において、ホイールローダは、車体51と、この車体51の前部に上下方向に揺動自在に取り付けられた作業装置52とを備えている。車体51は、前輪(タイヤ)53a及び後輪(タイヤ)53bを含む走行装置54と、運転室55と、エンジン室56等を備えている。
【0017】
作業装置52は、左右一対のリフトアーム58とバケット59を有し、左右一対のリフトアーム58は車体51の前部に上下方向に回動可能に取り付けられ、バケット59はリフトアーム58の先端部分に上下方向に回動自在に取り付けられている。左右一対のリフトアーム58と車体51との間に左右一対のリフトアームシリンダ60が取り付けられ、リフトアームシリンダ60は、油圧ポンプ4(図2参照)からの圧油により駆動され、リフトアーム58を車体51に対して上下方向に駆動する。バケット59は、車体51に取り付けられたバケットシリンダ61にベルクランク62を介してリンク結合され、バケットシリンダ61の伸縮によりベルクランク62が回動し、バケット59の向きが上下する。バケットシリンダ61は油圧ポンプ4(図2参照)からの圧油により駆動される。
【0018】
図2は、ホイールローダの走行装置54と、作業装置52の駆動システム及び走行装置54の駆動システムを示す図である。
【0019】
図2において、走行装置54は、上述した前輪(タイヤ)53a及び後輪(タイヤ)53bと、デファレンシャルギヤを介して前輪53aに回転動力を伝える前輪プロペラシャフト8aと、デファレンシャルギヤを介して後輪53bに回転動力を伝達する後輪プロペラシャフト8bとを有している。
【0020】
また、図2において、符号100は作業装置52の駆動システムであり、符号110は走行装置54の駆動システムである。
【0021】
作業装置52の駆動システム100は、エンジン1により駆動される油圧ポンプ4と、上述したリフトアームシリンダ60及びバケットシリンダ61と、ステアリングシリンダ64と、油圧ポンプ4からリフトアームシリンダ60、バケットシリンダ61及びステアリングシリンダ64に供給される圧油を制御するためのコントロールバルブ65と、リフトアームシリンダ60及びバケットシリンダ61を駆動するための操作信号を生成し、コントロールバルブ65内の対応するスプールを切り換える操作レバー装置66,67と、ステアリングシリンダ64を駆動するための操作信号を生成し、コントロールバルブ65内のステアリングバルブを切り換えるステアリングホイール(図示せず)とを有している。
【0022】
走行装置54の駆動システム110は、エンジン1の出力軸に連結され、エンジン1の回転軸に直結され、エンジン1により回転されて発電を行うM/G(モータジェネレータ)6と、M/G6を制御するM/G用インバータ7(第1インバータ)と、M/G(モータジェネレータ)6からの電力で駆動され、走行装置54のプロペラシャフト8a,8bを回転駆動する走行電動モータ9と、M/G用インバータ7にDCバス(直流バス)130を介して接続され、走行電動モータ9を制御する走行モータ用インバータ10(第2インバータ)と、システム全体を統括制御する車両制御装置15とを備えている。
【0023】
以上のように作業装置52の駆動システム100は油圧駆動システムとして構成され、作業装置52はエンジン1により油圧駆動される。また、走行装置54の駆動システム110は電気駆動システムとして構成され、走行装置54はエンジン1により電気駆動される。共通の駆動源であるエンジン1はディーゼルエンジンである。
【0024】
また、走行装置54の駆動システム110は、アクセルペダル140の操作量を検出してアクセル信号を生成するアクセルセンサ140aと、ブレーキペダル142の操作量を検出してブレーキ信号を生成するブレーキセンサ142aと、前後進(FNR)レバー144の操作位置を検出して前後進レバー信号(FNR信号)を生成するFNR位置センサ144aと、走行電動モータ9の回転数(車体速度)を検出して車体速度信号を生成する速度センサ18とを備え、車両制御装置15にアクセル信号、ブレーキ信号、FNR信号、車体速度信号が入力される。また、車両制御装置15には、M/G用インバータ7からCAN通信により(図4参照)内部信号としてDCバス電圧Vdc信号が入力される。車両制御装置15はそれらの信号に基づいて所定の演算処理を行い、駆動システム110を統括制御する。
【0025】
図3は、比較例として、従来のホイールローダの走行装置の駆動システムを示す図であり、図2に示す要素と同じものには同じ符号を付している。
【0026】
図3において、従来の走行装置の駆動システムは、エンジン1にトルクコンバータ(トルコン)2とトランスミッション(T/M)3を連結し、エンジン1の動力をトルクコンバータ(トルコン)2及びトランスミッション(T/M)3を介して前輪53a及び後輪53bに伝えて走行を行う。また、油圧ポンプ4からの圧油によってリフトアームシリンダ60及びバケットシリンダ61を駆動することで、リフトアーム58及びバケット59を駆動し、土砂等を掘削・運搬する。
【0027】
図2に示す本実施の形態における走行装置の駆動システム110では、図3の従来機(トルコン機)と同様に、油圧ポンプ4からの圧油により作業装置5を油圧駆動し、土砂などの掘削作業を行う。それに対して、車両の走行動作は、エンジン1の動力によりM/G6で発電した電力を利用し、走行電動モータ9を駆動することにより行う。本実施の形態で対象としている駆動システムでは、M/G6に接続されたバッテリーや電気2重層キャパシタ等の蓄電デバイスを搭載していないことが特徴であり、そのためM/G用インバータ7によってDCバス130の電圧の制御を行う(後述)。
【0028】
図3に示す従来の走行装置の駆動システムにおいて、トルクコンバータ2の動力伝達効率は電気駆動による動力伝達効率より劣る。本実施の形態では、走行装置の駆動システム110を図2に示すように電動化することにより、エンジン1からの動力伝達効率を向上させることができる。また、ホイールローダの作業では頻繁に発進・停止の走行動作が繰り返されるため、走行装置を電動化した場合には走行電動モータ9から制動時の回生電力の回収が見込めるようになり、エンジン1の燃料消費量を低減することができる。
【0029】
図4は、本実施の形態における走行装置54の駆動システム110の構成を示す図である。この駆動システム110では、ディーゼルエンジン1でM/G6を回転駆動し、発電を行う。さらにその電力を用いて走行電動モータ9にトルクを発生させ、プロペラシャフト8a,8bを回転駆動する。
【0030】
ここで、プロペラシャフト8a,8bに接続されるデファレンシャルギヤに動力を伝達するとき、M/G用インバータ7と走行モータ用インバータ10間のDCバス130の電圧を所定の値に制御して、M/G6の発電電力と走行電動モータ9の消費電力を等しくして両者間の電力のバランスをとる必要がある。本実施の形態における駆動システム110では蓄電デバイスを有していないため、発電を行っているM/G6のインバータ7によってDCバス130の電圧Vdcの制御を行う。すなわち、DCバス130のPN間に接続されている平滑コンデンサ11の充電量を制御し、DCバス130の電圧Vdcを所定の電圧に収束させる。
【0031】
図5にM/G6のインバータ7によって実施するDCバス130の電圧制御の制御ブロックを示す。図5に示すDCバス130の電圧制御では、M/G用インバータ7によってDCバス130の電圧Vdcのフィードバック制御を実施する。なお、このDCバス130の電圧Vdcの制御方法については特に方式は限定されない。本実施の形態では一般的なフィードバック制御の構成として記載している。
【0032】
M/G用インバータ7は、まず、車両制御装置15から入力されるバス電圧指令Vdc*と電圧センサ135によって得られるバス電圧Vdcの検出値との差分を差分器7aにて演算し、その差分(偏差)を比例積分演算等で構成される制御器7bに入力して、M/G6の電流指令Ig*を演算する。さらにM/G6のインナーループの制御系として、電流指令Ig*に対してM/G6の出力電流の検出値Igをフィードバックして、差分器7cにて電流指令Ig*と検出値Igとの偏差を演算し、この偏差を比例積分演算等で構成される制御器7dに入力し、最終的にM/G6のインバータ電圧指令Vinvg*を演算する。M/G用インバータ7は電圧指令Vinvg*に基づいてスイッチングを行い、平滑コンデンサ11の充電量Pgを制御する。
【0033】
このように、発電を行うM/G6のインバータ7においてDCバス130の電圧Vdcが所定の電圧値(バス電圧指令Vdc*)となるように制御を行うことで、走行電動モータ9で消費される負荷パワーに対して正確にM/G6の発電電力を出力することができるようになる。
【0034】
なお、図5に示すDCバス130の電圧制御に関しては、できる限り高い応答特性となるように制御ゲインを設定することが望ましい。インナーループであるM/G6の電流制御系の応答はアウターループのDCバス130の電圧制御系の応答より数倍程度大きくなるように制御ゲインを設定する。
【0035】
以上のようにDCバス130の電圧制御系を構築すると、走行電動モータ9で発揮される車両の駆動に必要な負荷パワーに対して、正確にM/G6の発電電力を出力することができるようになる。ただし、上記で説明したM/G用インバータ7によるDCバス130の電圧制御の応答が、走行電動モータ9の負荷変動に対して時定数が大きい場合などにおいては、M/G6の発電電力Pgと、走行電動モータ9の負荷パワーPm間に差が生じ、その結果、DCバス130の電圧Vdcが大きく変動する可能性がある。例えば、走行電動モータ9の負荷パワーPmがM/G6の発電電力Pgを上回った場合、DCバス130の電圧Vdcは大きく低下する。この電圧Vdcの電圧低下が非常に大きかった場合には、走行モータ用インバータ10が動作しなくなる可能性も考えられる。
【0036】
本実施の形態は、走行電動モータ9の負荷パワーPmがM/G6の発電電力Pgを上回った場合に、DCバス130の電圧Vdcが大きく低下することを防止するものである。
【0037】
まず、本発明で適用対象としているホイールローダの基本的動作について述べる。ホイールローダの最も典型的な基本的動作はV字掘削作業である。このV字掘削作業の概要を図6に示す。図6に示すように、ホイールローダは、まず砂利山などの掘削対象物に対して前進し、掘削対象物に突っ込むような形でバケット59に砂利等の運搬物を積み込む。その後、後進して元の位置に戻り、ステアリングを操作しながら、かつフロントのバケット部分を上昇させながらダンプ等の運搬車両に向かって前進する。そして、運搬車両に運搬物を積み込んだ(バケットから放土した)後は再び後進し、車両は元の位置に戻る。車両は以上のようにV字軌跡を描きながらこの作業を繰り返し行う。
【0038】
前述のV字掘削作業において、走行電動モータ9の負荷パワーPmがM/G6の発電電力Pgを上回り、DCバス130の電圧Vdcが大きく低下する可能性のある動作は以下の2通りが考えられる。
【0039】
まず、1つ目は掘削動作時である。ホイールローダはバケット59に運搬物を積み込む際、オペレータがアクセルペダル140を踏み込んで土砂等の掘削対象物に突っ込む動作となる。さらに、よりバケット59に多くの運搬物を積み込むため、アクセルペダル140を踏み込んで車両の牽引力(走行電動モータ9の出力トルク)を出しながら、バケット59を土砂等に押し込む。このとき、バケット9を押し込みすぎた場合、余剰のトルク分でタイヤがスリップしてしまうことがある。このスリップ現象は余分な動作である一方、オペレータがアクセルペダル140を踏み込んだ状態でタイヤが一瞬加速するため、走行電動モータ9の出力は急峻に増加する。
【0040】
さらにDCバス130の電圧Vdcが大きく低下する可能性のある動作の2つ目はモジュレート動作である。このモジュレート動作とは、前述のV字掘削作業において、バケット59に運搬物を積み込んだ状態で後進し、その後ダンプに積み込む際に再度前進する動作のことを示す。このとき、通常オペレータはアクセルペダル140を踏んだまま、前後進(FNR)レバー144をR(後進)からF(前進)に切替える。よって、車両が後進したあと前進に移る際(前後進を切り換えスイッチバックする際)、後進時には走行電動モータ9は制動状態にあるため、回生動作を行っている。その後、前進動作に移行した際、車両の発進に必要なパワーが急峻に要求される。このとき、DCバス130の電圧Vdcが大きく低下する場合が考えられる。
【0041】
以上説明した2通りの動作が発生した際、M/G用インバータ7では前述にようにDCバス130の電圧Vdcのフィードバック制御を実施しており、電圧Vdcの変化に応じて、所定の電圧値(バス電圧指令Vdc*)に収束するようにM/G6を動作させる。しかしながら、このようなフィードバック制御系は、指令に対する応答速度は数msオーダーで設計することができるが、負荷変化への追従性は指令値応答時定数に比べ、一桁ないしは二桁ほど遅い特性を示す。よって、上記のような掘削動作の際のスリップや、モジュレート動作の際の急発進が発生した場合(走行電動モータ9の負荷変動が生じた場合)、負荷パワーPmがM/G6の発電電力Pgを上回り、DCバス130の電圧Vdcが大きく低下することが考えられる。もしこのとき、DCバス130の電圧Vdcが走行モータ用インバータ10の動作電圧以下に低下した場合、走行モータ用インバータ10から走行電動モータ9への電力供給が行えず、それ以降の掘削作業が困難となってしまう可能性がある。バッテリーや電気2重層キャパシタ等蓄電デバイスがDCバス130に接続されている場合は、電力の不足分を高応答に補うことが可能となるが、本実施の形態で対象とした電気駆動システムでは蓄電デバイスを搭載しないため、過渡的な電力不足の補償は困難となってくる。
【0042】
なお、走行電動モータ9の負荷の増大に伴ってDCバス130の電圧Vdcが大きく低下する場面は、上述した2つの場合(掘削動作の際のスリップやモジュレート動作の際の急発進)に限られない。例えば、アクセルペダル140が操作されていないエンジン1の低回転時は、M/G6の発電量の低下に伴ってDCバス130の電圧Vdcが低下しているため、このような状態からアクセルペダルを踏み込んで走行を開始した場合は、M/G6の発電動作の応答遅れによりDCバス130の電圧Vdcが大きく低下する場合がある。
【0043】
そこで、本実施の形態において、駆動システム110は、上記の課題を解決するため、図4に示す駆動システム110の中で最も高速にトルクを変化させることが可能な走行電動モータ9で走行時の負荷急変を検知し、発電パワー不足によるDCバス130の電圧低下を回避するよう動作する。そのため駆動システム110は、DCバスの電圧を制御するコントローラ16を更に備えている。
【0044】
本実施の形態において、車両制御装置15がコントローラ16を兼ねており、コントローラ16は、走行電動モータ9の負荷の増大に伴ってDCバス130の電圧が第1の閾値V1(後述)を超えて低下した場合に、走行電動モータ9の出力トルクを減少させるDCバス電圧低下防止装置として作用する。本実施の形態では、コントローラ16を車両制御装置15が兼ねる構成としたが、独立したコントローラ16を設けてもよい。また、M/G用インバータ7、あるいは走行モータ用インバータ10の制御部をコントローラ16として用いてもよい。以下、DCバス電圧低下防止装置に符号16を付して更に説明する。
【0045】
図7は、DCバス電圧低下防止装置16の構成を示す図であり、図8は、DCバス電圧低下防止装置16の動作を示すフローチャートである。以下に、DCバス電圧低下防止装置16の構成とその動作について図7図8を用いて説明する。
【0046】
図7に示すように、DCバス電圧低下防止装置16は、走行モータトルク指令生成部16aと、トルク指令ゲイン生成部16bと、走行モータトルク指令補正部(乗算器)16cとを有している。
【0047】
まず、DCバス電圧低下防止装置16は、アクセル信号、ブレーキ信号、FNR信号、車体速度信号を入力し(S99)、走行モータトルク指令生成部16aにおいて、走行電動モータ9のトルク指令を演算する(S100)。DCバス電圧低下防止装置16は、このトルク指令に対して、DCバス130の電圧Vdcの変化に応じて補正をかける。すなわち、DCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧Vdc信号を入力し(S101)、トルク指令ゲイン生成部16bにおいて、DCバス130の電圧Vdcの大きさに応じたトルク指令ゲインを演算し(S102~S106)、走行モータトルク指令補正部16cにおいて、走行電動モータ9のトルク指令にトルク指令ゲインを乗じて走行電動モータ9のトルク指令を補正し、この補正した走行電動モータ9のトルク指令を走行モータ用インバータ10に出力する(S107)。なお、図示はしないが、コントローラ16は、アクセルペダル140の操作量を検出するアクセルセンサ140aのアクセル信号、或いは走行モータトルク指令補正部16cにおいて生成された走行電動モータ9のトルク指令に基づいてエンジン1の目標回転数を設定し、エンジン1の制御部はその目標回転数に基づいてエンジン1の回転数とトルクを制御する。
【0048】
ここで、トルク指令ゲイン生成部16bは、トルク指令ゲイン生成部16bの枠内に示されるような指令ゲインの特性を有している。この特性の横軸はDCバス130の電圧Vdcであり、縦軸はトルク指令ゲインである。DCバス130の電圧Vdcの大きさが第1の閾値V1より大きいとき、生成されるトルク指令ゲインは1であり(トルク指令ゲインの低減なし)、DCバス130の電圧Vdcが第1の閾値V1を超えて低下しかつ第2の閾値V2より大きいとき、DCバス130の電圧Vdcが低下するにしたがって小さくなる(図示の例では直線的に小さくなる)1よりも小さいトルク指令ゲインを生成し(トルク指令ゲインを低減し)、DCバス130の電圧Vdcが第2の閾値V2を超えて低下するときには、トルク指令ゲインがゼロとなるようにトルク指令ゲインの特性が設定されている。
【0049】
その結果、トルク指令ゲイン生成部16bは、S102の判断部において、DCバス130の電圧Vdcの大きさが第1の閾値V1より大きいと判断した場合は、S103において、トルク指令ゲイン1を生成する(トルク指令ゲインの低減なし)。このとき、走行モータトルク指令補正部16cは、S107において、走行モータトルク指令生成部16aからの走行電動モータ9のトルク指令にトルク指令ゲインを乗じるが、トルク指令ゲインは1であるため、処理後の走行モータトルク指令は処理前と変わらない。
【0050】
次に、トルク指令ゲイン生成部16bは、S104の判断部において、DCバス130の電圧Vdcが第1の閾値V1を下回り、かつ第2の閾値V2より大きいと判断した場合、S105において、DCバス130の電圧Vdcの大きさに応じた、1より小さいトルク指令ゲインを生成し(トルク指令ゲインを低減し)、走行モータトルク指令補正部16cは、S107において、走行モータトルク指令生成部16aからの走行電動モータ9のトルク指令に1より小さいゲインを乗じ、DCバス130の電圧Vdcの低下に応じて減少するよう走行電動モータ9のトルク指令を補正する。さらに、トルク指令ゲイン生成部16bは、S104の判断部において、DCバス130の電圧Vdcが第2の閾値V2よりも低下したと判断した際には、S106において、トルク指令ゲインをゼロとし、走行モータトルク指令補正部16cは、S107において、走行モータトルク指令生成部16aからの走行電動モータ9のトルク指令にゼロを乗じ、補正後のトルク指令をゼロとする。
【0051】
ここで、第1の閾値V1は、例えば、予めコントローラ16のメモリに記憶され設定された値で、第2の閾値V2より高く、ホイールローダの走行時に使用される電圧より低く設定された所定の電圧値であって、走行モータ用インバータ10が指令値通りのパワーを出すことができる最低の電圧値である。第2の閾値V2は、例えば、予めコントローラ16のメモリに記憶され設定された値であって、走行モータ用インバータ10の動作が停止するDCバス130の電圧V0より高い値に設定されている。
【0052】
以上により、DCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧が第1の閾値V1を超えて低下した場合に、走行電動モータ9の出力トルクを減少させる。
【0053】
また、DCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧が第1の閾値V1を超えて低下した場合に、走行電動モータ9の出力トルクをDCバス130の電圧の低下量に応じて減少させる。
【0054】
更に、DCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧が第1の閾値V1よりも低い第2の閾値V2を超えて低下した場合には、走行電動モータ9の出力トルクをゼロに減少させる。
【0055】
このように構成した本実施の形態においては、DCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧が第1の閾値V1を超えて低下した場合に、走行電動モータ9の出力トルクを減少させるよう制御する。このため、走行電動モータ9の負荷が急に増加した場合においても、DCバス130の電圧が走行モータ用インバータ10の動作電圧以下に低下し、走行モータ用インバータ10の動作が停止すること回避することができる。これにより走行電動モータ9の負荷が急に増加した場合に走行電動モータ9を停止させることなく、掘削作業或いはモジュレート動作を継続することが可能となる。
【0056】
また、DCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧が第1の閾値V1を超えて低下した場合に、走行電動モータ9の出力トルクをDCバス130の電圧の低下量に応じて減少させるため、走行電動モータ9の出力トルク低減を滑らかに行うことができる。
【0057】
更に、DCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧が第1の閾値V1よりも低い第2の閾値V2を超えて低下した場合には、走行電動モータ9の出力トルクをゼロに減少させるため、DCバス130の電圧Vdcを速やかに復帰させることができる。
【0058】
<第2の実施の形態>
図9は、本発明の他の実施の形態の作業車両における走行装置の駆動システムを示す図である。
【0059】
図9において、本実施の形態の走行装置の駆動システム210は、DCバス130のPN間に接続された放電抵抗器12を備えている。
【0060】
走行電動モータ9の負荷パワーPmがM/G6の発電電力Pgを下回った場合には、DCバス130の電圧Vdcは大きく上昇する。本実施の形態においては、DCバス130の電圧Vdcが所定値以上に上昇した際に放電抵抗器12が作動し、DCバス130上の余剰なパワーを消費してDCバス130の電圧Vdcを低下させる。このようにDCバス130の電圧Vdcが上昇した場合に、放電抵抗器12を利用することで、継続して車両の動作を継続することが可能となる。
【0061】
<その他の実施の形態>
図10図11図12及び図13は、その他の実施の形態として、図7に示したDCバス電圧低下防止装置16のトルク指令ゲイン生成部16bにおける変形例を示す図である。
【0062】
上記実施の形態では、トルク指令ゲイン生成部16bは、DCバス130の電圧が第2の閾値V2より低下した際、走行電動モータ9のトルク指令がゼロになるようトルク指令ゲインの特性を設定したが、走行電動モータ9のトルク指令を厳密にゼロとする必要は無い。例えば、図10に示すように、トルク指令ゲイン生成部16b1において、DCバス130の電圧Vdcが第2の閾値V2を超えて低下するときに、ホイールローダが平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値(平地に動き出さない程度の小さな値)になるようにトルク指令ゲインの特性を設定してもよい。これによりDCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧が第1の閾値V1よりも低い第2の閾値V2を超えて低下した場合に、走行電動モータ9の出力トルクをホイールショベル(作業車両)が平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値に減少させるよう制御する。このように制御した場合でも、走行電動モータ9の出力トルクはゼロに近い小さな値になるため、DCバス130の電圧Vdcを速やかに復帰させることができる。
【0063】
また、上記実施の形態では、トルク指令ゲイン生成部16bは、DCバス130の電圧が第1の閾値V1を超えて低下したとき、DCバス130の電圧Vdcが低下するにしたがってトルク指令ゲインを低減するようトルク指令ゲインの特性を設定したが、図11に示すように、トルク指令ゲイン生成部16b2において、DCバス130の電圧Vdcが第1の閾値V1まで低下したときに走行電動モータ9の出力トルクがゼロとなるようトルク指令ゲインの特性を設定してもよい。これによりDCバス電圧低下防止装置16は、DCバス130の電圧が第1の閾値V1まで低下した場合に走行電動モータ9の出力トルクをゼロに減少させる。このように制御することにより、DCバス130の電圧Vdcが低下するとき、その変化の度合いが大きい(変化率が大きい)場合であっても、走行電動モータ9の出力トルクを応答よく低減し、DCバス130の電圧Vdcを速やかに復帰させることができる。
【0064】
なお、このときも図10に示す変形例と同様、図12に示すように、トルク指令ゲイン生成部16b3において、DCバス130の電圧Vdcが第2の閾値V2を超えて低下するときに、ホイールローダが平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値になるようにトルク指令ゲインの特性を設定してもよい。
【0065】
また、DCバス130の電圧が第1の閾値V1まで低下した場合に、バス電圧Vdcの変化の度合いに応じて走行電動モータ9の出力トルクがゼロとなるよう走行電動モータ9の出力トルクを制御してもよい。図13はそのような場合のトルク指令ゲイン生成部16b4の構成を示す図である。
【0066】
図13において、トルク指令ゲイン生成部16b4は、図7に示したトルク指令ゲイン生成部16bと図11に示したトルク指令ゲイン生成部16b2を備え、かつDCバス電圧Vdc変化率演算部16dと、DCバス電圧Vdc変化率判定部16eと、切替器16fとを備えている。
【0067】
DCバス電圧Vdc変化率演算部16dはDCバス130の電圧Vdcの変化率を演算し、DCバス電圧Vdc変化率判定部15eは電圧Vdcの変化率が予め設定した値よりも大きいかどうかを判定する。また、DCバス電圧Vdc変化率判定部16eは、電圧Vdcの変化率が予め設定した値以下であるときは切替器16fを図示上側の接続位置に保持し、電圧Vdcの変化率が予め設定した値よりも大きいときは切替器16fを図示下側の接続位置に切り換える。
【0068】
切替器16fが図示上側の接続位置に保持されているとき、DCバス電圧Vdc信号はトルク指令ゲイン生成部16bにフィードバックスリット入力され、トルク指令ゲイン生成部16bによりトルク指令ゲインが生成され、切替器16fが図示下側の接続位置に切り換えると、DCバス電圧Vdc信号はトルク指令ゲイン生成部16b2に入力され、トルク指令ゲイン生成部16b2によりトルク指令ゲインが生成される。
【0069】
これによりDCバス電圧低下防止装置16は、DCバス電圧Vdcが第1の閾値V1まで低下した場合に、DCバス電圧Vdcの変化率が予め設定した値以下であるときは、走行電動モータ9の出力トルクをDCバス電圧Vdcの低下量に応じて減少させ、DCバス電圧Vdcの変化率が予め設定した値よりも大きい場合は、走行電動モータ9の出力トルクを、ゼロ又はホイールローダが平地にて停止状態を維持する大きさの範囲内の値に減少させる。これによりDCバス130の電圧Vdcが低下するとき、その変化の度合いが小さい(変化率が予め設定した値以下である)ときは、第1の実施の形態のように、走行電動モータ9の出力トルクをDCバス130の電圧の低下量に応じて減少させ、走行電動モータ9の出力トルクの低減を滑らかに行うことができる。また、DCバス130の電圧Vdcの変化の度合いが大きい(予め設定した値よりも変化率が大きい)ときは、走行電動モータの出力トルクを応答よく低減し、DCバス130の電圧Vdcを速やかに復帰させることができる。
【0070】
なお、トルク指令ゲイン生成部16b4は、トルク指令ゲイン生成部16bに代え、図10に示したトルク指令ゲイン生成部16b1を有していてもよいし、トルク指令ゲイン生成部16b2に代え、図12に示したトルク指令ゲイン生成部16b3を有していてもよい。
【0071】
更に、DCバス電圧低下防止装置16は、DCバス電圧Vdcが第1の閾値V1を超えて低下し、走行電動モータ9の出力トルクがゼロ(最小値)に低減した後、DCバス電圧Vdcが回復するとき、走行電動モータ9の出力トルクが増加し始めるタイミングが遅くなるようヒステリシスの特性を持たせるように構成してもよい。図14はそのような場合のトルク指令ゲイン生成部16b5の構成を示す図である。
【0072】
図14において、トルク指令ゲイン生成部16b5は、DCバス130の電圧が第2の閾値V2より低下し、走行電動モータ9のトルク指令をゼロ(最小値)に低減した後、バス電圧Vdcが回復し、トルク指令ゲインを増加させ正常のトルク指令値に回復させるとき、DCバス130の電圧が第2の閾値V2よりも大きい値まで増加したときにトルク指令ゲインが増加し始めるように、トルク指令ゲインにヒステリシスの特性を持たせた構成を有している。これによりバス電圧Vdcの計測誤差による制御の発振を抑え、安定したモータトルク制御を行うことができる。
【0073】
なお、図14の変形例では、図7に示したトルク指令ゲイン生成部16bにヒステリシスの特性を持たせたが、図10図13に示されるトルク指令ゲイン生成部に同様にヒステリシスの特性を持たせてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 エンジン
4 油圧ポンプ
6 モータジェネレータ(M/G)
7 M/G用インバータ(第1インバータ)
8a 前輪プロペラシャフト
8b 後輪プロペラシャフト
9 走行電動モータ
10 走行モータ用インバータ(第2インバータ)
11 平滑コンデンサ
12 放電抵抗器
15 車両制御装置
16 DCバス電圧低下防止装置(コントローラ)
16a 走行モータトルク指令生成部
16b トルク指令ゲイン生成部
16b1,16b2,16b3,16b4,16b5 トルク指令ゲイン生成部
16c 走行モータトルク指令補正部
16d DCバス電圧Vdc変化率演算部
16e DCバス電圧Vdc変化率判定部
16f 切替器
18 速度センサ
51 車体
52 作業装置
54 走行装置
100 作業装置の駆動システム
110 走行装置の駆動システム
130 DCバス(直流バス)
140a アクセルセンサ
142a ブレーキセンサ
144a FNR位置センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14