(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】プラント管理システム及び管理装置
(51)【国際特許分類】
G05B 13/04 20060101AFI20220715BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
G05B13/04
G05B23/02 V
(21)【出願番号】P 2017219077
(22)【出願日】2017-11-14
【審査請求日】2020-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】古市 和也
(72)【発明者】
【氏名】井川 玄
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-202707(JP,A)
【文献】特開平10-210656(JP,A)
【文献】特開平07-281714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/04
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの運転を制御する制御装置と、
前記プラントの運転状況を管理するための情報を提供する管理装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記プラントの運転を制御するための複数の操作量の値を設定する操作量設定部と、
前記プラントの運転状況を示す複数の状態量の値を取得する状態量取得部と、
前記操作量設定部により設定された操作量の値と、前記状態量取得部により取得された状態量の値とを、前記管理装置に送信する送信部と、
を備え、
前記管理装置は、
前記制御装置から、前記操作量の値及び前記状態量の値を取得する取得部と、
複数の操作量の設定値と、前記プラントがそれらの設定値に基づいて運転されたときの複数の状態量の実測値又は推測値とを対応付けて格納したデータベースと、
前記取得部により取得された前記操作量の値及び前記状態量の値と、前記データベースに格納された複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値又は推測値との対応を参照して、前記プラントの所定の状態量の値を改善することが可能な操作量の設定値を判定し、前記制御装置に提示する判定部と、
を備え、
前記プラントの運転状況をシミュレートするためのシミュレータと、
前記制御装置から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値に基づいて、前記シミュレータを学習させる学習装置と、
前記学習装置により学習された前記シミュレータを用いて、前記制御装置から取得されていない操作量の設定値に基づいて前記プラントが運転されたときの状態量の推測値を算出し、前記制御装置から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値に加えて、前記制御装置から取得していない複数の操作量の設定値及び複数の状態量の推測値とを格納した前記データベースを生成するデータベース生成装置と、
を更に備え
、
前記判定部は、複数の前記操作量のうち設定値を変更せずに固定したい操作量をオペレータから受け付け、それらの値と前記状態量の値とをキーとして前記データベースを検索し、それらの値に対応付けられた前記所定の状態量の値が改善されているレコードを抽出し、抽出されたレコードに格納された操作量の設定値を推奨値とする
ことを特徴とするプラント管理システム。
【請求項2】
前記管理装置は、前記データベース生成装置により生成されたデータベースを所定のタイミングで取得して、前記データベースを更新することを特徴とする請求項1に記載のプラント管理システム。
【請求項3】
プラントの運転を制御する制御装置から、前記プラントの運転を制御するための複数の操作量の値と、前記プラントの運転状況を示す状態量の値を取得する取得部と、
複数の操作量の設定値と、前記プラントがそれらの設定値に基づいて運転されたときの複数の状態量の実測値又は推測値とを対応付けて格納したデータベースと、
前記取得部により取得された前記操作量の値及び前記状態量の値と、前記データベースに格納された複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値又は推測値との対応を参照して、前記プラントの所定の状態量の値を改善することが可能な操作量の設定値を判定し、前記制御装置に提示する判定部と、
を備え、
前記データベースは、前記制御装置から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値に基づいて学習された、前記プラントの運転状況をシミュレートするためのシミュレータを用いて算出された、前記制御装置から取得されていない操作量の設定値に基づいて前記プラントが運転されたときの状態量の推測値を含
み、
前記判定部は、複数の前記操作量のうち設定値を変更せずに固定したい操作量をオペレータから受け付け、それらの値と前記状態量の値とをキーとして前記データベースを検索し、それらの値に対応付けられた前記所定の状態量の値が改善されているレコードを抽出し、抽出されたレコードに格納された操作量の設定値を推奨値とする
ことを特徴とする管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの運転状況を管理するためのプラント管理システム、及びそのプラント管理システムに利用可能な管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学製品や工業製品などを生産するためのプラントにおいては、熟練したオペレータが多数の操作量を逐次設定することにより運転を制御している。しかし、刻々と変化しうる運転状況を的確に把握し、操作量の変更により各種の状態量がどのように変化するかを予測しながら、多数の操作量を操作することにより運転状況を所望の目標に近づけるのは容易ではない。
【0003】
このようなプラントにおける複雑なプロセスをシミュレートするために、実際にプラントを運転させたときの各種の操作量や状態量などを用いて強化学習を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、様々なプラントにおいて、プラントの運転を適切に支援するために、追加のハードウェア資源のコストや処理負荷の増大などを抑えつつ、プラントの運転状況を改善するために有用な情報を提供することが可能な技術が必要とされていることを課題として認識した。
【0006】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、プラントの運転を適切に支援する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のプラント管理システムは、プラントの運転を制御する制御装置と、プラントの運転状況を管理するための情報を提供する管理装置と、を備える。制御装置は、プラントの運転を制御するための複数の操作量の値を設定する操作量設定部と、プラントの運転状況を示す複数の状態量の値を取得する状態量取得部と、操作量設定部により設定された操作量の値と、状態量取得部により取得された状態量の値とを、管理装置に送信する送信部と、を備える。管理装置は、制御装置から、操作量の値及び状態量の値を取得する取得部と、複数の操作量の設定値と、プラントがそれらの設定値に基づいて運転されたときの複数の状態量の実測値又は推測値とを対応付けて格納したデータベースと、取得部により取得された操作量の値及び状態量の値と、データベースに格納された複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値又は推測値との対応を参照して、プラントの所定の状態量の値を改善することが可能な操作量の設定値を判定し、制御装置に提示する判定部と、を備える。
【0008】
プラントの運転状況を示す状態量は、プラントの運転条件に関する状態量と、プラントの運転結果に関する状態量を含む。プラントの運転条件に関する状態量は、例えば、原料の性状、気温や湿度などの気象条件などを含む。プラントの運転結果に関する状態量は、例えば、製品の量、収率、組成、純度などを含む。
【0009】
この態様によると、簡易な構成により、高い精度で推奨値を判定することができる。したがって、追加のハードウェア資源のコストや処理負荷の増大などを抑えつつ、プラントの運転状況を改善するための推奨値を提示することができるので、プラントの運転を適切に支援することができる。
【0010】
このプラント管理システムは、プラントの運転状況をシミュレートするためのシミュレータと、制御装置から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値に基づいて、シミュレータを学習させる学習装置と、学習装置により学習されたシミュレータを用いて、制御装置から取得されていない操作量の設定値に基づいてプラントが運転されたときの状態量の推測値を算出し、制御装置から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値に加えて、制御装置から取得していない複数の操作量の設定値及び複数の状態量の推測値とを格納したデータベースを生成するデータベース生成装置と、を更に備えてもよい。
【0011】
この態様によると、実測値に基づいてシミュレータを学習させて精度を向上させることができるとともに、よりきめ細かいデータを格納したデータベースを生成することができるので、より高い精度で推奨値を判定することができ、プラントの運転を適切に支援することができる。また、多数の実績データがまだ蓄積されていないプラントであっても、推奨値の判定に必要な量のデータを補間するので、高い精度で推奨値を判定することができ、プラントの運転を適切に支援することができる。
【0012】
管理装置は、データベース生成装置により生成されたデータベースを所定のタイミングで取得して、データベースを更新してもよい。
【0013】
この態様によると、更に精度の向上したデータベースを随時取得して更新するので、より高い精度で推奨値を判定することができ、プラントの運転を適切に支援することができる。
【0014】
本発明の別の態様は、管理装置である。この装置は、プラントの運転を制御する制御装置から、プラントの運転を制御するための複数の操作量の値と、プラントの運転状況を示す状態量の値を取得する取得部と、複数の操作量の設定値と、プラントがそれらの設定値に基づいて運転されたときの複数の状態量の実測値又は推測値とを対応付けて格納したデータベースと、取得部により取得された操作量の値及び状態量の値と、データベースに格納された複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値又は推測値との対応を参照して、プラントの所定の状態量の値を改善することが可能な操作量の設定値を判定し、制御装置に提示する判定部と、を備える。
【0015】
この態様によると、簡易な構成により、高い精度で推奨値を判定することができる。また、追加のハードウェア資源のコストや処理負荷の増大などを抑えつつ、プラントの運転状況を改善するための推奨値を提示することができるので、プラントの運転を適切に支援することができる。
【0016】
データベースは、制御装置から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値に基づいて学習された、プラントの運転状況をシミュレートするためのシミュレータを用いて算出された、制御装置から取得されていない操作量の設定値に基づいてプラントが運転されたときの状態量の推測値を含んでもよい。
【0017】
この態様によると、また、多数の実績データがまだ蓄積されていないプラントであっても、推奨値の判定に必要な量のデータを補間するので、高い精度で推奨値を判定することができ、プラントの運転を適切に支援することができる。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、プラント管理システムである。このプラント管理システムは、プラントの運転状況をシミュレートするためのシミュレータと、プラントの運転を制御する制御装置から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値に基づいて、シミュレータを学習させる学習装置と、学習装置により学習されたシミュレータを用いて、制御装置から取得されていない操作量の設定値に基づいてプラントが運転されたときの状態量の推測値を算出し、制御装置から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値と、制御装置から取得していない複数の操作量の設定値及び複数の状態量の推測値とを格納したデータベースを生成するデータベース生成装置と、備える。
【0019】
この態様によると、実測値に基づいてシミュレータを学習させて精度を向上させることができるとともに、よりきめ細かいデータを格納したデータベースを生成することができるので、プラントの運転を適切に支援することができる。
【0020】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プラントの運転を適切に支援する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係るプラント管理システムの全体構成を示す図である。
【
図3】実施の形態に係る制御装置及び管理装置の構成を示す図である。
【
図4】操作パネルの表示装置に表示される表示画面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、実施の形態に係るプラント管理システムの全体構成を示す。プラント管理システム1は、化学製品や工業製品などを生産するためのプラント3と、複数のプラント3の運転を支援する支援システム4とを備える。それぞれのプラント3は、プラント3に設置された反応器や加熱炉などの制御対象装置10と、制御対象装置10の運転を制御する制御装置20と、プラント3の運転状況を管理するための情報を提供する管理装置30とを備える。支援システム4は、プラント3の運転状況をシミュレートするためのシミュレータ6と、プラント3から取得した各種の情報に基づいてシミュレータ6を学習させる学習装置5と、学習装置5により学習されたシミュレータ6を用いて、プラント3の管理装置30が提供する情報を判定するために使用する運転データベースを生成するデータベース生成装置7とを備える。それぞれのプラント3と支援システム4とは、インターネット2により接続されている。
【0024】
図2は、プラントのプロセスフロー図の例を示す。
図2に示したプラント3は、原料油や製品などに含まれる硫黄分を除去するための脱硫プロセスを実行するための加熱炉や反応器などを備える。制御装置20は、オペレータからの指示入力に応じて、加熱炉に供給する燃料の量や、水素化脱硫のための反応器に供給する水素ガスの量などを設定し、プラント3の運転を制御する。オペレータは、製品に含まれる硫黄濃度が目標値よりも低くなるように、原料油の流量、組成、各油種のブレンド割合などの性状などの状態量の値に応じて、反応器における温度、圧力、温度変化、圧力変化などの反応条件や、水素化脱硫のための水素消費量、水素分圧、水素と原料の比などの操作量を設定する。このとき、運転コストや環境負荷などを低減させるために、加熱炉に供給する燃料の量や、水素消費量や、オフガスの量などができる限り低くなるような運転を実現することが望まれる。
【0025】
図1に戻り、シミュレータ6は、プラント3の運転状況を表現するプロセスモデルを用いて、運転条件を表す各種の状態量の値と、制御装置20により設定される各種の操作量の設定値から、プラント3の運転結果を表す各種の状態量の推測値を算出する。プロセスモデルは、各種の制御パラメータを用いて、原料や設備などの運転条件に関する状態量の値及び操作量の設定値と、運転結果に関する状態量の値との関係を定める。
【0026】
学習装置5は、プラント3が実際に運転されたときの実績データとして、複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値をプラント3から取得し、それらの値に基づいてシミュレータ6を学習させる。学習装置5は、取得した運転条件に関する状態量の値及び複数の操作量の設定値をシミュレータ6に入力したときに、取得した運転結果に関する状態量の実測値に近い値が算出されるように、各種の制御パラメータの値を調整する。学習装置5は、上述した特許文献1に記載された技術と同様に、強化学習法を用いてシミュレータ6を学習させてもよいし、任意の既知の技術を用いてシミュレータ6を学習させてもよい。多数の実績データを用いてシミュレータ6を学習させることにより、シミュレータ6の精度を向上させることができるので、より精確にプラント3の運転結果に関する状態量の値を推測することができる。
【0027】
データベース生成装置7は、プラント3から取得されていない操作量の設定値に基づいてプラント3が運転されたときの状態量の推測値をシミュレータ6に算出させる。データベース生成装置7は、プラント3から取得した複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値に加えて、プラント3から取得していない複数の操作量の設定値及び複数の状態量の推測値とを格納した運転データベースを生成する。データベース生成装置7は、プラント3において操作量の設定値が取り得る値の範囲内で、所定の間隔の設定値のレコードが運転データベースに含まれるようにするために、実測値が存在しないレコードについては、シミュレータ6により推測値を算出させて運転データベースに格納する。生成された運転データベースは、後述するように、プラント3において運転を支援するための情報を提供するために使用される。
【0028】
図3は、実施の形態に係る制御装置及び管理装置の構成を示す。制御装置20は、制御部21及び操作パネル22を備える。
【0029】
操作パネル22は、プラント3の運転状況を示す各種の状態量の値と、制御装置20により設定された各種の操作量の設定値を表示装置に表示するとともに、各種の操作量の設定値の入力をオペレータから受け付ける。
【0030】
制御部21は、操作量設定部23、状態量取得部24、及び送信部25を備える。これらの構成は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0031】
操作量設定部23は、操作パネル22によりオペレータから受け付けた各種の操作量の設定値を設定し、制御対象装置10を制御するとともに、操作パネル22の表示装置に表示する。状態量取得部24は、制御対象装置10などに設けられた各種のセンサや測定器などから、プラント3の運転状況を示す各種の状態量の値を取得し、操作パネル22の表示装置に表示する。送信部25は、操作量設定部23により設定された操作量の値と、状態量取得部24により取得された状態量の値とを、管理装置30に送信する。
【0032】
管理装置30は、制御部31及び運転データベース38を備える。運転データベース38は、プラント3における複数の操作量の設定値と、プラント3がそれらの設定値に基づいて運転されたときの複数の状態量の値とを対応付けて格納する。前述したように、複数の状態量の値は、実際にプラント3が運転されたときの実測値と、シミュレータ6により算出された推測値とを含む。
【0033】
制御部31は、実測値取得部32、推奨値判定部33、推奨値提示部34、実測値送信部35、データベース登録部36、及びデータベース更新部37を備える。これらの機能ブロックも、ハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できる。
【0034】
実測値取得部32は、制御装置20の送信部25から、操作量の値及び状態量の値を取得する。推奨値判定部33は、実測値取得部32により取得された操作量の値及び状態量の値と、運転データベース38に格納された複数の操作量の設定値及び複数の状態量の実測値又は推測値との対応を参照して、プラント3の所定の状態量の値を改善することが可能な操作量の設定値を判定して推奨値とする。推奨値提示部34は、推奨値判定部33により判定された推奨値を制御装置20の操作パネル22に提示する。
【0035】
推奨値判定部33は、複数の操作量の設定値のうち、設定を変更せずに固定したい値をオペレータから受け付け、それらの値と原料や設備などに関する状態量の値とをキーとして運転データベース38を検索し、それらの値に対応付けられた製品の硫黄濃度が所定の目標値よりも低いレコードを抽出し、抽出されたレコードに格納された操作量の設定値を推奨値とする。推奨値判定部33は、複数のレコードが抽出された場合は、運転コストや環境負荷などの観点から好適である1以上の操作量の設定値を選択して推奨値とする。例えば、最優先すべき量をオペレータから受け付け、その量の値が最大又は最小となるデータを含むレコードに格納された値を推奨値としてもよい。また、設定された優先順位に基づく重み付けによりスコアを算出し、算出したスコアにより推奨値を評価してもよい。
【0036】
前述したように、運転データベース38には、実際にプラント3が運転されたときの実測値だけでなく、学習装置5により学習されて精度が向上したシミュレータ6により算出された推測値も格納されるので、状態量の値や操作量の設定値が取り得る範囲をよりきめ細かく網羅した運転データベースを提供することができる。したがって、推奨値の判定のたびに運転状況のシミュレーションを実行して推奨値を判定する場合に比べて簡易的でありながら、高い精度で運転状況を改善するための推奨値を判定することができるので、
プラントの運転を適切に支援することができる。また、多数の実績データがまだ蓄積されていないプラント3であっても、精度の高い推奨値の判定に必要な量のデータを補間するので、より高い精度で推奨値を判定することができ、プラントの運転を適切に支援することができる。
【0037】
本発明者らは、プラント3の脱硫装置を運転させ、1時間ごとに測定した実績データを3年間分用意し、その実績データを用いて学習装置5によりシミュレータ6を学習させた。学習させたシミュレータ6を用いて、データベース生成装置7により運転データベース38を生成した。運転データベース38は、8000レコードの実績データと、シミュレータ6により算出した205000レコードの推測データを含む。運転条件に関する状態量の値及び固定すべき操作量の設定値をランダムに100組抽出し、この運転データベース38を用いて、推奨値判定部33により、それぞれの組に対して1以上の推奨値を判定させた。
【0038】
1つだけの操作量の推奨値が提案されたのは450ケースあったが、そのうち、実際に製品の硫黄濃度を下げることが可能な推奨値が提案されたのは382ケースであり、正解率は85%であった。複数の操作量の推奨値が提案されたのは103ケースあったが、そのうち、実際に製品の硫黄濃度を下げることが可能な推奨値が提案されたのは74ケースであり、正解率は72%であった。このように、上記の条件で作成された運転データベースによっても十分高い精度で推奨値を提案することができることが分かったが、更に多数の実績データを用いてシミュレータ6を学習させれば、更に高い精度で推奨値を提案することができると考えられる。
【0039】
実測値送信部35は、実測値取得部32により取得された実績データを支援システム4に送信する。支援システム4の学習装置5は、新たにプラント3から送信された実績データを用いて、シミュレータ6を更に学習させる。実測値送信部35は、オペレータに提示された推奨値をオペレータが採用して操作量の設定値を変更したか否かや、推奨値に変更した場合又は変更しなかった場合のその後の状態量の変化などを更に支援システム4に送信してもよい。この場合、学習装置5は、これらの情報を更に学習に使用してもよい。
【0040】
データベース生成装置7は、所定のタイミングで、更に学習されたシミュレータ6を用いて推測値を算出し、運転データベースを生成する。管理装置30のデータベース更新部37は、所定のタイミングで、運転データベースを支援システム4から取得し、管理装置30の運転データベース38を更新する。これにより、より精度が向上した運転データベース38を随時取得して更新することにより、より高い精度で推奨値を判定することができ、オペレータによるプラント3の制御を適切に支援することができる。なお、プラント3の実績データは、制御装置20から支援システム4に送信されてもよい。
【0041】
データベース登録部36は、実測値取得部32により取得された実績データを運転データベース38に登録する。これにより、データベース更新部37により運転データベース38が更新されるまでの間にも、ローカルで運転データベース38の精度を向上させることができる。データベース登録部36は、推奨値提示部34が制御装置20の操作パネル22に推奨値として提示したものの、オペレータにより採用されなかった推測値を含むレコードを、運転データベース38から削除してもよい。これによっても、ローカルで運転データベース38の精度を向上させることができる。
【0042】
図4は、操作パネルの表示装置に表示される表示画面の例を示す。表示画面には、プラント3のプロセスフロー図と、運転条件に関する状態量の値と、運転結果に関する状態量の値と、複数の操作量の設定値が表示されている。オペレータが、固定を希望する操作量の設定値と、変更可能な操作量の設定値を設定すると、推奨値判定部33は、固定する操作量の設定値と、目標とする状態量の値とを含み、運転コストや環境負荷などの観点から最適な運転状況を実現可能な操作量の設定値を推奨値として判定する。推奨値提示部34は、判定された推奨値を表示画面に表示する。また、推奨値提示部34は、判定された推奨値に操作量の設定値を変更した場合と変更しなかった場合のプラント3の運転結果を示す状態量の時間変化を示すグラフを表示画面に表示する。推奨値提示部34は、推奨値を表示画面に表示する際に、その推奨値が実測値に対応するものであるか推測値に対応するものであるかを識別可能に表示してもよい。オペレータは、提示された推奨値を参考にして、操作量の設定値を決定し、操作パネル22に入力する。操作量設定部23は、入力された設定値に基づいて制御対象装置10を制御する。
【0043】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0044】
上述の実施形態では、脱硫プロセスを例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は脱硫プロセスを実行するプラントに限定されず、例えば、原油精製、化学製品製造、工業製品製造などのためのプラントにも適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 プラント管理システム、3 プラント、4 支援システム、5 学習装置、6 シミュレータ、7 データベース生成装置、10 制御対象装置、20 制御装置、21 制御部、22 操作パネル、23 操作量設定部、24 状態量取得部、25 送信部、30 管理装置、31 制御部、32 実測値取得部、33 推奨値判定部、34 推奨値提示部、35 実測値送信部、36 データベース登録部、37 データベース更新部、38 運転データベース。