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▶ マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/04 20060101AFI20220715BHJP
   F28F 19/02 20060101ALI20220715BHJP
   C23C 22/56 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
F28F19/04 Z
F28F19/02 501C
C23C22/56
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018075855
(22)【出願日】2018-04-11
(65)【公開番号】P2018185133
(43)【公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】10 2017 206 940.6
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エングラート ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ゲバウエル トーマス
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-071557(JP,A)
【文献】国際公開第2011/002040(WO,A1)
【文献】特開2003-313678(JP,A)
【文献】特表2001-507755(JP,A)
【文献】特表2010-535324(JP,A)
【文献】特開平05-171459(JP,A)
【文献】特開2007-100186(JP,A)
【文献】特開2007-262577(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0126419(US,A1)
【文献】米国特許第4292095(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/04
F28F 19/02
C23C 22/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水ベースの冷却液が流通し得る軽金属ベースの少なくとも1つの冷却管を備えた熱交換器を製造するための方法であって、
上記冷却液と接触する上記冷却管の表面の少なくとも一部を、上記冷却液で満たされる前に不活性化し、
上記表面の上記不活性化を、硫酸水溶液または有機酸溶液をベースとする不活性溶液を用いた化学処理によって実行し、
上記不活性溶液は、少なくとも0.1~1重量%のセバシン酸、および/または少なくとも0.05~0.5重量%のトリエタノールアミンを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記不活性化を、上記冷却液の導電率が動作中に100μS/cm以上増大しないように実行する
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項またはにおいて、
上記不活性溶液は、該不活性溶液の0.005~10重量%を占める少なくとも1つの腐食防止剤を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項において、
上記少なくとも1つの腐食防止剤を、ピロカテコール-3,5-ジスルホン酸二ナトリウム塩、ジエチレントリアミン-ペンタ-酢酸、8-ヒドロキシ-(7)-ヨード-キノリンスルホン酸-(5)、8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸、マンニトール、5-スルホサリチル酸、アセト-O-ヒドロキシアミド酸、ノルエピネフリン、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-エチルアミン、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)、3-ヒドロキシ-2-メチル-ピラン-4-オン、クエン酸塩、カルボキシレート、特にシュウ酸塩、ステアリン酸および/またはギ酸および/またはグルコン酸塩のアルカリ塩、ならびに、四ホウ酸ナトリウム、ピロリン酸、グルコン酸カルシウムといった無機防止剤からなる化合物の群から選択する
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項において、
上記熱交換器を、上記不活性化の前に予熱する
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項において、
上記不活性溶液を、不活性化の対象の上記冷却管に導入する前に予熱する
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5または6において、
上記不活性溶液の温度は、不活性化の対象の上記冷却管の温度よりも低い
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項において、
上記冷却管の表面の不活性化が実行される反応時間は、0.5~3時間である
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項において、
不活性化の対象の上記冷却管の表面を、弱アルカリ性溶液を用いたピックリングによって上記不活性化の前に予備処理する
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項において、
不活性化の対象の上記冷却管の表面の第1の上記予備処理のための上記弱アルカリ性溶液は、8~9のpH値を有していて、40~60℃の温度まで加熱される
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項または1において、
不活性化の対象の上記表面を、第1の上記予備処理の後に、硫酸および/またはリン酸の酸混合物を用いたピックリング処理を含む第2の予備処理に供する
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1において、
上記第2の予備処理の上記酸混合物は、95~99重量%の脱イオン水の他に、少なくとも1~5重量%の硫酸および/またはリン酸を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1または1において、
上記酸混合物は、50~1000ppmの遊離フッ化物を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1~1のいずれか1項において、
不活性化の対象の上記冷却管の表面の複数の洗浄サイクルを、各予備処理の後および/または不活性化プロセスの後に、脱イオン水を用いて実行する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に係る、水ベースの冷却液が流通し得る軽金属ベース、好ましくはアルミベースの少なくとも1つの冷却管を備えた熱交換器を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の電動車両では、「主電池」と呼ばれる構成要素を冷却するために熱交換器が用いられ、少なくとも1つの冷却液回路によって主電池の温度を制御可能としている。安全上の理由から、電動車両の冷却液回路中の冷却液や電気車両に必要な熱交換器は、イオン導電性を有していてはならない。主電池の各電池セルにおいて絶縁不良が生じると、危険な量の電気が冷却液回路を介して車両全体に伝わるおそれがある。その影響を受けた表面に誰かが触れると、危険な電気ショックが生じるおそれがある。さらに、水を含むイオン導電性の冷却液の場合、電流の量によっては、加水分解が生じて酸水素ガスが発生するおそれがある。このことは、水素または空気燃料電池などの燃料電池を備えた電動車両に特に当てはまる。また、電動車両では電気モータを冷却する必要もある。これらのために、イオン導電性を有しない冷却液が提供されなければならない。
【0003】
現代の自動車用の熱交換器は、一般に、アルミニウムで作られてろう付けされる。アルミ材料は水と結合して水酸化物含有の不活性化層を形成し、その過程でOHイオンのみでなく金属塩イオンをも冷却液中に放出することが知られている。これらの反応は、最終的に、冷却液中における望ましくない導電率の増大をもたらす。また、アルミろう付けプロセスには、カリウム-アルミニウム-フッ化物の錯塩をフラックスとして使用するものがあり、それによりろう付けプロセス後にろう付け面が平坦に保たれる。それにより、イオンが放出されて水と接触し得る。より高濃度になると、当該フラックスから遊離したフッ化物が冷却液中の添加物を、多量の水酸化アルミニウムが形成される程度まで損ない得る。これらの多量の水酸化アルミニウムは、冷却ダクトや冷却管を狭くし、または完全に詰まらせるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
純水で満たされた場合、アルミから作られたろう付け熱交換器は、少なくとも600μS/cmの導電率を呈する。フラックスと共にろう付けされた熱交換器は、2000μS/cmを上回る導電率を呈し得る。導電率は、種々のフラッシングプロセスによって400~500μS/cmの範囲まで低減可能である。しかしながら、熱交換器を電動車両で使用するためには、100μS/cm以下の導電率が必要である。
【0005】
したがって、本発明は、冷却液と接触し得る熱交換器表面の不活性化が可能となる熱交換器を製造するための方法を示すという課題に関する。当該不活性化は、水を含む冷却液に対する導電率の低減によって特に特徴付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、この課題は、独立請求項の主題によって解決される。有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0007】
本発明は、熱交換器、特に冷却液と接触し得る熱交換器表面を、動作中における冷却液の導電率の増大が少なくとも低減されるように不活性化するという基本思想に基づく。このことは、本発明の方法により、水ベースの冷却液との接触時にごく少量のイオンしか放出しない軽金属ベースの表面が作り出され、よって冷却液の導電率の増大量がわずかになることを意味する。鋭意研究の結果、驚くべきことに、ジルコニウムなどのフッ素錯体を形成する金属および腐食防止剤を含む特定の化学物質の混合物を高圧下での温度上昇と組み合わせることで、アルミ表面に今までにない不活性層を作り出せることが明らかになった。この不活性層は、代表的なアプリケーションにおける熱交換器の定常動作中においても非常に安定しているため、脱イオン水の導電率は、70μS/cm以上、好ましくは20μS/cm以上増大しない。
【0008】
以下、熱交換器を製造するための本発明に係る方法の例示的なプロセスについて説明する。ここで、個々の方法ステップは、本発明の範囲において、個別におよび任意の組合せにおいて保護される。
【0009】
熱交換器の不活性化のために、アルミ表面のピックリング予備処理が有利である。ここで、熱交換器は、40~60℃において7.5~12、好ましくは8~9のpH値を有する弱アルカリ性溶液でフラッシュされてもよい。その後、熱交換器は、好ましくは複数回にわたって、脱イオン水でフラッシュされてもよい。その後、脱イオン水で希釈された酸で第2ピックリング処理が続いてもよい。例えば、硫酸とリン酸の混合物が、ピックリング酸性溶液として使用されてもよい。酸は、好ましくは1~5重量%、より好ましくは2~3重量%の濃度で脱イオン水中に存在する。加えて、希釈酸は、50~1000ppmの遊離フッ化物を含んでいてもよい。アルミ表面のピックリング予備処理を完了させるために、好ましくは少なくとも複数のフラッシングサイクルが脱イオン水によって実行されてもよい。その後、ピックリング予備処理に、アルミ表面の実際の不活性化が続く。この目的のために、当該部分は、好ましくは90~120℃に加熱され、そして予熱された不活性流体で満たされる。これについては、後に詳述する。0.5~3時間の反応時間の後、不活性化が完了する。この後、当該部分は、好ましくは少なくとも複数回にわたって、洗浄される。不活性流体は、好ましくは、2~6のpH値を有する硫酸水溶液から構成されていて、好ましくは40~80℃の温度で次の物質が溶けている。不活性流体に溶けているのが好ましい物質は、特に、0.1~1重量%のセバシン酸、20~50重量%の炭酸ジルコニウム、および0.05~0.5重量%のトリエタノールアミンである。また、腐食防止剤が、不活性流体に添加されていてもよい。本発明に係る添加物として用いられる腐食防止剤の好ましい量は、好ましくは0.005~10重量%、より好ましくは0.01~2重量%である。
【0010】
本発明に係る思想の有利な変形例では、不活性化は、冷却液と熱交換器の冷却管との間における導電率が100μS/cm未満、好ましくは50μS/cm未満となるように実行される。
【0011】
別の有利な変形例によると、表面の不活性化は、好ましくは2~6のpH値を有する硫酸水溶液または有機酸溶液に基づいて準備された不活性溶液による化学処理で実行される。
【0012】
有利な実施形態では、不活性溶液は、少なくとも0.1~1重量%のセバシン酸、および/または少なくとも20~50重量%の炭酸ジルコニウム、および/または0.05~0.5重量%のトリエタノールアミンを含む。
【0013】
有利な別の態様では、不活性溶液は、少なくとも1つの腐食防止剤を含む。当該腐食防止剤は、不活性溶液において0.005~10重量%、好ましくは0.01~2重量%を占める。
【0014】
有利な変形例によると、少なくとも1つの腐食防止剤は、次の化合物の群から選択される。すなわち、当該化合物の群は、ピロカテコール-3,5-ジスルホン酸二ナトリウム塩、ジエチレントリアミン-ペンタ-酢酸、8-ヒドロキシ-(7)-ヨード-キノリンスルホン酸-(5)、8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸、マンニトール、5-スルホサリチル酸、アセト-O-ヒドロキシアミド酸、ノルエピネフリン、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-エチルアミン、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)、3-ヒドロキシ-2-メチル-ピラン-4-オン、クエン酸塩、カルボキシレート、特にシュウ酸塩、ステアリン酸および/またはギ酸および/またはグルコン酸塩のアルカリ塩、ならびに、四ホウ酸ナトリウム、ピロリン酸、グルコン酸カルシウムといった無機防止剤を含む。
【0015】
本発明に係る方法の有利な別の態様では、熱交換器、特に不活性化の対象の冷却管は、不活性化に先立って、好ましくは90~120℃まで、予熱される。
【0016】
別の有利な実施形態によると、不活性溶液は、不活性化の対象の冷却管に導入される前に、好ましくは40~80℃まで、予熱される。
【0017】
別の有利な変形例では、不活性溶液の温度は、不活性化の対象の冷却管の温度よりも低く、好ましくは少なくとも40℃低い。
【0018】
別の好適な実施形態によると、冷却管表面の不活性化が実行される反応時間は、0.5~3時間である。留意すべきこととして、反応時間は、本発明の範囲を逸脱することなく、どのような期間であってもよい。不活性化層は、反応時間を3時間よりも長くしてもさらに改善されることは実質的にない。
【0019】
当該方法の有利な別の態様では、不活性化の対象の冷却管表面は、好ましくは7.5~12のpH値を有する弱アルカリ性溶液を用いたピックリングによって、好ましくは不活性化の前に、第1時間にわたって予備処理される。不活性化の対象の表面のピックリング予備処理は、何回繰り返されてもよい。
【0020】
別の有利な変形例によると、不活性化の対象の表面の第1予備処理のための弱アルカリ性溶液は、8~9のpH値を有していて、40~60℃の温度まで加熱される。
【0021】
有利な変形例では、不活性化の対象の表面は、第1予備処理の後に第2予備処理に供される。当該第2予備処理は、硫酸および/またはリン酸の酸混合物を用いたピックリング処理からなる。酸混合物が、アミドスルホン酸を含むことも考えられる。留意すべきこととして、上述したように、本発明によると、不活性化の対象の表面のピックリング処理のために、無機酸に代えて有機酸が使用されてもよい。例えば、クエン酸および/またはギ酸が、有機酸として使用可能である。
【0022】
当該方法の有利な実施形態では、第2予備処理で使用される酸混合物は、95~99重量%の脱イオン水の他に、少なくとも1~5重量%の硫酸および/またはリン酸を含む。有機酸を含む酸混合物において、当該酸混合物は、例えば、上述した脱イオン水中に20~30g/lのクエン酸および/またはギ酸を含むことが好ましい。
【0023】
別の有利な変形例によると、酸混合物は、50~1000ppmの遊離フッ化物を含む。
【0024】
有利な別の態様では、不活性化の対象の冷却管の表面は、各予備処理の後および/または不活性化プロセスの後に、脱イオン水で複数回洗浄される。
【0025】
本発明に係るそのような種類の熱交換器は、少なくとも当該方法にしたがって、および/または上述した方法によって製造される。
【0026】
もちろん、上述した特徴は、記載された組合せにおいてのみでなく、本発明の範囲を逸脱することなく、他の組合せにおいてまたは単独でも利用可能である。