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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】腐食検知用センサ、腐食検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/04 20060101AFI20220715BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALI20220715BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
G01N17/04
G01N33/2045 100
G01N33/38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018126762
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2020008308
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正智
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】井坂 幸俊
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009983(JP,A)
【文献】特開2010-237089(JP,A)
【文献】特開2016-131012(JP,A)
【文献】特開2008-090813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/04
G01N 33/2045
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から視認できない対象空間内における腐食環境の進行状況を検知する方法であって、
向かい合う第一面と第二面とを有した金属対応RFタグと、前記金属対応RFタグの前記第一面上に前記第一面を実質的に覆うように形成された腐食性金属部材とを備えてなる腐食検知用センサを前記対象空間内に配置する工程(a)、
前記金属対応RFタグに対して、前記第二面側に離れた位置にリーダ又はリーダライタを配置する工程(b)、及び
前記リーダ又はリーダライタによって、前記金属対応RFタグから送信される電波信号を受信する工程(c)を有することを特徴とする、腐食検知方法。
【請求項2】
非金属の被覆物によって覆われることで外側から視認できない状態で配置された、金属製の対象物に対する腐食の進行状況を検知する方法であって、
向かい合う第一面と第二面とを有した金属対応RFタグを備えてなる腐食検知用センサを、前記金属対応RFタグの前記第一面を前記対象物に接触させた状態で配置する工程(a)、
前記金属対応RFタグに対して、前記第二面側に離れた位置にリーダ又はリーダライタを配置する工程(b)、及び
前記リーダ又はリーダライタによって、前記金属対応RFタグから送信される電波信号を受信する工程(c)を有することを特徴とする、腐食検知方法。
【請求項3】
前記工程(a)は、前記第一面に対して直交する方向から見たときに、前記金属対応RFタグの周囲を前記対象物が取り囲むように前記腐食検知用センサを配置する工程であることを特徴とする、請求項に記載の腐食検知方法。
【請求項4】
前記対象物が鉄筋コンクリート内の鉄筋であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の腐食検知方法。
【請求項5】
前記工程(c)は、前記金属対応RFタグからの前記電波信号の強度によって、腐食環境の進行状況を検知する工程を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の腐食検知方法。
【請求項6】
前記工程(c)において読み取られた前記電波信号の強度が、所定の閾値を下回っている場合に、腐食環境が進行していると判断する工程(d)を更に有することを特徴とする、請求項に記載の腐食検知方法。
【請求項7】
前記金属対応RFタグは、前記第一面上の一部分に接着された、耐食性を示す故障検知用金属部材を備えることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の腐食検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食検知用センサ、及び腐食検知方法に関する。より詳細には、外部から視認できない空間内又は同空間内に配置された対象物における腐食環境の進行状況を検知する方法、腐食の検知方法、及びこの方法の利用に適したセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物に含まれる鉄筋が腐食すると、コンクリート構造物の耐久性に大きな影響を及ぼす。このため、コンクリート構造物の腐食環境の状況を事前に把握することや、早期に鉄筋の腐食を把握することは重要である。
【0003】
コンクリート構造物中の鋼材は、コンクリートがアルカリ性環境を保持していることで鋼材表面に不動態皮膜が形成されており、この皮膜によって腐食から保護されている。しかしながら、例えば、空気中の二酸化炭素や塩化物イオンなどの腐食因子がコンクリート中に侵入すると、不動態皮膜が破壊され、コンクリート中にある水と酸素によって鋼材の腐食が開始する。
【0004】
コンクリート構造物の鋼材が腐食すると、鋼材の体積膨張が生じ、その膨張圧でコンクリート表面にひび割れが生じる。このようなひび割れが発生すると、ひび割れを通じて更に腐食因子が侵入しやすくなり、腐食環境の進行が加速する。つまり、コンクリート表面にひび割れが確認できる状況においては、既にコンクリート構造物、及びその内部に存在する鉄筋がかなり劣化している場合が想定される。
【0005】
すなわち、コンクリート表面の状態の変化が目視によって確認できる程度に構造物内部の腐食環境や鉄筋腐食が進行する時点よりも前段階で、コンクリート構造物の腐食の進行状況を把握したいという事情がある。コンクリート構造物の腐食環境が進行していることが確認されれば、腐食因子が内部に侵入するのを防ぐ目的で、例えば、コンクリート表面を所定の材料によって被覆する保全作業を行うことができる。
【0006】
従来、分極抵抗を測定することでコンクリート構造物の内部の腐食状態を検知する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-242163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
分極抵抗法の技術を用いて、コンクリート構造物の内部に含まれる鉄筋の腐食状態を検知するためには、対象物となる鉄筋をはつり出す必要がある。すなわち、コンクリート構造物の一部を破壊(微破壊)する必要がある。このため、内部の腐食状態を検知するために必要な作業量が多く、検査作業に時間を要する。
【0009】
また、コンクリート構造物に限らず、内部が視認できない構造物の腐食状態を検知する必要性の生じる場合があり、かかる構造物の配置場所によっては、そもそも破壊のための作業が困難な場合もあり得る。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑み、非破壊且つ簡易な方法で、外部から視認できない対象空間内の腐食環境や腐食状態を検知する方法及びその方法の利用に適したセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る腐食検知用センサは、
外部から視認できない対象空間内における腐食環境の進行状況を検知する腐食検知用センサであって、
向かい合う第一面と第二面とを有した金属対応RFタグと、
前記金属対応RFタグの前記第一面上に、前記第一面を実質的に覆うように形成された腐食性金属部材とを備え、
前記金属対応RFタグの前記第二面をリーダ又はリーダライタに対向させることが可能な態様で埋め込まれて配置されることを第一の特徴とする。
【0012】
この腐食検知用センサは、腐食性金属部材を対象物として模擬することで、外部から視認できない対象空間内の腐食環境の進行状況を検知する用途に利用される。対象空間内に腐食検知用センサを配置し、金属対応RFタグとの間で通信可能なリーダ又はリーダライタによって電波信号を受信することで、腐食環境の進行状況が検知される。
【0013】
なお、本明細書において、「リーダ」とは、金属対応RFタグから送信される電波信号を読み取る機能を備え、金属対応RFタグに対して情報の書き込み機能を備えない機器を指し、「リーダーライタ」とは、金属対応RFタグから送信される電波信号を読み取る機能と共に、金属対応RFタグに対して情報の書き込み機能を備える機器を指す。以下では、煩雑さを避けるために、リーダ又はリーダライタという記載を、「リーダライタ等」と略記することがある。
【0014】
本明細書内において、「金属対応RFタグ」とは、当該金属対応RFタグの、リーダライタ等とは反対側の近傍の位置に金属材料が存在していると、リーダライタ等との間で通信が形成される一方、前記位置に金属材料が存在しない場合には、リーダライタ等に対して送信される信号強度が極めて低下する性質を有するRFタグを指す。
【0015】
簡単のために、腐食性金属部材が金属対応RFタグの第一面上を完全に覆うように形成されている場合を例に挙げて説明する。対象空間内において金属対応RFタグの配置位置近傍までは腐食環境が進行していない場合、金属対応RFタグの第二面側にリーダライタ等を配置すると、金属対応RFタグの第一面上を覆う腐食性金属部材に含まれる金属材料がリーダライタ等とは反対側の位置に存在するため、リーダライタ等と金属対応RFタグとの間で通信環境が形成される。一方、対象空間内において腐食環境がある程度進行している場合には、RFタグの第一面上を覆う腐食性金属部材に対しても腐食が進行する。このとき、腐食性金属部材が金属化合物に変化することで金属成分が消失する。この結果、リーダライタ等は、金属対応RFタグとの間で通信環境が形成されないか、又は、受信された電波信号の強度が低下する。
【0016】
すなわち、リーダライタ等によって受信される電波信号の有無、又は強度によって、対象空間内の腐食環境の進行の有無又はその程度を検知することができる。
【0017】
上述した腐食検知用センサは、金属対応RFタグの一方の面に腐食性金属部材を配置した構成であるため、小型化が可能である。このため、腐食検知用センサを対象空間内の所望の位置に配置できる。例えば、対象空間の外表面に近い位置に腐食検知用センサを配置することで、対象空間内の深い位置まで腐食環境が進行するよりも前段階で、腐食環境の進行の程度を検知できる。また、対象空間内の外表面に対して、深さ方向に異なる位置に複数の腐食検知用センサを配置することで、各腐食検知用センサからの電波信号の強度の相違により、腐食環境の進行状況をより詳細に知ることができる。
【0018】
また、本発明に係る腐食検知用センサは、
非金属の被覆物によって覆われることで外側から視認できない状態で配置された、金属製の対象物に対する腐食の進行状況を検知する腐食検知用センサであって、
向かい合う第一面と第二面とを有した金属対応RFタグを備え、
前記金属対応RFタグの前記第一面を前記対象物に接触させ、前記金属対応RFタグの前記第二面をリーダ又はリーダライタに対向させることが可能な態様で埋め込まれて配置されることを第二の特徴とする。
【0019】
金属製の対象物が配置されている空間内において腐食環境がある程度進行している場合、金属対応RFタグの第一面上に形成された金属製の対象物自体に対しても腐食が進行し、この対象物に含まれる一部又は全部の金属成分が消失する。この結果、リーダライタ等は、金属対応RFタグとの間で通信環境が形成されないか、又は、受信された電波信号の強度が低下する。よって、第一の特徴構成の腐食検知用センサと同様に、リーダライタ等によって受信される電波信号の有無、又は強度によって、対象物自体の腐食開始とその進行、又はその程度を検知することができる。
【0020】
上記対象物としては、例えば鉄筋コンクリート内の鉄筋とすることができる。
【0021】
前記腐食検知用センサは、前記金属対応RFタグの前記第一面上の一部分に接着された、耐食性を示す故障検知用金属部材を備えるものとしても構わない。
【0022】
上述したように、金属対応RFタグの第一面上に存在する腐食性金属部材又は金属製の対象物に対して腐食が進行し、金属材料の残存量が低下すると、リーダライタ等で受信される電波信号の強度が低下する。このため、腐食性金属部材又は対象物の腐食が極めて進行している場合、リーダライタ等において電波信号を全く受信できない場合が考えられる。このような場合、リーダライタ等及び/又は金属対応RFタグが、故障をしているのか、腐食性金属部材又は対象物が完全に滅失する程度にまで腐食が進行しているのかを判定することができない。
【0023】
これに対し、上記のように、金属対応RFタグに故障検知用金属部材を予め接着しておくことで、腐食性金属部材又は金属製の対象物が滅失する程度にまで腐食が進行していた場合においても、故障検知用金属部材が存在することに伴い、リーダライタ等及び/又は金属対応RFタグが故障していなければ、リーダライタ等において所定強度(以下、「最低基準強度」と呼ぶ。)の電波信号を受信することができる。よって、リーダライタ等側で実際に受信された電波信号の強度を、この最低基準強度と比較することで、対象空間又は対象物の腐食の状況を推定できる。また、実際に、リーダライタ等側で電波信号が受信できなかった場合には、リーダライタ等及び/又は金属対応RFタグが故障していることを認識することができる。
【0024】
上記第一の特徴構成に係る腐食検知用センサにおいて、腐食性金属部材は、金属対応RFタグの第一面のうち、80%以上100%以下の面積を覆うように形成されているのが好ましい。なお、この場合において、腐食性金属部材が形成されていない金属対応RFタグの第一面上に、上記故障検知用金属部材が形成されているものとして構わない。また、金属対応RFタグの第一面の一部に故障検知用金属部材を形成し、この故障検知用金属部材と金属対応RFタグの第一面との双方を覆うように腐食性金属部材が形成されていても構わない。
【0025】
リーダライタ等を、対象空間(又は対象物が覆われている空間)の外側に配置する場合には、前記腐食検知用センサは、好ましくは、前記金属対応RFタグの前記第二面を前記対象空間の外表面に対して実質的に対向させた状態で埋め込まれて配置される。電波信号には指向性があるため、かかる向きに配置することで、腐食環境の進行がそれほど進んでいない場合に、リーダライタ等によって電波信号を正しく受信することができる。なお、前記RFタグの前記第一面と前記対象空間の外表面とが「実質的に対向する」とは、前記第一面と前記外表面とのなす角度の絶対値が45°以下であるものとして構わない。前記角度の絶対値は、より好ましくは30°以下であり、更に好ましくは15°以下である。
【0026】
なお、検知対象となる位置が、深さ方向に十分深い場合には、金属対応RFタグと共にリーダライタ等を埋め込むものとしても構わない。この場合には、腐食検知用センサ及び金属対応RFタグは、好ましくは、前記金属対応RFタグの前記第二面を前記金属対応RFタグの外表面に対して実質的に対向させた状態で埋め込まれて配置される。
【0027】
本発明は、外部から視認できない対象空間内における腐食環境の進行状況を検知する方法であって、
向かい合う第一面と第二面とを有した板状の金属対応RFタグと、前記金属対応RFタグの前記第一面上に前記第一面を実質的に覆うように形成された腐食性金属部材とを備えてなる腐食検知用センサを前記対象空間内に配置する工程(a)、
前記金属対応RFタグに対して、前記第二面側に離れた位置にリーダ又はリーダライタを配置する工程(b)、及び
前記リーダ又はリーダライタによって、前記金属対応RFタグから送信される電波信号を受信する工程(c)を有することを特徴とする。
【0028】
また、本発明は、非金属の被覆物によって覆われることで外側から視認できない状態で配置された、金属製の対象物に対する腐食の進行状況を検知する方法であって、
向かい合う第一面と第二面とを有した板状の金属対応RFタグを備えてなる腐食検知用センサを、前記金属対応RFタグの前記第一面を前記対象物に接触させた状態で配置する工程(a)、
前記金属対応RFタグに対して、前記第二面側に離れた位置にリーダ又はリーダライタを配置する工程(b)、及び
前記リーダ又はリーダライタによって、前記金属対応RFタグから送信される電波信号を受信する工程(c)を有することを特徴とする。
【0029】
前記工程(a)において、前記第一面に対して直交する方向から見たときに、前記金属対応RFタグの周囲を前記対象物が取り囲むように前記腐食検知用センサを配置するものとしても構わない。これにより、金属対応RFタグが存在することによって、腐食因子が金属製の対象物に対して進行することへの妨げとなることが防止され、対象物に対する腐食の進行状況の検知精度が高められる。
【0030】
前記工程(c)は、前記金属対応RFタグからの前記電波信号の有無、又は前記金属対応RFタグからの前記電波信号の強度によって、腐食の進行状況を検知する工程を含むことができる。更に、前記腐食検知方法は、前記工程(c)において読み取られた前記電波信号の強度が、所定の閾値を下回っている場合に、腐食が進行していると判断する工程(d)を含むものとしても構わない。
【0031】
なお、リーダライタ等が、金属対応RFタグからの電波信号の有無のみを検知できる構成である場合には、リーダライタ等の配置位置を調整、より詳細には、金属対応RFタグからの離間距離を調整しながら、電波信号の有無を確認することで、電波信号が受信できたリーダライタ等の配置位置によって腐食の進行状況を検知できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、非破壊且つ簡易な方法で、外部から視認できない対象空間内の腐食状態を検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係る腐食(環境)検知方法の第一実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図2】第一実施形態の腐食検知用センサの構造を説明するための模式的な図面である。
図3A】腐食環境が進行している場合の腐食検知用センサの構造を説明するための模式的な図面である。
図3B図3Aの状態から更に腐食環境が進行している場合の腐食検知用センサの構造を説明するための模式的な図面である。
図4】リーダライタの機能ブロック図の一例である。
図5】サーバとの通信が可能なリーダライタの機能ブロック図の一例である。
図6】第一実施形態の腐食検知用センサの別構造を説明するための模式的な図面である。
図7A】金属対応RFタグの一方の面を模式的に示す平面図である。
図7B】金属対応RFタグの一方の面を模式的に示す別の平面図である。
図7C】金属対応RFタグの一方の面を模式的に示す更に別の平面図である。
図8】腐食検知用センサとリーダライタとが埋め込まれている態様を模式的に示す図面である。
図9】本発明に係る腐食検知方法の第二実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図10A】第二実施形態の腐食検知用センサの構造を説明するための模式的な図面である。
図10B】第二実施形態の腐食検知用センサの構造を説明するための模式的な図面である。
図11】腐食が進行している場合の腐食検知用センサの態様を説明するための模式的な図面である。
図12】第二実施形態の腐食検知用センサの構造を説明するための別の模式的な図面である。
図13】腐食検知用センサとリーダライタとが埋め込まれている態様を模式的に示す図面である。
図14】腐食検知用センサとリーダライタとが埋め込まれている態様を模式的に示す図面である。
図15】保護部材としての保護シートを備えた腐食検知用センサの構造を模式的に示す図面である。
図16】保護部材としてのモルタルを備えた腐食検知用センサの構造を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の腐食検知用センサ、及び腐食検知方法の実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の図面において、説明の都合上、一部が誇張して図示されている場合があり、実際の寸法比と図面上の寸法比とは必ずしも一致しない。
【0035】
[第一実施形態]
図1は、本発明に係る腐食検知方法の第一実施形態の態様を模式的に示す図面である。図1に示す例では、腐食(環境)の進行状況を検知する対象空間がコンクリート構造物10の内部である場合を想定している。
【0036】
図1に示すように、コンクリート構造物10の内部(コンクリート部材11内)には、腐食検知用センサ2が配置されている。この腐食検知用センサ2は、コンクリート構造物10の製造時に、予めコンクリート部材11内に埋め込まれるものとしても構わないし、既設のコンクリート構造物10の一部を削り落としてはつり出し、腐食検知用センサ2を埋め込んだ後、非金属材料からなる防護用の部材で埋め戻すものとしても構わない。このように、腐食検知用センサ2を対象空間内に配置する工程が、工程(a)に対応する。
【0037】
図2は、腐食検知用センサ2の構造を説明するための模式的な図面であり、図1の一部拡大図に対応する。腐食検知用センサ2は、向かい合う第一面4aと第二面4bとを有した板状の金属対応RFタグ4と、金属対応RFタグ4の第一面4aを覆うように形成された腐食性金属部材5とを備えてなる。
【0038】
金属対応RFタグ4は、誘導アンテナ(不図示)を内蔵し、所定の周波数帯の無線周波数で通信を行う。金属対応RFタグ4は、信号発信源(ここではリーダライタ3)とは反対側の位置に金属材料物が存在すると、リーダライタ3からの電波信号W1を受信して、電波信号(応答信号)W2を送信することのできるRFタグである。一例として、金属対応RFタグ4は、共振周波数が920MHz、第一面4a及び第二面4bの寸法が25mm×9mm、厚みが3mmの板状型のRFタグである。ただし、本発明において、金属対応RFタグ4は、リーダライタ3とは反対側に金属材料物が存在する場合にリーダライタ3との間で通信環境が形成される限りにおいて、通信周波数帯、寸法、及び形状は任意である。
【0039】
腐食性金属部材5は、耐食性の低い金属材料であり、例えば、鉄、亜鉛、アルミニウムなどの材料が挙げられる。腐食性金属部材5の形状は、箔状が好ましく、箔板、蒸着、又はメッキで形成できる。ただし、本発明において腐食性金属部材5の形状は任意である。腐食性金属部材5は、金属対応RFタグ4の第一面4a上に、例えば接着剤を介して接着されている。腐食性金属部材5の厚みは、一例として、強度の観点から10μm以上であり、早期に検知する観点から500μm以下である。
【0040】
図2に示す例では、腐食検知用センサ2は、金属対応RFタグの第二面4bが、コンクリート構造物10の外表面10aに対して実質的に対向する向きに配置される。
【0041】
作業員は、コンクリート構造物10内における腐食環境の進行状況を検知する際には、コンクリート構造物10に埋め込まれた腐食検知用センサ2との間で無線通信が可能なリーダライタ3を当該コンクリート構造物10の現場に持参する。そして、リーダライタ3を、腐食検知用センサ2が埋め込まれている領域の近傍に配置する(工程(b)に対応)。より詳細には、リーダライタ3を、金属対応RFタグ4に対して、第二面4b側に離れた位置に配置する。なお、リーダライタ3は、作業員が手で把持することで保持しても構わないし、不図示の保持部材によって保持しても構わない。
【0042】
そして、リーダライタ3から所定周波数の電波信号W1を腐食検知用センサ2に向けて放射して、腐食検知用センサ2(より詳細には金属対応RFタグ4)から送信される電波信号W2を受信する(工程(c)に対応)。
【0043】
リーダライタ3は、専用機器であっても構わないし、電波信号W1の送信や電波信号W2の受信が可能な専用アプリケーションプログラムがインストールされた、スマートフォンやタブレットPCなどの汎用機器であっても構わない。なお、本実施形態では、「リーダライタ3」を用いる場合を例として説明するが、少なくとも腐食検知用センサ2との間で通信可能な機器であればよく、すなわち、腐食検知用センサ2に対する情報の書き込み機能を有しない、いわゆる「リーダ」であっても構わない。
【0044】
図2に示すように、腐食検知用センサ2が腐食性金属部材5を備える場合、腐食が進行していない状況においては、金属対応RFタグ4のリーダライタ3とは反対側の面(第一面4a)側に金属部材が存在する。このため、リーダライタ3と金属対応RFタグ4との間で通信環境が成立し、リーダライタ3は電波信号W2を受信する。
【0045】
これに対し、図3Aに示すように、コンクリート構造物10内(コンクリート部材11内)において腐食環境が進行している場合、腐食性金属部材5の一部が、酸化物や塩化物といった金属化合物5aに変化する。この場合、金属対応RFタグ4のリーダライタ3とは反対側の面(第一面4a)側に位置する金属部材の量が減少し、リーダライタ3が受信する電波信号W2の強度は低下する。図3Bに示すように腐食環境が更に進行すると、リーダライタ3は電波信号W2を全く受信できなくなる。
【0046】
つまり、リーダライタ3側で受信される電波信号W2の強度が低い場合には、コンクリート構造物10内において腐食環境が進行していることを検知できる。例えば、コンクリート構造物10を補修すべきであることを示す閾値を予め設定しておき、この閾値よりもリーダライタ3側で受信される電波信号W2の強度が低い場合には、コンクリート構造物10の補修時期が到来していると判断するものとしても構わない(工程(d)に対応)。
【0047】
リーダライタ3は、電波信号W2の強度に応じて、コンクリート構造物10内の腐食の程度を、例えば所定の指標(A/B/Cなど)などを用いて表示する機能を有していても構わない。図4は、リーダライタ3の機能ブロック図の一例である。リーダライタ3は、記憶部31、判定処理部32、表示出力部33、及び通信部34を備える。記憶部31は、フラッシュメモリ、ハードディスクなどの記憶媒体で構成される。判定処理部32は、取得した情報に基づいて演算処理を行う処理部であり、専用のハードウェア又はソフトウェアで構成される。表示出力部33は、所定の表示用の演算処理を行うと共に、不図示のモニタに処理後の内容を表示する機能的手段である。通信部34は、無線通信を行うためのインタフェースである。
【0048】
記憶部31には、予め、腐食検知用センサ2から受信した電波信号W2の強度と、コンクリート構造物10内の腐食環境の進行状況との相関関係に対応する情報(以下、「基準情報」と呼ぶ。)が記憶されている。通信部34において、腐食検知用センサ2から電波信号W2を受信すると、判定処理部32は、記憶部31に記憶されている基準情報を読み出すと共に、この基準情報と実際に受信された電波信号W2の強度とに基づいて、コンクリート構造物10内の腐食環境の進行状況を推定する。表示出力部33は、この判定結果に基づく情報を、リーダライタ3に設けられたモニタ(不図示)に表示させる。これにより、作業員は、リーダライタ3に設けられたモニタの情報を確認するのみで、コンクリート構造物10内の腐食環境の進行状況の程度を認識できる。なお、リーダライタ3が、スマートフォンやタブレットPCなどの汎用機器である場合には、前記モニタとは当該汎用機器の表示部に対応し、専用のアプリケーションを通じて前記情報が表示されるものとして構わない。
【0049】
更に、上記基準情報は、所定のサーバ40から取得して記憶部31内で更新されるものとしても構わない(図5参照)。電波信号W2には、予め腐食検知用センサ2に付された識別情報(i1)を含むことができる。通信部34は、腐食検知用センサ2から、識別情報i1を含む電波信号W2を受信すると、識別情報i1に対応したコンクリート構造物10に係る上記基準情報を、サーバ40からダウンロードして記憶部31に(一時的に)格納する。そして、判定処理部32は、実際に受信された電波信号W2の強度と、サーバ40からダウンロードされた基準情報とに基づいて、コンクリート構造物10内の腐食環境の進行状況を推定する。
【0050】
この方法によれば、個々のコンクリート構造物10の配置環境や材料の特性、コンクリート構造物10内における腐食検知用センサ2の配置位置などを考慮した基準情報に基づいて、コンクリート構造物10内における腐食環境の進行状況が高い精度で推定できる。
【0051】
なお、リーダライタ3は、推定されたコンクリート構造物10内における腐食環境の進行状況に基づき、FEM解析などの手法によってコンクリート構造物10のひび割れの発生可能性や、発生予想時期などを推定する機能を有していても構わない。また、図5に示すように、リーダライタ3がサーバ40と通信可能な構成である場合には、リーダライタ3で読み取られた電波信号W2の強度に関する情報がサーバ40に送信され、サーバ40側で演算処理が行われることで、コンクリート構造物10のひび割れの発生予想時期や、必要補修時期などを算出するものとしても構わない。
【0052】
なお、金属対応RFタグ4の特性によっては、受信した電波信号W1の強度にかかわらず、同一強度の電波信号W2を発信するものが存在する。かかる金属対応RFタグ4を含む腐食検知用センサ2がコンクリート構造物10内に埋め込まれている場合には、リーダライタ3は、腐食検知用センサ2との間で通信環境が成立したか否か、すなわち電波信号W2が受信できたか否かによって、コンクリート構造物10内の腐食環境が進行していることを検知できる。
【0053】
この場合において、リーダライタ3を配置する位置を、コンクリート構造物10の外表面10aからの離間距離d1(図1参照)を変えながら調整し、リーダライタ3が電波信号W2を受信できた位置に応じて、コンクリート構造物10内における腐食環境の進行状況を検知するものとしても構わない。そして、リーダライタ3側において電波信号W2が受信できた時点における離間距離d1の値が、予め定められた閾値よりも小さい場合には、コンクリート構造物10の補修時期が到来していると判断するものとしても構わない(工程(d)に対応)。
【0054】
腐食検知用センサ2は、図6に示すように、金属対応RFタグ4の第一面4aの一部上面に、故障検知用金属部材7が接着されているものとしても構わない。図6に示す例では、金属対応RFタグ4の第一面4aと故障検知用金属部材7とを覆うように、腐食性金属部材5が形成されている例が図示されている。金属対応RFタグ4の第一面4aと故障検知用金属部材7との接着には、接着剤を用いることができる。
【0055】
図7Aは、金属対応RFタグ4の第一面4aを模式的に示す図面の一例である。図7Aに示す例では、金属対応RFタグ4の第一面4aの外周の内側の位置において、故障検知用金属部材7が第一面4aの中央領域を矩形状に取り囲むように配置されている。なお、図7Aでは、説明の都合上、腐食性金属部材5の図示を省略している。
【0056】
上述したように、金属対応RFタグ4は、リーダライタ3とは反対側の位置に金属材料物が存在する場合に、リーダライタ3から送信された電波信号W1を正しく受信することができる。逆に言えば、仮に金属対応RFタグ4が故障検知用金属部材7を備えない場合において、腐食性金属部材5がほとんど滅失する程度にまで腐食(減肉)している場合(図3B参照)、上述したように、リーダライタ3は、金属対応RFタグ4からの電波信号W2をほとんど検知することができない。かかる場合、作業員は、金属対応RFタグ4、及び/又はリーダライタ3が故障しているために、リーダライタ3側で電波信号W2が検知できないのか、コンクリート部材11内に腐食環境が進行した結果、腐食性金属部材5が大きく減肉しているためにリーダライタ3側で電波信号W2が検知できないのかを、認識することができない。
【0057】
しかしながら、図6及び図7Aに示すように、金属対応RFタグ4が故障検知用金属部材7を備えることで、仮に、腐食性金属部材5がほとんど滅失する程度にまで腐食環境が進行している場合であっても、金属対応RFタグ4は、故障検知用金属部材7に基づく強度(最低基準強度)の電波信号W1を受信できるため、この強度の電波信号W1に対応した電波信号W2がリーダライタ3側に送信される。つまり、作業員は、電波信号W2を検知できなかった場合には、金属対応RFタグ4、及び/又はリーダライタ3が故障していることを認識できる。また、リーダライタ3側で受信される電波信号W2の信号強度は、最低基準強度よりも高い強度の範囲内で、腐食性金属部材5の劣化の進行の程度に応じて低下するため、上記と同様の方法により、腐食性金属部材5の劣化の程度、すなわち腐食検知用センサ2が配置されているコンクリート構造物10内の腐食環境の進行の程度を判定することができる。
【0058】
故障検知用金属部材7は、腐食性金属部材5よりも劣化しにくい金属材料であれば特に材料は限定されず、銅、ステンレス、チタン、ニッケル、白金などを用いることができる。この中では、汎用性が高く、錆に対する耐性の高いステンレスが好ましい。
【0059】
金属対応RFタグ4の第一面4a上における、故障検知用金属部材7の配置の態様は、図7Aの場合に限定されない。他の配置の態様を、図7B及び図7Cに示す。図7Bに示す態様は、金属対応RFタグ4の第一面4aの外周の内側の位置において、故障検知用金属部材7が第一面4aの中央領域を円形状に取り囲むように配置されている。また、図7Cに示す態様は、金属対応RFタグ4の第一面4aの一部領域に偏在するように故障検知用金属部材7が配置されている。図7Cの配置の態様と比べて、図7A及び図7Bの配置の態様のように、故障検知用金属部材7が金属対応RFタグ4の第一面4a上において偏在しないように配置されることで、腐食性金属部材5がどこから腐食(減肉)しても、腐食検知用センサ2の配置位置における腐食環境の進行状況の程度をより正確に推定できるという効果を奏する。
【0060】
なお、図7A図7Cのいずれの場合においても、故障検知用金属部材7と腐食性金属部材5とが異種金属腐食することを防止する観点で、腐食性金属部材5と故障検知用金属部材7との間を離すか、又は絶縁性の保護層(例えば樹脂シート)を介在させるなどにより、腐食性金属部材5と故障検知用金属部材7とを絶縁させるのが好ましい。
【0061】
また、金属対応RFタグ4の第一面4aの一部領域を除くほぼ全面に腐食性金属部材5を形成し、腐食性金属部材5が形成されていない金属対応RFタグ4の第一面4a上に故障検知用金属部材7を形成するものとしても構わない。
【0062】
腐食検知用センサ2の埋め込み位置が深く、コンクリート構造物10の外表面10aよりも外側に配置されたリーダライタ3との間での通信環境が形成できない場合には、図8に示すように、腐食検知用センサ2と共にリーダライタ3を埋め込むものとしても構わない。この場合、リーダライタ3に接続される信号線17のみを、コンクリート構造物10の外部に取り出しておく。そして、作業員は、コンクリート構造物10の外部に取り出された信号線17を所定の読み取り装置(不図示)と接続することで、信号線17を通じてリーダライタ3で受信された電波信号W2の強度(又は有無に関する情報)を受信することができる。
【0063】
なお、リーダライタ3をコンクリート部材11内に埋め込むに際しては、リーダライタ3が存在することで、コンクリート構造物10の外表面10aから深さ方向への腐食因子の進行を妨げないよう、図8に示すように、リーダライタ3を、腐食検知用センサ2に対してコンクリート構造物10の外表面10aとは反対側の位置に配置するのが好ましい。より詳細には、腐食性金属部材5がコンクリート構造物10の外表面10aに対向するように腐食検知用センサ2を配置し、この腐食検知用センサ2が備える金属対応RFタグ4の第二面4bと対向するように、リーダライタ3を配置するのが好ましい。
【0064】
[第二実施形態]
本発明に係る腐食検知方法及び腐食検知センサの第二実施形態につき、第一実施形態と異なる箇所のみを説明する。
【0065】
図9は、本発明に係る腐食検知方法の第二実施形態の態様を模式的に示す図面である。図1の場合と同様に、腐食の進行状況を検知する対象物がコンクリート構造物10の内部である場合を想定している。より詳細には、本実施形態では、特に、コンクリート構造物10内に埋め込まれている鉄筋12を、腐食検知の対象物とする場合を想定している。つまり、第一実施形態では、対象空間内における腐食環境の進行状況を検知するのに対し、第二実施形態では、対象物自体の腐食の進行状況を検知する点が異なっている。
【0066】
図9に示すように、本実施形態においては、腐食検知用センサ2は鉄筋12に取り付けられている。この腐食検知用センサ2は、コンクリート構造物10の製造時に、予めコンクリート部材11内に鉄筋12と共に埋め込まれるものとしても構わないし、既設のコンクリート構造物10の一部を削り落として鉄筋12が露出するまではつり出し、腐食検知用センサ2を鉄筋12に取り付けた後、非金属材料からなる防護用の部材で埋め戻すものとしても構わない。腐食検知用センサ2を鉄筋12に取り付ける際には、接着剤を用いて取り付けてもよく、ワイヤや専用の治具を製作して取り付けてもよい。このように、腐食検知用センサ2を鉄筋12に取り付ける工程が、工程(a)に対応する。
【0067】
図10Aは、図9の一部拡大図である。本実施形態において、腐食検知用センサ2は、向かい合う第一面4aと第二面4bとを有した板状の金属対応RFタグ4を備え、金属対応RFタグ4の第一面4a側に鉄筋12が位置するように配置される。そして、第一実施形態とは異なり、腐食検知用センサ2は腐食性金属部材5とを備えていない。
【0068】
図10Bは、金属対応RFタグ4の第一面4aに対して直交する方向から鉄筋12を見たときの模式的な図面である。図10Bにおいて、紙面上下方向が鉄筋12の延伸方向に対応する。図10Bに示すように、腐食検知用センサ2の幅2Lは、鉄筋12の幅12Lよりも短いのが好ましく、鉄筋12の幅12Lの50%の長さよりも短いのが更に好ましい。この場合、金属対応RFタグ4の第一面4aに対して直交する方向から鉄筋12を見たとき、図10Bに示すように、腐食検知用センサ2の周囲を鉄筋12が取り囲むように配置される。なお、金属対応RFタグ4がコイン形状である場合には、その短半径を腐食検知用センサ2の幅2Lとみなすものとしてよい。
【0069】
このような位置関係で腐食検知用センサ2を配置することで、コンクリート構造物10の外表面10aから深さ方向へ進行した腐食因子が、鉄筋12に到達する手前の位置において腐食検知用センサ2によって妨げられることが抑制される。これにより、腐食検知用センサ2による検知精度が高められる。
【0070】
検知作業に際しては、第一実施形態と同様に、工程(a)~(c)が実行される。すなわち、作業員は、持参したリーダライタ3を、金属対応RFタグ4に対して第二面4b側に離れた位置に配置し、リーダライタ3から所定周波数の電波信号W1を腐食検知用センサ2に向けて放射する。
【0071】
図9に示すように、本実施形態では、腐食が進行していない状況においては、金属対応RFタグ4のリーダライタ3とは反対側の面(第一面4a)側に、金属製の鉄筋12が存在する。このため、リーダライタ3と金属対応RFタグ4との間で通信環境が成立し、リーダライタ3は電波信号W2を受信する。
【0072】
これに対し、図11に示すように、コンクリート構造物10内(コンクリート部材11内)において腐食環境が進行している場合、鉄筋12の一部が、酸化物や塩化物といった金属化合物12aに変化する。この場合、金属対応RFタグ4のリーダライタ3とは反対側の面(第一面4a)側に位置する金属部材の量が減少し、リーダライタ3が受信する電波信号W2の強度は低下するか、又はリーダライタ3は電波信号W2を全く受信できなくなる。
【0073】
つまり、第一実施形態と同様に、リーダライタ3側で受信される電波信号W2の強度が低い場合又は電波信号W2が受信できない場合には、鉄筋12において腐食が進行していることを検知できる。また、第一実施形態と同様に、リーダライタ3が同一の強度の電波信号W2を受信する構成である場合には、リーダライタ3を配置する位置を、コンクリート構造物10の外表面10aからの離間距離d1(図9参照)を変えながら調整し、リーダライタ3が電波信号W2を受信できた位置に応じて、鉄筋12内における腐食の進行状況を検知するものとしても構わない。
【0074】
本実施形態においても、腐食検知用センサ2は、図12に示すように、金属対応RFタグ4の第一面4aの一部上面に、故障検知用金属部材7が接着されているものとしても構わない。これにより、リーダライタ3側で電波信号W2が受信されるか否かによって、金属対応RFタグ4、及び/又はリーダライタ3の故障の有無が検知できる。また、電波信号W2が所定の閾値よりも高いか低いかによって、鉄筋12に対する腐食の程度が評価できる。
【0075】
第一実施形態と同様、腐食検知用センサ2の埋め込み位置が深い場合には、腐食検知用センサ2と共にリーダライタ3を埋め込むものとしても構わない(図13及び図14参照)。この場合、リーダライタ3が存在することで、コンクリート構造物10の外表面10aから深さ方向への腐食因子の進行を妨げないよう、リーダライタ3を配置するのが好ましい。図13に示すように、リーダライタ3の受信面及び金属対応RFタグの発信面を、それぞれコンクリート構造物10の外表面10aに対して傾斜させるものとしても構わない。また、別の一例として、図14に示すように、リーダライタ3の受信面及び金属対応RFタグの発信面が、それぞれコンクリート構造物10の外表面10aに対してほぼ直交方向になるように配置させるものとしても構わない。
【0076】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0077】
〈1〉腐食検知用センサ2は、腐食環境の進行状況を検知する対象空間内において、複数の箇所に埋め込まれるものとしても構わない。この場合に、それぞれの腐食検知用センサ2の深さ位置を異ならせるものとしても構わない。これにより、各腐食検知用センサ2から送信された電波信号W2の強度の違いによって、腐食環境の進行状況をより詳細に認識することができる。
【0078】
〈2〉第一実施形態において、腐食検知用センサ2は、腐食性金属部材5に対する腐食環境の進行を保護するための保護部材を備えるものとしても構わない。例えば、図15に示すように、金属対応RFタグ4の第一面4a側を覆うように形成された保護シート8が貼り付けられていても構わないし、図16に示すように、腐食検知用センサ2の全周を覆うモルタル9が形成されていても構わない。保護シート8としては、例えば防錆シートを利用することができる。
【0079】
第一実施形態の腐食検知用センサ2をコンクリート構造物10の内部に取り付けるに際し、作業状況によっては、腐食検知用センサ2が現場に数日~1ヶ月程度、外気に晒された状態で据え置かれる場合がある。特に、コンクリート構造物10を新設する場合には、作業に多くの日数を要する場合があり得る。このような場合に、数日間にわたって腐食検知用センサ2が外気に晒されてしまうと、金属対応RFタグ4の第一面4aを覆うように形成された腐食性金属部材5に対して、水、酸素、塩化物などの腐食因子が付着し、コンクリート構造物10内に配置する前に腐食性金属部材5が一部腐食してしまうおそれがある。
【0080】
上記のように、腐食検知用センサ2が、金属対応RFタグ4の第一面4a側を覆う保護部材(8,9)を備えたことで、コンクリート構造物10に配置するまでの間に、腐食性金属部材5に対する腐食の進行が抑制される。これにより、腐食検知用センサ2の検知精度を高めることができる。
【0081】
なお、図15に示すように、腐食検知用センサ2が保護シート8を備える場合には、腐食検知用センサ2を対象空間(コンクリート構造物10)内に取り付ける作業を行う直前に保護シート8を取り外してから、腐食検知用センサ2を取り付けるものとして構わない。更に、取り付け後にコンクリートを打設するまでの腐食防止と打設時の衝撃による破損防止のために、腐食検知用センサ2をモルタルで被覆しておいてもよい。
【0082】
また、図16に示すように、腐食検知用センサ2が外周を覆うモルタル9を備える場合には、モルタル9が取り付けられた状態のままで腐食検知用センサ2を取り付けるものとしても構わないし、モルタル9を取り外してから腐食検知用センサ2を取り付けるものとしても構わない。
【0083】
モルタル9は、腐食因子を一定量通過させる空間が存在するため、モルタル9が取り付けられたままの状態で対象空間内に腐食検知用センサ2が配置されても、腐食因子を腐食性金属部材5に対して進行させることへの妨げとなることが抑制される。このとき、モルタル9を、構造物に使用されるコンクリートより水セメント比を高くしておけば、腐食検知用センサ2に関して早期の検知性能が低下することはない。
【0084】
〈3〉上記実施形態では、腐食環境の進行状況を検知する対象空間(対象物)が、コンクリート構造物10の内部(コンクリート部材11,鉄筋12)である場合について説明したが、これはあくまで一例である。本発明の腐食検知用センサ2は、外部から視認できず、金属を腐食する因子が内部に進行することで内部が腐食するおそれのある任意の対象空間(対象物)に対して、腐食環境(腐食状態)の進行状況を検知する用途に利用することができる。
【実施例
【0085】
以下、実施例を参照して説明する。
【0086】
腐食検知用センサ2として、920MHz帯の電波信号に対応する金属対応RFタグ4を採用した。そして、腐食検知用センサ2の第一面4a側に配置されている鉄筋12の腐食程度を変化させ、リーダライタ3で読み取られる電波信号W2の強度を測定した。鉄筋12は、型式D13(公称直径12.7mm、最外径14mm)のものを採用した。
【0087】
リーダライタ3は、対応する信号の周波数が920MHz帯で、出力が250mWのものを用いた。リーダライタ3と腐食検知用センサ2(金属対応RFタグ4)との離間距離は4cmで固定した。金属対応RFタグ4は、横25mm×縦9mm×厚み3mmの寸法を有し、鉄筋12の延伸方向が金属対応RFタグ4の横方向に平行となるような位置関係で、鉄筋12の側面に接触させた。
【0088】
この結果を表1に示す。なお、表1における電波強度は相対値である。
【0089】
【表1】
【0090】
表1によれば、鉄筋12の腐食厚みが増えるに連れ、リーダライタ3で受信された電波信号W2の強度が低下することが示されている。なお、リーダライタ3と腐食検知用センサ2との間に、厚み1cmのコンクリート片を配置した場合において、腐食層のない鉄筋12を配置してリーダライタ3で受信された電波信号W2を読み取ると、やはり電波強度(RSSI)が31であることが確認された。
【0091】
この結果から、腐食環境が進行し、鉄筋12に対する腐食が進行すると、金属対応RFタグ4のリーダライタ3とは反対側の位置である第一面4a側に設けられた金属部材の量が低下する結果、リーダライタ3で受信された電波信号W2の強度が低下することが分かる。つまり、リーダライタ3で受信された電波信号W2の強度に基づいて、腐食環境の進行状況を検知・推定できることが確認される。
【0092】
なお、この結果から、第一実施形態のように、腐食検知用センサ2が金属対応RFタグ4と、この金属対応RFタグの第一面4a上に形成された腐食性金属部材5とを備える場合においても、同様に、腐食性金属部材5とは反対側(金属対応RFタグの第二面4b側)の位置からリーダライタ3で受信された電波信号W2の強度に基づいて、腐食環境の進行状況を検知・推定できることが分かる。
【符号の説明】
【0093】
2 : 腐食検知用センサ
3 : リーダライタ
4 : 金属対応RFタグ
4a : 金属対応RFタグの第一面
4b : 金属対応RFタグの第二面
5 : 腐食性金属部材
5a : 金属化合物
7 : 故障検知用金属部材
8 : 保護シート
9 : モルタル
10 : コンクリート構造物
10a : コンクリート構造物の外表面
11 : コンクリート部材
12 : 鉄筋
17 : 信号線
31 : 記憶部
32 : 判定処理部
33 : 表示出力部
34 : 通信部
40 : サーバ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16