(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】熱処理装置、および、熱処理方法
(51)【国際特許分類】
F27B 5/18 20060101AFI20220715BHJP
F27D 7/04 20060101ALI20220715BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20220715BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20220715BHJP
C21D 1/06 20060101ALN20220715BHJP
C21D 9/32 20060101ALN20220715BHJP
C21D 9/40 20060101ALN20220715BHJP
【FI】
F27B5/18
F27D7/04
F27D19/00 A
F27D21/00 G
C21D1/06 A
C21D9/32 A
C21D9/32 B
C21D9/40 A
C21D9/40 B
(21)【出願番号】P 2018168833
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【氏名又は名称】松岡 徹
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】特許業務法人ワンディーIPパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓弘
(72)【発明者】
【氏名】鉄林 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】上田 剛志
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-326108(JP,A)
【文献】特開2016-070590(JP,A)
【文献】特開2005-043042(JP,A)
【文献】特開2005-350286(JP,A)
【文献】特開2010-007128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 5/00- 9/40
F27D 7/00- 7/06
F27D 17/00-99/00
C21D 1/06
C21D 9/00- 9/44
C21D 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理対象としての金属製の被処理物を加熱するためのヒーターと、
前記ヒーターと前記被処理物とが配置される熱処理室と、
前記熱処理室内において前記ヒーターと前記被処理物との間に配置されて、前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を遮蔽可能な遮蔽部材と、
前記遮蔽部材を駆動して当該遮蔽部材の状態を切り替える切替駆動部と、
を備え
、
前記切替駆動部は、前記遮蔽部材が前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を許容するように配置される放射状態と、前記遮蔽部材が前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を遮蔽するように配置される遮蔽状態との間で、前記遮蔽部材を駆動して当該遮蔽部材の状態を切り替え、
前記切替駆動部は、前記被処理物の温度がA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、前記遮蔽部材の状態を前記遮蔽状態に維持することを特徴とする、熱処理装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の熱処理装置であって、
前記所定の温度範囲は、少なくとも、A1変態点よりも50℃低い温度以上であってA3変態点よりも50℃高い温度以下の温度範囲を含むことを特徴とする、熱処理装置。
【請求項3】
請求項
1又は請求項2に記載の熱処理装置であって、
前記被処理物の温度及び前記熱処理室内における所定の温度測定位置での温度の少なくともいずれかの温度を測定する温度測定部を更に備え、
前記切替駆動部は、前記温度測定部による温度測定結果に基づいて、前記遮蔽部材の状態を切り替えることを特徴とする、熱処理装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の熱処理装置であって、
前記切替駆動部は、前記温度測定部によって測定された温度が、A1変態点と同じ温度又はA1変態点よりも低い所定の温度に到達したときに、前記遮蔽部材の状態を前記放射状態から前記遮蔽状態へと切り替えることを特徴とする、熱処理装置。
【請求項5】
請求項
1乃至請求項
4のいずれか1項に記載の熱処理装置であって、
前記遮蔽部材は、互いに平行に延びる複数の回転軸と、複数の前記回転軸のそれぞれを中心としてそれぞれ回転自在に支持された複数の遮蔽板と、を有し、
前記切替駆動部は、複数の前記遮蔽板を同時に回転させることで、前記遮蔽部材の状態を前記放射状態から前記遮蔽状態へと切り替えることを特徴とする、熱処理装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の熱処理装置であって、
前記遮蔽板は、前記回転軸に固定され、
前記切替駆動部は、複数の前記回転軸のそれぞれに固定された複数の揺動部材と、複数の前記揺動部材を連結する連結棒と、前記連結棒を進退移動させるように駆動する連結棒駆動部と、を有し、
前記連結棒に対して複数の前記揺動部材がそれぞれ揺動自在に連結されていることを特徴とする、熱処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項
6のいずれか1項に記載の熱処理装置であって、
前記熱処理室内において前記被処理物に対向して配置され、前記被処理物の周囲を通過する気流を生じさせるファンを更に備えていることを特徴とする、熱処理装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の熱処理装置であって、
前記ファンは、前記遮蔽部材が延びる方向と平行な方向に沿って前記被処理物の周囲を通過する気流を生じさせることを特徴とする、熱処理装置。
【請求項9】
加熱処理対象としての金属製の被処理物及びヒーターが配置される熱処理室内において、前記ヒーターを用いて前記被処理物を加熱する加熱ステップと、
前記加熱ステップの実行中に実行され、前記熱処理室内において前記ヒーターと前記被処理物との間に配置された遮蔽部材によって、前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を遮蔽する遮蔽ステップと、
を備え
、
前記加熱ステップにおいて、前記遮蔽部材を駆動して当該遮蔽部材の状態を切り替える切替駆動部が、前記遮蔽部材が前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を許容するように配置される放射状態と、前記遮蔽部材が前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を遮蔽するように配置される遮蔽状態との間で、前記遮蔽部材を駆動して当該遮蔽部材の状態を切り替え、
前記遮蔽ステップにおいて、前記切替駆動部が、前記被処理物の温度がA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、前記遮蔽部材の状態を前記遮蔽状態に維持することを特徴とする、熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の被処理物に対して熱処理を行うための熱処理装置及び熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属性の被処理物に対して熱処理を行うための熱処理装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載された熱処理装置は、被処理物が配置される熱処理室と、熱処理室内に配置されたヒーターと、を有している。熱処理室内においては、被処理物は、ヒーターに対して対向して配置される。そして、この熱処理装置は、熱処理室内の雰囲気をヒーターによって加熱することにより、熱処理室内に配置された被処理物に対して加熱による熱処理を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属製の被処理物を加熱することで被処理物に対して熱処理を施す際においては、被処理物の表面及び内部のそれぞれにおいて、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じると、各部の熱応力の状態にばらつきが生じ、この被処理物に歪みが発生する。このため、被処理物の各部の温度上昇をより均等にすることが好ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された構成によると、熱処理室内においては、被処理物は、ヒーターに対向して配置される。このため、被処理物は、ヒーターによって加熱された雰囲気によって加熱されるだけでなく、ヒーターからの輻射熱によっても加熱される。そして、被処理物においては、ヒーターに対向した部分では輻射熱の影響が大きく生じ、ヒーターに対向していない部分では輻射熱の影響がほとんど生じなくなる。このため、被処理物の表面及び内部のそれぞれにおいて、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じ、各部の応力の状態にばらつきが生じ、被処理物に歪みが生じやすくなる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みることにより、金属製の被処理物に対して加熱による熱処理を施す際において、被処理物の各部の温度上昇のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる、熱処理装置、および、熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる熱処理装置は、加熱処理対象としての金属製の被処理物を加熱するためのヒーターと、前記ヒーターと前記被処理物とが配置される熱処理室と、前記熱処理室内において前記ヒーターと前記被処理物との間に配置されて、前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を遮蔽可能な遮蔽部材と、前記遮蔽部材を駆動して当該遮蔽部材の状態を切り替える切替駆動部と、を備え、前記切替駆動部は、前記遮蔽部材が前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を許容するように配置される放射状態と、前記遮蔽部材が前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を遮蔽するように配置される遮蔽状態との間で、前記遮蔽部材を駆動して当該遮蔽部材の状態を切り替え、前記切替駆動部は、前記被処理物の温度がA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、前記遮蔽部材の状態を前記遮蔽状態に維持する。
【0008】
この構成によると、熱処理室内においてヒーターと被処理物との間に配置された遮蔽部材によって、ヒーターから被処理物への輻射熱の放射を遮蔽することができる。このため、ヒーターから被処理物への輻射熱の放射が遮蔽部材によって遮蔽された状態では、被処理物は、ヒーターからの輻射熱による加熱が抑制され、ヒーターによって加熱された雰囲気によって全体的な加熱が行われることになる。即ち、ヒーターからの輻射熱による加熱の影響が被処理物の一部において大きく生じることが抑制され、被処理物の全体が、ヒーターによって加熱された雰囲気によってより均等に加熱されることになる。これにより、被処理物の表面及び内部のそれぞれにおいて、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、熱処理によって被処理物に生じる歪みをより小さくすることができる。
【0009】
従って、上記の構成によると、金属製の被処理物に対して加熱による熱処理を施す際において、被処理物の各部の温度上昇のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる、熱処理装置を提供することができる。
【0011】
また、この構成によると、切替駆動部が遮蔽部材を駆動し、被処理物への輻射熱の放射を許容する放射状態と、被処理物への輻射熱の放射を遮蔽する遮蔽状態との間で、遮蔽部材の状態が切り替えられる。このため、被処理物に対して加熱による熱処理を施す際に、加熱温度条件等の所望の条件に応じて、遮蔽部材の状態を、放射状態と遮蔽状態との間で容易に切り替えることができる。よって、被処理物に対して加熱による熱処理を施す際に、被処理物の各部の温度上昇のばらつきによる応力状態のばらつきが生じ易い温度域においては、遮蔽状態に設定することで、輻射熱による加熱によって被処理物の各部の温度上昇のばらつきが生じることを低減することができる。そして、被処理物の各部の温度上昇のばらつきによる応力状態のばらつきが生じにくい温度域においては、放射状態に設定することで、輻射熱による加熱によっても被処理物の温度を上昇させることができる。
【0013】
また、この構成によると、被処理物における組織がフェライト+セメンタイトの状態からオーステナイトの状態へと変態を開始する温度であるA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、遮蔽部材の状態が遮蔽状態に維持される。このため、被処理物の加熱時に、被処理物の組織がオーステナイト変態を開始するタイミングにおいては、ヒーターからの輻射熱による加熱が抑制され、ヒーターによって加熱された雰囲気による被処理物の全体的な加熱が行われることになる。これにより、オーステナイト変態の開始タイミングを含む温度域において、被処理物の表面及び内部のそれぞれにて、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、被処理物の全体において、より均一にオーステナイト変態が開始されることになる。即ち、被処理物の各部において、オーステナイト変態が開始するタイミングをより均等にすることができる。これにより、被処理物の各部において、オーステナイト変態の開始の際に生じる体積変化がより均等に開始され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、被処理物に生じる歪みをより小さくすることができる。よって、上記の構成によると、被処理物の組織がオーステナイト変態を開始する際に生じる歪みをより小さくすることができる。また、被処理物の浸炭処理のために被処理物の加熱による熱処理が行われる場合であれば、被処理物の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができる。即ち、被処理物の各部におけるオーステナイト変態が開始するタイミングをより均等にすることができるため、被処理物の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができる。従って、上記の構成によると、被処理物の浸炭処理の際において、被処理物の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができることで、被処理物に生じる歪みをより小さくすることができる。
【0014】
(2)前記所定の温度範囲は、少なくとも、A1変態点よりも50℃低い温度以上であってA3変態点よりも50℃高い温度以下の温度範囲を含む場合がある。
【0015】
この構成によると、被処理物の組織がオーステナイト変態を開始する温度であるA1変態点よりも50℃低い温度から、オーステナイト変態が終了する温度であるA3変態点よりも50℃高い温度まで、遮蔽部材の状態が遮蔽状態に維持される。このため、オーステナイト変態の開始から終了までの温度域に亘って、ヒーターからの輻射熱による加熱が抑制され、ヒーターによって加熱された雰囲気による被処理物の全体的な加熱が行われることになる。これにより、オーステナイト変態の開始から終了までの温度域の全体に亘って、被処理物の表面及び内部のそれぞれにおいて、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、被処理物の全体において、より均一にオーステナイト変態が進行することになる。このため、被処理物の各部において、オーステナイト変態の際に生じる体積変化がより均等に生じ、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、被処理物に生じる歪みをより小さくすることができる。従って、上記の構成によると、被処理物の組織がオーステナイトに変態する際に生じる歪みをより小さくすることができる。また、上記の構成によると、A1変態点よりも50℃低い温度から遮蔽部材の状態が遮蔽状態に維持される。このため、オーステナイト変態の開始前から、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じることをより確実に低減することができる。また、上記の構成によると、A3変態点よりも50℃高い温度まで遮蔽部材の状態が遮蔽状態に維持される。このため、オーステナイト変態が完全に終了するまで、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じることをより確実に低減することができる。
【0016】
(3)前記被処理物の温度及び前記熱処理室内における所定の温度測定位置での温度の少なくともいずれかの温度を測定する温度測定部を更に備え、前記切替駆動部は、前記温度測定部による温度測定結果に基づいて、前記遮蔽部材の状態を切り替える場合がある。
【0017】
この構成によると、被処理物の温度或いは熱処理室内の所定の温度測定位置での温度の測定結果に基づいて、遮蔽部材の状態が切り替えられる。このため、被処理物の実際の温度状態或いは熱処理室内の実際の温度状態に応じて、遮蔽部材の状態を放射状態と遮蔽状態との間で容易に切り替えることができる。
【0018】
(4)前記切替駆動部は、前記温度測定部によって測定された温度が、A1変態点と同じ温度又はA1変態点よりも低い所定の温度に到達したときに、前記遮蔽部材の状態を前記放射状態から前記遮蔽状態へと切り替える場合がある。
【0019】
この構成によると、被処理物の加熱時に、被処理物の実際の温度或いは熱処理室内の実際の温度が、A1変態点と同じ又はそれよりも低い温度に到達したときに、遮蔽部材の状態が遮蔽状態へと切り替えられる。このため、より確実に、オーステナイト変態の開始又はオーステナイト変態の開始前のタイミングにおいて、ヒーターからの輻射熱による加熱を抑制して被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じることを低減することができる。
【0020】
(5)前記遮蔽部材は、互いに平行に延びる複数の回転軸と、複数の前記回転軸のそれぞれを中心としてそれぞれ回転自在に支持された複数の遮蔽板と、を有し、前記切替駆動部は、複数の前記遮蔽板を同時に回転させることで、前記遮蔽部材の状態を前記放射状態から前記遮蔽状態へと切り替える場合がある。
【0021】
この構成によると、遮蔽部材を構成する複数の遮蔽板を各回転軸周りに同時に回転させ、遮蔽部材の状態を放射状態から遮蔽状態へ切り替えることができる。このため、遮蔽部材の状態を放射状態から遮蔽状態へ切り替えることをより迅速に行うことができる。
【0022】
(6)前記遮蔽板は、前記回転軸に固定され、前記切替駆動部は、複数の前記回転軸のそれぞれに固定された複数の揺動部材と、複数の前記揺動部材を連結する連結棒と、前記連結棒を進退移動させるように駆動する連結棒駆動部と、を有し、前記連結棒に対して複数の前記揺動部材がそれぞれ揺動自在に連結されている場合がある。
【0023】
この構成によると、連結棒を進退移動させることで、複数の揺動部材を同時に揺動させ、複数の回転軸のそれぞれとともに複数の遮蔽板を同時に回転させることができる。このため、遮蔽部材を構成する複数の遮蔽板を各回転軸周りに同時に回転させて遮蔽部材の状態を放射状態から遮蔽状態へ切り替える構造を、連結棒に揺動自在に連結された揺動部材を回転軸に固定した簡素な構成で実現することができる。
【0024】
(7)前記熱処理装置は、前記熱処理室内において前記被処理物に対向して配置され、前記被処理物の周囲を通過する気流を生じさせるファンを更に備えている場合がある。
【0025】
この構成によると、ヒーターによって加熱された雰囲気の気体が、被処理物の周囲を通過する気流を生じさせるファンによって熱処理室内で循環される。このため、ヒーターによって新たに加熱された雰囲気の気体が被処理物の周囲に常時供給されるため、ヒーターによって加熱された雰囲気による被処理物の加熱を効率よく行うことができる。
【0026】
(8)前記ファンは、前記遮蔽部材が延びる方向と平行な方向に沿って前記被処理物の周囲を通過する気流を生じさせる場合がある。
【0027】
この構成によると、ヒーターによって加熱された雰囲気の気体が、被処理物の周囲を通過する気流を生じさせるファンによって熱処理室内で循環される際に、遮蔽部材が整流部材としての機能を果たすことになる。このため、ヒーターによって加熱された雰囲気による被処理物の加熱を更に効率よく行うことができる。
【0028】
(9)また、この発明のある局面に係わる熱処理方法は、加熱処理対象としての金属製の被処理物及びヒーターが配置される熱処理室内において、前記ヒーターを用いて前記被処理物を加熱する加熱ステップと、前記加熱ステップの実行中に実行され、前記熱処理室内において前記ヒーターと前記被処理物との間に配置された遮蔽部材によって、前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を遮蔽する遮蔽ステップと、を備え、前記加熱ステップにおいて、前記遮蔽部材を駆動して当該遮蔽部材の状態を切り替える切替駆動部が、前記遮蔽部材が前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を許容するように配置される放射状態と、前記遮蔽部材が前記ヒーターから前記被処理物への輻射熱の放射を遮蔽するように配置される遮蔽状態との間で、前記遮蔽部材を駆動して当該遮蔽部材の状態を切り替え、前記遮蔽ステップにおいて、前記切替駆動部が、前記被処理物の温度がA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、前記遮蔽部材の状態を前記遮蔽状態に維持する。
【0029】
この構成によると、熱処理室内においてヒーターと被処理物との間に配置された遮蔽部材によって、ヒーターから被処理物への輻射熱の放射を遮蔽することができる。このため、ヒーターから被処理物への輻射熱の放射が遮蔽部材によって遮蔽された状態では、被処理物は、ヒーターからの輻射熱による加熱が抑制され、ヒーターによって加熱された雰囲気によって全体的な加熱が行われることになる。即ち、ヒーターからの輻射熱による加熱の影響が被処理物の一部において大きく生じることが抑制され、被処理物の全体が、ヒーターによって加熱された雰囲気によってより均等に加熱されることになる。これにより、被処理物の表面及び内部のそれぞれにおいて、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、熱処理によって被処理物に生じる歪みをより小さくすることができる。
【0030】
従って、上記の構成によると、金属製の被処理物に対して加熱による熱処理を施す際において、被処理物の各部の温度上昇のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる、熱処理方法を提供することができる。
また、この構成によると、切替駆動部が遮蔽部材を駆動し、被処理物への輻射熱の放射を許容する放射状態と、被処理物への輻射熱の放射を遮蔽する遮蔽状態との間で、遮蔽部材の状態が切り替えられる。このため、被処理物に対して加熱による熱処理を施す際に、加熱温度条件等の所望の条件に応じて、遮蔽部材の状態を、放射状態と遮蔽状態との間で容易に切り替えることができる。よって、被処理物に対して加熱による熱処理を施す際に、被処理物の各部の温度上昇のばらつきによる応力状態のばらつきが生じ易い温度域においては、遮蔽状態に設定することで、輻射熱による加熱によって被処理物の各部の温度上昇のばらつきが生じることを低減することができる。そして、被処理物の各部の温度上昇のばらつきによる応力状態のばらつきが生じにくい温度域においては、放射状態に設定することで、輻射熱による加熱によっても被処理物の温度を上昇させることができる。
また、この構成によると、被処理物における組織がフェライト+セメンタイトの状態からオーステナイトの状態へと変態を開始する温度であるA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、遮蔽部材の状態が遮蔽状態に維持される。このため、被処理物の加熱時に、被処理物の組織がオーステナイト変態を開始するタイミングにおいては、ヒーターからの輻射熱による加熱が抑制され、ヒーターによって加熱された雰囲気による被処理物の全体的な加熱が行われることになる。これにより、オーステナイト変態の開始タイミングを含む温度域において、被処理物の表面及び内部のそれぞれにて、被処理物の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、被処理物の全体において、より均一にオーステナイト変態が開始されることになる。即ち、被処理物の各部において、オーステナイト変態が開始するタイミングをより均等にすることができる。これにより、被処理物の各部において、オーステナイト変態の開始の際に生じる体積変化がより均等に開始され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、被処理物に生じる歪みをより小さくすることができる。よって、上記の構成によると、被処理物の組織がオーステナイト変態を開始する際に生じる歪みをより小さくすることができる。また、被処理物の浸炭処理のために被処理物の加熱による熱処理が行われる場合であれば、被処理物の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができる。即ち、被処理物の各部におけるオーステナイト変態が開始するタイミングをより均等にすることができるため、被処理物の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができる。従って、上記の構成によると、被処理物の浸炭処理の際において、被処理物の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができることで、被処理物に生じる歪みをより小さくすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、金属製の被処理物に対して加熱による熱処理を施す際において、被処理物の各部の温度上昇のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係る熱処理装置の模式的な断面図であり、
図2のB-B線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【
図2】熱処理装置の模式的な断面図であり、
図1のA-A線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【
図3】熱処理装置の模式的な断面図であり、
図2のC-C線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【
図4】熱処理装置を含む熱処理システムの一例を模式的に示す図である。
【
図5】熱処理装置の模式的な断面図であり、熱処理装置における遮蔽部材の状態が
図1とは異なる状態を示す断面図である。
【
図6】熱処理装置の一部を拡大して示す図であって、遮蔽部材の状態が遮蔽状態である場合を示す図である。
【
図7】熱処理装置の一部を拡大して示す図であって、遮蔽部材の状態が放射状態である場合を示す図である。
【
図8】遮蔽部材を模式的に示す図であって、
図8(a)は、遮蔽部材の状態が遮蔽状態である場合を示す図であり、
図8(b)は、遮蔽部材の状態が放射状態である場合を示す図である。
【
図9】熱処理装置における切替駆動部の作動を説明するための図であって、
図9(a)は、切替駆動部が遮蔽部材の状態を遮蔽状態に切り替えたときの状態を模式的に示す図であり、
図9(b)は、切替駆動部が遮蔽部材の状態を放射状態に切り替えたときの状態を模式的に示す図である。
【
図10】熱処理装置における切替駆動部を模式的に示す図であって、切替駆動部の作動を説明するための図である。
【
図11】熱処理装置における遠心ファン及び気流調整部を模式的に示す図であって、
図11(a)は、遠心ファン及び気流調整部を水平方向から見た図であり、
図11(b)は、遠心ファン及び気流調整部を上方から見た図である。
【
図12】熱処理装置の模式的な断面図であって、熱処理装置における熱処理室内の構成を一部省略して示す図である。
【
図13】
図1に対応する熱処理装置の模式的な断面図であって、遠心ファン及び気流調整部の作動を説明するための図である。
【
図14】
図2に対応する熱処理装置の模式的な断面図であって、遠心ファン及び気流調整部の作動を説明するための図である。
【
図15】熱処理装置における熱処理動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図16】熱処理装置で熱処理される被処理物の状態について説明するための、Fe-C合金の模式的な平衡状態図である。
【
図17】熱処理時における被処理物の温度変化を測定した結果を示す図であって、
図17(a)は、実施例についての温度測定結果であり、
図17(b)は、比較例についての温度測定結果である。
【
図18】熱処理時における被処理物の温度変化を測定した結果を示す図であって、
図18(a)は、実施例についての温度測定結果であり、
図18(b)は、比較例についての温度測定結果である。
【
図19】第1の変形例の熱処理装置の模式的な断面図であり、
図20のE-E線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【
図20】第1の変形例の熱処理装置の模式的な断面図であり、
図19のD-D線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【
図21】第2の変形例の熱処理装置の模式的な断面図であり、
図22のG-G線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【
図22】第2の変形例の熱処理装置の模式的な断面図であり、
図21のF-F線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【
図23】第3の変形例の熱処理装置の模式的な断面図であり、
図24のI-I線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【
図24】第3の変形例の熱処理装置の模式的な断面図であり、
図23のH-H線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0034】
[熱処理装置の概略]
図1は、本発明の実施形態に係る熱処理装置1の模式的な断面図であり、
図2のB-B線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
図2は、熱処理装置1の模式的な断面図であり、
図1のA-A線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
図3は、熱処理装置1の模式的な断面図であり、
図2のC-C線矢視位置から見た状態を示す断面図である。
【0035】
図1乃至
図3を参照して、熱処理装置1は、金属製の被処理物10に対して加熱による熱処理を行うための装置として設けられている。熱処理装置1による熱処理としては、浸炭処理、焼入処理、焼戻処理、焼鈍処理などを例示することができる。本実施形態では、熱処理装置1が、ガス浸炭処理を行うための熱処理装置である場合を例に説明する。
【0036】
尚、熱処理装置1は、単独で用いられてもよい。また、熱処理装置1は、他の熱処理装置と組み合わされてもよく、複数の熱処理装置を含む熱処理システムの一部として用いられてもよい。
図4は、熱処理装置1を含む熱処理システム15の一例を模式的に示す図である。熱処理システム15は、ガス浸炭処理用の熱処理装置1と、焼入れ装置16と、焼き戻し装置17とを備えている。熱処理システム15によって被処理物10の処理が行われる場合は、まず、熱処理装置1によって、被処理物10に対して浸炭処理としての熱処理が行われる。次いで、浸炭処理が行われた被処理物10は、焼入れ装置16に搬送され、焼入れ装置16において焼入れ処理が行われる。そして、焼入れ処理が終了すると、被処理物10は、焼戻し装置17に搬送され、焼戻し装置17において焼戻し処理が行われる。焼戻し処理が終了すると、被処理物10の熱処理システム15による熱処理が終了し、被処理物10が熱処理システム15から搬出される。
【0037】
被処理物10は、熱処理対象としての金属製の部材として設けられ、本実施形態では、加熱処理対象としての金属製の部材として設けられている。また、本実施形態では、被処理物10は、炭素鋼として構成され、直径寸法に比して高さ寸法が小さい円筒状に形成されたリング状の部材として設けられている。被処理物10は、例えば、炭素含有量(カーボンポテンシャル)が0.2%程度の炭素鋼として構成される。リング状の被処理物10としては、例えば、転がり軸受の外輪および内輪などのレース部材、平歯車などのギヤ、転がり軸受のころ、シャフト、ワッシャなどを例示することができる。尚、本実施形態では、被処理物10が炭素鋼製のリング状の部材として構成された場合を例にとって説明しているが、この通りでなくてもよい。被処理物10は、炭素鋼製以外の金属製の部材として構成されていてもよく、また、リング状以外の形状に形成された部材として構成されていてもよい。
【0038】
また、被処理物10は、熱処理装置1によって熱処理が行われる際には、例えば、薄型の箱状に形成されたケース11内に配置された状態で、熱処理が行われる。ケース11には、複数の被処理物10が、略均等間隔で広がって配置された状態で、収納される。被処理物10は、ケース11内に配置された状態で熱処理装置1における後述の熱処理室21内に配置され、熱処理室21内の雰囲気によって加熱され、熱処理が施される。また、複数の被処理物10を収納したケース11は、複数積み上げられた状態で(即ち、複数段に積層された状態で)、熱処理室21内に配置される。これにより、複数のケース10においてそれぞれ収納された被処理物10に対して、同時に熱処理が行われる。尚、
図2では、6つのケース11が積み上げられて積層された状態が例示されている。
【0039】
尚、複数の被処理物10を収納するケース11には、周囲の気体がほぼ抵抗無く通過できるように、例えば、周囲側面及び底面に形成された多数の孔と、上面に形成された開口とが、設けられている。これにより、熱処理室21内の雰囲気の気体がケース11を通過するように流動し、熱処理室21内の雰囲気の気体が、ケース11内に配置された被処理物10の周囲を流動するように構成されている。尚、ケース11は、熱処理室21内の雰囲気の気体がケース11を通過するように流動できる構造であればよく、例えば、網状の部材で形成された形態であってもよい。
【0040】
熱処理装置1は、熱処理室21、ヒーター(22、23)、遮蔽部材(24、25)、切替駆動部(26、27)、温度測定部28、遠心ファン(ファン)29、気流調整部30、雰囲気ガス供給部31、制御部32、等を備えて構成されている。
【0041】
[熱処理室]
図1乃至
図3を参照して、熱処理室21は、一対の側壁(33、34)、前方壁35、後方壁36、底壁37、天井壁38、複数の脚部39、等を有している。一対の側壁(33、34)、前方壁35、後方壁36、底壁37、天井壁38は、中空の箱状の部分を構成している。複数の脚部39は、中空の箱状の部分の下端部に設けられ、中空の箱状の部分を支持するように構成されている。熱処理室21は、中空の箱状の部分の内部に配置される被処理物10に対して熱処理を施すための熱処理炉として設けられている。
【0042】
一対の側壁(33、34)は、平行に配置されており、第1側壁33及び第2側壁34として構成されている。即ち、熱処理室21は、一対の側壁(33、34)としての第1側壁33及び第2側壁34を有している。第1側壁33及び第2側壁34は、それぞれ上下方向に延びる壁部として設けられている。
【0043】
前方壁35及び後方壁36は、平行に配置されており、一対の側壁(33、34)に対して垂直に広がるとともに、それぞれ上下方向に延びる壁部として設けられている。前方壁35は、一対の側壁(33、34)における上下方向に延びる両端部の一方を一体に結合するように設けられている。後方壁36は、一対の側壁(33、34)における上下方向に延びる両端部の他方を一体に結合するように設けられている。前方壁35には、入口扉35aが設けられ、後方壁36には、出口扉36aが設けられている。底壁37は、熱処理室21の底部分を区画する壁部として設けられ、一対の側壁(33、34)、前方壁35、及び後方壁36の下端部を一体に結合するように設けられている。底壁37からは、その下端面から複数の脚部39が下方に向けて延びるように設けられている。天井壁38は、熱処理室21の天井部分を区画する壁部として設けられ、一対の側壁(33、34)、前方壁35、及び後方壁36の上端部を一体に結合するように設けられている。
【0044】
熱処理室21には、後述するヒーター(22、23)、遮蔽部材(24、25)、温度測定部28、遠心ファン(ファン)29、気流調整部30が、配置されている。また、熱処理室21には、被処理物10が収納されたケース11を熱処理室21内において搬送する複数の搬送ローラ40が設けられている。
【0045】
複数の搬送ローラ40のそれぞれには、回転軸40aが設けられ、各搬送ローラ40は、回転軸40a周りに回転するように設置されている。複数の搬送ローラ40の回転軸40aは、互いに平行に延びるように配置され、一対の側壁(33、34)に対して垂直な方向に沿って延びるように配置されている。また、各搬送ローラ40の回転軸40aは、一対の側壁(33、34)に対して、回転自在に支持されている。複数の搬送ローラ40は、図示が省略されたチェーン機構によって、同期して回転するように構成されている。例えば、各回転軸40aの一方の端部が第2側壁34を貫通しており、第2側壁34の外部において各回転軸40aの一方の端部にスプロケットが設けられ、このスプロケットが、チェーン機構によって回転されるように構成されている。チェーン機構は、後述する制御部32からの制御指令に基づいて回転する電動モータによって周回駆動されるように構成されている。
【0046】
被処理物10の熱処理の際には、熱処理室21の入口扉35aが開かれた状態で、ケース11内に配置された被処理物10が、ケース11とともに、熱処理室21の外部から熱処理室21内に搬入される。そして、熱処理室21内に搬入された被処理物10は、一対の側壁(33、34)の間において配置される。尚、熱処理室21内に搬入されて被処理物10を収納したケース11は、複数の搬送ローラ40の上に配置される。そして、複数の搬送ローラ40が回転することで、被処理物10を収納したケース11が、入口扉35aから出口扉36aに向かう方向である進行方向X1に沿って搬送される。尚、進行方向X1については、
図1において矢印X1で示している。複数の搬送ローラ40の回転によって、ケース11が熱処理室21内の略中央部分まで搬送されると、複数の搬送ローラ40による搬送が停止され、熱処理が行われる。被処理物10が熱処理室21内で熱処理されている間、入口扉35aおよび出口扉36aは、閉じられている。熱処理室21内での熱処理が終了すると、出口扉36aが開かれ、複数の搬送ローラ40の回転によって、被処理物10を収納したケース11が進行方向X1に沿って搬送される。そして、出口扉36aが開かれた状態で、ケース11内に配置された被処理物10が、ケース11とともに、熱処理室21内から熱処理室21の外部へと搬出される。
【0047】
[ヒーター]
図1乃至
図3を参照して、ヒーター(22、23)は、加熱処理対象としての被処理物10を加熱するために設けられ、熱処理室21に配置されている。そして、ヒーター(22、23)は、熱処理室21内の雰囲気を加熱することにより、熱処理室21内に配置された被処理物10に対して加熱による熱処理を行うように構成されている。また、ヒーター(22、23)は、一対で設けられており、第1ヒーター22及び第2ヒーター23として設けられている。熱処理室21内において、第1ヒーター22は、第1側壁33に沿って配置されており、第2ヒーター23は、第2側壁34に沿って配置されている。即ち、熱処理装置1においては、熱処理室21内において一対の側壁(33、34)のそれぞれに沿って配置された一対のヒーター(22、23)が備えられている。
【0048】
一対のヒーター(22、23)のうちの一方の第1ヒーター22及び他方の第2ヒーター23は、それぞれ、複数の発熱体41を有している。即ち、第1ヒーター22は、複数の発熱体41を有し、第2ヒーター23も、複数の発熱体41を有している。
【0049】
第1及び第2ヒーター(22、23)の各発熱体41は、略円形の断面形状を有し、熱処理室21の天井壁38から下方に向かって搬送ローラ40の上方の位置まで真っ直ぐに延びるように設けられている。そして、第1ヒーター22の複数の発熱体41は、第1側壁33に沿って並んで配置されており、第1側壁33と平行な方向に沿って等間隔で並んで配置されている。また、第2ヒーター23の複数の発熱体41は、第2側壁34に沿って並んで配置されており、第4側壁34と平行な方向に沿って等間隔で並んで配置されている。
【0050】
また、第1及び第2ヒーター(22、23)の各発熱体41は、円筒状のチューブと、チューブの内部に配置されて、図示が省略された電源から供給される電気エネルギーを熱エネルギーに変換する電熱体と、を有している。チューブは、当該チューブ内に配置された電熱体への通電によって生じる熱を熱処理室21内の雰囲気に伝達するために設けられている。チューブ内で電熱体から生じた熱によって熱処理室21内の雰囲気が加熱され、加熱された雰囲気によって、熱処理室21内の被処理物10が加熱される。尚、第1及び第2ヒーター(22、23)の各発熱体41は、制御部32からの制御指令に基づいて、発熱動作が行われるように構成されている。制御部32からの制御指令に基づいて各発熱体41の電熱体への通電が行われることで、各発熱体41が発熱動作を行い、熱処理室21内の雰囲気が加熱されて、熱処理室21内の被処理物10が加熱される。
【0051】
[温度測定部]
図1乃至
図3を参照して、温度測定部28は、熱処理室21内における所定の温度測定位置での温度を測定する温度センサとして設けられている。そして、温度測定部28は、熱処理室21内の雰囲気の温度を測定するように構成されている。温度測定部28は、天井壁38から熱処理室21内で下方に向かって棒状に延びる取付具に取り付けられ、熱処理室21内に設置されている。温度測定部28は、熱処理室21内に配置される被処理物10の近傍の位置に配置されている。尚、本実施形態では、温度測定部28は、被処理物10が収納されたケース11が熱処理室21内に搬入及び搬出される際にケース11に当接することの無いように、最上段のケース11の上面よりも高い位置に配置されている。
【0052】
また、温度測定部28は、制御部32に接続されており、温度測定部28の温度測定結果は、制御部32に入力されるように構成されている。尚、制御部32は、温度測定部28の温度測定結果に基づいて、後述する切替駆動部(47、48)を制御する。
【0053】
[雰囲気ガス供給部]
雰囲気ガス供給部31は、被処理物10に所望の熱処理を行うための熱処理用ガスであって熱処理室21内の雰囲気を構成するための雰囲気ガスを熱処理室21内に供給するように構成されている。雰囲気ガス供給部31は、熱処理室21に接続されて熱処理室21の内部に開口する配管を有しており、当該配管は、ポンプ31aおよび図示しないタンクに接続されている。雰囲気ガス供給部31のポンプ31aの動作は、制御部32によって制御される。これにより、タンクに貯蔵された雰囲気ガスは、雰囲気ガス供給部31によって熱処理室21内に供給される。本実施形態では、熱処理用ガスとして、一酸化炭素(CO)ガスなどの、炭素を含むガスが用いられる。このガスにおけるカーボンポテンシャル(質量%)は、被処理物10の母材である炭素鋼の炭素含有量よりも大きく設定されている。
【0054】
[遮蔽部材]
図1乃至
図3を参照して、遮蔽部材(24、25)は、熱処理室21内においてヒーター(22、23)と被処理物10との間に配置されて、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽可能な部材として設けられている。遮蔽部材(24、25)は、一対で設けられており、第1遮蔽部材24及び第2遮蔽部材25として設けられている。
【0055】
熱処理室21内において、第1遮蔽部材24は、第1ヒーター22に沿って配置されている。そして、第1遮蔽部材24は、ケース11に収納された被処理物10がケース11とともに熱処理室21内に搬入されて搬送ローラ40の上方に配置された状態で、第1ヒーター22と被処理物10との間に配置されるように、設置されている。熱処理室21内において、第2遮蔽部材25は、第2ヒーター23に沿って配置されている。そして、第2遮蔽部材25は、ケース11に収納された被処理物10がケース11とともに熱処理室21内に搬入されて搬送ローラ40の上方に配置された状態で、第2ヒーター23と被処理物10との間に配置されるように、設置されている。
【0056】
また、遮蔽部材(24、25)は、後述する切替駆動部(26、27)によって駆動されることで、放射状態と遮蔽状態との間で、自らの状態が(即ち、遮蔽部材(24、25)の状態が)切り替えられるように構成されている。尚、放射状態では、遮蔽部材(24、25)は、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を許容するように配置された状態となっている。一方、遮蔽状態では、遮蔽部材(24、25)は、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽するように配置される状態となっている。
【0057】
図5は、熱処理装置1の模式的な断面図であり、熱処理装置1における遮蔽部材(24、25)の状態が
図1とは異なる状態を示す断面図である。
図1は、遮蔽部材(24、25)の状態が遮蔽状態の場合を示しており、
図5は、遮蔽部材(24、25)の状態が放射状態の場合を示している。また、
図6は、熱処理装置1の一部を拡大して示す図であって、第1遮蔽部材24の状態が遮蔽状態である場合を示す図である。
図7は、熱処理装置1の一部を拡大して示す図であって、第1遮蔽部材24の状態が放射状態である場合を示す図である。尚、
図6は、
図1の一部を拡大して示しており、
図7は、
図5の一部を拡大して示している。また、
図8は、第1遮蔽部材24を模式的に示す図であって、
図8(a)は、第1遮蔽部材24の状態が遮蔽状態である場合を示す図であり、
図8(b)は、第1遮蔽部材24の状態が放射状態である場合を示す図である。尚、
図8(a)及び
図8(b)は、第1遮蔽部材24を被処理物10側から見た状態を模式的に示している。
【0058】
図1乃至
図3、
図5乃至
図8を参照して、遮蔽部材(24、25)は、複数の回転軸42と、複数の遮蔽部材43と、を有している。即ち、第1遮蔽部材24は、複数の回転軸42と、複数の遮蔽部材43と、を有し、第2遮蔽部材25も、複数の回転軸42と、複数の遮蔽部材43と、を有している。尚、
図6乃至
図8では、第1遮蔽部材24のみを図示しているが、第2遮蔽部材25も、第1遮蔽部材24と同様に構成されている。
【0059】
第1及び第2遮蔽部材(24、25)における複数の回転軸42のそれぞれは、互いに平行に延びるように設けられている。また、各回転軸42は、上下方向に真っ直ぐに延びるように設けられ、熱処理室21内において、底壁37から上方に向かって片持ち状に延びるように設けられている。尚、第1遮蔽部材24の複数の回転軸42は、第1ヒーター22と平行な方向に沿って並んで配置されている。そして、第2遮蔽部材25の複数の回転軸42は、第2ヒーター23と平行な方向に沿って並んで配置されている。また、第1及び第2遮蔽部材(24、25)の各回転軸42は、軸心周りに回転自在に支持されている。例えば、各回転軸42の下端側の部分は、底壁37を回転自在な状態で下方に貫通し、各回転軸42の下端部が、図示が省略された軸受部によって軸心周りに回転自在に支持されている。
【0060】
第1及び第2遮蔽部材(24、25)における複数の遮蔽板43は、複数の回転軸42のそれぞれに対して固定されている。これにより、複数の遮蔽板43は、複数の回転軸42のそれぞれを中心としてそれぞれ回転自在に支持されており、複数の回転軸42のそれぞれとともに回転するように設けられている。また、複数の遮蔽板43のそれぞれは、上下方向に長く延びる長方形状の外形の板状体として設けられている。
【0061】
そして、
図1、
図3、
図6、及び
図8(a)に示す遮蔽状態では、複数の遮蔽板43は、平坦に広がる面方向が、各側壁(33、34)と平行な方向に沿って配置された各ヒーター(22、23)の配置方向と平行な方向に広がる同一の面に沿って広がるように、配置される。このため、遮蔽状態では、同一の面に沿って広がる複数の遮蔽板43によって、各ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱が遮蔽される。
【0062】
一方、
図5、
図7、及び
図8(b)に示す放射状態では、複数の遮蔽板43は、平坦に広がる面方向が、各側壁(33、34)と平行な方向に沿って配置された各ヒーター(22、23)の配置方向に対して垂直な方向に沿って互いに平行に広がるように、配置される。このため、放射状態では、隣り合う遮蔽板43の間の領域が大きく開放され、各ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射が許容される。
【0063】
[切替駆動部]
切替駆動部(26、27)は、遮蔽部材(24、25)を駆動して遮蔽部材(24、25)の状態を切り替える機構として設けられている。そして、切替駆動部(26、27)は、
図5に示す放射状態と
図1乃至
図3に示す遮蔽状態との間で、遮蔽部材(24、25)を駆動して遮蔽部材(24、25)の状態を切り替えるように構成されている。尚、放射状態は、遮蔽部材(24、25)がヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を許容するように配置される状態として構成される。遮蔽状態は、遮蔽部材(24、25)がヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽するように配置される状態として構成される。
【0064】
また、切替駆動部(26、27)は、一対で設けられており、第1切替駆動部26及び第2切替駆動部27として設けられている。第1切替駆動部26は、第1遮蔽部材24を駆動して第1遮蔽部材24の状態を放射状態と遮蔽状態との間で切り替えるように構成されている。そして、第2替駆動部27は、第2遮蔽部材25を駆動して第2遮蔽部材25の状態を放射状態と遮蔽状態との間で切り替えるように構成されている。
【0065】
図9は、切替駆動部(26、27)の作動を説明するための図であり、同じ構造を有する切替駆動部(26、27)のうちの第2切替駆動部27を模式的に平面図として示している。また、
図9(a)は、第2切替駆動部27が第2遮蔽部材25の状態を遮蔽状態に切り替えたときの状態を模式的に示す図であり、
図9(b)は、第2切替駆動部27が第2遮蔽部材25の状態を放射状態に切り替えたときの状態を模式的に示す図である。尚、
図9(a)及び
図9(b)では、第2遮蔽部材25における複数の遮蔽板44を二点鎖線で示している。また、
図10は、第2切替駆動部27を模式的に示す図であって、第2切替駆動部27の作動を説明するための図である。尚、
図10は、第2切替駆動部27の一部を拡大して示す図である。
【0066】
図2、
図9及び
図10を参照して、切替駆動部(26、27)は、熱処理室21の底壁37の下側に設置され、複数の揺動部材44、連結棒(45、46)、連結棒駆動部(47、48)、を有している。尚、
図9及び
図10では、第2切替駆動部27を図示しているが、第1切替駆動部26も、第2切替駆動部27と同様に構成されている。即ち、第1切替駆動部26は、複数の揺動部材44、連結棒(45、46)、連結棒駆動部(47、48)、を有し、第2切替駆動部27も、複数の揺動部材44、連結棒(45、46)、連結棒駆動部(47、48)、を有している。
【0067】
第1及び第2切替駆動部(26、27)における複数の揺動部材44のそれぞれは、外形が長方形状の板状の部材として設けられ、複数の回転軸42のそれぞれに固定されている。尚、切替駆動部(26、27)は、底壁37の下側に設置されており、各揺動部材44は、底壁37に対して回転自在に支持されて底壁37を貫通した各回転軸42の下端部分に固定されている。
【0068】
また、各揺動部材44は、長方形状の板状に延びる方向が各回転軸42に対して垂直な方向に突出して延びた状態で、各回転軸42に固定されている。また、各揺動部材44は、遮蔽部材(24、25)が遮蔽状態のときにおいて、入口扉35aから出口扉36aに向かう進行方向X1と平行に複数の回転軸42が並ぶ方向に対して入口扉35a側に向かって所定の角度で斜めに突出して延びた状態で、各回転軸42に固定されている。また、遮蔽部材(24、25)が遮蔽状態のときにおいて、複数の揺動部材44は、複数の回転軸42が並ぶ方向に対して、所定の角度で両側のそれぞれに交互に斜めに突出して延びるように、設けられている。また、各揺動部材44には、後述する連結棒(45、46)に揺動自在に連結されるための長孔44aが設けられている。
【0069】
連結棒(45、46)は、複数の揺動部材44を連結する棒状の部材として設けられている。第1及び第2切替駆動部(26、27)のそれぞれにおいて、連結棒(45、46)は、一対で設けられている。一対の連結棒(45、46)は、互いに平行に延びるとともに、複数の回転軸42が並ぶ方向と平行な方向に沿って延びるように設置されている。連結棒45は、第1及び第2切替駆動部(26、27)のそれぞれにおける複数の揺動部材44のうちの半数を連結し、連結棒46は、第1及び第2切替駆動部(26、27)のそれぞれにおける複数の揺動部材44のうちの残りの半数を連結するように構成されている。より具体的には、連結棒45は、複数の回転軸42が並ぶ方向に沿って並ぶ複数の揺動部材44を1つおきに連結し、複数の揺動部材44の半数(本実施形態の例では5個)を連結するように設けられている。そして、連結棒46は、連結棒45に連結されていない揺動部材44を連結するように設けられている。即ち、連結棒46は、複数の回転軸42が並ぶ方向に沿って並ぶ複数の揺動部材44を1つおきに連結して複数の揺動部材44の残りの半数(本実施形態の例では5個)を連結するように設けられている。
【0070】
また、各連結棒(45、46)には、複数の揺動部材44を揺動自在に連結するための複数の連結ピン(45a、46a)が設けられている。即ち、連結棒45には、複数の揺動部材44の半数を揺動自在に連結するための複数の連結ピン45aが設けられ、連結棒46には、複数の揺動部材44の残りの半数を揺動自在に連結するための複数の連結ピン46aが設けられている。
【0071】
連結棒45における各連結ピン45aは、連結棒45の棒状部分から上方に向かって片持ち状に突出するとともに、各揺動部材44の長孔44aを遊嵌状態で貫通するように設けられている。尚、連結棒45の各連結ピン45aは、第1及び第2切替駆動部(26、27)のそれぞれにおける複数の揺動部材44のうちの半数の揺動部材44のそれぞれの長孔44aを遊嵌状態で貫通している。これにより、連結棒45に対して、第1及び第2切替駆動部(26、27)のそれぞれにおける複数の揺動部材44の半数がそれぞれ揺動自在に連結されている。
【0072】
また、連結棒46における各連結ピン46aは、連結棒46の棒状部分から上方に向かって片持ち状に突出するとともに、各揺動部材44の長孔44aを遊嵌状態で貫通するように設けられている。尚、連結棒46の各連結ピン46aは、第1及び第2切替駆動部(26、27)のそれぞれにおける複数の揺動部材44のうちの残りの半数の揺動部材44のそれぞれの長孔44aを遊嵌状態で貫通している。これにより、連結棒46に対して、第1及び第2切替駆動部(26、27)のそれぞれにおける複数の揺動部材44のうちの残りの半数がそれぞれ揺動自在に連結されている。
【0073】
連結棒駆動部(47、48)は、連結棒(45、46)を進退移動させるように駆動する機構として設けられている。第1及び第2切替駆動部(26、27)のそれぞれにおいて、連結棒駆動部(47、48)は、一対で設けられている。そして、連結棒駆動部47は、連結棒45を進退移動させるように駆動するよう構成され、連結棒駆動部48は、連結棒46を進退移動させるように駆動するよう構成されている。尚、本実施形態では、連結棒駆動部(47、48)は、底壁37の下面に対して、前方壁35側において設置されている。
【0074】
また、連結棒駆動部(47、48)は、連結棒(45、46)を直線方向に沿って往復動作させることで連結棒(45、46)を進退移動させる機構として設けられ、例えば、エアー圧又は油圧によって作動するシリンダ機構として構成されている。連結棒駆動部(47、48)は、シリンダ機構として構成される場合、例えば、ピストンと、ピストンで区画されるとともに圧力媒体が給排される一対の圧力室を有するシリンダ本体と、ピストンに一端が連結されるとともに他端が連結棒(45、46)の端部に連結されたロッドと、を備えて構成される。連結棒駆動部(47、48)が作動して、ロッドがシリンダ本体から突出する方向に移動することで、連結棒(45、46)が連結棒駆動部(47、48)から進出するように駆動される。そして、連結棒駆動部(47、48)が作動して、ロッドがシリンダ本体に退避するように移動することで、連結棒(45、46)が連結棒駆動部(47、48)側に退避するように駆動される。
【0075】
連結棒駆動部(47、48)は、制御部32からの制御指令に基づいて作動し、連結棒(45、46)に進出動作及び退避動作を行わせるように、連結棒(45、46)を駆動する。より具体的には、例えば、図示が省略された圧力エアーの圧力源とシリンダ本体の圧力室とを連結する圧力エアー給排経路に設けられた電磁弁ユニットが制御部32からの制御指令に基づいて作動することで、連結棒駆動部(47、48)が作動し、連結棒(45、46)の進出動作及び退避動作が行われる。
【0076】
図9(a)では、連結棒駆動部(47、48)に連結棒(45、46)が退避した状態が図示されており、
図9(b)では、連結棒駆動部(47、48)から連結棒(45、46)が進出した状態が図示されている。また、
図9(a)及び
図10では、進出動作を行う連結棒(45、46)の進出方向X2が矢印X2で示されており、
図9(b)及び
図10では、退避動作を行う連結棒(45、46)の退避方向X3が矢印X3で示されている。尚、本実施形態では、進出方向X2は、入口扉35aから出口扉36aに向かう進行方向X1と平行な方向に設定されており、退避方向X3は、進行方向X1と逆向きの方向に設定されている。
【0077】
連結棒駆動部(47、48)によって連結棒(45、46)が進退移動するように駆動されると、揺動部材44の長孔44aを遊嵌状態で貫通した連結ピン(45a、46a)も移動する。これにより、回転軸42に固定された揺動部材44が、回転軸42を中心として回転するように揺動する。そして、揺動部材44の揺動とともに、回転自在に支持されている回転軸42が回転する。尚、
図10では、回転軸42を中心として揺動する揺動部材44の揺動方向X4について、両端矢印X4で示している。また、
図10では、連結棒(45、46)が退避した状態における揺動部材44の位置を実線で図示しており、連結棒(45、46)が進出方向X2に進出動作を行う際における進出動作の途中時及び完了時の揺動部材44の位置を二点鎖線で示している。
【0078】
図9(a)に示すように連結棒(45、46)が退避した状態では、遮蔽部材(24、25)の状態は、遮蔽状態となっている。この状態から、連結棒(45、46)が連結棒駆動部(47、48)によって駆動されることで、連結棒(45、46)が進出方向X2に進出する。これに伴い、各揺動部材44の長孔44aを貫通した各連結ピン(45a、46a)も進出方向X2に沿って移動し、複数の揺動部材44が揺動する。そして、複数の揺動部材44の揺動とともに、回転自在に支持されている複数の回転軸42が回転し、複数の回転軸42とともに複数の遮蔽板43が同時に回転する。これにより、遮蔽部材(24、25)の状態が、遮蔽状態から、
図5、
図7、
図8(b)、及び
図9(b)に示す放射状態へと、切り替えられる。これにより、切替駆動部(47、48)は、複数の遮蔽板44を同時に回転させることで、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態から放射状態へと切り替えるように構成されている。
【0079】
また、
図9(b)に示すように連結棒(45、46)が進出した状態では、遮蔽部材(24、25)の状態は、放射状態となっている。この状態から、連結棒(45、46)が連結棒駆動部(47、48)によって駆動されることで、連結棒(45、46)が退避方向X3に退避する。これに伴い、各揺動部材44の長孔44aを貫通した各連結ピン(45a、46a)も退避方向X3に沿って移動し、複数の揺動部材44が揺動する。そして、複数の揺動部材44の揺動とともに、回転自在に支持されている複数の回転軸42が回転し、複数の回転軸42とともに複数の遮蔽板43が同時に回転する。これにより、遮蔽部材(24、25)の状態が、放射状態から、
図1乃至
図3、
図6、
図8(a)、及び
図9(a)に示す遮蔽状態へと、切り替えられる。これにより、切替駆動部(47、48)は、複数の遮蔽板44を同時に回転させることで、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替えるように構成されている。
【0080】
また、切替駆動部(47、48)は、制御部32からの制御指令に基づいて作動し、遮蔽部材(24、25)の状態を、遮蔽状態から放射状態へと、或いは放射状態から遮蔽状態へと、切り替えるように構成されている。より具体的には、切替駆動部(47、48)は、制御部32からの制御指令に基づいて連結棒駆動部(47、48)が連結棒(45、46)に進出動作及び退避動作を行わせるように作動することで、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態と放射状態との間で切り替えるように構成されている。
【0081】
また、切替駆動部(47、48)は、温度測定部28による温度測定結果に基づいて、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態と放射状態との間で切り替えるように構成されている。前述の通り、温度測定部28は、制御部32に接続されており、温度測定部28の温度測定結果は、制御部32に入力されるように構成されている。そして、制御部32は、温度測定部28の温度測定結果に基づいて制御指令を作成し、その制御指令に基づいて、遮蔽部材(24、25)の状態の遮蔽状態と放射状態との間での切り替えが行われる。即ち、切替駆動部(47、48)は、温度測定部28の温度測定結果に基づく制御部32の制御によって、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態と放射状態との間で切り替えるように構成されている。
【0082】
また、切替駆動部(47、48)は、温度測定部28の温度測定結果に基づく制御部32の制御によって、被処理物10の加熱時に温度測定部28によって測定された温度が、A1変態点よりも低い所定の温度に到達したときに、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替えるように構成されている。具体的には、例えば、切替駆動部(47、48)は、被処理物10の加熱時に温度測定部28によって測定された温度が、A1変態点よりも50℃低い所定の温度に到達したときに、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替えるように構成されている。尚、加熱処理中においては、熱処理室21内の雰囲気の温度の上昇に追従するように、被処理物10の温度が上昇する。このため、温度測定部28での測定温度がA1変態点よりも50℃低い所定の温度に到達したときには、被処理物10の温度は、A1変態点よりも50℃低い所定の温度よりも更に低い温度となっている。このため、被処理物10がA1変態点よりも50℃低い所定の温度に到達したときには、遮蔽部材(24、25)の状態は、既に放射状態から遮蔽状態へと切り替えられた状態となっている。尚、A1変態点は、例えば、727℃である。
【0083】
また、切替駆動部(47、48)は、温度測定部28の温度測定結果に基づく制御部32の制御によって、被処理物10の加熱時に温度測定部28によって測定された温度が、A3変態点よりも高い所定の温度よりも更に高い温度としての切替用温度に到達したときに、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態から放射状態へと切り替えるように構成されている。具体的には、例えば、切替駆動部(47、48)は、被処理物10の加熱時に温度測定部28によって測定された温度が、A3変態点よりも50℃高い所定の温度よりも更に高い切替用温度に到達したときに、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態から放射状態へと切り替えるように構成されている。上記の切替用温度は、加熱処理中における被処理物10の温度がA3変態点よりも50℃高い所定の温度を超えている温度として設定される。上記の切替用温度は、例えば、加熱処理中における被処理物10の温度と温度測定部28での測定温度との関係を予め確認した結果に基づいて、設定される。
【0084】
上記により、切替駆動部(47、48)は、被処理物10の温度がA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態に維持するように構成されている。そして、上記の所定の温度範囲は、少なくとも、A1変態点よりも50℃低い温度以上であってA3変態点よりも50℃高い温度以下の温度範囲を含むように設定されている。
【0085】
[遠心ファン]
図11は、遠心ファン29及び気流調整部30を模式的に示す図であって、
図11(a)は、遠心ファン29及び気流調整部30を水平方向から見た図であり、
図11(b)は、遠心ファン29及び気流調整部30を上方から見た図である。尚、
図11(a)は、遠心ファン29及び気流調整部30を
図11(b)に示す矢印S方向から見た図である。
図1、
図2、
図5、及び
図11を参照して、遠心ファン(ファン)29は、熱処理室21内において被処理物10に対向して配置され、被処理物10側から気体を吸い込んで被処理物10の周囲を通過する気流を生じさせるファンとして設けられている。
【0086】
遠心ファン29は、熱処理室21内において、天井壁38に設置されている。そして、遠心ファン29は、被処理物10を収納したケース11を搬送する複数の搬送ローラ40の上方の領域であって天井壁38の中央部分の下方の領域に配置されている。これにより、遠心ファン29は、複数の搬送ローラ40によってケース11とともに搬送されて熱処理室21内に配置される被処理物10の上方において被処理物10に対向して配置されるように構成されている。また、遠心ファン29は、被処理物10とともに、一対のヒーター(22、23)の間に配置されるように構成されている。
【0087】
また、遠心ファン29は、ファン回転軸49と回転羽根50とを備えて構成されている。ファン回転軸49は、上下方向に延びるように配置され、天井壁38を貫通して配置されるとともに、天井壁38に対して回転自在に設置されている。ファン回転軸49の下端側は、熱処理室21内に配置され、回転羽根50が固定されている。そして、ファン回転軸49の上端側は、天井壁38を貫通して熱処理室21の外部に配置され、ファン駆動モータ53に連結されている。ファン駆動モータ53は、ファン回転軸49を回転駆動する電動モータとして設けられ、制御部32からの制御指令に基づいて回転するように構成されている。
【0088】
回転羽根50は、天井壁38の近傍に配置された状態で、ファン回転軸49に固定されている。そして、回転羽根50は、ファン回転軸49に固定されるハブ50aと、ファン回転軸49を中心としてハブ50aから放射状に延びる複数の羽根50bと、を備えて構成されている。尚、本実施形態では、複数の羽根50bとして6枚の羽根50bを備えて構成された回転羽根50の形態を例示している。また、本実施形態では、羽根50bの形状として、上下方向に広がる面を有し、ファン回転軸49から遠心ファン29の径方向外側に向かって平面状に広がる形状を例示しているが、羽根50bの形状はこの通りでなくてもよい。羽根50bの形状としては、曲面状に広がる形状であってもよく、また、平面状に広がった部分及び曲面状に広がった部分が種々組み合わされた形状であってもよい。
【0089】
回転羽根50は、ファン回転軸49に固定されており、ファン駆動モータ53によって回転駆動されるファン回転軸49とともに回転する。そして、回転羽根50は、天井壁38の近傍の領域において、回転軸49とともに複数の羽根50bが回転することで、下方の被処理物10側から吸い込んだ気体を遠心ファン29の径方向の外方に流動させるように構成されている。また、遠心ファン29は、下方の被処理物10側から気体を吸い込むことで、被処理物10の下方から上方に向かう気流を生じさせるように構成されている。これにより、遠心ファン29は、遮蔽部材(24、25)が延びる方向と平行な方向である上下方向に沿って被処理物10の周囲を通過する気流を生じさせるように構成されている。
【0090】
[気流調整部]
図12は、熱処理装置1の模式的な断面図であって、熱処理装置1における熱処理室21内の構成を一部省略して示す図である。尚、
図12は、
図2のB-B線矢視位置に対応する位置から見た熱処理室21の状態を一部の構成を省略して平面図として示している。
図1、
図2、
図5乃至
図7、
図11及び
図12を参照して、気流調整部30は、熱処理室21内において、天井壁38に設置されている。そして、気流調整部30は、遠心ファン29の周囲に配置され、遠心ファン29から遠心ファン29の径方向の外方に流動する気流の流れを調整する機構として設けられている。
【0091】
気流調整部30は、第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52を有して構成されている。第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52は、遠心ファン29の周囲において、遠心ファン29の外周方向に沿って配置されている。また、第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52は、遠心ファン29を挟んで対向して配置されている。
【0092】
ここで、気流調整部30の第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52の熱処理室21内における配置構成について更に詳しく説明する。
図12において、熱処理室21の一対の側壁(33、34)の中間位置M1を一点鎖線M1で示している。中間位置M1は、一対の側壁(33、34)から等距離な位置であって、各側壁(33、34)と平行な面に沿った位置となる。
【0093】
また、
図12において、熱処理室21内における中間位置M1よりも第1側壁33側の領域であって、且つ、前方壁35及び後方壁36の中間の位置よりも後方壁36側の領域R1を、二点鎖線R1で囲んだ領域として示している。領域R1は、第1気流規制部材51が配置され、遠心ファン29からの気流の流れが、第1気流規制部材51によって規制される領域として構成される。尚、以下、領域R1について、第1気流規制領域R1とも称する。第1気流規制部材51は、第1気流規制領域R1において、遠心ファン29に対して遠心ファン29の径方向の外側に配置され、天井壁38に固定されている。第1気流規制部材51の上端部分の複数個所には、取付部51aが設けられている。取付部51aが天井壁38に取り付けられることで、第1気流規制部材51が天井壁38に固定されて取り付けられている。
【0094】
また、
図12において、熱処理室21内における中間位置M1よりも第2側壁34側の領域であって、且つ、前方壁35及び後方壁36の中間の位置よりも前方壁35側の領域R2を、二点鎖線R2で囲んだ領域として示している。領域R2は、第2気流規制部材52が配置され、遠心ファン29からの気流の流れが、第2気流規制部材52によって規制される領域として構成される。尚、以下、領域R2について、第2気流規制領域R2とも称する。第2気流規制部材52は、第2気流規制領域R2において、遠心ファン29に対して遠心ファン29の径方向の外側に配置され、天井壁38に固定されている。第2気流規制部材52の上端部分の複数個所には、取付部52aが設けられている。取付部52aが天井壁38に取り付けられることで、第2気流規制部材52が天井壁38に固定されて取り付けられている。
【0095】
また、
図12において、熱処理室21内における中間位置M1よりも第1側壁33側の領域であって、且つ、前方壁35及び後方壁36の中間の位置よりも前方壁35側の領域P1を、破線P1で囲んだ領域として示している。領域P1は、第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52のいずれも配置されず、開放された領域として構成されている。このため、領域P1は、遠心ファン29からの気流の流れが規制されず、遠心ファン29からの気流の流れが許容される領域として構成される。尚、以下、領域P1について、第1気流許容領域P1とも称する。
【0096】
また、
図12において、熱処理室21内における中間位置M1よりも第2側壁34側の領域であって、且つ、前方壁35及び後方壁36の中間の位置よりも後方壁36側の領域P2を、破線P2で囲んだ領域として示している。領域P2は、第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52のいずれも配置されず、開放された領域として構成されている。このため、領域P2は、遠心ファン29からの気流の流れが規制されず、遠心ファン29からの気流の流れが許容される領域として構成される。尚、以下、領域P2について、第2気流許容領域P2とも称する。
【0097】
また、
図12において、遠心ファン29の回転羽根50の回転方向X5を一点鎖線の矢印X5で示している。本実施形態では、遠心ファン29の回転羽根50の回転方向X5は、上方から見て時計周りに回転するように設定されている。このため、回転羽根50の回転時には、回転羽根50の各羽根50bは、第1気流許容領域P1を回転の起点として説明すると、第1気流許容領域P1、第1気流規制領域R1、第2気流許容領域P2、第2気流規制領域R2の順番で繰り返し移動しながら、回転軸49の周りを回転する。
【0098】
また、回転羽根50が上記のように回転方向X5に回転するため、回転羽根50の外周縁部50cは、第1気流規制領域R1においては第1側壁33から離間し、第2気流許容領域P2においては第2側壁34に接近し、第2気流規制領域R2においては第2側壁34から離間し、第1気流許容領域P1においては第1側壁33に接近する。尚、回転羽根50の外周縁部50cは、ハブ50aから放射状に伸びる各羽根50bの先端側の縁部として構成される。
【0099】
第1気流規制部材51は、前記のように、第1気流規制領域R1において遠心ファン29の径方向の外側に配置されている。このため、第1気流規制領域R1においては、回転羽根50は、第1気流規制部材51に対して遠心ファン29の径方向の内側において、回転する。そして、回転羽根50の回転時には、回転羽根50の外周縁部50cは、第1気流規制領域R1において、第1側壁33から離間する方向に回転する。よって、第1気流規制部材51は、熱処理室21内における中間位置M1よりも第1側壁33側の領域であって回転羽根50の回転時に回転羽根50の外周縁部50cが第1側壁33から離間する領域である第1気流規制領域R1における遠心ファン29から第1側壁33側への気流の流れを規制するように構成されている。
【0100】
また、第2気流規制部材52は、前記のように、第2気流規制領域R2において遠心ファン29の径方向の外側に配置されている。このため、第2気流規制領域R2においては、回転羽根50は、第2気流規制部材52に対して遠心ファン29の径方向の内側において、回転する。そして、回転羽根50の回転時には、回転羽根50の外周縁部50cは、第2気流規制領域R2において、第2側壁34から離間する方向に回転する。よって、第2気流規制部材52は、熱処理室21内における中間位置M1よりも第2側壁34側の領域であって回転羽根50の回転時に回転羽根50の外周縁部50cが第2側壁34から離間する領域である第2気流規制領域R2における遠心ファン29から第2側壁34側への気流の流れを規制するように構成されている。
【0101】
また、前記のように、第1気流規制領域R1及び第2気流規制領域R2においては、遠心ファン29からの気流の流れが規制される。このため、気流調整部30は、熱処理室21内における一対の側壁(33、34)の中間位置よりも各側壁(33、34)側の領域において、遠心ファン29の回転羽根50の回転時の遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れを、回転する回転羽根50の外周縁部50cが各側壁(33、34)から離間する領域(R1、R2)においては規制するように調整する。また、前記のように、第1気流許容領域P1及び第2気流許容領域P2においては、遠心ファン29からの気流の流れが許容される。このため、気流調整部30は、熱処理室21内における一対の側壁(33、34)の中間位置M1よりも各側壁(33、34)側の領域において、遠心ファン29の回転羽根50の回転時の遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れを、回転する回転羽根50の外周縁部50cが各側壁に接近する領域(P1、P2)においては許容するように調整する。
【0102】
また、第1気流規制部材51は、遠心ファン29の外周に沿って湾曲して配置された湾曲壁面である第1湾曲壁面51bを有している。そして、第2気流規制部材52は、遠心ファン29の外周に沿って湾曲して配置された湾曲壁面である第2湾曲壁面52bを有している。即ち、第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52のそれぞれは、遠心ファン29の外周に沿って湾曲して配置された湾曲壁面(51b、52b)を有している。
【0103】
第1気流規制部材51の第1湾曲壁面51bと第2気流規制部材52の第2湾曲壁面52bとは、遠心ファン29を挟んで対向して配置されている。また、第1湾曲壁面51b及び第2湾曲壁面52bは、遠心ファン29の回転羽根50よりも、被処理物10側から被処理物10側と反対側に向かって延びる方向(即ち、上下に延びる方向)における寸法が大きくなるように、構成されている。即ち、第1湾曲壁面51b及び第2湾曲壁面52bの高さ寸法(上下方向の寸法)は、遠心ファン29の回転羽根50の高さ寸法(上下方向の寸法)よりも大きく設定されている。
【0104】
第1湾曲壁面51bは、遠心ファン29の外周に沿って湾曲する第1気流規制部材51における遠心ファン29に対向する曲面として構成されている。また、本実施形態では、第1湾曲壁面51aは、上下方向に垂直な断面である水平断面における形状が、円弧形状に形成されている。そして、第1湾曲壁面51aの水平断面における円弧形状の曲率半径は、被処理物10側である第1気流規制部材51の下端側において大きく設定され、被処理物10側と反対側である第1気流規制部材51の上端側において小さく設定されている。このため、第1湾曲壁面51aは、下方から上方にかけて(即ち、被処理物10側から被処理物10側と反対側にかけて)窄まる円錐曲面の一部として構成されている。
【0105】
第2湾曲壁面52bは、遠心ファン29の外周に沿って湾曲する第2気流規制部材52における遠心ファン29に対向する曲面として構成されている。また、本実施形態では、第2湾曲壁面52aは、上下方向に垂直な断面である水平断面における形状が、円弧形状に形成されている。そして、第2湾曲壁面52aの水平断面における円弧形状の曲率半径は、被処理物10側である第2気流規制部材52の下端側において大きく設定され、被処理物10側と反対側である第2気流規制部材52の上端側において小さく設定されている。このため、第2湾曲壁面52aは、下方から上方にかけて(即ち、被処理物10側から被処理物10側と反対側にかけて)窄まる円錐曲面の一部として構成されている。
【0106】
上記のように、第1湾曲壁面51b及び第2湾曲壁面52bは、被処理物10側から被処理物10側と反対側にかけて窄まる円錐曲面の一部として構成されている。このため、第1湾曲壁面51b及び第2湾曲壁面52bは、被処理物10側から被処理物10側と反対側にかけて、遠心ファン29の回転羽根50の外周縁部50cに向かって互いに接近して延びるように設けられている。
【0107】
図13及び
図14は、熱処理装置1の模式的な断面図であって、遠心ファン29及び気流調整部30の作動を説明するための図である。尚、
図13は、
図1に対応する熱処理装置1の模式的な断面図であり、
図14は、
図2に対応する熱処理装置1の模式的な断面図である。
図13及び
図14を参照して、遠心ファン29及び気流調整部30の作動による熱処理室21内における気流の流れについて更に説明する。
【0108】
制御部32からの制御指令に基づいてファン駆動モータ53が作動してファン回転軸49とともに回転羽根50が回転方向X5に回転する。熱処理室21における平行な一対の側壁(33、34)の間において、気流調整部30の第1及び第2気流規制部材(51、52)の間に配置されているとともに被処理物10に対向して配置されるた遠心ファン29の回転羽根50が回転することで、熱処理室21内において循環する気流の流れが生じることになる。尚、
図13及び
図14では、遠心ファン29の回転羽根50の回転方向X5を一点鎖線の矢印X5で示している。また、
図13及び
図14では、遠心ファン29及び気流調整部30の作動によって熱処理室21内において循環する気流の流れ方向X6を複数の一点鎖線の矢印X6で示している。
【0109】
熱処理室21における平行な一対の側壁(33、34)の間において、被処理物10に対向して配置された遠心ファン29の回転羽根50が回転することで、被処理物10側の気体が吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かうように流れ方向X6に沿って流れる気流が生じる。そして、遠心ファン29によって被処理物10側から吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かって流れた気流は、気流調整部30によって調整されながら流動することになる。即ち、第1及び第2気流規制領域(R1、R2)においては、第1及び第2気流規制部材(51、52)によって、遠心ファン29から第1及び第2側壁(33、34)側への気流の流れが規制される。そして、第1及び第2気流許容領域(P1、P2)においては、遠心ファン29から第1及び第2側壁(33、34)側への気流の流れが許容される。
【0110】
上記により、被処理物10側から吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かって流れた気流は、遠心ファン29の回転による送風作用と気流調整部30による気流の流動方向の調整作用とによって、
図13及び
図14にて流れ方向X6として示すように、各側壁(33、34)に向かって流動しながら、更に、各側壁(33、34)に沿って流動する。また、このとき、気流は、上方から下方に向かって下降しながら、各側壁(33、34)に沿って流動する。そして、各側壁(33、34)に沿って流動した気流は、被処理物10の下方から被処理物10側に流動し、被処理物10を通過して遠心ファン29に吸い込まれ、再び、遠心ファン29の径方向の外方に流動する。これにより、熱処理中に、熱処理室21内の雰囲気が、被処理物10を通過した後に各側壁(33、34)に沿って流動して再び被処理物10を通過するように、全体的に効率よく循環して流動することになる。
【0111】
[制御部]
図1乃至
図3、
図5、
図13及び
図14を参照して、熱処理室21内において、被処理物10の熱処理動作は、制御部32によって制御される。具体的には、制御部32は、搬送ローラ40のチェーン機構を駆動する電動モータ、遠心ファン29を回転駆動するファン駆動用モータ53、雰囲気ガス供給部31のポンプ31a、第1及び第2ヒーター(22、23)、第1及び第2切替駆動部(26、27)の動作を制御することで、被処理物10の熱処理動作を制御する。
【0112】
また、制御部32は、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェア・プロセッサ、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)等のメモリ、ユーザによって操作される操作パネル等の操作部、インターフェース回路、等を備えて構成されている。制御部32のメモリには、ファン駆動用モータ53、雰囲気ガス供給部31のポンプ31a、第1及び第2ヒーター(22、23)、第1及び第2切替駆動部(26、27)等の作動を制御する制御指令を作成するためのプログラムが記憶されている。例えば、作業者によって操作部が操作されることで、メモリから上記のプログラムがハードウェア・プロセッサによって読み出されて実行される。これにより、上記の制御指令が作成され、その制御指令に基づいて、ファン駆動用モータ53、雰囲気ガス供給部31のポンプ31a、第1及び第2ヒーター(22、23)、第1及び第2切替駆動部(26、27)が作動する。
【0113】
また、前述のように、温度測定部28の温度測定結果は、制御部32に入力されるように構成されている。そして、制御部32は、温度測定部28の温度測定結果に基づいて、第1及び第2切替駆動部(26、27)の動作を制御するように構成されている。また、制御部32は、温度測定部28で測定された温度測定結果に基づいて、第1及び第2ヒーター(22、23)の各発熱体41の発熱動作を制御し、熱処理室21内の温度が所定の温度上昇パターンに沿って上昇するように制御する。尚、制御部32は、例えば、第1及び第2ヒーター(22、23)の各発熱体41の電熱体に通電する際の電力を調整することで、各発熱体41の発熱動作の制御を行う。
【0114】
[熱処理装置の動作]
次に、熱処理装置1における熱処理動作の一例について説明する。
図15は、熱処理装置1における熱処理動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図15に示す熱処理装置1の動作が行われることで、本実施形態の熱処理方法が実施される。以下では、フローチャートを参照して説明するときは、フローチャート以外の図も適宜参照しながら説明する。
【0115】
熱処理装置1における熱処理動作では、まず、例えば、作業者、または、機械による自動搬入装置(図示せず)によって、被処理物10が入口扉35aから熱処理室21内に搬入される。尚、被処理物10は、ケース11に収納された状態でケース11とともに熱処理室21内に搬入される。熱処理室21内に搬入された被処理物10は、熱処理室21内において複数の搬送ローラ40の上に配置される。そして、制御部32からの制御指令に基づいて駆動される搬送ローラ40によって、ケース11が、熱処理室21内における略中央部分の所定の位置まで搬送される。所定の位置まで搬送されると、搬送ローラ40による搬送が停止され、ケース11に収納された被処理物10が熱処理室21内における所定の位置に配置された状態となる(ステップS101)。尚、被処理物10は、熱処理室21内に配置された状態では、一対のヒーター(22、23)の間であって、一対の遮蔽部材(24、25)の間に配置される。更に、被処理物10は、熱処理室21内に配置された状態では、遠心ファン29の下方で、遠心ファン29に対向して配置される。
【0116】
被処理物10が熱処理室21内に配置されると、次いで、被処理物10を加熱する熱処理が行われる(ステップS102)。即ち、加熱処理対象としての金属製の被処理物10及びヒーター(22、23)が配置される熱処理室21内において、ヒーター(22、23)を用いて被処理物10を加熱する加熱ステップ(ステップS102)が行われる。より具体的には、制御部32の制御によって、ヒーター(22、23)の発熱動作が開始され、熱処理室21内の雰囲気が加熱される。そして、加熱された熱処理室21内の雰囲気によって、熱処理室21内の被処理物10が加熱される。
【0117】
また、被処理物10が加熱される加熱ステップにおいては、第1及び第2ヒーター(22、23)の発熱動作とともに、遠心ファン29の回転動作が行われる。具体的には、制御部32の制御によって、第1及び第2ヒーター(22、23)の発熱動作が開始されるとともに、遠心ファン29のファン回転軸49を回転駆動するファン駆動モータ53の運転が開始される。遠心ファン29が回転することで、熱処理室21内を循環する気流が生じ、この気流が、気流調整部30によって調整されながら流動する。これにより、
図13及び
図14にて示す流れ方向X6に沿って熱処理室21内で循環して流動する気流の流れが形成される。このため、加熱ステップ中においては、熱処理室21内の雰囲気が、被処理物10を通過した後に各側壁(33、34)に沿って流動して再び被処理物10を通過するように、全体的に効率よく循環して流動する。
【0118】
加熱ステップにおいては、制御部32の制御に基づいて、まず、熱処理室21内の雰囲気がA1変態点の温度まで加熱される。熱処理室21内の雰囲気の温度がA1変態点まで上昇すると、例えば、その温度が、所定の時間の間、維持されてもよい。これにより、被処理物10の内部を含む全体を、A1変態点まで加熱することができる。次いで、加熱ステップにおいては、制御部32の制御に基づいて、熱処理室21内の雰囲気がA1変態点の温度からA3変態点の温度まで加熱される。熱処理室21内の雰囲気がA3変態点の温度まで加熱されると、更に、制御部32の制御に基づいて、熱処理室21内の雰囲気がA3変態点以上の所定の最大設定温度まで加熱される。
【0119】
図16は、熱処理装置1で熱処理される被処理物10の状態について説明するための、Fe-C合金の模式的な平衡状態図である。加熱ステップにおいては、被処理物10の内部は、例えば、
図16において破線の矢印L1で示す線L1で規定される経過を辿って、A3変態点より高い温度まで加熱される。この際、被処理物10の内部は、A1変態点以下の温度において、フェライト+セメンタイトの状態となっている。そして、被処理物10の内部は、線L1で示されているように、A1変態点を超えると、フェライト+オーステナイトの状態に変態する。被処理物10がさらに温度上昇することで、被処理物10の内部の温度がA3変態点を超えると、フェライトが消失し、オーステナイト状態に変態する。そして、被処理物10の内部のカーボンポテンシャルは、A3変態点を超える温度まで加熱された場合でも変化しない。
【0120】
一方、被処理物10の表面は、例えば、
図16において破線の矢印L2で示す線L2で示される経過を辿ることで、カーボンポテンシャルが増加し、概ね、熱処理室21内の雰囲気のカーボンポテンシャルに収束していく。被処理物10の表面は、熱処理室21内の雰囲気の温度上昇とともに、雰囲気中の炭素と反応する。これにより、被処理物10の表面のカーボンポテンシャルが上昇する。特に、被処理物10の表面は、A1変態点に到達するまでの間、温度上昇と略比例するようにして、カーボンポテンシャルが上昇する。そして、被処理物10の表面の温度がA1変態点に近くなると、被処理物10の表面のカーボンポテンシャルは、被処理物10の外表面の温度上昇とともに僅かながら増えつつも略一定となる。このようにして、被処理物10の表面の浸炭処理が行われる。
【0121】
また、加熱ステップでは、熱処理室21内においてヒーター(22、23)と被処理物10との間に配置された遮蔽部材(24、25)によって、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽する遮蔽ステップ(ステップS104)が行われる。遮蔽ステップは、加熱ステップの実行中に実行される。より具体的には、加熱ステップ中において、制御部32の制御によって、切替駆動部(47、48)の動作が制御され、遮蔽部材(24、25)の状態が放射状態から遮蔽状態へと切り替えられて遮蔽状態に維持されることで、遮蔽ステップが実行される。
【0122】
本実施形態では、加熱ステップの開始時には、遮蔽部材(24、25)の状態は、放射状態となっている。そして、加熱ステップの開始後、温度測定部28の温度測定結果に基づいて、制御部32が、切替駆動部(47、48)を制御し、切替駆動部(47、48)の作動によって、遮蔽部材(24、25)の状態が放射状態から遮蔽状態へと切り替えられる。より具体的には、被処理物10の加熱時に温度測定部28によって測定された温度が、例えば、A1変態点よりも50℃低い所定の温度に到達したときに、制御部32の制御によって、切替駆動部(47、48)が作動し、遮蔽部材(24、25)の状態が放射状態から遮蔽状態へと切り替えられる。
【0123】
遮蔽部材(24、25)の状態が放射状態から遮蔽状態へと切り替えられると、その状態は、温度測定部28によって測定された温度が、A3変態点よりも50℃高い所定の温度よりも更に高い前述の切替用温度に到達するまで維持される。そして、被処理物10の加熱時に温度測定部28によって測定された温度が、例えば、A3変態点よりも50℃高い所定の温度よりも更に高い切替用温度に到達したときに、制御部32の制御によって、切替駆動部(47、48)が作動し、遮蔽部材(24、25)の状態が遮蔽状態から放射状態へと切り替えられる。
【0124】
尚、加熱ステップ中においては、温度測定部28での測定温度がA1変態点よりも50℃低い所定の温度に到達したときには、被処理物10の温度は、A1変態点よりも50℃低い所定の温度よりも更に低い温度となっている。そして、温度測定部28での測定温度がA3変態点よりも50℃高い所定の温度よりも更に高い切替用温度に到達したときには、被処理物10の温度は、既にA3変態点よりも50℃高い所定の温度となっている。このため、本実施形態では、被処理物10の温度が、A1変態点を含む温度範囲内の温度であって、A1変態点よりも50℃低い温度以上であってA3変態点よりも50℃高い温度以下の温度範囲内の温度のときに、遮蔽部材(24、25)の状態が遮蔽状態に維持されることになる。
【0125】
加熱ステップにおいては、制御部32の制御に基づいて、熱処理室21内の雰囲気がA3変態点以上の所定の最大設定温度まで加熱されると、その温度の状態が、所定の時間に亘って維持される。所定の最大設定温度が所定の時間に亘って維持されることで、被処理物10に対して必要な熱処理が施される。上記の所定の時間が経過すると、制御部32の制御に基づいてヒーター(22、23)の発熱動作が停止され、熱処理室21内で被処理物10の温度を所定の目標温度まで低下させることが行われる(ステップS103)。
【0126】
熱処理室21内で被処理物10の温度を所定の目標温度まで低下させる処理が終了すると、制御部32からの制御指令に基づいて駆動される搬送ローラ40によって、被処理物10を収納したケース11が、出口扉36aまで搬送される。出口扉36aまで搬送されると、ケース11に収納された被処理物10は、ケース11とともに熱処理室21の外部へと搬出される。熱処理室21から搬出された被処理物10に対しては、例えば、焼入れ装置16での焼入れ処理などの他の処理が施される。
【0127】
[本実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態によると、熱処理装置1は、加熱処理対象としての金属製の被処理物10を加熱するためのヒーター(22、23)と、ヒーター(22、23)と被処理物10とが配置される熱処理室21と、熱処理室21内においてヒーター(22、23)と被処理物10との間に配置されて、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽可能な遮蔽部材(24、25)と、を備えている。また、本実施形態の熱処理方法は、加熱処理対象としての金属製の被処理物10及びヒーター(22、23)が配置される熱処理室21内において、ヒーター(22、23)を用いて被処理物10を加熱する加熱ステップと、加熱ステップの実行中に実行され、熱処理室21内においてヒーター(22、23)と被処理物10との間に配置された遮蔽部材(24、25)によって、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽する遮蔽ステップと、を備えている。
【0128】
本実施形態の熱処理装置1及び熱処理方法によると、熱処理室21内においてヒーター(22、23)と被処理物10との間に配置された遮蔽部材(24、25)によって、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽することができる。このため、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射が遮蔽部材(24、25)によって遮蔽された状態では、被処理物10は、ヒーター(22、23)からの輻射熱による加熱が抑制され、ヒータ(22、23)によって加熱された雰囲気によって全体的な加熱が行われることになる。即ち、ヒーター(22、23)からの輻射熱による加熱の影響が被処理物10の一部において大きく生じることが抑制され、被処理物10の全体が、ヒーター(22、23)によって加熱された雰囲気によってより均等に加熱されることになる。これにより、被処理物10の表面及び内部のそれぞれにおいて、被処理物10の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、熱処理によって被処理物10に生じる歪みをより小さくすることができる。従って、本実施形態によると、金属製の被処理物10に対して加熱による熱処理を施す際において、被処理物10の各部の温度上昇のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる、熱処理装置1及び熱処理方法を提供することができる。
【0129】
また、本実施形態によると、熱処理装置1は、遮蔽部材(24、25)を駆動して遮蔽部材(24、25)の状態を切り替える切替駆動部(26、27)を更に備えている。そして、切替駆動部(26、27)は、遮蔽部材(24、25)がヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を許容するように配置される放射状態と、遮蔽部材(24、25)がヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽するように配置される遮蔽状態との間で、遮蔽部材(24、25)を駆動して遮蔽部材(24、25)の状態を切り替えるように構成されている。この構成によると、被処理物10に対して加熱による熱処理を施す際に、加熱温度条件等の所望の条件に応じて、遮蔽部材(24、25)の状態を、放射状態と遮蔽状態との間で容易に切り替えることができる。よって、被処理物10に対して加熱による熱処理を施す際に、被処理物10の各部の温度上昇のばらつきによる応力状態のばらつきが生じ易い温度域においては、遮蔽状態に設定することで、輻射熱による加熱によって被処理物10の各部の温度上昇のばらつきが生じることを低減することができる。そして、被処理物10の各部の温度上昇のばらつきによる応力状態のばらつきが生じにくい温度域においては、放射状態に設定することで、輻射熱による加熱によっても被処理物10の温度を上昇させることができる。
【0130】
また、本実施形態によると、切替駆動部(26、27)は、被処理物10の温度がA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態に維持するように構成されている。この構成によると、被処理物10における組織がフェライト+セメンタイトの状態からオーステナイトの状態へと変態を開始する温度であるA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、遮蔽部材(24、25)の状態が遮蔽状態に維持される。このため、被処理物10の加熱時に、被処理物10の組織がオーステナイト変態を開始するタイミングにおいては、ヒータ(22、23)からの輻射熱による加熱が抑制され、ヒーター(22、23)によって加熱された雰囲気による被処理物10の全体的な加熱が行われることになる。これにより、オーステナイト変態の開始タイミングを含む温度域において、被処理物10の表面及び内部のそれぞれにて、被処理物10の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、被処理物10の全体において、より均一にオーステナイト変態が開始されることになる。即ち、被処理物10の各部において、オーステナイト変態が開始するタイミングをより均等にすることができる。これにより、被処理物10の各部において、オーステナイト変態の開始の際に生じる体積変化がより均等に開始され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、被処理物10に生じる歪みをより小さくすることができる。よって、上記の構成によると、被処理物10の組織がオーステナイト変態を開始する際に生じる歪みをより小さくすることができる。また、被処理物10の浸炭処理のために被処理物10の加熱による熱処理が行われる場合であれば、被処理物10の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができる。即ち、被処理物10の各部におけるオーステナイト変態が開始するタイミングをより均等にすることができるため、被処理物の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができる。従って、上記の構成によると、被処理物10の浸炭処理の際において、被処理物10の表面における炭素侵入のタイミングをより均等にすることができることで、被処理物10に生じる歪みをより小さくすることができる。
【0131】
また、本実施形態によると、切替駆動部(26、27)が遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態に維持する所定の温度範囲は、少なくとも、A1変態点よりも50℃低い温度以上であってA3変態点よりも50℃高い温度以下の温度範囲を含むように設定される。この構成によると、被処理物10の組織がオーステナイト変態を開始する温度であるA1変態点よりも50℃低い温度から、オーステナイト変態が終了する温度であるA3変態点よりも50℃高い温度まで、遮蔽部材(24、25)の状態が遮蔽状態に維持される。このため、オーステナイト変態の開始から終了までの温度域に亘って、ヒーター(22、23)からの輻射熱による加熱が抑制され、ヒーター(22、23)によって加熱された雰囲気による被処理物10の全体的な加熱が行われることになる。これにより、オーステナイト変態の開始から終了までの温度域の全体に亘って、被処理物10の表面及び内部のそれぞれにおいて、被処理物10の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、被処理物10の全体において、より均一にオーステナイト変態が進行することになる。このため、被処理物10の各部において、オーステナイト変態の際に生じる体積変化がより均等に生じ、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、被処理物10に生じる歪みをより小さくすることができる。従って、上記の構成によると、被処理物10の組織がオーステナイトに変態する際に生じる歪みをより小さくすることができる。また、上記の構成によると、A1変態点よりも50℃低い温度から遮蔽部材(24、25)の状態が遮蔽状態に維持される。このため、オーステナイト変態の開始前から、被処理物10の各部の温度上昇にばらつきが生じることをより確実に低減することができる。また、上記の構成によると、A3変態点よりも50℃高い温度まで遮蔽部材(24、25)の状態が遮蔽状態に維持される。このため、オーステナイト変態が完全に終了するまで、被処理物10の各部の温度上昇にばらつきが生じることをより確実に低減することができる。
【0132】
また、本実施形態によると、熱処理室21内における所定の温度測定位置での温度を測定する温度測定部28を更に備え、切替駆動部(26、27)は、温度測定部28による温度測定結果に基づいて、遮蔽部材(24、25)の状態を切り替えるように構成されている。この構成によると、熱処理室21内の実際の温度状態に応じて、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態と遮蔽状態との間で容易に切り替えることができる。
【0133】
また、本実施形態によると、切替駆動部(26、27)は、温度測定部28によって測定された温度が、A1変態点よりも低い所定の温度に到達したときに、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替えるように構成されている。この構成によると、被処理物10の加熱時に、熱処理室21内の実際の温度が、A1変態点よりも低い温度に到達したときに、遮蔽部材(24、25)の状態が遮蔽状態へと切り替えられる。このため、より確実に、オーステナイト変態の開始前のタイミングにおいて、ヒーター(22、23)からの輻射熱による加熱を抑制して被処理物10の各部の温度上昇にばらつきが生じることを低減することができる。
【0134】
また、本実施形態によると、遮蔽部材(24、25)は、互いに平行に延びる複数の回転軸42と、複数の回転軸42のそれぞれを中心としてそれぞれ回転自在に支持された複数の遮蔽板43と、を有し、切替駆動部(26、27)は、複数の遮蔽板43を同時に回転させることで、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替えるように構成されている。この構成によると、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へ切り替えることをより迅速に行うことができる。
【0135】
また、本実施形態によると、遮蔽板43は、回転軸42に固定され、切替駆動部(26、27)は、複数の回転軸42のそれぞれに固定された複数の揺動部材44と、複数の揺動部材44を連結する連結棒(45、46)と、連結棒(45、46)を進退移動させるように駆動する連結棒駆動部(47、48)と、を有し、連結棒(45、46)に対して複数の揺動部材44がそれぞれ揺動自在に連結されている。この構成によると、連結棒(45、46)を進退移動させることで、複数の揺動部材44を同時に揺動させ、複数の回転軸42のそれぞれとともに複数の遮蔽板43を同時に回転させることができる。このため、遮蔽部材(24、25)を構成する複数の遮蔽板44を各回転軸42周りに同時に回転させて遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へ切り替える構造を、連結棒(45、46)に揺動自在に連結された揺動部材44を回転軸42に固定した簡素な構成で実現することができる。
【0136】
また、本実施形態によると、熱処理装置1は、遮蔽部材(24、25)及び切替駆動部(26、27)を備えていることに加え、更に、熱処理室21内において被処理物10に対向して配置され、被処理物10の周囲を通過する気流を生じさせるファン29を備えている。この構成によると、ヒーター(22、23)によって加熱された雰囲気の気体が、被処理物10の周囲を通過する気流を生じさせるファン29によって熱処理室21内で循環される。このため、ヒーター(22、23)によって新たに加熱された雰囲気の気体が被処理物10の周囲に常時供給されるため、ヒーター(22、23)によって加熱された雰囲気による被処理物10の加熱を効率よく行うことができる。
【0137】
また、本実施形態によると、ファン29は、遮蔽部材(24、25)が延びる方向と平行な方向に沿って被処理物10の周囲を通過する気流を生じさせるように構成されている。この構成によると、ヒーター(22、23)によって加熱された雰囲気の気体が、被処理物10の周囲を通過する気流を生じさせるファン29によって熱処理室21内で循環される際に、遮蔽部材(24、25)が整流部材としての機能を果たすことになる。このため、ヒーター(22、23)によって加熱された雰囲気による被処理物10の加熱を更に効率よく行うことができる。
【0138】
また、本実施形態によると、熱処理装置1は、熱処理室21と、遠心ファン29と、気流調整部30と、を備えている。そして、熱処理室21は、平行に配置された一対の側壁(33、34)を有し、熱処理対象としての金属製の被処理物10が一対の側壁(33、34)の間において配置される。遠心ファン29は、熱処理室21内において被処理物10に対向して配置され、被処理物10側から気体を吸い込んで気流を生じさせる。気流調整部30は、熱処理室21内における一対の側壁(33、34)の中間位置M1よりも各側壁(33、34)側の領域において、遠心ファン29の回転羽根50の回転時の遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れを、回転する回転羽根50の外周縁部50cが各側壁(33、34)から離間する領域(R1、R2)においては規制し、回転する回転羽根50の外周縁部50cが各側壁(33、34)に接近する領域(P1、P2)においては許容するように調整する。
【0139】
上記の構成によると、熱処理室21における平行な一対の側壁(33、34)の間において、被処理物10に対向して配置された遠心ファン29が回転方向X5に回転することで、被処理物10側の気体が吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かう気流が生じる。そして、遠心ファン29によって被処理物10側から吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かって流れた気流は、気流調整部30によって調整されながら流動することになる。具体的には、熱処理室21内における一対の側壁(33、34)の中間位置M1よりも各側壁(33、34)側の領域であって、回転方向X5に回転する回転羽根50の外周縁部50cが各側壁(33、34)から離間する領域(R1、R2)においては、遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れが規制される。そして、熱処理室21内における一対の側壁(33、34)の中間位置M1よりも各側壁(33、34)側の領域であって、回転方向X5に回転する回転羽根50の外周縁部50cが各側壁(33、34)に接近する領域(P1、P2)においては、遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れが許容される。これにより、熱処理室21における平行な一対の側壁(33、34)の間で遠心ファン29が回転すると、被処理物10側から吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かって流れた気流は、遠心ファン29の回転による送風作用と気流調整部30による気流の流動方向の調整作用とによって、各側壁(33、34)に向かって流動しながら、更に、各側壁(33、34)に沿って流動する。各側壁(33、34)に沿って流動した気流は、被処理物10を通過して遠心ファン29に吸い込まれ、再び、遠心ファン29の径方向の外方に流動する。これにより、熱処理中に、熱処理室21内の雰囲気が、
図13及び
図14にて流れ方向X6で示すように、被処理物10を通過した後に各側壁(33、34)に沿って流動して再び被処理物10を通過するように、全体的に効率よく循環して流動することになる。
【0140】
よって、上記の構成によると、従来のように一対の側壁の間で流動抵抗の少ない領域への偏った流れが生じることを抑制でき、熱処理中に熱処理室21内の雰囲気を全体的に効率よく循環させることができる。そして、上記の構成によると、熱処理中に熱処理室21内の雰囲気を全体的に効率よく循環させ、熱処理室21内の雰囲気の温度分布のばらつきを抑制した状態で、熱処理室21内の雰囲気を全体的により均等に温度変化させることができる。これにより、被処理物10の表面及び内部のそれぞれにおいて、熱処理中における被処理物10の各部の温度変化の状態のばらつきが低減され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、熱処理による歪みをより小さくすることができる。従って、上記の構成によると、金属製の被処理物10に対して熱処理を施す際において、熱処理中における被処理物10の各部の温度変化の状態のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる、熱処理装置1を提供することができる。
【0141】
また、本実施形態によると、熱処理装置1は、熱処理室21内において一対の側壁(33、34)のそれぞれに沿って配置された一対のヒーター(22、23)を更に備え、遠心ファン29及び被処理物10は、一対のヒーター(22、23)の間に配置される。この構成によると、熱処理室21内の雰囲気が、一対の側壁(33、34)に沿って配置された一対のヒーター(22、23)によって加熱され、熱処理室21内に配置された被処理物10に対して加熱による熱処理が行われる。そして、上記の構成によると、熱処理室21における平行な一対の側壁(33、34)に沿って配置された一対のヒーター(22、23)の間で遠心ファン29が回転すると、被処理物10側から吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かって流れた気流は、遠心ファン29の回転による送風作用と気流調整部30による気流の流動方向の調整作用とによって、各側壁(33、34)及び各ヒーター(22、23)に向かって流動しながら、更に、各側壁(33、34)及び各ヒーター(22、23)に沿って流動する。各側壁(33、34)及び各ヒーター(22、23)に沿って流動した気流は、被処理物10を通過して遠心ファン29に吸い込まれ、再び、遠心ファン29の径方向の外方に流動する。これにより、加熱による熱処理中に、熱処理室21内の雰囲気が、被処理物10を通過した後に各側壁(33、34)及び各ヒーター(22、23)に沿って流動して再び被処理物10を通過するように、全体的に効率よく循環して流動することになる。
【0142】
よって、上記の構成によると、一対の側壁(33、34)に沿ってそれぞれ配置された一対のヒーター(22、23)の間で流動抵抗の少ない領域への偏った流れが生じることを抑制でき、加熱による熱処理中に熱処理室21内の雰囲気を全体的に効率よく循環させることができる。そして、上記の構成によると、加熱による熱処理中に熱処理室21内の雰囲気を全体的に効率よく循環させ、熱処理室21内の雰囲気の温度上昇時の温度分布のばらつきを抑制した状態で、熱処理室21内の雰囲気を全体的により均等に温度上昇させて温度変化させることができる。これにより、被処理物10の表面及び内部のそれぞれにおいて、熱処理中における被処理物10の各部の温度上昇時の温度変化の状態のばらつきが低減され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、加熱時の熱処理による歪みをより小さくすることができる。
【0143】
また、本実施形態によると、熱処理室21は、一対の側壁(33、34)としての第1側壁33及び第2側壁34を有し、気流調整部30は、第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52を有している。そして、第1気流規制部材51は、熱処理室21内における中間位置M1よりも第1側壁33側の領域であって回転羽根50の回転時に回転羽根50の外周縁部50cが第1側壁33から離間する領域R1における遠心ファン29から第1側壁33側への気流の流れを規制する。更に、第2気流規制部材52は、熱処理室21内における中間位置M1よりも第2側壁34側の領域であって回転羽根50の回転時に回転羽根50の外周縁部50cが第2側壁34から離間する領域R2における遠心ファン29から第2側壁34側への気流の流れを規制する。この構成によると、気流調整部30を第1及び第2気流規制部材(51、52)の2つの部材を設けた簡素な構造により実現することができる。
【0144】
また、本実施形態によると、第1気流規制部材51及び第2気流規制部材52のそれぞれは、遠心ファン29の外周に沿って湾曲して配置された湾曲壁面(51b、52b)を有している。この構成によると、遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れが第1及び第2気流規制部材(51、52)のそれぞれによって規制される際に、流動方向を規制された気流は、遠心ファン29の外周に沿って湾曲して配置された湾曲壁面(51b、52b)に沿って滑らかに流動することになる。よって、遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れが第1及び第2気流規制部材(51、52)のそれぞれによって規制される際における圧力損失の増大を抑制することができる。
【0145】
また、本実施形態によると、第1気流規制部材51の湾曲壁面である第1湾曲壁面51bと第2気流規制部材52の湾曲壁面である第2湾曲壁面52bとは、遠心ファン29を挟んで対向して配置され、第1湾曲壁面51b及び第2湾曲壁面52bは、遠心ファン29の回転羽根50よりも、被処理物10側から被処理物10側と反対側に向かって延びる方向における寸法が大きくなるように構成されている。この構成によると、第1及び第2湾曲壁面(51b、52b)のそれぞれの高さ寸法が、遠心ファン29の回転羽根50の高さ寸法よりも大きく設定されている。このため、各湾曲壁面(51b、52b)が設けられた第1及び第2気流規制部材(51、52)によって、遠心ファン29によって被処理物10側から吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かって流れた気流をより漏れなく調整し、その気流の流動方向をより安定して調整することができる。
【0146】
また、本実施形態によると、第1湾曲壁面51b及び第2湾曲壁面52bは、被処理物10側から被処理物10側と反対側にかけて、遠心ファン29の回転羽根50の外周縁部50cに向かって互いに接近して延びるように設けられている。この構成によると、第1及び第2湾曲壁面(51b、52b)が、遠心ファン29による気体の吸込み側である被処理物10側で離間し、吸込み側と反対側に向かって接近するように構成される。即ち、遠心ファン29を挟んで対向して配置された第1及び第2湾曲壁面(51b、52b)の間の領域は、遠心ファン29による気体の吸込み側の領域が広く設定され、吸込み側と反対側の領域が狭く設定される。このため、被処理物10側の気体が吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かうとともに気流調整部30によって流動方向が調整された気流が生じる際に、気流の流れをより速くすることができる。即ち、遠心ファン29の回転によって送風されるとともに気流調整部30によって流動方向が調整されて各側壁(33、34)に向かって流動する気流の流れをより速くすることができる。これにより、熱処理中に熱処理室21内の雰囲気を全体的により効率よく循環させることができる。
【0147】
[実施例]
上述の実施形態で説明した熱処理装置1と同様の構成の実施例に係る熱処理装置と、従来と同様の構成の比較例に係る熱処理装置とを用いて、リング状の金属製の被処理物10に対して加熱による熱処理を行い、熱処理時における被処理物10の温度変化を測定した。尚、比較例に係る熱処理装置は、熱処理装置1において、遮蔽部材(24、25)、切替駆動部(26、27)、及び気流調整部30が設けられていない構成の熱処理装置として構成されている。
【0148】
実施例に係る熱処理装置による熱処理では、加熱開始から継続して遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態に維持して、被処理物10の熱処理を行った。尚、実施例に係る熱処理装置による熱処理及び比較例に係る熱処理装置による熱処理のいずれにおいても、加熱開始から加熱終了まで継続して、遠心ファン29の回転を行った。また、実施例に係る熱処理装置による熱処理及び比較例に係る熱処理装置による熱処理のいずれにおいても、加熱開始から継続して、被処理物10の表面の温度を複数個所において測定した。より具体的には、リング状の被処理物10の表面における周方向の複数個所に熱電対を取り付け、被処理物10の温度を測定し、熱処理時における被処理物10の温度変化を測定した。
【0149】
図17及び
図18は、熱処理時における被処理物10の温度変化を測定した結果を示す図である。
図17(a)及び
図18(a)は、実施例の熱処理装置によって熱処理を行った被処理物10についての温度測定結果であり、
図17(b)及び
図18(b)は、比較例の熱処理装置によって熱処理を行った被処理物10についての温度測定結果である。
図17(a)、
図17(b)、
図18(a)及び
図18(b)では、熱電対での測定温度を縦軸で表し、加熱時に経過する時間(分)を横軸で表している。尚、
図17(a)及び
図17(b)では、加熱開始の時間(0分)から、被処理物10の測定温度がA3変態点を十分に超える温度に達した状態になる時間(t分)まで、の間における被処理物10の温度変化の測定結果が示されている。一方、
図18は、
図17に示す温度変化の一部を拡大して示しており、
図18(a)は、
図17(a)の一部を拡大して示しており、
図18(b)は、
図17(b)の一部を拡大して示している。より具体的には、
図18(a)及び
図18(b)では、被処理物10の測定温度がA1変態点よりもある程度低い温度であった状態の時間(t1分)から、被処理物10の測定温度がA1変態点よりもある程度高い温度となった状態の時間(t2分)まで、の間における被処理物10の温度変化の測定結果が示されている。尚、
図18(a)及び
図18(b)では、測定温度を示す縦軸の温度表示について、A1変態点に対する相対的な温度表示で示しており、A1変態点よりも20℃低い温度からA1変態点よりも80℃高い温度までを示している。また、
図17(a)、
図17(b)、
図18(a)及び
図18(b)では、リング状の被処理物10の表面における周方向の複数個所の温度測定位置のうち、最も温度上昇が急激であった位置での温度測定結果を実線で示しており、最も温度上昇が緩やかであった位置での温度測定結果を破線で示している。
【0150】
図17(b)及び
図18(b)に示すように、比較例の熱処理装置によって熱処理を行った被処理物10では、最も温度上昇が急激であった位置と最も温度上昇が緩やかであった位置との間において、温度上昇のばらつきが大きく見られた。尚、比較例の熱処理装置によって熱処理を行った被処理物10では、ヒーター(22、23)に対向して配置された部分と、ヒーター(22、23)に対向していない部分であってヒーター(22、23)から最も離間した部分とにおいて、温度上昇の差が最も大きく生じた。即ち、被処理物10の表面における周方向の複数個所の温度測定位置のうち、ヒーター(22、23)に対向した位置において、最も急激な温度上昇が生じ、ヒーター(22、23)に対向していない位置であってヒーター(22、23)から最も離間した位置において、最も緩やかな温度上昇が生じた。
【0151】
一方、
図17(a)及び
図18(a)に示すように、実施例の熱処理装置によって熱処理を行った被処理物10では、最も温度上昇が急激であった位置と最も温度上昇が緩やかであった位置との間において、温度上昇のばらつきが生じることが大きく低減された。従って、実施例の熱処理装置によって被処理物10に対して熱処理を施すことで、熱処理中における被処理物10の各部の温度上昇のばらつきを低減することができることが実証された。これにより、被処理物10に対して熱処理を施す際において、熱処理による歪みをより小さくすることができる。
【0152】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。例えば、次のような変形例が実施されてもよい。
【0153】
図19および
図20は、第1の変形例に係る熱処理装置101の模式的な断面図である。尚、
図19は、
図20のE-E線矢視位置から見た状態を示す断面図であり、
図20は、
図19のD-D線矢視位置から見た状態を示す断面図である。尚、第1の変形例についての以下の説明においては、前述の実施形態と異なる点について説明し、前述の実施形態と同様の構成或いは対応する構成については、図面において同一の符号を付すことで、或いは同一の符号を引用することで、重複する説明を省略する。
【0154】
前述の実施形態の熱処理装置1は、遮蔽部材(24、25)、切替駆動部(26、27)、及び気流調整部30を備えて構成されていた。これに対し、第1の変形例に係る熱処理装置101は、遮蔽部材(24、25)及び切替駆動部(26、27)を備えているが、気流調整部30を備えずに構成されている点において、前述の実施形態の熱処理装置1と異なっている。
【0155】
第1の変形例の熱処理装置101及び熱処理装置101を用いて実施される熱処理方法によると、熱処理室21内においてヒーター(22、23)と被処理物10との間に配置された遮蔽部材(24、25)によって、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射を遮蔽することができる。このため、ヒーター(22、23)から被処理物10への輻射熱の放射が遮蔽部材(24、25)によって遮蔽された状態では、被処理物10は、ヒーター(22、23)からの輻射熱による加熱が抑制され、ヒータ(22、23)によって加熱された雰囲気によって全体的な加熱が行われることになる。即ち、ヒーター(22、23)からの輻射熱による加熱の影響が被処理物10の一部において大きく生じることが抑制され、被処理物10の全体が、ヒーター(22、23)によって加熱された雰囲気によってより均等に加熱されることになる。これにより、被処理物10の表面及び内部のそれぞれにおいて、被処理物10の各部の温度上昇にばらつきが生じることが低減され、各部の応力の状態にばらつきが生じることが低減され、熱処理によって被処理物10に生じる歪みをより小さくすることができる。従って、第1の変形例の熱処理装置101及び熱処理装置101を用いて実施される熱処理方法によると、金属製の被処理物10に対して加熱による熱処理を施す際において、被処理物10の各部の温度上昇のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる。
【0156】
図21および
図22は、第2の変形例に係る熱処理装置102の模式的な断面図である。尚、
図21は、
図22のG-G線矢視位置から見た状態を示す断面図であり、
図22は、
図21のF-F線矢視位置から見た状態を示す断面図である。尚、第2の変形例についての以下の説明においては、前述の実施形態と異なる点について説明し、前述の実施形態と同様の構成或いは対応する構成については、図面において同一の符号を付すことで、或いは同一の符号を引用することで、重複する説明を省略する。
【0157】
前述の実施形態の熱処理装置1は、遮蔽部材(24、25)、切替駆動部(26、27)、及び気流調整部30を備えて構成されていた。これに対し、第2の変形例に係る熱処理装置101は、気流調整部30を備えているが、遮蔽部材(24、25)及び切替駆動部(26、27)を備えずに構成されている点において、前述の実施形態の熱処理装置1と異なっている。
【0158】
第2の変形例の熱処理装置102によると、熱処理室21における平行な一対の側壁(33、34)の間において、被処理物10に対向して配置された遠心ファン29が回転方向X5に回転することで、被処理物10側の気体が吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かう気流が生じる。そして、遠心ファン29によって被処理物10側から吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かって流れた気流は、気流調整部30によって調整されながら流動することになる。具体的には、熱処理室21内における一対の側壁(33、34)の中間位置M1よりも各側壁(33、34)側の領域であって、回転方向X5に回転する回転羽根50の外周縁部50cが各側壁(33、34)から離間する領域(R1、R2)においては、遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れが規制される。そして、熱処理室21内における一対の側壁(33、34)の中間位置M1よりも各側壁(33、34)側の領域であって、回転方向X5に回転する回転羽根50の外周縁部50cが各側壁(33、34)に接近する領域においては、遠心ファン29から各側壁(33、34)側への気流の流れが許容される。これにより、熱処理室21における平行な一対の側壁(33、34)の間で遠心ファン29が回転すると、被処理物10側から吸い込まれて遠心ファン29の径方向の外方に向かって流れた気流は、遠心ファン29の回転による送風作用と気流調整部30による気流の流動方向の調整作用とによって、各側壁(33、34)に向かって流動しながら、更に、各側壁(33、34)に沿って流動する。各側壁(33、34)に沿って流動した気流は、被処理物10を通過して遠心ファン29に吸い込まれ、再び、遠心ファン29の径方向の外方に流動する。これにより、熱処理中に、熱処理室21内の雰囲気が、
図21及び
図22にて流れ方向X6で示すように、被処理物10を通過した後に各側壁(33、34)に沿って流動して再び被処理物10を通過するように、全体的に効率よく循環して流動することになる。
【0159】
よって、第2の変形例の熱処理装置102によると、従来のように一対の側壁の間で流動抵抗の少ない領域への偏った流れが生じることを抑制でき、熱処理中に熱処理室21内の雰囲気を全体的に効率よく循環させることができる。そして、第2の変形例の熱処理装置102によると、熱処理中に熱処理室21内の雰囲気を全体的に効率よく循環させ、熱処理室21内の雰囲気の温度分布のばらつきを抑制した状態で、熱処理室21内の雰囲気を全体的により均等に温度変化させることができる。これにより、被処理物10の表面及び内部のそれぞれにおいて、熱処理中における被処理物10の各部の温度変化の状態のばらつきを低減でき、熱処理による歪みをより小さくすることができる。従って、第2の変形例の熱処理装置102によると、金属製の被処理物10に対して熱処理を施す際において、熱処理中における被処理物10の各部の温度変化の状態のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる。
【0160】
図23及び
図24は、第3の変形例に係る熱処理装置103の模式的な断面図である。尚、
図23は、
図24のI-I線矢視位置から見た状態を示す断面図であり、
図24は、
図23のH-H線矢視位置から見た状態を示す断面図である。尚、第3の変形例についての以下の説明においては、前述の実施形態と異なる点について説明し、前述の実施形態と同様の構成或いは対応する構成については、図面において同一の符号を付すことで、或いは同一の符号を引用することで、重複する説明を省略する。
【0161】
前述の実施形態の熱処理装置1は、温度測定部28が、熱処理室21内における所定の温度測定位置での温度を測定し、熱処理室21内の雰囲気の温度を測定するように構成されていた。これに対して、第3の変形例に係る熱処理装置103は、熱処理室21内の雰囲気の温度ではなく、被処理物10の温度を測定する温度測定部60を備えて構成されている。
【0162】
温度測定部60は、例えば、放射温度計を備えて構成され、熱処理室21内に配置された被処理物10のうちの1つの温度を測定する温度センサとして設けられている。温度測定部60は、例えば、天井壁38から熱処理室21内で下方に向かって管状に延びるとともに内側に放射温度計が収容される温度計収容ケースを備えている。温度計収容ケース内には、例えば、外部から冷却ガスが給排され、温度計収容ケース内の放射温度計を冷却して保護するように構成されている。温度測定部60は、熱処理室21内における所定の位置に配置される被処理物10に対して対向するように、熱処理室21内に設置されている。例えば、温度測定部60は、
図23及び
図24に例示するように、熱処理室21内に配置されたケース11のうちの最上段のケース11において所定の位置に収納されて配置された被処理物10に対して、その被処理物10の上方から対向した状態となるように、熱処理室21内に設置されている。そして、温度測定部60は、熱処理中において、対向する被処理物10の温度を測定するように構成されている。尚、温度測定部60において被処理物10に対向する温度計収納ケースの下端部には、例えば、高温領域での耐熱性を有する透明な窓部材が設けられ、温度計収納ケース内に収納された放射温度計が、その窓部材を介して、被処理物10の温度を測定するように構成されている。
【0163】
また、温度測定部60は、制御部32に接続されており、温度測定部60の温度測定結果は、制御部32に入力される。そして、制御部32は、温度測定部60の温度測定結果に基づいて、切替駆動部(47、48)を制御する。切替駆動部(47、48)は、制御部32によって、温度測定部60の温度測定結果に基づいて制御され、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態と放射状態との間で切り替える。
【0164】
また、切替駆動部(47、48)は、温度測定部60の温度測定結果に基づく制御部32の制御によって、温度測定部60によって測定された温度が、A1変態点と同じ温度又はA1変態点よりも低い所定の温度に到達したときに、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替えるように構成されている。尚、A1変態点よりも低い所定の温度で遮蔽部材(24、25)の状態が放射状態から遮蔽状態へと切り替えられる場合は、切替駆動部(47、48)は、被処理物10の温度がA1変態点を含む所定の温度範囲内の温度のときに、遮蔽部材(24、25)の状態を遮蔽状態に維持するように構成されている。そして、上記の所定の温度範囲は、少なくとも、A1変態点よりも50℃低い温度以上であってA3変態点よりも50℃高い温度以下の温度範囲を含むように設定されている。
【0165】
第3の変形例の熱処理装置103によると、被処理物10の温度の測定結果に基づいて、遮蔽部材(24、25)の状態が切り替えられる。このため、被処理物10の実際の温度状態に応じて、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態と遮蔽状態との間で容易に切り替えることができる。
【0166】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、更に種々の変更が可能である。例えば、次のような更に他の変形例が実施されてもよい。
【0167】
例えば、被処理物の温度を測定する被処理物用の温度測定部と、熱処理室内の所定の温度測定位置での雰囲気の温度を測定する雰囲気用の温度測定部とをいずれも備えた熱処理装置が実施されてもよい。この場合、制御部が、被処理物用の温度測定部と雰囲気用の温度測定部とのうちのいずれか一方を選択して切替駆動部を制御するように構成されていてもよい。
【0168】
また、前述の実施形態、第1乃至第3の変形例では、熱処理装置によって熱処理が行われる金属製の被処理物が、リング状の部材である形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。熱処理装置によって熱処理が行われる被処理物の形状は、リング状に限定されず、リング状以外の形状であってもよく、例えば、円柱状、角柱状、角筒状、直方体状、立方体状、棒状、板状、特殊な断面形状或いは表面形状を有する形状等、種々の形状であってもよい。
【0169】
また、前述の実施形態、第1の変形例、及び第3の変形例では、遮蔽部材が、複数の遮蔽板を備えた形態を例示したが、この通りでなくてもよい。例えば、遮蔽部材が、1枚の遮蔽板を備えて構成される形態が実施されてもよい。この場合、1枚の遮蔽板で構成された遮蔽部材が、上下方向或いは前後方向に駆動するように切替駆動部によって駆動されることで、遮蔽部材の状態が遮蔽状態と放射状態との間で切り替えられる形態が実施されてもよい。
【0170】
また、前述の実施形態では、温度測定部28によって測定された温度が、A1変態点よりも低い所定の温度に到達したときに、切替駆動部(26、27)が、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替える形態を例示したが、この通りでなくてもよい。温度測定部28によって測定された温度が、A1変態点と同じ温度に到達したときに、切替駆動部(26、27)が、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替える形態が実施されてもよい。また、熱処理室21内での被処理物10の熱処理の開始後すぐに、切替駆動部(26、27)が、遮蔽部材(24、25)の状態を放射状態から遮蔽状態へと切り替える形態が実施されてもよい。
【0171】
また、第2の変形例では、ヒーターと遠心ファンと気流調整部とを備えた熱処理装置が、被処理物に対して加熱による熱処理を行う形態を例にとって説明した。しかし、この通りでなくてもよく、ヒーターが設けられておらず、熱処理装置が、被処理物の空冷による冷却用として用いられる形態が実施されてもよい。即ち、ヒーターを備えておらず、遠心ファンと気流調整部とを備えた熱処理装置において、被処理物に対して空冷を行って冷却することによる熱処理を施す形態が実施されてもよい。この熱処理装置によると、被処理物に対して空冷を行って冷却することによる熱処理を施す際において、熱処理中における被処理物の各部の温度降下時の温度変化の状態のばらつきを低減し、熱処理による歪みをより小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明は、金属製の被処理物に対して熱処理を行うための熱処理装置及び熱処理方法として、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0173】
1 熱処理装置
10 被処理物
21 熱処理室
22、23 ヒーター
24、25 遮蔽部材
26、27 切替駆動部