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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】潤滑グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20220715BHJP
   C10M 169/00 20060101ALI20220715BHJP
   C10M 117/00 20060101ALN20220715BHJP
   C10M 125/10 20060101ALN20220715BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20220715BHJP
   C10M 105/02 20060101ALN20220715BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20220715BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220715BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20220715BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220715BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20220715BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20220715BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M169/00
C10M117/00
C10M125/10
C10M101/02
C10M105/02
C10M107/02
C10N10:04
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N40:00 Z
C10N50:10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018532896
(86)(22)【出願日】2017-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2017026102
(87)【国際公開番号】W WO2018030090
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2016155404
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102670
【氏名又は名称】NOKクリューバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】澤口 渉
(72)【発明者】
【氏名】松本 孝平
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-301190(JP,A)
【文献】特開平11-124591(JP,A)
【文献】特開2003-155493(JP,A)
【文献】特開平11-131086(JP,A)
【文献】特開平11-035963(JP,A)
【文献】特開2004-176774(JP,A)
【文献】特開2003-013083(JP,A)
【文献】特開2009-155443(JP,A)
【文献】特開2009-209179(JP,A)
【文献】特開2009-209180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤としてBa複合石けんと、固体潤滑剤とを含有する潤滑グリース組成物であって、
前記固体潤滑剤が、炭酸カルシウムであり、
前記炭酸カルシウムの配合量が、潤滑グリース組成物の重量全体に対して1~60重量%であり、
前記炭酸カルシウムの平均粒子径が~30μmであり、
前記基油の動粘度が40℃で18~300mm/sであり、
混和ちょう度が240~320であることを特徴とする、潤滑グリース組成物。
【請求項2】
前記基油が、鉱油および合成炭化水素油の少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項3】
樹脂部材同士、又は、樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の潤滑グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた低温トルク特性、高温剪断安定性および高温離油特性を維持しつつ、高い静摩擦係数を有する潤滑グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯車および摺動部に使用される潤滑剤としてグリースが使用されている。近年、自動車部品、家電製品、電子情報機器、OA機器等では、軽量化、低コスト化を目的として、歯車および摺動部に樹脂部材が使用されることが多くなってきている。その中で、樹脂部材同士、又は、樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用されるグリースには、低温トルク特性、高温剪断安定性および高温離油特性に優れることが要求されている。また近年、自動車やOA機器の減速装置内の減速ギア部等において、静止時のすべり防止のため、グリースには高い静摩擦係数を有することも要求されている。
【0003】
例えば、本出願人は、特許文献1において、樹脂部材同士または樹脂部材と金属部材との摺動部分に用いる潤滑グリース組成物を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-13351号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている潤滑グリース組成物は、潤滑機能(動摩擦係数が低いこと)と共に静止機能(静摩擦係数が高いこと)を併せ持つ潤滑グリース組成物として開発したものの、静摩擦係数が0.07程度と小さく、改良の余地があった。また、低温トルク特性、高温剪断安定性および高温離油特性を考慮して開発したものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた低温トルク特性、高温剪断安定性および高温離油特性を維持しつつ、高い静摩擦係数を有する潤滑グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の潤滑グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、固体潤滑剤とを含有する潤滑グリース組成物であって、前記固体潤滑剤が、炭酸カルシウムであり、前記炭酸カルシウムの配合量が、潤滑グリース組成物の重量全体に対して1~60重量%であり、前記炭酸カルシウムの平均粒子径が0.1~30μmであり、前記基油の動粘度が40℃で18~300mm/sであり、混和ちょう度が240~320であることを特徴とする。
【0008】
前記基油が、鉱油および合成炭化水素油の少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
前記増ちょう剤が、金属石けん系化合物および複合金属石けん系化合物の少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
また、樹脂部材同士、又は、樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潤滑グリース組成物は、優れた低温トルク特性、高温剪断安定性および高温離油特性を維持しつつ、高い静摩擦係数を有する。特に、樹脂部材同士、又は、樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用するのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る潤滑グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、固体潤滑剤を含有する。
【0013】
本発明に用いられる基油は特に限定されないが、例えば、鉱油、合成炭化水素油が挙げられる。基油は、それぞれ単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。鉱油としては、例えば、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、芳香族系炭化水素、オレフィン系炭化水素が挙げられる。合成炭化水素油としては、例えば、ポリα-オレフィン、エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。この中では、ポリα-オレフィンが好ましい。
【0014】
基油の動粘度は、40℃で18~300mm/sである。基油の動粘度が40℃で18mm/s未満であると、高温離油特性が低下する。一方、基油の動粘度が40℃で300mm/sを超えると、低温トルク特性が劣り、低温環境下でスムーズに摺動しなくなる。なお、基油の動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定することができる。
【0015】
本発明に用いられる増ちょう剤は特に限定されないが、例えば、金属石けん系化合物、複合金属石けん系化合物が挙げられる。増ちょう剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。金属石けん系化合物としては、Li石けん、Ca石けん、アルミニウム石けんが挙げられるが、この中ではLi石けんが好ましい。Li石けんとしては、例えば、炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸のリチウム塩、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸のリチウム塩が挙げられ、ステアリン酸リチウム塩や12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩が特に好ましい。また、複合金属石けん系化合物としては、Li複合石けん、Ca複合石けん、Ba複合石けんが挙げられるが、この中では、Li複合石けん、Ba複合石けんが好ましい。Li複合石けんとしては、例えば、脂肪族モノカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とのリチウム塩、2種以上の脂肪族モノカルボン酸のリチウム塩が挙げられる。Ba複合石けんとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸とカルボン酸アミドとの塩が挙げられる。
【0016】
本発明に用いられる固体潤滑剤は、炭酸カルシウムである。炭酸カルシウムの配合量は潤滑グリース組成物の重量全体に対して1~60重量%である。炭酸カルシウムの配合量が、潤滑グリース組成物の重量全体に対して1重量%未満であると、潤滑グリース組成物の静摩擦係数が小さく、樹脂部材同士又は樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用した場合に、静止時のすべりを防止することができない。一方、炭酸カルシウムの配合量が、潤滑グリース組成物の重量全体に対して60重量%を超えると、潤滑グリース組成物が硬くなり過ぎて、低温トルク特性が低下する。また、炭酸カルシウムの平均粒子径は0.1~30μmである。炭酸カルシウムの平均粒子径が0.1μm未満であると、潤滑グリース組成物の静摩擦係数が小さく、樹脂部材同士又は樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用した場合に、静止時のすべりを防止することができない。一方、炭酸カルシウムの平均粒子径が30μmを超えると、潤滑グリース組成物中に炭酸カルシウムが均一に分散できず、混和ちょう度が高くなり、高温離油特性が低下する。
【0017】
本発明に係る潤滑グリース組成物は、混和ちょう度が240~320である。混和ちょう度が240未満であると、低温トルク特性が劣り、低温環境下でスムーズに摺動しなくなる。一方、混和ちょう度が320を超えると、高温離油特性が低下する。なお、混和ちょう度は、JIS K 2220 7に規定された測定方法に従い測定することができる。
【0018】
本発明に係る潤滑グリース組成物は、その効果に影響を与えない範囲で添加剤を含有していてもよい。例えば、公知の酸化防止剤、極圧剤、防錆剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤等を適宜選択して含有させることができる。
【0019】
酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェノール、4,4′-メチレンビス(2,6-ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、アルキルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系酸化防止剤、さらにはリン酸系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
【0020】
極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄化合物、ジアルキルジチオリン酸金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩等の硫黄系金属塩、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素化合物などが挙げられる。
【0021】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸アミン、金属スルホネート、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸アミン塩、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0022】
腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール、セバシン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、スチレン-イソプレン共重合体水素化物等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る潤滑グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、固体潤滑剤とを含有し、固体潤滑剤が炭酸カルシウムであり、炭酸カルシウムの配合量が、潤滑グリース組成物の重量全体に対して1~60重量%であり、炭酸カルシウムの平均粒子径が0.1~30μmであり、基油は、40℃動粘度が18~300mm/sであり、混和ちょう度が240~320であることにより、優れた低温トルク特性、高温剪断安定性および高温離油特性を維持しつつ、高い静摩擦係数を有する。特に、樹脂部材同士、又は、樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用するのに適している。
【実施例
【0025】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
(1)潤滑グリース組成物の調製方法
以下の各成分が表1及び表2で示す配合量(重量%)になるよう、潤滑グリース組成物(試料油)を調製した。
【0027】
<基油>
ポリα-オレフィンA:製品名「DURASYN164」(イネオスオリゴマーズジャパン社製、40℃動粘度18mm/s)
ポリα-オレフィンB:製品名「DURASYN166」(イネオスオリゴマーズジャパン社製、40℃動粘度30mm/s)
ポリα-オレフィンC:製品名「DURASYN174」(イネオスオリゴマーズジャパン社製、40℃動粘度390mm/s)
ポリα-オレフィンD:製品名「DURASYN162」(イネオスオリゴマーズジャパン社製、40℃動粘度5mm/s)
<増ちょう剤>
増ちょう剤A:Li石けん(12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩)
増ちょう剤B:Ba複合石けん(セバシン酸とカルボン酸モノステアリルアミドのバリウム塩)
増ちょう剤C:Li複合石けん(12-ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸のリチウム塩)
<固体潤滑剤>
炭酸カルシウムA:製品名「#2000」(三共精粉社製、平均粒子径1.8μm)
炭酸カルシウムB:製品名「#200」(三共精粉社製、平均粒子径4.0μm)
炭酸カルシウムC:製品名「一級」(三共精粉社製、平均粒子径20μm)
炭酸カルシウムD:製品名「SFT-2000」(三共精粉社製、平均粒子径30μm)
炭酸カルシウムE:製品名「白艶華CC」(白石カルシウム社製、平均粒子径0.05μm)
炭酸カルシウムF:製品名「G-120」(三共精粉社製、平均粒子径50μm)
炭酸カルシウムG:製品名「カルシテックVIGOT-10」(白石カルシウム社製、平均粒子径0.1μm)
ポリエチレンワックス:製品名「CERAFLOUR929」(ビックケミ-社製)
ポリテトラフルオロエチレン(表中「PTFE」):製品名「ダイニオンTF9207Z」(住友スリーエム社製)
メラミンシアヌレート(表中「MCA」):製品名「MC-6000」(日産化学社製)
なお、三共精粉社製の炭酸カルシウムの平均粒子径は、島津製作所社製SALD-2200(レーザー回折式、湿式)で測定した値である。また、白石カルシウム社製の炭酸カルシウムの平均粒子径は、Malvern社製マスターサイザー3000(レーザー回折式、湿式)で測定した値である。
<酸化防止剤>
フェニルナフチルアミン:製品名「VANLUBE81」(三洋化成工業社製)
<防錆剤>
中性カルシウムスルホネート:製品名「NA-SUL CA-1089」(KING社製)
【0028】
具体的に、増ちょう剤Aを含有する試料油の調製において、まず、基油と12-ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムを混合攪拌釜に加えた。なお、12-ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムの配合量は、増ちょう剤全量に対して12-ヒドロキシステアリン酸88重量%、水酸化リチウム12重量%の割合になるよう調整した。約80~130℃で加熱しながら攪拌し、けん化反応を行った。けん化反応を行った後、200℃まで加熱し、その後、冷却した。生成したゲル状物質に、残りの成分を加え攪拌した後、ロールミル又は高圧ホモジナイザーで混練し、試料油を得た。
【0029】
また、増ちょう剤Bを含有する試料油の調製において、まず、基油とセバシン酸とセバシン酸モノステアリルアミドを混合攪拌釜に加え、約80~200℃で加熱しながら攪拌した。水酸化バリウムを加え、けん化反応を行った。なお、セバシン酸とセバシン酸モノステアリルアミドと水酸化バリウムの配合量は、増ちょう剤全量に対してセバシン酸27.5重量%、セバシン酸モノステアリルアミド41.5重量%、水酸化バリウム31重量%の割合になるよう調整した。けん化反応を行った後、冷却した。生成したゲル状物質に、残りの成分を加え攪拌した後、ロールミル又は高圧ホモジナイザーで混練し、試料油を得た。
【0030】
また、増ちょう剤Cを含有する試料油の調製において、まず、基油と12-ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムを混合攪拌釜に加えた。約80~130℃で加熱しながら攪拌し、けん化反応を行った。アゼライン酸を加え、80~200℃で加熱しながら攪拌し、再度けん化反応を行った。なお、12-ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸と水酸化リチウムの配合量は、増ちょう剤全量に対して12-ヒドロキシステアリン酸63.5重量%、アゼライン酸19重量%、水酸化リチウム17.5重量%の割合になるよう調整した。けん化反応を行った後、冷却した。生成したゲル状物質に、残りの成分を加え攪拌した後、ロールミル又は高圧ホモジナイザーで混練し、試料油を得た。
【0031】
(2)評価方法
(2-1)高温離油特性
JIS K 2220:2013に規定される「11離油度試験方法」に従い、試験温度120℃、試験時間24時間の条件下で離油度を算出した。
【0032】
(2-2)低温トルク特性
JIS K 2220:2013に規定される「18低温トルク試験方法」に従い、試験温度-40℃の条件下で起動トルクを測定した。
【0033】
(2-3)高温剪断安定性
レオメーター(Anton Paar社製)で、測定温度100℃の条件下で剪断粘度を測定した。なお、剪断粘度とは、角度2°のコーンとプレートとの間に試料油を挟み、剪断速度を0s-1から600s-1まで徐々に上げていき、剪断速度が600s-1の時の粘度である。
【0034】
(2-4)静摩擦係数
往復動試験機を用い、下部試験片上に試料油を塗布し、上から上部試験片を押しつけ往復動させた。往復動させた時の上部試験片と下部試験片との間に発生する摩擦力から静摩擦係数を測定した。試験条件を以下に示す。
上部試験片:直径10mmのポリオキシメチレン(POM)ボール
下部試験片:炭素鋼(S45C)プレート
試験荷重:3kgf
試料油の塗布量:0.05g
摺動速度:1mm/sec
試験温度:80℃
摺動距離:10mm
【0035】
(3)評価結果
評価結果を、表1および表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表1より、実施例1~13では、炭酸カルシウムの配合量が、潤滑グリース組成物の重量全体に対して1~60重量%であり、炭酸カルシウムの平均粒子径が0.1~30μmであり、基油の動粘度が40℃で18~300mm/sであり、混和ちょう度が240~320であるため、低温トルク特性、高温剪断安定性および高温離油特性に優れ、かつ、高い静摩擦係数を有することが分かった。
【0039】
一方、比較例1では、炭酸カルシウムの平均粒子径が0.1μm未満であるため、静摩擦係数が0.12と低かった。比較例2では、炭酸カルシウムの平均粒子径が30μmより大きいため、離油度が4.3重量%と高く、剪断粘度が800mPa・sと低く、高温離油特性及び高温剪断安定性に劣ることが分かった。比較例3では、炭酸カルシウムの配合量が潤滑グリース組成物の重量全体に対して1重量%未満であるため、静摩擦係数が0.12と低かった。比較例4では、炭酸カルシウムの配合量が潤滑グリース組成物の重量全体に対して60重量%より多いため、低温トルクが70N・cmと高く、低温トルク特性に劣ることが分かった。比較例5では、増ちょう剤が含まれていないため、剪断粘度が100mPa・sと低く、高温剪断安定性に劣る結果となった。比較例6では、炭酸カルシウムの代わりにPTFEとMCAを含有させたため、静摩擦係数が0.07と低かった。また、比較例7では、比較例6と同様に、炭酸カルシウムの代わりにPTFEとMCAを含有させ、さらにPTFEとMCAの配合量を増加させたため、混和ちょう度が小さくなった。また、低温トルクが50N・cmと高く、低温トルク特性に劣り、静摩擦係数も0.12と低かった。比較例8では、混和ちょう度が320より大きいため、離油度が5.5重量%と高く、高温離油特性に劣ることが分かった。比較例9では、混和ちょう度が240より小さいため、低温トルクが60N・cmと高く、低温トルク特性に劣ることが分かった。比較例10では、基油の動粘度が40℃で300mm/sより高いため、低温トルクが95N・cmと高く、低温トルク特性に劣ることが分かった。比較例11では、基油の動粘度が40℃で18mm/sより低いため、離油度が5.7重量%と高く、高温離油特性に劣ることが分かった。比較例12では、増ちょう剤が含まれていないため、離油度が6.5重量%と高く、剪断粘度が80mPa・sと低く、高温離油特性及び高温剪断安定性に劣ることが分かった。
【0040】
以上より、本発明に係る潤滑グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、固体潤滑剤とを含有する潤滑グリース組成物であって、固体潤滑剤が、炭酸カルシウムであり、炭酸カルシウムの配合量が、潤滑グリース組成物の重量全体に対して1~60重量%であり、炭酸カルシウムの平均粒子径が0.1~30μmであり、基油の動粘度が40℃で18~300mm/sであり、混和ちょう度が240~320であることにより、優れた低温トルク特性、高温剪断安定性および高温離油特性を維持しつつ、高い静摩擦係数を有する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る潤滑グリース組成物は、特に、樹脂部材同士、又は、樹脂部材と金属部材との摺動部分に使用するのに適していることから、種々の産業分野における機器・部品等に適用することができる。
【0042】
具体的には、複写機、プリンター等の事務機器用部品、減速機・増速機、ギヤ、チェーン、モーター等の動力伝達装置、走行系部品、ABS等の制動系部品、操舵系部品、変速機等の駆動系部品、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター、サンルーフモーター等の自動車補強部品、電子情報機器、携帯電話等のヒンジ部品、食品・薬品工業、鉄鋼、建設、ガラス工業、セメント工業、フィルムテンター等の化学・ゴム・樹脂工業、環境・動力設備、製紙・印刷工業、木材工業、繊維・アパレル工業における各種部品や相対運動する機械部品等に広く適用可能である。また、転がり軸受、スラスト軸受、動圧軸受、樹脂軸受、直動装置等の軸受等にも適用可能である。