(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】被験者を電気刺激する装置および方法ならびに当該方法を実行するコンピュータプログラムを格納したデータ担体
(51)【国際特許分類】
A61B 5/383 20210101AFI20220715BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
A61B5/383
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2018547315
(86)(22)【出願日】2017-02-21
(86)【国際出願番号】 AT2017060036
(87)【国際公開番号】W WO2017152204
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-01-21
(32)【優先日】2016-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】515001200
【氏名又は名称】クリストフ グーガー
【氏名又は名称原語表記】Christoph Guger
【住所又は居所原語表記】Pellndorf 10, A-4533 Piberbach, Austria
(73)【特許権者】
【識別番号】515001211
【氏名又は名称】ギュンター エドリンガー
【氏名又は名称原語表記】Guenter Edlinger
【住所又は居所原語表記】Prankergasse 49, A-8020 Graz, Austria
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ グーガー
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター エドリンガー
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-527784(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054790(WO,A1)
【文献】特表2011-502576(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0253421(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/369-5/386
A61N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者(3)を電気刺激する装置であって、
人間の脳(31)に適用可能な、前記人間の脳(31)への定められた電気刺激をトリガする複数の電極(21)を含み、
・電気刺激(S)を個々のもしくは複数の電極(21)に適用可能な刺激ユニット(11)を含む制御ユニット(1)が設けられており、
・前記制御ユニット(1)は、各電極(21)に後置接続されており、かつ個々の電極(21)に印加される電圧を
、前記被験者に種々の精神活動を設定した後に測定する、測定ユニット(12)を有しており、
・前記制御ユニット(1)は、測定電極(21)が検出した個々の測定信号を分析する分析ユニット(13)を有しており、
・前記制御ユニットは、前記分析ユニット(13)によって基礎測定を行うように構成されており、前記基礎測定では、前記被験者(3)
の脳(31)が基準活動を行い、その際に求められた分析結果が(それぞれ前記測定電極(21)に対応づけられて)基準値または基準信号として基準メモリ(13a)内に格納されて利用可能に保持され、
・前記分析ユニット(13)は、求められた個々の分析値と格納されている基準値とを比較する比較ユニットを有しており、前記分析結果は、個々の電極(21)の全てに対して、求められた分析値が各電極(21)に対応する基準値からどれだけ異なっているかを表しており、
・前記分析ユニット(13)は、検出された測定信号の分析に基づく予選択として、刺激を送出するための個々の電極(21)を選択するように構成されており、
・前記制御ユニット(1)は
、人間が操作可能な、前記分析ユニット(13)が予選択した電極(21)のうち1つもしくは複数の電極(21)を選択し、かつこのように選択された1つもしくは複数の電極(21)に対して設定された電気刺激(S)を前記刺激ユニット(11)により送出する、選択操作ユニット(14)を有しており、前記選択操作ユニット(14)は、前記分析ユニット(13)に後置接続かつ前記刺激ユニット(11)に前置接続されている、装置において、
前記分析ユニット(13)は、予選択の際に、前記測定電極での測定信号(M)につき
、60Hzから1kHzまでの範
囲の信号出力または信号エネルギが生じるか否かを検査するように構成されている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記選択操作ユニット(14)は、ディスプレイユニット(141)を有しており、前記ディスプレイユニット(141)は、各電極(21)と、前記分析ユニット(13)が求めた分析結
果と、を、個々の電極(21)に対する分析に基づいて、前記ディスプレイユニット(141)の各位置(142)に、前記分析結果のグラフィックヴィジュアライゼーション(143a,143b)として表示する、
請求項1記載の装置。
【請求項3】
・前記選択操作ユニット(14)は、前記ディスプレイユニット(141)の領域に個々の選択もしくは操作エレメント(144)を有しており、
・前記選択もしくは操作エレメント(144)は、それぞれ1つずつの電極(21)に対応づけられており、かつ前記ディスプレイユニット(141)上の、該当する電極(21)に対するグラフィックヴィジュアライゼーション(143a,143b)が表示されている位置(142)の領域に配置されており、
・前記選択もしくは操作エレメント(144)は、自身に対応する、刺激(S)の送出のための電極(21)を選択するように、または該当する電極(21)によって刺激(S)を送出するように、構成されている、
請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記選択操作ユニット(14)は、前記分析ユニット(13)が予選択した電極(21)の選択および前記電極の隣接電極(21)のうち1つの選択を可能としており、
前記刺激ユニット(11)は、電流の形態で2つの電極(21)間に刺激(S)を送出するように構成されており、
前
記隣接電極(21)間を刺激(S)として流れる電流の直流電流成分は
、
a
)前記刺激ユニット(11)が直流電流なしの刺激(S)を各電極(21)に印加することにより、または、
b
)刺激の電流特性が矩形
状の特性を有するよう、前記刺激ユニット(11)が刺激(S)の電流の直流成分を制限することにより、
設定された閾値を下回る、
請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記被験者(3)の反応を検出する検出ユニット(22)が、前記制御ユニット(1)に接続されて設けられており、
前記検出ユニット(22)は
、前記被験者(3)の会話を検出するマイクロフォンによって、または前記被験者(3)の運動を検出す
る検出器によって、構成されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
前記刺激ユニット(11)は
、増大する種々の強
度を有する刺激(S)を個々の電極(21)に印加するように構成されており
、
a
)前記刺激ユニット(11)が、手動操作の際にまたは自動的に、個々の刺激(S)を
、増大するシーケンスで送出するように構成されている、または
b
)検出ユニット(22)が前記被験者(3)の反応を検出するまで、または電流制限が達成されるまで、刺激(S)が増大するシーケンスで送出されるよう、前記制御ユニット(1)が前記刺激ユニット(11)を駆動制御する、
請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
個々の電極(21)が1つもしくは複数の格子内に配置されて
いる、かつ/または
周縁電極を除く全ての電極(21)が、設定された数の隣接電極(21)を有しており、前記隣接電極(21)は、各電極に対して予め定められた位置に配置されている、かつ/または相互に等しい間隔を有する、
請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
a)個々の電極(21)が、相互に同様に構成されている、かつ/または
b)格子内に配置された個々の電極(21)が相互に同様に構成されている、かつ/または
c)複数の電極(21)が、1つの格子内に、正方形状もしくは六角形状のパターンで配置されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
各電極(21)に個別のフィルタ(12a,12b)が後置接続されており、前記フィルタは、前記分析ユニット(13)または前記測定ユニット(12)に前置接続されており、かつ
a)設定された閾値を上回るかもしくは下回る信号エネルギが生じた場合、または目標形状から設定された閾値より大きく偏差する信号形状が生じた場合、該当する信号を抑圧し、前記分析ユニットへ転送しないように、かつ/または
b)1Hzから5Hzまでの限界周波数を下回る信号成分をフィルタリング除去するように、かつ/または
c
)同じ格子内のみの、全ての電極(21)で同時に測定された全ての信号値の平均値を、該当する電極(21)の測定値から減算するように
構成されており、
d
)同じ格子内のみの、該当する電極(21z)の全ての隣接電極(21u、21u’,21u’’)で同時に測定された全ての信号値の
、重みづけされた平均値を、該当する電極(21z)の測定値から減算し、正方形状の電極(21)の格子内で
、
i)1つの電極(21z)に直接に隣接する4つの電極(21u)、
ii
)個々の隣接電極(21u’)が各電極からの距離に依存する重み係数によって重みづけされている、1つの電極(21z)を取り囲む8つの電極(21u’)、
iii)正方形状の格子内の4つの電極(21u’’)であって、その1つの座標位置が1つの電極(21z)の該当する座標位置から2だけ偏差し、他の座標位置が前記1つの電極(21z)の該当する座標位置に一致する、4つの電極(21u’’)
が、隣接電極(21)と見なされる、
請求項1から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
・前記分析ユニット(13)は、各電極(21)に対して連続して導出される測定値を形成するように構成されており、設定された時間範囲内で形成された測定値は
、20msから
15sまでの長さの複数の窓(F
1,F
2,F
3)にまとめられ、
・前記分析ユニット(13)は
、LMS、再帰最小2乗法、または5次から
100次のカルマンフィルタにより、前記窓(F
1,F
2,F
3)内の信号の信号エネルギを、60Hzから100Hzまでの下方周波数と150Hzから1kHzまでの上方周波数とを有する周波数領域において求め
、前記基礎測定において基準信号を形成するように構成されており、
・前
記分析ユニット(13)は、電源周波数(f
N)または前記電源周波数の複数倍(2f
N)を中心とした領域(X)における設定された窓(F
1,F
2,F
3)内の周波数領域を信号エネルギの形成に利用しない、
請求項1から9までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
前記制御ユニット(1)は、刺激を、1つの電極(21)の領域におい
て送出するように構成されており、
前記制御ユニットは、全てもしくは複数の電極(21)に刺激を送出した後、
a)各電極に送出された信号における誘発電位を検出するか、または
b
)60Hzから1kHzの範囲の、各電極に送出された信号の帯域出力を検出する
ように構成されており、
前記制御ユニット(1)は、刺激に基づいて誘発電位または60Hzから1kHzの範囲の高い帯域出力が生じるように、全ての電極(21)または前記電極(21)が検出した脳領域を表示する
、
請求項1から10までのいずれか1項記載の装置。
【請求項12】
制御ユニット(1)の刺激ユニット(11)により、複数の電極(21)を被験者の脳(31)に適用して、前記被験者(3)を電気刺激する方法であって、
・前記被験者(3)の脳(31)が基準活動を行い、その際に求められた分析結果を各測定電極(21)に対応づけ、かつ基準値または基準信号として格納して利用可能に保持する、基礎測定を前記制御ユニット(1)の分析ユニット(13)によって行い、
・前記被験者に対
する種々の精神活動
に関して、個々の電極(21)に印加される電圧を前記制御ユニット(1)の測定ユニット(12)により測定し、前記分析ユニット(13)により分析し、
・求められた個々の分析値と格納されている基準値とを前記制御ユニット(1)の比較ユニットにより比較し、個々の電極(21)の全てに対して、求められた分析値が各電極(21)に対応する基準値からどれだけ異なっているかを求め、
・分析に基づく予選択として、刺激を送出するための個々の電極(21)を前記分析ユニット(13)により選択し、
・予選択された個々の電極(21)から1つの電極(21)を前記制御ユニット(1)により選択し、前記電極(21)によって刺激を前記脳(31)へ前記制御ユニット(1)により送出する、
方法において、
予選択の際に測定信号(M)に使用される分析では、電極(21)に印加される信号につき、60Hzから1kHzまでの範囲の信号出力または信号エネルギが生じるか否かを前記分析ユニット(13)により検査する、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記予選択において選択された電極(21)をグラフィック表示する、
請求項12記載の方法。
【請求項14】
電流の形態の刺激を、選択された電極(21)と前記電極(21)の隣接電極(21)との間に送出し、
各隣接電極(21)間を刺激(S)として流れる電流の直流電流成分が、設定された閾値を下回り
、
a)刺激(S)に直流電流成分がない、または
b)刺激(S)の電流の直流電流成分が制限され
、刺激の電流特性が矩形
状の特性を有する
ようにする、
請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
前記被験者(3)の反応を
、前記被験者(3)の会話を検出するマイクロフォンにより、または前記被験者(3)の運動を検出す
る検出器により、検出する、
請求項12から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
刺激(S)を、強度を増大させつつ、個々の電極(21)に印加し、
a)
前記刺激ユニット(11)の手動操作の際にまたは自動的に、個々の刺激(S)を、増大するシーケンスで送出し、または
b)検出ユニット(22)により前記被験者(3)の反応が検出されるまで、または最大刺激が得られるまで、または電流制限が達成されるまで、増大するシーケンスで刺激(S)を送出する、
請求項12から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
個々の電極(21)が1つもしくは複数の格子内に配置されて
いる、かつ/または
周縁電極を除く全ての電極(21)が、設定された数の隣接電極(21)を有しており、前記隣接電極(21)は、各電極に対して予め定められた位置に配置されている、かつ/または相互に等しい間隔を有する、
請求項12から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
a)個々の電極(21)が相互に同様に構成されている、かつ/または
b)格子内に配置された個々の電極(21)が相互に同様に構成されている、かつ/または
c)格子内の電極(21)が正方形パターンまたは六角形パターンで配置されている、
請求項12から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
各電極(21)の個々の測定値をフィルタリングし、
a)設定された閾値を上回るかもしくは下回る信号エネルギが生じた場合、または目標形状から設定された閾値より大きく偏差する信号形状が生じた場合、該当する信号を抑圧し、分析ユニットへ転送せず、かつ/または
b)1Hzから5Hzまでの限界周波数を下回る信号成分をフィルタリング除去し、かつ/または
c
)同じ格子内のみの、全ての電極(21)で同時に測定された全ての信号値の平均値を、該当する電極(21)の測定値から減算し、
d
)同じ格子内のみの、該当する電極(21z)の全ての隣接電極(21u、21u’,21u’’)で同時に測定された全ての信号値の
、重みづけされた平均値を、該当する電極(21z)の測定値から減算し、正方形状の電極(21)の格子内で
、
i)1つの電極(21z)に直接に隣接する4つの電極(21u)、
ii
)個々の隣接電極(21u’)が電極からの距離に依存する重み係数によって重みづけされている、1つの電極(21z)を取り囲む8つの電極(21u’)、
iii)正方形状の格子内の4つの電極(21u’’)であって、その1つの座標位置が1つの電極(21z)の該当する座標位置から2だけ偏差し、他の座標位置が前記1つの電極(21z)の該当する座標位置に一致する、4つの電極(21u’’)
を、隣接電極(21)と見なす、
請求項12から18までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
・各電極(21)に対して連続して導出される測定値を形成し、設定された時間範囲内で形成された測定値を
、20msから
15sまでの長さの複数の窓(F
1,F
2,F
3)にまとめ、
・L
MS、再帰最小2乗法、または5次から
100次のカルマンフィルタにより、前記窓(F
1,F
2,F
3)内の信号の信号エネルギを、60Hzから100Hzまでの下方周波数と150Hzから1kHzまでの上方周波数とを有する周波数領域において求め
、前記基礎測定において基準信号を形成し、
・電
源周波数(f
N)または前記電源周波数の複数倍(2f
N)を中心とした領域(X)における設定された窓(F
1,F
2,F
3)内の周波数領域を信号エネルギの形成に利用しない、
請求項12から19までのいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
刺激を、1つの電極(21)の領域におい
て送出し、全てもしくは複数の電極(21)に刺激を送出した後、
a)誘発電位を検出する、または
b
)60Hzから1kHzの範囲の、帯域出力の分析により検出し、
刺激に基づいて誘発電位または60Hzから1kHzの範囲の高い帯域出力が求められた、全ての電極(21)または前記電極(21)が検出した脳領域を表示するかつ/または利用可能に保持する
、
請求項12から20までのいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
請求項12から21までのいずれか1項記載の方法を実行するコンピュータプログラムを格納したデータ担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の脳に適用可能な複数の電極を含む、人間を電気刺激する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の医療用途において、脳の個別の領域およびこれに対応する機能部を識別する要求が存在する。特に、所定の用途では、具体的な運動過程、聴覚過程、視覚過程、感知過程もしくは他の過程を統括する脳領域が識別されると有利でありうる。
【0003】
従来技術から、人間の脳に直接に適用される複数の電極を備えた電気刺激装置が公知である。従来技術から公知の手法では、多数の電極を人間の脳に適用することにより、人間の脳の各領域が分析される。続いて、隣接して配置された個々の電極に電圧の形態の刺激が印加され、これにより電流の形態の刺激が人間の脳を通って流れる。こうした励起により、電極が適用された脳の主体である被験者は、所定の知覚/思考を覚えたり、または所定の身体運動を行ったりすることになる。従来技術から公知の措置によって所定の機能を司る所定の脳領域の位置を識別するには、脳に適用された全ての電極を活性化または刺激し、続いて被験者の反応を待機する必要がある。特には、被験者の反応を引き出すため、適用過程中の刺激を増幅しなければならないこともある。こうした過程はきわめて複雑であって時間がかかり、しかも、てんかん発作の傾向を有する被験者にてんかん発作を引き起こすおそれを増大させるという欠点を有する。また、小児もしくは患者の場合、適切な知覚記述を得ることが難しいこともある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、人間の脳への、全体で僅かな数の刺激のみで足り、にもかかわらず、人間の脳のうち所定の機能を担当している領域の有利な識別を保証できる方法を提供することである。同様に、本発明の課題は、人間の脳のうち所定の機能を担当している領域を迅速にかつ簡単に発見できる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、冒頭に言及した形式の装置において、請求項1の特徴により、上記課題を解決する。本発明では、被験者を電気刺激する装置は、人間の脳に適用可能な、当該人間の脳への定められた電気刺激をトリガする複数の電極を含み、
・電気刺激を個々のもしくは複数の電極に適用可能な刺激ユニットを含む制御ユニットが設けられており、
・制御ユニットは、各電極に後置接続されており、かつ個々の電極に生じる電圧を測定する、測定ユニットを有しており、
・制御ユニットは、測定電極が検出した個々の測定信号を分析し、かつ予選択として当該分析に基づいて刺激の送出のための個々の電極を選択する、分析ユニットを有しており、
・制御ユニットは、特に人間が操作可能な、分析ユニットが予選択した電極のうち1つもしくは複数の電極を選択し、かつこのように選択された1つもしくは複数の電極に対して、刺激ユニットにより、設定された電気刺激を送出する、選択操作ユニットを有しており、この選択操作ユニットは、分析ユニットに後置接続かつ刺激ユニットに前置接続されており、
分析ユニットは、予選択の際に、測定電極での測定信号につき、特には専ら、60Hzから1kHzまでの範囲、特に60Hzから180Hzの範囲の信号出力または信号エネルギが生じるか否かを検査するように構成されている。
【0006】
分析結果の特に簡単な見通しは、選択操作ユニットがディスプレイユニットを有しており、このディスプレイユニットが、電極と、分析ユニットが求めた分析結果、特に予選択結果と、を、個々の電極に対する分析に基づいて、当該ディスプレイユニットの各位置に、分析結果のグラフィックヴィジュアライゼーションとして表示することにより達成される。
【0007】
先行して取得された分析結果の簡単な事後検査は、
・選択操作ユニットが、ディスプレイユニットの領域に個々の選択もしくは操作エレメントを有しており、
・選択もしくは操作エレメントが、それぞれ1つずつの電極に対応づけられており、かつディスプレイユニット上の、該当する電極に対するグラフィックヴィジュアライゼーションが表示されている位置の領域に配置されており、
・選択もしくは操作エレメントが、自身に対応する、刺激の送出のための電極を選択するように、または該当する電極によって刺激を送出するように構成されている
ことにより可能となる。
【0008】
所定の脳領域の特に所期通りの刺激は、刺激ユニットが直流電流なしの刺激を電極へ印加することにより達成可能である。
【0009】
人間の脳へのダメージをできるだけ小さくするために、刺激ユニットが刺激電流の直流成分を制限し、特に刺激の電流特性が矩形状、三角形状もしくは正弦波状の特性を有するように構成可能である。
【0010】
脳領域の自動分析を達成するために、被験者の反応を検出する検出ユニットが制御ユニットに接続されて設けられており、検出ユニットが特に、被験者の会話を検出するマイクロフォンによって、または被験者の運動を検出するかもしくは電気生理学的信号を検出する検出器によって形成されるように構成可能である。
【0011】
種々の刺激閾値での個々の脳領域の応答を可能にし、脳への過剰な刺激を回避するために、刺激ユニットが、特には増大する種々の強度および/または持続時間を有する刺激を、個々の電極に印加するように構成可能である。
【0012】
ここで、手動での刺激のために、刺激ユニットが、手動操作の際にまたは自動的に、個々の刺激を、特に増大するシーケンスで送出するように構成可能である。
【0013】
自動刺激のためには、検出ユニットが被験者の反応を検出するまで、または電流制限が達成されるまで、増大するシーケンスで刺激を送出すべく、制御ユニットが刺激ユニットを駆動制御するように構成可能である。
【0014】
人間の脳の個々の機能部を人間の脳の一般的活動によって画定できるようにするため、制御ユニットが、分析ユニットによって基礎測定を行うように構成されており、この基礎測定では、被験者が基準活動を行い、その際に求められた分析結果が(それぞれの測定電極に対応づけられて)基準値または基準信号として基準メモリ内に格納されかつ利用可能に保持され、分析ユニットが、求められた個々の分析値と格納されている基準値とを比較する比較ユニットを有しており、分析結果が、個々の電極の全てに対して、求められた分析値が各電極に対応する基準値からどれだけ異なっているかを表すように構成可能である。
【0015】
特に有利には、個々の電圧と人間の脳の個々のポイントとを記録するために、個々の電極が1つもしくは複数の格子内に配置されており、特に、電極が各格子内に設定されたパターンで配置されている、かつ/または周縁電極を除く全ての電極が、設定された数の隣接電極を有しており、これら隣接電極が、各電極に対して予め定められた位置に配置されている、かつ/または相互に等しい間隔を有するように構成可能である。
【0016】
特に有利には、各電極においてまたは電極装置において、相互に、
a)個々の電極が相互に同様に構成される、かつ/または
b)格子内に配置された個々の電極が相互に同様に構成される、かつ/または
c)格子内の電極が正方形パターンまたは六角形パターンで配置される
ように構成可能である。
【0017】
電極が求める電圧の改善は、全ての電極に個別のフィルタが後置接続され、このフィルタが、分析ユニットまたは測定ユニットに前置接続され、かつ
a)設定された閾値を上回るかもしくは下回る信号エネルギが生じた場合、または目標形状から設定された閾値より大きく偏差する信号形状が生じた場合、該当する信号を抑圧し、分析ユニットへ転送しないように、かつ/または
b)1Hzから5Hzまでの限界周波数を下回る信号成分をフィルタリング除去するように、かつ/または
c)特には同じ格子内のみの、全ての電極で同時に測定された全ての信号値の平均値を、該当する電極の測定値から減算するように、
構成され、
d)特には同じ格子内のみの、該当する電極の全ての隣接電極で同時に測定された全ての信号値の、場合により重みづけされた平均値を、該当する電極の測定値から減算し、正方形状の電極格子内で、特に、
i)1つの電極に直接に隣接する4つの電極、
ii)場合により個々の隣接電極が各電極からの距離に依存する重み係数によって重みづけされている、1つの電極を取り囲む8つの電極、
iii)正方形状の格子内の4つの電極であって、その1つの座標位置が1つの電極の該当する座標位置から2だけ偏差し、他の座標位置が当該1つの電極の該当する座標位置に一致する、4つの電極
を、隣接電極と見なす
ことにより達成可能である。
【0018】
リアルタイムで測定値を形成可能な、本発明の特に好ましい一実施形態では、
・分析ユニットが、各電極に対して連続して導出される測定値を形成するように構成されており、設定された時間範囲内で形成された測定値は、特に20msから2sまでの長さの複数の窓にまとめられ、
・分析ユニットが、特にFFTまたは自己回帰モデル、好ましくはLMS、再帰最小2乗法、または5次から50次のカルマンフィルタにより、窓内の信号の信号エネルギを、60Hzから100Hzまでの下方周波数と150Hzから1kHzまでの上方周波数とを有する周波数領域において求め、ここから分析信号を形成し、場合により基礎測定において基準信号を形成するように構成され、
・場合により、分析ユニットが、電源周波数または電源周波数の複数倍を中心とした領域における設定された窓内の周波数領域を信号エネルギの形成に利用しない
ように構成される。
【0019】
関連する神経回路を有利に検出するために、本発明の好ましい一実施形態では、制御ユニットが、刺激を、1つの電極の領域において、特に1Hzから100Hzの周波数を有する電圧刺激によって送出するように、かつ全てもしくは複数の電極に刺激を送出した後、
a)各電極に送出された信号における誘発電位を検出するか、または
b)特に60Hzから1kHzの範囲の、各電極に送出された信号の帯域出力を検出する
ように構成される。さらに制御ユニットは、刺激に基づいて誘発電位または60Hzから1kHzの範囲の高い帯域出力が生じるように、全ての電極またはこれらの電極が検出した脳領域を表示するように構成される。
【0020】
本発明の特に好ましい実施形態を、以下の図に即して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】被験者の脳に適用される複数の電極を含む電極装置2を示す図である。電極装置2は制御ユニットに接続されている。
【
図3】測定信号を処理するフィルタを示す図である。
【
図4】測定信号を処理する別のフィルタを示す図である。
【
図5】測定信号を処理する別のフィルタを示す図である。
【
図7】1つの窓での信号エネルギの算出を示す図である。
【
図8】ディスプレイユニットでの表示を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、被験者3の脳31を電気刺激する装置が示されている。当該装置は、人間の脳31に適用可能な複数の電極21を含み、これら複数の電極21は1つの電極装置2にまとめられている。こうした電極装置2は、制御ユニット1に接続されている。
【0023】
基本的に、人間の脳に適用される電極21には、これらの電極21を介して個々の脳電流を測定し、このようにして測定された測定信号Mを評価する手段も設けられている。またそれ以外にも、電極21を介して電気刺激Sを人間の脳31に送出する手段も設けられている。
【0024】
複数の電極21は、1つの格子内または相互に独立した複数の格子内に配置可能であり、個々の電極21は各格子内に設定されたパターンで配置可能である。この場合、有利には、周縁電極を除く全ての電極21が、設定された数の隣接電極を有し、ここで各隣接電極21は各電極21に対して予め定められた位置に配置されるように構成される。格子内では、隣接電極21は好ましくは相互に等しい距離を有する。
【0025】
特に簡単な格子の構成は、個々の電極21が相互に同様に形成され、または1つの格子内に配置された個々の電極21が相互に同様に形成されることにより達成可能である。1つの格子内で、電極21は正方形状もしくは六角形状もしくは他の規則的なパターンで配置可能である。
【0026】
個々の格子の幾何学形状を適切に描画できるよう、電極格子の幾何学像および個々の電極の正確な位置での表示を可能にする種々の処理プログラムを選択することができる。
【0027】
図2に詳細に示されている制御ユニット1は、電気刺激Sを人間の脳31の個々の電極21へ送出できるように構成された刺激ユニット11を有する。また、制御ユニット1は、電極21に後置接続された測定ユニット12も含む。当該測定ユニット12により、電極21に生じる電圧の形態の個々の測定信号Mを求め、さらに処理することができる。このようにして求められた測定信号Mまたは測定ユニット12によって測定された測定信号Mは、測定電極21に生じる個々の測定信号Mを分析し、この分析に基づいて予選択を行う分析ユニット13へ供給される。当該分析では、刺激Sの送出のため、分析に基づいて信号内に特定の特性が検出された個々の電極21が選択される。有利には、脳領域をより正確に検査できるようにするため、周囲の電極21に刺激Sを印加することもできる。こうした選択は、好ましくは、電極21に生じる測定信号Mにつき、60Hzから1kHz、特に60Hzから170Hzの定められた周波数領域において高い信号エネルギが生じるか否かを分析することにより行われる。
【0028】
測定ユニット12には、各電極21にそれぞれ1つずつ個別のフィルタ12a,12bを後置接続可能である。当該フィルタ12aは、測定ユニット前方の信号路または測定ユニット12と分析ユニット13との間の信号路に配置可能である。フィルタ12aが測定ユニット12に前置される場合、フィルタ12aは、好ましくはアナログフィルタ12aとして構成可能である。測定ユニット12と分析ユニット13との間の信号路では、フィルタ12bは好ましくはディジタルフィルタ12bとして構成可能である。
【0029】
フィルタ12a,12bの可能な実施形態により、測定信号Mに、設定された閾値を上回るかもしくは下回る信号エネルギが生じた場合、または設定された目標形状から設定された閾値よりも大きく偏差する測定信号Mの信号形状が生じた場合、該当する信号が抑圧される。当該信号は、この場合、分析ユニット13へは転送されず、また場合によっては測定ユニット12にも転送されない。
【0030】
これに加えてまたはこれに代えて、フィルタ12a,12bを測定ユニット12の前方の信号路または測定ユニット12と分析ユニット13との間の信号路に配置し、これらのフィルタ12a,12bによって、設定された限界周波数を下回る信号成分をフィルタリング除去することもできる。こうした限界周波数は、0.1Hzから5Hzの間で選定可能である。
【0031】
付加的もしくは代替的なフィルタ12a,12bの動作方式の別の可能性として、全ての電極21で同時に測定された全ての信号値の平均値を該当する電極21から減算することが挙げられる。これにより、電極21全体に電圧変動を引き起こす影響を抑圧することができる。以下の実施例に示す通り、複数の電極(21)の格子が用いられる場合、同じ格子内のみの電極21で同時に測定された全ての信号値の平均値を、該当する電極21の個々の測定値から減算するよう、フィルタ12a,12bを構成することができる。
【0032】
さらに、電極装置2内または電極格子内の個々の隣接電極21uの隣接性を利用して、1つの電極21zの周囲の効果を遮蔽することができる。この場合、該当する電極21の全ての隣接電極21uで同時に測定された全ての信号値の平均値を、この電極21の測定値から減算し、このようにしてフィルタ値を求めることができる。電極格子が正方形状の電極格子として形成されている場合、すなわち1つの電極格子内の電極21が右方、左方、上方および下方の隣接電極21uをそれぞれ1つずつ含む場合、好ましくは隣接電極を用いて、以下のフィルタ措置を行うことができる。
【0033】
平均値は、電極21zに直接に隣接する各電極21u(
図3)の平均により求めることができる。この場合、フィルタ値は、測定された信号値から、隣接電極で測定された信号値の和を4で除算したものを減算することにより、計算される。このようにして求められた値は、実質的に、離散的に求められたラプラス演算子または離散的に求められたラプラス演算子の複数倍に相当する。
【0034】
これに代えて、正方形状の電極格子内の、電極21zを取り囲む8つの隣接電極21u’を平均値の算出に用いることもできる(
図4)。この場合、中央の電極21zに対して対角線上に位置する隣接電極21u’を小さな重み係数で重みづけすることができる。特に、当該重み係数は、隣接電極の距離に依存しうるので、対角線上に位置する隣接電極21u’は、係数1/√2で、直接に隣接する隣接電極21u’よりも弱く重みづけされる。
【0035】
さらに、電極21zに直接に隣接する4つの電極21uに代えて、正方形状の格子内の4つの電極21u’’、すなわちその1つの座標位置が電極21zの該当する座標位置から2だけ偏差し、他の座標位置が中央の電極の該当する座標位置に一致する、4つの電極を、平均値の算出に用いることもできる(
図5)。
【0036】
分析ユニット13の好ましい動作方式を以下に詳細に説明する。
【0037】
分析ユニット13は、個々の電極21の全てに対して連続的に導出されかつ全ての場合にフィルタリングされる測定値を処理し、設定された時間内で形成された測定値を複数の窓にまとめるように構成されている(
図6)。本発明の好ましい実施形態では、窓F
1,F
2,F
3は、200msの長さを有する。ただし、基本的には、20msから15sまでの長さの窓を形成することも問題なく可能である。当該窓内の測定値は1000Hz~5000Hzのサンプリング周波数でサンプリングされる。
【0038】
分析ユニット13は、60Hzから100Hzの下方周波数と150Hzから1kHzまでの上方周波数とを有する周波数範囲において、窓内の信号の信号エネルギを求めるように構成されている。設定された持続時間を有する各窓F1,F2,F3の周囲に、それぞれ信号エネルギが示されている。信号エネルギの計算は、例えば、FFTにより、または自己回帰モデル、例えばLMS、再帰最小2乗法もしくは5次から100次のカルマンフィルタにより、求めることができる。
【0039】
各窓F1,F2,F3に対して、該当する窓F1,F2,F3における信号エネルギを表すそれぞれ1つの分析値が供給される。個々の分析値は、窓ごとに信号エネルギの形態のそれぞれ1つの分析値を有する1つの分析信号Aにまとめられる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、電源周波数またはその複数倍を中心とした領域にある設定された周波数窓内の周波数領域は、信号エネルギの形成に用いられない。これは、例えば、電源周波数が50Hzの場合、電源周波数の2倍の領域すなわち100Hzの領域で行うことができ、信号エネルギを求める際には、例えば95Hzから105Hzの範囲のエネルギがフィルタリング除去される(
図7)。
【0041】
到来した測定値を分析する特に好ましい方式は、基礎測定により、被験者3が例えばリラックスするもしくは何も考えないという基準精神活動を行うことで実行可能である。個々の電極21により測定信号Mから上述したように分析値が導出され、当該値が個々の電極21に対応づけられ、分析ユニット13の分析にかけられる。測定信号Mから導出された分析値は、基準メモリ13a内に格納され、このメモリ内に利用可能に保持される。基準メモリ13aは分析ユニット13に接続されている。分析ユニット13には、さらに、電極21で求められる電圧を具体的な精神活動において求め、そこから分析値を導出する比較ユニットが設けられている。当該値は、基準メモリ13aに格納された基準値と比較される。当該比較に基づいて、個々の電極21の全てに対し、求められた測定信号が各電極21に対応する基準値からどれだけ異なっているかを表す分析結果が求められる。
【0042】
図7に示されているように、特に好ましくは、分析ユニット13は、基礎測定で形成された信号から個々の時間窓に対する信号エネルギを導出し、そこから、基準メモリ13aに格納される基準信号Rを形成する。基礎測定において、個々の電極21全てに対し、被験者3の脳が基準活動の際にどの電気信号を送出したかを表す個別の基準信号Rが格納される。
【0043】
分析ユニット13は、さらに、各電極21につき、該当する電極21に対して基準信号Rから導出された信号とその時点で検出された測定信号Mから導出された分析信号Aとが相互に異なるか否かを表す係数kを求めるように構成されている。分析ユニット13は、複数の電極21に対して、特に全ての電極21に対して、こうした係数kが利用可能に保持される。特に好ましくは、分析ユニット13は、全ての係数kが同じ最大係数kmaxによって除算されるよう、生じた係数kを正規化することができる。これに代えて、全ての電極21の全ての係数kの和が設定値、例えば1を有するよう、個々の係数kを同じ重み値によって重みづけすることもできる。
【0044】
基準信号Rがさらなる分析において求められた分析信号Aと異なるか否かを判別するための特に好ましいバリエーションを、以下に詳細に説明する。このために、それぞれ、一方の、分析ユニット13によって基礎測定において基準信号Rに対して求められた信号エネルギの値と、その時点の各測定信号Mの分析において求められた値と、が用いられ、ここで、このようにして求められた分析信号Aは上述した場合と同様に個々の時間窓F1,F2,F3に対する信号エネルギの個々の値を利用可能である。つまり、基礎測定において求められた複数の信号エネルギと、その時点の測定において求められた複数の信号エネルギと、が存在する。第1のステップでは、測定または基礎測定におけるそれぞれの信号エネルギとしての第1の値と、それぞれの信号エネルギが測定に由来するかまたは基礎測定に由来するかを表す第2の値と、の数値対が形成される。例えば、信号エネルギが基礎測定に由来する場合には値-1を与え、信号エネルギが測定に由来する場合には値+1を与えることができる。使用されるそれぞれの値は、これらの値が数値的に相互に良好に異なっているかぎり、さらなる計算の際に大きな影響を及ぼさない。
【0045】
基礎測定の信号がその時点の測定の信号から良好に異なっているか否かは、2乗相関係数r2、すなわち
r2=(cov(x,y)2)/(var(x)var(y))
によって簡単に表すことができる。
【0046】
基礎測定において求められた信号エネルギの数はn1で表され、その時点の測定において求められた信号エネルギの数はn2で表される。数値的に効率良く相関係数を求めるための簡単な手段は、個々の信号エネルギXiの和と個々の信号エネルギの2乗和とを、これらが基礎測定において求められたかまたはその時点の測定において求められたかに応じて別個に、個々に格納し保存することである。
【0047】
【0048】
相関係数kの計算に必要な共変値cov(x,y)および変数var(x)は、得られた和および2乗和から、
cov(x,y)=(s1-s2)/(n1+n2)-((s1+s2)(n1-n2))/(n1+n2)2=2((s1n2-s2n1)/(n1+n2)2)
var(x)=(q1+q2)/(n1+n2)-(s1+s2)2/(n1+n2)2
var(y)=1-(n1-n2)2/(n1+n2)2=(4n1n2)/(n1+n2)2
のように、求めることができる。
【0049】
これにより、相関係数が
r2=(1/(n1n2))((s1n2-s2n1)2/(n1+n2)(q1+q2)-(s1+s2)2)=(s1
2/n1+s2
2/n2-G)/(q1+q2-G)
のように、得られる。ここで、計算の数値を簡単化するための係数G、すなわち
G:=(s1+s2)2/(n1+n2)
を導入可能である。
【0050】
ここでの装置は、分析ユニットが予選択した電極のなかから、設定された電気刺激Sの送出のため、1つもしくは複数の電極21を選択することのできる、選択操作ユニット14を有する。選択操作ユニット14は、分析ユニット13に後置接続かつ刺激ユニット11に前置接続されている。選択操作ユニット14のここでの好ましい実施例では、
図8に示されているように、選択操作ユニット14がディスプレイユニット141を有しており、このディスプレイユニット141は、電極21と、分析ユニット13によって求められた分析結果、特にこの場合、相関係数kに基づいて好ましくは閾値比較により求められた予選択結果と、を、個々の電極21に対する分析に基づいて、ディスプレイユニットの各位置142においてグラフィックヴィジュアライゼーション143a,143bの形態で表示する。表示を行っている選択操作ユニット14は、ディスプレイユニット141の領域に、個々の電極21の全てに対する個々の選択操作エレメント144を有する。選択操作エレメント144は、それぞれ、電極21に対応づけられており、ディスプレイユニット141上の、該当する電極21のグラフィックヴィジュアライゼーション143a,143bが表示された位置142の領域に配置されている。選択操作エレメント144は、刺激Sの送出のため、自身に対応する電極21を選択するように、または該当する電極21によって刺激Sを送出するように構成されている。選択操作エレメント144による特に好ましい電極の選択は、電極21の選択の際に、それぞれ1つずつの隣接電極21をともに選択することによって行われる。刺激Sは、このようにして選択された2つの電極21間に、電流の形態で送出される。選択操作ユニット14が分析に基づいて1つの電極21を予選択した場合、この選択操作ユニット14は、ここで選択される電極21に隣接する電極21を選択するように提示するかまたは自身で選択する。操作の際、当該2つの電極21間の電流の形態の刺激Sが送出される。効果を増大しかつマッピングをより迅速にするために、複数の電極21を同時にまたは連続して高速に刺激可能であることも有利である。
【0051】
送出された電気刺激Sは、好ましくは、設定された閾値を下回る直流電流成分を有する。このことは、刺激ユニット11が直流電流のない刺激Sを電極21へ印加することによって行うことができる。またこれに代えて、刺激21を時間的に制限することにより、直流電流成分を低減することもできる。どちらの場合にも、例えば1msの持続時間と10mAの電流強度とを有する矩形のインパルスを刺激に用いることができる。
【0052】
特に有利には、種々の刺激閾値での刺激のために、刺激ユニット11が増大する種々の強さを有する刺激Sを個々の電極21に印加するように構成することもできる。刺激ユニット11は、個々の刺激Sを手動操作時に送出するように構成されてもよい。
【0053】
またこれに代えて、検出ユニット22が被験者3の反応を検出または識別するまで、刺激ユニット11が増大するシーケンスで刺激を送出するように駆動制御する手段を設けることもできる。検出ユニット22は、制御ユニットに接続されており、例えば、被験者3の会話を検出するマイクロフォンによって、または被験者3の運動を検出する検出器によって、構成可能である。検出ユニット22に置換して、医師が被験者の反応を検出し、相応に刺激を終了することによる、手動操作を行うこともできる。
【0054】
付加的に、刺激後放電(アフターディスチャージ)を検出する手段を設けることもできる。刺激後放電は、脳内の電極刺激によりトリガされ、いずれの場合にもてんかん発作を引き起こす危険を有する。この場合、電気刺激に用いられている電流をそれ以上増大せず、または刺激を終了するように構成可能である。警報によって医師にアフターディスチャージが示唆される。
【0055】
こうした放電(アフターディスチャージ)が識別された場合、手動でてんかん発作を抑圧するための別の刺激を送出する手段を設けることもできる。
【0056】
本発明の別の有利な実施形態では、測定信号の分析において求められた個々の中間結果または個々の測定データを直接に表示する手段を設けることもできる。
【0057】
さらに、特に障害を早期に識別できるようにするため、求められた生の測定データのスペクトル情報を表示する手段を設けることができる。また、接触が不良であるかまたは全体で見て障害を有する個々の電極を測定から排除する手段を設けることもできる。この場合、こうした電極に対しては、全体として測定データを形成せず、こうした電極に対する分析も行わない。
【0058】
本発明の別の好ましい実施形態では、信号アースを任意に選定可能または任意の電圧値に設定可能な手段を設けることができる。これは特に、測定中に使用されるアースに障害が生じた場合に測定不能となることを回避するのに有利である。
【0059】
基本的に、被験者に種々の複数の精神活動を設定可能にする手段として、例えばルービックキューブ解き、聴音、画像呼称、口唇運動、舌運動、音読、計算、記銘想起などの手段を設けることができる。この場合、全体として良好な品質の記録を取得するために、種々の活動を繰り返し行う手段を設けてもよい。さらに、個々の記録の品質を表示する手段を設けることもできる。1人の人間に設定される精神活動の数は、必要に応じて制限されなくてもよい。被験者または試験導入者によって付加的な思考活動を設定することもできる。
【0060】
人間の脳の種々の状態において測定信号を形成するさらなる手段は、身体を触覚的、聴覚的または視覚的に刺激することにある。
【0061】
また、個々の分析結果および全ての分析結果の全体を測定の終了時に印刷および格納することもできる。
【0062】
さらに、個々に格納される結果において、どの電極間またはどの電極で自動もしくは手動の刺激が行われるかを記す手段を設けることもできる。こうした刺激は、個々に格納されるかまたは印刷される測定結果として記すことができる。
【0063】
別の実施形態によれば、既知の脳領域を2つの電極21によって例えば1Hz~50Hzで刺激することにより、皮質神経回路を識別することができる。全ての他の電極で誘発電位が計算され、場合によりヴィジュアル化される。これは、トレンド補正およびベースライン補正による事象に関連した平均により求めることができる。こうした手段により、唯一の領域、例えば、脳の言語神経回路全体を識別するのに必要なブローカ野を刺激できるという利点が得られる。基礎として、特定の脳領域を識別し、続いてこれを電気的に刺激して神経回路を識別する、高γマッピングが用いられる。
【0064】
さらなる特段の点は、誘発電位に加えてまたは誘発電位に代えて、60Hz~1000Hzの範囲の帯域出力も計算でき、これにより皮質神経回路、例えば言語神経回路を高γ分析によって識別できるということである。