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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】押出成形用ダイおよび押出成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/305 20190101AFI20220715BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20220715BHJP
【FI】
B29C48/305
B29C48/08
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019043989
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020146853
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横溝 和哉
(72)【発明者】
【氏名】上田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】田子 洋輔
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-170319(JP,A)
【文献】特開平9-225990(JP,A)
【文献】特開平8-197608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/305
B29C 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂を供給するための第1開口部と、
前記溶融樹脂を吐出するための第2開口部と、
前記第1開口部から前記第2開口部に至る樹脂流路部と、
を有する押出成形用ダイであって、
前記樹脂流路部は、
マニホールド部と、
前記マニホールド部と前記第2開口部との間に、前記マニホールド部から前記第2開口部に向かう第1方向に順に配置された第1ランド部、第2ランド部、第3ランド部および第4ランド部と、
を有し、
前記第2ランド部は、前記第1ランド部よりも薄く、
前記第3ランド部は、前記第2ランド部よりも厚く、
前記第4ランド部は、前記第3ランド部よりも薄く、
前記第2ランド部の第1流路長は、前記第1方向に直交する第2方向における前記第2ランド部の中央から両端にかけて徐々に小さくなっており、
前記第4ランド部の第2流路長は、前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近では一定であり、前記第2方向における前記第4ランド部の両端付近では前記中央付近よりも大きくなっている、押出成形用ダイ。
【請求項2】
請求項1記載の押出成形用ダイにおいて、
平面視において、前記第1ランド部、前記第2ランド部、前記第3ランド部および前記第4ランド部のそれぞれは、前記第1方向に沿った中心軸に対して、対称である、押出成形用ダイ。
【請求項3】
請求項1記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第1ランド部と前記第2ランド部との境界は、前記第2方向における前記第2ランド部の中央から一方の端部に至る第1辺と、前記第2方向における前記第2ランド部の中央から他方の端部に至る第2辺と、を有し、
前記第1辺と前記第2辺とは、それぞれ前記第2方向に対して傾斜している、押出成形用ダイ。
【請求項4】
請求項3記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第2ランド部と前記第3ランド部との境界は、前記第2方向に沿っている、押出成形用ダイ。
【請求項5】
請求項1記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第2開口部の長軸方向は、前記第2方向に沿っている、押出成形用ダイ。
【請求項6】
請求項1記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第3ランド部と前記第4ランド部との境界は、
前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近に位置し、かつ前記第2方向に沿う第3辺と、
前記第2方向における前記第4ランド部の一方の端部に位置し、かつ、前記第2方向に沿う第4辺と、
前記第2方向における前記第4ランド部の他方の端部に位置し、かつ、前記第2方向に沿う第5辺と、
前記第3辺と前記第4辺とをつなぐ第6辺と、前記第3辺と前記第5辺とをつなぐ第7辺と、
を有し、
前記第3辺から前記第2開口部までの第1距離は、前記第4辺から前記第2開口部までの第2距離および前記第5辺から前記第2開口部までの第3距離よりも小さい、押出成形用ダイ。
【請求項7】
請求項6記載の押出成形用ダイにおいて、
平面視において、前記第6辺および前記第7辺のそれぞれは、前記第1方向および前記第2方向の両方に対して傾斜している、押出成形用ダイ。
【請求項8】
請求項1記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第3ランド部と前記第4ランド部との境界は、
前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近に位置し、かつ前記第2方向に沿う第3辺と、
前記第3辺の一端から、前記第2方向における前記第4ランド部の一方の端部に至る第4辺と、
前記第3辺の他端から、前記第2方向における前記第4ランド部の他方の端部に至る第5辺と、
を有し、
平面視において、前記第4辺および前記第5辺のそれぞれは、前記第1方向および前記第2方向の両方に対して傾斜している、押出成形用ダイ。
【請求項9】
請求項1記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第4ランド部は、前記第2ランド部よりも薄い、押出成形用ダイ。
【請求項10】
請求項1記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第1流路長は、前記第2ランド部の前記第1方向の長さであり、
前記第2流路長は、前記第4ランド部の前記第1方向の長さである、押出成形用ダイ。
【請求項11】
押出機と、
前記押出機から押し出された溶融樹脂が供給されるダイと、
前記ダイから吐出された前記溶融樹脂を冷却するための冷却用治具と、
を有する押出成形装置であって、
前記ダイは、
前記溶融樹脂を供給するための第1開口部と、
前記溶融樹脂を吐出するための第2開口部と、
前記第1開口部から前記第2開口部に至る樹脂流路部と、
を有し、
前記樹脂流路部は、
マニホールド部と、
前記マニホールド部と前記第2開口部との間に、前記マニホールド部から前記第2開口部に向かう第1方向に順に配置された第1ランド部、第2ランド部、第3ランド部および第4ランド部と、
を有し、
前記第2ランド部は、前記第1ランド部よりも薄く、
前記第3ランド部は、前記第2ランド部よりも厚く、
前記第4ランド部は、前記第3ランド部よりも薄く、
前記第2ランド部の第1流路長は、前記第1方向に直交する第2方向における前記第2ランド部の中央から両端にかけて徐々に小さくなっており、
前記第4ランド部の第2流路長は、前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近では一定であり、前記第2方向における前記第4ランド部の両端付近では前記中央付近よりも大きくなっている、押出成形装置。
【請求項12】
請求項11記載の押出成形装置において、
平面視において、前記第1ランド部、前記第2ランド部、前記第3ランド部および前記第4ランド部のそれぞれは、前記第1方向に沿った中心軸に対して、対称である、押出成形装置。
【請求項13】
請求項11記載の押出成形装置において、
前記第1ランド部と前記第2ランド部との境界は、前記第2方向における前記第2ランド部の中央から一方の端部に至る第1辺と、前記第2方向における前記第2ランド部の中央から他方の端部に至る第2辺と、を有し、
前記第1辺と前記第2辺とは、それぞれ前記第2方向に対して傾斜している、押出成形装置。
【請求項14】
請求項13記載の押出成形装置において、
前記第2ランド部と前記第3ランド部との境界は、前記第2方向に沿っている、押出成形装置。
【請求項15】
請求項11記載の押出成形装置において、
前記第3ランド部と前記第4ランド部との境界は、
前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近に位置し、かつ前記第2方向に沿う第3辺と、
前記第2方向における前記第4ランド部の一方の端部に位置し、かつ、前記第2方向に沿う第4辺と、
前記第2方向における前記第4ランド部の他方の端部に位置し、かつ、前記第2方向に沿う第5辺と、
前記第3辺と前記第4辺とをつなぐ第6辺と、前記第3辺と前記第5辺とをつなぐ第7辺と、
を有し、
前記第3辺から前記第2開口部までの第1距離は、前記第4辺から前記第2開口部までの第2距離および前記第5辺から前記第2開口部までの第3距離よりも小さい、押出成形装置。
【請求項16】
請求項15記載の押出成形装置において、
平面視において、前記第6辺および前記第7辺のそれぞれは、前記第1方向および前記第2方向の両方に対して傾斜している、押出成形装置。
【請求項17】
請求項11記載の押出成形装置において、
前記第3ランド部と前記第4ランド部との境界は、
前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近に位置し、かつ前記第2方向に沿う第3辺と、
前記第3辺の一端から、前記第2方向における前記第4ランド部の一方の端部に至る第4辺と、
前記第3辺の他端から、前記第2方向における前記第4ランド部の他方の端部に至る第5辺と、
を有し、
平面視において、前記第4辺および前記第5辺のそれぞれは、前記第1方向および前記第2方向の両方に対して傾斜している、押出成形装置。
【請求項18】
請求項11記載の押出成形装置において、
前記第4ランド部は、前記第2ランド部よりも薄い、押出成形装置。
【請求項19】
請求項11記載の押出成形装置において、
前記第1流路長は、前記第2ランド部の前記第1方向の長さであり、
前記第2流路長は、前記第4ランド部の前記第1方向の長さである、押出成形装置。
【請求項20】
溶融樹脂を供給するための第1開口部と、
前記溶融樹脂を吐出するための第2開口部と、
前記第1開口部から前記第2開口部に至る樹脂流路部と、
を有する押出成形用ダイであって、
前記樹脂流路部は、
マニホールド部と、
前記マニホールド部と前記第2開口部との間に、前記マニホールド部から前記第2開口部に向かう第1方向に順に配置された第1ランド部、第2ランド部、第3ランド部および第4ランド部と、
を有し、
前記第2ランド部は、前記第1ランド部よりも薄く、
前記第3ランド部は、前記第2ランド部よりも厚く、
前記第4ランド部は、前記第3ランド部よりも薄く、
前記第1ランド部の第1流路長は、前記第1方向に直交する第2方向における前記第1ランド部の中央から両端にかけて徐々に小さくなっており、
前記第4ランド部の第2流路長は、前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近では一定であり、前記第2方向における前記第4ランド部の両端付近では前記中央付近よりも大きくなっている、押出成形用ダイ。
【請求項21】
請求項20記載の押出成形用ダイにおいて、
平面視において、前記第1ランド部、前記第2ランド部、前記第3ランド部および前記第4ランド部のそれぞれは、前記第1方向に沿った中心軸に対して、対称である、押出成形用ダイ。
【請求項22】
請求項20記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第2ランド部の第3流路長は、前記第2方向における前記第2ランド部の中央から両端にかけて一定である、押出成形用ダイ。
【請求項23】
請求項22記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第2ランド部と前記第3ランド部との境界は、前記第2方向に沿っている、押出成形用ダイ。
【請求項24】
請求項20記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第2開口部の長軸方向は、前記第2方向に沿っている、押出成形用ダイ。
【請求項25】
請求項20記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第3ランド部と前記第4ランド部との境界は、
前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近に位置し、かつ前記第2方向に沿う第3辺と、
前記第2方向における前記第4ランド部の一方の端部に位置し、かつ、前記第2方向に沿う第4辺と、
前記第2方向における前記第4ランド部の他方の端部に位置し、かつ、前記第2方向に沿う第5辺と、
前記第3辺と前記第4辺とをつなぐ第6辺と、前記第3辺と前記第5辺とをつなぐ第7辺と、
を有し、
前記第3辺から前記第2開口部までの第1距離は、前記第4辺から前記第2開口部までの第2距離および前記第5辺から前記第2開口部までの第3距離よりも小さい、押出成形用ダイ。
【請求項26】
請求項25記載の押出成形用ダイにおいて、
平面視において、前記第6辺および前記第7辺のそれぞれは、前記第1方向および前記第2方向の両方に対して傾斜している、押出成形用ダイ。
【請求項27】
請求項20記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第3ランド部と前記第4ランド部との境界は、
前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近に位置し、かつ前記第2方向に沿う第3辺と、
前記第3辺の一端から、前記第2方向における前記第4ランド部の一方の端部に至る第4辺と、
前記第3辺の他端から、前記第2方向における前記第4ランド部の他方の端部に至る第5辺と、
を有し、
平面視において、前記第4辺および前記第5辺のそれぞれは、前記第1方向および前記第2方向の両方に対して傾斜している、押出成形用ダイ。
【請求項28】
請求項20記載の押出成形用ダイにおいて、
前記第1流路長は、前記第1ランド部の前記第1方向の長さであり、
前記第2流路長は、前記第4ランド部の前記第1方向の長さである、押出成形用ダイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形用ダイおよび押出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2010-83060号公報(特許文献1)および特開2013-159023号公報(特許文献2)には、押出成形用ダイに関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-83060号公報
【文献】特開2013-159023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
押出成形により樹脂フィルムを製造することができる。その場合、均一な厚さを有する樹脂フィルムを製造することが望まれる。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態によれば、押出成形用ダイは、溶融樹脂を供給するための第1開口部と、前記溶融樹脂を吐出するための第2開口部と、前記第1開口部から前記第2開口部に至る樹脂流路部と、を有する。前記樹脂流路部は、マニホールド部と、前記マニホールド部と前記第2開口部との間に、前記マニホールド部から前記第2開口部に向かう第1方向に順に配置された第1ランド部、第2ランド部、第3ランド部および第4ランド部と、を有する。前記第2ランド部は、前記第1ランド部よりも薄く、前記第3ランド部は、前記第2ランド部よりも厚く、前記第4ランド部は、前記第3ランド部よりも薄い。前記第2ランド部の第1流路長は、前記第1方向に直交する第2方向における前記第2ランド部の中央から両端にかけて徐々に小さくなっている。前記第4ランド部の第2流路長は、前記第2方向における前記第4ランド部の中央付近では一定であり、前記第2方向における前記第4ランド部の両端付近では前記中央付近よりも大きくなっている。
【発明の効果】
【0007】
一実施の形態によれば、均一な厚さの樹脂フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施の形態における押出成形装置の模式的な構成を示す説明図である。
図2】一実施の形態における押出成形用のダイの断面図である。
図3】一実施の形態における押出成形用のダイの断面図である。
図4】一実施の形態における押出成形用のダイの断面図である。
図5】一実施の形態における押出成形用のダイの樹脂流路部を示す斜視図である。
図6】一実施の形態における押出成形用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
図7】第1検討例における押出成型用のダイを示す断面図である。
図8】第1検討例における押出成型用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
図9】第2検討例における押出成型用のダイを示す断面図である。
図10】第2検討例における押出成型用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
図11】溶融樹脂のネックインを説明するための説明図である。
図12】第3検討例における押出成型用のダイを示す断面図である。
図13】第3検討例における押出成型用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
図14】第4検討例における押出成型用のダイを示す断面図である。
図15】第4検討例における押出成型用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
図16】第5検討例における押出成型用のダイを示す断面図である。
図17】第5検討例における押出成型用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
図18】冷却後の樹脂フィルムの厚さの分布を調べた結果を示すグラフである。
図19】第1変形例の押出成形用のダイの樹脂流路部を示す斜視図である。
図20】第1変形例の押出成形用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
図21】第2変形例の押出成形用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
図22】第3変形例の押出成形用のダイの樹脂流路部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0010】
(実施の形態)
<押出成形装置の全体構成について>
本実施の形態における押出成形装置(押出成形機)1の全体構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態における押出成形装置1の模式的な構成を示す説明図(側面図)である。
【0011】
押出成形においては、溶融した樹脂材料(溶融樹脂)を押し出して連続的に成形する。溶融樹脂は、ダイ(金型)を通過することにより所定の断面形状(フィルム状)に成形され、ダイを通過した後に、冷却されて固化する。
【0012】
なお、本願において、「溶融」とは、熱で溶かす場合に限定されず、溶剤などで溶かす場合も含むものとする。このため、加熱により樹脂を溶かした場合だけでなく、溶剤で樹脂を溶かした場合や、マイクロ波により樹脂を溶かした場合なども、「溶融樹脂」に含まれ得る。また、液状樹脂も、「溶融樹脂」に含まれ得る。
【0013】
図1に示されるように、本実施の形態における押出成形装置1は、押出機(押出装置)2と、ダイ(金型)3と、冷却ロール(キャストロール)4と、タッチロール5と、引取り機(引取り装置)6とを備えている。
【0014】
押出機2は、樹脂材料を溶融させ、溶融した樹脂材料(溶融樹脂)をダイ3に向けて押し出す。ダイ3は、押出機2から押し出された溶融樹脂をフィルム(シート)状に成形する。冷却ロール4は、ダイ3から吐出された溶融樹脂を急冷して固化させる。冷却ロール4は、ダイ3から吐出された溶融樹脂を冷却するための冷却用治具(冷却装置)とみなすこともできる。タッチロール5は、冷却ロール4との間に樹脂を挟んで通過させる。タッチロール5は、設けない場合もあり得る。引取り機6は、冷却ロール4で固化した樹脂フィルムを引き取り、巻取り機(図示せず)に搬送する。押出機2は、引取り機6から搬送された樹脂フィルムを巻き取る巻取り機(図示せず)と、巻き取られた樹脂フィルムを切断する切断機(図示せず)とを更に有しているが、図1ではその図示は省略している。
【0015】
次に、押出成形装置1の動作の概略について説明する。
【0016】
まず、押出機2の樹脂投入口2aから押出機2内に原料(樹脂材料)を供給する。押出機2内に供給された樹脂材料は、例えば、押出機2内でスクリューの回転により前方へ送られながら加熱されることで、溶融される。押出機2内で溶融した樹脂材料(溶融樹脂)は、押出機2の先端からダイ3に向けて押し出される。押出機2から押し出された溶融樹脂は、ダイ3に供給され、ダイ3内を通過して(より特定的にはダイ3内の後述の樹脂流路部23を通過して)、ダイ3から冷却ロール4に向かって吐出される。押出機2からダイ3に供給された溶融樹脂は、ダイ3を通過することにより所定の断面形状(ここではフィルム状)に成形されるが、ダイ3から吐出された段階では、樹脂材料(フィルム状に成形された樹脂材料)は溶融状態を維持している。このため、図1に示される、ダイ3から吐出される溶融樹脂11は、フィルム状に成形された溶融樹脂(フィルム状の溶融樹脂、溶融樹脂フィルム)である。ダイ3から吐出された溶融樹脂11は、回転する冷却ロール4に到達し、冷却ロール4の表面に貼りついた状態で冷却ロール4と一緒に回転しながら急速に冷却されて固化する。タッチロール5を設けている場合は、溶融樹脂11または樹脂フィルム11aは、冷却ロール4とタッチロール5との間の狭い空間(隙間)を通過する。ダイ3から吐出された溶融樹脂11は、冷却ロール4で固化されて固化状態の樹脂フィルム11aとなり、この樹脂フィルム11aは、引取り機6によって引き取られて、巻取り機(図示せず)に搬送される。巻取り機に搬送されるまでに、樹脂フィルム11aに対して延伸処理(引き伸ばし処理)を行う場合もある。巻取り機に搬送された樹脂フィルム11aは、ロール状に巻き取られ、切断機(図示せず)で必要に応じて切断される。
【0017】
<ダイの構成について>
次に、本実施の形態における押出成形用のダイ3の構成について、図2図6を参照して説明する。図2図4は、本実施の形態における押出成形用のダイ3の断面図である。図5は、本実施の形態における押出成形用のダイ3の樹脂流路部23を示す斜視図である。図6は、本実施の形態における押出成形用のダイ3の樹脂流路部23を示す平面図である。図2は、図5および図6に示されるA1-A1線の位置でのダイ3の断面図にほぼ対応し、図3は、図5および図6に示されるA2-A2線の位置でのダイ3の断面図にほぼ対応し、図4は、図5および図6に示されるA3-A3線の位置でのダイ3の断面図にほぼ対応している。
【0018】
また、図2図6には、X方向、Y方向およびZ方向が示されている。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに交差する方向であり、より特定的には互いに直交する方向である。このため、X方向とY方向とは互いに直交し、また、Z方向は、X方向およびY方向に直交している。Y方向は、マニホールド部32から開口部25に向かう方向である。このため、樹脂導入部31のランド部33,34,35,36内を溶融樹脂が主として流れる方向は、Y方向である。開口部25の延在方向(長辺方向)は、X方向である。このため、樹脂導入部31のランド部33,34,35,36の幅方向は、X方向であり、また、開口部25から吐出されるフィルム状の溶融樹脂11の幅方向もX方向である。Z方向は、樹脂導入部31のランド部33,34,35,36の厚さ方向であり、また、開口部25から吐出されるフィルム状の溶融樹脂11の厚さ方向もZ方向である。このため、以下の説明でランド部33,34,35,36、開口部25および溶融樹脂11の厚さに言及する場合は、Z方向の厚さ(寸法)に対応している。
【0019】
ダイ3は、対となるダイ部材(ダイ本体部、金型)21,22を有している。ダイ部材21およびダイ部材22は、好ましくは金属材料からなる。ダイ部材21とダイ部材22とは、ボルトなどの固定用部材(図示せず)により互いに固定されている。
【0020】
ダイ3内には、樹脂流路部23が形成されている。樹脂流路部23は、ダイ部材21とダイ部材22との間に形成されている。樹脂流路部23は、ダイ部材21とダイ部材22との間に形成された空間であり、ダイ3に供給(導入)された溶融樹脂が流動(移動)可能な空間である。樹脂流路部23は、ダイ3内に形成された、溶融樹脂が通過するための流路とみなすことができる。樹脂流路部23の周囲は、ダイ部材21,22によって囲まれている。
【0021】
このため、ダイ3は、ダイ部材21,22と、ダイ部材21,22間に形成された樹脂流路部23と、ダイ部材21,22を互いに固定する固定用部材(ボルトなど)とを有している。ダイ3は、いわゆるTダイである。
【0022】
また、ダイ3は、ダイ3に溶融樹脂を供給(導入)するための開口部(供給口、導入口)24と、ダイ3の外部に溶融樹脂を吐出するための開口部(吐出口)25とを更に有しており、樹脂流路部23は、開口部24から供給された溶融樹脂が開口部25から吐出されるまでの流路(溶融樹脂の流路)である。押出機2からダイ3の開口部24に供給された溶融樹脂は、樹脂流路部23を通って開口部25からダイ3の外部に吐出される。このため、ダイ3は、溶融樹脂を供給するための開口部24と、溶融樹脂を吐出するための開口部25と、開口部24から開口部25に至る樹脂流路部23とを有していることになる。
【0023】
次に、樹脂流路部23の詳細構成について、図2図6を参照して説明する。
【0024】
樹脂流路部23は、マニホールド部32と、開口部24から供給(導入)された溶融樹脂をマニホールド部32へ導く樹脂導入部31と、マニホールド部32に連結するスリット部とを有しており、そのスリット部は、厚さが異なる4つの領域(ランド部33,34,35,36)により形成されている。このため、樹脂流路部23は、樹脂導入部31と、マニホールド部32と、ランド部(スリット部、領域)33,34,35,36とを有している。溶融樹脂が流れる方向に、樹脂導入部31とマニホールド部32とランド部33とランド部34とランド部35とランド部36とが順に配置されている。このため、ランド部33、ランド部34、ランド部35およびランド部36は、マニホールド部32と開口部25との間に、マニホールド部から開口部25に向かう方向(すわなちY方向)に順に配置されている。
【0025】
ダイ3における溶融樹脂の流入口である開口部24は、樹脂導入部31とつながっており、ダイ3における溶融樹脂の吐出口である開口部25は、ランド部36とつながっている。開口部25は、ランド部36がダイ3の表面に到達して形成された開口部である。すなわち、ランド部36の下流側の端面が、開口部25になっている。このため、開口部25の形状は、ランド部36の断面形状(Y方向に略垂直な断面形状)と実質的に同じであり、開口部25の厚さ(Z方向の寸法)は、ランド部36の厚さ(Z方向)と実質的に同じである。
【0026】
開口部25の形状(平面形状)は、好ましくは長方形状である。従って、ランド部36の断面形状(Y方向に略垂直な断面形状)は、好ましくは長方形状である。このため、開口部25は、長軸(長辺)と短軸(短辺)とを有し、X方向が長軸方向(長辺方向)であり、Z方向が短軸方向(短辺方向)である。
【0027】
押出機2から押し出された溶融樹脂は、ダイ3の開口部24から流入し、樹脂導入部31とマニホールド部32とランド部33とランド部34とランド部35とランド部36とを順に通って、ダイ3の開口部25から吐出される。
【0028】
形成される樹脂フィルム11aの厚さは、開口部25の厚さ(ランド部36の厚さ)、ダイ3の開口部25から吐出される溶融樹脂11の流量(流速)、および冷却ロール4の引き取り速度(回転速度)などによって制御することができる。開口部25の厚さ(ランド部36の厚さ)を変えなくても、ダイ3の開口部25から吐出される溶融樹脂11の流量(流速)が小さくなるほど、形成される樹脂フィルム11aの厚さは薄くなり、また、冷却ロール4の引き取り速度(回転速度)が速くなるほど、形成される樹脂フィルム11aの厚さは薄くなる。開口部25は、溶融樹脂を吐出するリップ口(リップ開口)として機能することができ、ランド部36は、リップランド部として機能することができる。
【0029】
マニホールド部32は、X方向に延在しており、マニホールド部32の中央付近(X方向における中央付近)に、樹脂導入部31がつながっている。
【0030】
押出機2からダイ3の開口部24に供給された溶融樹脂は、樹脂導入部31を通ってマニホールド部32に流入する。樹脂導入部31からマニホールド部32に流入した溶融樹脂は、マニホールド部32内をマニホールド部32の延在方向(ここではX方向)に移動することができ、マニホールド部32の両端まで移動することができる。このため、樹脂導入部31からマニホールド部32に流入した溶融樹脂は、マニホールド部32で横方向(X方向)に広がる。マニホールド部32は、樹脂導入部31から流入した溶融樹脂をマニホールド部32の両端側方向に導く作用を有している。マニホールド部32全体に溶融樹脂が行き渡るため、マニホールド部32全体からランド部33に向かって溶融樹脂が移動する。マニホールド部32の断面形状(X方向に略垂直な断面形状)は、例えば円形状とすることができ、従って、マニホールド部32の立体形状は、例えば円筒状とすることができる。
【0031】
ランド部33は、マニホールド部32と一体的に連結され、ランド部34は、ランド部33と一体的に連結され、ランド部35は、ランド部34と一体的に連結され、ランド部36は、ランド部35と一体的に連結されている。このため、Y方向において、マニホールド部32に隣接する位置にランド部33が配置され、ランド部33に隣接する位置にランド部34が配置され、ランド部34に隣接する位置にランド部35が配置され、ランド部35に隣接する位置にランド部36が配置されている。但し、ランド部33は、マニホールド部32の下流側に位置し、ランド部34は、ランド部33の下流側に位置し、ランド部35は、ランド部34の下流側に位置し、ランド部36は、ランド部35の下流側に位置している。
【0032】
なお、本実施の形態では、下流側とは溶融樹脂の流れの下流側を意味し、上流側とは溶融樹脂の流れの上流側を意味する。従って、開口部25に近い側が下流側であり、開口部25から遠い側が上流側である。
【0033】
樹脂導入部31からマニホールド部32に流入した溶融樹脂は、マニホールド部32全体に行き渡り、マニホールド部32全体からランド部33に流入する。マニホールド部32からランド部33に流入した溶融樹脂は、ランド部33を通過してランド部34に流入し、更にランド部34を通過してランド部35に流入する。ランド部35に流入した溶融樹脂は、ランド部35を通過してランド部36に流入し、更にランド部36を通過して開口部25からダイ3の外部に吐出される。
【0034】
ランド部33,34,35,36は、X方向およびY方向に略平行な平面(主面)を有するスリット状(板状)の形状を有している。ランド部33,34,35,36の厚さの関係は、次のようになっている。
【0035】
すなわち、ランド部33の厚さt1よりもランド部34の厚さt2が小さく(t1>t2)、ランド部34の厚さt2よりもランド部35の厚さt3が大きく(t2<t3)、ランド部35の厚さt3よりもランド部36の厚さt4が小さい(t3>t4)。また、好ましくは、ランド部36の厚さt4は、ランド部34の厚さt2よりも小さい(t4<t2)。ランド部33の厚さは均一であり、ランド部34の厚さは均一であり、ランド部35の厚さは均一であり、ランド部36の厚さは均一である。
【0036】
厚さt1,t2,t3,t4の一例を挙げると、厚さt1は2~20mm程度であり、厚さt2は0.8~10mm程度であり、厚さt3は1~20mm程度であり、厚さt4は0.4~6mm程度である。
【0037】
また、樹脂導入部31およびマニホールド部32は、ランド部33,34,35,36よりも、厚さ方向(Z方向)の寸法が大きい。例えば、マニホールド部32の断面形状(X方向に略垂直な断面形状)が円形状の場合は、その直径は、ランド部33,34,35,36の各厚さt1,t2,t3,t4よりも大きい。このため、ランド部33,34,35,36に比べて、樹脂導入部31およびマニホールド部32では、溶融樹脂が移動しやすい。従って、マニホールド部32全体に溶融樹脂を行き渡らせて、マニホールド部32全体からランド部33に溶融樹脂を流入させることができる。
【0038】
ランド部33の幅とランド部34の幅とランド部35の幅とランド部36の幅とは、互いに同じである。このため、ランド部33,34,35,36のそれぞれの両端部(両側面)は、互いに整合する位置にあり、Y方向に並んでいる。また、ランド部33,34,35,36のそれぞれの両端部(両側面)は、Y方向に略平行である。
【0039】
平面視において、ランド部33の平面形状は、中心軸に対して線対称である。また、平面視において、ランド部34の平面形状は、中心軸に対して線対称である。また、平面視において、ランド部35の平面形状は、中心軸に対して線対称である。また、平面視において、ランド部36の平面形状は、中心軸に対して線対称である。すなわち、ランド部33,34,35,36のそれぞれは、Y方向に沿った中心軸に対して対称である。
【0040】
なお、ランド部33,34,35,36に関して説明するときは、「幅」とは、X方向の幅(寸法)に対応し、「端部」とは、X方向における端部に対応し、「両端部」とは、Xにおける両端部に対応し、「中央」とは、X方向における中央に対応している。また、ランド部33,34,35,36に関して説明するときは、「平面視」とは、X方向およびY方向に平行な平面で見た場合に対応し、「平面形状」とは、X方向およびY方向に平行な平面で見た場合の平面形状に対応している。また、ランド部33,34,35,36に関して説明するときは、「中心軸」とは、ランド部33,34,35,36のX方向における中央を通り、かつY方向に平行な直線に対応している。
【0041】
平面視において、マニホールド部32とランド部33との境界は、X方向に略平行である。一方、平面視において、ランド部33とランド部34との境界は、X方向に対して平行ではなく、X方向に対して傾斜している。平面視において、ランド部33とランド部34との境界は、X方向における中央から両端部側に向かって延在する2つの辺41a,41bにより構成されているが、その2つの辺41a,41bは、X方向に対して傾斜しているとともに、互いに対称である。平面視において、ランド部34とランド部35との境界は、X方向に略平行であり、すなわちX方向に沿っている。平面視において、ランド部35とランド部36との境界は、X方向の中央付近ではX方向に略平行であり、両端部付近では、中央付近に比べて、上流側(マニホールド部32に近づく側)に後退している。ランド部36の下流側端面に対応する開口部25は、X方向に略平行である。
【0042】
次に、ランド部33,34,35,36の流路長L1,L2,L3,L4について説明する。
【0043】
ここで、流路長L1は、ランド部33のY方向の寸法(長さ)に対応し、流路長L2は、ランド部34のY方向の寸法(長さ)に対応し、流路長L3は、ランド部35のY方向の寸法(長さ)に対応し、流路長L4は、ランド部36のY方向の寸法(長さ)に対応している。ランド部33,34,35,36のそれぞれにおいて、溶融樹脂は主としてY方向に沿って流れる(移動する)。このため、流路長L1は、溶融樹脂が流れる方向に沿ったランド部33の寸法(長さ)とみなすことができ、また、流路長L2は、溶融樹脂が流れる方向に沿ったランド部34の寸法(長さ)とみなすことができる。また、後述の流路長L3は、溶融樹脂が流れる方向に沿ったランド部35の寸法(長さ)とみなすことができ、また、流路長L4は、溶融樹脂が流れる方向に沿ったランド部36の寸法(長さ)とみなすことができる。従って、流路長L1は、ランド部33において溶融樹脂が流れる距離を規定し、流路長L2は、ランド部34において溶融樹脂が流れる距離を規定し、流路長L3は、ランド部35において溶融樹脂が流れる距離を規定し、流路長L4は、ランド部36において溶融樹脂が流れる距離を規定することになる。
【0044】
ランド部33の流路長L1は、中央(X方向におけるランド部33の中央)が最も小さく、中央から両端部側(X方向におけるランド部33の両端部側)に行くに従って、徐々に大きくなっている。一方、ランド部34の流路長L2は、中央(X方向におけるランド部34の中央)が最も大きく、中央から両端部側(X方向におけるランド部34の両端部側)に行くに従って、徐々に小さくなっている。ランド部33の流路長L1とランド部34の流路長L2との合計(すなわちL1+L2)は、X方向の位置によらず、ほぼ一定である。このため、ランド部33の流路長L1とランド部34の流路長L2との合計に対するランド部33の流路長L1の比率、すなわちL1/(L1+L2)は、中央(X方向における中央)が最も小さく、中央から両端部側(X方向における両端部側)に行くに従って、徐々に大きくなっている。また、ランド部33の流路長L1とランド部34の流路長L2との合計に対するランド部34の流路長L2の比率、すなわちL2/(L1+L2)は、中央(X方向における中央)が最も大きく、中央から両端部側(X方向における両端部側)に行くに従って、徐々に小さくなっている。
【0045】
更に具体的に説明すると、ランド部33とランド部34との境界は、X方向におけるランド部34の中央から一方の端部に至る辺41aと、X方向におけるランド部34の中央から他方の端部に至る辺41bとを有している。辺41a,42bはランド部34の両端に達している。辺41aと辺41bとは、それぞれX方向に対して傾斜している。辺41aと辺41bとは、傾斜が逆であり、ランド部33,34,35,36の中心軸に対して対称である。このため、辺41aの下流側と辺41bの下流側では、X方向の中央から両端に向かうにしたがって、流路長L2が徐々に大きくなる。
【0046】
ランド部35の流路長L3は、中央付近(X方向におけるランド部35の中央付近)では、X方向の位置によらずほぼ一定となっているが、両端部付近(X方向におけるランド部35の両端部付近)では、中央付近に比べて、流路長L3が小さくなっている。ランド部36の流路長L4は、中央付近(X方向におけるランド部36の中央付近)では、X方向の位置によらずほぼ一定となっているが、両端部付近(X方向におけるランド部36の両端部付近)では、中央付近に比べて、流路長L4が大きくなっている。ランド部35の流路長L3とランド部36の流路長L4との合計(すなわちL3+L4)は、X方向の位置によらず、ほぼ一定である。このため、ランド部35の流路長L3とランド部36の流路長L4との合計に対するランド部35の流路長L3の比率、すなわちL3/(L3+L4)は、中央付近(X方向における中央付近)では、X方向の位置によらずほぼ一定となっているが、両端部付近(X方向における両端部付近)では、中央付近に比べて、小さくなっている。また、ランド部35の流路長L3とランド部36の流路長L4との合計に対するランド部36の流路長L4の比率、すなわちL4/(L3+L4)は、中央付近(X方向における中央付近)では、X方向の位置によらずほぼ一定となっているが、両端部付近(X方向における両端部付近)では、中央付近に比べて、大きくなっている。
【0047】
ランド部33およびランド部34は、X方向(幅方向)における溶融樹脂の流量分布を均一にさせるように機能することができる。その理由は、以下のようなものである。
【0048】
樹脂導入部31からマニホールド部32に流入した溶融樹脂は、マニホールド部32全体に行き渡り、マニホールド部32全体からランド部33に溶融樹脂が流入する。しかしながら、X方向における中央では、樹脂導入部31に近いことから、マニホールド部32からランド部33に溶融樹脂が流入しやすいのに対して、X方向における両端部側に行くほど、樹脂導入部31から遠くなることから、マニホールド部32からランド部33に溶融樹脂が流入しにくくなる傾向にある。これを反映して、X方向における中央では、マニホールド部32からランド部33に流入する溶融樹脂の流入圧力が比較的高くなるのに対して、X方向における両端部側に行くほど、マニホールド部32からランド部33に流入する溶融樹脂の流入圧力が小さくなる傾向にある。
【0049】
そこで、ランド部34の流路長L2を、中央(X方向におけるランド部33の中央)で最も大きくし、中央から両端(X方向における両端)にかけて、徐々に小さくしている。ランド部34の厚さt2は、ランド部33の厚さt1よりも小さいため、ランド部33よりもランド部34の方が、溶融樹脂は流れにくい。すなわち、もしもランド部33とランド部34とで溶融樹脂が同じ距離を流れる場合には、ランド部33よりもランド部34の方が流路抵抗は大きくなる。つまり、単位距離当たりの流路抵抗は、ランド部33よりもランド部34の方が大きくなる。なお、ランド部33,34,35,36における単位距離当たりの流路抵抗は、厚さが小さくなるほど大きくなる。
【0050】
ランド部34の流路長L2を、ランド部34の中央で最も大きくし、中央から両端にかけて徐々に小さくすることで、ランド部33の流路抵抗とランド部34の流路抵抗との合計は、中央(X方向におけるランド部33,34の中央)で最も大きくなり、中央から両端(X方向における両端)にかけて、徐々に小さくなる。これにより、ランド部34からランド部35に流入する際の溶融樹脂の流入圧力を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。すなわち、マニホールド部32からランド部33に溶融樹脂が流入する際の流入圧力が、X方向における中央から両端部にかけて徐々に小さくなることを考慮して、溶融樹脂がランド部33およびランド部34を通過する際の流路抵抗が、X方向における中央から両端部にかけて徐々に小さくなるようにしている。これにより、マニホールド部32からランド部33に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の不均一さを、ランド部33,34の流路抵抗の不均一さによって相殺することができるため、結果として、ランド部34からランド部35に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の不均一さを抑制し、ランド部35に流入する際の溶融樹脂の流入圧力を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。
【0051】
このため、本実施の形態とは異なり、ランド部35,36を省略し、ランド部34の下流側端面が溶融樹脂の吐出口となる場合は、その吐出口から吐出される溶融樹脂の流量(流速)は、X方向に位置によらず、ほぼ一定とすることができる。つまり、ランド部33およびランド部34は、X方向(幅方向)における溶融樹脂の流量分布を均一にさせるように機能することができる。
【0052】
ランド部35は、溶融樹脂の流量(流速)分布の局所的な不均一性を緩和するように機能することができる。その理由は、以下のようなものである。
【0053】
上述したように、ランド部33およびランド部34は、マニホールド部32からランド部33に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の不均一さを相殺するように作用することができる。しかしながら、マニホールド部32からランド部33に流入する溶融樹脂の流入圧力に、何らかの要因で局所的な不均一性が発生した場合には、その不均一性の影響は溶融樹脂がランド部33,34を通過しただけでは解消されずに残ってしまう虞がある。なぜなら、ランド部34は、単位距離当たりの流路抵抗を大きくするため、厚さ(t2)を薄くしているが、厚さ(t2)が薄いランド部34では、溶融樹脂が流れにくいことから、溶融樹脂はY方向に沿って流れるが、Y方向から傾斜した方向にはほとんど流れないためである。
【0054】
ランド部35の厚さt3は、ランド部34の厚さt2よりも大きいため、ランド部34よりもランド部35の方が、溶融樹脂は流れやすい。すなわち、単位距離当たりの流路抵抗は、ランド部34よりもランド部35の方が小さくなる。比較的厚いランド部35では、溶融樹脂が流れやすいため、溶融樹脂は主としてY方向に沿って流れるが、Y方向から傾斜した方向にもある程度流れることが可能である。すなわち、ランド部35において、溶融樹脂の流動の主方向はY方向であるが、Y方向だけでなくX方向にも溶融樹脂の流動が生じることができる。このため、ランド部35は、ランド部34からランド部35に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の分布に局所的な不均一性が存在していた場合に、その不均一性の影響を緩和するように機能することができる。
【0055】
マニホールド部32からランド部33に流入する溶融樹脂の流入圧力に、何らかの要因で局所的な不均一性が発生した場合には、その不均一性は溶融樹脂がランド部33,34を通過しただけでは解消されずに、ランド部34からランド部35に流入する溶融樹脂の流入圧力の分布に局所的な不均一性を招く虞がある。しかしながら、ランド部34からランド部35に流入する溶融樹脂の流入圧力の分布に局所的な不均一性が存在していても、溶融樹脂がランド部35を通過する間に、その不均一性を緩和することができ、その不均一性がダイ3の開口部25から吐出されるフィルム状の溶融樹脂11に影響を与えるのを、抑制または防止することができる。
【0056】
ランド部36は、リップランド部として機能することができ、開口部25は、リップ口として機能することができる。本実施の形態では、ランド部36の平面形状を工夫したことにより、ダイ3の開口部25から吐出される溶融樹脂11の流量分布を制御している。
【0057】
ランド部36の厚さt4は、ランド部35の厚さt3よりも小さいため、ランド部35よりもランド部36の方が、溶融樹脂は流れにくい。すなわち、もしもランド部35とランド部36とで溶融樹脂が同じ距離を流れる場合には、ランド部35よりもランド部36の方が流路抵抗は大きくなる。つまり、単位距離当たりの流路抵抗は、ランド部35よりもランド部36の方が大きくなる。そして、ランド部36の流路長L4は、ランド部36の中央付近では、X方向の位置によらずほぼ一定となっているが、ランド部36の両端部付近では、中央付近に比べて、流路長L4が大きくなっている。このため、ランド部35の流路抵抗とランド部36の流路抵抗との合計は、ランド部35,36の中央付近では、X方向の位置によらずほぼ一定となっているが、ランド部35,36の両端部付近では、中央付近に比べて大きくなっている。これにより、ランド部35,36を通過して開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、開口部25の中央付近(X方向における中央付近)では、X方向の位置によらず流量(流速)をほぼ一定とすることができ、開口部25の両端部付近(X方向における両端部付近)では、中央付近に比べて流量(流速)を小さくすることができる。
【0058】
<主要な特徴と効果について>
次に、本発明者が検討した検討例も参照しながら、本実施の形態の主要な特徴と効果について説明する。
【0059】
図7は、本発明者が検討した第1検討例における押出成型用のダイ103を示す断面図である。図8は、第1検討例における押出成型用のダイ103の樹脂流路部123を示す平面図であり、上記図6に相当するものである。図7は、図8に示されるB1-B1線の位置でのダイ103の断面図にほぼ対応している。
【0060】
図7および図8に示される第1検討例のダイ103は、いわゆるTダイであり、対となるダイ部材121,122と、ダイ部材121,122間に形成された樹脂流路部123と、ダイ部材121,122を互いに固定する固定用部材(図示せず)とを有している。ダイ103の樹脂流路部123は、樹脂導入部131と、樹脂導入部131につながるマニホールド部132と、マニホールド部132につながるランド部133と、ランド部133につながるランド部134とを有している。ダイ103における溶融樹脂の供給口から流入した溶融樹脂は、樹脂導入部131とマニホールド部132とランド部133とランド部134とを順に通って、溶融樹脂の吐出口である開口部125からダイ103の外部に吐出される。
【0061】
ランド部133の厚さt101よりもランド部134の厚さt102が小さい(t101>t102)。また、平面視において、ランド部133とランド部134との境界は、X方向に略平行であり、ランド部133の流路長L101は、X方向の位置によらず、ほぼ一定であり、ランド部134の流路長L102も、X方向の位置によらず、ほぼ一定である。このため、ランド部133の流路抵抗とランド部134の流路抵抗との合計は、X方向の位置によらず、ほぼ一定になる。
【0062】
樹脂導入部131からマニホールド部132に流入した溶融樹脂は、マニホールド部132全体に行き渡り、マニホールド部132全体からランド部133に溶融樹脂が流入する。しかしながら、X方向における中央では、樹脂導入部131に近いことから、マニホールド部132からランド部133に流入する溶融樹脂の流入圧力が比較的高くなるのに対して、X方向における両端部側に行くほど、樹脂導入部131から遠くなることから、マニホールド部132からランド部133に流入する溶融樹脂の流入圧力が小さくなる傾向にある。
【0063】
このため、第1検討例のダイ103の場合は、ダイ103の開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、幅方向(X方向)の中央で大きく、中央から両側に向かって流量(流速)が徐々に小さくなる分布となってしまう。これは、冷却後の樹脂フィルム11aの厚さが不均一になることにつながるため、改善することが望まれる。
【0064】
図9は、本発明者が検討した第2検討例における押出成型用のダイ203を示す断面図である。図10は、第2検討例における押出成型用のダイ203の樹脂流路部123を示す平面図であり、上記図6および図8に相当するものである。図9は、図10に示されるB2-B2線の位置でのダイ203の断面図にほぼ対応している。
【0065】
図9および図10に示される第2検討例のダイ203が、図7および図8に示される第1検討例のダイ103と相違しているのは、以下の点である。すなわち、図9および図10に示される第2検討例のダイ203の場合は、平面視において、ランド部133とランド部134との境界は、X方向に対して平行ではなく傾斜しており、ランド部133の流路長L101は、ランド部133の中央(X方向における中央)が最も小さく、中央から両端部側に行くに従って、徐々に大きくなっている。そして、ランド部134の流路長L102は、ランド部134の中央(X方向における中央)が最も大きく、中央から両端部側に行くに従って、徐々に小さくなっている。
【0066】
ランド部134の厚さt102は、ランド部133の厚さt101よりも小さいため、ランド部133よりもランド部134の方が、溶融樹脂は流れにくい。このため、第2検討例のダイ203の場合は、ランド部133の流路抵抗とランド部134の流路抵抗との合計は、中央で最も大きくなり、中央から両端部側に行くに従って、徐々に小さくなる。これにより、マニホールド部132からランド部133に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の不均一さを、ランド部133,134の流路抵抗の不均一さによって相殺することができる。その結果、開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)の不均一さを抑制し、開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。
【0067】
しかしながら、第2検討例のダイ203の場合は、溶融樹脂のネックイン(ネックイン現象)に伴う不具合が発生する懸念がある。まず、図11を参照してネックインについて説明する。図11は、溶融樹脂のネックインを説明するための説明図である。図11には、押出成形用のダイ10と、ダイ10から吐出されるフィルム状の溶融樹脂11と、冷却ロール4と、タッチロール5とが示されている。図11に示されるダイ10は、上記ダイ3、上記ダイ103、上記ダイ203、後述のダイ303、後述のダイ403、後述のダイ503のいずれかに対応している。
【0068】
図11に示されるように、ダイ10の吐出口(上記開口部25,125に対応)から吐出されるフィルム状の溶融樹脂11が、幅方向(X方向)に収縮し、フィルム状の溶融樹脂11の幅方向の寸法が、ダイ203の吐出口の幅方向の寸法よりも小さくなる。この現象が、ネックインである。ネックインが発生すると、フィルム状の溶融樹脂11の厚さが、幅方向の両端部付近で局所的に厚くなり、それによって、固化した樹脂フィルム11aの厚さが幅方向の両端部付近で局所的に厚くなる現象(いわゆるエッジビード)が発生する懸念がある。ネックインは、上記ダイ3、上記ダイ103、上記ダイ203、後述のダイ303、後述のダイ403および後述のダイ503のいずれの場合も発生し得る。
【0069】
第2検討例のダイ203の場合は、開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができるため、ネックインが発生しても、幅方向の両端部付近以外では、フィルム状の溶融樹脂11の厚さをほぼ均一にすることができる。しかしながら、ネックインが発生すると、幅方向の両端部付近では、収縮により溶融樹脂が集まることで、フィルム状の溶融樹脂11の厚さが厚くなってしまう。これは、冷却後の樹脂フィルム11aにおいて、幅方向の両端部付近以外では、樹脂フィルム11aの厚さがほぼ均一になるが、幅方向の両端部付近では、樹脂フィルム11aの厚さが局所的に厚くなることにつながるため、改善することが望まれる。
【0070】
図12は、本発明者が検討した第3検討例における押出成型用のダイ303を示す断面図である。図13は、第2検討例における押出成型用のダイ303の樹脂流路部を示す平面図であり、上記図6図8および図10に相当するものである。図12は、図13に示されるB3-B3線の位置でのダイ303の断面図にほぼ対応している。
【0071】
図12および図13に示される第3検討例のダイ303が、図9および図10に示される第2検討例のダイ203と相違しているのは、以下の点である。すなわち、図12および図13に示される第3検討例のダイ303の場合は、ランド部133の両端部付近でランド部133の流路長L101を局所的に小さくし、ランド部134の両端部付近でランド部134の流路長L102を局所的に大きくしている。
【0072】
このため、第3検討例のダイ303の場合は、ランド部133の流路抵抗とランド部134の流路抵抗との合計は、X方向における両端部付近で局所的に大きくなる。これにより、開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における両端部付近以外については、流量(流速)がほぼ均一になり、X方向における両端部付近では、両端部付近以外に比べて流量(流速)が小さくなる。
【0073】
従って、第2検討例のダイ203に比べて第3検討例のダイ303の場合は、ネックインが発生したときに、幅方向の両端部付近でフィルム状の溶融樹脂11の厚さが厚くなってしまうのを抑制できる。このため、第2検討例のダイ203よりも、第3検討例のダイ303の方が、ネックインによるエッジビードを抑制できるため、樹脂フィルム11aの厚さの均一性を高めることができる。
【0074】
しかしながら、マニホールド部132からランド部133に流入する溶融樹脂の流入圧力に、何らかの要因で局所的な不均一性が発生した場合には、その不均一性は溶融樹脂がランド部133,134を通過しただけでは解消されずに残ってしまう虞がある。なぜなら、ランド部134は、単位距離当たりの流路抵抗を大きくするため、厚さ(t102)を薄くしているが、厚さ(t102)が薄いランド部134では、溶融樹脂が流れにくいことから、溶融樹脂はY方向に沿って流れるが、Y方向から傾斜した方向にはほとんど流れないためである。
【0075】
このため、第3検討例のダイ303の場合は、マニホールド部132からランド部133に流入する溶融樹脂の流入圧力に、何らかの要因で局所的な不均一性が発生してしまうと、その局所的な不均一性が、開口部125から吐出される溶融樹脂11の流量(流速)の局所的な不均一性として残りやすい。これは、樹脂フィルム11aの厚さの局所的な不均一性につながるため、改善することが望まれる。
【0076】
図14は、本発明者が検討した第4検討例における押出成型用のダイ403を示す断面図である。図15は、第4検討例における押出成型用のダイ403の樹脂流路部を示す平面図であり、上記図6図8図10および図13に相当するものである。図14は、図15に示されるB4-B4線の位置でのダイ403の断面図にほぼ対応している。
【0077】
図14および図15に示される第4検討例のダイ403が、図9および図10に示される第2検討例のダイ203と相違しているのは、以下の点である。すなわち、図14および図15に示される第4検討例のダイ403の樹脂流路部123は、樹脂導入部131とマニホールド部132とランド部133,134とに加えて、更に、ランド部134につながるランド部135と、ランド部135につながるランド部136とを有している。ダイ403における溶融樹脂の供給口から流入した溶融樹脂は、樹脂導入部131とマニホールド部132とランド部133とランド部134とランド部135とランド部136とを順に通って、溶融樹脂の吐出口である開口部125からダイ403の外部に吐出される。ランド部133の厚さt101よりもランド部134の厚さt102が小さく(t101>t102)、ランド部134の厚さt102よりもランド部135の厚さt103が大きく(t102<t103)、ランド部135の厚さt103よりもランド部136の厚さt104が小さい(t103>t104)。平面視において、ランド部134とランド部135との境界は、X方向に略平行であり、ランド部135とランド部136との境界も、X方向に略平行である。ランド部135の流路長L103は、X方向の位置によらず、ほぼ一定であり、ランド部136の流路長L104も、X方向の位置によらず、ほぼ一定である。このため、ランド部135の流路抵抗とランド部136の流路抵抗との合計は、X方向の位置によらず、ほぼ一定になる。
【0078】
図14および図15に示される第4検討例のダイ403において、ランド部135の厚さt103は、ランド部134の厚さt2よりも大きいため、ランド部134よりもランド部135の方が、溶融樹脂は流れやすく、単位距離当たりの流路抵抗が小さくなる。ランド部135では、溶融樹脂が流れやすいため、溶融樹脂は主としてY方向に沿って流れるが、Y方向から傾斜した方向にもある程度流れることが可能である。すなわち、ランド部135において、溶融樹脂の流動の主方向はY方向であるが、Y方向だけでなくX方向にも溶融樹脂の流動が生じることができる。このため、ランド部135は、ランド部134からランド部135に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の分布に局所的な不均一性が存在していた場合に、その不均一性の影響を緩和するように機能することができる。
【0079】
マニホールド部132からランド部133に流入する溶融樹脂の流入圧力に、何らかの要因で局所的な不均一性が発生した場合には、その不均一性は溶融樹脂がランド部133,134を通過しただけでは解消されずに、ランド部134からランド部135に流入する溶融樹脂の流入圧力の分布に局所的な不均一性を招いてしまう。しかしながら、ランド部134からランド部135に流入する溶融樹脂の流入圧力の分布に局所的な不均一性が存在していても、溶融樹脂がランド部135を通過する間に、その不均一性を緩和することができ、その不均一性がダイ403の開口部125から吐出されるフィルム状の溶融樹脂11に影響を与えるのを、抑制または防止することができる。
【0080】
しかしながら、図14および図15に示される第4検討例のダイ403の場合は、上述したネックインが発生すると、幅方向の両端部付近でフィルム状の溶融樹脂11の厚さが厚くなる現象(エッジビード)が発生してしまうため、これに対する対策を施すことが望まれる。
【0081】
図16および図17は、本発明者が検討した第5検討例における押出成型用のダイ503を示す断面図である。図17は、第5検討例における押出成型用のダイ503の樹脂流路部を示す平面図であり、上記図6図8図10図13および図15に相当するものである。図16は、図17に示されるB5-B5線の位置でのダイ503の断面図にほぼ対応している。
【0082】
図16および図17に示される第5検討例のダイ503が、図14および図15に示される第4検討例のダイ403と相違しているのは、以下の点である。すなわち、図16および図17に示される第5検討例のダイ503の場合は、図12および図13に示される第3検討例のダイ303と同様に、ランド部133の両端部付近でランド部133の流路長L101を局所的に小さくし、ランド部134の両端部付近でランド部134の流路長L102を局所的に大きくしている。このため、図16および図17に示される第5検討例のダイ503の場合は、図12および図13に示される第3検討例のダイ303と同様に、ランド部133の流路抵抗とランド部134の流路抵抗との合計は、X方向における両端部付近で局所的に大きくなる。
【0083】
このため、図16および図17に示される第5検討例のダイ503の場合は、図14および図15に示される第4検討例のダイ403に比べて、開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における両端部付近で流量(流速)が小さくなることが期待される。
【0084】
しかしながら、厚さが厚いランド部135では、溶融樹脂の流動の主方向はY方向であるが、Y方向だけでなくX方向にも溶融樹脂の流動が生じることができるため、ランド部135は、ランド部134からランド部135に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の分布に局所的な不均一性が存在していた場合に、その不均一性の影響を緩和するように機能する。このため、第5検討例のダイ503の場合は、ランド部133の流路抵抗とランド部134の流路抵抗との合計を両端部付近で局所的に大きくすることで、ランド部134からランド部135に溶融樹脂が流入する際の流入圧力を両端部付近で局所的に小さくしたとしても、そのような局所的な変化はランド部135で緩和されてしまう。このため、第5検討例のダイ503の場合は、ランド部133の流路抵抗とランド部134の流路抵抗との合計を、X方向における両端部付近で局所的に大きくしたとしても、それが開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)の分布に与える影響は、ランド部135の存在によって抑制されてしまう。
【0085】
従って、第3検討例のダイ303に比べて、第5検討例のダイ503の場合は、開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における両端部付近以外と両端部付近とでの流量(流速)の差が小さくなってしまう。言い換えると、第3検討例のダイ303に比べて、第5検討例のダイ503の場合は、開口部125から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における両端部付近以外と両端部付近とでの流量(流速)の差を確保しにくい。
【0086】
このため、第3検討例のダイ303に比べて、第5検討例のダイ503の場合は、ネックインが発生したときに、幅方向の両端部付近でフィルム状の溶融樹脂11の厚さが厚くなる現象(エッジビード)を抑制しにくくなる。このため、第5検討例のダイ503の場合は、冷却された樹脂フィルム11aにおいて、幅方向の両端部付近で厚さが厚くなる現象を十分に抑制することは難しい。
【0087】
それに対して、本実施の形態では、ランド部34の流路長L2を、X方向におけるランド部34の中央から両端にかけて徐々に小さくしている。別の見方をすると、溶融樹脂がランド部33,34を通過する際の流路抵抗を、X方向における中央から両端にかけて徐々に小さくしている。これにより、ランド部34からランド部35に流入する際の溶融樹脂の流入圧力を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。
【0088】
そして、ランド部36の流路長L4について、X方向におけるランド部36の中央付近では、流路長L4をX方向の位置によらずほぼ一定とし、X方向におけるランド部36の両端付近では、中央付近に比べて、流路長L4を大きくしている。別の見方をすると、溶融樹脂がランド部35,36を通過する際の流路抵抗は、X方向における中央付近では、X方向の位置によらずほぼ一定とし、X方向における両端部付近では、中央付近に比べて大きくしている。
【0089】
これにより、ランド部35,36を通過して開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における開口部25の中央付近では、X方向の位置によらず流量(流速)をほぼ一定とすることができ、X方向における開口部25の両端部付近では、中央付近に比べて流量(流速)を小さくすることができる。
【0090】
ダイ3の開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における開口部25の両端部付近では、中央付近に比べて流量(流速)を小さくしているため、ネックインが発生したときに、幅方向(X方向)の両端部付近でフィルム状の溶融樹脂11の厚さが厚くなってしまう現象(エッジビード)が発生するのを、抑制または防止することができる。また、ダイ3の開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における開口部25の中央付近(両端部付近以外)では、X方向の位置によらず流量(流速)をほぼ一定とすることができるため、ネックインが発生したときに、フィルム状の溶融樹脂11の厚さの均一性を高めることができる。これにより、冷却された樹脂フィルム11aの厚さの均一性を高めることができる。すなわち、均一な厚さを有する樹脂フィルム11aを製造することができる。
【0091】
また、本実施の形態では、ランド部34とランド部36との間に、ランド部34,36よりも厚いランド部35を設けている。マニホールド部32からランド部33に流入する溶融樹脂の流入圧に何らかの要因で局所的な不均一性が発生した場合には、その不均一性は溶融樹脂がランド部33,34を通過しただけでは解消されずに、ランド部34からランド部35に流入する溶融樹脂の流入圧力の分布に局所的な不均一性を生じさせる虞がある。しかしながら、ランド部34からランド部35に流入する溶融樹脂の流入圧力の分布に局所的な不均一性が存在していても、溶融樹脂がランド部35を通過する間に、その不均一性を緩和することができるため、その不均一性がダイ3の開口部25から吐出されるフィルム状の溶融樹脂11に影響するのを、抑制または防止することができる。
【0092】
このため、ランド部35に相当する部分を有していない第3検討例のダイ303に比べて、本実施の形態のダイ3は、マニホールド部からランド部33(133)に流入する溶融樹脂の流入圧力に何らかの要因で局所的な不均一性が発生した場合に、その影響がダイ3(303)の開口部25(125)から吐出されるフィルム状の溶融樹脂11に生じるのを、抑制しやすい。従って、第3検討例のダイ303よりも、本実施の形態のダイ3の方が、冷却後の樹脂フィルム11aの均一性を高めやすい。
【0093】
また、第5検討例のダイ503に比べて、本実施の形態のダイ3は、ネックインが発生したときに、樹脂フィルム11aの幅方向の両端部付近で厚さが厚くなってしまう現象(エッジビード)が発生するのを抑制しやすい。これは、本実施の形態では、溶融樹脂の流量(流速)をX方向の両端部付近で局所的に小さくするために、ランド部35に流入する前の流路抵抗ではなく、ランド部35を通過した後のランド部36の流路抵抗を調整しているためである。厚さが厚いランド部35が、溶融樹脂の流入圧力の分布の局所的な不均一性を緩和するように機能するとしても、ランド部35を通過した後のランド部36の流路抵抗の分布を調整することにより、溶融樹脂の流量分布を制御しているため、ランド部35の存在に影響されずに、開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量分布を制御することができる。このため、第5検討例のダイ503よりも、本実施の形態のダイ3の方が、ダイの開口部25(125)から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における両端部付近以外と両端部付近とでの流量(流速)の差を確保しやすい。このため、第5検討例のダイ503に比べて、本実施の形態のダイ3の方が、ネックインが発生したときに、幅方向の両端部付近でフィルム状の溶融樹脂11の厚さが厚くなる現象を抑制しやすく、冷却された樹脂フィルム11aにおいて、幅方向の両端部付近で厚さが厚くなる現象をより的確に抑制することができる。
【0094】
従って、第1検討例のダイ103、第2検討例のダイ203、第3検討例のダイ303、第4検討例のダイ403および第5検討例のダイ503に比べて、本実施の形態のダイ3は、冷却後の樹脂フィルム11aの厚さの均一性を高めることができ、より高い均一性を有する樹脂フィルム11aを製造することができる。
【0095】
また、製造した樹脂フィルムにエッジビードが発生した場合には、樹脂フィルムの両端部付近の厚さが規格から外れた領域を切断して取り除く必要がある。本実施の形態では、製造した樹脂フィルムにエッジビードが生じるのを抑制または防止できるため、幅方向のほぼ全ての領域の厚さを規格内に収めることができる。これにより、樹脂フィルムの製造コストや、樹脂フィルムを用いた製品の製造コストを低減することができる。
【0096】
図18は、冷却後の樹脂フィルム11aの厚さの分布を調べた結果を示すグラフである。図18のグラフの横軸は、樹脂フィルムの幅方向の位置に対応し、図18のグラフの縦軸は、樹脂フィルムの厚さに対応している。図18には、上記第4検討例のダイ404を用いた場合を「第4検討例」として点線で示し、本実施の形態のダイ3を用いた場合を「本実施の形態」として実線で示してある。
【0097】
図18のグラフからも分かるように、第4検討例の場合は、幅方向の中央付近では、樹脂フィルムの厚さはほぼ均一であるが、幅方向の両端部付近では、樹脂フィルムの厚さがかなり厚くなっている。これは、上述したネックインによるエッジビードが原因と考えられる。
【0098】
図18のグラフからも分かるように、本実施の形態の場合は、幅方向の中央付近では、樹脂フィルムの厚さはほぼ均一であり、幅方向の両端部付近で樹脂フィルムの厚さが厚くなる現象も、ほぼ防止できている。すなわち、本実施の形態では、幅方向の中央付近だけでなく、中央付近以外でも、すなわち幅方向の両端部付近でも、樹脂フィルムの厚さを均一にすることができる。従って、高い均一性を有する樹脂フィルムを製造することができる。
【0099】
<変形例について>
次に、本実施の形態のダイ3の第1変形例について、図19および図20を参照して説明する。図19は、第1変形例のダイ3の樹脂流路部23を示す斜視図であり、上記図5に対応するものである。図20は、第1変形例のダイ3の樹脂流路部23を示す平面図であり、上記図6に対応するものである。
【0100】
上記図5および図6の場合においても、また、図19および図20(第1変形例)の場合においても、平面視において、ランド部35とランド部36との境界は、辺42a,42b,42c,42d,42eを有している。辺42aは、X方向におけるランド部36の中央付近に位置し、かつX方向に沿う辺(X方向に平行な辺)である。辺42bは、X方向におけるランド部36の一方の端部に位置し、かつ、X方向に沿う辺(X方向に平行な辺)である。辺42cは、X方向におけるランド部36の他方の端部に位置し、かつ、X方向に沿う辺(X方向に平行な辺)である。辺42dは、辺42aと辺42bとをつなぐ辺である。辺42eは、辺42aと辺42cとをつなぐ辺である。これらの辺42a,42b,42c,42d,42eにより、ランド部35とランド部36との境界が構成されている。辺42aから開口部25までの距離は、辺42bから開口部25までの距離よりも小さく、かつ、辺42cから開口部25までの距離よりも小さい。また、辺42aは、辺42bおよび辺42cのそれぞれよりも大きい。
【0101】
なお、辺42aから開口部25までの距離は、辺42aの下流側の流路長L4と実質的に同じであり、また、辺42bから開口部25までの距離は、辺42bの下流側の流路長L4と実質的に同じであり、また、辺42cから開口部25までの距離は、辺42cの下流側の流路長L4と実質的に同じである。
【0102】
このため、辺42aの下流側では、ランド部36の流路長L4は、X方向の位置によらず一定である。また、辺42bの下流側では、ランド部36の流路長L4は、X方向の位置によらず一定である。また、辺42cの下流側では、ランド部36の流路長L4は、X方向の位置によらず一定である。また、辺42bの下流側の流路長L4は、辺42aの下流側の流路長L4より大きい。また、辺42cの下流側の流路長L4は、辺42aの下流側の流路長L4より大きい。また、辺42bの下流側の流路長L4と、辺42cの下流側の流路長L4とは、互いに同じである。
【0103】
上記図5および図6の場合と図19および図20(第1変形例)の場合とで相違しているのは、辺42d,42eの角度である。
【0104】
すなわち、上記19および図20(第1変形例)の場合は、辺42dおよび辺42eは、Y方向に沿っている。平面視において、辺42dおよび辺42eは、Y方向に平行であるため、Y方向に対して傾斜していない。
【0105】
一方、上記図5および図6の場合は、平面視において、辺42dおよび辺42eのそれぞれは、X方向およびY方向の両方に対して傾斜している。辺42dのY方向からの傾斜角α1と、辺42dのY方向からの傾斜角α2とは、それぞれ、5~85°程度が好ましい。
【0106】
上記19および図20(第1変形例)の場合も、上述した効果を得ることができる。しかしながら、次の点で、上記19および図20(第1変形例)の場合よりも、上記図5および図6の場合の方が、有利である。
【0107】
すなわち、上記19および図20(第1変形例)の場合は、平面視において、辺42dおよび辺42eがY方向に平行であるため、開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)分布が、辺42dおよび辺42eに対応する幅方向の位置で階段状に変化してしまい、冷却後の樹脂フィルム11aに線状の筋が発生する可能性がある。
【0108】
それに対して、上記図5および図6の場合は、平面視において、辺42dおよび辺42eのそれぞれは、X方向およびY方向の両方に対して傾斜している。このため、辺42dの下流側と辺42eの下流側では、X方向の中央から両端に向かう方向において、流路長L4が徐々に大きくなる。これにより、開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)分布が、辺42dおよび辺42eに対応する幅方向の位置で階段状に変化するのを防止できるため、冷却後の樹脂フィルム11aに線状の筋が発生するのを、より的確に防止することができる。従って、樹脂フィルムの製造歩留まりを、より向上させることができる。
【0109】
次に、本実施の形態のダイ3の第2変形例について、図21を参照して説明する。図21は、第2変形例のダイ3の樹脂流路部23を示す平面図であり、上記図6に対応するものである。
【0110】
図21(第2変形例)の場合は、平面視において、ランド部35とランド部36との境界は、辺42a,42f,42gを有している。辺42aは、X方向におけるランド部36の中央付近に位置し、かつX方向に沿う辺(X方向に平行な辺)である。辺42fは、辺42aの一端から、X方向におけるランド部36の一方の端部に至る辺である。辺42gは、辺42aの他端から、X方向におけるランド部36の他方の端部に至る辺である。辺42fは、X方向におけるランド部36の一方の端部に達しており、また、辺42gは、X方向におけるランド部36の他方の端部に達している。平面視において、辺42fおよび辺42gのそれぞれは、X方向およびY方向の両方に対して傾斜している。これらの辺42a,42f,42gにより、ランド部35とランド部36との境界が構成されている。
【0111】
辺42aは、X方向に沿っている(X方向に平行である)ため、辺42aの下流側では、ランド部36の流路長L4は、X方向の位置によらず一定である。また、平面視において、辺42fおよび辺42gのそれぞれは、X方向およびY方向の両方に対して傾斜しているため、辺42fの下流側と辺42gの下流側では、X方向の中央から両端に向かう方向において、流路長L4が徐々に大きくなる。
【0112】
このため、図21(第2変形例)の場合も、ランド部36の流路長L4については、X方向におけるランド部36の中央付近では、流路長L4はX方向の位置によらずほぼ一定となり、X方向におけるランド部36の両端付近では、中央付近に比べて、流路長L4が大きくなる。別の見方をすると、溶融樹脂がランド部35,36を通過する際の流路抵抗は、X方向における中央付近では、X方向の位置によらずほぼ一定となり、X方向における両端部付近では、中央付近に比べて大きくなる。
【0113】
これにより、ランド部35,36を通過して開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における開口部25の中央付近では、X方向の位置によらず流量(流速)をほぼ一定とすることができ、X方向における開口部25の両端部付近では、中央付近に比べて流量(流速)を小さくすることができる。このため、ネックインが発生したときに、幅方向(X方向)の両端部付近でフィルム状の溶融樹脂11の厚さが厚くなってしまう現象が発生するのを、抑制または防止することができる。また、ダイ3の開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における開口部25の中央付近(両端部付近以外)では、X方向の位置によらず流量(流速)をほぼ一定とすることができるため、ネックインが発生したときに、フィルム状の溶融樹脂11の厚さの均一性を高めることができる。これにより、冷却された樹脂フィルム11aの厚さの均一性を高めることができる。すなわち、均一な厚さを有する樹脂フィルム11aを製造することができる。
【0114】
また、図21(第2変形例)の場合は、開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)分布が、辺42f,42gと辺42aとの交点に対応する幅方向の位置で階段状に変化するのを防止できるため、冷却後の樹脂フィルム11aに線状の筋が発生するのを、より的確に防止することができる。従って、樹脂フィルムの製造歩留まりを、より向上させることができる。
【0115】
また、図21(第2変形例)の場合は、辺42fの下流側と辺42gの下流側で、X方向の中央から両端に向かう方向において、流路長L4が徐々に大きくなるのに対して、上記図6の場合は、辺42dの下流側と辺42eの下流側で、X方向の中央から両端に向かう方向において、流路長L4が徐々に大きくなり、辺42b,42cの下流側で流路長L4を一定とすることができる。このため、図21(第2変形例)の構造に比べて、上記図6の構造の方が、X方向の両端付近において、流路長L4が大きい領域の幅を確保しやすい。このため、図21(第2変形例)の構造に比べて、上記図6の構造の方が、ネックイン量(ネックイン発生の前と後での溶融樹脂11の幅の差)が大きい場合でも、ネックイン発生後の溶融樹脂11の厚さを制御しやすくなり、ネックイン発生後のフィルム状の溶融樹脂11の厚さの均一性を高めやすい。すなわち、冷却後の樹脂フィルム11aの厚さの均一性を高めやすい。従って、ネックイン量が大きい場合には、図21(第2変形例)の構造よりも上記図6の構造の方が有利である。言い換えると、上記図6の構造は、ネックイン量が多くても、樹脂フィルム11aの厚さの均一性を高めやすい。
【0116】
次に、本実施の形態のダイ3の第3変形例について、図22を参照して説明する。図22は、第3変形例のダイ3の樹脂流路部23を示す平面図であり、上記図6に対応するものである。
【0117】
図22(第3変形例)の場合は、マニホールド部32およびランド部33,34の平面形状が、上記図2図6の場合と相違しており、それ以外については、図22(第3変形例)の場合も、上記図2図6の場合とほぼ同様である。このため、ここでは、主として、上記図2図6の場合に対する図22(第3変形例)の場合の相違点について説明し、同様の構成については、繰り返しの説明を省略する。
【0118】
図22(第3変形例)の場合は、マニホールド部32は、X方向に対して傾斜しており、いわゆるハンガー型のTダイ(ハンガーダイ)に適用することができる。
【0119】
図22(第3変形例)の場合、平面視において、マニホールド部32とランド部33との境界は、X方向に平行ではなく、X方向に対して傾斜している。平面視において、マニホールド部32とランド部33との境界は、X方向における中央から両端部側に向かって延在する2つの辺43a,43bにより構成されているが、その2つの辺43a,43bは、X方向に対して傾斜しているとともに、互いに対称である。一方、平面視において、ランド部33とランド部34との境界は、X方向に略平行であり、すなわちX方向に沿っている。また、平面視において、ランド部34とランド部35との境界も、X方向に略平行であり、すなわちX方向に沿っている。ランド部35とランド部36との境界については、図22(第3変形例)の場合も、上記図6の場合と同様である。また、平面視において、ランド部33,34,35,36のそれぞれが、Y方向に沿った中心軸に対して対称であることは、図22(第3変形例)の場合と上記図6の場合とで共通である。
【0120】
また、ランド部35,36の流路長L3,L4については、図22(第3変形例)の場合も、上記図6の場合と同様である。一方、ランド部33,34の流路長L1,L2については、図22(第3変形例)の場合は、次のようになっている。
【0121】
すなわち、図22(第3変形例)の場合は、ランド部33の流路長L1は、中央(X方向におけるランド部33の中央)が最も大きく、中央から両端部側(X方向におけるランド部33の両端部側)に行くに従って、徐々に小さくなっている。このため、ランド部33の流路抵抗は、中央(X方向におけるランド部33の中央)で最も大きくなり、中央から両端(X方向における両端)にかけて、徐々に小さくなる。一方、ランド部34の流路長L2は、X方向の位置によらず、ほぼ一定となっている。すなわち、ランド部34の流路長L2は、X方向におけるランド部34の中央から両端にかけてほぼ一定である。このため、ランド部34の流路抵抗は、X方向の位置によらず、ほぼ一定になる。ランド部33の流路長L1とランド部34の流路長L2との合計(すなわちL1+L2)は、中央(X方向における中央)が最も大きく、中央から両端部側(X方向における両端部側)に行くに従って、徐々に小さくなっている。
【0122】
更に具体的に説明すると、図22(第3変形例)の場合は、マニホールド部32とランド部33との境界は、X方向におけるランド部33の中央から一方の端部に至る辺43aと、X方向におけるランド部33の中央から他方の端部に至る辺43bとを有している。辺43a,43bはランド部33の両端に達している。辺43aと辺43bとは、それぞれX方向に対して傾斜している。辺43aと辺43bとは、傾斜が逆であり、ランド部33,34,35,36の中心軸に対して対称である。このため、辺43aの下流側と辺43bの下流側では、X方向の中央から両端に向かうにしたがって、流路長L1が徐々に小さくなる。
【0123】
図22(第3変形例)の場合は、ランド部33の流路長L1を、ランド部33の中央で最も大きくし、中央から両端にかけて徐々に小さくすることで、ランド部33の流路抵抗とランド部34の流路抵抗との合計は、中央(X方向におけるランド部33,34の中央)で最も大きくなり、中央から両端(X方向における両端)にかけて、徐々に小さくなる。これにより、ランド部34からランド部35に流入する際の溶融樹脂の流入圧力を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。すなわち、マニホールド部32からランド部33に溶融樹脂が流入する際の流入圧力が、X方向における中央から両端部にかけて徐々に小さくなることを考慮して、溶融樹脂がランド部33およびランド部34を通過する際の流路抵抗が、X方向における中央から両端部にかけて徐々に小さくなるようにしている。これにより、マニホールド部32からランド部33に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の不均一さを、ランド部33の流路抵抗の不均一さによって相殺することができるため、結果として、ランド部34からランド部35に溶融樹脂が流入する際の流入圧力の不均一さを抑制し、ランド部35に流入する際の溶融樹脂の流入圧力を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。
【0124】
上記図6の場合は、ランド部34の流路長L2を、X方向におけるランド部34の中央から両端にかけて徐々に小さくしている。これにより、溶融樹脂がランド部33,34を通過する際の流路抵抗を、X方向における中央から両端にかけて徐々に小さくすることができ、それによって、ランド部34からランド部35に流入する際の溶融樹脂の流入圧力を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。一方、図22(第3変形例)の場合は、ランド部33の流路長L1を、X方向におけるランド部33の中央から両端にかけて徐々に小さくしている。これにより、溶融樹脂がランド部33,34を通過する際の流路抵抗を、X方向における中央から両端にかけて徐々に小さくすることができ、それによって、ランド部34からランド部35に流入する際の溶融樹脂の流入圧力を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。従って、上記図6の場合と図22(第3変形例)の場合のどちらも、ランド部34からランド部35に流入する際の溶融樹脂の流入圧力を、X方向の位置によらずほぼ一定とすることができる。
【0125】
そして、ランド部35,36および流路長L3,L4については、図22(第3変形例)の場合も上記図6の場合と同様である。これにより、図22(第3変形例)の場合も、ランド部35,36を通過して開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における開口部25の中央付近では、X方向の位置によらず流量(流速)をほぼ一定とすることができ、X方向における開口部25の両端部付近では、中央付近に比べて流量(流速)を小さくすることができる。このため、ネックインが発生したときに、幅方向(X方向)の両端部付近でフィルム状の溶融樹脂11の厚さが厚くなってしまう現象が発生するのを、抑制または防止することができる。また、ダイ3の開口部25から吐出される際の溶融樹脂の流量(流速)について、X方向における開口部25の中央付近(両端部付近以外)では、X方向の位置によらず流量(流速)をほぼ一定とすることができるため、ネックインが発生したときに、フィルム状の溶融樹脂11の厚さの均一性を高めることができる。これにより、冷却された樹脂フィルム11aの厚さの均一性を高めることができる。すなわち、均一な厚さを有する樹脂フィルム11aを製造することができる。
【0126】
また、図22(第3変形例)の場合は、上記図6の場合に比べて、以下の利点を得られる。すなわち、上記図6の場合に比べて、図22(第3変形例)の場合は、両端部(X方向における両端部)付近を流れる溶融樹脂の合計の流路長(ダイ3の樹脂供給口から樹脂吐出口までの流路長、ここでは開口部24から開口部25までの流路長に対応)が短くなるため、ダイ3内での溶融樹脂の滞留時間(滞在時間)が短くなり、ダイ3内における樹脂の滞留劣化(滞留に伴う劣化)を抑制することができる。
【0127】
次に、図22(第3変形例)の場合に比べた上記図6の場合の利点について以下に説明する。
【0128】
ダイ3を構成するダイ部材21とダイ部材22とはボルトなどによって互いに固定されているが、樹脂流路部23からの樹脂漏れを防止する観点から、マニホールド部32のなるべく近くにボルト(固定用ボルト)を配置することが望ましい。このため、上記図6の場合と図22(第3変形例)の場合のいずれにおいても、マニホールド部32に沿うように複数のボルト(固定用ボルト)を配置することが望ましい。ここで、図6および図22には、マニホールド部32に沿うように配置された複数のボルト(固定用ボルト)の配置例を、符号51を付して点線で示してある。
【0129】
上記図6の場合は、マニホールド部32がX方向に延在していることを反映して、マニホールド部32に沿うように配置された複数のボルト51について、各ボルト51から開口部25までの距離をほぼ均一(一定)とすることができる。一方、図22(第3変形例)の場合は、マニホールド部32がX方向に対して傾斜していることを反映して、マニホールド部32に沿うように配置された複数のボルト51について、各ボルト51から開口部25までの距離は均一(一定)とはならず、X方向の端部側のボルト51ほど、ボルト51から開口部25までの距離が小さくなる。
【0130】
ところで、一般的に、Tダイでは、溶融樹脂の内圧により、Tダイの吐出口(ここでは開口部25に対応)付近が変形し、リップランド部(ここではランド36に対応)の吐出口付近の厚みが増大(拡大)する虞がある。リップランド部の吐出口付近の厚みの増大量(拡大量)が大きい領域ほど、溶融樹脂が流れやすくなる。このため、溶融樹脂の内圧に起因したリップランド部の吐出口付近の厚みの増大は、製造された樹脂フィルムの厚み分布へ影響する懸念がある。従って、溶融樹脂の内圧に起因してリップランド部(ランド部36)の吐出口付近の厚みが増大する場合であっても、その厚みの増大量は、幅方向(X方向)の位置によらず均一であることが望ましく、そうすることで、樹脂フィルムの厚さの幅方向の分布の均一性を高めることができる。
【0131】
しかしながら、溶融樹脂の内圧に起因したリップランド部(ランド部36)の吐出口付近の厚みの増大量は、マニホールド部32に沿うように配置されたボルト51からTダイの吐出口(開口部25)までの距離が長くなるほど大きくなる傾向にある。このため、溶融樹脂の内圧に起因したリップランド部(ランド部36)の吐出口付近の厚みの増大量を幅方向(X方向)の位置によらず均一とするには、マニホールド部32に沿うように配置された複数のボルト51について、各ボルト51から開口部25までの距離をほぼ均一とすることが有効である。この観点で、図22(第3変形例)の場合よりも、上記図6の場合の方が好ましい。上記図6の場合は、マニホールド部32に沿うように配置された複数のボルト51について、各ボルト51から開口部25までの距離をほぼ均一とすることができるため、溶融樹脂の内圧に起因してリップランド部(ランド部36)の吐出口付近の厚みが増大する場合であっても、その厚みの増大量は、幅方向(X方向)の位置によらずほぼ均一とすることができる。これにより、冷却後の樹脂フィルムの厚さの均一性を確保することができる。従って、図22(第3変形例)の構造よりも上記図6の構造の方が、溶融樹脂の内圧に起因してリップランド部(ランド部36)の吐出口付近の厚みが増大した場合であっても、冷却後の樹脂フィルムの厚さの均一性を高めやすい。
【0132】
以上、第1変形例、第2変形例および第3変形例について説明したが、変形例同士を組み合わせることもできる。例えば、図22(第3変形例)において、ランド部35とランド部36との境界を、図20(第1変形例)または図21(第2変形例)と同様とすることも可能である。
【0133】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0134】
1 押出成形装置
2 押出機
3,10,103,203,303,404,503 ダイ
4 冷却ロール
5 タッチロール
11 溶融樹脂
11a 樹脂フィルム
21,22,121,122 ダイ部材
23,123 樹脂流路部
24,25,125 開口部
31,131 樹脂導入部
32,132 マニホールド部
33,34,35,36,133,134,135,136 ランド部
41a,41b,42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g,43a,43b 辺
51 ボルト
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