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特許7105738不動産の物件稼働率を推定するプログラム、装置及び方法
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  • 特許-不動産の物件稼働率を推定するプログラム、装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】不動産の物件稼働率を推定するプログラム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/06 20120101AFI20220715BHJP
   G06Q 50/16 20120101ALI20220715BHJP
【FI】
G06Q40/06
G06Q50/16
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019112502
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204925
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓也
(72)【発明者】
【氏名】木村 塁
【審査官】原 忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-083032(JP,A)
【文献】特開2001-243299(JP,A)
【文献】特開2018-142355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動産の物件稼働率を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
ユーザに所持された携帯端末の時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
前記ユーザ位置データベースを用いて、当該不動産の対象物件の位置に滞在する端末数を、時系列に抽出する端末数抽出手段と、
当該不動産について、現在時刻に滞在する現在端末数と、過去時刻に滞在する過去端末数とから、将来時刻に滞在する将来端末数を推定する将来端末数推定手段と、
当該物件稼働率の増減傾向を、現在端末数から将来端末数への増減傾向とみなして相関的に推定する稼働率変化推定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
前記稼働率変化推定手段は、不動産投資信託又は証券化商品における運用収益の増減傾向を、当該物件稼働率の増減傾向とみなして相関的に推定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記将来端末数推定手段は、不動産を銘柄とし且つ端末数を株価とした金融工学のプライシングアルゴリズムに基づくものである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記将来端末数推定手段における前記プライシングアルゴリズムは、将来端末数が対数正規過程に従うと仮定したブラックショールズモデルに基づくものである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項3に記載のプログラム。
【請求項5】
前記将来端末数推定手段について、以下のように、将来端末数nTは、現在端末数n0に、増減傾向項(μ-1/2σ2)Tと分散項(σWT)との和に基づく指数関数を乗算したものである
【数1】
σ:端末数変動率(ボラティリティ)
T:将来までの期間
μ:端末数の増減率
T:将来までの期間Tのブラウン運動(Brownian motion)
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項4に記載のプログラム。
【請求項6】
前記不動産は、複数の賃借人に利用される建物であり、
当該不動産に応じて、現在端末数に基づく上側境界端末数U及び下側境界端末数Lを、境界端末数(オプションにおける行使価格相当)として設定すると共に、
上側境界端末数U又は当該下側境界端末数Lに近づくほど、前記賃借人の退去率が高まる傾向にあると推定する増減傾向変化検出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする請求項4又は5に記載のプログラム。
【請求項7】
前記増減傾向変化検出手段は、将来端末数が、上側境界端末数Uを上回った際に、又は、下側境界端末数Lを下回った際に、当該不動産に対する賃借人の退去率が高まると推定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
前記増減傾向変化検出手段は、以下のように、将来端末数が下側境界端末数Lを下回る確率P(nT<L)と、将来端末数が上側境界端末数Uを上回る確率P(nT>U)とを算出する
【数2】
を算出する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項6又は7に記載のプログラム。
【請求項9】
前記増減傾向変化検出手段は、複数の不動産を含むポートフォリオ全体の稼働率を推定するものであり、以下のように、不動産k毎に重みωkを確率P(nT<L)及び確率P(nT>U)に乗算する
【数3】
PL:将来端末数が下側境界端末数Lを下回る確率
PU:将来端末数が上側境界端末数Uを上回る確率
k:不動産毎(k=1~N、ポートフォリオ内の不動産数N)
ωk:不動産kの重み
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項8に記載のプログラム。
【請求項10】
当該不動産を、株の銘柄に対応させ、
前記稼働率変化推定手段は、運用収益としての株価の増減傾向を、当該不動産における物件稼働率の増減傾向とみなして相関的に推定し、
将来端末数が、下側境界端末数Lを下回った際に、又は、上側境界端末数Uを上回った際に、当該株を「売り」と判定する株売買制御手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする請求項2から9のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項11】
前記ユーザ位置データベースは、ユーザに所持された携帯端末によって測位された端末測位位置、及び/又は、基地局に接続した携帯端末の基地局測位位置を、時系列に蓄積する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項12】
不動産の物件稼働率を推定する装置であって、
ユーザに所持された携帯端末の時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
前記ユーザ位置データベースを用いて、当該不動産の対象物件の位置に滞在する端末数を、時系列に抽出する端末数抽出手段と、
当該不動産について、現在時刻に滞在する現在端末数と、過去時刻に滞在する過去端末数とから、将来時刻に滞在する将来端末数を推定する将来端末数推定手段と、
当該物件稼働率の増減傾向を、現在端末数から将来端末数への増減傾向とみなして相関的に推定する稼働率変化推定手段と
を有することを特徴とする装置。
【請求項13】
不動産の物件稼働率を推定する装置の不動産稼働率推定方法であって、
前記装置は、
ユーザに所持された携帯端末の時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースを有し、
前記装置は、
前記ユーザ位置データベースを用いて、当該不動産の対象物件の位置に滞在する端末数を、時系列に抽出する第1のステップと、
当該不動産について、現在時刻に滞在する現在端末数と、過去時刻に滞在する過去端末数とから、将来時刻に滞在する将来端末数を推定する第2のステップと、
当該物件稼働率の増減傾向を、現在端末数から将来端末数への増減傾向とみなして相関的に推定する第3のステップと
を実行することを特徴とする不動産稼働率推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不動産に関する金融工学の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
不動産投資ファンドとして、J-REIT(Japan Real Estate Investment Trust)がある。これは、複数の商業用不動産を裏付け資産として、株や債券を代替した証券化金融商品であり、証券取引所に上場し、日々売買されている。
J-REITとは、投資家からSPC(特別目的会社)に集められた資金で商業用不動産を購入し、テナント(賃借人)の賃料収入や、保有不動産の売買収益に基づく運用益を狙うものである。この運用益から、株の配当金にあたる分配金が、投資家に支払われる。株式は、法人税が課され、内部留保の残りが配当されるのに対し、J-REITは、収益の90%超の分配等の条件を満たせば、法人税が実質的に免除される点で異なる(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
不動産投信情報ポータルによれば、ほとんどのファンドが、年2回の決算情報を開示している(例えば非特許文献2参照)。ポートフォリオに含まれる不動産の種類としては、例えばオフィスビル、賃貸マンション、大型倉庫、ショッピングモール、工場、宿泊施設、ヘルスケア施設(介護医療事業)、娯楽施設(大江戸温泉(登録商標)など)のように多岐に及ぶ。各ポートフォリオは、多種の不動産が単に含まれるものではなく、商品化として整理されて、販売される。
【0004】
例えば投資法人の有価証券報告書によれば、膨大な情報が公開されている。その決算情報には、所有ビルの詳細をはじめ、物件取得簿価、ポートフォリオマネジメント方針(組織図等々)などが記載されている。
REITの評価に最も重要な情報は、長期的には、物件価値と運用収益率であり、短期的には、運用収益率である。この両者に共通で重要な情報と考えられる「運用収益率」は、間接的には「物件稼働率」に基づく。物件稼働率の概略情報は、有価証券報告書以外では、数週間遅れでWebサイト上に公開される場合もあるが、物件稼働率の詳細情報となると、年末時点にしか公開されない場合もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】一般社団法人・投資信託協会、「J-REITの基礎知識」、[online]、[令和1年5月28日検索]、インターネット<URL: https://www.toushin.or.jp/reit/about/basic/>
【文献】「不動産投信情報ポータル」、[online]、[令和1年5月28日検索]、インターネット<URL: http://www.japan-reit.com/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
J-REITは、開示情報が限定されていることにより、一定以上のリスクが伴う金融商品と認識されている。そのために、金融庁は、十分なモニタリング体制やリスク管理能力を有しない地方銀行のような金融機関に対して、投資を制限するべく指導している。
【0007】
J-REITの商品価格には、「物件稼働率」が大きく影響する。しかしながら、現状、物件稼働率の算定日よりも、数週間か数か月遅れて公表されている。そのために、詳細情報が公開されるまで、投資家は、多大な価格変動リスクを抱えなければならず、この不透明性が、投資家や関係者(規制当局、格付け機関、証券会社、信託銀行など)にとって、投資難易度を高める大きな課題となっている。
【0008】
物件稼働率の概略情報によれば、月末基準に基づく実際の稼働率は不明である。例えば、ビルファンド投資法人の場合、全体的な月別の物件稼働率が、大凡1か月遅れで開示され、物件毎の稼働率は、更に3ヶ月以上遅れて開示される。また、極端な例として、月末だけ契約するようなテナントがいると、稼働率100%でも、実態は月末のみということもありうる。
【0009】
そこで、本発明は、不動産の物件稼働率を推定するプログラム、装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、不動産の物件稼働率を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
ユーザに所持された携帯端末の時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
ユーザ位置データベースを用いて、当該不動産の対象物件の位置に滞在する端末数を、時系列に抽出する端末数抽出手段と、
当該不動産について、現在時刻に滞在する現在端末数と、過去時刻に滞在する過去端末数とから、将来時刻に滞在する将来端末数を推定する将来端末数推定手段と、
当該物件稼働率の増減傾向を、現在端末数から将来端末数への増減傾向とみなして相関的に推定する稼働率変化推定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0011】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
稼働率変化推定手段は、不動産投資信託又は証券化商品における運用収益の増減傾向を、当該物件稼働率の増減傾向とみなして相関的に推定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0012】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
将来端末数推定手段は、不動産を銘柄とし且つ端末数を株価とした金融工学のプライシングアルゴリズムに基づくものである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0013】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
将来端末数推定手段におけるプライシングアルゴリズムは、将来端末数が対数正規過程に従うと仮定したブラックショールズモデルに基づくものである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0014】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
将来端末数推定手段について、以下のように、将来端末数nTは、現在端末数n0に、増減傾向項(μ-1/2σ2)Tと分散項(σWT)との和に基づく指数関数を乗算したものである
【数1】
σ:端末数変動率(ボラティリティ)
T:将来までの期間
μ:端末数の増減率
T:将来までの期間Tのブラウン運動(Brownian motion)
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0015】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
不動産は、複数の賃借人に利用される建物であり、
当該不動産に応じて、現在端末数に基づく上側境界端末数U及び下側境界端末数Lを、境界端末数(オプションにおける行使価格相当)として設定すると共に、
上側境界端末数U又は当該下側境界端末数Lに近づくほど、賃借人の退去率が高まる傾向にあると推定する増減傾向変化検出手段と
してコンピュータを機能させることも好ましい。
【0016】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
増減傾向変化検出手段は、将来端末数が、上側境界端末数Uを上回った際に、又は、下側境界端末数Lを下回った際に、当該不動産に対する賃借人の退去率が高まると推定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0017】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
増減傾向変化検出手段は、以下のように、将来端末数が下側境界端末数Lを下回る確率P(nT<L)と、将来端末数が上側境界端末数Uを上回る確率P(nT>U)とを算出する
【数2】
を算出する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0018】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
増減傾向変化検出手段は、複数の不動産を含むポートフォリオ全体の稼働率を推定するものであり、以下のように、不動産k毎に重みωkを確率P(nT<L)及び確率P(nT>U)に乗算する
【数3】
PL:将来端末数が下側境界端末数Lを下回る確率
PU:将来端末数が上側境界端末数Uを上回る確率
k:不動産毎(k=1~N、ポートフォリオ内の不動産数N)
ωk:不動産kの重み
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0019】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
当該不動産を、株の銘柄に対応させ、
稼働率変化推定手段は、運用収益としての株価の増減傾向を、当該不動産における物件稼働率の増減傾向とみなして相関的に推定し、
将来端末数が、下側境界端末数Lを下回った際に、又は、上側境界端末数Uを上回った際に、当該株を「売り」と判定する株売買制御手段と
してコンピュータを機能させることも好ましい。
【0020】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
ユーザ位置データベースは、ユーザに所持された携帯端末によって測位された端末測位位置、及び/又は、基地局に接続した携帯端末の基地局測位位置を、時系列に蓄積する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0021】
本発明によれば、不動産の物件稼働率を推定する装置であって、
ユーザに所持された携帯端末の時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
ユーザ位置データベースを用いて、当該不動産の対象物件の位置に滞在する端末数を、時系列に抽出する端末数抽出手段と、
当該不動産について、現在時刻に滞在する現在端末数と、過去時刻に滞在する過去端末数とから、将来時刻に滞在する将来端末数を推定する将来端末数推定手段と、
当該物件稼働率の増減傾向を、現在端末数から将来端末数への増減傾向とみなして相関的に推定する稼働率変化推定手段と
を有することを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、不動産の物件稼働率を推定する装置の不動産稼働率推定方法であって、
装置は、
ユーザに所持された携帯端末の時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースを有し、
装置は、
ユーザ位置データベースを用いて、当該不動産の対象物件の位置に滞在する端末数を、時系列に抽出する第1のステップと、
当該不動産について、現在時刻に滞在する現在端末数と、過去時刻に滞在する過去端末数とから、将来時刻に滞在する将来端末数を推定する第2のステップと、
当該物件稼働率の増減傾向を、現在端末数から将来端末数への増減傾向とみなして相関的に推定する第3のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のプログラム、装置及び方法によれば、不動産の物件稼働率を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明におけるシステム構成図である。
図2】本発明における推定装置の機能構成図である。
図3】本発明における端末数推定部の説明図である。
図4】将来の株価における増減傾向を表す説明図である。
図5】将来の株価が下側境界株価を下回る場合の説明図である。
図6】将来の株価が上側境界株価を上回る場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0026】
本願の発明者らは、不動産の物件稼働率と、その不動産に滞在するユーザ数との間に相関性がある、と考えた。即ち、その不動産の対象物件の位置周辺に滞在するユーザ数の日々の変動は、その不動産の物件稼働率の日々の変動と同じようになるのではないか、と考えた。
そうであれば、投資家や関係者としては、その不動産の対象物件の位置周辺に滞在するユーザ数を認識することによって、その対象物件のテナントの状況も把握することができる。J-REITに対する投資判断に、有益且つリアルタイムな情報となり得る。
【0027】
本発明のアプリケーションによれば、不動産の対象物件について、その位置周辺に位置するユーザ数から、例えば以下のような物件稼働率を推定する。
(1)事業所主体型:例えば工場の物件稼働率
(2)住居主体型:例えばマンションの物件稼働率
(3)商業施設主体型:例えばショッピングモールの物件稼働率
(4)ホテル主体型:例えば宿泊施設の物件稼働率
(5)物流施設主体型:例えば大型倉庫の物件稼働率
(6)ヘルスケア施設主体型:例えばスポーツジム施設の物件稼働率
(7)(1)~(6)の統合・複合型
【0028】
図1は、本発明におけるシステム構成図である。
【0029】
図1によれば、推定装置1は、ユーザに所持された携帯端末2の位置を取得する。例えば以下のような、2つの方法がある。
(1)携帯端末2が、自ら測位し、その位置情報(端末測位位置)を時系列に、推定装置1へ送信する。
(2)通信事業者の基地局3が、自らに接続した携帯端末2について測位し、その位置情報(基地局測位位置)を時系列に、推定装置1へ送信する。
推定装置1は、多数の携帯端末2の位置情報を収集し、不動産の対象物件の位置から所定範囲に滞在する端末数を計数することができる。
【0030】
ここで、重要な点として、推定装置1は、その不動産の対象物件の位置周辺に滞在するユーザ数を、正確に算出する必要はない。即ち、特定の通信事業者と契約した携帯端末2のみついて、位置情報を収集するものであってもよい。本発明は、不動産の物件稼働率と、その不動産に滞在するユーザ数との間に相関性があればよいだけであって、特定の通信事業者と契約したユーザ数であってもよい。
【0031】
図2は、本発明における推定装置の機能構成図である。
【0032】
図2によれば、推定装置1は、不動産の物件稼働率を推定するものである。
推定装置1は、ユーザ位置データベース10と、ユーザ位置収集部101と、端末数抽出部11と、将来端末数推定部12と、稼働率変化推定部13と、増減傾向変化検出部14と、株売買制御部15とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムとして実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、不動産稼働率推定方法としても理解できる。
【0033】
[ユーザ位置データベース10]
ユーザ位置データベース10は、例えば以下のような位置情報を、時系列に蓄積したものである。
(1)ユーザに所持された携帯端末2によって測位された端末測位位置
これは、携帯端末2に搭載されたGPS(Global positioning System)によって測位された緯度経度情報である。
(2)基地局に接続した携帯端末の基地局測位位置
これは、携帯端末2を配下とする基地局3の位置情報から、携帯端末2の位置を推定したものである。この位置情報は、空間的粒度が粗いものとなるが、所定圏における多数のユーザの滞在地人口を推定するビッグデータとしては、十分に有用なものである。
これら位置情報は、緯度経度又は地図座標によって表記されるものであってもよいし、住所名や地図メッシュ番号に変換されたものであってもよい。
【0034】
図2によれば、ユーザ位置データベース10は、特定の通信事業者によって運用管理されるデータベースであって、加入者ID(ユーザID)毎に、時刻と位置情報とを対応付けて蓄積している。尚、ここで、ユーザIDは、本発明の構成要素として必須となるものではない。
【0035】
携帯端末2を所持するユーザと、不動産の対象物件の位置周辺に滞在するユーザ数とは、以下のように表される。
各ユーザの固有番号:i∈N
時刻tにおけるユーザiの位置情報:position(i,t)
不動産の対象物件の位置(範囲、エリア):A
対象物件の位置Aに時刻tに滞在するユーザ数:n(t,A)
n(t,A)=#{i∈[0,N]|position(i,t)∩A≠0}
これら位置情報は、ユーザ位置収集部101によって逐次収集されたものである。
【0036】
[端末数抽出部11]
端末数抽出部11は、ユーザ位置データベース10を用いて、当該不動産の対象物件の位置に滞在する「端末数」を、時系列に抽出する。当該不動産の物件位置周辺に滞在するユーザ数は、営業活動に限らず、様々な活動におけるユーザの利用度合いを表す。
【0037】
図3は、本発明における端末数推定部の説明図である。
【0038】
図3(a)によれば、不動産の対象物件Aについて、「時点t-1」までに、特定の通信事業者から見た、その周辺に滞在した端末数の履歴を表す。
また、図3(b)によれば、図3(a)から「時点t」まで時間経過した際に、その周辺に滞在した端末数を表す。
このように、時刻t-1から時刻tへ時間経過した際における端末数の変化を、将来端末数推定部12へ出力する。
【0039】
端末数抽出部11は、例えば1日(24時間)に複数回(例えば3時間毎に8回)、端末数をカウントして、その平均値を1日の端末数とするものであってもよい。例えば同一日付について、時刻t1,t2,t3,t4,t5,t6,t7,t8における各端末数の平均値Ave(n)を算出する。
n(d,A)=(Σj=1 8n(tj,A))/8
d:日単位
尚、以下では、n(d,A)であっても、n(t,A)として説明する。
【0040】
[将来端末数推定部12]
将来端末数推定部12は、当該不動産について、「現在時刻に滞在する現在端末数」と、「過去時刻に滞在する過去端末数」とから、「将来時刻に滞在する将来端末数」を推定する。
【0041】
将来端末数推定部12は、不動産を銘柄とし且つ端末数を株価とした金融工学のプライシングアルゴリズムに基づくものである。具体的には、将来端末数が対数正規過程に従うと仮定した「ブラックショールズモデル」に基づくものである。ブラックショールズモデル(Black-Scholes model)とは、デリバティブの価格付けに現れる偏微分方程式(及びその境界値問題)に基づくものである。
【0042】
将来端末数推定部12によれば、将来端末数nT(非負値)は、以下のように、現在端末数n0に、増減傾向項(μ-1/2σ2)Tと分散項(σWT)との和に基づく指数関数を乗算したものとして算出される。
【数4】
σ:端末数変動率(ボラティリティ)
T:将来までの期間
μ:端末数の増減率
T:将来までの期間Tのブラウン運動(Brownian motion)
【0043】
[稼働率変化推定部13]
稼働率変化推定部13は、現在端末数から将来端末数への変化を、当該物件稼働率の変化として認識する。
稼働率変化推定部13は、当該物件稼働率の変化を、不動産投資信託又は証券化商品における運用収益の変化、具体的には株価の変化として認識する。その運用収益の変化は、アプリケーションへ出力される。
【0044】
[増減傾向変化検出部14]
不動産は、複数の賃借人に利用される建物であるとする。このとき、その不動産の対象物件に周辺に滞在する端末数が、減少傾向又は増加傾向にあるとき、その不動産のテナント(賃借人)が退去する可能性があると予測する。
【0045】
図4は、将来の株価における増減傾向を表す説明図である。
【0046】
増減傾向変化検出部14は、当該不動産に応じて、現在端末数に基づく「上側境界端末数U」及び「下側境界端末数L」を、境界端末数(オプションにおける行使価格相当)として設定する。これらは、テナントの退去の目安となるものであって、予め設定される。
その上で、増減傾向変化検出部14は、「上側境界端末数U」又は「下側境界端末数L」に近づくほど、賃借人の退去率が上昇する傾向(物件稼働率が低下する傾向)にあると推定する。
【0047】
増減傾向変化検出部14は、将来端末数が、上側境界端末数Uを上回った際に、又は、下側境界端末数Lを下回った際に、当該不動産に対する賃借人の退去率が高まると推定する。
そのために、増減傾向変化検出部14は、以下のように、将来時刻Tに、以下の2つを算出する。
将来端末数が下側境界端末数Lを下回る確率:P(nT<L)
将来端末数が上側境界端末数Uを上回る確率:P(nT>U)
【数5】
N:標準正規分布の累積密度関数
【0048】
また、将来端末数の動きは、対数正規過程に従うと仮定する。具体的には、以下の2つの変化を算出する。
「下側境界端末数L」を端末数が下回る確率の変化:ΔP(n(t,A)<L)
「上側境界端末数U」を端末数が上回る確率の変化:ΔP(n(t,A)>U)
そして、それぞれの変化量が増加するとき、テナントの退去率も高まると考える。
【0049】
<ユーザ数の減少傾向>
物件面積がユーザ数に対して広すぎになってきていることから退去する可能性があり、一時的に、物件稼働率の低下(空室率の上昇)が予想される。
ΔP(n(t,A)<L)
=P(n(t,A)<L)-P(n(t-1,A)<L) >> 0
<ユーザ数の増加傾向>
物件面積がユーザ数に対して手狭になってきていることから退去する可能性があり、一時的に、物件稼働率の低下(空室率の上昇)が予想される。
ΔP(n(t,A)>U)
=P(n(t,A)>U)-P(n(t-1,A)>U) >> 0
【0050】
図4(a)によれば、不動産の対象物件Aについての将来端末数が表されている。ここでは、将来端末数は、下側境界端末数L以上であり、上側境界端末数U以下であると共に、ΔP(n(t,A)<L)及びΔP(n(t,A)>U)の両方とも変化が小さい。
これに対し、当該不動産を、株の銘柄に対応させる。
図4(b)によれば、不動産の対象物件Aについての将来の株価が表されている。ここでは、将来の株価は、下側境界株価以上であり、上側境界株価以下であると共に、将来の株価の変化も小さい、とする相関性を想定することができる。
【0051】
図5は、将来の株価が下側境界株価を下回る場合の説明図である。
【0052】
図5(a)によれば、時刻t-1から時刻tへ時間経過した際に、「下側境界端末数L」を端末数が下回る確率の変化ΔP(n(t,A)<L)が増加していることが理解できる。
このとき、図5(b)によれば、将来株価が下側境界株価を下回る確率も高くなり、その不動産に対する賃借人の退去率が高まると推定される。時刻tの時点で、投資家らは、その不動産の物件稼働率が低下することを予測し、「売り」と判断することができる。
【0053】
図6は、将来の株価が上側境界株価を上回る場合の説明図である。
【0054】
図6(a)によれば、時刻t-1から時刻tへ時間経過した際に、「上側境界端末数U」を端末数が上回る確率の変化ΔP(n(t,A)>U)が増加していることが理解できる。
このとき、図6(b)によれば、将来株価が上側境界株価を上回る確率も高くなり、その不動産に対する賃借人の退去率が高まると推定される。時刻tの時点で、投資家らは、その不動産の物件稼働率が低下することを予測し、「売り」と判断することができる。
【0055】
<複数の不動産を含むポートフォリオに対する増減傾向変化の検出>
増減傾向変化検出部14は、複数の不動産を含むポートフォリオ全体について、増減傾向の変化を検出するものであってもよい。
この場合、不動産k毎に、重みωkを設定する。
そして、以下のように、不動産k毎に重みωkを、確率P(nT<L)及び確率P(nT>U)に乗算する。
【数6】
PL:将来端末数が下側境界端末数Lを下回る確率
PU:将来端末数が上側境界端末数Uを上回る確率
k:不動産毎(k=1~N、ポートフォリオ内の不動産数N)
ωk:不動産kの重み
Uk:不動産kの上側境界端末数U
Lk:不動産kの下側境界端末数L
【0056】
ポートフォリオ単位で、確率PL及びPUそれぞれが、重み付き平均によって算出される。その確率の増減傾向は、ポートフォリオ単位における物件の退去率(物件稼働率)と推定される。
【0057】
[株売買制御部15]
株売買制御部15は、以下の場合、当該株を「売り」と判定する。
将来端末数が、下側境界端末数Lを下回った際(下側境界株価を下回った際)
将来端末数が、上側境界端末数Uを上回った際(上側境界株価を上回った際)
一方で、将来端末数が、下側境界端末数Lを下回る確率、又は、上側境界端末数Uを上回る確率が、低下する場合、当該株を「買い」と判定する。
【0058】
(売り事例1)ΔPL>>0(ΔPU<<0)の場合、テナントにおけるスタッフ数や客数が全体的に減少しているので、テナントが広すぎることによる退去率が増加し、物件稼働率が低下すると予測して、当該株を「売り」と判定する。
(売り事例2)ΔPU>>0(ΔPL<<0)の場合、テナントにおけるスタッフ数や客数が全体的に上昇しているので、テナントが手狭になることによる退去率が増加し、物件稼働率が低下すると予測して、当該株を「売り」と判定する。
この場合、物件稼働率の観点から、売り事例1は、売り事例2よりも深刻と考えることができる。その場合、売り事例1は、売り事例2よりも、売りの株数を増加させることも好ましい。
【0059】
以上、詳細に説明したように、本発明のプログラム、装置及び方法によれば、不動産の物件稼働率を推定することができる。
本発明によれば、携帯端末の位置情報を用いて、不動産の対象物件に滞在する端末数を計測し、その端末数の増減傾向から、その不動産のテナント(賃借人)の退去率(即ち物件稼働率)を推定することができる。その物件稼働率は、例えばJ-REITの投資家や関係者に向けて、リアルタイムな開示情報として有益なものとなる。また、そのJ-REITの株に対する売買の判定にもなる。
【0060】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0061】
1 推定装置
10 ユーザ位置データベース
101 ユーザ位置収集部
11 端末数抽出部
12 将来端末数推定部
13 稼働率変化推定部
14 増減傾向変化検出部
15 株売買制御部
2 携帯端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6