(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】無線中継システム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/26 20090101AFI20220715BHJP
B64F 3/02 20060101ALI20220715BHJP
H04W 84/06 20090101ALI20220715BHJP
H04W 84/18 20090101ALI20220715BHJP
【FI】
H04W16/26
B64F3/02
H04W84/06
H04W84/18 110
(21)【出願番号】P 2019167391
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2019-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝也
【合議体】
【審判長】國分 直樹
【審判官】中木 努
【審判官】横田 有光
(56)【参考文献】
【文献】特許第6541823(JP,B1)
【文献】特開2019-125877(JP,A)
【文献】特開2017-52389(JP,A)
【文献】特開2017-13653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W4/00-99/00
B64F3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号の周波数が互いに異なる複数の通信オペレータの固定基地局とユーザ装置との間の無線通信を中継する無線中継システムであって、
無指向性アンテナを有し、前記複数の通信オペレータの固定基地局と無線通信可能な空中エリアに滞在可能な浮揚体
であって地上を移動可能な自動車から発着可能な前記浮揚体に搭載され
、前記空中エリアにおいて前記無指向性アンテナを介して前記複数の通信オペレータの固定基地局と見通し内で無線通信を行う第1無線中継局と、
前記第1無線中継局と無線通信可能な空中エリアに滞在するように制御可能な飛行体に搭載され前記第1無線中継局とユーザ装置との間の無線通信を中継する第2無線中継局と、を備え、
前記第1無線中継局を搭載する前記浮揚体は、前記地上を移動可能な自動車に接続されたケーブルを介して電力が供給され、
前記第1無線中継局は、
前記複数の通信オペレータの固定基地局との間で、前記複数の固定基地局それぞれに対応する互いに異なる複数の第1周波数の無線信号を送受信し、
前記第2無線中継局との間で、前記複数の通信オペレータに対応する互いに異なる複数の第2周波数の無線信号又は前記複数の通信オペレータに共通の第2周波数の無線信号を送受信し、
前記複数の第1周波数と前記複数の第2周波数又は前記共通の第2周波数との間の周波数変換を行い、
前記第2無線中継局は、
前記第1無線中継局との間で、前記複数の第2周波数の無線信号又は前記共通の第2周波数の無線信号を送受信し、
前記ユーザ装置との間で、前記複数の第1周波数の無線信号を送受信し、
前記複数の第2周波数の無線信号又は前記共通の第2周波数と前記複数の第1周波数との間の周波数変換を行う、ことを特徴とする無線中継システム
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線中継システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地上の固定基地局のアンテナとの間に電波の見通し伝搬の障害になる障害物が存在する、不感地、山岳エリア、海上エリアなどの弱電界エリアにおいて、中継用アンテナ及び対移動局用アンテナを有する無線中継局を搭載したドローンや係留気球により無線中継を行う無線中継システムが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の無線中継システムにおいて、固定基地局の圏外エリアでは固定基地局とドローンや係留気球に搭載した無線中継局との間で無線通信することが難しいため、固定基地局とユーザ装置(移動局)との間の無線通信を中継することができないおそれがある。そこで、本出願人は、地上を移動可能な車両に周波数変換器を含む無線中継局(親機)を搭載し、無線中継を行う目的地(現場)に移動し、固定基地局からの電波を親機で受信して、親機と飛行体としてのドローンに搭載された無線中継局(子機)との間で無線通信を確立することにより、その固定基地局とユーザ装置(移動局)との間の無線通信を行う無線中継システムを提案した(特願2017-045122、特願2018-004142、特願2018-055632参照)。
【0005】
上記無線中継システムは、固定基地局との間に電波の見通し伝搬の障害になる障害物が多数存在する山岳や山林などの場所(例えば遭難現場付近などの環境)で使用される場合がある。このような場所では、親機と固定基地局との間が見通し外となることが多く、遭難現場付近で固定基地局の通信圏内エリアとなる親機の設置場所を探すのが難しい。特に複数の通信オペレータ(通信事業者)の電波を同時に中継する場合、親機を設置する場所は、中継する通信オペレータのすべての通信圏内エリアである必要があるため、親機の設置場所を探すのがますます難しくなる。更に、無線中継局(親機)を搭載した車両が進入可能な場所が、遭難現場から離れた場所であることも多い。そのため、親機の設置個所は遭難現場付近から遠く離れた場所になることが多く、親機と子機との距離が長くなったり障害物で親機と子機とが見通し外となったりして、遭難現場と推定される本当の捜索現場を含む目標エリアに通信圏内エリアを構築することができないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る無線中継システムは、移動通信網の固定基地局とユーザ装置との間の無線通信を中継する無線中継システムであって、前記固定基地局と無線通信可能な空中エリアに滞在可能な浮揚体に搭載された第1無線中継局と、前記第1無線中継局と無線通信可能な空中エリアに滞在可能な飛行体に搭載され前記第1無線中継局とユーザ装置との間の無線通信を中継する第2無線中継局と、を備える。
前記無線中継システムにおいて、前記第1無線中継局の前記固定基地局との通信を行なうためのアンテナは、無指向性アンテナであってもよい。
また、前記無線中継システムにおいて、前記浮揚体に搭載された前記第1無線中継局に地上から電力を供給してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、山岳や山林などの場所においても、固定基地局と親機との間の中継距離及び親機と子機との間の中継距離を大きくとることでき、固定基地局の圏外に位置する目標エリアに無線通信エリアを確実に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無線中継システムを含む通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図。
【
図2】他の実施形態に係る無線中継システムを含む通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図。
【
図3】(a)は、比較例に係る無線中継システムの課題の説明図であり、(b)は、本実施形態の無線中継システムの効果の説明図。
【
図4】実施形態に係る無線中継システムの第1無線中継局(親機)及び第2無線中継局(子機)の主要部構成の一例を示すブロック図。
【
図5】実施形態に係る無線中継システムの第1無線中継局(親機)及び第2無線中継局(子機)の主要部構成の他の例を示すブロック図。
【
図6】実施形態に係る無線中継システムの第1無線中継局(親機)及び第2無線中継局(子機)の主要部構成の更に他の例を示すブロック図。
【
図7】実施形態に係る無線中継システムの第1無線中継局(親機)及び第2無線中継局(子機)の主要部構成の更に他の例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1及び
図2はそれぞれ、本発明の一実施形態に係る無線中継システムを含む通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図である。本実施形態の無線中継システムは、災害時や山岳や森林などの遭難者の捜索時に、ドローンや係留気球等の飛行体に無線中継局を搭載して、固定基地局の圏外エリアに対して無線中継を実施することができる臨時無線中継システムである。特に、本実施形態の無線中継システムは、簡易な構成で、目標位置に移動した後、複数の通信オペレータ(携帯通信事業者)の移動通信網の固定基地局とユーザ装置との間の無線通信の中継を速やかに開始することができる。
【0010】
図1において、本実施形態に係る無線中継システムは、第1無線中継局(以下「親機」ともいう。)10及び第2無線中継局(以下、「子機」ともいう。)20を備える。第1無線中継局(親機)10及び第2無線中継局(子機)20は、無線信号の周波数が互いに異なる複数の通信オペレータ(通信事業者)A,Bの移動通信網80A,80Bのコアネットワークそれぞれに接続されたマクロセル基地局などの複数の固定基地局30A,30Bと、複数の通信オペレータA,Bそれぞれに対応するユーザ装置としての複数の移動局40A,40Bとの間の無線通信を同時に中継する。親機10及び子機20は、GPS衛星からの受信信号などを利用して互いに時間同期されている。
【0011】
なお、本実施形態では、通信オペレータ(固定基地局)の数が2の場合について説明するが、通信オペレータ(固定基地局)の数は3以上であってもよい。また、
図1では、通信オペレータA,Bそれぞれに対応する移動局の数が1であるが、通信オペレータA,Bそれぞれに対応する移動局の数は2以上であってもよい。
【0012】
移動通信網80A,80Bにはそれぞれ遠隔制御装置81A,81B(遠隔制御元)を設けてもよい。遠隔制御装置81A,81Bは、例えば第1無線中継局10及び第2無線中継局20の情報を保持し、第1無線中継局10及び第2無線中継局20の少なくとも一方に制御情報を送信することができる。また、遠隔制御装置81A,81Bは、情報の送信先として機能し、第1無線中継局10及び第2無線中継局20の少なくとも一方から情報を受信してもよい。なお、遠隔制御装置81A,81Bは、第1無線中継局10や第2無線中継局20と通信可能な場所であれば、移動通信網80A,80B以外に設けてもよい。また、第1無線中継局10及び第2無線中継局20の制御は、遠隔制御装置81A,81Bの両方で行ってもよいし、遠隔制御装置81A,81Bのいずれか一方が行うようにしてもよい。また、遠隔制御装置81Cは、各通信オペレータの移動通信網80A,80B以外の共通の通信網80C上に設置されてもよい。
【0013】
共通の通信網80Cには、第1無線中継局(親機機)10が搭載された飛行体としてのドローン60を遠隔的に操縦したり第2無線中継局(子機)20が搭載された飛行体としてのドローン70を遠隔的に操縦したりする遠隔操縦装置(以下、「遠隔ドローン操縦装置」という。)82を設けてもよい。
【0014】
遠隔制御装置81A,81B,81Cは、例えば、第1無線中継局10と通信可能な、又は、第1無線中継局10及び第2無線中継局20と通信可能な、サーバ、PC若しくはタブレット端末であってもよい。また、遠隔ドローン操縦装置82は、第1無線中継局10を介して、又は、第1無線中継局10及び第2無線中継局20を介して、ドローン60,70の制御部と通信可能な、サーバ、PC若しくはタブレット端末であってもよい。
【0015】
第1無線中継局10は、通信オペレータA,Bごとに、固定基地局30A,30Bとの間の中継対象の第1周波数(以下、「無線中継周波数」又は「基地局側周波数」ともいう。)F1A(下り信号)及びF1A’(上り信号)並びにF1B(下り信号)及びF1B’(上り信号)の無線信号と、第2無線中継局20との間の第2周波数(以下「中間周波数」ともいう。)F2A(下り信号)及びF2A’(上り信号)並びにF2B(下り信号)及びF2B’(上り信号)の無線信号とを中継する周波数変換型の無線中継装置である。
【0016】
第1無線中継局10は、自律制御により又は外部からの制御により所定の空域に滞在又は移動する浮揚体である飛行体としてのドローン60に搭載されている。第1無線中継局10が搭載されたドローン60は、車両である自動車(無線中継車)50により地上の目標位置に運搬され、地上から所定高度(例えば100~150m)の上空に滞在するように飛行制御される。
【0017】
地上の目標位置にドローン60及び第1無線中継局10を運搬して移動する自動車50は、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車など、第1無線中継局10及びドローン60に長時間にわたって電力を供給可能なバッテリーや発電機などを備えている。ドローン60の飛行駆動部及び第1無線中継局10には、ケーブル61を介して、地上の自動車50に搭載されたバッテリーや発電機から電力が供給される。
【0018】
なお、本実施形態では、ドローン60に第1無線中継局10を搭載して、自動車50の上空に滞在させているが、係留気球等の浮揚体に第1無線中継局10を搭載して自動車50の上空に滞在させてもよい。
【0019】
第1無線中継局10と第2無線中継局20との間の無線信号は、
図2に示すように、通信オペレータに共通の第2周波数(以下「中間周波数」ともいう。)F2(下り信号)及びF2’(上り信号)の無線信号であってもよい。また、各通信オペレータA,Bが無線中継を時分割で利用するようにしてもよい。
【0020】
以下、F1A(下り信号)及びF1A’(上り信号)をまとめて「F1A/F1A'」と表記し、F1B(下り信号)及びF1B'(上り信号)をまとめて「F1B/F1B'」と表記する。また、F2A(下り信号)及びF2A'(上り信号)をまとめて「F2A/F2A'」と表記し、F2B(下り信号)及びF2B'(上り信号)をまとめて「F2B/F2B'」と表記し、F2(下り信号)及びF2'(上り信号)をまとめて「F2/F2'」と表記する。
【0021】
第2無線中継局20は、通信オペレータA,Bごとに、第1無線中継局10との間の第2周波数(中間周波数)F2A/F2A'、F2B/F2B'、F2/F2'の無線信号と、移動局40A,40Bとの間の中継対象の第1周波数(以下、「無線中継周波数」又は「移動局側周波数」ともいう。)F1A/F1A',F1B/F1B'の無線信号とを中継する周波数変換型の無線中継装置である。
【0022】
第2無線中継局20は、自律制御により又は外部からの制御により所定の空域に滞在又は移動する飛行体としてのドローン70に搭載されている。第2無線中継局20が搭載されたドローン70は、自動車(無線中継車)50により地上の目標位置に運搬され、地上から所定高度(例えば100~150m)の上空に滞在するように制御される。ドローン70の飛行駆動部及び第2無線中継局20には内蔵のバッテリーから電力が供給される。
【0023】
なお、自動車50は、ドローン60及びドローン70が離発着可能な離発着部を備えてもよい。
【0024】
以下、第1無線中継局10が搭載された飛行体としてドローン60と第2無線中継局20が搭載された飛行体としてドローン70を用いた無線中継システムを「ドローン無線中継システム」ともいう。
【0025】
第1無線中継局10及び第2無線中継局20それぞれにおいて通信オペレータA,Bごとに変換する第1周波数(中継対象周波数)F1A/F1A',F1B/F1B'及び第2周波数(中間周波数)F2A/F2A'、F2B/F2B'、F2/F2'は、第1無線中継局10で送受信される無線信号どうしの回り込み干渉及び第2無線中継局20で送受信される無線信号どうしの回り込み干渉が発生しないように互いに異なる周波数である。例えば、第1周波数(中継対象周波数)F1A/F1A',F1B/F1B'が2.1GHz帯の周波数であり、第2周波数(中間周波数)F2A/F2A'、F2B/F2B'、F2/F2'が3.3GHz帯の周波数であってもよい。
【0026】
図3(a)は、比較例に係る無線中継システムの課題の説明図であり、
図3(b)は、本実施形態の無線中継システムの効果の説明図である。
図3(a)に示す比較例に係る無線中継システムでは、自動車50に第1無線中継局10が搭載され、遭難者のユーザ装置(移動局)との通信を確保するため、遭難現場付近に自動車50を移動させて第1無線中継局(親機)10が設置されるのが一般的であるが、遭難現場は山岳や山林などになる場合が多い。このような山岳や山林などにおいては、各通信オペレータA,Bの固定基地局が少なく、また、山岳や山林などで無線中継システムを運用する場合、その山岳や山林などの障害物Sにより固定基地局30A,30Bと第1無線中継局(親機)10との間が見通外となりやすい。その結果、遭難現場付近で固定基地局30A,30Bの通信圏内エリアとなる親機10の設置場所を探すのが難しい。特に複数の通信オペレータA,Bの電波を同時に中継する場合、親機10を設置する場所は、中継する通信オペレータA,Bのすべての通信圏内エリアである必要があるが、山岳や山林などにおいては、固定基地局の設置場所がばらばらであり、中継する通信オペレータA,Bのすべての通信圏内エリアとなる場所が少なく、親機10の設置場所を探すのがますます難しくなる。更に、自動車50が進入可能な場所が、遭難現場から離れた場所であることも多い。その結果、遭難現場に付近に第1無線中継局(親機)10を設置するのが困難なことが多い。そのため、親機10の設置個所は遭難現場付近から遠く離れた場所になることが多く、親機10と遭難現場と推定される本当の捜索現場を含む目標エリアとの距離が長くなる。また、障害物Sで親機10と子機20との間も見通し外となり、親機10と子機20との中継距離も延ばせない。その結果、遭難現場と推定される本当の捜索現場を含む目標エリアに通信圏内エリアを構築することができないおそれがある。
【0027】
これに対し、本実施形態の無線中継システムにおいては、第1無線中継局(親機)10をドローン60に搭載して上空に高く揚げ、そこで滞在(ホバリング)させるように飛行制御している。これにより、
図3(b)に示すように、山岳や山林などにおいて遭難現場付近に第1無線中継局(親機)10を設置する場合でも、山岳や山林などが中継の無線通信の障害物Sとならず、第1無線中継局(親機)10と各通信オペレータA,Bの固定基地局30A,30Bとの間が見通し内となるとともに、第1無線中継局(親機)10と第2無線中継局(子機)20との間も見通し内となる。従って、本実施形態によれば、遭難現場と推定される本当の捜索現場を含む目標エリアに、ユーザ装置と通信可能な通信圏内エリアを確実に構築することができる。
【0028】
更に、本実施形態によれば、山岳や山林などにおいて遭難現場付近に第1無線中継局(親機)10を設置する場合でも、第1無線中継局(親機)10と各通信オペレータA,Bの固定基地局30A,30Bとの間が見通し内となるので、第1無線中継局(親機)10と各固定基地局30A,30Bとの間の中継距離を大きく取ることができる。また、第1無線中継局(親機)10と第2無線中継局(子機)20との間が見通し内となるので、第1無線中継局(親機)10と第2無線中継局(子機)20との間の中継距離も大きく取ることができる。よって、自動車50が進入可能な場所が遭難現場から離れた場所であり、遭難現場付近に第1無線中継局(親機)10を設置できない場合でも、遭難現場と推定される本当の捜索現場を含む目標エリアに、ユーザ装置と通信可能な通信圏内エリアを確実に構築することができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、第1無線中継局(親機)10をドローン60に搭載して上空高く揚げることにより、第1無線中継局(親機)10を揚げる遭難現場付近において無線中継する複数の通信オペレータA,Bのすべての圏内エリアとする確率を大幅に改善することができるので、第1無線中継局(親機)10の設置場所の決定時間を大幅に削減できる。その結果、ドローン無線中継システムの運用時間の大幅な短縮を図ることができ、一刻を争う遭難者の位置特定に費やす時間の大幅に短縮することができる。
【0030】
更に、本実施形態によれば、ケーブル61を介して、自動車50に搭載したバッテリーや発電機から第1無線中継局(親機)10とドローン60のプロペラを駆動するモータ等の飛行駆動部60aとに電力を供給することにより、長時間にわたって第1無線中継局(親機)10を上空に滞在させることができ、ドローン無線中継システムの要である第1無線中継局(親機)10の長時間の運用が可能になる。
【0031】
図4は、実施形態に係る無線中継システムの第1無線中継局(親機)及び第2無線中継局(子機)の主要部構成の一例を示すブロック図である。
図4において、本実施形態に係る無線中継システムは、既存の携帯基地局(固定基地局)30A,30Bと通信できる位置で上空に滞在するドローン60に搭載する第1無線中継局(親機)10とドローン70に搭載する第2無線中継局(子機)20で構成される。無線中継方式としては、携帯基地局30A,30Bの電波を受信して、それを周波数変換して中継する「非再生・周波数変型リピート方式」を用いている。
【0032】
第1無線中継局(親機)10は、各通信オペレータA,Bの固定基地局向けの指向性の第1アンテナ(対基地局向けアンテナ)101A,101Bと、通信オペレータAに対応する第1親機機能部11Aと、通信オペレータBに対応する第2親機機能部11Bと、加算・分配部12と、無線中継局向けの第2アンテナ(対子機向けアンテナ)102とを備えている。第1親機機能部11A及び第2親機機能部11Bはそれぞれ、周波数数変換器、増幅器(AMP)等で構成される。
【0033】
第2無線中継局(子機)20は、無線中継局向けの第1アンテナ(対親機向けアンテナ)201と、通信オペレータAに対応する第1子機機能部21Aと、通信オペレータBに対応する第2子機機能部21Bと、加算・分配部22と、移動局向けの第2アンテナ202とを備えている。第1子機機能部21A及び第2子機機能部21Bはそれぞれ、周波数変換器、増幅器(AMP)等で構成される。
【0034】
なお、
図4中の加算・分配部12、22それぞれの代わりに切替スイッチを設け、親機10の第1親機機能部11A及び第2親機機能部11Bの切替と、子機20の第1子機機能部21A及び第2子機機能部21Bの切替とを同期して実行することにより、各通信オペレータA,Bが無線中継を時分割で利用するように構成してもよい。
【0035】
親機10は、例えば下りリンクにおいて、複数の通信オペレータA,Bの固定基地局向けの第1アンテナ101A,10Bで受信した周波数F1A,F1Bの無線信号を周波数変換器でF1とは異なる無線中継周波数(F2A,F2B)の周波数に変換し、第2アンテナ102から子機20に向けて送信する。
【0036】
子機20は、親機10から周波数(F2A,F2B)で送信された電波を第1アンテナ201で受信し、周波数変換器で(F1A,F1B)に周波数変換し、移動局40A,40Bに向けて第2アンテナ202から出力する。通信オペレータAの移動局40AはF1A、通信オペレータBの移動局40BはF1Bの周波数で受信する。
【0037】
親機10及び子機20それぞれにおいて周波数変換することより、親機10の第1アンテナ101A,101Bと第2アンテナ102との間、子機20のアンテナ201,202間の同一周波数の回り込み干渉がなくなることから、親機10、子機20の送信電力を最大送信電力で送信できるため、無線中継距離、無線中継エリアを大きくできる。
【0038】
また、本実施形態の無線中継システムは、各通信オペレータA,Bの移動通信網(固定ネットワーク)80A,80B上に、各自の親機10及び子機20の無線中継のON/OFFを制御する無線中継ON/OFF制御データを親機10及び子機20に送信し、親機10及び子機20それぞれの無線中継を遠隔でON/OFF制御する遠隔制御装置81A,81Bを備えている。
【0039】
また、本実施形態の無線中継システムでは、親機10と子機20にそれぞれ無線中継制御装置13,23と無線通信装置(携帯通信モジュール)14,24を備えている。各通信オペレータA,Bは、移動通信網(固定ネットワーク)80A,80B上にある遠隔制御装置81A,81Bから親機10と子機20にある無線通信装置14、24及び無線中継制御装置13,23を介して、各自の親機10又は子機20の無線通信をON/FF制御する。
【0040】
また、第1無線中継局(親機)10は、自動車50に搭載したバッテリーや発電機からケーブル61を介して供給されたDC電圧を変圧するDC変圧器62を有している。DC変圧器62により変圧された電力が第1無線中継局(親機)10に供給される。また、第1無線中継局(親機)10を搭載したドローン60の飛行駆動部60aにDC変圧器62から電力が供給され、第1無線中継局(親機)10を自動車50の上空に滞在させるようにドローン60が飛行駆動される。このように、自動車50に搭載したバッテリーや発電機から第1無線中継局(親機)10及びドローン60の飛行駆動部60aに電力を供給することで、長時間にわたって第1無線中継局10を上空に滞在させることができる。
【0041】
また、第2無線中継局(子機)20は、バッテリー25を有しており、バッテリー25から第2無線中継局20及びドローン70の飛行駆動部70aに電力が供給される。
【0042】
図5は、実施形態に係る無線中継システムの第1無線中継局(親機)10及び第2無線中継局(子機)20の主要部構成の他の例を示すブロック図である。
図5に示す無線中継システムは、第1無線中継局(親機)10の固定基地局30A,30B向けの第1アンテナ101を、1本の水平面内無指向性アンテナとしたものである。第1アンテナ101を、1本の水平面内無指向性アンテナとすることで、通信オペレータA,B毎に指向性のアンテナを備えた
図4の構成に比べて、アンテナ構成を簡易化することができる。また、通信オペレータA,B毎に第1アンテナを備えた
図4の構成に比べて、第1無線中継局(親機)10の軽量化を図ることができる。また、無指向性アンテナを用いることで、低利得となるが、第1無線中継局(親機)10をドローン60などの飛行体により上空に上げて各固定基地局30A,30Bと見通し通信を行なうため、電波の電力損失がほとんどない。従って、低利得であっても各固定基地局30A,30Bとの間で良好に通信を行なうことができる。
【0043】
また、通信オペレータA,B毎に指向性の第1アンテナを備えた
図4の構成では、第1無線中継局の設置現場における各固定基地局30A,30Bの方角に基づいて、各第1アンテナの第一無線中継局10に対する姿勢を調整したり、各第1アンテナ101A,101Bが、対応する固定基地局30A,30Bに向くように、ドローン60の姿勢を精度よくコントロールしたりする必要がある。しかし、第1アンテナとして無指向性のアンテナを用いることで、アンテナの姿勢調整を不要になり、かつ、ドローン60の高精度の姿勢制御が不要になる。
【0044】
図6及び
図7はそれぞれ、実施形態に係る無線中継システムの第1無線中継局(親機)及び第2無線中継局(子機)の主要部構成の更に他の例を示すブロック図である。
図6は、指向性の第1アンテナ101A,101Bを、固定基地局30A,30Bに対応させて設けた第1無線中継局(親機)10を用いた例であり、
図7は、無指向性の第1アンテナを設けた第1無線中継局(親機)10を用いた例である。
【0045】
図6及び
図7に示す無線中継システムはそれぞれ、第1無線中継局(親機)10にバッテリー63を搭載し、バッテリー63に蓄電された電力により第1無線中継局10及び第1無線中継局10を搭載したドローン60を飛行駆動するように構成したものである。第1無線中継局(親機)10にバッテリー63を搭載することで、第1無線中継局(親機)10の運用時間が短縮されるが、自動車(無線中継車)などの車両が進入できないような現場の上空に、第1無線中継局10を滞在させることができ、より遭難現場付近に、第1無線中継局10を設置することが可能となる。
【0046】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに無線中継局、遠隔制御装置、遠隔操縦装置及び基地局における基地局装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0047】
ハードウェア実装については、実体(例えば、無線中継局、基地局装置、無線中継装置、ユーザ装置(移動局、通信端末)、遠隔制御装置、遠隔操縦装置、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0048】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0049】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であれよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0050】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0051】
10:第1無線中継局(親機)
11A:第1親機機能部(通信オペレータA)
11B:第2親機機能部(通信オペレータB)
12:加算・分配部
13:無線中継制御装置
14:無線通信装置
20:第2無線中継局(子機)
21A:第1子機機能部(通信オペレータA)
21B:第2子機機能部(通信オペレータB)
22:加算・分配部
23:無線中継制御装置
24:無線通信装置
25:バッテリー
30A,30B:固定基地局(携帯基地局)
31A,31B:アンテナ
40A,40B:移動局
50:自動車
60:飛行体(ドローン)
60a:飛行駆動部
61:ケーブル
62:DC変圧器
63:バッテリー
70:飛行体(ドローン)
70a:飛行駆動部
101,101A,101B:第1アンテナ(対基地局向けのアンテナ)
102:第2アンテナ(対子機向けのアンテナ)
200A,200B:セル
201:第1アンテナ(対親機向けのアンテナ)
202:第2アンテナ(対端末向けのアンテナ)