(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】叢根病に対する耐性遺伝子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/29 20060101AFI20220715BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20220715BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20220715BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20220715BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20220715BHJP
A01H 6/02 20180101ALI20220715BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
C12N15/29
C12N15/82 Z ZNA
C12N15/10 200Z
A01H5/00 A
A01H1/00 A
A01H6/02
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2019507231
(86)(22)【出願日】2017-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2017070334
(87)【国際公開番号】W WO2018029300
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-07-30
(32)【優先日】2016-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500240139
【氏名又は名称】カーヴェーエス ザート ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】KWS SAAT SE
【住所又は居所原語表記】Grimsehlstrasse 31, D-37574 Einbeck, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】オットー テルイェーク
(72)【発明者】
【氏名】ディートリヒ ボアヒャート
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング メヒェルケ
(72)【発明者】
【氏名】イェンス クリストフ ライン
(72)【発明者】
【氏名】ザンドラ ハーベコスト
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0152999(US,A1)
【文献】Database GenBank [online], Accession No.KMT15745.1, 2015-07-07 uploaded, [retrieved on 2021-04-23]
【文献】Jens Christoph Lein,Genome,2006年,50,61-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A01H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物において病原体に対する耐性を与えることができる該植物において発現されるポリペプチドをコードする核酸分子において、前記核酸分子は、
(a)参照アミノ酸配列の配列番号2によるアミノ酸配列を有するポリペプチド
をコードするヌクレオチド配列であるか、もしくは参照アミノ酸配列の配列番号2と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、
前記核酸によりコードされるポリペプチドがリゾマニアに対する耐性を提供し、該ヌクレオチド配列の1つ以上の突然変異に基づき少なくとも1つのアミノ酸交換が存在し、参照アミノ酸配列の配列番号2における位置307に相当する位置でリジン(K)が、
グルタミン(Q)により変換され、か
つ参照アミノ酸配列の配列番号2における位置437に相当する位置でグルタミン(Q)が
アルギニン(R)により交換されている、ヌクレオチド配列であるか、あるいは
(b)参照ヌクレオチド配列の配列番号1による配列を含む
ヌクレオチド配列であるか、もしくは参照ヌクレオチド配列の配列番号1と
少なくとも90%同一である配列を含むヌクレオチド配列であって、
該ヌクレオチド配列がリゾマニアに対する耐性を提供するポリペプチドをコードし、1つ以上の突然変異に基づき少なくとも1つのヌクレオチド交換が存在することで、アミノ酸交換がもたらされ、参照ヌクレオチド配列の配列番号1における位置
919に相当する位置
でAがCにより交換されている、およ
び参照ヌクレオチド配列の配列番号1における位置
1310に相当する位置で
AがGにより交換されている、ヌクレオチド配列
から選択されるヌクレオチド配列を含み、前記病原体は、ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)であり、かつ前記植物は、フダンソウ属の植物である、核酸分子。
【請求項2】
前記核酸分子よりコードされるポリペプチドは、さらに
(i)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置566に相当する位置にアルギニン(R)とは異なるアミノ酸を有し、
かつ
(ii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置731に相当する位置にグルタミン(Q)とは異なるアミノ酸を有し、
かつ
(iii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置831に相当する位置にプロリン(P)とは異なるアミノ酸を有する
ことを特徴とする、請求項1記載の核酸分子。
【請求項3】
前記核酸分子よりコードされるポリペプチドは、
(i)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置307に相当する位置にグルタミン(Q)を有し、
かつ
(ii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置437に相当する位置にアルギニン(R)を有し、
かつ
(iii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置566に相当する位置にヒスチジン(H)を有し、
かつ
(iv)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置731に相当する位置にリジン(K)を有し、
かつ
(v)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置831に相当する位置にセリン(S)を有する
ことを特徴とする、請求項1または2記載の核酸分子。
【請求項4】
前記核酸分子は、参照ヌクレオチド配列の配列番号1における位置に相当する位置に、以下のヌクレオチド置換:
(a)位置919でAに代えてC、
(b)位置1310でAに代えてG、
(c)位置1697でGに代えてA、
(d)位置2191でCに代えてA、
および
(e)位置2491でCに代えてT
の1つ以上を有することを特徴とする、請求項3記載の核酸分子。
【請求項5】
前記核酸分子は、配列番号4によるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし、かつ/または配列番号3によるコーディングDNA配列を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の核酸分子。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか1項記載の核酸分子を、異種プロモーターの制御下に導入遺伝子として含むか、または請求項6記載のベクターを含む、遺伝子導入植物細胞。
【請求項8】
請求項7記載の植物細胞を含む、遺伝子導入植物、またはその一部分。
【請求項9】
請求項1から5までのいずれか1項記載の核酸分子が内因的に存在するBNYVV耐性のフダンソウ属の植物またはその一部分であって、該植物が、ベータ・ブルガリス亜種ブルガリス変種ブルガリス(フダンソウ)、ベータ・ブルガリス亜種ブルガリス変種コンディティヴァ(赤ビート/ビート)、ベータ・ブルガリス亜種ブルガリス変種クラッサ/アルバ(マンゲルワーゼル)に属する、BNYVV耐性のフダンソウ属の植物またはその一部分。
【請求項10】
請求項1から4までのいずれか1項に定義される1つ以上の突然変異が、配列番号1による配列を含むもしくは配列番号1と相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する内因性核酸分子中に導入されている、亜種のベータ・ブルガリス亜種マリチマには属しないBNYVV耐性のフダンソウ属の植物またはその一部分。
【請求項11】
前記植物は、ハイブリッド植物または倍加半数体植物であり、かつ/または前記核酸分子もしくは前記複数の突然変異の1つは、ヘテロ接合体またはホモ接合体であることを特徴とする、請求項8から10までのいずれか1項記載の植物。
【請求項12】
上述の核酸分子またはベクターの1つ以上を導入遺伝子としてまたは内因的に含む、請求項8から11までのいずれか1項記載の植物の種子。
【請求項13】
以下の工程:
(a)植物細胞を突然変異誘発させるのに続き該突然変異誘発された植物細胞から植物を再生させる工程、または植物を突然変異誘発させる工程と、
(b)参照ヌクレオチド配列の配列番号1による配列を含むもしくは参照ヌクレオチド配列の配列番号1と相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する内因性核酸分子中に請求項1に定義される1つ以上の突然変異を有する工程(a)からの植物を特定する工程と、
を含む、BNYVV耐性の植物の製造方法。
【請求項14】
病原体BNYVVに対して耐性であるフダンソウ属の植物の特定方法であって、以下の工程
(i)植物またはその試料において請求項1から5までのいずれか1項記載の核酸分子の存在および/もしくは発現を検出する工程、ならびに/または
(ii)植物において病原体に対する耐性を与えることができる該植物において発現されるポリペプチドをコードする核酸分子の存在および/もしくは発現を検出する工程、
ここで、核酸分子が、配列番号4のアミノ酸位置558~594によるアミノ酸配列を有するロイシンリッチドメイン(LRR)、および配列番号4のアミノ酸位置177~289もしくは配列番号4のアミノ酸位置156~263によるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのAAA ATPアーゼドメインを含むヌクレオチド配列を含み、ならびに/または
(iii)請求項1から5までのいずれか1項記載の核酸分子のヌクレオチド配列中、もしくはその直ぐ近くに、少なくとも1つのマーカー座を検出する工程、
ここで、前記少なくとも1つのマーカー座は、請求項1に定義される1つ以上の突然変異を含み、ならびに/または
(iv)前記植物における第3染色体上において少なくとも2つのマーカー座を検出する工程、
ここで、少なくとも1つのマーカー座は、s3e4516s05(配列番号5)から請求項1から5までのいずれか1項記載の核酸分子までの染色体区間上もしくは該染色体区間内に局在化されており、かつ少なくとも1つのマーカー座は、請求項1から4までのいずれか1項記載の核酸分子からs3e5918s01(配列番号6)までの染色体区間上もしくは該染色体区間内に局在化されており、任意選択で
(v)BNYVV耐性の植物を選抜する工程、
を含む、方法。
【請求項15】
請求項9から11までのいずれか1項記載の植物、または請求項14記載の方法により特定され、任意選択で選抜された植物を含む植物の群集。
【請求項16】
フダンソウ属の植物の農業的または園芸的な栽培における病原体のビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)による感染の防除のための方法であって、
I)前記フダンソウ属の植物を請求項14記載の方法により特定および選抜することと、
II)I)からの植物またはその子孫を栽培することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物、特にフダンソウ属の植物において病原体、特に「ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス」(BNYVV)に対する耐性を与えることができる該植物において発現されるポリペプチドをコードする核酸分子、および本発明による核酸分子によりコードされるポリペプチドに関する。本発明はさらに、前記核酸分子もしくはその部分を含む遺伝子導入植物、植物細胞、植物器官、植物組織、植物部分、もしくは植物の種子、および内因性核酸分子において1つ以上の突然変異を導入することにより前記耐性が惹起されるBNYVV耐性の植物もしくはその部分に関する。そのような遺伝子導入植物または植物細胞およびBNYVV耐性の非遺伝子導入植物の製造方法も同様に本発明に含まれる。さらに本発明はまた、BNYVV耐性の植物の特定および選抜のためのマーカーベースの方法、ならびに病原体BNYVVによる感染の防除のための方法に関する。
【0002】
発明の背景
叢根病(リゾマニア)は、世界中に広がる経済的に最も重大なテンサイの病気であり、それにより50%以上の収穫高損失が引き起こされることがある。「叢根病」とも呼ばれるその病気は、「ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス」(BNYVV)により引き起こされ、土壌原生動物のポリミクサ・ベタエ(Polymyxa betae)により媒介される。BNYVV感染は、細根および側根の増殖の増加、そして糖含量が低下した大幅に小さくなった根の本体の形成で現れる。感染した植物は、吸水力の低下を示すため、より乾燥ストレスを受けやすい。植物全体に感染が広がると、葉脈の黄化、壊死性の病変、および葉上の黄斑が引き起こされる。その病気の根治的撲滅は他のウイルス性の病気の場合のように可能ではないため、耐性品種の栽培によってのみ損害を食い止めることができるにすぎない。したがってリゾマニアに対する遺伝的耐性を有する遺伝子型の開発は、テンサイの品種改良のためには決定的に重要である。
【0003】
商業的な生殖質においてリゾマニア耐性についての満足のいく遺伝的変異性が存在することが明らかになったので、リゾマニア耐性のための初めての品種改良プログラムは、既に1981年にイタリアで始まっている。病状が和らいで、ほぼ正常な根の重量および糖含量を有する植物および遺伝子型が選抜された。この場合に「Alba型」という名の多重遺伝子性の耐性素因を、ベータ・ブルガリス(Beta vulgaris)L.亜種マリチマ(maritima)(L.)との交配から特定することに成功している。
【0004】
1982年に、リゾマニアに対する改善された保護を示すさらなる耐性型が開発された。これは、2年後にRizorという品種に現れ、単一遺伝子性の優性耐性として分類された。さらなる単一遺伝子性の優性耐性は、1983年に栽培会社「Holly Sugar Company」によるカリフォルニア州での品種試験において見つけ出され、それは既に3年後には欧州でも紹介された(Lewellen et al.1987)。このRZ-1としても知られる耐性(「Holly」とも呼ばれる)は、最も良く知られる起源に成長し、すぐにRizorと入れ替わった。数年後には、リゾマニア耐性のための新たな起源が、デンマークからベータ・マリチマ(Beta maritima)系統WB42において見出された。その起源は、RZ-1と異なる第3染色体上のマッピング位置を示し、さらにRZ-1と比べて高められた耐性レベルを成立させた。この新たな主働遺伝子は、RZ-2と呼ばれた。そうしている間にも、さらにベータ・マリチマ系統WB41から、おそらくRZ-2のアレル変異体であるRZ-3が知られている。
【0005】
今日までに、RZ-3は、その機能的背景、すなわち遺伝子構造が解明された唯一のリゾマニア耐性遺伝子であり(ドイツ国特許出願の独国特許出願公開第102013010026号明細書(DE102013010026A2)を参照)、それにより該遺伝子の品種改良的利用を明らかに改善することができた。したがって、分子マーカーの開発を押し進めるために、既に知られている耐性起源だけでなく新たな耐性起源も遺伝的により良く記載することが引き続き望まれている。したがって、テンサイ優良系統は、「リンケージドラッグ」の排除によりさらに最適化される可能性があり、新たな耐性起源が特定される可能性もある。
【0006】
耐性破壊性のBNYVV分離株の危険に立ち向かうべき、叢根病に対する持続的な品種改良のために、新たな耐性遺伝子を絶え間なく特定し、これらの遺伝子をテンサイ等の培養植物の遺伝子プールに組み込むことが必要である。この課題は、本発明によれば、特許請求の範囲および詳細な説明に示される実施形態によって解決される。
【0007】
発明の概要
本発明は、植物、特にフダンソウ属の植物において病原体、特に「ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)」に対する耐性を与えることができる該植物において発現されるポリペプチドをコードする核酸分子に関する。本発明はさらに、前記核酸分子もしくはその部分を含む植物、特に遺伝子導入植物、植物細胞、植物器官、植物組織、植物部分、または植物の種子、および内因性核酸分子において1つ以上の突然変異を導入することにより前記耐性が与えられるBNYVV耐性植物もしくはその部分に関する。そのような遺伝子導入植物または植物細胞およびBNYVV耐性の非遺伝子導入植物の製造方法も同様に本発明に含まれる。さらに本発明はまた、BNYVV耐性の植物の特定および選抜のためのマーカーベースの方法、ならびに病原体BNYVVによる感染の防除のための方法を含む。
【0008】
したがって、本発明は、以下の項目[1]~[22]に挙げられ、実施例および図面で説明されている実施形態に関する。
【0009】
[1]植物において病原体に対する耐性を与えることができる該植物において発現されるポリペプチドをコードする核酸分子において、前記核酸分子は、
(a)配列番号2によるアミノ酸配列を有するポリペプチド、もしくは配列番号2と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、該ヌクレオチド配列の1つ以上の突然変異に基づき少なくとも1つのアミノ酸交換、好ましくは位置307のリジン(K)および/もしくは位置437のグルタミン(Q)でのアミノ酸交換が存在するヌクレオチド配列、
(b)配列番号1による配列を含むか、もしくは配列番号1と相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、1つ以上の突然変異に基づき、アミノ酸交換、好ましくは位置919~921および/もしくは1309~1311でのアミノ酸交換をもたらす少なくとも1つのヌクレオチド交換が存在するヌクレオチド配列、
(c)(a)もしくは(b)によるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、および/もしくは付加により、(a)もしくは(b)によるヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドから誘導されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、または
(d)ヌクレオチド配列であって、
(i)配列番号4のアミノ酸位置558~594、有利には配列番号4のアミノ酸位置542~594、
(ii)配列番号4のアミノ酸位置604~634、有利には配列番号4のアミノ酸位置582~634、
(iii)配列番号4のアミノ酸位置760~790、
(iv)配列番号4のアミノ酸位置838~869、
に相当する少なくとも1つのロイシンリッチドメイン(LRR)、および/もしくは
(I)配列番号4のアミノ酸位置177~289、
(II)配列番号4のアミノ酸位置156~263、
に相当する少なくとも1つのAAA ATPアーゼドメイン
をコードするヌクレオチド配列、
から選択されるヌクレオチド配列を含み、好ましくは前記病原体は、ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)であり、かつ前記植物は、フダンソウ属の植物、好ましくはテンサイ(ベータ・ブルガリス(Beta vulgaris)L.)であることを特徴とする、核酸分子。
【0010】
[2]前記コードされるポリペプチドは、代替的にまたは付加的に(i)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置566に相当する位置にアルギニン(R)とは異なるアミノ酸を有し、かつ/または(ii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置731に相当する位置にグルタミン(Q)とは異なるアミノ酸を有し、かつ/または(iii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置831に相当する位置にプロリン(P)とは異なるアミノ酸を有することを特徴とする、項目[1]記載の核酸分子。
【0011】
[3]前記コードされるポリペプチドは、(i)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置307に相当する位置にグルタミン(Q)を有し、かつ/または(ii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置437に相当する位置にアルギニン(R)を有し、かつ/または(iii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置566に相当する位置にヒスチジン(H)を有し、かつ/または(iv)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置731に相当する位置にリジン(K)を有し、かつ/または(v)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置831に相当する位置にセリン(S)を有することを特徴とする、項目[1]または[2]記載の核酸分子。
【0012】
[4]前記核酸分子は、参照ヌクレオチド配列の配列番号1における位置に相当する位置に、以下のヌクレオチド置換:
(a)位置919でAに代えてC、
(b)位置1310でAに代えてG、
(c)位置1697でGに代えてA、
(d)位置2191でCに代えてA、および/または
(e)位置2491でCに代えてT
の1つ以上を有することを特徴とする、項目[3]記載の核酸分子。
【0013】
[5]前記核酸分子は、配列番号4によるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし、かつ/または配列番号3によるコーディングDNA配列を含むことを特徴とする、項目[1]から[4]までに記載の核酸分子。
【0014】
[6]項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子を含むベクター。
【0015】
[7]項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子、または項目[6]記載のベクターを含む、宿主細胞。
【0016】
[8]項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子によりコードされるポリペプチド、または該ポリペプチドに対する抗体。
【0017】
[9]項目[1]から[5]までのいずれか1つに記載の核酸分子を、任意に異種プロモーターの制御下に導入遺伝子として含むか、または項目[6]記載のベクターを含む、遺伝子導入植物細胞、好ましくはフダンソウ属の植物の遺伝子導入植物細胞。
【0018】
[10]項目[9]記載の植物細胞を含む、遺伝子導入植物、好ましくはフダンソウ属の遺伝子導入植物、またはその一部分。
【0019】
[11]項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子が内因的に存在するか、または項目[1]から[4]までのいずれかに定義される1つ以上の突然変異が、配列番号1による配列を含むもしくは配列番号1と相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する内因性核酸分子中に導入されている、亜種のベータ・ブルガリス亜種マリチマには属しないBNYVV耐性のフダンソウ属の植物またはその一部分。
【0020】
[12]前記植物が、ハイブリッド植物または倍加半数体植物であることを特徴とする、項目[10]または[11]記載の植物。
【0021】
[13]前記核酸分子または前記複数の突然変異の1つは、ヘテロ接合体またはホモ接合体で存在することを特徴とする、項目[10]から[12]までの1つに記載の植物。
【0022】
[14]付加的に導入遺伝子としてまたは内因的に第2の核酸分子を、前記植物においてBNYVVに対する耐性を与えることができる該植物において前記第2の核酸分子の転写により発現されるポリペプチドをコードするゲノム中に、好ましくは該ゲノム中の別のまたはさらなる位置に含む、項目[10]から[13]までの1つに記載の植物。
【0023】
[15]上述の核酸分子またはベクター1つ以上を導入遺伝子としてまたは内因的に含む、項目[10]から[14]までの1つに記載の植物の種子。
【0024】
[16]遺伝子導入植物細胞および/または遺伝子導入植物の製造方法であって、項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子または項目[6]記載のベクターを前記植物細胞に導入する工程を含み、任意選択で前記遺伝子導入植物を前記遺伝子導入植物細胞から再生する工程を含むことを特徴とする、方法。
【0025】
[17]以下の工程:
(a)植物細胞を突然変異誘発させるのに続き該突然変異誘発された植物細胞から植物を再生させる工程、または植物を突然変異誘発させる工程と、任意に
(b)内因性核酸分子中に項目[1]から[5]までのいずれかに定義される1つ以上の突然変異を有する工程(a)からの植物を特定する工程と、
を含む、BNYVV耐性の植物の製造方法。
【0026】
[18]病原体BNYVVに対して耐性であるフダンソウ属の植物の特定方法であって、以下の工程
(i)植物またはその試料において項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子の存在および/もしくは発現を検出する工程、ならびに/または
(ii)項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子のヌクレオチド配列中、もしくは直ぐ近くに、好ましくは第3染色体上において少なくとも1つのマーカー座を検出する工程、ならびに/または
(iii)前記植物における第3染色体上において少なくとも2つのマーカー座を検出する工程、
ここで、少なくとも1つのマーカー座は、s3e4516s05(配列番号5)から項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子までの染色体区間上または該染色体区間内に局在化されており、かつ少なくとも1つのマーカー座は、項目[1]から[5]までの1つに記載の核酸分子からs3e5918s01(配列番号6)までの染色体区間上または該染色体区間内に局在化されており、任意選択で
(iv)BNYVV耐性の植物を選抜する工程、
を含むことを特徴とする、方法。
【0027】
[19]前記少なくとも1つのマーカー座は、項目[1]から[5]までのいずれかに定義される1つ以上の突然変異を含むことを特徴とする、項目[18]記載の方法。
【0028】
[20]項目[18]または[19]記載の方法により特定され、任意選択で選抜された植物またはその一部分。
【0029】
[21]項目[11]から[13]または[20]の1つに記載の植物を含む植物の群集。
【0030】
[22]フダンソウ属の植物の農業的または園芸的な栽培における病原体のビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)による感染の防除のための方法であって、I)前記フダンソウ属の植物を項目[18]または[19]記載の方法により特定および選抜すること、およびII)I)からの植物またはその子孫を栽培することを含む、方法。
【0031】
[23]食品、作用物質、医薬品またはその前駆物質、診断薬、化粧品、ファインケミカル、糖、シロップ、バイオエタノール、またはバイオガスの製造における、項目[9]記載の植物細胞、項目[10]から[14]または[20]の1つに記載の植物もしくはその器官、植物部分、組織もしくは細胞、項目[15]記載の種子、または項目[16]もしくは[17]記載の方法により得られるまたは項目[18]もしくは[19]記載の方法により選抜される植物、またはその器官、植物部分、組織、細胞、子孫、もしくは種子の使用。
【0032】
まずは、本出願で使用される概念の幾つかを以下でより詳細に説明する。
【0033】
ヌクレオチド配列の長さの表記に関する「約」という概念は、±10000塩基対、±5000塩基対、または±1000塩基対、有利には±200塩基対または±100塩基対、特に有利には±50塩基対だけの差を意味する。
【0034】
「フダンソウ属の植物」は、アマランサス草木の科(ヒユ科)に属する。この植物には、ベータ・マクロカルパ(Beta macrocarpa)、ベータ・ブルガリス(Beta vulgaris)、ベータ・ロマトゴナ(Beta lomatogona)、ベータ・マクロリザ(Beta macrorhiza)、ベータ・コロリフローラ(Beta corolliflora)、ベータ・トリジナ(Beta trigyna)およびベータ・ナナ(Beta nana)の種の植物が属する。ベータ・ブルガリスの種の植物は、特に亜種の植物ベータ・ブルガリス亜種ブルガリスである。これには、例えばベータ・ブルガリス亜種ブルガリス変種アルティッシマ(altissima)(テンサイ、すなわちS.)、ベータ・ブルガリス亜種ブルガリス変種ブルガリス(フダンソウ)、ベータ・ブルガリス亜種ブルガリス変種コンディティヴァ(conditiva)(赤ビート/ビート)、ベータ・ブルガリス亜種ブルガリス変種クラッサ/アルバ(crassa/alba)(マンゲルワーゼル)が属する。
【0035】
「ハイブリダイズする」または「ハイブリダイゼーション」とは、一本鎖核酸分子が十分に相補的な核酸鎖に結合する、すなわちこの核酸鎖と塩基対を形成する過程を表す。ハイブリダイゼーションのための標準的方法は、例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd Ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,2001に記載されている。好ましくは、それは、核酸分子の塩基の少なくとも60%、さらに有利には少なくとも65%、70%、75%、80%または85%、特に有利には90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%が、十分に相補的な核酸鎖と塩基対を形成することを表す。そのような結合の可能性は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存する。「ストリンジェンシー」という概念は、ハイブリダイゼーション条件に関連する。高いストリンジェンシーは、塩基対形成が困難である場合に与えられ、低いストリンジェンシーは、塩基対形成が容易である場合に与えられる。ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーは、例えば塩濃度またはイオン濃度および温度に依存する。一般的に、前記ストリンジェンシーは、温度の増加、および/または塩濃度の低下により高めることができる。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、ハイブリダイゼーションが相同の核酸分子間でのみ十分に行われるような条件と解釈されるべきである。この場合に「ハイブリダイゼーション条件」という概念は、核酸の本来の結合に際して存在する条件だけでなく、引き続きの洗浄工程に際して存在する条件にも関連する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、例えば、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有するような核酸分子だけを十分にハイブリダイズさせる条件である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、例えば、65℃で4×SSC中でのハイブリダイゼーションと、引き続いての65℃での0.1×SSC中での全体で約1時間にわたる複数回の洗浄である。本明細書で使用される概念「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、68℃で0.25Mのリン酸ナトリウム(pH7.2)、7%のSDS、1mMのEDTAおよび1%のBSA中での16時間にわたるハイブリダイゼーションと、引き続いての2×SSCおよび0.1%のSDSでの68℃での2回の洗浄を意味することもある。有利には、ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下で行われる。
【0036】
「相補的な」ヌクレオチド配列は、二本鎖DNAの形の核酸に関連して、第1のDNA鎖に対して相補的な第2のDNA鎖が、塩基対形成規則に相応して、前記第1の鎖の塩基に相応するヌクレオチドを有することを意味する。
【0037】
「単離された核酸分子」とは、その天然のまたは本来の環境から引き離された核酸分子を表す。その概念はまた、合成により製造された核酸分子も含む。「単離されたポリペプチド」とは、その天然のまたは本来の環境から引き離されたポリペプチドと解釈される。その概念はまた、合成により製造されたポリペプチドも含む。
【0038】
「分子マーカー」は、植物群集において多型性であり、基準点または目印として使用される核酸である。組み換え事象を認識するためのマーカーは、植物群集内の相違または多型性を観察するために適しているはずである。したがって、そのようなマーカーは、種々の対立状態(アレル)を検出し、識別することができる。「分子マーカー」という概念は、ゲノム配列に対して相補性、または少なくとも十分に相補性、または相同であるヌクレオチド配列、例えばプローブまたはプライマーとして使用される核酸にも関連する。マーカーに関しては、これらの相違はDNAレベルで見られ、例えばポリヌクレオチド配列の相違、例えばSSR(単純反復配列)、RFLP(制限酵素断片長多型)、FLP(断片長多型)、またはSNP(一塩基多型)である。該マーカーは、ゲノム核酸または発現された核酸、例えばスプライシングされたRNA、cDNAまたはESTに由来するものであってよく、プローブまたはプライマー対として使用され、そのままで配列断片をPCRベースの方法を使用して増幅させるために適した核酸にも関連し得る。遺伝子多型(群集の部分間での)を表すマーカーは、先行技術からの十分に確立された方法を使用して検出され得る(An Introduction to Genetic Analysis.7th Edition,Griffiths,Miller,Suzuki et al.,2000)。これには、例えばDNAシーケンシング、PCRベースの配列特異的増幅、RFLPの検出、アレル特異的ハイブリダイゼーション(ASH)を用いた多塩基多型の検出、植物ゲノムの増幅された可変配列の検出、3SRの検出(自家持続配列複製法)、SSR、SNP、RFLPまたはAFLP(増幅断片長多型)の検出が属する。さらに、EST(発現配列タグ)およびEST配列に由来するSSRマーカーおよびRAPD(ランダム増幅多型DNA)の検出のための方法も知られている。文脈に応じて、本明細書におけるマーカーという概念は、特異的マーカー(例えば、SNP)が見られ得る種のゲノム中の特異的染色体位置も指し得る。
【0039】
「プロモーター」は、RNAポリメラーゼのための結合箇所を含み、DNAの転写を開始する、一般的にコーディング領域の上流にある非翻訳調節DNA配列である。プロモーターはさらに、遺伝子発現の調節遺伝子として機能する別のエレメント(例えば、シス調節エレメント)を含む。「コアプロモーターまたは最小プロモーター」は、少なくとも、転写開始のために必要とされる基礎エレメント(例えば、TATAボックスおよび/またはイニシエーター)を有するプロモーターである。
【0040】
「病原体」とは、植物との相互作用において植物における1つ以上の器官に病状をもたらす生物を指す。これらの病原体には、例えば動物型、菌類型、細菌型、もしくはウイルス型の生物または卵菌類が含まれる。
【0041】
「病原体感染」とは、病原体が植物の宿主組織と相互作用する最も早い時点を表す。例えば、ウイルス性病原体のBNYVVの場合に、これは、原生動物のポリミクサ・ベタエ(Polymyxa betae)により媒介される。ポリミクサは、土壌中で何十年にもわたり生き長らえ得る胞子を形成する。この胞子内でウイルスも生き長らえる。これらの休眠胞子が移動性の遊走子に発芽するときに、該ウイルスは、該遊走子を介して植物の宿主組織の細胞へと至り、そこで宿主と相互作用し得る(Esser(2000)Kryptogamen 1:Cyanobakterien Algen Pilze Flechten Praktikum und Lehrbuch.Springer出版社、ベルリン、ハイデルベルク、第3版)。
【0042】
植物の「器官」とは、例えば葉、茎、幹、根、胚軸、枝芽、分裂組織、胚、葯、胚珠、穀粒種子、または果実を指す。「植物の部分」または「植物部分」は、限定されるものではないが、茎または葉柄、葉、花、花序、根、果実、および種子、ならびに花粉を含む。「植物の部分」または「植物部分」という概念はさらに、複数の器官の組み合わせ物、例えば花もしくは種子、または器官の一部分、例えば茎の断面を指す。植物の「組織」は、例えばカルス組織、貯蔵組織、メリステム組織、葉組織、新芽組織、根組織、植物腫瘍組織、または生殖組織、ならびに分裂組織、基本組織(いわゆる、柔組織)、維管束組織、強化組織、および表層組織(いわゆる、表皮)である。しかしながら、前記組織はこれらの列挙により限定されない。植物「細胞」とは、例えば細胞壁を有する単離された細胞もしくはその集合体、または原形質体を表す。
【0043】
本発明との関連において、「調節配列」という概念は、例えば該調節配列が所定の組織特異性を与えることにより特異性および/または発現強さに影響するヌクレオチド配列に該当する。そのような調節配列は、最小プロモーターの転写開始点の上流であるが、その下流でも、例えば転写されるが翻訳されないリーダー配列中、またはイントロン内に局在化されていてよい。
【0044】
「耐性」という概念は広い意味を有し、病気の発症の遅延から完全な阻止までの保護範囲に及ぶものである。重要な病原体のための一例は、ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)である。好ましくは、本発明の耐性の植物細胞または本発明の耐性の植物は、BNYVVに対する耐性を達成する。病原体に対する耐性は、この病原体が引き起こす病気に対する耐性と同一視され、例えばその耐性は、BNYVVに対する耐性であり、また叢根病(リゾマニア)に対する耐性でもある。
【0045】
「遺伝子導入植物」は、ゲノム中に少なくとも1つのポリヌクレオチドが組み込まれている植物に関連する。それは、異種ポリヌクレオチドであり得る。有利には、前記ポリヌクレオチドは安定的に組み込まれており、つまりは、組み込まれたポリヌクレオチドは該植物中で安定に留まり、発現され、また安定的に子孫に遺伝され得る。植物のゲノム中へのポリヌクレオチドの安定的な導入には、先立つ親世代の植物のゲノム中への組み込みも含まれ、その際、該ポリヌクレオチドは安定的にさらに遺伝され得る。「異種」という概念は、導入されたポリヌクレオチドが、例えば同じ種のもしくは異なる種の異なる遺伝的背景を有する細胞もしくは生物に由来するか、または原核性もしくは真核性の宿主細胞と同種であるが、その際、異なる遺伝的環境に位置しており、こうして天然に存在し得る相応のポリヌクレオチドとは異なることを意味する。異種ポリヌクレオチドは、相応の内因性遺伝子に加えて存在し得る。
【0046】
本発明の実施態様および実施形態を、添付の配列および図面に関して例示的に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】(A)NBS-LRR(NB-ARCドメイン遺伝子)としてファインマッピングにより特定されたss遺伝子型からの耐性遺伝子wb(配列番号1)の叢根病(WB)感受性アレルwb-sのゲノムDNA配列。4種の最も近い組み換え植物(該遺伝子周りの左側の2種の直接的な組換体および右側の2種の直接的な組換体)の後代分析により、前記NBS-LRR遺伝子は、1点の遺伝子にまで絞り込まれた。示された配列は、耐性タンパク質WB-sの予測されたタンパク質配列(B、配列番号2)のコーディング領域を含む。(C)予測されたタンパク質配列のコーディング領域を含む耐性遺伝子wbのWB耐性アレルwb-RのゲノムDNA配列(配列番号3)。アミノ酸交換をもたらす診断多型には下線が引かれており、太字で強調されている。(D)耐性遺伝子wbのWB耐性アレルwb-RのゲノムDNA配列(配列番号3)によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列。診断多型には下線が引かれており、太字で強調されている。本発明の範囲内での実験、とりわけWB耐性の遺伝子型と優勢の感受性遺伝子型との配列分析およびゲノムデータベース中に含まれるアミノ酸配列により、WB耐性のwb-RアレルのゲノムDNA配列において、配列番号3に示される読み枠を有する相関しているNBS-LRR遺伝子が1つ以上のアミノ酸交換を有するため、観察される耐性はこの遺伝子中の突然変異に起因するものであることが分かる。組換体の上記の分析に基づき、特に2つのアミノ酸交換K307Qおよび/またはQ437Rの一方は、前記耐性についての原因とみなすことができる。
【0048】
発明の詳細な説明
本発明は、植物、特にフダンソウ属において病原体、特に「ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)」に対する耐性を与えることができる該植物において発現されるポリペプチドをコードする核酸分子に関する。本発明は、供与体のベータ・ブルガリス亜種マリチマに由来する遺伝子の遺伝的ファインマッピング、特定、単離、および特性調査に基づき、植物、特にテンサイにおけるその遺伝子の存在は、当該植物の叢根病(WB)に対する耐性と相関し、またはその原因となり、かつそのヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列は、
図1Aおよび
図1Bに示される本発明により特定されたNBS-LRR遺伝子のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列に対する少なくとも1つのヌクレオチド交換またはアミノ酸交換を特徴とし、その際、好ましくは該ヌクレオチド交換またはアミノ酸交換は、
図1Aおよび
図1Bに示される全体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列に対して50%以下、有利には60%以下、より有利には70%以下、さらにより有利には80%以下、さらになおもより有利には90%以下、特に有利には95%以下を成す。本発明による核酸分子のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の特に有利な実施形態は、
図1Cおよび
図1Dに示されており、実施例ならびに図面の説明に記載されている。
【0049】
前記核酸分子は、単離された核酸分子であり得る。それは、有利にはDNAであり、特に有利にはcDNAまたはコーディングDNAである。好ましくは、本発明による核酸分子によってコードされるポリペプチドは、植物の病気の叢根病(リゾマニア)を引き起こし、土壌原生動物のポリミクサ・ベタエ(Polymyxa betae)により媒介されるウイルス性病原体の「ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)」に対する耐性を与える。さらに、本発明による核酸分子によりコードされるポリペプチドは、特にフダンソウ属の植物において前記病原体に対する耐性を与える。有利には、前記植物は、ベータ・ブルガリスの種の植物、特に有利には亜種のベータ・ブルガリス亜種ブルガリスの植物であり、これには、例えば栽培品種のテンサイ、赤ビート、マンゲルワーゼル、葉フダンソウ(Blattmangold)、および茎フダンソウ(Stielmangold)が属する。
【0050】
本発明の実施形態においては、本発明による核酸分子は、配列番号2によるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、その際、前記核酸分子は、1つ以上の突然変異を有し、その結果、該核酸分子によりコードされるポリペプチドは、参照アミノ酸配列の配列番号2における位置307に相当する位置にリジン(K)とは異なるアミノ酸を有し、かつ/または参照アミノ酸配列の配列番号2における位置437に相当する位置にグルタミン(Q)とは異なるアミノ酸を有する。前記アミノ酸配列における2つの上述の突然変異の一方または両方の上述の突然変異は、リゾマニアに対する耐性のための憶測的原因として特定されている。
【0051】
実施例および図面の説明で説明されるように、本発明により特定される遺伝子は、所定の構造モチーフを特徴とするNBS-LRR型の耐性遺伝子/タンパク質である。植物中のそのような耐性タンパク質の一般的構造は、既に十分に調査されている(Martin et al.,Annual Review Plant Biology 54(2003),23-61)。しかしながら、特に、大部分が未知の病原性エフェクターのための潜在的認識ドメインとみなされる、いわゆるLRR-ドメインの構造的実施態様の原理は予測できず、一般的に耐性遺伝子の機能的背景、すなわち遺伝子構造は、ほとんど未知である。したがって、BNYVV耐性を与える遺伝子またはタンパク質の特定は、既知の構造モチーフを基礎とするだけでは不可能である。さらに、しばしば前記耐性遺伝子の周りの配列領域は反復的であり、これは、診断マーカーの開発および配列のアセンブリングを特に困難なものにする。
【0052】
前記特定された耐性タンパク質は、NBS-LRR型に属し、配列番号4のアミノ酸位置558~594、有利には配列番号4のアミノ酸位置542~594、配列番号4のアミノ酸位置604~634、有利には配列番号4のアミノ酸位置582~634、配列番号4のアミノ酸位置760~790、もしくは配列番号4のアミノ酸位置838~869に相当する少なくとも1つのロイシンリッチドメイン(LRR)、および/または配列番号4のアミノ酸位置177~289、もしくは配列番号4のアミノ酸位置156~263に相当する少なくとも1つのAAA ATPアーゼドメインを有する。特定されたATPアーゼドメインは、最も高い確率で、中心的なヌクレオチド結合機能を有するNB-ARCドメインである。特定の理論に縛られるべきではないが、この機能的ATPアーゼドメインは、おそらく、耐性タンパク質の活性を制御する。
【0053】
さらなる実施形態においては、本発明による核酸分子は、配列番号1のヌクレオチド配列を含み、その際、位置919~921および/または1309~1311で、1つ以上のヌクレオチドが交換されていることから、アミノ酸交換がもたらされる。
【0054】
これらのアミノ酸交換またはヌクレオチド交換は、先行技術において知られている従来の方法を使用して、例えば位置特異的突然変異誘発、PCR媒介突然変異誘発、トランスポゾン突然変異誘発、TILLING、ゲノムエンジニアリング、例えばメガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENS、およびCRISPR/Cas等により実施され得る。さらに、前記ヌクレオチド配列において、さらなる置換、欠失、挿入、付加、および/または別のどの改変も、単独または組み合わせのいずれかで付加的に導入されてよく、それらは、確かにヌクレオチド配列を改変するが、出発配列と同じ機能、つまり本明細書では叢根病(リゾマニア)に対する耐性を与える本発明によるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする本発明によるヌクレオチド配列と同じ機能を満たす。したがって、本発明は、さらなる実施形態においては、本発明によるヌクレオチド配列によってコードされるまたは本発明によるアミノ酸配列を含むポリペプチドの誘導体を表すポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。該ポリペプチドの誘導体は、1つ以上のアミノ酸の少なくとも1つの置換、欠失、挿入、または付加を有する誘導されたアミノ酸配列を表し、その際、コードされたポリペプチド/タンパク質の機能性は保たれている。
【0055】
同じまたは同等のまたは類似の化学的物理的特性を有する別のアミノ酸によるアミノ酸の置換は、「保存的交換」または「半保存的交換」と呼ばれる。アミノ酸の物理的化学的特性のための例は、例えば疎水性または電荷である。当業者には、どのアミノ酸置換が保存的交換または半保存的交換であるかは知られている。一般的な専門知識は、さらに、当業者が、どのアミノ酸欠失および付加が耐性タンパク質の機能性のために無害であり、どの位置でこれらが可能であるかを認識し、特定し、そして検証し得ることを可能にする。当業者は、本発明のNBS-LRRタンパク質の場合に、アミノ酸配列の修飾(1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加)のために、特に上記定義の保存されたドメインの機能性が保たれねばならず、したがってこのドメインにおいて限定的にのみ上述の修飾が可能であることを認識している。
【0056】
したがって、本発明は、本発明によるヌクレオチド配列の機能的断片を含む。この場合に、「断片」という概念は、上述のヌクレオチド配列と十分に類似したヌクレオチド配列を有する遺伝子を含む。「十分に類似した」という概念は、第1のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列が、第2のヌクレオチドまたは第2のアミノ酸配列に対して、十分な数または最小限の数の同一もしくは同等のヌクレオチドまたはアミノ酸残基を有することを意味する。
【0057】
アミノ酸配列に関しては、該アミノ酸配列は、上述の方法による改変後にも共通の構造ドメインを有し、かつ/または共通の機能的活性を有する。本発明によるヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の同一性を有するヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は、本明細書では十分に類似していると定義される。好ましくは、機能的断片の場合には、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列が、本発明の上述のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と一般的に同じ特性を有する場合に、十分に類似性が説明される。好ましくは、誘導体または誘導されたアミノ酸配列をコードするそのようなヌクレオチド配列は、直接的または間接的(例えば、増幅工程または複製工程を介して)のいずれかで、全長にわたりまたは少なくとも部分的に本発明によるヌクレオチド配列に相当する出発ヌクレオチド配列から生成され得る。
【0058】
相応して、本発明は、本発明によるヌクレオチド配列または本発明によるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列を含む。
【0059】
本発明のさらなる実施形態においては、本発明による核酸分子は、配列番号4のアミノ酸位置558~594、有利には配列番号4のアミノ酸位置542~594、配列番号4のアミノ酸位置604~634、有利には配列番号4のアミノ酸位置582~634、配列番号4のアミノ酸位置760~790、もしくは配列番号4のアミノ酸位置838~869に相当する少なくとも1つのロイシンリッチドメイン(LRR)、および/または配列番号4のアミノ酸位置177~289、もしくは配列番号4のアミノ酸位置156~263に相当する少なくとも1つのAAA ATPアーゼドメインをコードするヌクレオチド配列を含む。特に有利には、これらのドメインは、前記ポリペプチド中で連続的にN末端からC末端へとAAA ATPアーゼ-LRRの順序で存在し、その際、それらのドメイン間にそれぞれ1つ以上のさらなるアミノ酸が存在してもよい。
【0060】
さらなる実施形態においては、本発明による核酸分子は、配列番号2によるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、その際、前記核酸分子は、1つ以上の突然変異を有し、その結果、該核酸分子によりコードされるポリペプチドは、(i)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置307に相当する位置にリジン(K)とは異なるアミノ酸を有し、かつ/または参照アミノ酸配列の配列番号2における位置437に相当する位置にグルタミン(Q)とは異なるアミノ酸を有し、かつ参照アミノ酸配列の配列番号2における位置566に相当する位置にアルギニン(R)とは異なるアミノ酸を有し、かつ/または(ii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置731に相当する位置にグルタミン(Q)とは異なるアミノ酸を有し、かつ/または(iii)参照アミノ酸配列の配列番号2における位置831に相当する位置にプロリン(P)とは異なるアミノ酸を有する。第1の2つの交換は、上述のように耐性の原因となると特定された。耐性の付与における最後の3つの交換の役割はまだ明らかになっていないが、それらは診断的であるため、有利には検出法および/または選抜法において使用され得る。
【0061】
さらなる実施形態においては、本発明による核酸分子は、配列番号2によるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、その際、前記コードされるポリペプチドは、参照アミノ酸配列の配列番号2における位置307に相当する位置にグルタミン(Q)を有し、かつ/または参照アミノ酸配列の配列番号2における位置437に相当する位置にアルギニン(R)を有し、かつ/または参照アミノ酸配列の配列番号2における位置566に相当する位置にヒスチジン(H)を有し、かつ/または参照アミノ酸配列の配列番号2における位置731に相当する位置にリジン(K)を有し、かつ/または参照アミノ酸配列の配列番号2における位置831相当する位置にセリン(S)を有する。これらのアミノ酸交換は、有利には配列番号1の核酸分子における1つ以上のヌクレオチドの置換により実現し、その際、有利には1つのヌクレオチドが別の1つのヌクレオチドにより置換される。したがって、本発明による核酸分子は、該核酸分子が、参照ヌクレオチド配列の配列番号1における位置に相当する位置に、以下のヌクレオチド置換:位置919でAに代えてC、位置1310でAに代えてG、位置1697でGに代えてA、位置2191でCに代えてA、および/または位置2491でCに代えてTの1つ以上を有することを特徴とする。有利な実施形態においては、本発明による核酸分子は、該核酸分子が、配列番号4によるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし、かつ/または配列番号3によるコーディングDNA配列を含むことを特徴とする(
図1およびその図面の説明ならびに実施例も参照のこと)。
【0062】
さらに、本発明は、本発明による核酸分子の配列を含む組み換えDNA分子に関する。好ましくは、前記組み換えDNA分子はさらに、調節配列を有し、またはこの調節配列と、好ましくはプロモーター配列および/または転写制御エレメントもしくは翻訳制御エレメントの別の配列と連係的/作動的に連結されており、その際、本発明による核酸分子を含む遺伝子の発現を制御する調節配列は、該調節配列が、病原体感染による異種DNA配列の発現を媒介または調節することができることを特徴とする。好ましくは、前記異種DNA配列は、植物の病原体防御の成分をコードするヌクレオチド配列(例えば、耐性遺伝子(R遺伝子)またはシグナル伝達に関与するキナーゼもしくはホスファターゼ等の酵素およびGタンパク質をコードする遺伝子)または病原性エフェクターをコードするヌクレオチド配列(いわゆる、非病原性遺伝子(avr))である。
【0063】
本発明はさらに、本発明による核酸分子をコード可能であるポリペプチド、ならびに機能的断片および/またはその免疫学的活性断片ならびに該ポリペプチドもしくはその断片に特異的に結合する抗体に関する。特に有利には、前記ポリペプチドは、配列番号4によるアミノ酸配列を有する。タンパク質、ポリペプチド、および断片の組み換え的製造は、当業者に良く知られており、例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd Ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,2001、またはWingfield,P.T.2008.Production of Recombinant Proteins.Current Protocols in Protein Science.52:5.0:5.0.1-5.0.4に記載されている。本発明のタンパク質に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、当業者により公知の方法に従って、E.Harlow et al.,Herausgeber Antibodies:A Laboratory Manual(1988)に記載されているように製造され得る。タンパク質検出法でも利用可能なモノクローナル抗体ならびにFabフラグメントおよびF(ab’)2フラグメントの製造は、種々の慣例的な方法によってGoding,Mononoclonal Antibodies:Principles and Practice,第98頁~第118頁,New York:Academic Press(1983)に記載されるように実施することができる。前記抗体を次に発現cDNAライブラリーのスクリーニングのために使用することで、同一の同種または異種の遺伝子を免疫学的スクリーニングにより特定することができる(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989、またはAusubel et al.,1994,“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley&Sons)。特に、本発明は、本発明によるwb-Rアレルによってコードされるポリペプチドを選択的に認識し、感受性のwb-sアレルによりコードされるポリペプチドを本質的に認識せず、すなわち、本発明によるwb-Rアレルによってコードされるポリペプチドよりも少なくとも2倍、好ましくは5倍、より有利には10倍以上も低くしか認識されない抗体に関する。
【0064】
本発明のさらなる主題は、本発明による核酸分子または組み換えDNA分子を含むベクターである。前記ベクターは、プラスミド、コスミド、ファージ、もしくは発現ベクター、形質転換ベクター、シャトルベクター、またはクローニングベクターであり得、該ベクターは、二本鎖もしくは一本鎖で、直鎖状もしくは環状であってもよく、または原核性もしくは真核性の宿主を、そのゲノム中へのもしくは染色体外での組み込みのいずれかによって形質転換することができる。有利には、本発明による核酸分子またはDNA分子は、発現ベクター中で、原核性または真核性の宿主細胞中での転写および任意に発現を可能にする1つ以上の調節配列と作動的に連結されている(例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd Ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,2001を参照のこと)。好ましくは、前記の調節配列は、プロモーターまたはターミネーター、特に転写開始の開始点、リボソーム結合部位、RNAプロセシングシグナル、転写終結部位、および/またはポリアデニル化シグナルである。例えばこの場合に、前記核酸分子は、適切なプロモーターおよび/またはターミネーターの制御下にある。適切なプロモーターは、構成的に誘導されるプロモーター(例えば、「カリフラワーモザイクウイルス」由来の35Sプロモーター(Odell et al.,Nature 313(1985),810-812))であってよく、特に適しているのは、病原体誘導性であるプロモーター(例えば、パセリ由来のPR1プロモーター(Rushton et al.,EMBO J.15(1996),5690-5700))である。特に適切な病原体誘導性プロモーターは、天然に存在せず、複数のエレメントから構成されており、かつ最小プロモーターを含むだけでなく、該最小プロモーターの上流に、特定の転写因子のための結合部位として働く少なくとも1つのシス調節エレメントを有する合成プロモーターまたはキメラプロモーターである。キメラプロモーターは、所望の要求に応じて設計され、種々の因子によって誘導または抑制される。そのようなプロモーターのための例は、国際公開第00/29592号(WO00/29592)、国際公開第2007/147395号(WO2007/147395)、および国際公開第2013/091612号(WO2013/091612)に存在する。適切なターミネーターは、例えばnosターミネーター(Depicker et al.,J.Mol.Appl.Genet.1(1982),561-573)である。前記ベクターは、さらに大抵は、指標遺伝子/レポーター遺伝子または耐性遺伝子を所望のベクターまたはDNA分子/核酸分子の伝達の検出のために、そしてこれらを含む個体の選抜のために含む。それというのも、遺伝子の発現を介した直接的な検出は、大抵はむしろ困難であるからである。本発明による核酸分子自身は、上述の突然変異を伴ってリゾマニアに対する耐性を授けるタンパク質を表すポリペプチドをコードするので、植物細胞中での発現のために、さらなる耐性遺伝子を準備する必要はないが、有利には迅速な選抜を可能にするために準備される。
【0065】
指標遺伝子/レポーター遺伝子のための例は、例えばルシフェラーゼ遺伝子、および緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子である。これらの遺伝子はさらに、遺伝子のプロモーターの活性および/または調節についての調査も可能にする。特に植物形質転換のための耐性遺伝子のための例は、ネオマイシン-ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ハイグロマイシン-ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、またはホスフィノスリシン-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子である。しかしながら、それは当業者に公知のさらなる指標遺伝子/レポーター遺伝子または耐性遺伝子を除外するものではない。有利な実施形態においては、前記ベクターは、植物ベクターである。
【0066】
さらなる態様においては、本発明は、本発明によるベクター、組み換えDNA分子、および/または核酸分子を含む宿主細胞に関する。本発明の意味における宿主細胞は、原核性(例えば、細菌性)または真核性細胞(例えば、植物細胞または酵母細胞)であり得る。好ましくは、前記宿主細胞は、アグロバクテリウム、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)または植物細胞である。
【0067】
当業者には、本発明による核酸分子、組み換えられたDNA分子、および/または本発明のベクターをアグロバクテリウム中に導入することができる接合またはエレクトロポレーション等の数多くの方法も、本発明による核酸分子、上記DNA分子、および/または本発明のベクターを植物細胞中に導入することができる多様な形質転換法(遺伝子銃的形質転換、アグロバクテリウム媒介型形質転換)等の方法も知られている(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd Ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,2001)。
【0068】
さらに有利には、本発明は、本発明による核酸分子またはDNA分子を導入遺伝子または本発明のベクターとして含む遺伝子導入植物細胞に関する。そのような遺伝子導入植物細胞は、例えば本発明による核酸分子、DNA分子、または本発明のベクターで、好ましくは安定的に形質転換されている植物細胞である。前記遺伝子導入植物細胞の有利な実施形態においては、前記核酸分子は、植物細胞における転写および任意に発現を可能にする1つ以上の調節配列と作動的に連結されている。本発明による核酸分子および/または調節配列からの全構築物がその際に導入遺伝子を表す。そのような調節配列は、例えばプロモーター、エンハンサー、またはターミネーターである。当業者には、植物中で使用可能な数多くの機能的プロモーター、エンハンサー、およびターミネーターが知られている。
【0069】
有利には、本発明の遺伝子導入植物細胞、特にフダンソウ属の植物の細胞は、病原体、特にBNYVVに対して、相応の形質転換されていない植物細胞(導入遺伝子を有しない植物細胞)よりも高い耐性を示す。例えば、BNYVVに対する耐性のレベルは、フダンソウ属の植物において、評点の決定により定性的に定めることができる(フダンソウ属の植物のための評点スキームは、先行技術から公知であり、例えばテンサイに関しては、Mechelke(1997)Probleme in der Rizomaniaresistenzzuechtung,Vortraege fuer Pflanzenzuechtung,Resistenzzuechtung bei Zuckerrueben,Gesellschaft fuer Pflanzenzuechtung e.V.,113-123を参照のこと)。より高い耐性は、少なくとも1の評点だけ、少なくとも2の評点だけ、少なくとも3以上の評点だけの耐性の改善で現れる。さらに、本発明は、本発明の遺伝子導入植物細胞の製造方法であって、本発明による核酸分子、DNA分子、または本発明のベクターを植物細胞中に導入する工程を含む、方法に関する。例えば、前記導入は、形質転換により、好ましくは安定的な形質転換により行うことができる。遺伝子銃的形質転換、アグロバクテリウム媒介型形質転換、またはエレクトロポレーション等の導入に適した技術は、当業者に知られている(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd Ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,2001)。
【0070】
さらなる態様においては、本発明は、上記の遺伝子導入植物細胞を含む遺伝子導入植物およびその部分に関する。この場合に、一部分は、細胞、組織、器官、または複数の細胞、組織、もしくは器官の集合体であり得る。複数の器官の集合体は、例えば花または種子である。特定の実施態様においては、本発明は、本発明による核酸分子を導入遺伝子として含む遺伝子導入植物の種子に関する。有利には、本発明の遺伝子導入植物、特にフダンソウ属の植物は、病原体、特にBNYVVに対して、相応の形質転換されていない植物(導入遺伝子を有しない植物)よりも高い耐性を示す。例えば、BNYVVに対する耐性のレベルは、フダンソウ属の植物において、評点の決定により定性的に定めることができる(フダンソウ属の植物のための評点スキームは、先行技術から公知であり、例えばテンサイに関しては、Mechelke(1997)Probleme in der Rizomaniaresistenzzuechtung,Vortraege fuer Pflanzenzuechtung,Resistenzzuechtung bei Zuckerrueben,Gesellschaft fuer Pflanzenzuechtung e.V.,113-123)。より高い耐性は、少なくとも1の評点だけ、少なくとも2の評点だけ、少なくとも3以上の評点だけの耐性の改善で現れる。さらに、本発明は、遺伝子導入植物の製造方法であって、本発明による核酸分子、または本発明のベクターを、植物細胞中に導入する工程と、任意に遺伝子導入植物細胞を選択する工程とを含む、方法に関する。さらに、そのような遺伝子導入植物の製造方法は、第1の工程において生じた遺伝子導入植物細胞から遺伝子導入植物を再生することを含む後続の工程を特徴としている。再生のための方法は、先行技術から当業者に知られている。
【0071】
さらなる態様においては、本発明はまた、植物、有利にはフダンソウ属の植物における病原体、特にBNYVVに対する耐性を付与または増大させる方法であって、植物細胞を本発明による核酸分子または本発明のベクターで形質転換する工程を含む、方法に関する。それに代えて、前記のように、WB感受性の遺伝子型から、存在する内因性のwb-s遺伝子の無作為のまたは意図的な突然変異誘発によってWB耐性の遺伝子型を製造することができる。
【0072】
例えば、wb遺伝子は、TALEヌクレアーゼ(TALEN)またはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)だけでなく、とりわけ例えば国際公開第2014/144155号(WO2014/144155A1)(CRISPR/Casシステムを使用した植物ゲノムの操作)およびOsakabe&Osakabe,Plant Cell Physiol,56(2015),389-400に記載されているCRISPR/Casシステムによる遺伝子突然変異によって修飾することができる。それは、TILLING(Targeted Induced Local Lesions in Genomes)と呼ばれる方法を使用することによっても達成することができ、その際、例えば独国特許出願の独国特許出願公開第102013101617号明細書(DE102013101617)に記載されるように、野生型遺伝子に点突然変異が引き起こされ、引き続き適切な、すなわち耐性を与える突然変異を有する植物、例えば黄斑モザイクウイルスに対して耐性のオオムギが選抜される(独国特許出願公開第102013101617号明細書(DE102013101617)の第4頁、第8頁、および第12頁の段落[0014]、[0026]、および[0038]を参照のこと)。TILLING法はまた、Henikoff et al.の刊行物においても詳細に記載されている(Henikoff et al.,Plant Physiol.135,2004,630-636)。
【0073】
有利には、この方法は、少なくとも1の評点だけの耐性の改善、特に有利には少なくとも2の評点だけ、少なくとも3以上の評点だけの耐性の改善をもたらす。フダンソウ属の植物についての評点スキームは、先行技術から公知であり、例えばテンサイに関してはMechelke(1997)から公知である。植物細胞の突然変異誘発に続いての突然変異誘発された植物細胞からの植物の再生、または植物の突然変異誘発の後に、その際、好ましくは配列番号1による配列を有するもしくは含む、または配列番号1と相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する内因性の核酸分子において、上記定義の1つ以上の突然変異を有する植物を特定することができる。
【0074】
さらなる態様においては、本発明は、BNYVV耐性のフダンソウ属の植物またはその一部分であって、本発明による核酸分子が内因的に存在しているか、または内因的に、さらにWB感受性の遺伝子型と相関する核酸分子中に上記定義の突然変異の1つ以上が導入されている、植物またはその一部分(該植物またはその一部分は、ベータ・ブルガリス亜種マリチマの種には属さない)に関する。1つの実施形態においては、本発明による植物は、ハイブリッド植物または倍加半数体植物である。本発明による植物のさらなる実施形態においては、前記核酸分子または前記1つ以上の突然変異は、上記定義のようにヘテロ接合体またはホモ接合体で存在する。例えば、ハイブリッド植物の場合には、前記核酸分子または前記1つ以上の突然変異はまた、ヘミ接合体で存在し得る。
【0075】
さらなる実施形態においては、本発明の植物は、付加的に導入遺伝子としてまたは内因的に第2の核酸分子を、前記植物においてBNYVVに対する耐性を与えることができる該植物において前記第2の核酸分子の転写により発現されるポリペプチドをコードする該ゲノム中の別のまたはさらなる位置に含む。前記ゲノム中の別のまたはさらなる位置は、前記第2のヌクレオチド分子がs3e4516s05からs3e5918s01までの第3染色体の染色体区間の外に局在化されていることを意味し得る。例えば、出発遺伝子型においてまだ存在しない場合に、交配または形質転換によって、国際出願の国際公開第2014/202044号(WO2014/202044A1)に記載されるRZ-3遺伝子を、本発明の植物のwb-R植物中に導入することができる。したがって、本発明の特に有利な実施形態においては、wb-R/RZ-3-R植物であって、好ましくは一方の耐性遺伝子について、特に有利には両方の耐性遺伝子についてホモ接合体である植物が提供される。この関連においては、本出願におけるwb-R遺伝子のための配列情報と、例えばRZ-3遺伝子のための上述の国際公開第2014/202044号(WO2014/202044A1)に記載される配列情報との提供に基づいて、そのような二重耐性の植物を初めて交配およびマーカー支援選抜だけにより得ることができるので、遺伝子工学的方法を必要としないと解釈される。
【0076】
したがって、本発明は、同様に、病原体BNYVVに対して耐性であるフダンソウ属の植物の特定方法であって、以下の工程
(i)植物もしくはその試料において本発明によるWB耐性を与える核酸分子の存在および/もしくは発現を検出する工程、ならびに/または
(ii)本発明によるWB耐性を与える核酸分子のヌクレオチド配列中、もしくは直ぐ近くに、好ましくは第3染色体上において少なくとも1つのマーカー座を検出する工程、ならびに/または
(iii)前記植物における第3染色体上において少なくとも2つのマーカー座を検出する工程、
ここで、少なくとも1つのマーカー座は、s3e4516s05から本発明によるWB耐性を与える核酸分子までの染色体区間上または該染色体区間内に局在化されており、かつ少なくとも1つのマーカー座は、上述の核酸分子からs3e5918s01までの染色体区間上または該染色体区間内に局在化されており、任意選択で
(iv)BNYVV耐性の植物を選抜する工程、
を含むことを特徴とする方法において、好ましくはさらに、前記少なくとも1つのマーカー座が、上記定義の突然変異の1つ以上を含むことを特徴とする方法に関する。さらなる実施形態においては、前記方法は、さらに、さらなる耐性遺伝子型、特に有利には国際公開第2014/202044号(WO2014/202044A1)に記載されるRZ-3遺伝子の相応の検出を含む。
【0077】
前記方法は、好ましくは、
図1B(配列番号2)に示されるアミノ酸配列に対するアミノ酸交換をもたらす、有利には
図1D(配列番号4)に示されるアミノ酸配列で強調された位置(
図1の図面の説明も参照のこと)の1つでの少なくとも1つの多型と共に、
図1C(配列番号3)で強調される多型を、多型、特に診断多型を認識する分子マーカーを使用して検出することを含む。有利には、この検出は、多型、特に診断多型につき少なくとも1つの分子マーカーを使用して行われる。当業者には、相応の多型の検出のためにどのようなマーカー技術が使用されるべきか、そしてそのために分子マーカーをどのように構成するかは知られている。さらに、本発明は、
図1Cまたは
図1Dによる多型を記述または検出する分子マーカーも、
図1Cおよび/または
図1Dによる多型の検出のための分子マーカーの使用も対象としている。さらに、上述の特定方法はまた、BNYVVに対する耐性を有する植物の選抜方法も表す。該選抜方法は、耐性の植物を選抜する最終工程を含む。
【0078】
さらに、wb-R遺伝子(例えば、配列番号3)に対して上流に区画されるゲノムDNA配列区間およびwb-R遺伝子に対して下流に区画されるゲノムDNA配列区間であって、直ぐ近くに、好ましくは第3染色体上に局在化されているため、wb-R遺伝子と接近して結合されている区間は、wb-Rのための診断マーカーの開発のためのDNA領域として使用され得る。したがって、本発明は、BNYVVに対する耐性を有する植物の選抜方法に関する。前記選抜方法は、配列番号3によるDNA配列上、および/または直ぐ近くに、好ましくは第3染色体上に局在化されているDNA配列上の分子マーカーの使用を含む。好ましくは、直ぐ近くに局在化されているマーカーは、実施例に記載されるマーカーs3e4516s05およびs3e5918s01のように、約100000塩基対の物理的長さに相当するwb-R遺伝子の0.11cMの領域にあり、(a)s3e4516s05_cyt/DW=0.89(左側に隣接)および(b)s3e5918s01_ade/DW=0.91(右側に隣接)に匹敵する診断値(DW)を示す。さらに該方法は、通常は、耐性の植物を選抜する最終工程を含む。当業者には、開示された配列情報に基づいてどのようにしてマーカーを開発し使用するかは知られている。
【0079】
したがって、本発明は、上記方法により特定され、任意選択で選抜された、植物、有利には特にBNYVV耐性の植物、またはその一部分に関する。特に、本発明は、上記の本発明による方法により得られ、好ましくは叢根病(リゾマニア)またはBNYVV感染に対して耐性であり、かつ本発明による核酸分子が存在することを特徴とする植物を含む植物の群集に関する。好ましくは、前記群集は、少なくとも10個、好ましくは50個、より有利には100個、特に有利には500個、特に農業栽培において、有利には少なくとも1000個の植物を有する。好ましくは、本発明による核酸分子を有しない、かつ/または叢根病にかかりやすい群集中の植物の割合は、存在するとしても、25%未満、好ましくは20%未満、より有利には15%未満、さらにより有利には10%、特に有利には5%、4%、3%、2%、1%または0.5%未満である。
【0080】
本発明によって、さらにフダンソウ属の新たな耐性の植物系統の品種改良および開発のために以下の利点が達成され得る。耐性のwb-Rアレルと、開示された遺伝子の抵抗力のないwb-sアレルとの間の区別を可能にする配列情報および特定された多型は、直接的に遺伝子におけるマーカーの開発を可能にすることから、これは、特に最適化された優良系統の開発に関して「リンケージドラッグ」なく植物品種改良業者にとって重要な軽減措置を表す。さらに、配列構造についての知識を、例えば部分的にホモログまたはオルソログであるさらなる新たな耐性遺伝子、特にリゾマニアに対する耐性遺伝子の特定のために使用することができる。
【0081】
本明細書で開示されたシスジェネティックまたはトランスジェネティックなアプローチにおける耐性遺伝子アレルの利用は、フダンソウ属の新たな耐性品種であって、用量効果に基づきより高い耐性を有し、または該品種において開示された遺伝子と別の耐性遺伝子、特にRZ-3遺伝子とのスタッキングにより耐性破壊が回避され、耐性の顕現が最適化され得る品種を開発するという可能性を開く。さらに、新たな耐性アレルの開発のためにTILLINGまたは意図的なゲノム操作による遺伝子の修飾が可能である。
【0082】
さらに、本発明は、植物における栽培学的に有利な特性を与え得る別の遺伝的エレメントとの遺伝子スタックまたは分子スタックにおける、特定された耐性のwb-R遺伝子アレルの使用に関する。これにより、例えば、収益性を高めることによって、または以前は、とりわけ強い病原体圧等の生物要因もしくは乾燥等の非生物要因に基づきこの植物の栽培に利用できなかった植物のための新たな栽培面積を造成することによって、栽培植物の経済的価値を明らかに高めることができる。特に、本発明は、例えば、前記フダンソウ属の植物を上記方法により特定および選抜し、こうして選抜された植物またはその子孫を栽培することを含む、フダンソウ属の植物の農業的または園芸的な栽培における病原体のビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)による感染の防除のための方法における、特定された耐性のwb-R遺伝子アレルの使用に関する。
【0083】
栽培学的に有利な特性は、例えばグリホサート、グルホシネートまたはALSインヒビター等の除草剤に対する抵抗性である。当業者には、先行技術から数多くのさらなる除草剤およびその使用可能性が知られている。当業者は、植物において相応の抵抗性を実現するためにどの遺伝的エレメントをどのようにして使用するかの知識を獲得するために先行技術に遡ることができる。栽培学的に有利な特性のためのさらなる例は、追加の病原体耐性であり、その際、病原体は、例えば昆虫、ウイルス、線虫、細菌、または菌類であり得る。種々の病原体耐性/抵抗性の組み合わせによって、例えば、1種の植物のための広い病原体防御を達成することができる。それというのも、遺伝的エレメント同士は互いに補足作用を有し得るからである。このために、当業者には、遺伝的エレメントとして、例えば数多くの耐性遺伝子が知られている。栽培学的に有利な特性のためのさらなる例は、耐寒性または耐霜性である。これらの特性を有する植物は、年の初めに既に播種され得るか、または例えば霜の期間にわたって畑に留まることもできることから、これは、例えば収穫高の増加をもたらし得る。ここでも、当業者は、適切な遺伝的エレメントを見出すために先行技術に遡ることができる。栽培学的に有利な特性のさらなる例は、水利用効率、窒素利用効率、および収穫高である。そのような特性を与えるために使用することができる遺伝的エレメントは、先行技術において見出され得る。
【0084】
当業者には、さらに病原体防御のための数多くの修飾が知られている。R遺伝子のしばしば記載されるファミリーの他に、Avr/Rアプローチ、Avr遺伝子相補(国際公開第2013/127379号(WO2013/127379))、R遺伝子の自己活性化(国際公開第2006/128444号(WO2006/128444))、HIGS(宿主誘発性遺伝子サイレンシング)アプローチ(例えば、国際公開第2013/050024号(WO2013/050024))、またはVIGS(ウイルス誘発性遺伝子サイレンシング)アプローチが有利には使用され得る。特に、R遺伝子の自己活性化は、本発明のために重要であり得る。このために、植物における病原体に対する耐性の生成のための自己活性化される耐性タンパク質をコードする核酸が作成されるべきである。この核酸は、その際に、wb-R遺伝子等のNBS-LRR耐性遺伝子の、NBS-LRR耐性遺伝子のコーディング領域の5’末端から下流にNBS-LRR耐性遺伝子のNBSドメインの開始まで延びる限られた部分のみしか有さず、その際、該NBS-LRR耐性遺伝子は、TIR-NBS-LRR耐性遺伝子ではない。
【0085】
さらに、本発明は、1つ以上の栽培学的に有利な特性を植物に与え得る上述の修飾または上記の遺伝的エレメントと組み合わせるための、上記方法により特定された耐性のwb-R遺伝子アレルの使用も含む。
【0086】
本発明はさらに、本発明による植物の他に、通常は再生原料から製造される製品、例えば食品および飼料、好ましくは糖またはシロップ(糖蜜)(ここで、糖蜜は工業的用途のためにも利用される)の製造における、例えばアルコール生産における、または生物工学的産物の製造のための栄養培地としての、化学工業のための材料または物質、例えばファインケミカル、医薬品もしくはその前駆物質、診断薬、化粧品、バイオエタノール、またはバイオガスの製造における、種子もしくは子孫、またはその器官、植物部分、組織、もしくは細胞に関する。バイオガスプラントにおける生物原料としてのテンサイの使用のための1つの例は、独国特許出願公開第102012022178号明細書(DE102012022178A1)(例えば第10段落を参照のこと)の出願に記載されている。
【0087】
以下の実施例は、本発明を説明するものであるが、本発明の主題を限定するものではない。特段の記載がない限りは、分子生物学的な標準的方法が使用される。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd Ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor,NY,2001、Fritsch et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989;Mayer et al.,Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology, eds.,Academic Press,London,1987、およびWeir et al.,Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV,Blackwell,eds.,1986を参照のこと。
【0088】
実施例
実施例1:リゾマニア(叢根病、WB)に対して耐性を与える遺伝子(WB1)およびそれに属する感受性アレルの特定
ベータ・ブルガリス亜種マリチマの系統からの遺伝子浸透を伴うテンサイ(ベータ・ブルガリス L.)の群集において、この遺伝子浸透で、叢根病(リゾマニア)に対する耐性を与える遺伝子または遺伝子セグメントは、良好な診断値(DW)を有するマーカーによって検出することができた((a)s3e4516s05_cyt/DW=0.89(左側に隣接)および(b)s3e5918s01_ade/DW=0.91(右側に隣接))。両方のマーカーは、しかしながら、種々の系統におけるヌルアレルの発生により診断は完全なものではない。s3e4516s05とs3e5918s01との間のゲノム領域は、約100000塩基対の物理的長さに相当する0.11cMの遺伝的長さを含む。この配列領域は、高反復的であり、種々の遺伝子型において大幅な構造的変動を示し、したがってさらなる診断マーカーを開発することは非常に困難である。リゾマニア耐性を与える遺伝子セグメントの遺伝的構造が未知であることにより、さらに原因遺伝子の周辺の潜在的な「ネガティブなリンケージドラッグ」をさらに減少させることは限定的にのみ可能であるにすぎない。
【0089】
関連の遺伝子セグメントをより詳しく絞り込み、任意選択で、観察される耐性を与える遺伝子または植物のリゾマニア感受性特性の原因となる遺伝子座を見つけ出すための第1の実験は、とりわけ目標領域が非常に反復的であり、多くの遺伝子型において大幅な構造的変動(ヌルアレル)を示すとともに、高い診断値を有するさらなるマーカーを利用できなかったため不成功に終わった。さらに、目標領域における候補遺伝子の発現分析により、初めのうちはエビデンス、すなわちリゾマニア感染に対する特定の応答が得られなかった。最後に、植物の表現型検査も困難な状態であった。それというのも、耐性の顕現は、未知の理由から常に一義的ではなく、そのためまず最初は多重遺伝子耐性の存在も推測され、かつ/または発生遺伝学的な効果は、調査された植物の数を増やすことによって初めて、90種~180種の子孫を用いて集中的な統計学的方法(t検定、検定力分析)により排除することができたからである。
【0090】
さらなる実施された実験および分析において、その際、とりわけ遺伝的ファインマッピング、物理的マッピング、WHG(全ゲノム)配列分析、2000種を超えるF2子孫の非常に大きな分離集団の構成、組み換えスクリーニング、目標領域におけるマーカー開発、耐性(RR)遺伝子型および感受性/抵抗力がない(ss)遺伝子型における比較BACシーケンシング、バイオインフォマティクス解析、タンパク質予測、およびタンパク質の比較の工程を含む「マップベースクローニング」によって、NB-ARC(NBS-LRR)遺伝子が観察されたリゾマニア耐性の原因となることを確認することができた。このNBS-LRR遺伝子は、集中的なファインマッピングにより特定され、その際、配列の複雑性のため、RR配列とss配列とのアセンブリングは簡単には生じず、4種の最も近い組み換え植物(該遺伝子周りの左側の2種の直接的な組換体および右側の2種の直接的な組換体)の後代分析によって初めて、NBS-LRR遺伝子を1点の遺伝子にまで絞り込むことができた。耐性の遺伝子型のNBS-LRR遺伝子の配列は、配列番号3に示されており、それに属する遺伝子または遺伝子型は「叢根病耐性」のために「wb-R」と呼ばれる。前記NBS-LRR遺伝子において、全体で17個の「非同義」の一塩基多型(SNP)が見出された(タンパク質におけるアミノ酸交換をもたらす多型)。感受性の遺伝子型および耐性の遺伝子型からなる配列データに基づいて、そこから5個のアミノ酸交換は、診断が完全なものであると示された。
【0091】
K307Q 耐性遺伝子型における位置919でのゲノム配列において「A」の代わりに「C」、これは、抵抗性のない遺伝子の位置307にコードされるリジン(K)をグルタミン(Q)により置き換える。
Q437R 耐性遺伝子型における位置1310でのゲノム配列において「A」の代わりに「G」、これは、抵抗性のない遺伝子の位置437にコードされるグルタミン(Q)をアルギニン(R)により置き換える。
R566H 耐性遺伝子型における位置1697でのゲノム配列において「G」の代わりに「A」、これは、抵抗性のない遺伝子の位置566にコードされるアルギニン(R)をヒスチジン(H)により置き換える。
Q731K 耐性遺伝子型における位置2191でのゲノム配列において「C」の代わりに「A」、これは、抵抗性のない遺伝子の位置731にコードされるグルタミン(Q)をリジン(K)により置き換える。
P831S 耐性遺伝子型における位置2491でのゲノム配列において「C」の代わりに「T」、これは、抵抗性のない遺伝子の位置831にコードされるプロリン(P)をセリン(S)により置き換える。
これらは、
図1を参照のこと。
【0092】
組み換え点に基づき、2つのアミノ酸交換K307QもしくはQ437Rの一方または両方は、耐性付与についての原因とみなすことができる。叢根病に感受性の表現型と相関する相応の遺伝子配列または遺伝子型は、「叢根病感受性」のために「wb-s」とも呼ばれる。
【0093】
実施例2:RNAiアプローチによるwb-R遺伝子の検証
近い組換体による遺伝子の上記の検証の他に、さらなる裏付けとして、RNA干渉による遺伝子の耐性作用を示すことができる(例えば、国際出願の国際公開第2014/202044号(WO2014/202044A1)の実施例(Examples)に記載されるRZ-3遺伝子の検証、または国際出願の国際公開第2011/032537号(WO2011/032537A1)の実施例(Examples)に記載されるvil遺伝子の検証を参照のこと)。このために、耐性の標準的なテンサイ遺伝子型を、二本鎖ヘアピンRNAをコードするDNA構築物で形質転換する。このdsRNAは、転写後に遺伝子サイレンシングをもたらすことができ、その遺伝子サイレンシングは、耐性のwb-R遺伝子アレルのその作用を減少または停止させることとなり、それにより以前は耐性であったテンサイ遺伝子型は、叢根病(リゾマニア)に対して感受性となるはずである。
【0094】
適切なDNA構築物を準備するために、耐性のwb-R遺伝子アレルの、例えば400塩基対~500塩基対の長さの定義された目標配列領域は、好ましくは、耐性のwb-R遺伝子アレルのために特異的であるコーディング配列の領域から選択され、PCRにより増幅され、センス方向にもアンチセンス方向にもヘアピン構造の合成のために適したベクターpZFN中にクローニングされる(国際出願の国際公開第2014/202044号(WO2014/202044A1)の
図6を参照のこと)。このベクターは、二重のCaMV 35Sプロモーター、マルチクローニングサイト、シロイナズナにおいてアミノ酸パーミアーゼをコードする遺伝子AtAAP6からのイントロン、さらなるマルチクローニングサイト、およびnosターミネーターを有する。準備されたベクターによるテンサイの形質転換は、Lindsey&Gallois,J.Exp.Bot.41(1990),529-536のプロトコールに従って、選択マーカーとして抗生物質カナマイシンを使用して行われる。幾らかの選択工程の後に、遺伝子導入新芽の形質転換の成功は、PCRを介してnptII遺伝子、AAP6イントロン、および2つのt-DNA境界配列(LB/RB)の存在、ならびにvirの不存在の検出によって調べられる。陽性の新芽を、インビトロでそれぞれ30個の新芽にクローン増殖させ、根付かせて、温室内で土壌に移す。約2週間後に、遺伝子導入テンサイ植物を、リゾマニア汚染された土壌に植え替え、そこでそれらを8週間~10週間にわたり栽培する。コントロールとして、同じ条件下で、形質転換されていない同じ耐性の遺伝的な標準的形質転換背景の植物を育成する。リゾマニアの顕現の検出のために、テンサイ植物の根を刈り取り、ELISA試験によってBNYVV感染を定量する。その際、低いELISA値は耐性を示し、高い値は感受性を示す(上記のMechelke 1997、Clark&Adams,J.Gen.Virol.34(1977),475-483)。形質転換されたテンサイのELISA値は、予想通りに3~4の平均値で、平均値1~2を有する引き続き耐性のコントロールのELISA値よりも大幅に高く、感受性の基準に匹敵する。その後に、ELISA試験の結果によって、耐性のwb-Rアレルの特異的な遺伝子サイレンシングによって形質転換背景において以前は耐性であった植物はBNYVVに対して感受性になることが示され得る。したがって、本発明のwb-R遺伝子は、一義的に耐性遺伝子として検証され得る。
【0095】
遺伝子機能の検証はさらに、WB感受性植物、特にテンサイの、本発明によるwb-R遺伝子による相補により、例えば、感受性遺伝子型において、配列番号3のヌクレオチド配列または配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする同等のヌクレオチド配列を有する核酸分子をそれぞれ構成的プロモーターの制御下に有する植物発現ベクターを形質転換することによって実施することができる。形質転換のために、基本的に上記のpZFNベクターおよび上述の技術にも、または上述の一般的な記載に記載されるベクターおよび技術にも遡ることができる。
【0096】
まとめ
本発明によるwb-R遺伝子の提供により、叢根病(リゾマニア)に対するより効果的な栽培、または新たな耐性の系統の開発が可能となる。本発明のwb-R遺伝子および上記の実施形態は、さらなる用途、例えば新たな耐性品種を開発することを目的とするシスジェネティックまたはトランスジェネティックなアプローチにおける耐性遺伝子アレルの利用、「遺伝子スタッキング」、つまりは用量効果に基づく耐性の向上、TILLINGまたは狙い通りのゲノム工学/遺伝子編集により遺伝子を修飾することによる新たな耐性アレルの開発、およびwb-Rと別のリゾマニア耐性遺伝子との間の相互作用を測定することによる最適な耐性を顕現する品種の開発を提供する。
【配列表】