(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】燃料電池用のアノードおよび当該アノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220715BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220715BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20220715BHJP
【FI】
H01M4/86 T
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2019527890
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2017075198
(87)【国際公開番号】W WO2018095631
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2019-06-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】102016223293.2
(32)【優先日】2016-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アーニャ グリースル
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス マイアー
(72)【発明者】
【氏名】ユリア シュミート
(72)【発明者】
【氏名】ペトラ クシェル
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】市川 篤
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-198758(JP,A)
【文献】特表2008-541336(JP,A)
【文献】特開2007-335193(JP,A)
【文献】特開2009-16350(JP,A)
【文献】特表2014-514701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の添加剤(14)を
含むセラミック-金属複合材料(12)によって少なくとも実質的に形成されている、燃料電池用のアノード(10)において、前記添加剤(14)が少なくとも20m
2/gの比表面積および最大80nmの粒径を有することを特徴とする、アノード(10)。
【請求項2】
前記複合材料(12)における前記添加剤(14)の含有量が最大1000ppmであることを特徴とする、請求項1記載のアノード(10)。
【請求項3】
前記添加剤(14)が少なくとも1種の金属酸化物であることを特徴とする、請求項1または2記載のアノード(10)。
【請求項4】
前記添加剤(14)が酸化アルミニウムであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のアノード(10)。
【請求項5】
セラミック-金属複合材料(12)
の基本成分の焼結によって、燃料電池用のアノード(10)を製造する方法において、前記複合材料(12)の基本成分
を、少なくとも20m
2/gの比表面積および最大80nmの粒径を有する添加剤(14)と焼結前に混合することを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記複合材料(12)の基本成分に、この基本材料の合計を基準として最大1000ppmに相当する前記添加剤(14)の量を焼結前に添加することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも前記複合材料(12)の基本成分および前記添加剤(14)を、焼結前に混合および/または均質化してペーストおよび/またはスラリーを形成することを特徴とする、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記複合材料(12)の基本成分と前記添加剤(14)とからの混合物を処理してアノード層を形成し、そして焼結することを特徴とする、請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1から4までのいずれか1項記載の少なくとも1つのアノード(10)を有する燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術
少なくとも1種の添加剤をドープしたセラミック-金属複合材料によって少なくとも実質的に形成されている、燃料電池用、特に固体酸化物形燃料電池用のアノードが既に提案されている。
【0002】
発明の開示
本発明は、少なくとも1種の添加剤をドープしたセラミック-金属複合材料によって少なくとも実質的に形成されている、燃料電池用、特に固体酸化物形燃料電池用のアノードに基づいている。
【0003】
添加剤は少なくとも20m2/gの比表面積を有することが提案されている。
【0004】
これに関連して、「アノード」は、特に燃料電池の燃料ガス電極と理解されるべきである。これに関連して、「燃料電池」は、特に、少なくとも1種の、特に連続的に供給される燃料ガス、特に水素および/または一酸化炭素と、少なくとも1種のカソードガス、特に酸素との少なくとも1つの化学反応エネルギーを、特に電気および/または熱エネルギーに変換するために設けられている装置と理解されるべきである。これに関連して、「セラミック-金属複合材料」は、金属マトリックス中の少なくとも1種のセラミック材料よりなる、特に複合材料、特にサーメットと理解されるべきである。これに関連して、「セラミック材料」は、特に、無機の非金属材料と理解されるべきである。特に、セラミック材料は、少なくとも部分的に結晶性および/または多結晶性であり得る。これに関連して、「非金属」は、特に、セラミックが、特に金属結合に由来する金属性質を少なくとも全般的に有していないが、例えば金属酸化物および/またはケイ酸塩などの金属化合物を含み得ると理解されるべきである。特に、セラミックは工業用セラミックである。特に、セラミック材料は、酸化ジルコニウム、特にイットリウム安定化酸化ジルコニウムである。金属マトリックスは、特に、金属材料、有利にはニッケルから形成される。特に、アノードは、薄い層、特に印刷層および/またはキャストフィルムへと処理された、酸化ニッケルとイットリウム安定化酸化ジルコニウムとからの混合物から製造されている。特に、酸化ニッケルとイットリウム安定化酸化ジルコニウムとからの混合物に、細孔形成剤、有機結合剤および/または更なる添加物質が加えられていてもよい。特に、アノードは、燃料電池または半電池として、燃料電池の少なくとも1つの更なる機能層、例えばカソードおよび/または電解質と組み合わせて焼結される。特に、焼結後、アノードは2つの噛合する骨格構造を有し、そのうちの1つはイットリウム安定化酸化ジルコニウムによって形成されており、もう1つは酸化ニッケルによって形成されている。複合材料内の適切な細孔構造は、適切な焼結パラメータおよび/または細孔形成剤の添加によって作製されて存在していてよい。アノードの焼結後、高温、特に600℃~1000℃の温度で、還元雰囲気下に、酸化ニッケルのニッケルへの変換が行われる。
【0005】
これに関連して、「添加剤」は、特に材料性質に影響を及ぼすために複合材料に添加される物質と理解されるべきである。特に、添加剤は、アノードの製造中、特に焼結プロセスの前および/またはその最中に複合材料に添加されることを目的としている。特に、添加剤は、複合材料の焼結挙動に影響を及ぼすことを目的としている。添加剤は、特に、アノードの複合材料の焼結挙動を、アノードが製造中に共焼結される燃料電池機能層の焼結挙動に適合させることを目的としている。特に、添加剤は、少なくとも20m2/g、有利には少なくとも50m2/g、特に好ましくは少なくとも100m2/gの比表面積を有する。
【0006】
そのような実施形態によって、製造に関して、特に燃料電池の更なる機能層との共焼結に関して、改善された性質を有するアノードを提供することができる。特に、添加剤の大きな比表面積によって、添加剤と成分、特に複合材料の酸化ニッケルおよびイットリウム安定化酸化ジルコニウムとの間の有利には良好かつ/または均一な接触が達成され得る。この結果、添加剤の効果が有利には低い濃度でさえも生じることが達成され得る。
【0007】
さらに、複合材料中の添加剤の含有量は、最大1000ppm、有利には最大750ppm、特に有利には最大500ppmであることが提案されている。特に、添加剤の含有量は、複合材料の基本成分の合計を基準として最大1000ppmである。特に、添加剤の含有量は、複合材料中の酸化ニッケルおよびイットリウム安定化酸化ジルコニウムの質量の合計を基準として最大1000ppmである。添加剤の低い含有量によって、複合材料内の異相を有利には少なくとも大部分回避することができ、かつアノードの性質に及ぼすそのような異相の悪影響、例えば導電率の低下を有利には最小限に抑えることができる。
【0008】
さらに、添加剤は少なくとも実質的にナノ粉末であることが提案されている。これに関連して、「ナノ粉末」は、特に、最大100nm、有利には最大80nm、有利には最大50nm、特に好ましくは最大20nmの粒径を有する粉末と理解されるべきである。この低い粒径によって、有利には大きな比表面積が達成され得る。
【0009】
さらに、添加剤が少なくとも1種の金属酸化物であることが提案されている。これに関連して、「金属酸化物」は、特に、金属、希土類金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物と理解されるべきである。有利には、添加剤は酸化アルミニウムである。この結果、複合材料の焼結挙動、特に焼結収縮に有利には影響を及ぼすことができる。
【0010】
加えて、セラミック-金属複合材料から焼結によって、燃料電池用、特に固体酸化物形燃料電池用のアノードを製造する方法が提案されており、ここで、複合材料の基本成分は、該複合材料の焼結挙動を適合させることを目的としていて少なくとも20m2/gの比表面積を有する添加剤と焼結前に混合される。特に、添加剤は、複合材料の焼結前に該複合材料に添加される。少なくとも1つの方法工程において、複合材料の基本成分、特に酸化ニッケル粉末と粉末状イットリウム安定化酸化ジルコニウムとが一緒に混合される。特に、更なる添加剤、例えば細孔形成剤、有機結合剤、溶剤、可塑剤および/または更なる有機添加剤を基本成分の混合物に添加してよい。更なる方法工程において、基本成分の混合物に添加剤が添加される。有利には、この基本材料の合計を基準として最大1000ppmに相当する添加剤の量が焼結前に複合材料の基本成分に添加される。複合材料の基本成分および添加剤を、焼結前に有利には混合および/または均質化してペーストおよび/またはスラリーを形成する。更なる方法工程において、複合材料の基本成分と添加剤とからの混合物を処理してアノード層を形成し、特に燃料電池の少なくとも1つの更なる機能層と組み合わせて焼結する。この結果、燃料電池用のアノードの有利には簡単かつ/または信頼性の高い製造を可能にすることができる。
【0011】
さらに、本発明によるアノードの少なくとも1つを有する燃料電池が提案されている。燃料電池は、特に固体酸化物形燃料電池(SOFC)として形成されている。アノードに加えて、燃料電池は、少なくとも1つのカソードと、アノードとカソードとの間に配置された少なくとも1つの電解質とを有する。特に、電解質は、少なくとも実質的にイットリウム安定化酸化ジルコニウム、スカンジウムドープ酸化ジルコニウム、ドープランタンガレートおよび/またはガドリニウムドープ酸化セリウムからなることができる。特に、アノードは、少なくとも実質的にサーメット、有利にはニッケル含有サーメット、例えばNi-ZrO2サーメットからなることができる。特に、カソードは、少なくとも実質的にアルカリ土類金属ドープマンガナート、例えばLSM、アルカリ土類金属ドープコバルタート、例えばLSC、および/またはペロブスカイト様材料、例えばLSCFからなることができる。この結果、アノード内に少なくとも実質的に異相を有していない燃料電池を提供することができる。
【0012】
ここで、本発明によるアノードおよび/または本発明による製造方法は、上記の用途および実施形態に限定されるべきではない。特に、本発明によるアノードおよび/または本明細書に記載の機能様式を満たす方法は、本明細書に記載した個々の要素、構成要素およびユニットの数とは異なる数を有することができる。
【0013】
図面
以下の図面の説明から、更なる利点が明らかになる。図面には、本発明の実施例が示されている。図面、明細書および特許請求の範囲は、多数の特徴を組み合わせて含む。当業者はまた、便宜的に特徴を個々に検討し、それらを意味のある更なる組合せにまとめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】添加剤を添加した複合材料よりなるアノードを有する燃料電池の機能層パッケージの概略図を示す。
【
図2】アノードの製造方法のフローチャートを示す。
【
図3】添加剤を含まないアノードと添加剤を含むアノードとの焼結曲線の比較を示す。
【0015】
実施例の説明
図1は、詳細には示していない燃料電池の機能層パッケージ16の概略図を示す。機能層パッケージ16は、特にセラミックキャリア要素18に施与される。キャリア要素18は、特に多孔質に形成されている。機能層パッケージ16は、アノード10と、カソード20と、アノード10とカソード20との間に配置された電解質38とを有する。機能層パッケージ16は、カソード20と共にキャリア要素18に直接配置される。電解質38は、特に少なくとも実質的にイットリウム安定化酸化ジルコニウム、スカンジウムドープ酸化ジルコニウム、ドープランタンガレートおよび/またはガリウムドープ酸化セリウムからなる。カソード20は、特に少なくとも実質的にアルカリ土類金属ドープマンガナート、例えばLSM、アルカリ土類金属ドープコバルタート、例えばLSC、および/またはペロブスカイト様材料、例えばLSCFからなる。アノード10は、セラミック-金属複合材料12、特に少なくとも実質的にサーメット、有利にはニッケル含有サーメット、例えばNi-ZrO
2-サーメットからなる。アノード10の複合材料12は添加剤14でドープされている。添加剤14は少なくとも20m
2/gの比表面積を有する。複合材料12における添加剤14の含有量は最大1000ppmである。有利には、添加剤14は、アノード10の製造中にアノード10の複合材料12に添加される少なくとも実質的にナノ粉末である。添加剤14は、金属酸化物、有利には酸化アルミニウムである。
【0016】
図2は、アノード10の製造方法のフローチャートを示す。第一の方法工程22において、複合材料12の基本成分を秤量して混合する。複合材料12の基本成分は、イットリウム安定化酸化ジルコニウムおよび酸化ニッケルである。特に、基本成分はそれぞれ粉末状である。特に、酸化ニッケルは4m
2/g~8m
2/gの比表面積を有する。あるいは酸化ニッケルは0.5m
2/g~20m
2/gの比表面積を有することができる。特に、イットリウム安定化酸化ジルコニウムは8m
2/g~12m
2/gの比表面積を有する。あるいはイットリウム安定化酸化ジルコニウムは0.5m
2/g~30m
2/gの比表面積を有することができる。イットリウム安定化酸化ジルコニウムは、特に8モル%のY
2O
3で安定化された酸化ジルコニウムからなる。あるいは酸化ジルコニウムは3モル%~12モル%であってもよい。酸化ニッケルとイットリウム安定化酸化ジルコニウムとの量の比率は、有利には65/35モル%~80/20モル%である。基本成分の酸化ニッケルおよびイットリウム安定化酸化ジルコニウムに、更なる添加剤を添加してもよい。更なる添加剤は、特に、細孔形成剤、例えばフレームブラックおよび/またはPMMAビーズ、有機結合剤、例えばポリビニルブチラール、エチルセルロース、メチルセルロースおよび/またはアクリラート、溶剤、例えば水、アルコールおよび/またはテルピネオール、可塑剤および/または更なる有機添加剤、例えば消泡剤および/または湿潤剤であり得る。更なる方法工程24において、焼結前に複合材料12の基本成分に、この基本材料の合計を基準として最大1000ppmに相当する量の添加剤14を添加する。添加剤14は、特にナノ粉末の形態で添加する。あるいは添加剤14は溶解形態で添加してもよい。添加剤14は、有利には酸化アルミニウム粉末である。あるいはまたはさらに他の添加剤、特に他の金属酸化物、希土類金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物を添加してもよい。特に、添加剤14は少なくとも20m
2/gの比表面積を有する。あるいは添加剤14は20m
2/g~1000m
2/gの比表面積を有することができる。
【0017】
複合材料12の基本成分と添加した添加剤14とを、更なる方法工程26において焼結前に混合および/または均質化してペーストおよび/またはスラリーを形成する。例えば、複合材料12の基本成分と添加した添加剤14とを最初にプラネタリーミキサーまたはスターラーで予備均質化し、引き続き三本ロールミルで処理して、スクリーン印刷、キャスティングプロセスまたは薄層を製造するための他のプロセスに適したペーストを形成する。あるいは他の混合装置、例えば溶解機および/または撹拌機を使用することができる。更なる方法工程28において、複合材料12の基本成分と添加剤14とからの混合物を、特にスクリーン印刷、フィルムキャスティングおよび/または計量分配によって処理してアノード層を形成し、そして500℃を超える温度で焼結する。還元雰囲気中での複合材料12の酸化ニッケルのニッケルへの還元は、更なる方法工程30において、または燃料電池スタックに取り付けた後に行うことができる。
【0018】
図3は、添加剤をドープしていないアノードの焼結曲線32と本発明によるアノード10の焼結曲線34との比較の図を示す。焼結曲線32、34は、それぞれ焼結プロセスの時間40にわたる長さの百分率変化36を示す。焼結曲線32、34は、アノード10の複合材料12の基本成分の合計を基準として1000ppm未満の添加剤14のドーピング量でさえも、焼結挙動を著しく変化させる、特に焼結収縮を著しく高めるのに十分であることを示している。
【符号の説明】
【0019】
10 アノード、 12 複合材料、 14 添加剤、 16 機能層パッケージ、 18 キャリア要素、 20 カソード、 38 電解質、 22 第一の方法工程、 24 更なる方法工程、 26 更なる方法工程、 28 更なる方法工程、 30 更なる方法工程、 32 添加剤をドープしていないアノードの焼結曲線、 34 本発明によるアノードの焼結曲線、 36 長さの百分率変化、 40 焼結プロセスの時間