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  • 特許-縮合重合体の分解 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】縮合重合体の分解
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/16 20060101AFI20220715BHJP
   C07C 69/82 20060101ALI20220715BHJP
   C07C 67/03 20060101ALI20220715BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20220715BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20220715BHJP
   B01J 38/00 20060101ALI20220715BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20220715BHJP
   B01J 31/40 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
C08J11/16
C07C69/82 B
C07C67/03
C07B61/00 300
B01J35/10 301G
B01J38/00 301U
B01J31/28 M
B01J31/40 M
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019541306
(86)(22)【出願日】2018-01-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 NL2018050063
(87)【国際公開番号】W WO2018143798
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】2018269
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】517222797
【氏名又は名称】イオニカ・テクノロジーズ・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソーニャ・イレーネ-マリー・レギナルデ・カスティーリョ
(72)【発明者】
【氏名】フィンセント・ヘルトルディス・アントニウス・フィリピ
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/105198(WO,A1)
【文献】特開2013-057006(JP,A)
【文献】特開2012-067200(JP,A)
【文献】特開2000-302707(JP,A)
【文献】特開2000-218167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28
C07C 69/82
C07C 67/03
C07B 61/00
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール中での縮合重合体の解重合のための触媒としての、遷移金属粒子の使用であって、
前記遷移金属粒子が、3m /g未満の表面積を有する鉄粒子又はニッケル粒子であり、
前記アルコールは、脂肪族ポリオールである、使用
【請求項2】
0.5~50μmの範囲の前記遷移金属粒子を使用する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記遷移金属粒子が、少なくとも実質的に無孔性である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記鉄粒子は、鉄ペンタカルボニルの熱分解によって得ることができ、前記ニッケル粒子は、ニッケルテトラカルボニルの熱分解によって得ることができる、請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記鉄粒子が酸化鉄表面を有する、請求項に記載の使用。
【請求項6】
前記縮合重合体が、固形形態で適用される、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記縮合重合体が、半結晶性重合体として適用される、請求項に記載の使用。
【請求項8】
前記縮合重合体が、高分子廃棄物である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記縮合重合体が、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、及びポリウレタンの群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記縮合重合体が、ポリエチレンテレフタレートである、請求項に記載の使用。
【請求項11】
縮合重合体の解重合のための触媒組成物であって、
アルコール性キャリア液体中の、0.5~50μmの範囲のサイズを有する遷移金属粒子を含み、
水を実質的に全く含ま
前記遷移金属粒子は、3m /g未満の表面積を有する鉄粒子又はニッケル粒子であり、
前記アルコール性キャリア液体は、脂肪族ポリオールである、触媒組成物。
【請求項12】
前記鉄粒子は、鉄ペンタカルボニルの熱分解によって得ることができ、前記ニッケル粒子は、ニッケルテトラカルボニルの熱分解によって得ることができる、請求項11に記載の触媒組成物。
【請求項13】
前記遷移金属粒子が鉄粒子であり、酸化鉄表面を有する、請求項11に記載の触媒組成物。
【請求項14】
架橋性部分及び色吸着体を含む官能性基でグラフト化された粒子体からなる、さらなる粒子をさらに含み、ここで、
前記架橋性部分は、前記粒子体に付着又は結合するための官能基と、前記色吸着体への連結基とを含み、
前記色吸着体は、ヘテロ原子を含む正に帯電した部分を含む、請求項11に記載の触媒組成物。
【請求項15】
分散剤をさらに含む、請求項11に記載の触媒組成物。
【請求項16】
縮合重合体のモノマー及び/又はオリゴマーへの触媒解重合方法であって、
- 固体形態の縮合重合体を準備し、さらに遷移金属粒子を準備する工程と、
- 前記縮合重合体と、前記遷移金属粒子とを、アルコール中で混合して、反応混合物を得る工程と、
- 前記反応混合物を、高められた温度での処理にかけてアルコール溶液を形成させる工程であって、前記高められた温度が、縮合重合体がアルコール中に分散され、かつ、モノマー及び/又はオリゴマーへと解重合される温度であり、ここで、前記遷移金属粒子は触媒として働き、アルコールは反応剤であり、モノマー及び存在する場合のオリゴマーはアルコールに溶解されて、アルコール溶液が形成される、工程と、
- 前記アルコール溶液を、前記遷移金属粒子を含む固体から分離する工程と、
- 触媒として再利用するために、前記遷移金属粒子を含む触媒組成物を得る工程と
を含み、
前記遷移金属粒子は、3m /g未満の表面積を有する鉄粒子又はニッケル粒子であり、
前記アルコールは、脂肪族ポリオールである、方法。
【請求項17】
前記遷移金属粒子を準備する工程が、請求項1~10のいずれか一項に記載の遷移金属粒子の使用の工程、又は請求項1115のいずれか一項に記載の触媒組成物を準備する工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
記高められた温度が、前記アルコールの沸点より20~0℃低い温度として選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記アルコール溶液を、イオン及びナノ粒子の除去のために、吸着手段に通す、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記縮合重合体がポリエステルを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
固体分離工程が、オリゴマーを沈殿させる工程を含み、ここで、
第一の着色剤を、架橋性部分及び色吸着体を含む官能性基でグラフト化された粒子体からなる粒子を含む粒子状添加剤を用いて捕獲し、
前記架橋性部分は、前記粒子体に付着又は結合するための官能基と、前記色吸着体への連結基とを含み、
前記色吸着体は、ヘテロ原子を含む正に帯電した部分を含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合重合体の触媒解重合方法に関する。本発明はさらに、縮合重合体の解重合に使用するための触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル及びポリアミド等の縮合重合体は大量に製造され、繊維材料、食品及び液体洗浄剤組成物の包装、並びに工業的用途を含む種々の用途に使用される。特に知られているポリエステルとしては、ポリ乳酸及びポリエチレンテレフタレート(PET)、並びに、様々な種類のナイロン、例えばナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-4,6等のポリアミドが挙げられる。それらの使用後、そのような縮合重合体は、廃棄物となり、処理されることを必要とする。有用な出発材料を回収するための経済的選択肢がないために、そのような縮合重合体は焼却プラントで燃焼されることが多い。ここでの1つの具体的な例は、繊維及び/又はパッケージ(例えばボトル等)に使用されるPETである。
【0003】
原材料の消費を減らし、廃棄物の量を減らし、そして一般に持続可能性を改善するために、このような重合体の解重合方法に、及びポリ乳酸等の生分解性重合体の開発に、かなりの量の研究開発がなされてきた。典型的には、解重合工程は、高分子廃棄物の溶媒又は溶媒混合物中への分散及び/又は溶解に先立つ工程であるか、あるいはそれらと組み合わされる工程である。ここで、重合体は分離されて、再使用に適したモノマーの溶液に到達するようにされる。例えば、国際公開第00/29463号A1を参照されたい。
【0004】
最近、解重合触媒として、ナノ粒子にかなりの注目が集まっている。そのようなナノ粒子は、小さい直径を有し、それによって例えば10m/g以上の高い表面積を有する。この大きな表面積は、縮合重合体の著しい吸着を可能にし、それにより迅速な解重合及びそれによる経済的に実行可能な方法がもたらされると考えられる。一つの例は、ナノ粒子と、それ自体磁性流体として知られている官能基との両方を含む触媒である。後者は、より具体的には、正電荷を帯びた有機芳香族化合物である。この芳香族化合物は、適切には窒素含有複素環式部分である。これを、例えば有機ケイ素化合物をベースとする架橋部分を介してナノ粒子上にグラフトすることができる。このような触媒は、例えば国際公開第2016/105198号A1に開示されている。
【0005】
しかし、ナノ粒子をベースとする前記触媒と、結果として生じるモノマー生成物を含む溶液との分離は、理想的なものではないことが本出願人によって観察されている。きれいなモノマーを得てナノ粒子触媒の再使用を可能にするためには、触媒をモノマー溶液から分離する必要がある。磁性ナノ粒子を使用すると、基本的に磁気引力による分離が可能になるが、多くのナノ粒子は非常に小さいため、それらは十分に引き付けられない。モノマー溶液はむしろ、良好に分散している非常に微細な粒子を含む分散液である。そのような粒子は、例えば活性炭フィルターを使用して、濾過及び吸着によって分離する必要があり、結果として触媒の損失を伴う。この問題を解決するための1つの選択肢は、本出願人による非公開オランダ出願2017033号に記載されているように、ナノ粒子のより大きなサイズのクラスターを生成させることである。
【0006】
それでもなお、縮合重合体、例えば、ポリエステル及びポリアミド、より具体的にはポリエチレンテレフタレート及び関連するポリエステル等の解重合用のさらなる触媒を開発することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第00/29463号
【文献】国際公開第2016/105198号
【文献】非公開オランダ出願2017033号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、モノマー生成物を含む溶液から効率的に分離することができ、かつ、再利用に適した、さらなる解重合触媒を提供することである。
別の目的は、縮合重合体用の改良された解重合方法を提供することである。
第1の側面によれば、本発明は、アルコール中での縮合重合体の解重合のための触媒としての、遷移金属粒子の使用に関する
【課題を解決するための手段】
【0009】
第2の側面によれば、本発明は、アルコールキャリア液体中の遷移金属粒子を含み、少なくとも実質的に水を含まない、触媒組成物に関する。
【0010】
第3の側面によれば、本発明は、縮合重合体のモノマー及び/又はオリゴマーへの触媒解重合方法であって、
(1) 固体形態の縮合重合体を準備し、さらに遷移金属粒子を準備する工程と、
(2) 前記縮合重合体と、前記遷移金属粒子とを、アルコール中で混合して、反応混合物を得る工程と、
(3) 前記反応混合物を、高められた温度での処理にかけてアルコール溶液を形成させる工程であって、前記高められた温度が、縮合重合体がアルコール中に分散され且つ任意に溶解されて、オリゴマー及び/又はモノマーへと脱重合される温度であり、ここで、前記遷移金属粒子は触媒として働き、アルコールは解重合反応における反応剤であり、モノマー及び任意のオリゴマーはアルコールに溶解されて、アルコール溶液が形成される、工程と、
(4) 前記アルコール溶液を、前記遷移金属を含む固体から分離する工程と、
(5) 触媒として再利用するために、前記遷移金属粒子を含む触媒組成物を得る工程と
を含む、方法
【発明の効果】
【0011】
このような遷移金属粒子が触媒として非常に効果的であり、モノマー及び任意の可溶性オリゴマーを含む溶液から効果的に分離可能であることが、本発明者らによって観察された。遷移金属の好ましい例は、ニッケル、コバルト、及び鉄であり、より好ましくは、ニッケル及び鉄である。本発明者らは、これに拘束されることはないが、前記鉄粒子が解重合における律速段階を触媒し、その律速段階は、例えば半結晶性である重合体材料からの縮合重合体の個々の分子の放出であることが判明したと考えている。この放出により、重合体材料のキャリア液体中への分散、及び/又は個々の重合体分子のキャリア液体中への溶解がもたらされる。このような分散及び/又は溶解は、重合体からオリゴマーへの解重合にさらに関与すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、固体形態のポリエチレンレテフタレート(PET)の、モノマー(BHET)への変換の、様々な触媒についての時間の関数としてのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
予備的な説明として、本発明者らは、典型的には酸化されている遷移金属粒子の表面層が、アルコール中に溶解される可能性があると考える。結果として生じる金属イオン、例えばFe2+及び/又はFe3+は、触媒作用において活性であり得る。しかし、溶解した金属イオンが触媒作用に寄与するだけでなく、遷移金属粒子の表面層も、例えば、グリコールなどのアルコール性キャリア液体がそこに吸着されて活性化され、縮合重合体のカルボニル基との錯化を可能にすることによって寄与することがあり得る。このようなメカニズムにより、触媒材料、より好ましくは低い表面積を有する触媒材料の、比較的低濃度での効果的な触媒作用が説明できるかもしれない。
【0014】
さらに、溶解速度は十分に低いようであり、遷移金属粒子は、触媒として複数回再利用することができる。例えば、触媒は少なくとも5回、より好ましくは少なくとも10回、又は少なくとも20回再利用することができる。触媒を再利用できる頻度は、とりわけ、触媒の濃度、遷移金属触媒粒子の初期の大きさ、分離方法、及び遷移金属の種類に依存する。しかし、明らかに溶解され得る遷移金属粒子が、使用したアルコールにさらに依存して、温度が150℃を超え、好ましくは180~220℃の範囲にある1回の実施で残存することは、発明者にとって非常に驚くべきことである。1つの説明は、遷移金属は、アルコール及び/又は縮合重合体中のカルボニル(C=O)基と相互作用する場合を除いて、アルコールに溶解しないのであろうということである。別の説明は、アルコールが粒子の表面に、おそらくアルコキシド結合(TM-O-C、式中、TMは遷移金属を指す。)を形成することにより吸着するということである。この吸着により、溶解が制限される可能性があり、同時に縮合重合体、特にその中の任意のカルボニル基に対する活性化がもたらされる可能性がある。
【0015】
好ましい実施態様では、遷移金属は、3d軌道遷移金属としても知られる遷移金属の第1系列から選択される。より具体的には、遷移金属は、鉄、ニッケル、及びコバルトから選択される。しかし、コバルトは健康に良くなく、鉄粒子及びニッケル粒子は純粋な形で形成され得るため、鉄及びニッケルの粒子が最も好ましい。さらに、合金を使用することができる。最も好ましいのは、鉄粒子を使用することである。鉄粒子は、PETの解重合を触媒して、最高で6時間までの許容可能な反応時間内で70~90%のモノマーへの変換率をもたらすことが見出された。必要とされる触媒の濃度は、PETの量に対して1質量%以下である。また、0.2質量%未満、さらには0.1質量%未満の触媒添加量でも良好な結果が得られた。このような触媒の低負荷は、非常に驚くべきことであり、また、低触媒負荷はアルコールへの触媒の溶解を低下させ、それにより、例えば吸着処理、好ましくは活性炭カラムを用いる吸着処理により適切に除去されるべきイオンが少なくなるため、有益である。
【0016】
適切な1つの実施態様では、0.5~50μmの範囲の遷移金属粒子が使用される。本明細書においてサイズ範囲は、直径を定義する。本明細書において直径は、電子顕微鏡により測定される。このサイズ範囲の粒子は、ろ過又は遠心分離処理等の従来の分離技術によって生成物溶液から分離されるために十分な大きさである。同時に、それらは粒子の良好な分布を得るために十分に小さく、粒子表面が固体重合体に近づくことができ、非常に効果的な触媒作用がもたらされる。好ましい粒子サイズは、1~10μmである。
【0017】
有利には、遷移金属粒子、例えばニッケル粒子及び鉄粒子等は、表面積が小さく、実質的に無孔である。適切には、表面積は、3m/g未満、好ましくは最高で1m/gまで、さらには0.6m/g未満である。多孔率は、適切には10-2cm/g未満であり、さらには最高で10-3cm/gまでである。このような非多孔性遷移金属粒子は、カルボニル錯体、例えば、鉄ペンタカルボニル及びニッケルテトラカルボニル等の熱分解によって、適切に調製できることが見出された。本発明者らは、非多孔性粒子が多孔性粒子よりも、アルコールへの曝露が少ないため、より適している傾向があり、したがって粒子の腐食がより少なく、触媒作用のために粒子をより頻繁に再利用できることを理解した。さらに、表面積が限られているため、表面での酸化があったとしても、少量の金属イオンが生成されるのみであり、それと共に、生成物から除去されるべき汚染物質として生成物流中に存在するイオンの量も低レベルとなる。
【0018】
さらなる1つの実施態様では、遷移金属粒子は鉄粒子であり、酸化鉄表面をさらに備えている。酸化鉄表面の存在は、触媒作用をさらに高め得る。酸化物表面は、それ自体で形成され得、空気との接触、水との接触によっても形成され得、あるいは、酸化物表面を意図的に適用することもできる。
【0019】
アルコールは、脂肪族アルコールの群から選択されることが好ましい。適切には、150℃を超える沸点を有するアルコールを使用する。150℃を超える沸点を有するアルコールは、縮合重合体の分解に反応剤としてさらに関与することができる。この観点では、ポリオールが好ましい。適切なポリオールは、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、及びエチレングリコールである。最も好ましいアルコールはエチレングリコールである。これにより、縮合重合体、特にエステルの解糖がもたらされる。1分子当たり2つのアルコール基が存在するため、モノマーに1つの遊離アルコール基が付与され、それにより酸と再び反応してエステルを形成することができる。メタノール等のモノアルコールを使用する場合には、そのような遊離アルコール基は利用可能とはならない。アルコールの混合物を使用することは除外されない。アルコールと、ケトンやアルデヒドなどの別の極性有機溶媒との混合物は除外されない。しかし、様々なモノマーの形成を避けるために、1種だけのアルコールが反応剤として分解に関与することが好ましい。
【0020】
縮合重合体は、一般に、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、及びポリウレタンの群から選択される。1つの例では、重合体は、ポリエステル、ポリエーテル〔例えば、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリテトラヒドロフラン(PTHF)、及びポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)等〕、ポリペプチド、ポリアミド(例えば、ナイロン6及びナイロン-6,6を含むあらゆるタイプのナイロン等)、ポリアミン、重縮合物、好ましくはポリエステル等〔例えば、ポリカルボン酸エステル等、ここで、ポリカルボン酸エステルは、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、並びに4-ヒドロキシ安息香酸及び6-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸の重縮合物(VECTRAN)から選択される〕の少なくとも1つである。代表的な例には、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEF(ポリエチレンフラノエート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PLA(ポリ乳酸)が含まれる。最も好ましいのは、PET、PTT、及びPEFである。縮合重合体は、より好ましくは、高分子廃棄物、すなわち、ボトルなどの物品の形態の重合体、又は、リサイクルされ、その後解重合のために適切な形状に任意に処理された繊維の一部としての重合体である。そのような任意の(前)処理の例は、物品をより小さな部分、たとえば、典型的に2×2cm以下であって、典型的に少なくとも0.2×0.2cmの大きさの部分に細分化することである。そのような前処理の別の例は、ナイロンとPETとの間の分離等の、高分子廃棄物製品中の重合体の何らかの分離である。このような任意の前処理の別の例は、アルコール中での予熱工程である。
【0021】
PET等の縮合重合体の解重合のための好ましいプロセスは、本明細書で上述した、いくつかの工程を含む触媒解重合の方法として特定される。このようなプロセスは、触媒、縮合重合体、及びアルコールの供給後に、高められた温度に加熱して、許容できる反応速度;固体縮合重合体のアルコール中への分散(分散は、典型的には、少なくともある程度の解重合も含む);縮合重合体のオリゴマー及びモノマーへの分解;及び、溶解したモノマー及び任意の溶解したオリゴマーを含む溶液を一方に、非溶解性部分を他方に分離すること、を達成することを含む。非溶解性部分は、典型的には、遷移金属粒子、したがって触媒を含む。さらなる非溶解性部分には、固体縮合重合体に存在する任意の顔料、染料、又は他の着色剤、及びフィラー、完全に溶解しない限りにおける任意のオリゴマー、並びに解重合されなかった様々な種類の重合体が含まれる。
【0022】
高められた温度は、たとえば、使用するアルコールの沸点よりも最大で20℃まで低い温度である。PET等のポリエステルの解重合の場合、エチレングリコールが好ましいアルコールであり、高められた温度は、適切には180~200℃の範囲である。固体縮合重合体の分散と、縮合重合体のオリゴマー及びモノマーへの分解は同時に起こり得る。本触媒は、おそらくある程度の解重合と組み合わせて、最初の分散工程を特に加速すると考えられている。この観点から、本触媒組成物は半結晶性重合体の分解に特に適していると考えられる。
【0023】
好ましくは、前記方法は、触媒が生成物から取り出される1つ以上の工程を含む。典型的には、生成物流からの触媒組成物の除去は、固液分離を伴う。粒径及び材料に応じて、好ましい固液分離技術を選択することができる。ミクロンサイズの磁性粒子を含む本発明の触媒組成物は、例えば、磁気分離、遠心分離、濾過、又は膜濾過により液体から分離することができる。1つの好ましい実施態様では、産業的に実行可能な技術である遠心分離が使用される。別の好ましい実施態様では、濾過、より好ましくは膜濾過の1つの形態である精密濾過、又は代替的に、1ミクロンの孔径を有する従来の濾過器が使用される。これらは、ミクロンサイズの粒子の費用対効果の高い分離技術である。好ましくは、ろ過工程は、80℃を超える温度で実施される。これは、十分な処理を確保し、反応混合物の粘性挙動を回避するのに適していると考えられる。最も好ましくは、疎水性重合体膜、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、及び/又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をベースとするもの等が使用される。このような濾過膜は、触媒組成物による分解に敏感ではない一方、エステルをベースとする濾過膜は、典型的に、生成物流の汚染を引き起こす。PTFE膜の濾過膜は、80℃をはるかに超える温度、例えば120~180℃の範囲で操作することができるため、適切であると考えられる。フィルターのサイズは、得られる生成物の粒子サイズに応じて、0.1~4ミクロン、例えば0.5~1ミクロン等の範囲で選択することができる。
【0024】
本発明による解重合方法の文脈において、オリゴマー及び/又は任意の重合体からモノマーを分離することがさらに適切であると考えられる。最も適切には、水が使用され、これにより、オリゴマーが固化する一方で、モノマーは水性アルコール混合物中に溶解されたままとなる。この方法が、実質的に純粋な生成物を得るために効率的であることが判明した。
【0025】
好ましい実施態様では、本方法は、水を添加する前に、反応混合物から遷移金属粒子を除去するように構成される。これは、水による遷移金属粒子の酸化(この酸化は、モノマーを含む、得られる生成物流中のイオンの濃度を増加させる)を防ぐために好ましいと考えられる。上で議論したとおり、触媒は、例えば、濾過又は膜濾過によって除去される。
【0026】
再びさらなる実施態様では、本方法の任意の適切な段階で、さらなる添加剤が反応混合物中に添加される。このさらなる添加剤は、少なくとも選択された着色剤が生成物流から除去されることを確実にするために添加される。より具体的には、添加剤は、微粒子特性を有し、架橋部分及び色吸着体を含む官能基がグラフト化されている粒子を含む。架橋部分は、微粒子体への吸着又は結合のための官能基及び色吸着体への連結基を含み、ここで、色吸着体は、ヘテロ原子、好ましくは複素環芳香族部分を含む正に帯電した部分を含む。粒子は、ナノ粒子、又はより大きな粒子、又はナノ粒子の凝集体、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、非公開オランダ出願第2017033号に記載されているものであり得る。前記添加剤は、色が、着色剤、オリゴマー、及び/又は任意の重合体からなる固体混合物(この固体混合物は、適切な一実施態様では、水の添加時に形成される)に含まれることを確実にすると理解される。前記非公開出願に記載されている添加剤は、解重合用触媒としても知られているとみられる。しかし、色除去のための添加剤として添加される場合、それはより少量で、例えば1質量%未満、又は好ましくは0.5質量%未満、又は0.2質量%未満の量でさえ存在し得る。また、その粒子はより大きな寸法を有し得る。さらに、所望される場合には、前記添加剤を、本方法の後の工程、例えば遷移金属粒子の除去の後に添加してもよい。
【0027】
本発明はさらに、触媒組成物に関する。本明細書において遷移金属粒子は、実質的に水を含まない組成を有するキャリア液体中に分散される。好ましくは、キャリア液体は、少なくとも1種のアルコールを含む。より好ましくは、アルコールは、縮合重合体の解重合中の溶媒及び反応剤として適している。アルコールの非常に適切な例は、エチレングリコール等のグリコールである。発明者の洞察によれば、遷移金属粒子、より具体的には鉄粒子又はニッケル粒子、より具体的には鉄-ペンタカルボニルの熱分解によって得られるミクロンサイズの鉄粒子を分散させることによって、鉄粒子の酸化が禁止又は完全に停止される。それにより、触媒粒子の特性は、貯蔵及び輸送を可能にするのに十分な期間維持される。これは、解重合溶媒中への鉄イオンの溶解を減らすことに特に関与すると考えられる。生成物流中の金属イオンの規制は非常に厳しいため、溶解した鉄イオンは、PETのモノマー等のモノマーを含む生成物流から再び除去する必要があるとみられる。適切には、触媒組成物中の遷移金属粒子の含有量は、5~20質量%、例えば7~15質量%等の範囲である。
【0028】
さらなる実施態様では、触媒組成物は、正に帯電した有機化合物(又は基)を含む触媒基がグラフト化された、さらなる粒子をさらに含む。より詳細には、帯電した有機化合物は、複素環式化合物、特に複素環式芳香族化合物、例えば、ピリジニウム、イミダゾリウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、ピラゾリウム、チアゾリウム、第四級アンモニウム、又は第四級ホスホニウムのイオン(ここで、これらのイオンは、1つ以上のアルキル基で置換されている)を含む化合物等である。前記アルキル基の1つ(典型的には、C~Cアルキル)には、粒子の表面への吸着及び/又は反応のための連結基が備えられている。適切な連結基は、カルボン酸基、及び、典型的にはテトラエチレンオルトシリケート(TEOS)から誘導される、シラノール基である。最も好ましくは、正に帯電した有機化合物は、イミダゾリウムイオン、例えばジアルキル-イミダゾリウムイオン、例えば、アルキルイミダゾリウム-C~C-アルキル-トリアルコキシシラン(このイオンは、前記トリアルコキシ基の1つ以上に由来するシラノール基として、粒子表面と反応する)等を含む。本明細書における粒子は、ミクロンサイズの遷移金属粒子であってよいが、代替的かつ好ましくは別個の(複数種の)粒子である。粒子のサイズは、例えば2nmから10ミクロンである。適切には、100nm~10ミクロン、より好ましくは200nm~5ミクロン、さらには400nm~2ミクロンの範囲の粒子が使用される。本明細書においてサイズは、電子顕微鏡によって定義されるものとして規定される。サイズの範囲は、粒子の少なくとも90体積%、より好ましくは粒子の少なくとも95体積%、さらには少なくとも98体積%がその範囲内のサイズを有するようなサイズ範囲を指す。本明細書で使用される粒子の性質は、様々であってよく、例えば、酸化鉄又は他の酸化物、より具体的には、フェライト、例えば、ヘマタイト、マグネタイト、マグヘマイト等である。その1つの例は、国際公開第2016/105198号A1から知られている。より好ましくは、参照により本明細書に組み込まれる、非公開オランダ出願第2017033号に記載されているクラスター化された触媒粒子が使用される。そのような粒子が最終的に水性生成物流中に残ることとなるリスクなしに着色剤の除去を達成するために、大きな粒子サイズ、例えば少なくとも100nm等を有する粒子が好ましいと考えられる。粒子は、適切には、少なくとも5m/gの表面積、好ましくは少なくとも10m/gの表面積を有する。このような帯電した有機化合物を含む粒子は、解重合のための触媒としてそれ自体が適切であるが、モノマーを含む典型的に水性である生成物流からの着色剤の除去ももたらすことが見出された。脱色のメカニズムに関して、本発明者らは、着色剤分子が正に帯電した有機基に引き付けられると考えている。水の添加時に、粒子は、オリゴマー及び/又は任意の重合体の固化がその上で起こる基材として機能し得る。その後、色が固相に閉じ込められる。それに結合した色除去基を有するこのような粒子は、重合体の分解にさらに寄与し得るとみられる。
【0029】
さらに別の実施態様では、触媒組成物はイオン性液体を含む。そのようなイオン性液体は、適切には、本明細書において上で特定した種類の帯電した有機化合物と、任意の対イオンとを含む。イオン性液体を組成物に添加すると、イオン性液体はアルコール性キャリア液体に溶解され、色の除去を助けると理解される。
【0030】
さらなる1つの実施態様では、触媒組成物は、分散剤をさらに含む。 そのような分散剤は、粒子が互いに付着するのを防ぐのに適している。好ましくは、イオン濃度を可能な限り低く保つために、帯電しておらず、対イオンを含まない分散剤を使用する。粒子表面への吸着のための1つ以上のアンカー部位と、キャリア液体中に伸びる1つ以上の安定化基とを有する分散剤の使用が好ましいと考えられる。適切な安定化基には、例えば、オリゴ(アルキレンオキシド)が含まれ、ここで、アルキレンは、エチレン、プロピレン、及び/又はブチレンである。アンカー化に適した基には、カルボン酸基、シラノール基、例えばTEOSに由来するシラノール基が含まれる。
【0031】
これらの側面及び他の側面を、以下の図及び実施例を参照することによって、さらに説明する。
【実施例
【0032】
[実施例1]
いくつかの触媒1、2b-1、2b-2、及び3aを調製した。触媒1は、参照により本明細書に組み込まれる非公開オランダ出願第2017033号に記載されている触媒であった。この触媒は、直径10nmの磁鉄鉱ナノ粒子の100~200nmの凝集体を含み、その上に3-[ブチル-イミダゾリウム]-プロピル-トリエトキシシランの組み合わせをグラフト化した。このグラフト化工程において、1つ以上のエトキシ基を除去してシラノール結合を得た。触媒2b-1及び2b-2は、0.5μmのオーダーの直径を有する市販の酸化鉄(それぞれFe及びFe)であった。触媒3aは、鉄ペンタカルボニル〔Fe(CO)、予め高純度に蒸留されたものであり、Sigma-Aldrichから商業的に入手したものである。〕の熱分解により得られたものである。触媒3aの特性及びそのさまざまな変形は、K.Sugimuraらの、AIP Advances 6(2016)、055932により知られている。触媒3aには、酸化鉄表面を有していた。さらに、触媒なしで試験を実施した。
【0033】
すべての触媒は、ポリエチレンテレフタレート(PET)に対して1質量%の触媒の比率で使用した。準備したPETは、平均サイズが約1×0.5cmのPETフレークであった。PETフレークは、透明なPETボトルから調製した。PETフレークを秤量して、エチレングリコール中の12質量%の分散液を得た。触媒組成物は、触媒をエチレングリコールに分散させて、10質量%の分散液を得ることにより調製した。触媒分散液を手で5分間激しく振とうすることにより均質化した。その後、さらなるエチレングリコールを添加して、触媒組成物を所望の濃度に希釈した。次に、PETフレークを加え、丸底フラスコを加熱装置に装着した。加熱を開始し、20分以内に、反応混合物は190~200℃の反応温度に達した。時間の関数として生成されたモノマーの濃度を測定するために、インプロセス制御試料を採取することによって、反応を適時に追跡した。モノマーは、BHETとも呼ばれる、ビス-(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートである。BHETの濃度は、HPLCで測定した。結果を図1に示す。触媒1と触媒3aによる解重合は、ほぼ同じ速度で起こることがわかった。約2時間後、BHETへの80~85%の変換率に達した。その後、BHETのさらなる増加は得られなかった。このような80~90%の変換は、最大平衡変換とみなされる。逆に、酸化鉄触媒2b-1及び2b-2は、それぞれ5時間及び3.5時間後にのみ80%以上の変換率に達した。触媒を使用しない場合、6時間で5%の転化率が達成された。
【0034】
[実施例2]
触媒の表面積を、当技術分野でそれ自体知られているBET法を使用する吸着実験によって特徴付けた。Micromertics Tristar 3000装置を使用して、デルフト工科大学及びデルフトソリッドソリューションズのサービスを使用した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
触媒3aの表面積は非常に小さい(触媒1の約50分の1)が、解重合速度を低下させないことは明らかである。
【0037】
[実施例3]
触媒3aを、実施例1で特定した方法で、実験室規模で、PETに対して1質量%の比率で使用した。所定の解重合時間の後、水を加えることにより反応混合物を冷却した。これにより、さらにオリゴマーの固化がもたらされた。その後、磁石を用いて固体を液体から分離した。つまり、ガラス製ビーカーの形の反応容器の外側に磁石を適用した。その後、鉄粒子は、さらなる処理や精製なしで触媒として再利用した。触媒活性を損失することなしに、鉄粒子を少なくとも20回再利用できることがわかった。
図1