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特許7105898真皮再生シート用バイオインク組成物、これを用いたオーダーメード型真皮再生シートの製造方法、および該製造方法を用いて製造されたオーダーメード型真皮再生シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】真皮再生シート用バイオインク組成物、これを用いたオーダーメード型真皮再生シートの製造方法、および該製造方法を用いて製造されたオーダーメード型真皮再生シート
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20220715BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20220715BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20220715BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220715BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
A61L27/36 130
C12N5/077
A61L27/36 100
A61L27/22
A61L27/40
A61L27/60
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020541724
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 KR2018012430
(87)【国際公開番号】W WO2019151611
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】10-2018-0012220
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519134452
【氏名又は名称】ロキット ヘルスケア インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソク ファン ユー
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-523142(JP,A)
【文献】特表2009-502364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織間質血管分画、細胞外基質、およびフィブリノーゲンを含む第1液と、
トロンビンを含む第2液と、を含み、
前記第1液での前記細胞外基質の含量は、20wt%~60wt%であり、
前記第2液での前記トロンビンの濃度は、40IU/ml~250IU/mlである、真皮再生シート用バイオインク組成物。
【請求項2】
前記第1液での脂肪組織間質血管分画の濃度は、10個/ml~10個/mlであることを特徴とする、請求項1に記載の真皮再生シート用バイオインク組成物。
【請求項3】
前記細胞外基質は、5μm~100μmの直径の粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の真皮再生シート用バイオインク組成物。
【請求項4】
前記第1液でのフィブリノーゲンの濃度は、4mg/ml~50mg/mlであることを特徴とする、請求項1に記載の真皮再生シート用バイオインク組成物。
【請求項5】
前記第1液は、アプロチニンをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の真皮再生シート用バイオインク組成物。
【請求項6】
(a)3Dスキャナを用いて、欠損された真皮部位の3次元データを収得する段階と、
(b)脂肪組織由来間質血管分画、細胞外基質、およびフィブリノーゲンを含む第1液を用いて、前記収得された3次元データの形状に対応する第1層を形成する段階と、
(c)トロンビンを含む第2液を前記第1層上に塗布して第2層を形成する段階と、
(d)前記第1層および前記第2層が反応して、真皮再生シートを形成する段階と、を含み、
前記第1液での前記細胞外基質の含量は、20wt%~60wt%であり、
前記第2液での前記トロンビンの濃度は、40IU/ml~250IU/mlである、オーダーメード型真皮再生シートの製造方法。
【請求項7】
(a1)3Dプリンタを用いて収得された3次元データの形状に対応するモールドを製造する段階をさらに含み、段階(b)は、前記モールド内に前記第1液を塗布することを特徴とする、請求項に記載のオーダーメード型真皮再生シートの製造方法。
【請求項8】
段階(b)および段階(c)は、2回以上交互に反復して行われることを特徴とする、請求項に記載のオーダーメード型真皮再生シートの製造方法。
【請求項9】
段階(d)は、10分以内に完了することを特徴とする、請求項に記載のオーダーメード型真皮再生シートの製造方法。
【請求項10】
段階(b)および 段階(c)は、インクジェットプリンティングまたは3Dプリンティングを用いて行われることを特徴とする、請求項に記載のオーダーメード型真皮再生シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2018年1月31日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2018-0012220号の出願日の利益を主張し、その内容の全部は、本明細書に含まれる。
【0002】
本発明は、真皮再生シート用バイオインク組成物、これを用いたオーダーメード型真皮再生シートの製造方法、および該製造方法を用いて製造されたオーダーメード型真皮再生シートに関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚は、人体の表面全体を覆っている最も大きい臓器であって、体液の流失を防ぎ、外部から有害物質と微生物の流入を防ぎ、物理的刺激、放射線と紫外線などから人体を保護する機能を行っている。皮膚は、毛嚢、毛、汗腺、皮脂腺などの様々な付属器官を保有していて、保護膜機能の他にも多様な機能を行っている重要な複合器官である。皮膚は、大きく、表皮層(epidermis)、真皮層(dermis)および皮下組織(subcutaneous tissue,hypodermis)に分けられる。
【0004】
真皮層は、表皮の下にある層であり、血管、神経などの多様な構造物を支持する基質を供給する層であって、コラーゲン、弾性線維および細胞外基質(extracellular matrix)からなる。真皮層は、大きく、上層部の線維芽細胞(fibroblast)が豊富であり、微細血管が分布する乳頭層(papillary layer)と、厚いコラーゲン繊維が豊富な網様結合組織(reticular connective tissue)から構成されている。
【0005】
皮膚組織は、火傷、外傷および皮膚疾患などに起因して組織の一部が損傷する恐れがあるが、この場合、損傷した組織の治癒を目的としたり、再建成形を目的で本人の皮膚組織を移植する自己移植(autograft)、他人の皮膚を移植する同種移植(homograft,allograft)、動物の皮膚を移植する異種移植(heterograft,xenograft)方法を使用する。これらの方法のうち、自己移植が最も理想的であるが、治療部位が広範囲な場合、組織を確保できる部位に制限があり、採取部位が新しい傷部位として残ることになる困難がある。同種移植は、永久的な生着よりは、傷周辺部の細胞の移動と治癒を助ける役割をする。
【0006】
人工皮膚(skin equivalentまたはreconstructed skin)とは、皮膚細胞と皮膚構成物質であるコラーゲン、エラスチンなどを用いて3次元的に皮膚を再構成したものであって、生きている線維芽細胞と角質形成細胞から構成されて、実際皮膚と類似した形態学的、生理学的特性を示すので、皮膚等価物(skin equivalentまたはreconstructed skin)と呼ばれる。人工皮膚は、ひどい火傷で皮膚移植が必要であるが、火傷の程度がひどすぎたり、患部が非常に広くて、自分の皮膚だけでは移植が不可能な患者の治療目的で1980年代に開発され、継続的な改良と研究を通じて現在は皮膚生理研究、皮膚刺激評価、皮膚効能評価など多様な領域で活用されている。しかしながら、従来の人工皮膚は、製造方法において組織培養中に真皮が次第に収縮する現象が現れ、真皮収縮がひどい場合には、人工皮膚の全体的な形態変形が起こる問題点がある。
【0007】
従来、細胞治療剤の場合、同種細胞を用いて移植したり、自己細胞を移植する方法が用いられた。同種細胞の移植の場合、パラクリン(paracrine)効果はあるが、身体は、これを異物(foreign body)として受け入れて、結局には、なくなる問題がある。また、自己細胞を注射注入方法で移植する場合、細胞が成長するための環境(例えば、スキャフォールド)がなければ、消失する確率が高く、結局には、注入される細胞による効果を奏しにくい。
【0008】
また、自己組織の一部を取り外して増殖培養する自己移植の場合、供与部位の傷跡発生の可能性および移植部位が広い場合、供与部位の不足などの問題点があり、同種移植および異種移植の場合、免疫拒否反応または炎症誘発などの問題を有している。したがって、損傷した皮膚を代替または再生させることができ、上記のような副作用を最小化できる方法の開発が必要であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国特許登録第10-1710615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、移植の拒否反応を最小化し、患者オーダーメード型真皮再生シートを製造できる真皮再生シート用バイオインク組成物、これを用いたオーダーメード型真皮再生シートの製造方法、および真皮再生シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施態様は、脂肪組織由来間質血管分画、細胞外基質、およびフィブリノーゲンを含む第1液と、トロンビンを含む第2液と、を含む、真皮再生シート用バイオインク組成物を提供する。
【0012】
本発明の他の実施態様は、(a)3Dスキャナを用いて、欠損された真皮部位の3次元データを収得する段階と、(b)脂肪組織由来間質血管分画、細胞外基質、およびフィブリノーゲンを含む第1液を用いて、前記収得された3次元データの形状に対応する第1層を形成する段階と、(c)トロンビンを含む第2液を前記第1層上に塗布して第2層を形成する段階と、(d)前記第1層および前記第2層が反応して、真皮再生シートを形成する段階と、を含む、オーダーメード型真皮再生シートの製造方法を提供する。
【0013】
本発明のさらに他の実施態様は、前記製造方法を用いて製造された、オーダーメード型真皮再生シートを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による真皮再生シート用バイオインク組成物およびこれを用いたオーダーメード型真皮再生シートの製造方法は、患者の損傷した皮膚組織に適合するように真皮再生シートを製造できるという長所がある。具体的に、本発明によるオーダーメード型真皮再生シートの製造方法は、患部の正確な形態を3Dスキャニングして、患部と一致する形状の真皮再生シートを製造することができる。
【0015】
本発明による真皮再生シートは、免疫拒否反応なしに移植が可能であるという長所があり、また、短時間内に製造が可能であるので、健康な細胞を患部に移植できるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明によるオーダーメード型真皮再生シートを製造するために、第1液および第2液をそれぞれ準備する過程を示すものである。
図2】実験例1によるオーダーメード型真皮再生シートの細胞生存力を確認した写真を示すものである。
図3】実験例2のための動物実験での皮膚を除去した写真を示すものである。
図4】実験例2によって製造された対照群および実施例のオーダーメード型真皮再生シートを示すものである。
図5】実験例2によるオーダーメード型真皮再生シートを移植した経過を示すものである。
図6】実験例2の動物実験でのマッソン・トリクローム(Masson’s Trichrome)染色結果を示すものである。
図7】CD31染色を用いて、実験例2による動物実験結果、移植部位の血管形成の有無を観察したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書において、任意の部材が他の部材「上に」位置しているというとき、これは、任意の部材が他の部材に接している場合だけでなく、二つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合をも含む。
【0018】
本明細書において、任意の部分が或る構成要素を「含む」とするというとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明の一実施態様は、脂肪組織由来間質血管分画(adipose tissue derived stromal vascular fraction)、細胞外基質、およびフィブリノーゲンを含む第1液と、トロンビンを含む第2液と、を含む、真皮再生シート用バイオインク組成物を提供する。
【0021】
本発明による真皮再生シート用バイオインク組成物は、2液型であって、前記第1液と前記第2液が順次に塗布された後、反応して、真皮再生シートが形成され得る。具体的に、前記第2液内のトロンビンと前記第1液内のフィブリノーゲンが反応してフィブリンネットワークを形成することができ、これは、前記脂肪組織由来間質血管分画および細胞外基質が十分に固定されるようにする役割をすることができる。
【0022】
前記脂肪組織由来間質血管分画(adipose tissue derived stromal vascular fraction)は、脂肪組織由来幹細胞(adipose derived stem cells)を含む。好ましくは、前記脂肪組織由来間質血管分画は、脂肪組織由来幹細胞以外の他の細胞(例えば、脂肪細胞、赤血球細胞および他の間質細胞など)および細胞外基質物質を実質的に含まなくてもよく、より好ましくは他の細胞および細胞外基質物質を全く含まなくてもよい。
【0023】
前記脂肪組織由来間質血管分画は、同種動物または異種動物の脂肪組織から抽出したものでありうる。好ましくは、前記脂肪組織由来間質血管分画は、自己由来脂肪組織から抽出したものでありうる。より具体的に、前記脂肪組織由来間質血管分画は、施術対象である患者または動物の脂肪組織を用いて抽出したものでありうる。前記脂肪組織由来間質血管分画は、脂肪組織から脂肪組織由来間質血管分画(SVF)と細胞外基質(ECM)などを微細クラスター(micro or nano SVF/ECM Cluster)の形態で抽出して収得することができ、必要に応じて純粋な脂肪組織由来間質血管分画(SVF)と細胞外基質(ECM)を別に分離して使用することもできる。一例として、Tiss’you社のLipocellキットを用いて、脂肪組織から抽出したものでありうる。ただし、これに限定されるものではなく、前記脂肪組織由来間質血管分画は、当業界に知られた方法および抽出キットなどを用いて得ることができる。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、前記第1液での脂肪組織由来間質血管分画の濃度は、10個/ml~10個/mlでありうる。前記脂肪組織由来間質血管分画の濃度が前記範囲内である場合、製造されるオーダーメード型真皮再生シートは、移植部位で真皮細胞への分化が効果的に行われ得る。
【0025】
前記脂肪組織由来間質血管分画の含量は、高いほど効果が向上するが、その含量が過度に高まる場合、細胞外基質およびフィブリノーゲンなどによる効果が発現することが困難になり得る。したがって、前記脂肪組織由来間質血管分画の含量は、第1液内での他の構成成分の含量の残部でありうる。
【0026】
前記脂肪組織由来間質血管分画は、脂肪組織由来細胞外基質と共に使用されることによって、真皮細胞への分化が促進され得る。具体的に、前記脂肪組織由来細胞外基質は、患部の傷治癒に必須の細胞が成長し分化するのに必要な生化学的因子を有しており、脂肪組織由来間質血管分画が真皮細胞に分化した後に固定され得る物理的環境を提供することができる。
【0027】
本発明の一実施態様によれば、前記細胞外基質は、同種または異種動物の脂肪組織(または細胞)から抽出したものでありうる。また、前記細胞外基質は、同種または異種動物の繊維化組織(または細胞)から抽出したものでありうる。具体的に、前記細胞外基質は、自己脂肪組織(または細胞)、または自己線維化組織(または細胞)から抽出したものでありうる。より具体的に、前記細胞外基質は、施術対象である患者または動物の脂肪細胞を用いて抽出したものでありうる。
【0028】
本発明の一実施態様によれば、前記細胞外基質は、脱細胞化されたものでありうる。
【0029】
本発明の一実施態様によれば、前記細胞外基質は、5μm~100μmの直径の粒子でありうる。具体的に、前記細胞外基質は、物理的方法で脱細胞化および粉砕されて、粒子状で準備され得る。ひいては、前記細胞外基質は、当業界に知られている方法を用いて得ることができる。
【0030】
前記第1液のフィブリノーゲンおよび前記第2液のトロンビンの反応を通したフィブリンマトリックスは、前記脂肪組織由来間質血管分画および前記細胞外基質を固定する役割をすることができる。
【0031】
本発明の一実施態様によれば、前記第1液での細胞外基質の含量は、20wt%~60wt%でありうる。具体的に、前記第1液での細胞外基質の含量は、20wt%~50wt%でありうる。前記細胞外基質の含量が前記範囲内である場合、真皮細胞に分化した細胞の生存率が向上して、効果的に欠損された真皮部位の再生が行われ得る。前記細胞外基質の含量が過度に高い場合、真皮再生シートの製造のためのフィブリノーゲンとトロンビンの含量が相対的に少なくなって、製造された真皮再生シートの形態が維持されることが困難な問題が生じ得る。また、前記細胞外基質の含量が過度に少ない場合、真皮再生シートの製造のためのフィブリノーゲンとトロンビンの含量が過度に高まって、製造された真皮再生シートが過度に硬くなって、細胞外基質による効果を期待しにくい問題が発生しうる。したがって、前記細胞外基質の含量を前記範囲に調節して、真皮細胞に分化した細胞の生存率を向上させ、ひいては、真皮再生シートの形状維持も容易にすることが好ましい。
【0032】
本発明の一実施態様によれば、前記第1液でのフィブリノーゲンの濃度は、4mg/ml~50mg/mlでありうる。また、前記第1液でのフィブリノーゲンの濃度は、5mg/ml~40mg/ml、または7mg/ml~30mg/mlでありうる。
【0033】
本発明の一実施態様によれば、前記第2液でのトロンビンの濃度は、30IU/ml~250IU/mlでありうる。また、前記第2液でのトロンビンの濃度は、40IU/ml~250IU/ml、40IU/ml~100IU/ml、または45IU/ml~80IU/mlでありうる。
【0034】
前記フィブリノーゲンおよび前記トロンビンの濃度が前記範囲内である場合、硬化速度を適切に確保し、前記脂肪組織由来間質血管分画の分布を均一に維持することができる。これを通じて、製造されるオーダーメード型真皮再生シート内に細胞分布を均一に維持し、オーダーメード型真皮再生シートの移植後に細胞分化能が効果的になされる。また、前記フィブリノーゲンおよび前記トロンビンの濃度が前記範囲内である場合、製造された真皮再生シートの形態を良好に維持することができ、適切な硬度を維持して、患部に適合するように移植され得るという長所がある。
【0035】
本発明の一実施態様によれば、前記第1液は、アプロチニンをさらに含むことができる。前記アプロチニン(aprotinin)は、すい臓から分泌されるプロテイン分解酵素の抑制剤であって、総58個のアミノ酸からなるポリペプチドである。主に牛の肺から抽出され、血液の中ではフィブリンの分解を阻止して、止血作用をすると知られている。
【0036】
本発明の一実施態様によれば、前記アプロチニンは、1mlの第1液当たり900KIU~1,100KIU(kininogen Inactivator Unit)、具体的に1000KIUで含まれ得る。
【0037】
本発明の一実施態様によれば、前記第2液は、塩化カルシウム溶液内にトロンビンが分散したものでありうる。具体的に、前記第2液は、1ml当たり、40IU~250IUのトロンビン、5mg~6.5mgの塩化カルシウムを含むことができる。
【0038】
前記第1液および第2液の溶媒は、水、具体的には、生理食塩水でありうる。また、前記第1液内のフィブリノーゲンと前記第2液内のトロンビンは、常用のフィブリン糊キットを通じて入手することができる。
【0039】
前記第1液と第2液は、10分以内、好ましくは5分以内に反応が完了するので、前記真皮再生シート用バイオインク組成物は、施術現場で3Dプリンタを用いて真皮再生シートを即席で製造することができるという長所がある。
【0040】
本発明は、フィブリノーゲンおよびトロンビンから構成されるフィブリン糊を接着剤として使用し、これは、ヒアルロン酸接着剤またはコラーゲン接着剤より高い粘性を確保することができるので、前記オーダーメード型真皮再生シートは、患部との優れた接着力を有し、ひいては、高い強度を維持することができる。
【0041】
本発明の他の実施態様は、(a)3Dスキャナを用いて、欠損された真皮部位の3次元データを収得する段階と、(b)脂肪組織由来間質血管分画、細胞外基質、およびフィブリノーゲンを含む第1液を用いて、前記収得された3次元データの形状に対応する第1層を形成する段階と、(c)トロンビンを含む第2液を前記第1層上に塗布して第2層を形成する段階と、(d)前記第1層および前記第2層が反応して、真皮再生シートを形成する段階と、を含む、オーダーメード型真皮再生シートの製造方法を提供する。
【0042】
また、本発明の一実施態様によれば、(a1)3Dプリンタを用いて収得された3次元データの形状に対応するモールドを製造する段階をさらに含み、段階(b)は、前記モールド内に前記第1液を塗布するものでありうる。
【0043】
段階(a)は、当業界において知られた3Dスキャナ装備または3Dプリンタ装備を用いることができる。また、段階(a1)は、当業界において知られた3Dプリント装備を用いることができる。前記モールドは、前記第1液および第2液の塗布時に立体的形態を固定できるようにする役割をすることができる。前記モールドは、前記オーダーメード型真皮再生シートの形成後に除去され得る。前記モールドは、当業界において一般的に使用される生体適合性高分子を用いて形成され得る。
【0044】
本発明の一実施態様によれば、段階(b)および段階(c)は、インクジェットプリンティングまたは3Dプリンティングを用いて行われ得る。具体的に、段階(b)および段階(c)は、当業界において知られた2以上のノズルを有するプリンティング装置を用いることができ、それぞれのノズルから前記第1液および第2液をそれぞれ吐出して立体形状を作ることができる。ひいては、前記第1層の形成時に3Dプリンタまたはインクジェットプリンタを用いて、均質な細胞分布を有するようにして、前記オーダーメード型真皮再生シート内の細胞固まり現象などを防止することができる。
【0045】
本発明の一実施態様によれば、段階(b)および段階(c)は、2回以上交互に反復して行われ得る。具体的に、体積が大きい真皮再生シートの形成が必要な場合、段階(b)および段階(c)が交互に行われて、「第1層/第2層/第1層/第2層のように積層された後に凝固して、真皮再生シートが形成され得る。
【0046】
本発明の一実施態様によれば、段階(d)は、10分以内に完了することができ、好ましくは5分以内に完了することができる。具体的に、段階(d)は、3分~7分間反応して前記第1層および前記第2層が反応して、オーダーメード型真皮再生シートを形成するものでありうる。
【0047】
本発明によるオーダーメード型真皮再生シートの製造方法において、前記脂肪組織由来間質血管分画および細胞外基質は、患者または動物の脂肪組織から抽出されて別途の培養段階なしに準備され得る。これを用いて前記第1液を製造した後、前記オーダーメード型真皮再生シートを早期に製造して、これを患部に移植することができるので、細胞の活性が最大化され得る。
【0048】
また、前記オーダーメード型真皮再生シートの製造方法は、患部の形状と同一に真皮再生シートを製造することができるので、移植部位と真皮再生シート間の間隙を最小化して、回復後に自然な状態を具現することができる。
【0049】
本発明のさらに他の実施態様は、前記製造方法を用いて製造された、オーダーメード型真皮再生シートを提供する。
【0050】
前記オーダーメード型真皮再生シートは、前述したように、患者または動物の脂肪組織を用いて短時間内に患部に適合した形状に製造した後に移植され得る。前記真皮再生シートは、患部に移植し、ドレッシングで患部を保護して、損傷した皮膚の回復を図ることができる。前記オーダーメード型真皮再生シートは、移植された後、脂肪組織由来間質血管分画が真皮細胞に分化し、分化した真皮細胞は、前記脂肪組織由来細胞外基質およびフィブリンマトリックス内に固定されて、損傷した皮膚が回復され得る。
【0051】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例により詳細に説明することとする。しかしながら、本発明による実施例は、様々な他の形態に変形され得、本発明の範囲が下記で記述する実施例に限定されると解されない。本明細書の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0052】
脂肪組織由来間質血管分画(SVF)
脂肪組織由来間質血管分画(SVF)細胞は、下記の段階を通じて収得した。
【0053】
1.無菌手術室で医師の主導の下に脂肪吸引術を実施して、約60ccの脂肪組織を抽出し、これと同じ量で0.075%のコラゲナーゼ(collagenase)を添加し、これを37℃の温度で230rpmの振とう培養(Shaking incubation)で30分間反応させた。
【0054】
2.上記のように反応後、反応物を25℃で420g(Relative Centrifugal Force(RCF))の速度で10分間遠心分離を行い、遠心分離結果、SVFペレット層、コラゲナーゼ層およびオイル層の3層に区分された。
【0055】
3.SVFペレット層を除いた上部液を除去し、SVFペレット層をPBS(Phosphate Buffered Saline)で再懸濁した後、100μmのナイロンフィルター(Cell strainer)を用いて再懸濁したSVF層の繊維質と残っている不純物を除去した。
【0056】
4.フィルタリングされたSVFを含む溶液を再懸濁し、3回遠心分離を行った後、最下層のペレットのみを残して除去した後、セルカウンター(Cell counter)を用いて細胞核(nucleus cell)を計算した結果、1ml当たり0.26×10個~2.2×10個のSVFが収得されたことを確認することができた。
【0057】
細胞外基質(ECM;extracellular matrix)
無菌手術室で医師の主導の下に脂肪吸引術を実施して脂肪組織を抽出した後、これを生理食塩水に混合した。そして、12,000rpm~20,000rpm条件のホモジナイザー(homogenizer)を用いて機械的に脂肪組織からECMを分離した後、これを遠心分離した。遠心分離後の沈殿物をさらに遠心分離する過程を3回~5回繰り返した後、最終的にECMを収得した。
【0058】
実験例1:オーダーメード型真皮再生シート内の細胞生存力確認のためのIn Vitro実験
図1は、本発明によるオーダーメード型真皮再生シートを製造するために、第1液および第2液をそれぞれ準備する過程を示すものである。具体的に、前記収得されたSVFとECMを混合注射器(mix syringe)を用いて混合した後、これに4.5mg/mlのフィブリノーゲンが混合されたアプロチニン液1mlと混合注射器(mix syringe)を用いて混合して、第1液を製造した。この際、第1液内のECMの含量を図2のように10wt%または20wt%に調節した。
【0059】
ひいては、製造された第1液と同じ体積のトロンビンが分散した塩化カルシウム溶液を準備した。この際、第2液内のトロンビンの濃度は、図2のように7.8IU/ml~250IU/mlに調節した。
【0060】
準備された第1液を塗布して第1層を形成した後、第1層上に準備された第2液を塗布して、オーダーメード型真皮再生シートを製造した。
【0061】
図2は、実験例1によるオーダーメード型真皮再生シートの細胞生存力を確認した写真を示すものである。具体的に、図2は、オーダーメード型真皮再生シートに対し生きている細胞を確認するための緑色蛍光calcein-AM染色と血しょう膜の損失の有無を確認するための赤色蛍光-ethidium homodimer-1染色を行った後、共焦点顕微鏡(Confocal microscope(leica,TCS SP5))を用いて細胞生存力を確認したものである。図2によれば、ECMの含量が20wt%である場合、SVFとECM間の相互作用(interaction)が向上して、細胞増殖が活発になることを確認することができ、ひいては、トロンビンの濃度が50IU/ml以上である場合、細胞の増殖がさらに活発であることを確認することができる。
【0062】
実験例2:オーダーメード型真皮再生シートの効能確認のための動物実験(In Vivo実験)
本発明による真皮再生シートの効能を検証するために、4ヶ月齢の豚の皮膚を2.5cm×2.5cmのサイズに除去した後、前述した方法のように、豚の脂肪組織からSVFおよびECMを収得した。図3は、実験例2のための動物実験での皮膚を除去した写真を示すものである。
【0063】
ひいては、前記収得されたSVFとECMを混合注射器(mix syringe)を用いて混合した後、これに9mg/mlのフィブリノーゲンが混合されたアプロチニン液1mlと混合注射器(mix syringe)を用いて混合して第1液を製造した。この際、第1液内のECMの含量は、20wt%であり、SVFの濃度は、6.25×10個/mlであった。また、50IU/ml濃度のトロンビンを含む第2液を準備した。
【0064】
そして、3Dスキャナを用いて除去された皮膚領域をスキャニングした後、3D Bio 3Dプリンタ(INVIVO,ROKIT)を使用して準備された第1液および第2液を順次に塗布した後、5分間固めて、オーダーメード型真皮再生用シートを製造した。このように製造された真皮再生用シートを除去された皮膚領域に移植した後、ドレッシング処理して、14日間皮膚の回復程度を観察した。
【0065】
対照群として、第1液にECMを含まなず、同じ方法でオーダーメード型真皮再生シートを製造して除去された皮膚領域に移植した後、ドレッシング処理して、14日間皮膚の回復程度を観察した。
【0066】
図4は、実験例2によって製造された対照群および実施例のオーダーメード型真皮再生シートを示すものである。
【0067】
図5は、実験例2によるオーダーメード型真皮再生シートを移植した経過を示すものである。具体的に、図5は、対照群(only SVF)と実施例(SVF+ECM)によるオーダーメード型真皮再生シートを移植した写真を示すものであり、移植当日(0 days)から14日後(14 days)の経過を示すものである。
【0068】
図6は、実験例2の動物実験でのマッソン・トリクローム(Masson’s Trichrome)染色結果を示すものである。具体的に、図6は、損傷がない皮膚(normal)領域、皮膚を除去した領域(defect only)、および皮膚が除去された領域に実施例によるオーダーメード型真皮再生シートを移植(SVF+ECM)した領域、それぞれを皮膚除去後14日経過後、マッソン・トリクローム染色を行って観察したものである。図6によれば、皮膚が除去された後14日間放置された場合(defect only)、真皮層にコラーゲン複合体が非常に低い濃度で形成されることを確認することができる。反面、実施例によるオーダーメード型真皮再生シートを移植(SVF+ECM)した場合、真皮層に明確な青色で染色に行われて、真皮層にコラーゲン複合体が高い密度で形成されたことを確認することができ、表皮層に明確に赤色で染色が行われて、表皮層の構成成分であるケラチン、細胞質などが形成されることを確認することができる。
【0069】
図7は、CD31染色を用いて、実験例2による動物実験結果、移植部位の血管形成の有無を観察したものである。具体的に、図7は、損傷がない皮膚(normal)領域、皮膚を除去した領域(defect only)、および皮膚が除去された領域に実施例によるオーダーメード型真皮再生シートを移植(SVF+ECM)した領域、それぞれを皮膚除去後14日経過後にCD31染色を行って血管再生の有無を観察したものである。図7によれば、皮膚が除去された後14日間放置された場合(defect only)、茶色に染色された血管領域が非常に散発的に狭く現れることを確認することができる。反面、実施例によるオーダーメード型真皮再生シートを移植(SVF+ECM)した場合、茶色に染色された血管生成領域が非常に大きく多数で存在することを確認することができる。
【0070】
実験例2の様々な実験結果に基づいて、本発明によるオーダーメード型真皮再生シートを皮膚に移植する場合、皮膚の再生が促進され、ひいては、皮膚内の血管生成も促進されて、本来の皮膚と類似に回復することができることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7