(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】ガーネット構造に基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20220715BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20220715BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20220715BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220715BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220715BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220715BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20220715BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
C04B35/50
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01G11/56
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021035828
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】10 2020 111 624.1
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ロイケル
(72)【発明者】
【氏名】マイケ シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ロータース
(72)【発明者】
【氏名】イェルク シューマッハー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング シュミートバウアー
(72)【発明者】
【氏名】ベアント リューディンガー
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-529327(JP,A)
【文献】特開2013-134852(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110128140(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105778915(CN,A)
【文献】特表2017-511781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0179521(US,A1)
【文献】国際公開第2013/010692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
C04B 35/50
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01G 11/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンを含むガーネット構造に基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)であって、少なくとも1つの三価のイオンM
3+によりランタンサイトで共ドーピングされており、前記三価のイオンM
3+はLa
3+のイオン半径よりも小さいイオン半径を有し、且つ化学量論組成のガーネット構造に比して高いリチウム含有率を有し、ただし、M
3+がイットリウムを表す場合、Y
3+とは異なり且つLa
3+のイオン半径よりも小さいイオン半径を有するさらなる三価のイオンM
3+がランタンサイトで共ドーピングされている、前記アルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項2】
一般化学式:
Li
7-3x+y'+2y''-z'-2z''+uAl
x
3+La
3-y-y'-y''M
y
3+M
y'
2+M
y''
1+Zr
2-z-z'-z''M
z
4+M
z'
5+M
z''
6+O
12±δ (I)
[前記式中、
M
3+は、La
3+よりも小さいイオン半径を有する、Al
3+以外の1つ以上の三価のカチオンを表し、
M
2+は、1つ以上の二価のカチオンを表し、
M
1+は、Li
+以外の1つ以上の一価のカチオンを表し、
M
4+は、Zr
4+以外の1つ以上の四価のカチオンを表し、
M
5+は1つ以上の五価のカチオンを表し、
M
6+は1つ以上の六価のカチオンを表し、
0.1≦x<1
0<y<2
0≦y’<0.2
0≦y’’<0.2
0≦y’+y’’<0.2
0≦z<0.5
0≦z’<0.8
0≦z’’<0.5
0≦δ<2、
ここで、化学量論組成を超えるリチウム含有率についてu>0であり、好ましくはu≧0.2である]
を有し、ただし、M
3+がイットリウムを表す場合、Y
3+とは異なり且つLa
3+のイオン半径よりも小さいイオン半径を有するさらなる三価のイオンM
3+がランタンサイトで共ドーピングされている、請求項1に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項3】
ガーネット構造に基づく前記式(I)のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体の式単位に対してそれぞれ、0.1≦x<0.5、さらに好ましくは0.14≦x<0.5であることを特徴とする、請求項2に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項4】
Y
3+ の量が、ガーネット構造に基づく前記アルミニウムドープリチウムイオン伝導体の式単位あたり
の原子数<0.2であることを特徴とする、請求項
2または3に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項5】
(La
3++M
3++M
2++M
1+)/(Zr
4++M
6++M
5++M
4++M
3+)の
原子数の比
の値<1.5、好ましくは、(La
3++M
3++M
2++M
1+)/(Zr
4++M
6++M
5++M
4++M
3+)の
原子数の比
の値<1.35であり、前記式中、M
3+はゼロではないが、M
6+、M
5+、M
4+、M
2+およびM
1+はそれぞれゼロであってよいことを特徴とする、請求項
2または3に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項6】
(La
3++M
3++M
2++M
1+)/(Zr
4++M
6++M
5++M
4++M
3+)の
原子数の比
の値が1.49~1.0の範囲、好ましくは1.35~1.0の範囲であることを特徴とする、請求項
5に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項7】
前記単数または複数の三価のカチオンM
3+が、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、イットリウム、スカンジウム、ビスマスおよびインジウムからなる群から、好ましくはガドリニウム、ニオブおよびイットリウムから選択され、とりわけ特に好ましくはガドリニウムとさらなる三価のカチオンとの、殊にイットリウムとの組み合わせであることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項8】
前記三価のカチオンM
3+の1つがガドリニウムであり、且つガーネット構造に基づく前記アルミニウムドープリチウムイオン伝導体の式単位あたり少なくとも0.1molのガドリニウムが存在することを特徴とする、請求項
2から
6までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項9】
格子定数a<12.965Åを有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項10】
前記三価のカチオンM
3+
の元素は三価のみで存在し得ることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項11】
リチウムおよび/またはアルミニウムおよび/またはM
3+が富化されているアモルファス相を有することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項12】
化学量論組成のガーネット構造に比して高いリチウム含有率を有し、且つ立方晶の結晶相:正方晶の結晶相の比
が質量%で90%
超:10%
未満、好ましく
は95%
超:5%
未満、特に好ましく
は98%
超:2%
未満を有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項13】
d
50=0.1μm~30μmの範囲の粒度を有する、請求項1から12までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体からなる粉末。
【請求項14】
10
-5S/cmを上回るイオン伝導度を有する、請求項1から12までのいずれか1項、または請求項13に記載の、焼結されたアルミニウムドープリチウムイオン伝導体。
【請求項15】
好ましくはスカルるつぼ内で、溶融法を使用して実施することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体の製造方法。
【請求項16】
電池、コンデンサまたは蓄電池、好ましくはリチウム電池またはリチウム蓄電池、殊にセパレータ、カソード、アノードまたは固体電解質における、請求項1から14までのいずれか1項に記載のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体またはその粉末の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット構造に基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、その製造方法ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電池技術において、近年、リチウムイオンに基づく電池システムがますます普及している。これらは殊に、高いエネルギー密度および期待される長期耐久性を特徴とし、効率的な電池構成が可能になる。ここで、高い化学反応性、およびリチウムイオンのわずかな質量、並びにその高い移動度が中心的な役割を果たす。従って、固体リチウムイオン伝導体の開発は大きな興味を持たれている。
【0003】
固体電池または固体蓄電池は、電極と電解質との両方が固体材料からなる。リチウムイオン電池またはリチウムイオン蓄電池は、電気化学電池の3つ全ての相にリチウム化合物が存在し、つまり負電極、正電極並びに電解質がリチウムイオンを含有する。その際、リチウムに基づく固体電池または固体蓄電池の一般的な利点は、可燃性または有毒であることが多く且つ分解傾向がある液体電解質が置き換えられ、ひいてはリチウムに基づく電池の安全性および信頼性の改善が可能になることである。
【0004】
リチウム・ガーネットとも称されるガーネット構造またはガーネット状構造に結晶化するリチウムイオン伝導体、例えばジルコン酸リチウムランタン(LLZO)は、室温で高いイオン伝導性ゆえに、固体リチウムイオン電池または全固体電池(ASSB)における電解質として使用するための有望な材料である(Murugan R.,Thangadurai V.,Weppner W., Fast lithium ion conduction in garnet-type Li7La3Zr2O12, Angew. Chem. Int. Ed. 46, 2007, 7778~7781)。
【0005】
この材料の合成は種々の方法: 酸化物、炭酸塩または水酸化物の混合物からの固体反応を用いて、硝酸塩およびアルコキシドの加水分解および縮合に基づくゾルゲル合成を介して、噴霧熱分解を用いて、または気相もしくはプラズマから(スパッタ法またはCVD)行うことができる。
【0006】
固体反応は本来、単純な合成方法であるはずだが、この方法は実用上、本質的な欠点を有する。必要な高い焼結温度、およびこの高い温度での長い滞留時間がリチウムの蒸発をもたらし、それにより化学量論組成の正確な制御が困難になる。さらに、この蒸発は寿命、工程において使用される炉、および他の補助手段の寿命にとっても問題であり、なぜならリチウムは多くの金属と低融点の合金を形成し得るからである。
【0007】
さらなる問題は生成物において不均質性が生じることであり、そのことはさらなる煩雑な工程、例えば新たな粉砕、繰り返しの焼結段階によって補償しなければならないことが多い。さらに異相の形成が観察される。
【0008】
溶剤に基づく製造方法、例えばゾルゲル法または噴霧熱分解は、大量の溶剤および通常はコストのかかる出発材料、例えばアルコキシドを使用しなければならないことが多いという欠点を有する。
【0009】
これに対し、例えば出発材料を溶融および均質化し、並びに溶融物を直接凝固または溶融物を狙い通りに制御して冷却または急冷することにより冷却し、次に温度処理(セラミック化処理)する溶融法を介した製造の場合、例えば独国特許出願公開第102014100684号明細書(DE102014100684A1)に記載されるように、拡張性および費用効率に関して多数の利点がもたらされる。この場合、出発材料としては、それぞれ費用および可用性に従って選択して、酸化物、水酸化物、炭酸塩および/または塩を使用できる。次いで、それらの出発材料を一緒に溶融し、溶融物中で均質化する。続いて、冷却法、および場合によりさらなる成型工程、熱的な後処理および細分化を行う。従って、溶融法を介してリチウムイオン伝導体の製造を実施することが特に有利である。
【0010】
ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)は、室温で正方晶構造、および立方晶の高温構造を有する多形を示すことが知られている。しかしながら、立方晶の高温構造のみが10-5S/cmを上回る、必要な高い伝導率を提供する一方で、正方晶変態は<10-6S/cmの顕著に低いイオン伝導率しか有さない。この理由から、室温で立方晶を安定化させるために多数のドーパント、例えばNb、Ta、Ga、W、Sb、Te、Alが使用される。その際、これを行う方式は通常、常に同じプロセスで、つまりあるイオンを他のより高い原子価のイオンにより置換し、リチウムの空格子点を生成し、それによって立方晶を安定化させることによって達成される(Gu W., Ezbiri M., Prasada Rao R., Avdeev M., Adams S., Effects of penta- and trivalent dopants on structure and conductivity of Li7La3Zr2O12, Solid State Ionics, 274, 2015, 100~105)。この種類のドーピングは原理的に、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)のあらゆる格子サイトで可能である(Li+→M2/3+、La3+→M4+、Zr4+→M5/6+)。
【0011】
しかしながら、ドーパントの種類によっては、さらなる問題が生じることがある。ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)が、例えば全固体電池(ASSB)におけるアノードとしてのリチウム金属と接触して使用されるべき場合、多原子価のドーパント、例えばニオブ(Ohta S., Kobayashi T., Asaoka T., High lithium ionic conductivity in the garnet-type oxide Li7-xLa3(Zr2-xNbx)O12(x=0~2), J.Power Sources, 196, 2011, 3342~3345)、タングステン(Dhivya L., Janani N., Palanivel B.およびMurugan R., Li+ transport properties of W substituted Li7La3Zr2O12 cubic lithium garnets, AIP Advances, 3, 2013, 082115)、アンチモン(Ramakumar S., Satyanarayana L., Manorama S. V., Murugan R., Structure and Li+ dynamics of Sb-doped Li7La3Zr2O12 fast lithium ion conductors, Phys.Chem.Chem.Phys. 15, 2013, 11327~11338, 要約)、またはテルル(Deviannapoorani C., Dhivya L., Ramakumar S., Murugan R., Lithium ion transport properties of high conductive tellurium substituted Li7La3Zr2O12 cubic lithium garnets, Journal of Power Sources, 240, 2013, 18~25)は使用できず、なぜならそれらは還元され、絶縁性の反応生成物に変換されるか、または導電性の反応生成物すら形成し得るからである。さらに、数少ない還元安定性のあるドーパントの中で、いくつか、例えばタンタル(Wang Y., Lai W., High Ionic Conductivity Lithium Garnet Oxides of Li7-xLa3Zr2-xTaxO12 Compositions, Electrochem. Solid-State Lett. 15, 2012, 68~71、要約)およびガリウム(Wu J.-F., Chen E.-Y., Yu Y., Liu L., Wu Y., Pang W. K., Peterson V. K., Guo X., Gallium-Doped Li7La3Zr2O12 Garnet-Type Electrolytes with High Lithium-Ion Conductivity, ACS Appl.Mater.Interfaces, 9, 2017, 1542~1552、要約)は、高い材料コストに基づき商業用の利用には関心が持たれない。
【0012】
アルミニウムは、特に安価であり、さらに還元安定性であるために特に有望である。アルミニウムによる立方晶相の安定化は多くの刊行物に記載されている(例えば: Rangasamy E., Wolfenstine J., Sakamoto J., The role of Al and Li concentration on the formation of cubic garnet solid electrolyte of nominal composition Li7La3Zr2O12, Solid State Ionics, 206, 2012, 28~32)。
【0013】
しかしながら、アルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)は、リチウム含有率における変動に対して、ひいては工程温度に関して比較的敏感である。アルミニウムとリチウムとは同じ格子サイトを占有するので、本来は製造の際のリチウムの損失を補償でき且つ焼結挙動に良い影響を及ぼす過剰なリチウムが、正方晶相の優先的な形成をもたらし、ひいては立方晶相の安定化不足をもたらし、従って立方晶と正方晶との混合物のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)が形成される(Rangasamy E. et al., 2012, 上記引用文献)。
【0014】
この問題は溶融法を介した製造の場合に増大して生じ、なぜなら、ここでは溶融物中への拡散が特に大きいからである。さらに、アルミニウムドープされた立方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)においては、冷却の際、または後続の熱プロセスの際、立方晶および正方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)と二次相との分離が起きることがある。これは全固体電池(ASSB)中でアルミニウム-ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)を使用する場合には明らかな欠点であり、なぜなら、その製造は高温での焼結を含むことが多いからである。
【0015】
唯一のドーパントとしてのアルミニウムでのドーピングは、多数の刊行物に記載されている。一例として、アルミニウムドープLi7La3Zr2O12からの固体電解質、並びにその製造方法に関する欧州特許出願公開第2159867号明細書(EP2159867A1)を示す。
【0016】
ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックは、独国特許出願公開第102014100684号明細書内にも記載されている。ガーネット型の主結晶相を有するそのリチウムイオン伝導性ガラスセラミックは、少なくとも5質量%のアモルファス割合を有する。好ましくは、ガーネット型の主結晶相は以下の組成式:Li7+x-yMx
IIM3-x
IIIM2-y
IVMy
VO12を有し、前記式中、MIIは二価のカチオン、MIIIは三価のカチオン、MIVは四価のカチオン、MVは五価のカチオンであり、有利には0≦x<3、さらに好ましくは0≦x≦2、0≦y<2、および特に好ましくは0≦y≦1である。リチウム以外に、好ましくはランタンおよびジルコニウムが存在し、その際、さらなるドーパント、例えばアルミニウムが含有され得る。ランタンイオンよりも小さいイオン半径を有する、ランタンのサイトでの共ドーピングとしての三価のイオンの使用は記載されていない。
【0017】
特開2013-134852号公報(JP2013-134852A)および特開2013-149493号公報(JP2013-149493A)には、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)のランタンサイトでの三価のイオンによるドーピングが記載されている。特開2013-134852号公報は、化学式Li7La3-xAxZr2O12を有する複合酸化物であるリチウムイオン伝導体材料を開示しており、前記式中、AはY、Nd、SmおよびGdの群から選択される少なくとも1つの金属であり、且つxは0<x<3の範囲である。特開2013-149493号公報は、化学式Li7-yLa3-xAxZr2-yMyO12を有する複合酸化物であるリチウムイオン伝導体材料に関し、前記式中、AはY、Nd、SmおよびGdの群から選択される少なくとも1つの金属であり、0<x<3であり、且つMはNb、Ta、Sb、BiおよびPbの群から選択される少なくとも1つの金属であり、0<y<2である。しかし、両方の文献で、アルミニウムによる共ドーピングも、過剰なリチウムでどのように立方晶相を安定化させ得るかの可能性も記載されていない。
【0018】
中国特許出願公開第107732298号明細書(CN107732298A)には、Gdでドープされた化学量論組成比のLi7La3Zr2O12のセラミックの製造方法が記載されているが、アルミニウムによる共ドーピング、およびこれに関連するドーピングによる良い効果には言及されていない。
【0019】
特開2018-195483号公報(JP2018-195483A)もガーネット構造を有し且つY、Nd、SmまたはGdによるドーピングと、ジルコニウムサイトでのNbまたはTaによるドーピングとを組み合わせた固体電解質に関する。しかしながら、アルミニウムによる共ドーピングには言及されていない。
【0020】
米国特許出願公開第2011/244337号明細書(US2011/244337A1)は、式Li5+xLa3(Zrx,A2-x)O12を有し、Zrサイトで以下の元素Sc、Ti、V、Y、Nb、Hf、Ta、Al、Si、Ga、GeおよびSnの1つ以上によりドーピングされ得るジルコン酸リチウムランタンを記載しており、前記式中、xは1.4≦x<2である。本発明とは異なり、ここではドーピングはZrの置換によって行われ、Laの置換ではない。さらにこれは、条件(La3++M3++M2++M1+)/(Zr4++M6++M5++M4++M3+)<1.5[前記式中、M3+は常に存在し、従ってゼロではない]が、満たされ得ないことを意味する。従って、化学量論組成を超えるLi含有率の場合に、異相を形成することなく立方晶相を安定化することは、前記米国出願においては達成され得ない。Al、GaおよびY以外の三価のイオンによるドーピングもここでは記載されていない。
【0021】
ランタンサイトでLa、Y、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbを含有でき、且つ任意にAlを含有するガーネット型構造を有する化合物が独国特許出願公開第102011079401号明細書(DE102011079401A1)に記載されている。詳細には、ここで、以下の一般化学式を有するガーネット型結晶構造を有する化合物が開示されている:
Lin[A(3-a'-a'')A’(a')A’’(a'')][B(2-b'-b'')B’(b')B’’(b'')][C’(c')C’’(c'')]O12
前記式中、
A、A’およびA’’はガーネット型結晶構造の十二面体位置を表し、
AはLa、Y、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
A’はCa、SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
A’’はNaおよびKからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
0≦a’<2であり、且つ0≦a’’<1であり、
B、B’およびB’’はガーネット型結晶構造の八面体位置を表し、
BはZr、HfおよびSnからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
B’はTa、Nb、SbおよびBiからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
B’’はTe、WおよびMoからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
0≦b’≦2であり、且つ0≦b’’≦2であり、
C’およびC’’はガーネット型結晶構造の四面体位置を表し、
C’はAlおよびGaからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
C’’はSiおよびGeからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
0≦c’≦0.5であり、且つ0≦c’’≦0.4であり、且つn=7+a’+2・a’’-b’-2・b’’-3・c’-4・c’’、且つ5.5≦n≦6.875であり、ここで、b’=2である場合、6.0<n<6.875、または5.5≦n≦6.875、且つc’+c’’>0であり、およびB’がNbである場合、6.0<n<6.4または5.5≦n≦6.875、且つc’+c’’>0、且つ/またはa’+a’’>0である。
【0022】
ただし、ここでリチウム含有率はこのガーネット構造式に相応して5.5~最大6.875でなければならず、従ってドーピングによって予め設定された、化学量論組成のリチウム含有率に相応する。従って、本発明のように、化学量論組成を超えるリチウム含有率は含まれない。しかしながら、化学量論組成を超えるリチウム含有率は、例えば焼結温度の低下によって、焼結挙動に良い影響を及ぼし、製造またはさらなる加工の際に生じ得るリチウムの損失を埋め合わせるために役立つ。これは、独国特許出願公開第102011079401号明細書によれば可能ではない。
【0023】
溶液からアルカリ金属を抽出するための使用について、類似の材料が国際公開第2019/055730号(WO2019/055730A1)で提案されている。前記文献は殊に、下記の一般式を有するガーネット型構造を有する酸化物材料を含むイオン伝導性の固体電解質膜に関する:
Lin[A(3-a'-'a')A’(a')A’’(a'')][B(2-b'-b'')B’(b')B’’(b'')][C’(c')C’’(c'')]O12、
前記式中、
A、A’およびA’’は結晶の十二面体位置を表し、
Aは1つ以上の三価の希土類元素、例えばLa、Ce、Sc、Y、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbを表し、
A’は1つ以上のアルカリ土類金属元素、例えばMg、Ca、SrおよびBaを表し、
A’’はLi以外の1つ以上のアルカリ金属元素、例えばNaおよびKを表し、
0<a’<2、且つ0<a’’≦1であり、
B、B’およびB’’は結晶の八面体位置を表し、
Bは1つ以上の四価の元素、例えばZr、HfおよびTiを表し、
B’は1つ以上の五価の元素、例えばTa、Nb、V、SbおよびBiを表し、
B’’は1つ以上の六価の元素、例えばTe、WおよびMoを表し、
0<b’+b’’<2であり、
CおよびC’’は結晶構造の四面体位置を表し、
CはAl、Gaおよびホウ素の1つ以上を表し、
C’’はSiおよびGeの1つ以上を表し、
0<c’<0.5、且つ0<c’’<0.4、且つn=7+a’+2a’’-b’-2b’’-3c’-4c’’且つ4.5<n<7.5である。
【0024】
しかしながら、ここでもまた、過剰なリチウムの可能性は明示的に除外されている。
【0025】
米国特許出願公開第2016/268630号明細書(US2016/268630A1)にも、希土類、好ましくはGd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuによるジルコン酸リチウムランタン(LLZO)のドーピングが開示されている。以下の式:Li
7+xLa
3Zr
2-xA
xO
12が記載されており、前記式中、Aは1つ以上の希土類元素を表す。前記材料はさらに、0.3~2質量%のアルミニウムを含有し得る。しかしながら、ここでドーピングはジルコニウムサイトで行われる。従って、(La
3++M
3++M
2++M
1+)/(Zr
4++M
6++M
5++M
4++M
3+)の比<1.5[前記式中、M
3+は常に存在し、従ってゼロではない]は、ここでは全く満たされ得ず、なぜなら、ランタンサイトではドーピングされないからである。米国特許出願公開第2016/268630号明細書においては、ジルコニウムサイトでのZr
4+よりも大きなイオン半径を有する記載されるイオンの取り込みは、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の格子定数の増加をもたらす。これに対し、本発明においては、ランタンサイトでの希土類イオンの取り込みは、格子定数の減少をもたらす(本発明の
図1、Gdドーピングを参照)。従って、本発明とは逆の作用が存在する。
【0026】
アルミニウム以外のさらなるドーパントの使用は特開2012-031025号公報(JP2012-031025A)に記載されている。ここでは、式
LixLn3(M1
yM2
z)Ot
を有するアルミニウムドープリチウムガーネット化合物が記載されており、
前記式中、
Ln=La、Pr、Nd、Sm、Lu、Y、K、Mg、Ba、Ca、Srからなる群から選択される1つ以上の元素を表し、
M1=Si、Sc、Ti、V、Ga、Ge、Y、Zr、Nb、In、Sb、Te、Hf、Ta、W、Biからなる群から選択される1つ以上の元素を表し、
M2=Sc、Ti、V、Y、Nb、Hf、Ta、Si、Ga、Geからなる群から選択される1つ以上の元素を表し、M1とは異なり、
3≦x≦8、y>0、z≧0、1.9≦y+z≦2.1、且つ11≦t≦13である。記載されたガーネットの式に応じて、ランタンサイトでアルミニウム含有材料を三価のイオンにより共ドーピングすることも可能ではあるが、より小さな、有利には多原子価ではないイオンの使用下での共ドーピングはここでは開示されていない。ランタンサイトでの希土類イオン、例えばGdによる好ましいドーピングもここでは記載されていない。
【0027】
欧州特許出願公開第3518251号明細書(EP3518251A1)は、式
(Li7-ax+y'Ax)La3(Zr2-yBy)O12
を有する固体電解質を開示しており、前記式中、AはMg、Zn、Al、GaおよびScから選択され、a=Aの価数であり、BはAl、Ga、Sc、Yb、DyおよびYから選択され、且つ0<x<1.0、0<y<1.0、且つ5.5<(7-x+y)<7.0である。ここでも、本発明とは異なり、ドーピングはZrサイトで行われる。従って、(La3++M3++M2++M1+)/(Zr4++M6++M5++M4++M3+)の比<1.5の調整はここでは可能ではない。それによって可能になる化学量論組成を超えるリチウム含有率も、(7-ax+y)<7の条件で一般に除外される。
【0028】
中国特許第106129463号明細書(CN10612946)は、式Li
6+xAl
y(La
zA
3-z)(Zr
nG
2-n)O
12を有し、0~3質量%のSiO
2、Bi
2O
3、B
2O
3、CeO
2、ZnO、CuO、MnO
2、Co
2O
3およびSnO
2と混合されたジルコン酸リチウムランタン(LLZO)材料を、焼結性を改善するために使用することを提案している。ランタンサイトで、Ca、Sr、YまたはBaの少なくとも1つから選択される元素Aがドーピングされることができ、ジルコニウムサイトで、Ti、Nb、Ta、SbおよびVの少なくとも1つから選択される元素Gがドーピングされることができる。その他のパラメータについては、0≦x≦2、0≦y≦1、2≦z≦3、1≦n≦2である。ランタンサイトでのアルミニウムとより小さな三価のイオンとの組み合わせの有利な使用は、イットリウム以外には記載されていない。本発明についての実験では、イットリウムを唯一のドーパントとして使用する場合、ランタンサイトでのより小さなイオンのドーピングの望ましい効果は達成できないことが示されており、なぜなら、これは比較的高いドーピングの際、部分的にジルコニウムサイトで取り込まれ、そのことで望ましくない二次相の形成がもたらされるからである(本発明の
図2参照)。従って、本発明によればイットリウムは常に、Y
3+とは異なり且つLa
3+のイオン半径より小さなイオン半径を有するさらなる三価のイオンM
3+と組み合わせて存在する。これは、従来技術から明らかではない。さらに、本発明によれば好ましくは、アルミニウムドープリチウムイオン伝導体の式単位あたり<0.2までの少量のイットリウムが用いられ、それが立方晶相の安定化を促進し、且つ二次相を生成しない。これも中国特許第106129463号明細書から明らかではない。
【0029】
ドーパントとしてのランタノイドおよび/またはアクチノイドの使用も、ミシガン大学の米国特許出願公開第2018/013171号明細書(US2018/013171A1)および米国特許出願公開第2019/006707号明細書(US2019/006707A1)において論じられている。記載されるセラミックは、式LiwAxRe3-yM2Ozに相応する構造を有し、前記式中、AはB、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、SrおよびBa、およびそれらの組み合わせから選択され、Reは1つ以上のランタノイドおよび/またはアクチノイド、MはZr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Teの元素を含み、w=5~7.5、x=0~2、y=0.01~0.75、z=10.875~13.125である。ここで、Reのところでランタンおよびさらなる三価のイオンを有する、アルミニウムドープガーネットが形式的には可能であるが、この組み合わせはここでは明示的には開示されておらず、良い効果も記載されていない。リチウム含有率はドーピングにはかかわらず最大7.5に限定されている。
【0030】
中国特許出願公開第109888374号明細書(CN109888374A)は、式A-Li7-bxLa3Zr2-xMxO12を有し、ジルコニウムサイトでTe、Ta、Ti、Nb、Ge、Ga、GdまたはBiによりドーピングされた固体電解質材料を記載しており、前記式中、AはAl2O3、Al(NO3)3、炭酸アルミニウム、ZnOおよびMgOの少なくとも1つから選択され、0.1≦x≦1.5、四価のイオンMについてb=0、且つ五価のイオンMについてb=1である。ここから、リチウム含有率は化学量論組成のリチウム量に限定されることがわかる。本発明とは対照的に、ドーピングはジルコニウムサイトでのみ行われ、そのため、(La3++M3++M2++M1+)/(Zr4++M6++M5++M4++M3+)<1.5が満たされない。従って、ランタンサイトでのより小さなイオンでのドーピングの良い効果は実現され得ない。
【0031】
ランタンサイトでSr、Gdによって、且つジルコニウムサイトでZn、Alによってドープされた固体電解質材料が、中国特許出願公開第107768715号明細書(CN107768715A)で提案されている。化学式はLi7+x+2m+nLa3-x-ySrxGdyZr2-m-nZnmAlnO12と記載されており、前記式中、0.2≦x≦0.4、0.1≦y≦0.2、0.1≦m≦0.2、0.2≦n≦0.3である。従来技術において、亜鉛の使用は一般に、高いイオン伝導性を確実にするために必要なリチウム空格子点を生成するために全く適さないとみなされている(Rangasamy E., Wolfenstine J., Sakamoto J., The role of Al and Li concentration on the formation of cubic garnet solid electrolyte of nominal composition Li7La3Zr2O12, Solid State Ionics, 206, 2012, 28~32参照)。ジルコニウムサイトでのアルミニウムのドーピングは、本発明においては提供されず且つ望ましくなく、なぜならこれは所望のリチウム空格子点の生成(Zr4+→Al3++Li+)と相反するからである。
【0032】
最後に、欧州特許出願公開第3459920号明細書(EP3459920A1)は、アルミニウムも、ランタン以外のさらなるランタノイドもドーピングされ得るガーネットに基づくイオン伝導体を記載している。一般式は(Lix-3y-z,Ey,Hz)LαMβOγと記載されており、前記式中、EはAl、Ga、FeおよびSiの少なくとも1つを表し、Lは少なくとも1つのアルカリ土類金属またはランタノイドであり、Mは酸素と六配位を有する遷移元素、または周期律表の第12~14族における典型元素から選択される少なくとも1つの元素であり、3≦x-3y-z≦7、0≦y<0.22、0≦z≦2.8、2.5≦α≦3.5、1.5≦β≦2.5、且つ11≦γ≦13である。ただし、ここでは、水での処理によりリチウムの一部をH+に交換することにより、化学量論組成を超えるリチウム含有率を明示的に回避している。しかしながらこの処理の欠点は、Li+イオンの量の減少および生じ得る可能性のあるプロトン伝導によって、電池の性能が顕著に悪化し得ることである。ここで、LのところでランタンおよびさらなるイオンM3+を有する、アルミニウムドープガーネットが形式的には可能であるが、この組み合わせはここでは明示的には開示されておらず、Lのところでのより小さな三価のカチオンM3+によるドーピングの良い効果も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【文献】独国特許出願公開第102014100684号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2159867号明細書
【文献】特開2013-134852号公報
【文献】特開2013-149493号公報
【文献】中国特許出願公開第107732298号明細書
【文献】特開2018-195483号公報
【文献】米国特許出願公開第2011/244337号明細書
【文献】独国特許出願公開第102011079401号明細書
【文献】国際公開第2019/055730号
【文献】米国特許出願公開第2016/268630号明細書
【文献】特開2012-031025号公報
【文献】欧州特許出願公開第3518251号明細書
【文献】中国特許第106129463号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/013171号明細書
【文献】米国特許出願公開第2019/006707号明細書
【文献】中国特許出願公開第109888374号明細書
【文献】中国特許出願公開第107768715号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3459920号明細書
【非特許文献】
【0034】
【文献】Murugan R.,Thangadurai V.,Weppner W., Fast lithium ion conduction in garnet-type Li7La3Zr2O12, Angew. Chem. Int. Ed. 46, 2007, 7778~7781
【文献】Gu W., Ezbiri M., Prasada Rao R., Avdeev M., Adams S., Effects of penta- and trivalent dopants on structure and conductivity of Li7La3Zr2O12, Solid State Ionics, 274, 2015, 100~105
【文献】Ohta S., Kobayashi T., Asaoka T., High lithium ionic conductivity in the garnet-type oxide Li7-xLa3(Zr2-xNbx)O12(x=0~2), J.Power Sources, 196, 2011, 3342~3345
【文献】Dhivya L., Janani N., Palanivel B.およびMurugan R., Li+ transport properties of W substituted Li7La3Zr2O12 cubic lithium garnets, AIP Advances, 3, 2013, 082115
【文献】Ramakumar S., Satyanarayana L., Manorama S. V., Murugan R., Structure and Li+ dynamics of Sb-doped Li7La3Zr2O12 fast lithium ion conductors, Phys.Chem.Chem.Phys. 15, 2013, 11327~11338, 要約
【文献】Deviannapoorani C., Dhivya L., Ramakumar S., Murugan R., Lithium ion transport properties of high conductive tellurium substituted Li7La3Zr2O12 cubic lithium garnets, Journal of Power Sources, 240, 2013, 18~25
【文献】Wang Y., Lai W., High Ionic Conductivity Lithium Garnet Oxides of Li7-xLa3Zr2-xTaxO12 Compositions, Electrochem. Solid-State Lett. 15, 2012, 68~71、要約
【文献】Wu J.-F., Chen E.-Y., Yu Y., Liu L., Wu Y., Pang W. K., Peterson V. K., Guo X., Gallium-Doped Li7La3Zr2O12 Garnet-Type Electrolytes with High Lithium-Ion Conductivity, ACS Appl.Mater.Interfaces, 9, 2017, 1542~1552、要約
【文献】Rangasamy E., Wolfenstine J., Sakamoto J., The role of Al and Li concentration on the formation of cubic garnet solid electrolyte of nominal composition Li7La3Zr2O12, Solid State Ionics, 206, 2012, 28~32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
従って本発明の課題は、従来技術において記載された欠点を回避し、且つ、化学量論組成に対して過剰に存在するリチウムを有するが、それにも関わらず立方晶変態の十分な安定性があり、殊に熱工程に対して安定である、ガーネット構造に基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にジルコン酸リチウムランタン(LLZO)を提供することである。アルミニウムドーピングの有利な特性、例えば安価なアルミニウムの使用およびリチウム金属との接触における還元安定性は保持されるままであるべきである。さらに、そのガーネット構造に基づくアルミニウムドープされたリチウムイオン伝導体は、溶融法を介して製造可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
発明の説明
先述の課題は、本発明によれば独立請求項の特徴により解決される。従属請求項は本発明の好ましい態様を表す。
【0037】
意外なことに、上記の課題が、ランタンを含むガーネット構造に基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)であって、少なくとも1つの三価のイオンM3+によりランタンサイトで共ドーピングされており、前記三価のイオンM3+はLa3+のイオン半径よりも小さいイオン半径を有し、且つ化学量論組成のガーネット構造に比して高いリチウム含有率(化学量論組成を超えるリチウム含有率)を有し、ただし、M3+がイットリウムを表す場合、Y3+とは異なり且つLa3+のイオン半径よりも小さいイオン半径を有するさらなる三価のイオンM3+がランタンサイトで共ドーピングされている、前記アルミニウムドープリチウムイオン伝導体によって解決されることが判明した。
【0038】
従って、好ましい実施態様によれば本発明は、一般化学式:
Li7-3x+y'+2y''-z'-2z''+uAlx
3+La3-y-y'-y''My
3+My'
2+My''
1+Zr2-z-z'-z''Mz
4+Mz'
5+Mz''
6+O12±δ (I)
[前記式中、
M3+は、La3+よりも小さいイオン半径を有する、Al3+以外の1つ以上の三価のカチオンを表し、
M2+は、1つ以上の二価のカチオンを表し、
M1+は、Li+以外の1つ以上の一価のカチオンを表し、
M4+は、Zr4+以外の1つ以上の四価のカチオンを表し、
M5+は1つ以上の五価のカチオンを表し、
M6+は1つ以上の六価のカチオンを表し、
0.1≦x<1
0<y<2
0≦y’<0.2
0≦y’’<0.2
0≦y’+y’’<0.2
0≦z<0.5
0≦z’<0.8
0≦z’’<0.5
0≦δ<2、
ここで、化学量論組成を超えるリチウム含有率についてu>0であり、好ましくはu≧0.2である]
を有し、ただし、M3+がイットリウムを表す場合、Y3+とは異なり且つLa3+のイオン半径よりも小さいイオン半径を有するさらなる三価のイオンがランタンサイトで共ドーピングされている、アルミニウムドープリチウムイオン伝導体に関する。
【0039】
上記の一般化学式(I)は、アルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)である。
【0040】
「ガーネット構造に基づく」との文言は、それぞれ公知の基本構造が存在するが、従来技術から公知の基本構造からの差異が存在し得ることを意味する。これらは例えば、従来技術から公知のさらなる元素による追加的なドーピングであってよい。従って、前記文言は、一般的な上位概念のガーネット構造またはガーネット型構造に入る全ての化合物を含む。
【0041】
0.1≦xはx=0.1および0.1<xであることを意味し、ここで0.1<xはxについて0.11以上である値を意味することが好ましく、且つx<1はxについて0.99以下である値を意味することが好ましい。
【0042】
0<yはyについて0.01以上である値を意味することが好ましく、且つy<2はyについて1.99以下である値を意味することが好ましい。
【0043】
0≦y’はy’=0および0<y’を意味し、ここで0<y’はy’について0.01以上である値を意味することが好ましく、且つy’<0.2はy’について0.19以下である値を意味することが好ましい。
【0044】
0≦y’’はy’’=0および0<y’’を意味し、ここで0<y’’はy’’について0.01以上である値を意味することが好ましく、且つy’’<0.2はy’’について0.19以下である値を意味することが好ましい。
【0045】
0≦y’+y’’はy’+y’’=0および0<y’+y’’を意味し、ここで0<y’+y’’はy’+y’’について0.01以上である値を意味することが好ましく、且つy’+y’’<0.2はy’+y’’について0.19以下である値を意味することが好ましい。
【0046】
0≦zはz=0および0<zを意味し、ここで0<zはzについて0.01以上である値を意味することが好ましく、且つz<0.5はzについて0.49以下である値を意味することが好ましい。
【0047】
0≦z’はz’=0および0<z’を意味し、ここで0<z’はz’について0.01以上である値を意味することが好ましく、且つz’<0.8はz’について0.79以下である値を意味することが好ましい。
【0048】
0≦z’’はz’’=0および0<z’’を意味し、ここで0<z’’はz’’について0.01以上である値を意味することが好ましく、且つz’’<0.5はz’’について0.49以下である値を意味することが好ましい。
【0049】
u>0はuについて0.01以上である値を意味することが好ましい。
【0050】
u≧0.2はu=0.2およびu>0.2を意味し、ここでu>0.2はuについて0.21以上である値を意味することが好ましい。
【0051】
従って、1つの実施態様によれば、上記の化学式(I)によるアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)は、化学量論組成のガーネット構造に比して、u>0、好ましくはu≧0.2である高いリチウム含有率を有する。u=0については、化学量論組成のリチウム含有率が存在する。これは、Al3+およびM1+、M2+、M5+およびM6+の量によって決定される: Li7-3x+y'+2y''-z'-2z''。アルミニウムドープリチウムイオン伝導体、好ましくはジルコン酸リチウムランタン(LLZO)中の化学量論組成のリチウム含有率は本発明によれば望ましくなく、従って除外される。
【0052】
式(I)において、アルミニウムの量xが、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位に対して0.1≦x<1、好ましくはジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位に対して0.14≦x<1である場合、ドープされたジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の立方晶変態を室温で安定化するために十分なリチウム空格子点(VLi)を得るために有利であることが判明した。また、特に好ましくは0.1≦x<0.5であり、さらに好ましくは0.14≦x<0.5である。
【0053】
完結化およびより良好な理解のため、本明細書においては通常、アルミニウムドープリチウムイオン伝導体の代表的な例としてジルコン酸リチウムランタン(LLZO)が説明のために挙げられる。しかしながら、その説明が、ガーネットに基づく他のあらゆるアルミニウムドープリチウムイオン伝導体について同様に該当することは自明である。ガーネットに基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体は、以下で単にリチウムイオン伝導体またはアルミニウムドープリチウムイオン伝導体とも称される。
【0054】
リチウムイオン伝導体の個々の成分について、無単位で記載される数もしくは量の記載は[pfu]として、つまりアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位あたりの原子数として理解されるべきである。
【0055】
アルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の高価数ドーピング、つまり、置き換えるべきイオンよりも高い価数を有するイオンによるドーピングは、最終的に室温で高いイオン伝導性を有する立方晶変態の安定化をもたらすリチウム空格子点の生成のために非常に重要である。
【0056】
従って、本発明によれば、リチウムサイトでのアルミニウムの高価数ドーピング(Li+→Al3++2VLi; Al3+あたり2つのLi空格子点が生成される)が存在する。既に言及されたとおり、アルミニウムによるドーピングは、殊にタンタルまたはガリウムに比して安い原料コスト、並びにニオブに比して良好な還元安定性に基づき有利である。しかしながら、タンタルまたはニオブによるドーピングの場合とは異なり、アルミニウムによるドーピングは直接的にリチウムサイトで行われるので、正しい相を得るためにはリチウム・アルミニウムの比の正確な釣り合いが必要である。つまり、リチウム含有率自体が増加すると、ドーパントのアルミニウムが部分的に結晶構造から再度排除されるので、立方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)が室温ではもはや十分に安定化されなくなる。従って、多量のリチウム出発成分を用いることによってリチウム含有率を単純に高めることは問題外である。
【0057】
この状況は特に重要であり、なぜなら、一方では(製造方法:反応性焼結、ゾルゲル、噴霧熱分解、溶融には関わらず)高い合成温度でのLi2Oの蒸発を補償し、他方では材料の焼結特性を改善するためには高められたリチウム含有率が望ましいからである(Rangasamy E.et al.,2012、上記文献)。溶融法を介してジルコン酸リチウムランタン(LLZO)を製造する場合、相の組成は特にアルミニウムとリチウムとの比の変化に対して敏感に反応する。リチウム含有率のわずかな変化、例えば生産において生じ得る揺らぎで既に、望ましくない正方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)への相の内容の大きなシフトがもたらされる。これは、本発明についての例においても示される。
【0058】
本発明はアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)のリチウム敏感性の問題を、アルミニウムドープリチウムイオン伝導体についての特定の共ドーピングの方策によって解決し、高い、殊に化学量論組成を超えるリチウム含有率に対して立方晶相を安定化する。
【0059】
本発明による共ドーピングの方策は、アルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)を、ランタンサイトで、シャノンによるイオン半径(Shannon,R.D., Revised effective ionic radii and systematic studies of interatomic distances in halides and chalcogenides, Acta Cryst. 32, 1976, 751~767)がLa3+カチオンのイオン半径よりも小さい1つ以上の三価のカチオンM3+でドーピングすることを含む。
【0060】
M3+として、イオン半径について挙げられた条件に相応するランタノイドの、つまり、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群の三価のカチオン使用が好ましい。アクチノイド、例えばトリウムおよびプロトアクチニウムも用いることができ、なぜなら、それらはLa3+より小さいイオン半径という条件を満たすからである。しかしながら、放射性の理由から、その使用は除外されるべきである。La3+よりも小さいイオン半径を有するという条件を満たす他の三価のカチオン、例えばイットリウム、スカンジウム、ビスマスおよびインジウムも使用できる。ガドリニウムとイットリウムとの組み合わせがとりわけ特に好ましい。しかし、本発明はそこに限定されない。
【0061】
三価のカチオンM
3+としてイットリウムが単独で存在することは本発明においては一般に除外され、なぜなら、これは本発明の課題を解決しないからである。安定化のために必要な量のY
3+がランタンサイトで完全には取り込まれないので、M
3+としてイットリウムを単独で使用することは所望の安定化を示さないことが判明している。イットリウム含有率が上昇すると、望ましくない二次相の形成が非常に増加する(本発明の
図2およびそれについての説明を参照)。詳細に説明されるとおり、
図1は、イットリウムを使用する場合の、ベガードの法則の格子パラメータの逸脱をガドリニウムに比して示す(ドーピングレベルと格子パラメータとの間の線形関係)。この挙動はおそらく、ランタノイドとは異なるイットリウムの結合構造に起因し、イットリウムの場合、f軌道がないことを特徴とする。従って、M
3+がイットリウムである場合、La
3+のイオン半径よりも小さいイオン半径を有し且つY
3+とは異なるさらなる三価のイオンM
3+をランタンサイトで共ドープしなければならない。
【0062】
アルミニウムドープリチウムイオン伝導体中にイットリウムが存在すべき場合、アルミニウムドープリチウムイオン伝導体の式単位あたりY3+<0.2である量でイットリウムが用いられる場合が特に有利である。これにより、立方晶相の安定化が促進され得る。
【0063】
M3+としてのランタノイドの三価のカチオンでは、ガドリニウムが特に好ましい。例えば、三価のカチオンとしての、アルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位あたり少なくとも0.1molのガドリニウムの使用が特に有利である。換言すれば、上記の式(I)において、三価のカチオンM3+は特に好ましくはガドリニウムであり、且つその際、yについてy>0.1[pfu]である。その際、特に好ましくはy=0.11以上である。これによって、ドーパントとしてのアルミニウムがガーネット構造中で特に良好に安定化され、そのことによってリチウム過剰の場合にも立方晶相が保持されたままである。
【0064】
さらに特に好ましい実施態様においては、アルミニウムドープリチウムイオン伝導体中でM3+について、Gd3+とY3+との組み合わせが存在し、好ましくはアルミニウムドープリチウムイオン伝導体の式単位あたりY3+<0.2、且つアルミニウムドープリチウムイオン伝導体の式単位あたりGd3+>0.1である。
【0065】
記載されるイオン伝導性ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)を、リチウムアノードを有する電池中の電解質として使用するために、ランタンサイトでのドーピングのために使用される三価のカチオンM3+が多原子価ではない場合が好ましい。換言すれば、三価以外の価数を有し得るイオンM3+、例えばCe3+/Ce4+は、使用されるべき電池中にリチウムアノードが存在する場合、本発明においてM3+のために好ましくは使用されない。他のアノード材料も多原子価のカチオンを還元することがある。
【0066】
より小さなイオン半径に関するランタンについてのドーパントの選択は全く新規の概念であり、全従来技術とは全く異なるアプローチに従う。つまり、従来技術から公知の方式は、リチウム空格子点濃度(VLi)に影響を及ぼすための異価数ドーピング(他の価数のイオンによるドーピング)(例えばZr4+→Ta5++VLiまたはZr4+→Y3++Li+)である。これに対し、本発明によれば、より小さな三価のカチオンによる同原子価ドーピング(同じ価数のイオンによるドーピング)(La3+についてM3+)が実施され、その際、リチウム空格子点濃度(VLi)が直接的に影響を及ぼされるのではなく、格子の幾何学的形状の変化によって、存在する異価数のドーパントのアルミニウムが結晶構造内で安定化される。これを「二次ドーピング」と称することもできる。従って、従来技術において慣例的なものとは異なり、リチウム空格子点濃度(VLi)の代わりに、格子の幾何学的形状が直接的に影響される。
【0067】
Al3+とLi+とが同じ格子位置で競合するので、化学量論組成を超えるリチウム含有率の場合、アルミニウムがジルコン酸リチウムランタン(LLZO)構造から排除される。このことによって、所望の立方晶変態はもはや十分に安定化されず、部分的に正方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)が生じる。これは、本発明についての例においても示され且つ裏付けられる。
【0068】
La
3+のイオン半径よりもイオン半径が小さい1つ以上の三価のカチオンM
3+によりLa
3+を部分的に置き換えることによって、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)構造の単位胞が小さくなる(
図1も参照)。シャノンによるイオン半径(Shannon,R.D., 1976、上記文献)が八面体配位において67.5pmもしくは四面体配位において53.5pmであるAl
3+カチオンは、シャノンによるイオン半径(Shannon,R.D., 1976、上記文献)が八面体配位において90pmもしくは四面体配位において76pmであるLi
+カチオンよりも小さいので、より小さな単位胞の場合、Al
3+の取り込みが優先される。従って、立方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)変態の格子定数aが12.965Å未満である場合が好ましい。好ましくは、これは12.964Å以下であることを意味する。ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)構造中のAl
3+のこの安定化によって、今や意外にも、正方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)が形成されることなく化学量論組成を超える量のリチウムも可能である。
【0069】
この効果は、より多くのLa3+が、La3+のイオン半径よりも小さなイオン半径である1つ以上の三価のカチオンM3+によって置き換えられるほど強くなる。しかしながら、高過ぎるドーピングレベルでは、望ましくないイオン伝導性の悪い二次相が生じることがあり、それ故に式(I)においてM3+の量yは、アルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位に対して0<y<2に限定される。
【0070】
さらに、少しの割合のLa3+が、任意に1つ以上の二価のカチオンM2+および1つ以上の一価のカチオンM1+によって置き換えられることができる。しかしながら、そのことにより、リチウム空格子点の数が減少し、正方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)が形成され得る。従って、ランタンサイトでの高すぎる割合のM2+およびM1+は回避すべきであり、従って一価のカチオンと二価のカチオンM2+およびM1+の合計は<0.2に限定される。
【0071】
リチウム空格子点の濃度を高めるために、ランタンサイトでのアルミニウムによる高価数ドーピングに加え、ジルコニウムも部分的に1つ以上の五価のカチオンM5+または1つ以上の六価のカチオンM6+によって置き換えることができる。その際、それぞれアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位に対して、五価のカチオンz’の量は0.8未満であるべきであり、六価のカチオンz’’の量は0.5未満であるべきである。リチウム副格子中の空格子点が多すぎると、伝導率の低下がもたらされることがあり、さらに異相(例えばパイロクロア)の形成が促進されることがある。さらにジルコニウムは部分的に他の四価のカチオンM4+によって置き換えられることがある。これは例えばZr原料のHf4+での汚染によって生じる。しかし、例えば材料の焼結特性に影響を及ぼすために、四価のカチオン、例えばSi4+およびGe4+によってジルコニウムサイトで狙い通りにドープすることもできる。しかしながら、これはリチウム空格子点の濃度には影響しない。
【0072】
従って、本発明による共ドーピングの方策は、リチウムサイトでのアルミニウムによる高価数ドーピングと、ランタンサイトでのLa3+のイオン半径よりも小さいイオン半径である1つ以上の三価のカチオンM3+による等価数ドーピング、および任意にランタンサイトでの任意に1つ以上の一価のカチオンM1+および任意に1つ以上の二価のカチオンM2+、並びに任意にジルコニウムサイトでの1つ以上の四価のカチオンM4+、任意に1つ以上の五価のカチオンM5+および任意に1つ以上の六価のカチオンM6+の組み合わせを含む。これによって、化学量論組成を超えるリチウム含有率を有するアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)が得られ、立方晶変態の安定性および優先度が確実になる。
【0073】
本発明による共ドーピングの方策は、La3+のイオン半径よりもイオン半径が小さい三価のカチオンM3+を、ランタンサイトでの等価数のドーパントとして使用することを想定している。ジルコニウムサイトでのM3+による異価数ドーピング(Zr4+→M3++Li+)はリチウム空格子点の生成に相反し、従って望ましくない。従って、好ましくは、(La3++M3++M2++M1+)/(Zr4++M6++M5++M4++M3+)<1.5、好ましくは(La3++M3++M2++M1+)/(Zr4++M6++M5++M4++M3+)<1.35の比が調整される。M3+はこの比において常に存在し、従って0ではない。M1+、M2+、M4+、M5+およびM6+は任意に存在し、従ってそれぞれ0であり得る。好ましくは(La3++M3++M2++M1+)/(Zr4++M6++M5++M4++M3+)の比は1.49~1.0の範囲、さらに好ましくは1.35~1.0の範囲であってよい。例において、この比についての値および計算例が記載されている。従って、ランタンサイトでのドーピングの際に異相の形成を回避するために、前記比は上記の値に調整される。
【0074】
より多くの量のイオン伝導性ガーネットを製造するために、溶融法が好ましい方法である。ゾルゲル反応および噴霧熱分解は不利であり、なぜならこれらは大量の溶剤を消費するからである。反応性焼結、つまり出発成分の融点未満での加熱も不利であり、なぜなら、大きな表面積によって、非常に腐食性のLi2O雰囲気が生成され、これが炉の材料および接触する材料を攻撃するからである。
【0075】
しかしながら、製造のために溶融法を用いる場合、リチウム含有溶融物が非常に攻撃的であるため、白金または白金ロジウムるつぼ内での溶融は実施できないことを考慮すべきである。白金るつぼ内での溶融はるつぼ材料への攻撃をもたらし、製造された生成物中に明らかに検出できる量の貴金属をもたらす。これはさらに、顕著な割合でその貴金属を通じた電子伝導性をもたらし、それが全体的に悪影響を及ぼす。
【0076】
従って、溶融および均質化による製造を誘導加熱スカルるつぼ内で実施することが好ましく、それによって上記の欠点が回避される。
【0077】
溶融技術的な製造のためのさらなる可能性は、ガラス状炭素るつぼの使用である。しかしながら、このるつぼは、酸素含有雰囲気中での必要な高温で酸化されるので、保護ガス雰囲気(窒素またはアルゴン)下で製造を行わなければならない。従って、この製造方式は少量のためだけに合理的であるが、大量生産のためには不利であり、なぜならこれは追加的なコストを伴うからである。
【0078】
従って、本発明はアルミニウムドープリチウムイオン伝導体の製造方法であって、その製造を好ましくはスカルるつぼ内で溶融法を使用して実施する、前記製造方法にも関する。
【0079】
スカルるつぼは、冷媒が流通する多数の金属管から構成され、前記金属管の間にスリット状の隙間があり、且つ前記金属管を外側で取り囲む誘導コイルを有し、前記金属管は有利には互いに短絡されている。溶融法を介して、例えばスカルるつぼを使用して出発材料を溶融および均質化し、直接的な凝固または狙い通りに制御された冷却によって、または急冷のいずれかによって溶融物を冷却し、続いて温度処理(セラミック化処理)することによる製造について、独国特許出願公開第19939780号明細書(DE19939780A1)、独国特許第19939782号明細書(DE19939782C1)および独国特許出願公開第102014100684号明細書(DE102014100684A1)に教示されており、その全文の開示はここで、参照をもって本開示に取り入れられるものとする。
【0080】
溶融法を介して製造されたアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)は、結晶性のイオン伝導性ガーネットの他に、リチウムおよび/またはアルミニウムおよび/またはM3+が富化されているアモルファス相も存在し得ることを特徴とする。これは、このアモルファス相の軟化点もしくは融点が、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)のものよりも低く、そのことによって焼結挙動が改善されるという利点を有する。これは例えば、より低い焼結温度、およびより緻密な焼結を意味する。
【0081】
本発明の対象は、d50=0.1μm~30μmの範囲の粒度を有する本発明によるアルミニウムドープリチウムイオン伝導体からなる粉末でもある。前記粒度は、レーザー粒度計(CILAS)で測定された。
【0082】
本発明はさらに、好ましくは上記の粉末を使用して製造された、焼結されたアルミニウムドープリチウムイオン伝導体であって、10-5S/cmを上回るリチウムイオン伝導率を有する、前記焼結されたアルミニウムドープリチウムイオン伝導体に関する。
【0083】
本発明はさらに、電池または蓄電池、好ましくはリチウム電池またはリチウム蓄電池、殊にセパレータ、カソード、アノードまたは固体電解質における、好ましくは粉末形態のアルミニウムドープリチウムイオン伝導体の使用に関する。
【0084】
本発明によるアルミニウムドープリチウムイオン伝導体を、好ましくはリチウムイオン伝導性粉末材料の形で、単独または他の電池材料と共に使用し、例えば純粋な無機セラミックのメンブレンへと焼結するか、または電解質として、充填剤として、ポリマー電解質もしくは高分子電解質、充電式リチウムイオン電池、殊に固体リチウムイオン電池(全固体電池(ASSB))に組み込む。その際、一方では、セパレータとしての使用が可能であり、つまり、電極間に導入し、電極を望ましくない短絡から保護し、且つそのことによりシステム全体の機能性を確実にする。このために、相応の複合材を、一方または両方の電極上の層として施与して、または自立式の膜としてのいずれかで、固体電解質として電池に組み込むことができる。他方で、電極材料と共に焼結もしくは配合することが可能であり、つまり、この場合、固体電解質は、電池が今、放電または充電されているかに応じて、関連する電荷担体(リチウムイオンおよび電子)が電極材料へ、および導電性電極へ、向かうもしくは離れる輸送をもたらす。
【0085】
本発明による材料のさらなる用途として、ガスセンサー中での使用、および化学的な方法に際するイオン選択性膜としての使用が考えられる。
【0086】
本発明の利点は非常に多彩である:
意外なことに、ガーネット構造に基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、好ましくはアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の立方晶変態は殊に、ランタンサイトで少なくとも1つの三価のイオンM3+によって共ドープされ、その際、前記三価のイオンM3+はLa3+のイオン半径よりも小さいイオン半径を有し、ただし、前記三価のイオンM3+はイットリウム単独ではない場合に得られることが判明した。化学量論組成を超えるリチウム含有率の場合、リチウムサイトでアルミニウムのみによるドーピングでは立方晶変態を安定化させるために十分ではなく、La3+のイオン半径よりもイオン半径が小さい1つ以上の三価のカチオンM3+によるランタンサイトでの等価数ドーピングとの組み合わせの場合のみ、立方晶変態の十分な安定化が得られる。その立方晶変態のみが、10-5S/cmを上回る所望の高い伝導率をもたらす。
【0087】
ガーネット構造に基づくリチウムイオン伝導体のアルミニウムによるドーピングは、原料コストが低いこと、並びに他の元素に比して良好な還元安定性が知られていることによって有利である。さらには、リチウムサイトでのアルミニウムでのドーピングは、リチウム空格子点の数が高められる(Al3+あたり2つのLi空格子点が生成される)ことをもたらす。
【0088】
さらに、化学量論組成のガーネット構造に比して、ガーネット構造に基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体中でのより高いリチウム含有率が可能になる。これは特に有利であり、なぜなら、高められたリチウム含有率は一方では製造の間の高温の際のLi2Oの蒸発を補償し、他方では材料の焼結特性を改善するからである。
【0089】
任意に、1つ以上の一価のカチオンM1+(Li+以外)および1つ以上の二価のカチオンM2+もランタンサイトでドーピングされ得る。しかしながらこれは、リチウム空格子点の濃度を低下させる。従って、一価のカチオンM1+(Li+以外)および二価のカチオンM2+の合計は、アルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位に対して0.2未満に限定される。一価のカチオンM1+(Li+以外)および二価のカチオンM2+を使用する利点は、それによって焼結特性を改善できることである。
【0090】
リチウム以外の一価のイオンを使用する場合、電池内のリチウムイオン伝導体としての使用を損なわないように、好ましくはリチウムイオンよりも低い移動度を有するイオン、つまり例えばK+またはCs+を用いる。
【0091】
二価のイオンを使用する場合、電池内のリチウムイオン伝導体としての使用を損なわないように、好ましくは多原子価ではないイオン、例えばアルカリ土類のカチオンを用いる。
【0092】
リチウム空格子点の濃度を高めるために、任意に、さらなる1つ以上の五価のカチオンM5+および1つ以上の六価のカチオンM6+もジルコニウムサイトでドーピングされ得る。さらに、Zr4+カチオンの一部を、1つ以上の四価のカチオンM4+、例えばSi4+およびGe4+によって置き換えることができる。しかしながら、リチウム空格子点の濃度はそれによって影響されないままである。
【0093】
好ましくは、三価のカチオンM3+のために、ランタノイド、およびランタノイドと、La3+よりも小さいイオン半径を有するという条件を満たす他の三価のカチオンとの組み合わせが使用される。ガドリニウム、およびガドリニウムと、La3+よりも小さいイオン半径を有するという条件を満たす他の三価のカチオン、例えばイットリウムとの組み合わせがとりわけ特に好ましい。
【0094】
三価のカチオンとしてのガドリニウムの使用が特に好ましく、その際、好ましくはアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位あたり少なくとも0.1molのガドリニウムが存在する。その際、化学式(I)において、Gd3+についてy>0.1であり、好ましくは、yは0.11以上である。これは特に有利であり、なぜなら、これによってドーパントとしてのアルミニウムがガーネット構造中で特に良好に安定化され、そのことによってリチウム過剰の場合にも立方晶相が保持されたままであるからである。
【0095】
記載されるリチウムイオン伝導体を、リチウムアノードを有する電池における電解質として使用する場合、ランタンサイトでのドーピングのために使用される三価のカチオンM3+が多原子価ではない、つまり、三価のみで存在し得る場合が好ましい。他のアノード材料も多原子価のカチオンを還元することがある。
【0096】
従って、本発明によれば、従来技術とは全く異なる概念が実現され、つまり、他の価数のイオンによる慣例的なドーピングでリチウム空格子点の数(VLi)に直接的に影響を及ぼす代わりに、本発明によれば、異価数ドーピングと等価数ドーピングとの組み合わせを実施し、その際、ランタンサイトでの、同じ価数であるがより小さな直径のイオンによるドーピングが、格子の幾何学的形状を望ましい方向に変えることをもたらす。この「二次ドーピング」が、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)構造の単位胞の縮小をもたらし、それがリチウムサイトでのAl3+の取り込みを促進する。より多くのLa3+が、より小さいイオン半径を有する1つ以上の三価のカチオンM3+によって置き換えられるほど、前記の効果は顕著に現れるが、しかしこれは不利な二次相の形成によって限定されることがある。従って、M3+の量yは、式(I)において、アルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位に対して0<y<2に限定される。
【0097】
従って、選択された割合のより小さなM3+カチオンによって、格子定数を狙い通りに、つまり好ましくはa<12.965Åに調整し、立方晶変態が得られる。Al3+のこの安定化は、意外にも、正方晶変態が形成されることなく、化学量論組成を超える量のリチウムの使用を可能にする。
【0098】
ランタンサイトでのより小さなイオンによる共ドーピングによって、熱による後処理の際の立方晶相の安定化がさらに改善され、望ましくない二次相の形成は観察されない。
【0099】
(La3++M3++M2++M1+)/(Zr4++M6++M5++M4++M3+)の比<1.5に調整することが特に好ましく、そのことによってランタンサイトでのドーピングの際に異相の形成を回避することができる。
【0100】
好ましくは、本発明によるアルミニウムドープリチウムイオン伝導体は、化学量論組成のガーネット構造に比して高いリチウム含有率、および立方晶の結晶相:正方晶の結晶相の比>90%:<10%(例えば90.1%以上の立方晶の結晶変態:9.9%以下の正方晶の結晶変態)、好ましくは>95%:<5%(例えば95.1%以上の立方晶の結晶変態:4.9%以下の正方晶の結晶変態)、特に好ましくは>98%:<2%(例えば98.1%以上の立方晶の結晶変態:1.9%以下の正方晶の結晶変態)を有する。
【0101】
本発明のリチウムイオン伝導体の製造は、好ましくは溶融法を介して行われる。これによって、一般に溶剤を回避できる。この場合、製造のためにスカルるつぼを使用することが好ましい。溶融法を介して製造されたガーネット構造に基づくアルミニウムドープリチウムイオン伝導体、殊にアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)は、有利なことに、結晶性のイオン伝導性ガーネットの他に、リチウムおよび/またはアルミニウムおよび/またはM3+が富化されているアモルファス相も有する。
【0102】
図面の説明
本発明に関するいくつかの態様を、添付の図面を用いてより詳細に記載するが、本発明はそこに限定されない。図面は以下を示す:
【図面の簡単な説明】
【0103】
【
図1】
図1は立方晶のAlドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)変態の格子定数の、ガドリニウム(Gd)およびイットリウム(Y)のドーパント濃度依存性である。
【
図2】
図2は例14、15、16および18のX線回折(XRD)パターンの部分図を互いに上下に配置した図である。
【0104】
図1では、立方晶のAlドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)変態の格子定数[Å](y軸)が、ガドリニウム(Gd)およびイットリウム(Y)のドーパント濃度[pfu](x軸)に対してプロットされている。La
3+をより小さなGd
3+イオンによって置き換える場合、格子定数は線形に減少する(ベガードの法則)。イットリウムドーピングの場合の異なる挙動は、イットリウム単独では格子定数の所望の縮小が確実には達成できないことを示す。
【0105】
イットリウムドーピングを詳細に調査するため、構造解析のために例14、15、16および18による組成物のXRD(X線回折)パターンを取得した。
図2に、例14、15、16および18のそれぞれの4つのXRD(X線回折)パターンの部分図を互いに上下に配置して示す。前記例の組成を表1に示す。前記のXRDは、例14、15および16において、イットリウム含有率の上昇に伴い、異相LiYO
2が増加することを示す。低い散乱角で示されたXRDの部分図は、イットリウム含有率の増加に伴い、所望の立方晶のLLZO変態(実線)の他に、望ましくない二次相(破線)も増加して生じることを明確に示し、前記二次相はLiYO
2として同定された。少量のY
3+と共にGd
3+を共ドーピングする場合(例18)、この二次相の形成は観察されない。
【0106】
従って、
図1は例えばガドリニウム(Gd)がランタンサイトでのドーピングのために特に良好に適していることを示す。La
3+イオンよりも小さなイオン半径を有する他の元素、例えばランタノイドは、匹敵する有利な結果をもたらす。これによって、格子定数を所望の大きさに調整することができ、そのことによりAlドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の立方晶変態での安定化が狙い通りに達成される。これに対し、
図1および2は単独のイットリウムはこのために適していないことを示し、従ってイットリウムの単独の使用は本発明による教示から除外された。
【0107】
以下で例を用いて本発明を詳細に説明するが、それに限定されるわけではない。
【実施例】
【0108】
以下で、組成の例をジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の総量に対する立方晶変態でのジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の割合と共に表1に示す。その組成はアルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の式単位あたりの原子数(pfu)として示される。立方晶変態でのジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の割合はXRDデータからリートベルト評価によって決定され、
LLZO立方晶/LLZO正方晶+LLZO立方晶
として記載され、ここで前記評価は質量%で行われた。
【0109】
【0110】
【0111】
例8~12および17~22は本発明による。
【0112】
表1に、例示的な組成および立方晶変態でのジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の相応の割合(XRDデータのリートベルト解析によって、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の総量に対して決定)を示す。例1~7および13~16は本発明によらない。例1~4においては、ランタンサイトはさらなるより小さな三価のカチオンM
3+によって共ドーピングされていない。例5~7においてはリチウムが化学量論組成量で存在する。例13~16においてはイットリウムが単独で共ドーピングされ、ここで、M
3+としてのイットリウムによる単独のドーピングは本発明によれば除外され、なぜなら、少量では立方晶変態の安定化を確実にすることができず(例13)、より高い濃度ではたしかに立方晶変態を安定化するのだが、同時に望ましくない二次相の形成をもたらすからである(例14~15、もしくは
図2)。
【0113】
表1による組成に応じて原料を混合し、上向きに空いたスカルるつぼに充填した。特定の最低限の伝導性を達成するために、その混合物をまず予熱する必要があった。このために、バーナー加熱を使用した。結合温度に達した後、誘導コイルを介した高周波結合によって、溶融物のさらなる加熱および均質化を達成した。溶融物の均質化を改善するために、水冷された撹拌機で撹拌した。完全に均質化した後、溶融物から直接試料を取り出す(急速な冷却)一方で、残りの溶融物は高周波の遮断によってゆっくりと冷却した。
【0114】
この経路で製造された材料は、溶融物からの直接的な凝固または急冷のいずれかに続く温度処理(セラミック化)によって、ガーネット型の主結晶相を有するガラスセラミック材料へと変換できる。溶融物から直接取り出された試料は、冷却とは関係せず自発的な結晶化を示したので、後続のセラミック化処理を省略できた。そのように得られたガラスセラミックから、伝導率を測定するためのインピーダンス分光法のための、並びにX線回折検査(XRD)のための試料を作製した。水との接触における試料の劣化を回避するために、試料の作製は無水で実施した。
【0115】
(La3++M3++M2++M1+)/(Zr4++M6++M5++M4++M3+)の比<1.5は、例5~22では満たされているが、その中で例8~12および17~22のみが本発明による。詳細には、前記比は以下のように計算される:
これは例11を用いて詳細に説明される:
La3+=2.7pfu
M3+:Gd=0.3pfu
Zr4+=2pfu
M6+、M5+、M4+、M2+、M1+は存在しないので、M6+=M5+=M4+=M2+=M1+=0pfu。
【0116】
その際、これは以下をもたらす: (2.7pfu+0.3pfu+0pfu+0pfu)/(2pfu+0pfu+0pfu+0pfu+0.3pfu)=(3pfu)/(2.3pfu)=1.30。
【0117】
上述の例1~22について、以下の説明が示され得る:
例1における化学量論組成のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の組成は、100%立方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の形成をもたらす。ここで、例2は、Zrサイトでの五価のカチオンによる追加的なドーピングの場合、立方晶構造が得られたままであることを示す。しかしながら、リチウム含有率のわずかな上昇(6.4から6.6pfu)で既に、立方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の含有率は70.1質量%へと低下する(例3参照)。従って、説明された作用が生じ、それにより、リチウム含有率の増加が、ドーパントのアルミニウムが部分的に結晶構造から再度排除されることをもたらし、立方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)がもはや室温で安定化されなくなる。
【0118】
二価のカチオンM2+の添加は、化学量論組成のリチウム含有率で既に、望ましくない正方晶変態の形成をもたらす(例4参照)。
【0119】
例5~12は、ガドリニウムとアルミニウムとのドーピングを有する組成物である。化学量論組成(例5~7)の場合、立方晶変態はガドリニウムの量とは関係なく得られる。
【0120】
しかしながら、本発明による例8~12においてガドリニウムの共ドーピングで示されるように、ランタンサイトでの等価数の共ドーピングに基づき、今や意外にも、化学量論組成を超えるリチウム含有率の場合でも立方晶変態を得ることが可能である。
【0121】
その際、望ましくないジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の正方晶変態が得られることなく、アルミニウム含有率を変化させることも(例11および例12)、さらにジルコニウムサイトでドープすることもできる。
【0122】
例13~16は、イットリウムとアルミニウムとのドーピングを有する組成物である。イットリウムの量が少なすぎると(例13)、部分的に立方晶のジルコン酸リチウムランタン(LLZO)しか得られない。イットリウム含有率がより高い場合、ここでは、化学量論組成を超えるリチウム含有率にもかかわらずジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の立方晶変態が得られるという作用が示される(例14~16)。しかしながら、このイットリウム含有率の場合、望ましくない二次相の形成が増加して生じる(
図2参照)。
【0123】
例17~20は、ガドリニウム、イットリウムおよびアルミニウムのドーピングを有する組成物である。全ての例において、化学量論組成を超えるLi含有率にもかかわらず、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の立方晶変態が得られている。しかしながら、より低いイットリウム含有率により、望ましくない二次相は生じない(
図2参照)。その際、化学量論組成を超えるLi含有率にもかかわらず、ジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の正方晶変態が形成されることなく、リチウム含有率(例17および18参照)もアルミニウム含有率(例17および19)も変化させることができる。さらに、少量のジルコニウムが置換され得る(例17および20)。
【0124】
例21および22は、ガドリニウム(もしくはガドリニウムおよびイットリウム)およびアルミニウムのドーピングを有する組成物であり、さらに少量の二価のカチオンM2+(例21)および一価のカチオンM1+(例22)をランタンサイトで含有する。そのような低価数カチオンによる共ドーピングは、アルミニウムドープジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の場合、化学量論組成のリチウム含有率で既に望ましくないジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の正方晶変態の形成をみちびく(例4)。ガドリニウム、もしくはガドリニウムおよびイットリウムによるランタンサイトでの共ドーピングにより、望ましくないジルコン酸リチウムランタン(LLZO)の正方晶変態は今や意外にも生じないままである。