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特許7105990局所的信号対ノイズ比を用いたデコンボリューション装置およびデコンボリューション方法
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  • 特許-局所的信号対ノイズ比を用いたデコンボリューション装置およびデコンボリューション方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】局所的信号対ノイズ比を用いたデコンボリューション装置およびデコンボリューション方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 5/00 20060101AFI20220715BHJP
   A61B 1/045 20060101ALI20220715BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20220715BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
G06T5/00 705
A61B1/045 611
A61B1/00 511
G02B21/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021514059
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2019051863
(87)【国際公開番号】W WO2020052814
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】18194617.9
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン ツィーシェ
(72)【発明者】
【氏名】カイ ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン レイマン
【審査官】板垣 有紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/074138(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0147313(US,A1)
【文献】特開2015-064890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0228065(US,A1)
【文献】Richard L. White,Image Restoration Using the Damped Richardson-Lucy Method,The Restoration of HST Images and Spectra II Space Telescope Science Institute,1994年,pp. 104-110,<URL:https://web.ipac.caltech.edu/staff/fmasci/home/astro_refs/DampledLR94.pdf>,[検索日:2022年6月17日]
【文献】O.Laligant et al.,Edge enhancement by local deconvolution,Pattern Recognition,2005年05月,Volume 38, Issue 5,pp. 661-672,<URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0031320304003917>,[検索日:2022年6月17日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 5/00
A61B 1/045
A61B 1/00
G02B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入力ボクセル(x)を有するデジタル入力画像(I(x))、特に顕微鏡(12)または内視鏡などの医療用観察装置(10)から取得されたデジタル入力画像かつ/または蛍光を用いたデジタル入力画像をデコンボリューションするための方法であって、前記方法は、
前記デジタル入力画像の入力領域(R(x))内で局所的信号対ノイズ比(SNR(x))を計算するステップであって、前記入力領域は、前記デジタル入力画像の前記複数の入力ボクセルの部分集合から成り、目下の入力ボクセルを取り囲んでいるステップと、
前記局所的信号対ノイズ比からノイズ成分(β(SNR))を計算するステップであって、前記ノイズ成分は、デコンボリューションにおける画像ノイズ(n([h*f](x),n(x))を表すステップと、
を有し、
前記ノイズ成分を、予め定められたSNR上限閾値(SNRmax)を上回る局所的信号対ノイズ比であれば、予め定められた最小ノイズ値(βmin)に制限し、予め定められたSNR下限閾値(SNRmin)を下回る局所的信号対ノイズ比であれば、予め定められた最大ノイズ値(βmax)に制限する、
方法。
【請求項2】
前記局所的信号対ノイズ比(SNR)を計算するステップは、前記入力領域(R(x))内の局所的信号レベル(S(x))と前記入力領域(R(x))内の局所的ノイズレベル(N(x))とを計算するステップを含み、
前記局所的ノイズレベルを計算するステップは、入力ボクセル(x)の少なくとも1つの連続した領域について、少なくとも1つの範囲総和テーブル(38)を計算するステップを含む、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの範囲総和テーブル(38)を計算するステップは、プレフィックスサムを用いて並列方式で前記少なくとも1つの範囲総和テーブルを計算するステップを含む、
請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記局所的ノイズレベル(N)を計算するステップは、少なくとも1つの範囲総和テーブル(38)を用いて、前記デジタル入力画像(I(x))の分散を計算するステップを含む、
請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記デジタル入力画像(I(x))に線形微分演算子
【数1】
を適用して微分画像データ(I’(x))を取得した後、前記分散を計算する、
請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記線形微分演算子
【数2】
は、勾配演算子またはエッジ検出フィルタである、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記局所的信号対ノイズ比(SNR(x))を計算するステップは、前記入力領域(R(x))内の1つの入力ボクセル(x)において信号レベル(S(x))を計算するステップを含み、
前記信号レベルを計算するステップは、ブラーカーネル(k(x))を用いて前記デジタル入力画像(I(x))をコンボリューションするステップを含む、
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ノイズ成分(β(SNR(x)))を、勾配
【数3】
を有するように計算し、前記勾配は、前記予め定められたSNR上限閾値(SNRmax)において、かつ/または、前記予め定められたSNR下限閾値(SNRmin)において、前記予め定められたSNR上限閾値(SNRmax)と前記予め定められたSNR下限閾値(SNRmin)との間におけるよりも小さい、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ノイズ成分(β(SNR))を計算するステップは、三角関数を計算するステップを含む、
請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記デコンボリューションは、ルーシー-リチャードソンデコンボリューションである、
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の画像処理方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納している非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項12】
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法を実施するように構成された画像プロセッサ(1)を有する、顕微鏡(12)または内視鏡などの医療用観察装置(10)。
【請求項13】
顕微鏡(12)または内視鏡などの医療用観察装置(10)のための画像プロセッサ(1)であって、前記画像プロセッサ(1)は、
複数の入力ボクセル(x)を有するデジタル入力画像(I(x))を格納するためのメモリ(4)と、
前記複数の入力ボクセルからデコンボリューションされた出力画像(f(x))を計算するためのデコンボリューションエンジン(34)と、
を有し、
前記デコンボリューションエンジンは、1つの入力ボクセルにおける局所的信号対ノイズ比(SNR(x))に依存するノイズ成分(β(SNR(x)))を有し、前記局所的信号対ノイズ比は、前記デジタル入力画像の前記複数の入力ボクセルの部分集合から成る1つの入力領域(R(x))内でのみ計算され、
前記画像プロセッサ(1)は、予め定められたSNR上限閾値(SNRmax)と予め定められた信号対ノイズ下限閾値(SNRmin)とを含み、
前記ノイズ成分は、前記予め定められたSNR上限閾値(SNRmax)を上回る局所的信号対ノイズ比であれば、予め定められた最小ノイズ値(βmin)に制限され、前記予め定められた信号対ノイズ下限閾値(SNRmin)を下回る局所的信号対ノイズ比であれば、予め定められた最大値(βmax)に制限される、
画像プロセッサ(1)。
【請求項14】
前記画像プロセッサ(1)は、範囲総和テーブルジェネレータ(36)を有し、前記範囲総和テーブルジェネレータは、前記デジタル入力画像の範囲総和テーブルを計算し、前記範囲総和テーブルを用いて局所的ノイズレベルを計算するように構成されている、
請求項13記載の画像プロセッサ(1)。
【請求項15】
請求項13または14記載の画像プロセッサ(1)を有する顕微鏡(12)または内視鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル画像復元のための、特に顕微鏡または内視鏡からのデジタル入力画像のための、方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像処理の分野では、デジタル入力画像において解像度の強化およびノイズの低減のためにデコンボリューションが知られている。デコンボリューションの基礎となる前提は、観察されるデジタル入力画像I(x)が以下のようにして実際の画像
【数1】
から生じる、ということである:
【数2】
ここでh(x)は、点像分布関数のような例えば記録システムからの線形の伝達関数を表し、n(x)は相加性画像ノイズを表し、nは信号強度に依存するポアソンノイズを表し、xは入力ボクセルを表し、*はコンボリューションを表す。デコンボリューションにおいて、すなわち実際の画像
【数3】
の推定の計算において、画像ノイズはノイズ成分によって表現される。
【0003】
デジタル入力画像を、2次元またはそれよりも高次の次元とすることができる。したがって一般的に言えば、入力画像をn次元とすることができ、ただしnは1よりも大きい整数であり、n≧2である。
【0004】
入力ボクセルx各々において、入力画像は少なくとも1つの画像パラメータIによって表現され、これは特に光の強度で表すことのできるデジタル値である。デジタル入力画像が2次元であるならば、1つのボクセルは1つのピクセルである。もっと一般的に言えば、入力画像がn次元であるならば、1つのボクセルをn次元のデータ構造とすることができる。n次元を、例えば空間的(3次元)画像および/または2つ以上の色チャネルを有する2次元の画像から生じさせることができる。例えば入力画像はボクセルごとに、R,G,B値および/または可視光および非可視光の範囲内にある他の色、UV値、IR値、NIR値のうちのいずれか1つまたはこれらの組み合わせのような種々のスペクトル帯域において、複数の強度値を有することができ、あるいは単一のグレースケール強度値を有することができる。
【0005】
ここでは、また、以下では、入力ボクセルは、入力画像内の1つのロケーションxを示し、ここでn次元の画像についてxを、n個の局所座標のnタプルx={x,...,x}によって表現することができる。例えば2次元のRGB画像の場合にはn=5が適用され、その理由は、この画像の2つの空間座標x、yおよび3つの色チャネルが存在するからであり、R,G,B:x={x,...,x}={x,y,R,G,B}となるからである。択一的に、RGB入力画像を3つの独立した2次元グレースケール画像R(x,y)、G(x,y)、B(x,y)と見なすことができ、ここでR,G,Bは例えば個々の色帯域における光強度Iを表す。入力画像を3次元とすることもできる。3次元のグレースケール画像であればn=3であり、x={x,x,x}={x,y,z}である。
【0006】
ノイズのある入力画像のデコンボリューションのためには、信号対ノイズ比に関する知識が必要とされる。実施にあたって、画像ノイズと信号対ノイズ比を推定しなければならない。このためデコンボリューションによっても、実際の入力画像
【数4】
の近似f(x)しか計算できない。
【0007】
標準デコンボリューションアルゴリズムに欠けているのは、顕微鏡または内視鏡など特定の用途において最適な結果をもたらすことであり、そのような用途において、特に蛍光画像の画像特性は、人物像、景色、娯楽画像、芸術画像など他の用途において直面する画像特性とは異なる。しかも信号対ノイズ比の精巧な推定および計算は、特に最新の画像は空間解像度が高められている点からすれば、リアルタイムで実行するには、とりわけ60Hzのような高いフレームレートでデコンボリューションを維持し続けるべきときには、すぐに負荷が大きくなりすぎてしまう可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の課題は、特に蛍光画像、内視鏡画像および/または顕微鏡画像の場合に、デコンボリューション性能が改善された装置および方法を提供することにある。さらに本発明の課題は、高解像度のデジタル入力画像をリアルタイムでデコンボリューション可能な装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によればこの課題は、請求項1記載の方法により解決される。この方法は、複数の入力ボクセルを有するデジタル入力画像、特に顕微鏡または内視鏡から取得された、かつ/または蛍光を用いたデジタル入力画像、のデコンボリューションのための方法に関する。この方法は、
デジタル入力画像の入力領域内で局所的信号対ノイズ比を計算するステップであって、入力領域は、デジタル入力画像の複数の入力ボクセルの部分集合から成り目下の入力ボクセルを取り囲んでいるステップと、
局所的信号対ノイズ比からノイズ成分を計算するステップであって、このノイズ成分は、デコンボリューションにおける画像ノイズを表すステップと、
を有し、
この場合、ノイズ成分を、予め定められたSNR上限閾値を上回る局所的信号対ノイズ比であれば、予め定められた最小ノイズ値に制限し、予め定められたSNR下限閾値を下回る局所的信号対ノイズ比であれば、予め定められた最大ノイズ値に制限する。
【0010】
さらに上述の課題は、本発明によれば請求項13記載の医療用観察装置のための画像プロセッサによっても解決される。この画像プロセッサは、
複数の入力ボクセルを有するデジタル入力画像を格納するためのストレージセクションまたはメモリセクションと、
複数の入力ボクセルからデコンボリューションされた出力画像を計算するためのデコンボリューションエンジンと、
を有し、
この場合、デコンボリューションエンジンは、1つの入力ボクセルにおける局所的信号対ノイズ比に依存するノイズ成分を有し、局所的信号対ノイズ比は、デジタル入力画像の複数の入力ボクセルの部分集合から成る1つの入力領域内で計算され、
この場合、画像プロセッサは、予め定められたSNR上限閾値と予め定められたSNR下限閾値を含み、さらに
この場合、ノイズ成分は、予め定められたSNR上限閾値を上回る局所的信号対ノイズ比であれば、予め定められた最小ノイズ値に制限され、予め定められた信号対ノイズ下限閾値を下回る局所的信号対ノイズ比であれば、予め定められた最大値に制限される。
【0011】
本発明による解決手段によれば、入力領域についてのみ計算される局所的信号対ノイズ比を用いることにより、デコンボリューションされた出力画像の品質が改善され、すなわちノイズが低減され、かつ鮮明度が高められるようになる。これと同時に、本発明による方法および装置によれば、相加性ノイズ成分の計算を、入力ボクセルを取り囲んでいる局所的入力領域に制限することによって、さらにSNR上限閾値とSNR下限閾値を導入することによって、計算上の利点が実現される。
【0012】
本発明による方法および装置により取得される出力画像の品質が改善される1つの理由として挙げることができるのは、顕微鏡および内視鏡により、かつ/または蛍光を用いることにより、取得されるような生体物質の画像の場合には特に、ノイズの特性がデジタル入力画像全体にわたって異なる可能性がある、ということである。例えば、焦点に位置し細胞または組織の照射された部分または蛍光を発する部分を示す画像の領域内のノイズの特性は、ほとんど黒色または白色のバックグラウンドを含む領域の場合と同じものにはなり得ない。
【0013】
さらに観察されたのは、予め定められたSNR上限閾値を上回る大きい局所的信号対ノイズ比であれば、画像は十分に良好であり、正則化パラメータのさらなる計算を実施する必要がない、ということである。このため、予め定められたSNR上限閾値を上回る信号対ノイズ比であれば、ノイズ成分を予め定められた最小ノイズ値に設定することができる。
【0014】
さらに観察されたのは、著しく小さい局所的信号対ノイズ比であり、SNR<1またはそれどころかSNR<<1であると、予め定められた最大値を上回ってノイズ成分が増加してしまう可能性があり、このことは、デコンボリューションされた出力画像において改善された結果をもたらすものではない。よって、信号対ノイズが予め定められたSNR下限閾値を下回って降下したならば、ノイズ成分は予め定められた最大SNR値に制限される。
【0015】
本発明による解決手段を、以下の特徴のうちの1つまたは複数を加えることによってさらに改善することができ、それらの特徴を互いに別個に組み合わせることができる。
【0016】
例えば画像プロセッサを、ソフトウェアデバイス、ハードウェアデバイス、またはハードウェアデバイスとソフトウェアデバイス双方の組み合わせとすることができる。画像プロセッサは、CPU、アレイプロセッサ、GPU、ASIC、FPGAおよび/またはFPUのうちの少なくとも1つを有することができる。画像プロセッサを特に、配列処理アセンブリおよび/または並列処理アセンブリを実行するのに適したものとすることができる。画像プロセッサは、1つまたは複数のソフトウェアモジュールを有することができ、このモジュールは動作中、例えばトランジスタ状態を変更することにより、プロセッサの物理的構造を変更する。
【0017】
入力画像の1つのボクセルxにおける信号対ノイズ比SNR(x)を、信号レベルまたは信号強度S(x)とノイズレベルN(x)との比として、入力領域R(x)において計算することができる:
【数5】
【0018】
別の実施形態において、信号対ノイズ比を、
【数6】
のようにして計算することができる。
【0019】
デジタル入力画像のすべての入力ボクセルxについて局所的信号対ノイズ比が計算されたならば、ボクセル間の滑らかな遷移を保証するために、ローパスフィルタまたはガウシアンフィルタといった線形フィルタを用いて、結果として生じたn次元配列SNR(x)をブラー処理することができる。
【0020】
好ましくは、目下のボクセルを取り囲んでいる予め定められた入力領域内のピクセルのみが、その特定の目下のボクセルにおける局所的信号対ノイズ比を計算するために用いられる。特に、ノイズレベルN(x)と信号レベルS(x)を、各々(同じ)入力領域においてのみ計算することができる。
【0021】
1つの実施形態によれば、1つの入力ボクセルxにおける信号レベルまたは信号強度S(x)を、局所的SNR推定のために入力領域R(x)においてブラーカーネルk(x)により入力画像I(x)をコンボリューションし、このコンボリューションの最大値をとることによって、推定することができる:
【数7】
ここでΩは、コンボリューションが実行される領域である。
【0022】
1つの実施形態によれば、入力領域は、200~1000個の入力ボクセルを含むことができ、より好ましくは300~700個の入力ボクセル、最も好ましくは約500個の入力ボクセルを含むことができる。このサイズの入力領域は、信頼性のある統計的推定をもたらすのに十分な大きさであり、これと同時に、異なるノイズ特性を有する画像内の領域まで及ぶほどには大きすぎない。
【0023】
ブラーカーネルを、例えば以下の形態を有するガウシアンフィルタなどの線形フィルタとすることができる:
【数8】
ここで0.5<σ<1.0であり、特にσ≒0.75である。線形フィルタは、例えば3×3または5×5のサイズを有することができる。GPUにおいてかかる2次元のブラーカーネルをそのまま計算するのは、例えば1×3または1×5のカーネルを用いた別個の1次元のパスよりも高速である。
【0024】
別の実施形態によれば、1つの入力ボクセルxにおけるノイズレベルN(x)を、有利な実施形態において入力領域内のデジタル入力画像に基づき、以下のようにして分散を計算することにより推定することができる:
【数9】
【0025】
ここでI’(x)は、入力画像のn次元のいずれかにおけるロケーションxでの入力画像および任意の次数の微分値または勾配である。微分値I’を例えば、入力領域R内の入力画像Iに線形離散演算子
【数10】
を適用することによって取得することができる。
【数11】
【0026】
特に、
【数12】
を、ソーベル演算子またはラプラス演算子などのエッジ検出フィルタ、または
【数13】
のような1次、2次、またはそれよりも高次の勾配演算子、またはかかる線形演算子の任意の線形結合とすることができる。例えば離散における2次の勾配演算子
【数14】
の適用を、2次元の場合に入力ボクセルx={a,b},Ω∈R(x)およびIab=I(a,b)において
【数15】
のように表現することができ、ここでΩは考察されるボリュームまたは領域である。
【0027】
1つの実施形態によれば、分散を
【数16】
のようにして計算することができ、
ここで
【数17】
は、平均値または期待値の演算子などn次元の配列のノルムであり、例えば
【数18】
である。1次元の場合には、ここでzは1次元の離散的な配列である。あとでさらに説明するように、この形式は特に、範囲総和テーブルを用いて高度に計算効率のよい手法でノイズレベルを計算するのに適している。
【0028】
(局所的な)信号対ノイズ比SNR(x)を計算するために、また、信号対ノイズ比をブラー処理するために、画像プロセッサは信号対ノイズ計算エンジンを有することができ、これを画像プロセッサのハードウェア構成要素またはソフトウェア構成要素または双方の組み合わせとすることができる。1つの実施形態によれば、信号対ノイズ計算エンジンは、少なくとも1つのCPU、GPU、FPUおよび/または専用IC例えばASIC、またはこれらの任意の組み合わせなど、別個のハードウェア構成要素、および/または1つまたは複数のサブルーチンなど、別個のソフトウェアモジュールを有することができる。信号対ノイズ計算エンジンを特に、信号レベルとノイズレベルのうちの少なくとも一方も計算するように構成することができる。
【0029】
上述のように、1つの入力ボクセルxにおける信号レベルとノイズレベルのうちの少なくとも一方を、好ましくは両方を、入力領域R(x)においてのみ計算することができる。このため入力領域は、デジタル入力画像の複数の入力ボクセルの部分集合だけから成る。
【0030】
入力領域は好ましくは、複数の入力ボクセルから成る1つの連続した領域である。入力領域は好ましくは、信号対ノイズ比SNR(x)を計算する対象となる目下の入力ピクセルまたは入力ボクセルを取り囲んでいる。したがって信号対ノイズ比は局所的な値であり、この値は、各々が好ましくは同じ形状およびサイズであるそれぞれ異なる入力領域が、各入力ボクセルについて用いられることから、入力ボクセルごとに異なる。
【0031】
好ましくは、信号レベルおよび/またはノイズレベルの計算のために入力ボクセルが考慮される入力領域は、少なくとも2回転対称性を有する。各々連続している複数のいっそう小さいn次元の直方体領域によって、入力領域を1つのn次元の直方体の形状とは逸脱したものとしてもよい。例えば入力領域を、2次元の場合であれば、それ自体が入力領域の一部ではない1つまたは複数の長方形によって、長方形または正方形の形状とは異なるようにすることができる。
【0032】
特に入力領域を、複数の入力ボクセルから成る、特に複数の入力ボクセルを有する複数の長方形から成る、n次元のガウス状の、円形の、メキシコ帽状の、または星形の、連続的な配置とすることができ、あるいはそれらの離散近似とすることができる。
【0033】
入力領域は、入力ピクセルの複数のn次元の直方体領域を重畳した結果として生じる形状を有することができる。2次元の場合、各々が少なくとも2×2または4×4のボクセルを有し得る複数の長方形の重畳によって、入力領域を構成することができる。
【0034】
1つの実施形態によれば、ノイズレベルを計算する対象となる目下の入力ボクセルに至るまでのほうが、目下の入力ボクセルからいっそう遠くに離間された入力領域内の入力ボクセルに至るまでよりも近い入力領域内の入力ボクセルに、いっそう大きい重み付けを割り当てることができる。かかる重み付けによって、入力領域がその境界に向かって滑らかに徐々にぼやけていくようになり、したがって入力ボクセル全体にわたり局所的なノイズレベルがいっそう滑らかに分布するようになる。
【0035】
入力領域内での
【数19】
を用いた局所的ノイズレベルの計算は、好ましくは範囲総和テーブルを用いて行われる。これにより局所的信号対ノイズ比を、高度に計算効率のよい手法で求めることができる。範囲総和テーブルについては、Crow, Franklin C.著の"Summed-area tables for texture mapping", ACM SIGGRAPH computer graphics, (18) 3, 1984において説明されている。範囲総和テーブルのn次元のバージョンについては、Tapia, Ernesto著の"A note on the computation of high-dimensional integral images", Pattern Recognition Letters, 32 (2), 2011に記載されている。
【0036】
好ましくはノイズレベルを計算する前に、入力領域全体にわたって総和する必要があるパラメータごとに、別個の範囲総和テーブルを生成することができる。
【0037】
例えば分散を
【数20】
のようにして計算するならば、
【数21】
について1つの範囲総和テーブルを生成することができ、この範囲総和テーブルが計算されてしまったならば、
【数22】
について別個の範囲総和テーブルを生成することができる。
【0038】
少なくとも1つの範囲総和テーブルを画像プロセッサの一部とすることができ、このことは例えば、画像プロセッサのストレージセクションに少なくとも一時的に格納することによって、かつ/または画像プロセッサのメモリを範囲総和テーブルの格納のために割り当てる命令によって行われる。
【0039】
分散という観点でノイズレベルを定義し、範囲総和テーブルを用いてこの分散自体を計算することによって、高度に計算効率のよいデコンボリューションアルゴリズムがもたらされ、このアルゴリズムによれば、単一の大域的信号対ノイズ比の代わりに複数の局所的信号対ノイズ比を計算することにより生じる余分な負荷が格段に低減される。
【0040】
範囲総和テーブル各々は、入力画像と同じ次元を有する複数の値から成るデジタル配列である。
【0041】
上述のように、ノイズレベルを入力領域内の微分値の分散すなわち2次の統計モーメントを計算することによって推定することができるけれども、ノイズレベルを計算するためにいっそう高次のn次の統計モーメントを用いることもできる。一般にn次の統計モーメント
【数23】
を、範囲総和テーブルを用いて計算することもできる。
【0042】
範囲総和テーブルを用いて、入力領域のサイズと形状を、目下の入力ボクセルに対し相対的に範囲総和テーブル内の座標を選択することによって、暗黙的に定義することができ、それらの座標によって、統計モーメントを計算するために用いられる総和値のブロックすなわちn次元の直方体が定義される。入力領域を解釈するために複数の範囲総和テーブルのブロックを結合することによって、ブロックがオーバラップした場所に位置する入力ボクセルは、いっそう大きい重み付けを自動的に獲得する。このことは、ブロックのオーバラップが入力領域の中央に位置しているような場合に好ましい。したがってこの領域に、いっそう大きい重み付けを自動的に割り当てることができる。
【0043】
本発明による画像プロセッサの場合、画像プロセッサは範囲総和テーブルジェネレータを有することができ、この範囲総和テーブルジェネレータは、領域の範囲総和テーブルを計算し、この範囲総和テーブルを用いてノイズレベルを計算するように構成されている。範囲総和テーブルジェネレータを、ハードウェアデバイス、ソフトウェアデバイス、またはハードウェアデバイスとソフトウェアデバイス双方の組み合わせとすることができる。
【0044】
計算効率をさらに向上させるために、入力領域の少なくとも1つの範囲総和テーブルを、プレフィックスサムの並列計算によって生成することができる。このステップを迅速に実施する目的で、画像プロセッサまたは特に範囲総和テーブルジェネレータは好ましくは、少なくとも1つのプレフィックスサムジェネレータを有し、これをハードウェアデバイス、ソフトウェアデバイスまたはこれら2つの組み合わせとすることができる。ハードウェアデバイスは、GPUなどのアレイプロセッサ、または例えば複数のGPU、CPUおよび/またはFPUを有する並列処理アセンブリを有することができる。ソフトウェアデバイスは、ハードウェアデバイスのための命令セットを有することができる。動作中、ハードウェアセットは、プレフィックスサムの並列計算を実行するために、ソフトウェアデバイスの命令セットに基づきその構造を変更することができる。プレフィックスサムジェネレータは、プレフィックスサムを並列方式で計算するように構成されている。
【0045】
様々な方法を用いてデコンボリューションを行うことができる。
【0046】
例えば、ウィーナーフィルタを用いてウィーナーデコンボリューションを実行することができる。この実施形態の場合、出力画像f(x)を、観察された画像すなわちデジタル入力画像から、以下のようにして推定することができる:
【数24】
【0047】
ここでFは、括弧内の量のn次元の離散フーリエ変換を表し、F[h(x)]は、h(x)の離散フーリエ変換の複素共役である。項
【数25】
はウィーナーフィルタである。項βはウィーナーフィルタのノイズ成分であり、1つの好ましい実施形態によれば、これは上述のように局所的信号対ノイズ比SNRに依存して選択され、すなわちβ=β(SNR(x))である。
【0048】
別の実施形態によれば、ルーシー-リチャードソンデコンボリューションといった最大事後確率デコンボリューションを用いることができる。ルーシー-リチャードソンデコンボリューションについては例えば、Fish D. A.; Brinicombe A. M.; Pike E. R.; Walker J. G.著の"Blind deconvolution by means of the Richardson-Lucy algorithm", Journal of the Optical Society of America A, 12 (1), p. 58-65 (1995)に記載されている。ルーシー-リチャードソンデコンボリューションは特に、計算性能を向上させるためにスケーリングされた勾配投影を用いることができる。
【0049】
ルーシー-リチャードソンデコンボリューションにおいて、出力画像について以下の反復計算が実施される:
【数26】
ここでk番目の反復において、出力画像としてf(k)(x)つまり実際の画像の推定が用いられる。コンボリューションは*によって表され、h(x)=h(-x)は、結像システムまたはレンズの反転されたPSF(点像分布関数)である。関数V(x)は、正則化関数Rreg(x)の導関数である:
【数27】
【0050】
正則化関数Rreg(x)を、全変動
【数28】
すなわち勾配のノルム、チホノフ正則化
【数29】
およびグッズラフネス(Good’s roughness)
【数30】
、またはかかる関数の任意の好ましくは線形結合のうちの少なくとも1つとすることができる。
【0051】
項b(x)はバックグラウンドパラメータである。好ましくは、バックグラウンドパラメータは、局所的信号対ノイズ比に依存するように選択され、すなわちb(x):=b(SNR(x))である。さらなる実施形態によれば、バックグラウンドパラメータを局所的信号対ノイズ比の線形関数とすることができる。
【0052】
特に鮮明なデコンボリューションされた画像をもたらす1つの実施形態によれば、バックグラウンドパラメータは、局所的信号対ノイズ比が予め定められたSNR下限閾値を上回ると、最小値に到達する。これに加え、または択一的に、バックグラウンドパラメータは、局所的信号対ノイズ比が予め定められたSNR上限閾値を下回ると、最大値に到達することができる。
【0053】
バックグラウンドパラメータは、例えば入力画像全体について上述のように計算されたノイズレベルに依存するスケーリングファクタを含むことができる。
【0054】
パラメータβは、デコンボリューションのノイズ成分に対応し、本発明の1つの実施形態によれば、局所的信号対ノイズ比に依存するように選択され、すなわちβ:=β(SNR(x))である。局所的信号対ノイズ比を上述のようにして計算することができる。
【0055】
デジタル入力画像に適用される特定のデコンボリューション方法にかかわらず、ノイズ成分β(SNR)は、局所的信号対ノイズ比の連続関数として計算される。特に、ノイズ成分を単調とすることができ、好ましくは、予め定められたSNR下限閾値SNRminにおける予め定められた最大ノイズ値βmax、β(SNRmin)=βmaxと、予め定められた最大SNR値SNRmaxにおける予め定められた最小ノイズ値βminと、の間で減少する厳密に単調な関数とすることができる。
【0056】
特にノイズ成分βは、
【数31】
に依存する線形関数、多項式関数および三角関数のうちの少なくとも1つを有することができる。
【0057】
良好なデコンボリューション結果をもたらす1つの固有の実施形態によれば、ダイナミックレンジの1~10%になるように、特に約5%になるように、βmaxを選択することができる。後者の場合、βmaxを約0.05とすることができる。SNRminの値をゼロとすることができ、つまりSNRmin=0とすることができる。
【0058】
特に顕微鏡または内視鏡により記録されるデジタル入力画像に関して、正則化パラメータが切り捨てられる大きさである予め定められた最大SNR値SNRmaxは、2よりも大きく、好ましくは5よりも小さく、最も好ましくは約3である。
【0059】
ノイズ成分の勾配
【数32】
が、SNR=0において、かつ/または予め定められた最大SNR値SNRmaxにおいて、これら2つの値の間にある中間領域におけるものよりも、すなわち約
【数33】
におけるものよりも小さければ、デコンボリューションに関して良好な結果が得られた。
【0060】
著しく良好なデコンボリューション結果をもたらすさらなる好ましい実施形態によれば、ノイズ成分βは、
【数34】
を用いて計算され、ここでSNRmaxは予め定められた最大SNR値である。
【0061】
上述の課題は、これまで述べてきた実施形態のうちの少なくとも1つにおける画像プロセッサを有する顕微鏡または内視鏡など医療用観察装置によっても解決される。
【0062】
さらに本発明は、これまで述べてきた実施形態のうちのいずれか1つにおける画像処理方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納している非一時的コンピュータ可読媒体にも関する。
【0063】
次に、1つまたは複数の実施形態を用いて図面を参照しながら、本発明の実際の具現化形態について説明する。この説明は一例として用いられているにすぎず、本発明およびその特徴を図面に示し以下で説明することに限定しようというものでは決してない。むしろ実施形態に示されている特徴の組み合わせを、これまで述べてきたように変更することができる。例えば、1つの実施形態の複数の特徴のうちの1つまたは複数を、その技術的効果が特定の具現化形態のために不要であるならば、省略することができる。同様に、これまで述べてきた特徴のうちの1つまたは複数を、その特定の特徴の技術的効果がある特定の用途に有利であるならば、加えることができる。
【0064】
図中、構造と機能のうちの少なくとも一方に関して互いに対応する要素に対しては、同じ参照符号が用いられている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】本発明による医療用観察装置を示す概略図である。
図2】入力領域の一例を示す図である。
図3】本発明による方法の概略的なフローチャートを示す図である。
図4】デコンボリューション前の入力画像を示す図である。
図5】公知のデコンボリューション方法を用いて図4の入力画像から計算された出力画像を示す図である。
図6】本発明によるデコンボリューションを用いて図4の入力画像から計算された出力画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図1を参照しながら、最初に、本発明による画像プロセッサ1の構造について説明する。画像プロセッサ1は、メモリ4および集積回路6といった1つまたは複数のハードウェア構成要素2を有することができる。集積回路6は、少なくとも1つのCPU、GPU、FPU、ASIC、FPGAおよび/またはこれらの任意の組み合わせを有することができる。画像プロセッサ1を、パーソナルコンピュータ、ラップトップまたはタブレットといったコンピュータ8の一部とすることができる。1つまたは複数のハードウェア構成要素2の代わりに、またはこれに加えて、画像プロセッサ1は、1つまたは複数のハードウェア構成要素2において実行されるように構成されたソフトウェアを有することができる。
【0067】
図1に例示的に示されているように、画像プロセッサ1を、顕微鏡12(図示)、特に共焦点走査型顕微鏡、または内視鏡(図示せず)など、医療用観察装置10の一部とすることができる。
【0068】
レンズ16を有するカメラ14のような光学記録装置を用いて、医療用観察装置10は、入力ボクセルxを有するデジタル入力画像I(x)を記録する。デジタル入力画像I(x)は、例えば1つの色チャネルまたは言い換えれば1つのスペクトル帯域における強度を表すデジタル値のn次元配列によって表現される。例えばデジタル入力画像I(x)を、RGBカメラの場合であれば、1つまたは複数の色チャネルR,G,Bから構成することができる。
【0069】
カメラ14をRGBカメラ、モノクロカメラ、マルチスペクトルカメラ、またはハイパースペクトルカメラ、またはかかるカメラの組み合わせを有するアセンブリとすることができ、これらのカメラの画像を結合することができる。カメラ14を特に、蛍光体が蛍光を放出する1つまたは複数のスペクトル帯域に対し感応性のカメラとすることができる。
【0070】
デジタル入力画像I(x)を2次元またはそれよりも高次の次元とすることができ、この場合、次元において空間の次元と色の次元の両方を考察することができる。カメラ14は、デジタル入力画像I(x)の時系列18を記録することができるけれども、以下では単一のデジタル入力画像I(x)について考察する。とはいえこの単一のデジタル入力画像を、例えばzスタッキングにより得られた画像またはHDR画像を用いた場合のように、2つ以上のオリジナル入力画像から計算されたものとすることができる。デジタル入力画像I(x)はステレオ画像であってもよい。
【0071】
内視鏡の場合であれば、顕微鏡12のレンズ16を光ファイバによって置き換えることができる。他の点では内視鏡と顕微鏡を、本発明の目的に関しては同じものと見なすことができる。
【0072】
画像プロセッサ1は複数の構成要素を有することができ、それらの構成要素各々を画像プロセッサ1自体のように、ハードウェアデバイスとして、ソフトウェアデバイスとして、またはハードウェアデバイスとソフトウェアデバイス双方の組み合わせとして、構成することができる。
【0073】
例えば画像プロセッサ1は、デジタル入力画像I(x)を入力するための入力インタフェース20を有することができる。入力インタフェース20によって、カメラ14への有線または無線のコネクション22を提供することができる。デジタル入力画像I(x)は、コネクション22を介してカメラ14から画像プロセッサ1へ送信される。入力インタフェース20は、HDMI、DVI、Bluetooth、TCP/IPまたはRGBコネクション、さらに映像データおよび/または画像データを伝送するタスクに適した他の任意の形式のコネクションなど、デジタル入力画像を受信するための1つまたは複数の標準コネクションを提供することができる。
【0074】
画像プロセッサ1はさらに、デコンボリューションされたデジタル出力画像f(x)をストレージ媒体へ、かつ/または接眼レンズ28、モニタ30および/またはバーチャルリアリティグラス32など1つまたは複数のディスプレイデバイス26へ、出力するための出力インタフェース24を有することができる。1つまたは複数のディスプレイデバイス26のうちのいずれかを、立体鏡またはホログラフィーによるものとすることができる。
【0075】
1つまたは複数のディスプレイデバイス26を、有線および/または無線で出力インタフェース24に接続することができる。出力インタフェース24は、デコンボリューションされたデジタル出力画像f(x)を1つまたは複数のデジタルディスプレイデバイスに送信するために、HDMI、DVI、Bluetooth、TCP/IPまたはRGB、またはデジタル画像データの送信を可能にする他の任意の標準など、1つまたは複数のデータ伝送標準を採用することができる。
【0076】
画像プロセッサ1は、デコンボリューションされたデジタル出力画像f(x)を計算するために、デジタル入力画像I(x)のデコンボリューションを実施するように構成されている。
【0077】
図示されている実施形態の場合、画像プロセッサ1はデコンボリューションエンジン34を有し、これはデジタル入力画像I(x)のデコンボリューションを実施するように構成されている。デコンボリューションを、ウィーナーデコンボリューションまたは最大事後確率デコンボリューション、特にルーシー-リチャードソンデコンボリューションとすることができる。
【0078】
画像プロセッサ1はさらに、範囲総和テーブルジェネレータ36を有することができ、これは並列プレフィックスサムアルゴリズムを用いて、デジタル入力画像I(x)の少なくとも1つの範囲総和テーブル38を計算するように構成されている。範囲総和テーブルジェネレータ36を、画像プロセッサ1のようにハードウェアデバイス、ソフトウェアデバイスまたは双方の組み合わせとすることができる。
【0079】
図示されている実施形態の場合、範囲総和テーブルジェネレータ36は、入力画像全体について
【数35】
の双方の範囲総和テーブルを計算するように構成されている。ここで
【数36】
は、ソーベルフィルタまたはラプラスフィルタまたは任意の次数の勾配といった線形微分演算子である。図示されている実施形態の場合、
【数37】
であり、
【数38】
は配列の平均を表す。
【0080】
範囲総和テーブルから画像全体のバックグラウンドパラメータbを、次式に従いただちに計算することができる:
【数39】
【0081】

【数40】
は、入力領域R(x)に等しいまたはその部分集合である領域Ω内においてのみ、演算が実行されることを表すために用いられる。入力画像の1つのボクセルxにおける局所的信号対ノイズ比を計算するために、入力領域R(x)が定義される。入力領域は、その後のステップで信号対ノイズ比SNR(x)を計算すべき対象となるボクセルxを取り囲んでいる。入力領域は、2次元の入力画像の場合には複数の長方形のブロックから成り、n次元の入力画像の場合には複数の直方体から成る。入力領域R(x)は、300~700個のボクセルを含み、好ましくは約500個のボクセルを含む。
【0082】
例示的な実施形態の場合、入力画像は2次元であり、入力領域は複数の長方形によって構成されている。好ましくは複数の長方形は、入力領域R(x)の中央において、特に目下の入力ボクセルxにおいて、オーバラップしている。範囲総和テーブルが用いられるときには、かかるオーバラップによって、中央領域の重み付けが自動的に大きくなる。入力領域の中央で重み付けが大きくなると、入力領域のエッジにおいて滑らかなテーパ化がもたらされ、したがって改善された結果がもたらされる。
【0083】
図2には、3つの長方形40、42、44の重畳により生じ、目下のボクセルx上にセンタリングされた入力領域R(x)の一例が示されている。この入力領域は、少なくとも2回転対称性を有することができる。当然ながら、他の形状の入力領域を用いてもよい。入力領域R(x)が円形領域に近づくのが好ましい。範囲総和テーブルを用いる際の計算効率を高めるためには、入力領域ができるかぎり僅かな長方形および/またはできるかぎり大きな長方形を含むようにするのが望ましい。複数の長方形の重畳から入力領域を解釈することによって、重み付けが自動的に行われる。図2には、入力領域の種々の長方形部分に重み付け係数が表されている。目下のボクセルが位置しており入力領域の中央にいっそう近い部分は、中央からいっそう離れた部分よりも大きい重み付けを有する。図示されている実施例の場合、重み付け係数はそれぞれ3、2および1である。
【0084】
次いで、入力領域R(x)内のボクセルだけを用いることによって、入力ボクセルxにおけるノイズレベルN(x)が計算される。入力領域R(x)の形状は、長方形40、42、44を定義することによって暗黙的に決定され、それらの長方形の総和が範囲総和テーブルから抽出される。ノイズレベルは以下のようにして計算される:
【数41】
【0085】
次に、やはり入力領域R(x)内のボクセルだけを用いることによって、信号レベルS(x)が以下のようにして計算される:
【数42】
【0086】
式k(x)は、2次元のガウシアンブラーカーネルを表す:
【数43】
【0087】
当然ながら、他のブラーカーネルを用いてもよい。
【0088】
ノイズレベルN(x)と信号レベルS(x)の双方が、入力ボクセルx各々について求められたならば、入力ボクセルx各々について信号対ノイズ比が、
【数44】
のようにして求められる。
【0089】
結果として生じたデジタル配列SNR(x)は、入力画像I(x)と同じ次元を有する。好ましくは、配列SNR(x)はローパスフィルタリングされ、いっそう好ましくは、σ=0.8を有する3×3または5×5のガウシアンフィルタによってブラー処理される。
【0090】
例えばルーシー-リチャードソンデコンボリューションを用いるように選択されたならば、デコンボリューションされた出力画像f(x)を計算するために、以下の反復が実行される:
【数45】
これは以下の収束判定基準が満たされるまで実行される。
【数46】
【0091】
ここでf(k)(x)は、k番目の反復においてデコンボリューションされた出力画像を表す。ノイズ成分β(SNR(x))は、
【数47】
のようにして計算される。ここでSNRmaxは最大SNR閾値を表し、本実施形態ではこれは4に設定される。
【0092】
バックグラウンドパラメータb(x)は、本実施形態では信号対ノイズ比の線形関数となるように選択される。これは
【数48】
のようにして計算される。
【0093】
最後に式V(x)が
【数49】
のようにして計算される。
【0094】
収束判定基準が満たされたならば、f(k+1)(x)がデコンボリューションされたデジタル出力画像を表す。出力画像f(k+1)(x)は、複数の値から成るデジタル配列であり、入力画像I(x)と同じ次元を有する。
【0095】
次いで出力画像f(k+1)(x)が出力インタフェース24へ出力され、そこから出力画像を、表示のために1つまたは複数のディスプレイデバイス26のいずれかへ、かつ/またはストレージデバイスへ、送ることができる。
【0096】
図3に示されているように、画像プロセッサ1により実行されるデコンボリューションを要約することができる。
【0097】
この方法の開始にあたり、ユーザは、デコンボリューションにおいて用いられる定数および関数を選択することができ、またはこれを画像プロセッサ1によって自動的に、例えばプリセット値として、選択することができる。
【0098】
例えば、SNR上限閾値SNRmax、SNR下限閾値SNRminを定義または変更することができる。
【0099】
ユーザはノイズ成分β(SNR(x))の形式を、例えば利用可能な関数のリストから、選択することができる。
【0100】
ユーザは、ノイズレベルを計算するための演算子
【数50】
の特定の形式および/または統計モーメントの次数を選択することができる。
【0101】
ユーザは、配列SNR(x)のブラー処理のために用いられる好ましくは線形のフィルタおよび/またはブラーカーネルk(x)を、例えば利用可能なフィルタのリストから、選択することができる。
【0102】
ユーザは、特定のデコンボリューション方法を選択することができる。例えばユーザは、ウィーナーデコンボリューションと、ルーシー-リチャードソンデコンボリューションのような最大事後確率デコンボリューションと、のいずれかを選択することができる。
【0103】
ウィーナーデコンボリューションが選択されたならば、ユーザは、例えば目下の記録システムに適した点像分布関数などのライブラリから、伝達関数を指定または選択することができる。択一的に、伝達関数または点像分布関数を、メモリセクションまたはストレージセクションに格納することができ、例えば目下用いられているレンズ形式を自動的に検出することによって、顕微鏡または内視鏡の装備に基づき自動的に決定することができる。
【0104】
ルーシー-リチャードソンデコンボリューションが用いられるならば、ユーザは例えば、全変動
【数51】
すなわち勾配のノルム、チホノフ正則化
【数52】
およびグッズラフネス(Good’s roughness)
【数53】
、またはこれらの任意の組み合わせといった利用可能な関数のリストから、正則化関数Rreg(x)を選択することができる。ユーザは、バックグラウンドパラメータb(x)において用いられる関数を、例えばリストから関数を選択することによって、選択することができる。
【0105】
ユーザは、例えば利用可能な入力領域のリストから選択することによって、または固有の入力領域を指定することによって、入力領域R(x)の形状およびサイズを定義することができる。
【0106】
ユーザはさらに、デコンボリューションにおいて用いられるいずれの定数も設定および/または変更することができる。
【0107】
ステップ50において、デジタル入力画像I(x)が取得される。このステップを、カメラ14によって、または画像プロセッサ1によって、実行することができ、カメラ14または画像プロセッサ1は例えば、メモリ4内に存在する1つまたは複数のデジタル画像、カメラ14から取得された1つまたは複数のデジタル画像、または双方の組み合わせから、デジタル入力画像I(x)を計算することができる。
【0108】
次のステップ52において、好ましくはプレフィックスサムなどの並列アルゴリズムを用いて、入力画像I(x)から少なくとも1つの範囲総和テーブル38が計算される。ステップ52を、デコンボリューションが計算される前の任意の時点に実施することができる。上述のように、少なくとも次数2を有する統計モーメントを用いてノイズレベルが計算されるならば、2つの範囲総和テーブル38が計算される。
【0109】
複数の範囲総和テーブル38を利用可能であれば、目下のボクセルx周囲の入力領域R(x)内のボクセルのみを用いて、ステップ54において入力画像I(x)内のすべてのボクセルxについて、局所的ノイズレベルN(x)が計算される。
【0110】
デコンボリューションが計算される前の任意の時点において、上述のように例えばガウシアンブラーカーネルを用い、ステップ56に表されているように、入力画像I(x)のすべての入力ボクセルxについて、局所的信号レベルS(x)が求められる。入力画像I(x)の任意の入力ボクセルxにおいて信号レベルS(x)を計算するために、入力領域R(x)内のボクセルxのみが用いられる。
【0111】
信号レベルS(x)とノイズレベルN(x)が利用可能になれば、ステップ58において入力画像のすべての入力ボクセルxについて信号対ノイズ比が求められる。
【0112】
各ボクセルxについて信号対ノイズ比を含む結果として生じた配列SNR(x)を、ローパスフィルタおよび/またはガウシアンフィルタを用いてブラー処理することができる。これはステップ60によって表されている。
【0113】
ステップ62においてデコンボリューションが実施され、出力画像f(x)が計算される。
【0114】
ステップ64において表されているように、出力画像f(x)に対しさらに後処理を実施することができる。例えば、出力画像に疑似カラーを割り当てることができ、かつ/または入力画像I(x)が蛍光を発する蛍光体の発光帯域内の蛍光画像であるならば、出力画像を他の画像とマージすることができる。
【0115】
ステップ66において、出力画像f(x)をディスプレイデバイス26に表示させることができ、かつ/またはディスクまたはメモリカードといったストレージデバイス(図示せず)に格納することができる。
【0116】
図4図6から、入力画像I(x)のデコンボリューションの結果が明らかになる。図4には入力画像I(x)が示されている。図5には、慣用のルーシー-リチャードソンデコンボリューションによって得られるような出力画像が示されており、このようなデコンボリューションにおいては、バックグラウンドパラメータおよびノイズ成分において、画像全体に関する大域的信号対ノイズ比だけしか用いられていなかった。
【0117】
図6には、本発明の例示的な実施形態の状況において説明したデコンボリューションを用いた結果が示されている。
【0118】
図5図6との比較によりはっきりと示されているのは、本発明による実施形態のデコンボリューションは、慣用のデコンボリューションよりもいっそう効率的にノイズを低減することができ、かついっそう詳細な細部をレンダリングすることができる、ということである。
【0119】
これと同時に、原理的に、局所的信号対ノイズ比を用いるのは大域的信号対ノイズ比を用いるよりも計算にいっそう時間がかかるが、統計モーメントの観点から、また、プレフィックスサムにより計算される範囲総和テーブルの観点から、ノイズレベルを定義することによって、デコンボリューションされた出力画像f(x)の迅速な計算が可能となる。
【符号の説明】
【0120】
1 画像プロセッサ
2 ハードウェア構成要素
4 メモリ
6 集積回路
8 コンピュータ
10 医療用観察装置
12 顕微鏡
14 カメラ
16 レンズ
18 入力画像の時系列
20 入力インタフェース
22 カメラと画像プロセッサとの間のコネクション
24 出力インタフェース
26 ディスプレイデバイス
28 接眼レンズ
30 モニタ
32 バーチャルリアリティグラス
34 デコンボリューションエンジン
36 範囲総和テーブルジェネレータ
38 範囲総和テーブル
40、42、44 入力領域を構成する長方形
50 デジタル入力画像を取得するステップ
52 範囲総和テーブルを計算するステップ
54 ノイズレベルを計算するステップ
56 信号レベルを計算するステップ
58 信号対ノイズ比を計算するステップ
60 信号対ノイズ比配列をブラー処理するステップ
62 入力画像のデコンボリューションにより出力画像を計算するステップ
64 出力画像の後処理
66 出力画像を表示および/または格納するステップ
,b(x) バックグラウンドパラメータ
f(x) デコンボリューションされたデジタル出力画像
(k+1)(x) 出力画像の反復計算における(k+1)番目の反復
【数54】
実際の画像
h(x) 記録システムの伝達関数
I(x) デジタル入力画像
(x) ブラーカーネル
N(x) ノイズレベル
R(x) 信号レベル、ノイズレベルおよび信号対ノイズ比のうちの少なくとも1つを求めるための入力領域
reg(x) 正則化関数
S(x) 信号レベル
SNR(x) 信号対ノイズ比
SNRmax (予め定められた)SNR上限閾値
SNRmin (予め定められた)SNR下限閾値
V(x) 正則化関数の汎関数微分
ボクセル
【数55】
微分演算子
【数56】
配列の平均
a,b,c,n,x,y 座標、変数
β(x) デコンボリューションのノイズ成分
βmax (予め定められた)最大ノイズ値
βmin (予め定められた)最小ノイズ値
Ω 演算が実行される入力画像の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6