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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】単結晶ダイヤモンド切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/20 20060101AFI20220715BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
B23B27/20
B23B27/14 B
B23B27/14 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021535916
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047858
(87)【国際公開番号】W WO2021145165
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2020005599
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】湯川 実
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-146649(JP,A)
【文献】特開平06-126512(JP,A)
【文献】特開2002-254213(JP,A)
【文献】特開2005-319529(JP,A)
【文献】特開2006-176365(JP,A)
【文献】特開2008-200779(JP,A)
【文献】特開2009-291864(JP,A)
【文献】特開2016-074572(JP,A)
【文献】特開2017-196693(JP,A)
【文献】国際公開第2009/044488(WO,A1)
【文献】中国実用新案第203527163(CN,U)
【文献】特開2006-015412(JP,A)
【文献】特開2008-207334(JP,A)
【文献】特開平10-043903(JP,A)
【文献】特開昭64-064702(JP,A)
【文献】特開昭59-182005(JP,A)
【文献】特開平06-190610(JP,A)
【文献】特開2014-046407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逃げ面およびすくい面が設けられた単結晶ダイヤモンド切削工具であって、
前記逃げ面と前記すくい面との境界に切刃が設けられており、
前記切刃から離隔した位置に前記すくい面に連続して前記すくい面に対して0.05度以上80度以下傾斜した傾斜面が設けられており、
前記すくい面の粗さRaは0μmを超え1μm以下であり、
前記切刃に50nm以上1μm以下の幅のチャンファ面が設けられており、
前記切刃の凹凸の幅は0μmを超え100nm以下であり前記チャンファ面の幅よりも小さく、
前記すくい面に対して45°をなし、前記すくい面の垂直方向と45°をなす方向で、かつ、前記切刃の先端側から前記切刃を見た時の写真を3D-SEMで撮影し、前記逃げ面および前記チャンファ面の境界において前記凹凸の認められない部分の稜線を基準とし、最も外側の前記凹凸の凸部を通り、前記稜線と平行である第一曲線を求め、前記稜線に平行で最も内側に位置する前記凹凸の凹部を通過する第二曲線を引き、前記第一曲線および前記第二曲線の間の距離を、前記凹凸の幅とし、
前記傾斜面の粗さRaは0μmを超え5μm以下である、単結晶ダイヤモンド切削工具。
【請求項2】
逃げ面およびすくい面が設けられた単結晶ダイヤモンド切削工具であって、
前記逃げ面と前記すくい面との境界に切刃が設けられており、
前記切刃から離隔した位置に前記すくい面に連続して前記すくい面に対して0.05度以上80度以下傾斜した傾斜面が設けられており、
前記すくい面の粗さRaは0μmを超え1μm以下であり、
前記切刃に50nm以上1μm以下の幅の丸ホーニングが設けられており、
前記切刃の凹凸の幅は0μmを超え100nm以下であり前記丸ホーニングの幅よりも小さく、
前記すくい面に対して45°をなし、前記すくい面の垂直方向と45°をなす方向で、かつ、前記切刃の先端側から前記切刃を見た時の写真を3D-SEMで撮影し、前記丸ホーニングにおいて前記凹凸の認められない部分の稜線を基準とし、最も外側の前記凹凸の凸部を通り、前記稜線と平行である第一曲線を求め、前記稜線に平行で最も内側に位置する前記凹凸の凹部を通過する第二曲線を引き、前記第一曲線および前記第二曲線の間の距離を、前記凹凸の幅とし、
前記傾斜面の粗さRaは0μmを超え5μm以下である、単結晶ダイヤモンド切削工具。
【請求項3】
前記すくい面は(110)面に対して0度以上15度以下の角度をなす、請求項1または2に記載の単結晶ダイヤモンド切削工具。
【請求項4】
逃げ角は0度以上30度以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、単結晶ダイヤモンド切削工具に関する。本出願は、2020年1月17日に出願した日本特許出願である特願2020-005599号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶ダイヤモンド切削工具は、特許文献1(特開2014-12310号公報)、および特許文献2(特開2006-15412号公報)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-12310号公報
【文献】特開2006-15412号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る単結晶ダイヤモンド切削工具は、逃げ面およびすくい面が設けられた単結晶ダイヤモンド切削工具であって、逃げ面とすくい面との境界に切刃が設けられており、切刃から離隔した位置にすくい面に連続してすくい面に対して0.05度以上80度以下傾斜した傾斜面が設けられており、すくい面の粗さRaは1μm以下であり、切刃に1μm以下の幅のチャンファ面または丸ホーニングが設けられており、切刃の凹凸の幅は100nm以下であり、チャンファ面または丸ホーニングの幅よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施の形態1に従った単結晶ダイヤモンド切削工具1の平面図である。
図2図2は、図1中の矢印IIで示す方向から見た単結晶ダイヤモンド切削工具1の側面図である。
図3図3は、図1中のIIIで囲んだ部分を拡大して示す単結晶ダイヤモンド3の平面図である。
図4図4は、図3中のIV-IV線に沿った単結晶ダイヤモンド3の断面図である。
図5図5は、図3中のVで囲んだ部分を拡大して示す単結晶ダイヤモンド3の平面図である。
図6図6は、図5のVI-VI線に沿った単結晶ダイヤモンド3の断面図である。
図7図7は、第一切刃20aおよび第二切刃20bの凹凸200a,200bを示すための図5中のVIIで囲んだ部分の拡大図である。
図8図8は、チャンファ面20cの幅L1を測定する方法を説明するための図である。
図9図9は、第一切刃20aおよび第二切刃20bの凹凸20a,20bの幅A1およびA2を測定する方法を説明するための図である。
図10図10は、実施の形態2に従った単結晶ダイヤモンド3において図6に対応する断面であって、切刃20に設けられた丸ホーニング20hを示す断面図である。
図11図11は、図10で示す切刃20を拡大して示す平面図である。
図12図12は、丸ホーニング20hの幅L2の測定方法を説明するために示す、丸ホーニング20hに連続するすくい面10および逃げ面11を有する単結晶ダイヤモンド切削工具の断面図であって、すくい面10および逃げ面11に直交する断面図である。
図13図13は、丸ホーニング20hの幅L2の測定方法を説明するために示す、丸ホーニング20hとすくい面10および逃げ面11との間に曲面400,500を有する単結晶ダイヤモンド切削工具の断面図であって、すくい面10および逃げ面11に直交する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来の単結晶ダイヤモンド切削工具では、高精度の切削加工においてさらなる寿命の向上が求められていた。
[本開示の効果]
この開示によれば、高精度の切削加工が可能で長寿命の単結晶ダイヤモンド切削工具を提供することができる。
【0007】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0008】
本開示の一態様に係る単結晶ダイヤモンド切削工具は、逃げ面およびすくい面が設けられた単結晶ダイヤモンド切削工具であって、逃げ面とすくい面との境界に切刃が設けられており、切刃から離隔した位置にすくい面に連続してすくい面に対して0.05度以上80度以下傾斜した傾斜面が設けられており、すくい面の粗さRaは1μm以下であり、切刃に1μm以下の幅のチャンファ面または丸ホーニングが設けられており、切刃の凹凸の幅は100nm以下である。
【0009】
このように構成された単結晶ダイヤモンド切削工具においては、すくい面に対して0.05度以上80度以下傾斜した傾斜面が設けられているため、すくい面の粗さRaを1μm以下にすることができる。傾斜面の傾斜が0.01度未満であれば傾斜が小さすぎてすくい面を研磨することが困難となる。傾斜面の傾斜が80度を超えるとすくい面を研磨したときに傾斜面とすくい面との境界における粗さが大きくなり、すくい面の面粗さを1μm以下にすることができない。
【0010】
好ましくは、すくい面は(110)面に対して0度以上15度以下の角度をなす。この範囲内であれば、単結晶ダイヤモンド切削工具の寿命が特に長くなる。
【0011】
好ましくは、傾斜面の粗さRaは5μm以下である。傾斜面の粗さが5μm以下であれば、その傾斜面に連続するすくい面の粗さが小さくなるため、単結晶ダイヤモンド切削工具の寿命が長くなる。
【0012】
好ましくは、逃げ角は0度以上30度以下である。この範囲内であれば逃げ面とワークとの接触を回避しつつ、切刃の強度を維持できるので、単結晶ダイヤモンド切削工具の寿命が特に長くなる。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に従った単結晶ダイヤモンド切削工具1の平面図である。図1で示すように、単結晶ダイヤモンド切削工具1は、シャンク2と、シャンク2の先端に取り付けられた単結晶ダイヤモンド3とを有する。シャンク2は、長手方向に延びる。シャンク2は、たとえば超硬合金により構成される。
【0014】
図2は、図1中の矢印IIで示す方向から見た単結晶ダイヤモンド切削工具1の側面図である。図2で示すように、シャンク2の上面に単結晶ダイヤモンド3が固定されている。単結晶ダイヤモンド3とシャンク2との接続方法は、たとえばロウ付けがある。シャンク2の先端は尖った形状とされる。これにより、シャンク2の先端がワークと接触することを防止できる。
【0015】
図3は、図1中のIIIで囲んだ部分を拡大して示す単結晶ダイヤモンド3の平面図である。図3で示すように、単結晶ダイヤモンド3にはすくい面10が設けられている。すくい面10は単結晶ダイヤモンド3の上面の先端部分に位置している。すくい面10に連続するように単結晶ダイヤモンド3に傾斜面12が設けられている。すくい面10と傾斜面12との間に境界15が位置している。
【0016】
すくい面10の粗さRaは1μm以下である。すくい面10の粗さRaは、たとえば、白色干渉顕微鏡によって測定することができる。すくい面10の粗さRaが10μmを超えると被加工面が粗くなり、工具寿命が短くなる。
【0017】
すくい面10の面方位は特に制限されない。すくい面10は単結晶ダイヤモンド3の(110)面に対して0度以上15度以下の角度をなすことが好ましい。すくい面10の最先端部分が切刃20である。切刃20は図3において円弧形状とされている。切刃20はワークと接触する部分である。
【0018】
傾斜面12の粗さRaは5μm以下であることが好ましい。傾斜面12の粗さが5μm以下であれば、その傾斜面12に連続するすくい面10の粗さが小さくなるため、単結晶ダイヤモンド切削工具1の寿命が特に長くなる。すくい面10の粗さRaは、たとえば、白色干渉顕微鏡によって測定することができる。
【0019】
図4は、図3中のIV-IV線に沿った単結晶ダイヤモンド3の断面図である。図4で示すように、単結晶ダイヤモンド3の切刃20はすくい面10と逃げ面11との境界部分に位置している。傾斜面12はすくい面10に対して角度θ1(傾斜角)を有している。傾斜角θ1は0.01度以上80度以下である。傾斜角θ1が0.01度未満であれば傾斜面12はすくい面10とほぼ同一平面となり、すくい面10の研磨時に傾斜面12が邪魔になりすくい面10を十分に研磨できない。傾斜角θ1が80度を超えると傾斜角θ1が大きくなりすぎて境界15付近で表面粗さが大きくなる。その結果、すくい面10の表面粗さも大きくなる。好ましくは角度θ1は1度以上50度以下、より好ましくは10度以上30度以下である。
【0020】
矢印3aで示す工作物の移動方向に対して逃げ面11は角度θ2(逃げ角)を有している。角度θ2は、特に制限されるものではない。逃げ角θ2は投影機によって測定することができる。
【0021】
好ましくは角度θ2は5度以上25度以下、より好ましくは10度以上20度以下である。矢印3aで示す工作物の移動方向に対して単結晶ダイヤモンド3の下面は角度θ3を有している。角度θ3は、特に制限されるものではない。
【0022】
傾斜角θ1は白色干渉顕微鏡によって測定できる。逃げ角θ2および角度θ3は投影機によって測定することができる。
【0023】
図5は、図3中のVで囲んだ部分を拡大して示す単結晶ダイヤモンド3の平面図である。図5で示すように、すくい面10の端部に設けられた切刃20は、第一切刃20aと第二切刃20bとを有する。第一切刃20aは外側、第二切刃20bは内側に設けられる。第一切刃20aと第二切刃20bとの間がチャンファ面20cである。
【0024】
チャンファ面20cは面取りされることで形成されている。チャンファ面20cは第一切刃20aと第二切刃20bとの間において円弧状に形成されている。切刃20およびチャンファ面20cが円弧状に形成されることで、切刃20上におけるとワークとの接触位置が変化しても所定の切削性能を発揮することができる。
【0025】
図6は、図5のVI-VI線に沿った単結晶ダイヤモンド3の断面図である。図6で示すように、すくい面10に近い側に第二切刃20bが設けられる。逃げ面11に近い側に第一切刃20aが設けられる。チャンファ面20cの幅L1は、1μm以下である。チャンファ面20cの幅L1が1μmを超えるとチャンファ面20cが摩耗したような形状となり寿命が短くなる。
【0026】
チャンファ面20cの幅は、単結晶ダイヤモンド3の長手方向に沿った図6の断面における幅をいう。チャンファ面20cの幅L1は、50nm以上400nm以下であることが好ましい。チャンファ面20cの幅L1は、たとえば、3D-SEM(Scanning Electron Microscope)によって測定することができる。3D-SEMとしてエリオニクス社製ERA-600FE BSEを用いることができる。
【0027】
切刃20が円弧状ではなく、たとえば角形であり第一切刃と第二切刃とが先端で交差する場合には、第一切刃および第二切刃の各々の中央で第一切刃および第二切刃の延びる方向に垂直な断面におけるチャンファ面の幅の平均値をチャンファ面の幅とする。
【0028】
図7は、第一切刃20aおよび第二切刃20bの凹凸200a,200bを示す図である。図7で示すように、第一切刃20aに凹凸200aが設けられる。第二切刃20bに凹凸200bが設けられる。各々の凹凸200a,200bの幅A1およびA2は100nm以下であり、かつ、チャンファ面20cの幅L1よりも小さい。凹凸200a,200bの幅A1およびA2が100nmを超えると被加工面が粗くなり工具寿命が短くなる。凹凸200a,200bの幅A1およびA2は、たとえば、3D-SEMによって測定することができる。
【0029】
図8はチャンファ面20cの幅L1を測定する方法を説明するための図である。以下の手順でチャンファ面20cの幅L1を測定する。
【0030】
(1)3D-SEMを使い2Dの設定で、図8で示すように切刃20をすくい面10の垂直方向から見て、大きな欠け20fの無い所を無作為に10点選ぶ。点線20gで示す部分が選ばれる。
【0031】
(2)次に(1)で選んだ点線20gの位置で切刃20の断面を3DーSEMで得る。ただし、この断面は切刃20、すくい面10および逃げ面11の表面の位置情報を示すものであり、切刃20の内部情報を有していない。断面を3D-SEMで見ながらチャンファ面20cを撮影する。
【0032】
(3)次に(2)で撮影した写真を元に、各断面のチャンファ面20cの幅L1を測定する。
【0033】
(4)次に(3)で測定した10点の平均値をチャンファ面の幅L1とする。
図9は第一切刃20aおよび第二切刃20bの凹凸20a,20bの幅A1およびA2を測定する方法を説明するための図である。以下の手順で凹凸20a,20bの幅A1およびA2を測定する。
【0034】
(1)すくい面10に対して45°をなし、すくい面10の垂直方向と45°をなす方向で、かつ、切刃先端側から切刃を見た時の写真を3D-SEMで撮影する。
【0035】
(2)逃げ面11およびチャンファ面20cの境界において凹凸200aの認められない部分の稜線220aを基準とする。最も外側の凹凸200aの凸部を通り、稜線220aと平行である曲線201aを求める。稜線220aに平行で最も内側に位置する凹凸200aの凹部を通過する曲線202aを引く。2つの曲線201a,202aの間の距離が、凹凸200aの幅になる。すくい面10およびチャンファ面20cの境界において凹凸200bの認められない部分の稜線220bを基準とする。最も外側の凹凸200bの凸部を通り、稜線220bと平行である曲線202bを求める。稜線220bに平行で最も内側に位置する凹凸200bの凹部を通過する曲線201bを引く。2つの曲線201b,202bの間の距離が、凹凸200bの幅になる。
【0036】
(3)凹凸の幅が10nm以上のものは3D-SEMで見て凹凸を観察できるので、以上の方法で測定できる。凹凸の幅が10nm未満になると凹凸が認められなくなる。そのため、凹凸が認められない大きさのものは10nm未満と判断する。
【0037】
(4)凹凸の幅は、すくい面10とチャンファ面20cの境界および逃げ面11とチャンファ面20cの境界の両方A1およびA2の平均値(A1+A2)/2とする。すなわち計算で求められるA1とA2とは同じ値であり、A1=A2=(A1+A2)/2である。
【0038】
(実施の形態2)
図10は、実施の形態2に従った単結晶ダイヤモンド3において図6に対応する断面であって、切刃20に設けられた丸ホーニング20hを示す断面図である。図11は、図10で示す切刃20を拡大して示す平面図である。
【0039】
図10および図11で示すように、切刃20は丸ホーニング20hによって形成されている。切刃20に直交する図10の断面で円弧状をなす丸ホーニング20hが切刃20に沿って形成される。丸ホーニング20hの幅L2は1μm以下である。丸ホーニング20hの幅L2が1μmを超えると丸ホーニング20hが摩耗したような形状となり寿命が短くなる。丸ホーニング20hの幅L2は、50nm以上400nm以下が好ましい。丸ホーニング20hの幅L2は3D-SEMによって以下の工程で測定することができる。図12は丸ホーニング20hの幅L2の測定方法を説明するために示す、丸ホーニング20hに連続するすくい面10および逃げ面11を有する単結晶ダイヤモンド切削工具の断面図であって、すくい面10および逃げ面11に直交する断面図である。丸ホーニング20hがすくい面10および逃げ面11に連続する場合には、以下の手順で丸ホーニング20hの幅L2を測定する。
【0040】
(1)3D-SEMを使い2Dの設定で、切刃20をすくい面10の垂直方向から見て、実施の形態1と同様に大きな欠けの無い所を無作為に10点選ぶ。
【0041】
(2)次に(1)で選んだ位置で切刃20の断面を3DーSEMで得る。ただし、この断面は切刃20、すくい面10および逃げ面11の表面の位置情報を示すものであり、切刃20の内部情報を有していない。断面を3D-SEMで見ながら丸ホーニング20hを撮影する。
【0042】
(3)次に(2)で撮影した写真を元に、丸ホーニング20hに重なる部分に図12で示すように円20Rを形成する。
【0043】
(4)次に(3)で求めた円20Rの半径Rを測定する。
(5)次に(4)で求めた半径R、すくい面10および逃げ面11の刃物角Eから丸ホーニング20hの幅L2を求める。
【0044】
図13は、丸ホーニング20hの幅L2の測定方法を説明するために示す、丸ホーニング20hとすくい面10および逃げ面11との間に曲面400,500を有する単結晶ダイヤモンド切削工具の断面図であって、すくい面10および逃げ面11に直交する断面図である。たとえば研磨により、丸ホーニング20hに隣接するように丸ホーニング20hより半径が大きい曲面400,500が存在する場合がある。この場合には、以下の手順で丸ホーニング20hの幅L2を測定する。
【0045】
(1)3D-SEMを使い2Dの設定で、切刃20をすくい面10の垂直方向から見て、実施の形態1と同様に大きな欠けの無い所を無作為に10点選ぶ。
【0046】
(2)次に(1)で選んだ位置で切刃20の断面を3DーSEMで得る。ただし、この断面は切刃20、すくい面10および逃げ面11の表面の位置情報を示すものであり、切刃20の内部情報を有していない。断面を3D-SEMで見ながら丸ホーニング20hを撮影する。
【0047】
(3)次に(2)で撮影した写真を元に、丸ホーニング20hの先端部分に重なる部分に図12で示すように円20Rを形成する。
【0048】
(4)次に(3)で求めた円20Rの半径Rを測定する。すくい面10と曲面400の境界部分に向けて円20Rの中心から半径線402を引く(半径線402とすくい面10とのなす角は90°になるようにする。)。半径線402と円20Rとの交点401を求める。逃げ面11と曲面500の境界部分に向けて円20Rの中心から半径線502を引く(半径線502と逃げ面11とのなす角は90°になるようにする。)。半径線502と円20Rとの交点501を求める。
【0049】
(5)次に(4)で求めた半径R、すくい面10および逃げ面11の刃物角Eから交点401,501間の距離である丸ホーニング20hの幅L2を求める。
【0050】
切刃20には凹凸200cが設けられている。凹凸200cの幅A3は100nm以下である。丸ホーニング20hの凹凸200cの幅A3は3D-SEMによって測定することができる。
【0051】
(1)すくい面10に対して45°をなし、すくい面10の垂直方向と45°をなす方向で、かつ、切刃先端側から切刃を見た時の写真を3D-SEMで撮影する。
【0052】
(2)丸ホーニング20hにおいて凹凸200cの認められない部分の稜線を基準とする。最も外側の凹凸200cの凸部を通り、稜線と平行である第一曲線を求める。稜線に平行で最も内側に位置する凹凸200cの凹部を通過する第二曲線を引く。第一および第二曲線間の距離が、凹凸200cの幅になる。
【0053】
(3)凹凸の幅が10nm以上のものは3D-SEMで見て凹凸を観察できるので、以上の方法で測定できる。凹凸の幅が10nm未満になると凹凸が認められなくなる。そのため、凹凸が認められない大きさのものは10nm未満と判断する。
【0054】
(実施例1)
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
まず、図1から図7の形状で、傾斜角θ1、すくい面10の粗さRa、チャンファ幅L1、切刃凹凸の幅A1,A2、すくい面方位、傾斜面12の粗さRa、逃げ角θ2をさまざまに設定した試料を準備した。
【0058】
これらの試料を用いて、レンズの金型(ワーク:材質は鋼材にNi-Pめっきを施したもの)の鏡面仕上げ加工を行った。金型は直径φが5mmの円柱形状であり、その先端が球面状である。その球面の鏡面仕上げ加工において、仕上げ面に虹面が現れたところで工具の寿命とした。
【0059】
加工条件は、以下の通りである。
加工速度:最大500mm/秒(回転数一定で球面を加工するため、加工部位により加工速度は異なる。)
クーラント:オイルミスト
切り込み深さ:1000μm
送り:1000μm/rev
寿命に到達するまでのワーク(レンズの金型)の加工数を用いて工具の寿命を評価した。加工が進行するにつれて切刃の面粗さが大きくなるため、ワークの被加工面の面粗さも大きくなる。被加工面の面粗さが一定値以上になると光の反射により虹面が生じる。12個加工できれば合格とした。試料番号10から15では12個加工する前に虹面が現れるため、寿命が短いことが分かった。
【0060】
すくい面10の面方位が(110)である試料番号16から20は、すくい面10の面方位が(100)である試料よりも寿命が長い。これは切刃に耐摩耗性が高い結晶方位が位置するためである。
【0061】
傾斜面12の面粗さRaが5μm以下である試料番号17から24は、傾斜面12の面粗さRaが5μmを超える試料よりも寿命が長い。これは傾斜面12が粗いとすくい面10が粗くなり、切刃の凹凸が大きくなるためである。
【0062】
逃げ角θ2が30度以下である試料番号19,20,23-26は、逃げ角θ2が30度を超える試料よりも寿命が長い。これは、この範囲内であれば逃げ面とワークとの接触を回避しつつ、切刃の強度を維持できるからである。
【0063】
(実施例2)
【0064】
【表3】
【0065】
図8および図9の形状で、傾斜角θ1、すくい面10の粗さRa、丸ホーニング幅L2、切刃凹凸の幅A3、傾斜面12の粗さRa、逃げ角θ2をさまざまに設定した試料を準備した。
【0066】
これらの試料を用いて、レンズの金型(ワーク:材質は鋼材にNi-Pめっきを施したもの)の鏡面仕上げ加工を行った。金型は直径φが5mmの円柱形状であり、その先端が球面状である。その球面の鏡面仕上げ加工において、仕上げ面に虹面が現れたところで工具の寿命とした。
【0067】
加工条件は、以下の通りである。
加工速度:最大500mm/秒(回転数一定で球面を加工するため、加工部位により加工速度は異なる。)
クーラント:オイルミスト
切り込み深さ:1000μm
送り:1000μm/rev
寿命に到達するまでのワーク(レンズの金型)の加工数を用いて工具の寿命を評価した。加工が進行するにつれて切刃の面粗さが大きくなるため、ワークの被加工面の面粗さも大きくなる。被加工面の面粗さが一定値以上になると光の反射により虹面が生じる。12個加工できれば合格とした。試料番号110から115では12個加工する前に虹面が現れるため、寿命が短いことが分かった。
【0068】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
この開示は単結晶ダイヤモンド切削工具の分野において用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 単結晶ダイヤモンド切削工具、2 シャンク、3 単結晶ダイヤモンド、10 すくい面、11 逃げ面、12 傾斜面、15 境界、20 切刃、20a 第一切刃、20b 第二切刃、20c チャンファ面、20h 丸ホーニング、200a,200b,200c 凹凸。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13