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特許7106040複合素材、その製造方法及び強化繊維基材の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】複合素材、その製造方法及び強化繊維基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/74 20060101AFI20220715BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20220715BHJP
   D06M 15/327 20060101ALI20220715BHJP
   D06M 15/356 20060101ALI20220715BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20220715BHJP
【FI】
D06M11/74
C08J5/06
D06M15/327
D06M15/356
D06M101:40
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022524712
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2021043820
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2020199242
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小向 拓治
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 麻季
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/240094(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065535(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176933(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 16/00
D06M 19/00 - 23/18
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、
屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成し、前記母材の表面に設けられた構造体と、
前記接触部の少なくとも周囲に設けられ、前記カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋する第1サイジング剤と
を備えることを特徴とする複合素材。
【請求項2】
前記母材は、繊維であり、
前記繊維の表面に付着する前記カーボンナノチューブが前記繊維の表面に直接付着している
ことを特徴とする請求項1に記載の複合素材。
【請求項3】
前記母材は、炭素繊維であり、
前記炭素繊維の表面に付着する前記カーボンナノチューブが前記炭素繊維の表面に直接付着している
ことを特徴とする請求項1に記載の複合素材。
【請求項4】
前記第1サイジング剤の質量は、前記炭素繊維の質量に対して0.6%以上1.1%以下の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載の複合素材。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブを覆う第2サイジング剤を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の複合素材。
【請求項6】
前記構造体の表面を覆うように付着した水溶性のポリマーからなるプロテクト剤を備えることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の複合素材。
【請求項7】
前記プロテクト剤は、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項6に記載の複合素材。
【請求項8】
屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブが分散されるとともに超音波振動を印加した分散液に母材を浸漬し、前記母材に複数の前記カーボンナノチューブを付着させて、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を備える構造体を前記母材の表面に形成する構造体形成工程と、
カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物を溶解した第1サイジング処理液に前記母材を接触させ、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋する第1サイジング剤を付与する第1サイジング処理工程と
を有する複合素材の製造方法。
【請求項9】
前記第1サイジング剤は、前記カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基が反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋することを特徴とする請求項8に記載の複合素材の製造方法。
【請求項10】
前記第1サイジング処理液は、親水性セグメントを有するカルボジイミド化合物を水に溶解したものであることを特徴とする請求項8または9に記載の複合素材の製造方法。
【請求項11】
前記母材は、繊維であり、
前記繊維の表面に付着する前記カーボンナノチューブを前記繊維の表面に直接付着させる
ことを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載の複合素材の製造方法。
【請求項12】
前記母材は、炭素繊維であり、
前記構造体形成工程は、前記炭素繊維の表面に付着する前記カーボンナノチューブを前記炭素繊維の表面に直接付着させる
ことを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載の複合素材の製造方法。
【請求項13】
前記第1サイジング処理工程は、前記第1サイジング剤の質量を前記炭素繊維の質量に対して0.6%以上1.1%以下の範囲内とすることを特徴とする請求項12に記載の複合素材の製造方法。
【請求項14】
前記第1サイジング処理工程の後に、前記カーボンナノチューブを覆う第2サイジング剤を付与する第2サイジング処理工程を有することを特徴とする請求項8ないし13のいずれか1項に記載の複合素材の製造方法。
【請求項15】
前記第1サイジング処理工程の後に、前記構造体の表面を覆う水溶性のポリマーからなるプロテクト剤を前記構造体の表面を覆うように付着させるプロテクト処理工程を有することを特徴とする請求項11ないし13のいずれか1項に記載の複合素材の製造方法。
【請求項16】
前記プロテクト剤は、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項15に記載の複合素材の製造方法。
【請求項17】
複数の繊維からなり、前記複数の繊維のそれぞれの表面に屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を備える構造体が形成され、前記接触部の少なくとも周囲に設けられ、前記カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋する第1サイジング剤を有するとともに、前記構造体の表面を覆うように前記構造体の表面に付着された水溶性のポリマーからなるプロテクト剤を有する繊維束を用いて強化繊維基材を作製する基材作製工程と、
前記強化繊維基材を水で洗浄し、前記強化繊維基材から前記プロテクト剤を除去する洗浄工程と
を有することを特徴とする強化繊維基材の製造方法。
【請求項18】
前記プロテクト剤は、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項17に記載の強化繊維基材の製造方法。
【請求項19】
前記繊維は、炭素繊維であることを特徴とする請求項17または18に記載の強化繊維基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合素材、その製造方法及び強化繊維基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合素材として、例えば母材としての炭素繊維と、その炭素繊維の表面に付着した複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)で構成された構造体とを有するものが知られている(例えば、特許文献1)。この複合素材の構造体は、複数のCNTが互いに接続されたネットワーク構造を形成しているとともに、炭素繊維の表面に付着している。こうした複合素材を強化繊維として樹脂を強化した炭素繊維強化成形体は、炭素繊維を含むことにより樹脂単体よりも高い強度や剛性が得られるとともに、CNTに由来して、電気導電性、熱伝導性、機械的特性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-76198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような複合素材を用いた炭素繊維強化成形体の用途は、様々な分野に用途が拡大しており、これにともない炭素繊維強化成形体に高い性能が求められており、機械的特性等に対する要求は、より一層高いものとなってきている。このため、CNTに由来して特性がより高められた複合素材が望まれている。
【0005】
本発明は、CNTに由来した特性をより高めることができる複合素材、その製造方法及び強化繊維基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複合素材は、母材と、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成し、前記母材の表面に設けられた構造体と、前記接触部の少なくとも周囲に設けられ、前記カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋する第1サイジング剤とを備えるものである。
【0007】
本発明の複合素材の製造方法は、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブが分散されるとともに超音波振動を印加した分散液に母材を浸漬し、前記母材に前記複数のカーボンナノチューブを付着させて、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を備える構造体を前記母材の表面に形成する構造体形成工程と、カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物を溶解した第1サイジング処理液に前記母材を接触させ、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋する第1サイジング剤を付与する第1サイジング処理工程とを有するものである。
【0008】
本発明の強化繊維基材の製造方法は、複数の繊維からなり、前記複数の繊維のそれぞれの表面に屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を備える構造体が形成され、前記接触部の少なくとも周囲に設けられ、前記カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基 とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋する第1サイジング剤を有するとともに、前記構造体の表面を覆うように前記構造体の表面に付着された水溶性のポリマーからなるプロテクト剤を有する繊維束を用いて強化繊維基材を作製する基材作製工程と、前記強化繊維基材を水で洗浄し、前記強化繊維基材から前記プロテクト剤を除去する洗浄工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構造体を構成するカーボンナノチューブ同士がカルボジイミド由来の構造を有する第1サイジング剤によって架橋され、カーボンナノチューブ同士が強固に付着した状態になるため、構造体がより崩壊し難くなり、複合素材のカーボンナノチューブに由来した特性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る複合素材の構成を示す説明図である。
図2】CNTへの第1サイジング剤の付着状態を示す説明図である。
図3】CNT同士が接触している接触部における第1サイジング剤の付着状態を示す説明図である。
図4】CNTへの第1サイジング剤の別の付着状態を示す説明図である。
図5】CNT同士が接触している接触部における第1サイジング剤の別の付着状態を示す説明図である。
図6】炭素繊維にCNTを付着する付着装置の構成を示す説明図である。
図7】ガイドローラ上で開繊された状態の炭素繊維束を示す説明図である。
図8】分散液中における炭素繊維の通過位置を示す説明図である。
図9】プリプレグの構成を模式的に示す説明図である。
図10】炭素繊維強化成形体を模式的に示す説明図である。
図11】炭素繊維同士が架橋した状態を示す説明図である。
図12】複合素材を用いたロッドのX線CTによる内部構造を示す画像である。
図13】炭素繊維の原糸を用いたロッドのX線CTによる内部構造を示す画像である。
図14】CNTへの第2サイジング剤の付着状態を示す説明図である。
図15】複合素材を単糸としたマルチフィラメントを示す説明図である。
図16】第2実施形態における製造工程を示す説明図である。
図17】プロテクト剤を付与したCNT複合繊維を示す説明図である。
図18】プロテクト剤が付着したCNT複合繊維の表面を示すSEM写真である。
図19】洗浄後のCNT複合繊維の表面を示すSEM写真である。
図20】プロテクト剤を付与した炭素繊維束から作製した強化繊維基材の表面を示す写真である。
図21】プロテクト剤を付与していない炭素繊維束から作製した強化繊維基材の表面を示す写真である。
図22】実施例に用いた材料CNTの曲がった状態を示すSEM写真である。
図23】実施例3の3点曲げ試験の結果を示すグラフである。
図24】実施例4のNOLリング試験の結果を示すグラフである。
図25】実施例5のフラグメンテーション法による切断繊維長さを示すグラフである。
図26】サイジング剤質量比率Rmが0.8%の構造体への第1サイジング剤の付着状態を示すSEM写真である。
図27】サイジング剤質量比率Rmが1.1%の構造体への第1サイジング剤の付着状態を示すSEM写真である。
図28】サイジング剤質量比率Rmが1.5%の構造体への第1サイジング剤の付着状態を示すSEM写真である。
図29】炭素繊維の表面に均一にかつ十分な付着量でCNTが付着して形成された構造体を示すSEM写真である。
図30】炭素繊維の表面へのCNTの付着量にムラがある構造体を示すSEM写真である。
図31】フラグメンテーション法により測定された実施例6の切断繊維長さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
[複合素材]
図1において、複合素材10は、複数の連続した炭素繊維11をまとめた炭素繊維束12を含む。各炭素繊維11の表面には、それぞれ構造体14が形成されており、構造体14には、第1サイジング剤15(図2参照)が付与されている。
【0012】
炭素繊維束12を構成する炭素繊維11は、実質的に互いに絡まり合うことなく各炭素繊維11の繊維軸方向が揃っている。繊維軸方向は、炭素繊維11の軸の方向(延びた方向)である。この例では、炭素繊維束12は、1万2千本の炭素繊維11から構成されている。炭素繊維束12を構成する炭素繊維11の本数は、特に限定されないが、例えば1万以上10万本以下の範囲内とすることができる。なお、図1では、図示の便宜上、十数本のみの炭素繊維11を描いてある。また、この例では、上記のような構造体14及び第1サイジング剤15を有する複数の炭素繊維11をもって複合素材10としているが、複合素材10は、上記のような構造体14及び第1サイジング剤15を有する1本の炭素繊維11であってもよい。なお、以下の説明では、表面に構造体14が形成された繊維(この例では炭素繊維11)をその構造体14とあわせてCNT複合繊維と称することがある。
【0013】
炭素繊維束12中における炭素繊維11の絡まり合いは、炭素繊維11の乱れの程度によって評価することができる。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により炭素繊維束12を一定倍率で観察して、観察される範囲(炭素繊維束12の所定長さの範囲)における、所定の本数(例えば10本)の炭素繊維11の長さを測定する。この測定結果から得られる所定の本数の炭素繊維11についての長さのばらつき、最大値と最小値との差、標準偏差に基づいて、炭素繊維11の乱れの程度を評価することができる。また、炭素繊維11が実質的に絡まり合っていないことは、例えば、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の交絡度測定方法に準じて交絡度を測定して判断することもできる。測定された交絡度が小さいほど、炭素繊維束12における炭素繊維11同士の絡まり合いは少ないことになる。
【0014】
炭素繊維11同士が実質的に互いに絡まり合っていない、あるいは絡まり合いが少ない炭素繊維束12は、炭素繊維11を均一に開繊しやすい。これにより、原糸である各炭素繊維11にCNT17を均一に付着させやすく、またCNT複合繊維では、プリプレグまたは炭素繊維強化成形体を製造する際に、炭素繊維束12に樹脂が均一に含浸し、炭素繊維11のそれぞれが強度に寄与する。
【0015】
炭素繊維11は、特に限定されず、ポリアクリルニトリル、レーヨン、ピッチなどの石油、石炭、コールタール由来の有機繊維の焼成によって得られるPAN系、ピッチ系のもの、木材や植物繊維由来の有機繊維の焼成によって得られるもの等を用いることができ、市販されているものでもよい。また、炭素繊維11の直径及び長さについても、特に限定されない。炭素繊維11は、その直径が約5μm以上20μm以下の範囲内のものを好ましく用いることができ、5μm以上10μm以下の範囲内のものをより好ましく用いることができる。炭素繊維11は、長尺なものが好ましく用いることができ、その長さは、50m以上が好ましく、より好ましくは100m以上100000m以下の範囲内、さらに好ましくは100m以上10000m以下の範囲内である。なお、プリプレグ、炭素繊維強化成形体としたときに、炭素繊維11が短く切断されていてもかまわない。
【0016】
上述のように炭素繊維11の表面には、構造体14が形成されている。構造体14は、複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)17が絡み合ったものである。構造体14を構成するCNT17は、炭素繊維11の表面のほぼ全体で均等に分散して絡み合うことで、複数のCNT17が互いに絡み合った状態で接続されたネットワーク構造を形成する。ここでいう接続とは、物理的な接続(単なる接触)と化学的な接続とを含む。CNT17同士は、それらの間に界面活性剤などの分散剤や接着剤等の介在物が存在することなく、CNT17同士が直接に接触する直接接触である。
【0017】
構造体14を構成する一部のCNT17は、炭素繊維11の表面に直接付着して固定されている。これにより、炭素繊維11の表面に構造体14が直接付着している。CNT17が炭素繊維11の表面に直接付着するとは、CNT17と炭素繊維11の表面との間に界面活性剤等の分散剤や接着剤等が介在することなく、CNT17が炭素繊維11に直接に付着していることであり、その付着(固定)はファンデルワールス力による結合によるものである。構造体14を構成する一部のCNT17が炭素繊維11の表面に直接付着していることにより、分散剤や接着剤等が介在せずに、炭素繊維11の表面に構造体14が直接接触した状態になっている。
【0018】
また、構造体14を構成するCNT17には、炭素繊維11の表面に直接接触せず、他のCNT17と絡むことで炭素繊維11に固定されているものもある。さらに、炭素繊維11の表面に直接付着するとともに他のCNT17と絡むことで炭素繊維11に固定されているものもある。以下では、これら炭素繊維11へのCNT17の固定をまとめて炭素繊維11への付着と称して説明する。なお、CNT17が絡むまたは絡み合う状態には、CNT17の一部が他のCNT17に押え付けられている状態を含む。
【0019】
構造体14を構成するCNT17は、上記のように炭素繊維11の表面に直接付着しているものの他に、炭素繊維11の表面に直接接触していないが他のCNT17と絡み合うこと等で炭素繊維11に固定されているものがある。このため、この例の構造体14は、従来の複合素材の構造体のように炭素繊維の表面に直接付着したCNTだけで構成されるよりも多くのCNT17で構成される。すなわち、炭素繊維11へCNT17が付着する本数が従来のものよりも多くなっている。
【0020】
上記のように、複数のCNT17が互いの表面に介在物無しで互いに接続されて構造体14を構成しているので、複合素材10は、CNT由来の電気導電性、熱伝導性の性能を発揮する。また、CNT17が炭素繊維11の表面に介在物無しで付着しているので、構造体14を構成するCNT17は、炭素繊維11の表面から剥離し難く、複合素材10及びそれを含む炭素繊維強化成形体は、その機械的強度が向上する。
【0021】
後述するように炭素繊維強化成形体では、構造体14が形成された複数の炭素繊維11すなわち複数のCNT複合繊維で構成される炭素繊維束12にマトリックス樹脂が含浸して硬化している。構造体14にマトリックス樹脂が含浸するので、各炭素繊維11の構造体14が炭素繊維11の表面とともにマトリックス樹脂に固定される。これにより、各炭素繊維11がマトリックス樹脂に強固に接着した状態、すなわち炭素繊維11とマトリックス樹脂との界面接着強度が高くなり、炭素繊維11とマトリックス樹脂との剥離強度が向上する。また、このようなマトリックス樹脂との接着が複合素材10の全体にわたることで、炭素繊維強化成形体の全体で繊維強化の効果が得られる。また、隣り合う炭素繊維11の間の樹脂部分にCNT17が介在することにより、炭素繊維間の相互作用が強くなり、炭素繊維11に存在する欠陥起因の強度低下を隣接する他の炭素繊維11が支えるため、欠陥起因の強度低下が抑制される。
【0022】
また、炭素繊維強化成形体に外力が与えられて、その内部に変位が生じた時には、炭素繊維強化成形体内部の炭素繊維11に変位が生じる。炭素繊維11の変位により、構造体14に伸びが生じ、そのCNT17のネットワーク構造により、拘束効果が得られる。これにより、CNTの特性が発揮されて炭素繊維強化成形体の弾性率が高められる。
【0023】
さらには、炭素繊維強化成形体内の各炭素繊維11の周囲には、構造体14を構成するCNT17にマトリックス樹脂が含浸して硬化した領域(以下、複合領域という)18(図11参照)が形成されている。この複合領域18は、外部からの機械的エネルギーを効率的に吸収する。すなわち、炭素繊維11間で振動等のエネルギーが伝搬する場合には、その伝搬する振動のエネルギーがそれぞれの炭素繊維11の周囲の複合領域18の摩擦によって吸収されて減衰する。この結果、炭素繊維強化成形体の例えば振動減衰特性(制振性)が向上する。
【0024】
複数の炭素繊維11にそれぞれ形成された構造体14は、互いに独立した構造であり、一の炭素繊維11の構造体14と他の炭素繊維11の構造体14は、同じCNT17を共有していない。すなわち、一の炭素繊維11に設けられた構造体14に含まれるCNT17は、他の炭素繊維11に設けられた構造体14に含まれない。
【0025】
第1サイジング剤15は、図2に示すように、CNT17同士が互いに直接接触している接触部を包み覆う状態でCNT17に付与されている。第1サイジング剤15は、CNT17の表面に存在する官能基、例えばヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)等の親水基と、カルボジイミド化合物のカルボジイミド基(-N=C=N-)が反応することにより生じたカルボジイミド由来の構造を有するものである。すなわち、第1サイジング剤15は、カルボジイミド由来の構造を介して、直接接触したCNT17同士を架橋する。これにより、CNT17同士は、それらが互いに直接接触する接触部と第1サイジング剤15とで固定される。
【0026】
CNT17の表面の官能基の付与手法は、特に限定されず、CNT17を作製したあとに行われる各種処理によって結果的に付与されてもよいし、官能基付与処理によって付与してもよい。官能基付与処理は、例えば、湿式にて行われる陽極電解酸化法やオゾン酸化法等を用いることができる。第1サイジング剤15を構造体14に付与する第1サイジング処理のときにCNT17の表面に官能基があれば、CNT17の表面に官能基を付与するタイミングは特に限定されない。
【0027】
カルボジイミド化合物は、nを1以上の整数として、式(1)に示す構造を2以上含む化合物である。Rは、例えば炭化水素である。炭化水素としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。
【0028】
【化1】
・・・(1)
【0029】
カルボジイミド化合物としては、例えば特開2007-238753号公報等に記載されるように、水性樹脂用硬化剤等として用いられているものを用いることができ、市販されているものでもよい。カルボジイミド化合物の市販品としては、例えば「カルボジライトV-02」(商品名、日清紡ケミカル社製)等を挙げることができる。親水性セグメントをもつカルボジイミド化合物は、水に溶解して、CNT17同士を架橋させる水性架橋剤として機能する。
【0030】
接触部におけるCNT17同士は、図3に示すように直接接触が維持されており、各CNT17の表面が近接した接触部の周りではCNT17同士が第1サイジング剤15により架橋されている。
【0031】
上記のように、第1サイジング剤15は、架橋剤となって、構造体14を構成する接触しているCNT17同士を架橋することにより、CNT17同士が付着している状態をより強固なものとし、構造体14をより崩壊し難くしている。
【0032】
第1サイジング剤15は、また、図2に示されるように、炭素繊維11とこれに直接接触しているCNT17の接触部を包み覆う状態で炭素繊維11とCNT17とに付着している。第1サイジング剤15は、CNT17同士の場合と同様に、そのカルボジイミド基が、炭素繊維11及びCNT17の表面の官能基と反応をしたことにより生じたカルボジイミド由来の構造により、炭素繊維11とCNT17とを架橋する。このように、第1サイジング剤15は、炭素繊維11とCNT17とを架橋することにより、炭素繊維11にCNT17が付着している状態をより強固なものとし、炭素繊維11から構造体14が剥がれ難くしている。
【0033】
CNT17同士の直接接触が維持され、かつ直接接触している接触部の周りでCNT17同士が第1サイジング剤15により架橋していれば、上記のようにCNT17が第1サイジング剤15により包み覆われていてもよく、図4及び図5に示すように、CNT17が包み覆われていなくてもよい。同様に、炭素繊維11とCNT17との直接接触が維持され、かつ直接接触している接触部の周りで炭素繊維11とCNT17とが第1サイジング剤15により架橋していれば、図4に示されるように、第1サイジング剤15がCNT17を包み覆っていなくてもよい。
【0034】
なお、構造体14では、複数本のCNT17によって、それらが囲む空隙部(メッシュ)19が形成される。構造体14内へのマトリックス樹脂の含浸を妨げないために、第1サイジング剤15は、その空隙部19を閉塞しないようにすることが好ましい。空隙部19を閉塞しないようにするために、構造体14に付着している第1サイジング剤15の質量の炭素繊維11の質量に対する比率であるサイジング剤質量比率Rmは、0.6%以上1.1%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0035】
炭素繊維11の径の大小により、炭素繊維11の単位長さあたりの質量が増減し、構造体14に付着させる好適な第1サイジング剤15の質量も増減する。しかし、一般的に炭素繊維強化成形体に用いられている炭素繊維11の径の範囲では、炭素繊維11の径の変化に対する好適なサイジング剤質量比率Rmの変化は微小であって、いずれの径の炭素繊維11であっても上記のサイジング剤質量比率Rmの範囲内であれば空隙部19の閉塞を防止できる。直径が4μm以上8μm以下の範囲内の炭素繊維11についてサイジング剤質量比率Rmが0.6%以上1.1%以下であれば空隙部19を閉塞しないことを確認している。マトリックス樹脂が構造体14内に含浸して硬化することは、マトリックス樹脂が構造体14からひいては炭素繊維11から剥離し難くなり、機械的強度の向上に有利である。
【0036】
炭素繊維11に付着したCNT17は、曲がった形状である。このCNT17の曲がった形状は、CNT17のグラファイト構造中に炭素の五員環と七員環等の存在により屈曲した部位(屈曲部)を有することによるものであり、SEMによる観察でCNT17が湾曲している、折れ曲がっている等と評価できる形状である。例えば、CNT17の曲がった形状は、CNT17の後述する利用範囲の平均の長さあたりに少なくとも1カ所以上に屈曲部があることをいう。このような曲がった形状のCNT17は、それが長い場合でも、曲面である炭素繊維11の表面に対して様々な姿勢で付着する。また、曲がった形状のCNT17は、それが付着した炭素繊維11の表面との間や付着したCNT17同士の間に空間(間隙)が形成されやすく、その空間に他のCNT17が入り込む。このため、曲がった形状のCNT17を用いることにより、直線性が高い形状のCNTを用いた場合に比べて、炭素繊維11に対するCNT17の付着本数(構造体14を形成するCNT17の本数)が大きくなる。
【0037】
CNT17の長さは、0.1μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。CNT17は、その長さが0.1μm以上であれば、CNT17同士が絡まり合って直接接触ないしは直接接続された構造体14をより確実に形成することができるとともに、前述のように他のCNT17が入り込む空間をより確実に形成することができる。またCNT17の長さが10μm以下であれば、CNT17が炭素繊維11間にまたがって付着するようなことがない。すなわち、上述のように、一の炭素繊維11に設けられた構造体14に含まれるCNT17が他の炭素繊維11に設けられた構造体14に含まれるようなことがない。
【0038】
CNT17の長さは、より好ましくは0.2μm以上5μm以下の範囲内である。CNT17の長さが0.2μm以上であれば、CNT17の付着本数を増やして構造体14を厚くすることができ、5μm以下であれば、CNT17を炭素繊維11に付着させる際に、CNT17が凝集し難く、より均等に分散しやすくなる。この結果、CNT17がより均一に炭素繊維11に付着する。
【0039】
なお、炭素繊維11に付着するCNTとして、直線性の高いCNTが混在することや、上記のような長さの範囲外のCNTが混在することを排除するものではない。混在があっても、例えば、CNT17で形成される空間に直線性の高いCNTが入り込むことにより、炭素繊維11に対するCNTの付着本数を多くすることができる。
【0040】
CNT17は、平均直径が0.5nm以上30nm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3nm以上10nm以下の範囲内である。CNT17は、その直径が30nm以下であれば、柔軟性に富み、炭素繊維11の表面に沿って付着しやすく、また他のCNT17と絡んで炭素繊維11に固定されやすく、さらには構造体14の形成がより確実になる。また、10nm以下であれば、構造体14を構成するCNT17同士の結合が強固となる。なお、CNT17の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真を用いて測定した値とする。CNT17は、単層、多層を問わないが、好ましくは多層のものである。
【0041】
上記のようにCNT17を曲がった形状とすることで、直線性の高いCNTを用いた場合と比べて、炭素繊維11へのCNT17の付着本数を多くすることができ、構造体14の厚さを大きくできるとともに、CNT17が不織布の繊維のごとく編み込まれたような構造体14が構成される。この結果、機械的強度がより高くなることはもちろんとして、炭素繊維強化成形体に外力が与えられて、炭素繊維11が変位する場合の構造体14による拘束効果が大きく、弾性率がより高められる。また、炭素繊維11の周囲の複合領域18による機械的エネルギーの吸収効果も大きくなり、炭素繊維強化成形体の振動減衰特性がより高められる。
【0042】
向上する機械的強度のひとつとして、繰り返し曲げに対する耐久性が挙げられる。上述のように、炭素繊維11の表面にCNT17が付着した複合素材10を用いた炭素繊維強化成形体では、構造体14が介在することによる剥離強度の向上の効果及び複合領域18による機械的エネルギーの吸収効果により、繰り返し曲げに対する耐久性が高められると考えられる。この剥離強度の向上及び機械的エネルギーの吸収効果が、炭素繊維11の表面に付着するCNT17の本数が増加することにともない、より高められることによって繰り返し曲げに対する耐久性がより高くなる。このような特性を有する複合素材10は、荷重が繰り返し与えられるコイルバネや板バネ等のバネ材料等として好適であり、複合素材10を含む炭素繊維強化成形体をコイルバネや板バネ等の各種バネに適用することができる。また、マトリックス樹脂が構造体14に含浸して硬化することによって、炭素繊維11とマトリックス樹脂との界面接着強度が高くなるため、炭素繊維強化成形体では、その引張り強度が向上する。
【0043】
炭素繊維11に対するCNT17の付着本数は、構造体14の厚さ(炭素繊維11の径方向の長さ)で評価することができる。構造体14の各部の厚さは、例えば炭素繊維11の表面の構造体14の一部をセロハンテープ等に接着して剥離し、炭素繊維11の表面に残った構造体14の断面をSEM等で計測することで取得できる。炭素繊維11の繊維軸方向に沿った所定長さの測定範囲をほぼ均等に網羅するように、測定範囲の10カ所で構造体14の厚さをそれぞれ測定したものの平均を構造体14の厚さとする。測定範囲の長さは、例えば、上述のCNT17の長さの範囲の上限の5倍の長さとする。
【0044】
上記のようにして得られる構造体14の厚さ(平均)は、10nm以上300nm以下の範囲内、好ましくは15nm以上200nm以下の範囲内、より好ましくは50nm以上200nm以下の範囲内である。構造体14の厚さが200nm以下であれば、炭素繊維11間の樹脂の含浸性がより良好である。
【0045】
また、炭素繊維11に付着しているCNT17のCNT複合繊維に対する質量比であるCNT質量比Rcを用いて、炭素繊維11に対するCNT17の付着状態を評価することができる。所定の長さの炭素繊維11のみの質量(以下、CF質量という)をWa、その炭素繊維11に付着しているCNT17の質量(以下、CNT質量という)をWbとしたときに、CNT質量比Rcは、「Rc=Wb/(Wa+Wb)」で得られる。
【0046】
CNT17は、炭素繊維11に均一に付着していることが好ましく、炭素繊維11の表面を覆うように付着していることが好ましい。炭素繊維11に対するCNT17の均一性を含む付着状態は、SEMにより観察し、得られた画像を目視により評価することができる。この場合、繊維軸方向に沿って炭素繊維11の所定の長さの範囲(例えば1cm、10cm、1mの範囲)をほぼ均等に網羅するように複数箇所(例えば10箇所)について観察して評価することが好ましい。
【0047】
また、上述のCNT質量比Rcを用いて、炭素繊維11に対するCNT17の付着の均一性を評価することができる。CNT質量比Rcは、0.001以上0.008以下であることが好ましい。CNT質量比Rcが0.001以上であれば、炭素繊維強化成形体としたときに、上記のような構造体14による大きな拘束効果、複合領域18での機械的エネルギーの大きな吸収効果を確実に得ることができ、CNT由来の特性が向上される。CNT質量比Rcが0.008以下であれば、構造体14へのマトリックス樹脂の樹脂含浸が確実になされる。また、CNT質量比Rcが0.002以上0.006以下であることがより好ましい。CNT質量比Rcが0.002以上であれば、ほぼ全ての炭素繊維11間にて構造体14(CNT17)がより確実に機能する。CNT質量比Rcが0.006以下であれば、構造体14へのマトリックス樹脂の樹脂含浸が確実になされ、また炭素繊維強化成形体におけるマトリックス樹脂の比率が低い場合であっても構造体14がより確実に機能する。さらに、マトリックス樹脂の比率が低い場合であっても、炭素繊維間樹脂には高濃度でCNT17が存在するため、その補強効果により靱性強度を高めることが出来る。
【0048】
1本の炭素繊維11の長さ1mの範囲(以下、評価範囲と称する)内に設定される10点の測定部位の各CNT質量比Rcの標準偏差sが0.0005以下であることが好ましく、0.0002以下であることがより好ましい。また、標準偏差sのCNT質量比Rcの平均に対する割合は、40%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。10点の測定部位は、評価範囲をほぼ均等に網羅するように設定することが好ましい。標準偏差sは、炭素繊維11に付着したCNT17の付着本数(付着量)、構造体14の厚さのばらつきの指標となり、ばらつきが小さいほど小さな値となる。したがって、この標準偏差sが小さいほど望ましい。CNT17の付着本数、構造体14の厚さのばらつきは、複合素材10及びそれを用いた炭素繊維強化成形体のCNTに由来の特性の違いとして現われる。標準偏差sが0.0005以下であれば、複合素材10及び炭素繊維強化成形体のCNT17に由来の特性をより確実に発揮でき、0.0002以下であれば、CNT17に由来の特性を十分かつ確実に発揮できる。なお、標準偏差sは、式(2)によって求められる。式(2)中の値nは、測定部位の数(この例ではn=10)、値Riは、測定部位のCNT質量比Rcであり、値RaはCNT質量比Rcの平均である。
【0049】
【数1】
・・・(2)
【0050】
[CNT質量比の測定]
CNT質量比Rcは、それを求めようとする測定部位について1m程度に炭素繊維束12(例えば12000本程度のCNT複合繊維)を切り出して測定試料として、下記のようにして求める。
(1)CNT17の分散媒となる液(以下、測定液という)に測定試料を投入する。測定液としては、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン、CAS登録番号:872-50-4)に分散剤を入れたものを用いる。分散剤は、CNT17を炭素繊維11に再付着させないために測定液に添加しているが、添加しなくてもよい。測定液の量は、例えば測定試料10gに対して100mlである。
(2)測定試料を投入する前の測定液の質量と、投入後の測定試料を含む測定液の質量との差分を計測し、これを測定試料の質量、すなわち炭素繊維11のCF質量Waとその炭素繊維11に付着しているCNT17のCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)とする。
(3)測定試料を含む測定液を加熱して、炭素繊維11からそれに付着しているCNT17を完全に分離し、CNT17を測定液中に分散する。
(4)吸光光度計を用いて,CNT17が分散している測定液の吸光度(透過率)を測定する。吸光光度計による測定結果と、予め作成しておいた検量線とから測定液中のCNT17の濃度(以下、CNT濃度という)を求める。CNT濃度は、その値をC、測定液の質量をW1、この測定液に含まれるCNT17の質量をW2としたときに、「C=W2/(W1+W2)」で与えられる質量パーセント濃度である。
(5)得られるCNT濃度と測定試料を投入する前の測定液の質量とから測定液中のCNT17のCNT質量Wbを求める。
(6)(2)で求められるCF質量WaとCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)と、CNT17のCNT質量(Wb)とから、CNT質量比Rc(=Wb/(Wa+Wb))を算出する。
【0051】
上記吸光度の測定では、分光光度計(例えば、SolidSpec-3700、株式会社島津製作所製等)を用いることができ、測定波長としては例えば500nm等を用いればよい。また、測定の際には、測定液を石英製のセルに収容することが好ましい。さらに、分散剤以外の不純物を含まない分散媒の吸光度をリファレンスとして測定し、CNT17の濃度Cは、CNT17が分散している測定液の吸光度とリファレンスとの差分を用いて求めることができる。なお、CNT質量比Rcの測定においては、炭素繊維束12から第1サイジング剤15を除去したものを用いる。但し、炭素繊維11の質量に対して第1サイジング剤15の1/100程度である場合には、第1サイジング剤15の付着の有無、すなわち第1サイジング剤15の質量は、CNT質量比Rcの好ましい範囲に実質的に影響を与えることながないので、この場合には、第1サイジング剤15が付着しているCNT複合繊維の質量を、CF質量WaとCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)とみなすことができる。
【0052】
CNT質量比Rcによって均一性を評価する場合には、評価する炭素繊維束12の評価範囲(例えば、長さ1m)をほぼ均等に網羅するように10ヶ所の測定部位を設定する。これら10ヶ所の測定部位は、評価範囲の両端とその間の8カ所とし、各測定部位のそれぞれについて、上述の手順でCNT質量比Rcを求める。
【0053】
[サイジング剤質量比の測定]
サイジング剤質量比率Rmの測定では、各炭素繊維11の構造体14に第1サイジング剤15を付着させて作成した炭素繊維束12から、例えば3本のCNT複合繊維を切り出して測定試料として、下記のようにして求める。測定試料として切り出すCNT複合繊維の長さは例えば5mとする。なお、測定試料とするCNT複合繊維の本数、長さは、これらに限定されない。
【0054】
(1)CNT17の測定液に測定試料を投入する。測定液及び分散媒の条件は、上記のCNT質量比Rcを測定する場合と同じである。
(2)測定試料を投入する前の測定液の質量と、投入後の測定試料を含む測定液の質量との差分を計測し、これを測定試料の質量、すなわち炭素繊維11のCF質量Wa、炭素繊維11に付着しているCNT17のCNT質量Wb及びCNT17に付着している第1サイジング剤15のサイズ剤質量Wcとの和(Wa+Wb+Wc)とする。
(3)測定試料を含む測定液加熱して、炭素繊維11からそれに付着しているCNT17を完全に分離し、CNT17を測定液中に分散する。
(4)CNT質量比Rcを測定する場合と同様に、吸光光度計を用いてCNT17が分散している測定液の吸光度を測定し、その吸光度と、予め作成しておいた検量線とから測定液中のCNT17のCNT濃度を求める。得られるCNT濃度と測定試料を投入する前の測定液の質量とから測定液中のCNT質量Wbを求める。
(5)使用している炭素繊維11(原糸)のカタログ値からCF質量Waを特定する。
(6)測定試料の質量(Wa+Wb+Wc)から、(5)で得られるCF質量Wa及び(4)得られるCNT質量Wbを減算した差を求め、これを測定試料に付与されていた第1サイジング剤15のサイズ剤質量Wcとする。
(7)(5)で得られるCF質量Waと、(6)で得られるサイズ剤質量Wcとからサイジング剤質量比率Rm(=(Wc/Wa)×100%)を算出する。
【0055】
なお、上記のサイジング剤質量比率Rmの測定において、炭素繊維11(原糸)のカタログ値からCF質量Waを特定する場合に、サイジング剤が付着していない炭素繊維11(原糸)の質量を特定する。ここでいうサイジング剤は、炭素繊維11(原糸)同士の絡み等を防止するために炭素繊維11(原糸)の表面に付着しているものであって、第1サイジング剤15とは異なる。ただし、絡み等を防止するためのサイジング剤の質量は、一般的に炭素繊維11のCF質量Waに対して1/100程度であって、このような場合には当該サイジング剤の付着の有無は、サイジング剤質量比率Rmの好ましい範囲に実質的に影響を与えることがない。したがって、このような場合には、サイジング剤が付着している炭素繊維11の質量を、サイジング剤質量比率Rmを求める際のCF質量Waとみなしてもよい。
【0056】
また、CF質量Waの特定は、カタログ値から特定することに限定されない。例えば、CNT17を分離した後の炭素繊維11の質量を実測してCF質量Waとしてもよい。さらに、測定試料としたCNT複合繊維に用いている炭素繊維11と同種であって、CNT17を付着させていない炭素繊維について質量を測定したものからCF質量Waを特定してもよい。
【0057】
[複合素材の製造方法]
炭素繊維束12の各炭素繊維11のそれぞれにCNT17を付着させて構造体14を形成するには、CNT17が単離分散したCNT単離分散液(以下、単に分散液と称する)中に炭素繊維束12を浸漬し、分散液に機械的エネルギーを付与する。単離分散とは、CNT17が1本ずつ物理的に分離して絡み合わずに分散媒中に分散している状態をいい、2以上のCNT17が束状に集合した集合物の割合が10%以下である状態をさす。ここで集合物の割合が10%以上であると、分散媒中でのCNT17の凝集が促進され、CNT17の炭素繊維11に対する付着が阻害される。
【0058】
図6に一例を示すように、付着装置21は、CNT付着槽22、ガイドローラ23~26、超音波発生器27、炭素繊維束12を一定の速度で走行させる走行機構(図示省略)等で構成される。CNT付着槽22内には、分散液28が収容される。超音波発生器27は、超音波をCNT付着槽22の下側よりCNT付着槽22内の分散液28に印加する。
【0059】
付着装置21には、構造体14が形成されていない長尺(例えば100m程度)の炭素繊維束12が連続的に供給される。供給される炭素繊維束12は、ガイドローラ23~26に順番に巻き掛けられ、走行機構により一定の速さで走行する。付着装置21には、各炭素繊維11にサイジング剤が付着していない炭素繊維束12が供給される。なお、ここでいうサイジング剤は、上述の炭素繊維11の絡み等を防止するためものである。
【0060】
炭素繊維束12は、開繊された状態でガイドローラ23~26にそれぞれ巻き掛けられている。ガイドローラ23~26に巻き掛けられた炭素繊維束12は、適度な張力が作用することで炭素繊維11が絡まり合うおそれが低減される。炭素繊維束12のガイドローラ24~26に対する巻き掛けは、より小さい巻掛け角(90°以下)とすることが好ましい。
【0061】
ガイドローラ23~26は、いずれも平ローラである。図7に示すように、ガイドローラ23のローラ長(軸方向の長さ)L1は、開繊された炭素繊維束12の幅WLよりも十分に大きくしてある。ガイドローラ24~26についても、ガイドローラ23と同様であり、それらのローラ長は、開繊された炭素繊維束12の幅WLよりも十分に大きくしてある。例えば、ガイドローラ23~26は、全て同じサイズであり、ローラ長L1が100mm、ローラの直径(外径)が50mmである。開繊された炭素繊維束12は、厚み方向(ガイドローラの径方向)に複数本の炭素繊維11が並ぶ。
【0062】
ガイドローラ23~26のうちのガイドローラ24、25は、CNT付着槽22内に配置されている。これにより、ガイドローラ24、25間では、炭素繊維束12は、分散液28中を一定の深さで直線的に走行する。炭素繊維束12の走行速度は、0.5m/分以上100m/分以下の範囲内とすることが好ましい。炭素繊維束12の走行速度が高いほど、生産性を向上させることができ、走行速度が低いほど、CNT17の均一付着に有効であり、また炭素繊維11同士の絡み合いの抑制に効果的である。また、炭素繊維11同士の絡み合いが少ないほど炭素繊維11に対するCNT17の付着の均一性を高めることができる。炭素繊維束12の走行速度が100m/分以下であれば、炭素繊維11同士の絡み合いがより効果的に抑制されるとともに、CNT17の付着の均一性をより高くできる。また、炭素繊維束12の走行速度は、5m/分以上50m/分以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0063】
超音波発生器27は、機械的エネルギーとしての超音波振動を分散液28に印加する。これにより、分散液28中において、CNT17が分散した分散状態と凝集した凝集状態とが交互に変化する可逆的反応状態を作り出す。この可逆的反応状態にある分散液28中に炭素繊維束12を通過させると、分散状態から凝集状態に移行する際に、各炭素繊維11にCNT17がファンデルワールス力により付着する。CNT17に対する炭素繊維11の質量は、10万倍以上と大きく、付着したCNT17が脱離するためのエネルギーは、超音波振動によるエネルギーより大きくなる。このため、分散液28中において、炭素繊維11に一度付着したCNT17は、付着後の超音波振動によっても炭素繊維11から剥がれない。なお、CNT17同士では、いずれも質量が極めて小さいため、超音波振動によって分散状態と凝集状態とに交互に変化する。
【0064】
分散状態から凝集状態への移行が繰り返し行われることで、各炭素繊維11に多くのCNT17がそれぞれ付着して構造体14が形成される。上述のように、CNT17として曲がった形状のものを用いることにより、CNT17とそれが付着した炭素繊維11の表面との間や付着したCNT17同士の間等に形成された空間に他のCNT17が入り込むことで、より多くのCNT17が炭素繊維11に付着し、構造体14が形成される。
【0065】
分散液28に印加する超音波振動の周波数は、40kHz以上950kHz以下であることが好ましい。周波数が40kHz以上であれば、炭素繊維束12中の炭素繊維11同士の絡まり合いが抑制される。また、周波数が950kHz以下であれば、炭素繊維11にCNT17が良好に付着する。炭素繊維11の絡み合いをより低減するためには、超音波振動の周波数は、100kHz以上が好ましい。
【0066】
また、炭素繊維11に付着するCNT17の本数は、CNT17の分散状態から凝集状態への移行回数が10万回以上となることで、炭素繊維11に対するCNT17の付着の均一性を確保しながら、ほぼ最大となることを発明者らは見出した。なお、付着本数の最大値は、分散液28のCNT濃度によって変化し、分散液28のCNT濃度が高いほど大きくなる。ただし、分散液28のCNT濃度が、超音波振動を印加しているときにCNT17が分散状態をとり得ないほどの高濃度になると、炭素繊維11に対するCNT17の付着が行えなくなる。
【0067】
このため、炭素繊維束12が分散液28中を走行している期間の長さ、すなわちガイドローラ24、25の間を走行している時間(以下、浸漬時間という)が、分散液28に印加する超音波振動の周期の10万倍またはそれ以上となるように、炭素繊維束12の走行速度、炭素繊維束12が分散液28中を走行する距離(ガイドローラ24、25の間隔)、分散液28に印加する超音波振動の周波数を決めることが好ましい。すなわち、超音波振動の周波数をfs(Hz)、浸漬時間をTs(秒)としたときに、「Ts≧100000/fs」を満たすようにすることが好ましい。例えば、超音波振動の周波数が100kHz、炭素繊維束12が分散液28中を走行する距離が0.1mであれば、炭素繊維束12の走行速度を6m/分以下とすればよい。また、炭素繊維束12を複数回に分けて分散液28に浸漬する場合でも、合計した浸漬時間が超音波振動の周期の10万倍またはそれ以上とすればCNT17の付着本数をほぼ最大にできる。
【0068】
図8に模式的に示すように、超音波発生器27から印加される超音波振動によってCNT付着槽22内の分散液28には、音圧(振幅)の分布が定まった定在波が生じる。この付着装置21では、分散液28中において、超音波振動の定在波の節すなわち音圧が極小となる深さを炭素繊維束12が走行するように、ガイドローラ24、25の深さ方向の位置が調整されている。したがって、炭素繊維束12が分散液28中を走行する分散液28の液面からの深さは、その深さをD、分散液28中に生じる超音波振動の定在波の波長をλ、nを1以上の整数としたときに、「D=n・(λ/2)」を満たすように決められている。なお、定在波の波長λは、分散液28中の音速、超音波発生器27から印加される超音波振動の周波数に基づいて求めることができる。
【0069】
上記のように、分散液28中を走行する炭素繊維束12の深さを調整することにより、音圧による炭素繊維11の振動を抑制して、糸たるみによる糸乱れを防ぐことができ、炭素繊維11同士あるいは各炭素繊維11の表面に付着しているCNT14同士の擦れを抑えて、厚さの大きい構造体14を形成することができる。また、擦れが抑えられることによって、構造体14の厚さが大きくても、CNT質量比Rcのバラツキが抑えられ、上述の標準偏差sが小さくなる。なお、炭素繊維束12が分散液28中を走行する深さは、定在波の節から多少ずれてもよく、その場合にはn・λ/2-λ/8以上n・λ/2+λ/8以下の範囲内(n・λ/2-λ/8≦D≦n・λ/2+λ/8)とすることが好ましい。これにより、炭素繊維11の糸たるみによる糸乱れを許容できる範囲とすることができる。
【0070】
分散液28は、例えば長尺のCNT(以下、材料CNTと称する)を分散媒に加え、ホモジナイザーや、せん断力、超音波分散機などにより、材料CNTを切断して所望とする長さのCNT17とするとともに、CNT17の分散の均一化を図ることで調製される。
【0071】
分散媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類やトルエン、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル等の有機溶媒及びこれらの任意の割合の混合液を用いることができる。分散液28は、分散剤、接着剤を含有しない。
【0072】
上述のように曲がった形状のCNT17の元となる材料CNTは、曲がった形状のものである。このような材料CNTは、個々の材料CNTの直径が揃っているものが好ましい。材料CNTは、切断によって生成される各CNTの長さが大きくても、CNTを単離分散することができるものが好ましい。これにより、上述のような長さの条件を満たすCNT17を単離分散した分散液28が容易に得られる。
【0073】
この例の複合素材10では、上述のように、CNT17として曲がった形状のものを付着させているので、CNT17とそれが付着した炭素繊維11の表面との間や付着したCNT17同士の間等に形成された空間に他のCNT17が入り込む。これにより、より多くのCNT17が炭素繊維11に付着する。また、強固にCNT17が炭素繊維11に付着して構造体14が形成されるので、炭素繊維11からCNT17がより剥離し難い。そして、このような複合素材10を用いて作製される炭素繊維強化成形体は、CNTに由来して特性がより高くなっている。
【0074】
分散液28のCNT17の濃度は、0.003wt%以上3wt%以下の範囲内であることが好ましい。分散液28のCNT17の濃度は、より好ましくは0.005wt%以上0.5wt%以下である。
【0075】
炭素繊維束12は、分散液28中から引き出された後に乾燥される。乾燥された炭素繊維束12に対して第1サイジング処理を行うことで、第1サイジング剤15が構造体14に付与される。
【0076】
第1サイジング処理は、乾燥された炭素繊維束12に対して第1サイジング処理液を付与する(接触させる)工程と乾燥させる工程とを含む。第1サイジング処理液は、カルボジイミド化合物を、溶媒に溶解することによりつくることができる。カルボジイミド化合物を溶解する溶媒としては、水、アルコール、ケトン類およびそれらの混合物等を用いることできる。
【0077】
第1サイジング処理液の付与は、第1サイジング処理液が収容された液槽に炭素繊維束12を浸漬する手法、炭素繊維束12に第1サイジング処理液を噴霧する手法、炭素繊維束12に第1サイジング処理液を塗り付ける手法等、いずれの手法を用いてもよい。第1サイジング処理液は、CNT17同士の直接接触を維持した状態で、CNT17の表面に付与された状態になり、粘度が低いほど、CNT17同士の接触部近傍及び炭素繊維11とCNT17の接触部近傍に凝集しやすい。
【0078】
第1サイジング処理液の付与後の乾燥は、第1サイジング処理液の溶媒(この例では水)を蒸発させる。乾燥の手法は、第1サイジング処理液が付与された炭素繊維束12を放置乾燥する手法、炭素繊維束12に空気等の気体を送る手法、炭素繊維束12を加熱する手法等の公知の乾燥手法を用いることができ、放置乾燥または気体を送るいずれかの手法に加熱を併用してもよい。
【0079】
上記のような複合素材10を用いて作製した炭素繊維強化成形体は、従来の複合素材を用いた炭素繊維強化成形体に比べて振動減衰特性(制振性)、弾性率の変化特性が向上する。弾性率の変化特性については、炭素繊維強化成形体への衝突速度の増加に対して炭素繊維強化成形体の弾性率の増大が抑制される。
【0080】
[プリプレグ]
図9において、プリプレグ31は、炭素繊維束12のCNT複合繊維と、この炭素繊維束12に含浸された未硬化のマトリックス樹脂32とで構成される。プリプレグ31は、開繊された複合素材10にマトリックス樹脂32を含浸し、厚み方向に炭素繊維11が複数本並んだ帯状に形成される。複合素材10に含浸されるマトリックス樹脂32は、複合素材10中の各CNT複合繊維の構造体14の内部にも含浸する。複合素材10は、炭素繊維束12における炭素繊維11同士の絡み合いが実質的に存在しないものであるので、プリプレグ31を製造する際に、炭素繊維11を均一に拡げやすい。プリプレグ31の各炭素繊維11の繊維軸方向は、いずれも同一方向(図9の紙面垂直方向)に揃っている。プリプレグ31は、幅方向(開繊した方向)に複数の開繊した複合素材10を並べて形成することで、幅広のものとすることができる。
【0081】
マトリックス樹脂32は、特に限定されず、種々の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂の混合物でもよい。また、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂(PMMA等)、熱可塑性エポキシ樹脂等の汎用樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。
【0082】
[炭素繊維強化成形体]
プリプレグ31を加圧しながらマトリックス樹脂32を加熱硬化することで炭素繊維強化成形体が作製される。複数枚のプリプレグ31を積層した積層体を加圧及び加熱することで、積層体を一体化した炭素繊維強化成形体とすることもできる。この場合、積層体における炭素繊維11の繊維軸方向は、プリプレグ31に相当する層ごとに任意の方向とすることができる。図10に示す炭素繊維強化成形体34では、プリプレグ31に相当する複数の層34aにおいて、炭素繊維11の繊維軸方向が上下の層34aで互いに直交するように形成されている。加熱及び加圧する手法は、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、シートワインディング法及び内圧成形法等を用いることができる。また、プリプレグ31を用いないハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、引抜成形法等によって、炭素繊維束12とマトリックス樹脂とから直接に炭素繊維強化成形体を作製してもよい。マトリックス樹脂32の体積含有率は、25~35%が好ましく、15~33%がより好ましい。
【0083】
上記の複合素材10を用いた炭素繊維強化成形体では、図11に模式的に示すように、炭素繊維11の間の複合領域18の一部が互いに固着した架橋部CLによって、炭素繊維11同士が架橋した架橋構造を有する。上述のように複合領域18は、構造体14とこの構造体14に含浸して硬化したマトリックス樹脂とからなる領域である。複合領域18は、硬化したマトリックス樹脂単体よりも硬度が高くなるとともに、高弾性すなわち弾性限界が大きい。また、複合領域18は、マトリックス樹脂よりも耐摩耗性が高い。このような複合領域18同士の結合によって、炭素繊維11同士の結合が強固なものとなり、複合素材10を用いた炭素繊維強化成形体の繰り返し曲げに対する耐久性が向上する。
【0084】
架橋構造は、構造体14同士が接触する程度に炭素繊維11間の距離が近接している場合に形成されるため、構造体14の厚さが大きいほど、架橋を多くする上で有利である。ただし、構造体14の厚さは、均一な厚さによる品質安定性の確保、炭素繊維11からの脱落の防止等の観点から、大きくとも300nm以下とすることが好ましい。特には、構造体14の厚さを50nm以上200nm以下の範囲内とするのがよい。また、炭素繊維11を織物状にした場合には、複合領域18同士が互い固着した架橋部CLが多くなり、架橋構造による効果が大きくなる。
【0085】
また、構造体14は、複数のCNT17が不織布状に厚みを持って絡み合っているため、炭素繊維11に付与されたマトリックス樹脂が構造体14内に含浸した状態で保持される。したがって、炭素繊維強化成形体において、その成形手法によらず炭素繊維11の表面でマトリックス樹脂の偏りがほとんどなく、炭素繊維同士の間隔が均一になる。このため、マトリックス樹脂のせん断力を介在した炭素繊維間における荷重伝達が均一に行われ、炭素繊維強化成形体の引張り強度が効果的に大きくなる。
【0086】
複合素材10を用いて、引抜成形法により炭素繊維強化成形体として作製した円柱状のロッドのX線CTによる内部構造の画像を図12に示す。複合素材10を用いて作製したロッドでは、マトリックス樹脂の大きな偏り及びボイドがなく、炭素繊維間の距離がロッド全体でほぼ均一になっていることが確認できる。これに対して、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)を用いて同様に作製したロッドの内部構造は、図13に示すように、マトリックス樹脂の大きな偏り及びボイドが生じていることが確認された。
【0087】
複合素材に、カルボジイミド由来の構造を有する第1サイジング剤とは別に、構造体のCNTの表面を覆う被覆剤としての第2サイジング剤を付与してもよい。図14に示すように、第2サイジング剤37は、構造体14のCNT17の表面を覆うように、CNT17に付着している。この第2サイジング剤37は、反応硬化性樹脂、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂の硬化物あるいは未硬化物からなる。
【0088】
第2サイジング剤37は、第1サイジング剤15を付与する第1サイジング処理の後に、第2サイジング処理により複合素材10に付与する。第2サイジング処理は、一般的な方法により行うことができ、分散媒に第2サイジング剤37となる樹脂(ポリマー)を溶解した第2サイジング処理液に、第1サイジング処理後の開繊した炭素繊維束12(炭素繊維11)を接触させて炭素繊維束12に第2サイジング剤37を付与した後、分散媒を蒸発させるとともに第2サイジング剤37を硬化または半硬化させる。なお、第2サイジング剤37となる液滴状の樹脂を含むエマルジョンタイプの第2サイジング処理液を用いることもできる。
【0089】
第2サイジング剤37となる樹脂は、特に限定されず、種々の反応硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド、シアネートエステル樹脂、反応性基を有する樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂(PMMA等)、塩化ビニル、熱可塑性エポキシ樹脂等の汎用樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。
【0090】
第2サイジング剤37は、第1サイジング剤15を含むCNT17の表面を覆う。このような第2サイジング剤37のうち、第1サイジング剤15の部分はこの第1サイジング剤15と架橋するが、第1サイジング剤15がない部分では架橋が生じないため粘稠性を有している。この第2サイジング剤37により、構造体14が形成された複数の炭素繊維11からなる繊維束の集束性が向上する。第2サイジング剤37は、第1サイジング剤15と同様に、構造体14の空隙部19を閉塞しないようにすることが好ましい。
【0091】
上記では、炭素繊維にCNTを付着させた複合素材を例に説明しているが、母材としての繊維は炭素繊維に限定されるものではなく、ナイロン、ポリエステル、ビニロン、アクリル等の樹脂繊維やガラス繊維、鉱物繊維等であってもよい。繊維の表面に構造体が形成された複合素材は、それに樹脂等を含浸させた繊維(以下、樹脂含浸繊維と称する)としたり、マルチフィラメントを構成する単糸や繊維強化成形体の強化繊維に用いたりすることができる。樹脂含浸繊維、マルチフィラメントや繊維強化成形体等(以下、これらを二次製品と称する)は、繊維の表面に構造体を有することにより、炭素繊維を用いた複合素材の場合と同様に、機械的特性等が向上する。
【0092】
マルチフィラメントの一例を図15に示す。マルチフィラメント41は、複数本の複合素材10Aと、マトリックス樹脂42とを有する。複合素材10Aは、ナイロン樹脂等の繊維43と、この繊維43の表面に形成された構造体14とを含む。また、構造体14には、第1実施形態と同様に、第1サイジング剤が付与され、必要に応じて第2サイジング剤が付与されている。なお、図15では、7本の複合素材10Aから構成されるマルチフィラメント41を描いてあるが、複合素材10Aの本数は、特に限定されず、例えば数千本から数十万本の複合素材10Aでマルチフィラメント41を構成することもできる。また、複数本の複合素材10Aを撚り合わせて1本のマルチフィラメント41とすることもできる。
【0093】
繊維43については、その直径は特に限定されないが、5μm以上100μm以下の範囲内のものを好ましく用いることができ、5μm以上30μm以下の範囲内のものをより好ましく用いることができる。繊維43は、その長さが50m以上であることが好ましく、より好ましくは100m以上100000m以下の範囲内、さらに好ましくは100m以上10000m以下の範囲内である。なお、複合素材10Aは、利用する際に短く切断されもかまわない。
【0094】
マトリックス樹脂42としては、例えばポリウレタン等の樹脂や合成ゴム等のエラストマーを好ましく用いることができる。マトリックス樹脂42は、複合素材10Aの間に介在して複合素材10Aを互いに結合する。このマトリックス樹脂42は、各々の複合素材10の構造体14にまで含浸して硬化している。
【0095】
上記の各例では、母材を繊維とした場合について説明しているが、母材は、繊維に限定されない。例えば、母材は、シートやフイルム状のもの、ブロック状のものであってもよい。また、構造体のCNTが母材の表面に直接接触していなくてもよい。
【0096】
[第2実施形態]
CNT複合繊維同士の摩擦によるCNT複合繊維のダメージを防止するためのプロテクト処理を行う第2実施形態について説明する。なお、以下に詳細を説明する他は、第1実施形態と同じであり、実質的に同じ部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。また、炭素繊維の例について説明するが、第1実施形態と同様に、繊維は炭素繊維に限定されるものではなく、ナイロン、ポリエステル、ビニロン、アクリル等の樹脂繊維やガラス繊維、鉱物繊維等であってもよい。
【0097】
図16において、例えばCNT17が付着していない炭素繊維束12がクリール50から引き出され、その炭素繊維束12に対して、デサイズ処理工程51、構造体形成工程52、第1サイジング処理工程53、プロテクト処理工程54において順番に処理を行う。例えば、プロテクト処理工程54を経た複合素材である炭素繊維束12は、処理済繊維束12Pとしてリール55に巻き取られる。リール55上の処理済繊維束12Pは、引き出されて基材作製工程56に供される。なお、リール55等への巻き取りをすることなく、乾燥工程54bから直接に処理済繊維束12Pを基材作製工程56に供してもよい。
【0098】
基材作製工程56は、処理済繊維束12Pを用いて強化繊維基材Fを作製し、この強化繊維基材Fを洗浄する洗浄工程57及び洗浄後の強化繊維基材Fを乾燥する乾燥工程58を実施し、その強化繊維基材Fを例えばリール59に巻き取る。強化繊維基材Fは、それにマトリックス樹脂を含浸することでプリレグ、炭素繊維強化成形体とされる基材である。なお、強化繊維基材Fを巻き取らずに、シート状(枚葉)に切断してもよい。
【0099】
デサイズ処理工程51は、炭素繊維束12における炭素繊維11の絡み等を防止するためサイジング剤を除去する工程であり、デサイズ工程51aとリンス工程51bとを含む。デサイズ工程51aは、例えば炭素繊維束12を溶剤中に通すことによってサイジング剤を炭素繊維11の表面から溶解して除去する。なお、デサイズ工程51aでは、例えば500℃程度に加熱された加熱炉内を通過させることで除去する手法等を用いてもよい。リンス工程51bは、デサイズ工程51aで生じた炭素繊維11の表面や炭素繊維束12中のサイジング剤の残渣、炭素繊維束12中に残っている溶剤を除去する。
【0100】
構造体形成工程52は、CNT17を炭素繊維11に付着させる工程である。構造体形成工程52は、CNT17を分散媒に加えた分散液28に炭素繊維束12を通すことで、炭素繊維11の表面にCNTを付着させるCNT付着工程52aと、分散媒を蒸発させて炭素繊維束12を乾燥する乾燥工程52bとを含む。
【0101】
第1サイジング処理工程53は、構造体形成工程52を経た炭素繊維束12に第1サイジング剤15を付与する。この第1サイジング処理工程53は、炭素繊維束12に対して第1サイジング処理液を付与する(接触させる)第1サイジング処理液付与工程53aと、第1サイジング処理液の溶媒を蒸発させて炭素繊維束12を乾燥する乾燥工程53bとを含む。
【0102】
上記構造体形成工程52及び第1サイジング処理工程53における各処理の詳細は、第1実施形態におけるCNT17を炭素繊維11に付着させて構造体14を形成する処理、第1サイジング剤15を付与する処理と同じである。
【0103】
プロテクト処理工程54は、図17に示すように、表面に構造体14を形成した炭素繊維11であるCNT複合繊維61の表面、すなわち構造体14の表面にプロテクト剤P1を覆うように付着させる。構造体14が形成されていることにより、CNT複合繊維61同士の摩擦が大きくなり、強化繊維基材Fの作製時のCNT複合繊維61同士に擦れによって毛羽の発生や炭素繊維11の切れ等が生じる等の炭素繊維束12のダメージが発生する可能性がある。この炭素繊維束12のダメージは、炭素繊維成形体の強度低下を招くおそれがある。プロテクト剤P1は、CNT複合繊維61同士の摩擦を低減することで、強化繊維基材Fの作製時における炭素繊維束12のダメージを抑制する。
【0104】
プロテクト剤P1は、上記のようにCNT複合繊維61同士の摩擦を低減する程度に構造体14の表面に付着していればよく、構造体14の表面を完全に覆っている必要はない。したがって、構造体14の表面の一部が露出していてもよい。また、プロテクト剤P1は、基材作製工程56の後であってマトリックス樹脂の含浸前に洗浄工程57で除去される。このため、構造体14の空隙部19を覆っても、また構造体14の内部に入り込んでいてもかまわない。
【0105】
この例では、プロテクト剤P1は、水溶性、すなわち水に可溶なポリマーであって、処理済繊維束12Pを強化繊維基材Fとした後に、洗浄液として水を用いた水洗浄により強化繊維基材Fから除去される。
【0106】
この例では、プロテクト剤P1として水溶性のポリマーを用い、洗浄液として水を用いているが、プロテクト剤P1及び洗浄液は、これらに限定されない。例えば、プロテクト剤P1として有機溶剤に溶けるポリマーを用いるとともに、洗浄液としてプロテクト剤P1を溶かす有機溶剤を用いることができる。このように、洗浄液に用いる液体は、プロテクト剤P1に用いるポリマーに応じて選定すればよく、また用いる洗浄液に応じてプロテクト剤P1に用いるポリマーを選定してもよい。なお、洗浄液は、強化繊維基材Fから第1サイジング剤を除去する(溶かす)ことなくプロテクト剤P1を選択的に除去できるものを用いる。なお、この例のように洗浄液として水を用いることは、有機溶媒を用いる場合に比べて装置構成が簡単になり、また環境への負荷が小さい。
【0107】
プロテクト剤P1である水溶性のポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の公知ものを用いてよい。プロテクト剤P1としては、水への可溶性の観点すなわち水洗浄での除去の容易性の観点から、上記のポリビニルアルコールのように、分子中に多くのヒドロキシ基(-OH)を有するポリマーが好ましく、このようなポリマーとしては、ポリビニルアルコールの他に、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等のポリカルボン酸等が挙げられる。もちろん、上記のポリビニルピロリドンのように、ヒドロキシ基を有しないポリマーであっても水に溶けるものであればよく、例えばポリセルロース、スクロース等が挙げられるが、分子量が数千以上のものが好ましい。なお、カルボジイミド由来の構造を有する第1サイジング剤15をCNT17に付与している場合には、カルボキシル基(-COOH)を持たない水溶性のポリマーを用いることが好ましい。カルボキシル基は、第1サイジング剤15と強く結合するため、水洗浄において除去されにくい傾向があるからである。
【0108】
このプロテクト処理工程54は、プロテクト処理液を炭素繊維束12に付与(接触)させるプロテクト処理液付与工程54aと、プロテクト処理液の溶媒を蒸発させて炭素繊維束12を乾燥させる乾燥工程54bとを含む。プロテクト処理液付与工程54aで用いるプロテクト処理液は、プロテクト剤P1であるポリマーを溶媒としての水に溶解することによりつくることができる。
【0109】
プロテクト処理液付与工程54aにおけるプロテクト処理液の付与は、プロテクト処理液が収容された液槽に炭素繊維束12を浸漬する手法、炭素繊維束12にプロテクト処理液を噴霧する手法、炭素繊維束12にプロテクト処理液を塗り付ける手法等、いずれの手法を用いてもよい。いずれの場合にも、炭素繊維束12を開繊し、炭素繊維束12中の各CNT複合繊維61の表面に均一かつ十分にプロテクト処理液が付与されるようにするのがよい。プロテクト処理液の濃度は、1%以下とすることが好ましい、
【0110】
プロテクト処理液の付与後の乾燥は、プロテクト処理液の溶媒(この例では水)を蒸発させる。乾燥の手法は、プロテクト処理液が付与された炭素繊維束12を放置乾燥する手法、炭素繊維束12に空気等の気体を送る手法、炭素繊維束12を加熱する手法等の公知の乾燥手法を用いることができ、放置乾燥または気体を送るいずれかの手法に加熱を併用してもよい。
【0111】
基材作製工程56は、上述のように処理済繊維束12Pから強化繊維基材Fを作製する。基材作製工程56で作製される強化繊維基材Fは、処理済繊維束12Pを織った平織、綾織等の織物、処理済繊維束12Pを編んだ編物、処理済繊維束12Pを一方向に配列させた繊維層を複数積層してステッチ糸でステッチしたノンクリンプファブリック(NCF)、組み紐に代表される処理済繊維束12Pを組んだ組物等である。ノンクリンプファブリックにおける各繊維層の繊維方向は同じでもよく異なった方向でもよい。基材作製工程56では、作製すべき強化繊維基材Fに応じて加工を実施する。
【0112】
強化繊維基材Fを作製する際には、例えば、織物では織りの工程、ノンクリンプファブリックではステッチする工程においてCNT複合繊維61同士の摩擦が生じる。しかし、処理済繊維束12PのCNT複合繊維61は、プロテクト剤P1が付着しているため、CNT複合繊維61同士の摩擦が低減され、毛羽や炭素繊維11の切れ等のダメージが抑制される。
【0113】
洗浄工程57では、強化繊維基材Fを水で洗浄する。これにより、強化繊維基材Fを構成するCNT複合繊維61の表面に付着しているプロテクト剤P1を溶解して除去する。乾燥工程58では、強化繊維基材Fに付着している水を蒸発させて乾燥させる。洗浄の手法は、水槽内を通過させるdip方式、シャワー下を通過させるシャワー洗浄方式等を用いることができ、冷水の代わりに温水を用いることで、高効率に洗浄ができる。また、乾燥の手法は、強化繊維基材Fを放置乾燥する手法、強化繊維基材Fに空気等の気体を送る手法、強化繊維基材Fを加熱する手法等の公知の乾燥手法を用いることができ、放置乾燥または気体を送るいずれかの手法に加熱を併用してもよい。
【0114】
図18のSEM写真は、プロテクト処理工程54を経たCNT複合繊維61の表面の状態を示しており、プロテクト剤P1が構造体14の表面を覆っていることが分かる。また、図19のSEM写真は、洗浄工程57後のCNT複合繊維61の表面の状態を示しており、プロテクト剤P1がCNT複合繊維61の表面から除去されていることが分かる。
【0115】
また、図20の写真に示すように、処理済繊維束12Pを用いて作製した綾織の洗浄後の強化繊維基材Fの表面には、毛羽が発生しておらず、炭素繊維束12のダメージが抑制されていることが分かる。これに対して、プロテクト剤P1を付与しない炭素繊維束12を用いて同様に作製した強化繊維基材Fは、図21の写真に示すように、毛羽が発生しており、炭素繊維束12にダメージが生じていることが分かる。
【0116】
上記では、カルボジイミド由来の構造を有する第1サイジング剤15を用いた例について説明しているが、第1サイジング剤15としてカルボジイミド由来の構造以外の構造を有するものを用いた場合においても、強化繊維基材Fを作製する際の炭素繊維束12のダメージを抑制する上でプロテクト剤P1の付与は有用である。
【実施例
【0117】
<実施例1>
実施例1では、第1実施形態の手順により炭素繊維11を母材とした複合素材10を作製し、CNT17の剥離実験を行い、第1サイジング剤15の効果を確認した。複合素材10の作製の際に用いた分散液28は、上述のように曲がった形状を有する材料CNTを用いて調製した。図22に分散液28の調製に用いた材料CNTのSEM写真を示す。この材料CNTは、多層であり、直径が3nm以上10nm以下の範囲であった。材料CNTは、硫酸と硝酸の3:1混酸を用いて洗浄して触媒残渣を除去した後、濾過乾燥した。分散液28の分散媒としてのアセトンに材料CNTを加え、超音波ホモジナイザーを用いて材料CNTを切断し、CNT17とした。分散液28中のCNT17の長さは、0.2μm以上5μm以下であった。また、分散液28中のCNT17は、曲がった形状と評価できるものであった。分散液28のCNT17の濃度は、0.12wt%(=1200wt ppm)とした。分散液28には、分散剤や接着剤を添加しなかった。
【0118】
炭素繊維束12としては、トレカ(登録商標)T700SC-12000(東レ株式会社製)を用いた。この炭素繊維束12には、12000本の炭素繊維11が含まれている。炭素繊維11の直径は7μm程度であり、長さは500m程度である。なお、炭素繊維束12は、CNT17の付着に先立って、炭素繊維11の表面から炭素繊維11の絡み等を防止するためのサイジング剤を除去した。
【0119】
炭素繊維束12を開繊した状態でガイドローラ23~26に巻き掛け、CNT付着槽22内の分散液28中を走行させた。炭素繊維束12の走行速度は、1m/分とし、分散液28には、超音波発生器27により周波数が200kHzの超音波振動を与えた。なお、ガイドローラ24、25の間を走行している浸漬時間は、6.25秒であった。この浸漬時間は、分散液28に与える超音波振動の1250000周期分である。分散液28中では、炭素繊維束12は、「D=n・(λ/2)」を満たす分散液28の液面からの深さDを走行させた。
【0120】
分散液28から引き出された炭素繊維束12を乾燥させた後に、第1サイジング処理を実施して、構造体14を構成するCNT17に第1サイジング剤15を付与した。第1サイジング処理では、カルボジイミド化合物として「カルボジライトV-02」(商品名、日清紡ケミカル社製)を水に溶解した第1サイジング処理液を用いた。第1サイジング処理液のカルボジイミド化合物の濃度は、サイジング剤質量比率Rmが1.0%となるように調整した。第1サイジング処理を施した炭素繊維束12を乾燥させて複合素材10を得た。
【0121】
上記のように第1サイジング処理を施した炭素繊維束12の一部を切り出して取得した複数本の炭素繊維11(以下、サンプル繊維という)に複数のCNT17が均一に分散して付着していることをSEM観察した。この結果、炭素繊維11の繊維軸方向の狭い範囲(局所的)でも、また広い範囲でも均一にCNT17が付着して構造体14が形成されていることが確認された。また、構造体14は、多数のCNT17からなる三次元的なメッシュ構造すなわち空隙部19を有する不織布状に形成されており、空隙部19のほとんどが第1サイジング剤15で閉塞されていないことが確認された。
【0122】
CNT17の剥離実験では、水と界面活性剤とを混合した混合液に、サンプル繊維を浸漬し、その混合液に超音波発生器から超音波振動を10分間与えた。混合液に浸漬した炭素繊維11の長さは、1m、混合液における界面活性剤の濃度は0.2質量%、混合液に与えた超音波振動の周波数は100kHzであった。
【0123】
比較例1として、カルボジイミド化合物に代えてエポキシ樹脂をアセトンに溶解したサイジング処理液を用いて第1サイジング処理を行って得られた炭素繊維に対して、CNTの剥離実験を行った。この比較例1では、サイジング処理液が異なる他は、上記と同じ条件とした。サイジング処理液のエポキシ樹脂の濃度は、サイジング剤質量比率Rmが1.0%になるよう調整した。
【0124】
比較例1の剥離実験では混合液が黒く濁り、剥離実験後に確認したところ9割以上のCNTが炭素繊維から脱落していることが確認された。これに対して、実施例1における剥離実験では混合液が僅かに濁った程度であり、炭素繊維11からのCNT17の脱落がほとんどないことが確認できた。すなわち、カルボジイミド由来の構造を有する第1サイジング剤15により、CNT17同士及びCNT17と炭素繊維11との接触が強固なものとなり、構造体14の崩壊及び炭素繊維11からの構造体14の剥がれが効果的に抑制されることが分かった。
【0125】
<実施例2>
実施例2では、実施例1と同じ条件で作製した複合素材10を用いて、炭素繊維強化成形体である試験片A21を作製し、モードI層間破壊靱性試験を行った。試験片A21は、長さ160mmとし、幅23mm、厚さ3mmとなるように作製した。実施例2では、第1サイジング処理を施した複合素材10を用いた。試験片A21は、長方形(160mm×23mm)に切断した複数枚のプリプレグ31を積層し、加圧しながら加熱してマトリックス樹脂32を硬化させることで作製した。各プリプレグ31は、長手方向が炭素繊維11の繊維軸方向と一致するように切断し、試験片A21は、その長手方向に全ての炭素繊維11の繊維軸方向を一致させた。
【0126】
モードI層間破壊靱性試験は、上記試験片A21に対して、オートグラフ精密万能試験機AG5-5kNX((株)島津製作所製)を用い、JIS K7086に準拠して行った。試験法としては、双片持ち梁層間破壊靱性試験法(DCB法)を用いた。すなわち、鋭利な刃物等で試験片A21の先端から2~5mmの初期き裂を形成し、その後にさらにき裂を進展させて初期き裂の先端から、き裂進展長さが60mmに到達した時点で試験を終了させた。試験機のクロスヘッドスピードは、き裂進展量に応じて変更した。具体的には、き裂進展量が20mmまでのクロスヘッドスピードは、0.5mm/分とした。き裂進展量が20mmを超えた際には、クロスヘッドスピードは1mm/分とした。き裂進展長さは顕微鏡を用いて試験片A21の両側面から測定し、荷重、およびき裂開口変位を計測することにより、荷重-COD(Crack Opening Displacement)曲線からモードI層間破壊靱性値(GIC)を求めた。
【0127】
比較例2として、カルボジイミド化合物に代えてエポキシ樹脂をアセトンに溶解したサイジング処理液を用いて第1サイジング処理を行って得られる複合素材を用い、この複合素材を強化繊維とした炭素繊維強化成形体である試験片B21と、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)を強化繊維とした炭素繊維強化成形体である試験片B22をそれぞれ作製し、モードI層間破壊靱性試験を行った。試験片B22では、サイジング処理は行っていない。比較例2では、上記の条件の他は、試験片A21と同じ条件とした。
【0128】
き裂進展量20mmにおけるモードI層間破壊靱性値(GIC)のモードI層間破壊靱性強度GIRは、実施例2の試験片A21が0.425kJ/m、比較例2の試験片B21が0.323kJ/m、試験片B22が0.231kJ/m2とであった。この結果より、実施例2の試験片(炭素繊維強化成形体)A21は、モードI層間破壊靱性強度GIRが比較例2の試験片B21に対して約1.32倍、試験片B22に対して約1.84倍向上していることが分かる。
【0129】
<実施例3>
実施例3では、実施例1と同様に作製した複合素材10を強化繊維とした炭素繊維強化成形体である中実のロッドA31、A32を作製し、これらロッドA31、A32について3点曲げ試験を行った。実施例3では、引抜成形法によって複合素材10とマトリックス樹脂とから直接に直径約2.6mmの円柱状の成形体を作製し、この成形体にセンタレス研磨を行って断面がより真円に近い直径約2.2mmのロッドA31、A32を作製した。したがって、ロッドA31、A32は、その軸心方向と炭素繊維11の繊維軸方向が一致する。なお、ロッドA31の炭素繊維11(原糸)としては、トレカT700SC(東レ株式会社製)を、ロッドA32の炭素繊維11(原糸)としては、トレカT800SC(東レ株式会社製)をそれぞれ用いた。ロッドA31、A32の、他の作製条件は、実施例1と同じにした。
【0130】
上記のロッドA31、A32をそれぞれ切断して、長さ120mmの試験片を複数作製し、それら試験片に対して、JIS K 7074:1988「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して3点曲げ試験を行った。支点間距離は、80mmとした。3点曲げ試験は、圧子の降下速度を相対的に低速にしたもの(以下、低速曲げ試験という)と、高速なもの(以下、高速曲げ試験という)を行って、それぞれ破壊荷重(N)を求めた。低速曲げ試験では、圧子の降下速度を5mm/秒とし、高速曲げ試験では、圧子の降下速度を1m/秒と5m/秒の2種類とした。破壊荷重(N)としては、低速曲げ試験及び2種類の高速曲げ試験の各結果のそれぞれについて、繊維体積含有率(Vf)が60%換算の値を求めた。なお、ロッドA31、A32のそれぞれについて、低速曲げ試験及び2種類の高速曲げ試験のいずれも複数の試験片を用いて複数回の試験を行った。
【0131】
比較例3として、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)を強化繊維とした炭素繊維強化成形体である中実のロッドB31、B32を作製し、これらのロッドB31、B32について3点曲げ試験を行った。ロッドB31の炭素繊維は、ロッドA31のものと同じであり、ロッドB32の炭素繊維は、ロッドA32のものと同じである。ロッドB31、B32は、炭素繊維を原糸で用いた以外は、ロッドA31、A32と同じ条件で作製した。また、ロッドB31、B32についての3点曲げ試験は、ロッドA31、A32と同じ条件で行い、破壊荷重(N)を求めた。
【0132】
上記の試験結果を図23に示す。低速曲げ試験では、ロッドA31は、ロッドB31よりも11%、ロッドA32は、ロッドB32よりも23%破壊強度が向上していた。また、高速曲げ試験では、ロッドA31は、ロッドB31よりも14%、ロッドA32は、ロッドB32よりも11%破壊強度が向上していた。
【0133】
<実施例4>
実施例4では、実施例1と同様に作製した複合素材10を用いた炭素繊維強化成形体であるリング状試験片A41、A42を作製し、NOLリング試験を行った。すなわち、繊維基材としての複合素材10を一方向に平行巻きしたリング状試験片A41、A42を用いて円周方向の引張り強度を求めた。リング状試験片A41、A42は、フィラメントワインディング法を用いて作製した。具体的には、フィラメントワインダに装着した円筒状のマンドレルに、第1サイジング処理後の複合素材10(CNT複合繊維)にマトリックス樹脂を含浸させてから巻き付けて成形体を形成した。成形体は、マンドレルとともに加熱してマトリックス樹脂を硬化させた。マトリックス樹脂の硬化後、マンドレルを抜いた成形体を所定の幅に切断してリング状試験片A41、A42とした。マトリックス樹脂は、ロールコータを用いて第1サイジング処理後の複合素材10に塗布した。炭素繊維11(原糸)としては、トレカT1100(東レ株式会社製)を用いた。複合素材10の他の作製条件は、実施例1と同じにした。
【0134】
リング状試験片A41、A42は、内径35mm、外径40mm、幅3mmとした。NOLリング試験では、5582型万能材料試験機(インストロン社製)を用いて、引張速度2mm/minで行った。この試験結果を図24に示す。図24は、横軸が繊維体積含有率(Vf)であり、縦軸は、繊維体積含有率が100%であるときの理論強度を100とした場合の相対的な引張り強度を示す指標値である。また、図24のグラフには、リング状試験片A41、A42と同じ繊維体積含有率についての引張り強度の理論値を併せて示してある。
【0135】
比較例4として、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)を強化繊維とした炭素繊維強化成形体であるリング状試験片B41~B44を作製し、NOLリング試験を行った。リング状試験片B41~B44の炭素繊維は、リング状試験片A41、A42のものと同じものを用い、炭素繊維を原糸で用いた以外は、リング状試験片A41、A42と同じ条件で作製した。これら比較例4のリング状試験片B41~B44の試験結果を図24に示す。
【0136】
図24のグラフより、CNT17を付着させた炭素繊維11を強化繊維としているリング状試験片A41、A42は、炭素繊維(原糸)を強化繊維としたリング状試験片B41~B44よりも引張り強度が向上し、引張り強度の理論値に近くなっていることがわかる。
【0137】
[実施例5]
実施例5では、フラグメンテーション法により炭素繊維11とマトリックス樹脂との界面接着強度を評価した。あわせて、サイジング剤質量比率Rmの違いによる炭素繊維11とマトリックス樹脂との界面接着強度を評価した。
【0138】
まず、第1サイジング処理液のカルボジイミド化合物の濃度を調整し、サイジング剤質量比率Rmが0.6%、0.8%、1.0%、1.1%、1.5%となる複合素材10をそれぞれ作製した。作製した複合素材10のそれぞれについて、炭素繊維束12から1本のCNT複合繊維を取り出し、そのCNT複合繊維を軟質エポキシ樹脂中に埋設した試験片A51~A55を作製した。試験片A51~A55は、複合素材10の複数の作製ロットについてそれぞれ3個作製した。炭素繊維11としては、トレカT700SC(東レ株式会社製)を用いた。なお、この他の複合素材10の作製条件は、実施例1と同じである。
【0139】
試験片A51~A55のそれぞれについて、炭素繊維11が切断されなくなるまで引張り荷重を加えてから、一定長における炭素繊維11の各切断片の長さを個々の試験片について測定し、試験片A51~A55のそれぞれについて、作製ロットごとに切断片の長さの平均(切断繊維長さ)を求めた。この測定結果を図25のグラフに示す。
【0140】
比較例5として、CNTを付着させていない1本の炭素繊維(原糸)を軟質エポキシ樹脂中に埋設した試験片B51を作製した。試験片A51~A55と同様に、試験片B51に引張り荷重を加え、作製ロットごとに切断片の長さの平均(切断繊維長さ)を求めた。この測定結果を図25のグラフに示す。なお、試験片B51の作製条件は、CNTが炭素繊維に付着していない他は、試験片A51~A55と同じとした。
【0141】
試験片A51~A55の切断繊維長さは、比較例5の試験片B51の切断繊維長さよりも短くなっており、CNT複合繊維とマトリックス樹脂との界面接着強度が、CNTを付着させていない炭素繊維(原糸)のものよりも高くなっていることがわかる。また、試験片B51に対して、サイジング剤質量比率Rmが0.6%以上1.1%以下の範囲内の試験片A51~A54の界面接着強度が顕著に高くなっていることがわかる。
【0142】
上記のように作製された複合素材10のうちサイジング剤質量比率Rmが0.8%、1.1%、1.5%ものについて、構造体14の表面の第1サイジング剤15を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した状態を図26ないし図28に示す。サイジング剤質量比率Rmが0.8%、1.1%の構造体14では、CNT17が形成する空隙部19が第1サイジング剤15によって閉塞されていなかったが、サイジング剤質量比率Rmが1.5%の構造体14では多くの空隙部19が第1サイジング剤15によって閉塞されていることが確認された。
【0143】
[実施例6]
フラグメンテーション法により、炭素繊維11に対するCNTの付着割合の違いによる炭素繊維11とマトリックス樹脂との界面接着強度を評価した。実施例6として、炭素繊維11の表面に均一にかつ十分な付着量でCNT17が付着して構造体14が形成された複合繊維を軟質エポキシ樹脂中に埋設した試験片A61を作製した。また、比較例6として、炭素繊維11の表面に構造体14が形成されるもののCNT17の付着量にムラがある複合繊維を軟質エポキシ樹脂中に埋設した試験片B61を作製した。試験片A61、B61の複合繊維は、構造体14に付着量のムラの有無が異なる他は、同じ条件で作製されたものであり、その作製条件は、実施例1と同じである。試験片A61、B61は、いずれも第1サインジング処理後のものを用いた。
【0144】
図29に、電界放出型走査電子顕微鏡で観察された試験片A61に用いた複合繊維の構造体14の表面の状態を、また図30に試験片B61に用いた複合繊維の構造体14の表面の状態を示す。試験片A61の構造体14の単位面積あたりの付着量を100%としたときに、試験片B61には、炭素繊維11の表面に単位面積あたりの付着量が80%程度となる部分(図中に実線で囲む部分)が形成され、他の部分が100%となっていた。
【0145】
図31に、フラグメンテーション法により測定された試験片A61、B61の切断繊維長さを示す。なお、図31のグラフには、炭素繊維(原糸)を用いたときの切断繊維長さをあわせて示してある。このグラフより、CNTによって界面接着力の向上されていることが確認できる。
【符号の説明】
【0146】
10 複合素材
11 炭素繊維
12 炭素繊維束
12P 処理済繊維束
14 構造体
15 第1サイジング剤
17 カーボンナノチューブ
37 第2サイジング剤
54 プロテクト処理工程
56 基材作製工程
57 洗浄工程
61 CNT複合繊維
P1 プロテクト剤
F 強化繊維基材

【要約】
CNTに由来した特性をより高めることができる複合素材、その製造方法及び強化繊維基材の製造方法を提供する。複合素材10は、それを構成する炭素繊維束12の各炭素繊維11の表面に複数のカーボンナノチューブ17で構成された構造体14が形成されている。カーボンナノチューブ17は、曲がった形状のものである。カーボンナノチューブ17は、曲面である炭素繊維11の表面に対して様々な姿勢で付着して構造体14が形成されている。第1サイジング剤は、カーボンナノチューブ17の官能基とカルボジイミド基とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触したカーボンナノチューブ17同士を架橋する。

図1
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