(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】固体酸化物燃料電池用代替アノード材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220719BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20220719BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220719BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20220719BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20220719BHJP
H01M 8/126 20160101ALI20220719BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20220719BHJP
C01F 11/02 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
H01M4/86 T
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M4/88 T
H01M8/1213
H01M8/1253
H01M8/126
H01M8/1246
C01F11/02 Z
(21)【出願番号】P 2018549190
(86)(22)【出願日】2017-03-17
(86)【国際出願番号】 US2017023063
(87)【国際公開番号】W WO2017161332
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-12
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520159592
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パーク
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】パン ケ-ジ
(72)【発明者】
【氏名】ワックスマン エリック ディー.
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥル ジャバー モハメド フセイン
【審査官】菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0231366(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0127747(US,A1)
【文献】国際公開第2010/109530(WO,A1)
【文献】LIU et al.,A Novel Electrode Material for Symmetrical SOFCs,ADVANCED MATERIALS,2010年10月13日,Vol. 22,p. 5478-5482
【文献】SONG et al.,Effect of cobalt-substitution Sr2Fe1.5-xCoxMo0.5O6-δ for intermediate temperature symmetrical solid oxide fuel cells fed with H2-H2S,Electrochimica Acta,2014年07月17日,Vol. 139,p. 13-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
C01F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード層と;
電解質層と;
ストロンチウム鉄コバルトモリブデン(SFCM)酸化物材料を含むアノード層と
を含み、
SFCM酸化物材料が下記式を有する、固体酸化物燃料電池:
SrM
1
xM
2
((1-x)/2)Mo
((1-x)/2)O
3±δ
式中、
M
1は遷移金属であり;
M
2は遷移金属であり;
ここで、M
1はM
2と同じではなく、かつM
1とM
2のどちらもMoではなく;
xは0.1~0.4であり;かつ
δは0~1.5である。
【請求項2】
前記アノード層が、ストロンチウム鉄コバルトモリブデン酸化物材料を通じた電子パーコレーションを可能にするように構成されている、請求項1
に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項3】
xが0.1~0.3である、請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項4】
xが0.1~0.25である、請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項5】
前記カソード層が、下記を含む複合体を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池:
(a)ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(SSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、およびランタンストロンチウムマンガネート(LSM)からなる群より選択される材料;ならびに
(b)イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、ガドリニアドープセリア(GDC)、サマリアドープセリア(SDC)、サマリア-ネオジムドープセリア(SNDC)、エルビア安定化ビスマス酸化物(ESB)、ジスプロシウムタングステン安定化ビスマス酸化物(DWSB)、イットリア安定化ビスマス酸化物(YSB)、ならびにストロンチウムおよびマグネシウムドープランタンガレート(LSGM)からなる群より選択される材料。
【請求項6】
前記カソード層が、SSCおよびGDCを含む複合体を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項7】
前記電解質層が、YSZ、SSZ、GDC、SDC、SNDC、ESB、DWSB、YSB、およびLSGMからなる群より選択される材料を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項8】
前記電解質層がGDCを含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項9】
前記アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cmの伝導度を有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項10】
前記アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cmの伝導度を有する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項11】
前記アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に10S/cm~40S/cmの伝導度を有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項12】
前記アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に10S/cm~40S/cmの伝導度を有する、請求項1~
11のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項13】
前記アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に30S/cm~40S/cmの伝導度を有する、請求項1~
12のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項14】
前記アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に30S/cm~40S/cmの伝導度を有する、請求項1~
13のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項15】
前記電解質層と前記カソード層との間に配置されたカソード機能層をさらに含む、請求項1~
14のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項16】
前記カソード機能層が、LSCF、BSCF、SSCF、SSC、YSZ、SSZ、GDC、SDC、SNDC、ESB、DWSB、YSB、LSGM、またはこれらの組み合わせを含む、請求項
15に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項17】
前記カソード機能層がGDCを含む、請求項
15または
16に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項18】
前記アノード層が酸化物材料のみを含む、請求項1~
17のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項19】
前記アノード層が多孔性である、請求項1~
18のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項20】
前記アノード層がGDCをさらに含む、請求項1~
19のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項21】
前記アノード層がコバルトドープGDCをさらに含む、請求項1~
20のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項22】
前記アノード層が多価遷移金属で浸潤されている、請求項
21に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項23】
多価遷移金属がNiまたはNi-GDCである、請求項
22に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項24】
M
1がFeであり、かつM
2がCoである、請求項1~
23のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項25】
前記アノード層が、SrFe
0.1Co
0.45Mo
0.45O
3、SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3、またはSrFe
0.34Co
0.33Mo
0.33O
3を含む、請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項26】
下記を含む、酸化物組成物:
SrM
1
xM
2
((1-x)/2)Mo
((1-x)/2)O
3±δ
ここで、
M
1は遷移金属であり;
M
2は遷移金属であり;
ここで、M
1はM
2と同じではなく、かつM
1とM
2のどちらもMoではなく;
xは0.1~0.4であり;かつ
δは0~1.5である。
【請求項27】
xが0.1~0.3である、請求項
26に記載の酸化物組成物。
【請求項28】
xが0.1~0.25である、請求項
26に記載の酸化物組成物。
【請求項29】
M
1がFeであり、かつM
2がCoである、請求項
26に記載の酸化物組成物。
【請求項30】
SrFe
0.1Co
0.45Mo
0.45O
3、SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3、またはSrFe
0.34Co
0.33Mo
0.33O
3を含む、請求項
26に記載の酸化物組成物。
【請求項31】
(a)カソード層、電解質層、およびアノード層を製造する工程;ならびに
(b)(a)において製造された層によって、完全な電池を形成する工程
を含む、請求項1~
25のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池を作製する方法であって、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~850℃である、前記方法。
【請求項32】
後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~650℃である、請求項
31に記載の方法。
【請求項33】
完全な電池を形成するためにカソード層、電解質層、およびアノード層とともに製造された少なくとも1つの追加の層をさらに含み、
後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~850℃である、
請求項
31に記載の方法。
【請求項34】
後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~650℃である、請求項
33に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも1つの追加の層がカソード機能層である、請求項
33または
34に記載の方法。
【請求項36】
前記アノード層が、SrFe
0.1Co
0.45Mo
0.45O
3、SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3、またはSrFe
0.34Co
0.33Mo
0.33O
3を含む、請求項
31~
35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記アノード層がSrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3を含む、請求項
36に記載の方法。
【請求項38】
前記アノード層がSrFe
0.1Co
0.45Mo
0.45O
3を含む、請求項
36に記載の方法。
【請求項39】
SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3を含む、請求項
26に記載の酸化物組成物。
【請求項40】
SrFe
0.1Co
0.45Mo
0.45O
3を含む、請求項
26に記載の酸化物組成物。
【請求項41】
前記アノード層がNiまたはNi-GDCで浸潤されている、請求項
33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ストロンチウム鉄コバルトモリブデン酸化物(SFCM)の様々な組成物を含む固体酸化物燃料電池(SOFC)アノード材料に関する。これらの材料は、中温および低温にて達成可能な高い伝導度を提供し、SOFCのアノード層を調製するために用いられ得る。SFCMを含むアノード層を有する低温型または中温型SOFCを作製する方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
背景
SOFCは、水素または炭化水素を高効率で電力に直接変換し得る電気化学的エネルギー変換装置である。従来、SOFCは高温(約800℃)にて動作し、これはSOFC部材用の材料の選択を限定する。さらに、高温動作はSOFC部材の急速な分解につながる。SOFCの作動温度を下げることはそのような問題を克服し得るが、しかしながら反応速度の遅さにより電極抵抗が増加し、燃料電池全体の効率に影響を及ぼす。
【0003】
典型的には、アノードはSOFCの主要な構造部材を形成し、したがってアノード材料が高効率であることが重要である。従来のSOFCアノード材料には、高イオン伝導度および高電子伝導度の両方を達成するために多孔性のNi-YSZまたはNi-GDC複合体が製造されることが多い。しかしながら、ニッケルは電子伝導度および触媒活性が高いにも関わらず、それには熱および酸化還元サイクル時の体積変化、炭化水素燃料を用いる場合の炭素析出、ならびに低硫黄耐性などの問題がある。これらの問題を考慮すると、電子伝導性セラミックスはニッケル系アノードの有望な代替物になる。また、セラミック酸化物系アノードもコーキングおよび硫黄被毒に対するそれらの耐性を考慮すると従来のNi-GDCアノードに代わる見込みある代用物である。しかし、セラミックアノードの水素酸化についての電子伝導度および触媒活性はNi-GDCアノードよりもはるかに低い。低温動作型SOFCへのセラミックアノードの適用は依然として研究されている。また、セラミックアノードは他の部材(例えば、電解質)との熱的なミスマッチ、化学的安定性および不適合性などのいくつかの製造上の課題を抱えている。さらに、電子伝導性セラミックスの伝導度はニッケルよりもはるかに低く、これはSOFCの性能に悪影響がある。
【0004】
他の者らは、SOFC用の許容可能な伝導度を備えたオールセラミックアノード材料を開発した。そのようなアノード材料は、約930℃での還元後に良好な電子伝導度(約6.5S-cm-1)を有し得かつ良好な酸化還元安定性を示す、ニオブドープチタン酸ストロンチウム(SNT)を含む。SOFCアノード用のSNTおよび代替的な伝導性セラミックスは、還元性環境での材料の高温焼結または高温でのインサイチュ還元による伝導性の活性化を要する。しかしながら、これらの選択肢のいずれも中温型または低温型SOFCに適していない。
【0005】
よって、固体酸化物燃料電池内での使用に向けた向上した低温型アノード材料に対する必要性がある。アノードの伝導性および安定性要件の両方を満たし、中温および低温動作に適合した新規な電子伝導性セラミック材料に対する必要性がある。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの態様は、カソード層と;電解質層と;アノード層とを有する固体酸化物燃料電池を含む。アノード層は、ストロンチウム鉄コバルトモリブデン酸化物材料を含む。
【0007】
1つの態様では、開示は、カソード層と;電解質層と;ストロンチウム鉄コバルトモリブデン(SFCM)酸化物材料を含むアノード層とを含む固体酸化物燃料電池を提供する。
【0008】
別の態様では、開示は、アノード層がストロンチウム鉄コバルトモリブデン酸化物材料を通じた電子パーコレーションを可能にするように構成されている、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0009】
別の態様では、開示は、SFCM酸化物材料が下記式
SrM1
xM2
((1-x)/2)Mo((1-x)/2)O3±δ
を有し、式中、M1およびM2は異なる遷移金属でありかつMoではなく、xは約0.1~0.5であり;かつδは約0~1.5である、固体酸化物燃料電池を提供する。1つの態様では、M1はFeであり、かつM2はCoである。
【0010】
別の態様では、開示は、SFCM酸化物材料が下記式
SrM1
xM2
yMozO3
を有し、式中、M1およびM2は異なる遷移金属でありかつMoではなく、xは約0.1~0.5であり;yは約1-xであり;かつzは約1-xである、固体酸化物燃料電池を提供する。1つの態様では、M1はFeであり、かつM2はCoである。
【0011】
別の態様では、開示は、xが約0.1~0.4である、固体酸化物燃料電池を提供する。別の態様では、xは約0.1~0.3である。別の態様では、xは約0.1~0.25である。
【0012】
別の態様では、開示は、カソード層が、下記を含む複合体を含む、固体酸化物燃料電池を提供する:
(a)ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(SSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、およびランタンストロンチウムマンガネート(LSM)からなる群より選択される材料;ならびに
(b)イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、ガドリニアドープセリア(GDC)、サマリアドープセリア(SDC)、サマリア-ネオジムドープセリア(SNDC)、エルビア安定化ビスマス酸化物(ESB)、ジスプロシウムタングステン安定化ビスマス酸化物(DWSB)、イットリア安定化ビスマス酸化物(YSB)、ならびにストロンチウムおよびマグネシウムドープランタンガレート(LSGM)からなる群より選択される材料。
【0013】
別の態様では、開示は、カソード層が、SSCおよびGDCを含む複合体を含む、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0014】
別の態様では、開示は、電解質層がYSZ、SSZ、GDC、SDC、SNDC、ESB、DWSB、YSB、およびLSGMからなる群より選択される材料を含む、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0015】
別の態様では、開示は、電解質層がGDCを含む、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0016】
別の態様では、開示は、アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cmの伝導度を有する、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0017】
別の態様では、開示は、アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cmの伝導度を有する、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0018】
別の態様では、開示は、アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に10S/cm~40S/cmの伝導度を有する、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0019】
別の態様では、開示は、アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に10S/cm~40S/cmの伝導度を有する、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0020】
別の態様では、開示は、アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に30S/cm~40S/cmの伝導度を有する、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0021】
別の態様では、開示は、アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に30S/cm~40S/cmの伝導度を有する、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0022】
別の態様では、開示は、電解質層とカソード層との間に配置されたカソード機能層をさらに含む固体酸化物燃料電池を提供する。別の態様では、カソード機能層は、LSCF、BSCF、SSCF、SSC、YSZ、SSZ、GDC、SDC、SNDC、ESB、DWSB、YSB、LSGM、またはこれらの組み合わせを含む。別の態様では、カソード機能層はGDCを含む。
【0023】
別の態様では、開示は、アノード層が酸化物材料のみを含む、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0024】
別の態様では、開示は、アノード層が多孔性である、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0025】
別の態様では、開示は、アノード層がGDCをさらに含む、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0026】
別の態様では、開示は、アノード層がコバルトドープGDCをさらに含む、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0027】
別の態様では、開示は、アノード層がNiまたはNi-GDCで浸潤されている、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0028】
別の態様では、開示は、アノード層が多価遷移金属、例えばFeで浸潤されている、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0029】
別の態様では、開示は、アノード層がSrFe0.1Co0.45Mo0.45O3、SrFe0.2Co0.4Mo0.4O3、SrFe0.34Co0.33Mo0.33O3、またはSrFe0.5Co0.25Mo0.25O3を含む、固体酸化物燃料電池を提供する。
【0030】
別の態様では、開示は、
SrM1
xM2
((1-x)/2)Mo((1-x)/2)O3±δ
を含む酸化物組成物を提供し、ここで、M1およびM2は異なる遷移金属でありかつMoではなく、xは約0.1~0.5であり;かつδは約0~1.5である。1つの態様では、M1はFeであり、かつM2はCoである。
【0031】
別の態様では、開示は、
SrM1
xM2
yMozO3
を含む酸化物組成物を提供し、ここで、M1およびM2は異なる遷移金属でありかつMoではなく、xは約0.1~0.5であり;yは約1-xであり;かつzは約1-xである。1つの態様では、M1はFeであり、かつM2はCoである。
【0032】
別の態様では、開示は、xが約0.1~0.4である、酸化物組成物を提供する。別の態様では、xは約0.1~0.3である。別の態様では、xは約0.1~0.25である。
【0033】
別の態様では、開示は、SrFe0.1Co0.45Mo0.45O3、SrFe0.2Co0.4Mo0.4O3、SrFe0.34Co0.33Mo0.33O3、またはSrFe0.5Co0.25Mo0.25O3を含む酸化物組成物を提供する。
【0034】
別の態様では、開示は、SrFe0.2Co0.4Mo0.4O3を含む酸化物組成物を提供する。
【0035】
別の態様では、開示は、SrFe0.1Co0.45Mo0.45O3を含む酸化物組成物を提供する。
【0036】
別の態様では、開示は、(a)カソード層、電解質層、およびアノード層を製造する工程;ならびに(b)(a)において製造された層によって、完全な電池を形成する工程を含む、固体酸化物燃料電池を作製する方法を提供し、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~850℃である。
【0037】
別の態様では、開示は、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~650℃である、固体酸化物燃料電池を作製する方法を提供する。
【0038】
別の態様では、開示は、完全な電池を形成するためにカソード層、電極層、およびアノード層とともに製造された少なくとも1つの追加の層をさらに含み、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~850℃である、固体酸化物燃料電池を作製する方法を提供する。
【0039】
別の態様では、開示は、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~650℃である、固体酸化物燃料電池を作製する方法を提供する。
【0040】
別の態様では、開示は、少なくとも1つの追加の層がカソード機能層である、固体酸化物燃料電池を作製する方法を提供する。
【0041】
別の態様では、開示は、アノード層がSrFe0.1Co0.45Mo0.45O3、SrFe0.2Co0.4Mo0.4O3、SrFe0.34Co0.33Mo0.33O3、またはSrFe0.5Co0.25Mo0.25O3を含む、固体酸化物燃料電池を作製する方法を提供する。
【0042】
別の態様では、開示は、アノード層がSrFe0.2Co0.4Mo0.4O3を含む、固体酸化物燃料電池を作製する方法を提供する。
【0043】
別の態様では、開示は、アノード層がSrFe0.1Co0.45Mo0.45O3を含む、固体酸化物燃料電池を作製する方法を提供する。
[本発明1001]
カソード層と;
電解質層と;
ストロンチウム鉄コバルトモリブデン(SFCM)酸化物材料を含むアノード層と
を含む、固体酸化物燃料電池。
[本発明1002]
前記アノード層が、ストロンチウム鉄コバルトモリブデン酸化物材料を通じた電子パーコレーションを可能にするように構成されている、本発明1001の固体酸化物燃料電池。
[本発明1003]
SFCM酸化物材料が下記式を有する、本発明1001または1002の固体酸化物燃料電池:
SrM
1
x
M
2
((1-x)/2)
Mo
((1-x)/2)
O
3±δ
式中、
M
1
は遷移金属であり;
M
2
は遷移金属であり;
ここで、M
1
はM
2
と同じではなく、かつM
1
とM
2
のどちらもMoではなく;
xは約0.1~0.5であり;かつ
δは約0~1.5である。
[本発明1004]
SFCM酸化物材料が下記式を有する、本発明1001の固体酸化物燃料電池:
SrM
1
x
M
2
y
Mo
z
O
3
式中、
M
1
は遷移金属であり;
M
2
は遷移金属であり;
ここで、M
1
はM
2
と同じではなく、かつM
1
とM
2
のどちらもMoではなく;
xは約0.1~0.5であり;
yは約1-xであり;かつ
zは約1-xである。
[本発明1005]
xが約0.1~0.4である、本発明1003の固体酸化物燃料電池。
[本発明1006]
xが約0.1~0.3である、本発明1003の固体酸化物燃料電池。
[本発明1007]
xが約0.1~0.25である、本発明1003の固体酸化物燃料電池。
[本発明1008]
前記カソード層が、下記を含む複合体を含む、本発明1001~1007のいずれかの固体酸化物燃料電池:
(a)ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(SSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、およびランタンストロンチウムマンガネート(LSM)からなる群より選択される材料;ならびに
(b)イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、ガドリニアドープセリア(GDC)、サマリアドープセリア(SDC)、サマリア-ネオジムドープセリア(SNDC)、エルビア安定化ビスマス酸化物(ESB)、ジスプロシウムタングステン安定化ビスマス酸化物(DWSB)、イットリア安定化ビスマス酸化物(YSB)、ならびにストロンチウムおよびマグネシウムドープランタンガレート(LSGM)からなる群より選択される材料。
[本発明1009]
前記カソード層が、SSCおよびGDCを含む複合体を含む、本発明1001~1008のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1010]
前記電解質層が、YSZ、SSZ、GDC、SDC、SNDC、ESB、DWSB、YSB、およびLSGMからなる群より選択される材料を含む、本発明1001~1009のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1011]
前記電解質層がGDCを含む、本発明1001~1010のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1012]
前記アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cmの伝導度を有する、本発明1001~1011のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1013]
前記アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cmの伝導度を有する、本発明1001~1012のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1014]
前記アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に10S/cm~40S/cmの伝導度を有する、本発明1001~1013のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1015]
前記アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に10S/cm~40S/cmの伝導度を有する、本発明1001~1014のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1016]
前記アノード層が、350℃~850℃の温度で測定された場合に30S/cm~40S/cmの伝導度を有する、本発明1001~1015のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1017]
前記アノード層が、350℃~650℃の温度で測定された場合に30S/cm~40S/cmの伝導度を有する、本発明1001~1016のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1018]
前記電解質層と前記カソード層との間に配置されたカソード機能層をさらに含む、本発明1001~1017のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1019]
前記カソード機能層が、LSCF、BSCF、SSCF、SSC、YSZ、SSZ、GDC、SDC、SNDC、ESB、DWSB、YSB、LSGM、またはこれらの組み合わせを含む、本発明1018の固体酸化物燃料電池。
[本発明1020]
前記カソード機能層がGDCを含む、本発明1018または1019の固体酸化物燃料電池。
[本発明1021]
前記アノード層が酸化物材料のみを含む、本発明1001~1020のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1022]
前記アノード層が多孔性である、本発明1001~1021のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1023]
前記アノード層がGDCをさらに含む、本発明1001~1022のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1024]
前記アノード層がコバルトドープGDCをさらに含む、本発明1001~1023のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1025]
前記アノード層が多価遷移金属で浸潤されている、本発明1024の固体酸化物燃料電池。
[本発明1026]
多価遷移金属がNiまたはNi-GDCである、本発明1025の固体酸化物燃料電池。
[本発明1027]
M
1
がFeであり、かつM
2
がCoである、本発明1001~1026のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1028]
前記アノード層が、SrFe
0.1
Co
0.45
Mo
0.45
O
3
、SrFe
0.2
Co
0.4
Mo
0.4
O
3
、SrFe
0.34
Co
0.33
Mo
0.33
O
3
、またはSrFe
0.5
Co
0.25
Mo
0.25
O
3
を含む、本発明1001~1027のいずれかの固体酸化物燃料電池。
[本発明1029]
下記を含む、酸化物組成物:
SrM
1
x
M
2
((1-x)/2)
Mo
((1-x)/2)
O
3±δ
ここで、
M
1
は遷移金属であり;
M
2
は遷移金属であり;
ここで、M
1
はM
2
と同じではなく、かつM
1
とM
2
のどちらもMoではなく;
xは約0.1~0.5であり;かつ
δは約0~1.5である。
[本発明1030]
下記を含む、酸化物組成物:
SrM
1
x
M
2
y
Mo
z
O
3
ここで、
M
1
は遷移金属であり;
M
2
は遷移金属であり;
ここで、M
1
はM
2
と同じではなく、かつM
1
とM
2
のどちらもMoではなく;
xは約0.1~0.5であり;
yは約1-xであり;かつ
zは約1-xである。
[本発明1031]
xが約0.1~0.4である、本発明1028または1029の酸化物組成物。
[本発明1032]
xが約0.1~0.3である、本発明1028または1029の酸化物組成物。
[本発明1033]
xが約0.1~0.25である、本発明1028または1029の酸化物組成物。
[本発明1034]
M
1
がFeであり、かつM
2
がCoである、本発明1028または1029の酸化物組成物。
[本発明1035]
SrFe
0.1
Co
0.45
Mo
0.45
O
3
、SrFe
0.2
Co
0.4
Mo
0.4
O
3
、SrFe
0.34
Co
0.33
Mo
0.33
O
3
、またはSrFe
0.5
Co
0.25
Mo
0.25
O
3
を含む、本発明1028または1029の酸化物組成物。
[本発明1036]
(a)カソード層、電解質層、およびアノード層を製造する工程;ならびに
(b)(a)において製造された層によって、完全な電池を形成する工程
を含む、本発明1001~1028のいずれかの固体酸化物燃料電池を作製する方法であって、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~850℃である、前記方法。
[本発明1037]
後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~650℃である、本発明1036の方法。
[本発明1038]
完全な電池を形成するためにカソード層、電極層、およびアノード層とともに製造された少なくとも1つの追加の層をさらに含み、
後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~850℃である、
本発明1036の方法。
[本発明1039]
後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、350℃~650℃である、本発明1038の方法。
[本発明1040]
少なくとも1つの追加の層がカソード機能層である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1041]
前記アノード層が、SrFe
0.1
Co
0.45
Mo
0.45
O
3
、SrFe
0.2
Co
0.4
Mo
0.4
O
3
、SrFe
0.34
Co
0.33
Mo
0.33
O
3
、またはSrFe
0.5
Co
0.25
Mo
0.25
O
3
を含む、本発明1036~1040のいずれかの方法。
[本発明1042]
前記アノード層がSrFe
0.2
Co
0.4
Mo
0.4
O
3
を含む、本発明1041の方法。
[本発明1043]
前記アノード層がSrFe
0.1
Co
0.45
Mo
0.45
O
3
を含む、本発明1041の方法。
[本発明1044]
SrFe
0.2
Co
0.4
Mo
0.4
O
3
を含む、本発明1029または1030の酸化物組成物。
[本発明1045]
SrFe
0.1
Co
0.45
Mo
0.45
O
3
を含む、本発明1029または1030の酸化物組成物。
[本発明1046]
前記アノード層がNiまたはNi-GDCで浸潤されている、本発明1038の固体酸化物燃料電池。
【図面の簡単な説明】
【0044】
本明細書に組み込まれ、明細書の一部を形成する添付の図面は、本発明の1つまたは複数の態様を示しており、明細書の記載と併せて発明の原理を説明し当業者が発明を作製し使用することを可能にする役割をさらに果たす。以下の図面は単なる例示として与えられ、よって本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0045】
【
図1】
図1Aは、1つの態様に係る、カソードと、電解質層と、アノードとを含む燃料電池を示す。
図1Bは、1つの態様に係る、カソードと、カソード機能層と、電解質層と、アノード層とを含む燃料電池を示す。
【
図2】1つの態様に係る、15~20μmのSr
0.5Sm
0.5CoO
3-ガドリニアドープセリア(SSC-GDC)カソード層と、5μmの2mol%コバルトドープGDCカソード機能層と、20~30μmのGDC電解質層と、Ni-GDC(約10wt%充填量)で浸潤されたグリシン硝酸塩法(GNP)ストロンチウム鉄コバルトモリブデン酸化物-ガドリニアドープセリア(SFCM-GDC)複合体アノード層とを含む固体酸化物燃料電池(SOFC)の概略図を示す。
【
図3】1つの態様に係る、15~20μmのSSC-GDC層と、20~30μmのGDC層と、Ni-GDC(約10wt%充填量)で浸潤されたGNP SFCM-GDC複合体アノード層とを含むSOFCの概略図を示す。
【
図4】10%H
2/90%N
2中で約24時間還元した様々なアノード材料(SrCo
0.5Mo
0.5O
3(SFCM#1)、SrFe
0.1Co
0.45Mo
0.45O
3(SFCM#2)、SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3(SFCM#3)、SrFe
0.34Co
0.33Mo
0.33O
3(SFCM#4)、およびSrFe
0.5Co
0.25Mo
0.25O
3(SFCM#5))の伝導度を比較したグラフを示す。
【
図5】様々な温度での、発明の態様に係るSrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3(SFCM#3)複合体アノードで構成された完全なSOFCについての開回路電圧(左目盛り)および電力密度(右目盛り)のプロットである。
【
図6】様々な温度での、本発明の態様に係るSFCM#3複合体アノードで構成された完全なSOFCのナイキストプロットを示す。
【
図7】1つの態様に係る、SSC-GDCカソード層と、Co-GDCカソード機能層と、GDC電解質層と、SFCM#3アノード層とを含む完全な燃料電池の断面走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図8】1つの態様に係るSFCM#3アノードの断面SEM画像を示す。
【
図9】1つの態様に係るSFCM#3アノードの断面SEM画像を示す。
【
図10】1つの態様に係るNi-GDCアノードで浸潤されたSFCM#3アノードの断面SEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
本明細書は、本発明の特徴を組み込んだ1つまたは複数の態様を開示する。開示の態様は発明の単なる例示である。発明の範囲は開示の態様に限定されない。複数の発明を記載している場合がある。発明は本明細書に添付の特許請求の範囲よって規定される。
【0047】
記載の態様と、「1つの態様」、「態様」、「例示の態様」などへの明細書における言及とは、記載の態様が特定の特徴、構造、または特性を含む場合があるが、全ての態様が必ずしも該特定の特徴、構造、または特性を含んでいなくてもよいことを表している。また、そのような表現は必ずしも同じ態様を指していない。さらに、態様と関連して特定の特徴、構造、または特性が記載されている場合には、その特徴、構造、または特性は、明示的に記載されているかどうかにかかわらず他の態様の特徴、構造、または特性と関連して用いられてもよい。
【0048】
本明細書において用いる「約」という用語は表記の数の±10%を含む。よって「約10」とは9~11を意味する。
【0049】
本明細書において用いるように、「at%」とは、以下の式を用いて原子数に基づいて計算される原子百分率を意味する:
原子%(at%)=100×((1成分の原子数)/(全成分の原子数)。
原子百分率はまた、以下の式を用いてモル数に基づいて計算し得る。
原子%(at%)=100×((1成分のモル数)/(全成分のモル数))。
【0050】
本明細書において用いるように、「電子パーコレーション」とは、材料を通じた電子の輸送を意味する。ストロンチウム鉄コバルトモリブデン酸化物などの単一の材料を通じて電子がパーコレートする場合では、電子パーコレーションとは、その材料のみを用いて電子が層を通る経路が存在することを意味する。例えば、複合材料が第1材料および第2材料を有し、電子が第1材料を通じてパーコレートするのであれば、これは電子が複合材料を通じて移動する際に第2材料を通過する必要がないことを意味する。
【0051】
本明細書において用いるように、「作動温度」とは、定常状態動作時の燃料電池の作動温度を意味する。好ましくは、燃料電池の作動温度は、燃料電池を形成するために用いられた燃料電池の構造および材料、すなわち、アノード層、電解質層、カソード層などの材料に基づく最も効率的な燃料電池動作をもたらす最適な作動温度である。
【0052】
本明細書において用いるように、「還元」または「還元する」とは、還元温度にて、H2雰囲気、H2および窒素雰囲気、または他の不活性ガス雰囲気などの酸素分圧が低い還元性雰囲気の存在下で、アノード層などの材料から酸素を除去するプロセスを意味する。
【0053】
固体酸化物燃料電池の基本的な動作は、米国特許第9,525,179号に記載されている。空気孔を通じてシステムに空気が流れ込む。空気がカソード層を通過するにつれて酸素原子がカソード層内で還元されて、電解質層に向けて流れる酸素イオン(O2-)を生成する。酸素イオンは、電解質層を通じてアノード層に進み、次いでアノード層で水素ガスと反応する。アノード層での酸素イオンと水素ガスとの間の反応は、H2Oおよび電子(e-)を生成する。これらの電子は、アノード層から電子回路に流れ、カソード層に戻る。電子回路は、電子の流れを用いて装置に電力を供給し、カソード層は、電子を用いて酸素原子を還元し、プロセスをまた最初からやり直す。燃料電池システムの化学反応は、以下のように表し得る:
アノード反応:2H2+2O2-→2H20+4e-
カソード反応:02+4e-→2O2-
電池反応全体:2H2+O2→2H2O。
【0054】
いくつかの態様では、本発明は、下記式(I)
SrFexCo((1-x)/2)Mo((1-x)/2)O3±δ (I)
の酸化物組成物を提供し、
式中、
xは約0.1~0.5であり;かつ
δは約0~1.5である。
【0055】
金属間の比は、原子百分率(at%)として測定される。
【0056】
いくつかの態様では、xは約0.1~0.5、約0.1~0.4、約0.1~0.3、約0.1~0.2、約0.2~0.5、約0.2~0.4、約0.2~0.3、約0.3~0.5、約0.3~0.4、または約0.4~0.5である。いくつかの態様では、xは約0.2である。いくつかの態様では、xは約0.1である。
【0057】
上記の組成物中の変数δは、組成物中の酸素の欠乏および/または過剰を表す。δの値は、温度ならびに組成物中の鉄、コバルト、およびモリブデンの酸化状態に依存する。加えて、δの値は、雰囲気中およびアノード自体内の酸素の分圧に応じて異なる場合がある。いくつかの態様では、δは約0~1.5、約0~1、約0~0.5、約0.5~1.5、または約1.0~1.5である。
【0058】
Sr、Fe、Co、Mo、およびOについての測定された原子比は、理論比とは異なる場合がある。
【0059】
いくつかの態様では、本発明は、
(a)カソード層と;
(b)電解質層と;
(c)ストロンチウム鉄コバルトモリブデン(SFCM)酸化物組成物を含むアノード層と
を含む固体酸化物燃料電池(SOFM)を提供する。
【0060】
いくつかの態様では、SOFCはカソード層を含む。いくつかの態様では、カソード層に用い得る材料は、(1)ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(SSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、およびランタンストロンチウムマンガネート(LSM)からなる群より選択される材料と;(2)イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、ガドリニアドープセリア(GDC)、サマリアドープセリア(SDC)、サマリア-ネオジムドープセリア(SNDC)、エルビア安定化ビスマス酸化物(ESB)、ジスプロシウムタングステン安定化ビスマス酸化物(DWSB)、イットリア安定化ビスマス酸化物(YSB)、ならびにストロンチウムおよびマグネシウムドープランタンガレート(LSGM)からなる群より選択される材料とを有する複合材料を非限定的に含む。いくつかの態様では、カソード層に用いられる材料はSSC-GDCを含む。
【0061】
いくつかの態様では、カソード層は、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(SSCF)、ランタンストロンチウムマンガネート(LSM)からなる群より選択される単一の材料から構成されてもよい。別の態様では、カソード層は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、ガドリニアドープセリア(GDC)、サマリアドープセリア(SDC)、サマリア-ネオジムドープセリア(SNDC)、エルビア安定化ビスマス酸化物(ESB)、ジスプロシウムタングステン安定化ビスマス酸化物(DWSB)、イットリア安定化ビスマス酸化物(YSB)、ならびにストロンチウムおよびマグネシウムドープランタンガレート(LSGM)を含んでもよい。
【0062】
いくつかの態様では、SOFCは電解質層を含む。いくつかの態様では、電解質層に用い得る材料は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、ガドリニアドープセリア(GDC)、サマリアドープセリア(SDC)、サマリア-ネオジムドープセリア(SNDC)、エルビア安定化ビスマス酸化物(ESB)、イットリア安定化ビスマス酸化物(YSB)、ストロンチウムおよびマグネシウムドープランタンガレート(LSGM)、ならびにこれらの組み合わせを非限定的に含む。いくつかの態様における電解質層はまた、複数のドーパントおよび安定剤を含んでもよい。いくつかの態様では、電解質層はGDCを含む。
【0063】
いくつかの態様では、SOFCはアノード層を含む。いくつかの態様では、アノード層は酸化物組成物を含む。いくつかの態様では、アノード層は、ストロンチウム鉄コバルトモリブデン酸化物(SFCM)の様々な組成物を含む。SFCM組成物は、中温型および低温型SOFCと適合性があり、高い伝導度、酸化還元安定性、ならびに炭化水素および硫黄含有燃料との適合性を提供することが分かっている。さらに、これらの材料は、従来のNi系酸化物アノード材料に伴う欠点を回避する。
【0064】
SFCM材料は、低温で還元された場合に高い電子伝導度を有する。低温でアノード層を還元できることは、温度に敏感な場合がある燃料電池内の他の層への損傷を低減する。そのような温度に敏感な層は、電解質層および/またはカソード層を含む場合がある。いくつかの態様によれば、SFCMアノード材料は、SOFCの作動温度と同様の温度で還元された場合に高い伝導度を有する。SOFCの作動温度と同様の温度で材料が還元され得るのであれば、アノード層はインサイチュで還元され得、SOFCの製造時に別個の還元操作が不要であることを意味する。いくつかの態様では、アノード材料は850℃未満の温度で還元された場合に高い伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード材料は650℃未満の温度で還元された場合に高い伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード材料はインサイチュで還元される。
【0065】
いくつかの態様では、アノード層の結晶構造はペロブスカイトである。いくつかの態様では、アノード層は酸化物材料のみを含む。
【0066】
いくつかの態様では、アノード層は、900℃より低い、850℃より低い、650℃より低い、600℃より低い、450℃より低い、または400℃より低い温度で高い伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード層は、350℃~900℃、350℃~850℃、350℃~650℃、350℃~600℃、350℃~450℃、350℃~400℃、400℃~900℃、400℃~850℃、400℃~650℃、400℃~600℃、400℃~450℃、450℃~900℃、450℃~650℃、450℃~600℃、600℃~900℃、600℃~850℃、600℃~650℃、650℃~900℃、650℃~850℃、または850℃~950℃の温度で高い伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード層は650℃より低い温度で高い伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード層は600℃より低い温度で高い伝導度を有する。
【0067】
いくつかの態様では、アノード層は、850℃未満の温度で測定された場合に少なくとも10S/cmの伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード層は、650℃未満の温度で測定された場合に少なくとも10S/cmの伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード層は、850℃未満の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cm、10S/cm~50S/cm、10S/cm~40S/cm、10S/cm~35S/cm、10S/cm~30S/cm、30S/cm~100S/cm、30s/cm~50S/cm、30S/cm~40S/cm、30S/cm~35S/cm、35S/cm~100S/cm、35S/cm~50S/cm、35S/cm~40S/cm、40S/cm~100S/cm、40S/cm~50S/cm、または50S/cm~100S/cmの伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード層は、650℃未満の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cm、10S/cm~50S/cm、10S/cm~40S/cm、10S/cm~35S/cm、10S/cm~30S/cm、30S/cm~100S/cm、30s/cm~50S/cm、30S/cm~40S/cm、30S/cm~35S/cm、35S/cm~100S/cm、35S/cm~50S/cm、35S/cm~40S/cm、40S/cm~100S/cm、40S/cm~50S/cm、または50S/cm~100S/cmの伝導度を有する。
【0068】
いくつかの態様では、アノード層は、850℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cm、10S/cm~50S/cm、10S/cm~40S/cm、10S/cm~35S/cm、10S/cm~30S/cm、30S/cm~100S/cm、30s/cm~50S/cm、30S/cm~40S/cm、30S/cm~35S/cm、35S/cm~100S/cm、35S/cm~50S/cm、35S/cm~40S/cm、40S/cm~100S/cm、40S/cm~50S/cm、または50S/cm~100S/cmの伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード層は、650℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cm、10S/cm~50S/cm、10S/cm~40S/cm、10S/cm~35S/cm、10S/cm~30S/cm、30S/cm~100S/cm、30s/cm~50S/cm、30S/cm~40S/cm、30S/cm~35S/cm、35S/cm~100S/cm、35S/cm~50S/cm、35S/cm~40S/cm、40S/cm~100S/cm、40S/cm~50S/cm、または50S/cm~100S/cmの伝導度を有する。いくつかの態様では、アノード層は、500℃の温度で測定された場合に10S/cm~100S/cm、10S/cm~50S/cm、10S/cm~40S/cm、10S/cm~35S/cm、10S/cm~30S/cm、30S/cm~100S/cm、30s/cm~50S/cm、30S/cm~40S/cm、30S/cm~35S/cm、35S/cm~100S/cm、35S/cm~50S/cm、35S/cm~40S/cm、40S/cm~100S/cm、40S/cm~50S/cm、または50S/cm~100S/cmの伝導度を有する。
【0069】
いくつかの態様では、アノード層は式1のSFCMを含む。いくつかの態様では、アノード層は、SrFe0.1Co0.45Mo0.45O3、SrFe0.2Co0.4Mo0.4O3、SrFe0.34Co0.33Mo0.33O3、およびSrFe0.5Co0.25Mo0.25O3からなる群より選択されるSFCMを含む。いくつかの態様では、アノード層はSrFe0.2Co0.4Mo0.4O3を含む。いくつかの態様では、アノード層はSrFe0.1Co0.45Mo0.45O3を含む。
【0070】
図2Aおよび
図2Bは、発明に係る例示的な燃料電池を示す。
図2Aに示すように、いくつかの態様では、燃料電池は、カソード層と、電解質二重層と、アノードとを含む。
図2Bに示すように、いくつかの態様では、燃料電池は、カソード層と、カソード機能層と、電解質層と、アノード層とを含む。
【0071】
いくつかの態様では、SOFCはカソード機能層を含む。いくつかの態様では、カソード機能層はカソード層の性能を向上させる。いくつかの態様では、電解質層上に配置されるカソード機能層に用い得る材料は、La0.65Sr0.5Co2O5(LSM)、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ(LSCF)、La0.8Sr0.2Cu0.9Fe0.1O2.5(LSCuF)、La0.7Sr0.3CoO3(LSC)、Sm0.5Sr0.5CoO3(SSC)、SmBa0.5Sr0.5Co2O5(SBSC)、GdSrCo2O5(GSC)、LaBaCo205(LBC)、YBaCo2O5(YBC)、Nd1.8Ce0.2CuO4(NCC)、La0.8Sr0.2Co0.3Mn0.1Fe0.6O3(LSCFM)、La0.98Ni0.6Fe0.4O3(LNF)、La1.2Sr0.8NiO4(LSN)、La0.7Sr0.3FeO3(LSF)、La2Ni0.6Cu0.4O4(LNC)、銀、およびこれらの複合体を非限定的に含む。上記の化合物はそれらの化学量論比で列挙されているが、当業者には認識されるように原子比はわずかに異なる場合がある。さらに、これらの化合物のいくつかは高い焼成温度を要する場合があるが、中温型および低温型固体酸化物燃料電池での使用向けにこれらの材料の焼成温度を下げるために改質剤を用いてもよいと認識される。
【0072】
いくつかの態様では、SOFCはアノード機能層を含む。アノード機能層は、比表面積を大きくするためにより微細な粒径を備えた別個のアノード層であり、これによってアノード層と電解質層との界面での電気化学反応速度が増加する。いくつかの態様では、アノード機能層は、残りのアノード層よりも多孔性が低い。これは、粒子分布および/または粒子/溶媒/バインダー比を制御することによって達成されてもよい。いくつかの態様では、アノード機能層は、アノード層自体と同じ材料で作製される。いくつかの態様では、アノード層は、Ni-GDC、Ni-ペロブスカイトなどのアノード層自体とは異なる材料、または異なる金属でNiが置換された同様の材料で作製される。
【0073】
いくつかの態様では、SOFCはまた、SOFCの一部としてのSFCMの機能性を維持しつつSFCMからの移動性ドーパント材料、例えば、鉄、コバルト、またはモリブデンの拡散をブロックするための構造を含んでもよい。電解質層への移動性ドーパント材料の拡散は、電解質層の伝導度を低下しSOFCの効率を低減し得る。鉄、コバルト、またはモリブデンの拡散はまた、電解質層の機械的強度を低下し、アノード層と電解質との間の高い界面抵抗の原因となる1つまたは複数の相の形成をもたらし得る。
【0074】
SFCMアノードを用いた固体酸化物燃料電池の製造
いくつかの態様では、本発明は、カソード層と、電解質層と、ストロンチウム鉄コバルトモリブデン組成物を含むアノード層とを含む固体酸化物燃料電池を作製する方法であって、
(a)カソード層、電解質層、およびアノード層を製造する工程;ならびに
(b)(a)において製造された層によって、完全な電池を形成する工程
を含む方法を提供する。
【0075】
いくつかの態様では、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、850℃を超えない。いくつかの態様では、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、650℃を超えない。いくつかの態様では、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、600℃を超えない。
【0076】
いくつかの態様では、本発明は、カソード層と、カソード機能層と、電解質層と、ストロンチウム鉄コバルトモリブデン組成物を含むアノード層とを含む固体酸化物燃料電池を作製する方法であって、
(a)カソード層、カソード機能層、電解質層、およびアノード層を製造する工程;ならびに
(b)(a)において製造された層によって、完全な電池を形成する工程
を含む方法を提供する。
【0077】
いくつかの態様では、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、850℃を超えない。いくつかの態様では、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、650℃を超えない。いくつかの態様では、後続のいかなる製造工程の温度も、固体酸化物燃料電池の作動温度も、600℃を超えない。
【0078】
いくつかの態様では、焼成後のセラミックアノードを通じた十分な燃料の拡散を促進するために、電子伝導性SFCMアノード材料が、熱分解可能な細孔形成剤と組み合わされた。熱分解可能な細孔形成剤と組み合わされたSFCMアノード材料で調製された完全な固体酸化物電解質燃料電池(SOFC)の断面走査電子顕微鏡(SEM)画像を
図7に示す。
【0079】
実施例1の方法は4つの層(アノード、電解質、カソード機能層、およびカソード)を製造することを記載しているが、完成した燃料電池は任意の数の追加の層を含んでもよいと認識される。例えば、限定されないが、完成した燃料電池は、金属コンタクト層および/または、2つの層(すなわち、電解質二重層)を有する電解質層を含んでもよい。
【0080】
いくつかの態様では、SFCMは、アノード層の製造前に還元される。アノード層の還元温度は、十分な酸素除去および伝導度を依然として達成しつつ、上記の範囲内でできるだけ低く保持されることが好ましい。低い還元温度が好ましいのは、燃料電池における他の層が温度に敏感な場合があり、例えば、原子の拡散、アニーリング、および/または他の層内または層間の相変化をもたらすからである。この微細構造を改変する高い還元温度は、アノード層の伝導度および燃料電池の動作効率に有害なことがある。いくつかの態様では、SFCMはアノード層の製造前に還元されない。
【0081】
いくつかの態様では、完成した燃料電池のアノード層は、完成した燃料電池では還元されておらず、代わりにインサイチュで還元される。換言すると、アノード層は、燃料電池の動作中に還元される。アノード層は、処理温度以下の温度で還元できるため、アノード層のインサイチュ還元が可能になる。完成した燃料電池のアノード層のインサイチュ還元は処理コストを下げる。
【0082】
アノード層を還元することに加えて、完成した燃料電池に対して追加の処理工程を実施してもよい。いくつかの態様では、追加の処理工程は850℃を超える温度では実施されない。いくつかの態様では、追加の処理工程は650℃を超える温度では実施されない。いくつかの態様では、追加の処理工程は600℃を超える温度では実施されない。追加処理の温度は、0℃もの低い温度を含む任意の適切な温度で実施されてもよい。
【0083】
いくつかの態様では、SOFCの作動温度は850℃を超えない。いくつかの態様では、SOFCの作動温度は650℃を超えない。いくつかの態様では、SOFCの作動温度はSOFCの効率的な性能を確保するために少なくとも350℃である。いくつかの態様では、SOFCの作動温度は、350℃~850℃、350℃~650℃、350℃~550℃、350℃~450℃、450℃~850℃、450℃~650℃、450℃~550℃、550℃~850℃、550℃~650℃、または650℃~850℃である。いくつかの態様では、SOFCの作動温度は450℃~650℃である。
【0084】
電力密度は、単位体積当たりの電力量(エネルギー伝達の時間的割合)である。いくつかの態様では、SOFCの電力密度は高い。いくつかの態様では、SOFCの高ピーク電力密度は、450℃で測定された場合に300mW/cm2~800mW/cm2、300mW/cm2~600mW/cm2、300mW/cm2~500mW/cm2、500mW/cm2~800mW/cm2、500mW/cm2~600mW/cm2、または600mW/cm2~800mW/cm2である。いくつかの態様では、SOFCの高ピーク電力密度は、500℃で測定された場合に300mW/cm2~800mW/cm2、300mW/cm2~600mW/cm2、300mW/cm2~500mW/cm2、500mW/cm2~800mW/cm2、500mW/cm2~600mW/cm2、または600mW/cm2~800mW/cm2である。いくつかの態様では、SOFCの高ピーク電力密度は、650℃で測定された場合に300mW/cm2~800mW/cm2、300mW/cm2~600mW/cm2、300mW/cm2~500mW/cm2、500mW/cm2~800mW/cm2、500mW/cm2~600mW/cm2、または600mW/cm2~800mW/cm2である。
【0085】
特定の態様の上の記載は、当分野の技術範囲内の知識を適用することによって、過度の実験なく、本発明の基本的な概念から逸脱せずに様々な用途向けにそのような特定の態様を他の者が容易に変更しかつ/または適合し得るように発明の基本的な性質を十分に明らかにするであろう。したがって、そのような適合および変更は、本明細書において示される教示および指針に基づき、開示された態様の均等物の意味および範囲内であることを意図している。本明細書における表現または用語は、本明細書の用語または表現が教示および指針に照らして当業者によって解釈されるように、限定ではなく説明の目的のためであることを理解されたい。
【実施例】
【0086】
本明細書において記載の製造物および方法の以下の実施例は例示的であり非限定的なものである。本開示に鑑みて当業者には自明である、当分野で通常遭遇する様々な条件、配合、および他のパラメーターの適切な変更および適合は、発明の趣旨および範囲に包含される。
【0087】
実施例1
Co対Mo比が1:1であるSrFe0.1Co0.45Mo0.45O3、SrFe0.2Co0.4Mo0.4O3、SrFe0.34Co0.33Mo0.33O3、およびSrFe0.5Co0.25Mo0.25O3の組成物を、クエン酸を用いて改変したグリシン硝酸塩燃焼法を用いて合成した。化学量論量の硝酸ストロンチウム(Alfa Aesar 99.0%)、硝酸鉄九水和物(Sigma Aldrich 99.95%)、硝酸コバルト六水和物(Alfa Aesar 98%~102%)および(パラ)モリブデン酸アンモニウム四水和物(Alfa Aesar 99%)を別々に脱イオン水に溶解した。グリシン(グリシン対硝酸塩比が1:1)を脱イオン水に溶解し、続いてクエン酸(グリシン20wt%)を加えてpHをほぼ2に維持した。ストロンチウム塩溶液をグリシン-クエン酸混合物に注ぎ、ホットプレート上で加熱して溶媒を蒸発させて粘性のゲルを形成した。ホットプレートの温度を自然発火が起きる350℃まで上昇させた。このより高い温度では、金属硝酸塩は金属酸化物および窒素の酸化物まで分解する(例えば、Singh, K., et al., Indian J. Eng. Mater. Sci. 13:525-530 (2006)を参照されたい)。
【0088】
反応の残渣を粉砕し1100℃で4時間焼成して粉末を得た。SFCMアノード支持SOFCはテープキャスティング手法で製造した。テープキャスティング手法は、大面積の薄く平坦なセラミックシートまたは膜用の周知のコロイド成形手法である(例えば、J. A. Lewis, J. Am. Chem. Soc. 83:2341-2359 (2000)を参照されたい)。SrFe0.2Co0.4Mo0.4O3(SFCM#3)および2%コバルトドープGDC(重量比2:1)を混合することによってアノード骨格(scaffold)を調製した。造孔剤としてのポリ(メタクリル酸メチル)(Soken Chemical & Engineering C0., Ltd, Tokyo, Japan)を加えて40vol%の初期空隙率を得た。ポリビニルブチラール、フタル酸ブチルベンジル、および魚油をそれぞれバインダー、可塑剤、および分散剤として用いた。SFCMテープキャスティング法には、エタノールを溶媒として用いた。調製した粗テープ(すなわち、焼成前)および25~30μmの粗GDC電解質テープを一つに積層し1200℃で4時間共焼成した。
【0089】
半電池の電解質表面にまずカソード機能層(CFL)として5~7μmのCoドープGDCを堆積させた。CFLは、GDC粉末と2mol%硝酸コバルトとを一晩エタノール中でボールミル粉砕して調製した。続いて、400℃で1時間エタノールを蒸発させ熱処理した。混合粉末をペーストにし半電池に刷毛塗りした。半電池をオーブン中70℃で1時間乾燥させた。続いて、Sr
0.5Sm
0.5CoO
3-δ-GDC(SSC-GDC)カソードを塗布し、集合体を950℃で2時間共焼成した。両方の電極にてAg金属を集電体として用いた。SFCM系アノード支持電池の概略図を
図2に示す。適量のNi-GDC(ほぼ10wt%の充填量)をアノードに浸潤させた。各浸潤間隔中に400℃のバーンアウトプロセスを実施し、最終熱処理を800℃で1時間実施した。
【0090】
典型的には、セラミックアノード系SOFCは、低温では伝導度が低すぎるかまたは触媒活性が十分ではないので高い作動温度を要する。
図4に示すように、SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3(SFCM#3)およびSrFe
0.1Co
0.45Mo
0.45O
3(SFCM#2)系アノード支持電池は、低温で高い電子伝導度(650℃の測定で30S/cm)を有することを示し、従来のNi-GDCサーメット支持電池よりも良好な高い性能を示した。
図5に示すように、SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3を含むアノード層を有するSOFCでは、500℃にて460mW/cm
2および450℃にて300mW/cm
2という高ピーク電力密度(PD)が、それぞれ1.0A/cm
2および0.6A/cm
2の電流密度で達成された。
【0091】
SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3を含むアノード層を有するSOFCの電気化学インピーダンス測定のナイキストプロットを
図6に示す。電解質とカソードとの界面にCFLを組み込みカソード性能を向上させた。SrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3自体は、低温での水素酸化のための触媒活性材料ではない。よって、Ni-GDCをSFCM骨格に浸潤させ、低温熱処理プロセスでナノ形態を保持した。試験後のSrFe
0.2Co
0.4Mo
0.4O
3アノード支持電池のSEM顕微鏡写真を
図7~10に示す。多孔性SFCM/GDC電解質/CFL/カソードを示す断面SEM画像を
図7に示す。Ni-GDCナノ粒子を表面に堆積させたSFCM微細構造を示す断面SEM画像を
図8~10に示す。
【0092】
これまで本発明を十分に記載したが、発明の範囲またはそのあらゆる態様に影響を及ぼすことなく条件、配合、および他のパラメーターの広範かつ同等な範囲内で同じことを実施し得ることが当業者には理解されるであろう。本明細書において引用した特許、特許出願、および出版物はすべて、それらの全体において参照により本明細書に全て組み入れられる。