(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】ビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置
(51)【国際特許分類】
C07D 311/72 20060101AFI20220719BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20220719BHJP
B01J 49/57 20170101ALI20220719BHJP
B01D 15/36 20060101ALI20220719BHJP
B01J 47/022 20170101ALI20220719BHJP
【FI】
C07D311/72 102
B01J41/05
B01J49/57
B01D15/36
B01J47/022
(21)【出願番号】P 2018568631
(86)(22)【出願日】2018-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2018005526
(87)【国際公開番号】W WO2018151261
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2017028299
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518446581
【氏名又は名称】ファイトケミカルプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】北川 尚美
(72)【発明者】
【氏名】廣森 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】細川 明佳
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智也
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-190989(JP,A)
【文献】特開2016-216456(JP,A)
【文献】特開平08-059647(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01295386(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
B01J
B01D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油に含まれるビタミンE類を回収するビタミンE類の製造方法であって、
強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムに、前記原料油を供給することにより、前記直列カラムの少なくとも1つのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に、前記原料油に含まれるビタミンE類を吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程によりビタミンE類が吸着されたカラムに脱離溶液を供給し、そのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から前記ビタミンE類を脱離させる脱離工程とを
有し、
前記脱離工程は、前記直列カラムの前記原料油が最初に流れるカラム以外のカラムのうちの、少なくとも1つのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から、前記ビタミンE類を脱離させることを
特徴とするビタミンE類の製造方法。
【請求項2】
原料油に含まれるビタミンE類を回収するビタミンE類の製造方法であって、
強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムに、前記原料油を供給することにより、前記直列カラムの少なくとも1つのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に、前記原料油に含まれるビタミンE類を吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程によりビタミンE類が吸着されたカラムに脱離溶液を供給し、そのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から前記ビタミンE類を脱離させる脱離工程とを
有し、
前記脱離工程は、前記直列カラムのうち、少なくとも前記原料油が最後に流れるカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から、前記ビタミンE類を脱離させることを
特徴とするビタミンE類の製造方法。
【請求項3】
原料油に含まれるビタミンE類を回収するビタミンE類の製造方法であって、
強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムに、前記原料油を供給することにより、前記直列カラムの少なくとも1つのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に、前記原料油に含まれるビタミンE類を吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程によりビタミンE類が吸着されたカラムに脱離溶液を供給し、そのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から前記ビタミンE類を脱離させる脱離工程とを
有し、
前記直列カラムは、前記原料油が流れる方向に沿った各カラムの長さが同じであり、カラムの数が、前記原料油に含まれる遊離脂肪酸およびビタミンE類の濃度を用いて、
カラムの数=(遊離脂肪酸濃度+ビタミンE類濃度)/ビタミンE類濃度
[小数点以下を四捨五入または切り捨て]
であり、
前記脱離工程は、前記直列カラムのうち、前記原料油が最後に流れるカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から、前記ビタミンE類を脱離させることを
特徴とするビタミンE類の製造方法。
【請求項4】
原料油に含まれるビタミンE類を回収するビタミンE類の製造方法であって、
強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムに、前記原料油を供給することにより、前記直列カラムの少なくとも1つのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に、前記原料油に含まれるビタミンE類を吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程によりビタミンE類が吸着されたカラムに脱離溶液を供給し、そのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から前記ビタミンE類を脱離させる脱離工程とを
有し、
前記直列カラムは、2つのカラムを有し、各カラムの長さが、前記原料油が最初に流れるカラムの長さ/前記原料油が最後に流れるカラムの長さの値と、前記原料油に含まれる遊離脂肪酸の濃度/前記原料油に含まれるビタミンE類の濃度の値とが同じ値になるよう設けられており、
前記脱離工程は、前記直列カラムのうち、前記原料油が最後に流れるカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から、前記ビタミンE類を脱離させることを
特徴とするビタミンE類の製造方法。
【請求項5】
原料油に含まれるビタミンE類を回収するビタミンE類の製造方法であって、
強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムに、前記原料油を供給することにより、前記直列カラムの少なくとも1つのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に、前記原料油に含まれるビタミンE類を吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程によりビタミンE類が吸着されたカラムに脱離溶液を供給し、そのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から前記ビタミンE類を脱離させる脱離工程
と、
前記吸着工程の間、前記直列カラムから流出する流出液に含まれるビタミンE類の濃度を測定する測定工程とを有し、
前記脱離工程は、前記測定工程の測定結果に基づいて選択されたカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から、前記ビタミンE類を脱離させることを
特徴とするビタミンE類の製造方法。
【請求項6】
前記吸着工程の前に、前記原料油に含まれる遊離脂肪酸を脂肪酸エステルに変換させる変換工程を有することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載のビタミンE類の製造方法。
【請求項7】
前記変換工程は、陽イオン交換体を用いて前記脂肪酸エステルへの変換を行うことを特徴とする請求項
6記載のビタミンE類の製造方法。
【請求項8】
前記吸着工程の間、前記直列カラムから流出する流出液に含まれるビタミンE類の濃度を測定し、該濃度が前記原料油に含まれるビタミンE類の濃度に到達する前に、前記直列カラムへの前記原料油の供給を停止する停止工程を有することを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載のビタミンE類の製造方法。
【請求項9】
原料油に含まれるビタミンE類を回収するためのビタミンE類製造装置であって、
強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムと、
前記直列カラムに前記原料油を供給可能に設けられた原料油供給部と、
前記強塩基性陰イオン交換体からビタミンE類を脱離可能な脱離溶液を、
前記直列カラムの前記原料油が最初に流れるカラム以外のカラムのうちの、少なくとも1つのカラムに供給可能に設けられた脱離溶液供給部とを有し、
前記原料油供給部により前記直列カラムに前記原料油を供給したとき、その前記原料油に含まれるビタミンE類が、少なくとも前記脱離溶液供給部により前記脱離溶液が供給されるカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に吸着されるよう構成されていることを
特徴とするビタミンE類製造装置。
【請求項10】
原料油に含まれるビタミンE類を回収するためのビタミンE類製造装置であって、
強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムと、
前記直列カラムに前記原料油を供給可能に設けられた原料油供給部と、
前記強塩基性陰イオン交換体からビタミンE類を脱離可能な脱離溶液を、
前記直列カラムのうち、少なくとも前記原料油が最後に流れるカラムに供給可能に設けられた脱離溶液供給部とを有し、
前記原料油供給部により前記直列カラムに前記原料油を供給したとき、その前記原料油に含まれるビタミンE類が、少なくとも前記脱離溶液供給部により前記脱離溶液が供給されるカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に吸着されるよう構成されていることを
特徴とするビタミンE類製造装置。
【請求項11】
前記原料油供給部と前記直列カラムとの間に配置され、前記原料油供給部から供給される前記原料油に含まれる遊離脂肪酸を脂肪酸エステルに変換した後、前記直列カラムに供給するよう設けられた脂肪酸エステル変換部を更に有することを特徴とする請求項
9または10記載のビタミンE類製造装置。
【請求項12】
前記脂肪酸エステル変換部は、前記遊離脂肪酸を前記脂肪酸エステルに変換可能な陽イオン交換体を有することを特徴とする請求項
11記載のビタミンE類製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンE類(トコトリエノールとトコフェロール)は、高い抗酸化活性を有する健康機能物質として注目されている。特に、トコトリエノールは、トコフェロール(通常のビタミンE)と基本構造が等しく、側鎖に3つの二重結合を有するため、トコフェロールの約50倍の高い抗酸化活性を持つ(例えば、非特許文献1参照)。最近では、トコトリエノールの動脈硬化改善作用や抗ガン作用など、トコフェロールにはない薬理活性が報告されており(例えば、非特許文献2参照)、医薬品や食品分野での積極的な利用が期待されている。
【0003】
しかし、トコフェロールが大豆や菜種、ひまわり、コーンなど種々の植物油に広く含まれているのに対し、トコトリエノールは、パームや米ぬかなど一部の植物油に極低濃度で含まれている。また、トコトリエノールは、側鎖の二重結合のために熱による酸化分解を生じやすく、容易に活性を失ってしまう。
【0004】
これらビタミンE類の製造原料油には、食用油製造時の脱臭工程で排出される脱臭留出物(スカム油等)が用いられる。脱臭留出物中のビタミンE類含有量は、いずれも原料油の数十倍と高くなっているものの、脱臭留出物の主成分は遊離脂肪酸であり、その他にトリグリセリドやステロール、種々の炭化水素も含まれている。
【0005】
そのため、どちらのビタミンE類を対象とした場合でも、原料からビタミンE類を含む画分を分離回収することでビタミンE類濃縮液を製造する工程と、濃縮液中の不純物を分離除去することでビタミンE類を高純度化する工程とが必要となる。後者の高純度化のための分離工程に関しては、種々のクロマト分離法が提案されており、必要に応じて、トコフェロールとトコトリエノールのα、β、γ、δ異性体を分離することが可能である。ただし、クロマト分離法特有の課題として、多量の溶離液が必要であることや、溶離時間が長いことから、生産コストおよび廃棄液の環境負荷が増大するという問題がある。
【0006】
また、前者の濃縮液の製造工程に関しては、成分の沸点の違いを利用した多段分子蒸留法が適用されており、トコフェロールを対象とした場合、既に工業化に至っている(例えば、特許文献1乃至5参照)。しかしながら、従来の濃縮液の製造工程では、熱分解損失が大きいことや、遊離脂肪酸やステロールなどの分離性状の近い成分の混入が多いことから、濃縮液中のトコフェロールの回収率や純度はいずれも50質量%程度であり、コスト高の問題があった。
【0007】
さらに、この蒸留法を、トコトリエノールを含む米ぬかやパーム由来の脱臭留出物に適用すると、トコトリエノールの熱安定性がより低いため、その回収率や純度は数十質量%と非常に低くなるという問題があった。
【0008】
そこで、この問題を解決するために、本発明者等は、50℃大気圧下の温和な条件で、原料に含まれるビタミンE類を強塩基性陰イオン交換体に吸着させ、その後、当該イオン交換体から脱離させることで、ビタミンE類濃縮液を製造する方法を提供している(例えば、特許文献6参照)。この方法では、高温での蒸留操作を必要としないため、トコトリエノール等のビタミンE類の熱分解を防止することができ、ビタミンE類の回収率や純度を高めることができる。なお、強塩基性陰イオン交換体は、様々なものが開発されており(例えば、特許文献7または8参照)、この方法では、任意のものを使用することができる。
【0009】
さらに、本発明者等は、得られたビタミンE類濃縮液を高純度化する工程として、得られたビタミンE類濃縮液を弱塩基性陰イオン交換体に接触させることで、不純物となる遊離脂肪酸を当該イオン交換体に吸着させて濃縮液中から除去し、ビタミンE類を高純度化する方法を提供している(例えば、特許文献9参照)。また、この方法では、弱塩基性陰イオン交換体を繰り返し利用するためには、吸着した遊離脂肪酸を脱離させ、その後、再び吸着活性を付与するための再生操作が必要となるが、この手順も、本発明者等により開発されている(例えば、特許文献10または11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許公表平10-508605号公報
【文献】特開2002-194381号公報
【文献】特開2005-536191号公報
【文献】特開2007-521382号公報
【文献】特開2007-176801号公報
【文献】特許第5700188号公報
【文献】特開2006-104316号公報
【文献】特開2007-297611号公報
【文献】特開2016-216456号公報
【文献】特開2007-014871号公報
【文献】特開2016-59833号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】T. Eitsuka, K. Nakagawa, T. Miyazawa, “Down-regulation of telomerase activity in DLD-1 human colorectal adenocarcinoma cells by tocotrienol”, Biochem Biophys. Res. Commun., 2006, 348, 170
【文献】N. Shibasaki-Kitakawa, H. Honda, H. Kuribayashi, T. Toda, T. Fukumura, and T. Yonemoto, ”Biodiesel production using anion ion-exchange resin as heterogeneous catalyst”, Bioresource Technol., 2007, 98, 416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献6の方法で製造されたビタミンE類濃縮液には、不純物となる遊離脂肪酸がまだ比較的多く含まれているため、そのビタミンE類濃縮液に対して、特許文献9~11の方法で高純度化を行うと、弱塩基性陰イオン交換体を再生するための溶液が大量に必要になると共に、その再生に要する時間もかかり、ビタミンE類の製造効率が低下してしまう。
【0013】
また、ビタミンE類濃縮液に残存する遊離脂肪酸濃度は、濃縮液の製造工程で用いる原料油中のビタミンE類の濃度と遊離脂肪酸の濃度とに依存し、原料の由来や前処理の遊離脂肪酸の除去操作に依存して大きく変動する。特に、パーム由来の原料を用いた場合、ビタミンE類濃縮液に多量の遊離脂肪酸が残存してしまう。このため、これを弱塩基性陰イオン交換体に吸着させて除去するには、多量の交換体が必要となり、コストが嵩み、産業利用における非現実的なプロセスとなってしまう。
【0014】
このような高純度化の工程でのコストの低減や製造効率の低下を防ぐためには、その前段のビタミンE類濃縮液の製造工程で、ビタミンE類の純度ができるだけ高いビタミンE類濃縮液を製造しておくことが望ましく、ビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度をさらに高める方法や装置の開発が期待されていた。
【0015】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、ビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度を高めることができるビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ビタミンE類よりも高い酸性度を有する遊離脂肪酸が、強塩基性陰イオン交換樹脂に対してビタミンE類よりも吸着しやすい性質を利用し、ビタミンE類を濃縮しつつ強塩基性陰イオン交換樹脂から押し出していくことで、ビタミンE類の強塩基性陰イオン交換樹脂への吸着領域が、カラム内を移動していくことを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明に係るビタミンE類の製造方法は、原料油に含まれるビタミンE類を回収するビタミンE類の製造方法であって、強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムに、前記原料油を供給することにより、前記直列カラムの少なくとも1つのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に、前記原料油に含まれるビタミンE類を吸着させる吸着工程と、前記吸着工程によりビタミンE類が吸着されたカラムに脱離溶液を供給し、そのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から前記ビタミンE類を脱離させる脱離工程とを有し、前記脱離工程は、前記直列カラムの前記原料油が最初に流れるカラム以外のカラムのうちの、少なくとも1つのカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から、前記ビタミンE類を脱離させることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るビタミンE類製造装置は、原料油に含まれるビタミンE類を回収するためのビタミンE類製造装置であって、強塩基性陰イオン交換体を含むカラムが2つ以上直列に連結された直列カラムと、前記直列カラムに前記原料油を供給可能に設けられた原料油供給部と、前記強塩基性陰イオン交換体からビタミンE類を脱離可能な脱離溶液を、前記直列カラムの前記原料油が最初に流れるカラム以外のカラムのうちの、少なくとも1つのカラムに供給可能に設けられた脱離溶液供給部とを有し、前記原料油供給部により前記直列カラムに前記原料油を供給したとき、その前記原料油に含まれるビタミンE類が、少なくとも前記脱離溶液供給部により前記脱離溶液が供給されるカラムの前記強塩基性陰イオン交換体に吸着されるよう構成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るビタミンE類の製造方法は、本発明に係るビタミンE類製造装置により好適に実施される。本発明に係るビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置は、原料油を通過させた複数のカラムのうち、ビタミンE類が吸着された少なくとも1つのカラムの強塩基性陰イオン交換体からビタミンE類を脱離させて回収することにより、従来の1つのカラムのみで吸着および脱離を行うものと比べて、ビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度を高めることができる。特に、ビタミンE類の吸着量が最も多いカラムからビタミンE類を回収することにより、ビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度をさらに高めることができる。
【0020】
本発明に係るビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置で、原料油は、トコトリエノールやトコフェロール等のビタミンE類を含むものである限り、特に制限はなく、天然油(原油)、合成油、又はこれらの混合物でも良い。更に、これらの油類の一部を酸化、還元等の処理をして変性した変性油、並びに、これらの油を主成分とする油加工品であってもよい。また、食用油の精製工程で副生する脱臭留出物(スカム油)や脂肪酸油、ダーク油等、あるいは未処理の粗油(原油)であってもよい。更に、生産量の観点から、トコトリエノールを目的物とした場合、米ぬか及びパーム由来の油であり、トコフェロールを目的物とした場合、大豆や菜種由来の油であることが好ましい。また、原料油は、遊離脂肪酸を含んでいてもよいが、遊離脂肪酸を可能な限り除去していることが望ましい。
【0021】
なお、ビタミンE類には、α-、β-、及びδ-トコトリエノール並びにα-、β-、γ-、及びδ-トコフェロール等が含まれる。また、本明細書中で、高純度ビタミンE類とは、溶媒を除き、ビタミンE類と、ビタミンE類以外の不純物残存成分との合計重量(質量)に対するビタミンE類の含有率(質量%)が80質量%以上の純度を有するビタミンE類を言い、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに望ましくは質量95%以上の純度を有するビタミンE類を言う。
【0022】
本発明に係るビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置で、強塩基性陰イオン交換体は、特許文献7および8等に記載された既存のものであってもよいが、特に強塩基性陰イオン交換樹脂であることが好ましい。強塩基性陰イオン交換樹脂は、架橋度又は多孔度から分類すると、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型等が挙げられるが、表面積が大きいポーラス型、ハイポーラス型であることが好ましい。また、強塩基性陰イオン交換体は、市販品としては、例えば、ダイヤイオンPA-306(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA-306S(同)、ダイヤイオンPA-308(同)、ダイヤイオンHPA-25(同)ダウエックス1-X2(ダウケミカル社製)、アンバーライトIRA-45(オルガノ社製)、アンバーライトIRA-94(同)等であってもよい。また、強塩基性陰イオン交換体は、pKa9.8以下を満足する市販品として、例えば、ダイヤイオンSA20A(三菱化学社製)、ダイヤイオンSA21A(同)、並びに、多孔質型のII型強塩基陰イオン交換樹脂であるダイヤイオンPA408(同)、ダイヤイオンPA412(同)及びダイヤイオンPA418(同)等であってもよい。ここで、II型強塩基陰イオン交換樹脂とはジメチルエタノールアンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂を指す。
【0023】
ビタミンE類の吸着効率を高めるために、本発明に係るビタミンE類の製造方法で、吸着工程は、各カラム内の線速度が0.1~4.0cm/minの範囲になるよう、原料油を供給することが好ましい。本発明に係るビタミンE類製造装置で、原料油供給部は、各カラム内の線速度が0.1~4.0cm/minの範囲になるよう、原料油を供給可能に構成されていることが好ましい。
【0024】
また、ビタミンE類の脱離効率を高めるために、本発明に係るビタミンE類の製造方法で、脱離溶液は酸溶液から成り、脱離工程は、カラム内の線速度が0.1~4.0cm/minの範囲になるよう、脱離溶液を供給することが好ましい。本発明に係るビタミンE類製造装置で、脱離溶液は酸溶液から成り、脱離溶液供給部は、カラム内の線速度が0.1~4.0cm/minの範囲になるよう、脱離溶液を供給可能に構成されていることが好ましい。この場合、酸溶液としては、ギ酸、酢酸、クエン酸などの有機酸、もしくはその塩、又はそれらの混合物を使用することができる。特に、酸溶液として、酢酸又はクエン酸とエタノール等のアルコールとの混合溶液のような弱酸や弱酸塩溶液が好適である。
【0025】
なお、本発明に係るビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置で製造される高純度ビタミンE類中には、不純物として、例えば、ステロールやスクアレン等の遊離脂肪酸以外の物質が任意の量で含まれていても良い。これら物質には毒性がないため、ビタミンE類純度を更に高める目的以外では特に除去しなくてもよい。又、各工程で、エタノール等のアルコール及び/又は、ギ酸、酢酸及びクエン酸等の有機酸又はその塩から成る溶媒が使用されることが好ましい。
【0026】
また、原料油の成分によって、複数のカラムのうち、ビタミンE類が吸着されやすいカラムが変わるため、本発明に係るビタミンE類の製造方法で、脱離工程は、ビタミンE類が吸着されやすいカラムの強塩基性陰イオン交換体から、ビタミンE類を脱離させることが好ましい。本発明に係るビタミンE類製造装置で、脱離溶液供給部は、ビタミンE類が吸着されやすいカラムに、脱離溶液を供給可能に設けられていることが好ましい。
【0027】
本発明に係るビタミンE類の製造方法で、前記脱離工程は、前記直列カラムのうち、少なくとも前記原料油が最後に流れるカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から、前記ビタミンE類を脱離させてもよい。本発明に係るビタミンE類製造装置で、前記脱離溶液供給部は、前記直列カラムのうち、少なくとも前記原料油が最後に流れるカラムに、前記脱離溶液を供給可能に設けられていてもよい。これらの場合、原料油に含まれるビタミンE類よりも遊離脂肪酸の方が強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着しやすいため、原料油が最初に流れるカラムの強塩基性陰イオン交換体には、ビタミンE類が吸着されにくく、原料油が最後に流れるカラムの強塩基性陰イオン交換体には、ビタミンE類が吸着されやすい。このため、より高純度のビタミンE類濃縮液を得ることができる。
【0028】
また、直列カラムは、直列に連結されるカラムの数や、原料油が流れる方向に沿った各カラムの長さを、カラムに供給される原料油に含まれるビタミンE類と遊離脂肪酸との濃度比に応じて設計されていてもよい。例えば、原料油が最後に流れるカラムの強塩基性陰イオン交換体からビタミンE類を脱離させる場合には、直列に連結されるカラムの長さをいずれも同じとし、カラムの数=(遊離脂肪酸濃度+ビタミンE類濃度)/ビタミンE類濃度[小数点以下を四捨五入または切り捨て]としてもよい。あるいは、直列に連結されるカラムの数を2つとし、2つのカラムの長さの比(原料油が最初に流れるカラムの長さ/原料油が最後に流れるカラムの長さ)と、遊離脂肪酸とビタミンE類の濃度比(遊離脂肪酸濃度/ビタミンE類濃度)とが、概ね同じ値になるようにしてもよい。このように、直列に連結されるカラムの数やカラムの長さを適宜設計することで、原料油に含まれるビタミンE類を高純度で回収して、高純度のビタミンE類濃縮液を製造することができる。
【0029】
本発明に係るビタミンE類の製造方法は、脱離工程で脱離されたビタミンE類を含むビタミンE類濃縮液から、純度の高いビタミンE類を製造するための高純度化工程を有していてもよい。本発明に係るビタミンE類製造装置は、脱離溶液供給部により脱離溶液を供給されたカラムのうちの少なくとも1つのカラムに連結され、脱離溶液により脱離されたビタミンE類を含むビタミンE類濃縮液から、純度の高いビタミンE類を製造するための精製カラムを有していてもよい。この精製カラムは、弱塩基性陰イオン交換体を充填したものであることが好ましい。この場合、弱塩基性陰イオン交換体が、ビタミンE類と共に脱離する遊離脂肪酸を吸着して溶液中から除去するため、より効率的に高純度ビタミンE類を製造できる。高純度化工程や精製カラムでは、ビタミンE類の純度を高めることができるものであれば、いかなる方法を用いてもよいが、例えば、特許文献9~11に記載の方法を使用することができる。特許文献9~11に記載の方法を使用した場合には、高純度化工程や精製カラムの前段階で得られるビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度が高いため、弱塩基性陰イオン交換体の再生が容易になると共に、弱塩基性陰イオン交換体の数も少なくすることができる。これにより、コストの低減を図ることができ、ビタミンE類の製造効率を高めることもできる。なお、脱離溶液を複数のカラムに供給するときには、精製カラムは、脱離溶液が供給されるカラムに連結されていればよく、必ずしも脱離溶液供給部が連結されたカラムに連結されている必要はない。
【0030】
強塩基性陰イオン交換体には遊離脂肪酸も吸着されるため、遊離脂肪酸を多量に含む原料油を強塩基性陰イオン交換体に供給する場合には、遊離脂肪酸も強塩基性陰イオン交換体に吸着する。従って、原料油に含まれるビタミンE類を強塩基性陰イオン交換体に吸着させる前段階で、遊離脂肪酸を可能な限り除去しておくことが望ましい。その手段としては、中和反応で石鹸(固体)化して除去する方法、あるいは吸着不活性な脂肪酸エステルに変換(エステル化)する方法、などが用いられる。エステル化の手法としては、公知の手法から適宜選択することが出来る。その中でも、陽イオン交換体、特に強酸性陽イオン交換体により、原料油に含まれる遊離脂肪酸のエステル化を行なうことが好ましい。
【0031】
このことから、本発明に係るビタミンE類の製造方法は、前記吸着工程の前に、前記原料油に含まれる遊離脂肪酸を脂肪酸エステルに変換させる変換工程を有することが好ましい。特に、前記変換工程は、陽イオン交換体を用いて前記脂肪酸エステルへの変換を行うことが好ましい。本発明に係るビタミンE類製造装置は、前記原料油供給部と前記直列カラムとの間に配置され、前記原料油供給部から供給される前記原料油に含まれる遊離脂肪酸を脂肪酸エステルに変換した後、前記直列カラムに供給するよう設けられた脂肪酸エステル変換部を更に有することが好ましい。特に、前記脂肪酸エステル変換部は、前記遊離脂肪酸を前記脂肪酸エステルに変換可能な陽イオン交換体を有することが好ましい。
【0032】
その陽イオン交換体としては、例えば、ダイヤイオンPKシリーズ(三菱化学社製)、ダイヤイオンSKシリーズ(同)、ダウエックス50Wシリーズ(ダウケミカル社製)、アンバーリストシリーズ(オルガノ社製)、アンバーライトシリーズ(同)、アンバージェットシリーズ(同)、モノプラスS108(ランクセス社製)、モノプラスS108H(同)、モノプラスS112(同)、CNP80WS(同)、S1668(同)等のような公知の陽イオン樹脂を使用することが出来る。
【0033】
なお、原料油に含まれる遊離脂肪酸は、例えば、炭素数1~30から選択される炭素数を有する有機酸や、炭素数1~30から選択される炭素数を有する有機酸を少なくとも1種含んでいるものであり、代表的な例としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等である。
【0034】
本発明に係るビタミンE類の製造方法は、前記吸着工程の間、前記直列カラムから流出する流出液に含まれるビタミンE類の濃度を測定し、該濃度が前記原料油に含まれるビタミンE類の濃度に到達する前に、前記直列カラムへの前記原料油の供給を停止する停止工程を有していてもよい。この場合、ビタミンE類が検出された後に原料油の供給を停止することが好ましく、原料油のビタミンE類の濃度の1/2となるまでに停止することがより好ましい。
【0035】
また、この場合、原料油のビタミンE類または直列カラムから流出する流出液に含まれるビタミンE類濃度を測定する方法(手段)としては、例えば、蛍光検出器あるいは、UV検出器、蒸発光散乱検出器、質量分析計を備えた高速液体クロマトグラフ、水素炎イオン化検出器あるいは質量分析計を備えたガスクロマトグラフまたは薄層クロマトグラフを用いた手法が挙げられる。また、各カラムで吸着されたビタミンE類の量を推定するために、各カラムの出口から流出する液体に対して、それぞれオンラインでビタミンE類の濃度を測定することが好ましい。
【0036】
本発明に係るビタミンE類の製造方法は、前記吸着工程の間、前記直列カラムから流出する流出液に含まれるビタミンE類の濃度を測定する測定工程を有し、前記脱離工程は、前記測定工程の測定結果に基づいて選択されたカラムの前記強塩基性陰イオン交換体から、前記ビタミンE類を脱離させてもよい。この場合、直列カラムからの流出液のビタミンE類濃度を測定することで、その移動状況を把握して、ビタミンE類の吸着領域が存在するカラムを特定することができる。このため、測定工程の測定結果に基づいて、高純度ビタミンE類の吸着領域が存在するカラムを選択することができ、高純度ビタミンE類を製造することができる。また、脱離工程では、例えば、溶液フローの切り替え手段でラインを切り替えることによって、選択的に高純度ビタミンE類の吸着領域を含むカラムを切り離し、ビタミンE類を脱離させることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度を高めることができるビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の実施の形態のビタミンE類製造装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面および実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態のビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置を示している。
図1に示すように、ビタミンE類製造装置10は、原料油供給部1と原料油供給用ポンプ2と脂肪酸エステル変換部3と直列カラム4と脱離溶液供給部5と脱離溶液用ポンプ6と精製カラム7とビタミンE類回収部8と溶媒除去部9とを有している。
【0040】
原料油供給部1は、原料となる原料油を収納している。原料油供給用ポンプ2は、原料油供給部1に収納された原料油を、脂肪酸エステル変換部3に供給可能に、原料油供給部1と脂肪酸エステル変換部3との間に設けられている。脂肪酸エステル変換部3は、遊離脂肪酸を脂肪酸エステルに変換可能な陽イオン交換体を有している。脂肪酸エステル変換部3は、原料油供給部1から供給される原料油に含まれる遊離脂肪酸を、陽イオン交換体で脂肪酸エステルに変換した後、直列カラム4に供給するよう設けられている。
【0041】
直列カラム4は、強塩基性陰イオン交換体を含むカラム4aを2つ以上有し、各カラム4aを直列に連結して形成されている。直列カラム4は、脂肪酸エステル変換部3からの流出液を、各カラム4aに順番に流すよう構成されている。これにより、直列カラム4は、少なくとも1つのカラム4aの強塩基性陰イオン交換体に、原料油に含まれるビタミンE類を吸着するようになっている。
【0042】
脱離溶液供給部5は、強塩基性陰イオン交換体からビタミンE類を脱離可能な脱離溶液を収納している。脱離溶液用ポンプ6は、脱離溶液供給部5と直列カラム4との間に設けられている。脱離溶液用ポンプ6は、脱離溶液供給部5に収納された脱離溶液を、直列カラム4の、ビタミンE類が吸着された少なくとも1つのカラム4aに供給可能になっている。精製カラム7は、脱離溶液供給部5により脱離溶液を供給されたカラム4aのうちの少なくとも1つのカラム4aに連結されている。精製カラム7は、弱塩基性陰イオン交換体が充填されており、脱離溶液により脱離されたビタミンE類を含むビタミンE類濃縮液から、純度の高いビタミンE類を製造するよう構成されている。
【0043】
なお、
図1に示す具体的な一例では、直列カラム4は、3つのカラム4aを有している。脱離溶液は、脱離溶液用ポンプ6を介して、脱離溶液供給部5から、直列カラム4のうち原料油が最後に流れるカラム4aに供給されるようになっている。また、精製カラム7は、その原料油が最後に流れるカラム4aに連結されている。
【0044】
ビタミンE類回収部8は、精製カラム7に接続され、精製カラム7で製造された純度の高いビタミンE類を回収可能になっている。溶媒除去部9は、ビタミンE類回収部8に接続され、ビタミンE類回収部8に回収されたビタミンE類から、必要に応じて、各工程で使用された溶媒を除去するようになっている。
【0045】
ビタミンE類製造装置10は、本発明の実施の形態のビタミンE類の製造方法を好適に実施することができる。すなわち、本発明の実施の形態のビタミンE類の製造方法では、まず、変換工程により、原料油供給部1に含まれる原料油を、原料油供給用ポンプ2により脂肪酸エステル変換部3に供給し、原料油に含まれる遊離脂肪酸を脂肪酸エステルに変換する。そして、吸着工程により、脂肪酸エステル変換部3から流出される流出液を、直列カラム4に供給し、流出液に含まれるビタミンE類と未反応の遊離脂肪酸とを、直列カラム4の各カラム4aの強塩基性陰イオン交換体に競争的に吸着させる。
【0046】
その後、脱離工程により、直列カラム4のうちビタミンE類が吸着しているカラム4aに対して、脱離溶液供給部5から脱離溶液用ポンプ6を介して脱離溶液を供給し、ビタミンE類を脱離させる。これにより、高純度ビタミンE類濃縮液を製造することができる。さらに、高純度化工程により、直列カラム4から脱離したビタミンE類を、精製カラム7に供給し、更に高純度なビタミンE類を製造することができる。得られたビタミンE類は、ビタミンE類回収部8で回収され、必要に応じて溶媒除去部9で溶媒を除去することもできる。
【0047】
本発明の実施の形態のビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置10は、原料油を通過させた複数のカラム4aのうち、ビタミンE類が吸着された少なくとも1つのカラム4aの強塩基性陰イオン交換体からビタミンE類を脱離させて回収することにより、従来の1つのカラムのみで吸着および脱離を行うものと比べて、ビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度を高めることができる。特に、ビタミンE類の吸着量が最も多いカラム4aからビタミンE類を回収することにより、ビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度をさらに高めることができる。
【0048】
本発明の実施の形態のビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置10は、脱離後のビタミンE類濃縮液に対して、精製カラム7で、弱塩基性陰イオン交換体が、ビタミンE類と共に脱離する遊離脂肪酸を吸着して溶液中から除去するため、より高純度のビタミンE類を製造することができる。また、脱離後のビタミンE類濃縮液中のビタミンE類の純度が高いため、弱塩基性陰イオン交換体の再生が容易になると共に、弱塩基性陰イオン交換体の数も少なくすることができる。これにより、コストの低減を図ることができ、ビタミンE類の製造効率を高めることもできる。
【0049】
また、ビタミンE類製造装置10は、高純度ビタミンE類の製造を簡便かつ連続で運転操作でき、高純度のビタミンE類を大規模かつ安価に製造できる。本発明の実施の形態のビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置10は、例えば、ビタミンE類含有量が0.5~20質量%程度の原料油、とりわけ主成分が遊離脂肪酸や、その他成分としてトリグリセリドやステロールなどが含まれている脱臭留出物などの原料油から、ビタミンE類の純度が95質量%以上の高純度ビタミンE類を製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、以下の実施例において、特に断わりがない限り、当業者に公知の一般的な方法に従って実施した。
【0051】
多段カラムを備えた高純度ビタミンE類の製造実験
[実験方法と手順]
ビタミンE類として、市販品として入手可能なδ-トコフェロール(pKa12.6)を用い、遊離脂肪酸として、植物油に最も多く含まれるオレイン酸(pKa4.8)を用いた。各工程で使用する溶媒として、エタノールを用いた。なお、エタノールは、脂肪酸エステル変換部3におけるエステル化反応の反応物でもある。また、強塩基性イオン交換体として、多孔性の強塩基性陰イオン交換樹脂「DiaionPA306S(三菱化学社製)」に対して、公知の手法により、吸着活性を持つOH型への官能基置換を行ったものを使用した。直列カラム4として、充填する強塩基性陰イオン交換樹脂の総量を20g(湿重量)、内径を1.1cm、総カラム長さを30cmで一定とし、これを長さ方向に沿って複数のカラム4aに均等に分割し、直列に連結したものを使用した。
【0052】
実験条件を表1に示す。実施例1では、米ぬか由来の原料を想定した原料として、遊離脂肪酸濃度とビタミンE類濃度とを等しくした溶液を用い、直列カラム4として、30cmカラムを15cmずつ2つに分割して得られるカラムAとカラムBとを直列に連結したものを用いた(頂部から順にカラムA、カラムBとした)。カラムAおよびカラムBともに、カラム長さ(カラム高さ)は、15cmである。一方、実施例2では、パーム由来の原料を想定した原料として、遊離脂肪酸濃度をビタミンE類濃度の2倍とした溶液を用い、直列カラム4として、30cmカラムを10cmずつ3つに分割して得られるカラムA、カラムB、カラムCを直列に連結したものを用いた(頂部から順にカラムA、カラムB、カラムCとした)。カラムA、カラムBおよびカラムCともに、カラム長さ(カラム高さ)は、10cmである。
【0053】
【0054】
ビタミンE類を吸着させる吸着工程では、原料として所定濃度に調整したビタミンEと遊離脂肪酸(オレイン酸)のエタノール混合溶液を、直列カラム4の底部から、カラムB、カラムAの順に(実施例1の場合)、または、カラムC、カラムB、カラムAの順に(実施例2の場合)、上昇流で供給することにより、ビタミンE類を直列カラム4に吸着させた。ビタミンE類を脱離させる脱離工程では、カラムAから流出される流出液に含まれているビタミンE類の濃度が、原料中のビタミンE類の濃度に到達する前に、原料の供給を停止した。その後、直列カラム4からビタミンE類が吸着しているカラム(実施例1および2とも、カラムA)を切り離し、このカラムにエタノールを供給してカラム内に残存する原料を押し出した後、脱離溶液として、0.43mol/dm3の酢酸エタノール溶液を供給して、ビタミンE類を脱離させた。
【0055】
なお、比較のため、他のカラムにも同様の操作を行い、吸着成分を脱離させた。全ての工程は、50℃大気圧下で行い、原料および脱離溶液の供給流量は全て、1.0cm3/minとした。
【0056】
[結果]
表2に、実施例1及び実施例2において、ビタミンE類が吸着しているカラムAおよび、それ以外のカラムBやカラムCで回収された各成分量と、それに基づき計算した質量基準のビタミンE類純度とを示す。表2に示すように、実施例1および2ともに、全てのカラムで回収されたビタミンE類の合計量の内、95質量%以上がカラムAから回収されたことが分かる。また、カラムAで回収されたビタミンE類の純度は、96質量%以上となった。公知の手順に基づき、直列カラム4を分割せずに回収を行った場合、合計量(A+B、または、A+B+C)の状態で回収されることになる。この場合のビタミンE類の純度は、実施例1では約54質量%、実施例2では約28質量%であり、分割することで著しく純度が向上することが分かる。
【0057】
【0058】
以上の結果から、本発明の実施の形態のビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置10によって、95質量%以上の高純度ビタミンEを製造できることが明らかとなった。このように、通常の薄層クロマトグラフィーによる分離方法では、分離成分毎のRf値の違いを利用して分離するが、本発明の実施の形態のビタミンE類の製造方法およびビタミンE類製造装置10では、ビタミンE類と、ビタミンE類と競争的にある成分との間の、強塩基性陰イオン交換体でのイオン交換能や吸着能の違いだけでなく、ビタミンE類と競争的にある成分の濃度や物質性質(酸性度)に応じて、これらの成分を分離することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば、以下に記載されるような産業上の利用可能性を有する。
(1)トコトリエノール等のビタミンE類を、簡便なプロセスで高収率かつ高純度で製造でき、より安価で安定に社会に供給できる。
(2)原料のビタミンE類濃度のレベルに応じて直列カラムの多段化を行うことで、従来法では利用できなかった低濃度原料の利用も可能となり、天然物由来ビタミンE類の社会への供給量の増大が可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1 原料油供給部
2 原料油供給用ポンプ
3 脂肪酸エステル変換部
4 直列カラム
4a カラム
5 脱離溶液供給部
6 脱離溶液用ポンプ
7 精製カラム
8 ビタミンE類回収部
9 溶媒除去部
10 ビタミンE類製造装置