(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】心機能解析装置、解析方法、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20220719BHJP
【FI】
A61B8/08 ZDM
(21)【出願番号】P 2018102429
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】星賀 正明
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-141509(JP,A)
【文献】特開2007-222533(JP,A)
【文献】特開2010-194299(JP,A)
【文献】特開平06-078921(JP,A)
【文献】特開2015-198672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0198072(US,A1)
【文献】特開2013-022462(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0182935(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張および収縮する被験者の心室の断面を撮影した動画像を取得する動画像取得手段と、
6つの線分で外縁が画定される
六角形のモデルを、前記動画像に含まれている前記心室の断面の画像にあてはめて、前記心室を構成する複数の心筋のそれぞれと、前記
6つの線分のそれぞれとを対応付ける心筋モデル化手段と、
前記線分の時間的に連続した変化に基づいて、前記心室の機能を解析する心機能解析手段と、
を備え
、
前記心筋モデル化手段は、画像認識のアルゴリズムに基づいて、時間的に連続した前記心室の断面の一連の画像内のそれぞれにおいて、前記心筋に対応する画像の領域を追跡することにより、時間的に連続した前記心室の断面の一連の画像に、前記モデルを時間的に連続的にあてはめる、解析装置。
【請求項2】
前記動画像取得手段は、前記被験者の左心室短軸像を撮影した動画像を取得する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記心機能解析手段は、前記線分の長さの変化率を算出する、請求項1
または2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記心機能解析手段は、前記心室の内径短縮率を算出する、請求項1から
3のいずれかに記載の解析装置。
【請求項5】
前記心機能解析手段は、前記心室の駆出率を算出する、請求項1から
4のいずれかに記載の解析装置。
【請求項6】
前記心室の機能の解析結果を表示する心機能表示手段をさらに備える、請求項1から
5のいずれかに記載の解析装置。
【請求項7】
前記心機能表示手段は、前記線分の長さの変化を示す複数の波形を、各波形の時間軸を同期させて表示する、請求項
6に記載の解析装置。
【請求項8】
前記心機能解析手段は、
6つの前記線分のそれぞれについて、前記線分の短縮開始から短縮終了までの時間または前記線分の伸長開始から伸長終了までの時間を算出し、
前記心機能表示手段は、前記線分の短縮開始から短縮終了までの時間の長さまたは前記線分の伸長開始から伸長終了までの時間の長さを示すベクトルを、各ベクトルの始点をあわせて放射状に表示する、請求項
7に記載の解析装置。
【請求項9】
前記心機能表示手段は、前記心室の機能の解析結果を、前記被験者の心電図の波形と共に表示する、請求項
6から
8のいずれかに記載の解析装置。
【請求項10】
前記モデルの外縁を画定する前記線分を、前記心室の断面の画像内に含まれている前記心筋に対応する画像の領域と対応させて識別可能に表示するモデル表示手段をさらに備える、請求項1から
9のいずれかに記載の解析装置。
【請求項11】
拡張および収縮する被験者の心室の断面を撮影した動画像を取得する動画像取得ステップと、
6つの線分で外縁が画定される
六角形のモデルを、前記動画像に含まれている前記心室の断面の画像にあてはめて、前記心室を構成する複数の心筋のそれぞれと
、前記
6つの線分のそれぞれとを対応付ける心筋モデル化ステップと、
前記線分の時間的に連続した変化に基づいて、前記心室の機能を解析する心機能解析ステップと、
を含
み、
前記心筋モデル化ステップは、画像認識のアルゴリズムに基づいて、時間的に連続した前記心室の断面の一連の画像内のそれぞれにおいて、前記心筋に対応する画像の領域を追跡することにより、時間的に連続した前記心室の断面の一連の画像に、前記モデルを時間的に連続的にあてはめる、解析方法。
【請求項12】
前記心室の機能の解析結果を表示する心機能表示ステップをさらに含む、請求項11に記載の解析方法。
【請求項13】
前記モデルの外縁を画定する前記線分を、前記心室の断面の画像内に含まれている前記心筋に対応する画像の領域と対応させて識別可能に表示するモデル表示ステップをさらに含む、請求項11または12に記載の解析方法。
【請求項14】
請求項1から
10のいずれかに記載の解析装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項15】
請求項
14に記載のプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の心室の機能を手軽に解析する心機能解析装置、解析方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波エコーの検査装置は、大学病院等の大規模な総合病院から比較的小規模なクリニックを含む様々な医療機関において、多くの診察室に配置されており、医師は患者の心臓を診察する際に手軽に利用している。また。このような医師の診察を補助するために、コンピュータを用いて被験者の心臓の機能を分析または解析する様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、心機能の診断に有用な心機能表示システムが開示されている。特許文献1に記載のシステムによると、超音波エコー検査等のイメージング検査により得られる被験者の心臓の動画像に基づいて、心臓の機能を解析し解析結果を表示することができる。
【0004】
特許文献1のシステムでは、心臓の動画像に対してスペックルトラッキング法を適用することにより、被験者の心臓の機能を解析している。スペックルトラッキング法では、超音波エコー信号に由来する類似したスペックル(斑点状の模様)パターンをフレーム毎に追跡することにより、拡張および収縮を繰り返す心筋の伸長または短縮の程度(以下、心筋のストレイン値と呼ぶ)を算出している。
【0005】
特許文献2には、心臓活動を分析するための、及び、心臓関連の異常を診断及び治療するためのシステムであり、このような活動に有用な心臓関連情報を表示するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-78138号公報
【文献】特表2017-514553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、医療機関においてもスマートフォンやタブレット端末等の情報処理端末が積極的に導入されており、情報通信技術(ICT: Information and Communication Technology)を活用した診療の効率化が進められている。患者を目の前にした診察の現場においては、医師の一人一人がそのような情報処理端末を携帯して活用することにより、高度な診療を迅速に患者に提供することが求められつつある。
【0008】
特許文献1に記載されているスペックルトラッキング法では、スペックルの追跡を行うデータ処理に多大な演算能力が必要とされ、解析には例えばワークステーション等の高性能な計算機が用いられている。特許文献2のシステムにおいても、心腔の幾何学モデルは1000個を越える多数の三角形によりモデル化されている。従来の特許文献1および2のどちらの技術においても、データ処理には高性能な計算機が必要とされる。
【0009】
しかしながら、クリニック等の比較的小規模な医療機関においては、超音波エコーの検査装置を診察室に既に導入していても、心臓の機能を解析するためだけの目的で、その目的に特化した高性能な計算機をさらに導入することは現実的ではない。診察室の床面積も限られており、専用の計算機を設置するスペースを診察室内に確保する余裕は無い。比較的大規模な病院であれば、病院内の例えばデータセンタ等に高性能な計算機が配置されているものの、医師が診察室において撮影した心臓の超音波エコー動画をさらに専門の解析処理にまわす必要があり、医師は各種の解析結果を即座に得ることはできていない。
【0010】
医療機関の規模を問わず、多くの診察の現場においては診察室内に超音波エコーの検査装置が配置されており、医師は超音波エコーの検査装置を用いながら日々多くの患者を診察している。それにもかかわらず、医師は、目前の検査装置のモニターに表示されている心臓の超音波エコー動画に関する各種の解析情報を手軽に得ることはできていない。したがって、診察室において医師が患者を診察する際に、心臓の超音波エコー動画を医師が参照しながらより手軽に心臓の機能を解析することが求められている。
【0011】
本発明は、被験者の心室の機能を手軽に解析する心機能解析装置、解析方法、およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
【0013】
(項1)
拡張および収縮する被験者の心室の断面を撮影した動画像を取得する動画像取得手段と、
複数の線分で外縁が画定される多角形のモデルを、前記動画像に含まれている前記心室の断面の画像にあてはめて、前記心室を構成する複数の心筋のそれぞれと、前記複数の線分のそれぞれとを対応付ける心筋モデル化手段と、
前記線分の時間的に連続した変化に基づいて、前記心室の機能を解析する心機能解析手段と、
を備える、解析装置。
(項2)
前記動画像取得手段は、前記被験者の左心室短軸像を撮影した動画像を取得する、項1に記載の解析装置。
(項3)
前記心筋モデル化手段は、6つの線分で外縁が画定される六角形のモデルを、前記動画像に含まれている前記心室の断面の画像にあてはめる、項1または2に記載の解析装置。
(項4)
前記心機能解析手段は、前記線分の長さの変化率を算出する、項1から3のいずれかに記載の解析装置。
(項5)
前記心機能解析手段は、前記心室の内径短縮率を算出する、項1から4のいずれかに記載の解析装置。
(項6)
前記心機能解析手段は、前記心室の駆出率を算出する、項1から5のいずれかに記載の解析装置。
(項7)
前記心室の機能の解析結果を表示する心機能表示手段をさらに備える、項1から6のいずれかに記載の解析装置。
(項8)
前記心機能表示手段は、前記線分の長さの変化を示す複数の波形を、各波形の時間軸を同期させて表示する、項7に記載の解析装置。
(項9)
前記心機能解析手段は、複数の前記線分のそれぞれについて、前記線分の短縮開始から短縮終了までの時間または前記線分の伸長開始から伸長終了までの時間を算出し、
前記心機能表示手段は、前記線分の短縮開始から短縮終了までの時間の長さまたは前記線分の伸長開始から伸長終了までの時間の長さを示すベクトルを、各ベクトルの始点をあわせて放射状に表示する、項8に記載の解析装置。
(項10)
前記心機能表示手段は、前記心室の機能の解析結果を、前記被験者の心電図の波形と共に表示する、項7から9のいずれかに記載の解析装置。
(項11)
前記モデルの外縁を画定する前記線分を、前記心室の断面の画像内に含まれている前記心筋に対応する画像の領域と対応させて識別可能に表示するモデル表示手段をさらに備える、項1から10のいずれかに記載の解析装置。
(項12)
前記心筋モデル化手段は、画像認識のアルゴリズムに基づいて、時間的に連続した前記心室の断面の一連の画像に、前記モデルを時間的に連続的にあてはめる、項1から11のいずれかに記載の解析装置。
(項13)
前記心筋モデル化手段は、時間的に連続した前記心室の断面の一連の画像内のそれぞれにおいて、前記心筋に対応する画像の領域を追跡する、項12に記載の解析装置。
(項14)
拡張および収縮する被験者の心室の断面を撮影した動画像を取得する動画像取得ステップと、
複数の線分で外縁が画定される多角形のモデルを、前記動画像に含まれている前記心室の断面の画像にあてはめて、前記心室を構成する複数の心筋のそれぞれと、前記モデルの外縁を画定する前記複数の線分のそれぞれとを対応付ける心筋モデル化ステップと、
前記線分の時間的に連続した変化に基づいて、前記心室の機能を解析する心機能解析ステップと、
を含む、解析方法。
(項15)
項1から13のいずれかに記載の解析装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
(項16)
項15に記載のプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、被験者の心室の機能を手軽に解析する心機能解析装置、解析方法、およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】超音波エコー検査により得られる左心室短軸像である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る多角形のモデルと心室を構成する心筋とを模式的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る心機能解析装置が使用される際の態様を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る心機能解析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る演算装置の機能を説明するためのブロック図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る演算装置が行うデータ処理の全体的な手順を示すフローチャートである。
【
図7】あてはめられた多角形のモデルを表示する際の画面イメージの一例である。
【
図8】
図6に示す心室機能解析処理の手順を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の一実施形態に係る多角形のモデルの外縁と心室を構成する心筋とを模式的に示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る多角形のモデルの向かい合う頂点間を結ぶ線分と心室を構成する心筋とを模式的に示す図である。
【
図11】心室の動きとモデルを構成する線分の長さの変化との関係を模式的に示す図である。
【
図12】モデルを構成する線分の長さの変化を示す波形を、心室を構成する6つの心筋のそれぞれについて模式的に示す図である。
【
図13】
図6に示す解析結果表示処理の手順を示すフローチャートである。
【
図14】解析結果を波形にて表示する場合の画面イメージの一例である。
【
図15】解析結果をベクトルにて表示する場合の表示態様の一例である。
【
図16】本発明の心機能解析方法と従来法との比較結果を示す図である。
【
図17】本発明の心機能解析方法と従来法との比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0017】
[発明の概要]
以下に説明する本発明の一実施形態では、拡張および収縮する被験者の心室の断面を撮影した動画像を取得し、取得した心室の動画像に基づいて、心室の機能を解析する。
【0018】
解析対象とする被験者の心室の動画像は、超音波エコー検査、CT検査、およびMRI検査等の種々の心臓イメージング検査により取得される。本実施形態では、診察室での利用の手軽さから、超音波エコー検査により得られる超音波エコー動画を取得して解析する。
【0019】
解析対象とする心室は、右心室または左心室であり、左心室が好ましい。対象とする心室の断面を撮影する方向は、心室の長軸像または短軸像であり、短軸像が好ましい。心室の短軸像とは、心臓の心室を、直立する被験者から見て水平方向に切断した形で示される画像である。本実施形態では、被験者の左心室短軸像を撮影した動画を取得して解析する。
【0020】
解析する心室の機能は、心室を構成する心筋の伸長または短縮の程度を意味する心筋のストレイン値や、心室の内径短縮率および心室の駆出率である。本実施形態では、左心室を解析対象とし、心室の内径短縮率および心室の駆出率として、左室内径短縮率(LVFS: left ventricular fractional shortening)および左室駆出率(LVEF: left ventricular ejection fraction)を算出する。算出した心筋のストレイン値は、モデルを構成する線分の長さの変化を示す波形として、視覚的に表示される。被験者の心室における異常の有無は、表示される波形の形状を通じて視覚的に把握される。算出した心室の内径短縮率および心室の駆出率も表示される。
【0021】
心室の機能の解析は、心室を構成する心筋をモデル化することにより行う。心筋のモデル化に用いるモデルは、複数の線分で外縁が画定される多角形のモデルである。本実施形態では、6つの線分で外縁が画定される六角形のモデルをモデル化に用いる。モデル化は、多角形のモデルを、心室の動画像に含まれている心室の断面の画像にあてはめることにより行う。本発明において行う心筋のモデル化では、従来のスペックルトラッキング法の開発のベースとなっていた、各心筋の運動メカニクスはある程度無視している。
【0022】
図1は、超音波エコー検査により得られる左心室短軸像である。(a)は左心室の拡張期の像であり、(b)は左心室の収縮期の像である。
【0023】
図中、符号3を付して示す領域は左心室の断面であり、符号4を付して示す領域は右心室の断面である。符号51を付して示す線分は、本発明において導入する後述する多角形のモデル5を構成する複数の線分のうちの一つである。線分51は、図示する左心室短軸像において、左心室3の前壁31の画像の領域に対応している。
【0024】
時間t0において拡張期にある線分51の長さをL0とし、時間t1において収縮期にある線分51の長さをL1とすると、線分51に対応する心筋である、左心室3の前壁31のストレイン値SS(segmental strain)は、(L1-L0)/L0で算出することができる。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態に係る多角形のモデルと心室を構成する心筋とを模式的に示す図である。(a)は、左心室の拡張期におけるモデルおよび心筋を示し、(b)は左心室の収縮期におけるモデルおよび心筋を示す。
【0026】
図2に示すように、左心室短軸像の視点から見ると、左心室3は、前壁31と、側壁32と、後壁33と、下壁34と、中隔35と、前壁中隔36とを含む6つの心筋で構成されている。本実施形態では、6つの線分で外縁が画定される六角形のモデル5を心筋のモデル化に用いる。六角形のモデル5は、外縁が6つの線分51~56で画定されている。後述する心筋のモデル化処理により、六角形のモデル5を構成する6つの線分51~56のそれぞれと、左心室3を構成する6つの心筋31~36のそれぞれとが対応付けられる。3つの線分57~59は、六角形のモデル5の向かい合う頂点間を結ぶ線分であり、6つの線分51~56が6つの心筋31~36に対応付けられることにより長さが決定される線分である。
【0027】
図2(a)および(b)に示すように、時間的に連続した心室の断面の一連の画像に、六角形のモデル5を時間的に連続的にあてはめることにより、6つの線分51~56のそれぞれの長さは時間的に連続して変化する。本実施形態では、これら線分51~56の時間的に連続した変化に基づいて、心室の各種の機能を解析する。このように、本発明において行う心筋のモデル化では、従来のスペックルトラッキング法の開発のベースとなっていた、各心筋の運動メカニクスはある程度無視している。
【0028】
[システム構成]
図3は、本発明の一実施形態に係る心機能解析装置が使用される際の態様を模式的に示す図である。以下では、心機能解析装置1を単に解析装置1とも記載し、超音波エコー検査装置9を単に検査装置9とも記載する。
【0029】
一実施形態に係る心機能解析装置1は、例えば超音波エコー検査装置9等のイメージング検査装置から被験者の心室の動画像を取得し、被験者の心室の機能を解析する。
【0030】
解析装置1は、被験者の心室の動画像を種々の態様により取得する。本実施形態では、解析装置1は、検査装置9のモニタ9b上にリアルタイムに表示されている被験者の心室の動画像を、解析装置1に接続されている動画撮影装置2を用いてリアルタイムに撮影することにより取得する。または、解析装置1は、有線の若しくは無線のネットワーク8、または例えばUSBメモリ等の記録媒体7を介して、検査装置9から心室の動画像を取得してもよい。または、解析装置1は、検査装置9により予め取得されて記録されている心室の動画像を、例えば病院内のデータセンタに配置されているデータサーバ6から取得してもよい。
【0031】
解析装置1は、例えば汎用コンピュータや、スマートフォンまたはタブレット端末で構成されている。動画撮影装置2は、例えばCMOSイメージセンサまたはCCDイメージセンサ等の撮影素子を備える公知のビデオカメラで構成されている。本実施形態では、解析装置1と動画撮影装置2とを一体化して、例えばカメラ付きのスマートフォンやタブレット端末で解析装置1および動画撮影装置2を構成している。このようなカメラ付きのスマートフォンやタブレット端末には、医師が携帯しているものや診察室に備品として配置されているものを用いることができる。
【0032】
超音波エコー検査装置9には、超音波プローブ9aおよび付属のモニタ9bが備えられている。検査装置9は、超音波エコーによる被験者の心室の動画像を取得し、取得した超音波エコーによる動画像を付属のモニタ9bに表示する。検査装置9には、多くの診察室に配置されている公知の超音波エコー装置を用いることができる。
【0033】
なお、解析装置1は検査装置9に一体化して設けられてもよい。この場合、一体化された検査装置9および解析装置1間で直接的にデータ交換が可能となるため、動画撮影装置2は不要となる。本明細書において用いる用語「解析装置」は、このような超音波エコー検査装置9に一体化された解析装置も意味する。
【0034】
[ハードウェア構成]
図4は、本発明の一実施形態に係る心機能解析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0035】
一実施形態に係る心機能解析装置1は、演算装置10と、入力装置16と、表示装置17とを備える。入力装置16は任意の構成である。本実施形態では、解析装置1は、動画撮影装置2と一体化されて例えばカメラ付きのスマートフォンで構成されている。解析装置1は、ネットワーク8を介して検査装置9またはデータサーバ6と接続することもできる。
【0036】
演算装置10は、後述するデータ処理を行うCPU11と、データ処理の作業領域に使用するメモリ12と、処理データを記録する記録部13と、各部の間でデータを伝送するバス14と、外部機器とのデータの入出力を行うインタフェース部15(以下、I/F部と記す)とを備えている。
【0037】
入力装置16および表示装置17は、演算装置10に接続されている。例示的には、入力装置16はキーボードまたはマウス等の入力装置であり、表示装置17は液晶ディスプレイ等の表示装置である。本実施形態では、解析装置1はスマートフォンであり、入力装置16および表示装置17は、一体化されてタッチパネル式の表示装置として実現されている。
【0038】
演算装置10は、以下の機能ブロック図およびフローチャートで説明する各ステップの処理を行うためのプログラムを、例えば実行形式(例えばプログラミング言語からコンパイラにより変換されて生成される)で記録部13またはメモリ12に予め記録しており、演算装置10は、記録部13に記録したプログラムを使用して処理を行う。または、プログラムは、例えばUSBメモリやDVD-ROM等の、コンピュータ読み取り可能であって非一時的な有形の記録媒体7から記録部13またはメモリ12にインストールされてもよいし、別所に配置されたデータサーバ6からネットワーク8を介して記録部13またはメモリ12にインストールされてもよい。
【0039】
以下の説明においては、特に断らない限り、演算装置10が行う処理は、記録部13またはメモリ12に格納されたプログラムに基づいて、CPU11が行う処理を意味する。CPU11はメモリ12を作業領域として必要なデータ(処理途中の中間データ等)を一時記憶し、記録部13に演算結果等の長期保存するデータを適宜記録する。
【0040】
[機能ブロックおよび処理手順]
図5は、本発明の一実施形態に係る演算装置の機能を説明するためのブロック図である。
【0041】
演算装置10は、動画像取得手段21と、心筋モデル化手段22と、モデル表示手段23と、心機能解析手段24と、心機能表示手段25と、心電図取得手段26とを備える。これらの機能ブロックは、プログラムを演算装置10の記録部13またはメモリ12にインストールし、このプログラムをCPU11が実行することにより実現される。
【0042】
図6は、本発明の一実施形態に係る演算装置が行うデータ処理の全体的な手順を示すフローチャートである。
図6に示す各ステップの処理は、演算装置10が備える各機能ブロックにより、すなわち演算装置10によりそれぞれ実行される。
【0043】
図6に示すステップS1において、動画像取得手段21は、拡張および収縮する被験者の心室の断面を撮影した動画像を取得する。
【0044】
動画像取得手段21は、被験者の左心室短軸像を撮影した動画像を取得する。本実施形態では、被験者の左心室短軸像は、診察室等に配置されている超音波エコー検査装置9を用いて、医師によりリアルタイムに撮影される。検査装置9のモニタ9b上には左心室短軸像がリアルタイムに表示されており、医師および看護師等の医療従事者を含む解析装置1のユーザは、解析装置1に接続されている動画撮影装置2を用いて、検査装置9のモニタ9bをリアルタイムに撮影する。これにより、解析装置1は、被験者の左心室短軸像を撮影した動画像を取得する。
【0045】
ステップS2において、心筋モデル化手段22は、複数の線分で外縁が画定される多角形のモデルを、動画像に含まれている心室の断面の画像にあてはめて、心室を構成する複数の心筋のそれぞれと、複数の線分のそれぞれとを対応付ける。
【0046】
本実施形態では、心筋モデル化手段22は、
図2に示す6つの線分51~56で外縁が画定される六角形のモデル5をモデル化に用いる。モデル化は、心筋モデル化手段22が、六角形のモデル5を、左心室短軸像に含まれている心室3の断面の画像にあてはめることにより行う。
【0047】
すなわち、モデル化は、画像認識のアルゴリズムに基づいて、時間的に連続した心室3の断面の一連の画像に、モデル5を時間的に連続的にあてはめることにより行う。より詳細には、モデル化は、時間的に連続した心室3の断面の一連の画像内のそれぞれにおいて、心室を構成する心筋31~36に対応する画像の領域を追跡することにより行う。このようなモデル化の際、モデル5を構成する線分51~56が成す角度は固定されていない。したがって、六角形のモデル5は、外縁の全体形状が六角形をなす範囲内でモデル5の全体形状を変化させながら、心室3を構成する6つの心筋31~36のそれぞれと、モデル5を構成する6つの線分51~56のそれぞれとが時間的に連続的に対応付けられる。画像認識のアルゴリズムは、所定の画像の領域を追跡する処理であり、好ましくはモーショントラッキングである。モーショントラッキングの技術は、動画像内の特定の被写体(画像)を自動的に追跡する機能である。例えば米国Adobe Systems 社のAfter Effects等の動画像処理ソフトウェアに実装されている。
【0048】
ステップS3において、モデル表示手段23は、モデル5の外縁を画定する線分51~56を、心室3の断面の画像内に含まれている心筋31~36に対応する画像の領域と対応させて識別可能に表示する。
【0049】
図7は、あてはめられた多角形のモデルを表示する際の画面イメージの一例である。
図7に示すように、心筋モデル化手段22により心室の断面の画像にあてはめられた六角形のモデル5は、外縁の全体形状を時間的に連続的に変化させながら、超音波エコー動画の一連の画像に重ねて表示される。
図7には、後述するステップS42およびS43において算出する、心室の内径短縮率91および心室の駆出率92もそれぞれ表示されている。
【0050】
図6に示すステップS4において、心機能解析手段24は心室の機能を解析する処理を行う。心室の機能の解析は、線分の時間的に連続した変化に基づいて行う。
【0051】
図8は、
図6に示す心室機能解析処理の手順を示すフローチャートである。なお、心室機能解析処理において、ステップS44の処理は任意の処理とすることができる。
図9は、本発明の一実施形態に係る多角形のモデルの外縁と心室を構成する心筋とを模式的に示す図である。
図9において、(a)は時間t
0におけるモデルおよび心筋を示し、(b)は時間t
1におけるモデルおよび心筋を示す。好ましくは、時間t
0は拡張末期の時間であり、時間t
1は収縮末期の時間である。
【0052】
図8に示すステップS41において、心機能解析手段24は、線分の長さの変化率を算出する。
【0053】
図9を参照しながら、一例として左心室3を構成する6つの心筋のうち前壁31に着目して説明する。時間t
0における線分51の長さをL
0とし、時間t
1における線分51の長さをL
1とすると、線分51に対応する心筋である、左心室3の前壁31のストレイン値は、(L
1-L
0)/L
0で算出することができる。
【0054】
左心室3を構成する残りの5つの心筋である、側壁32、後壁33、下壁34、中隔35、および前壁中隔36のそれぞれについても、前壁31と同様に、ストレイン値を算出することができる。
【0055】
ステップS42において、心機能解析手段24は心室の内径短縮率を算出し、ステップS43において、心機能解析手段24は心室の駆出率を算出する。
【0056】
図10は、本発明の一実施形態に係る多角形のモデルの向かい合う頂点間を結ぶ線分と心室を構成する心筋とを模式的に示す図である。
図10において、(a)は時間t
0におけるモデルおよび心筋を示し、(b)は時間t
1におけるモデルおよび心筋を示す。好ましくは、時間t
0は拡張末期の時間であり、時間t
1は収縮末期の時間である。
【0057】
本実施形態では、左室内径短縮率(LVFS)および左室駆出率(LVEF)を算出する。左室内径短縮率および左室駆出率はどちらも、
図10に示す六角形のモデル5の向かい合う頂点間を結ぶ3つの線分57~59のうち、少なくとも一つの線分の長さの変化率を用いて算出することができる。
【0058】
図10を参照しながら、一例として線分57に着目して説明する。時間t
0における線分57の長さをL
0とし、時間t
1における線分57の長さをL
1とすると、左室内径短縮率(LVFS)は(L
0-L
1)/L
0で算出することができる。左室駆出率(LVEF)は、[7×L
0
3/(2.4+L
0)-7×L
1
3/(2.4+L
1)]/[7×L
0
3/(2.4+L
0)]で算出することができる。
【0059】
なお、左室内径短縮率および左室駆出率の算出に用いるモデルの線分は、例示した線分57に限定されない。左室内径短縮率および左室駆出率はどちらも、3つの線分57~59のうち、少なくとも一つの線分の長さの変化率から算出することができ、線分58または線分59の長さの変化率から算出してもよい。または、3つの線分57~59のそれぞれについて左室内径短縮率を算出し、算出された3つの左室内径短縮率の平均値を求めて、求めた平均値を左室内径短縮率としてもよい。左室駆出率(LVEF)についても左室内径短縮率(LVFS)と同様に、3つの線分57~59のそれぞれについて左室駆出率を算出し、算出された3つの左室駆出率の平均値を求めて、求めた平均値を左室駆出率としてもよい。
【0060】
図8に示すステップS44において、心機能解析手段24は、複数の線分のそれぞれについて、線分の短縮開始から短縮終了までの時間を算出する。算出した時間の情報は、後述するステップS52において利用する。なお、算出する時間の情報は、線分の伸長開始から伸長終了までの時間であってもよい。
【0061】
図11は、心室の動きとモデルを構成する線分の長さの変化との関係を模式的に示す図である。
【0062】
図11を参照して、心室の動きとモデルを構成する線分の長さの変化との関係を説明し、ステップS44において算出する、線分の短縮開始から短縮終了までの時間の意味を説明する。説明では、一例として、左心室3を構成する一つの心筋とモデル5を構成する一つの線分とに着目する。
【0063】
図中、横方向は時間の流れを意味している。図の上段には、拡張および収縮を繰り返す被験者の左心室3の、時間的に連続した一連の断面画像の模式図と、モデル5を構成する線分51とを示している。線分51は、左心室3の前壁31の画像の領域に対応している。中段には、上段に示した断面画像の模式図に対応する、被験者の心電図の波形90(Electrocardiogram: ECG)を示している。下段には、モデル5を構成する線分51の長さの変化を示す波形61を示している。図中の符号「SS」は、ステップS41において線分51の長さの変化から算出される、左心室3の前壁31のストレイン値である。
【0064】
図11に示すように、左心室3の断面画像の時間的に連続した変化に伴い、モデル5を構成する線分51の長さも時間的に連続して変化する。左心室3の前壁31の拡張末期から収縮末期までの時間(すなわち、線分51の短縮開始から短縮終了までの時間)の長さは、
図11中に符号71で示す時間の長さに対応している。すなわち、ステップS44では、前壁31に対応する線分51について、符号71で示す時間の長さを算出する。
【0065】
図12は、モデルを構成する線分の長さの変化を示す波形を、心室を構成する6つの心筋のそれぞれについて模式的に示す図である。
【0066】
モデル5を構成する他の複数の線分52~56についても、
図11を参照して説明した線分51の場合と同様に、左心室3を構成する残りの5つの心筋32~36のそれぞれに対応する、心筋32~36のそれぞれの拡張末期から収縮末期までの時間の長さを算出する。
図12中に符号62~66で示すそれぞれの波形は、左心室3を構成する側壁32、後壁33、下壁34、中隔35および前壁中隔36のそれぞれに対応する、線分52~56のそれぞれの長さの変化を示している。左心室3の側壁32、後壁33、下壁34、中隔35および前壁中隔36のそれぞれの、拡張末期から収縮末期までの時間(すなわち、線分52~56のそれぞれの短縮開始から短縮終了までの時間)の長さは、
図13中に符号72~76で示す時間の長さにそれぞれ対応している。
【0067】
再び
図6を参照する。
図6に示すステップS5において、心機能表示手段25は解析結果を表示する処理を行う。
【0068】
図13は、
図6に示す解析結果表示処理の手順を示すフローチャートである。解析結果表示処理において、ステップS52の処理は任意の処理とすることができる。
【0069】
図13に示すステップS51において、心機能表示手段25は、線分の長さの変化を示す複数の波形を、各波形の時間軸を同期させて表示する。
【0070】
図14は、解析結果を波形にて表示する場合の画面イメージの一例である。(a)は心機能が正常な場合の画面イメージであり、(b)は心機能が異常な場合の画面イメージである。
【0071】
図14に例示する画面イメージでは、被験者の超音波エコー動画を例えば画面の上半分に表示し、モデルを構成する線分の長さの変化を示す波形を例えば画面の下半分に表示する。超音波エコー動画には、ステップS42およびS43において算出した、心室の内径短縮率91および心室の駆出率92もそれぞれ表示されている。
【0072】
線分の長さの変化を示す波形61~66は、心室を構成する6つの心筋31~36のそれぞれについて、各波形の時間軸を同期させて複数を表示することが好ましい。説明の簡略化のために、例示する画面イメージでは、前壁31に対応する波形61、側壁32に対応する波形62、および後壁33に対応する波形63の3つの波形を表示している。
【0073】
図14の(a)に示すように、心機能が正常な場合は、3つの波形61~63のいずれにおいても、符号AMで示す波形の振幅の大きさ、すなわちストレイン値は概ね同じ大きさである。また、各線分51~53の長さがピーク(極大または極小)となる時間41~43も、3つの波形61~63において概ね一致している。
【0074】
これに対し、心機能が異常な場合は、
図14の(b)に示すように、表示される3つの波形61~63のいずれかにおいて、振幅AMの大きさすなわちストレイン値が他のものと異なっている波形が存在する。例示する画面イメージからは、波形61,62にそれぞれ対応する前壁31および側壁32において、心筋が伸長および短縮する程度が後壁33のそれよりも弱くなっていることを読み取ることができる。また、後壁33に対応する線分53の長さがピークとなる時間43が、前壁31および側壁32に対応する線分51,52の長さがピークとなる時間41,42よりも遅れていることを読み取ることができる。
【0075】
このように、ユーザは、表示される波形61~66の形状を通じて、被験者の心室における異常の有無を視覚的に把握することが可能となる。
【0076】
なお、任意の機能として、心機能表示手段25は、
図14に示すように、心室の機能の解析結果を、被験者の心電図の波形90と共に表示することができる。被験者の心電図の波形90は、心電図取得手段26が種々の態様で取得することができる。例示的には、心電図取得手段26は、ネットワーク8または記録媒体7を介して、検査装置9から心電図の波形90を示すデータを取得することができる。または、心電図取得手段26は、検査装置9により予め取得されて記録されている心電図の波形90を示すデータを、例えば病院内のデータセンタに配置されているデータサーバ6から取得してもよい。
【0077】
心室の機能の解析結果と共に心電図の波形90が表示されることにより、ユーザは、被験者の心室における異常の有無を、心電図の波形90と対比してより直感的に視覚的に把握することが可能となる。
【0078】
図13に示すステップS52において、心機能表示手段25は、線分の短縮開始から短縮終了までの時間の長さを示すベクトルを、各ベクトルの始点をあわせて放射状に表示する。本ステップにおいてベクトルとして表示しようとする、線分の短縮開始から短縮終了までの時間の長さは、ステップS44において予め算出しておいたものを用いる。ステップS44において、線分の伸長開始から伸長終了までの時間を算出している場合には、心機能表示手段25は、線分の伸長開始から伸長終了までの時間の長さを示すベクトルを、各ベクトルの始点をあわせて放射状に表示する。
【0079】
図15は、解析結果をベクトルにて表示する場合の表示態様の一例である。(a)は心室に非同期運動がない正常な場合の表示例であり、(b)は心室に非同期運動がある異常な場合の表示例である。具体的には、(a)に示す心室に非同期運動がない場合とは、6つの心筋の拡張および収縮のタイミングが同期している場合を意味している。(b)に示す心室に非同期運動がある場合とは、6つの心筋の拡張および収縮のタイミングが同期していない場合を意味している。
【0080】
図15において符号71で示すベクトルは、前壁31の拡張末期から収縮末期までの時間(すなわち、線分51の短縮開始から短縮終了までの時間)の長さに対応する大きさを有する。同様に、符号72で示すベクトルは、側壁32の拡張末期から収縮末期までの時間の長さに対応する大きさを有する。同様に、符号73~76で示すそれぞれのベクトルは、それぞれの心筋33~36の拡張末期から収縮末期までの時間の長さに対応する大きさを有する。
【0081】
図15に例示するように、6つのベクトルは、前壁31に対応するベクトル71を基準として、例えば時計回りに、
側壁32に対応するベクトル72が60度、
後壁33に対応するベクトル73が120度、
下壁34に対応するベクトル74が180度、
中隔35に対応するベクトル75が240度、
前壁中隔36に対応するベクトル76が300度、
の角度をそれぞれなすように配置することができる。
【0082】
または、6つのベクトルは、それぞれのベクトル71~76の向きが心室の断面の画像におけるそれぞれの心筋31~36の角度に対応するように、各ベクトルの始点をあわせて放射状に配置してもよい。
【0083】
さらに、心機能表示手段25は、6つのベクトル71~76の終点を結ぶ多角形81(例示する態様では、六角形81)を表示することができる。また、心機能表示手段25は、6つのベクトル71~76の合成ベクトル82を算出して表示することができる。表示される多角形81の形状のずれは、ベクトル71~76の長さの違い、すなわち、各線分51~56の長さがピーク(極大または極小)となる時間の違いを表している。同様に、表示される合成ベクトル82も、各線分51~56の長さがピーク(極大または極小)となる時間の違いを表している。
【0084】
図15の(a)に示すように、心室に非同期運動がない正常な場合は、表示される六角形81の形状は概ね正六角形となる。表示される合成ベクトル82も長さは短く、概ね点状となる。
【0085】
これに対し、心室に非同期運動がある異常な場合は、
図15の(b)に示すように、表示される六角形81の形状はいびつとなる。表示される合成ベクトル82も長くなる。
【0086】
このように、ユーザは、表示される六角形81の形状のずれを通じて、被験者の心室における異常の有無を視覚的に把握することが可能となる。さらに、ユーザは、合成ベクトル82の向きおよび大きさを通じて、被験者の心室における異常の有無を視覚的に把握することが可能となる。
【0087】
以上、一実施形態に係る心機能解析装置によると、検査装置9のモニタ9b上にリアルタイムに表示されている被験者の心室の動画像を、解析装置1に接続されている動画撮影装置2を用いてリアルタイムに撮影することにより、被験者の心室の機能を手軽に解析することができる。また、心室の機能の解析結果として、従来法においては複雑な計算過程を要する心筋のストレイン値や、心室の内径短縮率および心室の駆出率を表示装置17上に表示することができる。算出した心筋のストレイン値は、モデルを構成する線分の長さの変化を示す波形として、視覚的に表示される。被験者の心室における異常の有無は、表示される波形の形状を通じて視覚的に把握することができる。算出した心室の内径短縮率および心室の駆出率も表示される。
【0088】
[その他の形態]
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0089】
上記実施形態では、演算装置10は一体の装置として実現されているが、演算装置10は一体の装置である必要はなく、CPU11、メモリ12、記録部13等が別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。演算装置10と、入力装置16と、表示装置17とについても、一ヶ所に配置される必要は必ずしもなく、それぞれ別所に配置されて互いにネットワークで通信可能に接続されていてもよい。
【0090】
上記実施形態では、演算装置10の各機能ブロックは、単一のCPU11で実行されているが、これら各機能ブロックは単一のCPU11で実行される必要は必ずしもなく、複数のCPUで分散して処理されてもよい。また、CPU11に代えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)が処理を行ってもよいし、例えばGPU(Graphics Processing Unit)をアクセラレータとして用いて、CPU11が行う並列演算処理を補助してもよい。すなわちCPU11が行う処理とは、CPUまたはFPGAが、GPU等のアクセラレータを用いて行う処理も含むことを意味する。
【実施例1】
【0091】
本願発明において心筋をモデル化する際に用いる、複数の線分で外縁が画定される多角形のモデルの妥当性を検証した。
図16および
図17に、本発明の心機能解析方法と従来法との比較結果を示す。
図16はストレイン値の比較を示すグラフであり、
図17は6つの心筋毎にストレイン値の相関を示すグラフである。ここでいう従来法とは、本発明者による特許文献1に記載のシステムにおける解析方法であり、スペックルの追跡を行う解析方法である。
【0092】
図16に示すように、本発明の心機能解析方法では、従来のスペックルトラッキング法の開発のベースとなっていた各心筋の運動メカニクスをある程度無視しているにもかかわらず、従来法と比較してストレイン値の良好な対応性を得ることができた。また、
図17に示すように、6つの心筋それぞれについても、従来法と比較してストレイン値の良好な対応性を得ることができた。
【符号の説明】
【0093】
1 心機能解析装置
2 動画撮影装置
3 左心室
4 右心室
5 多角形のモデル
6 データサーバ
7 記録媒体
8 ネットワーク
9 超音波エコー検査装置
10 演算装置
11 CPU
12 メモリ
13 記録部
14 バス
15 インタフェース部
16 入力装置
17 表示装置
21 動画像取得手段
22 心筋モデル化手段
23 モデル表示手段
24 心機能解析手段
25 心機能表示手段
26 心電図取得手段
31 前壁
32 側壁
33 後壁
34 下壁
35 中隔
36 前壁中隔
81 多角形
82 合成ベクトル
90 心電図の波形
91 内径短縮率
92 駆出率