(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】自動心肺蘇生器
(51)【国際特許分類】
A61H 31/00 20060101AFI20220719BHJP
【FI】
A61H31/00
(21)【出願番号】P 2018143237
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591060223
【氏名又は名称】コ-ケンメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】松井 英一
(72)【発明者】
【氏名】松井 充巨
(72)【発明者】
【氏名】中島 保夫
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225646(JP,A)
【文献】特開平2-253008(JP,A)
【文献】特開2005-163845(JP,A)
【文献】特開2015-139595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドと該ロッドの先端部に設けられた頭パッドとを有する衝撃槌と、該衝撃槌を上下に往復運動させる昇降機構と、を備え、患者に対して胸骨圧迫をする自動心肺蘇生器において、
前記頭パッドは、上側開口部と該上側開口部に連通して前記ロッドの先端部に嵌る嵌合部とを有し、
前記上側開口部の内周面と前記ロッドとの間に、前記頭パッドの角度調整用の隙間が設けられて
おり、
前記ロッドは、前記隙間に対応する位置に、前記患者の身長方向に交差する方向に延在する切欠き部を有し、
該切欠き部によって、前記頭パッドの角度調整の許容範囲が、前記患者の左右方向よりも前記患者の身長方向の方で大きくなっていることを特徴とする自動心肺蘇生器。
【請求項2】
前記隙間は、前記頭パッドの所定の面を前記患者の胸骨圧迫位置に当てた状態を維持させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動心肺蘇生器。
【請求項3】
前記ロッドの先端部の表面は、粗面であることを特徴とする請求項
1又は2に記載の自動心肺蘇生器。
【請求項4】
前記頭パッドは、前記嵌合部に連通する下側開口部を更に有し、
前記自動心肺蘇生器は、前記下側開口部から前記患者に向かってレーザー光を照射するレーザー照射機構を備え、
前記衝撃槌は、前記レーザー光の照射時に、前記頭パッドが前記レーザー光の照射を妨げない位置にあることを確認するための初期位置確認手段を備えることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の自動心肺蘇生器。
【請求項5】
前記頭パッドは、前記嵌合部に連通する下側開口部を更に有し、
前記自動心肺蘇生器は、前記下側開口部から前記患者に向かってレーザー光を照射するレーザー照射機構を備え、
前記頭パッドの角度調整の最大傾き角度は、前記レーザー光の照射が妨げられない角度に設定されていることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の自動心肺蘇生器。
【請求項6】
前記頭パッドは、前記患者に接触する部分に平面部を有することを特徴とする請求項1~
5のいずれか一つに記載の自動心肺蘇生器。
【請求項7】
前記自動心肺蘇生器は、人工呼吸手段と、前記衝撃槌と前記昇降機構とを有する胸骨圧迫手段と、を備え、
前記人工呼吸手段と前記胸骨圧迫手段とが一体型の装置として構成されていることを特徴とする請求項1~
6のいずれか一つに記載の自動心肺蘇生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動心肺蘇生器に関する。
【背景技術】
【0002】
心肺蘇生法(Cardiopulmonary Resuscitation;CPRということもある。)としては、用手による胸骨圧迫とマウスツーマウスによる人工呼吸とを組合せて行う方法が知られている。しかし、安定した高品質の心肺蘇生を手動で行うことは難しい。そこで、胸骨圧迫及び人工呼吸が自動化された心肺蘇生器が提案されている。例えば、本出願人は、調整された定時間隔で繰り返し衝撃を付加することによって心臓マッサージを行うとともに、調整された時期と期間とで呼吸用ガスを換気供給する自動心肺蘇生器を提案している(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
布担架は、階段や狭隘部での搬送が容易であり、救命救急現場で多く使用される。自動心肺蘇生器の搬送を容易とし、迅速で安全な装着及び搬送が可能な布担架が提案されている(例えば、特許文献2、3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-84028号公報
【文献】実用新案登録第3161751号公報
【文献】特開2015-139595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動心肺蘇生器では、ロッドとロッドの先端に設けられた頭パッドとを有する衝撃槌によって胸骨圧迫が行われる。心肺蘇生率の向上のために、衝撃槌を患者の心臓部分の適切な位置に当てて心臓マッサージをし続けることが重要である。このとき、衝撃槌による圧迫の力を効率的に患者に伝えるために、頭パッドの底面が患者の胸部に略水平に押し当てられることが望まれる。しかし、布担架での搬送中、例えば階段などの狭い場所では、患者の姿勢をL字状又はV字状の姿勢とせざるを得ない場合があり、患者の姿勢を常に水平に保つことは難しい。患者の姿勢が水平に保たれないと、頭パッドの底面を患者の胸部に略水平に押し当てることができない場合がある。
【0006】
本開示は、患者の姿勢にかかわらず、衝撃槌の頭パッドを患者の胸部に適切に押し当てることができ、衝撃槌による圧迫の力を効率的に患者に伝えることができる自動心肺蘇生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動心肺蘇生器は、ロッドと該ロッドの先端部に設けられた頭パッドとを有する衝撃槌と、該衝撃槌を上下に往復運動させる昇降機構と、を備え、患者に対して胸骨圧迫をする自動心肺蘇生器において、前記頭パッドは、上側開口部と該上側開口部に連通して前記ロッドの先端部に嵌る嵌合部とを有し、前記上側開口部の内周面と前記ロッドとの間に、前記頭パッドの角度調整用の隙間が設けられており、前記ロッドは、前記隙間に対応する位置に、前記患者の身長方向に交差する方向に延在する切欠き部を有し、該切欠き部によって、前記頭パッドの角度調整の許容範囲が、前記患者の左右方向よりも前記患者の身長方向の方で大きくなっていることを特徴とする。切欠き部によって、頭パッドの角度調整の許容範囲が患者の左右方向よりも患者の身長方向の方で大きくなっていることで、搬送中、患者の左右方向よりも身長方向で位置ずれが生じやすいところ、患者の姿勢の変化に柔軟に対応して、より的確な位置を胸骨圧迫することができる。
【0008】
本発明に係る自動心肺蘇生器では、前記隙間は、前記頭パッドの所定の面を前記患者の胸骨圧迫位置に当てた状態を維持させるように構成されていることが好ましい。布担架での搬送中に、患者の姿勢がL字状又はV字状の姿勢となったとしても、頭パッドを患者の胸骨圧迫位置に追随させて、頭パッドが患者の胸骨圧迫位置に適切に接触した状態を維持することができる。
【0010】
本発明に係る自動心肺蘇生器では、前記ロッドの先端部の表面は、粗面であることが好ましい。頭パッドがロッドの先端部に密着することを防止して滑りやすくなるため、頭パッドの角度調整をより円滑に行うことができる。このため、ロッド先端部が頭パッドの内側に密着し頭パッドの角度調整機能が損なわれることを防止することができる。また、頭パッドの経年劣化又は汚れなどによる交換作業を容易、かつ、簡便に行うことができる。
【0011】
本発明に係る自動心肺蘇生器では、前記頭パッドは、前記嵌合部に連通する下側開口部を更に有し、前記自動心肺蘇生器は、前記下側開口部から前記患者に向かってレーザー光を照射するレーザー照射機構を備え、前記衝撃槌は、前記レーザー光の照射時に、前記頭パッドが前記レーザー光の照射を妨げない位置にあることを確認するための初期位置確認手段を備えることが好ましい。レーザー光をより確実に患者へ照射して、より適切な圧迫位置を確認することができる。
【0012】
本発明に係る自動心肺蘇生器では、前記頭パッドは、前記嵌合部に連通する下側開口部を更に有し、前記自動心肺蘇生器は、前記下側開口部から前記患者に向かってレーザー光を照射するレーザー照射機構を備え、前記頭パッドの角度調整の最大傾き角度は、前記レーザー光の照射が妨げられない角度に設定されていることが好ましい。レーザー光をより確実に患者へ照射して、より適切な圧迫位置を確認することができる。
【0013】
本発明に係る自動心肺蘇生器では、前記頭パッドは、前記患者に接触する部分に平面部を有することが好ましい。患者への頭パッドの押し当てによる負荷を分散することができ、胸骨圧迫時の胸骨圧迫骨折を防ぐことができる。また、用手法により近似した心臓マッサージを再現することができる。また、平面部を有することによって、患者の姿勢が搬送中に変化しても当該平面部が患者の胸骨圧迫位置に対して常に平行になるように押し当てることができるので、用手法の手のひらによる胸骨圧迫動作をより忠実に再現できる。
本発明に係る自動心肺蘇生器では、前記自動心肺蘇生器は、人工呼吸手段と、前記衝撃槌と前記昇降機構とを有する胸骨圧迫手段と、を備え、前記人工呼吸手段と前記胸骨圧迫手段とが一体型の装置として構成されていることが好ましい。持ち運び性が良く、救命救急の初期において心肺蘇生を迅速に開始することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、患者の姿勢にかかわらず、衝撃槌の頭パッドを患者の胸部に適切に押し当てることができ、衝撃槌による圧迫の力を効率的に患者に伝えることができる自動心肺蘇生器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る自動心肺蘇生器の一例を示す斜視図である。
【
図6】初期位置確認手段の一例を示す断面図である。
【
図7】レーザー光の照射方向と頭パッドの角度調整の最大傾き角度との好ましい関係を説明するための図である。
【
図10】
図9に示す布担架において袋部を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0017】
本実施形態に係る自動心肺蘇生器100は、
図1又は
図2に示すように、ロッド121aとロッド121aの先端部に設けられた頭パッド121bとを有する衝撃槌121と、衝撃槌121を上下に往復運動させる昇降機構122と、を備え、患者に対して胸骨圧迫をする自動心肺蘇生器において、頭パッド121bは、
図3に示すように、上側開口部51と上側開口部51に連通してロッド121aの先端部に嵌る嵌合部52とを有し、上側開口部51の内周面とロッド121aとの間に、頭パッド121bの角度調整用の隙間71,72が設けられている。
【0018】
まず、
図1を参照して、自動心肺蘇生器100の構成について説明する。自動心肺蘇生装置100は、人工呼吸手段110と胸骨圧迫手段120とが一体型の装置として構成されていることが好ましい。持ち運び性が良く、救命救急の初期において心肺蘇生を迅速に開始することができる。
【0019】
人工呼吸手段110は、患者にガスを吹き込むためのホース111と、ホース111へガスを供給するためのガス供給系統(不図示)とを有する。ガスは、例えば、純酸素、酸素富化空気又は空気である。ホース111の一方の端部は、心肺蘇生器100の筐体101に設けられたホース差込口112に連結される。ホース111の他方の端部は、患者に装着するマスク(不図示)又は気管挿管のチューブ(不図示)に連結される。
【0020】
胸骨圧迫手段120は、アーチ部10と、バーチカルロッド20と、背板30とを備える。
【0021】
アーチ部10は、天面部11と、左右側面部12とを有し、患者の胸部上方にまたがって配置される。アーチ部10は、天面部11から下方に突出し、天面部11に上下方向に移動可能に支持される衝撃槌121と衝撃槌121を上下に往復運動させる昇降機構122とを有する。衝撃槌121は、昇降手段122に連結するロッド121aと、ロッド121aの下端部に取り付けられ、患者の胸部に当てられる頭パッド121bとを有する。昇降手段122の駆動方式がガス駆動方式であるとき、昇降手段122は、シリンダ123を有する。シリンダ123は、容器状であり、ガス供給口(不図示)及びガス排気口(不図示)を有する。シリンダ123の内部空間には、ピストン(不図示)と排気時にピストンを押し戻すスプリング(不図示)とが配置される。アーチ部10の一部は、筐体101となっていることが好ましい。筐体101には、人工呼吸手段110のガス供給系統、昇降手段122の駆動系統及び心肺蘇生器100の制御手段などが収容される。
【0022】
バーチカルロッド20は、左右に一対設けられ、アーチ部の左右側面部12の下端に設けられた固定部13にそれぞれ固定される。バーチカルロッド20は、例えば固定部13のラチェットに係合して、アーチ部10を上下方向に移動可能に支持する。バーチカルロッド20は、目盛り21が表示されていることが好ましい。アーチ部10を患者にセットした状態で、アーチ部10を患者の胸部に向かって押し下げて行き、頭パッド121bが患者の胸部に接した時点で目盛り21が示す値が、患者の胸厚の値に相当する。この読み取った胸厚を基に、衝撃槌121の圧迫深さを設定することができる。このように、患者の一人ひとりに適した圧迫深さのより細かな調整が可能となる。
【0023】
背板30は、患者の胸部下面を支持する板である。背板30は、例えば、背板30に設けた溝又は孔などの係合部(不図示)を、バーチカルロッド20の下端に設けた突起(不図示)に係合させることで、アーチ部10に着脱自在に固定される。
【0024】
背板30は、その板厚方向に貫通するベルト通し孔31を有することが好ましい。ベルト通し孔31に、例えば、
図9に図示するような布担架300のベルト331を挿通させることによって、自動心肺蘇生器100を布担架300に固定することができる。
図9の布担架300は、好ましい形態の一例であって、本発明は布担架300の種類に限定されない。
【0025】
次に、
図2~
図5を参照して、胸骨圧迫手段120についてより詳しく説明する。
図2では、頭パッド121bを透過してその内部を点線で表した。
図3は、パッド受け部44をセンターロッド部43から取り外した状態を示す。
図3のA-A線断面は、患者の左右方向に平行となる面での切断面であり、
図4に断面図を示す。
図3のB-B線断面は、患者の身長方向(頭足方向ともいう。)に平行となる面での切断面であり、
図5に断面図を示す。
【0026】
ロッド121aは、
図2に示すように、センターロッド部43とパッド受け部44とを有することが好ましい。センターロッド部43は、棒状であり、昇降手段122に固定される部分である。パッド受け部44は、ロッド121aの先端部をなし、頭パッド121bを保持する部分である。パッド受け部44は、球状部45と基端部46とを有することが好ましい。
図2及び
図3では一例として、パッド受け部44がセンターロッド部43と別体の形態を示したが、本発明はこれに限定されず、パッド受け部44がセンターロッド部43と一体であってもよい。パッド受け部44がセンターロッド部43と別体である場合、例えば、基端部46の上面に固定用突部47(
図3に図示)を設け、固定用突部47をセンターロッド部43の下端部に設けた挿入穴(不図示)に挿入して、ネジなどの固定部材(不図示)で固定することで、パッド受け部44をセンターロッド部43に対して着脱自在としてもよい。
【0027】
頭パッド121bは、胸骨圧迫時に患者の胸部に押し当てられる部分である。頭パッド121bは、軟質樹脂製であることが好ましい。頭パッド121bを軟質樹脂製とすることで、用手法での胸骨圧迫に類似した柔軟性のある作動をすることができる。軟質樹脂は、例えば、シリコーンゴムなどのシリコーン樹脂、又はウレタンゴムなどのウレタン樹脂である。このうち、軟質樹脂は、シリコーンゴムであることが好ましい。頭パッド121bの硬度は20程度が好ましい。また、軟質樹脂には抗菌剤が練りこんであることが好ましい。
【0028】
頭パッド121bは、
図2に示すように、ロッド121aのパッド受け部44を収容するための空間として上側開口部51と嵌合部52とを有する。上側開口部51には、パッド受け部44の基端部46が収容されることが好ましい。嵌合部52には、パッド受け部44の球状部45が収容されることが好ましい。また、頭パッド121bは、嵌合部52に連通する下側開口部53を更に有することが好ましい。下側開口部53は、患者に対向する面に開口する。患者に対向する面は、例えば、頭パッド121bの底面Sである。また、下側開口部53の嵌合部52との連接部分には、環状部材55が配置されることが好ましい。環状部材55は、例えば、金属製であり、ロッド121aの先端部(例えばパッド受け部44)を支持する支え板であり、ロッド121aの先端部が下側開口部53から飛び出すことを防止することができる。
【0029】
本実施形態に係る自動心肺蘇生器では、頭パッド121bは、患者に接触する部分に平面部54を有することが好ましい。患者への頭パッドの押し当てによる負荷を分散することができる。また、手根部(手のひらの付け根の部分、手のひらの手首の真上の部分)を用いて胸骨圧迫する用手法により近似した心臓マッサージを再現することができる。
【0030】
頭パッド121bは、ロッド121aのパッド受け部44に密着することなく自由に動くことができるように装着されている。ここで、
図3に示すように、上側開口部51の内周面とロッド121aとの間には角度調整用の隙間71,72が設けられている。隙間71,72は、頭パッド121bの所定の面を患者の胸骨圧迫位置に当てた状態を維持させるように構成されていることが好ましい。頭パッド121bを患者の胸骨圧迫位置に追随させて、頭パッド121bが患者の胸骨圧迫位置に適切に接触した状態を維持することができる。隙間71,72は、布担架での搬送中に患者の姿勢がL字状又はV字状の姿勢となったときに、頭パッド121bの所定の面が患者の胸骨圧迫位置に対して常に平行となるように接触しながら頭パッド121bが追随して動くことができる大きさに設計されることが好ましい。頭パッド121bの所定の面は、例えば頭パッド121bの底面Sであることが好ましく、頭パッド121bの平面部54であることがより好ましい。
【0031】
頭パッド121bの角度調整用の隙間71,72は、上側開口部51の内周面と基端部46との間に設けられることが好ましい。頭パッド121bは、上側開口部51の内周面がロッド121a(例えば基端部46)に当たって隙間71,72がなくなる位置まで自在に動かすことができる。隙間71,72を設けることによって、頭パッド121bのロッド121aに対する取り付け角度を変化させることができる。頭パッド121bの所定の位置(例えば頭パッド121bの底面S)が患者の胸部に当たる状態を維持しながら角度調整をすることができる。そして、如何なる姿勢に於いても、頭パッド121bの底面が常に患者の胸部圧迫部分に平行になるように接触させて押し当てることができる。その結果、患者の姿勢の変化に柔軟に対応して、患者の姿勢にかかわらず、衝撃槌121の頭パッド121bを患者の胸部に適切に押し当てることができる。したがって、階段などの搬送中であっても圧迫位置をずらさずに連続して衝撃槌121による圧迫の力を効率的に患者に伝えることができる。また、胸部圧迫位置が搬送中にずれることを防ぎ、かつ、胸骨骨折を防ぎながら連続して安全に心肺蘇生を行うことができる。胸骨圧迫を用手で行う場合、手の平(ひら)を胸骨圧迫位置に水平に当てたまま、上下往復運動を繰り返すことが重要である。本実施形態に係る自動心肺蘇生器100は、階段搬送中も用手に代わり、患者の胸骨圧迫位置に対して頭パッド121bの所定の部分が接触する状態を維持しながら「機械的」に胸骨圧迫を続けることができる。例えば、布担架での搬送中に患者がV字型になった状態でも胸骨圧迫位置に、衝撃槌の頭パッド121bを水平に追随させることができる。また、布担架での階段搬送中に患者の体がねじれるような姿勢になった場合でも、患者の胸骨圧迫位置には衝撃槌の頭パッド121bが常に水平に追随させることができる。
【0032】
本実施形態に係る自動心肺蘇生器では、ロッド121aは、
図3に示すように、隙間71,72に対応する位置に、患者の身長方向(頭足方向)に交差する方向に延在する切欠き部48を有し、切欠き部48によって、頭パッド121bの角度調整の許容範囲が、患者の左右方向よりも患者の身長方向の方で大きくなっていることが好ましい。切欠き部48は、基端部46に設けられることが好ましい。切欠き部48によって、
図3~
図5に示すように、患者の身長方向の隙間72が、患者の左右方向の隙間71よりも大きくなる。その結果、頭パッド121bの角度調整の許容範囲が、患者の左右方向よりも患者の身長方向の方で大きくなる。これによって、搬送中、患者の左右方向よりも身長方向で位置ずれが生じやすいところ、患者の姿勢の変化に柔軟に対応して、より的確な位置を胸骨圧迫することができる。
【0033】
図8は、ロッドの先端部の一例を示す斜視図である。
図8に示すように、本実施形態に係る自動心肺蘇生器では、ロッド121aの先端部の表面は、粗面であることが好ましい。頭パッド121bがロッド121aの先端部に密着することを防止して滑りやすくなるため、頭パッド121aの角度調整をより円滑に行うことができる。ロッド121aの先端部が頭パッド121bの内側に密着し頭パッド121bの角度調整機能が損なわれることがない。また、頭パッド121bの簡便なる脱着交換作業を妨げることがない。ロッド121aの先端部は、例えば、球状部45である。また、粗面とは、ロッド121aの先端部を頭パッド121bの嵌合部52に収容したとき、嵌合部52の内周面に対する接触面積を小さくして滑り性を向上させることができる程度の凹凸を有する面をいい、例えば、梨地処理面である。
【0034】
図6は、初期位置確認手段の一例を示す断面図である。本実施形態に係る自動心肺蘇生器では、頭パッド121bは、例えば
図6に示すように、嵌合部52に連通する下側開口部53を更に有し、自動心肺蘇生器は、下側開口部53から患者に向かってレーザー光を照射するレーザー照射機構を備え、衝撃槌121は、レーザー光の照射時に、頭パッド121bがレーザー光の照射を妨げない位置にあることを確認するための初期位置確認手段81,82を備えることが好ましい。
【0035】
レーザー照射機構は、例えば、ロッド121aが衝撃槌121の上下往復運動方向の下方向に開口する中空部41を有し、中空部41及び頭パッド121bの下側開口部53を通ってレーザー光が照射される構造を有する。レーザー照射機構は、レーザー光を照射するレーザー照射部42を中空部41内に設け、下側開口部53からレーザー光を下向きに照射するか、又はロッド121aの外側にレーザー照射部を設け、光学系を用いて中空部41の中にレーザー光を導いて下側開口部53からレーザー光を下向きに照射してもよい。また、
図4では、一例として、中空部41がパッド受け部44及び固定用突部47にわたって設けられる形態を示したが、本発明はこれに限定されず、中空部41をパッド受け部44及び固定用突部47に加えて、センターロッド部43(
図2に図示)にわたって設けてもよい(不図示)。レーザー照射部42は、例えば、レーザーポインターである。レーザー光の色は特に限定されないが、例えば、赤色レーザー光又は緑色レーザー光である。このうち、視認性がより高い点で、緑色レーザー光がより好ましい。レーザー照射部42から照射されるレーザー光は、中空部41及び頭パッド121bの下側開口部53を通って患者に照射される。
【0036】
初期位置確認手段81,82は、レーザー光の照射時に、頭パッド121bがレーザー光の照射を妨げない位置にあることを、作業者に触覚、視覚又は聴覚などの感覚によって感知させる構造である。初期位置確認手段81,82によって、レーザー光をより確実に患者へ照射して、より適切な圧迫位置を確認することができる。初期位置確認手段81,82によって確認される初期位置は、頭パッド121bの下側開口部53が真下を向く位置であることが好ましい。初期位置確認手段81,82は、例えば、
図6に示すように、ロッド121aの球状部45に設けた突条81が、頭パッド121bの嵌合部52に設けた溝82に嵌った時に生じる振動を作業者が感じることによって、頭パッド121bが適正な位置にあることが確認できる構造である。
【0037】
図7は、レーザー光の照射方向と頭パッドの角度調整の最大傾き角度との好ましい関係を説明するための図である。本実施形態に係る自動心肺蘇生器では、頭パッド121bは、
図7に示すように、嵌合部52に連通する下側開口部53を更に有し、自動心肺蘇生器は、下側開口部53から患者に向かってレーザー光を照射するレーザー照射機構を備え、頭パッド121bの角度調整の最大傾き角度は、レーザー光の照射が妨げられない角度に設定されていることが好ましい。レーザー光をより確実に患者へ照射して、より適切な圧迫位置を確認することができる。頭パッド121bの角度調整の最大傾き角度は、頭パッド121bを最大限に傾けた時の角度である。
図7に示すように、ロッド121aが患者の身長方向(頭足方向)に交差する方向に延在する切欠き部48を有する場合、頭パッド121bの角度調整の最大傾き角度は、頭パッド121bを身長方向に傾けて、身長方向の隙間72がなくなる位置まで動かした時の角度である。頭パッド121bを最大限に傾けた時、頭パッド121bの下側開口部53が、中空部41の中心軸の延長線O上で開口していることが好ましい。
【0038】
図9は、布担架の一例を示す平面図である。本実施形態に係る自動心肺蘇生器100は、布担架300に取り付けられることが好ましい。布担架300は、例えば、特許文献3に記載の布担架を用いることができる。特許文献3に記載の布担架の一例について
図9を参照して説明する。布担架300は、
図9に示すように、帯形状をなし、かつ、長手方向に沿って連接する、頭部載置予定部311、胸部載置予定部312、腹部載置予定部313及び脚部載置予定部314を有するシート部310と、シート部310に設けた把手321,324と、胸部載置予定部312の表面から突出する脇側ベルト片331と、脇側ベルト片331よりも頭部載置予定部311側の表面から突出する肩側ベルト片332と、脇側ベルト片331及び肩側ベルト片332を連結する連結手段333とを有し、かつ、脇側ベルト片331、肩側ベルト片332及び連結手段333がシート部310の長手方向と平行な中心線Oに対して左側及び右側にそれぞれ少なくとも一つずつ設けられている肩部固定ベルト330と、を備える。
【0039】
シート部310は、帯形状をなすシートからなり、主として患者を載せる部分である。シート部310は、脇側ベルト片331をシート部310の表面に突出させる基端部301及び肩側ベルト片332をシート部310の表面に突出させる基端部302を有する。基端部301,302は、例えば、切れ込み、長方形状の抜き孔などの貫通孔であるか、又は脇側ベルト片331又は肩側ベルト片332がシート部310に縫い付けられた部分である。基端部301,302は切れ込み、長方形状の抜き孔などの貫通孔であることがより好ましい。また、シート部310には、自動心肺蘇生器100の予備バッテリーを収納するための収納袋360が取付けられていてもよい。シート部310の材質は、特に限定されないが、例えば、綿、麻などの天然繊維、アクリル、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維である。また、天然繊維、合成繊維などからなる織物に、塩化ビニルなどの樹脂を含浸又はコーティングしたものであってもよい。
【0040】
頭部載置予定部311、胸部載置予定部312、腹部載置予定部313及び脚部載置予定部314は、シート部310の長手方向に沿って連接して一体に形成される。シート部310は、1枚のシートからなることが好ましい。頭部載置予定部311は、胸部載置予定部312よりもシート部310の一方の短辺側の領域である。頭部載置予定部311には、枕311aが取付けられる場合がある。胸部載置予定部312は、肩側ベルト片332の基端部302及び自動心肺蘇生器100の背板取付予定部315を含む領域である。腹部載置予定部313及び脚部載置予定部314は、胸部載置予定部312よりもシート部310の他方の短辺側の領域である。ここで、腹部載置予定部313及び脚部載置予定部314は、例えば成人男性の平均身長に基いて便宜的に区画され、必ずしも脚部載置予定部314に患者の脚部が載置されるわけではない。すなわち、患者の身長が平均身長よりも低いときは、腹部載置予定部313に患者の腹部及び脚部が載置される場合がある。
【0041】
把手321~324は、シート部310の周縁から突出することが好ましく、シート部310の両長辺縁から突出することがより好ましい。把手321~324は、搬送者が手で把持できるか、又はパイプ若しくは棒を挿通して運搬できる形状であることが好ましく、例えば、リング状である。把手321~324の配置は特に限定されないが、例えば、頭部載置予定部311、胸部載置予定部312、腹部載置予定部313及び脚部載置予定部314に、それぞれ1つ以上配置することが好ましい。特に、患者の腰辺りが患者搬送の際に一番重たい部分であるため、腹部載置予定部313及び脚部載置予定部314には把手323,324を集中させて設けることが好ましい。例えば、腹部載置予定部313及び脚部載置予定部314に設ける把手323,324の数は、シート部310の長辺一辺当たり4個以上であることが好ましい。また、把手322は、背板取付予定部315の両脇に配置されることが好ましい。自動心肺蘇生器100を取付けた状態のまま、安定して搬送することができる。
【0042】
肩部固定ベルト330は、患者の腕の付け根部分をシート部310に確実に緊縛固定させるベルトである。肩部固定ベルト330は、左腕用及び右腕用があり、シート部310の長手方向と平行な中心線Oに対して左側及び右側にそれぞれ一つずつ設けられている。脇側ベルト片331は、基端部301からシート部310の表面に突出し、患者の脇下から肩前部にわたって掛け回される。肩側ベルト片332は、基端部302からシート部310の表面に突出し、患者の肩上部から肩前部にわたって掛け回される。連結手段333は、例えば、ラチェットバックル、カムバックルなどのバックルである。
【0043】
担架300は、
図9に示すように、腹部載置予定部313の表面に設けられたベルト通し部341とベルト通し部341を挿通する腹部固定ベルト342とを更に備えることが好ましい。ベルト通し部341をシート部310の表面に配置することで、患者の胴囲の大小にかかわらず、患者を担架により強固に固定して、患者の左右の横ずれをより抑制することができる。また、担架300は、必要に応じて、膝固定ベルト343及び/又は足首固定ベルト344を更に備えていてもよい。膝固定ベルト343及び足首固定ベルト344は、シート部310の裏面側を通って配置されることが好ましい。また、担架300は、
図9に示すように、背負いベルト370を備えることが好ましい。背負いベルト370は、例えば、
図9に示すようにシート部310の短辺に取付けられるか、又はシート部310の角部に取付けられてもよい。担架300を自動心肺蘇生器100の運搬用収納ケースとして用いる場合はケースの持手となり、担架300で患者を搬送する場合は搬送者が背負いベルト370で担架を背負ってもよい。
【0044】
図10は、
図9に示す布担架において袋部を説明するための図である。脚部載置予定部314は、シート部310の両長辺の縁に沿って設けられた固定手段350を有し、固定手段350は、脚部載置予定部314の先端部314aを、腹部載置予定部313側に向かってシート部310の表面を内側にして折り返した、折り返し部分を着脱自在に固定し、脚部載置予定部314の先端部314aを、腹部載置予定部313に向かってシート部の表面を内側にして折り返して形成した袋部351は、処置時には患者の脚部を収納する脚袋となり、かつ、非処置時にはアーチ部310及びバーチカルロッド320を収容する収納袋となることが好ましい。固定手段350は、例えば、面ファスナーである。袋部351を脚袋として用いることで、患者の上下方向のずれをより抑制することができる。袋部351を収容袋として用いることで、救命関連装置の部品点数を削減することができる。また、救急現場でのセッティングの更なる迅速化を図ることができる。
【0045】
本実施形態に係る自動心肺蘇生器100の使用方法の一例を説明するが、本発明はこの使用方法に限定されない。自動心肺蘇生器100は、背板30が例えば
図9に示すような布担架300の背板取付予定部315に取り付けられることによって、布担架300に固定されている。そして、布担架300に取り付けられた背板30に患者が乗せられる。次いで、背板30にアーチ部10及びバーチカルロッド20が取り付けられる。このとき、レーザー照射機構によって、患者にレーザー光を照射して適切な胸骨圧迫位置を確認することが好ましい。そして、アーチ部10を患者の胸部に向かって押し下げて、頭パッド121bの所定の面(例えば底面S)を患者の胸部の表面(胸骨圧迫位置)に当てる。この状態を胸骨圧迫の開始状態とする。開始状態では、頭パッド121bの所定の面が患者の胸骨圧迫位置に平行となるように当てられることが好ましい。胸骨の圧迫骨折をより防止することができる。自動心肺蘇生器100による胸骨圧迫は、開始状態から衝撃槌120が下方に移動して胸骨を圧迫し、衝撃槌120が上方に移動して開始状態に戻る動作を繰り返すことによって実行される。本実施形態に係る自動心肺蘇生器100では、例えば布担架での搬送中に患者の姿勢が変化しても、隙間71,72によって、開始状態における頭パッド121bの患者の胸骨圧迫位置への接触状態を維持することができる。このため、衝撃槌120の頭パッド122bを患者の胸部に適切に押し当てることができ、衝撃槌120による圧迫の力を効率的に患者に伝えることができる。
【0046】
また、
図10に示すように担架300において患者の身長に合わせて脚部載置予定部314を折り返して袋部351を形成し、袋部351で患者の脚部を固定することによって、患者が、例えばV字型などの姿勢となった場合、患者の体が下方にずれることを防止する作用を奏する。本実施形態に係る自動心肺蘇生器100における頭パッド121bの角度調整用の隙間71,72による作用に加えて、担架300における袋部351による作用の相乗効果によって、衝撃槌120の頭パッド122bを患者の胸部により適切に押し当てることができ、衝撃槌120による圧迫の力をより効率的に患者に伝えることができる。
【符号の説明】
【0047】
10 アーチ部
11 天面部
12 左右側面部
13 固定部
20 バーチカルロッド
21 目盛り
30 背板
41 中空部
42 レーザー照射部
43 センターロッド部
44 パッド受け部
45 球状部
46 基端部
47 固定用突部
48 切欠き部
51 上側開口部
52 嵌合部
53 下側開口部
54 平面部
55 環状部材
71,72 隙間
81,82 初期位置確認手段
100 自動心肺蘇生器
101 筐体
110 人工呼吸手段
111 ホース
112 ホース差込口
120 胸骨圧迫手段
121 衝撃槌
121a ロッド
121b 頭パッド
122 昇降機構
123 シリンダ
300 担架
301,302 基端部
310 シート部
311 頭部載置予定部
311a 枕
312 胸部載置予定部
313 腹部載置予定部
314 脚部載置予定部
314a 脚部載置予定部の先端部
315 背板取付予定部
321~324 把手
330 肩部固定ベルト
331 脇側ベルト片
332 肩側ベルト片
333 連結手段
341 ベルト通し部
342 腹部固定ベルト
343 膝固定ベルト
344 足首固定ベルト
350 固定手段
351 袋部
360 収納袋
O 中空部の中心軸の延長線
S 頭パッドの底面