(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】締付トルク発生機構及び油圧式パルスレンチ
(51)【国際特許分類】
B25B 21/02 20060101AFI20220719BHJP
【FI】
B25B21/02 J
(21)【出願番号】P 2018144913
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000236698
【氏名又は名称】不二空機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100044
【氏名又は名称】秋山 重夫
(74)【代理人】
【識別番号】100205888
【氏名又は名称】北川 孝之助
(72)【発明者】
【氏名】三藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 真一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健次
(72)【発明者】
【氏名】長門 篤司
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-040378(JP,U)
【文献】実開平03-040076(JP,U)
【文献】特開平10-015843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/02
B25B 23/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に作動油が充填されるオイルシリンダと、
オイルシリンダに対して相対回転可能に挿入される主軸と、
主軸に取り付けられるブレードとを備え、
オイルシリンダを主軸に対して相対回転させ、ブレードと、オイルシリンダの内面に設けられた隔壁とによってオイルシリンダ内に高圧室と低圧室とを形成することで、主軸に対して打撃トルクを与える締付トルク発生機構であって、
高圧室と低圧室とを連通する連通路をさらに備え、
連通路の少なくとも一部が、オイルシリンダに
移動しないように固定され
たライナーによって構成され
ており、
ライナーによって連通路の流路面積が整えられている、
締付トルク発生機構。
【請求項2】
連通路の少なくとも一部が、
オイルシリンダの隔壁に設けられている貫通孔と、オイルシリンダに
移動しないように固定され
たライナーに設けられている連通孔によって構成され
ており、
連通孔の開口面積が貫通孔の開口面積よりも小であり、且つ連通孔が貫通孔に内包される形状であることにより、連通孔によって連通路の流路面積が整えられている、
請求項1記載の締付トルク発生機構。
【請求項3】
連通路の少なくとも一部が、
オイルシリンダの隔壁に設けられている貫通孔と、オイルシリンダに
移動しないように固定され
たライナーに設けられている連通孔と、ライナーに挿入された調節部材とによって構成され
ており、
連通孔の開口面積が貫通孔の開口面積よりも小であり、且つ連通孔が貫通孔に内包される形状であることにより、連通孔によって連通路の流路面積が整えられており、
連通孔によって整えられた連通路の流路面積を調節部材によって調節する、
請求項1記載の締付トルク発生機構。
【請求項4】
連通路の流路面積を可変とするための調節部材をさらに備え、
連通路の少なくとも一部が、
ライナーと、調節部材とによって構成されており、
ライナーと調節部材とが隣接している、請求項1
又は2記載の締付トルク発生機構。
【請求項5】
請求項1
から4のいずれかに記載の締付トルク発生機構を備えた油圧式パルスレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボルトやナットなどを締め付ける又は緩めるための締付トルクを発生させる締付トルク発生機構及びそれを用いた油圧式パルスレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、締付トルク発生機構を備えた油圧式パルスレンチが開示されている。締付トルク発生機構は、内部に作動油が充填されたオイルシリンダと、オイルシリンダ内に相対回転可能に挿入された主軸と、主軸に装着された一対のブレードとによって構成されている。そして、オイルシリンダを主軸に対して相対回転させ、ブレードと、オイルシリンダの内面に設けられた隔壁とによってオイルシリンダ内に高圧室と低圧室とを形成することで、主軸に対して間欠的な締付トルクを与える仕組みとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、オイルシリンダの相対回転を円滑に行うため、隔壁には高圧室と低圧室を連通する連通路が設けられており、作動油が高圧室から低圧室に流れるようになっている。ただ、作動油の流れる量が多いと、高圧室と低圧室との圧力差が小さくなって十分な大きさの打撃トルクが得られない。一方で、作動油の流れる量が少ないと、高圧室内の作動油の圧力によってオイルシリンダの回転が阻害され、オイルシリンダの相対回転を円滑に行えなくなる場合がある。そのため、連通路を精度良く設けることが重要になってくるが、隔壁はオイルシリンダの内面側に位置するため、その作業は困難を極める。作業性を向上させるために、オイルシリンダの内外に跨る孔を別途設け、この孔を連通路形成用の作業用孔として用いることも行われるが、この方法は、オイルシリンダと、オイルシリンダを内包するシリンダケースとが別体である場合しか適用できず、近年見られるような、シリンダケース一体型のオイルシリンダには適用できない。
【0005】
そこで本発明は、高圧室と低圧室とを連通する連通路を簡単に且つ精度良く設けることが可能な締付トルク発生機構の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の締付トルク発生機構は、内部に作動油が充填されるオイルシリンダ11と、オイルシリンダ11に対して相対回転可能に挿入される主軸12と、主軸12に取り付けられるブレード13とを備え、オイルシリンダ11を主軸12に対して相対回転させ、ブレード13と、オイルシリンダ11の内面に設けられた隔壁11cとによってオイルシリンダ11内に高圧室HRと低圧室LRとを形成することで、主軸12に対して打撃トルクを与える締付トルク発生機構であって、高圧室HRと低圧室LRとを連通する連通路Pをさらに備え、連通路Pの少なくとも一部が、オイルシリンダ11に固定される別部材15によって構成されていることを特徴としている。
【0007】
また、連通路Pの流路面積を可変とするための調節部材16をさらに備え、連通路Pの少なくとも一部が、別部材15と、調節部材16とによって構成されており、別部材15と調節部材16とが隣接していても良い。
【0008】
本発明の油圧式パルスレンチは、上記いずれかの締付トルク発生機構を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
この発明の締付トルク発生機構は、連通路の少なくとも一部が、オイルシリンダに固定される別部材によって構成されているため、連通路を簡単に且つ精度良く設けることができる。すなわち、オイルシリンダとは別の部品であるため、加工が行い易く、簡単に精度を出すことができるとともに、オイルシリンダ側の孔精度はラフでも良いため、オイルシリンダの製造も簡単になる。
【0010】
連通路の流路面積を可変とするための調節部材をさらに備え、連通路の少なくとも一部が、別部材と、調節部材とによって構成されており、別部材と調節部材とが隣接している場合でも、連通路を簡単に精度良く設けることができる。また、別部材によって整えられた連通路を基準として、調節部材を用いて連通路の流路面積を変えることができるため、流路面積の調節作業も行い易い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る締付トルク発生機構を備えた油圧式パルスレンチを示す断面図である。
【
図2】主軸の軸方向と直交する方向での締付トルク発生機構の断面図である。
【
図3】高圧室と低圧室とを形成した状態を示す締付トルク発生機構の断面図である。
【
図4】
図4Aはオイルシリンダと固定部材(ライナー)と調節部材を示す断面分解斜視図、
図4Bは、
図4Aを組み立てた状態を示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、この発明の締付トルク発生機構10およびこれを備えた油圧式パルスレンチ1の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、油圧式パルスレンチ1の断面図を示している。この油圧式パルスレンチ1は、把持部2と、この把持部2の上端において前後方向に延びる本体ケーシング3とを備えている。把持部2には、給気口4と、操作レバー5とが設けられている。また、本体ケーシング3の後部側には、例えばベーン式のエアモータ6が収納され、エアモータ6の前部側には、締付トルク発生機構10が収納されている。
【0013】
締付トルク発生機構10は、内部に作動油が充填されるオイルシリンダ11と、オイルシリンダ11に対して相対回転可能に挿入される主軸12と、主軸12に取り付けられるブレード13とを備えている。
【0014】
オイルシリンダ11は、一方端部が塞がれた有底筒状のシリンダ本体11aと、シリンダ本体11aの他方端部を塞ぐエンドプレート11bとを備えている。なお、一般的には、オイルシリンダは別体のシリンダケースによって覆われているが、このオイルシリンダ11は、シリンダケースの機能をも備えている。換言すれば、シリンダケース一体型のオイルシリンダとされている。エンドプレート11bは、エアモータ6のロータ6aと連結されており、オイルシリンダ11がエアモータ6によって回転駆動されるようになっている。このオイルシリンダ11の内部には作動油が満たされている。
【0015】
主軸12は、シリンダ本体11aの底部と、エンドプレート11bとによって相対回転自在に保持されている。主軸12は、その先端側がオイルシリンダ11から突出しつつ、さらに本体ケーシング3からも突出している。突出する先端部には、ボルトやナットなどを回すためのソケット(図示せず)等を取り付けるための取付部12aが形成されている。一方、オイルシリンダ11内に位置する基端側には、ブレード13を収容するための溝孔12bが形成されている(
図2参照)。また、溝孔12bに挿入されたブレード13を付勢するバネ14を装着するために、バネ装着孔12cが形成されている。
【0016】
ブレード13は2枚設けられており、主軸12の周方向で互いに180度位相を異ならせるようにして溝孔12bに挿入されている。そして、この一対のブレード13、13は、バネ14によって主軸12から突出する方向に付勢されており、オイルシリンダ11の内面に常に摺接しつつ、オイルシリンダ11の内面形状に合わせて出退自在とされている。
【0017】
図2は、主軸12の軸方向に直交する方向での締付トルク発生機構10の断面図である。図に示すように、シリンダ本体11aの内面形状は、中央がくびれた繭状若しくは略ひょうたん状とされている。くびれた部分は、シリンダ本体11aの中心(主軸12の中心)に向かって突出する一対の隔壁11c、11cによって形成されている。また、隔壁11cから周方向に約90度位相を進ませた位置に、シリンダ本体11aの中心(主軸12の中心)に向かって突出するシール突起11dが設けられている。主軸12についても、溝孔12bから周方向に約90度位相を進ませた位置に、シリンダ本体11aの内面(径外方向)に向かって突出する主軸側シール突起12dが設けられている。そして、隔壁11cと主軸側シール突起12dとが油密状態で密接し、シール突起11dとブレード13の先端面とが油密状態で密接することで、オイルシリンダ11内が周方向において4つの部屋に区画されるようになっている。なお、ブレード13の先端面が摺接する最内面F1は、シリンダ本体11aの内面側に環状に設けられた例えばリブ11eの先端面によって構成されている。この最内面F1は、複数(3つ)の円を、シール突起11d、11d同士を結ぶ仮想線と平行に僅かにずらしながら配置することで形成された略小判状(略トラック状)であって、隔壁11c及びシール突起11dに内接している。
【0018】
上記構成の締付トルク発生機構10は、エアモータ6によってオイルシリンダ11が回転駆動されると、オイルシリンダ11に充填されている作動油(図示せず)を介してブレード13にオイルシリンダ11の回転力が伝わり、主軸12が回転する。なお、この回転を利用してボルトやナットを締め付ける。ボルトやナットなどがある程度締め付けられて締付負荷が大となると、主軸12の回転が鈍る。一方で、オイルシリンダ11は回転し続けるため、主軸12とオイルシリンダ11との相対回転位置が変化していく。その過程において、隔壁11cが主軸側シール突起12dに密接するとともに、ブレード13の先端面がシール突起11dに密接する。すなわち、オイルシリンダ11内が回転方向において4つの部屋に区画される特定位置に至る(
図3)。そして、部屋内に封じ込められた作動油が、相対的に近づいてくるブレード13によって圧縮される(高圧室HRが形成される)。一方、ブレード13を挟んで高圧室HRの反対側の部屋では作動油は圧縮されず、この部屋は低圧室LRとなる。オイルシリンダ11は高速で回転していることから、この高圧室HRと低圧室LRとが短時間に連続して形成される。その結果、ブレード13を介して主軸12に間欠的な締付トルク(パルス状の打撃トルク)が付与される。
【0019】
ところで、上記締付トルク発生機構10は、高圧室HRと低圧室LRとを連通する連通路Pと、連通路Pの流路面積を可変とする調節手段Rとを備えている。連通路Pの一部は、隔壁11cに設けられた貫通孔11c1によって構成されている。ただ、貫通孔11c1は、オイルシリンダ11の内面側に位置しているため、精度良く形成することが困難である。そこで、本発明の締付トルク発生機構10では、オイルシリンダ11とは別の部品であるライナー15を用いている。
【0020】
円筒状のライナー15には、
図4に示すように、軸方向と直交する方向に貫通する連通孔15aが設けられている。この連通孔15aの開口面積は、例えば高圧室HRから低圧室LRに流れる作動油を一定程度絞ることができる大きさ、すなわち、高圧室HRと低圧室LRとの間に一定以上の圧力差が生じうる大きさとされており、少なくとも貫通孔11c1よりも小とされている。なお、貫通孔11c1の開口面積は、高圧室HRと低圧室LRとの間に一定上の圧力差を生じさせない大きさとされている。連通孔15aの形状は、貫通孔11c1に内包される形状とされている(
図4B参照)。具体的には、貫通孔11c1が略長方形状とされ、連通孔15aが略長円状とされている。
【0021】
このライナー15は、貫通孔11c1と連通し、オイルシリンダ11の軸方向で開口するようにして隔壁11cに設けられた挿入孔11c2に挿入され、且つ移動しないように固定されている。具体的には、ライナー15の後端側に、非円形(長円形)の回転止め15bが設けられており、挿入孔11c2内での回転が拘束されている。また、軸方向の移動は、エンドプレート11bによって拘束されている。ライナー15を連通孔15aに挿入すると、隔壁11cの貫通孔11c1と連通孔15aとが連通し、連通孔15aが連通路Pの一部を構成する。
【0022】
このように、連通路Pの流路面積や形状をライナー15の連通孔15aによって整えることにより、貫通孔11c1をラフに形成することが可能となる。そのため、オイルシリンダ11の製造が容易になる。例えば貫通孔11c1を鋳抜きによって形成することもできる。また、ライナー15がオイルシリンダ11とは別部材であるため、連通路Pの一部を構成する連通孔15aを簡単に且つ精度良く形成することができる。
【0023】
調節手段Rは、筒状とされたライナー15に挿入される調節部材16と、調節部材16の軸方向の位置を調節する調節ネジ17とで構成されている(
図1参照)。具体的に説明すると、調節部材16は、
図4Aに示すように、ライナー15の内径と略同径とされた略円柱状であって、外周にライナー15の連通孔15aと連通し、連通路Pの一部を構成する凹溝16aが設けられている。この凹溝16aは周方向に連続している(環状)。この調節部材16が、調節部材16の軸方向前側に設けられた調節ネジ17と連結(螺合)されており、調節ネジ17を回すことで軸方向位置を変え、連通孔15aと凹溝16aとの重なり合い長さを適宜変える、すなわち、連通路Pの流路面積を調節(可変)することができるようになっている。調節部材16についても、後端側に、非円形(長円形)の回転止め16bが設けられており、ライナー15内での回転が拘束されている。換言すれば、ライナー15が調節部材16をオイルシリンダ11に固定するための固定部材としても機能している。
【0024】
なお、調節部材16には、凹溝16aとは別に、連通路Pと連通する側孔16cと、側孔16cと連通する軸孔16dとが設けられている。これら側孔16cと軸孔16dは、リリーフバルブ20を介して下流に位置するピストン21に作動油の圧力を作用させ、ピストン21の背部に配置したロッド22によってパイロットバルブ23を操作し、エアモータ6へのエア供給を遮断する、所謂シャットオフバルブ機構Sへ作動油を供給するための通路である(
図1参照)。
【0025】
以上に、この発明の具体的な実施形態について説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施形態においては、シリンダケース一体型のオイルシリンダ11を用いていたが、シリンダケースとオイルシリンダとが別体とされていても良い。また、別部材15として円筒状のライナーを用いていたが、断面円弧状や半円状など種々の形状の部品を採用し得る。また、別部材15を隔壁11c内(貫通孔11c1の下流側)ではなく、隔壁11cの外(貫通孔11c1の上流側)に設けても良い。別部材15と調節部材16とは隣接している(別部材15の上流側又は下流側に調節部材16が位置している)ことが好ましいが、調節手段として、別部材15に依存しない公知の弁機構を用いるのであれば、必ずしも別部材15と調節部材16とが隣接していなくても良い。また、連通孔15aを孔ではなく溝で設けても良い。凹溝16aについても、溝ではなく調節部材16に孔を設けることで流路を確保するようにしても良い。
【符号の説明】
【0026】
1 油圧式パルスレンチ
2 把持部
3 本体ケーシング
4 給気口
5 操作レバー
6 エアモータ
6a ロータ
10 締付トルク発生機構
11 オイルシリンダ
11a シリンダ本体
11b エンドプレート
11c 隔壁
11c1 貫通孔
11c2 挿入孔
11d シール突起
11e リブ
12 主軸
12a 取付部
12b 溝孔
12c バネ装着孔
12d 主軸側シール突起
13 ブレード
14 バネ
15 別部材(ライナー)
15a 連通孔
15b 回転止め
16 調節部材
16a 凹溝
16b 回転止め
16c 側孔
16d 軸孔
17 調節ネジ
20 リリーフバルブ
21 ピストン
22 ロッド
23 パイロットバルブ
HR 高圧室
LR 低圧室
P 連通路
R 調節手段
S シャットオフバルブ機構
F1 最内面