(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】離型フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20220719BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220719BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20220719BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B32B27/32 101
C08J7/04 Z CFD
B32B27/00 L
(21)【出願番号】P 2018153023
(22)【出願日】2018-08-16
(62)【分割の表示】P 2018504810の分割
【原出願日】2017-09-20
【審査請求日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2016182501
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 麻莉
(72)【発明者】
【氏名】田中 康平
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢康
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/109340(WO,A1)
【文献】特開2001-105547(JP,A)
【文献】特開平09-077890(JP,A)
【文献】特開平08-176372(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109341(WO,A1)
【文献】特開2015-189014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 7/04- 7/056
C09J 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に樹脂層が設けられた離型フィルムであって、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、架橋剤1~20質量部と、ケン化率が99%以下であるポリビニルアルコール
100~1000質量部とを含むことを特徴とする離型フィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコールのケン化率が98%未満であることを特徴とする請求項1記載の離型フィルム。
【請求項3】
酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分が、エチレンおよび/またはプロピレンを含むことを特徴とする請求項1または2記載の離型フィルム。
【請求項4】
酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分におけるプロピレンの含有量が50質量%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項5】
酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分におけるプロピレンの含有量が95質量%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項6】
アクリル系被着体を樹脂層に貼り付けて測定したときの樹脂層と被着体との間の剥離力が3.0N/cm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項7】
基材フィルムを構成する樹脂がポリエステルであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の離型フィルムを製造するための方法であって、基材フィルムに、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、架橋剤1~20質量部と、ケン化率が99%以下であるポリビニルアルコール
100~1000質量部とを含む樹脂層形成用液状物が塗布されたフィルムを乾燥、延伸する工程を含むことを特徴とする離型フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
離型フィルムは、医療分野、工業分野に広く使用されている。その具体例としては、プリント配線板、フレキシブルプリント配線板、多層プリント配線板などの製造のための工程材料や、医療用テープ、ハップ剤、粘着材料、液晶ディスプレイ用部品などを保護するための保護材料が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、様々な被着体に対して良好な離型性を有する酸変性ポリオレフィン樹脂層を離型層とした離型フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された離型フィルムは、離型後の被着体に高度の平面性が要求される場合には、その表面状態が十分なものとはいえないことがあった。詳細には、特許文献1に記載された離型フィルムでは、基材への樹脂層のコーティングの際にムラが生じて、その樹脂層の表面に、高さ数十nm~数百nm程度の、連続した筋状、あるいは離散状などの微小な非平面形状が発生し、これが被着体に転写されて、被着体の品位の低下につながることがあった。
また、特許文献1に記載された離型フィルムは、海上輸送時や梅雨時期など高湿度環境下で長期間保管した場合、フィルムの端部に反りが発生してしまい、離型フィルムとして使用する際に、反った端部が被着体を保護できないなどの不具合を生じることがあった。
【0006】
本発明は、これらの問題に鑑み、高さ数十nm~数百nm程度の微小な非平面形状の発生をも防止することができる、より塗膜均一性に優れた高品位な離型フィルムであって、さらに高湿度環境下で長期間保管した場合でも、フィルム端部の反りが抑制された離型フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のケン化率を有するポリビニルアルコールを含有する樹脂層を離型層とする離型フィルムが、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)基材フィルムの少なくとも片面に樹脂層が設けられた離型フィルムであって、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、架橋剤1~20質量部と、ケン化率が99%以下であるポリビニルアルコール100~1000質量部とを含むことを特徴とする離型フィルム。
(2)ポリビニルアルコールのケン化率が98%未満であることを特徴とする(1)記載の離型フィルム。
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分が、エチレンおよび/またはプロピレンを含むことを特徴とする(1)または(2)記載の離型フィルム。
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分におけるプロピレンの含有量が50質量%以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の離型フィルム。
(5)酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分におけるプロピレンの含有量が95質量%以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の離型フィルム。
(6)アクリル系被着体を樹脂層に貼り付けて測定したときの樹脂層と被着体との間の剥離力が3.0N/cm以下であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の離型フィルム。
(7)基材フィルムを構成する樹脂がポリエステルであることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の離型フィルム。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の離型フィルムを製造するための方法であって、基材フィルムに、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、架橋剤1~20質量部と、ケン化率が99%以下であるポリビニルアルコール100~1000質量部とを含む樹脂層形成用液状物が塗布されたフィルムを乾燥、延伸する工程を含むことを特徴とする離型フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の離型フィルムは、離型性に優れるとともに、高さ数十nm~数百nm程度の微小な非平面形状の発生をも防止することができる、より塗膜均一性に優れた高品位な離型フィルムであり、しかも、高湿度環境下で長期間保管した場合であっても、フィルム端部の反りが抑制されたものである。さらに、低湿度環境下で剥離した際に生じる剥離帯電も抑制できる。本発明の離型フィルムは、離型性に優れているだけでなく、被着体を積層した積層フィルムを製品とする場合の歩留まりを向上し、品質を安定化することができるため、保護フィルムなどとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の離型フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層が設けられたものであり、樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールと架橋剤とを含有する。
【0011】
本発明の離型フィルムを構成する基材フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステルフィルム、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミド6、ポリ-p-キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9Tなどのポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、これらの複層体(例えば、ポリアミド6/MXD6ナイロン/ポリアミド6、ポリアミド6/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ポリアミド6)や混合体などが用いられ、機械的強度や寸法安定性を有するポリエステルフィルム、ポリアミドフィルムが好ましい。
【0012】
基材フィルムを構成する樹脂の固有粘度は0.55~0.80であることが好ましく、0.60~0.75であることがより好ましい。固有粘度が上記範囲未満であると、フィルムの製膜時に切断が起こり易く、安定的に生産するのが困難であり、得られたフィルムの強度も低い。一方、固有粘度が上記範囲を超える場合には、フィルムの生産工程において樹脂の溶融押出時に剪断発熱が大きくなり、押出機にかかる負荷が大きくなり、生産速度を犠牲にせざるを得なかったり、フィルムの厚み制御も難しくなる等、フィルムの生産性が低下する。また、得られたフィルムは、熱分解やゲル化物が増加して、表面欠点や異物、表面粗大突起が増加する。また、あまりに固有粘度の高いものは、重合時間や重合プロセスが長く、コストを押し上げる要因ともなる。
【0013】
基材フィルムを構成する樹脂の重合方法は特に限定されず、例えばポリエステルの場合であれば、エステル交換法、直接重合法等が挙げられる。エステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiなどの酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Geなどの酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。
重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒド等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合してもよい。
【0014】
基材フィルムには必要に応じ、添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ピニング剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられ、熱安定剤としては、リン系化合物等が挙げられ、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0015】
次に基材フィルムの製造方法の一例を、ポリエステルフィルムを具体例として説明する。
まず、十分に乾燥されたポリエステルを、押出機に供給し、十分に可塑化され、流動性を示す温度以上で溶融し、必要に応じて選ばれたフィルターを通過させ、その後Tダイを通じてシート状に押出す。このシートを、ポリエステルのガラス転移温度(Tg)以下に温度調節した冷却ドラム上に密着させて、未延伸フィルムを得る。
得られた未延伸フィルムを一軸延伸法により一軸配向させるか、もしくは二軸延伸法により二軸配向させる。二軸延伸法としては、特に限定はされないが、逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法を用いることができる。
【0016】
一軸延伸法では、未延伸フィルムを、樹脂のTg~Tgより50℃高い温度の範囲で、長手もしくは巾方向に、2~6倍程度の延伸倍率となるよう延伸する。
同時二軸延伸法では、未延伸フィルムを、樹脂のTg~Tgより50℃高い温度の範囲で、長手および巾方向にそれぞれ2~4倍程度の延伸倍率となるよう二軸延伸する。同時二軸延伸機に導く前に、未延伸フィルムに1.2倍程度までの予備縦延伸を施しておいてもよい。
また、逐次二軸延伸法では、未延伸フィルムを、加熱ロールや赤外線等で加熱し、長手方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。縦延伸は2個以上のロールの周速差を利用し、ポリエステルのTg~Tgより40℃高い温度の範囲で、延伸倍率2.5~4.0倍とするのが好ましい。縦延伸フィルムを、続いて連続的に、巾方向に横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して、二軸配向フィルムとする。横延伸は樹脂のTg~Tgより40℃高い温度で開始し、最高温度は樹脂の融点(Tm)より(100~40)℃低い温度であることが好ましい。横延伸の倍率は最終的なフィルムの要求物性に依存し調整されるが、3.5倍以上、さらには3.8倍以上とするのが好ましく、4.0倍以上とするのがより好ましい。長手方向と巾方向に延伸後、さらに、長手方向および/または巾方向に再延伸することにより、フィルムの弾性率を高めたり寸法安定性を高めたりすることもできる。
延伸に続き、樹脂のTmより(50~10)℃低い温度で数秒間の熱固定処理と、熱固定処理と同時にフィルム巾方向に1~10%の弛緩することが好ましい。熱固定処理後、フィルムをTg以下に冷却して二軸延伸フィルムを得る。
【0017】
上記製造方法によって単層のフィルムが得られるが、離型フィルムを構成する基材フィルムは、2種以上の層を積層してなる多層フィルムであってもよい。
多層フィルムは、上記製造方法において、それぞれの層を構成する樹脂を別々に溶融して、複層ダイスを用いて押出し、固化前に積層融着させた後、二軸延伸、熱固定する方法や、2種以上の樹脂を別々に溶融、押出してそれぞれフィルム化し、未延伸状態で、または延伸後に、それらを積層融着させる方法などによって製造することができる。プロセスの簡便性から、複層ダイスを用い、固化前に積層融着させることが好ましい。
【0018】
本発明の離型フィルムは、上記の基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層が設けられたものであり、樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールと架橋剤とを含有する。
【0019】
樹脂層に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分を主成分とし、酸変性成分により変性された樹脂である。
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン成分は、エチレン、プロピレン、ブテンから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、エポキシプリプレグとの離型性の観点でプロピレンを含むことがより好ましい。エポキシプリプレグとの離型性をさらに向上させる観点で、オレフィン成分におけるプロピレンの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
【0020】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する酸変性成分としては、不飽和カルボン酸成分が挙げられ、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、後述する樹脂の水性分散化において、樹脂を安定的に分散するために、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。これらの酸変性成分は酸変性ポリオレフィン樹脂中に2種類以上含まれていてもよい。
【0021】
酸変性ポリオレフィン樹脂における酸変性成分の割合は、1~10質量%であることが好ましく、2~9質量%であることがより好ましい。酸変性成分が1質量%未満の場合は、樹脂層に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂中の極性基の割合が少なくなるため、樹脂層は、基材フィルムとの十分な密着性が得られない傾向にあり、樹脂層から離型した被着体を汚染することがある。さらに後述する樹脂の水性分散化において、樹脂を安定的に分散するのが困難になる傾向がある。一方、酸変性成分の割合が10質量%を超える場合は、極性基の割合が多くなるため、樹脂層と基材フィルムとの密着性が十分にはなるが、樹脂層と被着体との密着性も同時に高くなるため、被着体との離型性が低下する傾向がある。
【0022】
また、基材フィルムとの密着性をさらに向上させる理由から、酸変性ポリオレフィン樹脂は、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を含有してもよい。
側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、ポリエステルフィルムとの接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがさらに好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分は、酸変性成分と同様、分子内に極性基を有している。そのため側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を酸変性ポリオレフィン樹脂中に含めることによって、樹脂層は、基材フィルムとの密着性が高くなる。しかし、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分量が多すぎると、オレフィン由来の樹脂の性質が失われ、樹脂層は、被着体との離型性が低下する可能性がある。酸変性ポリオレフィン樹脂中における、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分の割合は、1~40質量%であることが好ましく、2~35質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることがさらに好ましく、6~18質量%であること特に好ましい。
なお、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を用いても、基材フィルムとの密着性以外に樹脂層が有する離型性を損ねることがない。
【0023】
酸変性ポリオレフィン樹脂には、その他のモノマーが、少量、共重合されていてもよい。その他のモノマーとして、例えば、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビニリデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0024】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する各成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されない。共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。
【0025】
酸変性ポリオレフィン樹脂の融点は80~200℃であることが好ましく、90~150℃であることがより好ましい。融点が200℃を超える場合は、基材フィルム表面への樹脂層形成時に、高温処理が必要となる場合がある。一方、融点が80℃未満では、樹脂層は離型性が低下する。
【0026】
本発明において、樹脂層は、上記酸変性ポリオレフィン樹脂とともに、ポリビニルアルコールを含有することが必要である。樹脂層において、ポリビニルアルコールが、酸変性ポリオレフィン樹脂中に分散することによって、酸変性ポリオレフィン樹脂と架橋剤による離型性を向上させることができる。
【0027】
本発明において、樹脂層を構成するポリビニルアルコールは、ケン化率が99%以下であることが必要であり、好ましい上限としては、98%未満であり、より好ましくは96%未満であり、さらに好ましくは95%未満である。ポリビニルアルコールのケン化率を99%以下として樹脂層を設けることにより、樹脂層に発生する高さ数十nm~数百nm程度の微小な非平面形状の発生を防止することができる。一方、ポリビニルアルコールのケン化率が99%を超えると、樹脂層に発生する前記微小な非平面形状が増加する傾向にあり、この微小な非平面形状が被着体に転写され、離型後の被着体の品位の低下につながる。また、高湿度環境下で長期間保管すると端部が反る傾向にあり、一方低湿度環境下では剥離帯電を帯びる傾向にある。
また、本発明において、樹脂層を形成するための液状物の安定性の観点で、ポリビニルアルコールのケン化率の下限は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。ポリビニルアルコールのケン化率が80%未満であると、樹脂層を形成するための液状物の安定性が低下し、生産性が低下する。
上記範囲のケン化率のポリビニルアルコールを用いることで、高湿度環境下で保管した場合のフィルム端部の反りを抑制でき、また、低湿度環境下で離型フィルムとして使用する場合、剥離帯電を抑制することができる。
【0028】
ポリビニルアルコールの含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して10~1000質量部であることが必要であり、100~1000質量部であることが好ましく、210~800質量部であることがより好ましく、300~600質量部であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールの含有量が1000質量部を超えると、樹脂層を形成するための液状物は、粘度が高くなり、塗膜に前述の微小な非平面形状が生じやすくなり、形成された樹脂層に微小な非平面形状が生じやすくなったり、樹脂層が被着体に移行しやすくなったりする。一方、ポリビニルアルコールの含有量が10質量部未満であると、樹脂層への添加効果がなくなる。
【0029】
後述のように、本発明では樹脂層形成用液状物を構成する液状媒体は、水性媒体であることが好ましいため、ポリビニルアルコールは、混合のしやすさから水溶性であることが好ましい。
【0030】
本発明においては、ポリビニルアルコールとして市販のものを使用することができ、例えば、日本酢ビ・ポバール社製の「J-ポバール」の「JP-15」や「JT-05」、「JL-05E」、「JM-33」、「JM-17」、「JF-05」、「JF-10」クラレ社製の「クラレポバール」の「PVA-CST」、「PVA-624」、「PVA-203」、「PVA-220」「PVA-405」などを使用することができる。
【0031】
本発明において、樹脂層は、上記酸変性ポリオレフィン樹脂やポリビニルアルコールとともに架橋剤を含有することが必要である。架橋剤を含むことにより樹脂層の構成成分が架橋して離型性が向上し、樹脂層の凝集力を向上させて被着体に移行しにくくさせたり、耐水性を向上させたりすることができる。
【0032】
架橋剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1~20質量部であることが必要であり、2~15質量部であることが好ましく、2~10質量部であることがより好ましい。架橋剤の含有量が1質量部未満であると、樹脂層は、凝集力が弱くなり、基材フィルムとの密着性に劣り、被着体に移行しやすくなる傾向にある。一方、20質量部を超えると、樹脂層は、被着体との間で反応し離型性に乏しくなったり、樹脂層を形成するための液状物が増粘し、安定性が低下することがある。
【0033】
架橋剤としては、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物等を用いることができ、多官能エポキシ化合物;多官能イソシアネート化合物;多官能アジリジン化合物;カルボジイミド基含有化合物;オキサゾリン基含有化合物;フェノール樹脂;および尿素化合物、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂等が挙げられる。これらのうちの1種類を使用しても2種類以上を併用してもよい。このうち、多官能イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、多官能エポキシ化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物等が好ましく、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物がより好ましく、オキサゾリン基含有化合物がさらに好ましい。オキサゾリン基含有化合物を用いることにより、被着体との離型性、基材との密着性に優れた離型フィルムを得ることが可能となる。また、これらの架橋剤は組み合わせて使用してもよい。
【0034】
多官能エポキシ化合物としては、具体的にはポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物等を用いることができる。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが使用可能である。ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテルが使用可能である。
【0035】
多官能イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、1,6-ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3′-ビトリレン-4,4′-ジイソシアネート、3,3′-ジメチルジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート等が使用可能である。これらのイソシアネート基を重亜硫酸塩類およびスルホン酸基を含有したフェノール類、アルコール類、ラクタム類、オキシム類および活性メチレン化合物類等でブロックしたブロックイソシアネート化合物を用いてもよい。
多官能イソシアネート化合物の市販品としては、例えば、BASF社製「バソナートHW-100」などが挙げられる。
【0036】
多官能アジリジン化合物としては、例えば、N,N′-ヘキサメチレン-1,6-ビス-(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート等が使用可能である。
【0037】
カルボジイミド基含有化合物としては、分子中に1つ以上のカルボジイミド基を有しているものであれば特に限定されるものではない。カルボジイミド化合物は、1つのカルボジイミド部分において、酸変性ポリオレフィン樹脂の酸変性部分における2つのカルボキシル基とエステルを形成し、架橋を達成する。例えば、p-フェニレン-ビス(2,6-キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン-1,4-ビス(メチレン-t-ブチルカルボジイミド)等のカルボジイミド基を有する化合物や、カルボジイミド基を有する重合体であるポリカルボジイミド等が使用可能である。これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさから、ポリカルボジイミドが好ましい。
ポリカルボジイミドの市販品としては、日清紡社製のカルボジライトシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「SV-02」、「V-02」、「V-02-L2」、「V-04」;エマルションタイプの「E-01」、「E-02」;有機溶液タイプの「V-01」、「V-03」、「V-07」、「V-09」;無溶剤タイプの「V-05」が挙げられる。
【0038】
オキサゾリン基含有化合物としては、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有しているものであれば、特に限定されるものではない。オキサゾリン化合物は、2つのオキサゾリン部分のそれぞれにおいて、酸変性ポリオレフィン樹脂の酸変性部分における1つのカルボキシル基とアミドエステルを形成し、架橋を達成する。このような重合体は、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、N、N-ジアルキルアクリルアミド、N、N-ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα、β-不飽和脂肪族モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα、β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができる。他のモノマーは、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。これらの中でも、取り扱いやすさからオキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「WS-500」、「WS-700」;エマルションタイプの「K-1010E」、「K-1020E」、「K-1030E」、「K-2010E」、「K-2020E」、「K-2030E」などが挙げられる。
【0039】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールやビスフェノールA、p-t-ブチルフェノール、オクチルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール、p-フェニルフェノール、クレゾール等を原料として調製したレゾール型フェノール樹脂および/またはノボラック型フェノール樹脂が使用可能である。
【0040】
尿素樹脂としては、例えば、ジメチロール尿素、ジメチロールエチレン尿素、ジメチロールプロピレン尿素、テトラメチロールアセチレン尿素、4-メトキシ5-ジメチルプロピレン尿素ジメチロールが使用可能である。
【0041】
メラミン樹脂は、例えば、官能基としてイミノ基、メチロール基、および/またはアルコキシメチル基(例えばメトキシメチル基、ブトキシメチル基)を1分子中に有する化合物である。メラミン樹脂としては、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂等が使用可能である。その中でもメチロール化メラミン樹脂が最も好ましい。さらに、メラミン系樹脂の熱硬化を促進するため、例えばp-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いることが好ましい。
【0042】
ベンゾグアナミン樹脂としては、例えば、トリメチロールベンゾグアナミン、ヘキサメチロールベンゾグアナミン、トリスメトキシメチルベンゾグアナミン、ヘキサキスメトキシメチルベンゾグアナミン等が使用可能である。
【0043】
本発明において、樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲で、滑剤を含有してもよい。滑剤として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の無機粒子や、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンワックス等の有機粒子、界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
本発明の離型フィルムを構成する樹脂層は、高さ数十nm~数百nm程度の微小な非平面形状の発生が抑制され、外観に優れたものである。詳細には、フィルムの長手方向の片端縁から1m地点と、他端縁から1m地点と、前記2地点の間を9等分した地点の合計10地点において、各地点のフィルム全幅で観察されるフィルム幅1mあたりの、連続した筋状、あるいは離散状などの微小な非平面形状の存在率の平均値を、1.0個/m以下とすることができる。このような微小な非平面形状は、たとえば、高輝度光源(300ルーメン以上)下で、光の干渉によって目視確認することができる。ただし、蛍光灯などの低輝度光源のもとでは確認が困難であったものである。
【0045】
本発明の離型フィルムを使用することにより、粘着材料としてのアクリル系被着体を樹脂層に貼り付けて測定したときの被着体との間の剥離力を3.0N/cm以下、好ましくは2.8N/cm以下、より好ましくは2.6N/cm以下とすることができる。剥離力が3.0N/cmを超えると、重剥離であり、離型用フィルムとして実用的に使用することが難しくなる。
【0046】
また、本発明の離型フィルムを使用することにより、エポキシプリプレグを樹脂層に貼り付けて測定したときの離型性に優れている。実用的には、樹脂層とエポキシプリプレグとの間の剥離力は0.2N/cm以下にすることが求められており、本発明の離型フィルムは、剥離力を0.2N/cm以下にすることができ、好ましくは0.01~0.1N/cm、より好ましくは0.01~0.05N/cmとすることができる。剥離力が0.2N/cmを超える場合、エポキシプリプレグから剥離しにくくなり、ハンドリング性が低下する。
【0047】
本発明において樹脂層の厚みは、0.01~1μmであることが好ましく、0.03~0.7μmであることがより好ましく、0.05~0.5μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚みが0.01μm未満であると、十分な離型性が得られず、1μmを超えると、被着体に移行しやすくなり、またコストアップとなるため好ましくない。
【0048】
本発明の離型フィルムは、25℃、80%条件下で7日間静置した後の反りの発生を、2.0mm以下とすることができ、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下とすることができる。反りが2.0mmを超える場合、離型フィルムとして使用した際に被着体と密着しづらくなり、ハンドリング性が低下する。
【0049】
本発明の離型フィルムを製造する方法としては、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、架橋剤1~20質量部と、ケン化率が99%以下であるポリビニルアルコール10~1000質量部とを液状媒体中に含有してなる樹脂層形成用液状物を、未延伸または一軸延伸フィルムの少なくとも片面に塗布した後、塗膜が形成されたフィルムを乾燥、延伸、熱処理する方法が挙げられる。
【0050】
本発明において、樹脂層形成用液状物を構成する液状媒体は、水性媒体であることが好ましい。水性媒体とは、水と両親媒性有機溶剤とを含み、水の含有量が2質量%以上である溶媒を意味し、水のみでもよい。
両親媒性有機溶剤とは、20℃における有機溶剤に対する水の溶解性が5質量%以上である有機溶剤をいう(20℃における有機溶剤に対する水の溶解性については、例えば「溶剤ハンドブック」(講談社サイエンティフィク、1990年第10版)等の文献に記載されている)。
両親媒性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール-n-ブチルエーテル等のエチレングリコール誘導体類、そのほか、アンモニアを含む、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン等の有機アミン化合物、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンなどのラクタム類等を挙げることができる。
【0051】
樹脂層形成用液状物は、この方法に限定されるものではないが、たとえば酸変性ポリオレフィン樹脂の液状物に、ポリビニルアルコール、架橋剤を添加することにより、調製することができる。
酸変性ポリオレフィン樹脂の液状物としては、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂を水性分散化する方法は、特に限定されないが、例えば、国際公開第02/055598号に記載された方法が挙げられる。
水性媒体中の酸変性ポリオレフィン樹脂の分散粒子径は、他の成分との混合時の安定性および混合後の保存安定性の点から、数平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。このような粒径は、国際公開第02/055598号に記載の製法により達成可能である。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂の数平均粒子径は動的光散乱法によって測定される。
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体の固形分濃度は、特に限定されるものではないが、水性分散体の粘性を適度に保つためには、1~60質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。
【0052】
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、ポリビニルアルコールと、架橋剤とを混合して得られる樹脂層形成用液状物の固形分濃度は、積層条件、目的とする厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではない。しかし、液状物の粘性を適度に保ち、かつ、均一な樹脂層を形成させるためには、2~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
樹脂層形成用液状物には、その性能が損なわれない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤などを添加することもできる。
【0053】
本発明において、上記樹脂層形成用液状物をポリエステルフィルムに塗布する方法としては、公知の方法、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等を挙げることができ、上記樹脂層形成用液状物は、塗膜に前述の微小な非平面形状の発生を抑制できるため、特にグラビアロールコーティングする場合に有効である。
【0054】
本発明の離型フィルムの製造方法は、基材フィルムに樹脂層形成用液状物が塗布されたフィルムを乾燥、延伸する工程を含む。さらに、熱固定処理する工程を含むことが好ましい。
樹脂層形成用液状物が塗布されたフィルムを乾燥、延伸することにより(インライン方式)、基材フィルムに樹脂層形成用液状物を塗布、乾燥するオフライン方式と比較して、基材フィルム表面の配向結晶化の程度が小さい状態で樹脂層を形成することができるため、基材フィルムと樹脂層の密着力が向上する。また、フィルムが緊張した状態で、より高温で樹脂層を熱処理できるので、離型フィルムの品位を低下させることなく、離型性や残留接着率を向上させることができる。
逐次二軸延伸法を採用して、一軸方向に延伸された基材フィルムに前記液状物を塗布し、液状物の塗布されたフィルムを乾燥し、前記方向と直交する方向にさらに延伸し、熱処理することが、簡便さや操業上の理由から好ましい。
【0055】
本発明の離型フィルムは、両面テープや粘着材料の保護フィルムや液晶ディスプレイ用部品、プリント配線板などを製造する際の保護材料や工程材料、イオン交換膜やセラミックグリーンシート、放熱シートなどのシート状構造体成形用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。離型フィルムの特性は下記の方法で測定した。
【0057】
(1)ポリビニルアルコールのケン化率
ポリビニルアルコールのケン化率は、JIS K-6726に準拠して測定を行った。
【0058】
(2)樹脂層形成用液状物の安定性
B型粘度計(トキメック社製、DVL-BII型デジタル粘度計)を用いて、温度25℃、回転速度60rpmの条件で、溶液粘度(mPa・s)を測定した。塗布開始前の樹脂層形成用液状物の粘度をH0、塗布開始時から5時間経過後の粘度をH1とした。得られた粘度H1、H2より、下記の基準で、樹脂層形成用液状物の安定性の評価を行った。
良:0.9≦H1/H0<1.1
可:0.7≦H1/H0<0.9、1.1≦H1/H0<1.3
不可:H1/H0<0.7、1.3≦H1/H0
【0059】
(3)樹脂層表面の微小な非平面形状
実施例、比較例で得られた離型フィルムについて、下記2種の方法で評価した。
いずれの手法においても評価する地点は、離型フィルムの長手方向の片端縁から1mの地点と、他端縁から1mの地点と、前記2地点の間を9等分した地点の合計10地点とし、各地点のフィルムの幅方向(TD)に黒色油性ペンで直線を引き直線上を交差する、高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状の有無を、フィルム全幅に対して観察した。
(評価方法A)
離型フィルムの樹脂層側表面に対して、蛍光灯の白色光線(100ルーメン)を、フィルムから30cm離して5~45°の角度から当てて、連続した筋状および離散状の微小な非平面形状の存在に対応した光の干渉を示す部分の有無を、目視で確認した。前記10地点のフィルム全幅において、どの地点においても高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状が全く確認できないものを「なし」、1地点以上において確認できるものを「あり」とした。
(評価方法B)
離型フィルムの樹脂層側表面に対して、高輝度のLED懐中電灯(レッドレンザー社製M7R型、400ルーメン)の光を、フィルムから30cm離して10~45°の角度から当てることにより、フィルム全幅における、高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状の存在に対応した光の干渉を示す部分の有無を、目視で確認して計数した。そして、フィルム幅1mあたりの、微小非平面形状による欠点数を算出し、10地点の平均値を求めた。
【0060】
(4)基材フィルムと樹脂層との密着性
得られた離型フィルムの樹脂層側表面を、JIS K-5600-5-6に準拠し、クロスカット法によって、接着性を確認した。詳しくは、切り込みを入れて100区画の格子パターンをつくった樹脂層表面に粘着テープ(ニチバン社製TF-12)を貼り、勢いよくテープを剥離した。なお、「100/100」が、100区画に全く剥がれがなく、最も良い状態であり、「0/100」が、100区画全てが剥がれ、最も良くない状態を示す。100/100~90/100を合格とし、100/100~95/100、特に100/100~98/100が優れており、100/100が最も優れていることを示す。
【0061】
(5)アクリル系粘着剤に対する離型性
得られた離型フィルムの樹脂層側に、巾50mm、長さ150mmのアクリル系粘着テープ(日東電工社製No.31B/アクリル系粘着剤)をゴムロールで圧着して試料とした。試料を、金属板/ゴム板/試料/ゴム板/金属板の形で挟み、2kPa荷重、70℃の雰囲気で20時間放置し、その後30分以上冷却して常温に戻して剥離強度測定用試料を得た。
剥離強度測定用試料の、アクリル系粘着テープと離型フィルムとの剥離力を、23℃の恒温室で引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-100B)にて、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の条件で測定した。
【0062】
(6)残留接着率
上記(5)アクリル系粘着剤に対する離型性の試験により離型フィルム表面から剥離した巾50mm、長さ150mmのアクリル系粘着テープ(日東電工社製No.31B/アクリル系粘着剤)を、二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム(ユニチカ社製エンブレットPET-12、厚さ12μm)のコロナ処理面に貼付し、2kPa荷重、室温で20時間放置した。その後、アクリル系粘着テープと二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムとの剥離力を、23℃の恒温室で引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-100B)にて測定した。剥離角度は180度、剥離速度は300mm/分とした。この測定により得られた剥離力をF1とした。
一方、二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム(ユニチカ社製エンブレットPET-38、厚さ38μm)のコロナ処理面に、巾50mm、長さ150mmの未使用のアクリル系粘着テープ(日東電工社製No.31B/アクリル系粘着剤)を貼付し、2kPa荷重、室温で20時間放置した。その後、アクリル系粘着テープと二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムとの剥離力を、23℃の恒温室で引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-100B)にて測定(剥離角度は180度、剥離速度は300mm/分)し、得られた剥離力をF2とした。
得られた剥離力F1、F2より下記式を用いて残留接着率を得た。
残留接着率(%)=(F1/F2)×100
【0063】
(7)エポキシプリプレグに対する離型性
60mm×100mmの大きさのエポキシプリプレグ(住友ベークライト社製EI-6765)の両面を、得られた離型フィルムの樹脂層側で挟み、1.07kPa(8Torr)の真空プレス機中で、30℃から150℃まで15℃/分で昇温し、150℃で22分間保持した後、さらに5℃/分で190℃まで昇温し、5kg/cm2の圧力を10分間かけた後、15kg/cm2の圧力をかけながら、190℃で70分間保持した。その後、室温まで冷却を行うことで、試料を得た。
得られた試料の、硬化後のエポキシプリプレグと離型フィルムとの剥離力を、23℃の恒温室で引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-100B)にて測定した。剥離角度は180度、剥離速度は300mm/分とした。
【0064】
(8)離型フィルムの反り
作製直後から、25℃、80%RHの高湿環境下に7日間放置した後の離型フィルムを、30mm×150mmに切り出し、帯電が除去された板の上に乗せ、短辺部の端部の板面からの持ち上がりの高さ(mm)を測定し、反りの評価を行った。実用的には、反りの高さが1mm未満のものが求められており、加工性を考慮し反りの高さは低い方が好ましい。
【0065】
(9)剥離帯電
25℃、10%RHの低湿環境下で、離型フィルムを10枚重ねあわせ、暗室で一番上のフィルムを勢いよく取り除いた際の静電気の発生について、下記の基準で評価を行った。
なし:静電気光や静電気音の発生は確認されなかった。
あり:静電気光や静電気音の発生を確認した。
【0066】
樹脂層形成用液状物を調製するために、酸変性ポリオレフィン樹脂およびその水性分散体を、以下の方法により製造した。
【0067】
<酸変性ポリオレフィン樹脂A-1の製造>
プロピレン-ブテン-エチレン三元共重合体(プロピレン/ブテン/エチレン=68.0/16.0/16.0(質量比))280gを、4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を170℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応生成物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、酸変性ポリオレフィン樹脂A-1を得た。
【0068】
<酸変性ポリオレフィン樹脂A-2、A-3の製造>
上記酸変性ポリオレフィン樹脂A-1の製造において、プロピレン-ブテン-エチレン三元共重合体(プロピレン/ブテン/エチレン=68.0/16.0/16.0(質量比))を、プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=99/1(質量比))に変更する以外は、同様にして、酸変性ポリオレフィン樹脂A-2を得た。
また、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(エチレン/アクリル酸エチル=93/7(質量比))に変更する以外は、同様にして、酸変性ポリオレフィン樹脂A-3を得た。
【0069】
<酸変性ポリオレフィン樹脂A-1の水性分散体の製造>
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、上記方法で製造した60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂A-1と、45.0gのエチレングリコール-n-ブチルエーテル(沸点171℃)と、6.9gのN,N-ジメチルエタノールアミン(沸点134℃、樹脂中の無水マレイン酸単位のカルボキシル基に対して1.0倍当量)と、188.1gの蒸留水とを、上記のガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌した。そうしたところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)することで、均一な酸変性ポリオレフィン樹脂A-1の水性分散体(固形分濃度25質量%)を得た。なお、フィルター上には残存樹脂はほとんどなかった。
【0070】
<酸変性ポリオレフィン樹脂A-2、A-3の水性分散体の製造>
用いる酸変性ポリオレフィン樹脂をA-2、A-3に変更する以外は、前述した方法と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂A-2、A-3の水性分散体(固形分濃度25質量%)を得た。
【0071】
樹脂層形成用液状物を調製するために、ポリビニルアルコールとして、下記の水溶液を使用した。
・JL-05E:日本酢ビ・ポバール社製JL-05E、ケン化率82.0%。重合度500、固形分濃度8質量%
・JP-15:日本酢ビ・ポバール社製JP-15、ケン化率88.0%、重合度1,500、固形分濃度8質量%
・JT-05:日本酢ビ・ポバール社製JT-05、ケン化率94.5%、重合度500、固形分濃度8質量%
・JM-17:日本酢ビ・ポバール社製JM-17、ケン化率95.0%、重合度1700、固形分濃度8質量%
・JF-05:日本酢ビ・ポバール社製JF-05、ケン化率98.5%、重合度500、固形分濃度8質量%
・JF-10:日本酢ビ・ポバール社製JF-10、ケン化率98.5%、重合度1,000、固形分濃度8質量%
・VC-10:日本酢ビ・ポバール社製VC-10、ケン化率99.4%、重合度1,000、固形分濃度8質量%
【0072】
架橋剤として、以下のものを使用した。
・WS-700:日本触媒社製エポクロスWS-700、オキサゾリン基含有化合物の水性溶液、固形分濃度25質量%
・V-02-L2:日清紡社製カルボジライトV-02-L2、カルボジイミド基含有化合物の水性溶液、固形分濃度25質量%
・HW-100:BASF社製バソナートHW-100、多官能イソシアネート化合物の水性溶液、固形分濃度25質量%
【0073】
実施例1
<樹脂層形成用液状物の調製>
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「A-1」と、ポリビニルアルコール水溶液「JP-15」と、架橋剤としてのオキサゾリン基含有化合物の水性溶液「WS-700」とを、それぞれ固形分が、100質量部と、300質量部と、7質量部とになるように混合し、最終固形分濃度が6.0質量%になるように水で調整して、樹脂層形成用液状物を得た。
<離型フィルムの製造>
平均粒径2.3μmの無定形シリカ粒子を0.08質量%含有するポリエチレンテレフタレート(PET、重合触媒:三酸化アンチモン、固有粘度:0.62、ガラス転移温度:78℃、融点:255℃)を280℃で溶融押出し、Tダイ法-静電ピニング方式でキャスティングドラムに密着急冷し、厚さ600μmの未延伸フィルムを成形した。続いてこの未延伸フィルムを90℃に加熱した縦延伸ロールで3.5倍に延伸した。
この縦延伸したフィルムの片面に、リバースグラビアコーターを用いて、上記液状物を5g/m2(WET換算)の塗布量になるように塗布し、横延伸テンターにおいて120℃で4.5倍延伸後、230℃で10秒間熱処理したのち、冷却し巻き取った。得られた離型フィルムの厚さは38μmであり、樹脂層の厚さはおよそ0.08μmであった。
【0074】
実施例2~16、20、比較例1~7
表1に記載した構成になるように樹脂層形成用液状物を調製し、この液状物を用いた以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0075】
実施例17
実施例1と同様にして、未延伸フィルムをロール式縦延伸機で85℃の条件下、3.5倍に延伸して延伸フィルムを得た。この延伸フィルムに樹脂層形成用液状物を塗布することなく、フィルムの端部をフラット式延伸機のクリップに把持させ、100℃の条件下、横4.5倍に延伸を施し、その後、横方向の弛緩率を3%として、230℃で3秒間の熱処理を施して、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
得られたポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、表1の構成の樹脂層形成用液状物を、マイヤーバーを用いて塗布した後、120℃で30秒間乾燥させた。その後、50℃で2日間エージングを行うことで、厚さ38μmのポリエステルフィルムの片面に厚さ0.3μmの樹脂層が設けられた離型フィルムを得た。
【0076】
実施例18
平均粒径2.3μmの無定形シリカ粒子を0.08質量%含有するポリブチレンテレフタレート(PBT、重合触媒:三酸化アンチモン、固有粘度:1.08、ガラス転移温度:55℃、融点:233℃)を270℃で溶融押出し、Tダイ法-静電ピニング方式でキャスティングドラムに密着急冷し、厚さ600μmの未延伸フィルムを成形した。続いてこの未延伸フィルムを60℃に加熱した縦延伸ロールで3.5倍に延伸した。
この縦延伸したフィルムの片面に、リバースグラビアコーターを用いて、上記液状物を5g/m2(WET換算)の塗布量になるように塗布し、横延伸テンターにおいて80℃で4.5倍延伸後、210℃で10秒間熱処理したのち、冷却し巻き取った。得られた離型フィルムの厚さは38μmであり、樹脂層の厚さはおよそ0.08μmであった。
【0077】
実施例19
平均粒径2.3μmの無定形シリカ粒子を0.08質量%含有するナイロン6(Ny、相対粘度:3.03)を260℃で溶融押出し、Tダイ法-静電ピニング方式でキャスティングドラムに密着急冷し、厚さ600μmの未延伸フィルムを成形した。
次に、未延伸フィルムを温度53℃の水中に1分間浸漬し、その後、温度60℃の水中に20秒浸漬した。次に、浸水処理を施した未延伸フィルムの片面に、リバースグラビアコーターを用いて、上記液状物を10g/m2(WET換算)の塗布量になるように塗布し、乾燥した。次に、吸水された未延伸フィルムを同時二軸延伸機に導き、縦3.3倍、横3.0倍の倍率で同時二軸延伸を施した。続いて、温度210℃で熱処理し、横方向に5%の弛緩処理を行い、厚み38μm、樹脂層の厚さがおよそ0.08μmの離型フィルムを得た。
【0078】
実施例、比較例で得られた離型フィルムについて各種評価を行った結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
実施例1~20の離型フィルムの樹脂層は、連続した筋状および離散状の微小な非平面形状について、評価方法Aにおいては、高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状の発生は確認されず、評価方法Bにおいても、高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状の数は1.0個/m以下であり、より高品位な塗膜均一性を有していた。また、高湿度環境下で保管した場合であっても、離型フィルムの反りは実用的に用いることができるレベルまで低減されており、低湿度環境下において剥離した場合であっても剥離帯電は発生しなかった。さらに、アクリル系粘着剤に対してもエポキシプリプレグに対しても離型性が良好であり、アクリル系粘着剤に対する残留接着率も良好であった。
なかでも、実施例2~3、6~8の離型フィルムの樹脂層は、ケン化率が特に好ましい範囲のポリビニルアルコールをより好ましい範囲で含有しているものであり、評価方法Bにおいて高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状は全く確認されず、高湿度環境下における反りも制御されているものであった。
また、実施例6~12の離型フィルムは、他の実施例の離型フィルムに比べて樹脂層を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分におけるプロピレン比率が高いため、エポキシプリプレグに対する離型性に優れるものであった。
【0081】
比較例1、2および7の離型フィルムは、ケン化率が99%を超えるポリビニルアルコールを含有する樹脂層が設けられたため、低輝度光源を用いた精度の低い評価方法Aにおいては樹脂層に高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状の発生は確認されなかったが、高輝度光源を用いた精度の高い評価方法Bにおいては高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状が多く確認された。また、高湿環境下ではフィルムの反りが大きく、低湿環境下では剥離帯電が発生した。
比較例3の離型フィルムは、樹脂層におけるポリビニルアルコールの含有量が本発明で規定する範囲を満たしていなかったため、基材フィルムと樹脂層との密着性が低く、剥離後のアクリル系粘着剤は、樹脂層が移行しており、残留接着率が低かった。また、比較例4の離型フィルムは、樹脂層におけるポリビニルアルコールの含有量が本発明で規定する範囲を超えていたため、高輝度光源を用いた精度の高い評価方法Bにおいては高さ数十nm~数百nm程度の連続した筋状および離散状の微小な非平面形状が多く確認された。
比較例5の離型フィルムは、樹脂層における架橋剤の含有量が本発明で規定する範囲を満たしていなかったため、基材フィルムと樹脂層との密着性が低く、剥離力評価の際に、粘着テープと樹脂層との間で剥離せず、基材フィルムと樹脂層との間で剥離する場合があった。また、剥離後のアクリル系粘着剤は、樹脂層が移行しており、残留接着率が低かった。また、比較例6の離型フィルムは、樹脂層における架橋剤の含有量が本発明で規定する範囲を超えていたため、樹脂層形成用液状物は経時的に増粘し安定性が低く、形成された樹脂層は離型性で劣っていた。