(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】既設管補修システムおよび補修方法、ならびに硬化装置および制御装置
(51)【国際特許分類】
B29C 63/34 20060101AFI20220719BHJP
F16L 1/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
B29C63/34
F16L1/00 J
(21)【出願番号】P 2019208641
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】519259032
【氏名又は名称】株式会社SORS
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 彰
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-142996(JP,A)
【文献】特開平11-115051(JP,A)
【文献】特開平11-198230(JP,A)
【文献】国際公開第2019/024558(WO,A1)
【文献】特開2009-83251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/34
F16L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内部に配置した、可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材に対し、当該ライニング材の内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムであって、
前記ライニング材の内部に気体を送り込んで当該ライニング材を膨張させる、気体導入装置と、
前記ライニング材の内部を光照射しながら移動可能な、硬化装置と、
前記硬化装置を制御する、制御装置と、
を少なくとも備え、
前記硬化装置が、
前記硬化装置の移動方向の前後に設け、前記ライニング材の内周面を撮影可能とした、撮影部と、
複数の脚部からなる走行部と、
前記脚部に固定または移動自在に取り付けてある
発光部と、を有することを特徴する、
既設管補修システム。
【請求項2】
既設管の内部に配置した、可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材に対し、当該ライニング材の内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムであって、
前記ライニング材の内部に気体を送り込んで当該ライニング材を膨張させる、気体導入装置と、
前記ライニング材の内部を光照射しながら移動可能な、硬化装置と、
前記硬化装置を制御する、制御装置と、
を少なくとも備え、
前記硬化装置が、
前記硬化装置の移動方向の前後に設け、前記ライニング材の内周面を撮影可能とした、撮影部と、
複数の脚部からなる走行部と、
前記走行部に対し独立して設け
、前記ライニング材との離隔距離を調整可能
な発光部と、を有することを特徴とする、
既設管補修システム。
【請求項3】
既設管の内部に配置した、可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材に対し、当該ライニング材の内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムであって、
前記ライニング材の内部に気体を送り込んで当該ライニング材を膨張させる、気体導入装置と、
前記ライニング材の内部を光照射しながら移動可能な、硬化装置と、
前記硬化装置を制御する、制御装置と、
を少なくとも備え、
前記硬化装置が、
前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部
と、
前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、
を有し、
前記撮影部
および前記サーモカメラを、前記硬化装置の移動方向の前後に設けたことを特徴とする、
既設管補修システム。
【請求項4】
既設管の内部に配置した、可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材に対し、当該ライニング材の内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムであって、
前記ライニング材の内部に気体を送り込んで当該ライニング材を膨張させる、気体導入装置と、
前記ライニング材の内部を光照射しながら移動可能な、硬化装置と、
前記硬化装置を制御する、制御装置と、
を少なくとも備え、
前記硬化装置が、
前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、
前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、を有し、
前記制御装置が、
前記サーモカメラによって得られるライニング材の内周面の表面温度によって、補修後の既設管に対して行う削孔予定箇所の位置を推定する機能を少なくとも具備することを特徴とする、
既設管補修システム。
【請求項5】
前記複数の脚部の開脚角度または伸縮長を自在に構成してあることを特徴とする、
請求項1または2に記載の既設管補修システム。
【請求項6】
前記制御装置が、
前記サーモカメラによって得られる前記ライニング材の内周面の表面温度によって、前記硬化装置の移動速度を調整する機能を少なくとも具備することを特徴とする、
請求項
3または4に記載の既設管補修システム。
【請求項7】
前記サーモカメラの撮影方向が、前記既設管の軸方向であることを特徴とする、
請求項
3,4または6に記載の既設管補修システム。
【請求項8】
前記サーモカメラの撮影方向が、前記既設管の径方向であることを特徴とする、
請求項
3,4または6のうち何れか1項に記載の既設管補修システム。
【請求項9】
前記気体導入装置が送り込む気体が、非圧縮気体であることを特徴とする、
請求項1乃至
8のうち何れか1項に記載の既設管補修システム。
【請求項10】
既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行う硬化装置を用いた既設管の補修方法であって、
前記硬化装置は、
当該硬化装置の進行方向の前後に、撮影部およびサーモカメラを有し、
(a)前記硬化装置を既設管の一端から他端まで前進する際に、前記撮影部でもって前記ライニング材の配置を確認
する際に、
(a1)前側の前記撮影部によって前記硬化装置よりも前方の前記ライニング材の配置を確認する工程と、
(a2)前記硬化装置の前進後、後側の前記撮影部によって前記硬化装置よりも後方の前記ライニング材の配置を確認する工程と、を含み、
(b)前記硬化装置を既設管の他端から一端まで後退しながら光照射を行う際に、前記サーモカメラでもって前記ライニング材の光硬化を確認する
際に、
(b1)光照射を行う前記硬化装置の後退にあわせて、前側の前記サーモカメラによって前記硬化装置よりも前方の前記ライニング材の光硬化を確認する工程と、
(b2)前記硬化装置が既設管の一端側まで後退した後、前記硬化装置を再前進させて、後側の前記サーモカメラによって前記硬化装置よりも後方の前記ライニング材の光硬化を確認する工程と、を含む、
ことを特徴とする、
既設管の補修方法。
【請求項11】
既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行うための硬化装置であって、
前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、
前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、
を有し、
前記撮影部および前記サーモカメラを、前記硬化装置の移動方向の前後に設けたことを特徴とする、
硬化装置。
【請求項12】
既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行うための硬化装置であって、
前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、
前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、
複数の脚部からなる、走行部と、
前記脚部に固定または移動自在に取り付けてある発光部と、を有することを特徴とする、
硬化装置。
【請求項13】
既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行うための硬化装置であって、
前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、
前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、
複数の脚部からなる、走行部と、
前記走行部に対し独立して設け、前記ライニング材との離隔距離を調整可能な発光部と、を有することを特徴とする、
硬化装置。
【請求項14】
前記複数の脚部の開脚角度または伸縮長を自在に構成してあることを特徴とする、
請求項12または13に記載の硬化装置。
【請求項15】
既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行うための硬化装置を制御するための、制御装置であって、
前記硬化装置に設けたサーモカメラから得られる前記ライニング材の内周面の表面温度によって、補修後の既設管に対して行う削孔予定箇所の位置を推定する機能を少なくとも具備することを特徴とする、
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管などの既設管の補修に使用する既設管補修システムに関し、より詳細には、既設管の内面に配置した光硬化性の中空状のライニング材を、内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムおよび補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
補修対象である既設管の内面に光硬化性の中空状のライニング材を配置し、このライニング材の内部から光照射を行うことで、ライニング材を硬化させて既設管を補修する技術がある。
例えば以下の特許文献1には、光照射を行う装置として、中空状の本体装置と、当該本体装置の外表面に着脱可能に取り付けた発光ダイオードを備えた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術分野において、出願人は以下に記載する解決課題のうち、少なくとも何れか1つの課題を見出した。
(1)光硬化作業の結果、既設管の補修が確実にされたか否かを、ライニング材の内周面の映像を用いて、全区間にわたって観察または記録したい。
(2)光硬化作業におけるライニング材の温度管理をより適切に行いたい。
(3)既設管の補修後に、ライニング材で塞がれてしまった削孔予定箇所の位置を容易に把握したい。
(4)既設管に接触させるライニング材の膨張作業をより安全に行いたい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、既設管の内部に配置した、可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材に対し、当該ライニング材の内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムであって、前記ライニング材の内部に気体を送り込んで当該ライニング材を膨張させる、気体導入装置と、前記ライニング材の内部を光照射しながら移動可能な、硬化装置と、前記硬化装置を制御する、制御装置と、を少なくとも備え、前記硬化装置が、前記硬化装置の移動方向の前後に設け、前記ライニング材の内周面を撮影可能とした、撮影部と、複数の脚部からなる走行部と、前記脚部に固定または移動自在に取り付けてある発光部と、を有することを特徴するものである。
また、本願の第2発明は、既設管の内部に配置した、可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材に対し、当該ライニング材の内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムであって、前記ライニング材の内部に気体を送り込んで当該ライニング材を膨張させる、気体導入装置と、前記ライニング材の内部を光照射しながら移動可能な、硬化装置と、前記硬化装置を制御する、制御装置と、を少なくとも備え、前記硬化装置が、前記硬化装置の移動方向の前後に設け、前記ライニング材の内周面を撮影可能とした、撮影部と、複数の脚部からなる走行部と、前記走行部に対し独立して設け、前記ライニング材との離隔距離を調整可能な発光部と、を有することを特徴とする。
また、本願の第3発明は、既設管の内部に配置した、可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材に対し、当該ライニング材の内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムであって、前記ライニング材の内部に気体を送り込んで当該ライニング材を膨張させる、気体導入装置と、
前記ライニング材の内部を光照射しながら移動可能な、硬化装置と、前記硬化装置を制御する、制御装置と、を少なくとも備え、前記硬化装置が、前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、を有し、前記撮影部および前記サーモカメラを、前記硬化装置の移動方向の前後に設けたことを特徴とする。
また、本願の第4発明は、既設管の内部に配置した、可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材に対し、当該ライニング材の内部から光照射を行って硬化させることで既設管を補修する、既設管補修システムであって、前記ライニング材の内部に気体を送り込んで当該ライニング材を膨張させる、気体導入装置と、前記ライニング材の内部を光照射しながら移動可能な、硬化装置と、前記硬化装置を制御する、制御装置と、を少なくとも備え、前記硬化装置が、前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、を有し、前記制御装置が、前記サーモカメラによって得られるライニング材の内周面の表面温度によって、補修後の既設管に対して行う削孔予定箇所の位置を推定する機能を少なくとも具備することを特徴とする。
また、本願の第5発明は、前記第1発明または第2発明において、前記複数の脚部の開脚角度または伸縮長を自在に構成してあることを特徴とする。
また、本願の第6発明は、前記第3発明または第4発明において、前記制御装置が、前記サーモカメラによって得られる前記ライニング材の内周面の表面温度によって、前記硬化装置の移動速度を調整する機能を少なくとも具備することを特徴とする。
また、本願の第7発明は、前記第3発明、第4発明または第6発明において、前記サーモカメラの撮影方向が、前記既設管の軸方向であることを特徴とする。
また、本願の第8発明は、前記第3発明、第4発明または第6発明において、前記サーモカメラの撮影方向が、前記既設管の径方向であることを特徴とする。
また、本願の第9発明は、前記第1発明乃至第8発明のうち何れか一つの発明において、前記気体導入装置が送り込む気体が、非圧縮気体であることを特徴とする。
また、本願の第10発明は、既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行う硬化装置を用いた既設管の補修方法であって、前記硬化装置は、当該硬化装置の進行方向の前後に、撮影部およびサーモカメラを有し、(a)前記硬化装置を既設管の一端から他端まで前進する際に、前記撮影部でもって前記ライニング材の配置を確認する際に、(a1)前側の前記撮影部によって前記硬化装置よりも前方の前記ライニング材の配置を確認する工程と、(a2)前記硬化装置の前進後、後側の前記撮影部によって前記硬化装置よりも後方の前記ライニング材の配置を確認する工程と、を含み、(b)前記硬化装置を既設管の他端から一端まで後退しながら光照射を行う際に、前記サーモカメラでもって前記ライニング材の光硬化を確認する際に、(b1)光照射を行う前記硬化装置の後退にあわせて、前側の前記サーモカメラによって前記硬化装置よりも前方の前記ライニング材の光硬化を確認する工程と、(b2)前記硬化装置が既設管の一端側まで後退した後、前記硬化装置を再前進させて、後側の前記サーモカメラによって前記硬化装置よりも後方の前記ライニング材の光硬化を確認する工程と、を含む、ことを特徴とするものである。
また、本願の第11発明は、既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行うための硬化装置であって、前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、を有し、前記撮影部および前記サーモカメラを、前記硬化装置の移動方向の前後に設けたことを特徴とするものである。
また、本願の第12発明は、既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行うための硬化装置であって、前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、複数の脚部からなる、走行部と、前記脚部に固定または移動自在に取り付けてある発光部と、を有することを特徴とするものである。
また、本願の第13発明は、既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行うための硬化装置であって、前記ライニング材の内周面を撮影可能な、撮影部と、前記ライニング材の内周面の表面温度を測定可能な、サーモカメラと、複数の脚部からなる、走行部と、前記走行部に対し独立して設け、前記ライニング材との離隔距離を調整可能な発光部と、を有することを特徴とするものである。
また、本願の第14発明は、前記第12発明または第13発明において、前記複数の脚部の開脚角度または伸縮長を自在に構成してあることを特徴とするものである。
また、本願の第15発明は、既設管の内部に配置する可撓性および光硬化性を有する中空状のライニング材の内部を走行しながら当該ライニング材に光照射を行うための硬化装置を制御するための、制御装置であって、
前記硬化装置に設けたサーモカメラから得られる前記ライニング材の内周面の表面温度によって、補修後の既設管に対して行う削孔予定箇所の位置を推定する機能を少なくとも具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくとも何れか1つの効果を奏する。
(1)硬化装置の移動方向の前後に撮影部を設けたことで、ライニング材を配置した全ての区間において、ライニング材の内周面の視覚観察が可能となる。
(2)硬化装置にサーモカメラを設けることで、ライニング材の内周面の表面温度を観察記録することにより、ライニング材の光効果が適切に行われているか否かを確認することができ、より品質の高い観察作業が可能となる。
(3)サーモカメラから得られるライニング材の内周面の表面温度に応じて光照射時間の調整(硬化装置の移動速度の調整)を行うことで、より品質の高い観察作業が可能となる。
(4)サーモカメラから得られるライニング材の内周面の表面温度から削孔予定箇所を推定することで、その後の削孔作業の効率性が向上する。
(5)硬化装置の移動方向の前後にサーモカメラを設けることで、ライニング材を配置した全ての区間での温度観察が可能となる。
(6)気体導入装置でもってライニング材の内部に送り込む気体を、非圧縮気体とすることで、従前の圧縮気体を送り込む方法で懸念された、気中に混入したオイルによる爆発の危険性を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】複数の硬化装置を連結した構成を示す概略図。
【
図3】既設管補修システムの全体構成を示す概略図。
【
図4】制御装置による削孔予定箇所の推定機能のイメージ図(1)。
【
図5】制御装置による削孔予定箇所の推定機能のイメージ図(2)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0009】
<1>全体構成(
図1)
始めに、本発明に係る既設
管補修システムを構成する硬化装置Aについて説明する。
本実施例に係る硬化装置Aは、特許文献1に示す光照射装置のように、発光部10と走行部20とを有する光照射装置を用いることができ、当該光照射装置の前後に、新たに撮影部30とサーモカメラ40とを組み込んで構成する。
したがって、本発明において、硬化装置Aの形状、構造、長さ、大きさなどは特段限定しない。
この硬化装置Aを補修対象の既設管Xの内周面に配置した中空状のライニング材Yの内部に配置し、発光部10でもってライニング材Yに光照射を行いながら、走行部20を用いて管内を移動することで、順次ライニング材Yを硬化させて既設管Xを補修する。
以下、各要素の詳細について説明する。
【0010】
<2>発光部(
図1)
発光部10は、硬化装置Aの周囲に向かって光照射を行う為の部位である。
発光部10の形状、構造、配置形態等は適宜設計することができる。
本実施例では、後述する走行部20を構成する脚部21に発光部10を設けている。
【0011】
<3>走行部(
図1)
走行部20は、硬化装置Aを移動させるための部位である。
走行部20の形状、構造、配置形態等は適宜設計することができる。
本実施例では、光硬化装置の筐体から外方に伸びる複数の脚部21の先端に設けた車輪22でもって走行部20を形成しており、硬化装置Aに別途接続したロープ材を牽引するなどして、既設管Xの内部を車輪22の回転による走行によって移動可能に構成している。
【0012】
<4>撮影部(
図1)
撮影部30は、ライニング材Yの内周面を撮影するための装置である。
撮影部30は、市販、特注を問わず任意の製品を用いることができる。
撮影部30として使用するデジタルカメラは画角が広いものが好ましいが、特段限定しない。
【0013】
<4.1>撮影部の設置態様
本実施例では、撮影部30を設ける場所は、硬化装置Aの移動方向の前後二箇所としている。
これは、硬化装置Aの前側および後側の何れか一方だけでは、補修対象の既設管Xに設置するライニング材Yの全長にわたって撮影画像を取得できないためである。その詳細は後述する。
【0014】
<4.2>撮影方向
また、本実施例では、各撮影部30を、撮影方向が既設管Xの軸方向であって解放空間側を向く態様で設置している。当該撮影方向とすることで、既設管Xの端部を中心として周囲にライニング材Yの内周面が展開された遠近感を有する撮影画像を取得することができる。
【0015】
<5>サーモカメラ(
図1)
サーモカメラ40は、ライニング材Yの内周面の表面温度を取得するための装置である。
サーモカメラ40は、市販、特注を問わず任意の製品を用いることができる。
サーモカメラ40による測定結果は、測定値を可視化したサーモグラフィーの態様で画面表示することができ、この表示画面を作業員がリアルタイムまたは事後的に確認可能に構成することができる。
さらに、当該測定値を、後述する実施例2で示した制御装置Cや、作業員が使用する情報処理端末などに転送して、各種の情報処理に使用してもよい。
【0016】
<5.1>サーモカメラ40の設置態様
本発明において、サーモカメラ40の設置数、設置方向は特段限定しない。
なお、本実施例では、前記した撮影部30のように、サーモカメラ40を硬化装置Aの前後二箇所に設けつつ、サーモカメラ40の撮影方向は既設管Xの軸方向であって解放空間側を向いた態様としている。
【0017】
その他、図示しないがサーモカメラ40を、前端側および後端側の硬化装置Aの筐体の左右にそれぞれ設け、ライニング材Yの左半分と右半分とを別々に撮影するように構成してもよい。
【0018】
<6>その他の構成例(
図2)
次に、本発明に係る既設管補修システムを構成する硬化装置Aの別実施例について説明する。
本発明では、ライニング材Yに対して一度に光照射可能な領域を延伸するべく、複数の硬化装置Aを連結して構成してもよい。
図2では、複数台の硬化装置Aをチェーンで連結しつつ、両端の硬化装置A1,A2の解放側に撮影部30a,30bおよびサーモカメラ40a,40bを設けた構成としている。
本構成によれば、補修作業の為に確保された作業時間や、既設管Xにおける補修区間の長さ、硬化装置Aの走行速度、ライニング材Yの硬化に要する光照射時間などの条件に合わせて、硬化装置Aの連結数を適宜調整することで、より効率の良い補修作業が可能となる。
【実施例2】
【0019】
<1>全体構成(
図3)
次に、前記した硬化装置Aを用いた既設管補修システムについて説明する。
本発明に係る既設管補修システムは、既設管X内に配置するライニング材Yに光照射を行うための硬化装置Aと、ライニング材Yの内部に気体を送り込むための気体導入装置Bと、硬化装置Aの動作についての制御機能を有する制御装置Cと、を少なくとも含んで構成する。
以下、各構成要素の詳細について説明する。
【0020】
<2>硬化装置(
図3)
硬化装置Aは、既設管X内に配置するライニング材Yに光照射を行うための装置である。
硬化装置Aの詳細は、前記した実施例1の通りであるため、詳細な説明は省略する。
また、
図3における硬化装置Aの左側を前側、硬化装置Aの右側を後側として定義した場合、硬化装置Aの前側には地上に設けたウインチDで巻き取り可能なワイヤD1を接続してあり、硬化装置Aの左側には地上に設けた制御装置Cとの間で情報の送受信を可能とするケーブルC1を接続している。
そのため、硬化装置Aを前進させる際にはワイヤD1をウインチDで巻き取る動作を行えば良く、反対に硬化装置Aを後退させる際には、ケーブルC1を制御装置Cで巻き取る動作を行えば良い。
【0021】
<3>気体導入装置(
図3)
気体導入装置Bは、既設管X内に配置するライニング材Yの内部に気体を送り込むための装置である。
気体導入装置Bは、公知のブロアーを用いることができるが、好ましくは、送り込む気体を非圧縮気体とすることが好ましい。
これは、圧縮気体を送り込む仕様のエアコンプレッサを気体導入装置Bとして適用した場合、圧縮気体の中に混入したオイルが、既設管X内で引火して爆発事故などの要因として考えられるためである。
また、
図3には図示しないが、必要に応じて気体導入装置Bから気体を導入する既設管Xの端部とは反対側の端部に、気体を排気するための通気管を地上まで配管しておいてもよい。
【0022】
<4>制御装置(
図3)
制御装置Cは、硬化装置Aの動作に関する制御機能を少なくとも有する装置である。
硬化装置Aの動作に関する制御機能には、走行速度の調整機能や、削孔予定箇所Zの推定機能などが含まれる。
本実施例における制御装置Cは、硬化装置Aに接続するケーブルC1の巻き取り機構を備えており、このケーブルC1の巻き取り動作によって硬化装置Aを牽引することで、硬化装置Aを後退方向に走行させることができる。
【0023】
<4.1>走行速度の調整機能(
図3)
制御装置Cは、硬化装置Aに接続したケーブルC1の巻き取り速度を調整することにより、硬化装置Aの走行速度を調整する機能を有する。
硬化装置Aの走行速度を調整することによって、ライニング材Yへの光照射時間の調整が可能となる。
この走行速度の調整に用いるパラメータとしては、以下のものがある。
【0024】
(1)ライニング材の仕様
使用するライニング材Yの使用説明書で規定された光照射時間を満たすように走行速度を調整する。
より具体的には、所定の位置において、硬化装置Aの通過に要する時間が光照射時間よりも長くなるように硬化装置Aの走行速度を制御すればよい。
【0025】
(2)ライニング材の内周面の表面温度の測定結果
サーモカメラ40から得られる光照射中のライニング材Yの表面温度から、光照射によってライニング材Yが十分に硬化した状態であるかを、作業員による目視結果、または制御装置Cやその他の情報処理装置に組み込まれた解析プログラムによる画像解析の結果を用いる。
解析の結果、ライニング材Yの表面温度が、所定の温度に達していない場合には、硬化装置Aの走行速度を落としたり、硬化装置Aを停止させたりするよう制御すればよい。
【0026】
(3)ライニング材の内周面の撮影画像の解析結果
撮影部30から得られる光照射中のライニング材Yの撮影画像から、光照射によってライニング材Yが十分に硬化した状態であるかを、作業員による目視結果、または制御装置Cやその他の情報処理装置に組み込まれた解析プログラムによる画像解析の結果を用いることができる。
解析の結果、ライニング材Yが十分に硬化していないものと推測される場合には、硬化装置Aの走行速度を落としたり、硬化装置Aを停止させたりするよう制御すればよい。
【0027】
<4.2>削孔予定箇所の推定機能(
図4)
制御装置Cは、サーモカメラ40によるライニング材Y内の内周面の表面温度の測定結果から、ライニング材Yによる補強後に、既設管X内に設けてあったその他の孔X1と連通すべく削孔を要する箇所(削孔予定箇所Z)を推定する機能を有してもよい。
【0028】
<4.2.1>サーモグラフィー画像の表示例1(
図4)
図4(a)に示す様に既設管X内に設けてあるその他の孔X1と連通する部分は、ライニング材Yによって一旦塞がれた状態となっている。
この孔X1を塞いだ箇所を硬化装置Aの軸方向を撮影方向としたサーモカメラ40で撮影したサーモグラフィー画像41のイメージを
図4(b)に示す。
図4(b)に示すサーモグラフィー画像41では、ライニング材Yの内周面が、画像の外縁から中央に向かって遠近を持った態様で表示されている。
このサーモグラフィー画像41において、ライニング材Yで塞がれた孔X1の部分は、その他の場所と比較して表面温度や温度変化が相対的に異なった態様で表示される。
制御装置Cでは、この表面温度や温度変化の違いを検出し、ケーブルC1の巻き取り量から硬化装置Aの位置を割り出して、削孔予定箇所Zの位置を推定・記録しておくことができる。
【0029】
<4.2.2>サーモグラフィー画像の表示例2(
図5)
図5(a)は、硬化装置Aの両側面にサーモカメラ40を取り付けて、サーモカメラ40の撮影方向を既設管Xの径方向とした場合の既設管Xの断面イメージである。
図5(b)は、
図5(a)で示したサーモカメラ40で撮影したサーモグラフィー画像41のイメージであり、ライニング材Yの表面温度が、既設管Xの軸方向を横方向、既設管Xの上下方向を縦方向とした態様で表示されている。
この表示イメージでも、前記した表示例1と同様、削孔予定箇所Zの位置を推定・記録しておくことができる。
【0030】
<4.3>その他
その他、制御装置Cは、走行部20を構成する脚部21の制御機能や、発光部10の位置調整機能や明度調整機能、撮影部30やサーモカメラ40のコントロール機能などを設けてもよい。
また、本発明において、制御装置Cは上記した各種機能を一台の情報処理装置で実現する態様に限定されるわけでは無く、複数の情報処理装置を組み合わせた態様で実現しても良い。
【0031】
<5>使用手順(視認監視+補修作業)
本発明に係る既設管補修システムを用いた補修作業の手順について
図6、
図7を参照しながら説明する。
既設管Xに対するライニング材Yの配置作業及び膨張作業は、公知の手順である。
よって、以下では、気体導入装置Bによって膨張させたライニング材Yが、既設管Xの内周面に接触してするまでの説明を省略し、既設管Xに対する硬化装置Aの導入から光硬化作業を完了させるまでの手順の詳細について説明する。
【0032】
(1)硬化装置の導入・ライニング材の配置確認(
図6(a)(b))
硬化装置Aを既設管Xの一端側から内部に侵入させる。
その後、硬化装置Aの前方側に取り付けた前側撮影部30aの撮影を開始して既設管Xの他端側方向へとウインチDでもってワイヤD1を巻き取ることによって硬化装置Aの牽引を開始する(
図6(a))。
このとき、前側撮影部30による撮影可能な区間は硬化装置Aの前方側の区間(前方担当区間L1)に限定されてしまうため、開始位置で前側撮影部30よりも後方の区間(後方担当区間L2)にあるライニング材Yについては、硬化装置Aの前進が進んだ段階(
図6(b))で、硬化装置Aの後方側に取り付けた後側撮影部30bによる撮影でもって補うこととなる。
【0033】
(2)最奥部への到達(
図6(c))
あとは、順次硬化装置Aの前進を進めながら前側撮影部30で撮影を進めていけば、硬化装置Aが既設管Xの他端側に達した段階でもってライニング材Yの全長にわたる撮影映像を確認・記録できたことになる。
【0034】
(3)硬化作業の開始(
図7(a))
硬化装置Aが、既設管Xの他端側に達した段階から発光部10による発光を開始するとともに、制御装置Cでもって所定の速度でケーブルC1を巻き取ることで、硬化装置Aを後退させて、ライニング材Yの硬化作業を進めていく。
硬化装置Aの後退に伴い、ライニング材Yの硬化が確実に行われているか否かを、硬化装置Aの前方側に取り付けた、前側サーモカメラ40aで確認・記録していく。
【0035】
(3)後端到達から再前進(
図7(b)(c))
硬化装置Aが、既設管Xの一端側に達した段階(
図7(b))において、硬化装置Aの前方側に取り付けた前側サーモカメラ40aでの確認が可能な区間は、硬化装置Aよりも前方側の区間(前方担当区間L3)に限定されてしまう。
そこで、既設管Xの一端側に到達した段階で、前側サーモカメラ40aよりも後方の区間(後方担当区間L4)にあるライニング材Yについては、硬化装置Aの後退が完了した段階から発光部10の発光を停止し、再度硬化装置Aを前進させて(
図7(c))、硬化装置Aの後方側に取り付けた後側サーモカメラ40bによる撮影で補うこととなる。
【0036】
(4)硬化作業の終了(図示せず)
ライニング材Yの全長にわたって前後のサーモカメラ40a,40bによる映像の確認や記録が完了した場合には、既設管Xから硬化装置Aを撤去して、硬化作業を完了する。映像確認の結果、硬化作業の時間が足りないと判断される箇所が存在する場合には、制御装置CやウインチDを用いて、硬化装置Aを該当箇所まで移動させて、再度硬化作業を実施する。
【0037】
(5)小括
このように、本発明によれば、撮影部30やサーモカメラ40を硬化装置Aの前後に設けることによって、補修区間であるライニング材Yの全長にわたって、ライニング材Yの配置位置や硬化作業が正確に行われたか否かをより確実に確認することができるため、施工品質の向上に寄与する。
【実施例3】
【0038】
[脚部の構成例(図示せず)]
本発明では、走行部20を構成する脚部21を、開脚角度や伸縮長を自在に設定可能に構成してもよい。
当該構成とすることにより、異なる管径を有するその他の既設管Xへの流用や、既設管Xの内部の不陸などによる径の相違への柔軟な対応が可能となる。
また、異径の既設管Xが接続してある現場でも補修作業中に脚部21の開脚角度を調整することで、補修作業を中断する必要が無い。
【実施例4】
【0039】
[発光部の構成例(図示せず)]
本発明では、発光部10に位置の変更機構を設けることで、ライニング材Yの内周面と発光部10との離隔距離を任意の長さに設定可能に構成することもできる。
発光部10の位置の変更機構の例について以下説明する。
例えば、発光部10を走行部20とは別に設けた場合には、発光部10に既設管Xの径方向に伸縮可能な機構を設けるなどの方法がある。
その他、発光部10を走行部20の脚部21に設ける場合には、脚部21の長手方向に沿ってレールを設けておき、当該レールに沿って発光部10を移動自在に構成しておく等の方法がある。
【符号の説明】
【0040】
A 硬化装置
B 気体導入装置
C 制御装置
C1 ケーブル
D ウインチ
D1 ワイヤ
10 発光部
20 走行部
21 脚部
22 車輪
30 撮影部
30a 前側撮影部
30b 後側撮影部
40 サーモカメラ
40a 前側サーモカメラ
40b 後側サーモカメラ
X 既設管
X1 孔
Y ライニング材
Z 削孔予定箇所
L1,L3 前方担当区間
L2,L4 後方担当区間