(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】自動変速機のロックアップ制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/14 20060101AFI20220719BHJP
【FI】
F16H61/14 601H
F16H61/14 601Q
(21)【出願番号】P 2018047542
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 聡光
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 岳大
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/033760(WO,A1)
【文献】特開2000-213642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源と変速機の間に配置され、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを備える自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップクラッチが解放状態のときにロックアップ締結条件が成立すると、ロックアップ指示差圧を初期差圧まで立ち上げた後、所定のランプ勾配により上昇させて前記ロックアップクラッチを締結するロックアップ制御部を設け、
前記ロックアップ制御部は、前記初期差圧を、前記ロックアップクラッチがロックアップ容量を持ち始めるミートポイント指示差圧の学習値から、前記ランプ勾配に応じて算出されるランプオフセットをマイナスした値で与える
ことを特徴とする自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップ制御部は、前記ランプオフセットを、前記ランプ勾配が低いほど小さくなる値で与える
ことを特徴とする自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップ制御部は、初期差圧によるロックアップ指示差圧の開始時刻から実差圧の発生開始時刻までの油圧応答時間を算出し、
前記ランプオフセットを、前記ランプ勾配と前記油圧応答時間の乗算により与える
ことを特徴とする自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップ制御部は、前記学習値のサンプリングバラツキ分に基づく学習値オフセットを算出し、
前記初期差圧を、前記学習値から、前記学習値オフセットと前記ランプオフセットをマイナスした値で与える
ことを特徴とする自動変速機のロックアップ制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載された自動変速機のロックアップ制御装置において、
前記ロックアップ制御部は、ロックアップ締結条件が成立すると、指示ランプが確定するまで、前記ロックアップ指示差圧を
、前記学習値から前記学習値オフセットをマイナスした値で与える仮設定初期差圧まで立ち上げ、
前記指示ランプが確定すると、前記初期差圧を前記ランプ勾配に基づいて算出し、前記ロックアップ指示差圧を前記初期差圧と前記ランプ勾配に合わせた指示とする
ことを特徴とする自動変速機のロックアップ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機のロックアップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロックアップ指示差圧を初期差圧からランプ差圧に切り替えるランプ開始条件を、トルクコンバータの入出力回転速度の比である速度比に基づいて決めるロックアップ制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来装置にあっては、ロックアップ締結開始時の初期指示圧を一律下限圧としてきた。そのため、実際にロックアップピストンのストロークが終了するまでに多くの無駄時間があり、そこでのエンジン回転数の吹け上がりや締結までに要する時間の長さが課題となっている。
【0005】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、ロックアップクラッチを締結する際、走行用駆動源の回転上昇を抑えるとともに締結に要する時間を短縮しながら、締結時の車両挙動変化を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、走行用駆動源と変速機の間に配置され、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを備える。
この自動変速機のロックアップ制御装置において、ロックアップクラッチが解放状態のときにロックアップ締結条件が成立すると、ロックアップ指示差圧を初期差圧まで立ち上げた後、所定のランプ勾配により上昇させてロックアップクラッチを締結するロックアップ制御部を設ける。
ロックアップ制御部は、初期差圧を、ロックアップクラッチがロックアップ容量を持ち始めるミートポイント指示差圧の学習値から、ランプ勾配に応じて算出されるランプオフセットをマイナスした値で与える。
【発明の効果】
【0007】
このように、初期差圧を、学習値からランプオフセットをマイナスした値で与えることで、ロックアップクラッチを締結する際、走行用駆動源の回転上昇を抑えるとともに締結に要する時間を短縮しながら、締結時の車両挙動変化を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1のロックアップ制御装置が適用されたエンジン車の全体システム構成を示す全体システム図である。
【
図2】無段変速機の目標プライマリ回転数を決めるノーマル変速線の一例を示すノーマル変速スケジュールである。
【
図3】発進スムースロックアップ領域と再加速スムースロックアップ領域の設定例を示すDレンジLUスケジュールである。
【
図4】実施例1のCVTコントロールユニットのロックアップ制御部において実行されるロックアップ締結時のスムースロックアップ制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】発進・再加速(LUストローク未状態)でのスムースロックアップ制御におけるLU差圧特性を示す図である。
【
図6】発進・再加速(LUストローク状態)でのスムースロックアップ制御におけるLU差圧特性の一例を示す図である。
【
図7】ランプオフセットの必要性について説明するためのLU指示差圧特性及びLU実差圧特性を示す対比特性図である。
【
図8】スムースロックアップ制御を開始するとき初期差圧を算出しようとしてもランプ勾配が確定しない理由1(20ms処理が作動しなかった場合)を示す各ジョブでの流れを示すフローチャートである。
【
図9】スムースロックアップ制御を開始するとき初期差圧を算出しようとしてもランプ勾配が確定しない理由2(20ms処理が作動した場合)を示す各ジョブでの流れを示すフローチャートである。
【
図10】ランプオフセットによる初期差圧とする場合のやりたかったことと制御実装課題に対する提案挙動を説明するためのLU指示差圧特性及びLU実差圧特性を示す対比特性図である。
【
図11】ランプオフセットによる初期差圧とする場合にランプ勾配が確定するまでの間の指示の与え方を示すLU指示差圧特性図である。
【
図12】ロックアップクラッチ解放停止状態からの発進時におけるアクセル開度APO・エンジン回転数Ne・タービン回転数Nt・車速VSP・エンジントルクTe・コンバータ伝達トルクτNe
2・クラッチ伝達トルクT
LU・LU指示差圧・LU実差圧の各特性を示すタイムチャートである。
【
図13】ロックアップクラッチ解放状態からの再加速時におけるアクセル開度APO・エンジン回転数Ne・タービン回転数Nt・車速VSP・エンジントルクTe・コンバータ伝達トルクτNe
2・クラッチ伝達トルクT
LU・LU指示差圧・LU実差圧の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の自動変速機のロックアップ制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
実施例1におけるロックアップ制御装置は、トルクコンバータ及び無段変速機(CVT)を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1におけるエンジン車のロックアップ制御装置の構成を、「全体システム構成」、「ロックアップ制御部の構成」、「スムースロックアップ制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は実施例1のロックアップ制御装置が適用されたエンジン車の全体システム構成を示し、
図2は無段変速機のノーマル変速スケジュールを示し、
図3はDレンジLUスケジュールを示す。以下、
図1~
図3に基づき、全体システム構成を説明する。
【0012】
車両駆動系は、
図1に示すように、エンジン1と、エンジン出力軸2と、ロックアップクラッチ3と、トルクコンバータ4と、変速機入力軸5と、無段変速機6と、ドライブシャフト7と、駆動輪8と、を備えている。
【0013】
ロックアップクラッチ3は、トルクコンバータ4に内蔵され、クラッチ解放によりトルクコンバータ4を介してエンジン1と無段変速機6を連結し、クラッチ締結によりエンジン出力軸2と変速機入力軸5を直結する。このロックアップクラッチ3は、後述するCVTコントロールユニット12からロックアップ指示差圧(以下、「LU指示差圧」という。)が出力されると、元圧であるライン圧に基づいて調圧されたロックアップ油圧により、締結/スリップ締結/解放が制御される。なお、ライン圧は、エンジン1により回転駆動される図外のオイルポンプからの吐出油を、ライン圧ソレノイドバルブにより調圧することで作り出される。
【0014】
トルクコンバータ4は、ポンプインペラ41と、ポンプインペラ41に対向配置されたタービンランナ42と、ポンプインペラ41とタービンランナ42の間に配置されたステータ43と、を有する。このトルクコンバータ4は、内部に満たされた作動油が、ポンプインペラ41とタービンランナ42とステータ43の各ブレードを循環することによりトルクを伝達する流体継手である。ポンプインペラ41は、内面がロックアップクラッチ3の締結面であるコンバータカバー44を介してエンジン出力軸2に連結される。タービンランナ42は、変速機入力軸5に連結される。ステータ43は、ワンウェイクラッチ45を介して静止部材(トランスミッションケース等)に設けられる。
【0015】
無段変速機6は、プライマリプーリとセカンダリプーリに掛け渡されるベルトの接触径を変えることにより変速比を無段階に制御するベルト式無段変速機である。無段変速機6による変速後の出力回転は、ドライブシャフト7を介して駆動輪8へ伝達される。
【0016】
車両制御系は、
図1に示すように、エンジンコントロールユニット11(ECU)と、CVTコントロールユニット12(CVTCU)と、CAN通信線13と、を備えている。入力情報を得るセンサ類として、エンジン回転数センサ14と、タービン回転数センサ15(=CVT入力回転数センサ)と、CVT出力回転数センサ16(=車速センサ)と、を備えている。さらに、アクセル開度センサ17と、セカンダリ回転数センサ18と、プライマリ回転数センサ19と、CVT油温センサ20と、ブレーキスイッチ21、前後Gセンサ22、等を備えている。
【0017】
エンジンコントロールユニット11は、例えば、CVTコントロールユニット12からCAN通信線13を介してエンジントルク情報を要求する信号を受け取ると、エンジントルク情報をCVTコントロールユニット12へ送出する。エンジントルク情報は、エンジンコントロールユニット11において、エンジン回転数Neやアクセル開度APOやエンジン全性能特性等を用いて推定演算される。
【0018】
CVTコントロールユニット12は、変速制御部12a、ミートポイント学習制御部12b、ロックアップ制御部12c、等を有する。
【0019】
変速制御部12aは、無段変速機6のプライマリ回転数Npriを、ノーマル変速線により演算した目標プライマリ回転数Npri*に一致させるフィードバック制御により、変速比を無段階に変更制御するノーマル変速制御を行う。
【0020】
ここで、「ノーマル変速線」とは、
図2のノーマル変速スケジュールに示すように、車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)に基づき目標プライマリ回転数Npri
*を決めるアクセル開度毎の変速線である。このノーマル変速線のうち、アクセル足離しコースト状態(アクセル開度APO=0/8)のときの変速線をコースト変速線という。
【0021】
例えば、停車からの発進時には、
図2の矢印Eに示すように、アクセル踏み込み操作により運転点(VSP,APO)が最Low変速比線に沿って移動し、踏み込み後のアクセル開度APOに到達すると、車速VSPを上昇させるアップシフトが行われる。
【0022】
例えば、ドライブ走行からのコースト減速時には、
図2の矢印Fに示すように、アクセル足放し操作により運転点(VSP,APO)がコースト変速線まで低下し、その後、コースト変速線に沿って運転点(VSP,APO)が移動し、車速VSPを低下させるダウンシフトが行われる。このコースト減速中にアクセル踏み込み操作により再加速を意図すると、
図2の矢印Fに示すように、運転点(VSP,APO)がアクセル開度APOを高める方向に移動し、車速VSPを上昇させるアップシフトが行われる。
【0023】
この変速制御部12aでは、ノーマル変速制御以外に、疑似有段アップシフト制御(D-Step制御)を行う。この疑似有段アップシフト制御では、加速要求が高いアクセル踏み込み操作時、
図2の矢印Gに示すように、あたかも有段変速機でのアップシフトのような変速感を得るように、プライマリ回転数Npriを変動させる。この疑似有段アップシフト制御では、ロックアップクラッチ3が解放状態であれば応答良く締結し、ダイレクトな有段変速感(シャキシャキ感)を得るようにしている。
【0024】
ミートポイント学習制御部12bは、スムースロックアップ制御時にロックアップクラッチ3がロックアップ容量を持ち始めるミートポイントのLU指示差圧である学習値を取得する。つまり、ミートポイント学習条件が成立するスムースロックアップ制御を経験すると、ロックアップ容量を持ち始めるミートポイントでのLU指示差圧を学習値として記憶する。そして、学習経験を重ねる毎に記憶されている学習値を学習補正量だけ加算や減算をして更新する。よって、学習経験を多く重ねると、ロックアップ容量を持ち始める真値に近い学習値(LU指示差圧)が取得されることになる。
【0025】
ロックアップ制御部12cは、ロックアップクラッチ3の締結/スリップ締結/解放を制御する。ロックアップクラッチ3のロックアップ制御としては、発進時に実行される「発進スムースロックアップ制御」と、再加速時に実行される「再加速スムースロックアップ制御」と、を有する。「発進スムースロックアップ制御」は、
図3のDレンジLUスケジュールに示すように、停止からの発進時、運転点(VSP,APO)が発進SMON線を横切って低車速域に設定された発進SMON領域に入ると開始される。「再加速スムースロックアップ制御」は、
図3のDレンジLUスケジュールに示すように、走行中の再加速時、運転点(VSP,APO)がLUON線を横切って発進SMON領域よりも高車速域に設定されたLUON領域に入ると開始される。
【0026】
実施例1での学習値Aと学習値オフセットBとランプオフセットCを反映した初期差圧は、「発進スムースロックアップ制御」と「再加速スムースロックアップ制御」に対して実施される。なお、「スムースロックアップ制御」とは、解放状態のロックアップクラッチ3を、ランプ制御での滑らかなクラッチ容量の増加(差圧昇圧)により締結状態へ移行する制御をいい、LU遷移状態としてのドライブスリップオープンも含む。
【0027】
「発進スムースロックアップ制御」は、
・アクセル開度が一定で車速が上昇する発進時(
図3の矢印H1)
・アクセル踏み増し操作により車速が上昇する発進時(
図3の矢印H2)
・アクセル踏み戻し操作による発進時(
図3の矢印H3)
・コースト状態からのアクセル踏み込み操作によるクリープ発進時(
図3の矢印H4)
等の発進シーンにおいて、学習値と学習値オフセットとランプオフセットを反映した初期差圧が実施される。
【0028】
「再加速スムースロックアップ制御」は、
・アクセル開度が低開度域の一定開度で車速が上昇する再加速時(
図3の矢印I1)
・アクセル踏み増し操作により車速が上昇する再加速時(
図3の矢印I2)
・アクセル踏み戻し操作で車速が上昇する再加速時(
図3の矢印I3)
・アクセル開度が高開度域の一定開度で車速が上昇する再加速時(
図3の矢印I4)
・コースト走行状態からのアクセル踏み込み操作による再加速時(
図3の矢印I5)
等の再加速シーンにおいて、学習値と学習値オフセットとランプオフセットを反映した初期差圧が実施される。
【0029】
[スムースロックアップ制御処理構成]
図4は、実施例1のCVTコントロールユニット12のロックアップ制御部12cにおいて実行されるロックアップ締結時のスムースロックアップ制御処理の流れを示す。以下、
図4の各ステップについて説明する。なお、「LU」という記述は「ロックアップ」の略称である。
【0030】
ステップS1では、ロックアップクラッチ3が解放状態であるか否かを判断する。YES(LUクラッチ解放)の場合はステップS2へ進み、NO(LUクラッチ締結)の場合はエンドへ進む。
【0031】
ここで、例えば、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntに差回転数が生じている場合は、ロックアップクラッチ3が解放状態であると判断する。エンジン回転数Neとタービン回転数Ntが一致している場合は、ロックアップクラッチ3が締結状態であると判断する。なお、ロックアップクラッチ3への差圧指示の大きさにより、ロックアップクラッチ3が解放状態であるか否かを判断しても良い。
【0032】
ステップS2では、ステップS1でのLUクラッチ解放であるとの判断に続き、LUストローク未状態であるか否かを判断する。YES(LUストローク未状態)の場合はステップS3へ進み、NO(LUストローク状態)の場合はステップS10へ進む。
【0033】
ここで、「LUストローク」とは、ロックアップクラッチ3の締結方向へのクラッチピストンストロークをいう。「LUストローク未状態」とは、クラッチピストンが完全解放の初期ピストン位置にある状態をいう。「LUストローク状態」とは、クラッチピストンが完全解放の初期ピストン位置から締結側へストロークした位置にある状態をいう。
【0034】
ステップS3では、ステップS2でのLUストローク未状態であるとの判断、或いは、ステップS3での運転点(VSP,APO)が発進時のLU領域に無いとの判断に続き、そのときの運転点(VSP,APO)が発進時や再加速時のLU領域に存在するか否かを判断する。YES(LU領域内)の場合はステップS4へ進み、NO(LU領域外)の場合はステップS3の判断を繰り返す。
【0035】
ここで、発進時、運転点(VSP,APO)が発進SMON線を横切って発進SMON領域に入るとLU領域内と判断される。再加速時、運転点(VSP,APO)がLUON線を横切ってLUON領域に入るとLU領域内と判断される。
【0036】
ステップS4では、ステップS3でのLU領域内であるとの判断、或いは、ステップS5での指示ランプ不確定であるとの判断に続き、仮設定初期差圧(=学習値A-学習値オフセットB)を指示し、ステップS5へ進む。
【0037】
ここで、「仮設定初期差圧」は、指示ランプが確定して本来の初期差圧が算出されるまでの間、暫定的に設定される初期差圧である。「学習値A」は、ミートポイント学習制御部12bからそのときに記憶されている最新の学習値を読み込むことで取得される。「学習値オフセットB」は、仮設定初期差圧の指示によりショックが出ないように、学習値Aのサンプリングバラツキ分をマイナス側にオフセットさせる値である。学習値オフセットBの値は、学習値Aのバラツキ影響を排除する値として、入力回転バラツキ分とライン圧バラツキ分と油温バラツキ分等が見積もられ、これらのサンプリングバラツキ分に基づいて設定される。
【0038】
「学習値オフセットB」の必要性は、ミートポイントの学習値Aが下側にばらついた場合、狙いよりもクラッチミートが遅くなり、エンジン回転数Neが吹け上げ方向となる。一方、ミートポイントの学習値Aが上側にばらついた場合、狙いよりもクラッチミートが早くなり、クラッチストローク速度も速くなるため、急締結方向となり、エンジン回転数変化ΔNeの急変やショックの懸念がある。よって、学習値Aのバラツキ分を見積もり、学習値Aから学習値オフセットBを差し引いて仮設定初期差圧とすることで、仮設定初期差圧の指示によるエンジン回転数Neが吹け上げの懸念やショックの懸念を解決する。
【0039】
ステップS5では、ステップS4での仮設定初期差圧の指示に続き、スムースロックアップ制御での指示ランプが確定したか否かを判断する。YES(指示ランプ確定)の場合はステップS6へ進み、NO(指示ランプ不確定)の場合はステップS4へ戻る。
【0040】
ここで、「指示ランプ確定」とは、車両状態(例えば、レンジ位置、モード位置、発進、発進以外、等)を判定し、車両状態に応じたランプ勾配を選択することをいう。また、指示ランプが確定したか否かを判断する理由は、初期差圧を算出するとき、スムースロックアップ制御でのランプ勾配情報が必要である。しかし、スムースロックアップ制御の開始条件が成立したときに指示ランプが確定していないことによる。
【0041】
ステップS6では、ステップS5での指示ランプ確定であるとの判断に続き、初期差圧によるLU指示差圧の開始時刻からLU実差圧の発生開始時刻(ゼロ差圧)までの油圧応答時間(=油圧応答遅れ時間)を算出し、ステップS7へ進む。
【0042】
ここで、「油圧応答時間」は、LU指示差圧に対してLU実差圧が発生するまでの無駄時間と、シミュレーションによるLU実差圧特性の遅れ時定数と、を用いて算出する。
【0043】
ステップS7では、ステップS6での油圧応答時間の算出に続き、指示ランプのランプ勾配に応じたランプオフセットCを算出し、ステップS8へ進む。
【0044】
ここで、「ランプオフセットC」は、ランプ勾配に応じて初期差圧をマイナス側、つまり、初期差圧を小さくする側にオフセットさせる値であり、
ランプオフセットC[Mpa]=ランプ勾配[Mpa/sec]×油圧応答時間[sec]
の式を用いて算出される。なお、
図7に示すように、ランプ勾配=tanθであり、油圧応答時間=待機時間ΔT3である。つまり、油圧応答時間を一定時間と仮定すると、ランプ勾配が低いほどランプオフセットCの値は小さな値とされ、オフセット後の初期差圧は大きな値となる。
【0045】
「ランプオフセットC」を算出する理由は、LU指示差圧が学習真値に到達するクラッチミートタイミングと、LU実差圧がゼロ差圧に到達するクラッチ容量出力開始タイミングとを出来る限り同じタイミングにするためである。即ち、スムースロックアップ制御において、クラッチミートタイミングに対しクラッチ容量出力開始タイミングが遅れるとエンジン回転数Neが吹け上げる。一方、クラッチミートタイミングよりクラッチ容量出力開始タイミングが早いと急締結ショックになる。よって、ランプオフセットCを適切に設定し、学習値AからランプオフセットCを差し引いたものを初期差圧とすることで、エンジン回転数Neが吹け上げや急締結ショックを解決する。
【0046】
ステップS8では、ステップS7でのランプオフセットCの算出に続き、初期差圧(=学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC)を算出し、ステップS9へ進む。
【0047】
ここで、「初期差圧」は、学習値Aと学習値オフセットBとランプオフセットCを反映した本来の「初期差圧」である。なお、初期差圧は、初期差圧としての下限圧を下回ることがないように、
初期差圧=MAX[(学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC),下限圧]
により求める。
【0048】
ステップS9では、ステップS8での初期差圧の算出に続き、初期差圧とランプ特性に合わせたLU指示圧特性を描くように、仮設定初期差圧によるLU指示差圧を所定幅だけ低下し、ステップS12へ進む。
【0049】
ここで、LU指示差圧の低下幅は、スムースロックアップ制御開始時に初期差圧としたと仮定したときランプ特性に合わせるようにLU指示差圧の値を低下させる幅とする。
【0050】
ステップS10では、ステップS2でのLUストローク状態であるとの判断、或いは、ステップS11での運転点(VSP,APO)が発進時のLU領域に無いとの判断に続き、そのときの運転点(VSP,APO)が発進時や再加速時のLU領域に存在するか否かを判断する。YES(LU領域内)の場合はステップS11へ進み、NO(LU領域外)の場合はステップS10の判断を繰り返す。なお、LU領域内であるかLU領域外であるかの判断は、ステップS3と同様とする。
【0051】
ステップS11では、ステップS10でのLU領域内であるとの判断に続き、初期差圧として下限圧を指示し、ステップS12へ進む。なお、「下限圧」は、固定値で与えても良いし、既存の初期圧演算結果を用いても良い。
【0052】
ステップS12では、ステップS9でのLU指示差圧の低下、或いは、ステップS11での下限圧の指示、或いは、ステップS13でのクラッチスリップ量>所定値であるとの判断に続き、ランプ制御にて差圧昇圧を開始し、ステップS13へ進む。
【0053】
ここで、「ランプ制御にて差圧昇圧を開始する」とは、LU指示差圧を選択された勾配角度で上昇させるランプ勾配を持つ差圧指示へと切り替えることをいう。よって、ステップS9からステップS12に進んだ場合は、
図5に示すように、制御開始から指示ランプが確定するまで初期差圧を仮設定初期差圧とし、指示ランプが確定すると初期差圧を初期差圧とするLU差圧特性を示す。ステップS11からステップS12に進んだ場合は、
図6に示すように、初期差圧を下限圧とするLU差圧特性を示す。
【0054】
ステップS13では、ステップS12でのランプ制御による差圧昇圧に続き、ロックアップクラッチ3のクラッチスリップ量が、所定値以下になったか否かを判断する。YES(クラッチスリップ量≦所定値)の場合はステップS14へ進み、NO(クラッチスリップ量>所定値)の場合はステップS12へ戻る。
【0055】
ここで、「クラッチスリップ量」は、(エンジン回転数Ne-タービン回転数Nt)の式を用いて算出する。「所定値」は、スリップ回転数が無くなってクラッチ締結状態になったとみなす判定閾値(例えば、10rpm程度の値)に設定される。
【0056】
ステップS14では、ステップS13でのクラッチスリップ量≦所定値であるとの判断に続き、LU容量を最大にする制御によりロックアップクラッチ3を締結し、エンドへ進む。
【0057】
ここで、「LU容量を最大にする制御」では、ロックアップクラッチ3を完全締結状態にするため、LU指示差圧を、ステップ的に最大値まで上昇させるフィードフォワード制御(FF制御)を行う。
【0058】
次に、実施例1での作用を、「背景技術とスムースロックアップ制御作用」、「ランプオフセットの必要性と制御実装課題」、「発進時におけるスムースロックアップ制御作用」、「再加速時におけるスムースロックアップ制御作用」に分けて説明する。
【0059】
[背景技術とスムースロックアップ制御作用]
従来、スムースロックアップ開始時に指示する初期差圧は、ショックを起こさないよう一律に下限圧(油圧バラツキ幅からヒステリシス分を引いた値:例えば、-63[kPa]程度)としてきた。
【0060】
そのため、実際にロックアップピストンがストロークを終了するまでに多くの無駄時間があり、そこでのエンジン回転の吹け上がりや締結完了までの時間の長さが指摘されている。さらに、近年は、変速制御に疑似有段変速制御(D-Step制御)が追加され、運転性の向上から1山目までに締結することを求められている(
図2の矢印Gで示す特性を参照)。
【0061】
よって、従来の初期差圧を下限圧とするときの課題は、下記の通りである。
(a) 疑似有段変速制御での1山目までにLU締結できない。
このため、疑似有段変速制御の狙いであるシャキシャキ感が喪失する。
(b) 停止からの発進時にエンジン回転が吹け上がる。
即ち、ロックアップピストンのストローク終了まで時間がかかることで、その間にエンジンの回転が吹け上がってしまう。
(c) 再加速でLU締結までに要する時間が長い。
即ち、コースト走行でのロックアップ解放状態からのアクセル踏み込み時、LU締結指示開始から実LU締結までに時間がかかってしまう。
【0062】
本発明等は、上記(a)~(c)の課題に着目し、解放状態のロックアップクラッチ3を締結する際、初期差圧を、学習値Aと学習値オフセットBとランプオフセットCを反映するLU指示差圧値により与える構成を採用した。
【0063】
即ち、LUクラッチ解放、かつ、LUストローク未状態で、運転点(VSP,APO)がLU領域に入ると、
図4のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5へと進み、指示ランプが不確定の間は、S4→S5へと進む流れが繰り返される。よって、発進時や再加速時にスムースロックアップ制御の開始条件が成立すると、仮設定初期差圧(=学習値A-学習値オフセットB)によるLU指示差圧が出力される。
【0064】
指示ランプが確定すると、S5からS6→S7→S8→S9→S12→S13へと進み、クラッチスリップ量>所定値の間は、S12→S13へと進む流れが繰り返される。よって、S6にて油圧応答時間が算出され、S7にてランプオフセットC(=ランプ勾配×油圧応答時間)が算出される。S8では、S7でのランプオフセットCの算出を受けて、初期差圧(=学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC)が算出される。そして、S9では、初期差圧とランプ特性に合わせてLU指示差圧が低下され、S12では、初期差圧を初期差圧とする特性によりランプ制御が開始される。
【0065】
なお、LUクラッチ解放、かつ、LUストローク状態で、運転点(VSP,APO)がLU領域に入ると、
図4のフローチャートにおいて、S1→S2→S10→S11→S12→S13へと進み、クラッチスリップ量>所定値の間は、S12→S13へと進む流れが繰り返される。よって、S12では下限圧を初期差圧とする特性によりランプ制御が開始される。
【0066】
その後、クラッチスリップ量≦所定値になると、S13からS14→エンドへと進み、LU容量を最大にする制御によりロックアップクラッチ3が締結される。
【0067】
このように、発進時や再加速時にロックアップクラッチ3をLUストローク未状態から締結する際、学習値Aから学習値オフセットBとランプオフセットCをマイナスした値を初期差圧とするスムースロックアップ制御を実行する。このため、スムースロックアップ制御では、エンジン1の回転上昇を抑えるとともに締結に要する時間を短縮しながら、締結時の車両挙動変化を低減することができる。
【0068】
[ランプオフセットの必要性と制御実装課題]
まず、
図7に基づいてランプオフセットCの必要性について説明する。
図7の左側に記載した特性は指示差圧の初期差圧を下限圧とする従来特性である。この従来特性の場合、時刻t1にて指示差圧を下限圧まで立ち上げ、その後、指示差圧を所定のランプ勾配によるランプ特性により上昇させている。よって、学習真値と初期差圧(=下限圧)の乖離幅が大きく、時刻t4になるまで待たないと、実際にロックアップピストンがクラッチ容量を発生する位置までストロークせず、多くの待機時間ΔT1がある。このため、エンジン回転数Neが吹け上がるし、ロックアップクラッチの締結開始から締結完了までの所要時間が長くなってしまう、という問題がある。
【0069】
図7の中央部に記載した特性は指示差圧の初期差圧を学習値とする特性(学習値反映案1)である。この学習値反映案1特性の場合、時刻t1にて指示差圧を学習値まで立ち上げ、その後、指示差圧を所定のランプ勾配によるランプ特性により上昇させている。よって、学習真値と初期差圧(=学習値)の乖離幅が無い、或いは、殆ど無く、時刻t1直後の時刻t2になると実際にロックアップピストンがクラッチ容量を発生する位置までストロークし、クラッチ容量を発生する時刻t2までの待機時間ΔT2が短縮される。しかし、時刻t2が実圧応答過渡中になるため実圧ランプが立ち過ぎる。このため、急締結ショックやエンジン回転数変化ΔNeの急変による車両挙動の変化を招く。
【0070】
図7の右側に記載した特性は指示差圧の初期差圧を学習真値からランプオフセットCの分だけ下げた値とする特性(学習値反映案2:提案)である。この学習値反映案2特性の場合、時刻t1にてLU指示差圧を(学習真値-ランプオフセットC)まで立ち上げ、その後、LU指示差圧を所定のランプ勾配によるランプ特性により上昇させている。よって、学習真値と初期差圧の乖離幅(ランプオフセットC)が適切な幅になり、指示ランプが学習真値に到達するタイミングと、実圧応答過渡終了による実圧の発生開始タイミングとがほぼ一致する(時刻t3)。このため、クラッチ容量を発生する時刻t3までの待機時間ΔT3(<ΔT1)が従来に比べて短縮される。さらに、実圧ランプが、学習値反映案1特性に比べて立ち過ぎることなく、従来特性と同様の緩やかな上昇勾配による特性となり、急締結ショックやエンジン回転数変化ΔNeの急変が抑制される。
【0071】
このように、待機時間の削減と実圧ランプの急勾配抑制をうまく両立させるためには、ランプオフセットCが必要であることが明らかである。なお、学習値Aが学習真値、或いは、学習真値に近い値である場合には、学習値オフセットBを用いなくても、学習値AとランプオフセットCにより、狙いの初期差圧を得ることが可能である。
【0072】
次に、
図8~
図11に基づいて制御実装課題について説明する。
まず、今回の提案では、初期差圧の算出(締結制御入り)時にスムースロックアップ制御でのランプ勾配情報が必要である。しかし、初期差圧の算出(締結制御入り)時においては、ランプ勾配が確定しておらず、狙いの初期差圧が計算できない。以下、ランプ勾配が確定するまでの対応について提案する。
【0073】
締結制御入りジョブで、20ms処理が作動しなかった場合、
図8に示すように、LU制御状態が締結制御に遷移したジョブで締結初期圧(=初期差圧)を算出する。しかし、スムースロックアップランプ勾配(以下、「SMONランプ」という。)は、締結制御入りの1ジョブ目までは未確定であり、2ジョブ目でSMONランプが確定する。
【0074】
締結制御入りジョブで、20ms処理が作動した場合、
図9に示すように、LU制御状態が締結制御に遷移したジョブでSMONランプが算出されている。しかし、制御状態が切り替わる前のランプ値のため、狙いのランプではない場合があり、締結制御入りの1ジョブ目までは未確定である。よって、SMONランプは、3ジョブ目で確定される。
【0075】
以上のように、ランプ勾配が確定しない理由は、LU制御処理フロー、処理周期違い、処理順序を原因とするものである。
【0076】
制御実装課題への対応を、
図10及び
図11に基づいて説明する。
まず、「やりたかったこと」は、
図10の左側特性に示すように、初期差圧(=学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC)を制御入りの時刻で指示し、続いてランプ特性によりLU指示差圧を上昇させることである。しかし、上記のように、制御実装課題のために制御入りの時刻で初期差圧を指示することはできない。
【0077】
そこで、
図10の右側特性(制御実装課題に対する提案挙動)に示すように、ランプ勾配が確定するまでは、学習値にバラツキがあってもクラッチミートしない指示圧固定(仮設定初期差圧)とする。そして、ランプ勾配が確定すれば、適切な初期差圧(=学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC)を計算し、狙いのランプ軌道に合うよう油圧指示する。
【0078】
例えば、3ジョブ目でランプ勾配が確定する場合には、
図11に示すように、1ジョブ目で仮設定初期差圧を指示し、2ジョブ目及び3ジョブ目まで仮設定初期差圧の指示を維持する。3ジョブ目になると、ランプ勾配の確定に基づいて初期差圧が算出されるため、初期差圧を通るランプ特性に合うように、LU指示差圧を低下させ、続いて、ランプ特性によるランプ制御を行う。
【0079】
このとき、締結制御開始直後の指示差圧-実差圧(Apl-Rel圧)の差が大きいため、実差圧の追従が多少早くなることが予想されるが、下記の理由1,2によりその跳ね返りは解消される。
理由1:仮設定初期差圧を指示する時間が、30msec程度の短い時間であるためオーバーシュートすることは考えにくい。なお、実差圧に追従するまで200msec程度を見込んでいる。
理由2:仮設定初期差圧は、学習値のバラツキが最悪の場合でも、LUクラッチトルク0Nm以下になる指示差圧のため、急締結やエンジン回転数Neの引き込みはない。
【0080】
[発進時におけるスムースロックアップ制御の対比作用]
図12は、ロックアップクラッチ解放停止状態からの発進時における各特性を示すタイムチャートである。以下、
図12に基づいて発進時におけるスムースロックアップ制御の対比作用を説明する。
【0081】
時刻t1において発進を意図してアクセルペダル踏み込み操作を行うと、時刻t1からエンジントルクTeが上昇し、エンジン回転数Neがロックアップ制御開始時刻t2に向かって上昇する。この時刻t1以降の発進開始域でのタービン回転数Ntは、車速VSPの上昇に従って上昇する特性を示す。
【0082】
時刻t2において運転点(VSP,APO)が「発進スムースロックアップ制御」での発進SMON線を横切ると、従来例の場合、LU指示差圧を下限圧による初期差圧まで立ち上げに続いてランプ差圧により昇圧させる発進スムースロックアップ制御が開始される。時刻t2からはLU指示差圧に対して油圧応答遅れを持つ実差圧(LU指示差圧の破線特性)が徐々に上昇し、時刻t4にてLU容量を持ち始める油圧になる。よって、LU容量を持たない時刻t2~時刻t4の間は、ロックアップクラッチの締結負荷が無く、エンジン回転数Neが時刻t3よりも高い回転数域まで吹け上がる。
【0083】
時刻t4にてLU容量を持ち始める油圧になると、クラッチ伝達トルクTLUの上昇にしたがってコンバータ伝達トルクτNe2が低下するというように、時間の経過にしたがってエンジントルクTeの分担比のうち、クラッチ伝達トルクTLUの分担比が増加する。よって、エンジン回転数Neが時刻t6に向かって落ち込む。なお、エンジントルクTeは、コンバータ伝達トルクτNe2分とクラッチ伝達トルクTLU分とイナーシャトルクIe・dωe分とによって分担される。
【0084】
時刻t6にてエンジン回転数Neとタービン回転数Ntの回転数差(=クラッチスリップ量)がほぼ一致するまで収束し、エンジントルクTeをクラッチ伝達トルクTLUにより分担する状況になると、ロックアップクラッチが締結される。
【0085】
このように、従来例では、初期差圧が低い下限圧に設定されるため、LU容量を持つまで時間が時刻t2~時刻t4というように長い時間になるし、締結時間が時刻t2~時刻t6というように長い時間になる。そして、時刻t2にてロックアップ制御が開始されても時刻t2からLU容量を持ち始める時刻t4までの間、エンジン回転数Neの上昇を許す。この結果、
図12の矢印Jで囲まれるエンジン回転数特性に示すように、エンジン回転数Neの吹け上がりが生じる。
【0086】
これに対し、実施例1の場合、時刻t2において運転点(VSP,APO)がLU領域に入ると、LU指示差圧を初期差圧(学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC)まで立ち上げ、ランプ差圧により昇圧させる発進スムースロックアップ制御が開始される。時刻t2からはLU指示差圧に対して油圧応答遅れを持つ実差圧(LU指示差圧の破線特性)が徐々に上昇し、時刻t3にてLU容量を持ち始める油圧になる。よって、LU容量を持たない時刻t2~時刻t3の間は、ロックアップクラッチ3の締結負荷が無く、エンジン回転数Neが上昇する。
【0087】
時刻t3にてLU容量を持ち始める油圧になると、クラッチ伝達トルクTLUの上昇にしたがってコンバータ伝達トルクτNe2が低下するというように、時間の経過にしたがってエンジントルクTeの分担比のうち、クラッチ伝達トルクTLUの分担比が増加する。よって、エンジン回転数Neが時刻t5に向かって落ち込む。
【0088】
時刻t5にてエンジン回転数Neとタービン回転数Ntの回転数差(=クラッチスリップ量)がほぼ一致するまで収束し、エンジントルクTeをクラッチ伝達トルクTLUにより分担する状況になると、ロックアップクラッチ3が締結される。
【0089】
このように、実施例1では、初期差圧が下限圧より高い差圧に設定されるため、LU容量を持つまで時間が時刻t2~時刻t3というように、従来例に比べて時間短縮される(短縮時間t3~t4)。そして、締結時間も時刻t2~時刻t5というように、従来例に比べて時間短縮される(短縮時間t5~t6)。さらに、LU容量を持つまで時間短縮により、エンジン回転数Neの吹け上がりも抑えられる。
【0090】
[再加速時におけるスムースロックアップ制御の対比作用]
図13は、ロックアップクラッチ解放状態からの再加速時における各特性を示すタイムチャートである。以下、
図13に基づいて再加速時におけるスムースロックアップ制御の対比作用を説明する。
【0091】
時刻t1において減速中に再加速を意図してアクセルペダル踏み込み操作を行うと、時刻t1からエンジントルクTeが上昇し、エンジン回転数Neがロックアップ制御開始時刻t2に向かって上昇する。この時刻t1以降の再加速開始域でのタービン回転数Ntは、車速VSPの上昇に従って上昇する特性を示す。
【0092】
時刻t2において運転点(VSP,APO)が「再加速スムースロックアップ制御」でのLU ON線を横切ると、従来例の場合、LU指示差圧を下限圧による初期差圧まで立ち上げに続いてランプ差圧により昇圧させる再加速スムースロックアップ制御が開始される。時刻t2からはLU指示差圧に対して油圧応答遅れを持つ実差圧(LU指示差圧の破線特性)が徐々に上昇し、時刻t4にてLU容量を持ち始める油圧になる。よって、LU容量を持たない時刻t2~時刻t4の間は、ロックアップクラッチの締結負荷が無く、エンジン回転数Neが時刻t3よりも高い回転数域まで吹け上がる。
【0093】
時刻t4にてLU容量を持ち始める油圧になると、クラッチ伝達トルクTLUの上昇にしたがってコンバータ伝達トルクτNe2が低下するというように、時間の経過にしたがってエンジントルクTeの分担比のうち、クラッチ伝達トルクTLUの分担比が増加する。よって、エンジン回転数Neが時刻t6に向かって落ち込む。
【0094】
時刻t6にてエンジン回転数Neとタービン回転数Ntの回転数差(=クラッチスリップ量)がほぼ一致するまで収束し、エンジントルクTeをクラッチ伝達トルクTLUにより分担する状況になると、ロックアップクラッチが締結される。
【0095】
このように、従来例では、初期差圧が低い下限圧に設定されるため、LU容量を持つまで時間が時刻t2~時刻t4というように長い時間になるし、締結時間が時刻t2~時刻t6というように長い時間になる。そして、時刻t2にてロックアップ制御が開始されても時刻t2からLU容量を持ち始める時刻t4までの間、エンジン回転数Neの上昇を許す。この結果、
図13の矢印Kで囲まれるエンジン回転数特性に示すように、エンジン回転数Neの吹け上がりが生じる。
【0096】
これに対し、実施例1の場合、時刻t2において運転点(VSP,APO)がLU領域に入ると、LU指示差圧を初期差圧(学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC)まで立ち上げ、ランプ差圧により昇圧させる再加速スムースロックアップ制御が開始される。時刻t2からはLU指示差圧に対して油圧応答遅れを持つ実差圧(LU指示差圧の破線特性)が徐々に上昇し、時刻t3にてLU容量を持ち始める油圧になる。よって、LU容量を持たない時刻t2~時刻t3の間は、ロックアップクラッチ3の締結負荷が無く、エンジン回転数Neが上昇する。
【0097】
時刻t3にてLU容量を持ち始める油圧になると、クラッチ伝達トルクTLUの上昇にしたがってコンバータ伝達トルクτNe2が低下するというように、時間の経過にしたがってエンジントルクTeの分担比のうち、クラッチ伝達トルクTLUの分担比が増加する。よって、エンジン回転数Neが時刻t5に向かって落ち込む。
【0098】
時刻t5にてエンジン回転数Neとタービン回転数Ntの回転数差(=クラッチスリップ量)がほぼ一致するまで収束し、エンジントルクTeをクラッチ伝達トルクTLUにより分担する状況になると、ロックアップクラッチ3が締結される。
【0099】
このように、実施例1では、初期差圧が下限圧より高い差圧に設定されるため、LU容量を持つまで時間が時刻t2~時刻t3というように、従来例に比べて時間短縮される(短縮時間t3~t4)。そして、締結時間も時刻t2~時刻t5というように、従来例に比べて時間短縮される(短縮時間t5~t6)。さらに、LU容量を持つまで時間短縮により、エンジン回転数Neの吹け上がりも抑えられる。
【0100】
以上説明したように、実施例1の無段変速機6のロックアップ制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0101】
(1) 駆動源(エンジン1)と変速機(無段変速機6)の間に配置され、ロックアップクラッチ3を有するトルクコンバータ4を備える。
ロックアップクラッチ3が解放状態のときにロックアップ締結条件が成立すると、ロックアップ指示差圧(LU指示差圧)を初期差圧まで立ち上げた後、所定のランプ勾配により上昇させてロックアップクラッチ3を締結するロックアップ制御部12cを設ける。
ロックアップ制御部12cは、初期差圧を、ロックアップクラッチ3がロックアップ容量を持ち始めるミートポイント指示差圧の学習値Aから、ランプ勾配に応じて算出されるランプオフセットCをマイナスした値で与える。
このように、初期差圧を、学習値AからランプオフセットCをマイナスした値で与える。このため、ロックアップクラッチ3を締結する際、走行用駆動源(エンジン1)の回転上昇を抑えるとともに締結に要する時間を短縮しながら、締結時の車両挙動変化を低減することができる。なお、締結時の車両挙動変化は、ロックアップクラッチ3がロックアップ容量を持ち始める領域にて実差圧の上昇を抑えることにより低減される。
【0102】
(2) ロックアップ制御部12cは、ランプオフセットCを、ランプ勾配が低いほど小さくなる値で与える。
このように、ランプ勾配が低いほど初期差圧が高い値で与えられることで、ランプ勾配が低くクラッチ締結容量の上昇が抑えられる車両状態のとき、締結開始から実差圧による容量を持つまでに要する時間を短縮することができる。
【0103】
(3) ロックアップ制御部12cは、初期差圧によるロックアップ指示差圧(LU指示差圧)の開始時刻から実差圧の発生開始時刻までの油圧応答時間を算出する。
ランプオフセットCを、ランプ勾配と油圧応答時間の乗算により与える。
このように、ランプオフセットCを、ランプ勾配と油圧応答時間の乗算により与えることで、ランプ勾配の高低や油圧応答時間の長短にかかわらず、最適なランプオフセットCを取得することができる。ここで、最適なランプオフセットCとは、ロックアップ指示差圧(LU指示差圧)が学習真値に到達するタイミングと、実差圧が発生開始するタイミングと、がほぼ符合する値をいう。
【0104】
(4) ロックアップ制御部12cは、学習値のサンプリングバラツキ分に基づく学習値オフセットBを算出する。
初期差圧を、学習値Aから、学習値オフセットBとランプオフセットCをマイナスした値で与える。
このように、初期差圧=(学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC)で与えることで、学習値のサンプリングバラツキ分による影響を排除した初期差圧を与えることができる。特に、クラッチミートポイントの学習経験が少ないとき、締結ショックを抑える初期差圧を与えることができる。
【0105】
(5) ロックアップ制御部12cは、ロックアップ締結条件が成立すると、指示ランプが確定するまで、ロックアップ指示差圧(LU指示差圧)を学習値に基づく仮設定初期差圧(=学習値A-学習値オフセットB)まで立ち上げる。指示ランプが確定すると、初期差圧をランプ勾配に基づいて算出し、ロックアップ指示差圧(LU指示差圧)を初期差圧とランプ勾配に合わせた指示とする。
このように、指示ランプが確定するまで仮設定初期差圧を与えることで、初期差圧の算出にランプ勾配情報を必要情報とするスムースロックアップ制御を既定の制御システムに実装することができる。
【0106】
以上、本発明の自動変速機のロックアップ制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0107】
実施例1では、ロックアップ制御部12cとして、初期差圧を、初期差圧=(学習値A-学習値オフセットB-ランプオフセットC)により与える例を示した。しかし、ロックアップ制御部としては、初期差圧を、初期差圧=(学習値-ランプオフセット)により与える例としても良い。また、学習値オフセットを無視できる車両状況であるか否かを判断する。そして、無視できない車両状況であると初期差圧を、初期差圧=(学習値-学習値オフセット-ランプオフセット)により与え、無視できる車両状況であると初期差圧を、初期差圧=(学習値-ランプオフセット)により与える例としても良い。
【0108】
実施例1では、ロックアップ制御部12cとして、ランプオフセットCを、ランプ勾配と油圧応答時間の乗算により与える例を示した。しかし、ロックアップ制御部としては、油圧応答時間を含む値を定数により与え、ランプオフセットを、ランプ勾配の高低のみにより与える例としても良い。
【0109】
実施例1では、本発明のロックアップ制御装置を、トルクコンバータと無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明のロックアップクラッチ制御装置は、駆動源にエンジンとモータが搭載されたハイブリッド車に対しても適用することができるし、駆動源にモータが搭載された電気自動車に対しても適用することができる。また、変速機として、副変速機付き無段変速機や有段の自動変速機を搭載した車両にも適用できる。要するに、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを、駆動源と変速機の間に備えた車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0110】
1 エンジン(走行用駆動源)
3 ロックアップクラッチ
4 トルクコンバータ
6 無段変速機(変速機)
11 エンジンコントロールユニット
12 CVTコントロールユニット
12a 変速制御部
12b ミートポイント学習制御部
12c ロックアップ制御部
13 CAN通信線
14 エンジン回転数センサ
15 タービン回転数センサ
16 CVT出力回転数センサ(=車速センサ)
17 アクセル開度センサ