(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】レーダアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/22 20060101AFI20220719BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20220719BHJP
H01Q 19/15 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
H01Q13/22
G01S7/03 210
G01S7/03 230
H01Q19/15
(21)【出願番号】P 2018052833
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 裕三
(72)【発明者】
【氏名】三浦 庸平
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-079424(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145842(WO,A1)
【文献】特開2017-085311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波管とホーン状のフレアと、を備え、前記フレアの基端部が前記導波管と連結されているレーダアンテナであって、
前記導波管は、
断面が略四角形の筒状で、前面部に複数のスロットが形成され、
前記前面部に対向する背面部から筒内側に突出してリターンロスを抑える突起部が、前記各スロットに対向して複数設けられ、
前記複数の突起部は、
1スロットのサセプタンス成分が約ゼロとなる外径および高さの円盤状であり、同寸法に設定されている、
ことを特徴とするレーダアンテナ。
【請求項2】
前記複数の突起部は、前記背面部と一体的に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、陸上や船舶などで使用されるレーダアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
陸上や船舶などで使用されるレーダアンテナとして、導波管の前面に複数のスロット(長孔)を形成し、各スロットの傾斜角度、幅、切込み深さ、配置などを調整することで所定の指向性特性あるいは周波数特性を得るようにした放射導波管を備えたレーダアンテナが知られている(例えば、特許文献1等参照。)。このレーダアンテナは、
図13に示すように、断面が略四角形で筒状の導波管101の前面部に、長孔状のスロット101aが導波管101の長手方向に沿って複数形成されている。そして、このような導波管101を挟むように、上フレア111と下フレア112で構成されるホーン状のフレア110が配設され、複数の導波管押え金具102によって導波管101とフレア110とが組み付けられている。
【0003】
また、従来は、使用する周波数帯域が比較的狭く、また、使用する周波数が1周波であったため、スロット101aの幅は、使用する1周波数に適合するように、比較的狭く設定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、使用する周波数を広帯域化したり、ある程度周波数が離された複数の周波数を使用したりする場合、つまり、指向性の周波数特性広域化を図る場合、スロット101aの幅を大きくすることが有効である。例えば、低域周波数f
Lと高域周波数f
Hの2周波数を使用する場合、スロット101aの幅が狭いと(1周波数に適合した従来のスロット101aの幅と同寸法であると)、
図14に示すように、低域周波数f
Lで要求レベル以上のサイドローブS1が発生したり、
図15に示すように、高域周波数f
Hでも要求レベル以上のサイドローブS2が発生したりする。
【0006】
これに対して、スロット101aの幅を大きくすると、例えば、従来のスロット101aの幅の2倍にすると、
図16に示すように、低域周波数f
Lで要求レベル以上のサイドローブが発生せず、また、
図17に示すように、高域周波数f
Hでも要求レベル以上のサイドローブが発生しない。しかしながら、スロット101aの幅を大きくすると、
図18に示すように、2つの周波数f
L、f
Hにおけるリターンロス特性が劣化する。すなわち反射特性が劣化する。
【0007】
そこでこの発明は、指向性の周波数特性広域化が可能で、かつ、反射特性が良好なレーダアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、導波管とホーン状のフレアと、を備え、前記フレアの基端部が前記導波管と連結されているレーダアンテナであって、前記導波管は、断面が略四角形の筒状で、前面部に複数のスロットが形成され、前記前面部に対向する背面部から筒内側に突出してリターンロスを抑える突起部が、前記各スロットに対向して複数設けられ、前記複数の突起部は、1スロットのサセプタンス成分が約ゼロとなる外径および高さの円盤状であり、同寸法に設定されている、ことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーダアンテナにおいて、前記複数の突起部は、前記背面部と一体的に形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、リターンロスを抑える目的で突起部が各スロットに対向して設けられているため、指向性の周波数特性広域化を図りつつ、良好な反射特性を得ることが可能となる。すなわち、本願発明者は、指向性の周波数特性を広域化するためにスロットの幅を広くしても、スロットに対向して背面部に突起部を設けることで、リターンロスを抑制して良好な反射特性が得られることを確認した。従って、スロットの幅を広くして指向性の周波数特性を広域化した上で、良好な反射特性を得ることが可能となる。
【0011】
しかも、すべての突起部が同寸法に設定されており、個々のスロットに応じて突起部の形状を変える必要がないため、容易かつ適正・高精度に製作することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、複数の突起部が背面部と一体的に形成されているため、部品点数が減って製作費を抑えることができ、また、一体成形などによって容易かつ適正・高精度に製作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施の形態に係るレーダアンテナ用放射導波管を示す斜視図である。
【
図2】この発明の実施の形態に係るレーダアンテナの概略構成を示す断面図である。
【
図3】
図1のレーダアンテナ用放射導波管のA-A断面図(a)と、そのB-B断面図(b)である。
【
図4】
図2のレーダアンテナの低域域周波数に対する指向性特性を示す図である。
【
図5】
図2のレーダアンテナの高域周波数に対する指向性特性を示す図である。
【
図6】
図2のレーダアンテナのリターンロス特性を示す図である。
【
図7】この発明の実施の形態において、スロットの幅を広くした場合の1スロットのコンダクタンス、サセプタンス特性例を示す図である。
【
図8】この発明の実施の形態において、スロットの幅を広くして突起部を設けた場合の1スロットのコンダクタンス、サセプタンス特性例を示す図である。
【
図9】この発明の実施の形態に係る第2のレーダアンテナを示す斜視図である。
【
図10】
図9のレーダアンテナの概略構成を示す断面図である。
【
図11】この発明の実施の形態に係る第3のレーダアンテナを示す斜視図である。
【
図12】
図11のレーダアンテナの概略構成を示す断面図である。
【
図13】従来のレーダアンテナを示す斜視図である。
【
図14】
図13のレーダアンテナの低域周波数に対する指向性特性を示す図である。
【
図15】
図13のレーダアンテナの高域周波数に対する指向性特性を示す図である。
【
図16】
図13のレーダアンテナにおいて、スロットの幅を広くした場合の低域周波数に対する指向性特性を示す図である。
【
図17】
図13のレーダアンテナにおいて、スロットの幅を広くした場合の高域周波数に対する指向性特性を示す図である。
【
図18】
図13のレーダアンテナにおいて、スロットの幅を広くした場合のリターンロス特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態に係るレーダアンテナ用放射導波管2を示す斜視図であり、
図2は、この発明の実施の形態に係るレーダアンテナ1の概略構成を示す断面図である。このレーダアンテナ1は、レーダアンテナ用放射導波管(以下、単に「導波管」という)2とホーン状のフレア3とを備えた長尺状のアレイアンテナであり、導波管2の構造が従来のレーダアンテナと異なり、この異なる構成について、主として以下に説明する。
【0016】
導波管2は、金属製で、断面が略四角形の筒状の長尺体で、前面部21にスロット2aが複数形成されている。すなわち、フレア3の内側に臨む面である前面部21に、前面部21の長手方向に対して略垂直方向に延びる長孔状のスロット2aが、前面部21の長手方向に複数形成されている。各スロット2aの傾斜角度、幅、切込み深さ、配置などは、所定の指向性特性及び周波数特性が得られるように設定されているが、その幅は、従来のレーダアンテナにおける幅よりも広く設定されている。
【0017】
すなわち、従来のレーダアンテナでは、1周波数帯にのみ適合するようにスロット101aの幅が狭く設定されているが、本願発明では、ある程度周波数が離された低域周波数fLと高域周波数fHの2つに適合するように、スロット2aの幅が広く設定されている。具体的には、従来のスロット101aの幅の約2倍に設定されている。
【0018】
また、前面部21に対向する背面部22には、
図3に示すように、背面部22から筒内側に突出してリターンロスを抑える金属製の突起部23が、複数設けられている。各突起部23は、円盤状で、各スロット2aに対向してスロット2aごとに設けられ、すべての突起部23は、同寸法に設定されている。
【0019】
すなわち、各スロット2aの形状、配置は異なるが、導波管2全体としてリターンロスを抑えて良好な反射特性が得られるように、突起部23の形状が設定され、すべての突起部23がこの形状に設定されている。換言すると、各スロット2aに最適な各突起部23の形状・寸法がそれぞれ存在するが、すべての突起部23をある所定の形状(外径と高さ)にすることで、導波管2全体として所定の反射特性が得られるように、その所定の形状が設計、設定されている。
【0020】
具体的には、例えば、使用されると想定されるスロット2aの角度範囲から数点を選択し、
図8に示すとおり、1スロットのサセプタンス成分が約ゼロとなるよう突起部23の外径と高さの最適値を電磁界解析で割り出し、最終的に平均値で統一して突起部23の形状が決定されている。
【0021】
また、この実施の形態では、複数の突起部23は、背面部22と一体的に形成されている。一例として、エンボス加工のように、背面部22の一部を筒外側から筒内側に押し出すことで、各突起部23が形成されている。あるいは、背面部22に突起部を貫通させる孔加工を行ない、個々の突起部あるいは複数の突起部を設けた別部品を圧入やロウ付けすることで形成してもよい。さらに、背面部22にボルト孔加工を行ない、突起部としてボルトを挿入することで形成してもよい。
【0022】
このような導波管2がフレア3の基端部と連結されている。このフレア3は、
図2に示すように、上フレア31と下フレア32とが一体的に構成され、略垂直に延びる垂直部3aから上フレア31において、略水平に延びる第1の上側水平部31bと、この第1の上側水平部31bから略垂直上方に延びる第1の上側垂直部31cと、この第1の上側垂直部31cから略水平に延びる第2の上側水平部31dとが形成され、この第2の上側水平部31dから斜め上方に上側斜面部31eが延びている。
【0023】
同様に、垂直部3aから下フレア32において、略水平に延びる第1の下側水平部32bと、この第1の下側水平部32bから略垂直下方に延びる第1の下側垂直部32cと、この第1の下側垂直部32cから略水平に延びる第2の下側水平部32dとが形成され、この第2の下側水平部32dから斜め下方に下側斜面部32eが延びている。
【0024】
そして、垂直部3aと第1の上側水平部31bと第1の下側垂直部32bで囲まれた空間内に、導波管2が収容され連結されている。さらに、導波管2のスロット2a側つまりフレア3側が、第1の上側垂直部31cと第1の下側垂直部32cから突出し、この突出部を押えて第1の上側垂直部31cと第1の下側垂直部32cに接続されるバンド状の導波管押え金具5が、取り付けられている。
【0025】
ここで、導波管押え金具5は、導波管2およびフレア3の長手方向に沿って所定間隔で複数設けられている。また、
図2中の符号6はサプレッサである。
【0026】
このような構成のレーダアンテナ1および導波管2によれば、リターンロスを抑える突起部23が各スロット2aに対向して設けられているため、指向性の周波数特性広域化を図りつつ、良好な反射特性を得ることが可能となる。すなわち、本願発明者は、指向性の周波数特性を広域化するためにスロット2aの幅を広くしても、スロット2aに対向して背面部22に突起部23を設けることで、リターンロスを抑制して良好な反射特性が得られることを確認した。従って、スロット2aの幅を大きくして指向性を広域化した上で、スロットアレイアンテナとして良好な反射特性を得ることが可能となる。
【0027】
具体的に、スロット2aの幅を大きくしても、
図4に示すように、低域周波数f
Lで要求仕様以上のサイドローブが発生せず、また、
図5に示すように、高域周波数f
Hでも要求仕様以上のサイドローブが発生しない。さらに、スロット101aの幅を大きくしても突起部23を設けることで、
図6に示すように、2つの周波数f
L、f
Hにおけるリターンロスが小さくなり、良好な反射特性が得られる。なお、
図4、
図5、
図14~
図17における水平破線は、サイドローブ要求仕様例を示す。
【0028】
ところで、スロット2aの幅を大きくしても、突起部23を設けることで良好な反射特性が得られるのは、次のような理由によるものと考えられる。すなわち、スロット2aの幅を大きくすると、
図7に示すように、1つのスロット2a当たりのコンダクタンス、サセプタンス周波数特性のうち、コンダクタンス成分の最大値付近においてサセプタンス成分がプラス方向(
図7では、約0.05)にシフトし、これにより、反射特性が低下するものと考えられる。一方、スロット2aの幅を大きくしても、突起部23を設けると、
図8に示すように、コンダクタンス成分の最大値付近においてサセプタンス成分が約ゼロとなり、これにより、反射特性が良好になると考えられる。なお、スロット101aの幅が狭い従来のレーダアンテナでも、コンダクタンス成分の最大値付近においてサセプタンス成分が約ゼロとなり、反射特性が良好である。
【0029】
また、このレーダアンテナ1および導波管2によれば、すべての突起部23が同寸法に設定されており、個々のスロット2aに応じて突起部23の形状を変える必要がないため、容易かつ適正・高精度に製作することが可能となる。
【0030】
さらに、複数の突起部23が背面部22と一体的に形成されているため、部品点数が減って製作費を抑えることができ、また、一体成形などによって容易かつ適正・高精度に製作することが可能となる。
【0031】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、各突起部23が円盤状であるが、角柱状などその他の形状であってもよい。また、背面部22と一体的に突起部23を形成しているが、別体である突起部23を背面部22に設けてもよい。例えば、突起部23をボルトで構成し、このボルトを背面部22に設けたボルト孔に螺合させて、背面部22から筒内側にボルトを突出させてもよい。
【0032】
また、レーダアンテナ1のフレア3の構造は、上記以外の構造であってもよい。すなわち、
図9および
図10に示すように、上フレア31と下フレア32を分割して同一(対称)の構成、形状にしてもよいし、
図11および
図12に示すように、上フレア31と下フレア32を分割して上下非対称の構成、形状にしてもよい。ここで、
図10、
図12における符号4は、上フレア31と下フレア32を連結するネジ、リベット等の留め具を示す。
【符号の説明】
【0033】
1 レーダアンテナ
2 導波管(レーダアンテナ用放射導波管)
2a スロット
21 前面部
22 背面部
23 突起部
3 フレア
31 上フレア
32 下フレア