(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用歯車
(51)【国際特許分類】
G04B 13/02 20060101AFI20220719BHJP
【FI】
G04B13/02 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017094395
(22)【出願日】2017-05-11
【審査請求日】2020-04-21
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セウリラ-ボンジュール, クエンタン
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-102877(JP,A)
【文献】特開2010-85413(JP,A)
【文献】特開2014-202605(JP,A)
【文献】酒見 鐐一郎,輪列系(2)(新講座機械時計学入門(3)),マイクロメカトロニクス(日本時計学会誌),1999年09月10日,Vol.43 No.3,67-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
F16H 51/00 - 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の第1歯車(R1)との協働に適した、時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法であって、
E1 前記第1歯車(R1)の歯の全部または一部の側面形状r
1と歯数z
1とを、コンピュータと関連するヒューマン・マシン・インターフェース経由で入力し、
製造すべき前記第2歯車(R2)の歯数z
2を入力し、
前記2つの歯車(R1、R2)と接触する一対の歯の摩擦係数μを入力するステップ、
E2 前記2つの歯車(R1、R2)と接触する少なくとも一対の歯の力またはトルクバランスを定義する、第1方程式を考慮し、
前記2つの歯車(R1、R2)と接触する前記少なくとも一対の歯の運動学的関係を定義する、第2運動学的方程式を考慮するステップ、
E3 前記2つの歯車(R1、R2)と接触する前記少なくとも一対の歯の推定一定トルク比jの値を少なくとも1つ得ることを可能にするため、前記コンピュータを用いて前記2つの方程式を解くステップ、
E4 前記少なくとも一対の歯の、前記第2歯車(R2)の歯の少なくとも一部の側面形状の少なくとも2点を決定し、前記第2歯車(R2)の当該歯の前記側面形状r
2を作成するステップ、及び
E5 製造装置により、直前ステップの結果に対応する側面形状r
2の歯を含む前記第2歯車(R2)を製造するステップ、
を含む、時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法。
【請求項2】
前記第2ステップ(E2)は、以下の第1パワーバランス方程式
【数1】
を考慮することからなり、
ここで、C
1とC
2は、前記第1歯車(R1)の所定の角度位置において、前記2つの歯車(R1、R2)のそれぞれの回転軸(A1、A2)に対して、前記2つの歯車(R1、R2)の噛合線の接触点において測定される、前記2つの歯車(R1、R2)のそれぞれのトルクを表し、
ω
1とω
2は、前記2つの歯車(R1、R2)のそれぞれの角速度を表し、
F
frotは、前記2つの歯車(R1、R2)の前記接触点における摩擦力を表し、
及び
前記第2ステップ(E2)は、以下の第2運動学的方程式
【数2】
を考慮することからなり、
ここで、r
2は前記第1歯車(R1)の歯と接触する前記第2歯車(R2)の歯の前記側面形状の少なくとも一部分を表し、曲線横座標uと角度量θを考慮に入れた座標で表現され、
ν
12は、前記接触点における前記2つの歯車(R1、R2)間のすべり速度を表す、
請求項1に記載の時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法。
【請求項3】
前記第1歯車(R1)が平歯車の場合、前記第2歯車(R2)は前記第1歯車(R1)の第1回転軸(A1)と平行の第2回転軸(A2)周りの回転により噛合可能な平歯車であり、前記第2ステップ(E2)は、以下の第1方程式
【数3】
を考慮することからなり、
ここで
j = C
2/C
1 =一定であり、
【数4】
は前記2つの歯車(R1、R2)間の伝達比の平均値を表し、
n
x、n
y は、前記2つの歯車(R1、R2)間の接触点における、前記第1歯車(R1)のプロファイルの法線のx及びy成分を表し、
前記第1歯車(R1)の歯の前記プロファイルr
1n は、r
1n = (r
nx,r
ny)で表され、r
nx 及び r
ny は、前記2つの歯車(R1、R2)間の前記接触点におけるr1の正規化されたプロファイルのx及びy成分であり、
【数5】
は対象の前記プロファイルの前記点の位置ベクトルと、前記第1歯車(R1)の前記側面形状r
1の前記法線nとによって形成される角度を表す、
請求項1または2に記載の時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法。
【請求項4】
前記第1歯車(R1)が平歯車の場合、前記第2歯車(R2)は前記第1歯車(R1)の第1回転軸(A1)に平行な第2回転軸(A2)周りの回転により噛合可能な平歯車であり、
前記第2ステップ(E2)は、以下の運動学的方程式
【数6】
を考慮することからなり、
ここで、
前記第1歯車(R1)の歯のプロファイルr
1は、r
1 = (r
x,r
y)で表され、r
x及びr
yは、前記2つの歯車(R1、R2)間の接触点における前記プロファイルr
1のx及びy成分であり、
C
x、C
yは、瞬間回転中心のx及びy成分を表し、
n
x、n
yは、前記2つの歯車(R1、R2)間の前記接触点における前記第1歯車の前記プロファイルの法線のx及びy成分を表し、
または、前記第2ステップ(E2)は以下の運動学的方程式
【数7】
を考慮することからなり、
ここで、
iは、前記2つの歯車(R1、R2)間の接触点における、瞬間伝達比を表し、
【数8】
は前記2つの歯車(R1、R2)間の伝達比の平均値を表し、
n
x、n
yは、前記2つの歯車(R1、R2)間の前記接触点における前記第1歯車の前記プロファイルの前記法線の前記x及びy成分を表し、
Eは、前記2つの歯車(R1、R2)の中心距離を表し、
前記第1歯車(R1)の歯の前記プロファイルr
1nは、r
1n = (r
nx,r
ny)で表され、r
nx及びr
nyは、前記2つの歯車(R1、R2)間の前記接触点における前記側面形状r
1の正規化されたプロファイルのx及びy成分である、
請求項1または3に記載の時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法。
【請求項5】
前記方程式を解くことからなる前記第3ステップ(E3)は、
E31 前記歯車(R1、R2)間の前記トルク比jの可能な範囲での最小値j
minと最大値j
maxを、以下の計算
【数9】
および
【数10】
を実施することで定義し、
ここで、
φは、前記2つの歯車(R1、R2)の中心の線上の、前記側面形状r
1、r
2の接触点を定義する角度を表し、
ω
1とω
2は、前記2つの歯車(R1、R2)のそれぞれの角速度を表す、
E32 前記トルク比jのいくつかの値を決定するため、前記第1歯車(R1)の前記側面形状r
1の数か所について、前記第1方程式(3)
【数11】
を解く、
E33 前記第2運動学的方程式と適合する前記トルク比jの値を特定する、
E34 直前ステップで特定された適合するトルク比の値の中からトルク比jの値を選択する、
サブステップを含む、請求項3に記載の時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法。
【請求項6】
前記第1ステップ(E1)は、前記第2歯車(R2)の側面形状r
2を計算するための、望ましい結果を入力することからなる、追加のサブステップを含み、前記第4ステップ(E4)は、前記第1ステップ(E1)で入力された分解能に基づき、前記第2歯車(R2)の前記側面形状r
2の複数の点を定義する、離散的分解能を許容する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法。
【請求項7】
前記第4ステップ(E4)は、前記第2歯車(R2)の前記側面形状r
2をデジタル処理で表すデジタルデータファイルを作成する追加のサブステップを含み、及びまたは、所定のまたはヒューマン・マシン・インターフェースにより入力される、非一元的な歯の係数mについて、第2歯車R2の側面形状r
2を再構築することからなる追加のサブステップを含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法。
【請求項8】
製造装置により前記第2歯車(R2)を製造する前記第5ステップ(E5)は、前記第4ステップの結果を、製造装置に転送するサブステップE51を含み、製造装置により前記第2歯車(R2)を製造する前記第5ステップ(E5)は、素材除去または素材追加により、前記第2歯車(R2)を製造するサブステップ(E52)を含む、
請求項1から7のいずれか一項に記載の時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造方法。
【請求項9】
第1歯車(R1)と、前記第1歯車(R1)との協働に適した第2歯車(R2)とを含む時計ムーブメント用ギア対であって、
前記2つの歯車(R1、R2)は、前記2つの歯車(R1、R2)間のトルク比jが少なくとも所定の角ピッチにわたり実質的に一定であるように、2つの運動学的方程式を満たす形状で設定される側面形状の歯を含み、
前記第1歯車(R1)の前記歯の全てまたは一部は、
円のインボリュートとしてのプロファイル、または
サイクロイド、外サイクロイドまたは内サイクロイドの形態のプロファイル、または
NIHS規格により定義されるプロファイル、を示し
前記第2歯車(R2)の少なくとも1本の歯の前記プロファイルは、前記第1歯車(R1)の前記歯の前記プロファイルとは異な
り、
前記2つの歯車(R1、R2)のそれぞれの回転軸(A1、A2)は実質的に平行であり、前記2つの歯車(R1、R2)は平歯車を構成し、
前記2つの歯車(R1、R2)の前記歯の前記側面形状r
1
、r
2
は、以下の方程式
【数12】
および
【数13】
を満たし、
ここで、
iは、前記2つの歯車(R1、R2)間の接触点における瞬間伝達比を表し、
【数14】
は、前記2つの歯車(R1、R2)間の伝達比の平均値を表し、
n
x
、n
y
は、前記2つの歯車(R1、R2)間の前記接触点における、前記第1歯車のプロファイルの法線のx及びy成分を表し、
前記第1歯車(R1)の前記歯の前記プロファイルr
1n
は、r
1n
= (r
nx
,r
ny
)で表され、r
nx
及びr
ny
は、前記2つの歯車(R1、R2)間の前記接触点における前記側面形状r
1
の正規化されたプロファイルのx及びy成分であり、
【数15】
は、対象の前記プロファイルの前記点の位置ベクトルと、前記第1歯車(R1)の前記側面形状r
1
の前記法線nとによって形成される角度を表す、
時計ムーブメント用ギア対。
【請求項10】
前記第1歯車(R1)の歯の係数mは、0.03<m<0.8を満たす、
請求項9に記載の時計ムーブメント用ギア対。
【請求項11】
請求項9または10に記載のギア対を少なくとも1つ含む、時計ムーブメントまたは腕時計。
【請求項12】
コンピュータと製造装置を含み、請求項1から8のいずれか一項に記載の製造方法を実施する、所定の第1歯車(R1)との協働に適した、時計ムーブメント用第2歯車(R2)の製造用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の第1歯車との協働に適合する、時計ムーブメント用歯車の製造方法に関する。本発明はまた、当該方法で得られた時計ムーブメント用歯車自体に関し、当該車を含むギア対自体に関する。本発明は、当該ギア対を含む時計ムーブメントと腕時計自体に関する。最後に、本発明は歯車の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
時計製造分野において、ギア対の車とピニオンの歯のプロファイルをサイクロイド、外サイクロイド、内サイクロイドまたは円のインボリュートといった幾何学的曲線に基づいて決定することは、既知の方法である。こうして得られた車とピニオンは、歯が駆動されている間は実質的に一定に維持される回転速度を伝達するよう定義される。しかしながら、当該ギア対の平衡が取れなくなるやいなや生じる摩擦力のため、歯が駆動されている間に伝達されるトルクは一定にはならない。
【0003】
例えば小型時計ムーブメントの場合、当該ギア対は、脱進機からテンプ輪へ伝達される力に変動を生じるリスクがあり、これによりテンプ輪の振動の振幅が変動する可能性があり、時計性能の劣化につながるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、本発明の主な目的は、先行技術の欠点を解消した、時計ムーブメント用のギア対の車またはピニオンの解決策を提案することである。
【0005】
更に詳しくは、本発明の目的の1つは、信頼性が高く、時計ムーブメントの計時性能の精度向上を保証可能な、時計ムーブメント用ギア対の車またはピニオンの形状を定義する解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明は、所定の第1歯車との協働に適した、時計ムーブメント用第2歯車の製造方法に関し、当該製造方法は
-前記第1歯車の前記歯の全部または一部の前記側面形状と歯数とを、コンピュータと関連するヒューマン・マシン・インターフェース経由で入力し、
-製造すべき前記第2歯車の前記歯数を入力し、
-前記2つの歯車と接触する一対の歯の摩擦係数を入力するステップ、
-前記2つの歯車と接触する少なくとも一対の歯の力またはトルクバランスを定義する、第1方程式を考慮し、
-前記2つの歯車と接触する前記少なくとも一対の歯の運動学的関係を定義する、第2運動学的方程式を考慮するステップ、
-前記2つの歯車と接触する前記少なくとも一対の歯の推定一定トルク比の値を少なくとも1つ得ることを可能にするため、前記コンピュータを用いて前記2つの方程式を解くステップ、
-前記少なくとも一対の歯の、前記第2歯車の前記歯の少なくとも一部の前記側面形状の少なくとも2点を決定し、例えば補間により、とりわけ当該2点間の直線及びまたは曲線の、特にスプラインの、連続による補間により、前記第2歯車の当該歯の前記側面形状を作成するステップ、及び
-製造装置により、前のステップの結果に対応する側面形状の歯を含む前記第2歯車を製造するステップ、
を含む、時計ムーブメント用第2歯車の製造方法。
【0007】
本発明はまた、上記方法を実施する、歯車の製造用システムに関する。
【0008】
本発明はまた、所定の第1歯車との協働に適した、時計ムーブメント用歯車であって、前記噛合した2つの歯車間の前記トルク比が少なくとも所定の角ピッチにわたり一定であるよう定義される側面形状の歯を含む、時計ムーブメント用歯車に関する。
【0009】
本発明はさらに、当該歯車を含む時計ムーブメント用ギア対、腕時計用時計ムーブメントそれ自体に関する。
【0010】
本発明は、請求項において、より詳細に定義される。
【0011】
本発明のこうした目的、特徴、及び利点は、添付の図面に関連した、非限定的な態様の特定の実施形態についての以下の記載において詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る時計ムーブメント用歯車の製造方法のステップの、フローチャートを模式的に示す。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る製造方法により得られたギア対の一例の水平面の断面図を、模式的に示す。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る製造方法により得られたギア対の一例の水平面の断面図を、模式的に示す。
【
図4】
図4は、2つの歯車と接触する歯の位置での、
図3の拡大図である。
【発明の詳細な説明】
【0013】
説明を簡単にするために、「垂直方向」の文言は、対象の歯車の回転軸に平行な方向に用いられ、水平方向は、垂直方向に直角の方向に用いられる。
【0014】
本発明は、任意の所定の第1歯車、特に従来の時計ムーブメント用第1歯車について、対となる第2車を定義することを可能にする。第2車の歯の形状は、2つの歯車が噛合して歯が駆動されるときの2つの歯車トルクの比率が、ほぼ一定または一定であるようにトルクの伝達を可能とするような、形状である。
【0015】
好ましくは、車の歯の形状は、車の周囲端部により、すなわち車の側面形状により、定義される。好ましくは、当該側面形状は、垂直方向に延びる。当該形状は、有利には、各歯が特定のプロファイルを示し、水平面において一定である断面を示し、当該プロファイルはこのため側面形状を水平面に投影して得られる形状に対応する。このため、「側面形状」の文言、または誤った使い方ではあるが「プロファイル」の文言は、以下の説明において、歯車の歯の全部または一部の外形を意味するために用いられる。
【0016】
実施形態は、所定の対となる第1車から既知である、駆動または従動車用の歯のプロファイルを定義可能な方法を説明する。
【0017】
更に詳しくは、本発明は、第1軸A1周りを旋回し、歯r1の所定の第1側面形状(またはプロファイル)が設けられる、所定の第1車R1と、第2軸A2周りを旋回し、第1車R1と噛合し、歯r2の第2側面形状(またはプロファイル)が設けられる、所定の第2車R2とからなる、任意のギア対を定義することを可能とする。歯r2の第2側面形状(またはプロファイル)は、トルク比j=C2/C1が車R1の角ピッチp1にわたり一定であるように定義され、ここでC1とC2は、第1車R1の所定の角度位置において、軸A1、A2に対して、車R1、R2の噛合の線の接触点において測定される、車R1、R2がそれぞれ発揮するトルクを表す。
【0018】
歯の少なくとも一部分の形状、例えば、第2車R2の少なくとも1本の歯の側面形状の少なくとも一部を定義するために本発明の方法が記述される。本発明の方法はもちろん、有利には、少なくとも1本の歯の全体形状を定義するために用いることができ、好ましくは第2車の全ての歯の全体形状を定義するために用いることができる。
【0019】
本発明の全体的実施形態において、所定の第1歯車R1との協働に適した、時計ムーブメント用第2歯車R2の製造方法は、
図1に模式的に図示される以下のステップを含む。
E1-コンピュータと関連するヒューマン・マシン・インターフェース経由で、第1歯車R1の歯の全部または一部の側面形状r
1と、歯数z
1とを入力し、
-製造すべき第2歯車R2の歯数z
2を入力し、
-2つの歯車R1、R2と接触する一対の歯の摩擦係数μを入力するステップ、
E2-2つの歯車R1、R2と接触する少なくとも一対の歯の力またはトルクバランスを定義する、第1方程式を考慮し、
-2つの歯車R1、R2と接触する少なくとも一対の歯の運動学的関係を定義する、第2運動学的方程式を考慮するステップ、
E3-2つの歯車R1、R2と接触する少なくとも一対の歯の推定一定トルク比jの値を少なくとも1つ得ることを可能にするため、コンピュータを用いて2つの方程式を解くステップ、
E4-前記少なくとも一対の歯のうちの前記第2歯車R2の歯の少なくとも一部の側面形状の少なくとも2点を決定し、例えば補間により、特に当該点間の直線及びまたは曲線の、特にスプラインの、連続による補間により、前記第2歯車R2の当該歯の側面形状r
2を作成するステップ、
E5-製造装置により、歯の側面形状r2が直前のステップの結果に対応する歯を全てまたは一部含む前記第2歯車R2を製造するステップ。
【0020】
当該実施形態によれば、第2ステップE2は、以下の第1パワーバランス方程式を考慮することからなる。
【0021】
【0022】
ここで、C1とC2は、第1歯車R1の所定の角度位置において、2つの歯車R1、R2のそれぞれの回転軸A1、A2に対して、2つの歯車R1、R2の噛合線の接触点において測定される、2つの歯車R1、R2と接触する一対の歯のそれぞれのトルクを表し、ω1とω2は、2つの歯車R1、R2のそれぞれの角速度を表し、
Ffrotは、歯車R1、R2の接触点における摩擦力を表す。
【0023】
更に、第2ステップE2は、以下の第2運動学的方程式を考慮することからなる。
【0024】
【0025】
ここで、r2は第1歯車R1の歯と接触する第2歯車R2の歯の側面形状の少なくとも1部分を表し、曲線横座標uと角度量θを考慮に入れた座標で表現され、
ν12は、接触点における2つの歯車R1、R2間のすべり速度を表す。
このような運動学的方程式(2)は、その法線がすべり速度と常に直角である、第2歯車R2の歯の側面形状r2を特徴づけることを可能にする。
【0026】
特定の実施形態によれば、第1歯車R1は平歯車を、すなわち車の回転軸に直角な全ての平面においてプロファイルが同一である歯車を構成する。当該側面形状を生成する直線は、車の回転軸に平行である。簡便化のため、当該側面形状は垂直であると見做される。同様に、第2歯車R2は、平歯車として示される。第2歯車R2は、第1歯車R1の第1回転軸A1に平行な第2回転軸A2周りの回転により噛合可能である。
【0027】
当該特定の実施形態において、第2ステップE2は、接触点において一定である摩擦係数μにクーロン摩擦モデルを関連させることで上述の方程式(1)から導き出される以下の第1パワーバランス方程式を考慮する。
【0028】
【0029】
ここで
- j = C2/C1 =一定であり、
【0030】
【数4】
は2つの歯車R1、R2間の伝達比の平均値を表し、
- n
x、n
y は、2つの歯車R1、R2間の接触点における、第1歯車R1のプロファイルの法線のx及びy成分を表し、
- 第1歯車R1の歯のプロファイルr
1n は、r
1n = (r
nx,r
ny)で表され、r
nx及びr
nyは、2つの歯車R1、R2間の接触点におけるr
1の正規化されたプロファイルのx及びy成分であり、
【0031】
【数5】
は、
図4の例に示すように、対象のプロファイルの点の位置ベクトルと、第1歯車R1のプロファイルr
1 の法線nによって形成される角度を表す。
【0032】
当該特定の実施形態において、各車は、歯のプロファイルを定義する一定の水平断面を示す。そのため、車の三次元形状を決定するには、当該プロファイルを定義することで足りる。このため、方程式はプロファイルを扱い、座標のy軸は、
図3の例に示すように、2つの車の回転中心を結ぶ中心線上に選択される、正規直交のデカルト座標を考える。もちろん、変形例として、他の座標を考えることも可能である。
【0033】
更に、当該特定の実施形態において、第2ステップE2は、ルイスの定理に基づく単純化により上述の方程式(2)から導き出される、以下の運動学的方程式を考慮する。
【0034】
【0035】
ここで、
第1歯車R1の歯のプロファイルr1は、r1 = (rx,ry)で表され、rx 及び ryは、2つの歯車R1、R2間の接触点におけるプロファイルr1のx及びy成分であり、
-cx、cyは、瞬間回転中心のx及びy成分を表し、
-nx、nyは、2つの歯車R1、R2間の接触点における、第1歯車R1のプロファイルの法線の、x及びy成分を表す。
【0036】
【0037】
【0038】
は、車Riの各位置φiの瞬間伝達比を表し、
- Eは、車R1、R2の中心距離を表し、以下の数式でも表すことができる。
【0039】
【0040】
ここで、ziは車Riの歯数であり、mは歯の係数であり、
【0041】
【数9】
は2つの歯車R1、R2間の伝達比の平均値を表す。
【0042】
これに基づき、上記方程式(4)は、その変形例として以下のように表すこともできる。
【0043】
【0044】
ここで、
- iは、2つの歯車R1、R2間の接触点における、瞬間伝達比を表し、
【0045】
【数11】
は2つの歯車R1、R2間の伝達比の平均値を表し、
- n
x、n
yは、2つの歯車R1、R2間の接触点における、第1歯車のプロファイルの法線の、x及びy成分を表し、
- Eは、2つの歯車R1、R2の中心距離を表し、
- 第1歯車R1の歯のプロファイルr
1nは、r
1n = (r
nx,r
ny)で表され、r
nx 及び r
ny は、2つの歯車R1、R2間の接触点におけるr
1の正規化されたプロファイルのx及びy成分を示す。
【0046】
【0047】
ステップE3において、上記方程式を解くこと、特にトルク比jの値を探ることを容易にするため、時計ムーブメント用第2歯車R2の製造方法は、以下のサブステップを含む。
【0048】
E31:トルク比jの可能な範囲での最小値jminと最大値jmaxを、以下の計算を実施することで定義する。
【0049】
【0050】
ここで、
φは、2つの歯車R1、R2の中心の線L上の、プロファイルr
1 と r
2の接触点を定義する角度を表し、
ω
1とω
2 は、
図2に示すように、2つの歯車R1、R2のそれぞれの角速度を表す。
【0051】
当該サブステップは、jが取りうる数値の範囲を定義することを可能とし、それを使用することで以下の結果を制限する。
E32-トルク比jのいくつかの数値を決定するため、第1歯車R1のプロファイルr1の数か所について、第1方程式(3)を解く。
【0052】
【0053】
E33-第2運動学的方程式と適合するトルク比jの値を特定する。
E34-例えば平均効率
【0054】
【数15】
を最大にすることができる平均効率率の最大化といった所定の規則に基づき、直前ステップで特定された適合するトルク比の値の中からトルク比jの値を選択する。
【0055】
本実施形態によれば、第4ステップE4は、第2歯車R2の歯の少なくとも一部分のプロファイルr2の少なくとも複数の点を得るために、選択されたトルク比の値jを一定と見做すことで第2運動学的方程式を解くことを含む。
【0056】
また、本実施形態によれば、第1ステップE1は、第2歯車R2の側面形状r2を計算するための、望ましい分解能(resolution)を入力することからなる、追加のサブステップを含み、ステップE4は、第1ステップE1で入力された分解能(resolution)に基づき、第2歯車R2の側面形状r2の複数の点を定義する、離散的分解能(resolution)を許容する。
【0057】
以降の製造工程を簡単にするため、本実施形態による第4ステップE4は、第2歯車R2の側面形状r2をデジタル処理で表すデジタルデータファイルを作成することからなるサブステップを含む。
【0058】
実用的には、方程式はコンピュータが実施するデジタル解法により解かれる。
【0059】
続いて、製造装置を用いて第2歯車R2を製造する第5ステップE5は、第4ステップの結果を、とりわけ第3及び第4ステップE3、E4を実施するコンピュータの通信装置によるデジタルデータ転送の形式で、製造装置に転送するサブステップE51を含む。第5ステップE5は、続いて、(とりわけ機械加工による)素材除去、または(とりわけ電鋳法による)素材追加により、製造装置を用いて第2歯車R2を製造するサブステップE52を含む。
【0060】
任意付加的に、本方法は、所定のまたはヒューマン・マシン・インターフェースにより入力される非一元的な係数mについて、第2歯車R2のプロファイルr2を再構築することからなる追加のサブステップを含んでもよい。好ましくは、係数mは、0.03<m<0.8の条件を満たす。
【0061】
図2から4は、その水平断面図が表された、2つの平歯車R1、R2を含むギア対について上述した方法の実施を図示する。当該ギア対は、A1に中心を取り、その歯のプロファイルr
1は圧力角が30°の円のインボリュートとしての従来のプロファイルである、既知の第1駆動歯車R1から生成される。当該プロファイルは、中心距離の変動に対する噛合の感度を最小限にするために、有利に選択される。
【0062】
ステップE1で入力される、第1歯車R1に関連する入力パラメータは以下の通りである。
【0063】
-第1歯車R1の、全て同一である歯11のプロファイルr1、
【0064】
【0065】
ここでrbiはインボリュートの基礎半径であり、
-歯数:Z1=98。
【0066】
更に、一定の摩擦係数が入力される。μ=0.2。
【0067】
製造されるべき従動第2歯車R2は、A2に中心を取る。その歯のプロファイルr
2は、上述の方法により決定されるべきプロファイルである。更に詳しくは、当該方法は、第2歯車R2の歯21のプロファイルの内側部分を決定するために実施される。当該部分は、
図2に示すように、歯車R1、R2の一対の歯11、12の噛合の開始に実質的に対応する点p1から、歯車R1、R2の一対の歯11、12の噛合の終了に実質的に対応する点p2まで、反時計回りに旋回する駆動車R1の角ピッチにわたり、第1歯車R1の歯11と接触を維持する部分である。
【0068】
図3及び
図4は、中心の線L上に位置する点p3において、接触する一対の歯11、21の中間位置を図示する。
【0069】
方程式を解き、上述の方法を実施することで、以下の結果を得ることができる。
- j=6.811
- 考察した歯21の部分の対となるプロファイルr
2を定義する点。当該部分は、これら点の間の補間により完成され、その後、とりわけその中心軸周りの対称を考察することで、完全な歯が描かれる。最後に、第2歯車R2の全ての歯が、この決定された歯21と同一に選択される。これにより得られた結果は、
図2から4に示す通りである。(ステップE4で)決定する点の数は2以上であり、その数は、所望する正確性と所望する計算速度との妥協で選択され、正確性は点の数が増えれば増加し、計算速度は点の数が増えれば増えるほど遅くなる。
【0070】
当然、上述の方法は、平易化を要する可能性のある、複雑な数理的結果を示し、理論上は一定であるトルク比の伝達が、実際に歯が駆動されているときにも実質的に一定である、すなわち歯が駆動されているときのトルク比jの変動が2%以下、更には1.5%以下である、第2歯車R2の定義を可能とする。更に、特に
図2から
図4に示す特定の場合において、公称中心距離Eに対する1.5%程度の中心距離の変動ΔEについて、トルク比の変動Δjは1.5%未満である。
【0071】
これに対して、円のインボリュートとしてのプロファイルをを萎えた2つの車を含む、従来技術のギア対の場合、トルク比の変動は、公称中心距離について8%程度であり、公称中心距離Eに対する1.5%程度の中心距離の変動ΔEについて、9%程度である。
【0072】
有利には、第2歯車R2の歯プロファイルr
2は、第1歯車R1の標準歯プロファイルr
1と、特に例えば5°から50°の間の圧力角の、円のインボリュートとしてのまたは円のインボリュートから導き出されるプロファイルr
1と噛合するよう設けられても良い。このようなプロファイルは、例えば
図2から
図4に示すように、中心距離変動にほぼ無反応となる。変形例として、サイクロイド、外サイクロイドまたは内サイクロイドといった幾何学曲線に基づく第1車R1を用いることもできる。変形例として、第1プロファイルr
1は、NIHS規格で定義されまたはこのような規格から導き出され、とりわけNIHS20-02またはNIHS20-25規格の一つに基づくプロファイルである。変形例として、プロファイルr
1は、円弧の連続または直線の連続から導き出される。こうした例において、本発明に係る方法で決定される、対となる第2歯車の歯のプロファイルは、第1歯車の歯のプロファイルとは異なることに留意すべきである。
【0073】
前述の方法は、有利には、全ての歯が同一の歯車を定義するために使用される。加えて、各歯は、有利には、水平対称軸を有するプロファイル及びまたは垂直対称面を有する側面形状を有する。しかしながら変形例においては、本発明は、異なる形状の歯及びまたは非対称歯を含む車の製造を除外しない。車そのものも、例えばその周囲の一部のみにわたる歯があるように、非対称であってもよい。
【0074】
また、本方法は、2本の歯の噛合する角度振幅の全てにおいて、すなわち噛合の開始から終了まで(
図2の実施例に戻り、点p1から点p2まで)、または当該角度振幅のかなり多い部分において、とりわけ一対の歯間の噛合の行程の少なくとも半分にわたり、一定のトルク比という技術的効果を得るために実施されてもよい。その結果、2つの歯車間の一定のトルク比とは、2本の特定の噛合した歯の間で、その噛合線の全体の小さくはない行程にわたり、一定または実質的に一定のトルク比と理解される。
【0075】
本発明はまた、前述の方法で製造された、ギア対の車またはピニオンそれ自体に関する。当該車またはピニオンは時計ムーブメントの一部を形成し、さらに詳しくは小型時計ムーブメントに属する。
【0076】
本発明はまた、前述の例の中の従来の車の1つであっても良くその他の車でも良い、所定の第1歯車R1と、前述の方法で定義される対となる第2車R2とを含み、2つの歯車R1、R2間のトルク比jが、少なくとも所定の角ピッチにわたり、一定または実質的に一定である、ギア対に関する。
【0077】
2つの歯車R1、R2の歯の側面形状(またはプロファイル)r1、r2は、以下の方程式を満たす。
【0078】
【0079】
ここで
- φは、開始位置φ1からの、前記第1歯車R1の角ピッチp1にわたる第1歯車R1のあらゆる位置を表し、
【0080】
【数18】
は、2つの歯車R1、R2間の伝達比の平均値を表す。
【0081】
特定の実施形態によれば、当該時計ムーブメント用ギア対において、2つの歯車R1、R2のそれぞれの回転軸A1、A2は実質的に平行であり、2つの歯車R1、R2は、平歯車である。
【0082】
この場合、2つの歯車R1、R2のそれぞれのプロファイルr1, r2は、有利には、既に説明した以下の方程式を満たす。
【0083】
【0084】
ここで、
- iは、2つの歯車R1、R2間の接触点における瞬間伝達比を表し、
【0085】
【数20】
は2つの歯車R1、R2間の伝達比の平均値を表し、
- n
x、n
y は、2つの歯車R1、R2間の接触点における、第1歯車のプロファイルの法線のx及びy成分を表し、
第1歯車R1の歯のプロファイルr
1n は、r
1n = (r
nx,r
ny)で表され、r
nx 及び r
ny は、2つの歯車R1、R2間の接触点におけるr
1の正規化されたプロファイルのx及びy成分であり、
【0086】
【数21】
は、対象のプロファイルの点の位置ベクトルと、第1歯車R1のプロファイルr
1 の法線nによって形成される角度を表す。
【0087】
本発明はまた、上述のようなギア対を含む、時計ムーブメントと腕時計とに関する。
【0088】
本発明はまた、ソフトウェアおよびハードウェアコンポーネント、とりわけ例えば本方法の第1ステップE1において、データを入力するためのヒューマン・マシン・インターフェースが設けられる、少なくとも1つのコンピュータと、入力された値と、計算パラメータと、計算結果、とりわけ製造すべき歯車の形状を表すデジタルデータを保存するための電子メモリと、当該結果を送信するための通信装置とを含む、製造システムに関する。当該製造システムは、例えば機械加工や素材追加により、ギア対の車またはピニオン自体を製造するための製造装置を含む。
【0089】
本発明の実施形態はこのように、とりわけ規格化されたプロファイルを有する全ての第1歯車から、第1歯車と噛合して第1歯車のトルクと対となるプロファイルを備える第2車である、最適な歯車を製造することを可能にするという利点を提供する。
【符号の説明】
【0090】
A1 回転軸
A2 回転軸
R1 第1歯車
R2 第2歯車
11 歯
21 歯