(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】穿刺経路設定装置、穿刺制御量設定装置及び穿刺システム
(51)【国際特許分類】
A61B 34/20 20160101AFI20220719BHJP
B25J 9/10 20060101ALI20220719BHJP
A61B 34/30 20160101ALI20220719BHJP
【FI】
A61B34/20
B25J9/10 A
A61B34/30
(21)【出願番号】P 2017243071
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】517161119
【氏名又は名称】蓮見 賢一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】517161120
【氏名又は名称】岩田 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩康
(72)【発明者】
【氏名】津村 遼介
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-004212(JP,A)
【文献】特表2010-506600(JP,A)
【文献】特表2017-512523(JP,A)
【文献】特表2010-524624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/20
B25J 9/10
A61B 34/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の組織を介して目標に至る直線状の穿刺経路を得る穿刺経路設定装置であって、
複数の画像データを利用して、三次元的な穿刺が許される穿刺許可領域を示す体内仮想モデルを生成する体内画像生成部と、
互いに異なる穿刺開始位置の候補を複数設定し、前記穿刺開始位置から前記目標に至る経路候補を前記穿刺開始位置毎に設定する経路候補設定部と、
前記経路候補と前記組織の組織境界とが互いに交差する交差位置を前記組織毎に得る交差位置取得部と、
前記交差位置における前記組織境界の法線に対する前記経路候補のずれ角度を前記組織毎に得るずれ角度取得部と、
前記組織毎に得られた複数の前記ずれ角度を足し合わせた総合ずれ角度を前記経路候補毎に得る総合ずれ角度取得部と、
複数の前記総合ずれ角度に基づいて、前記目標に到達し得る前記経路候補を前記穿刺経路として選択する穿刺経路選択部と、を備
え、
前記経路候補設定部、前記交差位置取得部、前記ずれ角度取得部、前記総合ずれ角度取得部及び穿刺経路選択部は、前記体内画像生成部が生成した前記体内仮想モデルを利用して、穿刺に適した前記穿刺経路を設定する、穿刺経路設定装置。
【請求項2】
前記経路候補の設定が許される
前記穿刺許可領域を設定する許可領域設定部をさらに備える、請求項1に記載の穿刺経路設定装置。
【請求項3】
前記総合ずれ角度取得部は、前記組織毎の前記ずれ角度に対して重み因子を乗算した値を足し合わせる、請求項1または2に記載の穿刺経路設定装置。
【請求項4】
複数の組織を介して目標に穿刺針を刺し込む穿刺システムであって、
請求項1~3の何れか一項に記載の穿刺経路設定装置と、
前記穿刺経路設定装置により設定された穿刺経路に基づいて、前記穿刺針を有するロボットが前記穿刺針を動作させる穿刺支援ロボットと、を備える、穿刺システム。
【請求項5】
前記組織毎の穿刺針の動作条件を設定する穿刺制御量設定装置をさらに備え、
前記穿刺支援ロボットは、前記穿刺制御量設定装置により設定された制御量に基づいて前記穿刺針を動作させ、
前記穿刺制御量設定装置は、
前記組織に前記穿刺針を刺し込んでいるときにおける前記動作条件としての前記穿刺針の制御量を、前記組織毎に設定する条件設定部を有し、
前記制御量は、
前記穿刺針が単位時間あたりに穿刺経路に沿って移動する距離を示す穿刺速度と、
前記穿刺針の延びる方向に前記穿刺針を振動させる第1動作に係る第1周波数及び前記穿刺針の延びる方向のまわりに前記穿刺針を往復回転させる第2動作に係る第2周波数の少なくとも一方と、を含み、
前記条件設定部は、前記穿刺針を前記穿刺経路に沿って移動させながら、前記第1動作及び前記第2動作の少なくとも一方を前記穿刺針に行わせることにより、前記穿刺針の先端位置が目標に到達し得るように前記第1周波数及び前記第2周波数を設定する、請求項
4に記載の穿刺システム。
【請求項6】
前記穿刺支援ロボットは、
前記穿刺針の先端位置に関する情報を得るために、前記穿刺針による組織境界の破断を検知する組織破断検知部と、
前記組織破断検知部が前記組織境界の破断を検知したときに、前記組織毎に設定された前記制御量を変更する制御量変更部と、を有する、請求項
5に記載の穿刺システム。
【請求項7】
前記組織破断検知部は、前記穿刺針を刺し込む動作に起因して前記穿刺針に作用する反力を利用して、前記組織境界の破断を検知する、請求項
6に記載の穿刺システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺経路設定装置、穿刺制御量設定装置及び穿刺システムに関する。
【背景技術】
【0002】
患者への負担軽減の観点から、低侵襲な治療が検討されている。穿刺は、細い針を用いて患者の体内への薬物投与などを行うものであり、低侵襲な治療として注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、穿刺プランニング装置を開示する。この装置は、臓器の内部の目標部位に向けて穿刺針を刺入したときの臓器及び穿刺針の動きを予測する動作と、当該予測に基づいて穿刺針の経路を修正する動作と、を繰り返し行う。この繰り返しにより、穿刺針を目標に良好に到達させ得る条件を求める。
【0004】
特許文献2は、穿刺針の先端形状に起因するたわみを軽減する技術を開示する。この技術では、穿刺針を往復回転させることにより、穿刺時に生じる力のアンバランスが解消する。その結果、穿刺針のたわみが低減されて穿刺針をより直線状に刺し込むことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-27844号公報
【文献】米国特許出願公開第2001-0051798号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、身体の深部に存在する患部に対して穿刺を用いた治療を行うことが検討されている。身体の深部まで穿刺針を到達させるには、穿刺針を、皮膚、脂肪、筋肉といった特性の異なる複数の組織を通過させる必要がある。このような条件にあっては、穿刺針の先端が目標に対してずれやすい。
【0007】
そこで、本発明は、複数の組織を介して目標に至る直線状の穿刺において、目標に対する穿刺針のずれを低減可能な穿刺経路設定装置、穿刺制御量設定装置及び穿刺システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、複数の組織を介して目標に至る直線状の穿刺経路を得る穿刺経路設定装置であって、互いに異なる穿刺開始位置の候補を複数設定し、穿刺開始位置から目標に至る経路候補を穿刺開始位置毎に設定する経路候補設定部と、経路候補と組織の組織境界とが互いに交差する交差位置を組織毎に得る交差位置取得部と、交差位置における組織境界の法線に対する経路候補のずれ角度を組織毎に得るずれ角度取得部と、組織毎に得られた複数のずれ角度を足し合わせた総合ずれ角度を経路候補毎に得る総合ずれ角度取得部と、複数の総合ずれ角度に基づいて、目標に到達し得る経路候補を穿刺経路として選択する穿刺経路選択部と、を備える。
【0009】
穿刺経路設定装置では、経路候補設定部が複数の経路候補を設定する。交差位置取得部は、それぞれの経路候補と組織境界との交差位置を得る。ずれ角度取得部は、当該交差位置における経路候補と法線とのずれ角度を得る。総合ずれ角度取得部は、経路候補毎に複数のずれ角度を足し合わせて、総合ずれ角度を得る。ここで、発明者らの知見によれば、穿刺経路に沿って穿刺針を組織に刺し込むとき、組織境界に対する穿刺経路の角度が垂直に近くなるほど穿刺経路に対する穿刺針のずれが小さくなる。つまり、複数の組織を介して目標に至る場合には、穿刺経路と組織境界における法線とのずれの積算値が小さいほど、目標に対するずれが小さくなる。そして、穿刺経路設定装置は、総合ずれ角度に基づいて穿刺経路を選択する。従って、穿刺経路設定装置は、複数の組織を介して目標に至る直線状の穿刺において、目標に対する穿刺針のずれを低減可能な穿刺経路を提供することができる。
【0010】
一形態に係る穿刺経路設定装置は、経路候補の設定が許される穿刺許可領域を設定する許可領域設定部をさらに備えてもよい。この構成によれば、好適な経路候補を提供することができる。
【0011】
一形態において、総合ずれ角度取得部は、組織毎のずれ角度に対して重み因子を乗算した値を足し合わせてもよい。この構成によれば、目標に対する穿刺針のずれをさらに低減可能な穿刺経路を提供することができる。
【0012】
本発明の別の形態は、組織毎の穿刺針の動作条件を設定する穿刺制御量設定装置であって、組織に穿刺針を刺し込んでいるときにおける動作条件としての穿刺針の制御量を、組織毎に設定する条件設定部を有し、制御量は、穿刺針が単位時間あたりに穿刺経路に沿って移動する距離を示す穿刺速度と、穿刺針の延びる方向に穿刺針を振動させる第1動作に係る第1周波数及び穿刺針の延びる方向のまわりに穿刺針を往復回転させる第2動作に係る第2周波数の少なくとも一方と、を含み、条件設定部は、穿刺針を穿刺経路に沿って移動させながら、第1動作及び第2動作の少なくとも一方を穿刺針に行わせることにより、穿刺針の先端位置が目標に到達し得るように第1周波数及び第2周波数を設定する。
【0013】
この穿刺制御量設定装置は、組織毎に動作条件としての穿刺針の制御量を条件設定部が設定する。従って、組織の特性に応じて穿刺針を動作させることが可能になるので、穿刺経路に対する穿刺針のずれを低減することができる。その結果、穿刺制御量設定装置は、複数の組織を介して目標に至る直線状の穿刺において、目標に対する穿刺針のずれを低減可能な穿刺針の制御量を提供することができる。
【0014】
別の形態において、条件設定部は、第1動作及び第2動作が組織へ与える影響を評価し、評価の結果を利用して第1周波数及び第2周波数を設定してもよい。この構成によれば、組織の損傷を抑制と目標に対する穿刺針のずれの低減とを両立可能な制御量を提供することができる。
【0015】
本発明のさらに別の形態は、複数の組織を介して目標に穿刺針を刺し込む穿刺システムであって、上記の穿刺経路設定装置と、穿刺経路設定装置により設定された穿刺経路に基づいて、穿刺針を有するロボットが穿刺針を動作させる穿刺支援ロボットと、を備える。
【0016】
この穿刺システムは、上記の穿刺経路設定装置が提供する穿刺経路に基づいて、穿刺針を有するロボットが穿刺針を動作させる。従って、穿刺において目標に対する穿刺針のずれを低減し、ひいては穿刺針を確実に目標に到達させることができる。
【0017】
さらに別の形態において、穿刺支援ロボットは、上記の穿刺制御量設定装置をさらに備え、穿刺支援ロボットは、穿刺制御量設定装置により設定された制御量に基づいて穿刺針を動作させてもよい。この構成によれば、穿刺経路に対する穿刺針のずれが低減される。従って、穿刺において目標に対する穿刺針のずれがさらに低減され、ひいては穿刺針をより確実に目標に到達させることができる。
【0018】
さらに別の形態において、穿刺支援ロボットは、穿刺針の先端位置に関する情報を得るために、穿刺針による組織境界の破断を検知する組織破断検知部と、組織破断検知部が組織境界の破断を検知したときに、組織毎に設定された制御量を変更する制御量変更部と、を有してもよい。この構成によれば、穿刺針の先端がある組織から当該組織に隣接する別の組織に移動したことを確実に検知することが可能である。従って、組織毎に設定された制御量を好適に変更することができる。その結果、穿刺において目標に対する穿刺針のずれをより低減し、ひいては穿刺針をいっそう確実に目標に到達させることができる。
【0019】
さらに別の形態において、組織破断検知部は、穿刺針を刺し込む動作に起因して穿刺針に作用する反力を利用して、組織境界の破断を検知してもよい。この構成によれば、組織境界の破断を確実に検知することができる。
【0020】
本発明のさらに別の形態は、複数の組織を介して目標に穿刺針を刺し込む穿刺システムであって、上記の穿刺制御量設定装置と、穿刺制御量設定装置により設定された制御量に基づいて、穿刺針を有するロボットが穿刺針を動作させる穿刺支援ロボットと、を備える。
【0021】
この穿刺システムは、上記の穿刺制御量設定装置が提供する制御量に基づいて、穿刺針を有するロボットが穿刺針を動作させる。従って、穿刺において穿刺経路に対する穿刺針のずれを低減し、ひいては穿刺針を確実に目標に到達させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、複数の組織を介して目標に至る直線状の穿刺において、目標に対する穿刺針のずれを低減可能な穿刺経路設定装置、穿刺制御量設定装置及び穿刺システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態に係る穿刺システムを示す図である。
【
図2】
図2は、穿刺プランニング装置を構成するコンピュータシステムを示す図である。
【
図3】
図3は、穿刺パスプランニング装置及び穿刺支援ロボットの機能ブロックを示す図である。
【
図4】
図4の(a)部及び
図4の(b)部は、穿刺パスを選択する原理を説明するための図である。
【
図5】
図5の(a)部は穿刺パスを選択する原理を説明する別の図であり、
図5の(b)部は
図5の(a)の一部を拡大した図であり、
図5の(c)部は
図5の(a)の別の一部を拡大した図である。
【
図6】
図6の(a)部は穿刺パス候補設定部の動作を説明するための図であり、
図6の(b)部は
図6の(a)部の一部を拡大した図である。
【
図7】
図7は、組織破断検知部の原理を説明するためのグラフである。
【
図8】
図8は、穿刺パスプランニングが有する代表的なステップを示す図である。
【
図9】
図9は、穿刺制御プランニングが有する代表的なステップを示す図である。
【
図10】
図9は、穿刺方法が有する代表的なステップを示す図である。
【
図11】
図11の(a)部及び
図11の(b)部は、変形例1に係る穿刺パスプランニング部の動作を説明するための図である。
【
図12】
図12の(a)部及び
図12の(b)部は、変形例2に係る組織破断検知部の動作を説明するための図である。
【
図13】
図13の(a)部及び
図13の(b)部は、変形例3に係る穿刺システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
図1に示されるように、穿刺システム1は、例えば、体内に発生したがん細胞へ直接に薬物を投与するといった治療に用いられる。患者の負担軽減の観点から、近年は、低侵襲な治療方法が検討されており、その一つに極めて細い穿刺針12を使う治療法がある。このような細い穿刺針12の先端をがん細胞といった目標へ正確に到達させることは、高度の技量を要する。また、断層撮影装置などを利用して穿刺針12の先端位置を確認しつつ行うこともあるので、穿刺に要する時間を短縮化させることも望まれている。
【0026】
そこで、穿刺システム1は、穿刺支援ロボット2と、穿刺プランニング装置3と、を有する。穿刺支援ロボット2は、予め定めた穿刺パス(穿刺経路)に沿って穿刺針12を精度よく移動させる。そして、穿刺プランニング装置3は、目標に到達させるために最適な穿刺パスと、穿刺パスからのずれを抑制し得る穿刺針12の制御量と、を穿刺支援ロボット2に対して提供する。
【0027】
<穿刺支援ロボット>
穿刺支援ロボット2は、ロボット10と、ロボット制御装置20と、を有する。ロボット10は、複数の関節を有する多自由度のアーム型ロボットで有り得る。ロボット制御装置20は、穿刺プランニング装置3から提供される情報に基づいて、ロボット10を制御する。ロボット10は、アクチュエータ、モータ、振動素子といった部品により構成された駆動ユニット11を有する。また、ロボット10のアーム先端には、穿刺針12が取り付けられる。穿刺針12は、例えば、長さが150ミリメートル、直径が0.53ミリメートルであり、基端側がロボット10に保持された片持ち梁状を呈する。さらに、穿刺針12の基端には、穿刺針12に作用する力を計測する力センサ13が設けられる。そして、ロボット10のアームには、穿刺針12の位置及び姿勢を得るためのいくつかの角度センサ14が設けられる。
【0028】
ロボット10は、穿刺針12について、任意に設定されるXYZ座標系を基準とし、先端位置と、XYZ座標軸に対する傾きと、XYZ方向への並進と、XYZ座標軸まわりの回転と、を制御する。また、ロボット10は、穿刺針12が単位時間あたりに穿刺パスに沿って移動する距離を示す移動速度(穿刺速度)と、穿刺針12の軸線方向に沿った振動の周波数(穿刺周波数:第1周波数)と、軸線まわりの回転の速度(回転速度:第2周波数)と、を制御する。なお、ロボット10は、穿刺速度と振動の周波数と、を制御し、回転の速度を制御しないものであってもよい。また、ロボット10は、穿刺速度と回転速度と、を制御し、振動周波数を制御しないものであってもよい。
【0029】
ロボット制御装置20は、穿刺プランニング装置3から提供された情報に基づいて、ロボット10の駆動ユニット11を動作させる。また、ロボット制御装置20は、ロボット10に設けられた種々のセンサ(力センサ13、角度センサ14)の情報に基づいて、穿刺針12の状態を得る。ロボット制御装置20は、例えば、コンピュータであり、当該コンピュータが所定のプログラムを実行することにより、上記の機能が実現される。ロボット制御装置20が奏する機能の詳細は後述する。なお、穿刺支援ロボット2は、上記の動作及びその制御が実現可能な構成であれば、特に限定されない。
【0030】
<穿刺プランニング装置>
穿刺プランニング装置3は、穿刺支援ロボット2の動作条件を決めるコンピュータシステムである。穿刺プランニング装置3は、患者の断層撮影画像などの画像情報を利用して、穿刺パスと、穿刺制御量と、を算出する。そして、穿刺プランニング装置3は、当該穿刺パス及び穿刺制御量を穿刺支援ロボット2に提供する。穿刺プランニング装置3から穿刺支援ロボット2への情報提供の態様は、特に限定されない。穿刺プランニング装置3は、穿刺支援ロボット2に対して有線または無線により接続され、穿刺プランニング装置3から穿刺支援ロボット2へ情報が伝達されてもよい。また、穿刺プランニング装置3が生成した情報は、メモリーカードといった情報記録媒体に記録され、当該媒体の情報を穿刺支援ロボット2に読み込ませることにより伝達されてもよい。
【0031】
穿刺プランニング装置3は1台以上のコンピュータを有する。穿刺プランニング装置3が複数台のコンピュータを有する場合には、後述する穿刺プランニング装置3の各機能要素は分散処理により実現されてもよい。穿刺プランニング装置3を構成する個々のコンピュータの種類は限定されない。例えば、据置型または携帯型のパーソナルコンピュータ(CP)であってもよい。また、ワークステーションを用いてもよいし、高機能携帯電話機(スマートフォン)や携帯電話機、携帯情報端末(PDA)などの携帯端末を用いてもよい。あるいは、様々な種類のコンピュータを組み合わせて穿刺プランニング装置3を構築してもよい。穿刺プランニング装置3が複数台のコンピュータによって構成される場合には、これらのコンピュータはインターネットやイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続される。
【0032】
図2は、穿刺プランニング装置3を構成する個々のコンピュータ100の一般的なハードウェア構成を示す。コンピュータ100は、CPU(プロセッサ)101と、主記憶部102と、補助記憶部103と、通信制御部104と、入力装置105と、出力装置106とを有する。CPU101は、演算装置であって、オペレーティングシステムやアプリケーション・プログラムなどを実行する。主記憶部102は、ROM及びRAMにより構成される。補助記憶部103は、ハードディスクやフラッシュメモリなどにより構成される。通信制御部104は、ネットワークカードあるいは無線通信モジュールにより構成される。入力装置105は、キーボードやマウスなどを含む。出力装置106は、ディスプレイやプリンタなどを含む。
【0033】
穿刺プランニング装置3を構成するハードウェアモジュールは、コンピュータ100の種類により異なる。例えば、据置型のPC及びワークステーションは入力装置105及び出力装置106としてキーボード、マウス、及びモニタを有する。その一方、スマートフォンではタッチパネルが入力装置105及び出力装置106として機能する。
【0034】
後述する穿刺プランニング装置3の各機能要素は、CPU101または主記憶部102の上に所定のソフトウェアを読み込ませ、CPU101の制御の下で通信制御部104や入力装置105、出力装置106などを動作させ、主記憶部102または補助記憶部103におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。処理に必要なデータやデータベースは主記憶部102または補助記憶部103内に格納されてもよい。
【0035】
以下、穿刺プランニング装置3についてさらに詳細に説明する。
【0036】
図3に示されるように穿刺プランニング装置3は、機能的構成要素として、穿刺パスプランニング部30(穿刺経路設定装置)と、穿刺制御プランニング部40(穿刺制御量設定装置)と、を有する。ここで「穿刺パス」とは、体表上の穿刺開始位置と穿刺目標とを結んだ線であり、穿刺針12を通過させる軌跡をいう。そして、「穿刺パスプランニング」とは、穿刺針12のたわみ(穿刺目標に針先が到達した際の誤差)が最も小さくなる穿刺パスを設定することをいう。さらに、「穿刺制御」とは、穿刺針12のたわみを低減するための穿刺針12の動き制御をいう。また、「穿刺制御プランニング」とは、穿刺制御において、通過する組織に応じて、たわみを最小化する最適な制御パラメータを設定することをいう。
【0037】
また、穿刺プランニング装置3は、データ入出力部50を有する。データ入出力部50は、例えば、
図2に示された入力装置105、通信制御部104、出力装置106に相当する。データ入出力部50は、穿刺パス及び穿刺条件の設定に必要な種々の情報を受け入れる。例えば、データ入出力部50は、断層画像といった画像データを受ける。
【0038】
穿刺パスプランニング部30は、まず、受け取った画像データに対して穿刺が許されない領域を設定する。次に、穿刺パスプランニング部30は、画像データに含まれるがん細胞といった目標を特定する。次に、穿刺パスプランニング部30は、穿刺が許されない領域及び目標を利用して、画像データに対して穿刺が許される領域を設定する。次に、穿刺パスプランニング部30は、穿刺が許される領域内において、穿刺パスの候補を複数設定する。そして、穿刺パスプランニング部30は、当該候補を所定の評価条件を利用して比較を行い、最も穿刺に適した候補を穿刺パスとして選択する。
【0039】
穿刺パスプランニング部30は、危険領域設定部31と、目標設定部32と、許可領域設定部33と、体内画像生成部34と、を有する。さらに、穿刺パスプランニング部30は、穿刺パス候補設定部35(経路候補設定部)と、交差位置取得部36と、ずれ角度取得部37と、総合ずれ角度取得部38と、穿刺パス選択部39(穿刺経路選択部)と、を有する。
【0040】
危険領域設定部31、目標設定部32、許可領域設定部33及び体内画像生成部34は、データ入出力部50にそれぞれ接続され、データ入出力部50から画像データを受ける。そして、受け取った画像データを処理する。つまり、これらの危険領域設定部31、目標設定部32、許可領域設定部33及び体内画像生成部34は、画像データ処理部であるともいえる。危険領域設定部31、目標設定部32、許可領域設定部33は、入力された画像データから目的とする領域を自動的に特定できる画像処理プログラムを実行することにより実現される。体内画像生成部34は、目的とする領域が特定された画像データを複数利用して、三次元的な体内仮想モデルを構築する。
【0041】
<危険領域設定部>
危険領域設定部31は、画像データに対して危険領域RKを設定する。「危険領域」とは、穿刺が許されない領域であり、例えば、血管が集中する部位など、穿刺針12が通過すると人体に影響を及ぼす危険性が高い領域をいう。
【0042】
<目標設定部>
目標設定部32は、画像データに対して目標を設定する。「目標」とは、穿刺針12の先端が到達すべき領域をいう。従って、本実施形態でいう「目標」は、画像データにおいてある程度の範囲を有する領域をいう。例えば、目標は、体内に発生したがん細胞を含む領域としてよい。なお、目標は、穿刺針12が通過すべき領域としてもよい。
【0043】
<許可領域設定部>
許可領域設定部33は、画像データに対して許可領域RP(穿刺許可領域)を設定する。「許可領域」とは、穿刺が許される領域であり、例えば、穿刺針12が通過しても人体に大きな影響を及ぼす危険性が低い領域をいう。つまり、許可領域RPと危険領域RKとは、重複して設定されることはない。
【0044】
<体内画像生成部>
体内画像生成部34は、複数の画像データを利用して三次元的な許可領域RPを示す体内仮想モデルを生成する。
【0045】
穿刺パス候補設定部35、交差位置取得部36、ずれ角度取得部37、総合ずれ角度取得部38及び穿刺パス選択部39は、体内画像生成部34が生成した体内仮想モデルを利用して、穿刺に適した穿刺パスを設定する。ここで、穿刺パスを選択する原理について説明する。
【0046】
図4の(a)部に示されるように、穿刺針12を組織T
iに刺し入れる。この例示によれば、穿刺針12の軸線は、組織境界TS
iに対して垂直である。換言すると、穿刺針12の軸線は、組織境界TS
iの法線N
iと平行である。この構成によれば、穿刺針12を組織T
iに刺し入れるとき、穿刺針12には軸線に交差する方向に向かう不要な力が作用し難い。従って、穿刺針12は、組織T
iに対して直線状に(法線N
iに沿って)刺し入れることができる。なお、ここでいう「直線状」とは、数学的な厳密性を有する「直線」に限定されない。本実施形態でいう「直線状」とは、例えばCT画像を介してみた時のように、巨視的に見て概ね直線と認識できるものを意味する。
【0047】
一方、
図4の(b)部に示されるように、穿刺針12を組織T
iに差し入れる。
図4の(a)部とは異なり、穿刺針12は、組織境界TS
iの法線N
iに対して傾いている。換言すると、穿刺針12の軸線Aは、組織境界TS
iの法線N
iに対して平行でない。この場合には、穿刺針12に対して法線N
iに交差する方向に向かう不要な力が作用しやすい。従って、穿刺針12は、組織境界TS
iに対して直線状に(法線N
iに沿って)刺し入れることが難しい。つまり、穿刺針12は、その先端が徐々に軸線Aからずれる。
【0048】
穿刺システム1は、体内の深部に位置する目標に対して、穿刺針12を到達させることを狙っている。そうすると、穿刺針12は、複数の特性の異なる組織Tiを通過しながら、目標に到達する。
【0049】
ここで、発明者らは、
図5の(a)部に示されるように、穿刺針12を刺し入れる方向(穿刺パスCP)と組織境界TS
i+1の法線N
i+1との関係、及び、穿刺パスCPと組織境界TS
i+2の法線N
i+2の方向との関係に注目した。つまり、穿刺針12が複数の組織T
i、T
i+1、T
i+2を通過する場合、穿刺パスCPと法線N
i+1とのずれ角度θ
i+1(
図5の(b)部参照)と、穿刺パスCPと法線N
i+2とのずれ角度θ
i+2(
図5の(c)部参照)と、が生じ得る。そして、ずれ角度θ
i+1、θ
i+2の総和が最小となる穿刺パスCPが、目標Gに対する穿刺針12の先端のずれを最小に抑制できるパスであると考えた。この着想は、次式により示される。
【数1】
iは複数の組織T
iの一つを特定する数であり、jは複数の穿刺パス候補C
jの一つを特定する数である。f
jは、j番目の穿刺パス候補C
jにおける総合ずれ角度であり、θ
i、jは組織境界TS
iと穿刺パス候補C
jとのずれ角度であり、w
iは組織T
iにおける重み因子である。
【0050】
そこで、穿刺パスプランニング部30は、体内画像生成部34において生成された体内仮想モデルを用いて、いくつかの穿刺パス候補Cjを設定し、それぞれの穿刺パス候補Cjについて、上記式に示される総合ずれ角度fjを算出する。そして、最も小さい総合ずれ角度fminを示す穿刺パス候補Cjを、穿刺パスCPとして選択する。
【0051】
なお、上述の説明により選択された穿刺パスCPは、目標Gに対するずれが最も小さくなる経路である。しかし、複数の穿刺パス候補Cjには、総合ずれ角度fjが最小でなくとも、目標Gに到達し得るものが含まれ得る。従って、複数の穿刺パス候補Cjから穿刺パスCPを選択する場合には、目標Gに到達し得るものを選択してよい。そうすると、複数の穿刺パス候補Cjから穿刺パスCPを選択する場合には、最小の総合ずれ角度fminを含む好適な許容し得る総合ずれ角度の集団が設定され、その集団から穿刺パスCPを設定することとしてもよい。
【0052】
<経路候補設定部>
穿刺パス候補設定部35は、体内画像生成部34に接続されて、体内仮想モデルを受ける。
図6に示されるように、穿刺パス候補設定部35は、体内仮想モデル60に示される三次元的な許可領域RP内において、互いに異なる複数の初期位置としての位置P
j、P
j+1、P
j+2から目標Gに至る複数の穿刺パス候補C
j、C
j+1、C
j+2を設定する。
【0053】
具体的には、穿刺パス候補設定部35は、複数の位置Pj、Pj+1、Pj+2の座標を設定する。次に、穿刺パス候補設定部35は、目標Gに含まれる目標点GPの座標を設定する。そして、穿刺パス候補設定部35は、位置Pj、Pj+1、Pj+2と目標点GPとを結ぶ直線を穿刺パス候補Cj、Cj+1、Cj+2として規定する。
【0054】
<交差位置取得部>
交差位置取得部36は、体内画像生成部34と穿刺パス候補設定部35とに接続されて体内仮想モデルと穿刺パス候補Cj、Cj+1、Cj+2を示す情報とを受ける。穿刺パス候補Cj、Cj+1、Cj+2と、組織境界TSi+1、TSi+2の交差する位置を計算により得る。体内仮想モデルは、組織Ti+1、Ti+2について、その形状を示す三次元データを含む。交差位置取得部36は、穿刺パス候補Cj、Cj+1、Cj+2と組織Ti+1、Ti+2の形状を示すデータとを利用して、交差点を示す座標を得る。例えば、穿刺パス候補Cjと組織境界TSi+1との交差点CPi+1、jを得る。穿刺パス候補Cjと組織境界TSi+2との交差点CPi+2、jを得る。穿刺パス候補Cj+1と組織境界TSi+1との交差点CPi+1、j+1を得る。穿刺パス候補Cj+1と組織境界TSi+2との交差点CPi+2、j+1を得る。穿刺パス候補Cj+2と組織境界TSi+1との交差点CPi+1、j+2を得る。穿刺パス候補Cj+2と組織境界TSi+2との交差点CPi+2、j+2を得る。
【0055】
<ずれ角度取得部>
ずれ角度取得部37は、体内画像生成部34と交差位置取得部36とに接続されて体内仮想モデルと交差点を示す情報(座標)を受ける。例えば、ずれ角度取得部37は、まず、交差点CPi+1、jにおける法線Ni+1、jを算出する。既に述べたように、体内仮想モデルは、組織Ti+1についてその形状を示す三次元データを含む。従って、組織境界TSi+1における交差点CPi+1が特定されれば、当該交差点CPi+1における法線Ni+1、jの方向が得られる。次に、ずれ角度取得部37は、法線Ni+1、jと、穿刺パス候補Cjとのずれ角度θi+1、jを得る。一つの穿刺パス候補Cjにつき、交差する組織境界TSi+1、TSi+2の数だけずれ角度が得られる。
【0056】
<総合ずれ角度取得部>
総合ずれ角度取得部38は、ずれ角度取得部37に接続されてずれ角度θi、jを受ける。総合ずれ角度取得部38は、穿刺パス候補Cj毎に、ずれ角度θi、jを足し合わせる(式(1)参照)。例えば、3本の穿刺パス候補Cj、Cj+1、Cj+2が設定された場合には、3個の総合ずれ角度fj、fj+1、fj+2が得られる。なお、足し合わせる前に、ずれ角度θi、jには、所定の重み因子wiを乗算してもよい。
【0057】
<穿刺経路選択部>
穿刺パス選択部39は、総合ずれ角度取得部38に接続されて総合ずれ角度fjを受ける。穿刺パス選択部39は、複数の総合ずれ角度fj、fj+1、fj+2の数値を互いに比較し、最小の総合ずれ角度fminを特定する。そして、最小の総合ずれ角度fminを示す穿刺パス候補Cjを穿刺パスCPとして選択する。例えば、総合ずれ角度fj、fj+1、fj+2のうち、総合ずれ角度fj+1が最小であったとする。そうすると、穿刺パス選択部39は、総合ずれ角度fj+1を示す穿刺パス候補Cj+1を、穿刺パスCPとして選択する。
【0058】
<穿刺制御プランニング部(穿刺制御量設定部)>
穿刺パスCPに沿って穿刺針12を刺し込むことにより、目標Gとのずれが最小化される。すでに述べたように、穿刺針12は、極めて細く(例えば直径0.53ミリメートル)であり、たわみやすい。さらに、穿刺針12は、軸線方向に沿った力を正確に加えたとしても、その先端の形状によりたわんでしまう。このようなたわみを抑制するために、穿刺針12に対して軸線方向に沿った振動あるいは軸線まわりに交互に回動する回転振動を与える。これらの穿刺針12の動作により、先端形状に起因する力の不均一などが解消される。従って、穿刺パスCPからの穿刺針12のずれをさらに抑制することができる。
【0059】
その一方、発明者らは、穿刺針12を上記のように動作させると穿刺パスCPからの穿刺針12のずれが抑制されるものの、組織Tiに損傷を与える可能性があることを見出した。つまり、穿刺パスCPからのずれを抑制することのみに注目すれば、穿刺周波数及び穿刺回転数は高めるほどよい。しかし、穿刺周波数及び穿刺回転数が高くなると、組織Tiに与える損傷が増加してしまう。従って、穿刺針12を刺しこむにあたっては、穿刺パスCPからのずれと組織損傷とを総合的に評価して、穿刺針12を制御することが望ましい。
【0060】
そこで、発明者らは、穿刺パスCPに対して許容し得るずれを設定し、当該許容されるずれに穿刺針12の先端位置を収束させるために必要な穿刺針12の制御条件(制御量)を設定することに着想した。この着想によれば、組織損傷を抑制しながら、穿刺パスCPのずれも穿刺針12の先端が目標Gに到達可能な範囲に抑制することが可能になる。
【0061】
上記の着想に鑑み、穿刺制御プランニング部40は、穿刺針12の制御量を設定する。穿刺針12の制御量は、穿刺針12を直線状に移動させる際の移動速度(穿刺速度)と、穿刺針12の軸線方向に沿った振動(第1動作)の周波数(穿刺周波数)と、軸線まわりの回転(第2動作)の速度(穿刺回転速度)と、を含む。
【0062】
穿刺制御プランニング部40は、穿刺パスCP及び組織Tiの特性に応じて、これら穿刺速度、穿刺周波数及び穿刺回転数の値を設定する。この設定には、穿刺周波数及び穿刺回転数の値をゼロにすることも含む。つまり、穿刺制御プランニング部40は、第1の態様として、所定の穿刺速度をもって穿刺針12を動かしつつ、所定の穿刺周波数をもって穿刺針12を振動させ、且つ、所定の穿刺周波数をもって穿刺針12を回転させるという条件を設定してもよい。また、穿刺制御プランニング部40は、第2の態様として、所定の穿刺速度をもって穿刺針12を動かしつつ、所定の穿刺周波数をもって穿刺針12を振動させるが、穿刺針12を回転させない(穿刺回転速度がゼロ)という条件を設定してもよい。さらに、穿刺制御プランニング部40は、第3の態様として、所定の穿刺速度をもって穿刺針12を動かしつつ、所定の穿刺周波数をもって穿刺針12を振動させないが(穿刺周波数がゼロ)、所定の穿刺周波数をもって穿刺針12を回転させるという条件を設定してもよい。
【0063】
穿刺制御プランニング部40は、許容値設定部41と、制御量設定部42と、を含む。許容値設定部41は、各組織Tiにおいて許容し得るたわみを設定する。制御量設定部42は、許容し得るたわみを満たす穿刺針12の制御量を設定する。
【0064】
<許容値設定部>
許容値設定部41は、穿刺パスプランニング部30に接続されて穿刺パスCPに関する情報と体内仮想モデル60に関する情報を受ける。穿刺針12は、穿刺パスCPに沿って刺しこんだとき、目標Gに到達するまでに各組織Ti、Ti+1、Ti+2を貫通する。そして、目標Gは、その位置は一つの座標によって代表されているが、実際には三次元的な領域を有する。従って、当該領域を用いて、許容できる最終的なずれが算出でき、ひいてはそれぞれの組織Ti、Ti+1、Ti+2において許されるずれを得ることができる。
【0065】
<制御量設定部>
制御量設定部42は、前処理部43と、条件設定部44と、を有する。
【0066】
<前処理部>
前処理部43は、穿刺パスプランニング部30及び許容値設定部41に接続されて、体内仮想モデル60に関する情報と許容値に関する情報とを受ける。前処理部43は、制御量の設定に必要な前処理を行う。例えば、前処理部43は、穿刺パスCPにおける各組織Ti、Ti+1、Ti+2の長さLi、Li+1、Li+2を得る。長さLi、Li+1、Li+2は、穿刺パスCPを示す情報と体内仮想モデル60に関する情報とを用いた計算により得られる。また、前処理部43は、各組織Ti、Ti+1、Ti+2の弾性率Ei、Ei+1、Ei+2を得る。弾性率Ei、Ei+1、Ei+2は、予め取得されて補助記憶部103に保存された情報を用いてもよい。
【0067】
<条件設定部>
条件設定部44は、制御量仮定部44a、たわみ確率評価部44bと、組織損傷評価部44cと、を有する。たわみ確率評価部44bは、穿刺速度、穿刺周波数及び穿刺回転速度を仮定し、当該仮定に基づいて発生し得る穿刺パスCPからのずれが許容できるか否かを評価する。そして、この仮定と評価とを、所定の条件が満たされるまで繰り返す。組織損傷評価部44cは、たわみ確率評価部44bにおいて評価を満たした穿刺速度、穿刺周波数及び穿刺回転速度に基づいて組織損傷を評価する。
【0068】
たわみ確率評価部44bは、下記式を利用して、穿刺パスCPからのずれを評価する。
【数2】
ここで、p
iは組織T
iにおけるたわみ量が許容値以下になる確率である。Pは、許容し得る確率である。また、E
iは弾性率であり、L
iは組織T
i中における穿刺パスCPの長さであり、u
iは穿刺回転速度であり、v
iは穿刺速度であり、q
iは穿刺周波数である。
【0069】
まず、たわみ確率評価部44bは、前処理部43から弾性率Ei、Ei+1、Ei+2、長さLi、Li+1、Li+2を得る。次に、穿刺周波数qi、穿刺速度vi及び、穿刺回転速度uiを仮定する。続いて、許容値設定部41から許容値を得る。次に、これらのパラメータを用いて、穿刺針12のたわみが許容値以下となる確率piを得る。そして、確率piを許容し得る確率Pと比較する。pi>Pであるとき、穿刺周波数qi、穿刺速度vi及び、穿刺回転速度uiは不適と判断されて、再び別の穿刺周波数qi、穿刺速度vi及び、穿刺回転速度uiが仮定される。pi<Pであるとき、穿刺周波数qi、穿刺速度vi及び、穿刺回転速度uiは適当であると判断されて、制御量候補が設定する。
【0070】
続いて、組織損傷評価部44cは、制御量候補に示される穿刺周波数q
i、穿刺速度v
i及び、穿刺回転速度u
iを用いて、組織損傷の度合いH
i、jを評価する。組織損傷評価部44cは、下記式を利用して、組織損傷の度合いH
i、jを評価する。
【数3】
ここで、組織損傷の度合いH
i、jは、算出するだけでもよいし、予め設定された閾値と比較してもよい。つまり、組織損傷の度合いH
i、jが閾値を越える(損傷度合いが許容できない)と判断されるとき、再び、たわみ確率評価部44bの動作に戻って、新たな穿刺速度v
i及び穿刺回転速度u
iが設定される。
【0071】
上述したように、制御量を設定するに際して、組織Ti毎の弾性率Eiや長さLiを用いた。従って、制御量は、穿刺針12が通過する組織Ti毎に設定される。組織Ti毎に設定される穿刺速度vi及び穿刺回転速度uiは、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0072】
<ロボット制御装置>
図3に示されるように、ロボット制御装置20は、穿刺プランニング装置3から得た情報に基づいて、ロボット10に提供する制御信号を生成する。また、ロボット制御装置20は、ロボット10に設けられた各種センサから得た情報に基づいて、ロボット10に提供する制御信号を切り替える。ロボット制御装置20は、動作制御部21と、組織破断検知部22と、目標到達判定部23と、を有する。
【0073】
<動作制御部>
動作制御部21は、穿刺プランニング装置3から得た情報に基づいて、ロボット10の動作を制御するための制御信号を生成する。また、動作制御部21は、制御量変更部21aを有する。上述したように、制御量は、組織毎に設定される。従って、ロボット制御装置20は、穿刺針12の先端位置を検出し、その位置に応じて制御量を切り替える。この動作を実現するには、先端位置に関する情報を要する。
【0074】
<組織破断検知部>
ところで、穿刺針12の先端位置は、組織毎に設定された制御量の切替や、目標Gに到達したか否かを判断するために必要な情報である。穿刺針12の先端位置は、例えば、穿刺前に取得した断層画像と、ロボット10の角度センサ14などのデータに基づく穿刺深さとを利用して推定することができる。しかし、組織Tiは、穿刺針12の先端に押圧されて変形する。例えば、断層画像を利用して、基準位置から所定距離だけ離間した位置に組織境界がある情報と、ロボット10のデータから穿刺深さが所定距離よりもわずかに深い位置にある情報とを得たとする。これらの情報によれば、穿刺針12の先端は、組織境界TSi+1を破って次の組織Ti+1に位置すると予想される。しかし、実際には、組織境界TSi+1が変形するので、穿刺針12の先端は、組織Tiと組織Ti+1の境界(組織境界TSi+1)に留まっていることがあり得る。つまり、組織Ti+1に対して設定された制御量とすることが適切でないことが生じ得る。ここでいう「組織境界」とは、体内仮想モデルを構成する複数の組織及び臓器の、表面または境界面をいう。
【0075】
上記の状況を鑑み、組織破断検知部22は、穿刺針12の先端位置に関する精度の良い情報を得る。つまり、組織破断検知部22は、穿刺針12の先端が各組織境界TS
iを破るタイミングに基づいて先端位置が組織T
i+1から当該組織T
i+1に隣接する別の組織T
i+2に移動したことを得る。組織破断検知部22は、穿刺針12に作用する力に基づいて組織境界TS
i+2が破られたタイミングを得る。発明者らの知見によれば、組織境界TS
i+2を穿刺針12の先端が通過するとき、組織境界TS
i+2は穿刺針12の先端に押されて延びた後に破れる。そうすると、この延びが生じている間には、穿刺針12に対して大きな反力が生じ、破れた瞬間に当該反力は解放される。つまり、
図7に示されるように、穿刺針12に作用する力をモニタすると、力が急峻に変化する領域がみられる。この領域において、組織T
i+1から隣の組織T
i+2に移動したことがわかる。この変化点は、例えば、反力の変化を示すグラフの傾きを利用して得てもよい。つまり、傾きがゼロである点は、反力の方向が変化した点である。
【0076】
<目標到達判定部>
目標到達判定部23は、穿刺針12の先端が目標に到達したことを判定する。目標に到達した場合には、目標到達判定部23は、目標に到達したことを示す情報を動作制御部21に提供する。そうすると、動作制御部21は、穿刺動作を停止する。その後、ロボット制御装置20は、薬剤の注入といった作業を開始する。
【0077】
<穿刺システムの動作>
穿刺システム1の動作について説明する。以下の説明では、
図8、
図9及び
図10に示されるように、穿刺システム1の動作を穿刺パスプランニングステップS10、穿刺制御プランニングステップS30及びロボット制御ステップS50として説明する。
【0078】
<穿刺パスプランニングステップ>
図8に示されるように、穿刺パスプランニングステップS10は、例えば、穿刺パスプランニング部30が有する機能的構成要素に対応するステップを有する。つまり、穿刺パスプランニングステップS10は、データ入力ステップS11と、危険領域設定ステップS12と、目標設定ステップS13と、許可領域設定ステップS14と、体内画像設定ステップS15と、穿刺パス候補設定ステップS16と、交差位置取得ステップS17と、ずれ角度取得ステップS18と、総合ずれ角度取得ステップS19と、穿刺パス選択ステップS20と、を有する。
【0079】
まず、データ入力ステップS11を行う。データ入力ステップS11は、データ入出力部50によって行われる。このステップでは、穿刺パスCPの設定に必要な種々の情報を受け入れる。例えば、データ入力ステップS11では、断層画像といった複数枚の医用画像データ、弾性率といった組織Ti毎の物理的特性などを受け入れる。なお、データ入力ステップS11では、別の装置によって生成された三次元の体内仮想モデルに関するデータを受け入れてもよい。
【0080】
次に、危険領域設定ステップS12を行う。危険領域設定ステップS12は、危険領域設定部31によって行われる。このステップでは、データ入力ステップS11において受け入れた複数枚の画像データのそれぞれに対して、危険領域RKを設定する。
【0081】
次に、目標設定ステップS13を行う。目標設定ステップS13は、目標設定部32によって行われる。このステップでは、危険領域設定ステップS12において危険領域RKが設定された画像データのそれぞれに対して、目標Gを設定する。
【0082】
次に、許可領域設定ステップS14を行う。許可領域設定ステップS14は、許可領域設定部33によって行われる。このステップでは、危険領域設定ステップS12及び目標設定ステップS13において危険領域RK及び目標Gが設定された画像データのそれぞれに対して、許可領域RPを設定する。
【0083】
次に、体内画像設定ステップS15を行う。体内画像設定ステップS15は、体内画像生成部34によって行われる。このステップでは、危険領域RK、目標G及び許可領域RPが設定された複数枚の画像データを利用して、三次元の体内仮想モデルが生成される。
【0084】
次に、穿刺パス候補設定ステップS16を行う。穿刺パス候補設定ステップS16は、穿刺パス候補設定部35によって行われる。このステップでは、複数の穿刺パス候補Cjが生成される。
【0085】
次に、交差位置取得ステップS17を行う。交差位置取得ステップS17は、交差位置取得部36によって行われる。このステップでは、穿刺パス候補Cjと組織境界TSiとが交差する位置を示す三次元座標が得られる。三次元座標は、穿刺パス候補Cj毎に、穿刺パス候補Cjが組織境界TSiと交差する数だけ得られる。
【0086】
次に、ずれ角度取得ステップS18を行う。ずれ角度取得ステップS18は、ずれ角度取得部37によって行われる。このステップでは、交差位置におけるずれ角度θi、jが得られる。ひとつの穿刺パス候補Cjが有するずれ角度θi、jの数は、交差位置の数に対応する。
【0087】
次に、総合ずれ角度取得ステップS18を行う。総合ずれ角度取得ステップS18は、総合ずれ角度取得部38によって行われる。このステップでは、総合ずれ角度fjが得られる。総合ずれ角度fjは、穿刺パス候補Cjの数だけ得られる。
【0088】
次に、穿刺パス選択ステップS20を行う。穿刺パス選択ステップS20は、穿刺パス選択部39によって行われる。このステップでは、まず、複数の総合ずれ角度fjを互いに比較し、最小の総合ずれ角度fjを抽出する。そして、最小の総合ずれ角度fjを示す穿刺パス候補Cjを穿刺パスCPとして選択する。
【0089】
以上のステップにより、穿刺パスCPが得られる。
【0090】
<穿刺制御プランニングステップ>
図9に示されるように、穿刺制御プランニングステップS30は、例えば、穿刺制御プランニング部40が有する機能的構成要素に対応するステップを有する。つまり、穿刺制御プランニングステップS30は、許容値設定ステップS31と、制御量設定ステップS32と、を有する。
【0091】
まず、許容値設定ステップS31を行う。許容値設定ステップS31は、許容値設定部41が行う。このステップでは、たわみ確率評価ステップS36に利用される許容量が生成される。
【0092】
次に、制御量設定ステップS32を行う。制御量設定ステップS32は、制御量設定部42が行う。さらに、制御量設定ステップS32は、前処理ステップS33と、条件設定ステップS34と、を有する。
【0093】
前処理ステップS33を行う。前処理ステップS33は、制御量設定部42が行う。このステップでは、制御量の設定に必要な情報を準備する。例えば、穿刺パスCPにおける各組織Ti、Ti+1、Ti+2の長さLi+1、Li+2、Li+3、及び、各組織Ti、Ti+1、Ti+2の弾性率Ei+1、Ei+2、Ei+3を得る。
【0094】
次に、条件設定ステップS34を行う。条件設定ステップS34は、条件設定部44が行う。そして、条件設定ステップS34は、制御量仮定ステップS35と、たわみ確率評価ステップS36と、組織損傷評価ステップS37と、を有する。
【0095】
条件設定ステップS34において、まず、制御量仮定ステップS35を行う。制御量仮定ステップS35は、制御量仮定部44aが行う。このステップでは、穿刺速度viと、穿刺回転速度uiと、穿刺周波数qiが仮定される。
【0096】
次に、条件設定ステップS34において、たわみ確率評価ステップS36を行う。たわみ確率評価ステップS36は、たわみ確率評価部44bが行う。このステップでは、下記式を用いて穿刺パスCPからのずれを評価する。
【数4】
上記式を満たす場合(S36:YES)には、次の組織損傷評価ステップS37を行う。上記式を満たさない場合(S36:NO)には、再び制御量仮定ステップS35を行う。
【0097】
次に、条件設定ステップS34において、組織損傷評価ステップS37を行う。組織損傷評価ステップS37は、組織損傷評価部44cが行う。組織損傷評価ステップS37では、下記式を利用して、組織損傷の度合いH
i、jを評価する。
【数5】
例えば、上記式を満たす場合(S37:YES)には、穿刺制御プランニングステップS30を終了する。上記式を満たさない場合(S37:NO)には、再び制御量仮定ステップS35を行う。なお、組織損傷の評価は、上記のようにフィードバックを行うものでもよいし、単に損傷の度合いH
i、jを得るものとしてもよい。
【0098】
以上のステップにより、穿刺針12の制御量が得られる。
【0099】
<穿刺ステップ>
図10に示されるように、ロボット制御ステップS50は、例えば、ロボット制御装置20が有する機能的構成要素に対応するステップを有する。つまり、ロボット制御ステップS50は、穿刺針12の刺し入れを開始するステップS51と、組織破断検知ステップS52と、制御量変更ステップS53と、目標到達判定ステップS54と、穿刺針12の刺入を停止するステップS55と、を有する。そして、それぞれのステップの結果として提供される制御信号により、ロボット10を動作させる。
【0100】
まず、穿刺針12の刺入を開始するステップS51を行う。このステップは、動作制御部21が行う。動作制御部21は、制御信号をロボット10に送信する。ロボット10は、制御信号に応じて穿刺動作を開始する。そして、動作制御部21は、ロボット10が穿刺パスCPに沿って穿刺針12を刺し込むように、制御信号を逐次送信する。この穿刺動作は、穿刺針12の刺入を停止するステップS55が行われるまで継続する。
【0101】
穿刺動作が継続する間、組織破断検知ステップS52が行われる。組織破断検知ステップS52は、組織破断検知部22が行う。組織破断検知部22は、ロボット10の力センサ13から逐次データを受信し、受信したデータに基づいて予め設定された力の急激な増減の有無を判定する。組織破断検知部22は、力の急激な増減があり破断を検知した場合(S52:YES)、制御量変更ステップS53を行った後に、目標到達判定ステップS54を行う。一方、組織破断検知部22は、力の急激な増減がなく破断が検知されない場合(S52:NO)、制御量変更ステップS53をスキップし、目標到達判定ステップS54を行う。
【0102】
組織境界の破断が検知された場合(S52:YES)、制御量変更ステップS53を行う。制御量変更ステップS53は、制御量変更部21aが行う。このステップでは、組織Tiと当該組織Tiに関連付けられた制御量とのデータベースに基づき、制御量を切り替える。まず、制御量変更部21aは、組織境界TSiの破断を検知した後に、穿刺針12がどの組織Tiに進入したかを特定する。続いて、特定された組織Tiに応じた制御量をデータベースから読み出す。そして、読み出した制御量に基づいて制御信号を生成し、当該制御信号をロボット10に送信する。
【0103】
組織破断検知ステップS52または制御量変更ステップS53の後に、目標到達判定ステップS54を行う。目標到達判定ステップS54は、目標到達判定部23が行う。このステップでは、穿刺針12の先端が目標Gに到達したか否かを判定する。この判定は、例えば、ロボット10の角度センサ14の情報により得られる穿刺長さ、穿刺中にリアルタイムに取得される断層画像などを用いて判定してよい。目標Gに到達したと判定された場合(S54:YES)、穿刺針12を停止するステップS55を行う。目標に到達したと判定されない場合(S54:NO)、再び、組織破断検知ステップS52から順に各ステップを行う。
【0104】
つまり、組織破断検知ステップS52、制御量変更ステップS53、及び、目標到達判定ステップS54は、目標到達判定ステップS54の結果がYESとなるまで、繰り返し行われる。
【0105】
以下、実施形態に係る穿刺プランニング装置3及び穿刺システム1の作用効果について説明する。
【0106】
穿刺プランニング装置3の穿刺パスプランニング部30では、穿刺パス候補設定部35が複数の穿刺パス候補Cjを設定する。交差位置取得部36は、それぞれの穿刺パス候補Cjと組織境界TSiとが交差する位置Pi、jを得る。ずれ角度取得部37は、当該位置Pi、jにおける穿刺パス候補Cjと法線Ni、jとのずれ角度θi、jを得る。総合ずれ角度取得部38は、穿刺パス候補Cj毎に複数のずれ角度θi、jを足し合わせて、総合ずれ角度fjを得る。ここで、発明者らの知見によれば、穿刺パスCPに沿って穿刺針12を組織Tiに刺し込むとき、組織境界TSiに対する穿刺パスCPの角度が垂直に近くなるほど穿刺パスCPに対する穿刺針12のずれが小さくなる。つまり、複数の組織Tiを介して目標Gに至る場合には、穿刺パス候補Cjと組織境界TSiにおける法線Ni、jとのずれの積算値(総合ずれ角度fj)が小さいほど、目標Gに対するずれが小さくなる。そして、穿刺パスプランニング部30は、穿刺パス選択部39が総合ずれ角度取得部38において得られた複数の総合ずれ角度fjのうち、最も小さい総合ずれ角度fjを抽出し、当該総合ずれ角度fjに対応する穿刺パス候補Cjを穿刺パスCPとして選択する。従って、穿刺パスプランニング部30は、複数の組織Tiを介して目標Gに至る直線状の穿刺において、目標Gに対する穿刺針12のずれを低減可能な穿刺パスCPを提供することができる。
【0107】
穿刺プランニング装置3の穿刺制御プランニング部40は、組織Ti毎に動作条件としての穿刺針12の制御量を条件設定部44が設定する。従って、組織Tiの特性に応じて穿刺針12を動作させることが可能になるので、穿刺パスCPに対する穿刺針12のずれを低減することができる。従って、穿刺制御プランニング部40は、複数の組織Tiを介して目標Gに至る直線状の穿刺において、目標Gに対する穿刺針12のずれを低減可能な穿刺針12の制御量を提供することができる。
【0108】
穿刺システム1は、上記の穿刺パスプランニング部30が提供する穿刺パスCPに基づいて、穿刺針12を有するロボット10が穿刺針12を動作させる。従って、穿刺において目標Gに対する穿刺針12のずれが低減され、ひいては穿刺針12を確実に目標Gに到達させることができる。
【0109】
条件設定部44は、穿刺針12の振動及び回転が組織Tiへ与える影響を評価し、評価の結果を利用して穿刺周波数及び穿刺回転速度を設定する。この構成によれば、組織Tiの損傷の抑制と目標Gに対する穿刺針12のずれの低減とを両立可能な制御量を提供することができる。
【0110】
穿刺支援ロボット2は、穿刺針12の先端位置に関する情報を得るために、穿刺針12による組織境界TSiの破断を検知する組織破断検知部22と、組織破断検知部22が組織境界TSiの破断を検知したときに、組織Ti毎に設定された制御量を変更する制御量変更部21aと、を有する。この構成によれば、穿刺針12の先端が、ある組織Tiから当該組織Tiに隣接する別の組織Ti+1に移動したことを確実に検知することが可能である。従って、組織Ti毎に設定された制御量を好適に変更することができる。その結果、穿刺において目標Gに対する穿刺針12のずれがより低減され、ひいては穿刺針12をいっそう確実に目標Gに到達させることができる。
【0111】
組織破断検知部22は、穿刺針12を刺し込む動作に起因して穿刺針12に作用する反力を利用して、組織境界TSiの破断を検知する。この構成によれば、組織境界TSiの破断を確実に検知することができる。
【0112】
本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。
【0113】
<変形例1>
上記実施形態では、穿刺パスプランニング部30の総合ずれ角度取得部38は、下記式(1)に示される目的関数を用いるとした。
【数6】
穿刺針12のたわみは、穿刺距離、組織T
iの剛性E
i、組織T
iの不均一性などの影響を受ける。そこで、これらの影響を重み因子w
iによって考慮してもよい。例えば、穿刺パスCP上において組織境界TS
iの所定の位置P
iから目標Gまでの距離を重み因子w
iによって考慮してもよい。具体的には、
図11の(a)部に示されるように、位置P
iから目標Gまでの距離L
dが長い場合、穿刺針12の先端のずれE1(たわみ)は、大きくなる傾向にある。一方、
図11の(b)部に示されるように、位置P
iから目標Gまでの距離L
dが短い場合、穿刺針12の先端のずれE2は、小さくなる傾向にある。そこで、重み因子w
iを下記式によって示してもよい。この構成によれば、より確実に目標Gに到達し得る穿刺パスCPを設定することができる。
【数7】
L
iは位置P
iからi番目の組織境界TS
iにおける位置P
i+1までの距離である。L
tarは位置P
iから目標Gまでの距離である。この構成によれば、目標Gに対する穿刺針12のずれをさらに低減可能な穿刺パスCPを提供することができる。
【0114】
<変形例2>
上記実施形態では、ロボット制御装置20の組織破断検知部22は、反力のピークを検出することにより、組織境界TSiの破断を検知した。例えば、組織破断検知部22は、組織境界TSiの位置が存在し得る範囲を推定し、当該範囲において組織境界TSiの破断を検知することとしてもよい。この構成によれば、確実に組織境界TSiの破断を検知することができる。
【0115】
具体的には、
図12の(a)部に示されるように、まず、予め取得した画像データを利用して、位置P
iから組織境界TS
i+1までの距離d
1と、位置P
iから組織境界TS
i+2までの距離d
2と、を得る。次に、穿刺反力の傾きを逐次得る(
図7参照)。このとき、穿刺反力を示すデータには、ノイズ除去のためのローパスフィルタ処理を行ってもよい。次に、穿刺反力を示すデータから、反力ピークを得る。このピークを示す位置は、組織境界TS
i+1を破った位置P
i+1である。ここで、
図12の(b)部に示されるように、組織T
i+1は、穿刺針12によって変形する。そうすると、距離d
1と距離D
1とには変形量Δd
1が生じる。そこで、この変形量Δd
1(Δd
1=D
1-d
1)を算出する。変形量Δd
1を生じさせた組織T
i+1の変形は、画像データにおける組織境界TS
i+2の位置P
i+2と予想される位置PA
i+2の差分である変形量Δd
2を生じさせる。そこで、変形量Δd
1を用いて変形量Δd
2を推定する(Δd
2=f(Δd
1))。そして、推定されたΔd
2を用いて組織境界TS
i+2までの距離D
2を推定する(D
2=d
2+Δd
2)。そして、穿刺中に検出された次の反力ピークが発生する位置P
i+2が予測した範囲内(d
2±σ)であるとき、組織境界TS
i+2が破断したと判定する(D
2-σ≦P
i+2≦D
2+σ)。
【0116】
<変形例3>
上記実施形態では、穿刺プランニング装置3は、穿刺パスプランニング部30と、穿刺制御プランニング部40と、を有していた。例えば、
図13の(a)部に示されるように、穿刺システム1Aの穿刺プランニング装置3Aは、穿刺制御プランニング部40を備えず、穿刺パスプランニング部30のみを有する構成としてよい。また、
図13の(b)部に示されるように、穿刺システム1Bの穿刺プランニング装置3Bは、穿刺パスプランニング部30を備えず、穿刺制御プランニング部40のみを有する構成としてよい。この場合には、穿刺パスに関する情報は、穿刺プランニング装置3の外部において生成され、データ入出力部50から受け入れられる。
【0117】
<変形例4>
上記実施形態では、穿刺プランニング装置3の穿刺制御プランニング部40は、許容値設定部41を有し、当該許容値設定部41で設定した範囲を満たす制御量を探索した。例えば、穿刺制御プランニング部40は、許容値を用いない手法により制御量を設定してもよい。すなわち、穿刺制御プランニング部40は、許容値設定部41を備えていなくともよい。この場合には、例えば、過去の実績等から得られる評価値を利用して、制御量の適否を判断することとしてもよい。
【符号の説明】
【0118】
1…穿刺システム、2…穿刺支援ロボット、3…穿刺プランニング装置、10…ロボット、11…駆動ユニット、12…穿刺針、13…力センサ、14…角度センサ、20…ロボット制御装置、21…動作制御部、21a…制御量変更部、22…組織破断検知部、23…目標到達判定部、30…穿刺パスプランニング部(穿刺経路設定装置)、31…危険領域設定部、32…目標設定部、33…許可領域設定部、34…体内画像生成部、35…穿刺パス候補設定部(経路候補設定部)、36…交差位置取得部、37…ずれ角度取得部、38…総合ずれ角度取得部、39…穿刺パス選択部(穿刺経路選択部)、40…穿刺制御プランニング部(穿刺制御量設定装置)、41…許容値設定部、42…制御量設定部、43…前処理部、44…条件設定部、44a…制御量仮定部、44b…たわみ確率評価部、44c…組織損傷評価部、50…データ入出力部、60…体内仮想モデル、100…コンピュータ、101…CPU、102…主記憶部、103…補助記憶部、104…通信制御部、105…入力装置、106…出力装置、RK…危険領域、RP…許可領域、Ti…組織、TSi…組織境界、Ni…法線、CP…穿刺パス(穿刺経路)、θi…ずれ角度、G…目標、fj…総合ずれ角度、Cj…穿刺パス候補(経路候補)、vi…穿刺速度、ui…穿刺回転速度。