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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20220719BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20220719BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08L33/04
C09D133/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018066687
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178193
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】592019589
【氏名又は名称】ダイセル・オルネクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】大下 徹
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141666(JP,A)
【文献】特開2014-076655(JP,A)
【文献】特開2014-151588(JP,A)
【文献】特開平05-169862(JP,A)
【文献】特開平03-292123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-2/60
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)及び(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)を含む硬化性樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂(A)が、ガラス転移温度が60~140℃であり、重量平均分子量が1000~250000であるアクリル系樹脂であり、
前記(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)が、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物を含み、
前記熱可塑性樹脂(A)全量に対するジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物の含有量が50~80重量%であり、
前記熱可塑性樹脂(A)の含有量が、硬化性樹脂組成物の樹脂分に対して、47~95重量%であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物の合計量に対する、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの含有量が1~90重量%である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂がモノマー単位として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを少なくとも含む請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(メタ)アクリル酸メチルである請求項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)として、さらに、(メタ)アクリロイル基を5以上有するウレタン(メタ)アクリレートを含む請求項1~4の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
コート剤として用いられる請求項1~の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項に記載の硬化物であるコート層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂は、軽量で耐衝撃性、透明性に優れ成形が容易であるとの観点からコート剤として広く用いられている。しかし、これらの熱可塑性樹脂は、外部摩擦等により容易に傷つき、その透明度が低下したり、外観が損なわれたりする等の問題があった。そのため、熱可塑性樹脂に対して表面コーティングを施し、その耐磨耗性、耐擦傷性及び表面硬度を向上させる試みがなされてきた。たとえば、特許文献1には、熱可塑性樹脂に特定の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を配合することにより、その硬化物の耐磨耗性、耐擦傷性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-43150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載される組成物を基材に塗布・乾燥して得られる塗膜(未硬化物)はその表面にべたつき、すなわちタック性が生じることが明らかとなった。
【0005】
塗膜乾燥後のタック性が低い組成物は、例えば、塗膜乾燥後、手や物が接触しても塗膜の破壊が起こりにくいこと、塗膜同士を重ねた場合であってもこれらが貼り付かないこと、一定時間をおいて硬化する場合においても表面にホコリが付かないことから、合紙が不要である等の利点があり、作業性に富むといった利点がある。また、例えば前記組成物を印刷層として用いる場合であっても、塗膜を重ねて形成することができ、最後に活性エネルギー線や加熱により一括して硬化することができるといった利点がある。このため、塗膜乾燥後のタック性が低い(タックフリー性に優れる)ことは重要な特性であると言える。
【0006】
したがって、本発明の目的は、得られる硬化物が良好な耐磨耗性、耐擦傷性、及び高い表面硬度を有するだけでなく、塗膜乾燥後のタック性が低い(タックフリー性に優れる)硬化性樹脂組成物を提供することにある。また、前記硬化性樹脂組成物から得られる、耐磨耗性、耐擦傷性、及び高い表面硬度を有する硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定量の熱可塑性樹脂と、(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂とを少なくとも含む硬化性樹脂組成物が、塗膜乾燥後のタック性が低く、硬化した際に有用な硬化物を与えることを見出して本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂(A)及び(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)を含む硬化性樹脂組成物であって、
熱可塑性樹脂(A)の含有量が、硬化性樹脂組成物の樹脂分に対して42重量%以上であることを特徴とする硬化性樹脂組成物を提供する。
【0009】
なお、前記熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度は、60~140℃であることが好ましい。
【0010】
なお、前記熱可塑性樹脂(A)は、アクリル系樹脂及び/又はポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0011】
また、前記アクリル系樹脂は、モノマー単位として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを少なくとも含むことが好ましい。
【0012】
また、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メチルであることが好ましい。
【0013】
また、前記(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)は、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0014】
なお、本発明の硬化性樹脂組成物は、コート剤として用いられることが好ましい。
【0015】
また、本発明では、前記硬化性樹脂組成物の硬化物についても説明する。
【0016】
また、本発明では前記硬化物であるコート層についても説明する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の硬化性樹脂組成物は、得られる硬化物が良好な耐磨耗性、耐擦傷性、及び高い表面硬度を有するだけでなく、塗膜乾燥後のタック性が低い。また、前記硬化性樹脂組成物の硬化物は、耐磨耗性、耐擦傷性、及び高い表面硬度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の硬化性樹脂組成物は熱可塑性樹脂(A)及び(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)を含み、熱可塑性樹脂(A)の含有量が、硬化性樹脂組成物の樹脂分に対して42重量%以上であることを特徴とする。また、本発明の硬化性樹脂組成物は、前記樹脂以外にも、光重合開始剤(C)や揮発性溶媒(D)を含んでいても良い。なお、樹脂分としては、例えば、熱可塑性樹脂(A)、(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)、後述のその他の樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
[熱可塑性樹脂(A)]
熱可塑性樹脂(A)としては加熱により軟化する樹脂高分子であれば特に限定されない。熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度は特に限定されないが、その下限値は、例えば、-120℃が好ましく、より好ましくは60℃、さらに好ましくは100℃であり、上限値は、例えば、200℃が好ましく、より好ましくは140℃、さらに好ましくは110℃である。下限値が上記範囲であることにより塗膜乾燥後のタックフリー性が優れる傾向がある。また、上限値が上記範囲であることにより硬化性樹脂組成物の取り扱いが優れる傾向がある。なお、ガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC)法により測定したものである。
【0020】
熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量は特に限定されないが、その下限値は、例えば、1000が好ましく、より好ましくは5000、さらに好ましくは10000である。また、上限値は、例えば、250000が好ましく、より好ましくは140000、さらに好ましくは130000である。下限値が上記範囲であることにより、基材との密着性が優れる傾向がある。上限値が上記範囲であることにより硬化物の表面硬度が優れる傾向がある。なお、重量平均分子量は標準物質をポリスチレンとしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定したものである。
【0021】
熱可塑性樹脂(A)としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂が挙げられ、中でもアクリル系樹脂、ポリエステル樹脂がタックフリー性を有する組成物の観点から好ましい。ただし、熱可塑性樹脂(A)は、後述の(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)は含まれない。熱可塑性樹脂(A)は、光又は熱硬化性基(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、グリシジル基、オキセタン基)を有していても良いが、有しないことが好ましい。本発明の硬化性樹脂組成物をコート剤として使用する場合、基材との密着性を考慮して、熱可塑性樹脂(A)を適宜選択して使用することが可能である。また、これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
アクリル系樹脂とは、モノマー単位として(メタ)アクリル酸エステルを主として含む樹脂を意味する。アクリル系樹脂としては、例えば、[1]モノマー単位として1種の(メタ)アクリル酸エステルのみを含む樹脂(つまり、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体)、[2]モノマー単位として2種以上の(メタ)アクリル酸エステルを含む樹脂(つまり、2種以上の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体)、[3]モノマー単位として、(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーとを含む樹脂((メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーとの共重合体)が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルをいい、「(メタ)・・・」は全て同様の意味である。
【0023】
本発明において、熱可塑性樹脂(A)は、基材との密着性の向上の観点から、アクリル系樹脂を含むことが好ましい。アクリル系樹脂における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、アクリル系樹脂のモノマー単位全量に対して30重量%以上(例えば、30重量%以上99.9重量%以下)が好ましく、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、最も好ましくは95重量%以上である。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては特に限定されないが、例えば、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。炭素数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等の(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステル[好ましくは(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステル、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル]が挙げられる。この中でも、(メタ)アクリル酸メチルが最も好ましい。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
上述の通り、アクリル系樹脂は、表面硬度等の改質を目的として、必要に応じて、前記(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマー(以下、単に「他のモノマー成分」と称する)を含んでいてもよい。
【0027】
他のモノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシラウリル、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等の水酸基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有モノマー;エチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等のオレフィン系モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;ビニルトルエン、スチレン等の芳香族ビニルモノマーが挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0028】
熱可塑性樹脂(A)としては市販品を使用することができ、例えば、製品名「パラロイドA-21」(アクリル系樹脂(メタクリル酸メチルの単独重合体)、ダウケミカル社製)が挙げられる。
【0029】
硬化性樹脂組成物の樹脂分全量に対する熱可塑性樹脂(A)の含有量は、42重量%以上であれば特に限定されないが、44~95重量%がより好ましく、特に好ましくは47~90重量%、最も好ましくは48~80重量%である。熱可塑性樹脂(A)が上記範囲にあることにより、基材との密着性が向上し、塗膜乾燥後のタック性が改善される傾向がある。
【0030】
硬化性樹脂組成物の不揮発分全量に対する熱可塑性樹脂(A)の含有量は特に限定されないが、42重量以上であれば特に限定されないが、44~95重量%がより好ましく、特に好ましくは47~90重量%、最も好ましくは48~80重量%である。熱可塑性樹脂(A)が上記範囲にあることにより、基材との密着性が向上し、塗膜乾燥後のタック性が改善される傾向がある。
【0031】
[(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)]
(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)としては特に限定されないが、例えば、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、及びトリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を5以上有する低分子(例えば、分子量が200~800)化合物、(メタ)アクリロイル基を5以上有するシリコーン(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を5以上有するウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
(メタ)アクリロイル基を5以上有するシリコーン(メタ)アクリレートとしては、例えば、5以上の(メタ)アクリロイル基とオルガノシロキサン単位[-Si(-R)2-O-](Rは有機基を示す)とを有する化合物が挙げられる。前記シリコーン(メタ)アクリレートは、平均(メタ)アクリロイル基数が5以上のシリコーン(メタ)アクリレートであってもよい。前記のRは有機基であれば特に限定されないが、例えば、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基が挙げられる。前記シリコーン(メタ)アクリレート1分子中のSi原子(又はオルガノシロキサン単位)は、例えば、1~30であり、好ましくは1~20、さらに好ましくは1~15である。前記シリコーン(メタ)アクリレートにおける(メタ)アクリロイル基の数(又は平均(メタ)アクリロイル基数)は5以上であれば特に限定されないが、例えば、5~20、好ましくは5~15、さらに好ましくは5~10である。
【0033】
ここで、「平均(メタ)アクリロイル基数」とは、シリコーン(メタ)アクリレート1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数の平均値と定義することができる。例えば、ジアルキルジアルコキシシラン又はその重合体と、(メタ)アクリロイル基を2つ有するアルコキシシラン及び(メタ)アクリロイル基を3つ有するアルコキシシランの混合物(モル比は1:1)とを反応して得られるシリコーン(メタ)アクリレートの平均(メタ)アクリロイル基数は5となる。
【0034】
なお、シリコーン(メタ)アクリレートは、平均官能基数が同じもの又は異なるものの2種以上の混合物であってもよい。前記混合物の平均官能基数は加重平均により求めることもできる。例えば、平均官能基数が4のシリコーン(メタ)アクリレート0.6モルと、平均官能基数が6のシリコーン(メタ)アクリレート0.4モルとの混合物の場合、シリコーン(メタ)アクリレートの平均官能基数は、次式に従って計算することができ、4.8となる。
(4×0.6+6×0.4)/(0.6+0.4)=4.8
【0035】
(メタ)アクリロイル基を5以上有するウレタン(メタ)アクリレートとは、具体的には、平均(メタ)アクリロイル基数が5以上のウレタン(メタ)アクリレートを指す。前記ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリオール(X)、ポリイソシアネート(Y)、及びヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)を反応させることにより得られるもの(つまり、これらの反応物)であっても良い。
【0036】
ここで、「平均(メタ)アクリロイル基数」とは、ウレタン(メタ)アクリレート1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数の平均値である。例えば、ポリオール(X)としてのジオール(X1)1モルと、ポリイソシアネート(Y)としてのジイソシアネート(Y1)2モルと、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)としての1つのヒドロキシ基と1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物(Z1)1モル及び1つのヒドロキシ基と3つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物(Z2)1モルとを反応させた場合に得られるウレタン(メタ)アクリレートの平均(メタ)アクリロイル基数は4となる(得られるウレタン(メタ)アクリレートの構造を以下に模式的に示した)。
(Z1)-(Y1)-(X1)-(Y1)-(Z2)
例えば、1,3-ブタンジオール1モルと、1,6-ヘキサンジイソシアネート2モルと、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート1モル及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート1モルの混合物とを反応させた場合が上記に該当する。なお、前記モノマーのモル比は、1:2:1:1である。
【0037】
なお、ウレタン(メタ)アクリレートは、平均官能基数が同じもの又は異なるものの2種以上の混合物であってもよい。前記混合物の平均官能基数は加重平均により求めることもできる。例えば、平均官能基数が2のウレタン(メタ)アクリレート0.4モルと、平均官能基数が4のウレタン(メタ)アクリレート0.6モルとの混合物である場合、ウレタン(メタ)アクリレートの平均官能基数は、次式に従って計算することができ、3.2となる。
(2×0.4+4×0.6)/(0.4+0.6)=3.2
【0038】
ポリオール(X)は、分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物である。ただし、ポリオール(X)には、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)に相当する化合物は含まれないものとする。なお、ポリオール(X)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0039】
ポリオール(X)としては、分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物として公知乃至慣用のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシC2-4アルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等)、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ビスフェノールA及びそのアルキレンオキサイド付加体、ビスフェノールF及びそのアルキレンオキサイド付加体、水素化ビスフェノールA及びそのアルキレンオキサイド付加体、水素化ビスフェノールF及びそのアルキレンオキサイド付加体、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、イソソルバイド、キシレングリコール等のジオール;グリセリン、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、D-ソルビトール、キシリトール、D-マンニトール、D-マンニット、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール、天然油ポリオール、シリコンポリオール、フッ素ポリオール、ポリオレフィンポリオール等の分子中に3個以上のヒドロキシ基を有するポリオールが挙げられる。
【0040】
ポリオール(X)としては市販品を使用することができ、例えば、製品名「TCD alcohol DM」(トリシクロデカンジメタノール、オクセア社製)、製品名「イソソルバイド」(イソソルバイド、当栄ケミカル社製)、製品名「PEG-400」(数平均分子量400のポリエチレングリコール、三洋化成工業社製)が挙げられる。
【0041】
ポリイソシアネート(Y)は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。なお、ウレタン(メタ)アクリレートの原料としてポリイソシアネート(Y)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0042】
ポリイソシアネート(Y)としては、例えば、芳香族系イソシアネート、脂肪族系イソシアネート、環式脂肪族系イソシアネート、脂環式イソシアネート、これらの混合物、上記イソシアネートの付加物、上記イソシアネートの変性物、上記イソシアネートの重合物等の公知のイソシアネート類が挙げられる。より具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ポリフェニルメタンイソシアネート化合物(クルードMDI)、変性ジフェニルメタンジイソシアネート(変性MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添化キシリレンジイソシアネート(H-XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NDI)が挙げられる。
【0043】
ポリイソシアネート(Y)としては市販品を使用することができ、例えば、製品名「スミジュールN3300」(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート由来のヌレート化合物、住友バイエルウレタン社製)、製品名「VESTANAT IPDI」(イソホロンジイソシアネート、エボニック社製)が挙げられる。
【0044】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)は、分子中に1個以上のヒドロキシ基を有し、かつ分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。なお、ウレタン(メタ)アクリレートの原料としてヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0045】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、これらのラクトン付加物(カプロラクトン付加物等)などのヒドロキシル基を有する単官能の(メタ)アクリレート化合物;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、これらのラクトン付加物(カプロラクトン付加物等)などのヒドロキシル基を有する多官能の(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)としては市販品を使用することができ、例えば、製品名「BHEA」(アクリル酸2-ヒドロキシエチル、日本触媒社製)、製品名「CHDMA」(シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、日本化成社製)、製品名「PETRA」(ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物、オルネクス社製)が挙げられる。
【0047】
(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)としては、硬化物の耐磨耗性、耐擦傷性、及び表面硬度の観点から、(メタ)アクリロイル基を5以上有する低分子(例えば、分子量が200~800)化合物が好ましく、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートがより好ましい、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートを同時に含むことが特に好ましい。
【0048】
(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)として、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートを同時に含む場合、これらの比率は特に限定されないが、例えば、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートの合計量に対する、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートの含有量が、1~90重量%であることが好ましく、より好ましくは5~80重量%、さらに好ましくは8~60重量%、特に好ましくは10~50重量%である。ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲にあることにより、得られる硬化物の耐磨耗性、耐擦傷性、表面硬度が向上し、塗膜乾燥後のタック性が改善される傾向がある。
【0049】
(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)としては市販品を使用することができ、例えば、製品名「KAYATAD DPHA」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、日本化薬社製)、製品名「アロニックスM-403」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が50~60重量%)、製品名「アロニックスM-400」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が40~50重量%)、製品名「アロニックスM-402」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が30~40重量%)、製品名「アロニックスM-404」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が30~40重量%)、製品名「アロニックスM-406」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が25~35重量%)、製品名「アロニックスM-405」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が10~20重量%)等の製品名「アロニックスM」シリーズ(東亞合成社製)、製品名「DPHA」(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、オルネクス社製)、製品名「EBECRYL1360」(シリコンヘキサアクリレート、オルネクス社製)、製品名「KRM8452」(官能基((メタ)アクリロイル基)数が10の脂肪族ウレタンアクリレート、ダイセル・オルネクス社製)等が挙げられる。
【0050】
硬化性樹脂組成物の樹脂分全量に対する(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)の含有量は特に限定されないが、例えば、58重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5~56重量%、特に好ましくは10~53重量%、最も好ましくは20~52重量%である。(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)が上記範囲にあることにより、得られる硬化物の耐磨耗性、耐擦傷性、表面硬度が向上し、塗膜乾燥後のタック性が改善される傾向がある。
【0051】
硬化性樹脂組成物の不揮発分全量に対する(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)の含有量は特に限定されないが、例えば、58重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5~56重量%、特に好ましくは10~53重量%、最も好ましくは20~52重量%である。(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)が上記範囲にあることにより、得られる硬化物の耐磨耗性、耐擦傷性、表面硬度が向上し、塗膜乾燥後のタック性が改善される傾向がある。
【0052】
硬化性樹脂組成物における、熱可塑性樹脂(A)全量に対する(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)の含有量は、例えば、45~90重量%であることが好ましく、より好ましくは50~80重量%、さらに好ましくは55~75重量%である。(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)が上記範囲にあることにより、得られる硬化物の耐磨耗性、耐擦傷性、表面硬度が向上し、塗膜乾燥後のタック性が改善される傾向がある。
【0053】
[光重合開始剤(C)]
光重合開始剤(C)としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、チオキサンソン、2-クロルチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、2,4-ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4-ジクロロチオキサンソン、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフインオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、カンファーキノンなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0054】
光重合開始剤(C)としては市販品を使用することができ、例えば、製品名「IRGACURE184」(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF社製)が挙げられる。
【0055】
硬化性樹脂組成物の樹脂分全量に対する光重合開始剤(C)の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01~10重量%が好ましく、より好ましくは0.1~8重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%である。
【0056】
[揮発性溶媒(D)]
揮発性溶媒(D)としては、硬化性樹脂組成物を基材に塗布して乾燥した際に揮発する溶媒であれば特に限定されないが、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、エステル類(酢酸エチル等)、アルコール類(エタノール、シクロヘキサノ-ル等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、セロソルブアセテート類、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)が挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0057】
本発明の硬化性樹脂組成物が溶媒を含む場合、溶媒は、硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂分の濃度が、例えば、10~80重量%程度、好ましくは20~70重量%、特に好ましくは30~60重量%となる範囲で使用することが好ましい。上記範囲で使用することにより、硬化性樹脂組成物の粘度が適度な値を示すことから、所望する膜厚のコート層を形成することが可能となる傾向がある。
【0058】
[その他の樹脂]
本発明の硬化性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)及び(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)以外の樹脂(「その他の樹脂」と称することがある。)を含んでいても良い。その他の樹脂としては、(メタ)アクリロイル基を4以下有する樹脂等が挙げられるが、硬化性樹脂組成物の樹脂分全量に対するその他の樹脂の含有量は、例えば、30重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0重量%(実質的に含まれないこと)である。
【0059】
(メタ)アクリロイル基を4以下有する樹脂としては、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物、(メタ)アクリロイル基を2~4個有する化合物等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-オキシラニルエチル(メタ)アクリレート、2-グリシジルオキシエチル(メタ)アクリレート、3-グリシジルオキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジルオキシフェニル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等の分子内にエポキシ基を有するアクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリロイル基を2~4個有する化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0060】
[添加剤]
本発明の硬化性樹脂組成物は、上述の成分以外にも、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、耐衝撃性改良剤、補強剤、分散剤、帯電防止剤、発泡剤、抗菌剤、着色剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。これらの添加剤の含有量(配合量)は特に限定されず、硬化性樹脂組成物において通常用いられる量から適宜設定できる。
【0061】
<硬化物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)の重合反応を進行させることにより硬化させることができ、これにより硬化物を形成することができる。硬化の方法は、周知の方法より適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、活性エネルギー線の照射が挙げられる。活性エネルギー線としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等のいずれを使用することもできる。中でも、取り扱い性に優れる点で、紫外線が好ましい。
【0062】
本発明の硬化性樹脂組成物を活性エネルギー線の照射により硬化させる際の条件(活性エネルギー線の照射条件等)は、照射する活性エネルギー線の種類やエネルギー、硬化物の形状やサイズ等に応じて適宜調整することができ、特に限定されないが、紫外線を照射する場合には、例えば1~1000mJ/cm2程度とすることが好ましい。なお、活性エネルギー線の照射には、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアーク、メタルハライドランプ、太陽光、LEDランプ、レーザー等を使用することができる。活性エネルギー線の照射後には、さらに加熱処理(アニール、エージング)を施してさらに硬化反応を進行させることができる。
【0063】
本発明の硬化性樹脂組成物は、基材上に塗布・乾燥して塗膜を作製し、さらに前記塗膜を硬化することによりコート層として得ることができる。つまり、本発明の硬化性樹脂組成物はコート剤(コート剤組成物)として使用することができる。
【0064】
基材としては特に限定されないが、例えば、プラスチック基材、金属基材、セラミックス基材、半導体基材、ガラス基材、紙基材、木基材(木製基材)、表面が塗装表面である基材等の公知乃至慣用の基材を用いることができ、特に限定されない。
【0065】
塗布の方法は、特に限定されず、エアレススプレー、エアスプレー、ロールコート、バーコート、グラビアコート、ダイコート等の公知乃至慣用の手段を利用して実施できる。
【0066】
塗膜の乾燥温度とは、例えば、30~150℃が好ましく、より好ましくは50~120℃、より好ましくは60~100℃である。乾燥時間は、例えば、0.1~10分が好ましく、より好ましくは0.3~5分、より好ましくは0.5~2分である。
【実施例
【0067】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例1、3~9は参考例として記載するものである。
【0068】
(実施例1)
400重量部のパラロイドA-21と、100重量部のアロニックスM-402と、750重量部のメチルエチルケトンを混合し、60℃でパラロイドA-21が溶解するまで攪拌を続けた。得られた溶液に6重量部のIRGACURE184を添加して硬化性樹脂組成物を調製した。
【0069】
(実施例2~5、比較例1)
表に記載した配合量としたこと以外は実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を調製した。
【0070】
(実施例6~10)
表に記載した成分を特定量配合したこと以外は実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を調製した。
【0071】
[評価方法]
実施例及び比較例で得られた硬化性樹脂組成物を用いて評価試験用基材を作成し、下記で示す測定方法に基づいて、鉛筆硬度、塗膜乾燥後のタックフリー性の評価を行い、表1に記載した。
【0072】
(鉛筆硬度)
実施例及び比較例で得られた硬化性樹脂組成物を、硬化後の塗膜の厚さが10μmになるように、PET製の基材に塗布、乾燥(温度:80℃、時間:10分間)した後、紫外線照射(高圧水銀灯、2kW、ラインスピード:6m/分、照射回数:1回、積算光量:224mJ/cm2)を行い、表面に硬化塗膜を有する試験評価用基材を作成した。上記操作で得られた表面に硬化塗膜を有するPET製の基材を用い、荷重を500gとしたこと以外はJIS K-5600に準じて鉛筆硬度を測定し、以下の様に判断した。
HB以上:○
HB未満:×
【0073】
(タックフリー性(1)-指触)
実施例及び比較例で得られた硬化性樹脂組成物を、乾燥後の塗膜の厚さが10μmになるように、PET製の基材に塗布し、内温を80℃に加温したオーブン内に1分間静置し、試験片を作成した。試験片の塗膜表面のタックを指触により評価し、以下の様に判断した。
タックなし:○
タックあり:×
【0074】
(タックフリー性(2)-塗布面同士の貼り合せ)
実施例及び比較例で得られた硬化性樹脂組成物を、乾燥後の塗膜の厚さが10μmになるように、PET製の基材に塗布し、内温を80℃に加温したオーブン内に1分間静置し、試験片を作成した。試験片の塗布面同士を張り合わせた後に剥がし、一方の塗膜が他方に移ることにより生じる塗膜欠損の有無を目視によって観察し、以下の様に判断した。
塗膜欠損なし:○
塗膜欠損あり:×
【0075】
【表1】
【0076】
以下に、実施例及び比較例で用いられた成分の詳細について説明する。
[熱可塑性樹脂(A)]
A-21:製品名「パラロイドA-21」、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチルの単独重合体)、重量平均分子量120000、ガラス転移温度105℃
[(メタ)アクリロイル基を5以上有する樹脂(B)]
M-402:製品名「アロニックスM-402」、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が30~40重量%)
M-400:製品名「アロニックスM-400」、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が40~50重量%)
M-405:製品名「アロニックスM-405」、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの比率(含有量)が10~20重量%)
KRM8452:製品名「KRM8452」、官能基(平均(メタ)アクリロイル基)数が10の脂肪族ウレタンアクリレート
EB1360:製品名「EBECRYL1360」、シリコンヘキサアクリレート(平均(メタ)アクリロイル基数が6)
[開始剤(C)]
IRG184:製品名「IRGACURE184」、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
[溶剤(D)]
MEK:メチルエチルケトン、特級、和光純薬工業社製