(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】キャップ付きボトル型缶
(51)【国際特許分類】
B65D 41/04 20060101AFI20220719BHJP
B65D 1/02 20060101ALI20220719BHJP
B65D 41/34 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
B65D41/04 100
B65D1/02 212
B65D41/34
(21)【出願番号】P 2018071747
(22)【出願日】2018-04-03
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】榎木 泰史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-514756(JP,A)
【文献】特開2002-096895(JP,A)
【文献】特開2016-196331(JP,A)
【文献】特開2015-160653(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0044155(US,A1)
【文献】特開2010-95269(JP,A)
【文献】特開2008-143588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 41/04
B65D 1/02
B65D 41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部が開口している口首部の外周壁部に、前記上端部を閉じるキャップを螺合させる雄ネジ部と、前記雄ネジ部より下側の凸ビード部とが形成され、
前記キャップは、前記凸ビード部を包み込むように成形されて前記凸ビード部に対して抜け止めした状態で係合するバンド部と、前記バンド部を切り離すための前記キャップの円周方向に沿う複数のスリット部および前記スリット部同士の間の部分であるブリッジ部とを有する、キャップ付きボトル型缶において、
前記凸ビード部は、最大外径部と、前記口首部の中心軸線に沿う上下方向で前記最大外径部の上側に続きかつ外径が次第に小さくなる上側傾斜面と、前記口首部の中心軸線に沿う上下方向で前記最大外径部の下側に続きかつ外径が次第に小さくなる下側傾斜面とを有するとともに、前記上側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度が前記下側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度より小さくなっており、
前記雄ネジ部は、前記凸ビード部側の端部に溝深さが前記雄ネジ部の平均溝深さより浅くかつ少なくとも一部が前記上側傾斜面に相当する位置に形成されている不完全ネジ部を有し、
前記不完全ネジ部のネジ溝における前記凸ビード部側の下側溝側壁の前記中心軸線に対する角度が前記上側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度より大きくなっていて前記下側溝側壁と前記上側傾斜面との間に前記口首部の半径方向で外側に凸となった凸段差部が設けられ、
前記スリット部および前記ブリッジ部は、前記キャップが前記口首部に取り付けられた状態で前記凸段差部より下側に位置するように構成さ
れ、
前記凸段差部の外径は、前記凸ビード部の最大外径より小さく、かつ前記雄ネジ部の不完全ネジ部のネジ溝底部の外径より大きい
ことを特徴とするキャップ付きボトル型缶。
【請求項2】
請求
項1に記載のキャップ付きボトル型缶において、
前記凸段差部の外径は、前記凸ビード部の最大外径より小さく、かつ前記雄ネジ部の外径より大きいことを特徴とするキャップ付きボトル型缶。
【請求項3】
上端部が開口している口首部の外周壁部に、前記上端部を閉じるキャップを螺合させる雄ネジ部と、前記雄ネジ部より下側の凸ビード部とが形成され、
前記キャップは、前記凸ビード部を包み込むように成形されて前記凸ビード部に対して抜け止めした状態で係合するバンド部と、前記バンド部を切り離すための前記キャップの円周方向に沿う複数のスリット部および前記スリット部同士の間の部分であるブリッジ部とを有する、キャップ付きボトル型缶において、
前記凸ビード部は、最大外径部と、前記口首部の中心軸線に沿う上下方向で前記最大外径部の上側に続きかつ外径が次第に小さくなる上側傾斜面と、前記口首部の中心軸線に沿う上下方向で前記最大外径部の下側に続きかつ外径が次第に小さくなる下側傾斜面とを有するとともに、前記上側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度が前記下側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度より小さくなっており、
前記雄ネジ部は、前記凸ビード部側の端部に溝深さが前記雄ネジ部の平均溝深さより浅くかつ少なくとも一部が前記上側傾斜面に相当する位置に形成されている不完全ネジ部を有し、
前記不完全ネジ部のネジ溝における前記凸ビード部側の下側溝側壁の前記中心軸線に対する角度が前記上側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度より大きくなっていて前記下側溝側壁と前記上側傾斜面との間に前記口首部の半径方向で外側に凸となった凸段差部が設けられ、
前記スリット部および前記ブリッジ部は、前記キャップが前記口首部に取り付けられた状態で前記凸段差部より下側に位置するように構成され、
前記凸段差部の外径は、前記凸ビード部の最大外径より小さく、かつ前記雄ネジ部の外径より大きい
ことを特徴とするキャップ付きボトル型缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャップによって再封止が可能なボトル型缶に関し、特にネジによってキャップを取り付けるように構成され、かつそのキャップがピルファープルーフバンドを備えているボトル型缶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のボトル型缶では、ロールオンキャッピングと称される手法によってキャップがボトル型缶の口首部に取り付けられている。その口首部の上端部は、開口端縁を外側に巻き返したカール部とされ、その下側には螺旋状に凹溝(凸条)を成形することによりネジ部が形成されている。そのネジ部の下側には凸ビード部が形成されている。キャップは、上記の口首部に被せた粗形材に、カール部やネジ部さらには凸ビード部に倣うように成形加工を施して口首部に取り付けられる。その粗形材は、口首部におけるカール部に密着させられるシール材(ライナー)が内面に設けられた天板部と、円筒状のスカート部とから構成されている。スカート部は、口首部におけるネジ部に押し付けられて雌ネジ部が形成される部分と、それより下側で前記凸ビード部を下側から包み込むようにカシメられるピルファープルーフバンド(以下、PPバンドと記す)とに分けることができ、それらのPPバンドを切り離すための易破断部として、円周方向に沿って形成されたスリット部の間の部分であるブリッジ部が設けられている。
【0003】
ブリッジ部は、キャップを口首部から取り外す開栓時には容易に破断し、上記の粗形材を口首部に取り付ける際には破断したり変形したりしないことが必要である。従来、キャッピング時にブリッジ部が破断することを防止するための種々の工夫が成されており、例えば特許文献1には、PPバンドの部分のカシメに先行してネジ成形を行うことにより、PPバンドの部分の絞り成形の際の材料の延び、あるいはブリッジ部の引っ張りを許容もしくは緩和し、これによりブリッジ部の破断を防止する発明が記載されている。
【0004】
また、PPバンドの部分が口首部における凸ビード部を包み込むようにカシメる場合、凸ビード部の寸法や凸ビード部の下側の傾斜面の角度などがブリッジ部に掛かる応力に影響し、破断の原因となる。そこで、特許文献2に記載された発明では、口首部におけるカール部の成形と同時もしくはその後に、スカート部(凸ビード部)の下部傾斜面を再成形することとしている。さらに、特許文献3には、口首部におけるスカート部(凸ビード部)の形状を矯正するための凹部をスカート部の周方向に連続して、もしくは断続的に形成することが記載されている。特許文献3に記載された発明は、PPバンドによって包み込むように半径方向で外側に突出させるスカート部(凸ビード部)の下側の傾斜面の角度が、ネジ部と凸ビード部との距離の長短によって変化し、その距離が長い箇所ではその傾斜角度がダレることに着目し、半径方向で内側に窪んだ凹部をスカート部に形成することにより、傾斜角度のダレを回避もしくは抑制できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4025535号公報
【文献】特許第2744243号公報
【文献】特許第4667854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボトル型缶の口首部(口金部)にキャップを取り付ける方法として上述したロールオンキャッピングの方法が広く一般に行われている。その方法では、粗形材の円筒状の部分(スカート部)にその半径方向での外側からネジ成形ローラを押し当て、そのネジ成形ローラを粗形材の外周側で旋回させることにより口首部に形成されているネジ溝(以下、雄ネジ溝と記す)に沿ってネジ成形ローラを移動させる。粗形材の円筒部分には、口首部における雄ネジ溝に沿った螺旋溝がそのネジ成形ローラによって形成される。したがって、口首部に形成されている雄ネジ溝はネジ成形ローラのガイド溝として機能し、またネジ成形ローラはガイド溝である雄ネジ溝に追従して回転しつつ口首部の中心軸線方向に移動できるようにある程度の自由度をもって保持されている。そのため、雄ネジ溝の形状に不具合があれば、ネジ成形ローラの挙動に異常を来し、これが原因でPPバンドのためのブリッジ部の破断やスリット部の捲れが生じることがある。
【0007】
雄ネジ溝の不具合の一例は、雄ネジ溝のうちの下端側(凸ビード部側)における不完全ネジ部の溝形状の不具合であり、その例を
図10に示してある。凸ビード部50は、最大外径部51と、その上側の傾斜面52と、下側の傾斜面53とによって構成されており、図示の例ではこれらの各傾斜面52,53が共にテーパー状に形成され、かつ上側傾斜面52のテーパー角度が下側傾斜面53のテーパー角度より小さくなっている。これらの部分は、鏑(かぶら)に類似した形状となっているので、カブラ部と称されることがある。
【0008】
ネジ部54のうちの有効ネジ部55のネジ溝は、口首部56の中心軸線を通る平面に沿う断面の形状がネジ溝の中心に対して左右(上下)で対称となる溝になっている。これに対して、有効ネジ部55に繋がっている下端側の不完全ネジ部57は、カブラ部50における上側傾斜面52に到っていて当該上側傾斜面52の一部に形成されている。そして、この不完全ネジ部57のネジ溝の深さは、有効ネジ部55のネジ溝の深さより浅くなっている。そのため、不完全ネジ部57のネジ溝を構成している側壁面のうち下側(カブラ部側)の側壁面は、カブラ部における上側傾斜面52に繋がってその上側傾斜面52の一部になってしまっている。したがって不完全ネジ部57におけるネジ溝の断面形状は、ネジ溝の中心についての左右(上下)での対称性が崩れている。
【0009】
一方、ネジ成形ローラ60は外周部分をネジ溝に差し込んでネジ溝(雌ネジとしてのネジ山)を形成するように構成されているから、その断面形状は、有効ネジ部55の断面形状と同様に厚さ方向での中心について左右(上下)で対称となる形状になっている。したがって、このネジ成形ローラ60によって上記の不完全ネジ部57に即したネジ溝を成形する場合、
図10の上下方向で対称性のないネジ溝に粗形材61における円筒状のスカート部62を押し込んでネジ成形を行うことになる。すなわち、スカート部62に形成する螺旋溝の溝壁面のうち
図10での上側の溝壁面は、有効ネジ部55の溝壁に押し付けられてその溝壁に沿った形状になる。しかしながら、下側の溝壁面側には、当該側壁部分に相当する部分をネジ成形ローラ60との間に挟み付ける部分が口首部56側に存在しないために(スカート部62の内側に空間が空いているために)、PPバンド5c側の部分を引き上げる応力が大きくなって、スリット部63が
図10に示すように捲れ上がってしまうことがある。
【0010】
また、不完全ネジ部57では、ネジ成形ローラ60に対する
図10での上下方向における反力がバランスしなくなる。ネジ成形ローラ60は上述したようにある程度の自由度があるから、反力がバランスしなければ、何らかの一時的な外力もしくは抵抗力などが契機となってネジ成形ローラ60が予期しない挙動を起こし、本来のネジ溝の方向から外れることがある。特に
図10に示すように下側からの反力が小さくなるから、ネジ成形ローラ60が本来の軌道から下側にずれてしまい、その結果、ネジ成形ローラ60がスリット部63に干渉してスリット部63を変形させたり、あるいはスリット部63同士の間の部分であるブリッジ部(図示せず)を破断させてしまうなどの可能性がある。
【0011】
このように、ブリッジ部の破断やスリット部の捲れなどは、カブラ部の形状や寸法精度が原因となって生じるだけでなく、キャッピングの際のネジ成形ローラやこれをガイドする口首部のネジ溝の形状などが原因となることがある。しかしながら、上述した各特許文献には、凸ビード部(カブラ部)の成形順序やその形状・寸法の精度について開示されているものの、ネジ成形ローラや口首部の雄ネジ溝が要因となる技術的課題やその課題の解決のための技術事項は一切開示されていない。また、各特許文献にネジ溝の断面形状や口首部におけるスカート部(凸ビード部)の形状が図示されているが、ネジ部の下端側の不完全ネジ部におけるネジ溝や、その不完全ネジ部の下側の側壁面とネジ部の下側に続く凸ビード部のいわゆる上側傾斜面との関係を明示する記載は、各特許文献にはない。
【0012】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、キャッピングの過程でPPバンドのためのスリット部やブリッジ部が損傷することを回避もしくは抑制することのできるキャップ付きボトル型缶を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成するために、上端部が開口している口首部の外周壁部に、前記上端部を閉じるキャップを螺合させる雄ネジ部と、前記雄ネジ部より下側の凸ビード部とが形成され、前記キャップは、前記凸ビード部を包み込むように成形されて前記凸ビード部に対して抜け止めした状態で係合するバンド部と、前記バンド部を切り離すための前記キャップの円周方向に沿う複数のスリット部および前記スリット部同士の間の部分であるブリッジ部とを有する、キャップ付きボトル型缶において、前記凸ビード部は、最大外径部と、前記口首部の中心軸線に沿う上下方向で前記最大外径部の上側に続きかつ外径が次第に小さくなる上側傾斜面と、前記口首部の中心軸線に沿う上下方向で前記最大外径部の下側に続きかつ外径が次第に小さくなる下側傾斜面とを有するとともに、前記上側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度が前記下側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度より小さくなっており、前記雄ネジ部は、前記凸ビード部側の端部に溝深さが前記雄ネジ部の平均溝深さより浅くかつ少なくとも一部が前記上側傾斜面に相当する位置に形成されている不完全ネジ部を有し、前記不完全ネジ部のネジ溝における前記凸ビード部側の下側溝側壁の前記中心軸線に対する角度が前記上側傾斜面の前記中心軸線に対する傾斜角度より大きくなっていて前記下側溝側壁と前記上側傾斜面との間に前記口首部の半径方向で外側に凸となった凸段差部が設けられ、前記スリット部および前記ブリッジ部は、前記キャップが前記口首部に取り付けられた状態で前記凸段差部より下側に位置するように構成されていることを特徴としている。
【0015】
また、本発明においては、前記凸段差部の外径は、前記凸ビード部の最大外径より小さく、かつ前記雄ネジ部の不完全ネジ部のネジ溝底部の外径より大きくてよい。
【0016】
さらに、本発明においては、前記凸段差部の外径は、前記凸ビード部の最大外径より小さく、かつ前記雄ネジ部の外径より大きくてよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のボトル型缶の口首部には雄ネジ部とその下側に位置する凸ビード部とが形成されている。その雄ネジ部における下側の不完全ネジ部の少なくとも一部は、凸ビード部を構成している上側傾斜面に掛かっており、またその溝深さは雄ネジ部の平均溝深さより浅くなっている。その不完全ネジ部と凸ビード部との間には、凸段差部が形成されている。この凸段差部は、不完全ネジ部における下側溝側壁と凸ビード部における上側傾斜面との境界部分であり、不完全ネジ部における下側溝側壁の傾斜角度(口首部の中心軸線に対する角度)が凸ビード部における上側傾斜面の傾斜角度(口首部の中心軸線に対する角度)より大きくなっていることにより形成されている段差部分である。その下側溝側壁の傾斜角度が大きくなっていることにより不完全ネジ部であっても左右両側(上下両側)に溝側壁を有するしっかりしたネジ溝になっているので、キャップのスカート部はネジ成形ローラとそのねじ溝との間に挟み込まれてネジ成形される。すなわち、ロールオンキャッピングの際に、下側溝側壁に対向する部分が、口首部の半径方向で内側に過度に押し込まれることがない。そのため、スリット部を捲れ上がらせるように作用する応力が小さくなり、その結果、スリット部の捲れやブリッジ部の破断を回避もしくは抑制することができる。また、下側溝側壁の傾斜角度が大きいことにより、不完全ネジ部においてもネジ成形ローラをネジ溝内にガイドする反力がネジ成形ローラを挟んだ両側でほぼ均等に生じる。そのため、ネジ成形ローラがネジ溝から外れてスリット部やブリッジ部に干渉することがなく、この点においてもスリット部の捲れやブリッジ部の破断を回避もしくは抑制することができる。
【0018】
また、本発明では、上記の不完全ネジ部の長さが、口首部のいわゆる中心角度で50度以上になっているので、不完全ネジ部を成形することに伴う材料の移動(もしくは引き込み)が広い範囲に分散する。そのため、ネジ成形時の材料の拘束が弱い凸ビード部側での材料の移動(引き込み)が局部に集中しないので、不完全ネジ部における上述した下側溝側壁を確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態で対象とするボトル型缶の口首部側の部分を示す正面図である。
【
図2】その口首部にキャップを取り付けた状態を示す部分的な正面図である。
【
図3】ボトル型缶の製造工程のうち缶胴を成形する過程を示す模式図である。
【
図4】ボトル型缶の製造工程のうち肩部や小径円筒部を成形する過程を示す模式図である。
【
図5】トリミングからカーリングならびにビード成形の過程を示す模式図である。
【
図6】(a)は小径円筒部、(b)はネジ成形後の口首部、(c)はビード成形後の口首部をそれぞれ示す部分的な正面図である。
【
図7】本発明に係るボトル型缶のカブラ部ならびに不完全ネジ部の形状を示す部分的な拡大図である。
【
図8】従来のボトル型缶のカブラ部ならびに不完全ネジ部の形状を示す部分的な拡大図である。
【
図9】本発明に係るボトル型缶の口首部にキャップを取り付けている状態を模式的に示す部分的な拡大図である。
【
図10】従来のボトル型缶の口首部にキャップを取り付けている状態を模式的に示す部分的な拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るボトル型缶は、アルミニウム板や樹脂被覆アルミニウム板などの金属板を素材とした金属製の缶であって、その一例を
図1および
図2に示してある。ここに示すボトル型缶1は、いわゆる本体部分に相当する缶胴2の上端側に肩部3を介して、内径の小さい円筒状の口首部4を一体に形成して構成されている。なお、底部は、図示しない底蓋を巻き締めることにより閉じられている。また、薄板金属板を絞り・しごき加工して缶胴2を形成する際に生じる閉じた端部を底部としてもよく、その場合は開口端部を徐々に縮径加工して肩部3や口首部4を形成することになる。
【0021】
口首部4の先端部が、いわゆる飲み口あるいは注出口となるように開口しており、その開口部は、口首部4にキャップ5を取り付けることにより密封される。口首部4の開口端は、鋭利なエッヂが露出しないように外側に曲げ返したカール部6となっている。なお、カール部6は、断面が円形もしくは楕円形となる中空状に形成されていてもよく、あるいは二層もしくは三層になるようにハゼ折りして形成された部分であってもよい。キャップ5は前記開口端を再封止できるようにするためにネジによって口首部4に取り付けられる。そのため、口首部4には雄ネジ部7が設けられる。
【0022】
キャップ5は、天板部5aと円筒状のスカート部5bとを有する粗形材を口首部4に被せ、その状態でコーナー部(天板部5aの周辺部分)をカシメるとともに、スカート部5bに図示しないネジ成形ローラを押し当てて、雄ネジ部7に沿った凹溝加工を行って雌ネジ部を形成し、その雌ネジ部によって口首部4にネジ止めされる。また、キャップ5の内面(天板部5aの内面)にはシール材であるライナー(
図1および
図2には図示せず)が設けられている。ライナーは、弾性のある合成樹脂から成り、天板部5aの内面(特にその周辺部分)に塗り付けて天板部5aに取り付けられている。したがって、粗形材のコーナー部をカシメることにより、ライナーがカール部6に押し付けられて密着し、口首部4の開口端を密封する。
【0023】
また、キャップ5は、そのスカート部5bの下端部に、本発明のバンド部に相当するピルファープルーフバンド(PPバンド)5cを有している。キャップ5の下端からPPバンド5cの幅に相当する寸法だけ上側の部分に、全周に亘る凸条5dが形成されており、その凸条5dの幅方向(
図1および
図2の上下方向)での中央部に、複数のスリット部5eが円周方向に沿って形成されている。これらのスリット部5eの間の部分がブリッジ部5fとなっている。なお、ここで説明している例では、8本のスリット部5eおよびブリッジ部5fが形成されている。
【0024】
そのピルファープルーフバンド5cを引っ掛けておくために環状の凸条部(もしくは凸ビード部)8が雄ネジ部7より下側に設けられている。なお、凸ビード部8とその下側の凹溝9とを併せてカブラ部10と称することがある。
【0025】
上記のボトル型缶1の缶胴2の製造工程を説明すると、
図3は中間品を成形する工程を示しており、薄い金属板であるブランク21を用意し、そのブランク21を絞り加工によって浅いカップ22に成形する。ついで、当該カップ22に更に絞り加工やしごき加工を施して、底のある円筒体23を成形する。その円筒体23の底部24の中央部を、
図4に示すように、絞り加工あるいはしごき加工によって引き延ばしつつコーナー部を次第に絞って肩部25を成形し、併せて小径円筒部26を成形する。
【0026】
小径円筒部26はボトル型缶1の口首部4となる部分であって、キャッピングやタンパーエビデンスなどの各種の機能を持たせるための加工が施される。
図5はその加工工程を模式的に示しており、小径円筒部26の先端部を飲み口もしくは注ぎ口とするために、先ず、小径円筒部26の先端部を切除(トリミング)して開口させる。切断して生じた鋭利なエッヂを外部に露出させないようにカーリングを行う。カーリングは、切断端を外側に巻き返して断面が円形をなすカーリング部を形成し、あるいは例えば三層にハゼ折りする加工であり、複数の工程で行われる。
図5に示す例では、四工程でカーリングを行うようになっており、第1工程(1stカーリング)では、切断端の先端部を外側にフランジ状に湾曲させ、第2工程(2ndカーリング)では、そのフランジ状に湾曲させた部分を更に外側に湾曲させて二つ折りした状態に成形する。第3工程(3rdカーリング)では、その二つ折りした部分がフランジとなるように切断端を湾曲させ、第4工程(4thカーリング)では、第3工程で成形したフランジ状の部分の先端が小径円筒部26の半径方向で外側から内側に巻き込むように(いわゆるカールするように)成形する。
【0027】
これら複数の工程で行われるカーリングの過程でネジ成形が行われる。また、そのネジ成形の後(例えばカーリングの最終工程の後)にタンパーエビデンス機能のためのビード成形が行われる。言い換えれば、ネジ成形の後に、カーリング工程を終了させ、またビード成形を行う。
【0028】
上述した製造過程における小径円筒部26および口首部4の形状の変化を
図6に示してある。
図6の(a)はトリミングの直前の状態であり、小径円筒部26には、肩部3側から上側に順に首部円筒部26a、縮径変遷部26b、ネジ部円筒部26c、縮径湾曲部26d、カール部円筒部26eが形成されている。なお、この小径円筒部26は、上述したように中間品の底板に相当する部分を絞り加工やしごき加工によって成形するとすれば、その肉厚が肩部3(25)より厚くなる。また、中間品の開口端部を縮径加工して小径円筒部26を成形する場合には、その肉厚は肩部3(25)と同等もしくは厚くなる。
【0029】
首部円筒部26aは、カブラ部10とされる部分であり、小径円筒部26のうちで外径が最も大きくなっている。その上側に続く縮径変遷部26bは、ネジ部円筒部26cに向けて外径が次第に小さくなる部分である。ネジ部円筒部26cは、雄ネジ部7を形成するための部分であり、首部円筒部26aよりわずかに小径の円筒状に形成され、その長さ(軸線方向での長さ)は、雄ネジ部7の有効ネジを設けるのに十分な長さとなっている。さらに、縮径湾曲部26dは、ネジ部円筒部26cとそのネジ部円筒部26cより小径のカール部円筒部26eとを繋いでいるテーパー状の部分である。そして、カール部円筒部26eは、カール部6における内側の円筒状の部分であり、その径がボトル型缶1の開口径となる。
【0030】
図6の(b)はカーリングの最終工程の後における口首部4を示しており、カール部円筒部26eの先端が切除(トリミング)されて開口し、そのエッヂ部が外側に巻き返されてカール部6となっている。その下側に縮径湾曲部26dを介して繋がっているネジ部円筒部26cにはネジ成形が施されて雄ネジ部7が形成されている。そのネジ成形は、従来知られている装置あるいは方法で行うことができ、例えば外周面に凹凸部が形成されたインナーツールとその凹凸部に噛み合う凹凸部を有するアウターツール(それぞれ図示せず)とによってネジ部円筒部26cを挟み込んで転動させ、それらの凹凸部をネジ部円筒部26cに螺旋溝もしくは螺旋状の凸条として転写し、雄ネジ部7を形成する。
【0031】
その雄ネジ部7の開始端側(上端側)および終了端側(下端側)には、不完全ネジ部7aが形成されている。不完全ネジ部7aはネジ溝の深さhaが雄ネジ部7における有効ネジ部の平均値(平均溝深さ)hより小さい部分である。これらの不完全ネジ部7aを含む雄ネジ部7の加工は、前述した縮径変遷部26bにまで及んでおり、したがって下端側(縮径変遷部26b側)の不完全ネジ部7aの少なくとも一部は、縮径変遷部26bに掛かって縮径変遷部26bに形成されている。この不完全ネジ部7aの長さ(口首部4の円周方向での長さ)は、不完全ねじ部7aの溝深さが一次関数的(直線的)に変化するとし、そのネジ溝深さが前記平均値の半分(h/2)の箇所と口首部4の中心Oとを結んだ線と、ネジ溝深さが前記平均値の四分の一(h/4)の箇所と口首部4の中心Oとを結んだ線との開き角度θ(いわゆる中心角)が少なくとも50度(50度以上)となる長さになっている。
【0032】
図6の(c)にはビード成形後の口首部4の形状を示してある。ビード成形は、上述したカブラ部10を首部円筒部26aに形成する成形加工であり、従来知られている装置もしくは方法でその加工を行うことができる。例えば、カブラ部10の形状に対応した成形面を有するインナーツールとアウターツール(それぞれ図示せず)とによって首部円筒部26aの所定箇所を挟み込んで回転させることにより、それらのツールの成形面の形状を首部円筒部26aに転写してカブラ部10を形成する。
【0033】
本発明に係るボトル型缶1におけるカブラ部10の形状を
図7に示してある。
図7には、カブラ部10のうち前述した不完全ネジ部7aの下側に繋がっている部分の形状の一例を示してあり、前述した首部円筒部26aと縮径変遷部26bとの境界部分が、凸ビード部8の最大外径部8aに相当している。当該境界部分が最大外径部8aとなるようにその下側の部分が口首部4の半径方向で内側に絞り込まれて凹溝9が形成されている。そのビード成形の際には、凹溝9の加工が主として行われ、最大外径部8aは首部円筒部26aの外径に維持され、外側に凸とするとしてもその量はわずかである。したがって最大外径部8aから上側に続く上側傾斜面8bは前述した縮径変遷部26bであったテーパー面の一部が残っている面であり、その傾斜角度(口首部4の中心軸線Lcに対する角度:テーパー角度の半分の角度)θuは2度~10度になっている。これに対して、凹溝9を形成することにより生じた、最大外径部8aの下側に続く下側傾斜面8cは、下側で外径が次第に小さくなるテーパー状の面であり、その傾斜角度(口首部4の中心軸線Lcに対する角度:テーパー角度の半分の角度)θlは、上側傾斜面8bの傾斜角度θuより大きくなっており、例えば45度程度の角度になっている。なお、最大外径部8aの表面は、口首部4の中心軸線Lcを含む面で切断した場合の断面形状が所定の半径の円弧面となる滑らかな面になっている。
【0034】
一方、不完全ネジ部7aのネジ溝の少なくとも一部は、前述した縮径変遷部26bの一部を口首部4の内側に絞り込んで形成されている。したがって縮径変遷部26bのテーパー面の一部が、そのネジ溝の下側溝側壁7a1となっているので、その下側溝側壁7a1の傾斜角度(前記中心軸線Lcに対する角度)θgは、縮径変遷部26bの傾斜角度(前記上側傾斜面8bの傾斜角度θu)より大きくなっている。言い換えれば、ネジ溝の下側溝側壁7a1と上側溝側壁7a2とは、上下方向でほぼ対象に開くように傾斜しており、不完全ネジ部7aのネジ溝は、有効ネジ部の溝深さの平均値hよりも浅い溝深さhaであっても、両側壁をもったしっかりとした溝となっている。そのため、不完全ネジ部7aの長さ方向での中間部における溝幅Pkは雄ネジ部7のピッチPの0.9~1.1倍になっている。ここで溝幅Pkは、当該中間部においてそのネジ溝の底部からの高さが最も高い位置での幅であり、言い換えれば有効ネジ部のネジ山の頂部の外径位置で測った溝幅である。また、その溝幅Pkが有効ネジ部のピッチPから大きい方に、あるいは小さい方にずれることがあるのは、下側溝側壁7a1が縮径変遷部26bに掛かって形成されることが要因と思われる。
【0035】
不完全ネジ部7aの少なくとも一部が縮径変遷部26bに掛かっていてその下側溝側壁7a1が前述した上側傾斜面8bの一部を加工して形成されている面であることにより、下側溝側壁7a1の中心軸線Lcに対する角度θgと上側傾斜面8bの中心軸線Lcに対する傾斜角度θuとが異なっている。そのため、前記中心軸線Lcに沿う方向において、これら下側溝側壁7a1と上側傾斜面8bとの間に凸段差部27が形成されている。この凸段差部27は、最大外径部8aより外径が小さくかつ不完全ネジ部7aのネジ溝底部の外径(あるいは雄ネジ部7の外径)より大きい外径の部分である。例えば口首部4を中心軸線Lcを含む平面で縦断した場合の凸段差部27の断面形状は、不完全ネジ部7aにおけるネジ溝の底部と最大外径部8aの頂部とを結んだ直線Lxより半径方向で外側に凸となっている。
【0036】
比較のために従来のカブラ部およびその近辺の構造の一例を
図8に示してある。従来では、縮径変遷部26bに掛かる不完全ネジ部7aについて特別な加工を行っておらず、あるいは特別な形状もしくは部分を設けていないので、不完全ネジ部7aにおける下側溝側壁7a1が最大外径部8aに直線的に(断面形状として直線的に)繋がった面となり、その傾斜角度(中心軸線Lcに対する角度)θxが大きくなっている。すなわち下側溝側壁7a1が上記の直線Lxにほぼ沿ったいわゆる下側にダレた形状になり、上側溝側壁7a2との対称性が崩れていてネジ溝として不完全なものとなっている。
【0037】
上述した構成の口首部4を有する本発明に係るボトル型缶1においてもキャッピングは従来と同様にして行う。すなわち、ライナーが内面に設けられた天板部と円筒状のスカート部とからなるキャップ粗形材を口首部4に被せ、その粗形材を成形して口首部4にネジ止めする。
図9はキャップ5についてのネジ成形の最終段階を示しており、キャップ5のスカート部はネジ成形ローラ30によって口首部4の雄ネジ部7に押圧され、雄ネジ部7のネジ溝に沿って変形させられてキャップの内側に向けて凸となる螺旋状の凸部が成形される。このような状況は下端側の不完全ネジ部7aにおいても同様であり、キャップ5のスカート部がネジ成形ローラ30によって不完全ネジ部7aに押し込まれて不完全ネジ部7aにネジ嵌合する凸条が成形される。また、天板部5aの周辺部分は、プレッシャーブロック31によってカシメられ、その内面に設けられているライナー32がカール部6に密着させられる。ネジ成形はこのようにプレッシャーブロック31がキャップ5を口首部4に対して押圧している状態で行われる。さらに、PPバンド5cの下端部は、カシメローラ33によってカブラ部10における下側傾斜面8cに密着するようにカシメられる。このようにして口首部4に取り付けられたキャップ5のスリット部5eおよびブリッジ部5fは、カブラ部10における上側傾斜面8bに対向する位置、すなわち凸段差部27より下側に位置している。
【0038】
不完全ネジ部7aに相当する箇所のネジ成形を行う場合、その不完全ネジ部7aの溝深さが浅いとしても、前記凸段差部27を設けたことにより下側溝側壁7a1が上側溝側壁7a2といわゆる対称性のある側壁になっているから、ネジ成形ローラ30はこれらの溝側壁7a1,7a2からほぼ均等の反力を受けて不完全ネジ部7aのネジ溝の内部に収まり、そのネジ溝に沿ってネジ成形する。したがって、ネジ成形ローラ30がネジ溝から外れてスリット部5eやブリッジ部5fに干渉して、これらを損傷することが回避もしくは抑制される。また、不完全ネジ部7aにおけるネジ成形は、対称性のある上側溝側壁7a2と下側溝側壁7a1とにキャップ5のスカート部を押し付けて行い、その成形荷重は、対称性のある上側溝側壁7a2と下側溝側壁7a1とでほぼ均等に受ける。そのため、キャップ5のスカート部のうちスリット部5eやブリッジ部5fに繋がっている部分に過度な応力が掛かることがなく、この点でもスリット部5eに捲れが生じたり、ブリッジ部5fが破断したりする損傷が回避もしくは抑制される。さらに、本発明に係る上記のボトル型缶1では、スリット部5eやブリッジ部5fの損傷を避けるためにカブラ部10と雄ネジ部7とを口首部4の中心軸線方向に離隔させる必要がない。そのため、口首部4の全長を短くでき、それに伴って材料の必要量を少なくして省資源化に資することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…ボトル型缶、 2…缶胴、 3…肩部、 4…口首部、 5…キャップ、 5a…天板部、 5b…スカート部、 5c…ピルファープルーフバンド、 5d…凸条、 5e…スリット部、 5f…ブリッジ部、 6…カール部、 7…雄ネジ部、 7a1…下側溝側壁、 7a2…上側溝側壁、 7a…不完全ネジ部、 8…凸ビード部、 8a…最大外径部、 8b…上側傾斜面、 8c…下側傾斜面、 9…凹溝、 10…カブラ部、 26…小径円筒部、 26a…首部円筒部、 26b…縮径変遷部、 26c…ネジ部円筒部、 26d…縮径湾曲部、 26e…カール部円筒部、 27…凸段差部、 30…ネジ成形ローラ、 33…カシメローラ、 θ,θl,θg,θu…角度、 Lc…中心軸線、 O…中心 h…(ネジ溝深さの)平均値、 ha…(不完全ネジ部の)溝深さ。