(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】系統安定化装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20220719BHJP
【FI】
H02J3/00 170
(21)【出願番号】P 2018093323
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真也
(72)【発明者】
【氏名】井上 泰典
(72)【発明者】
【氏名】大部 孝
(72)【発明者】
【氏名】森田 誠
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-299097(JP,A)
【文献】特開2015-159644(JP,A)
【文献】特開2016-127664(JP,A)
【文献】特開平11-289669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0218510(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0353033(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統から系統情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得した前記系統情報に基づいて解析用系統モデルを作成する作成部と、
前記作成部で作成した前記解析用系統モデルを用いて、前記電力系統に想定事故が生じた場合の系統解析シミュレーション計算を行う計算部と、
前記計算部により求められた計算結果に基づいて前記電力系統が安定か不安定かを判定する判定部と、
前記判定部により安定と判定された場合、制御対象の発電機の組合せを選択して制御テーブルに設定する設定部と、
前記取得部、前記作成部、前記計算部、および前記判定部における処理が所定周期で実行される際、それぞれの周期において、前回の周期において前記設定部により前記制御テーブルに設定された前回の制御対象の発電機の組合せから台数を増減することにより、今回の周期の前記計算部の計算のための制御対象の発電機の組合せを想定事故毎に1組決定する選択部と、を備え、
前記計算部は、前記選択部により決定された制御対象の発電機の組合せを遮断した場合の系統解析シミュレーション計算を1回実行する、
系統安定化装置。
【請求項2】
前記取得部により取得された前記系統情報に基づいて、予め設定された基準に従って前記電力系統の不安定現象を所定基準以上に安定化できる制御目標量を算出し、前記制御目標量を満たす制御対象の発電機の組合せを想定事故毎に選択するバックアップ制御対象選択部を更に備え、
前記設定部は、前記判定部により不安定と判定された場合、前記バックアップ制御対象選択部により選択された制御対象の発電機の組合せを
前記制御テーブルに設定する、
請求項1記載の系統安定化装置。
【請求項3】
前記選択部は、前記取得部により取得された
前記系統情報に含まれ、かつ、前記電力系統の安定度と相関のあるパラメータ潮流値が増加した場合、前回の周期において前記設定部により設定された制御対象の発電機の組合せの台数を変更しない、
請求項1または2に記載の系統安定化装置。
【請求項4】
前記選択部は、前記取得部により取得されたパラメータ潮流値が増加した場合、前回の周期において前記設定部により設定された制御対象の発電機の組合せの台数を増やす、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の系統安定化装置。
【請求項5】
前記選択部は、前記取得部により取得されたパラメータ潮流値の前回の周期における値からの変化量が、第1の基準以上で且つ第2の基準未満の場合、前回の周期における前記設定部により設定された制御対象発電機選択の台数を変更せず、前記パラメータ潮流値の前回の周期における値からの変化量が第2の基準以上の場合、前回の周期における前記設定部により設定された制御対象の発電機の組合せの台数を増やす、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の系統安定化装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記計算部の計算結果に基づいて発電機内部位相角のピーク値を求め、
前記選択部は、前回の周期において
前記計算部で求めた前記発電機内部位相角のピーク値に基づいて、前記判定部により前回の周期において前記設定部で設定した制御対象の発電機の組合せの台数を変更するか否かを決定する、
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の系統安定化装置。
【請求項7】
前記取得部により取得された前記系統情報に含まれるパラメータ潮流値の変化分と、前記判定部により前回求められた発電機の内部位相角のピーク値とに基づいて、発電機の内部位相角のピーク値を推定する推定部を更に備え、
前記選択部は、前記推定部の推定結果に基づいて、前回の周期において前記設定部により設定された制御対象の発電機の組合せの台数を変更するか否かを決定する、
請求項6に記載の系統安定化装置。
【請求項8】
前記選択部は、前回の周期において前記設定部により設定された制御対象の発電機の組合せから台数を増減させる代わりに、
前回の周期において前記設定部により設定された制御対象の発電機の組合せから制御量が増減する制御対象の発電機の組合せを選択することで制御対象の発電機の組合せを変更し、
前記計算部は、前記選択部により変更された制御対象の発電機の組合せを遮断した場合の系統解析シミュレーション計算を1回実行する、
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の系統安定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、系統安定化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オンライン事前演算形系統安定化装置は、あらかじめ設定した想定事故ケースに対して系統解析シミュレーションを行い、電力系統が不安定となる想定事故が発生した場合に備えて、制御対象発電機を事前に選択しておき、実際に想定事故が発生した時に事前に選択しておいた制御対象発電機を遮断することにより、電力系統が不安定となる現象を未然に防止する装置である。
【0003】
このようなオンライン事前演算形系統安定化装置は、オンライン系統情報の収集部と、系統データの記憶部と、解析用系統モデルの作成部と、系統解析シミュレーションの計算部と、系統安定度の判定部と、制御テーブルの設定部が設けられている。
【0004】
以上の構成要素を備えたオンライン事前演算形系統安定化装置では、まず収集部がオンライン系統情報を定周期で収集する。オンライン系統情報とは、電力系統のオンオフ情報(遮断器や断路器等の開閉状態)や、電力の需給状態(発電機出力や負荷、送電線や変圧器の有効及び無効電力、各電気所の母線電圧)に関する情報である。
【0005】
一般的に、作成部は、収集部が収集したオンライン系統情報と、記憶部に予め記憶された系統データとを用いて、現時点の潮流状態を表わす解析用系統モデルを作成する。続いて、計算部は、この解析用系統モデルを用いて、系統解析シミュレーション計算を行う。そして、判定部は、計算部による系統解析シミュレーション計算結果を用いて、電力系統の安定度を判定する。
【0006】
計算部は、例えば、予め記憶された複数の想定事故種別データを利用して複数の解析条件を設定しておき、設定した各解析条件に従って系統解析シミュレーション計算を行なう。判定部は、各解析条件に対して電力系統が安定か不安定かを判定する。さらに、設定部は、判定部が安定と判定したときの制御対象発電機選択の組合せを、電力系統の安定度維持に必要な制御対象発電機選択の組合せとして制御テーブルに設定する。ここで、制御テーブルは、全ての想定事故ケースについて、実際に想定事故が発生した場合に遮断する発電機の組合せを設定したものであり、前記の一連の機能部を周期的に実行することにより、想定事故発生に備えて周期的に更新される。
【0007】
以上のように、オンライン事前演算形系統安定化装置では、解析用系統モデルを用いて系統解析シミュレーションを行うことにより、電力系統の安定度維持に必要な制御対象発電機を、事故が発生する前に決定する。したがって、オンライン事前演算形系統安定化装置では、想定事故が発生した際、当該想定事故発生時の電力系統を安定化するために事前に選択しておいた制御対象発電機に対して迅速に制御指令を出力し、当該制御対象発電機を電力系統から切り離すことにより、残りの発電機の脱調を未然に防ぐことができる。必要最小限の発電機遮断によって、不安定現象を系統全体に波及させることなく、電力系統の安定運転を維持することができる。
【0008】
オンライン事前演算形系統安定化装置の適用範囲は拡がっており、最近では、ディジタルリレーのハードウェアを適用した系統安定化装置が知られている(例えば、特許文献1)。ディジタルリレーはマイコンベースのハードウェアであるため系統解析シミュレーション計算で扱える系統規模に制約はあるものの、システム導入費用の低減が期待できる。また、ディジタルリレーは使用期間が例えば15~20年と長寿命であり、そのハードウェアを適用することにより保守性の面で大きなメリットが得られる。
【0009】
オンライン事前演算形系統安定化装置において行われるオンライン事前演算では、安定化対象とする想定事故ケースのそれぞれについて、制御対象の選択組合せを変えながら過渡安定度計算を繰り返し行い、不安定現象を安定化でき且つ選択した制御対象発電機の出力の総和(以下、制御量という)が最小または極力少ない制御対象の選択組合せを求め、制御対象選択結果として制御テーブルに設定する。ここで、1回のオンライン事前演算に要する時間を演算周期といい、演算負荷の殆どを占める過渡安定度計算の総回数でほぼ決まる。通常、演算周期は、想定事故ケース毎に行う過渡安定度計算の合計回数、すなわち、想定事故ケース毎の制御対象選択組合せ数の総和を考慮して決定される。
【0010】
ここで、オンライン事前演算形系統安定化装置においては、演算周期が短いほど系統状態の変化への追従性が高まるため演算周期は短い方が好ましい。しかしながらディジタルリレー形の系統安定化装置の場合、ディジタルリレーがマイコンベースの装置であるため、演算速度の制約があり、系統解析シミュレーション計算の対象とする電力系統の規模の大きさによっては演算周期が長くなる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
演算周期の短縮方法として、1回の演算周期の中で繰り返し行う過渡安定度計算の回数を削減する方法が効果的である。すなわち、数少ない計算回数で不安定現象を最小の制御量で安定化できる最適な制御対象発電機を組合せる。従来技術は、想定事故1つ1つに対して、制御対象発電機の組合せを変えながら系統解析シミュレーション計算を繰り返し行い、小さい制御量で安定化できる制御対象発電機組合せを決定するものであった。このため1回の演算周期につき、系統解析シミュレーション計算が最低限の回数必要であり、その分演算周期が長くなってしまう。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、ディジタルリレーのハードウェアを適用し保守負担や費用の低減を実現しつつ、演算周期を短縮し、時々刻々変化する電力系統への追従性を高めた系統安定化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施形態の系統安定化装置は、取得部と、作成部と、計算部と、判定部と、設定部と、選択部と、を持つ。取得部は、電力系統から系統情報を取得する。作成部は、前記取得部により取得された前記系統情報を用いて解析用系統モデルを作成する。計算部は、前記作成部で作成した解析用系統モデルを用いて、想定事故が生じた場合の系統解析シミュレーション計算を行う。判定部は、前記計算部により求められた計算結果に基づいて前記電力系統が安定か不安定を判定する。設定部は、前記判定部により安定と判定された場合、制御対象の発電機の組合せを選択して制御テーブルに設定する。選択部は、前記取得部、前記作成部、前記計算部、および前記判定部における処理が所定周期で実行される際、それぞれの周期において、前回の周期において前記設定部により前記制御テーブルに設定された前回の制御対象の発電機の組合せから台数を増減することにより、今回の周期の前記計算部の計算のための制御対象の発電機の組合せを想定事故毎に1組決定する。前記計算部は、前記選択部により決定された制御対象の発電機の組合せを遮断した場合の系統解析シミュレーション計算を1回実行する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態の系統安定化システムの構成の一例を示す図。
【
図2】第1の実施形態の解析用系統データの内容の一例を示す図。
【
図3】第1の実施形態の中央演算装置1による電力系統の制御量の推移を示す図。
【
図4】第2の実施形態の中央演算装置1Aの構成の一例を示す図。
【
図5】第2の実施形態の中央演算装置1Aによる電力系統の制御量の推移を示す図。
【
図6】第3の実施形態の中央演算装置1Bの構成の一例を示す図。
【
図7】第3の実施形態の中央演算装置1Bによる電力系統の制御量の推移を示す図。
【
図8】第4の実施形態の中央演算装置1Cの構成の一例を示す図。
【
図9】第4の実施形態の事故発生後の対象系統内の発電機の内部位相角の動きの一例を示す波形図。
【
図10】第5の実施形態の中央演算装置1Dの構成の一例を示す図。
【
図11】第6の実施形態の中央演算装置1Eの構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、第1実施形態の系統安定化装置を、図面を参照して説明する。
図1は、系統安定化装置が適用される系統安定化システムの構成の一例を示す図である。系統安定化システムSは、電力系統Pを安定化するための制御を行う系統安定化システムである。
【0017】
系統安定化システムSは、1回の演算周期の中で行う系統解析シミュレーション計算の回数を制限し、演算周期を追う毎に最適な制御対象発電機組合せに近づけていくようにして演算周期の短縮を図るものである。具体的には、系統安定化システムSは、1回の演算周期の中で行う系統解析シミュレーション計算の回数を例えば1回とし、前回の周期における演算で求めた制御対象発電機組合せから制御台数、あるいは制御量を減らす方向で今回の周期における演算用の制御対象選択発電機の組合せを求め、系統解析シミュレーション計算を行い、結果が安定の場合はその制御対象選択発電機の組合せを制御テーブルに設定する。また、系統安定化システムSは、演算周期を重ねる過程で制御量不足となり、系統解析シミュレーション計算の結果が不安定となる場合には、オフライン整定値を用いて求める制御対象発電機選択組合せ(以下、バックアップ制御選択という)を制御テーブルに設定する。
【0018】
系統安定化システムSは、例えば、中央演算装置1(系統安定化装置)と、事故検出端末装置2と、制御端末装置3から構成され、電力系統Pに接続される。電力系統Pは、例えば、発電機、母線、変圧器あるいは送電線、負荷、調相設備、遮断器、断路器から構成され、電圧計測用変成器、電流計測用変成器を備える。
【0019】
事故検出端末装置2は、電力系統Pから系統情報および電力系統Pに生じた事故情報を取得し、中央演算装置1に出力する。事故検出端末装置2は、例えば、変電所、開閉所、発電所など、必要箇所に設置される。
【0020】
中央演算装置1は、給電系統網N経由で入力した系統情報と、事故検出端末装置2から入力した系統情報および事故情報とを用いて、電力系統Pに想定事故が発生した場合に生じる不安定現象を安定化するための制御内容、すなわち、制御対象の発電機の組合せを事前に定周期で演算しておき、実際に想定事故が発生した場合に、事前に定周期で求めておいた制御対象の発電機の組合せを遮断するための制御指令を出力する。
【0021】
制御端末装置3は、中央演算装置1から入力した制御指令に基づいて、該当遮断器を制御して、該当発電機を遮断する。制御端末装置3は、例えば、発電所など、必要箇所に設置される。
【0022】
中央演算装置1は、例えば、系統情報収集部101と、系統モデル作成部102と、事故シーケンス編集部103と、潮流計算・過渡安定度計算部104と、安定度判定部105と、選択対象リスト作成部106と、前回選択-1台選択部107と、バックアップ制御目標量算出部108と、バックアップ制御選択部109と、制御テーブル設定部110と、制御対象事故判定部111と、制御指令出力部112とを備える。
【0023】
系統情報収集部101(取得部)は、電力系統Pの接続状態および電力の需給状態に関する系統情報を、オンラインで電力系統Pから、または給電情報網N経由で、一定周期で収集する。系統情報収集部101は、事故検出端末装置2から系統情報を取得してもよい。オンラインで収集される系統情報とは、電力系統の接続状態に関するオンオフ情報や、電力の需給状態に関する計測情報を含む。電力系統のオンオフ情報とは、遮断器や断路器等の開閉状態に関する情報である。計測情報とは、発電機出力、負荷、送電線、変圧器の有効及び無効電力、各電気所の母線電圧に関する情報を含む。
【0024】
系統モデル作成部102は、系統情報収集部101により収集された系統情報に基づいてオンライン系統モデルを生成する。ここで、系統モデルは、ノードとブランチから構成される(
図2参照)。ノードは母線、発電機、負荷をデータ化したものであり、識別情報であるノード番号に対して、ノードタイプ、有効電力、無効電力、及び電圧等の情報が対応付けられた情報である。ブランチは送電線、変圧器をデータ化したものであり、識別情報であるブランチ番号に対して、接続先のノード番号(始端ノードと終端ノード)、運用回線数、インピーダンス等が対応付けられた情報である。系統モデル作成部102は、事故発生前において、取得した系統情報とあらかじめ記憶されている系統設備データとに基づいて、状態推定計算を行い、その時点の系統状態と等価なオンライン系統モデルを作成する。
【0025】
事故シーケンス編集部103は、系統モデル作成部102により生成されたオンライン系統モデルに、安定化対象とする想定事故の事故シーケンスを追加して系統解析用データを生成する。事故シーケンスは、想定事故の発生、事故除去リレー動作による事故除去および再閉路実施等の一連の事象を時系列で設定したものであり、制御対象発電機の遮断シーケンスを含む。事故シーケンス編集部103は、前回選択-1台選択部107で選択された今回計算用の制御対象発電機選択結果(以下、今回選択結果)を事故シーケンスに反映し、系統解析用データを生成する。
【0026】
図2は、解析用系統データKの内容の一例を示す図である。解析用系統データKには、系統モデル作成部102により作成されたオンライン系統モデルK1、発電機定数、発電機制御系および負荷特性情報K2、事故シーケンス情報K3等の情報が含まれる。発電機定数情報は、発電機番号に対して、定格容量、定格出力、内部定数等が対応付けられた情報である。発電機制御系情報は発電機に付加されるガバナおよびAVR等の制御系の制御ブロック回路である。負荷特性は対象系統に含まれる負荷の有効および無効電力の電圧および周波数特性を設定したものである。事故シーケンス情報K3は、系統事故の発生、事故除去リレー動作による事故除去および再閉路実施などの一連の事象を、時刻、事故種別、事故相、事故ブランチ、事故点情報等で表現し時系列に設定した情報である。
【0027】
図1に戻り、潮流計算・過渡安定度計算部104は、事故シーケンス編集部103により生成された解析用系統データKを用いて、電力系統Pにおける想定事故発生前の潮流計算と、想定事故発生後の過渡安定度計算を行う。
【0028】
安定度判定部105は、潮流計算・過渡安定度計算部104により計算された過渡安定度計算結果が安定か不安定かを判定する。安定度判定部105は、過渡安定度計算結果を安定と判定したときに、制御テーブル設定部110に判定結果を受け渡す。制御テーブル設定部110は、安定度判定部105が安定と判定した時点の今回選択結果を制御テーブルに設定する。制御テーブル設定部110は、図では設定部126とも表記している。
【0029】
なお、系統情報収集部101、系統モデル作成部102、事故シーケンス編集部103、潮流計算・過渡安定度計算部104、および安定度判定部105を合わせたものが「判定部」の一例である。図では、「判定部125」と表記している。
【0030】
即ち、判定部125は、系統情報収集部101により取得された系統情報に基づいて、電力系統Pに想定事故が生じた際の系統解析シミュレーション計算を行い、今回選択した制御対象発電機の組合せで制御を実施した場合に、電力系統Pを安定化できるか否かを判定する。
【0031】
選択対象リスト作成部106は、系統情報収集部101から取得した系統情報を参照、すなわち、制御対象発電機の運転情報として該当発電機の発電機の出力電力値、遮断機および開閉器等のオンオフ状態を読み出して、制御対象発電機とその運転状態とを対応付けて格納し、今回の系統解析シミュレーション計算に用いる制御対象発電機を選択するための選択対象リストを生成する。
【0032】
前回選択-1台選択部107は、1周期前に制御テーブル設定部110に設定された選択結果(以下、前回選択結果)と、選択対象リスト作成部106により生成された選択対象リストとを参照し、今回周期の系統解析シミュレーション計算に用いる制御対象発電機の組合せを選択し、今回選択結果とする。ここで、選択対象リストの内訳は時々刻々変化するため、前回選択結果の選択組合せをそのまま使うことはできない。そこで例えば、今回選択結果の選択においては、まず、前回選択結果の制御量を満たすように選択対象リストから選択した選択組合せを改めて前回選択結果とし、改めて求めた前回選択結果の台数から1台減らすように選択する。
【0033】
なお、選択対象リスト作成部106および前回選択-1台選択部107を合わせたものが「選択部」の一例である。図では、選択部130と表示している。即ち、選択部130は、1周期前に制御テーブル設定部110にて制御テーブルに設定した前回選択結果の台数から1台減らして今回の周期の系統解析シミュレーション計算に用いる今回選択結果とする。
【0034】
バックアップ制御目標量算出部108は、系統情報収集部101から系統情報を取得し、取得した系統情報のうち想定事故が発生した場合に電力系統の安定化に必要となる制御量(以下、必要制御量)と相関のあるパラメータ潮流値を読み出し、そのパラメータ潮流値と予め装置に設定しておいたバックアップ制御目標量算出用整定値を用いてバックアップ制御目標量を算出する。バックアップ制御目標量算出用整定値は、例えば、パラメータ潮流値と必要制御量とを対応付けた情報であり、通常、オフライン系統解析シミュレーションにより予め決定され、中央演算装置に設定しておくものである。例えば、パラメータ潮流値と必要制御量との間に1次関数(y=ax+b、ここでy:必要制御量、x:パラメータ潮流値)の相関関係が有る場合、想定事故ケース毎に比例係数aと切片bを求め、装置に設定する。このようにして、パラメータ潮流値が計測できれば、バックアップ制御目標量算出用整定値を使うことにより、想定事故が発生した場合の必要制御量を求めることができる。ここで、バックアップ制御目標量は、例えば、系統が運用される時間帯および季節等を問わず、想定事故発生時の不安定現象を所定基準以上に安定化できるだけの遮断量を確保するように決定される。
【0035】
バックアップ制御選択部109は、選択対象リスト作成部106により生成された選択対象リストと、バックアップ制御目標量算出部108により算出されたバックアップ制御目標量とを用いてバックアップ制御目標量を満たす制御対象発電機の組合せを選択する。バックアップ制御選択部109は、選択した制御対象発電機の組合せをバックアップ用制御対象選択結果として制御テーブル設定部110に出力する。
【0036】
なお、バックアップ制御目標量算出部108およびバックアップ制御選択部109を合わせたものが「バックアップ選択部」の一例である。図では、「バックアップ選択部140」と表記している。バックアップ選択部140は、系統情報収集部101により取得された系統情報に基づいて、予め設定されたバックアップ制御目標量算出用整定値に従って電力系統Pを所定基準以上に安定化できるバックアップ制御目標量を算出し、バックアップ制御目標量を満たす制御対象を選択対象リストから選択し、バックアップ制御選択結果とする。
【0037】
制御テーブル設定部110では、安定度判定部105による判定結果が安定であった場合には前回選択-1台選択部107が選択した今回選択結果を制御テーブルに設定する。また、制御テーブル設定部110では、安定度判定部105による判定結果が不安定であった場合にはバックアップ制御選択部109により選択されたバックアップ制御選択結果を制御テーブルに設定する。
【0038】
制御対象事故判定部111は、事故検出端末装置2から事故情報を取得し、制御対象事故の発生を検出する。制御対象事故判定部111は、制御対象事故の発生の検出結果を制御指令出力部112に出力する。
【0039】
制御指令出力部112は、制御対象事故判定部111により検出された制御対象事故の検出結果に基づいて、検出された制御対象事故に対応した制御対象選択発電機の組合せを制御テーブル設定部110が設定した制御テーブルから読み出し、制御指令として制御端末装置3に出力する。
【0040】
次に、中央演算装置1の演算について説明する。
図3は、中央演算装置1による制御量の推移を示す図である。
図1において制御テーブル設定部110が演算周期毎に制御テーブルに設定する制御対象発電機選択結果の制御量の推移を、時間経過を横軸に取って示したものである。
【0041】
中央演算装置1は、毎回行われるそれぞれの演算周期で、1周期前に設定された前回選択結果から選択台数を1台減らして今回周期の系統解析シミュレーション計算を行い、安定か不安定かを判定する。結果が安定の間は、演算周期を追うごとに制御対象発電機の選択台数を1台ずつ減らしていく。これにより、演算周期を重ねるごとに制御量を最適な制御量に近づけていく。最適な制御量よりも台数を減らしてしまうと、制御量不足のため不安定となり、その回の制御量はバックアップ制御選択結果の電制量となる。次の演算周期では再び前回選択結果から選択台数を1台減らして、演算周期を繰り返す。
【0042】
従来技術のオンライン事前演算における制御対象発電機選択は、1回の演算周期の中で系統解析シミュレーション計算を必要回数繰り返し、最適制御量となる制御対象の発電機の組合せを求める。それに対して、上述した第1の実施形態によれば、1回の演算周期での系統解析シミュレーション計算の回数を制限しながら、演算周期を追うごとに最適制御量となる制御対象の発電機の組合せを探索する。これにより、中央演算装置1は、ディジタルリレーのハードウェアを適用し保守負担や費用の低減を実現しつつ、演算周期を短縮し、時々刻々変化する電力系統への追従性を高めることができる。
【0043】
(第2の実施形態)
第1の実施形態の中央演算装置1は、制御対象発電機選択の組合せを決定する際に、1周期前の選択組合せから無条件に1台減らして今回周期の計算で用いる今回選択結果を選択していた。そのため、1周期前に設定した前回選択結果の電制量が既に最適な制御量に達していたとしても、過剰に1台減らしてしまうことになる。これにより、制御量不足により不安定となり、定期的にバックアップ制御選択結果に戻ってしまう(
図3参照)。バックアップ制御選択結果による制御実施は所定基準以上に安定化できる制御量を確保できる反面、多め制御の傾向があるため、できる限り回避する方法を考える。
【0044】
そこで、第2の実施形態では、前回選択結果から選択台数を1台減らしてよいか否かの判定を持たせ、バックアップ制御選択結果が制御テーブルに設定される頻度の低減を狙うものである。以下の説明では、第1の実施形態と同一の構成については同一の名称、符号を用い、重複する説明については適宜省略する。
【0045】
図4は、第2の実施形態の中央演算装置1Aの構成の一例を示す図である。中央演算装置1Aは、中央演算装置1に比して更に、前回パラメータ潮流値記憶部113と、パラメータ潮流値減少検出部114とを備える。パラメータ潮流値が前回値から減少した場合には、電力系統の潮流状態が前回周期時点よりも安定方向に移行したと判断できる。よって、パラメータ潮流値が前回値から減少したことを検出した場合には、前回選択結果から選択台数を減らして今回選択結果を求める。パラメータ潮流値が前回値から減少していない場合には、逆に、電力系統の潮流状態が前回周期時点よりも不安定方向に移行したと判断し、前回選択結果の選択台数を維持するようにする。
【0046】
前回パラメータ潮流値記憶部113は、毎演算周期の最後、すなわち、安定度判定部105で判定結果が出たタイミングで、今回周期のパラメータ潮流値を記憶し、次回周期での前回値として使用する。
【0047】
パラメータ潮流値減少検出部114は、パラメータ潮流値が前回の周期において記憶した前回パラメータ潮流値から減少したかどうかを検出する。
【0048】
前回選択-1台選択部107は、パラメータ潮流値減少検出部114でパラメータ潮流値が前回周期時点よりも減少したことを検出した場合に限り、前回選択結果から選択台数を1台減らす。逆に、前回選択-1台選択部107は、パラメータ潮流値減少検出部114でパラメータ値が前回周期時点よりも減少したことを検出していない場合には、前回選択結果の選択台数を維持する。
【0049】
この構成により、第2の実施形態の中央演算装置1Aは、前回選択結果から過剰に選択台数を減らす頻度を減らすことができる。
【0050】
図5は、中央演算装置1Aによる制御量の推移を示す図である。
図4において制御テーブル設定部110が演算周期毎に制御テーブルに設定する制御対象の発電機の組合せの選択結果の制御量の推移を、時間経過を横軸に取って示したものである。中央演算装置1Aでは、パラメータ潮流値の前回周期からの減少を判定条件に加えることにより、電力系統の潮流分布が増加し安定度が不安定方向に移行しているときに過剰に選択台数を減らすことがなくなる。
【0051】
以上説明した第2の実施形態によれば、中央演算装置1Aは、電力系統の潮流分布が増加し安定度が不安定方向に移行しているときに過剰に選択台数を減らすことがなくなるため、結果、第1の実施形態の中央演算装置1に比べて、バックアップ制御選択に戻る頻度を削減することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、第2の実施形態に比して更に、バックアップ制御選択に戻る頻度の低減を狙ったものである。以下の説明では、第1および第2の実施形態と同一の構成については同一の名称、符号を用い、重複する説明については適宜省略する。
【0053】
図6は、第3の実施形態の中央演算装置1Bの構成の一例を示す図である。第2の実施形態の中央演算装置1Aでは、パラメータ潮流値が前回周期時点から減少していない場合には、前回選択結果から選択台数を変えない。よって、パラメータ潮流値が想定以上に増加した場合には前回選択結果と同じ選択台数での制御実施でも制御量不足となり不安定となる可能性がある。そこで、中央演算装置1Bでは、第2の実施形態の中央演算装置1Aに比して、パラメータ潮流値減少検出部114を、パラメータ潮流値変化検出部114aに置換え、パラメータ潮流値が前回周期時点からの減少だけでなく増加も検出できるようにした。併せて、前回選択-1台選択部107を前回選択±1台選択部107aに置換え、パラメータ潮流値の前回周期時点からの増減に対応して、前回選択結果から選択台数を増減できるようにした。
【0054】
パラメータ潮流値変化検出部114aは、前回パラメータ潮流値記憶部113で記憶した前回周期時点のパラメータ潮流値を基準とし、今回周期のパラメータ潮流値が増加したか減少したかを検出する。
【0055】
前回選択±1台選択部107aは、パラメータ潮流値変化検出部114aでの判定結果である、パラメータ潮流値増加検出、およびパラメータ潮流値減少検出に応じて、パラメータ潮流増加の場合には、前回選択結果から1台増やし、パラメータ潮流値減少の場合には、前回選択結果から1台減らして、今回選択結果を求める。
【0056】
図7は、中央演算装置1Bによる制御量の推移を示す図である。
図6において制御テーブル設定部110が演算周期毎に制御テーブルに設定する制御対象発電機選択結果の制御量の推移を、時間経過を横軸に取って示したものである。中央演算装置1Bは、パラメータ潮流値の前回周期時点からの増加に応じて、前回選択結果から選択台数を増加することができる。
【0057】
以上説明した第3の実施形態によれば、中央演算装置1Bは、電力系統の潮流分布が増加し安定度が不安定方向に移行しているときには選択台数を増やすことができるので、結果、第2の実施形態の中央演算装置1Aに比べて、バックアップ制御選択に戻る頻度を削減することができる。
【0058】
(第4の実施形態)
第2および第3の実施形態では、前回選択結果から選択台数を減らしたり増やしたりする条件の判定量として、パラメータ潮流値を用いた。パラメータ潮流値による判定では、前回周期時点から系統が安定方向か不安定方向かの傾向は把握できるが、前回選択結果から選択台数を減らす余裕があるかどうかの判断は難しい。そこで、第4の実施形態では、パラメータ潮流値の代わりに、発電機内部位相角を用いる。発電機内部位相角は、同期発電機の過渡領域や中間領域の安定度を判定するのに最適な指標である。なお、発電機内部位相角は系統解析シミュレーション計算によって求めるため、本実施形態のように1回の演算周期で系統解析シミュレーション計算を1回行う方法においては、前回周期で計算した発電機内部位相角を判定に使用する。前回周期で求めた発電機内部位相角には、前回選択結果で制御を行った場合の制御効果が反映されているので、その発電機内部位相角を用いることにより、前回選択結果から選択台数を減らせるか、逆に、選択台数を増やした方がよいかの判断ができる。
【0059】
以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一の名称、符号を用い、重複する説明については適宜省略する。
図8は、第4の実施形態の中央演算装置1Cの構成の一例を示す図である。
【0060】
中央演算装置1Cは、第3の実施形態の中央演算装置1Bに比して、前回パラメータ潮流値記憶部113の代わりに、前回発電機δピーク値記憶部115を設け、パラメータ潮流値変化検出部114aの代わりに、前回発電機δピーク値閾値判定部116を設け、更に、前回選択±1台選択部107aの代わりに、前回発電機δピーク値閾値判定部116の判定出力である発電機δピーク値閾値超過検出および発電機δピーク値閾値未満検出に応じて選択台数を増やしたり減らしたりする前回選択±1台選択部107bを設けたものである。
【0061】
図9は、第4の実施形態の事故発生後の対象系統内の発電機の内部位相角の動きの一例を示す波形図である。同図は、T=t1時点で系統事故が発生し、T=t2時点で事故除去された場合の、対象系統に接続され運転中の発電機の内部位相角の動揺を示している。同図中、実線で示した波形は前回周期で計算した発電機内部位相角の波形である。ここで、今回周期で選択台数を減らした場合の系統解析シミュレーション計算の結果、点線で示した波形が得られたとする。
図9に示す例では、今回周期の計算では制御対象発電機の選択台数を過剰に減らしたことにより不安定となったことを示している。ここで、発電機内部位相角の第1波ピーク値(図中、前回ピーク)は、過渡安定度の時間領域内での発電機の動揺の大きさを示す指標として用いることが出来る。よって、前回ピーク値が所定の閾値以下に収まる場合には、発電機は安定度上余裕があると判断でき、制御対象発電機の選択台数を減らせる可能性がある。逆に、前回ピーク値が所定の閾値を超える場合には、発電機は安定度上余裕がないと判断でき、制御対象発電機の選択台数を減らすと制御量不足により不安定となる可能性が高いと判断できる。
【0062】
なお、前回ピーク値の観測対象とする発電機は、電力系統Pのうち安定化対象とする系統部分に接続される発電機のうち、対象系統の安定/不安定を表す代表的な発電機を選定する。制御対象発電機以外の発電機を選定してもよい。また、判定閾値は発電機毎に設定する方法もあるが、発電機の安定/不安定判定が目的なので、適切な統一した値を用いることもできる。
【0063】
そこで、
図8において、前回発電機δピーク値記憶部115は、安定度判定部105で判定結果が出たタイミングで、潮流計算・過渡安定度計算部104で得られた過渡安定度計算結果のうち発電機内部位相角の1波ピーク値を記憶する。
【0064】
前回発電機δピーク値閾値判定部116は、1周期前に前回発電機δピーク値記憶部115が記憶した前回発電機δピーク値と、予め設定しておいた判定用閾値を比較し、前回発電機δピーク値が判定用閾値を超過している場合は、発電機δピーク値閾値超過検出を出力し、前回発電機δピーク値が判定用閾値未満の場合は、発電機δピーク値閾値未満検出を出力する。
【0065】
前回選択±1台選択部107bは、前回発電機δピーク値閾値判定部116から出力される発電機δピーク値閾値超過検出、および発電機δピーク値閾値未満検出を入力し、発電機δピーク値閾値超過検出成立の場合は、前回選択結果から選択台数を1台増やし、発電機δピーク値閾値未満検出成立の場合は、前回選択結果から選択台数を1台減らして、今回選択結果とする。
【0066】
以上説明した第4の実施形態によれば、中央演算装置1Cは、第2および第3の実施形態のパラメータ潮流値の変化判定による選択台数増減の方法に比べて、発電機の安定度に応じた選択台数増減が出来るので、よりバックアップ制御選択に戻る頻度を削減することができる。
【0067】
(第5の実施形態)
上記の第2から第4の実施形態の系統安定化装置は、一つの装置に集約されていてもよい。
図10は、第5の実施形態の中央演算装置1Dの構成の一例を示す図である。図示するように、中央演算装置1Dは、前回パラメータ潮流値記憶部113と、パラメータ潮流値減少検出部114aと、前回発電機δピーク値記憶部115と、前回発電機δピーク値閾値判定部116とを備える。
【0068】
第4の実施形態は、系統解析シミュレーション計算で得られる発電機内部位相角の1波ピーク値を用いることによって、発電機の安定度に応じた選択台数の増減ができるので、よりバックアップ制御選択に戻る頻度を削減する効果がある。しかしながら、判定に用いる発電機δピーク値は前回周期時点の系統条件で求めた値であるため、電力系統Pの安定度について前回周期時点からの変化は加味されていない。このため、過剰な選択台数減らしによってバックアップ制御選択に戻る可能性が残る。そこで、第4の実施形態に、第2または第3の実施形態を組み合わせることにより、前回発電機δピーク値による判定に、パラメータ潮流値の変化、すなわち、前回周期時点からの電力系統の安定度の推移を加味した判定ができる。これにより、よりバックアップ制御選択に戻る頻度を削減することができる。
【0069】
中央演算装置1Dは、前回発電機δピーク値記憶部115、前回発電機δピーク値閾値判定検出部116、前回パラメータ潮流値記憶部113、パラメータ潮流値変化検出部114aを備える。前回選択±1台選択部107cでは、前回発電機δピーク値閾値判定部116からの出力である、発電機δピーク値閾値超過検出と発電機δピーク値閾値未満検出、および、パラメータ潮流値変化検出部114aからの出力である、パラメータ潮流値減少検出とパラメータ潮流値増加検出を入力とし、前回周期時点の選択台数で制御実施した場合の安定度に、前回周期時点からの安定度の推移を加味した選択台数の増減が可能となる。
【0070】
上述した第5の実施形態によれば、中央演算装置1Dは、第4の実施形態の中央演算装置1Cに比べて、より精度の高い選択台数の増減が可能となり、更にバックアップ制御選択に戻る頻度を削減することができる。
【0071】
(第6の実施形態)
前記第5の実施形態では、前回周期で求めた発電機内部位相角の大きさに関する条件と、パラメータ潮流値の変化に関する条件の組合せにより、前回選択結果から選択台数を増減させるものであった。この場合、2つの条件についてそれぞれ2つの状態があるので、例えば、2×2の合計4状態について選択台数増減の処置の切り分けを決めることになる。また、2つの判定条件それぞれについて判定閾値の検討も必要であり、事前検討のみならず装置運用も煩雑となる。そこで、第6の実施形態は、前回周期で求めた発電機内部位相角とパラメータ潮流値の変化分から、今回周期の発電機内部位相角を推定計算し、その推定値の大きさに応じて前回選択結果からの選択台数増減を行う。この構成とすることにより、第5の実施形態のような複数の判定条件を組み合わせた処置の切り分けが不要になるとともに、判定量を発電機内部位相角推定値の1つにすることができ、判定閾値も1つで済む。
【0072】
第6の実施形態は、上記実施形態に比べて、更にバックアップ制御選択に戻る頻度を低減することができる。
図11は、第6の実施形態の中央演算装置1Eの構成の一例を示す図である。図示するように、中央演算装置1Eは、第5の実施形態と比べて、パラメータ潮流値変化検出部114aの代わりに、パラメータ潮流値変化分算出部118を備え、前回発電機δピーク値閾値判定検出116の代わりに、発電機δピーク値変化分算出部119を備え、更に、発電機δピーク値推定部120と、発電機δピーク値閾値判定部121とを追加した構成からなる。
【0073】
パラメータ潮流値変化分算出部118は、前回パラメータ潮流値記憶部113に記憶された前回パラメータ潮流値に対する今回周期のパラメータ潮流値変化分(以下、ΔP)を算出する。発電機δピーク値変化分算出部119は、その内部に記憶した前々回周囲の発電機δピーク値を基準として、前回発電機δピーク値記憶部115に記憶された前回発電機δピーク値の変化分(以下、Δδピーク値)を算出する。
【0074】
発電機δピーク値推定部120は、前回発電機δピーク値と、Δδピーク値と、ΔPと、予め求めておき整定値として装置に設定された、発電機δピーク値変化分とパラメータ潮流値変化分との相関係数とを用いて、今回周期の発電機δピーク値を推定する。
【0075】
以下に、今回周期の発電機δピーク値の推定計算の一例を示す。ここで、推定したい今回周期のδピーク値を「今回δピーク値」とし、前回周期のδピーク値を「前回δピーク値」とする。「前回δピーク値」は前回発電機δピーク値記憶部115で記憶している値であり、既知の値である。
今回δピーク値と前回δピーク値の差「Δδピーク値」は、下式で表せる。
【0076】
Δδピーク値=今回δピーク値-前回δピーク値 ・・・・・・・(1)式
(1)式を変形すると、今回δピーク値は、下式で表せる。
【0077】
今回δピーク値=前回δピーク値+Δδピーク値 ・・・・・・・(2)式
ここで例えば、Δδピーク値とΔPの間に一次の相関関係があり、その比例係数がαとして求められたとすると、Δピーク値とΔPについて下式が成り立つ。
【0078】
Δδピーク値=α・ΔP ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)式
更に、(3)式を(2)式に代入すると、推定したい今回δピーク値が下式で得られる。
【0079】
今回δピーク(推定値)=前回δピーク値+α・ΔP ・・・・・(4)式
よって、(4)式を使えば、今回δピーク値は、前回δピーク値、ΔP、比例係数αから推定できる。ここで、比例係数αは、オフラインでの系統解析シミュレーション計算で求めるか、または、中央演算装置1Eの運用実績を通して装置自身に計算させることもできる。
【0080】
今回δピーク値を直接求めるためには、今回周期時点の各入力値を使って系統解析シミュレーション計算を行うしかないが、1回の演算周期で系統解析シミュレーション計算を1回行う本実施形態においては、今回δピーク値を直接求めることはできない。しかしながら、(4)式の考え方を踏襲した
図11の構成を適用することにより、パラメータ潮流値の変化、すなわち、電力系統の安定度の推移を考慮した今回δピーク値を、推定値ながらも計算することができる。この推定値を判定値として用い、閾値超過または閾値以下の判定の結果を使って、前回選択から選択台数を増減するようにすれば、第5の実施形態よりも高精度な判定が可能となり、バックアップ制御選択に戻る頻度をより一層低減することができる。
【0081】
発電機δピーク値閾値判定部121は、発電機δピーク値推定部120により推定された発電機δピーク値推定値が所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0082】
前回選択±1台選択部107dは、発電機δピーク値閾値判定部121により発電機の内部位相角δのピーク値が所定の閾値以上であると判定された場合には、前回選択結果から選択台数を1台増やして今回選択結果とする。
【0083】
また、前回選択±1台選択部107dは、発電機δピーク値閾値判定部121により発電機の内部位相角δのピーク値が所定の閾値未満であると判定された場合には、前回選択結果から選択台数を1台減らして今回選択結果とする。
【0084】
なお、パラメータ潮流値変化分算出部118と、発電機δピーク値変化分算出部119と、発電機δピーク値推定部120と、発電機δピーク値閾値判定部121とは「選択部」に含まれるものとする。
【0085】
以上説明した第6の実施形態によれば、中央演算装置1Eは、パラメータ潮流値の変化、すなわち、時々刻々変化する電力系統の安定度の推移を考慮した今回δピーク値を、推定値ながらも計算することができ、より高精度な判定が可能となるので、バックアップ制御選択に戻る頻度をより一層低減することができる。
【0086】
(第7の実施形態)
以上説明した実施形態はいずれも、前回周期で選択した前回選択結果から選択台数を増減して今回選択結果を求めるものであったが、選択台数の増減の代わりに、制御量を増減させるように選択発電機の組合せを変更する方法も有効である。第7の実施形態では、前回選択-1台選択部107、前回選択±1台選択部107a、107b、107c、107dの代わりに、前回選択結果から制御量が増減する制御対象発電機の組合せを選択する機能を備える。
【0087】
第7の実施形態によれば、他の実施形態のような選択台数の増減に比べて、前回選択結果と今回選択結果の制御量の差について、きめ細かな調整が可能となる。
【0088】
第6の実施形態と組み合わせることにより、第7の実施形態の特徴が活かせる。例えば、発電機δピーク値閾値判定部121の判定閾値を複数レベル持たせておき、δピーク値が比較的小さく安定度に余裕のあるうちは、前回選択結果の制御量からの減少分が大きめになるように制御対象選択の組合せを選択して今回選択結果とする。δピーク値が大きくなり安定度に余裕がなくなってきた場合には、前回選択結果の制御量からの減少分が小さくなるように制御対象選択の組合せを選択して今回選択結果とする。これにより、安定度に余裕がある間は、大きい刻みで最適制御量となる制御対象選択へ寄せていき、安定度に余裕がなくなってきた場合には、小さい刻みで最適制御量となる制御対象選択へ寄せていくことができる。これにより、最適制御量となる選択組合せへ近づけるまでの演算周期の回数を短縮しながら、最適制御量となる選択組合せに近づいた後は滞在時間を長くすることができる。
【0089】
(その他の変形例)
上記の各実施形態においては、中央演算装置は、1回の演算周期において系統解析シミュレーション計算を1回行うものとした。中央演算装置は、1回の演算周期において系統解析シミュレーション計算を2回以上行ってもよい。
【0090】
上記各実施形態では、各機能部はソフトウェア機能部であるものとしたが、LSI等のハードウェア機能部であってもよい。
【0091】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、系統安定化装置が、電力系統から系統情報を取得する取得部と、前記取得部により取得した前記系統情報に基づいて解析用系統モデルを作成する作成部と、前記作成部で作成した前記解析用系統モデルを用いて、前記電力系統に想定事故が生じた場合の系統解析シミュレーション計算を行う計算部と、前記計算部により求められた計算結果に基づいて前記電力系統が安定か不安定か否かを判定する判定部と、前記判定部により安定と判定された場合、制御対象の発電機の組合せを選択して制御テーブルに設定する設定部と、前記取得部、前記作成部、前記計算部、および前記判定部における処理が所定周期で実行される際、それぞれの周期において、前回の周期において前記設定部により前記制御テーブルに設定された前回の制御対象の発電機の組合せから台数を減らすことにより、今回の周期の前記計算部の計算のための制御対象の発電機の組合せを想定事故毎に1組決定する選択部と、を持つことにより、前記計算部は、前記選択部により決定された制御対象の発電機の組合せを遮断した場合の系統解析シミュレーション計算を1回実行する。この構成により、ディジタルリレーのハードウェアを適用し保守負担や費用の低減を実現しつつ、演算周期を短縮し、時々刻々変化する電力系統への追従性を高めることができる。
【0092】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0093】
1、1A、1B、1C、1D、1E…中央演算装置、2…事故検出端末装置、3…制御端末装置、101…系統情報収集部、102…系統モデル作成部、103…事故シーケンス編集部、104…潮流計算・過渡安定度計算部、105…安定度判定部、106…選択対象リスト作成部、107…前回選択-1台選択部、107a、107b、107c、107d…前回選択±1台選択部、108…バックアップ制御目標量算出部、109…バックアップ制御選択部、110…制御テーブル設定部、111…制御対象事故判定部、112…制御指令出力部、113…前回パラメータ潮流値記憶部、114…パラメータ潮流値減少検出部、114a…パラメータ潮流値変化検出部、115…前回発電機δピーク値記憶部、116…ピーク値閾値判定部、118…パラメータ潮流値変化分算出部、119…発電機δピーク値変化分算出部、120…発電機δピーク値推定部、121…発電機δピーク値閾値判定部、125…判定部、126…設定部、130…選択部、140…バックアップ選択部、S…系統安定化システム