(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220719BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20220719BHJP
C04B 24/32 20060101ALI20220719BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C04B28/02
G01N33/38
C04B24/32 Z
C04B22/06 Z
(21)【出願番号】P 2018124957
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三谷 裕二
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-107994(JP,A)
【文献】特開2000-121321(JP,A)
【文献】特開2002-048514(JP,A)
【文献】特開2010-243472(JP,A)
【文献】特開2012-107941(JP,A)
【文献】特開2008-008753(JP,A)
【文献】特開2014-020866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の乾燥収縮ひずみ測定装置E
1
を用いて測定した、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの乾燥期
間28日における乾燥収縮ひずみε
tを用いて、下記(1)式により、JIS A 1129-1~3「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」に準拠して測定した乾燥期間が182日の乾燥収縮ひずみの予測値を算出して乾燥収縮ひずみを予測する、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
<乾燥収縮ひずみ測定装置E
1>
1個以上のレーザー変位計、乾燥収縮ひずみ測定用の
直径が10~20cm、および厚さが5~20mmの供試体を載置するための台座、および、該供試体の位置決め治具、を少なくとも含む、乾燥収縮ひずみ測定装
置
<予測式>
ε
182=0.9×α
t×β
t×ε
t ・・・(1)
ただし、(1)式中、ε
182はコンクリートの乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみの予測値を表し、α
tは表1に記載の乾燥期
間28日の定数
(α
28
)を表し、β
tは表2に記載のaおよびbを係数として含む乾燥期間tを変数とする累乗関数(β
t=a×t
b)を表し、tは乾燥期
間28日を表す。
【表1】
【表2】
【請求項2】
請求項1に記載の乾燥収縮ひずみ測定装置E
1
を用いて測定した、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの乾燥期
間28日における乾燥収縮ひずみε
tを用いて、下記(2)式により、JIS A 1129-1~3「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」-1~3に準拠して測定した乾燥収縮ひずみの終局値の予測値を算出して乾燥収縮ひずみを予測する、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
<予測式>
ε
∞=α
t×β
t×ε
t ・・・(2)
ただし、(2)式中、ε
∞は乾燥収縮ひずみの終局値の予測値を表し、α
t、β
t、tは前記(1)式と同じである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの、JIS A 1129-1~3「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」(以下「JIS法」という。)に準拠して測定した乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみ(以下「乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみ」という。)、またはJIS法に準拠して測定した乾燥収縮ひずみの終局値(以下「乾燥収縮ひずみの終局値」という。)を、短期間で簡易に精度よく予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは引張強度が低いため、コンクリートの収縮によりひび割れ(収縮ひび割れ)が発生する場合がある。この収縮ひび割れは、コンクリート構造物の美観を損なうほか、コンクリートの水密性・気密性の低下や鉄筋の腐食などの、構造物の耐久性が低下する原因にもなっている。したがって、コンクリートの耐久性を確保するには、収縮ひび割れを抑制する必要がある。そして、現在、コンクリートの収縮ひび割れを抑制するための方法として、コンクリートに乾燥収縮低減剤や膨張材を添加する方法がある。
また、この収縮ひび割れの主因はコンクリートの乾燥収縮ひずみであり、コンクリートの収縮ひび割れを効果的に抑制するには、乾燥収縮ひずみを事前に把握する必要がある。
【0003】
従来、コンクリートの乾燥収縮ひずみは、前記JIS法に準拠して測定されている。
また、乾燥収縮ひずみを測定することなく、コンクリートの体積、外気に接する表面積、体積表面積比、相対湿度などのパラメータを含む式に、セメントなどの種類の影響を表す修正係数を含む式を乗じてなる下記の提案式(予測式)が提示されている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、JIS法では、コンクリートの乾燥収縮ひずみの終局値を得るのに1年以上もの長期間を要する。また、前記の提案式は、非特許文献1の付
図2.4中の提案式の図に示すように、予測精度は必ずしも十分とはいえず、また、膨張材を含むコンクリートには適用できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」、日本建築学会編、182頁(提案式)、185頁(付
図2.4)、2006年2月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの、乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみ、または乾燥収縮ひずみの終局値を、短期間で簡易に精度よく予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的にかなう予測方法を検討した結果、特定の乾燥収縮ひずみ測定装置と特定の式を用いれば前記目的を達成できることを見い出し本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記の構成を有する、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの、乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみ、または乾燥収縮ひずみの終局値を予測する方法である。
【0008】
[1]下記の乾燥収縮ひずみ測定装置E
1
を用いて測定した、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの乾燥期
間28日における乾燥収縮ひずみε
tを用いて、下記(1)式により、JIS A 1129-1~3「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」に準拠して測定した乾燥期間が182日の乾燥収縮ひずみの予測値を算出して乾燥収縮ひずみを予測する、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
<乾燥収縮ひずみ測定装置E
1>
1個以上のレーザー変位計、乾燥収縮ひずみ測定用の
直径が10~20cm、および厚さが5~20mmの供試体を載置するための台座、および、該供試体の位置決め治具、を少なくとも含む、乾燥収縮ひずみ測定装
置
<予測式>
ε
182=0.9×α
t×β
t×ε
t ・・・(1)
ただし、(1)式中、ε
182はコンクリートの乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみの予測値を表し、α
tは表1に記載の乾燥期
間28日の定数
(α
28
)を表し、β
tは表2に記載のaおよびbを係数として含む乾燥期間tを変数とする累乗関数(β
t=a×t
b)を表し、tは乾燥期
間28日を表す。
【表1】
【表2】
[2]前記[1]に記載の乾燥収縮ひずみ測定装置E
1
を用いて測定した、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの乾燥期
間28日における乾燥収縮ひずみε
tを用いて、下記(2)式により、JIS A 1129-1~3「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」-1~3に準拠して測定した乾燥収縮ひずみの終局値の予測値を算出して乾燥収縮ひずみを予測する、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
<予測式>
ε
∞=α
t×β
t×ε
t ・・・(2)
ただし、(2)式中、ε
∞は乾燥収縮ひずみの終局値の予測値を表し、α
t、β
t、tは前記(1)式と同じである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法は、レーザーを利用した乾燥収縮ひずみ測定装置を用いて短期間に測定したコンクリートの乾燥収縮ひずみを用いて、乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみ、および乾燥収縮ひずみの終局値を簡易に精度よく予測できるから、乾燥収縮低減剤や膨張材による乾燥収縮ひずみの抑制効果を早期に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】1個のレーザー変位計を有する乾燥収縮ひずみ測定装置E
1の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。
【
図2】2個のレーザー変位計を有する乾燥収縮ひずみ測定装置E
1の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。
【
図3】支持部材の下部の一部を、台座に埋め込んだ状態で設置してなる乾燥収縮ひずみ測定装置E
1の支持部材の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。ただし、
図3では、レーザー変位計の記載は省略した。
【
図4】2個のレーザー変位計を、対向して配置してなる乾燥収縮ひずみ測定装置E
2の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。
【
図5】2個のレーザー変位計を、該レーザー変位計から照射されたレーザーが90°の角度で交差するように配置してなる、乾燥収縮ひずみ測定装置E
2の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。ただし、紙面に対し後方に位置するレーザー変位計の記載は省略した。
【
図6】4個のレーザー変位計を、該レーザー変位計から照射されたレーザーが90°の角度で交差するように配置してなる、乾燥収縮ひずみ測定装置E
2の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。ただし、紙面に対し前方および後方に位置するレーザー変位計は省略した。
【
図7】乾燥収縮ひずみ測定装置E
2に、供試体を載置した様子を示す写真である。なお、(A)の台座の中心にあるピンは支持部材ではなく、台座を固定するためのネジである。
【
図8】前記(1)式を用いて求めたコンクリートの乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみの予測値ε
182と実測値の相関を示す図である。
【
図9】前記(2)式を用いて求めたコンクリートの乾燥収縮ひずみの終局値の予測値ε
∞と実測値の相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記の乾燥収縮ひずみ測定装置E1またはE2を用いて測定した、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの、乾燥期間7日、14日、または28日における乾燥収縮ひずみεtを用いて、前記(1)式により該コンクリートの乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみの予測値、または、前記(2)式により該コンクリートの乾燥収縮ひずみの終局値の予測値を算出して乾燥収縮ひずみを予測する方法である。
以下、本発明について、乾燥収縮ひずみ測定装置、乾燥収縮ひずみの測定方法、および乾燥収縮ひずみの予測方法に分けて詳細に説明する。
【0012】
1.乾燥収縮ひずみ測定装置E
1
乾燥収縮ひずみ測定装置E
1は、
図1~3に例示するとおり、1個以上のレーザー変位計4、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を載置するための台座2、および、該供試体1の位置決め治具3を少なくとも含む装置である。
前記レーザー変位計は、特に制限されず、反射型や透過型等の市販のレーザー変位計が挙げられる。本発明では、レーザー変位計の数を増やせばデータ数が増え、その分、測定精度は向上するが、装置はコスト高になるため、レーザー変位計の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは2~4個である。前記レーザー変位計は、台座上に載置した円板状(
図1~3)または四角板状の供試体の中心に向けてレーザーを照射できるように設置する。レーザー変位計の設置位置は、例えば、
図1や
図2に示す位置が挙げられる。
【0013】
また、台座2は、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を載置するために用いる。台座の形状は、特に限定されず、例えば、
図1~3に示す正方形の板状や、円板状である。また、測定精度の向上のために、台座は水平に保たれていることが好ましい。
さらに、当該台座は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。また、台座は、供試体を支持するための支持部材5を設置してもよい。支持部材を設置すると、供試体と台座の間の熱の移動を遮断または低減できるため、乾燥収縮ひずみの測定精度が向上する。
支持部材の形状は、特に制限されず、
図3に示すような球状(
図3では、支持部材の下部の一部が、台座に埋め込まれている。)や柱状等が挙げられる。なお、支持部材を柱状にする場合は、供試体と点で接触するように、好ましくは、供試体に接する支持部材の面を半球状にする。
支持部材の数は、供試体を安定して載置できるため3点以上が好ましい。なお、支持部材を多くすると装置の製造に手間がかかるため、支持部材の数は3個または4個がより好ましい。また、前記支持部材は、供試体を安定して載置するためには、正三角形または正方形を形成するように設置するのが好ましい。
図3は、支持部材が正方形を形成するように設置した例である。さらに、支持部材は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0014】
位置決め治具3は、供試体の乾燥収縮ひずみを測定する際に、供試体の載置位置を決めて固定するために用いるもので、例えば、
図1や
図2に示すように、台座上に倒立した状態で設置してなる2本のピン等が挙げられる。
図1や
図2では、乾燥期間が0(ゼロ)日の時点における円板状の供試体を台座に載置した場合、円板状の供試体の中心と台座の中心が一致するように、位置決め治具は円板状の供試体の周囲の側面と接触する位置に設置する。なお、当該位置決め治具は、台座上のほかに台座の外側に設置してもよい。さらに、当該位置決め治具は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
また、乾燥収縮ひずみ測定装置(E
1)は、レーザー変位計、台座、および位置決め治具を、基盤を用いて一体化して構成することが好ましい。レーザー変位計、台座、位置決め治具、および、これらを設置するために用いる基盤は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0015】
2.乾燥収縮ひずみ測定装置E1を用いた乾燥収縮ひずみの測定方法
該測定方法は、乾燥収縮ひずみ測定装置E1の台座上に、円板状または四角板状の供試体を、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように載置した後、レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の乾燥収縮ひずみを測る方法である。
供試体が円板状の場合、供試体の直径は、10~30cmであれば、供試体の製造は容易で、また供試体の乾燥が速くなり好ましい。なお、供試体の直径は、より好ましくは10~20cmである。また、供試体の厚さは、5~20mmであれば供試体は割れ難く、また供試体の乾燥がさらに速くなるため好ましい。なお、供試体の厚さは、より好ましくは6~18mm、さらに好ましくは7~15mm、特に好ましくは8~12mmである。
また、供試体が四角板状の場合、四角板の1辺の長さは、好ましくは10~30cm、より好ましくは10~20cmであり、さらに好ましくは、1辺の長さが10~30cmの正方形、特に好ましくは、1辺の長さが10~20cmの正方形である。1辺の長さが10~30cmの正方形であれば、供試体の製造は容易で、また供試体の乾燥が速くなる。また、四角板状の供試体の厚さは、好ましくは5~20mm、より好ましくは6~18mm、さらに好ましくは7~15mm、特に好ましくは8~12mmである。供試体の厚さが5~20mmであれば、供試体は割れ難く、また供試体の乾燥はさらに速くなる。
なお、乾燥収縮ひずみ測定装置E1の台座に支持部材が設置されている場合、該支持部材上に、円板状または四角板状の供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように、該供試体を載置する。
【0016】
前記測定方法では、乾燥期間7日、14日、または28日に、供試体を台座上に載置して乾燥収縮ひずみを測る方法である。そして、乾燥収縮ひずみの測定精度を向上させるため、好ましくは、供試体は円板状であり、該供試体を時計回りまたは反時計回りに回転して、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触した状態で、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を、2回以上、好ましくは3~5回測る。例えば、
図1に示す供試体の点aを測定した後、供試体を時計回りに90°回転して点bを測定し、さらに時計回りに90°回転して点cを測定して、3点の平均値を乾燥収縮ひずみとして求める。
【0017】
また、本発明の測定方法は、乾燥収縮ひずみをより正確に測定するために、乾燥前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の側面の間の距離(L1)を測定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の側面の間の距離(L2)を測定し、L1とL2の差(L1-L2)に基づき乾燥収縮ひずみを求める方法である。
また、前記測定した距離が画面上に表示される測定装置を用いる場合、本発明の測定方法は、乾燥前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の側面の間の距離を測定し、該距離(の表示)をゼロに設定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の側面の間の距離を測定し、乾燥収縮ひずみを求める方法である。
前記金属板(基長板)は、温度の変化による長さの変化が同じになるよう、好ましくは台座と同じ材質の金属であり、熱や衝撃による変形を防止するため、より好ましくはインバー鋼材である。
【0018】
3.乾燥収縮ひずみ測定装置E
2
乾燥収縮ひずみ測定装置E
2は、
図4~7に例示するように、2個以上のレーザー変位計4、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を支持するための3点以上の支持部材5、および、該支持部材の一部を埋設してなる台座2を少なくとも含む装置である。
前記レーザー変位計は、乾燥収縮ひずみ測定装置E
1のレーザー変位計と同じである。また、乾燥収縮ひずみの測定精度が向上するため、レーザー変位計を2個以上設置する。レーザー変位計が1個では、乾燥収縮ひずみの測定精度が低下するおそれがある。また、レーザー変位計を増やせばデータ数が増え、その分、さらに測定精度が向上するが、装置はコスト高になる。したがって、レーザー変位計は、好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個設置する。
【0019】
レーザー変位計は、乾燥収縮ひずみの測定精度が向上し、また、供試体の載置が容易なため、好ましくは、支持部材が形成する正三角形または正方形の中心から等間隔の位置に、レーザー照射面を該中心に向けて設置する。また、乾燥収縮ひずみの測定精度がさらに向上するため、より好ましくは、2~6個の前記レーザー変位計を、該レーザー変位計から照射されたレーザーが60~300°の角度で交差するように配置する。
レーザー変位計を設置する態様は、レーザー変位計を2個設置する場合、例えば、
図4に示すように、レーザー変位計を対向して設置するか、
図5に示すように、レーザーが90°の角度で交差するように設置し、また、レーザー変位計を4個設置する場合、
図6に示すように、2組のレーザー変位計を対向して設置する。
【0020】
乾燥収縮ひずみ測定装置(E2)では、支持部材は必須の治具であり、供試体を台座から離して、供試体と台座の間に空間を設けるために用いる。この空間を設けることにより、供試体は均質かつ早期に乾燥するため、特に、乾燥収縮ひずみを早期に測定できる。
なお、支持部材の形状、数、配置する形(位置の形状)、および材質は、乾燥収縮ひずみ測定装置E1と同じである。
【0021】
台座は、支持部材の一部(下部)を埋設して固定してなるものである。ちなみに、
図4~6に示す台座は正方形の板状であり、
図7に示す台座は円板状である。なお、台座は水平に保たれていることが好ましく、材質はインバー鋼材が好ましいことは、乾燥収縮ひずみ測定装置E
1と同じである。
【0022】
乾燥収縮ひずみ測定装置E
2では、支持部材上への供試体の載置を容易にするため、供試体載置補助治具を用いてもよい。該供試体載置補助治具は、
図7に示すような、台座の外側に設置された2本のピンが挙げられる。
図7の乾燥収縮ひずみ測定装置E
2の支持部材の上に、例えば、直径10cmの円板状の供試体を載置する場合、前記2本のピンと接触するように前記供試体を支持部材の上に載置すれば、供試体の中心と支持部材が形成する正方形の中心が一致するように供試体を載置できる。
なお、供試体載置補助治具は、
図7に示すように台座の外側に設置するほか、台座上に設置してもよい。また、供試体載置補助治具は、熱や衝撃による変形を防ぐため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0023】
乾燥収縮ひずみ測定装置(E
2)もまた、
図4~7に示すように、2個以上のレーザー変位計、台座、および、必要に応じて、供試体載置補助治具を一体化して構成する。また、台座等の材質はインバー鋼材が好ましいことは、乾燥収縮ひずみ測定装置E
1と同じである。
【0024】
4.乾燥収縮ひずみ測定装置E
2を用いた乾燥収縮ひずみの測定方法
該測定方法は、乾燥収縮ひずみ測定装置E
2の支持部材上に、円板状または四角柱状の供試体の中心が、前記支持部材が形成する正三角形または正方形の中心と一致するように載置した後、レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の乾燥収縮ひずみを求める方法である。
例えば、
図7に示すように、乾燥収縮ひずみ測定装置E
2の支持部材(台座上の球状の4点)上に、円板状の供試体を、該供試体の中心と支持部材が形成する正方形の中心が一致するように載置した後(
図7(B))、レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の乾燥収縮ひずみを測る。
なお、前記供試体の形状、大きさ、および厚さは、乾燥収縮ひずみ測定装置(E
1)を用いた乾燥収縮ひずみの測定方法の場合と同じである。
【0025】
前記測定方法は、(a)支持部材上に供試体を載置したままの状態で、供試体を乾燥して、前記所定の乾燥期間に、乾燥収縮ひずみを求める方法と、(b)別の場所で乾燥している供試体を、前記所定の乾燥期間に支持部材上に載置して、乾燥収縮ひずみを求める方法のいずれも可能であるが、作業の手間の低減や測定の精度向上の点から、(a)の方法が好ましい。
以上述べたように、乾燥収縮ひずみ測定装置E1またはE2を用いれば、乾燥収縮ひずみを短期間で精度よく求めることができる。
【0026】
5.乾燥収縮ひずみの予測方法
該予測方法は、前記の乾燥収縮ひずみ測定装置E1またはE2を用いて測定した、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートの、乾燥期間7日、14日、または28日における乾燥収縮ひずみεtを用いて、前記(1)式により、該コンクリートの乾燥期間182日における乾燥収縮ひずみの予測値、または、前記(2)式により、該コンクリートの乾燥収縮ひずみの終局値の予測値を算出して乾燥収縮ひずみを予測する方法である。
ここで、(1)式または(2)式中の、αt(すなわち、α7、α14、およびα28)は、乾燥収縮ひずみ測定装置E1またはE2を用いて測定した、表3に記載の4種類(a~d)の配合のプレーンコンクリート(乾燥収縮低減剤および膨張材を含まないコンクリート)の乾燥期間7日、14日、および28日における乾燥収縮ひずみεt(すなわち、ε7、ε14、およびε28)と、該プレーンコンクリートの乾燥収縮ひずみの終局値ε∞の比(すなわち、α7=ε∞/ε7、α14=ε∞/ε14、およびα28=ε∞/ε28)の、4種類の配合についての平均値である。
なお、表3中の略号はWは水(水道水)、NCは普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、BBは高炉セメントB種(太平洋セメント社製)、MCは中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、LCは低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、Sは細骨材、Gは粗骨材を表す。該S、G、AE減水剤、およびAE剤は、後述する実施例で使用したものと同じである。
【0027】
【0028】
また、(1)式または(2)式中のaおよびbは、乾燥期間t、βt、およびβt=a×tbを用いて、フィッテングにより求めた係数である。ここで、βtは、乾燥収縮低減剤および/または膨張材を含むコンクリートのαtに対するプレーンコンクリート(乾燥収縮低減剤および膨張材を含まないコンクリート)のαtの比(αt /αt(プレーン))である。例えば、乾燥期間7日であれば、β7は、(ε∞/ε7) /(ε∞ (プレーン)/ε7 (プレーン))として算出する。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.乾燥収縮ひずみ測定装置E1を用いたコンクリートの乾燥収縮ひずみの測定
(1)使用材料
(i)普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(ii)細骨材:山砂(表乾密度2.56g/cm3)
(iii)粗骨材:表乾密度2.61g/cm3
(iv)水:水道水
(v)AE減水剤:リグニンスルホン酸系AE減水剤、商品名 ポゾリスNo.70[登録商標]、BASF社製、
(vi)AE剤:商品名 マスターエア404[登録商標]、BASF社製
(vii)乾燥収縮低減剤:太平洋テトラガードAS21(太平洋マテリアル社製)
(vii)膨張材:太平洋ハイパーエクスパン(太平洋マテリアル社製)
【0030】
(2)乾燥収縮ひずみ測定用の供試体の作製
表4に示す配合A~Eに従い、前記の各材料を容量50リッターのパン型ミキサに一括して投入し、2分間混練した後、混練物を内径10cm、高さ20cmの型枠に打設して成形しコンクリートを得た。なお、AE減水剤およびAE剤の使用量は、セメントの単位量と膨張材の単位量(kg/m3)の合計に対して、それぞれ0.25%、0.01%である。
次に、該コンクリートを20℃で1日間湿空養生した後に脱型し、さらに20℃で7日間水中養生した。水中養生した後、コンクリートの高さ方向の中央部付近を切断して、直径10cm、厚さ1cmの乾燥収縮ひずみ測定用の供試体(円盤)を3個作製した。
【0031】
【0032】
(3)供試体の乾燥収縮ひずみの測定
前記乾燥収縮ひずみ測定用の供試体1を、室温20±2℃、相対湿度60±5%の条件で乾燥した。そして、乾燥期間7日、14日、および28日において、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を、該供試体の周囲の側面が、
図1に示す乾燥収縮ひずみ測定装置E
1の位置決め治具3と接触するように台座2に載置した後、レーザー変位計4を用いて、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定した。なお、本実施例では、1個の供試体に対して3箇所(
図1の点a、点b、および点c)でレーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定して、この平均値を当該供試体の乾燥収縮ひずみとして算出し、さらに、この3個の供試体の乾燥収縮ひずみ(平均値)を平均して、乾燥収縮ひずみε
t(すなわち、ε
7、ε
14、およびε
28)を算出した。その結果を表5に示す。
【0033】
【0034】
(4)ε182の算出
表2に記載のaおよびbの値を係数として含む累乗関数βt=a×tbに、乾燥期間t=7日、14日、および28日を代入してβt(すなわち、β7、β14、およびβ28)を算出した。その結果を表6に示す。
【0035】
【0036】
次に、表1中のα
t、表6中のβ
t、および表5中のε
tを用いて、前記(1)式により乾燥材齢182日における乾燥収縮ひずみの予測値ε
182を算出した。その結果を表7に示す。
また、比較のため、JIS法の1つであるJIS A 1129-2「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法 第2部:コンタクトゲージ方法」に準拠して、配合A~Eのコンクリートの乾燥材齢182日における乾燥収縮ひずみを測定(実測)した。その結果も表7に示す。
また、表7に基づき、乾燥材齢182日における乾燥収縮ひずみの予測値ε
182と実測値の相関を
図8に示す。
【0037】
【0038】
(5)ε
∞の算出
表1中のα
t、表6中のβ
t、および表5中のε
tを用いて、前記(2)式により乾燥収縮ひずみの終局値の予測値ε
∞を算出した。その結果を表8に示す。
また、比較のため、JIS A 1129-2「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法 第2部:コンタクトゲージ方法」に準拠して、配合A~Eのコンクリートの乾燥収縮ひずみの終局値を測定した。その結果も表8に示す。
さらに、表8に基づき、乾燥収縮ひずみの終局値の予測値ε
∞と実測値の相関を
図9に示す。
【0039】
【0040】
図8および
図9に示すように、本発明の予測方法により求めた乾燥期間182日の予測値と実測値、および、本発明の予測方法により求めた終局値の予測値と実測値は、いずれも高い相関を有する。
したがって、本発明によれば。乾燥材齢7日、14日、または28日という極めて早期の乾燥収縮ひずみを測定するだけで、乾燥収縮低減剤や膨張材による乾燥収縮ひずみの抑制効果を簡易に精度よく把握できる。
【符号の説明】
【0041】
1 供試体
2 台座
3 位置決め治具
4 レーザー変位計(ただし、黒色の矢印はレーザーを示す。)
5 支持部材