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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】電力設備機器の劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20220719BHJP
   G01H 3/00 20060101ALI20220719BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H3/00 Z
G01R31/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018127989
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020008365
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】平野 太一
(72)【発明者】
【氏名】小貫 素彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀康
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-229762(JP,A)
【文献】特開2011-122853(JP,A)
【文献】特開平09-166483(JP,A)
【文献】特開2010-271073(JP,A)
【文献】特開2011-174765(JP,A)
【文献】国際公開第97/024742(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-99/00
G01H 3/00
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力設備機器の近傍に配設された振動検出手段からの信号を取り込んで処理する集音手段により収集された信号をデジタル信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段によって変換されたデジタル信号を処理して前記電力設備機器の劣化状態を判断する演算処理装置と、予め健全な電力設備機器について収集した機器の発生音を周波数解析して取得したスペクトル分布を記憶した記憶装置と、を備えた電力設備機器の劣化診断装置であって、
前記演算処理装置は、
前記信号変換手段によって変換されたデジタル信号を高速フーリエ変換して前記電力設備機器の発生音を周波数解析して全周波数のスペクトルレベルを算出する周波数解析手段と、
前記周波数解析手段によって算出されたスペクトルレベルと前記記憶装置に記憶されている前記健全な電力設備機器についてのスペクトルレベルとを比較して前記電力設備機器の劣化状態を判断する判定手段と、
を備え
前記電力設備機器は変圧器であり、
前記判定手段は、変電所に入力される交流電圧の周波数がf0である場合に、nを正の整数とすると、前記高速フーリエ変換により算出されたスペクトルの、周波数がn×f0と(n+1)×f0との間のスペクトルレベルにおいて、前記周波数解析手段によって算出されたスペクトルレベルと前記記憶装置に記憶されているスペクトルレベルとのレベル差が所定値以上ある場合に前記変圧器に劣化があると判断することを特徴とする電力設備機器の劣化診断装置。
【請求項2】
電力設備機器の近傍に配設された振動検出手段からの信号を取り込んで処理する集音手段により収集された信号をデジタル信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段によって変換されたデジタル信号を処理して前記電力設備機器の劣化状態を判断する演算処理装置と、予め健全な電力設備機器について収集した機器の発生音を周波数解析して取得したスペクトル分布を記憶した記憶装置と、を備えた電力設備機器の劣化診断装置であって、
前記演算処理装置は、
前記信号変換手段によって変換されたデジタル信号を高速フーリエ変換して前記電力設備機器の発生音を周波数解析して全周波数のスペクトルレベルを算出する周波数解析手段と、
前記周波数解析手段によって算出されたスペクトルレベルと前記記憶装置に記憶されている前記健全な電力設備機器についてのスペクトルレベルとを比較して前記電力設備機器の劣化状態を判断する判定手段と、
を備え、
前記電力設備機器はm個のダイオードを有するブリッジ回路で構成された整流器であり、
前記判定手段は、変電所に入力される交流電圧の周波数がf0である場合に、nを正の整数とすると、前記高速フーリエ変換により算出されたスペクトルの、周波数がm×n×f0とm×(n+1)×f0との間のスペクトルレベルにおいて、前記周波数解析手段によって算出されたスペクトルレベルと前記記憶装置に記憶されているスペクトルレベルとのレベル差が所定値以上ある場合に前記整流器に劣化があると判断することを特徴とする電力設備機器の劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変電所や配電所等の設備機器(以下、電力設備機器)の劣化診断装置に関し、例えば変圧器や整流器の劣化状態を発生音に基づいて診断するのに利用して有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力設備機器のメンテナンスは、変圧器や整流器等の機器種別ごとに定めた一律周期による保全(TBM:時間基準保全)、具体的には所定時間の稼働や所定期間の経過(例えば1年毎)で行うのが一般的であった。また、機器の交換も、例えば耐用年数である30年経過すると実施するようなことが行われていた。
しかし、実際には使用環境や機器の個体差などにより劣化状態は機器ごとに異なる。そのため、劣化の有無に拘わらず検査・取替を行う上記一律周期の保全方式にあっては、無駄な検査が行われることでメンテナンスコストの増大を招く課題がある。従って、設備毎に機器個々の状態を把握しそれに基づいた検査・取替を行う保全(CBM:状態基準保全)が望ましい。
【0003】
変圧器や整流器などの電力設備機器は比較的長寿命であるが更新コストが大きいため、CBMにより適切な更新計画を行うことが望まれる。そのため、運用中の変圧器の劣化傾向を精度よく把握することが求められる。変圧器の劣化傾向の把握には、計測データから統計分析の手法で推定することが考えられる。ただし、この手法による劣化傾向の把握の精度を検証するために、実際に使用されている機器を使用したとすると、劣化までに数10年を要してしまい、計測データの収集が困難である。一方、長寿命の機器に関しては、一般に加速劣化試験が利用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-66435号公報
【文献】特開2012-175794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、電力設備機器の1つである電力用変圧器の余寿命を診断するための技術として、例えば特許文献1に記載されているように、加熱によって変圧器内部の絶縁材の温度を上昇させることで加速劣化させる方法が提案されている。しかし、特許文献1に記載されている発明は、変圧器の温度を上昇させる大型の加熱装置が必要であるとともに、変圧器に対して直接、電圧や電流を印加するものではないため、計測したデータの正確性に欠けるという課題がある。
【0006】
ところで、電力設備機器の多くは音を発生することが知られている。そこで、本発明者らは、機器が発生する音に着目して劣化状態を診断できるのではないかと考え、検討した。そして、電力設備機器のうち変圧器は使用年数が長いもの方が、短いものよりも高周波域の発生音が大きくなる傾向があることを見出した。そこで、変圧器の発生音を収集して、様々な統計的手法を適用して解析を行い、比較的信頼性の高い診断技術を見出し、本発明を提案するに至った。
【0007】
本発明は、上記のような背景の下になされたもので、加熱装置のような大型の装置を用いることなく変圧器や整流器などの劣化状態の診断や、異音を伴う異常を検知することができる電力設備機器の劣化診断装置を提供することにある。
なお、従来、電力設備機器が発生する音に着目して劣化状態を診断する技術としては、例えば特許文献2に記載されている発明があるが、特許文献2の発明は、変圧器が発生する騒音の騒音スペクトルに、基本周波数の奇数倍のピーク周波数が含まれている場合に、変圧器が故障していると判定するものであり、以下の説明から明らかになるように、本発明とは考え方が大きく異なる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
電力設備機器の近傍に配設された振動検出手段からの信号を取り込んで処理する集音手段により収集された信号をデジタル信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段によって変換されたデジタル信号を処理して前記機器の劣化状態を判断する演算処理装置と、予め健全な機器について収集した機器の発生音を周波数解析して取得したスペクトル分布を記憶した記憶装置と、を備えた電力設備機器の劣化診断装置であって、
前記演算処理装置は、
前記信号変換手段によって変換されたデジタル信号を変換して前記機器の発生音を周波数解析して全周波数のスペクトルレベルを算出する周波数解析手段と、
前記周波数解析手段によって算出されたスペクトルレベルと前記記憶装置に記憶されているスペクトルレベルとを比較して前記機器の劣化状態を判断する判定手段と、
を備えるように構成したものである。
【0009】
上記構成を有する劣化診断装置によれば、変電所や配電所などの電力設備内に変圧器などの電力設備機器が発生する音を収集する振動検出手段(マイクロホン)と集音手段(増幅器)とを配設し、集音手段により収集された信号をパーソナルコンピュータのようなデータ処理装置で処理して解析することができるため、大型の装置を設けることなく電力設備機器の劣化状態を診断することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記電力設備機器は変圧器であり、前記判定手段は、前記周波数解析手段によって算出されたスペクトルレベルと前記記憶装置に記憶されているスペクトルレベルとを比較して、所定周波数範囲においてレベル差が所定値以上ある場合に前記機器に劣化があると判断するように構成する。
かかる構成によれば、スペクトルレベルを比較することで、精度よく変電所内の変圧器の劣化状態を診断することができる。
【0011】
また、望ましくは、前記電力設備機器は変圧器であり、
前記周波数解析手段は、高速フーリエ変換を実行可能に構成され、
前記判定手段は、前記変電所に入力される交流電圧の周波数がf0である場合に、nを正の整数とすると、前記高速フーリエ変換により算出されたスペクトルの、周波数がn×f0と(n+1)×f0との間のスペクトルレベルに着目して判定する機能を有するように構成する。
かかる構成によれば、より精度よく確実に変電所内の変圧器の劣化状態を診断することができる。
【0012】
あるいは、前記電力設備機器はm個のダイオードを有するブリッジ回路で構成された整流器であり、
前記周波数解析手段は、高速フーリエ変換を実行可能に構成され、
前記判定手段は、前記変電所に入力される交流電圧の周波数がf0である場合に、nを正の整数とすると、前記高速フーリエ変換により算出されたスペクトルの、周波数がm×n×f0とm×(n+1)×f0との間のスペクトルレベルに着目して判定する機能を有するように構成する。
かかる構成によれば、より精度よく確実に変電所内の整流器の劣化状態を診断することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電力設備機器の劣化診断装置によれば、加熱装置のような大型の装置を用いることなく変圧器や整流器などの劣化状態の診断や、異音を伴う異常を検知することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る電力設備機器の劣化診断装置を用いた劣化診断システムの構成例を示すシステム構成図である。
図2】本発明に係る電力設備機器の劣化診断システムにおける劣化診断処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図3】健全変圧器と異常変圧器に対して印加電圧を段階的に増加させながら印加し、その間の部分放電電荷量を測定する試験による測定条件と結果を示す図である。
図4】(A)は健全変圧器に対して印加電圧を段階的に増加させながら印加して測定した発生音の波形を示す図、(B)は測定した発生音に対してFFT処理をした結果の一部を示す図、(C)はFFT処理結果に基づく最大値と最小値のスペクトル分布を示す図である。
図5】健全変圧器に対して印加電圧を段階的に増加させながら印加して測定した発生音のスペクトルレベルの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電力設備機器の劣化診断装置およびそれを用いた劣化診断システム、劣化診断方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における電力設備機器の劣化状態の診断を行うシステムの構成を示した図である。
図1に示すように、本実施形態のシステムは、変電所10に設けられている各種機器の発生音を検出し電気信号に変換する振動検出手段としてのマイクロホン21と、信号を増幅するアンプやノイズを除去するフィルタなどを備えマイクロホン21からの信号を取り込んで処理する集音装置22と、集音装置22により取り込まれた機器発生音を記録する記憶装置23と、記憶装置23に記憶された機器発生音を読み出して機器の劣化状態を診断する劣化診断装置30などから構成される。
【0016】
変電所10に設けられている診断対象の機器としては、落雷や短絡などの事故発生時に回路を切り離して安全を保つために電流を遮断する遮断器11や、自前の発電所や電力会社から供給される数万Vの交流電圧を鉄道車両の動力源に適した例えば1500Vのような直流電圧に変換する変圧器12、交流を直流に変換する整流器13、直流変流器などにより検出された電流値に基づいて遮断器11を制御する制御機14などがある。一般に、1つの変電所には、遮断器11や変圧器12、整流器13などからなるチャンネル(ユニット)が複数設けられている。そして、これらの機器のうち遮断器11と変圧器12、整流器13の近傍にそれぞれマイクロホン21A,21B,21Cが設けられている。
【0017】
劣化診断装置30は、記憶装置23から読み出された機器発生音をデジタル信号に変換するAD変換器31と、AD変換された音データを統計的に処理したデータや解析用のソフトウェア(解析ツール)等を記憶する半導体メモリあるいは磁気ディスク装置などからなるデータ記憶装置32、データを分析するための演算等を行なう演算処理装置33、キーボードやマウスなどの入力装置34、液晶モニタのような表示装置35などを備えて構成されている。なお、演算処理装置33はマイクロコンピュータのようなデータ処理装置によって、また劣化診断装置30はパーソナルコンピュータのような携帯端末によって構成することができる。
【0018】
本実施形態の劣化診断装置30においては、予め変電所から収集された正常時の機器発生音に基づいて、後述の統計的解析手法(FFT)により正常時データ(スペクトル分布)を作成しておいて、リアルタイムで収集された機器発生音を統計処理して得られたデータと正常時データとを比較して、所定の周波数帯で正常時データよりも所定レベル(例えば6dB)以上の高かった場合に劣化が進んでいると診断できるように構成されている。
次に、劣化診断装置30における診断処理の内容について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0019】
図2の処理においては、先ず集音装置22によりマイクロホン21からの電気信号を読み込む(ステップS1)。この際、集音装置22には、タイマを内蔵させておいて、例えば夜間の列車が走行しない時間帯のような環境雑音の少ない時間帯に、対象機器の発生音を収集して記憶装置23に記録するようにするのが望ましい。また、1回の集音は数分間(例えば2分間)とし、特定の周期で集音を行い記憶する。ここで、「特定の周期」とは、例えば毎日もしくは特定の曜日の日の同じ時間帯などを意味する。
【0020】
次に、劣化診断装置30は、記憶装置23から発生音を読み出してAD変換器31により、例えば51.2kHzのようなサンプリング周波数にてAD変換処理をしてデジタルデータを記憶装置32に記憶する(ステップS2)。なお、集音装置22により収集した機器の発生音をアナログ波形のまま記録する代わりに、AD変換処理をしてデジタルデータとして記憶装置23に記憶しておくようにしても良い。また、ステップS2においては、CD(コンパクトディスク)の規格で定められている44.1kHzのようなサンプリング周波数にてAD変換処理をしても良い。
【0021】
続いて、劣化診断装置30は、演算処理装置33により記憶装置23に記憶されている音データを所定時間単位に区切ってFFT(高速フーリエ変換)処理を行う(ステップS3)。具体的には、例えば0.16秒ごとの音データに対してFFT処理を行う。この場合、ステップS2におけるサンプリング周波数が51.2kHzであれば、約8200個のデータに対してFFT処理を行うこととなる。
また、2分間の収集音データに対して0.16秒ごとに対してFFT処理を行なった場合には、750個のFFT変換データが得られる。
【0022】
次に、劣化診断装置30は、FFT変換後のデータであるスペクトル分布の中から予め機器の種類に応じて決定しておいた所定の周波数に着目して、記憶装置32に記憶されている正常時のデータ(スペクトルレベル)とレベル比較を行い(ステップS4)、収集した機器発生音のレベルが正常時のスペクトルレベルよりも例えば6dB以上大きいか否か判定し(ステップS5)する。そして、6dB以上大きいすなわち「Yes」であれば劣化が進んでいると判断し(ステップS6)、判断結果(劣化あり)を表示装置35へ表示して処理を終了する(ステップS7)。また、ステップS5で、6dB未満すなわち「No」であれば劣化が進んでいないと判断し(ステップS8)、判断結果(劣化なし)を表示装置35へ表示して処理を終了する(ステップS9)。
【0023】
なお、上記着目する周波数は、診断対象機器が変圧器の場合、変電所へ供給される交流電源の周波数をf0とすると、2f0の整数倍の周波数と隣接する2f0の整数倍の周波数の中間の周波数を選択する。例えば、f0=50Hzとすると、2f0の整数倍の周波数は100Hz、200Hz、300Hz、400Hz、500Hz、600Hz、700Hz……であり、隣接する2f0の整数倍の周波数200Hz、300Hz、400Hz、500Hz、600Hz、700Hz、800Hz……であるので、中間の周波数は150Hz、250Hz、350Hz、450Hz、550Hz、650Hz、750Hz……となる。ただし、中間の周波数に限定されるものでなく前後の周波数であっても良い。要するに2f0の整数倍の周波数の近傍を外せばよい。
【0024】
ここで、2f0の整数倍の周波数の中間もしくは前後の周波数を選択するのは、後述するように、2f0の整数倍の周波数には交流電源に起因するピークが出現し、正常のものと正常でないものとの差が表れにくいためである。また、2f0の整数倍の周波数にピークが出現する理由としては、変圧器は交流電流が流れることで磁歪と呼ばれる現象が発生して、変圧器の磁心を構成する磁性体の板が交流電流の1周期の間に、一方の面の外側へ湾曲する現象と他方の面の外側へ湾曲する現象が交互に1回ずつ発生して、湾曲した際にそれぞれ音を出すためであると考えられる。100Hz(2f0)の周波数の音は上記磁歪による基本となる音で、200Hz、300Hz……の周波数の音は倍音である。このような倍音が発生することは、各種楽器の音の解析によって従来から知られている現象である。
【0025】
一方、診断対象機器が、例えば6個のダイオードをブリッジ接続してなる3相交流電圧を直流電圧に変換する6相ダイオード整流器(ブリッジ回路)の場合には、交流電源の周波数をf0とすると、6f0の整数倍の周波数のところに交流電源に起因するピークが出現するので、6f0の整数倍の周波数と隣接する6f0の整数倍の周波数の中間の周波数を選択するのが良い。例えば、f0=50Hzとすると、6f0の整数倍の周波数は300Hz、600Hz、900Hz、1200Hz……であり、隣接する2f0の整数倍の周波数600Hz、900Hz、1200Hz、1500Hz……であるので、中間の周波数は450Hz、750Hz、1050Hz、1350Hz……となる。6f0の整数倍の周波数にピークが出現する理由としては、6個のダイオードが順番にオン、オフするためであると考えられる。なお、ダイオード整流器には、12個のダイオードをブリッジ接続してなる整流器もあり、本発明は、そのような整流器にも適用することができる。
【0026】
次に、図1に示すような構成の劣化診断システムを用いて本発明者らが行なった電力設備機器のうち変圧器の試験結果について説明する。
本発明者らは、同一種類で未使用の変圧器と異常のある2つの変圧器を用意して、それぞれの変圧器に対して、印加電圧を1kV、2kV、3kV、4kV、5kV、6kV、6.6kV、6.9kV、7.2kVのように段階的に増加させながら、それぞれ2分間ずつ電圧を印加し、その間の部分放電電荷量を測定した。なお、異常変圧器のうち一方は、2kVを印加した状態で部分放電電荷量が1000pCを超えたので、4kV以上の電圧印加による測定を中止した。
【0027】
図3に上記試験による測定の結果を示す。同図より、未使用変圧器は、7.2kVを印加しても部分放電電荷量は0であり、健全であることが確認された。一方、異常変圧器1は上述したように、2kV,3kVを印加した状態で部分放電電荷量が1000pCを超えており、かなり劣化が進んでいることが分かった。また、他の異常変圧器2は、4kVを印加した辺りから部分放電電荷量が測定され始め、その後印加電圧が増大するほど測定された部分放電電荷量が増加しており、少し劣化があることが分かった。
【0028】
そこで、次に、上記健全変圧器の近傍にマイクロホンを設置して、上記と同様に、印加電圧を1kV、2kV、3kV、4kV、5kV、6kV、6.6kV、6.9kV、7.2kVのように段階的に増加させながら、それぞれ所定時間(2分間)電圧を印加し、その間の発生音を記録した。そして、これを同一の変圧器に対して10回繰り返すことで、図4(A)に示すように、10個(10試番)の音響群を取得した。
次に、健全変圧器から取得し記録した上記音響群の各音響を再生しながらサンプリング周波数51.2kHzでAD変換を行い、0.16秒ごとにFFT処理を行なった。
【0029】
その結果、図4(B)に示すようなスペクトルレベルが得られた。図4(B)には、0kHzから20kHzまで6.25Hzおきのスペクトルレベルの値の一部が示されている。なお、図4(B)には、発生音をFFT処理の単位である0.16秒で区切った最初のスロットと、2番目のスロットの結果を示しており、実際には、例えば60秒間の発生音についてのFFT処理結果であれば、375スロット分の375個のファイルが形成される。
その後、上記ファイルの中から周波数ごとにスペクトルレベルの最大値と最小値を抽出し、図4(C)に示すようなスペクトル分布を作成した。
【0030】
次に、異常変圧器1の近傍にマイクロホンを設置して、2kVと3kVの電圧をそれぞれ所定時間(2分間)ずつ印加し、その間の発生音を記録した。
続いて、異常変圧器1から取得し記録した上記音響を再生しながらサンプリング周波数51.2kHzでAD変換を行い、0.16秒ごとに0kHzから20kHzまでFFT処理を行なって、375スロット分の375個のファイルを作成した。
その後、上記ファイルの中から周波数ごとにスペクトルレベルの最大値と最小値を抽出し、図4(C)のスペクトル分布に重ねて表示してみたところ、健全変圧器のスペクトル分布と異常変圧器1の特定の周波数におけるスペクトル分布に差異がみられ、異常変圧器1のスペクトルレベルの方が部分的に高くなっていることを確認した。
【0031】
そこで、次に、健全変圧器のスペクトルレベルの最大値と異常変圧器1のスペクトルレベルの最大値について、比較を行なった。図5は、周波数0Hz~1000Hzの範囲における健全変圧器のスペクトルレベルの最大値の変化と異常変圧器に3kVを印加した時のスペクトルレベルの最大値の変化を示したものである。なお、図5において、実線Aは健全変圧器のスペクトルレベルの変化を、また破線Bは異常変圧器1のスペクトルレベルの変化を表わしている。
図5から分かるように、100Hz、……600Hz、700Hz、800Hz、900Hzのところにそれぞれピークが表れており、これらのピークは前述した変圧器の磁心の磁歪現象により発生する音に起因するものである。そして、この波形のピークのところでは、健全変圧器のスペクトルレベルと異常変圧器1のスペクトルレベルとの差について顕著な傾向がみられないことが分かる。
【0032】
一方、点線Cで囲われている600Hzと700Hzの間のところや点線Dで囲われている900Hzと1000Hzの間のところでは、異常変圧器1のスペクトルレベルの方が健全変圧器のスペクトルレベルより高くなっていることが分かる。本発明は、上記のような知見に基づいてなされたものであり、本発明を適用することによって、加熱装置のような大型の装置を用いることなく変圧器の劣化状態を診断することができる。なお、整流器に関しても変圧器と同様に音が発生するので、上記実施例と同様にして発生音を取得してFFT処理を行い、健全な整流器のスペクトルレベルとピークのでないところで比較することによって劣化状態を診断することができる。
【0033】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。例えば上記実施例では、劣化診断の判定基準(しきい値)として6dBを設定しているが、判定基準は6dBに限定されず、対象機器の種類や形式に応じて任意の値を設定することができる。
また、上記実施例では、劣化診断対象機器として変圧器以外の例として6個のダイオードをブリッジ接続してなるダイオード整流器を例にとってについて説明したが、ダイオード整流器には、12個のダイオードをブリッジ接続してなる12相の整流器もあり、本発明は、そのような整流器にも適用することができる。
さらに、上記実施例では、劣化診断対象機器として変圧器と整流器について説明したが、遮断器もスイッチ復帰時にバネの巻き上げ音が発生するので、その際の発生音を収集して劣化診断を行うようにしても良いし、定常時の音を捉えておくことで定期的な集音により劣化診断が可能になると予想される。
【符号の説明】
【0034】
10 変電所
11 遮断器
12 変圧器
13 整流器
21 マイクロホン(振動検出手段)
22 集音装置
30 劣化診断装置
33 演算処理装置
図1
図2
図3
図4
図5