(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】散乱光検出装置、及びそれを用いた非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/47 20060101AFI20220719BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20220719BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G01N21/47 Z
G01N21/27 B
G01N21/65
(21)【出願番号】P 2018223680
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】米山 明男
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-281174(JP,A)
【文献】特開2009-014510(JP,A)
【文献】特開2008-157753(JP,A)
【文献】特開2010-203802(JP,A)
【文献】特開平05-312723(JP,A)
【文献】特開2003-139697(JP,A)
【文献】特開平10-332533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0155735(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/74
G01N 23/00 - G01N 23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を照射光とみなして用い、
該照射光を受けた被検物からのラマン散乱による散乱光を測定した結果に基づいて前記被検物の内部の変化を解析する散乱光検出装置であって、
前記照射光の発生源と、
前記被検物を基準に前記照射光の入射方向に対して鋭角をなす出射方向に配設された第1検出器と、
前記入射方向に対する前記鋭角とは異なる角度の出射方向に配設された第2検出器と、
を備え、
前記散乱光のうち、弾性散乱した光であり、第1波長を有する光を前記第1検出器で測定し、
前記散乱光のうち、非弾性散乱であるラマン散乱した光であり、前記第1波長とは異なる第2波長を有する光を前記第2検出器で測定し、
前記第1検出器と前記第2検出器との出力比率を用いて前記被検物の表面形状の情報をキャンセルしながら定量測定する散乱光検出装置。
【請求項2】
前記照射光は近赤外線である、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項3】
前記被検物の内部の変化として前記被検物の劣化の程度を定量測定する、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項4】
前記被検物から前記第1検出器までの間にハーフミラーを配設し、
該ハーフミラーは前記散乱光を入射して透過光と反射光とに分離し、
前記分離された一方より前記第1波長を有する光が得られ、
前記分離された他方より前記第2波長を有する光が得られる、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項5】
前記第1波長を有する光を優先的に透過する第1光学フィルタと、
前記第2波長を有する光を優先的に透過する第2光学フィルタと、
を備えた、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項6】
前記第1検出器及び前記第2検出器に代えて単一の検出器で兼用し、
該単一の検出器には、
主に前記第1光学フィルタを透過した前記第1波長を有する光を受けて検出する第1検出領域と、
主に前記第2光学フィルタを透過した前記第2波長を有する光を受けて検出する第2検出領域と、
を設けた、
請求項
5に記載の散乱光検出装置。
【請求項7】
前記第1検出器及び前記第2検出器に代えてエネルギー分解検出器を備え、
該エネルギー分解検出器は、前記散乱光を、前記第1波長を有する光と、前記第2波長を有する光と、に分離して測定する機能を有する、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項8】
前記第1検出器に代えた第1光学カメラと、
前記第2検出器に代えた第2光学カメラと、
前記被検物から前記第1光学カメラ又は前記第2光学カメラまでの光路の何れかに配設された光学レンズと、
を備え、
前記第1光学カメラと前記第2光学カメラとの出力比率を用いて前記被検物の表面形状の情報をキャンセルしながら定量測定する、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項9】
前記第1光学カメラと前記被検物との間に配設された第1光学レンズと、
前記第2光学カメラと前記被検物との間に配設された第2光学レンズと、
を備え、
前記第1光学カメラは前記第1光学レンズを通して前記第1波長を有する光を輝度情報で出力し、
前記第2光学カメラは前記第2光学レンズを通して前記第2波長を有する光を輝度情報で出力し、
請求項8に記載の散乱光検出装置。
【請求項10】
前記第1検出器及び前記第2検出器に対する前記被検物の相対角度を変化させる回転装置を有し、
前記第1検出器の出力に対する前記第2検出器の前記出力比率を前記回転装置の回転角度に応じて取得し、
該取得された前記出力比率を再構成処理して断面像を生成する、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項11】
前記第1波長を有する光と、前記第1検出器で測定する光の波長が同じである、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項12】
前記第1波長を有する光の測定値と、前記第2波長を有する光の測定値と、の比率を示す数値をクラスタリング処理した結果に基づいて、
前記被検物の内部の変化を判定する、
請求項1に記載の散乱光検出装置。
【請求項13】
前記被検物は、使用中のボールベアリング、グリス、ゴム製品、樹脂製品、ワイヤ、又はこれらの混合製品であり、前記被検物の内部の変化を解析した結果に基づいて前記被検物の継続使用に対する許認可の合否を判定する、
請求項1~12の何れか一項に記載の散乱光検出装置を用いた非破壊検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱光検出装置、及びそれを用いた非破壊検査装置に関し、特に、近赤外線に代表される光を被検物に照射して反射する散乱光を測定することにより被検物の劣化程度を数値化して知り得る散乱光検出装置、及びそれを用いて被検物を非破壊で検査する非破壊検査装置、に関する。
【背景技術】
【0002】
対象の内部を非破壊で検査するニーズは大きく、医療及び工業分野においてX線、超音波、磁気、レーザ、赤外線など様々な技術が開発されている。例えば、ラマン分光法の原理を応用し、生きたままのサンプルについての測定を可能にした医療機器が知られている(特許文献1)。この医療機器とは異なる工業分野において、もっぱら産業機器の劣化検査の用途で非破壊検査が無限にある。非破壊検査の対象は主に、劣化による内部構造の変化及び内部要素の変質である。質の変化には、サビ、酸化、汚れ、混入、硬化、乾燥、などがあり、これらに起因して対象物に亀裂、空隙、キズ、変色、摩耗などの劣化が生じる。
【0003】
昇降機のベアリングはケース内に封入されているため、交換あるいは修理で分解する際でないと、ベアリングの劣化を直接観察することは難しい。そのため、ベアリングの回転の変化によって生じる振動をベアリングケースの外側で測定することにより、ベアリングの劣化を診断する技術が開発されている(非特許文献1-3)。また、ベアリングに組み込まれた高分解能回転センサ(エンコーダ)から得られる回転情報を用いて、ベアリングに生じる回転の異変を検出する技術も開発されている(非特許文献4)。
【0004】
しかし、ベアリングの異常によって生じる振動は微弱であり、ノイズや周囲の装置から発生する振動などの外乱によって測定が難しい。この課題に対し、ベアリング内でキズや摩擦で発生した鉄粉がグリスに混入する量を磁気で測定する測定器、すなわち、グリス鉄粉濃度計が開発されている(非特許文献5)。
【0005】
また、鉄粉の混入によって生じるグリスの色の変化で劣化を推定する技術、すなわち、メンブランパッチを用いたRGB色相による潤滑油診断技術が開発されている(非特許文献6)。しかし、ベアリングのグリス内に混入する鉄粉量は少量であり、汚れやサビの混入でもグリスの色は変化するため、高精度の測定は難しい。この課題に対して、被検物に近赤外線を照射し、被検物から得られる反射光より散乱を測定し、元の波長からのズレを測定することで、被検物の変質を分子構造の変化として観察可能な散乱光検出装置が開発され、しかも、携行性良好に小型軽量化されたポータブル・ラマン分光モジュールも知られている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/products/category/vib_relate.htm
【文献】http://www.tetsugen.com/product/mhc/
【文献】http://www.iiu.co.jp/seihin.html#EM_diagnosys
【文献】https://www.ntn.co.jp/japan/news/new_products/news201700033.html
【文献】https://www.new-cosmos.co.jp/product/733/
【文献】https://www.pwri.go.jp/jpn/results/2015/tokyosc/pdf/5.pdf
【文献】https://www.hamamatsu.com/jp/ja/product/photometry-systems/raman-spectroscopy/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献7に開示されているポータブル・ラマン分光モジュールをはじめとする従来の近赤外線測定では、波長のズレの量が小さく、被検物の表面形状に起因する散乱光、すなわちノイズが信号に混入するため、測定精度を維持できないという課題があった。本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、信号に混入する形状情報のノイズを除去することにより散乱光測定を高精度化した散乱光検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波のうち何れかに属する電磁波を照射光とみなして用い、該照射光を受けた被検物からの散乱光を測定した結果に基づいて前記被検物の分子構造を解析する散乱光検出装置であって、前記照射光の発生源と、前記被検物を基準に前記照射光の入射方向に対して鋭角をなす出射方向に配設された第1検出器と、前記入射方向に対する前記鋭角とは異なる角度の出射方向に配設された第2検出器と、を備え、前記散乱光のうち、第1波長を有する光を前記第1検出器で測定し、前記散乱光のうち、前記第1波長とは異なる第2波長を有する光を前記第2検出器で測定し、前記第1検出器と前記第2検出器との出力比率を用いて前記被検物の形状情報をキャンセルしながら定量測定するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、信号に混入する形状情報のノイズを除去することにより散乱光測定を高精度化した散乱光検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る散乱光検出装置(以下、「本装置」ともいう)の基本例を示す概念図である。
【
図3】
図2の本装置に対する改良例を示す概念図である。
【
図4】
図1の本装置に対する改良例を示す概念図である。
【
図5】
図4の本装置に対し、検出器をカメラに置き換えた構成例を示す概念図である。
【
図6】
図5の本装置に対する変形例を示す概念図である。
【
図7】
図1~
図6の本装置に共通する変形例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以降、本発明を実施するための形態を、実施例1~実施例7により、それぞれ
図1~
図7を参照して詳細に説明する。
【0013】
(実施例1)
図1は、本発明の一実施形態に係る散乱光検出装置(以下、「本装置」ともいう)の基本例を示す概念図である。
図1に示すように本装置11は、被写体となる被検物4(以下、単に「被検物4」ともいう)4と、被検物4に近赤外線5を照射する光源(以下、「発生源3」ともいう)3と、被検物4から発生する散乱を二手に分離するハーフミラー6と、弾性散乱である第1のエネルギーの波長(以下、「第1波長」ともいう)を持つ光を測定する第1エネルギー検出器(以下、単に「第1検出器1」ともいう)1と、被検物4から発生する非弾性散乱である第2のエネルギーの波長(以下、「第2波長」ともいう)を持つ光を測定する第2エネルギー検出器(以下、単に「第2検出器2」ともいう)2と、により構成されている。
【0014】
被検物4に対して、発生源3とハーフミラー6と第1検出器1及び第2検出器2(以下、2つまとめて「検出器1,2」ともいう)は同じ側に配置される。同じ側に配置されることにより、本装置11を一体化することができ、被検物4の表面に片側から押し当てる形状が可能となる。
【0015】
発生源3から照射された近赤外線5は、被検物4の内部で散乱され、発生源3と同じ側に反射される。散乱光はハーフミラー6で分離され、第1検出器1と第2検出器2に入射する。入射光は検出器で測定される。ハーフミラー6を用いると、散乱光はそのままミラーを通過する透過光7と、直交方向に分離される反射光8の二手に分かれる。直交方向に分離することにより、2台の検出器1,2を近くに配置することが容易になり、本装置11の小型化が可能になる。
【0016】
本装置11において、ハーフミラー6を用いることにより、2種類の波長を持つ光を同時に測定することが可能となり、後述する2種類の光の検出信号の出力比率を正確に求める処理を容易に実行できる。
【0017】
また、検出器1,2にセンサを用いると、検出器1,2が小型になるため、本装置11の小型化と軽量化が可能となり、かつ取扱いが容易になる。これに対し、
図5及び
図6を用いて後述するように、検出器1,2に代えて光学カメラ(以下、単に「カメラ」ともいう)25,26を用いると、出力が画像として得られるため、一度に広い範囲の測定が可能となり、観察が容易になる。
【0018】
ラマン分光法の原理で知られるように、弾性散乱である第1波長を持つ光は、照射された元の近赤外線5からエネルギー変化がなく、被検物4の分子数に比例し、非弾性散乱より一桁大きい。一方、非弾性散乱である第2波長を持つ光は、照射された元の近赤外線5からの波長のズレを生じる。この波長ズレはエネルギーロスであり、被検物4の変質として分子構造の変化や化学状態の変化を表す。しかし、両者は共に形状由来の散乱を含み、特に表面形状の凹凸による散乱を含む。
【0019】
弾性散乱である第1波長を持つ光は第1検出器1で取得され、非弾性散乱である第2波長を持つ光は第2検出器2で取得される。第1検出器1で取得された出力値と第2検出器2で取得された出力値の出力比率を求める。このとき、第1検出器1と第2検出器2とは、被検物4の同一箇所で同時に生じた散乱光をリアルタイムに測定している。このように、同じ発生源3に由来し、第1、第2の異なる波長に分かれた2つの検出出力の出力比率は、被検物4の分子構造が変化しない限り概ね一定に保持されるという原理が作用する。
【0020】
この原理により、両者に共通に含まれる形状情報、すなわち、ノイズをキャンセルできる。その結果、被検物4の表面形状の凹凸情報を除去して、被検物4の内部の質情報のみが得られる。すなわち、第1検出器1と第2検出器2との出力比率を用いて被検物4の形状情報をキャンセルしながら定量測定する。このとき、測定レベルのダイナミックレンジに制約がある場合、測定出力の最大値と最小値を考慮することが好ましい。
【0021】
すなわち、第1検出器1で取得された出力値の方が大きいので、第2検出器2で取得された小さな出力値を第1検出器1で取得された大きな出力値で除算して比を求めると、小さな除算値となる。デジタル演算処理において、取り扱う数値が小さければオーバーフローすることを防ぐ効果がある。その逆に、第1検出器1で取得された大きな出力値を第2検出器2で取得された小さな出力値で除算して比を求めると、大きな除算値となる。デジタル演算処理において、取り扱う数値が大きければ、演算後の値が量子化誤差によりビット落ちすることを防ぐことができる。
【0022】
また、発生源3から照射される光の波長と、第1検出器1の検出波長と、第2検出器2の検出波長は、被検物4及び検出対象に応じて選定される。ここで、発生源3から発生される光の波長と、弾性散乱である第1波長は同じであり、第1検出器1の検出波長も同じとなる。
【0023】
例えば、被検物4がグリスで検出対象が鉄粉である場合、発生源3による照射光5の波長と、第1波長と、第1検出器1の検出波長はグリス用に選定される。一方、第2波長と、第2検出器2の検出波長は鉄粉用に選定される。
【0024】
一例として、被検物4がウレタン製ハンドレールの表面ゴムや、エレベータのカゴ底に付けられている防振ゴムで、検出対象が亀裂である場合、発生源3による照射光5の波長と、第1波長と、第1検出器1の検出波長はゴム用に選定され、第2波長と、第2検出器2の検出波長は亀裂用に選定される。
【0025】
他の例として、被検物4がエスカレータステップの鉄製フレームで、検出対象がサビである場合、発生源3による照射光5の波長と、第1波長と、第1検出器1の検出波長は鉄用に選定され、第2波長と、第2検出器2の検出波長はサビ用に選定される。
【0026】
ここで用いる照射光5を近赤外線とすれば、被検物4の内部まで光が到達でき、内部の変化が測定できる。照射光5にテラヘルツ波やX線を採用すれば、被検物4のさらに内部まで光が到達でき、奥の変化が測定できる。特に、近赤外線5を用いる場合には、被検物4を薄いプレート状にすると、測定が容易となる。なお、本装置11は、産業上実用的な検査器具、特に非破壊検査装置(本検査装置)として採用されて好適である。本検査装置で第1検出器1と、第2検出器2と、より得られた2種類の光の検出信号の出力比率を正確に求め、その出力比率に変化の有無を監視することにより、検査目的を実現できる。
【0027】
(実施例2)
図2は、他の構成例に係る本装置を示す概念図である。
図2に示すように、本装置12では、
図1に示した実施例1に係る本装置11において、2つ必要だった検出器1,2を1台のエネルギー分解型の検出器(以下、「エネルギー分解検出器」又は単に「検出器」ともいう)9にまとめている。この検出器9を用いると、検出器9の内部でしきい値を設定し、入射光を第1エネルギーと第2エネルギーに分離して測定することができる。このようなエネルギー分解型検出器9を用いると、1台で複数のエネルギーが測定可能であることから、検出器9を1台とすることができ、ハーフミラー6も不要となるため、装置12は小型化と軽量化が可能であり、その結果として取扱いが容易となる。
【0028】
(実施例3)
図3は、
図2の本装置12に対する改良例を示す概念図である。
図2に示した実施例2に係る本装置12は高価であるため、
図3を用いて各種の改良例を提案する。
図3に示すように、本装置13では、
図2に示した実施例2に係る本装置12と同様に1台の検出器10を備え、その検出器10の手前にフィルタ21,22を複数枚、並べて配置し、検出器10の検出領域23,24をフィルタ21,22毎に分離する。1台の検出器10で同時に、複数のフィルタ21,22を透過したエネルギーの光を検出することができる。
【0029】
2枚のフィルタ21,22は、以下にいう第1光学フィルタ21と、第2光学フィルタ22である。まず、第1光学フィルタ(単に「フィルタ」ともいう)21は、弾性散乱である第1波長を持つ光を優先的に透過させるものである。また、第2光学フィルタ(単に「フィルタ」ともいう)22は、非弾性散乱である第2波長を持つ光を優先的に透過させるものである。これら、2枚のフィルタ21,22を備えた1台の検出器10によれば、同時に弾性散乱と非弾性散乱を測定できる。このように、検出器10は、検出波長に幅を有するので、第1波長と第2波長の両方を測定できる。
【0030】
このような目的のフィルタ21,22として、短冊状のフィルタ21とフィルタ22とを縞状に貼り合わせた形状も考えられる。あるいは、フィルタ21とフィルタ22を格子状に配置する形状も考えられる。2種類のフィルタ21,22の距離が近いほど、弾性散乱と非弾性散乱の比を求める際に、精度良く比を算出することができる。つまり、同じところに由来して、波長の異なる2つの検出出力の出力比率が変化したか否かを監視することによって、分子構造の変化を知ることが目的だからである。
【0031】
また、2種類のフィルタ21,22を円盤に配設して回転させることで、高速かつ容易にエネルギーの切り替えが可能となる。また、詳細な図示を省略するが、フィルタ21,22の代わりに1枚の偏光フィルタを用いると、その偏光フィルタの傾きを変えることにより、2種類のエネルギーのうち、何れを透過させるか切り替えが可能となる。このように、
図3に示した実施例3に係る本装置13は、検出器10を1台とし、検出器10の手前に切り替え可能なフィルタ21,22を配設した構成である。このフィルタ21,22を何らかの制御機構を用いて切り替えながら2種類のエネルギーを透過させれば、1台の検出器10で複数のエネルギーを測定することが可能となる。
【0032】
(実施例4)
図4は、
図1の本装置11に対する改良例を示す概念図である。
図4に示すように、本装置14では、検出器1,2の手前にそれぞれ光学フィルタ21,22を配設する。上述のように、これらは、被検物4から発生する弾性散乱である第1波長を持つ光を優先的に透過させる第1光学フィルタ21と、被検物4から発生する非弾性散乱である第2波長を持つ光を優先的に透過させる第2光学フィルタ22である。これら2種類のフィルタ21,22で透過するエネルギーを選定するため、検出器側で検出波長を選定する必要がなくなり、第1検出器1と第2検出器2に同じ機能の検出器を用いることができる。つまり、
図2に示した実施例2に係る本装置12で用いたエネルギー分解検出器9のような高価なものを不要にする効果がある。
【0033】
(実施例5)
図5は、
図4の本装置14に対し、検出器をカメラに置き換えた構成例を示す概念図である。
図5に示すように、本装置15では、検出器に代えた光学カメラ25,26を使用するとともに、光学レンズ18も付設して使用する。この光学レンズ18を使用することで、焦点を調整することができるため、被検物4とカメラ25,26の距離を変えてカメラ25,26で撮影される視野の大きさを変更することができる。第1光学カメラ25及び第2光学カメラ26の2つで検出する波長が近い場合には、
図5に示すように、ハーフミラー6の前に1個の光学レンズ18を配設することで、両方のカメラ光学カメラ25,26に対応することができる。本装置15は、光学レンズ18が一つで足りるため小型化できる。
【0034】
(実施例6)
図6は、
図5の本装置15に対する変形例を示す概念図である。
図6に示すように、本装置16でも、
図5に示した実施例5に係る本装置15と同様に、検出器に代えて光学カメラ25,26を使用している。さらに、カメラ25,26毎に専用の光学レンズ27,28を配設して使用する点が異なる。さらに、ハーフミラー6の後ろに2個の光学レンズを配設し、それぞれのカメラに対応させ易い構成である。このように、各々のカメラ25,26に対してレンズ、及びその設定を最適化できるので、高精度の測定が可能である。特に、本装置16は、2つのカメラ25,26で検出する波長の違いが大きい場合に、良好な性能を発揮するので好適である。なお、
図6の本装置16と、
図5の本装置15と、これらのうち一方が基本形で、他方が変形例であるが、何れが基本形であっても構わない。
図5、
図6の装置は、
図4の装置と同様にカメラの前に光学フィルタを設置し、レンズとカメラの間に光学フィルタが設置される形態も可能である。その場合、
図4と同様に、検出器側で検出波長を選定する必要がなくなり、第1検出器1と第2検出器2に同じ機能の検出器を用いることができる。つまり、
図2に示した実施例2に係る本装置12で用いたエネルギー分解検出器9のような高価なものを不要にする効果がある。
【0035】
(実施例7)
図7は、
図1~
図6の本装置11~16に共通する変形例を示す概念図である。
図7に示すように、本装置17では、被検物4を回転させながら、第1波長と第2波長の光を検出する。あるいは、被検物4を固定して、検出装置を回転させながら、第1波長と第2波長の光を検出する。検出装置の形態は、
図1~
図6を用いて上述の実施例1~6に係る本装置11~16(以下、まとめて「検出装置」と略す)のどれにでも適用可能である。第1波長の光と第2波長の光の比を求め、再構成処理を行うことにより、断面像を得ることができ、3次元的な変質の様子を観察することが可能となる。上述した検出装置において、2台の検出器又はカメラ(以下、まとて「カメラ」と略す)を用いる場合、一方のカメラで被検物4の全体を撮影し、他方のカメラで内部観察用の限定領域を撮影することもできる。限定領域のみで第1波長の光と第2波長の光の比を求め、全体像に重ねて表示することにより、被検物4の全体を把握しながら、検出対象の周辺の変質を観察することができる。
【0036】
上述した検出装置は付属の処理機構を有する。処理機構において、第1波長の光と第2波長の光の比の値をクラスタリング処理し、異常あるいは正常の判定を行うことができる。クラスタリング処理には、GMM(Gaussian Mixture Model)やEM(Expectation maximization)アルゴリズムを用いる。非金属は中赤外線及び遠赤外線を吸収し易い特性を持っていることから、第1波長を可視光あるいは近赤外線とし、第2波長を中赤外線あるいは遠赤外線とすると、金属と非金属を区別する際に適する。例えば、非金属であるグリスと、グリスに混入した金属である鉄粉の区別がこれに相当する。被検物4の変質を観察する場合には、被検物4の変質がない領域で求めた第1波長と第2波長の光の比と、被検物4の変質がある領域で求めた第1波長と第2波長の光の比で差が大きいことが望ましい。例えば、被検物4の変質がない領域では第1波長と第2波長の光で差が小さく、被検物4の変質がある領域では第1波長と第2波長の光で差が大きい場合、あるいは、被検物4の変質がない領域では第1波長と第2波長の光で差が大きく、被検物4の変質がある領域では第1波長と第2波長の光で差が小さい場合、あるいは、被検物4の変質がない領域における第1波長と第2波長の光の大小が、被検物4の変質がある領域における第1波長と第2波長の光の大小と逆転する場合、などで実現される。被検物4が鉄製のフレームであり、フレームの腐食や錆や酸化などの変質を観察する場合や、被検物4がゴムであり、紫外線や熱でゴムが固くなった変質を観察する場合が、これに相当する。
【0037】
上述した検出装置では、発生源3からの照射光5について、近赤外線を代表例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。可視光、赤外線、紫外線、X線、マイクロ波、ミリ波、テラヘルツ波、等の様々な波長を持つ波動に適用可能である。それらの場合に応じて、それぞれの発生源3に対し、検出対象とするエネルギーが測定可能な検出器と、検出対象とするエネルギーを透過可能なフィルタを用いる。
【0038】
典型例として、鉄粉混入量に基づく劣化の程度を高精度、かつ定量的に測定することを可能とし、グリスその他の被検物4の質の変化について観察する。そのために、散乱を非弾性散乱のラマン散乱と弾性散乱であるレイリー散乱とに分離して測定し、非弾性散乱と弾性散乱の比を求めることにより、形状情報、すなわちノイズをキャンセルし、定量測定を可能とする。本発明に係る散乱光検出装置(本装置)11~17、あるいは本発明に係る非破壊検査装置(本検査装置)によれば、信号に混入する形状情報のノイズを除去することにより高精度化した散乱光測定を実現できる。以下、本発明の要点を特許請求の範囲に沿って説明する。
[1]
図1~
図7に示す散乱光検出装置(本装置)11~17は、照射光5を受けた被検物4からの散乱光を測定した結果に基づいて被検物4の分子構造を解析するための測定器であるとともに、産業上実用的な検査器具である。被検物4の一例として、ベアリングに封入されたグリスが好適であり、その劣化の程度を判定する検査器具として好適である。
【0039】
本装置11~17で用いる照射光5は、紫外線、可視光線、近赤外線、中赤外線、又は遠赤外線を適用可能である。特に、近赤外線5が好適である。また、本装置11~17の用途によっては、ガンマ線、X線、あるいはマイクロ波のうち何れかに属する電磁波を照射光5とみなして用いても良い。特に、被検物4の深部まで届くほどの透過力を要する用途には、ガンマ線、又はX線が好適である。それ以外の用途には、中赤外線及び遠赤外線が安全簡便で使い勝手が良好である。
【0040】
本装置11~17は、照射光5の発生源3と、第1検出器1と、第2検出器2と、を備えて構成されている。第1検出器1は、被検物4を基準に照射光5の入射方向に対して鋭角をなす出射方向に配設されている。第2検出器2は、入射方向に対する鋭角とは異なる角度の出射方向、例えば、入射方向に対する鈍角をなす出射方向に配設されている。第1検出器1は、照射光5が被検物4で散乱されて発生する散乱光のうち、第1波長を有する光を測定する。第2検出器2は、照射光5が被検物4で散乱されて発生する光のうち、第1波長とは異なる第2波長を有する光を測定する。
【0041】
本装置11~17は、第1検出器1と第2検出器2との出力比率を用いて被検物4の形状情報をキャンセルしながら定量測定する。これら、第1検出器1と第2検出器2とは、被検物4の同一箇所で同時に生じた散乱光をリアルタイムに測定している。このように、同じ発生源3に由来し、第1、第2の異なる波長に分かれた2つの検出出力の出力比率は、被検物4の分子構造が変化しない限り概ね一定に保持されるという原理が作用する。
【0042】
一方、被検物4の形状に変化、例えば、表面うねり等の変化があれば、その形状変化に応じて、散乱光の検出出力も変化するため、被検物4の表面形状に起因する散乱光、すなわちノイズが信号に混入して測定精度を維持できないという課題があった。つまり、被検物4の分子構造の変化を知りたいにも関わらず、表面形状の変化をノイズとして検出してしまうので、このノイズをキャンセルする必要があるという課題である。
【0043】
この課題に対し、上述の原理を応用すれば、信号に混入したノイズをキャンセルできる。すなわち、検出された出力値の絶対値を監視するのでなく、同じところに由来して、波長の異なる2つの検出出力の出力比率が、ある基準に対して変化したか否かを監視すれば、分子構造の変化を知ることが可能である。その結果、出力比率を用いて被検物4の形状情報をキャンセルしながら定量測定できるという作用効果が得られる。
【0044】
[2]
図1~
図7に示す本装置11~17において、第1波長を有する光は弾性散乱であり、第2波長を有する光は非弾性散乱である。これにより、本装置11~17は、被検物4に対し、ラマン分光法の原理を応用して、分子構造の変化を知ることが可能である。
【0045】
[3]
図1,
図4~
図7に示す本装置11,14~17は、さらに、ハーフミラー6が、被検物4から第1検出器1までの間に配設されている。このハーフミラー6は、散乱光を入射して透過光7と反射光8とに分離し、分離された一方より第1波長を有する光が得られ、分離された他方より第2波長を有する光が得られる。このように、被検物4との間にハーフミラー6を介在させた第1,第2検出器1,2は、被検物4の同一箇所で同時に生じた散乱光、すなわち同じ発生源3に由来し、第1、第2の異なる波長に分かれた2つの検出出力をリアルタイムに測定するように構成されている。これによって、出力比率を用いて被検物4の形状情報をキャンセルしながらの高精度な定量測定がより確実に実現する。
【0046】
[4]
図3及び
図4に示す本装置13,14は、さらに、第1光学フィルタ21と、第2光学フィルタ22と、を備えている。第1光学フィルタ21は、第1波長を有する光を優先的に透過する。第2光学フィルタ22は、第2波長を有する光を優先的に透過する。これにより、入射光と同じ波長(レイリー散乱光)と、極わずかな成分として、入射光と異なった波長をもつ光(ラマン散乱光)と、を容易かつ確実に選別できる。その結果、ラマン散乱光の振動数が、分子の固有振動数になっているラマン効果に基づく高精度な定量測定がより確実に実現する。
図5及び
図6に示す本装置15,16に第1光学フィルタ21と第2光学フィルタ22を備えることで、同様の効果が得られる。
【0047】
[5]
図3に示す本装置13は、第1検出器1及び第2検出器2に代えて単一の検出器10で兼用した。この単一の検出器10は、第1検出領域23と、第2検出領域24と、を設けて2つ分の機能を発揮するように構成されている。第1検出領域23は、主に第1光学フィルタ21を透過した第1波長を有する光を受けて検出する。第2検出領域24は、主に第2光学フィルタ22を透過した第2波長を有する光を受けて検出する。現状において、検出器と光学フィルタと、それぞれの価格を比較すると、検出器の方がはるかに高価である。高価な検出器であるならば、装置1台につき2個使いするよりも、このような工夫次第で1個使いに簡略化した構造にすることで、本装置13をより安価に提供できる。
【0048】
[6]
図2に示す本装置12は、第1検出器1及び第2検出器2の代わりに、1個のエネルギー分解検出器9を備えた構成である。このエネルギー分解検出器9は、第1、第2光学フィルタ21,22やハーフミラー6を用いることなく、分散光を、第1波長を有する光と、第2波長を有する光と、に分離して測定する機能を有する。これにより、装置1台の構成としては、上記[5]の本装置13(
図3)から、第1、第2光学フィルタ21,22を省略できるため一層簡略化できる。ただし、現状で本装置12に必要不可欠なエネルギー分解検出器9は、上記[1]~[4]で用いた第1、第2検出器21,2はおろか、上記[5]の本装置13(
図3)で用いた単一の検出器10よりも、はるかに高価である。したがって、
図2に示す本装置12は、小型軽量化の要望に応じる場合のみにメリットが認められる。さらに、本装置12は、第1波長の光と第2波長の光を同じ配置で位置ズレなく検出できるため、両者の比を正確に求めることができ、高精度の計測が可能である。
【0049】
[7]
図5に示す本装置15は、第1検出器1を第1光学カメラ25に置き換えても良く、その場合は、同様に第2検出器2を第2光学カメラ26に置き換えるように構成される。また、被検物4から第1光学カメラ25又は第2光学カメラ26までの光路の何れかに光学レンズ18が配設されている。これら、第1、第2の光学カメラ21,22は、第1、第2波長を有する光をとらえて、それぞれの輝度情報を出力する。本装置15は、第1、第2の光学カメラ21,22の出力比率を用いて被検物4の形状情報をキャンセルしながら定量測定する。
【0050】
なお、
図5に示す本装置15は、
図6に示して後述する本装置16の変形例と考えられる。すなわち、本装置16において、2組必要だった第1、第2の光学レンズ27,28に代えて、光学レンズ18を被検物4とハーフミラー6との間に1組だけ配設した構成である。透過光9と分離光8とでは、波長が異なるため、1つの光学レンズ18では、焦点距離も違う。それに対応した各部の配置を考慮することにより、異なる波長別の光路にも全体的な合焦維持も可能である。
【0051】
[8]
図6に示す本装置16は、上記[7]の構成において1つだけだった光学レンズ18を2つに増やしている。すなわち、第1、第2の光学カメラ25,26には、第1、第2の光学レンズ27,28がそれぞれ専用に付設されている。第1光学レンズ27は、第1光学カメラ25と被検物4との間に配設されている。同様に、第2光学レンズ28は、第2光学カメラ26と被検物4との間に配設されている。このように、異なる波長別の光路毎に専用のレンズを配設する本装置16は、設計が容易で安定した動作が期待できるので、より高精度な測定結果が得られる。
【0052】
[9]
図7に示す本装置17は、上記[1]~[7]の本装置(
図1~
図6)に共通する変形例として、それらに回転装置29を付設している。この回転装置29は、第1、第2検出器21,22に対する被検物4の相対角度を変化させる機能を有する。これにより、本装置70は、第1検出器1の出力に対する第2検出器2の出力比率を、回転装置29の回転角度に応じて取得できる。このように取得された出力比率を再構成処理して断面像に生成することが可能である。このようにして取得された断面像は医療器具でいうCTスキャンにも似た高度な診断機能を有し、より適格な診断結果を得ることが可能である。なお、本装置17は、第1、第2検出器21,2に代えて第1、第2の光学カメラ21,22を用いた場合も同様である。
【0053】
[10]本装置11,14~17は、第1波長を有する光と、第1検出器1で測定する光の波長を同じに統一している。これにより、高精度な測定結果を効率的に得ることが可能となる。
[11]本装置11~17は、照射光5として近赤外線を採用することが好ましい。この結果、汎用性を高められるので、より広範囲な測定用途に適用可能となる。特に深部への透過性を要する場合でなければ、ガンマ線やX線に比べて発生源3を簡便に構成できる上、被曝等の危険も少なくて済む。
【0054】
[12]本装置11~17は、第1波長を有する光の測定値と、第2波長を有する光の測定値と、の比率を示す数値をクラスタリング処理した結果に基づいて、被検物4の内部又は深部における分子構造の変化を判定する。これにより、高精度で適格な測定結果を得ることが可能となる。
【0055】
[13]本発明に係る不図示の非破壊検査装置(以下、「本検査装置」ともいう)は、上記[1]~[12]の何れかに記載の散乱光検出装置(本装置)11~17を用いて構成されている。これによる非破壊検査装置において、被検物4は、使用中のボールベアリング、グリス、ゴム製品、樹脂製品、ワイヤ、又はこれらの混合製品に適用可能である。これら被検物4の分子構造を解析した結果に基づいて被検物4の継続使用に対する許認可の合否を判定することが可能である。また、この非破壊検査装置を新品に適用することにより、出荷時の検査や初期不良の検出に使用することが可能である。
【0056】
また、ボールベアリングに封入されたグリスの非破壊検査については、含油スペースの一端の小穴から新鮮なものを圧入し、その圧力で使用中のものを他端の小穴から押し出して検査に供する。押し出された被検物4は、専用の透明ケースに満たされた状態で、本装置11~17により散乱光検出されるか、又は本検査装置で非破壊検査されることにより、非破壊検査の目的を達成できる。なお、検査目的でグリスを出し入れする上記小穴は開閉自在であり、通常円転中に閉鎖されていることは言うまでもない。
【0057】
上述したように、本装置、及び本検査装置によれば、例えば、近赤外線に代表される光を用いて、対象の内部の変質を非破壊で検査することが可能となる。特に、昇降機のベアリングのグリスの劣化やグリス内の混入した鉄粉量の測定、ウレタンハンドレールの表面ゴムの劣化やウレタン内の亀裂の測定、防振ゴムの摩耗劣化やゴムの硬化の測定、フレーム材やワイヤの摩擦劣化やサビの測定を高精度に実施することができる。これにより、高精度な点検及び点検結果の判定の自動化が可能となり、メンテナンスの作業時間を短縮すると共に、メンテナンスの質を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、昇降機のベアリングそのもの、それに用いるグリス、エスカレータのウレタンハンドレール、防振ゴム、フレーム材、ワイヤ、及び電線の被覆等に対する劣化程度や継続使用を可否判定する装置として採用される可能性がある。
【符号の説明】
【0059】
1 第1(エネルギー)検出器
2 第2(エネルギー)検出器
3 (光線/電磁波)発生源
4 被検物(被写体)
5 近赤外線
6 ハーフミラー
7 透過光
8 反射光
9 エネルギー分解検出器
10 (エネルギー)検出器
11~17 散乱光検出装置(本装置)
18 (光学)レンズ
21 第1光学フィルタ
22 第2光学フィルタ
23 第1(エネルギー)検出領域
24 第2(エネルギー)検出領域
25 第1(光学)カメラ
26 第2(光学)カメラ
27 第1(光学)レンズ
28 第2(光学)レンズ
29 回転装置