IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アロトロピカ・テクノロジーズ・インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】全芳香族高性能ブロック共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20220719BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20220719BHJP
   C08G 69/12 20060101ALI20220719BHJP
   C08G 69/44 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/06
C08G69/12
C08G69/44
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018551182
(86)(22)【出願日】2017-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 NL2017050197
(87)【国際公開番号】W WO2017171547
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-09
(31)【優先権主張番号】2016513
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】515288096
【氏名又は名称】アロトロピカ・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テオドルス・ヤコブス・ディンゲマンス
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-534496(JP,A)
【文献】特表2007-512356(JP,A)
【文献】特開昭62-116626(JP,A)
【文献】特開平02-102227(JP,A)
【文献】特表2004-509190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00
C08G 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種の非潜在的芳香族モノマーと潜在的芳香族モノマーを含む溶融物を溶融重縮合する工程を含み、ここで非潜在的芳香族モノマー及び潜在的芳香族モノマーとは、潜在的芳香族モノマーの最も低いpKa値が、非潜在的芳香族モノマーのより低いほうのpKa値よりも少なくとも0.5低いという条件を満たす芳香族モノマーをいう、液晶ブロックコポリマーの製造方法であって、
前記コポリマーがポリエステル、ポリアミド、又はポリ(エステル-アミド)であり、かつ前記芳香族モノマーがそれぞれ独立に式HO 2 C-Ar-X(その塩及び誘導体を含む)で表され、式中、Arは芳香族基であり、Xはそれぞれ独立にOH又はNH 2 であり、かつ、
モノマーの総量に対して潜在的芳香族モノマーの量が22~51モル%である、
液晶ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記潜在的芳香族モノマーが、その芳香族基にある電子求引性基を含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記非潜在的芳香族モノマーが、HO2C-Ar-Xで表される構造(その塩及びその誘導体を含む)を有し、式中、Xはそれぞれ独立にOH又はNH2であり、Arは、
【化1】
からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記潜在的芳香族モノマーが、HO2C-Ar-Xで表される構造(その塩及びその誘導体を含む)を有し、式中、Xはそれぞれ独立にOH又はNH2であり、Arは、
【化2】
からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記潜在的芳香族モノマーが、以下の
【化3】
(式中、XはOH又はNH2である)
並びにそれらの塩及び誘導体からなる群から選択される1つ以上の化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶融物が、末端キャップ化合物をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
非潜在的芳香族モノマー及び潜在的芳香族モノマーから誘導される構造単位を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる液晶ブロックコポリマー。
【請求項8】
液晶ブロックコポリマーが液晶ABA-トリブロックコポリマーである、請求項に記載の液晶ブロックコポリマー。
【請求項9】
Aブロックが共に、ブロックBを形成している芳香族モノマーよりも潜在性である芳香族モノマーから形成されている、請求項に記載の液晶ブロックコポリマー。
【請求項10】
末端キャップをさらに含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の液晶ブロックコポリマー。
【請求項11】
2つのガラス転移温度を有する、請求項7~10のいずれか一項に記載の液晶ブロックコポリマー。
【請求項12】
外部熱刺激の適用時の回復可能な変形のための形状記憶材料としての、請求項7~11のいずれか一項に記載の液晶ブロックコポリマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能ポリマーの分野にある。本発明は、特に、高性能ブロック共重合体、及び溶融重合によるその製造を目的としており、その高性能ブロック共重合体は好ましくは高性能液晶ブロック共重合体である。
【背景技術】
【0002】
高性能ポリマー(High-performance polymer, HPP)は、航空宇宙、エレクトロニクス、及びその他の産業において様々な用途に使用されている。「高性能」という用語は、過酷な環境に曝したときの非常に優れた安定性、及び汎用ポリマーの特性を上回る特性をいう。高性能ポリマーは、典型的には、全芳香族(複素環式)モノマー、すなわち高いsp結合特性を有し、好ましくは、弱いsp結合をわずかしか又は全く含まないモノマーに基づく。従来の高性能ポリマー、例えば、 ポリ(4-オキシベンゾエート)及びポリ(6-オキシ-2-ナフトエート)は、分解温度(Tdec)よりも高い融点(Tm)を有し、通常は難溶性である。従って、それらは加工することが困難である。
【0003】
従来の高性能ポリマーに関連する問題のいくつかを克服するために、液晶ポリマー(本明細書ではLCポリマー又はLCPともいう)が高性能ポリマーとして開発されている。LCポリマーは、その分解温度よりも低い融点を示し、したがって、より容易に加工される。LCPは、溶液中又は溶融相中で高次の分子配列をとることができるHPPである。
【0004】
LCPは、一般に、重縮合によって調製され、重縮合には、溶融重縮合、溶液重縮合、固相重縮合などが含まれる。好ましい方法は、典型的には溶融重縮合であり、なぜならこの方法は、重縮合が完了した後に溶媒の除去を必要としないからである。溶融重縮合において、重合は溶融相中で起こり、すなわち溶融した反応原料が重合する。
【0005】
重縮合によって製造された市販されているLCPの例は、ランダムに分布した4-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸に基づくVectra(登録商標)である。
【0006】
この分野では、溶融重縮合中に、溶融物中に存在する全ての反応原料は、ほぼ同じ反応性を有すると考えられている。この原理は、「等反応性原理」と呼ばれている。結果として、2種以上のモノマーを含む溶融物の重縮合により、ランダムコポリマーを生じ、すなわち、モノマーはベルヌーイ統計にしたがって鎖に沿ってランダムに分布している。等反応性原理によれば、選択された分子構造、例えば、鎖(ブロック)に沿った特定のモノマー単位の配列は達成することが困難であり、なぜなら、縮重合におけるすべての工程が等しい速度定数を有するからである。したがって、ブロックコポリマーなどの選択された分子構造の調製方法は、現在、一般に、ブロックのそれぞれを明示的かつ別々に調製するという、労力のかかる段階的なポリマー構築に基づいている。
【0007】
例えば、Hoffmannらは、High Perform. Polym. 2004, 3-20に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリスルホン(PSU)オリゴマーの別個の調製と、続いてのそれらのエステル交換反応による、PEEKとPSUの(AB)n-型ブロックコポリマーの調製を記載している。しかしながら、このプロセスは煩雑であり、再現するのが難しく、広範囲に適用することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hoffmannら, High Perform. Polym., 2004, 3-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に、高性能ブロック共重合体、及び溶融重合によるその製造を目的としており、その高性能ブロック共重合体は好ましくは高性能液晶ブロック共重合体である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、本発明者は、溶融重縮合において潜在的モノマーを使用することにより、液晶ブロックコポリマーを非常に容易に得ることができることを発見した。この原理は、多段階、トランス重合、及び/又は鎖延長の必要なしに、液晶ブロックコポリマーの容易な調製を可能にする。
【0011】
したがって、本発明の第1の側面は、少なくとも2種の非潜在的芳香族モノマー及び潜在的芳香族モノマーを含む溶融物の溶融重縮合を含む、液晶ブロックコポリマーの製造方法を目的とする。
【0012】
共重合体の全てのモノマーが溶融状態にあるので、本溶融重縮合は、ワンポット溶融重縮合とよぶことができる。驚くべきことに、このワンポット溶融物は、(高度に)組織化されたポリマーブロック構造をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、潜在的モノマーとしてのN-(3’-ヒドロキシフェニル)トリメリトイミド(IM);非潜在的モノマーとしての6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)及び4-ヒドロキシ安息香酸(HBA)、並びに末端キャップ化合物としてのN-(4-カルボキシフェニル)-4-フェニルエチニルフタルイミド(PE-COOH)及びN-(4-アセトキシフェニル)-4-フェニルエチニルフタルイミド(PE-OAc)の溶融重合を示す。
図2図2は、ブロック(x軸)当たりの潜在的モノマー(y軸)の分布及び存在を示す。
図3図3は、20℃/分の加熱速度を用いた、ポリマーの第1及び第2の加熱走査を示す。
図4図4は、LCポリ(エステルイミド) 22IM-73IMの溶融プレスフィルムのDMTA分析の結果を図示している。
図5図5は、反応性末端キャップを含むLCポリ(エステルイミド)(22IM-5K及び22IM-9K)並びに比較としてLCポリ(エステルイミド) 22IMのDMTA分析の結果を示している。
図6図6は、後処理後の、反応性末端キャップを含むLCポリ(エステルイミド) 22IM-5KのDMTA分析の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「潜在的」及び「非潜在的」モノマーという用語は、これらのモノマーの相対的な反応性を示している。潜在的芳香族モノマーは、(最初は)非潜在的芳香族モノマーよりも重縮合においてより遅く反応する。したがって、低い(初期の)反応温度においては、潜在的芳香族モノマーは本質的に非反応性であるか、又は非潜在的モノマーよりも少なくともかなり反応性が低い。以下においてさらに説明するように、潜在的モノマーは、重縮合の後のほうの段階において、反応混合物の温度上昇によって活性化される(すなわち、それらは重縮合反応において反応を開始する)と考えられる。
【0015】
本発明のコポリマーは、好ましくは90%より多く、好ましくは約100%の芳香族モノマーを含む。潜在的芳香族モノマー及び非潜在的芳香族モノマーは、本明細書において、それぞれ潜在的及び非潜在的モノマーともいわれる。
【0016】
理論に束縛されることを望まないが、本発明者は、液晶(LC)ブロックコポリマーは以下のように形成され得ると考えている。重縮合の開始時に、この非潜在的モノマーの比較的高い反応速度のために、非潜在的芳香族モノマーを主として含むオリゴマー(二量体、三量体など)が形成される。その後、重縮合反応の初期段階において、溶融物中で潜在的芳香族モノマーから非潜在的芳香族モノマーの相分離が起こることができ、このことが潜在的モノマーと非潜在的モノマーとの反応をさらに阻む。重縮合中に温度が上昇するにつれて、潜在的芳香族モノマーも反応し、オリゴマーを形成し始める。しかしながら、相分離のために、潜在的芳香族モノマーは他の潜在的芳香族モノマーと主に反応し、一方で非潜在的芳香族モノマーは他の非潜在的芳香族モノマーと主として反応する。このようにして、大部分の潜在的モノマーを含むブロック(潜在的モノマーリッチブロック)及びほとんどの非潜在的芳香族モノマーを含むブロック(潜在的モノマーが少ないブロック)が形成される。重縮合の後期の段階において、温度がさらに上昇すると、AブロックとBブロックとの縮合が起こり、(AB)-含有ブロックコポリマー又は(AB)nマルチブロックコポリマーが形成される。
【0017】
この方法は、潜在的芳香族モノマーと組み合わせた少なくとも2種の非潜在的芳香族モノマーに基づく。このようにして、上記の理論に基づいて、その少なくとも2種の非潜在的芳香族モノマーは異方性(液晶性)溶融相を形成することができ、一方、潜在的芳香族モノマーは等方性溶融相を形成することができる。異方性(アニソトロピック)及び等方性(アイソトロピック)溶融相の組み合わせは、典型的には混和せず、相分離を促進すると考えられる。
【0018】
好ましい態様では、潜在的芳香族モノマーは非メソゲン性であり、それは潜在的芳香族モノマーが重縮合中に溶融物中に液晶相を形成しないことを意味する。典型的な非メソゲン芳香族モノマーは、重縮合反応において反応する1つ以上の基を含む芳香族部分の少なくとも1つの上でパラ置換されていない芳香族モノマーである。したがって、好ましくは、潜在的芳香族モノマーは、重縮合反応において反応する基を含む少なくとも2つのオルト及び/又はメタ位に置換した置換基を含む芳香族部分を含む。理論に縛られることを望まないが、本発明者は、潜在的芳香族モノマーの好ましい非メソゲン性が、非潜在的芳香族モノマーからの潜在的芳香族モノマーの相分離を容易にすると考えている。
【0019】
逆に、非潜在的芳香族モノマーは、好ましくはメソゲン性であり、これは、非潜在的芳香族モノマーが、重縮合中に溶融物中に液晶相を形成することを意味する。典型的なメソゲン性芳香族モノマーは、重縮合反応において反応する1つ以上の基を含む芳香族部分の少なくとも1つ、好ましくは全てにおいてパラ置換された芳香族モノマーである。したがって、好ましくは、非潜在的芳香族モノマーは、重縮合反応において反応する基を含む少なくとも2つのパラ位置換した置換基を含む芳香族部分を含む。理論に拘束されることを望まないが、本発明者は、非潜在的芳香族モノマーの好ましいメソゲン性が、非潜在的芳香族モノマーからの潜在的芳香族モノマーの相分離を促進すると考えている。
【0020】
少なくとも1つの非メソゲン性潜在的芳香族モノマーと組み合わせて少なくとも2つのメソゲン性非潜在的芳香族モノマーとすることにより、特に良好な結果が得られる。少なくとも2つの非潜在的モノマーの好ましいメソゲン性は、非潜在的モノマー及びそれらのオリゴマーの異方性溶融物をもたらすと考えられる一方で、潜在的モノマー及びそのオリゴマーの好ましい非メソゲン性は、 等方相をもたらすと考えられる。異方性(アニソトロピック)及び等方性(アイソトロピック)相の存在は、重縮合の初期段階のあいだに相分離を促進すると考えられる。
【0021】
結晶化したオリゴマー/ポリマーは重合反応にそれ以上関与することができないので、オリゴマー及び/又はポリマーの結晶化は、溶融重縮合の間、典型的には最小化されるべきであり、好ましくは回避されるべきである。そのように、異なる構造を有する少なくとも2種の非潜在的芳香族モノマーが重縮合の開始時に存在して、プロセスの初期段階において、これらの非潜在的芳香族化合物のコオリゴマー及び/又はコポリマーが形成されることが必要である。
【0022】
本明細書で使用する「ブロック」という用語は、任意の長さのポリマーのサブ構造(substructure)を指す。ポリマー技術の分野では、長いポリマーのサブ構造はしばしばブロックとよばれ、短いサブポリマー構造はしばしばセグメントとよばれる。これらの従来の意味の両方とも、用語「ブロック」に含まれると理解される。
【0023】
「ポリマー」及び「コポリマー」という用語は、任意の長さのポリマー構造を指す。ポリマー技術の分野では、長いポリマー構造はしばしばポリマーとよばれ、一方、短いポリマー構造はしばしばオリゴマーとよばれる。これらの従来の意味の両方とも、「ポリマー」及び「コポリマー」という用語に含まれると理解される。
【0024】
ブロックコポリマーの形成は、潜在的モノマーの潜在特性と、Aブロック及びBブロックの相分離に起因しうる。相分離は、化学的に異なる種類のモノマーからなる従来のポリマーのブレンドにおいて典型的に観察される現象である。しかしながら、2種以上のモノマーを重合前に溶融物中でブレンドする場合、モノマーは典型的には相分離しないと一般に考えられる。このように、等しい反応性を有する2種類以上のモノマーの重縮合の際に、モノマーのブロックは形成されず、むしろモノマーの統計的な分布が上に記載したように得られる。しかしながら、一方のモノマーが潜在的モノマーである場合には、相分離が起こり、何故なら、オリゴマーが他方の(より速く反応する)モノマー(ここでは非潜在的芳香族モノマーという)から形成され、その非潜在的芳香族オリゴマーの物理特性は潜在的モノマー及びそのオリゴマーの物理特性とは異なるからである。
【0025】
驚くべきことに、ポリエステル及び/又はポリアミド(ポリエステル、ポリアミド、及びポリ(エステルアミド))を含む液晶ブロック共重合体でさえ、本発明による方法で製造することができることが判明した。ポリエステルを含むLCブロックコポリマーは、ポリエステル骨格がエステル交換を受ける傾向があり、それによって区別可能なブロックが消失し、モノマーの統計的分布が生じるところまでモノマー及びブロックのランダム再分配が生じる可能性があるので、特に調製するのが困難であると考えられている。しかし、理論に縛られることを望むことなしに、本発明の方法については、(初期の)相分離-エステル交換は、一般に各相及びブロックタイプ内でのみ起こり、その結果、相及びブロックタイプ間でのエステル化は起こらないと考えられる。このように、エステル交換反応は、典型的には、モノマーの再分配及び識別可能なブロックの喪失をもたらさない。
【0026】
したがって、本発明の特定の実施形態は、コポリエステル、コポリアミド、又はコポリ(エステルアミド)を含むコポリマーを目的としており、その芳香族モノマーはそれぞれ、式HO2C-Ar-Xに従うモノマーであり、式中、Arは芳香族基であり、XはOH又はNH2である。
【0027】
芳香族モノマーが式HO2C-Ar-Xに従う実施形態では、潜在的モノマーの潜在性の程度は、その最も低いpKa値(すなわち、そのカルボン酸部分のpKa値)対 非潜在的芳香族モノマーの最も低いpKa値の差として表すことができる。好ましい実施形態においては、潜在的芳香族モノマーの最も低いpKa値は、非潜在的芳香族モノマーのより低いほうのpKa値よりも少なくとも0.5低い。モノマーのpKa値の差は、予測ソフトウェア(例えば、Advanced Chemistry Development(ACD / Labs)Software V11.02)を用いた計算によって決定することができる。
【0028】
最も低いpKa値の上述した好ましい差が少なくとも0.5のままであれば、潜在的モノマーは好ましくは2~4の範囲に最も低いpKa値を有し、一方、非潜在的モノマーは4~6の範囲の最も低いpKa値を有する。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、潜在的モノマーは、芳香族基に位置する電子求引性基を含む。さらに好ましい実施形態では、潜在的芳香族モノマーは、HO2C-Ar-EWGの構造を有し、式中、Arは上で定義されたとおりであり、EWGは電子求引性基である。この好ましい実施形態では、ヒドロキシル(OH)又はアミン(NH2)基は、芳香族基に位置していてもよく、あるいは電子求引性基の一部であってもよい。電子求引性基の存在は、潜在的モノマーの潜在性をもたらすと考えられる。
【0030】
好ましくは、潜在的芳香族モノマーは、HO2C-Ar-X(式中、XはOH及び/又はNH2であり、Arは、以下のもの:
【化1】
からなる群から選択される)に従う構造を有する1種以上の化合物を含む。
【0031】
芳香族基中のヘテロ原子及び/又はカルボニルの存在は、潜在的モノマーの潜在性に寄与すると考えられる。さらに、潜在的モノマーと非潜在的モノマーの間の極性の差を増大させ、上述した相分離を助けることができる。
【0032】
より好ましくは、潜在的モノマーは、以下のもの:
【化2】
からなる群から選択される1つ以上の化合物であり、式中、XはOH又はNH2である。これらの各化合物の計算されたpKaは約3.5である。
【0033】
最も好ましくは、潜在的モノマーは、構造:
【化3】
に従う1種以上である。
【0034】
コポリマーがポリエステル及び/又はポリアミドを含む実施形態では、非潜在的芳香族モノマーは、好ましくは、HO2C-Ar-Xに従う構造を有する1種以上の化合物を含み、式中、XはOH及び/又はNH2であり、Arは
【化4】
からなる群から、好ましくは、
【化5】
からなる群から選択される。これらの化合物のそれぞれの計算されたpKaは約4.5であり、これは潜在的モノマーのpKa値よりも有意に高い。
【0035】
本発明には、AB型、AA型、及びBB型のモノマーの混合物を用いることができる。AA型及びBB型モノマーは、例えば2つの同一の反応性基、例えば2つのヒドロキシル又は2つのカルボン酸を含む。例えば、非潜在的モノマーは、式HO2C-Ar-CO2H及びX-Ar-X(式中、Ar及びXは上で定義したとおりである)のモノマーの混合物を含み得る。
【0036】
好ましくは、本発明の各モノマー、より好ましくは、潜在的モノマーは、典型的には、2つの異なる反応性基、例えば上に記載したヒドロキシル及びカルボン酸を含む。この分野では、そのようなモノマーはAB型モノマーとしても知られている。理論的には、停止反応が全く起こらなければ、AB型モノマーは、単一ポリマーが形成されるまで重合を続けることができる。重合の程度及びポリマーの長さを制御するために、末端キャップ化合物(エンドキャップ化合物)がしばしば溶融物に添加される。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、溶融物は、1つ以上の末端キャップ化合物をさらに含む。
【0038】
芳香族モノマーがX-Ar-CO2Hによる構造を有する特定の実施形態では、末端キャップ化合物は、好ましくは、求核性末端キャップ化合物(例えば、ヒドロキシル官能化末端キャップ化合物又はアミン官能化末端キャップ化合物)及び求電子性末端キャップ化合物(例えばカルボン酸官能化末端キャップ化合物)を含む。求核性末端キャップ化合物は、好ましくはAr-Xに従う構造を有し、求電子性末端キャップ化合物は、Ar-CO2H(式中、Arは芳香族基であり、XはOH又はNH2である)による構造を有することが好ましい。
【0039】
末端キャップ化合物が主に1つの相に存在し、したがって1つのタイプのブロック(潜在的モノマーが多いブロック又は潜在的モノマーが少ないブロックのいずれか)と主に反応する実施形態では、1つのタイプのブロックのみが末端キャップされうる。これは、ABA型のLCトリブロックコポリマーをもたらしうる。例えば、末端キャップ化合物が主に潜在的モノマーを含む相に存在する場合、LC ABA-トリブロックコポリマーが形成され、その場合Aブロックが大部分の潜在的モノマーを含む(すなわち、潜在的モノマーリッチブロック)。末端キャップ化合物の適切な構造を選択することによって、モノマー(潜在的又は非潜在的)のどちらを末端キャップと反応させるか制御することが可能でありうる。例えば、末端キャップ中の芳香族基が潜在的モノマー中の芳香族基と同様の構造を含む場合、末端キャップは重合中に潜在的モノマーと同じ相に存在する可能性がある。同様のことが、変更すべきところは変更して、末端キャップの構造及び非潜在的芳香族モノマーの構造にも適用される。
【0040】
好ましい実施形態では、末端キャップは、
【化6】
からなる群から、及び/又は
【化7】
からなる群から選択される芳香族基を含む。
【0041】
末端キャップ化合物は、好ましくは、末端キャップされたLCブロックコポリマーが互いに反応して液晶熱硬化性樹脂を形成できる反応性基を含む。液晶ブロックコポリマーは、自己反応性末端基で末端キャップされていることが好ましく、この場合、LCブロックコポリマーは、E-ABA-Eの一般構造を有してもよく、ここでABAはLCトリブロックコポリマーを示し、Eは自己反応性末端基 (以下、「自己反応性末端キャップ」又は「反応性末端キャップ」ともいう)を示す。自己反応性末端キャップは、同じタイプの別の自己反応性末端キャップと反応することができる。したがって、反応性末端キャップを有するLCブロックコポリマーは、鎖延長及び/又は架橋することができる。
【0042】
末端キャップ化合物は、好ましくは、その全体を本明細書に援用する国際公開第02/22706号に記載されているフェニルアセチレン、フェニルマレイミド、又はナジミド基を含む。米国特許第9145519号明細書(これも本明細書にその全体を援用する)に記載されている反応基も、本発明の末端キャップ化合物に用いることができる。
【0043】
式Ar-OH又はAr-CO2Hにしたがう末端キャップ化合物を用いて良好な結果が得られており、Arは、
【化8】
からなる群から選択され、式中、R’は独立に、1つ以上の、水素、6以下の炭素原子を含むアルキル基、6以下の炭素原子を含むアリール基、10未満の炭素原子を含むアリール基、6以下の炭素を含む低級アルコキシ基、10以下の炭素原子を含む低級アリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素である。例えば、R’はすべての基についてHであってもよい。
【0044】
溶融重縮合は、典型的には、溶融物の温度を上昇させて、重合中のポリマー及びブロックの融点の上昇、及び粘度の上昇を埋め合わせるとともに、重縮合時に放出される揮発性化合物(例えば、水及び/又は酢酸)の蒸発を促進させることによって実施される。
【0045】
溶融重縮合は、典型的には、1種以上の無水物、例えば無水酢酸の添加によって促進される。無水物は、重縮合中にカルボン酸に変換される(例えば、無水酢酸は酢酸に変換される)。カルボン酸は蒸発により除去される。溶融重縮合は、典型的には、不活性雰囲気(例えば、窒素及び/又はアルゴンガス)下で行われる。重縮合の最終段階で、減圧(真空)を任意に適用して酢酸などのカルボン酸の最後の痕跡を除去することができる。
【0046】
潜在的モノマーと非潜在的モノマーのモル比は、10~0.1、好ましくは7~0.5、より好ましくは5~1であり得る。この比は、潜在的モノマーが少ないブロック及び潜在的モノマーが多いブロックの相対的ブロック長に影響を及ぼす可能性がある。
【0047】
上述したように、オリゴマー及び/又はポリマーの結晶化を最小限に抑えるために、重縮合の開始時に、異なる構造を有する少なくとも2種の非潜在的芳香族モノマーが存在する。したがって、2つの非潜在的芳香族モノマーの間の比は、好ましくは少なくとも1:2である。
【0048】
潜在的モノマーとしてのN-(3'-ヒドロキシフェニル)トリメリトイミド(IM);非潜在的モノマーとしての6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)及び4-ヒドロキシ安息香酸(HBA)の溶融重縮合により、特に良好な結果が得られている。この特定の溶融重縮合により、(IM / HBA)ブロック及び(HNA / HBA)ブロックを含むLCブロックco-ポリ(エステルイミド)が得られる。
【0049】
その他の良好な結果は、潜在的モノマーとしてのN-(3’-ヒドロキシフェニル)トリメリトイミド(IM);非潜在的モノマーとしての6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)及び4-ヒドロキシ安息香酸(HBA)、並びに末端キャップ化合物としてのN-(4-カルボキシフェニル)-4-フェニルエチニルフタルイミド(PE-COOH)及びN-(4-アセトキシフェニル)-4-フェニルエチニルフタルイミド(PE-OAc)の溶融重合によって得られており、図1に図示したとおりである。この特定の溶融重縮合は、PE-(IM/HBA)n-(HNA/HBA)m-(IM/HBA)p-PE(式中、n、m、及びpはブロック当たりのモノマーの数を示す)に近づくLCブロックco-ポリ(エステルイミド)をもたらす。
【0050】
潜在的モノマーがイミドベースのコア構造を含む一方で、非潜在的モノマーがイミド部分を含まないことが好ましい。非潜在的芳香族の芳香族基は炭化水素であることがさらにより好ましい。これが重縮合時の相分離をさらに促進すると考えられ、なぜなら非潜在的モノマー相は、重縮合中に、主にエステル及び炭化水素のみを含み、これらは潜在的モノマーのイミドベースのコア構造と良く混ざり合わないからである。
【0051】
本発明の方法は、LCブロックコポリマーへの入り口を提供する。したがって、本発明の第2の態様は、非潜在的芳香族モノマー及び潜在的芳香族モノマーを含む液晶ブロックコポリマーであって、これは本明細書に記載したワンポット溶融重縮合によって得ることができる。従って、このようなLCブロックコポリマーは、本明細書に記載した潜在的及び非潜在的芳香族モノマーに基づくことができる。
【0052】
本発明のLCブロックコポリマーは、他のブロックタイプ(例えば、Bブロック)よりも1つのブロックタイプ(例えば、すべてのAブロック)においてより潜在的モノマーを有する。好ましくは、全ての潜在的モノマーは1つのブロックタイプ(A又はB)のなかにあり、一方、すべての非潜在的モノマーは他のブロックタイプのなかにある。しかし、潜在的モノマーと非潜在的モノマーのいくらかのブレンドは通常は回避することができず、AブロックとBブロックとの間の境界は、単一のモノマーに至るほどには鋭くないことがありうる。図2には、ブロック(x軸)当たりの潜在的モノマー(y軸)の分布及び存在が示されている。状況Aは、ブロックA及びBの鋭い交差を模式的に示しており、一方、状況Bもまた本発明によるブロックコポリマーを模式的に示している。
【0053】
ブロックコポリマー中の明らかなブロックは、特に、示差走査熱量測定(DSC)によって測定されたLCブロックコポリマーの2つの明確に異なるガラス転移温度(T)によって示される。2つの明確に異なるガラス転移温度の存在は相分離を示している。
【0054】
例えば、図4に示すように、ブロック(HNA/HBA)及び(IM/HBA)を含むLCブロックコポリマーは、110℃の1つのT及び220℃の1つのTを有し、これらはHNA/HBA及びIM/HBAブロックにそれぞれ帰することができる。
【0055】
大きな利点として、本発明のLCブロックコポリマーは、高温でのはっきりした形状記憶挙動を示す。
【0056】
一般に、熱応答性形状記憶ポリマーは、外部熱刺激の適用時に、大きな回復可能な変形を受ける能力を有する。
【0057】
したがって、本発明のさらなる態様は、外部熱刺激の適用時の回復可能な変形のためのLCブロックコポリマーの使用である。
【0058】
明瞭化及び簡潔な説明のために、特徴は、同じ又は別個の実施形態の一部として本明細書に記載されているが、本発明の範囲は、記載された特徴の全て又は一部の組み合わせを有する実施形態を含み得ることが理解されよう。
【0059】
本発明は、以下の実施例によって説明することができる。
【実施例
【0060】
[例1]
4-ヒドロキシ安息香酸(4-HBA)及び無水酢酸は、Aldrich社(Zwijndrecht, オランダ国)から購入した。6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)はUeno Fine Chemicals Ltdから購入し、酢酸カリウムはAcros Organics(Geel, ベルギー国)から購入した。4-フェニルエチニルフタル酸無水物(PEPA)は、Hangzhou Chempro Tech Co., Ltd.から入手した。反応性末端基の合成、すなわちN-(4-カルボキシフェニル)-4-フェニルエチニルフタルイミド(PE-COOH)及びN-(4-アセトキシフェニル)-4-フェニルエチニルフタルイミド(PE-OAc)は、Knijnenbergerら, Macromolecules 2006, 39, 6936-6943に記載されているように調製した。
【0061】
〔潜在的モノマーN-(3’-ヒドロキシフェニル)トリメリトイミド(IM)の合成〕
メカニカルスターラー及び還流冷却器を備えた500 mLフラスコに、250 mLの氷酢酸及び無水トリメリット酸(0.1 mol, 21.01 g)を仕込んだ。その混合物を約120℃に加熱し、全ての固体が溶解したら、3-アミノフェノール(0.1 mol, 10.91 g)を添加した。濃い懸濁液がほとんど直ちに形成され、この反応混合物を120℃で4時間還流した。反応混合物を冷却した後、沈殿した生成物を濾過により単離し、酢酸(2×)及びエタノール(2×)で洗った。灰白色のN-(3’-ヒドロキシフェニル)トリメリトイミド(IM)を真空下、140℃で24時間乾燥させた。収量:24.06 g(0.085 mol, 85%)。m.p. 304℃(DSC)。FTIR:1777、1715、1383、及び725 cm-1にイミド基の特徴的な吸収ピークが観察された。3500 cm-1あたりの幅広いバンドは、フェノール性水酸基とカルボキシル基に帰属することができる。1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz): δ 6.82-6.90 (m, 3H), 7.30 (t, 1H, J = 8.2 Hz), 8.06 (d, 1H, J = 7.7 Hz), 8.29 (s, 1H), 8.40 (dd, 1H, J = 7.8, 1.1 Hz), 9.77 (s, 1H), 13.60 (s, 1H). 13C NMR (DMSO-d6, 100 MHz): δ 114.30, 115.20, 117.73, 123.32, 123.66, 129.45, 131.93, 132.55, 134.80, 135.34, 136.32, 157.59, 165.74, 166.13, 166.15. MS m/z (相対強度): 283.05 (100%) (M+), 239 (20.7), 120 (30.6), 103.05 (27.8), 92 (46.1), 75 (32.1)。
【0062】
〔LCポリ(エステルイミド)及び反応性オリゴマーの合成〕
表1(エントリー1~9)に記載されているように、IM、HBA、及びHNAに基づく一連のLCポリ(エステルイミド)を、標準的な溶融縮合技術を用いて合成した。サンプルを重合中のIMの供給比に従ってxxIMと名付けた。例えば、22IMは、0.22/0.51/0.27のIM/HBA/HNAモル比を意味する。HBA/HNAのモル比が0.73/0.27の全てのエステルベースの基準ポリマーを、IMを用いずに同一の手順に従って合成し、「0IM」と名付けた。
【0063】
【表1】
【0064】
[例2]
代表的な例として、IM/HBA/HNAのモル比が0.22/0.51/0.27の、反応性末端キャップを含む9000 g/molのブロックコポリマー, 22IM-9Kの合成を記載する。
【0065】
IM (0.22 mol, 61.988 g)、HBA (0.51 mol, 70.533 g)、HNA (0.27 mol, 50.809 g)、PE-OAc(0.0187mol, 7.137g)、PE-COOH(0.0187mol, 6.873g)、及び酢酸カリウム(0.1 mmol, 10mg)を500 mLの三口丸底フラスコに仕込んだ。このフラスコに、窒素ガス注入口、オーバーヘッドメカニカルスターラー、及び還流冷却器を取り付けた。反応の開始の前に反応器を窒素で30分間パージし、合成手順の持続期間を通してゆっくりとした窒素流を維持した。モノマーの系内(in-situ)でのアセチル化のために、無水酢酸(113 mL, 1.2 mol)を添加した。反応混合物を窒素雰囲気下でゆっくりと撹拌し、140℃に加熱してアセチル化を起こさせた。1時間の等温保持の後、反応混合物の温度を1℃/分の加熱速度を用いて310℃までゆっくり上昇させた。このプロセス中、酢酸を、重縮合副生成物として集めた。310℃にて窒素流を停止し、真空を適用して残留酢酸及びその他の低分子量副生成物を除去した。反応フラスコを窒素気流下で夜通し冷却させておき、最終生成物をフラスコから取り出し、粉末に加工した。全ての揮発性物質を除去して完全な重合を確実にするために、固体状態での後縮合(post-condensation)工程を真空下で260℃にて24時間行った。これらの合成の収率は、一般に95%より高かった。高分子量の親ポリマーは、PE-OAc及びPE-COOH末端キャップ化合物なしで、同一条件下で調製した。
【0066】
[例3]
溶融プレスされた薄いフィルムを、標準的な溶融プレス技術を用いて調製した。例1及び例2に記載したようにして調製した、後縮合したLCポリエステルイミド粉末を、2つのKapton(登録商標)フィルムの間に置き、予熱したJoosホットプレス内で5 kNの力で20分間320℃で固化させた。熱硬化性フィルムは、同様の条件下で反応性オリゴマー粉末から調製したが、370℃で45分間硬化させた。
【0067】
〔後処理〕
ガラス転移温度(T)及び貯蔵弾性率(E’)などの特性に対する後処理の効果を理解するために、上記の熱硬化性フィルムを2℃/分の加熱速度で25℃から所定温度まで加熱した。
【0068】
[特性解析]
LCポリ(エステルイミド)の熱的特性を表2にまとめてある。
【0069】
LCポリマー及び硬化した熱硬化性樹脂の熱安定性を、10℃/分の加熱速度において動的熱重量分析(TGA)を用いて評価した。高い分解温度(Td 5%~450℃)及び高いチャー(炭)収率(約65質量%)が見られ、このことは、このポリマー系列の動的熱安定性は、市販の高性能ポリマー、例えばビスマレイミド(BMI )及びビスナジイミド(PMR15)の動的熱安定性と同程度であることを示している。上記LCポリ(エステルイミド)のチャー(炭)収率は0IM(54質量%)のものより高く、これはイミドベース部分(IM)の優れた熱安定性に起因する。
【0070】
LCポリマー及び反応性オリゴマーの熱的挙動を、示差走査熱量測定(DSC)を用いて調べた。図3は、20℃/分の加熱速度を用いた、ポリマーの第1及び第2の加熱走査を示す。0IMに関しては、ガラス転移温度(T)は全く観察されないが、283℃での結晶からネマチックへの転移(TK-N)が観察される。すべてのLCポリ(エステルイミド)は、210~230℃の高いT’を示す。
【0071】
LCポリ(エステルイミド)の熱機械的特性を調べるために、動的機械的熱分析(DMTA)を用いて、温度の関数としての貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E”)を調べた。例3で調製した薄いフィルムをこれらのDMTA実験に用い、その結果を図4、5、及び6、並びに表2に示す。
【0072】
図4には、LCポリ(エステルイミド) 22IM-73IMの溶融プレスフィルムのDMTA分析の結果を図示している。0IM(A, B)、[IM]≦51モル%のポリマー(C, D)、及び[IM]≧58モル%のポリマー(E, F)についての温度の関数としての貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E”)。加熱速度2℃/分/窒素雰囲気、及び1 Hzの振動周期。
【0073】
図5には、反応性末端キャップを含むLCポリ(エステルイミド)(22IM-5K及び22IM-9K)並びに比較としてLCポリ(エステルイミド) 22IMのDMTA分析の結果を示している。22IM親ポリマー及びその硬化した熱硬化性フィルムについての温度の関数としての貯蔵弾性率(E’)(A)及び損失弾性率(E”)(B)。加熱速度2℃/分/窒素雰囲気、及び1 Hzの振動周期。
【0074】
図6には、後処理後の、反応性末端キャップを含むLCポリ(エステルイミド) 22IM-5KのDMTA分析の結果を示している。異なる後処理温度の後での22IM-5Kフィルムについての貯蔵弾性率(E’)(A)及び損失弾性率(E”)(B)を示している。加熱速度2℃/分/窒素雰囲気及び1 Hzの振動周期。このフィルムを25℃から所定の温度まで、加熱速度2℃/分/窒素雰囲気で後処理し、直ちに25℃に冷却した(冷却速度~3℃/分)。
【0075】
【表2】
【0076】
表2において、
a TK-N値は、ホットステージ光学顕微鏡検査から得られた。加熱速度50℃/分/空気雰囲気。
b Tg値はDSC実験の第2加熱走査から得た。加熱速度20℃/分/窒素雰囲気。
c Tgデータは、溶融プレスフィルムを用いたDMTA実験から得られ、損失弾性率(E ")ピークの最大値によって定義される。加熱速度2℃/分/窒素雰囲気及び1 Hzの振動周期。
d 熱安定性は動的TGAを用いて評価した。実際の測定の前に試料を370℃にて1時間等温保持した。加熱速度10℃/分/窒素雰囲気。
e 600℃でのチャー(炭)の収率。
図1
図2(A)】
図2(B)】
図3
図4
図5
図6